以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る負イオン生成装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係る負イオン生成装置の構成について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。図1は、プラズマ生成時の動作状態を示し、図2は、プラズマ停止時における動作状態を示している。
図1及び図2に示すように、本実施形態の負イオン生成装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられる成膜技術を負イオン照射に応用した装置である。負イオン生成装置1は、モードの切り替えにより、負イオン照射モードの他に、基板11に対して成膜を行う成膜モードにて動作することもできる。なお、説明の便宜上、図1及び図2には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する基板が搬送される方向である。X軸方向は、基板の厚さ方向である。Z軸方向は、Y軸方向とX軸方向とに直交する方向である。
負イオン生成装置1は、基板11の板厚方向が略鉛直方向となるように基板11がチャンバ10内に配置されて搬送されるいわゆる横型の負イオン生成装置であってもよい。この場合には、Z軸及びY軸方向は水平方向であり、X軸方向は鉛直方向且つ板厚方向となる。なお、負イオン生成装置1は、基板11の板厚方向が水平方向(図1及び図2ではX軸方向)となるように、基板11を直立又は直立させた状態から傾斜した状態で、基板11がチャンバ10内に配置されて搬送される、いわゆる縦型の負イオン生成装置であってもよい。この場合には、X軸方向は水平方向且つ基板11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向となる。本発明の一実施形態に係る負イオン生成装置は、以下、横型の負イオン生成装置を例として説明する。
負イオン生成装置1は、チャンバ10、搬送機構3、プラズマ生成部14、ガス供給部40、加熱部101、回路部34、電圧印加部90、及び制御部50を備えている。
チャンバ10は、基板11を収納し成膜処理を行うための部材である。チャンバ10は、基板11を搬送するための搬送室10aと、負イオンを生成するための生成室10bと、プラズマガン7からビーム状に照射されるプラズマPをチャンバ10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、生成室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に(Y軸に)沿って設定されている。また、チャンバ10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
生成室10bは、壁部10Wとして、搬送方向(矢印A)に沿った一対の側壁と、搬送方向(矢印A)と交差する方向(Z軸方向)に沿った一対の側壁10h,10iと、X軸方向と交差して配置された底面壁10jと、を有する。
搬送機構3は、生成室10bと対向した状態で基板11を保持する基板保持部材16を搬送方向(矢印A)に搬送する。搬送機構3は、基板11を配置する配置部として機能する。例えば基板保持部材16は、基板11の外周縁を保持する枠体である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向(矢印A)に沿って等間隔に配置され、基板保持部材16を支持しつつ搬送方向(矢印A)に搬送する。負イオン照射の対称となる基板11として、例えば、基材の表面にITO、IWO、ZnO、Ga2O3、AlN、GaN、SiONなどの膜を形成したものが採用される。なお、成膜モードの場合は、基板11として、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が採用される。このような基板11に対して、前述のような膜が成膜される。
続いて、プラズマ生成部14の構成について詳細に説明する。プラズマ生成部14は、チャンバ10内において、プラズマ及び電子を生成する。プラズマ生成部14は、プラズマガン7と、ステアリングコイル5と、ハース機構2と、を有している。
プラズマガン7は、例えば圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分が生成室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して生成室10bに接続されている。プラズマガン7は、チャンバ10内でプラズマPを生成する。プラズマガン7において生成されたプラズマPは、プラズマ口10cから生成室10b内へビーム状に出射される。これにより、生成室10b内にプラズマPが生成される。
