JP7300122B2 - 金型、せん断加工装置及びせん断加工方法 - Google Patents

金型、せん断加工装置及びせん断加工方法 Download PDF

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本発明は、金属製の板状部材の塑性加工、詳しくはせん断加工を行うための金型構造、せん断加工装置及びせん断加工方法に関するものである。
図8は、ゲーリン法によってせん断加工を行う場合の問題点を示す図である。図8(a)は金型901を板状部材Xに向けて移動させる様子を示す図であり、図8(b)は板状部材Xにせん断加工を行っている様子を示す図であり、図8(c)はせん断加工後に抜きカスX2が金型壁面920に残ってしまう様子を示す図である。
金属製の板状部材の塑性加工には、板状部材に穴をあけたり、所定形状の製品を採取したりするせん断加工がある。せん断加工は所定形状の穴を持つ雌型(ダイ)にその穴形状に対応する雄型(パンチ)の2個1組の金型を用いて、板状部材を加工するのが一般的である。
しかしながら、通常の2個1組の金型を用いてせん断加工する方法では、ダイとパンチの向きや位置を精密に合わせて設置と保持をしなければならない。特に、板状部材の板厚が薄くなればなるほど、ダイとパンチの間隙は狭くなければならず、その設置や保持は技術的に困難となる。
そこで、このような方法とは別に金型の片方だけを用いて、金型表面に設置した板状部材の背面から板状部材より柔らかい媒体を介した衝撃力により加圧する、あるいは、電磁力で板状部材を加圧することでせん断加工を行う工法も数多く開発検討されている。このような方法には加圧媒体としてゴムを用いるゲーリン法や、加圧媒体として粘弾性体を使用する方法(非特許文献1参照)などがある。ゲーリン法などの1個の金型だけを用いる方法は、位置合わせや保持の問題は全く発生しないという利点がある。さらに製品にかえりを全く生じないという利点もある。
一般社団法人日本塑性加工学会発行 『塑性と加工』Vol.60 (2019),No.697,第27~32頁
しかしながら、これらの方法の場合、打抜かれた抜きカスX2が金型壁面920に完全密着した状態で残ってしまうという問題がある(図8参照)。この抜きカスX2は、通常はノックアウト機構やストリッパを設けることで別途除去するが、そのためのノックアウト機構やストリッパ部材の製造、およびノックアウトやストリッパの駆動機構の追加が必要となる。
そこで、発明者らは、ノックアウト機構やストリッパ部材などの機構の追加なしに、せん断加工における抜きカス排除を容易にしたせん断加工に用いる金型を提供するものである。また、そのような金型を用いたせん断加工装置を提供することを目的とする。さらにまた、そのような金型を用いたせん断加工方法を提供することを目的とする。
本発明の金型は、金型表面に段差が設けられ、その肩部を切り刃として板状部材をせん断加工する金型で、段差の底面に、切断した前記板状部材の一部を引きこむことで切断端部を前記肩部から引き離すための凹構造を設け、せん断加工に用いることを特徴とする。
本発明のせん断加工装置は、本発明の金型と加圧媒体との間に前記板状部材を配置して、前記金型を前記板状部材に押し付けることで前記板状部材にせん断加工を施すことを特徴とする。
本発明のせん断加工方法は、金型表面に段差を設け、その肩部を切り刃として板状部材をせん断加工する金型で、段差の底面に、切断した前記板状部材の一部を引きこむことで切断端部を前記肩部から引き離すための凹構造を設けた金型と、加圧媒体との間に前記板状部材を配置して、前記金型を前記板状部材に押し付けることで前記板状部材にせん断加工を施すことを特徴とする。
本発明の金型によれば、金型表面に段差を設け、その肩部を切り刃として板状部材をせん断加工する金型で、段差の底面に、切断した板状部材の一部を引きこむことで切断端部を肩部から引き離すための凹構造を設けたため、肩部を切り刃として板状部材をせん断加工したときに、抜きカスが凹構造に押し込まれることとなり、肩部から凹構造に向かう応力が板状部材に働くこととなる。従って、抜きカスが肩部壁面から離れることとなるため、抜きカスが金型壁面に完全密着した状態で残ることを防ぐことができ、その結果、抜きカスを金型から容易に離脱させることが可能となる。
