JP7280510B2 - 溶接部の破断限界線の算出方法、溶接部の破断限界線の算出プログラム、及び、溶接部の破断限界線算出装置 - Google Patents
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Description
ここで、アーク溶接部の破断限界線及びスポット溶接部の破断限界線は、いずれも引張強さや降伏応力に関係するため、硬さと同じ傾向を示すことは共通である。
そこで、発明者は、スポット溶接部の破断限界線は鋼板固有のものと考えてよく、これを基準として溶接ワイヤの強度を関連づければ、アーク溶接部の破断限界線を算出できると考えた。より具体的に鋭意検討し、予め、超小型試験片の引張試験技術で導出したスポット溶接部の破断限界線と、アーク溶接部の破断限界線から溶接ワイヤ強度と破断限界変換率の関係を定式化し、その式の係数を用いて、任意の溶接ワイヤ強度からそれに対応したアーク溶接部の破断限界線を算出することができることを見出した。
すなわち、本発明によれば、アーク溶接部の破断限界線が未測定である溶接部材に対しても、引張試験を行わずにアーク溶接部の破断限界線を精度良く算出できる。
本発明の1つの形態にかかる溶接部の破断限界線算出方法10の流れを図1に示す。図1からわかるように、破断限界線算出方法S10は破断限界線導出過程S11と、破断限界変換率算出過程S12と、破断限界線算出過程S13とを備えている。
破断限界線導出過程S11では、超小型試験片の引張試験技術を用いてスポット溶接部及びアーク溶接部のそれぞれ個別の破断限界線を導出する。この時、鋼板の材質は同じものを用い、スポット溶接部は1つのケースで良いが、アーク溶接部は溶接ワイヤを変えた2つ以上のケースの個別の破断限界線の導出が必要である。
ここで、超小型試験片の引張試験技術を用いて破断限界線を導出する方法は、例えば非特許文献1に記載された方法を用いることができる。すなわち、溶接部、HAZ(熱影響部)、及び、母材の各部位から超小型試験片(試験部の幅が0.3mm)をワイヤカット放電加工等により採取し、静的引張試験を行うものである。
超小型試験片の引張試験を模擬したFEM解析結果の試験部断面積が破断試験片での実測値に達したときの最大相当塑性ひずみを、その試験片の局所的な破断ひずみと定義できる。同様に、破断限界の応力三軸度も定義できる。このプロセスを溶接部分、HAZ部分、および、母材部分毎に行うことで、各部位での破断ひずみと破断限界の応力三軸度を導出することが可能である。
εCR=A+σtriax^B (1)
εCRs=As+σtriax^Bs (2)
εCRawi=Aawi+σtriax^Bawi (3)
ここで例えば溶接ワイヤの種類が3種類であれば、iが1~3をとり、個別の破断限界線は、εCRaw1~εCRaw3の3つとなる。
破断限界変換率算出過程S12では、破断限界線導出過程S11で得たスポット溶接部の破断限界線の係数As、Bsとアーク溶接部の個別の破断限界線の係数Aawi、Bawiから式(4)、式(5)を用いて個別の破断限界変換率RAawi、RBawiを計算する。
RAawi=Aawi/As (4)
RBawi=Bawi/Bs (5)
RAaw=-sA・TS+tA (6)
RBaw=sB・TS+tB (7)
ここで、破断限界変換率RAaw、破断限界変換率RBawは溶接ワイヤ強度に関連づけられた破断限界変換率であることを意味する。また、TSは溶接ワイヤ引張強さ(溶接ワイヤ強度)である。また、sA、sBは近似式の傾き、tA、tBは近似式におけるいわゆるy切片である。通常、これらは1E-9以上の値をとる。
破断限界線算出過程S13では、評価対象となるアーク溶接部に使用した(使用する)溶接ワイヤの引張強さTSを上記の式(6)、式(7)に代入して破断限界変換率RAaw、RBawを計算する。
ここで、式(4)、式(5)に基づく下記式(8)、式(9)に対して、得られた破断限界変換率RAaw、RBawを代入することで、評価対象のアーク溶接部の破断限界線を表す累乗関数の近似式である式(1)の係数A、Bを係数Aaw、Bawとして得る。
