次に、添付図面を参照して、本発明の第1実施形態による摩擦締結装置を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による摩擦締結装置を内蔵したトランスミッション(自動変速機)の斜視図である。
図1に示すように、トランスミッション1は自動車に搭載されており、エンジンやモータなどの駆動源Eと、車輪Wとの間に介在して、駆動源Eから出力される回転動力を加速や減速して車輪に出力するように構成されている。図1に示す例では、トランスミッション1は、多段式自動変速機(いわゆるAT)であるが、本発明の第1実施形態による湿式の摩擦締結装置は、トランスミッション1以外の装置に組み込むこともでき、或いは単体で使用することもできる。
本実施形態においては、トランスミッション1は、筐体2、出力軸4(回転軸)、変速装置6、断続装置8等を備えている。
筐体2は、トランスミッション1の外郭を構成しており、断続装置8および変速装置6を収容するとともに出力軸4を回転可能に支持している。
断続装置8(いわゆるトルクコンバータ)は、駆動源Eに連結されており、駆動源Eが出力する回転動力を必要に応じてトランスミッション1に入力するように構成されている。
変速装置6は、出力軸4の周囲に配置されており、断続装置8と出力軸4の間に介在して、断続装置8から入力された回転動力の回転数を切り替えて出力軸4に伝達するように構成されている。トランスミッション1の出力軸4から出力される回転動力は車輪Wに伝達される。変速装置6には、出力する回転数を切り替えるために、複数の遊星歯車機構と、これらの遊星歯車機構を切り替えるための、クラッチ装置及び/又はブレーキ装置が組み込まれている。トランスミッション1は、これらクラッチ装置又はブレーキ装置の作動状態を変更することにより、前進や後退、回転速度の切り替えを実行するように構成されている。
本発明の第1実施形態による摩擦締結装置10は、変速装置6において、クラッチ装置として使用されている。クラッチとブレーキとは、機能的には異なるが構造的にはほぼ同じであり、本明細書においては、摩擦締結装置10がクラッチ装置として使用された場合について説明する。図1には、変速装置6に備えられている摩擦締結装置10の部分が拡大して示されている。
次に、図2乃至図5を参照して、本発明の第1実施形態による摩擦締結装置の構成を説明する。
図2は、本発明の第1実施形態による摩擦締結装置の断面図である。図3は、本発明の第1実施形態による摩擦締結装置の分解斜視図である。図4は、本発明の第1実施形態による摩擦締結装置において、ドラムを規制部材が挿入されている部分で、軸線に直交する方向に切断した断面図である。
図2及び図3に示すように、摩擦締結装置10は、外側動力伝達部材であるドラム12と、内側動力伝達部材であるハブ14と、ドラム12の内周に係合するように配置された複数の大径摩擦プレート16a~16eと、ハブ14の外周に係合するように配置された複数の小径摩擦プレート18a~18dと、を有する。さらに、図2に示すように、摩擦締結装置10は、ドラム12の内側に、ドラム12の軸線A方向(図3)に移動可能に配置されたピストン20と、このピストン20を覆うように、ドラム12のピストン20側の端面に取り付けられたカバー部材22と、を有する。
なお、本実施形態においては、外側動力伝達部材であるドラム12が筐体2に対して回転可能に支持されており、摩擦締結装置10はクラッチ装置として機能するが、外側動力伝達部材を筐体2に対して固定されたケースで構成することにより、摩擦締結装置10はブレーキ装置として機能する。また、本明細書において、大径摩擦プレート16a~16eを総称して、単に「大径摩擦プレート」と呼ぶ場合があり、小径摩擦プレート18a~18dを総称して、単に「小径摩擦プレート」と呼ぶ場合がある。さらに、大径摩擦プレートと小径摩擦プレートを総称して、単に「摩擦プレート」と呼ぶ場合がある。
図3に示すように、ドラム12は円筒状の部材であり、その中心軸線Aに沿って出力軸4(図3には図示せず)が貫通している。さらに、ドラム12の内部には、中心軸線Aに沿ってハブ14が回転可能に配置されている。即ち、ドラム12とハブ14は同心円上に配置されており、ハブ14は、ドラム12に対して中心軸線Aを中心に回転可能に支持されている。また、ドラム12の内周面には、ドラム12の軸線A方向に延びるスプライン溝12aが、円周方向に間隔を空けて並べて形成されている。
ハブ14は、ドラム12の内部に配置された、ドラム12よりも小径の円筒状の部材であり、ハブ14の内部に出力軸4(図3には図示せず)が貫通している。摩擦締結装置10の非締結状態においては、ハブ14のドラム12に対する回転が許容され、ハブ14とドラム12の間で回転動力は伝達されない。一方、摩擦締結装置10の締結状態においては、ハブ14とドラム12が締結され、ハブ14とドラム12の間で回転動力が伝達される。また、ハブ14の外周面には、軸線A方向に延びるスプライン溝14aが、円周方向に間隔を空けて複数形成されている。
図2に示すように、ドラム12の内周面とハブ14の外周面は、径方向に互いに対向しており、これらの間に、プレート収容室として、環状の空間が形成される。トランスミッション1の作動時には、このプレート収容室に、潤滑装置24から一定の流量で潤滑油(ATF:Automatic Transmission Fluid)が循環供給されるようになっている。即ち、貯油槽や油圧ポンプ等(図示せず)により構成された潤滑装置24は、ハブ14の内部に形成された油導入路24a、油導入路24aとハブ14の外周を連通させるように設けられた給油孔14bを介してプレート収容室内にATFを流入させる。プレート収容室内に流入したATFは、プレート収容室とドラム12の外周を連通させるように設けられた排油孔12bから流出し、ドラム12から流出したATFは筐体2の内部に形成された返油路24bを通じて潤滑装置24に戻される。即ち、摩擦締結装置10は、潤滑油が循環供給される湿式の摩擦締結装置である。