また、本発明の金型によれば、上記した構成を有するため、ノックアウト機構やストリッパを設けることなく、抜きカスが金型壁面に完全密着した状態で残ることを防ぐことができる。従って、抜きカスを容易に金型から除去することが可能となり、単純な構成の加工装置により精密複雑形状の板状部材等のせん断加工が実現できる。
また、本発明の金型によれば、ゲーリン法のような金型を1個だけ使用して、板状部材を加圧することによるせん断加工において、抜きカスを容易に金型から除去することが可能となり、単純な構成の加工装置により精密複雑形状の板状部材等のせん断加工が実現できる。しかも、金型と板状部材とゴムシートが重なってさえいれば、金型の位置合わせ精度は全く必要なく、ダイセットの支柱などの周辺部品に要求される精度も高くなく、大幅な費用低減が可能となる。
また、本発明の金型によれば、金型表面に浅い溝を設けただけでせん断加工用金型が成立するので、製造すべき金型および付属部品の点数の減少も可能となり、金型を加工するときに金型の母材から除去する加工量を少なくすることが可能となり、金型の製造コストの大幅な低減に寄与することができる。
本発明のせん断加工装置及びせん断加工方法によれば、上記した金型を用いて板状部材をせん断するため、上記した効果を有するせん断加工を行うことができる。
実施形態に係る金型1を示す断面図である。 実施形態に係る金型1の要部拡大断面図である。 実施形態に係るせん断加工方法を示す図である。 実施形態に係るせん断加工方法を示す図である。 実施形態に係るせん断加工装置100を示す断面図である。 実施例に係る金型を用いてせん断したときの様子を示す写真である。 実施例に係る金型を用いてせん断した製品を示す写真である。 ゲーリン法によってのせん断加工を行う場合の問題点を示す図である。
以下、本発明の金型、せん断加工装置及びせん断加工方法について、図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、各図面は模式図であり、必ずしも実際の寸法を厳密に反映したものではない。
[実施形態]
図1は、実施形態に係る金型1を示す断面図である。図1(a)は金型1の斜視図を示し、図1(b)は金型1の断面図である。但し、図1(a)は板状部材と対向する金型表面Sが上側になっている。図2は、実施形態に係る金型1の要部拡大断面図である。
実施形態に係る金型1は、金属製の板状部材の塑性加工、詳しくはせん断加工に用いる金型である。金型1の金型表面Sには、図1に示すように、平面的に見て半径の異なる2つの同心円状の溝10a、10bが設けられている。
溝10aにおいて、溝10aの一方側(円の外周側)の側部には金型表面Sとの段差12が形成されており、他方側の側部(円の中心側)には傾斜面15が形成されている。そして、図2に示すように、段差12の底面13に、切断した板状部材Xの一部を引きこむことで切断端部を肩部11から引き離すための凹構造14が設けられている。段差12の肩部11は、板状部材Xをせん断するときの切り刃となっている。なお、実施形態では凹構造14はV溝となっているが、U溝など、その他適宜の形状の溝であっても本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
溝10bは、溝10aと同様の構成を有するが、図1(b)に示すように、円の中心側の側部に金型表面Sとの段差12が形成されており、円の外周側には傾斜面15が形成されている。
板状部材に金型1を押し付けたときに、溝10aの外周側に設けられた段差12と溝10bの中心側に設けられた段差12に挟まれた部分が製品となり、溝10aの段差12よりも円の中心側、及び、溝10bの段差12よりも円の外周側が抜きカスとなる。従って、凹構造14は、抜きカス側に設けられていることとなる。
図3及び図4は、実施形態に係るせん断加工方法を示す図である。図3(a)~図3(c)並びに図4(a)及び図4(b)は各工程図である。
実施形態に係る金型1を用いて、以下のような方法で板状部材Xをせん断加工することができる(実施形態に係るせん断加工方法)。
