JP7275476B2 - 積層フィルム及びその製造方法、並びにラミネート品 - Google Patents

積層フィルム及びその製造方法、並びにラミネート品 Download PDF

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Description

本発明は積層フィルム及びその製造方法、並びにラミネート品に関する。
従来より、プラスチックフィルムを基材とし、その表面に酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等からなる無機層を形成した積層フィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、例えば、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装に広く利用されている。
例えば、耐衝撃性に優れ、高いバリアー性を安定して維持するとともに良好な透明性と電子レンジ適性を備えたバリアー性フィルムを得るために、少なくとも有機珪素化合物の蒸気と酸素とを含有するガスを用いてプラズマCVD法により基材上にバリアー層を形成してバリアー性フィルムとし、バリアー層を珪素酸化物を主体とし、炭素、水素、珪素および酸素のなかの1種類、あるいは2種類以上の元素からなる化合物を少なくとも1種類含有したものとすることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、例えば、高温高湿下でも温湿度依存のない高い酸素バリア性と、高度な透明性・印刷適性・防湿性を付与したガスバリアフィルムを得るために、表面粗さを表す最大高さ:Ry<1.40μm、10点平均粗さ:Rz<0.80μmのいずれかは上記領域を満たす表面粗さであるポリオレフィンを主成分とし、片面もしくは両面にMO・nSiO(Mはリチウムまたはリチウムを含む複数のアルカリ金属、nはモル比で1~20の範囲内)で表されるアルカリ金属ポリシリケートを主成分とするガスバリア性被膜を積層することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
特開平8-142252号公報 特開2002-113826号公報
しかしながら、これらの特許文献に記載のガスバリア性フィルムでは、十分な水蒸気バリア性と優れた全光線透過性とを両立することができなかった。
本発明は、高い水蒸気バリア性及び高い全光線透過率を有する積層フィルム及びその製造方法、並びに、高い水蒸気バリア性及び高い全光線透過率を有するラミネート品を提供することを目的とするものである。
特許文献2のように、ガスバリアフィルムを形成する基材の平滑化は検討されているものの、基材のその他要素とガスバリア性との関係については、不明な部分が多かった。これに対し、本発明においては、所定の配向指数を示すポリエステルフィルムを基材とし、無機薄膜を積層することで、積層フィルム及びそれを用いたラミネート品が、優れた水蒸気バリア性と優れた全光線透過性とを有することがわかった。本発明は以下のとおりである。
<1> 面配向度が160~180であり、かつ縦配向度が60~80であるポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、アンカーコート層と無機薄膜とをこの順に備える積層フィルムである。
<2> 面配向度が165以上であり、一方向の配向度が85以上である二軸延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜を備える積層フィルムである。
<3> 前記ポリエステルフィルムと、前記無機薄膜との間にアンカーコート層を備える<2>に記載の積層フィルムである。
<4> 前記ポリエステルフィルムは、固有粘度(IV)が0.61~0.75dl/gである<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層フィルムである。
<5> 前記ポリエステルフィルムは、実面積Sと、表面の投影面積Aとの比である実効面積(S/A)が1.001以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層フィルムである。
<6> 前記無機薄膜上に、保護樹脂層を備える<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層フィルムである。
<7> ディスプレイ部材用である<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層フィルムである。
<8> ポリエステルフィルムを、一段目に2.5~3.8倍の延伸倍率で延伸し、次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に4.0~6.0倍の延伸倍率で延伸して二軸延伸ポリエステルフィルムを製造し、該二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜を積層する積層フィルムの製造方法である。
<9> 被着体の少なくとも一方の表面に、<1>~<7>のいずれか1つに記載の積層フィルムが貼り合わされたラミネート品。
本発明によれば、高い水蒸気バリア性及び高い全光線透過率を有する積層フィルム及びその製造方法、並びに、高い水蒸気バリア性及び高い全光線透過率を有するラミネート品を提供することができる。
<積層フィルム>
第1の本発明の積層フィルムは、面配向度が160~180であり、かつ縦配向度が60~80であるポリエステルフィルム(以下、「第1の基材フィルム」と称することがある)と、アンカーコート層と、無機薄膜とを備えており、第1の基材フィルムの表面にアンカーコート層と無機薄膜とをこの順に備える。アンカーコート層と無機薄膜は、第1の基材フィルムの表面の片方のみに備えられていてもよいし、両方に備えられていてもよい。
第1の本発明の積層フィルムは、更に、他の機能性層を備えていてもよく、例えば、第1の本発明の積層フィルムは無機薄膜上に保護層、バリア性能向上層等のトップコート層を備えていてもよい。また、アンカーコート層及び無機薄膜層を第1の基材フィルム表面の片方にのみ備え、当該表面とは反対側に易接着層、易滑層、離型層、帯電防止層、光調整層などの付加機能を有する層を備えていてもよい。
第2の本発明の積層フィルムは、面配向度が165以上であり、一方向の配向度が85以上である二軸延伸されたポリエステルフィルム(以下、「第2の基材フィルム」と称することがある)の片面に、無機薄膜を備える。第2の本発明の積層フィルムが備える無機薄膜は、第2の基材フィルムの表面の片方のみに備えられていてもよいし、両方に備えられていてもよい。
第2の本発明の積層フィルムは、第2の基材フィルムと無機薄膜との間に、アンカーコート層を備えていてもよいし、更に、他の機能性層を備えていてもよい。他の機能性層としては、例えば、第1の本発明の積層フィルムにおける他の機能性層が挙げられ、具体的には、易接着層、易滑層、離型層、帯電防止層、光調整層などの付加機能を有する層が挙げられる。
第2の本発明の積層フィルムは、無機薄膜上に保護層、バリア性能向上層等のトップコート層を備えていてもよいし、無機薄膜層を第2の基材フィルム表面の片方にのみ備え、当該表面とは反対側に上記機能性層を備えていてもよい。
一般に、積層フィルムの基材となるポリエステルフィルムの配向性を高めると、ガスバリア性は高まると言われている。従って、無機薄膜を積層するポリエステルフィルムの配向度は、高ければ高いほど、積層フィルムのガスバリア性が向上すると期待される。
しかしながら、驚くべきことに、配向度の高いポリエステルフィルムに無機薄膜を積層すると、却ってガスバリア性が下がることがわかった。具体的には、第1の本発明の積層フィルムにおいては、面配向度が180を超えない範囲であり、かつ縦配向度が80を超えない範囲であるポリエステルフィルムを用い、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、アンカーコート層と無機薄膜とをこの順に備えることで、高いガスバリア性及び高い全光線透過率を有することがわかった。
また、第2の本発明の積層フィルムにおいては、面配向度が165以上であり、一方向の配向度が85以上である二軸延伸されたポリエステルフィルムの片面に、無機薄膜を備えることで、高いガスバリア性及び高い全光線透過率を有することがわかった。
