JP7244230B2 - 水系リチウムイオン電池 - Google Patents

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Description

本願は水系電解液を備える水系リチウムイオン電池を開示する。
可燃性の非水系電解液を備える非水系リチウムイオン電池は、安全対策のため部材点数が多くなる結果、電池全体としての体積当たりのエネルギー密度が小さくなるといった課題がある。一方、不燃性の水系電解液を備える水系リチウムイオン電池は、上記の安全対策を削減できることから、体積当たりのエネルギー密度を大きくすることができる等、様々な利点を有する。しかしながら、従来の水系電解液は電位窓が狭いという課題があり、使用可能な活物質等に制限がある。
水系電解液が有する上記の課題を解決する手段の一つとして、特許文献1や非特許文献1には、水系電解液において特定のリチウム塩を高濃度で溶解させることで、水系電解液の電位窓の範囲を増大させることが開示されている。
特開2017-126500号公報
Liumin Suo, et al., "Water-in-salt" electrolyte enables high-voltage aqueous lithium-ion chemistries, Science 350, 938 (2015)
非水系リチウムイオン電池においては、正極活物質層の充填率を低くするとエネルギー密度が低下してしまう。一方、充填率を高くすると正極活物質層のリチウムイオン伝導性が低下して抵抗が大きくなる場合がある。このように、非水系リチウムイオン電池においては、正極におけるエネルギー密度の向上と抵抗の低下との両立が難しいという課題がある。水系リチウムイオン電池においても同様の課題が存在するものと考えられている。
本願は、上記課題を解決するための手段の一つとして、正極と負極と水系電解液とを備える水系リチウムイオン電池であって、前記正極が正極集電体層と正極活物質層とを備え、前記正極活物質層が正極活物質としてマンガン酸リチウムを含み、前記正極活物質層の充填率が70%以上78%以下であり、前記水系電解液が水1kgあたりリチウムイオンを1mol以上15mol以下含む、水系リチウムイオン電池を開示する。
本発明者の新たな知見によれば、所定の電解質濃度を有する水系電解液を用いた水系リチウムイオン電池においては、非水系リチウムイオン電池とは異なり、正極活物質層の充填率を70%以上78%以下まで上昇させた場合に電池抵抗が顕著に低下する。
水系リチウムイオン電池100の構成を説明するための概略図である。 水系電解液におけるLiTFSI濃度(リチウムイオン濃度)と水系電解液のイオン伝導度との関係の一例を示す図である。 正極活物質層におけるリチウムイオンの伝導イメージを示す概略図である。 正極活物質層の充填率と電池抵抗との関係を示す図である。
1.水系リチウムイオン電池
図1に水系リチウムイオン電池100の構成を概略的に示す。図1に示すように、水系リチウムイオン電池100は、正極10と負極20と水系電解液30とを備える。水系リチウムイオン電池100においては、正極10が正極集電体層11と正極活物質層12とを備え、正極活物質層12が正極活物質12aとしてマンガン酸リチウムを含み、正極活物質層12の充填率が70%以上78%以下であり、水系電解液30が水1kgあたりリチウムイオンを1mol以上15mol以下含む。
1.1.正極
正極10を構成する材料は、水系リチウムイオン電池の正極材料として公知のものをいずれも採用可能である。正極10は、正極集電体層11と、正極集電体層11と接触する正極活物質層12とを備える。
1.1.1.正極集電体層
正極集電体層11は、水系リチウムイオン電池の正極集電体として使用可能な公知の金属により構成することができる。そのような金属としては、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Znからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む金属材料を例示することができる。正極集電体層11の形態は特に限定されるものではない。箔状、メッシュ状、多孔質状等、種々の形態とすることができる。基材の表面に上記金属を蒸着・めっきしたものであってもよい。
1.1.2.正極活物質層
正極活物質層12は正極活物質12aを含んでいる。また、正極活物質層12は正極活物質12a以外に導電助剤12bやバインダー12cを含んでいてもよい。