Aaw=As・RAaw (8)
Baw=Bs・RBaw (9)
そして式(1)のAにAaw、BにBawを代入することにより当該アーク溶接部の破断限界線を得ることができる。すなわち、次の式(10)である
εCRaw=As・RAaw+σtriax^(Bs・RBaw) (10)
式(10)からわかるように、既知のスポット溶接部の破断限界線の係数As、Bsから、溶接ワイヤ強度に関連づけられたアーク溶接部の破断限界変換率RAaw、RBawを用いることで、任意のアーク溶接部の破断限界線を得ることができる。
図3には他の形態の溶接部の破断限界線算出方法S20の流れを示した。破断限界線算出方法S20では、さらに冷却速度を考慮した溶接部の破断限界線を算出することが可能である。破断限界線算出方法S20は、破断限界線導出過程S21、破断限界変換率算出過程S22、及び、破断限界線算出過程S23を有している。
破断限界線導出過程S21では、上記破断限界線導出過程S11に倣って、超小型試験片の引張試験技術を用いてスポット溶接部、並びに、溶接ワイヤを変え(基準溶接ワイヤ、及び、これとは異なる溶接ワイヤ)、及び、冷却速度が共通(「基準冷却速度」とする。)として得た複数のアーク溶接部の個別の破断限界線を導出する。
これに加え、破断限界線導出過程S21では、基準溶接ワイヤを用いて冷却速度が基準冷却速度とは異なる2ケース以上の個別の破断限界線を導出する。冷却速度が異なる破断限界線も溶接ワイヤが異なる破断限界線と同様に式(11)のように破断ひずみ(εCRc)と応力三軸度(σtriax)の関係を冷却速度ごとに個別に累乗関数で近似して個別の破断限界線を得る。
εCRaci=Aaci+σtriax^Baci (11)
ここでAaci、Baciは冷却速度による破断限界線の係数である。例えば冷却速度の種類が3種類であれば、iが1~3をとり、個別の破断限界線は、εCRac1~εCRac3の3つとなる。
εCRs=As+σtriax^Bs (2)
εCRawi=Aawi+σtriax^Bawi (3)
εCRaci=Aaci+σtriax^Baci (11)
破断限界変換率算出過程S22では、初めに破断限界変換率算出過程S11に倣って、式(6)、式(7)を得る。すなわち、溶接ワイヤ強度に関連づけられたアーク溶接部における破断限界変換率RAaw、破断限界変換率RBawを得る。
RAaw=-sA・TS+tA (6)
RBaw=sB・TS+tB (7)
上記破断限界線導出過程S21で導出した溶接ワイヤを変更した条件による複数の個別の破断限界線(式(3))のうち、基準溶接ワイヤ、及び、基準冷却速度による破断限界線の係数Aawi及びBawiをそれぞれ基準係数Aa_base、基準係数Ba_baseとする。
そして、冷却速度を変更して式(11)で得られた個別の破断限界線の係数Aaci、係数Baciにより、式(12)、式(13)で冷却速度の異なるケースごとに複数の個別の破断限界変換率RAaci、個別の破断限界変換率RBaciを得る。
RAaci=Aaci/Aa_base (12)
RBaci=Baci/Ba_base (13)
ここで例えば冷却速度が3種類であれば、iが1~3をとり、個別の破断限界変換率はRAac1~RAac3、RBac1~RBac3となる。
RAac=-uA・ln(Cr)+vA (14)
RBac=uB・ln(Cr)-vB (15)
ここで、Crはアーク溶接部の冷却速度、uA、vA、uB、vBはパラメータであり、0.001以上である。なお、「冷却速度」とは溶接プロセスにおけるアーク溶接部の冷却速度であり、一般には、800℃から500℃までの冷却時の秒あたりの温度差分(℃/s)で表すことが多い。また、冷却時の温度は放射温度計などによる測定で求めることができる。
破断限界線算出過程S23では、破断限界線算出過程S13に倣って、溶接ワイヤに基づくアーク溶接部の破断限界線(式(10))を得る。