本発明の積層フィルムが、このように高いガスバリア性及び高い全光線透過率を有する理由は定かではないが、以下の理由によるものと推察される。
第1の本発明の積層フィルムにおいては、ポリエステルフィルムの面配向度が一定以上であることで、ポリエステルフィルム最表面のポリエステル分子鎖が面方向に揃うため、アンカーコート層を介して、ポリエステルフィルム表面上に積層される無機薄膜に含まれる無機物質(例えば、シリカ)の結晶化が助長されると考えられる。更に、ポリエステルフィルムと無機薄膜との間にアンカーコート層を介在させることで、ポリエステルフィルムと無機薄膜との密着性がより強固なものとなり、積層フィルムのガスバリア性がより一層高まると考えられる。
全光線透過率を高めるには、通常、無機薄膜の膜厚を小さくする必要があるが、無機薄膜が薄くなるほど、積層体のガスバリア性は低下してしまう傾向にある。
しかし、本発明においては、特定の配向性のポリエステルフィルムを用いるため、ポリエステルフィルムに無機薄膜が密着し易く、更にアンカーコート層を介在させて密着性が高まっているために、積層体のガスバリア性を損なわずに、無機薄膜の膜厚を小さくすることができ、全光線透過率を高めることができると考えられる。
第2の本発明の積層フィルムにおいては、ポリエステルフィルムの面配向度が一定以上であることで、ポリエステルフィルム最表面のポリエステル分子鎖が面方向に揃うため、ポリエステルフィルム表面上に積層される無機薄膜に含まれる無機物質(例えば、シリカ)の結晶化が助長されると考えられる。その結晶化により積層フィルムはガスバリア性に優れると考えられる。
全光線透過率を高めるには、通常、無機薄膜の膜厚を小さくする必要があるが、無機薄膜が薄くなるほど、積層体のガスバリア性は低下してしまう傾向にある。
しかし、本発明においては、特定の配向性のポリエステルフィルムを用いるため、ポリエステルフィルムに無機薄膜が密着し易く、積層体のガスバリア性を損なわずに、無機薄膜の膜厚を小さくすることができ、全光線透過率を高めることができると考えられる。
第1及び第2の本発明の積層フィルムは、特に、水蒸気バリア性に優れるものであるが、酸素バリア性にも優れる。
以下、第1及び第2の積層フィルムの各構成要素について、詳細に説明する。
〔ポリエステルフィルム〕
第1の本発明の積層フィルムは、基材層として、面配向度(ΔP)が160~180であり、かつ縦配向度(ΔnP)が60~80であるポリエステルフィルム(第1の基材フィルム)を備える。第1の基材フィルムは、縦方向(フィルム搬送方向)にのみ延伸された1軸延伸フィルムであってもよいし、更に横方向(フィルム搬送方向に直交する方向)に延伸された2軸延伸フィルムであってもよい。
第1の本発明においては、ポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)が160以上であることで、ポリエステルフィルムのガスバリア性及び全光線透過率を高めることができる。一方、面配向度(ΔP)が180を超えると、ポリエステルフィルム表面に無機薄膜を積層したとき、十分なガスバリア性を得ることができない。
第1の本発明におけるポリエステルフィルムの縦配向度(ΔnP)が60以上であることで、ポリエステルフィルムのガスバリア性及び全光線透過率を高めることができる。一方、縦配向度(ΔnP)が80を超えると、ポリエステルフィルム表面に無機薄膜を積層したとき、十分なガスバリア性を得ることができない。
第1の本発明におけるポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)は、積層フィルムのガスバリア性及び全光線透過率をより高める観点から、160~175が好ましく、162~170がより好ましく、162~166.8が更に好ましい。
第1の本発明におけるポリエステルフィルムの縦配向度(ΔnP)は、積層フィルムのガスバリア性及び全光線透過率をより高める観点から、60~75が好ましく、60~72がより好ましく、61.5~66.4が更に好ましい。
中でも、第1の本発明におけるポリエステルフィルムは、2軸延伸フィルムであることが好ましい。ポリエステルフィルムの縦配向度を上記の範囲内に制御しながら、面配向度を所定の値以上とする手段としては、横配向度を高める態様が挙げられる。すなわち、第1の本発明では、無機薄膜との密着性向上、ひいてはガスバリア性向上のために、後述する通り、横配向度を高めることが好ましい。第1の基材フィルムにおける横配向度の好適な範囲としては、後述する第2の基材フィルムにおける横配向度の好適な範囲と同様とすることができる。
第2の本発明の積層フィルムは、基材層として、面配向度(ΔP)が165以上であり、かつ一方向の配向度が85以上である二軸延伸されたポリエステルフィルム(第2の基材フィルム)を備える。
第2の基材フィルムは、縦方向と横方向に延伸された二軸延伸フィルムである。第2の基材フィルムは、また、面配向度(ΔP)が165以上であり、縦方向と横方向のいずれか一方向の配向度が85以上である。
第2の基材フィルムは、積層フィルムのガスバリア性及び全光線透過率をより高める観点から、縦方向と横方向のいずれか一方向の配向度が、85~105が好ましく、90~105がより好ましい。
第2の基材フィルムは、ガスバリア性及び全光線透過率をより高める観点から、横方向の配向度、すなわち横配向度(ΔnPv)が85以上であることが好ましく、縦配向度(ΔnP)が60~80であり、かつ横配向度(ΔnPv)が85以上であることがより好ましい。従って、第2の基材フィルムは、横配向度(ΔnPv)が85~105であることが好ましく、90~105がより好ましい。
第2の本発明におけるポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)は、積層フィルムのガスバリア性及び全光線透過率をより高める観点から、165~180が好ましく、165~175がより好ましい。
第2の本発明におけるポリエステルフィルムの縦配向度(ΔnP)は、積層フィルムのガスバリア性及び全光線透過率をより高める観点から、60~75がより好ましく、60~72が更に好ましく、61.5~66.4が特に好ましい。
また、積層フィルムのガスバリア性及び全光線透過率をより高める観点から、第1の本発明におけるポリエステルフィルムは、横配向度(ΔnPv)が、85~105であることが好ましく、90~105がより好ましい。
なお、第2の本発明において、第2の基材フィルムにおける「縦方向と横方向のいずれか一方向の配向度」及び「縦配向度」を「基材フィルム面における任意の一方向の配向度」と読み替え、第2の基材フィルムにおける「横配向度(ΔnPv)」を「当該任意の一方向に直交する方向の配向度」と読み替えることができる。
ポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)、縦配向度(ΔnP)、及び横配向度(ΔnPv)は、ポリエステルフィルムを製造する過程におけるポリエステルフィルムの延伸倍率、延伸温度、ポリエステルの結晶化温度等を調整することで、上記範囲とすることができる。ポリエステルフィルムの製造方法及び延伸方法の詳細は、後述する。
ポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)、縦配向度(ΔnP)、及び横配向度(ΔnPv)は、次のようにして求めることができる。
JIS K 7142-1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源とし、アッベ屈折計により、ポリエステルフィルム長手方向の屈折率(nx)、幅方向の屈折率(ny)、及び厚み方向の屈折率(nz)を測定する。測定結果を下記式に当てはめることで、面配向度(面配向係数ともいう;ΔP)及び縦配向度(縦面配向係数ともいう;ΔnP)を算出することができる。
ΔP=((nx+ny)/2-nz)×1000
ΔnP=(nx-(ny+nz)/2)×1000
更に、面配向度(ΔP)と縦配向度(ΔnP)とから、下記式にて、横配向度(横面配向係数ともいう;ΔnPv)を算出することができる。
ΔnPv=ΔP-ΔnP
ポリエステルフィルム(第1の基材フィルム及び第2の基材フィルム)に使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。更に共重合成分として、P-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸を用いてもよい。何れにしても本発明でいうポリエステルとは、通常60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレート等であるポリエステルを指す。