正極活物質12aは、水系リチウムイオン電池の正極活物質をいずれも採用可能である。言うまでもないが、正極活物質12aは後述の負極活物質22aよりも高い電位を有するものであり、水系電解液30の電位窓を考慮して適宜選択される。例えば、構成元素としてLiを含むものが好ましい。具体的には、Liを含む酸化物やポリアニオン等が好ましい。より具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO等);ニッケル酸リチウム(LiNiO等);マンガン酸リチウム(LiMn等);LiNi1/3Mn1/3Co1/3;Li1+xMn2-x-y(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni、Znから選ばれる一種以上)で表される異種元素置換Li-Mnスピネル;リン酸金属リチウム(LiMPO、MはFe、Mn、Co、Niから選ばれる1種以上);等が挙げられる。或いは、後述の負極活物質と比較して充放電電位が貴な電位を示すチタン酸リチウム(LiTiO)、TiO、LiTi(PO、硫黄(S)等を用いることも可能である。本発明者の知見によれば、正極活物質が少なくともマンガン酸リチウムを含む場合において、本開示の水系リチウムイオン電池による効果が特に顕著となる。中でも、LiMnやLi1+xMn2-x-yNiといったスピネル構造を有するマンガン酸リチウムが特に好ましい。後述の水系電解液30は、電位窓の酸化電位が5.0V(vs.Li/Li)程度以上となり得ることから、Li元素に加えてMn元素を含む高電位の正極活物質を用いることもできる。正極活物質12aは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。すなわち、マンガン酸リチウムに加えて、これ以外の正極活物質を含んでいてもよい。
正極活物質12aの形状は、後述の充填率を満たすことが可能な限り、特に限定されるものではない。例えば、粒子状とすることが好ましい。正極活物質12aを粒子状とする場合、その一次粒子径が1nm以上100μm以下であることが好ましい。下限がより好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、上限がより好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。尚、正極活物質12aは1次粒子同士が集合して2次粒子を形成していてもよい。この場合、2次粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、通常0.5μm以上100μm以下である。下限が好ましくは1μm以上であり、上限が好ましくは50μm以下である。正極活物質12aの粒子径がこのような範囲であれば、イオン伝導性及び電子伝導性に一層優れる正極活物質層12を得ることができる。また、本発明者の知見によれば、正極活物質12aの平均粒子径(D50)が4μm以上10μm以下である場合、正極活物質層12の充填率を70%以上78%以下に調整し易い。尚、本願において「平均粒子径(D50)」とは、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、小さな粒子側からの累積50体積%に相当する粒径(メジアン径)をいう。
正極活物質層12に含まれる正極活物質12aの量は特に限定されるものではない。例えば、正極活物質層12全体を基準(100質量%)として、正極活物質12aが好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上含まれている。上限は特に限定されるものではないが、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。正極活物質12aの含有量がこのような範囲であれば、イオン伝導性及び電子伝導性に一層優れる正極活物質層12を得ることができる。
正極活物質層12は、正極活物質12aに加えて、導電助剤12bやバインダー12cを含んでいることが好ましい。導電助剤12bやバインダー12cの種類は特に限定されるものではない。
導電助剤12bは、水系リチウムイオン電池において使用される導電助剤をいずれも採用可能である。例えば、炭素材料を挙げることができる。具体的にはケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)、アセチレンブラック(AB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンブラック、コークス、黒鉛から選ばれる炭素材料が好ましい。或いは、電池の使用時の環境に耐えることが可能な金属材料を用いてもよい。導電助剤12bは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。導電助剤12bの形状は、後述の充填率を満たすことが可能な限り、特に限定されるものではない。例えば、粉末状、繊維状等、種々の形状を採用できる。正極活物質層12に含まれる導電助剤12bの量は特に限定されるものではない。例えば、正極活物質層12全体を基準(100質量%)として、導電助剤12bが好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上含まれている。上限は特に限定されるものではないが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。導電助剤12bの含有量がこのような範囲であれば、イオン伝導性及び電子伝導性に一層優れる正極活物質層12を得ることができる。