まず、加圧媒体D上に板状部材Xを配置するとともに、金型1を板状部材Xの上方に配置する(図3(a)参照)。加圧媒体Dとしては、例えば、ゴムシートなどの弾性体を用いることができるが、外力で変形する部材であれば適宜の素材を用いることができる。
次に、金型1を板状部材Xに向かって下げていく(図3(b)参照)。そして、板状部材Xを金型1に押し付けていくと、肩部11で板状部材Xは切断され、製品になる部分X1(以下、製品X1という)は金型表面Sに残り、抜きカスX2はさらに段差12の底面13に押し込まれていく(図3(c)参照)。この状態で、抜きカスX2の端部Eは金型1の肩部11の下の壁面16に密着している。一方、傾斜面15側では板状部材Xは絞り加工を受ける。なお、傾斜面15が形成されている領域は、抜きカスX2となる部分であり、廃棄される部分であることから、どのような形状にしてしまっても問題がない。
さらに抜きカスX2を押し込むと、抜きカスX2は、金型1の凹構造14に押し込まれることにより、抜きカスX2が絞り加工を受ける(図4(a)参照)。このとき抜きカスX2が凹構造14に引き込まれた分、抜きカスX2の端部Eは金型1の壁面16より離れていくことになる。このようにして抜きカスX2は金型から容易に離脱できる形状に変形する。なお、凹構造14が形成されている領域も、抜きカスX2となる部分であり、抜きカスX2の部分は廃棄する部分であることからどのような形状にしてしまっても問題がない。
次に、金型1を板状部材Xから遠ざける(図4(b)参照)。抜きカスX2の端部Eは金型1の壁面16より離れているため、このときに、抜きカスX2が金型表面Sに完全密着することはない。このようにして板状部材Xを製品X1と抜きカスX2とにせん断することができる。
図5は、実施形態に係るせん断加工装置100を説明するために示す図である。せん断加工に用いる実施形態1に係る金型1は、以下のようなせん断加工装置100に用いることができる。
実施形態に係るせん断加工装置100は、ウェイト部150を所定の高さ位置から重力で落下させて上側加圧部130に打撃を与えることにより、板状部材Xをせん断する落つい式の衝撃加工装置であるせん断加工装置である。
せん断加工装置100は、基台110と、基台110上に配置された下側加圧部120、及び、下側加圧部120の鉛直上方に配置され、鉛直方向に沿って相対的に移動可能な上側加圧部130を有するダイセット140と、所定の重量を有し、所定の高さ位置から重力によって落下して上側加圧部130に打撃を与えるウェイト部150と、ウェイト部150を所定の高さ位置から重力で落下させるウェイト部落下機構160とを備える。上側加圧部130には、実施形態に係る金型1が設けられており、下側加圧部120に設けられている。せん断加工装置100は、下側加圧部120の加圧媒体D及び上側加圧部130の金型1の間に板状部材Xに配置し、せん断加工を施すことができる。
このような実施形態に係る金型、せん断加工装置及びせん断加工方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
実施形態に係る金型1によれば、金型表面Sに段差12を設け、その肩部11を切り刃として板状部材Xをせん断加工する金型で、段差12の底面13に、切断した板状部材Xの一部を引きこむことで切断端部Eを肩部11(壁面16)から引き離すための凹構造14を設けたため、肩部11を切り刃として板状部材Xをせん断加工したときに、抜きカスX2が凹構造14に押し込まれることとなり、肩部11から凹構造14に向かう応力が板状部材Xに働くこととなる。従って、抜きカスX2が段差12の壁面16から離れることとなるため、抜きカスX2が金型壁面(金型表面)に完全密着した状態で残ることを防ぐことができ、抜きカスX2を金型1から容易に離脱させることが可能となる。
また、実施形態に係る金型1によれば、ノックアウト機構やストリッパを設けることなく、抜きカスX2が金型壁面に完全密着した状態で残ることを防ぐことができる。従って、抜きカスX2を容易に金型1から除去することが可能となり、単純な構成の加工装置により精密複雑形状の板状部材X等のせん断加工が実現できる。