(固有粘度)
ポリエステルフィルムは、積層フィルムのガスバリア性及び全光線透過率をより高める観点から、固有粘度(IV)が0.61~0.75dl/gであることが好ましい。
ポリエステルフィルムの固有粘度(IV)が大きいことは、ポリエステルの平均分子量が大きいか、または、低分子量体が少ないことを意味する。従って、ポリエステルフィルムに積層する無機薄膜を、蒸着等の高い熱エネルギーを持って堆積又は積層する無機薄膜の下地としては強固なものとなり易いことから、無機蒸着膜(例えば、シリカ蒸着膜)の成長を阻害しにくい。そのため、ポリエステルフィルムのIV値が0.61dl/g以上であれば、無機蒸着膜が十分成長し、より水蒸気バリア性の高い膜を形成し易い。
一方、フィルムのIV値が0.75dl/g以下であることで、ポリエステルの柔軟性を損ないにくいため、ポリエステルフィルムを製膜し易い。
当該固有粘度(IV)は、0.62~0.70dl/gがより好ましく、0.63~0.67dl/gが更に好ましい。
ポリエステルフィルムの固有粘度(IV)は、ポリエステルの重合度、低分子量体の含有量等を調整することにより、上記範囲とすることができる。
ポリエステルの重合度及び低分子量体の含有量は、ポリエステルフィルムの原料であるポリエステルの重合条件(重合温度、反応時間、触媒量、触媒種、添加剤等)を調整したり、固相重合法等のような原料の製造工程自体等を変更することにより、調整することができる。また、適当な原料を選択することによって製膜した後のポリエステルフィルムの固有粘度(IV)を調整することができる。
(層構成)
積層フィルムの基材層を構成するポリエステルフィルムは、単層であってもよいし、ポリエステルフィルムを2層以上積層した多層であってもよいが、ガスバリア性をより高める観点から、ポリエステルフィルムは少なくとも3層以上の積層構成であることが好ましい。
また、ポリエステルフィルムを3層以上とする場合は、両最表層のポリエステルフィルムの軟化点が、中間層のポリエステルフィルムの軟化点よりも高いことが更に好ましい。両最表層のポリエステルフィルムと、中間層のポリエステルフィルムとの軟化点の差は3℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましい。
多層ポリエステルフィルムの各ポリエステル層の軟化点は、次のようにして測定することができる。
フィルム小片をエポキシ樹脂にて固定成形した後、ミクロトームで切断し、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡写真にて観察する。その断面のうちフィルム表面とほぼ平行に2本、明暗によって界面が観察される。その2本の界面とフィルム表面までの距離を10枚の写真から測定し、平均値を積層厚さとする。このようにして、多層ポリエステルフィルムの層構成を確認した後、露出したフィルム断面において、各ポリエステル層の中央部1箇所をNano Navi II/E-Sweep/nano-TA2(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、下記測定条件により測定を行い、N=3の平均値をもって、ポリエステル層の軟化点とする。なお、測定値に関しては、得られた測定チャートより、昇温カーブと降温カーブとの各々のカーブにおける接線を引き、接線の交点を求める。次に得られた接線の交点を通り、測定温度軸と垂直に交わる点をもって、軟化点とする。
(測定条件)
昇温速度:5℃/sec
探針:サーマルカンチレバーAN2-200
測定温度範囲:常温(23℃)~300℃
測定雰囲気:大気圧
「表層を構成するフィルム中のオリゴマー含有量」と、「中間層を構成するフィルム中のオリゴマー含有量」との差を大きくするため、表層と中間層との軟化点の差を3℃以上設けるのが好ましい。具体的には、表層を構成するフィルム中にに、「オリゴマー(環状三量体)の含有量が0.5重量%以下であるポリエステル」を80重量%以上含有することが好ましく、これにより、前記軟化点の差をより大きくすることができる。
オリゴマー含有量が0.5重量%以下であるポリエステルを使用することで、また、当該ポリエステルの含有量が80重量%以上であることで、高い張力がかかる条件下でのスパッタリング工程及び、過酷な条件下での積層フィルムの使用に関して、所望する耐久性を確保し易い。
(表面オリゴマー量)
更に、ポリエステルフィルムは、表面オリゴマー量が3.0mg/m以下であることが好ましい。表面オリゴマー量とは、ポリエステルフィルム表面に、4mlのDMF(ジメチルホルムアミド)を接触させ、3分間放置することで、DMFに析出するポリエステルオリゴマーの単位面積当たりの析出量(表面析出オリゴマー量)をいう。表面オリゴマー量の測定方法の詳細は後述する実施例の記載の通りである。
当該表面オリゴマー量は、基材層が2層以上のポリエステルフィルムで構成されている場合は、基材層全層となる多層ポリエステルフィルム表層の量であり、基材層が1層のポリエステルフィルムで構成されている場合は、基材層全層となる単層ポリエステルフィルム表層の量である。
第1の本発明の積層フィルムにおいて、ポリエステルフィルムにアンカーコート及び無機薄膜を積層する際に、アンカーコート塗布後の乾燥工程、無機薄膜の真空蒸着等の加熱環境下で積層する場合;また、第2の本発明の積層フィルムにおいて、ポリエステルフィルムに無機薄膜を積層する際に、無機薄膜の真空蒸着等の加熱環境下で積層する場合など、ポリエステルフィルムに一定以上の熱がかかるため、熱せられたフィルムから、内包されていたポリエステルオリゴマーが、ポリエステルフィルム表面に析出し結晶化することがある。従って、表面オリゴマーが少ないほど、ポリエステルオリゴマーの結晶に起因する無機蒸着膜の成長の阻害を抑制し、ポリエステルフィルム表面からポリエステルオリゴマーが脱落することに起因するポリエステルフィルムの空洞を抑制することができる。よって、ポリエステルフィルムの表面オリゴマー量を3.0mg/m以下とすることで、積層フィルムのガスバリア性をより高めることができるので好ましい。
ポリエステルフィルムの表面オリゴマー量は、少ないほど良く、2.3mg/m以下であることがより好ましく、1.9mg/m以下であることが更に好ましい。
ポリエステルフィルムの表面オリゴマー量は、ポリエステルフィルムの原料であるポリエステルの重合条件(重合温度、反応時間、触媒量、触媒種、添加剤等)を調整したり、固相重合法等のような原料の製造工程自体等を変更することにより、ポリエステル中のオリゴマー(環状三量体)の量を低減させることができ、また、当該原料を用いることで、ポリエステルフィルムの表面オリゴマー量を調整することができる。
既述のように、本発明においては、ポリエステルフィルムは3層以上の多層構成であることが望ましいが、その場合、ポリエステルフィルムは、1層以上の中間層と、中間層を挟む2つの表層で構成される。このとき、通常、多層ポリエステルフィルムは、中間層と表層とで適当な原料を組み合わせて二軸押出しで製膜するが、中間層のポリエステルフィルムが、例えば、3.0重量%を超えるオリゴマーを含有していても、表層のポリエステルフィルム中のオリゴマー量を3.0重量%以下の含有量とすることでポリエステルフィルム全体として、表面オリゴマー量を低減することができる。更には、ポリエステルフィルムの表面層にオリゴマー析出防止のコーティングを施すことによっても表面オリゴマーの低減が可能である。
(ポリエステルフィルム中の粒子)
ポリエステルフィルム中(基材層が2層以上のポリエステルフィルムで構成されている場合は、1層以上のポリエステルフィルム中)には、易滑性付与を主たる目的として、粒子が含有されていることが好ましい。ポリエステルフィルムに含有する粒子の種類は易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59-5216号公報、特開昭59-217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
粒子の形状に関しては、特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