図3に示すように、大径摩擦プレート16a~16eは、概ねドーナツ型の金属板であり、ドラム12の内部に軸線A方向に並べて配置されている。また、大径摩擦プレート16a~16e各々の外周縁には、複数のスプライン歯17が、円周方向に間隔を空けて複数形成されている。各大径摩擦プレートの外周縁に形成されたスプライン歯17は、ドラム12の内周面に形成されたスプライン溝12aの中に夫々受け入れられ、各大径摩擦プレートの外周縁とドラム12の内周面が係合する。これにより、大径摩擦プレート16a~16e各々は、ドラム12の内側に、軸線A方向に摺動可能に配置されると共に、外周縁がドラム12の内周面と係合して、ドラム12に対する回転が阻止される。
また、図2に示すように、ドラム12内周の、カバー部材22とは反対側の端部の内周面には、周方向に延びるリング溝12cが形成されている。このリング溝12cには、弾性を有する円弧形状のスナップリング13が嵌入されている。リング溝12cにスナップリング13を嵌入することにより、ピストン20及びカバー部材22から最も離れた位置に配置された端部大径摩擦プレートである大径摩擦プレート16eの、ピストン20から遠ざかる方向(図2における左方向)の移動が阻止される。
一方、小径摩擦プレート18a~18dは、概ねドーナツ型の金属板であり、ハブ14の外周に、軸線A方向に並べて配置されている。また、4枚の小径摩擦プレート18a~18dは、5枚の大径摩擦プレート16a~16eの各々の間に夫々配置されている。即ち、大径摩擦プレートと小径摩擦プレートは、ドラム12内で軸線A方向に交互に並べて配置されており、これらの摩擦プレートの両端には、大径摩擦プレート16aと、大径摩擦プレート16eが夫々位置している。なお、本実施形態においては、小径摩擦プレート18a~18dは、大径摩擦プレート16a~16eよりも直径が小さく、肉薄に形成されている。また、本実施形態においては、端部大径摩擦プレートである大径摩擦プレート16eは、他の大径摩擦プレートよりも厚く形成されている。
また、小径摩擦プレート18a~18d各々の内周縁には、複数のスプライン歯19が、円周方向に間隔を空けて複数形成されている。各小径摩擦プレートの内周縁に形成されたスプライン歯19は、ハブ14の外周面に形成されたスプライン溝14aの中に夫々受け入れられ、各小径摩擦プレートの内周縁とハブ14の外周面が係合する。これにより、小径摩擦プレート18a~18d各々は、ハブ14の外周に、軸線A方向に摺動可能に配置されると共に、内周縁がハブ14の外周面と係合して、ハブ14に対する回転が阻止される。
図2に示すように(図3には図示省略)、ピストン20は、ドラム12の内側に、ドラム12の軸線A方向に移動可能に配置された部材である。ピストン20を軸線A方向に摺動させることにより、大径摩擦プレート16a~16e及び小径摩擦プレート18a~18dが軸線A方向に移動され、ドラム12とハブ14の締結状態、非締結状態を切り替えることができる。
即ち、ピストン20は、円筒状に形成された本体部20aと、本体部20aの一端から半径方向外方に延びる張出部20bと、この張出部の外周に設けられた円筒部20cと、この円筒部20cの先端に設けられ、各摩擦プレートを移動させるための押付部20dと、を有する。また、ドラム12の一方の端面(ピストン20側の端面)には、ピストン20を覆うようにカバー部材22が取り付けられている。
ピストン20の本体部20aは円筒状の部分であり、ハブ14の内側に、ドラム12及びハブ14と同心円上に配置されると共に、ドラム12の軸線Aに沿って摺動可能に支持されている。
また、ピストン20の張出部20bは、本体部20aの一端から半径方向外方に延びるように形成された円板状の部分であり、ハブ14の端面を越えてプレート収容室内に延びている。
さらに、ピストン20の円筒部20cは、張出部20bの外周に設けられた円筒面からなる部分であり、張出部20bから大径摩擦プレート16aに向けて(カバー部材22から離れる方向に)延びている。
また、ピストン20の押付部20dは、円筒部20cの先端に設けられたフランジ状の部分であり、円筒部20cの外周に設けられ、大径摩擦プレートと平行に延びている。摩擦締結装置10を締結させる際は、ピストン20がカバー部材22から離れる方向に(図2における左方向に)移動され、これにより、押付部20dが大径摩擦プレート16aを押圧して、各摩擦プレートをカバー部材22から離れる方向に移動させる。また、後述するように、最もピストン20に近い位置に配置されている大径摩擦プレート16aは、押付部20dの先端に取り付けられており、ピストン20の移動と共に軸線A方向に、カバー部材22に近づく方向に移動される。
また、ピストン20の本体部20aの内部には隔壁部20eが設けられており、この隔壁部20eにより本体部20aの内側がカバー部材22の側と、その反対側に仕切られている。さらに、本体部20aの内側にはスプリング26が配置されており、このスプリング26が隔壁部20eを押圧することにより、ピストン20はカバー部材22に向けて付勢されている。摩擦締結装置10を締結させるために、ピストン20をカバー部材22から離間する方向に移動させる際には、スプリング26の付勢力に抗してピストン20が移動される。
さらに、隔壁部20eのカバー部材22側は、カバー部材22に向けて開口した凹部となっている。一方、カバー部材22の中央部には、ピストン20の凹部に向けて突出した凸部22aが形成されており、この凸部22aがピストン20の凹部の中に挿入されている。また、カバー部材22の凸部22aの外周面と、ピストン20の凹部の内周面の間には、シール部材28が配置され、ピストン20とカバー部材22の間がシールされている。この構成により、ピストン20の凹部の内側の空間を油圧室30として機能させることができる。摩擦締結装置10を締結させる際には、油圧ポンプ(図示せず)から油圧室30内に油が供給され、これにより油圧室30内の圧力が高くなり、ピストン20がスプリング26の付勢力に抗して、軸線A方向に、カバー部材22から離間する方向に移動される。また、摩擦締結装置10を非締結状態にする際には、油圧ポンプ(図示せず)により油圧室30から油が排出され、スプリング26の付勢力によって、ピストン20がカバー部材22に向けて移動される。