バインダー12cは、水系リチウムイオン電池において使用されるバインダーをいずれも採用可能である。例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等である。バインダー12cは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層12に含まれるバインダー12cの量は特に限定されるものではない。例えば、正極活物質層12全体を基準(100質量%)として、バインダー12cが好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上含まれている。上限は特に限定されるものではないが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。バインダー12cの含有量がこのような範囲であれば、正極活物質12a等を適切に結着することができるとともに、イオン伝導性及び電子伝導性に一層優れる正極活物質層12を得ることができる。
正極活物質層12の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。
水系リチウムイオン電池100においては、正極活物質層12の充填率が70%以上78%以下である点に一つの特徴がある。本発明者の新たな知見によれば、特定の水系電解液30を用いた水系リチウムイオン電池100においては、非水系リチウムイオン電池とは異なり、正極活物質層12の充填率を70%以上78%以下まで上昇させた場合に電池抵抗が顕著に低下する。正極活物質層12の充填率は、上述したような正極活物質層12を構成する材料の粒子径や、正極活物質層12を形成する際のプレス圧等を調整することによって容易に制御できる。
1.2.負極
負極20は水系リチウムイオン電池の負極として公知のものをいずれも採用可能である。特に、負極20は、負極集電体21を備えることが好ましく、負極活物質22aを含むとともに負極集電体21と接触する負極活物質層22を備えることが好ましい。
1.2.1.負極集電体層
負極集電体層21は、水系リチウムイオン電池の負極集電体として使用可能な公知の金属により構成することができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、Inからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む金属材料を例示することができる。特に、負極集電体21の表面のうち水系電解液30と接触する表面がAl、Ti、Pb、Zn、Sn、Mg、Zr及びInからなる群より選ばれる少なくとも1つを主成分とする材料から構成されることが好ましく、Ti、Pb、Zn、Sn、Mg、Zr及びInからなる群より選ばれる少なくとも1つを主成分とする材料から構成されることがより好ましく、Tiを主成分とする材料から構成されることが特に好ましい。これら材料はいずれも仕事関数が低く、電池の充放電時に水系電解液と接触したとしても水系電解液の電気分解が生じ難い。これにより、二次電池とした場合のサイクル安定性が向上する。負極集電体層21の形態は特に限定されるものではない。箔状、メッシュ状、多孔質状等、種々の形態とすることができる。基材の表面に上記の金属をめっき・蒸着したものであってもよい。
1.2.2.負極活物質層
負極活物質層22は負極活物質22aを含んでいる。また、負極活物質層22は負極活物質22a以外に導電助剤22bやバインダー22cを含んでいてもよい。
負極活物質22aは、水系電解液の電位窓を考慮して選定すればよい。例えば、リチウム-遷移金属複合酸化物;酸化チタン;Mo等の金属硫化物;単体硫黄;LiTi(PO;NASICON型化合物等である。特にチタン酸リチウム及び酸化チタンから選ばれる少なくとも1種のチタン含有酸化物を含むことがより好ましい。
負極活物質22aの形状は特に限定されるものではない。例えば、粒子状とすることが好ましい。負極活物質22aを粒子状とする場合、その一次粒子径が1nm以上100μm以下であることが好ましい。下限がより好ましくは10nm以上、さらに好ましくは50nm以上、特に好ましくは100nm以上であり、上限がより好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。尚、負極活物質22aは1次粒子同士が集合して2次粒子を形成していてもよい。この場合、2次粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、通常0.5μm以上100μm以下である。下限が好ましくは1μm以上であり、上限が好ましくは20μm以下である。負極活物質22aの粒子径がこのような範囲であれば、イオン伝導性及び電子伝導性に一層優れる負極活物質層22を得ることができる。
負極活物質層22に含まれる負極活物質22aの量は特に限定されるものではない。例えば、負極活物質層22全体を基準(100質量%)として、負極活物質22aが好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上含まれている。上限は特に限定されるものではないが、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。負極活物質22aの含有量がこのような範囲であれば、イオン伝導性及び電子伝導性に一層優れる負極活物質層22を得ることができる。