εCRaw=As・RAaw+σtriax^(Bs・RBaw) (10)
そして、式(12)、式(13)に倣った下記式(16)、式(17)に対して、得られた破断限界変換率RAac、RBacを代入することで、評価対象のアーク溶接部の破断限界線を表す累乗関数の近似式である式(1)の係数A、Bを係数Aac、Bacとして得る。
Aac=Aa_base・RAac (16)
Bac=Ba_base・RBac (17)
そして式(1)のAにAac、BにBacを代入することにより当該アーク溶接部の破断限界線を得ることができる。すなわち、次の式(18)である。
εCRac=Aa_base・RAac+σtriax^(Ba_base・RBac) (18)
図5は、上記したアーク溶接部の破断限界線算出方法S10に沿って具体的に演算を行う1つの形態にかかる溶接部の破断限界線算出装置10の構成を概念的に表した図である。溶接部の破断限界線算出装置10は、入力手段11、演算装置12、及び表示手段18を有している。そして演算装置12は、演算手段13、RAM14、記憶手段15、受信手段16、及び出力手段17を備えている。また、入力手段11にはキーボード11a、マウス11b、及び記憶媒体の1つとして機能する外部記憶装置11cが含まれている。
破断限界変換率算出ステップでは、得られた式(2)、式(3)に基づいて式(4)~式(7)を算出する。このとき、プログラムとして破断限界線算出装置10に組み込まれている表計算ソフトウエアが用いられてもよい。ここで使われる溶接ワイヤの引張試験の引張強さは、実験結果を取り込む形でもよいし、予め得られて記憶手段15に保存してある溶接ワイヤの種類ごとの引張強さデータベースを適用する形でもよい。
破断限界線算出ステップでは破断限界変換率算出ステップで得られた変換率を用いて式(8)~式(10)を得て任意のアーク溶接部の破断限界線を算出することができる。
外部記憶装置11cは、公知の外部接続可能な記憶手段であり、記憶媒体としても機能する。ここには特に限定されることなく、必要とされる各種プログラム、データを記憶させておくことができる。例えば上記した記憶手段15と同様のプログラム、データがここに記憶されていても良い。
外部記憶装置11cとしては、公知の装置を用いることができる。これには例えばCD-ROM及びCD-ROMドライブ、DVD及びDVDドライブ、ハードディスク、各種メモリ等を挙げることができる。
また、溶接部の破断限界線算出方法S20についても同様である。
評価対象の鋼板は980MPa級とし、破断限界線導出過程S11について式(2)により、スポット溶接部の破断限界線(εCRs)を得た。次に、アーク溶接部については、溶接ワイヤを490MPa級、590MPa級、780MPa級の3種類を用いて式(3)よりそれぞれアーク溶接部から3つ(i=3)の個別の破断限界線(εCRaw1~εCRaw3)を求めた。
RAaw=-0.0014・TS+2.622
RBaw=5e-9・TS+0.5265
次に、式(8)、式(9)より980MPa級の溶接ワイヤを用いたアーク溶接部の破断限界線の係数Aaw、Bawを算出し、これを式(10)に代入し、破断限界線を得た。
εCRaw=2.89+σtriax^-0.78
アーク溶接継手の引張試験FEM解析モデルに対して、上記で求めたアーク溶接部の破断限界線(εCRaw=2.89+σtriax^-0.78)を適用し精度を検証した。図6には重ねすみ肉溶接継手の引張試験解析モデル20を表した。図6(a)はモデル全体、図6(b)はアーク溶接部21の近傍を表している。このアーク溶接部21に、上記求めた破断限界線(εCRaw=2.89+σtriax^-0.78)を設定した。
図8には解析結果と同条件の引張試験結果の最大荷重を示した。解析結果は試験結果と良好に対応しており、本発明によれば、アーク溶接部の破断限界線が未測定の溶接ワイヤについても、超小型試験片の引張試験技術を省略して、破断限界線を精度よく算出できることが分かった。
11 入力手段
12 演算装置