プラズマガン7は、陰極60により一端が閉塞されている。陰極60とプラズマ口10cとの間には、第1の中間電極61(グリッド)と、第2の中間電極62(グリッド)とが同心的に配置されている。第1の中間電極61内にはプラズマPを収束するための環状永久磁石61aが内蔵されている。第2の中間電極62内にもプラズマPを収束するため電磁石コイル62aが内蔵されている。
プラズマガン7は、負イオンを生成するときは、生成室10b内において間欠的にプラズマPを生成する。具体的には、プラズマガン7は、後述の制御部50によって生成室10b内において間欠的にプラズマPを生成するように制御されている。この制御については、制御部50の説明において詳述する。
ステアリングコイル5は、プラズマガンが装着されたプラズマ口10cの周囲に設けられている。ステアリングコイル5は、プラズマPを生成室10b内に導く。ステアリングコイル5は、ステアリングコイル用の電源(不図示)により励磁される。
ハース機構2は、プラズマガンからのプラズマPを所望の位置へ導く機構である。ハース機構2は、主ハース17及び輪ハース6を有している。主ハース17は、負イオン生成装置1を用いて成膜を行う場合に、成膜材料を保持する陽極として機能する。主ハース17は、成膜材料、または成膜材料の周囲にプラズマを導くことで、成膜材料を蒸発させて、基板11に付着させることで成膜を行う。ただし、負イオン生成を行う際には、プラズマPが成膜材料に導かれないように、輪ハース6へプラズマが誘導される。従って、負イオン生成装置1が成膜を行わず、負イオン照射のみを行う場合は、主ハース17に成膜材料は保持されていなくてよい。
輪ハース6は、プラズマPを誘導するための電磁石を有する陽極である。輪ハース6は、主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石部20と環状の容器12とを有し、コイル9及び永久磁石部20は容器12に収容されている。本実施形態では、搬送機構3から見てX負方向にコイル9、永久磁石部20の順に設置されているが、X負方向に永久磁石部20、コイル9の順に設置されていてもよい。
ガス供給部40は、チャンバ10の外部に配置されている。ガス供給部40は、生成室10bの側壁(例えば、側壁10h)に設けられたガス供給口41を通し、チャンバ10内へガスを供給する。ガス供給部40は、負イオンの原料となるガスを供給する。ガスとして、例えば、O-などの負イオンの原料となるO2、NH-などの窒化物の負イオンの原料となるNH2、NH4、その他、C-やSi-などの負イオンの原料となるC2H6、SiH4などが採用される。なお、ガスは、Arなどの希ガスも含む。ガス供給部40で供給されるガスは、加熱部101によって加熱される。加熱部101の詳細な構成については後述する。
ガス供給口41の位置は、生成室10bと搬送室10aとの境界付近の位置が好ましい。この場合、ガス供給部40からのガスを、生成室10bと搬送室10aとの境界付近に供給することができるので、当該境界付近において後述する負イオンの生成が行われる。よって、生成した負イオンを、搬送室10aにおける基板11に好適に注入させることができる。なお、ガス供給口41の位置は、生成室10bと搬送室10aとの境界付近に限られない。
回路部34は、可変電源80と、第1の配線71と、第2の配線72と、抵抗器R1~R4と、短絡スイッチSW1,SW2と、を有している。
可変電源80は、接地電位にあるチャンバ10を挟んで、負電圧をプラズマガン7の陰極60に、正電圧をハース機構2の主ハース17に印加する。これにより、可変電源80は、プラズマガン7の陰極60とハース機構2の主ハース17との間に電位差を発生させる。
第1の配線71は、プラズマガン7の陰極60を、可変電源80の負電位側と電気的に接続している。第2の配線72は、ハース機構2の主ハース17(陽極)を、可変電源80の正電位側と電気的に接続している。
抵抗器R1は、一端がプラズマガン7の第1の中間電極61と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R1は、第1の中間電極61と可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R2は、一端がプラズマガン7の第2の中間電極62と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R2は、第2の中間電極62と可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R3は、一端が生成室10bの壁部10Wと電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R3は、生成室10bの壁部10Wと可変電源80との間において直列接続されている。
抵抗器R4は、一端が輪ハース6と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R4は、輪ハース6と可変電源80との間において直列接続されている。
短絡スイッチSW1,SW2は、それぞれ制御部50からの指令信号を受信することにより、ON/OFF状態に切り替えられる切替部である。
