JP7263694B2 - 積層セラミックコンデンサ用ニッケルペースト - Google Patents
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また、特許文献2には、微細なニッケル粉末におけるニッケル質部の内部にまで硫黄が含有したニッケル粉末を用いることにより、熱収縮開始温度を上昇させ、誘電体層と内部電極層との間に生じる応力を低減させ、形成される内部電極膜に途切れを生じさせない技術が開示されている。
また、特許文献3には、ニッケル元素を主成分とする微粒子の表面に、貴金属元素を主成分とする微粒子を点在させるニッケル微粒子を用いることにより、ニッケル微粒子の耐焼結性を向上させ、内部電極層の収縮や内部電極膜の途切れを抑える技術が開示されている。
本発明者は、積層セラミックコンデンサの焼結工程において、ニッケルペーストに含有させる各種添加材料が、ニッケル内部電極層の収縮挙動に与える影響を鋭意検討した結果、ニッケルペーストにリン酸ポリエステルを含有させると、ニッケルペーストの焼結開始温度を上昇させる効果があり、リン酸ポリエステルを含有しない従来のニッケルペーストに比べて、誘電体層と内部電極層との間に発生する応力を低減させる効果があることを見出した。
以下、本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストにおける各構成要素について詳しく説明する。
本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストに用いるニッケル粉末としては、通常の導電性ペーストに用いる一般的なニッケル粉末を用いることができるが、レーザー回折散乱法を用いて測定された体積積算の中位径D50が0.1μm以上1μm以下であるのが好ましい。
本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストに用いるニッケル粉末の中位径D50が0.1μm未満であると、0.1μm未満の微細なニッケル粉末を多く含有することにより、ニッケルペーストの粘度が高くなりすぎてしまう場合があるので好ましくない。
一方、ニッケル粉末の中位径D50が1μmを上回ると、薄膜化が進んだ積層電子部品において、導電層間の短絡を引き起こし易くなる場合があるので好ましくない。
ニッケルペースト100質量%に対するニッケル粉末の含有量が30質量%未満であると、ニッケル粉末の含有量が少なすぎて十分な導電経路を形成できない場合がある。
一方、ニッケルペースト100質量%に対するニッケル粉末の含有量が50質量%を上回ると、電極膜の薄層化が困難となる場合がある。
本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストに用いる分散剤は、リン酸ポリエステルを含有する。上述したように、ニッケルペーストにリン酸ポリエステルを含有させると、ニッケルペースト内のニッケル粉末表面にリン酸基が強く吸着して、リン酸基に繋がるポリエステルの長い鎖状構造がニッケル粉末同士の凝集を防止し、ニッケルペースト内にニッケル粉末を均一に分散させていると考えられる。また、リン酸ポリエステルは耐熱性を有し、より高温までニッケル粉末同士の凝集を防止した状態を維持することができるため、ニッケル粉末同士の結合を通常の焼結温度よりも高温まで阻害し、ニッケル粉末の焼結温度を上昇させていると考えられる。
また、本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストに用いる分散剤は、リン酸ポリエステルに加えて、さらに、リン酸ポリエステル以外の分散剤を含有しても良い。リン酸ポリエステルに加えて含有しうるリン酸ポリエステル以外の分散剤としては、例えば、高級脂肪酸や高分子界面活性剤等の酸系分散剤や、アミン塩基系分散剤などの塩基系分散剤など、一般に導電性ペーストに用いられている分散剤を含有させることができる。
リン酸ポリエステルの含有量が0.3質量部未満であると、ニッケル粉末を十分拡散できない場合があり、焼成時の焼結開始温度を上昇させる効果を発揮できない場合があるので好ましくない。
リン酸ポリエステルの含有量が2質量部を上回ると、焼結開始温度を上昇させる効果が飽和し、ニッケルペーストの粘度が高くなりすぎる場合があるので好ましくない。
リン酸ポリエステル以外の他の分散剤を含めた分散剤の含有量の総量が0.09質量%未満であると、ニッケル粉末を含めたペースト構成材料を十分均一に分散できない場合があるので好ましくない。
一方、リン酸ポリエステル以外の他の分散剤を含めた分散剤の含有量の総量が5質量%を上回ると、ニッケルペーストの粘度が高くなりすぎる場合があるので好ましくない。