次に、大径摩擦プレートのうちのピストン20から最も離れた位置に配置された端部大径摩擦プレートである大径摩擦プレート16eの固定構造を、図4及び図5を新たに参照して説明する。
図4は、規制部材が挿入されている部分で、ドラム12を軸線に直交する方向に切断した断面図である。図5は、ドラム12に規制部材が挿入されている状態を示す斜視図である。
まず、図2に示すように、ドラム12には、大径摩擦プレート16eに隣接する位置に、挿入開口12dが形成されている。この挿入開口12dは、図4に示すように、ドラム12の円周上の3箇所に、ドラム12を貫通し、スプライン溝12aの中に開口するように形成されている。さらに、これらの挿入開口12dには、ドラム12の外側から規制部材32が夫々挿入され、これらの規制部材32はドラム12の内側に突出している。規制部材32は、ドラム12に設けられたスプライン溝12aよりも幅の狭い金属製の薄板から構成されている。ここで、ドラム12に設けられた挿入開口12dは、大径摩擦プレート16eのピストン側の面に隣接して形成されている。このため、ドラム12の内側に規制部材32が突出すると、大径摩擦プレート16eのスプライン歯17aと規制部材32が係合し、大径摩擦プレート16eはスナップリング13と規制部材32の間に挟まれて、軸線A方向の位置が規制される。
また、図4に示すように、各規制部材32は、ドラム12の外周を一周するように取り付けられた金属製のリング状の部材の一部として形成されている。このリング状の部材は、円弧状の部材である半円弧部材33を2つ連結することにより構成されており、各規制部材32は、半円弧部材33から半径方向内方に突出するように一体に形成されている。なお、規制部材32を取り付けるためのリング状の部材を設けず、溶接、ネジ止め等で各規制部材をドラム12に取り付けることもできる。
さらに、図5に示すように、各半円弧部材33の両端部にはリブ33aが設けられており、両端でこれらのリブ33a同士をネジ33bで締結することにより、2つの半円弧部材33が連結されている。また、各リブ33aは、半円弧部材33に対して直角に曲がるように形成され、半円弧部材33がドラム12の外周に取り付けられた状態で、ドラム12の軸線方向に延びるように向けられている。このように、ドラム12の軸線方向に延びるように向けられたリブ33a同士が、ドラム12の円周方向に向けられたネジ33bにより互いに連結される。これにより、2つの半円弧部材33からなるリング状の部材がドラム12の外周に固定され、各半円弧部材33に夫々設けられた規制部材32も固定される。また、半円弧部材33を連結するためのリブ33aは、ドラム12の軸線方向に延びるように形成されている。このため、リブ33aをドラム12の半径方向に延びるように形成された場合と比較して、半円弧部材33をドラム12の周囲にコンパクトに取り付けることができる。また、3つ以上の円弧状の部材を連結することにより、ドラム12を一周するリング状の部材を構成することもできる。
また、図3において、規制部材32は、大径摩擦プレート16eに設けられたスプライン歯のうちのスプライン歯17aと係合するように配置されている。さらに、大径摩擦プレート16eに隣接して配置された大径摩擦プレート16dに設けられたスプライン歯のうち、大径摩擦プレート16eのスプライン歯17aに対応する位置のスプライン歯は、短く切り欠かれた短スプライン歯17bにされている。即ち、小径摩擦プレートは比較的薄く形成されているため、摩擦締結装置10の締結時においては、大径摩擦プレート16eと隣接する大径摩擦プレート16dは小径摩擦プレートの厚さ分を隔てて非常に近くに位置する。このため、規制部材32を挿入する挿入開口12dの位置精度や規制部材32の加工精度が低い場合、摩擦締結装置10の組み付け公差が大きい場合には、締結時において、規制部材32が大径摩擦プレート16dと干渉してしまう虞がある。これを防止するため、大径摩擦プレート16eのスプライン歯17aに隣接する大径摩擦プレート16dのスプライン歯を短い短スプライン歯17bとしておき、規制部材32と大径摩擦プレート16dの干渉を回避している。さらに、大径摩擦プレート16dのスプライン歯を短スプライン歯17bとしておくことにより、小径摩擦プレートよりも厚い規制部材32を使用することもできる。
また、図2及び図3に示す例では、大径摩擦プレート16eに隣接した大径摩擦プレート16dのみに短スプライン歯17bが設けられているが、大径摩擦プレート16e近傍の複数の大径摩擦プレートに短スプライン歯を設けても良い。或いは、大径摩擦プレート16a~16d全ての、スプライン歯17aに対応した位置のスプライン歯を短スプライン歯とすることもできる。或いは、スプライン歯を短く切り欠き、短スプライン歯とする代わりに、スプライン歯を完全に切り欠いてしまい、対応する位置にスプライン歯を設けなくても良い。
なお、図3及び図4においては、図面を簡略化するため、各大径摩擦プレートは7枚のスプライン歯を有し、これらのスプライン歯がドラム12の7本のスプライン溝に受け入れられているが、より多くのスプライン歯、スプライン溝を設けることができる。
次に、大径摩擦プレートのうちのピストン20に最も近接した位置に配置されたピストン側大径摩擦プレートである大径摩擦プレート16aのピストンに対する固定構造を、図6及び図7を新たに参照して説明する。
上述したように、ピストン20に最も近接した位置に配置された大径摩擦プレート16aは、ピストン20に固定されており、ピストン20の移動と共に軸線方向に移動されるように構成されている。以下では、大径摩擦プレート16aのピストンに対する固定構造を説明する。
図3に示すように、ドラム12に形成されたスプライン溝のうちの特定のスプライン溝12eは、その底面の一部が切り欠かれており、この切欠の中に、大径摩擦プレート16aをピストン20に固定するための連結部材34(図6)が挿入される。また、スプライン溝12eの中に受け入れられるスプライン歯のうち、大径摩擦プレート16b~16eに形成された短スプライン歯17cは他のスプライン歯よりも短く形成されている。一方、ピストン20に最も近接した大径摩擦プレート16aについては、スプライン溝12eに受け入れられるスプライン歯17dは他のスプライン歯と同じ、通常の長さに形成されている。このように、ピストン側大径摩擦プレート16aのスプライン歯17dは通常の長さにされ、これに隣接する大径摩擦プレート16bのスプライン歯は短い短スプライン歯17cにされている。これにより、ピストン側大径摩擦プレート16aのスプライン歯17dは、隣接する大径摩擦プレート16bよりも半径方向外方まで拡大された「延長部」として機能する。