短絡スイッチSW1は、抵抗器R2に並列接続されている。短絡スイッチSW1は、プラズマPを生成するときはOFF状態とされる。これにより、第2の中間電極62と可変電源80とが抵抗器R2を介して互いに電気的に接続されるので、第2の中間電極62と可変電源80との間には電流が流れにくい。その結果、プラズマガン7からのプラズマPがチャンバ10内に出射される。なお、プラズマガン7からのプラズマPをチャンバ10内に出射する場合、第2の中間電極62への電流を流れにくくする事に代えて、第1の中間電極61への電流を流れにくくしてもよい。この場合、短絡スイッチSW1は、第2の中間電極62側に代えて、第1の中間電極61側に接続される。
一方、短絡スイッチSW1は、プラズマPを停止するときはON状態とされる。これにより、第2の中間電極62と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、第2の中間電極62と可変電源80との間に電流が流れる。すなわち、プラズマガン7に短絡電流が流れる。その結果、プラズマガン7からのプラズマPがチャンバ10内に出射されなくなる。
負イオンを生成するときは、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が制御部50によって所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPがチャンバ10内において間欠的に生成される。すなわち、短絡スイッチSW1は、チャンバ10内へのプラズマPの供給と遮断とを切り替える切替部である。
短絡スイッチSW2は、抵抗器R4に並列接続されている。短絡スイッチSW2は、プラズマPを主ハース17側に導くか輪ハース6側へ導くかにより、制御部50でON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW2がON状態とされると、輪ハース6と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、主ハース17よりも輪ハース6に電流を流しやすくなる。これにより、プラズマPは、輪ハース6に導かれやすくなる。一方、短絡スイッチSW2がOFF状態とされると、輪ハース6と可変電源80が抵抗器R4を介して電気的に接続されるので、輪ハース6よりも主ハース17に電流を流しやすくなり、プラズマPが主ハース17側へ導かれやすくなる。なお、負イオン生成時には、短絡スイッチSW2はON状態で保たれる。成膜時には、短絡スイッチSW2はOFF状態に保たれる。
電圧印加部90は、成膜後の基板11(対象物)に正の電圧を印加可能である。電圧印加部90は、バイアス回路35と、トロリ線18と、を備える。
バイアス回路35は、成膜後の基板11に正のバイアス電圧を印加するための回路である。バイアス回路35は、基板11に正のバイアス電圧(以下、単に「バイアス電圧」ともいう)を印加するバイアス電源27と、バイアス電源27とトロリ線18とを電気的に接続する第3の配線73と、第3の配線73に設けられた短絡スイッチSW3とを有している。バイアス電源27は、バイアス電圧として、周期的に増減する矩形波である電圧信号(周期的電気信号)を印加する。バイアス電源27は、印加するバイアス電圧の周波数を制御部50の制御によって変更可能に構成されている。第3の配線73は、一端がバイアス電源27の正電位側に接続されていると共に、他端がトロリ線18に接続されている。これにより、第3の配線73は、トロリ線18とバイアス電源27とを電気的に接続する。
短絡スイッチSW3は、第3の配線73によって、トロリ線18とバイアス電源27の正電位側との間において直列に接続されている。短絡スイッチSW3は、トロリ線18へのバイアス電圧の印加の有無を切り替える切替部である。短絡スイッチSW3は、制御部50によってそのON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW3は、負イオン生成時に所定のタイミングでON状態とされる。短絡スイッチSW3がON状態とされると、トロリ線18とバイアス電源27の正電位側とが互いに電気的に接続され、トロリ線18にバイアス電圧が印加される。
一方、短絡スイッチSW3は、負イオン生成時における所定のタイミングにおいてOFF状態とされる。短絡スイッチSW3がOFF状態とされると、トロリ線18とバイアス電源27とが互いに電気的に切断され、トロリ線18にはバイアス電圧が印加されない。
トロリ線18は、基板保持部材16への給電を行う架線である。トロリ線18は、搬送室10a内に搬送方向(矢印A)に延伸して設けられている。トロリ線18は、基板保持部材16に設けられた給電ブラシ42と接触することで、給電ブラシ42を通して基板保持部材16への給電を行う。トロリ線18は、例えばステンレス製の針金等により構成されている。