負極活物質層22は、負極活物質22a及び導電助剤22bを含むことが好ましい。また、負極活物質層22はさらにバインダー22cを含むことが好ましい。導電助剤22bやバインダー22cの種類は特に限定されるものではなく、例えば、上記の導電助剤12bやバインダー12cとして例示したものから適宜選択して用いることができる。負極活物質層22に含まれる導電助剤22bの量は特に限定されるものではない。例えば、負極活物質層22全体を基準(100質量%)として、導電助剤22bが好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上含まれている。上限は特に限定されるものではないが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。導電助剤22bの含有量がこのような範囲であれば、イオン伝導性及び電子伝導性に一層優れる負極活物質層22を得ることができる。負極活物質層22に含まれるバインダー22cの量は特に限定されるものではない。例えば、負極活物質層22全体を基準(100質量%)として、バインダー22cが好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上含まれている。上限は特に限定されるものではないが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。バインダー22cの含有量がこのような範囲であれば、負極活物質22a等を適切に結着することができるとともに、イオン伝導性及び電子伝導性に一層優れる負極活物質層22を得ることができる。
負極活物質層22の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。
1.3.水系電解液
水系電解液30は溶媒と当該溶媒に溶解されたリチウム塩(電解質)とを含む。
1.3.1.溶媒
水系電解液30は溶媒として水を含む。溶媒は主成分として水を含んでいる。すなわち、電解液を構成する溶媒の全量を基準(100mol%)として、50mol%以上、好ましくは70mol%以上、より好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上を水が占めている。一方、溶媒に占める水の割合の上限は特に限定されない。溶媒は水のみからなっていてもよい。
溶媒は、例えば活物質の表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)を形成する観点から、上記課題を解決できる範囲で、水に加えて水以外の溶媒を含んでいてもよい。水以外の溶媒としては、例えば、エーテル類、カーボネート類、ニトリル類、アルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、硫黄化合物類及び炭化水素類から選ばれる1種以上の有機溶媒が挙げられる。水以外の溶媒は、電解液を構成する溶媒の全量を基準(100mol%)として、好ましくは50mol%以下、より好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは10mol%以下、特に好ましくは5mol%以下を占めている。
1.3.2.電解質
水系電解液30は電解質を含む。電解質は、通常、水系電解液中に溶解してカチオンとアニオンとに解離している。
水系電解液30は、キャリアイオンとしてリチウムイオンを含む。ここで、本発明者の知見では、水系電解液30のイオン伝導度が15~50mS/cm(非水系電解液のイオン伝導度と比較して顕著に高いイオン伝導度)となるようにリチウムイオンの濃度が調整されている場合に、上記した所望の効果を発揮し易い。図2に、電解質であるLiTFSIの濃度(リチウムイオン濃度に等しい)と水系電解液のイオン伝導度との関係を示す。図2に示すように、水1kgあたりリチウムイオンを1mol以上15mol以下含む水系電解液30において、上記のイオン伝導度を達成し易い。リチウムイオンの濃度は、より好ましくは水1kgあたり5mol以上、さらに好ましくは7.5mol以上、特に好ましくは10mol以上である。
水系電解液30は、上記課題を解決できる範囲で、リチウムイオン以外のカチオンを含んでいてもよい。例えば、アルミニウムイオン、チタンイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン、ガリウムイオン、イットリウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、ランタンイオン、セリウムイオン、ネオジムイオン及びハフニウムイオン等の各種金属カチオンを含んでいてもよい。当該金属カチオンは、水1kgあたり0.01mol以下の濃度とすることが好ましい。
水系電解液30において、上記したリチウムイオンの対イオンとなるアニオンの種類は特に限定されるものではない。例えば、アニオンとしてTFSIアニオン及び/又はFSIアニオンを含むことが好ましく、TFSIアニオンを含むことがより好ましい。アニオンの濃度は特に限定されるものではなく、上記のカチオンの濃度に応じて適宜決定される。特に、水系電解液30は水1kgあたりTFSIアニオン及び/又はFSIアニオンを1mol以上含むことが好ましい。より好ましくは5mol以上、さらに好ましくは7.5mol以上、特に好ましくは10mol以上である。上限は特に限定されるものではなく、例えば15mol以下とすることが好ましい。上述のリチウムイオンとともにTFSIアニオンやFSIアニオンの濃度が高まるほど、水系電解液の還元側電位窓が拡大する傾向にある。