ポリエステルフィルム中に含有される粒子の平均粒径は、0.2~4μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が0.2μm以上であることで、フィルム表面が過度に平坦化、することを抑制することができ、フィルム製造工程における巻き特性を損ねにくい。一方、平均粒径が4μm以下であることで、フィルム中に含まれる粒子起因の突起形成することを抑制することができ、フィルム上に積層する蒸着層などの無機薄膜が、所望するバリア性能を発現し易くなる。
粒子の平均粒径は、粒度分布測定装置を用いて測定される平均粒径d50として確認することができる。
さらに、ポリエステルフィルム中の粒子含有量は、通常0.001~5重量%であり、好ましくは0.005~3重量%の範囲である。
基材層が2層以上のポリエステルフィルムで構成されている場合は、粒子は少なくとも何れかの層に含有されていればよい。基材層が3層以上のポリエステルフィルムで構成されている場合も同様であるが、少なくとも何れか一方の表層に粒子が含有されていることが好ましい。なお、当該粒子含有量は、基材層が2層以上のポリエステルフィルムで構成されている場合は、基材層全層となる多層ポリエステルフィルム中の量であり、基材層が1層のポリエステルフィルムで構成されている場合は、基材層全層となる単層ポリエステルフィルム中の量である。
ポリエステルフィルム中の粒子含有量が0.001重量%以上であることで、フィルムの易滑性が十分に得られ、一方、5重量%以下であることで、所望するバリア性能を損ねにくい。
ポリエステルフィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後に粒子を添加する。
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって、ポリエステルフィルム中に粒子を添加することができる。
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
(厚み)
ポリエステルフィルム厚み(第2の基材フィルムにおいては二軸延伸フィルムとしての厚み)に関しては、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、用途上、9~250μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは12~125μmの範囲がよい。
ポリエステルフィルムの厚さは、フィルム小片をエポキシ樹脂にて固定成形した後、ミクロトームで切断し、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡写真にて観察することにより測定することができる。
ポリエステルフィルムが多層構成である場合、フィルム断面のうち、フィルム表面とほぼ平行に1本以上の界面が、明暗によって観察される。例えば、ポリエステルフィルムが3層構成であるときは、2本、明暗によって界面が観察される。その1本以上の界面とフィルム表面までの距離を10枚の写真から測定し、平均値を積層厚さとして求めることができる。
(表面粗さ)
ポリエステルフィルム表面は、平均粗さ(Sa)、最大粗さ(St)、実効面積(S/A)等により確認することができ、凹凸が少ないことが好ましい。特に、ポリエステルフィルムは、実面積Sと、ポリエステルフィルム表面の投影面積Aとの比である実効面積(S/A)が1.001以下であることが好ましい。
実効面積(S/A)が上記範囲となるポリエステルフィルム表面は、何れの面であってもよいが、少なくともアンカーコート層又は無機薄膜と接する表面の実効面積(S/A)が上記範囲であることが好ましい。
実効面積(S/A)は、観察エリアの実面積(凹面と凸面を含む全面積)Sと、ポリエステルフィルムの観察エリアの投影面積Aとの比を表し、この値が大きいほどポリエステルフィルムの表面積が大きいということを意味する。
一方、ポリエステルフィルムに積層する無機薄膜を蒸着により積層する場合、無機薄膜(例えば、シリカ蒸着膜)はポリエステルフィルム全面に、均質に積層することから、ポリエステルフィルムの表面積が小さいほど、無機薄膜の実質厚みが厚くなり、水蒸気バリア性能が向上する。また、ポリエステルフィルム表面の凹凸が少ないほど、シリカ蒸着膜の厚薄の差が大きくなりにくいため、薄い箇所から水蒸気が透過してしまうことを抑制することができる。
かかる観点から、ポリエステルフィルムの実効面積(S/A)は、1.0009以下であることがより好ましい。
ポリエステルフィルムの実効面積(S/A)を上記範囲にするためには、例えばポリエステルの製造において添加する粒子の粒子径、添加量等を調整すればよい。またポリエステルフィルム製造におけるキャストロール表面粗さを変更することにより、調整することもできる。
ポリエステルフィルムの表面粗さは、例えば、非接触表面計測システム「日立化成株式会社製Vertscan)」を用いることにより測定することができる。
(ポリエステルフィルムの製造方法)
次に本発明の積層フィルムを構成するポリエステルフィルムの製造方法について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
まず、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
次に、得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。
第1の積層フィルムを構成するポリエステルフィルム(第1の基材フィルム)の製造に当たっては、一段目の延伸の延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、一段目の延伸の延伸倍率は通常2.5~7.0倍、好ましくは3.0~6.0倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7.0倍、好ましくは4.0~6.0倍、さらに好ましくは5.0~6.0倍である。そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
第2の本発明の積層フィルムを構成するポリエステルフィルム(第2の基材フィルム)の製造に当たっては、一段目の延伸の延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、一段目の延伸の延伸倍率は通常2.5~3.8、好ましくは3.0~3.8倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向の延伸の延伸温度は通常70~170℃であり、一段目の延伸方向と直交する方向の延伸倍率は通常4.0~6.0倍、好ましくは4.5~6.0倍、さらに好ましくは5.0~6.0倍である。そして、引き続き180~270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
本発明においては特に、横延伸倍率を通常よりも高くすることにより、ポリエステルの分子結晶を横方向に強く配列させることが可能となる。その結果、ガスの通り道という観点から、フィルム厚み方向において、横方向に配列した分子結晶が障害物の役目をはたすため、ガスは分子結晶を避けて移動しなければならないと推察される。そのため、フィルム中のガスの移動経路が より長くなるため、単位時間あたりにフィルムを通過できるガス量としてとらえた場合、そのガス量が少なくなり、ガスバリア性が良好となるものと考えられる。
また、ポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法である。延伸倍率としては、第1の基材フィルム、第2の基材フィルム共に、面積倍率で4~50倍、好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。そして、引き続き、170~250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来から公知の延伸方式を採用することができる。
さらに上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
〔アンカーコート層〕
第1の本発明の積層フィルムにおいては、第1の基材フィルムと無機薄膜との密着性を向上させることを目的として、第1の基材フィルムと無機薄膜との間にアンカーコート層を設ける。
第2の本発明の積層フィルムにおいても、第2の基材フィルムと無機薄膜との密着性を向上させることを目的として、第2の基材フィルムと無機薄膜との間にアンカーコート層を設けることが好ましい。