制御部50は、負イオン生成装置1全体を制御する装置であり、装置全体を統括的に管理するECU[Electronic Control Unit]を備えている。ECUは、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECUでは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECUは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
制御部50は、チャンバ10の外部に配置されている。また、制御部50は、ガス供給部40によるガス供給を制御するガス供給制御部51と、プラズマ生成部14によるプラズマPの生成を制御するプラズマ制御部52と、電圧印加部90によるバイアス電圧の印加を制御する電圧制御部53と、加熱部101による加熱を制御する加熱制御部54を備えている。
ガス供給制御部51は、ガス供給部40を制御して、生成室10b内にガスを供給する。続いて、制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマガン7からのプラズマPを生成室10b内で間欠的に生成するようにプラズマ生成部14を制御する。例えば、制御部50によって、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPが生成室10b内で間欠的に生成される。
短絡スイッチSW1がOFF状態とされているとき(図1の状態)は、プラズマガン7からのプラズマPが生成室10b内に出射されるため、生成室10b内にプラズマPが生成される。プラズマPは、中性粒子、正イオン、負イオン(酸素ガスなどの負性気体が存在する場合)、及び電子を構成物質としている。従って、生成室10b内に電子が生成されることとなる。短絡スイッチSW1がON状態とされているとき(図2の状態)は、プラズマガン7からのプラズマPが生成室10b内に出射されないので生成室10b内におけるプラズマPの電子温度が急激に低下する。このため、生成室10b内に供給されたガスの粒子に、電子が付着し易くなる。これにより、生成室10b内には、負イオンが効率的に生成される。
図4は、プラズマPのON/OFFのタイミングと正イオン及び負イオンの対象物への飛来状況を示すグラフである。図中、「ON」と記載されている領域はプラズマPの生成状態を示し、「OFF」と記載されている領域はプラズマPの停止状態を示す。時間t1のタイミングで、プラズマPが停止される。プラズマPの生成中は、正イオンが多く生成される。このとき、チャンバ10中に電子も多く生成される。そして、プラズマPが停止されると、正イオンが急激に減少する。このとき、電子も減少する。負イオンは、プラズマPの停止後、所定時間経過した時間t2から急激に増加し、時間t3にてピークとなる。以降の説明では、プラズマPを停止してから(時間t1)負イオンの生成量がピークになる(時間t3)までの時間を「立ち上がり時間t0」と称する場合がある。なお、正イオン及び電子は、プラズマPの停止後から減少してゆき時間t3付近で、正イオンは負イオンと同量となり、電子はほとんど無くなる。
制御部50の電圧制御部53は、電圧印加部90によるバイアス電圧の印加を制御する。電圧制御部53は、所定のタイミングにて、電圧印加部90によるバイアス電圧を印加する。なお、電圧印加部90によるバイアス電圧の印加を開始するタイミングは、制御部50にて予め設定される。電圧印加部90によって基板11に正のバイアス電圧が付与されることで、チャンバ10内の負イオンが基板11へ導かれる。これにより、負イオンが基板11へ照射される。また、チャンバ10内に電子が存在している場合は、電子も基板11へ導かれる。
次に、加熱部101及び制御部50の加熱制御部54について詳細に説明する。
加熱部101は、原料となるガスを加熱する機器である。加熱部101は、チャンバ10内でガスが反応を起こすときに、当該ガスが高温の状態になるように加熱を行う。
加熱部101は、ガスがチャンバ10内へ入る前段階でガスを加熱する。ここでは、加熱部101は、ガス供給口41にてガスを加熱する。具体的には、加熱部101は、ガス供給口41の流路内に設けられたヒーター、熱交換器、またはガス供給口41を構成する管壁の内部又は外周部に設けられたヒーターなどによって構成される。ヒーターは、電気を流すことによって発熱を行う機器である。ただし、加熱部101は、ガスを加熱することができる手段であれば、電気式のヒーターに限定されず、熱媒体による加熱など、あらゆる方式の加熱手段が採用されてよい。
なお、加熱効率を上げるために、ガス供給口41の形状自体に工夫がなされていてもよい。例えば、ガスが加熱部101のヒーターと接触する時間を増やすために、ガス供給口41の流路を螺旋状に構成したり、複数本の流路に分岐させて各流路で加熱を行うなどしてもよい。