本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストに用いる有機ビヒクルとしては、導電性ペーストに用いられている一般的な有機ビヒクルを用いることができる。例えば、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、その他パラフィン系炭化水素溶剤などの溶剤に、エチルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルブチラール、などの有機バインダーを含有させたものを用いることができる。
本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストの収縮挙動をセラミックグリーンシートに近づけるため、添加剤を含有させても良い。本発明のニッケルペーストに用いる添加剤としては、導電ペーストに一般的に用いられているセラミック粉末を用いることができるが、グリーンシートに用いられている誘電体材料を用いることがより好ましい。グリーンシートに多く用いられている誘電体材料としては、例えば、チタン酸バリウムなどがあげられる。
ニッケルペーストを用いた積層体は、900℃~1000℃程度の温度で焼結を開始し、さらに温度を1300℃程度まで上げることにより、ニッケル及びセラミックグリーンシートの焼結が進み収縮していく。この焼結による収縮は、900℃~1000℃程度の比較的低温で焼結を開始し、焼結開始後は焼結が急速に進行するニッケル粉末の収縮挙動と1200℃程度の比較的高温で焼結を開始し、焼結開始後は焼結がゆっくり進行するセラミックグリーンシートの収縮挙動が合わさって生じているものである。
ここで、セラミックグリーンシートの焼結開始温度は、導電体を形成するニッケルペーストの影響を受けず、ほとんど変化しないと考えられるため、ニッケル粉末の焼結開始温度が低く、より低温で焼結が開始されると、セラミックグリーンシートの焼結開始温度との差がより大きくなってしまうことになる。ニッケル粉末の焼結開始温度とセラミックグリーンシートの焼結開始温度の差が大きいと、より広い温度範囲で焼結による収縮反応が生じる。セラミックグリーンシートとニッケル粉末の収縮量の総量は、ニッケルペーストにおけるニッケル粉末以外の構成要素(分散剤や有機ビヒクル等)の組成による影響を大きくは受けない。このため、ニッケル粉末の焼結開始温度が高いほど、セラミックグリーンシートとニッケル粉末の収縮挙動が近くなり、構造欠陥を発生し難いといえる。
そこで、後述する実施例において、本発明の構成を備えた積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストと、本発明の構成を備えない従来用いられている積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストの夫々の評価試料の焼結開始温度を評価することにより、ニッケル粉末の収縮挙動とセラミックグリーンシートの収縮挙動の近づき度合いを評価することとした。
ニッケルペーストにより印刷され形成される電極膜は、上述のように熱処理により焼結される。本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストにより、焼成処理時の誘電体層と電極膜の収縮挙動をより近づけることができるが、電極膜を形成するニッケルペーストは、ニッケル粉末の他に、有機ビヒクルや分散剤などの各種材料を含有しており、ニッケル粉末の焼結開始温度が上昇した際に、各種材料が、ニッケル粉末が焼結する際に電極膜を途切れさせるような影響を及ぼすかどうかは明確になっていない。
そこで、ニッケル粉末の焼結開始温度が上昇した本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストにおいて、焼成による電極膜形成時に各種材料などの悪影響がなく、かつ、ニッケル粉末の焼結開始温度上昇により、電極膜の途切れ箇所が効果的に抑制されていることを確認するため、後述する実施例における、本発明の構成を備えた積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストと、本発明の構成を備えない従来用いられている積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストの夫々の評価試料を焼成して形成した電極膜の連続性を評価することとした。
なお、その際、誘電体層の材料がニッケルペースト内のニッケル粉末の焼結に及ぼす影響により、ニッケルペーストの比較評価が不明瞭になることを排除するため、アルミナ基板上での焼成挙動にて電極膜の連続性を比較評価することとした。