アンカーコート層は、例えば、アンカーコート剤を基材フィルム表面に塗工することで形成することができる。
アンカーコート剤はバインダー成分を含有することが好ましい。
バインダー成分としては、具体的には、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂やエチレン-ビニルアルコール系樹脂等のビニルアルコール系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、イソシアネート基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、アルコキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂及びスチレン系樹脂等が挙げられる。これらバインダー成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
積層フィルムのガスバリア性能の観点から、バインダー成分は、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂及びイソシアネート基含有樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を用いることが好ましい。なかでも、バインダー成分は、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びイソシアネート基含有樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂がより好ましく、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂がさらに好ましい。
アンカーコート剤に用いられる上記ポリエステル系樹脂は、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を反応させることにより得ることができる。多価カルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸及びオルトフタル酸等が例示され、多価アルコール成分としては、エチレン-グリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレン-グリコール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール及び1,6-ヘキサンジオール等が例示される。
アンカーコート剤に用いられる上記アクリル系樹脂は、特に限定されず重合性不飽和単量体を従来公知の重合法を用いて重合して得られたものを使用することができる。
重合性不飽和単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート及びステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、またアクリル樹脂を形成した後に架橋性化合物と架橋させる観点から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート及びフタル酸とプロピレングリコールとから得られるポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート等水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーや、アミノ基及びカルボキシル基等他の架橋性官能基を有する(メタ)アクリルモノマー並びに(メタ)アクリル酸等の酸性官能基を有する(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。
上記バインダー成分の樹脂の分子量は、ガスバリア性、及び、基材フィルムと無機薄膜との密着性の点から、数平均分子量で、3,000~50,000が好ましく、より好ましくは4,000~40,000、さらに好ましくは5,000~30,000である。
また、基材フィルムと無機薄膜との密着性をより向上する観点から、アンカーコート層中のバインダー成分は架橋構造を有していることが好ましい。
アンカーコート層に架橋構造を有するバインダー成分を含める観点から、アンカーコート剤は、イソシアネート系化合物等の硬化剤を含有することが好ましい。
上記イソシアネート系化合物の具体例として、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートや、キシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。ガスバリア性、あるいは基材フィルム及び無機薄膜との密着性の点から、イソシアネート基が2つ以上のポリイソシアネートが好ましく、より好ましくはイソシアネート基が3つ以上のポリイソシアネートである。
アンカーコート剤には、上述した成分以外に、公知の各種溶媒や添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、水性エポキシ樹脂、シランカップリング剤、アルキルチタネート、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、染料、抗菌剤、滑剤、無機充填剤及びブロッキング防止剤等を挙げることができる。
アンカーコート層の厚さは、0.1~1000nmであることが好ましく、2~1000nmであることがより好ましく、5~1000nmであることがさらに好ましく、10~500nmであることが特に好ましい。アンカーコート層の厚さが0.1nm以上であれば、均一に層形成することができるため、密着性等にバラつきが生じにくい。また、アンカーコート層の厚さが1000nm以下であれば、密着性が良好で、オフラインで基材フィルム表面にアンカーコート層を塗工してロール状に巻いた際に基材フィルム背面側への転写が起こりにくく、その後、アンカーコート層上に無機薄膜を形成した際に所定のガスバリア性能を発揮することができる。アンカーコート層の耐水性、耐久性を高めるために、電子線照射による架橋処理を行ってもよい。
アンカーコート剤を基材フィルム表面に塗工する方法としては、従来から公知のコーティング方法が適宜採択される。例えば、前述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
〔無機薄膜〕
第1の本発明の積層フィルムは、第1の基材フィルムであるポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、アンカーコート層と無機薄膜とをこの順に備える。
第2の本発明の積層フィルムは、第2の基材フィルムであるポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に無機薄膜を備える。第2の本発明の積層フィルムが、更にアンカーコート層を備える場合は、第2の基材フィルムの少なくとも一方の表面にアンカーコート層と無機薄膜とをこの順に備えることが好ましい。
無機薄膜を構成する無機物質としては、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、又は、これらの酸化物、炭化物、窒化物、あるいは、これらの混合物が挙げられる。中でも、無機物質は、基材層であるポリエステルフィルムとの相互作用及び密着性の観点から、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化窒化炭化珪素、酸化アルミニウム、ダイアモンドライクカーボンであることが好ましい。特に、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化窒化炭化珪素、及び酸化アルミニウムは、高いガスバリア性が安定に維持できる点で好ましい。
ポリエステルフィルム表面上に無機薄膜を形成する方法としては、蒸着法、コーティング法等の方法がいずれも使用できるが、ガスバリア性の高い均一な無機薄膜を得る観点から、蒸着法が好ましい。蒸着法には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等のPVD(物理的気相蒸着)、又は、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等のCVD(化学的気相蒸着)等の方法が含まれる。