負イオン生成装置1は、加熱部101を制御するために、温度検出部102を備えている。温度検出部102は、ガスの温度を検出するための機器である。温度検出部102は、好ましくは、チャンバ10内のガスの温度を検出することが好ましい。ただし、温度検出部102は、チャンバ10内のガスを直接検出しなくとも、チャンバ10内でのガスの温度を推定できる値を検出してもよい。例えば、温度検出部102は、加熱部101に対して設けられた熱電対などの温度センサであってよい。あるいは、温度検出部102は、ガス供給口41の流路などに設けられてもよい。あるいは、温度検出部102は、チャンバ10内の複数箇所に設けられてもよい。また、温度検出部102の測定方式は特に限定されない。例えば、温度検出部102は、隔膜式圧力計のように、膜の歪みから圧力を測定し、圧力と温度とが比例関係であることから、温度を推定するものであってもよい。また、温度検出部102は、分光器による光の分光態様から温度を推定するものであってもよい。また、温度検出部102はガス流れに伴う抵抗の温度変化によって温度を推定するものであってもよい。
加熱制御部54は、少なくともガス供給部40がガスの供給を行っている間、加熱部101を制御してガスを加熱する。加熱制御部54は、プラズマのON/OFF状況に関わらず、継続的にガス供給及びガス加熱を行ってよい。ただし、加熱制御部54が加熱部101を制御してガスの加熱を行うタイミングは、限定されるものではなく、任意のタイミングで加熱部101のON/OFFを切り替えてもよい。
加熱制御部54は、温度検出部102の検出結果に基づいて、加熱部101を制御する。すなわち、加熱制御部54は、温度検出部102で検出された温度が目標温度となるように、加熱部101の加熱態様を制御する。温度検出部102がガスの温度を直接検出できる場合、加熱制御部54は、ガスの温度が目標温度となるように、加熱部101を制御する。温度検出部102が加熱部101の温度自体を検出する場合、加熱制御部54は、加熱部101の温度が目標温度になるように、加熱部101を制御する。
なお、プラズマや昇温した主ハース17などによってもガスは多少加熱される。しかし、加熱部101によってガスに付与される熱量は、プラズマや主ハース17に比して大きい。加熱部101は、プラズマガン7や主ハース17とは別の機器として設けられたものであり、プラズマガンや主ハース17は、本請求項における「加熱部」には該当しない。すなわち、本実施形態において加熱部101で加熱を行った場合の、反応時におけるチャンバ10内の温度は、加熱部101を設けず、プラズマや主ハース17のみでガスの加熱が行われた場合のチャンバ10内の温度に比して高くなる。
具体的な温度は特に限定されるものではないが、イオン生成時におけるチャンバ10内のガスは、200℃以上となるように加熱されてよく、より好ましくは、300℃以上となるように加熱されてよい。なお、温度が高いほどガスの活性が促進されることで負イオンの生成量を増やすことができるが、安全性の観点から、チャンバ10内のガスは、100℃以下となるように加熱されてよい。加熱部101は人が容易に触れないよう、またチェンバ自体は大気側まで高温にならないように断熱又は冷却されても良い。なお、加熱部101を有さない従来のイオン生成装置では、イオン生成時におけるチャンバ10内のガスの温度は60℃~100℃程度であり、少なくとも加熱部101を用いて加熱を行う場合よりも低くなる。
次に、図3を参照して、負イオン生成装置1の制御方法について説明する。図3は、本実施形態に係る負イオン生成装置1の制御方法を示すフローチャートである。なお、ここでは、O-の負イオンを照射する場合を例にして説明する。
図3に示すように、負イオン生成装置1の制御方法は、ガス供給・加熱工程S10と、プラズマ生成工程S20と、電圧印加工程S30と、を備える。各工程は、制御部50によって実行される。
まず、制御部50のガス供給制御部51は、ガス供給部40を制御して、チャンバ10内にガスを供給すると共に、加熱制御部54は、加熱部101を制御してガスを加熱する(ガス供給・加熱工程S10)。これにより、チャンバ10の生成室10bには加熱されて高温状態となったO2のガスが存在した状態となる。その後、プラズマ生成工程S20が実行される。
制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマ生成部14を制御して、チャンバ10内にプラズマP及び電子を生成し、且つ、プラズマPの生成を停止することで電子とガスとにより負イオンを生成する(プラズマ制御工程S20)。なお、プラズマ生成中にも厳密には負イオンは生成されている。チャンバ10の生成室10b内でプラズマP及び電子が生成されると、プラズマPによって「O2+e-→2O+e-」という反応が進む。その後、プラズマPの生成が停止されると、生成室10b内では、電子温度が急激に低下することで、「O+e-→O-」という反応が進む。プラズマ生成工程S20が実行された後、所定のタイミングで、電圧印加工程S30が実行される。
制御部50の電圧制御部53は、電圧印加部90を制御して基板11にバイアス電圧を印加する(電圧制御工程S30)。制御部50は、プラズマP停止後に基板11にバイアス電圧を印加する。これにより、生成室10b内のO-の負イオン81が基板11側へ向かい、当該基板11へ照射される(図2参照)。
次に、本実施形態に係る負イオン生成装置1の作用・効果について説明する。