水系電解液30は、上記課題を解決できる範囲で、上記したアニオン以外のアニオンが含まれていてもよい。例えば、LiPF、LiBF、LiSO、LiNO等のその他の電解質(リチウム塩)に由来するアニオンが含まれていてもよい。
水系電解液30は、上記課題を解決できる限り、上記の溶媒や電解質に加えて、その他の成分が含まれていてもよい。例えば、リチウムイオンや上記金属カチオン以外のカチオン(例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等)が含まれていてもよい。また、水系電解液のpHを調整するための酸や水酸化物等が含まれていてもよい。さらには、イオン液体に由来するアニオンが含まれていてもよい。
1.3.3.pH
水系電解液30のpHは3以上12以下であることが好ましい。pHの下限はより好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上であり、上限はより好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。pHを3以上12以下とすることで、水系電解液30の酸化側電位窓及び還元側電位窓をともに十分に拡大させることができる。
1.4.その他の構成
電解液系のリチウムイオン電池においては、負極活物質層の内部、正極活物質層の内部、及び、負極活物質層と正極活物質層との間に電解液が存在しており、これにより、負極活物質層と正極活物質層との間のリチウムイオン伝導性が確保される。水系リチウムイオン電池100においてもこの形態が採用されている。具体的には、電池100においては、正極活物質層12と負極活物質層22との間にセパレータ40が設けられており、当該セパレータ40と正極活物質層12と負極活物質層22とは、ともに水系電解液30に浸漬されている。水系電解液30は、正極活物質層12及び負極活物質層22の内部に浸透している。
セパレータ40は従来の水系電解液電池(NiMH、亜鉛空気電池等)において使用されるセパレータを採用することが好ましい。例えば、セルロースを材料とした不織布等の親水性を有するものを好ましく用いることができる。セパレータ40の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、5μm以上1mm以下のものを用いることができる。
水系リチウムイオン電池100においては、上記の構成の他、端子や電池ケース等が備えられる。その他の構成については本願を参照した当業者にとって自明であることから、ここでは説明を省略する。
2.水系リチウムイオン電池の製造方法
水系リチウムイオン電池100は、例えば、正極10を製造する工程と、負極20を製造する工程と、水系電解液30を製造する工程と、製造した正極10、負極20及び水系電解液30を電池ケースに収容する工程とを経て製造することができる。
2.1.正極の製造
正極を製造する工程は、公知の工程と同様とすればよい。例えば、正極活物質層12を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極合剤ペースト(スラリー)を得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて正極合剤ペースト(スラリー)を正極集電体層11の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体層11の表面に正極活物質層12を形成し、正極10とする。塗工方法としては、ドクターブレード法のほか、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法等を採用することもできる。ここで、正極活物質層12の充填率を調整するために、正極合材層12を加圧することが好ましい。加圧手段としてはロールプレス等の種々の加圧手段が採用できる。加圧時の圧力についても特に限定されるものではない。
2.2.負極の製造
負極を製造する工程は、公知の工程と同様とすればよい。例えば、負極活物質層22を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極合剤ペースト(スラリー)を得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて負極合剤ペースト(スラリー)を負極集電体層21の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極集電体層21の表面に負極活物質層22を形成し、負極20とする。塗工方法としては、ドクターブレード法のほか、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法等を採用することもできる。
2.3.水系電解液の製造