なお、以下の評価資料1、2は本発明の実施例、評価資料3は参考例、評価資料4~6は比較例である。
(評価試料の作製)
ニッケル粉末(D50平均粒径0.4μm)100質量部に対し、エチルセルロース6質量部とターピネオール80質量部からなる有機ビヒクルを86質量部、分散剤としてリン酸ポリエステルを0.3質量部、添加剤としてチタン酸バリウムを20質量部となる比率で準備した原材料を、3本ロールミルを用いて同時に混練し、評価試料1のニッケルペーストを製造した。
また、得られた評価試料1のニッケルペーストを、120℃で40分乾燥処理し、得られた乾燥ニッケルシートを粉砕し、乾燥粉末試料を得た。作製した乾燥粉末試料0.15gを円柱形の金型(底面の直径0.5cm)に入れ、1000kgf/cm2の圧力をかけ、収縮挙動評価用ペレットを作製した。
作製した上記収縮挙動評価用ペレットの熱収縮開始温度をTMA(thermomechanical analyzer:熱機械分析装置)により測定した。ここで、試料装着荷重は10.0g、雰囲気は2.0%の水素ガスと窒素ガスの混合ガス雰囲気、ガス流量は200ml/分、昇温速度は5℃/分、測定温度範囲は25℃~1300℃とした。測定データより、評価試料1の焼成時の焼結開始温度を求めた。その評価結果を表1に示す。
評価試料1のニッケルペーストをスクリーン印刷によりアルミナ基板上に焼成膜厚が0.8μmになるように印刷し、乾燥後、不活性雰囲気下で焼成した後の電極膜を画像解析して、電極膜印刷面積に対する、焼成後のニッケルの被覆面積の割合を求め、ニッケル有効電極面積とし評価した。
アルミナ基板上での連続性評価の場合、誘電体層と異なりアルミナ基板は収縮しないため、ニッケルの被覆面積は実際の誘電体層上よりも小さくなる。そこで、誘電体層の一般的な収縮率(20%程度)を勘案した上で、アルミナ基板上での電極膜の途切れを生じない有効電極面積の基準値を50%とし、本評価ではニッケル有効電極面積が55%以上の場合を○、50%以上55%未満の場合を△、50%未満の場合を×とした。その評価結果を表1に示す。
リン酸ポリエステルの含有量を0.5質量部にした以外は評価試料1のニッケルペーストと同様に製造して評価試料2のニッケルペーストを得、評価試料1のニッケルペーストと同様の方法で収縮挙動の評価及び連続性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
リン酸ポリエステルの含有量を3質量部にした以外は評価試料1のニッケルペーストと同様に製造して評価試料3のニッケルペーストを得、評価試料1のニッケルペーストと同様の方法で収縮挙動の評価及び連続性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
リン酸ポリエステルの含有量を4質量部にした以外は評価試料1のニッケルペーストと同様に製造して評価試料4のニッケルペーストを得、評価試料1のニッケルペーストと同様の方法で収縮挙動の評価及び連続性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
リン酸ポリエステルの含有量を0.2質量部にした以外は評価試料1のニッケルペーストと同様に製造して評価試料5のニッケルペーストを得、評価試料1のニッケルペーストと同様の方法で収縮挙動の評価及び連続性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
分散剤をオレイン酸にした以外は評価試料1のニッケルペーストと同様に製造して評価試料6のニッケルペーストを得、評価試料1のニッケルペーストと同様の方法で収縮挙動の評価及び連続性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。分散剤にオレイン酸を用いた本試料は従来用いられている積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストに相当する。
Claims (1)
- ニッケル粉末と、分散剤と、有機ビヒクルを主成分とする積層セラミックコンデンサの内部電極形成に用いるスクリーン印刷用のニッケルペーストであって、前記分散剤がリン酸ポリエステルを含有し、前記リン酸ポリエステルの含有量が、ニッケル粉末100質量部に対し、0.3質量部以上2質量部未満、ニッケル粉末の含有量が、ニッケルペースト100質量%に対し、30質量%超50質量%未満であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ用ニッケルペースト。
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