18 表示手段
20 引張試験解析モデル
21 溶接部
22 熱影響部
23 母材部
S10、S20 溶接部の破断限界線算出方法
S11、S21 破断限界線導出過程
S12、S22 破断限界変換率算出方法
S13、S23 破断限界線算出過程
Claims (5)
- アーク溶接部の破断限界線を算出する方法であって、
スポット溶接部の破断限界線、及び、溶接ワイヤの種類が異なる条件による複数のアーク溶接部の破断限界線を導出する破断限界線導出過程と、
前記スポット溶接部の破断限界線の係数、及び、複数の前記アーク溶接部の破断限界線の係数を用いて、複数の破断限界変換率を計算し、前記溶接ワイヤの引張強さと前記破断限界変換率との関係を定式化する破断限界変換率算出過程と、
評価対象となるアーク溶接部に用いる溶接ワイヤの引張強さから前記定式化した式より破断限界変換率を計算し、計算した当該破断限界変換率及び前記スポット溶接部の破断限界線の前記係数から、前記評価対象となるアーク溶接部の破断限界線を算出する破断限界線算出過程と、を有する溶接部の破断限界線算出方法。 - 前記破断限界線導出過程では、さらに冷却速度が異なる条件による複数のアーク溶接部の破断限界線を導出し、
前記破断限界変換率算出過程では、さらに、基準とする冷却速度における前記破断限界線の係数、及び、前記基準とする冷却速度とは異なる前記冷却速度における複数の前記破断限界線の係数を用いて、複数の破断限界変換率を計算し、冷却速度と当該破断限界変換率との関係を定式化し、
前記破断限界線算出過程では、さらに、前記評価対象となるアーク溶接部における冷却速度から前記定式化した式により破断限界変換率を計算し、当該破断限界変換率及び前記基準とする冷却速度における前記破断限界線の前記係数から、前記評価対象となるアーク溶接部の破断限界線を算出する、請求項1に記載の溶接部の破断限界線算出方法。 - アーク溶接部の破断限界線を算出するプログラムであって、
スポット溶接部の破断限界線、及び、溶接ワイヤの種類が異なる条件による複数のアーク溶接部の破断限界線を導出する破断限界線導出ステップと、
前記スポット溶接部の破断限界線の係数、及び、複数の前記アーク溶接部の破断限界線の係数を用いて、複数の破断限界変換率を計算し、前記溶接ワイヤの引張強さと前記破断限界変換率との関係を定式化する破断限界変換率算出ステップと、
評価対象となるアーク溶接部に用いる溶接ワイヤの引張強さから前記定式化した式より破断限界変換率を計算し、計算した当該破断限界変換率及び前記スポット溶接部の破断限界線の前記係数から、前記評価対象となるアーク溶接部の破断限界線を算出する破断限界線算出ステップと、を有する溶接部の破断限界線算出プログラム。 - 前記破断限界線導出ステップでは、さらに冷却速度が異なる条件による複数のアーク溶接部の破断限界線を導出し、
前記破断限界変換率算出ステップでは、さらに、基準とする冷却速度における前記破断限界線の係数、及び、前記基準とする冷却速度とは異なる前記冷却速度における複数の前記破断限界線の係数を用いて、複数の破断限界変換率を計算し、冷却速度と当該破断限界変換率との関係を定式化し、
前記破断限界線算出ステップでは、さらに、前記評価対象となるアーク溶接部における冷却速度から前記定式化した式により破断限界変換率を計算し、当該破断限界変換率及び前記基準とする冷却速度における前記破断限界線の前記係数から、前記評価対象となるアーク溶接部の破断限界線を算出する、請求項3に記載の溶接部の破断限界線算出プログラム。 - アーク溶接部の破断限界線を算出する装置であって、
請求項3又は4に記載の溶接部の破断限界線算出プログラムが記憶された記憶手段と、
前記プログラムに基づいて演算を行う演算手段と、
前記演算手段により演算された結果を表示する表示手段と、を備え、
前記演算手段は、前記請求項3又は4に記載のステップにより演算が行われる、溶接部の破断限界線算出装置。
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