本実施形態に係る負イオン生成装置1では、制御部50は、ガス供給部40を制御して、チャンバ10内にガスを供給する。そして、制御部50は、プラズマ生成部14を制御して、チャンバ10内にプラズマPを生成し、且つ、プラズマPの生成を停止することで負イオンを生成する。ここで、制御部50は、加熱部101を制御して、ガスを加熱している。この場合、負イオンの原料となるガスが加熱されることによって、チャンバ10内での反応が促進される。従って、負イオンの生成量を増加させることができる。その一方、放電電力を増加させる場合などと異なり、ガスを加熱しても、チャンバ10内の電子数を増加させることにはなり難いため、負イオンの立ち上がり時間t0が遅くなることを抑制できる。以上より、負イオンの立ち上がり時間t0が遅くなることを抑制しつつ、負イオンの量を増加させることができる。
ここで、ガスの温度と、負イオンの立ち上がり時間t0及び負イオンの生成量との関係について、図7を参照して説明を行う。図7は、計算を行うことによって得られた、ガスの温度と、負イオンの立ち上がり時間t0及び負イオンの生成量との関係を示すグラフである。図7では、実線のグラフが酸素負イオンの生成量を示すグラフであり、破線のグラフが負イオンの立ち上がり時間t0を示すグラフである。図7に示すように、酸素負イオンの生成量は、ガスの温度が高くなるに従って一様に増加している。その一方、負イオンの立ち上がり時間t0は、ガスの温度が高くなっても微増または変化無しとなっている。このことより、ガスを加熱部101で加熱することによって、負イオンの立ち上がり時間t0が遅くなることを抑制しつつ、負イオンの量を増加させることが可能となることが理解できる。
制御部50は、少なくともガス供給部40がガスの供給を行っている間、加熱部101でガスを加熱する。この場合、チャンバ10内で反応するときにガスの温度を高くしておくことができる。
加熱部101は、ガスがチャンバ10内へ入る前段階でガスを加熱する。この場合、ガスがチャンバ10内へ入って拡散する前段階で、密集した状態のガスを加熱することができる。
以上、本実施形態の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
例えば、図5に示すように、チャンバ10側に加熱部を設けてもよい。図5(a)に示す例では、チャンバ10の内部空間にヒーターを配置することによって加熱部110が構成されてよい。この場合、チャンバ10の内部空間に拡散しているガスの粒子が加熱部110と衝突するときに加熱される。加熱部110を構成するヒーターは、プラズマPの邪魔にならないように、壁ぎわ、壁の端部などの設置される事が好ましい。また、加熱部110を構成するヒーターを覆うようなカバーを設けてもよい。このような構成により、加熱部110は、チャンバ10内のガスを加熱することができる。この場合、チャンバ10内でガスが温度低下することを抑制することができる。
具体的に、図6(a)に示すように、加熱部110は、チャンバ10の各壁部と近接した位置で、当該壁部に沿って延びるように配置されてよい。このとき、加熱部110は、プラズマP、主ハース17及び輪ハース6と干渉しない位置に設けられる。
また、図6(b)に示す例では、チャンバ10の壁部自体を加熱するヒーターを設けることによって加熱部120を構成してもよい。加熱部120は、例えば、チャンバ10の厚みを大きくして、当該壁部内にヒーターを埋設することによって構成されてよい。または、加熱部120は、チャンバ10の壁部の外面にヒーターを設けることによって構成されてもよい。この場合、チャンバ10の内部空間に拡散しているガスの粒子がチャンバ10の壁部と衝突するときに加熱される。なお、チャンバ10の壁部が加熱部110によって高温になるため、チャンバ10全体をカバーなどで覆うことによって安全性を向上してもよい。このような構成により、加熱部110は、チャンバ10内のガスを加熱することができる。この場合、チャンバ10内でガスが温度低下することを抑制することができる。
具体的に、図6(b)に示すように、加熱部120は、チャンバ10の壁部の内部において、当該壁部と共に広がるように設けられている。このとき、加熱部110は、プラズマPと干渉しない位置に設けられる。また、加熱部110は、ハース機構や配線などが壁部を貫通する箇所を回避するように設けられる。
なお、図1及び図2に示す加熱部101、図5(a)に示す加熱部110、及び図5(b)に示す加熱部120の中から、少なくとも二つを組み合わせて用いてもよい。
また、上記実施形態では、イオンプレーティング型の成膜装置としての機能も備えた負イオン生成装置について説明したが、負イオン生成装置は、成膜装置の機能を有していなくてもよい。従って、プラズマPは、例えばプラズマガンと対向する壁部の電極などに導かれてよい。
例えば、上記実施形態では、プラズマガン7を圧力勾配型のプラズマガンとしたが、プラズマガン7は、チャンバ10内にプラズマを生成できればよく、圧力勾配型のものには限られない。
また、上記実施形態では、プラズマガン7とプラズマPを導く箇所(ハース機構2)の組がチャンバ10内に一組だけ設けられていたが、複数組設けてもよい。また、一箇所に対して、複数のプラズマガン7からプラズマPを供給してもよい。