無機薄膜の厚みは、一般に0.1~500nm程度であるが、好ましくは1~150nm、より好ましくは5~70nmである。上記範囲内であれば、十分なガスバリア性が得られ、また、無機薄膜に亀裂や剥離を発生させることなく、透明性にも優れ、積層フィルムの全光線透過率を高めることができる。
無機薄膜は単層からなるもの、2層以上からなるもののいずれであってもよい。また、無機薄膜が2層以上からなる場合は、同一の層でも異なる層でもよい。
無機薄膜の表面には、必要に応じ保護樹脂層を有していてもよい。
この保護樹脂層は、無機薄膜にバリア安定性、接着性、耐水性、耐水接着性、耐擦傷性、ガスバリア向上効果、光学調整層、上塗り剤との密着性、印刷適性、帯電防止性等を付与させるために形成される。
保護樹脂層は、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、イソシアネート系樹脂、オキサゾリン系樹脂、カルボジイミド系樹脂、アルコール性水酸基含有樹脂及びアイオノマー樹脂の中から選ばれる少なくとも1種を含む塗工液を、前記無機薄膜表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。
本発明の積層フィルムの全体の厚みは、用途に応じて適宣選定されるが、ガスバリア性、強度、柔軟性、透明性、経済性等の観点から、通常5~500μm程度、好ましくは10~300μmである。また、幅や長さに特に制限はなく、用途に応じて適宜選定される。
(積層フィルムのガスバリア性)
第1の本発明の積層フィルムは、既述の特定の配向性を有するポリエステルフィルム(第1の基材フィルム)にアンカーコート層と無機薄膜を積層した構成であることで、優れたガスバリア性と高い全光線透過率を有する。第2の本発明の積層フィルムは、既述の特定の配向性を有するポリエステルフィルム(第2の基材フィルム)に無機薄膜を積層した構成であることで、優れたガスバリア性と高い全光線透過率を有する。
ガスバリア性としては、特に水蒸気バリア性に優れるものであるが、酸素バリア性にも優れるため、例えば、本発明の積層フィルムを食品包装用フィルムに用いた場合、食品の酸化劣化を抑制することができる。
本発明のガスバリア性積層体の水蒸気バリア性は、JIS Z0222「防湿包装容器の透湿度試験方法」、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」の諸条件に準じて、水蒸気透過率を測定することにより、確認することができる。
また、本発明のガスバリア性積層体は、JIS K 7126 B法に準じて、例えば、酸素透過率測定装置(MOCON社製「OX-TRAN 2/21型酸素透過率測定装置」)により、温度25℃、相対湿度80%の条件下で、酸素透過率〔cc/(m・24hr・atm)〕を測定することにより判断することができる。
本発明の積層フィルムは、優れたガスバリア性と高い全光線透過率を有するため、ガスバリア積層体として有用であり、ディスプレイ部材に用いられるディスプレイ部材用積層フィルムであることが好ましい。
ディスプレイ部材用積層フィルムの使用方法は特に制限されず、例えば、容器を覆うフィルムとすることで、容器に収納された食品等の製品の包装に用いることができ、製品の視認性を損ねずに、包装された製品の鮮度を保つことができる。
<積層フィルムの製造方法>
本発明の積層フィルムの製造方法は、特に制限されるものではなく、基材フィルムと無機薄膜とが積層されるように、また、第1の本発明の積層フィルムにおいては、更に、基材フィルムと無機薄膜との間にアンカーコート層が介在するように、各層を積層する。
具体的には、下記工程を有する製造方法であることが好ましい。
第1の本発明の積層フィルムの製造方法は、ポリエステルフィルムを、一段目に2.5~7.0倍の延伸倍率で延伸し、次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に3.0~7.0倍の延伸倍率で延伸して二軸延伸ポリエステルフィルムを製造し、該二軸延伸ポリエステルフィルムにアンカーコート層を積層し、次いで、該アンカーコート層に無機薄膜を積層する工程を有する。
既述のように、アンカーコート層の積層は、例えば、アンカーコート剤を基材フィルム表面に塗工すればよい。また、無機薄膜の積層は、例えば、アンカーコート層上に、既述の無機物質を蒸着したり(蒸着法)、該無機物質を塗工すること(コーティング法)等により、実施することができる。
第2の本発明の積層フィルムの製造方法は、ポリエステルフィルムを、一段目に2.5~3.8倍の延伸倍率で延伸し、次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に4.0~6.0倍の延伸倍率で延伸して二軸延伸ポリエステルフィルムを製造し、該二軸延伸ポリエステルフィルムを用に無機薄膜を積層する工程を有する。
無機薄膜の積層は、例えば、基材フィルム上(アンカーコート層を備える場合は、アンカーコート層上)に、既述の無機物質を蒸着したり(蒸着法)、該無機物質を塗工すること(コーティング法)等により、実施することができる。
<ラミネート品>
本発明のラミネート品は、被着体の少なくとも一方の表面に、本発明の積層フィルムが貼り合わされてなる。
本発明の積層フィルムは、優れたガスバリア性と高い全光線透過率を有するため、被着体に本発明の積層フィルムが直接貼り合わされることで、被着体の視認性を損ねずに、被着体の水蒸気による劣化、酸化劣化等を防ぐことができる。
被着体は特に制限されず、金属製品、樹脂製品、ガラス製品、食品、家具等、種々の製品が挙げられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、以下の実施例におけるフィルムの評価方法は、次の通りである。
<ポリエステル原料の製造>
ポリエステルフィルムを製造するためのポリエステル原料として、次のポリエステル(A)~(D)を製造した。
〔ポリエステル(A)の製造方法〕
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、固有粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(A)の固有粘度は0.63dl/g、エステル環状三量体の含有量は0.97重量%であった。
〔ポリエステル(B)の製造方法〕
ポリエステル(A)を、あらかじめ160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、固有粘度0.85dl/g、エステル環状三量体の含有量が0.46重量%のポリエステル(B)を得た。
〔ポリエステル(C)の製造方法〕
ポリエステルAの製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04部を添加後、エチレングリコールに分散させた平均粒径(d50)が3.2μmのシリカ粒子を0.6部、三酸化アンチモン0.04部を加えて、固有粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステルAの製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(C)を得た。得られたポリエステル(C)は、固有粘度0.65dl/g、エステル環状三量体の含有量は0.89重量%であった。
〔ポリエステル(D)の製造方法〕
ポリエステルAの製造方法において、固有粘度0.60に相当する時点で反応を停止する以外は同様に製造してポリエステル(D)を得た。得られたポリエステル(D)は、固有粘度0.60dl/g、エステル環状三量体の含有量は0.94重量%であった。
<ポリエステルの物性測定>
ポリエステル(C)の製造に用いたシリカ粒子の平均粒径(d50)と、ポリエステル(A)~(D)の固有粘度及びエステル環状三量体の含有量は、次のようにして求めた。
〔平均粒径(d50)〕
島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型)を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径d50とした。
〔固有粘度〕
ポリエステル(A)~(D)の固有粘度(dl/g)は、ポリエステル(A)~(D)に非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlで当該ポリエステル1gを溶解させ、30℃で測定した。
〔エステル環状三量体の含有量〕