図6は本実施形態の摩擦締結装置10を、連結部材34が挿入されたスプライン溝12eに沿って切断した断面図であり、図7は切欠の中に連結部材34を挿入した状態を示す斜視図である。
図6及び図7に示すように、スプライン溝12eは、その底面の一部が切り欠かれており、この切欠部12fは、ドラム12のピストン側の端部から軸線方向に延びている。この切欠部12fの内側に連結部材34が配置され、大径摩擦プレート16aがピストン20に固定される。また、大径摩擦プレート16b~16eに夫々形成されたスプライン歯は、背の低い短スプライン歯17cとされているため、連結部材34と短スプライン歯17cの干渉が回避される。
具体的には、連結部である連結部材34は薄い金属板から形成されており、ピストン20の円筒部20cの周囲に巻かれるベルト状の環状部34aと、この環状部34aから大径摩擦プレート16aに向けて延びる係合部34bと、を有する。
環状部34aは、細長い金属薄板から構成され、ピストン20の円筒部20cの周囲に巻き付けられることにより、連結部材34をピストン20に固定するように構成されている。また、円筒部20cの先端には、フランジ状の押付部20dが設けられているため、円筒部20cの外周に巻き付けられた環状部34aが押付部20dと係合し、環状部34aが大径摩擦プレートの方にずれるのが防止される。
図6に示すように、係合部34bは、細長い金属薄板からから構成され、環状部34aからピストン20の半径方向外方に延びた後、軸線A方向に折り曲げられ、大径摩擦プレート16aの半径方向外側を越えてピストン20の反対側へ延びている。即ち、連結部材34の係合部34bは、切欠部12fの内部を通って、大径摩擦プレート16aのスプライン歯17d(延長部)を越えて延びている。さらに、係合部34bは、大径摩擦プレート16aのスプライン歯17dを越えた後、半径方向内方に折り曲げられ、半径方向内方に向けて突出した凸部34cを形成して、軸線A方向に延びている。半径方向内方に折り曲げられることにより、係合部34bの凸部34cが、延長部であるスプライン歯17dの、ピストン20とは反対側の面と係合して、大径摩擦プレート16aをピストン20に固定している。また、大径摩擦プレート16aは、連結部材34の係合部34bと係合することにより、ピストン20の側に引きつけられ、大径摩擦プレート16aはピストン20の押付部20dと当接する。即ち、連結部材34は、大径摩擦プレート16aをピストン20に向けて付勢して、大径摩擦プレート16aをピストン20の押付部20dに当接させている。
また、連結部材34の係合部34bは、スプライン溝12eに設けられた切欠部12fの中を軸線方向に延びているが、大径摩擦プレート16b~16eの、スプライン溝12eに受け入れられるスプライン歯は、背の低い短スプライン歯17cとして形成されている。このため、摩擦締結装置10を締結させるため、ピストン20を(図6における左方向に)移動させた場合でも、大径摩擦プレート16aを越えて延びている係合部34bが、大径摩擦プレート16a以外の他の大径摩擦プレートと干渉することはない。
なお、図3及び図7に示す例では、7本のスプライン溝のうちの1本のスプライン溝12eに形成した切欠部12fに連結部材34の係合部34bが挿入されている。しかしながら、連結部材34に複数の係合部34bを設けておき、複数のスプライン溝に設けた切欠部に係合部34bが挿入されるように本発明を構成するのが良い。好ましくは、3本以上の係合部34bを設け、3箇所以上でピストン側の大径摩擦プレート16aを、ピストン20に向けて付勢する。これにより、大径摩擦プレート16aを、ピストン20の押付部20dに確実に当接させることができる。
また、図3及び図6に示す例では、スプライン溝12eに受け入れられる短スプライン歯17cは、他のスプライン歯17よりも短く形成されているが、スプライン溝12eに対応する位置には、スプライン歯を設けなくても良い。さらに、図3及び図6に示す例では、大径摩擦プレート16aの、係合部34bを係合させるスプライン歯を通常の長さとし、大径摩擦プレート16b~16eのスプライン歯を短く形成している。これに対して、変形例として、大径摩擦プレート16b~16eのスプライン歯を通常の長さで形成しておき、係合部34bを係合させる大径摩擦プレート16aのスプライン歯をより長く形成することで、「延長部」を構成することもできる。さらに、本実施形態においては、大径摩擦プレート16aのスプライン歯を「延長部」として利用し、係合部34bを係合させているが、スプライン歯以外の部分を「延長部」とするように本発明を構成することもできる。この場合には、ドラム12及び大径摩擦プレート16b~16eが係合部34bと干渉しないよう、これらの形状を適宜調整する必要がある。
次に、本実施形態による摩擦締結装置10の組み立て手順を説明する。
まず、ドラム12内にハブ14が回転可能に配置された状態とする。次に、スナップリング13(図2)を縮径させた状態でドラム12内に挿入し、スナップリング13がドラム12のリング溝12cと整合した位置で、スナップリング13を拡径させる。これにより、スナップリング13がリング溝12cの中に嵌入される。次いで、端部大径摩擦プレートである大径摩擦プレート16eを、ドラム12のカバー部材22側の端部から挿入する。大径摩擦プレート16eは、ドラム12内周面の各スプライン溝12aとスプライン歯17が係合した状態で、カバー部材22側の端部から軸線A方向に摺動し、スナップリング13と当接する位置まで挿入される。