また、実施形態に係る金型1によれば、ゲーリン法のような金型を1個だけ使用して、板状部材Xを加圧することによるせん断加工において、抜きカスX2を容易に金型1から除去することが可能となり、単純な構成の加工装置により精密複雑形状の板状部材等のせん断加工が実現できる。しかも、金型1と板状部材Xと加圧媒体(ゴムシート)Dが重なってさえいれば、金型1の位置合わせ精度は全く必要なく、ダイセット140の支柱などの周辺部品に要求される精度も高くなくて済み、大幅な費用低減が可能となる。
また、実施形態に係る金型1によれば、金型表面Sに浅い溝10a、10bを設けただけでせん断加工用金型が成立するので、製造すべき金型および付属部品の点数の減少も可能となり、金型を加工するときに金型の母材から除去する加工量を少なくすることが可能となり、金型の製造コストの大幅な低減に寄与することができる。
実施形態に係るせん断加工装置及びせん断加工方法によれば、上記した実施形態に係る金型1を用いて板状部材Xをせん断するため、上記した効果を有するせん断加工を行うことができる。
〔実施例〕
以下に本発明を、ゴムシートを加圧媒体としたゲーリン法に適用して、ステンレス鋼薄板をドーナツ状に打ち抜いた例について述べる。
実施例に係る金型は、実施形態に係る金型1と同様の金型を用いた。加工は落つい式衝撃加工装置で行った。まず、ダイセットの下側基盤に厚さ2mmのゴムシートを敷き、その上に板状部材である厚さ0.1mmのステンレス鋼(SUS304)薄板を乗せた(図6参照)。さらにその上に、金型表面Sを下側にして置き、加圧用の角材と、ダイセットの天板を乗せた。次いで、そのダイセット上に高さ1mより質量10kgの落ついを自由落下させて衝撃力を加えることで板状部材を打ち抜いた。その後に金型を取り外すと、図7に示すように打ち抜かれたドーナツ状の打ち抜き品と抜きカスがともに重力により金型から離脱した。
これにより、実施例に係る金型を用いると、ノックアウト機構やストリッパ部材などの機構の追加なしに、せん断加工における抜きカス排除を容易にすることができることが確認できた。
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさ等、溝の形状、数、大きさ、位置等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。本発明の金型を絞り加工に用いる金型に組み込んでせん断加工と絞り加工を一括して行ってもよい。
(2)実施形態においては、実施形態に係るせん断加工装置100に実施形態に係る金型1を取り付けてせん断加工を施したが、本発明はこれに限定されるものではない。その他、適宜の装置に実施形態に係る金型1を取り付けてせん断加工を施してもよい。
1…金型、10a,10b…溝、11…肩部、12…段差、13…底面、14…凹構造、15…傾斜面、16…(段差の)側壁、X…板状部材、X1…製品、X2…抜きカス、D…加圧媒体、E…抜きカスの端部、S…金型表面

Claims (3)

  1. 金型表面に段差が設けられ、その肩部を切り刃として板状部材をせん断加工する金型で、段差の底面の一部に、切断した前記板状部材の一部を引きこむことで切断端部を前記肩部から引き離すための、前記底面より深い底を有する凹構造を設け、せん断加工に用いることを特徴とする金型。
  2. 請求項1に記載の金型と加圧媒体との間に前記板状部材を配置して、前記金型を前記板状部材に押し付けることで前記板状部材にせん断加工を施すことを特徴とするせん断加工装置。
  3. 金型表面に段差を設け、その肩部を切り刃として板状部材をせん断加工する金型で、段差の底面の一部に、切断した前記板状部材の一部を引きこむことで切断端部を前記肩部から引き離すための、前記底面より深い底を有する凹構造を設けた、せん断加工に用いる金型と、加圧媒体との間に前記板状部材を配置して、前記金型を前記板状部材に押し付けることで前記板状部材にせん断加工を施すことを特徴とするせん断加工方法。
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