ポリエステル(A)~(D)をそれぞれ約200mg秤量し、クロロホルム/HFIP(ヘキサフルオロ-2-イソプロパノル)の比率3:2の混合溶媒2mlに溶解させた。溶解後、クロロホルム20mlを追加した後、メタノール10mlを少しずつ加えた。沈殿物を濾過により除去し、さらに、沈殿物をクロロホルム/メタノールの比率2:1の混合溶媒で洗浄し、濾液・洗浄液を回収し、エバポレーターにより濃縮、その後、乾固させた。乾固物をDMF(ジメチルホルムアミド)25mlに溶解後、この溶液を液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製「LC-7A」)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求めた。
得られたエステル環状三量体量をクロロホルム/HFIP混合溶媒に溶解させたポリエステル原料量で割って、含有エステル環状三量体量(重量%)とした。DMF中のエステル環状三量体量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。
標準試料の作成は、あらかじめ分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し作成した。
なお、液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学株式会社製「MCI GEL ODS 1HU」
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
<ポリエステルフィルムの製造>
〔ポリエステルフィルムF1の製造〕
ポリエステル(B)、(C)をそれぞれ90重量%、10重量%の割合でブレンドした原料を表層原料とし、ポリエステル(A)100重量%の原料を中間層の原料として、2台のベント付き押出機に供給し、290℃で溶融押出した後、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して無定形フィルムを得た。
このフィルムを85℃で縦方向に3.7倍延伸した。その後、フィルムをテンターに導き、100℃で横方向に5.2倍延伸し、230℃で熱処理した後に、横方向に2%の弛緩処理を行い、厚さ23μm(厚み構成比=3μm/17μm/3μm)のポリエステルフィルムF1を得た。
〔ポリエステルフィルムF2の製造〕
ポリエステルフィルムF1の製造において、表層原料及び中間層原料の押出量を変更し、2軸延伸後のポリエステルフィルムの厚さ50μm(厚み構成比=6μm/38μm/6μm)に調整した以外は同様にして、ポリエステルフィルムF2を得た。
〔ポリエステルフィルムF3の製造)
ポリエステルフィルムF1の製造において、表層原料及び中間層原料の押出量を変更し、縦方向に4.3倍延伸、横方向に4.5倍延伸して、2軸延伸後のポリエステルフィルムの厚さ10μm(厚み構成比=2μm/6μm/2μm)に調整した以外は同様にして、ポリエステルフィルムF3を得た。
〔ポリエステルフィルムF4の製造)
ポリエステル(D)、(C)をそれぞれ90重量%、10重量%の割合でブレンドした原料を表層原料とし、ポリエステル(A)100重量%の原料を中間層の原料として製造し、厚さ23μm(厚み構成比=3μm/17μm/3μm)のポリエステルフィルムF4を得た。
〔ポリエステルフィルムF5の製造)
ポリエステル(B)、(C)をそれぞれ85重量%、15重量%の割合でブレンドした原料を表層原料とし、ポリエステル(A)100重量%の原料を中間層の原料として製造し、厚さ23μm(厚み構成比=3μm/17μm/3μm)のポリエステルフィルムF5を得た。
〔ポリエステルフィルムF101の製造)
ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ80重量%、20重量%の割合でブレンドした原料を表層原料とし、ポリエステル(A)100重量%の原料を中間層の原料として、2台のベント付き押出機に供給し、290℃で溶融押出した後、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して無定形フィルムを得た。
このフィルムを85℃で縦方向に3.0倍延伸した。その後、フィルムをテンターに導き、100℃で横方向に5.2倍延伸し、230℃で熱処理した後に、横方向に2%の弛緩処理を行い、厚さ12μm(厚み構成比=1μm/10μm/1μm)のポリエステルフィルムF101を得た。
〔ポリエステルフィルムF102の製造)
ポリエステルフィルムF1の製造において、縦方向に3.2倍延伸、横方向に3.2倍延伸する以外は同様にして、2軸延伸ポリエステルフィルムを製造し、厚さ23μm(厚み構成比=3μm/17μm/3μm)のポリエステルフィルムF102を得た。
なお、ポリエステルフィルムF1~5、F101及びF102の積層ポリエステルフィルム厚みは、次のようにして測定した。
フィルム小片をエポキシ樹脂にて固定成形した後、ミクロトームで切断し、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡写真にて観察した。その断面のうちフィルム表面とほぼ平行に2本、明暗によって界面が観察される。その2本の界面とフィルム表面までの距離を10枚の写真から測定し、平均値を積層厚さとした。
(アンカーコート剤の調製)
飽和ポリエステル(東洋紡績株式会社製 バイロン300)とイソシアネート化合物(東ソー株式会社製コロネートL)を1:1重量比になるように配合し、アンカーコート剤を調製した。
<積層フィルムの製造>
〔実施例1〕
基材フィルムとして、ポリエステルフィルムF1上に前記アンカーコート剤を塗布乾燥して、厚さ100nmのアンカーコート層を形成した。次いで、真空蒸着装置を使用して1.33×10-3Pa(1×10-5Torr)の真空下でSiOを加熱蒸発させ、アンカーコート層表面に厚み50nmのSiOx(x=1.5)の金属酸化物薄膜(無機薄膜)が隣接する積層フィルムを得た。
〔実施例2〕
基材フィルムとして、ポリエステルフィルムF2を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
〔実施例3〕
基材フィルムとして、ポリエステルフィルムF3を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
〔実施例4〕
基材フィルムとして、ポリエステルフィルムF4を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
〔実施例5〕
基材フィルムとして、ポリエステルフィルムF5を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
〔比較例1〕
基材フィルムとして、ポリエステルフィルムF101を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
〔比較例2〕
基材フィルムとして、ポリエステルフィルムF102を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
<積層フィルムの評価>
〔フィルム表面の平均粗さ(Sa)、最大粗さ(St)、実効面積(S/A)〕
実施例及び比較例の積層フィルムの製造に用いたポリエステルフィルムについて、非接触表面計測システムを用いて、フィルム表面の平均粗さ(Sa)、最大粗さ(St)、実効面積(S/A)を計測した。
非接触表面計測システムは、直接位相検出干渉法、いわゆるマイケルソンの干渉を利用した2光束干渉法を用いた、非接触表面計測システム「日立化成社株式会製Vertscan)」を使用した。
〔フィルムIV〕
実施例及び比較例の積層フィルムの製造に用いたポリエステルフィルムの固有粘度(IV)について、次のようにして測定した。フィルムIVは、各フィルムを粉砕して1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlで当該フィルム1gを溶解させ、30℃で測定した。
〔表面オリゴマー量〕
実施例及び比較例の積層フィルムの製造に用いたポリエステルフィルムの表面オリゴマー量は、次のようにして測定した。
まず、ポリエステルフィルムを空気中、180℃で10分間加熱した。その後、加熱した当該フィルムを、上部が開いた縦横10cm、高さ3cmの箱になるように、測定面(無機薄膜を積層する側の表面)を内面として箱形の形状を作成した。次いで、作成した箱の中にDMF(ジメチルホルムアミド)4mlを入れて3分間放置した後、DMFを回収し、液体クロマトグラフィー供給して、DMF中のオリゴマー量を求めた。