次に、小径摩擦プレート18aをドラム12のカバー部材22側の端部から挿入する。小径摩擦プレート18aは、スプライン歯19とスプライン溝14a係合した状態で、カバー部材22側の端部からハブ14のスプライン溝14aに沿って軸線A方向に摺動し、大径摩擦プレート16eと当接する位置まで挿入される。以下、大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートを交互にドラム12内に挿入する。ピストン側の大径摩擦プレート16aをドラム12内に配置した後、ピストン20をドラム12内に組み付ける。
この状態で、ピストン20の円筒部20cの周りに環状部34aが嵌め込まれるように、連結部材34(図6)を取り付ける。連結部材34をピストン20に取り付ける際、連結部材34の係合部34bは、弾性変形により半径方向外方に向けて押し広げられる。係合部34bが半径方向外方に押し広げられることにより、係合部34bの凸部34cが、大径摩擦プレート16aのスプライン歯17dの半径方向外側を乗り越える。連結部材34がピストン20の所定位置まで嵌め込まれた状態では、スプライン歯17dを乗り越えた凸部34cが大径摩擦プレート16aと係合し、大径摩擦プレート16aが、連結部材34によってピストン20の押付部20dに押しつけられる。これにより、大径摩擦プレート16aがピストン20に取り付けられ、大径摩擦プレート16aは、ピストン20と共に軸線A方向に摺動される。次いで、ピストン20を覆うように、ドラム12の端面にカバー部材22を取り付ける。
次に、規制部材32を備えた2つの半円弧部材33(図4)を、ドラム12の周囲に配置し、各規制部材32をドラム12の挿入開口12dに挿入する。各規制部材32が各挿入開口12dに挿入された状態で、ネジ33bにより半円弧部材33同士を締結し、ドラム12の周囲に半円弧部材33を固定する。これにより、各規制部材32は、挿入開口12dからドラム12の内側に突出した状態で固定される。規制部材32が突出した状態では、大径摩擦プレート16eは、スナップリング13と規制部材32の間に挟まれて固定される(図2)。これにより、大径摩擦プレート16eの軸線A方向の位置が規制される。
このように、本実施形態の摩擦締結装置10は、ドラム12内に大径摩擦プレート16a~16e、及び小径摩擦プレート18a~18dを配置した後、ピストン20をドラム12内に配置し、その後、カバー部材22をドラム12に固定することにより組み立てられる。さらに、規制部材32を備えた2つの半円弧部材33をドラム12の周囲に取り付けて、規制部材32をドラム12の内部に突出させる。これにより、ピストン20から最も離れた位置に配置された大径摩擦プレート16eは、ピストン20を配置した後であっても、規制部材32によって固定することができる。
次に、図8乃至図13を参照して、本発明の第1実施形態による摩擦締結装置10の作用を説明する。
図8は、本実施形態の摩擦締結装置10の締結状態と非締結状態を示す断面図である。図9は、ハブの回転数に対する、面間距離、面間圧力、及びそれによって生じる引き摺りトルクの関係をシミュレーションにより求めたグラフの一例である。図10は、従来の湿式の摩擦締結装置における、非締結状態の大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートの分布を模式的に示す図である。図11は、本実施形態の摩擦締結装置10における、非締結状態の大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートの分布を模式的に示す図である。図12は、大径摩擦プレートと小径摩擦プレートの間の面間距離と、これらの摩擦プレートの間の圧力の関係を示すシミュレーション結果の一例である。図13は、本実施形態の摩擦締結装置10において、ハブ14の回転数に対する、面間距離、面間圧力、及びそれによって生じる引き摺りトルクの関係をシミュレーションにより求めたグラフの一例である。
本実施形態の摩擦締結装置10は、油圧制御により、ドラム12とハブ14の間の締結状態と非締結状態が切り替えられる。具体的には、図8に示すように、大径摩擦プレート16a~16eと小径摩擦プレート18a~18dの各々が互いに密接する状態(締結状態)と、大径摩擦プレート16a~16eと小径摩擦プレート18a~18dの各々が分離可能になる状態(非締結状態)との間で、摩擦締結装置10が切り替えられる。
即ち、油圧室30(図2)に圧油が供給されると、図8の左側に示すように、ピストン20の押付部20dがカバー部材22から離間する方向に移動する。これにより、各大径摩擦プレート及び各小径摩擦プレートに押付力が加わって締結状態になる。締結状態では、大径摩擦プレート16eを含む各摩擦プレートは、スナップリング13に受け止められており、押付部20dは、最もカバー部材22から離間した位置に移動される。
一方、油圧室30から圧油が排出されると、図8の右側に示すように、スプリング26の弾性力でピストン20(押付部20d)がカバー部材22の方に移動される。これにより、各大径摩擦プレート及び各小径摩擦プレートに作用していた押付力が除かれ、非締結状態になる。非締結状態では、押付部20dは最もカバー部材22に近い位置まで移動されるので、大径摩擦プレート16aと大径摩擦プレート16eの間の間隔が最も広くなる。この状態では、大径摩擦プレート16aと16eの間に配置された各大径摩擦プレート及び各小径摩擦プレートは、大径摩擦プレート16aと16eの間でフリーな状態(軸線A方向にスライド自在な状態)となる。
この非締結状態では、各大径摩擦プレート及び各小径摩擦プレートには、押付力が作用せず、かつ、軸方向にスライド自在なため、各摩擦プレートが離れていれば、本来的には、これらの間に摩擦力は作用しない。しかしながら、本実施形態の摩擦締結装置10は湿式であるため、各摩擦プレートの間にATFが介在し、その流体摩擦によって摩擦抵抗が発生して、トルク損を招くおそれがある(引き摺り現象)。
即ち、非締結状態において、ハブ14が回転していると、各摩擦プレートの間のATFには遠心力が作用し、内側から外側に向けて径方向に、ATFの流れが促進される。通常、ATFは、プレート収容室に一定の流量で供給されており、ハブ14の回転数が高くなると遠心力による流速が高くなり、プレート収容室内に供給されるATFよりも、各摩擦プレートの間からプレート収容室外に排出されるATFの量が多くなる。そのような状態になると、互いに隣接している大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートの各板面の間に、径方向の圧力差が形成されて、板面間に負圧が発生する。
図9は、ハブの回転数に対する、面間距離(大径、小径摩擦プレートの間の距離)、面間圧力(大径、小径摩擦プレートの間の圧力)、及びそれによって生じる引き摺りトルクの関係をシミュレーションにより求めたグラフの一例である。面間距離S0は、非締結状態において、大径摩擦プレートと小径摩擦プレートの各々が、移動可能範囲Lの中で均等に、即ち等間隔に配置された場合の適正面間距離を表している。
図9に示すように、回転数が低い領域では、ATFに働く遠心力が小さく、ATFの供給量が流出量よりも多くなるため、面間圧力も高くなり(正圧)、面間距離は、ほぼ適正面間距離S0となる。このため、摩擦抵抗も小さく、引き摺りトルクも僅かである。これに対して、回転数が高い領域では、ATFに働く遠心力が大きくなる。これにより、ATFの流出量が供給量を上回る状態となり、板面間に負圧が発生する。
非締結状態における大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートの各々は、軸方向にフリーな状態となっているため、その負圧の作用によって互いに引き付けられ、圧力バランスにより面間圧力が0(ゼロ)になる一方で、面間距離は小さくなる。このため、従来の湿式の摩擦締結装置では、図10に示すように、高回転時においては、非締結状態の大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートが移動可能範囲Lの中で偏って位置した状態となる。即ち、各大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートが軸方向に移動可能な範囲に対して偏って位置し、各摩擦プレートの間隔が適正面間距離S0よりも小さい面間距離Sとなり、各摩擦プレートが密集してしまう。この結果、従来の湿式の摩擦締結装置では、板面間に存在するATFの流体摩擦により、引き摺りトルクが大きくなるという問題がある。
本願発明者らは、引き摺り現象の発生メカニズムに基づいて、極めて簡単な構成で引き摺り現象を効果的に抑制できることを見出した。本発明の第1実施形態による摩擦締結装置10は、この知見に基づいて開発されたものである。
従来の摩擦締結装置においては、非締結状態において、全ての大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートが軸方向にフリーな状態であるため、負圧の作用で引き付けられて互いに近接し、摩擦プレートの間隔が適正面間距離S0よりも小さくなることにより、引き摺りトルクが大きくなるという問題が発生していた。これに対し、本発明の第1実施形態による摩擦締結装置10においては、ピストン20から最も離れた大径摩擦プレート16eがドラム12に対して固定され、ピストン20に隣接する大径摩擦プレート16aがピストン20に固定されている。この構成を採用することにより、本実施形態の摩擦締結装置10では、大径摩擦プレート16aと大径摩擦プレート16eの間に配置された全ての摩擦プレートを、図11に示すように、移動可能範囲Lの中でほぼ等間隔に分布させることに成功している。
まず、図12は大径摩擦プレートと小径摩擦プレートの間の面間距離と、これらの摩擦プレートの間の圧力(面間圧力)の関係を示すシミュレーション結果の一例である。各大径摩擦プレートと小径摩擦プレートの間には、プレート収容室内に供給されたATFが流入すると共に、流入したATFは、ATFに働く遠心力により、摩擦プレートの間から流出する。ここで、摩擦プレートの面間距離が大きい場合には、摩擦プレートの間を流れるATFに作用する流路抵抗が小さく、摩擦プレート間のATFは遠心力により容易に排出される。これに対して、摩擦プレートの面間距離が小さい場合には、摩擦プレートの間を流れるATFに作用する流路抵抗が大きく、摩擦プレート間のATFは排出されにくくなる。この結果、図12に示すように、摩擦プレートの間の面間圧力は、摩擦プレートの面間距離が小さい場合には高く、面間距離が大きい場合には低くなる。
ここで、図8の左側に示す摩擦締結装置10の締結状態から、非締結状態に移行する際には、ピストン20が、図8における右方向に移動される。本実施形態の摩擦締結装置10においては、ピストン側に位置する大径摩擦プレート16aがピストン20に固定されているため、大径摩擦プレート16aもピストン20と共に右方向に移動される。これにより、密接していた大径摩擦プレート16aと小径摩擦プレート18aの間に隙間が生じる。このように隙間が生じると、図12のシミュレーション結果に示すように、大径摩擦プレート16aと小径摩擦プレート18aの間の面間圧力が低下する。これにより、大径摩擦プレート16aと小径摩擦プレート18aの間の面間圧力が、小径摩擦プレート18aと大径摩擦プレート16bの間の面間圧力よりも低くなる。この圧力差に基づいて、小径摩擦プレート18aは、図8における右方向に移動される。
小径摩擦プレート18aが右方向に移動されると、小径摩擦プレート18aと大径摩擦プレート16bの間に隙間ができる。この結果、小径摩擦プレート18aと大径摩擦プレート16bの間の面間圧力が、大径摩擦プレート16bと小径摩擦プレート18bの間の面間圧力よりも低くなる。これにより、大径摩擦プレート16bが図6における右方向に移動される。このような作用が繰り返されることにより、大径摩擦プレート16aと小径摩擦プレート18aの間にできた隙間が、各摩擦プレート間に伝播して、各摩擦プレート間に隙間が発生する。これにより、ピストン20に隣接した大径摩擦プレート16aがピストン20と共に移動されると、他の各摩擦プレートも、図8における右方向に順次移動される。