液体クロマトグラフィーの使用装置及び測定条件は次のとおりである。
液体クロマトグラフィー:株式会社島津製作所製、LC-7A
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学株式会社製『MCI GEL ODS 1HU』
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
得られたオリゴマー量を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、フィルム表面オリゴマー量(mg/m)とした。
DMF中のエステル環状三量体は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。なお、標準試料の作成は、予め分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し、作成した。
〔MOR〕
実施例及び比較例の積層フィルムの製造に用いたポリエステルフィルムについて、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式の分子配向計(型式:MOA-6015)を用いて、MOR(Molecular Oriented Ratio)値を測定した。
〔面配向度(ΔP)、縦配向度(ΔnP)及び横配向度(ΔnPv)〕
実施例及び比較例の積層フィルムの製造に用いたポリエステルフィルムの面配向度(ΔP)及び縦配向度(ΔnP)は、次のようにして測定した。
JIS K 7142-1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源とし、アッベ屈折計により、ポリエステルフィルム長手方向の屈折率(nx)、幅方向の屈折率(ny)、及び厚み方向の屈折率(nz)を測定した。測定結果を下記式に当てはめることで、面配向度(面配向係数ともいう;ΔP)、縦配向度(縦面配向係数ともいう;ΔnP)及び横配向度(横配向係数ともいう;ΔnPv)を算出した。
ΔP=((nx+ny)/2-nz)×1000
ΔnP=(nx-(ny+nz)/2)×1000
ΔnPv=ΔP-ΔnP
〔水蒸気透過率〕
実施例及び比較例の積層フィルムの水蒸気バリア性は、JIS Z0222「防湿包装容器の透湿度試験方法」、JIS Z0208「防湿包装材量の透湿度試験方法(カップ法)」の諸条件に準じ、次の手法で評価した。
厚さ60μmの無軸延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(東洋紡績(株)製「P1146」)の表面に、ウレタン系接着剤〔東洋モートン(株)製AD900とCAT-RT85を、D900:CAT-RT85=10:1.5(重量比)の割合で配合したもの〕を塗布し、次いで乾燥し、厚さ約3μmの接着剤層を形成した。
この接着剤層上に実施例及び比較例の積層フィルムの無機薄膜層側が接着剤層と隣接するようにラミネートし、水蒸気バリア性評価用の試料フィルムを得た。
透湿面積10.0cm×10.0cm角の各試料フィルムを2枚用い、吸湿剤として無水塩化カルシウム約20gを入れ四辺を封じた袋を作製し、その袋を温度40℃相対湿度90%の恒温恒湿装置に入れ、48時間以上間隔で重量増加がほぼ一定になる目安として14日間まで、重量測定(0.1mg単位)し、水蒸気透過率を下記式から算出した。
水蒸気透過率[g/m/day]=(m/s)/t
m;試験期間最後2回の秤量間隔の増加重量(g)
s;透湿面積(m
t;試験期間最後2回の秤量間隔の時間(h)/24(h)
〔全光線透過率〕
実施例及び比較例の積層フィルムの全光線透過率は、JIS K7105に準じて測定した。
Figure 0007275476000001
表1より、面配向度が160~180であり、かつ縦配向度が60~80であるポリエステルフィルムにアンカーコート層と無機薄膜をこの順に積層した実施例1~5の積層フィルムは、水蒸気透過率が0.060g/m/dayよりも低く、水蒸気バリア性に優れると共に、全光線透過率はいずれも80%以上であり、高い全光線透過率を有することがわかった。
また、実施例1~実施例5の積層フィルムは、面配向度が165以上であり、一方向の配向度が85以上である二軸延伸されたポリエステルフィルムに、無機薄膜を備えており、水蒸気透過率が0.060g/m/dayよりも低く、水蒸気バリア性に優れると共に、全光線透過率はいずれも80%以上であり、高い全光線透過率を有することがわかった。
本発明の積層フィルムは、高い水蒸気バリア性及び高い全光線透過率を有することから、特に高度な透明性が必要とされる光学用途に好適である。

Claims (14)

  1. 面配向度が160~180であり、かつ縦配向度が60~80であり、かつ、表面オリゴマー(環状三量体)量が3.0mg/m以下であるポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、アンカーコート層と無機薄膜とをこの順に備える積層フィルム。
  2. 面配向度が160~180であり、縦配向度が60~80であるポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、アンカーコート層と無機薄膜とをこの順に備え、該アンカーコート層の厚みが0.1~500nmであり、水蒸気透過率が0.060g/m/dayよりも低い積層フィルム。
  3. 前記ポリエステルフィルムの表面オリゴマー(環状三量体)量が3.0mg/m以下である請求項2に記載の積層フィルム。
  4. 面配向度が165~180であり、横配向度が85以上であり、かつ、表面オリゴマー(環状三量体)量が3.0mg/m以下である二軸延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、無機薄膜を備える積層フィルム。
  5. 面配向度が165~180であり、横配向度が85以上であるポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に、アンカーコート層と無機薄膜とをこの順に備え、該アンカーコート層の厚みが0.1~500nmであり、水蒸気透過率が0.060g/m/dayよりも低い積層フィルム。
  6. 前記ポリエステルフィルムの表面オリゴマー(環状三量体)量が3.0mg/m以下である請求項5に記載の積層フィルム。
  7. 前記ポリエステルフィルムと、前記無機薄膜との間にアンカーコート層を備える請求項に記載の積層フィルム。
  8. 前記ポリエステルフィルムは、固有粘度(IV)が0.61~0.75dl/gである請求項1~7のいずれか1項に記載の積層フィルム。
  9. 前記ポリエステルフィルムは、実面積Sと、表面の投影面積Aとの比である実効面積(S/A)が1.001以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の積層フィルム。
  10. 前記無機薄膜上に、保護樹脂層を備える請求項1~9のいずれか1項に記載の積層フィルム。
  11. ディスプレイ部材用である請求項1~10のいずれか1項に記載の積層フィルム。
  12. ポリエステルフィルムを、一段目に2.5~3.8倍の延伸倍率で延伸し、次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に4.0~6.0倍の延伸倍率で延伸して二軸延伸ポリエステルフィルムを製造し、
    該二軸延伸ポリエステルフィルムにアンカーコート層と無機薄膜とをこの順に積層する請求項1、2又は5に記載の積層フィルムの製造方法。
  13. ポリエステルフィルムを、一段目に2.5~3.8倍の延伸倍率で延伸し、次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に4.0~6.0倍の延伸倍率で延伸して二軸延伸ポリエステルフィルムを製造し、
    該二軸延伸ポリエステルフィルムに無機薄膜を積層する請求項4に記載の積層フィルムの製造方法。
  14. 被着体の少なくとも一方の表面に、請求項1~11のいずれか1項に記載の積層フィルムが貼り合わされたラミネート品。
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