また、或る摩擦プレートの間の間隔が、隣接する摩擦プレートの間の間隔よりも狭い場合には、間隔の狭い摩擦プレート間の圧力の方が、間隔の広い摩擦プレート間の圧力よりも高くなる。このように圧力差が生じると、間隔の狭い摩擦プレートの間隔が押し広げられ、間隔の広い摩擦プレートの間隔が狭められることになり、各摩擦プレートの間の間隔が均等になるよう自動調整される。なお、ピストン20から最も離れた位置にある大径摩擦プレート16eの裏側(スナップリング13の側)には、比較的大きな空間があり、各摩擦プレート間の圧力とは異なる圧力が作用する。しかしながら、大径摩擦プレート16eはドラム12に対して軸線A方向に固定されているため、大径摩擦プレート16eの両側の圧力差に基づいて大径摩擦プレート16eが軸線方向に移動されることはない。この結果、ピストン20が非締結位置まで移動された状態では、図11に示すように、移動可能範囲Lの中に大径摩擦プレート16a~16e、小径摩擦プレート18a~18dがほぼ等間隔で配置され、各摩擦プレートの間隔は適正面間距離S0となる。
図13は、本発明の第1実施形態の摩擦締結装置10において、ハブ14の回転数に対する、面間距離、面間圧力、及びそれによって生じる引き摺りトルクの関係をシミュレーションにより求めたグラフの一例である。なお、図13においては、本実施形態の摩擦締結装置10によるシミュレーション結果を実線で、従来の摩擦締結装置によるシミュレーション結果(図7)を想像線で示している。
図13に示すように、本実施形態の摩擦締結装置10においては、各摩擦プレート間の間隔が自動的にほぼ適正面間距離S0に調整される。このため、従来の摩擦締結装置のように回転数の高い領域で面間距離が小さくなくなることはなく、回転数の高い領域においても適正面間距離S0が維持される。また、回転数の高い領域においては、各摩擦プレート間のATFが遠心力により排出されるため、各摩擦プレート間の面間圧力は負圧となる。しかしながら、本実施形態の摩擦締結装置10においては、各摩擦プレート間に均等に負圧が作用するため、各摩擦プレートの間隔は、均等に維持される。このように、本実施形態の摩擦締結装置10においては、回転数の高い領域においても、各摩擦プレート間が適正面間距離S0に維持されるため、高回転領域においても引き摺りトルクが大幅に上昇することはなく、引き摺りトルクを低減することができる。
本発明の第1実施形態の摩擦締結装置10によれば、連結部材34によりピストン側大径摩擦プレート16aがピストン20に連結されている(図6)。このため、ピストン20を移動させ、摩擦締結装置10を非締結状態としたとき、各大径摩擦プレートと小径摩擦プレートの間を流れる潤滑油の圧力により、各摩擦プレートの間隔が概ね等間隔に広がり、摩擦プレート間の引き摺りによる抵抗を低減することができる。また、延長部であるスプライン歯17dは、隣接する大径摩擦プレート16bよりも半径方向外方まで拡大されているので、ピストン側大径摩擦プレート16aを越えて延びた連結部材34が、隣接する大径摩擦プレート16bと干渉するのを防止することができる。
また、本実施形態の摩擦締結装置10によれば、外側動力伝達部材に形成された切欠部12fを通って、連結部材34がピストン側大径摩擦プレート16aのスプライン歯17dを越えて軸線A方向に延びるので、簡便な構成で連結部材34とドラム12の干渉を回避することができる。
さらに、本実施形態の摩擦締結装置10によれば、ドラム12と大径摩擦プレートが、夫々に設けられたスプライン溝12a及びスプライン歯17により係合されるので、確実に、ドラム12に対する大径摩擦プレートの回転を阻止することができる(図3)。また、ピストン側大径摩擦プレート16aのスプライン歯17dにより延長部を構成し、隣接する大径摩擦プレート16bの延長部に対応するスプライン歯17cを短く欠くことにより(図6)、ピストン側大径摩擦プレート16aのスプライン歯17dを、隣接する大径摩擦プレート16bよりも半径方向外方まで拡大された延長部とすることができる。
また、本実施形態の摩擦締結装置10によれば、ピストン側大径摩擦プレート16aがピストン20に向けて付勢され、ピストン20と当接する(図6)ので、ピストン側大径摩擦プレート16aとピストン20の間に隙間ができず、大径摩擦プレート及び小径摩擦プレート相互間の隙間を大きくすることができ、引き摺り抵抗をより低減することができる。
さらに、本実施形態の摩擦締結装置10によれば、ピストン20から最も離れた位置に配置された端部大径摩擦プレート16eの位置が固定されている(図2)ので、ピストン20が非締結位置(図8の右側)へ移動されたとき、端部大径摩擦プレート16eが、他の大径摩擦プレート、小摩擦プレートと共に移動されてしまうことがない。このため、端部大径摩擦プレート16eとピストン側大径摩擦プレート16aの間の間隔を広くすることができ、引き摺り抵抗をより低減することができる。
また、本実施形態の摩擦締結装置10によれば、連結部材34が、ピストン側大径摩擦プレート16aのスプライン歯17dを越えて、ピストン20の反対側でスプライン歯17dと係合してピストン20とピストン側大径摩擦プレート16aを連結しているので、ドラム12の中に、大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートが配置された後で、ピストン20を取り付けるタイプの摩擦締結装置10にも適用することができる。
次に、図14を参照して、本発明の第2実施形態による摩擦締結装置を説明する。
上述した第1実施形態においては、ピストン側大径摩擦プレートとピストンを連結する連結部材が、ドラムと干渉しないよう、ドラムに切欠部が設けられていた。これに対し、本実施形態においては、ドラムの、連結部材が配置される部分のスプライン溝を深く形成することにより、ドラムと連結部材の干渉を回避している。従って、ここでは、本実施形態の、第1実施形態とは異なる部分のみを説明し、同様の構成、作用、効果については説明を省略する。
図14は、本発明の第2実施形態による摩擦締結装置100を、連結部材が配置されているスプライン溝の部分で切断した断面図である。
図14に示すように、本実施形態の摩擦締結装置100においては、ドラム112の内側に、大径摩擦プレート116a~116eが摺動可能に配置されている。また、ハブ114の外周に、小径摩擦プレート118a~118dが摺動可能に配置されている。また、ピストン120が、ドラム112の内側に摺動可能に配置され、各大径摩擦プレート及び小径摩擦プレートを締結位置に移動させるようになっている。
連結部である連結部材134は薄い金属板から形成されており、ピストン120の円筒部120cの周囲に巻かれるベルト状の環状部134aと、この環状部134aから大径摩擦プレート116aに向けて延びる係合部134bと、を有する。
環状部134aは、細長い金属薄板から構成され、ピストン120の円筒部120cの周囲に巻き付けられることにより、連結部材134をピストン120に固定するように構成されている。また、円筒部120cの先端には、フランジ状の押付部120dが設けられているため、円筒部120cの外周に巻き付けられた環状部134aが押付部120dと係合し、環状部134aが大径摩擦プレートの方にずれるのが防止される。
図14に示すように、係合部134bは、細長い金属薄板からから構成され、環状部134aからピストン120の半径方向外方に延びた後、軸線A方向に折り曲げられ、大径摩擦プレート116aの延長部であるスプライン歯117dの半径方向外側を越えてピストン120の反対側へ延びている。ここで、スプライン歯117dを受け入れているスプライン溝112eは、ドラム112の他のスプライン溝よりも深く形成されている。このため、スプライン歯117dの先端とスプライン溝112eの底面の間には隙間があり、係合部134bは、この隙間を通ってピストン120の反対側へ延びている。即ち、ドラム112には、他のスプライン溝よりも深く形成されたスプライン溝112eが設けられており、これにより、ドラム112の円周上の一部の内径が拡大された「拡径部」が形成されている。
さらに、係合部134bは、大径摩擦プレート116aのスプライン歯117dを越えた後、半径方向内方に折り曲げられ、半径方向内方に向けて突出した凸部134cを形成して、軸線A方向に延びている。半径方向内方に折り曲げられることにより、係合部134bの凸部134cが、延長部であるスプライン歯117dの、ピストン120とは反対側の面と係合して、大径摩擦プレート116aをピストン120に固定している。また、大径摩擦プレート116aは、連結部材134の係合部134bと係合することにより、ピストン120の側に引きつけられ、大径摩擦プレート116aはピストン120の押付部120dと当接する。即ち、連結部材134は、大径摩擦プレート116aをピストン120に向けて付勢して、大径摩擦プレート116aをピストン120の押付部120dに当接させている。
また、連結部材134の係合部134bは、拡径部を構成しているスプライン溝112eの中を軸線方向に延びているが、大径摩擦プレート116b~116eの、スプライン溝112eに受け入れられるスプライン歯は、背の低い短スプライン歯117cとして形成されている。このため、摩擦締結装置100を締結させるため、ピストン120を(図14における左方向に)移動させた場合でも、大径摩擦プレート116aを越えて延びている係合部134bが、大径摩擦プレート116a以外の他の大径摩擦プレートと干渉することはない。
なお、図14には、連結部材134の係合部134bが挿入されている1本のスプライン溝112eのみを示したが、ドラム112には、「拡径部」として機能する、深く形成された複数のスプライン溝を設けておく。これらのスプライン溝に、連結部材134に設けられた複数の係合部134bが夫々挿入されるように本発明を構成するのが良い。好ましくは、3本以上の係合部134bを設け、3箇所以上でピストン側の大径摩擦プレート116aを、ピストン120に向けて付勢する。これにより、大径摩擦プレート116aを、ピストン120の押付部120dに確実に当接させることができる。
また、図14に示す例では、スプライン溝112eに受け入れられる短スプライン歯117cは、他のスプライン歯よりも短く形成されているが、スプライン溝112eに対応する位置には、スプライン歯を設けなくても良い。さらに、図14に示す例では、大径摩擦プレート116aの、係合部134bを係合させるスプライン歯を通常の長さとし、大径摩擦プレート116b~116eのスプライン歯を短く形成している。これに対して、変形例として、大径摩擦プレート116b~116eのスプライン歯を通常の長さで形成しておき、係合部134bを係合させる大径摩擦プレート116aのスプライン歯117dをより長く形成することで「延長部」を構成することもできる。この場合には、スプライン溝112eを更に深く形成し、連結部材134の係合部134bとスプライン溝112eが干渉しないようにする。
また、上述したように、ドラムの内部には、ATFが供給され、供給されたATFは、ドラムの外周から流出する。ここで、第1実施形態の摩擦締結装置においては、ドラム12に切欠部12fを設けることにより、ドラム12と連結部材34の係合部34bの干渉を回避していた。このため、ドラム12内のATFが切欠部12fからも流出し、ドラム12内のATFの流れに影響を与える虞がある。これに対し、本実施形態の摩擦締結装置100においては、ドラム112に切欠部が設けられておらず、スプライン溝112eを拡径部とすることでドラム112と係合部134bの干渉を回避している。これにより、本実施形態の摩擦締結装置100においては、ドラム112内のATFの流れに実質的な影響を与えるのを回避しながら、係合部134bにより、大径摩擦プレート116aをピストンに固定している。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、本発明の摩擦締結装置をクラッチ装置に適用していたが、本発明をブレーキ装置に適用することもできる。
さらに、上述した実施形態においては、端部大径摩擦プレート16eが、規制部材32によりドラム12に固定されていたが、溶接等、他の任意の手段で端部大径摩擦プレート16eをドラム12に固定することもできる。また、上述した実施形態においては、大径摩擦プレートが5枚、小径摩擦プレートが4枚備えられていたが、摩擦プレートの枚数、スプライン歯、スプライン溝の数は、適宜変更することができる。また、スプライン歯、スプライン溝以外の手段により、外側動力伝達部材と大径摩擦プレート、内側動力伝達部材と小径摩擦プレートを夫々係合させることもできる。