水系電解液30は、上記した溶媒に電解質等を添加して溶解させること等によって容易に製造可能である。
2.4.電池ケースへの収容
製造した正極10、負極20及び水系電解液30は、電池ケースに収容されて水系リチウムイオン電池100となる。例えば、正極10と負極20とでセパレータ40を挟み込み、正極集電体層11、正極活物質層12、セパレータ40、負極活物質層22及び負極集電体21をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。積層体を電池ケースに収容するとともに電池ケース内に水系電解液30を充填し、積層体を水系電解液30に浸漬するようにして、電池ケース内に積層体及び電解液を密封することで、水系リチウムイオン電池100とすることができる。
3.補足
非水系リチウムイオン電池においてエネルギー密度を向上させたい場合には、図3(A)に示すように、粒子径が2μm~4μm程度の小さな粒子を用いて、活物質層の充填率を上昇させる。一方、抵抗を小さくしたい場合には、図3(C)に示すように、粒子径が10~15μm程度の大きな粒子を用いて、粒子間を大きくして活物質層の充填率を小さくし、イオン伝導度を高める。
これに対し、本開示の水系リチウムイオン電池においては、エネルギー密度と低抵抗とを両立するために、水系電解液としてイオン伝導度の高いもの(図2に示すように、リチウムイオン濃度が1mol/kg以上15mol/kg以下の場合に15~50mS/cmの高いイオン伝導度を達成可能)を採用し、且つ、図3(B)に示すように正極活物質層の充填率を70%以上78%以下とすることで、高エネルギー密度と低抵抗(高リチウムイオン伝導度)との両立を図っている。
1.水系リチウムイオン電池の作製及び評価方法
1.1.正極の作製
正極活物質(スピネル型マンガン酸リチウム)、導電助剤(アセチレンブラック、HS100)、バインダー(PVdF、クレハ社製KF-9305)を質量比で85:10:5の割合で含む正極スラリーを、正極集電体(Ti箔)の上に塗工し、乾燥して、正極集電体の表面に正極活物質層を形成した。これを仮焼成後にプレスして、所定の充填率を有する正極を得た。プレスは直径200mmのロールプレス機を用いて1500~2000kgの圧力で2~3回行った。正極活物質の粒子径やロールプレスの圧力を変更することで、種々の充填率を有する正極を得た。
尚、正極活物質層全体の体積を100%として、ここから空隙部分(空隙率)を差し引いたものを正極活物質層の「充填率」とした。空隙率は、正極を構成する部材の重量を各部材の真密度で割って真の体積を求め、これを見た目の体積(面積×厚み)で割ることにより求めた。
1.2.負極の作製
負極活物質(TiO、平均粒子径(D50):10μm)、導電助剤(アセチレンブラック)、バインダー(PVdF)を質量比で85:10:5の割合で含む負極スラリーを、負極集電体(Ti箔)の上に塗工し、乾燥して、負極を得た。得られた負極の負極活物質層における充填率は60%であった。
1.3.水系電解液の作製
水1kgあたり電解質としてLiTFSIを5mol溶解させて、水系電解液を得た。
1.4.水系リチウムイオン電池の作製
上記のようにして作製した正極と、負極と、水系電解液を用いて水系リチウムイオン電池を作製した。
1.5.電池の評価
作製した電池について、SOCを60%まで充電した状態で、直流電流を10秒間流し、流した電流と過電圧の関係から抵抗を算出した。具体的には、過電圧を電流値で割った。また、電流は1C、3C、5Cの3つの大きさで流し、それぞれの測定から算出した抵抗の平均値を用い、正極の10s IV抵抗を測定した。
2.非水系リチウムイオン電池の作製及び評価方法
電解液として水系電解液に替えて非水系電解液(溶媒:EC/DMC/EMC=3/3/4vol%、電解質:LiPF、電解質濃度:0.9mol/kg)を用いたこと以外は上記と同様にして電池を作製し、上記と同様にしてIV抵抗を測定した。
3.評価結果
図4に正極活物質層の充填率と電池抵抗との関係を示す。図4に示す結果から明らかなように、非水系リチウムイオン電池については、充填率が60%以下の領域において充填率が増大するに伴って電池抵抗が低下する。しかしながら、充填率が60%を超えると電池抵抗はほとんど変わらなくなるか、むしろ上昇する。すなわち、非水系リチウムイオン電池においては、正極活物質層の充填率の上昇によるエネルギー密度の向上と、電池抵抗の低下とを両立することは難しいことが分かる。一方、水系リチウムイオン電池においては、非水系リチウムイオン電池とは異なり、充填率が70%以上に上昇させた場合において電池抵抗が顕著に低下することが分かる。尚、本発明者の知見では、充填率が78%を超える場合、過剰なプレス圧力が必要となって正極活物質粒子の崩壊につながり易い。
本開示の水系リチウムイオン電池は、車搭載用の大型電源から携帯端末用の小型電源まで広く利用可能である。
10 正極
11 正極集電体
12 正極活物質層
12a 正極活物質
12b 導電助剤
12c バインダー
20 負極
21 負極集電体
22 負極活物質層
22a 負極活物質
22b 導電助剤
22c バインダー
30 水系電解液
40 セパレータ
100 水系リチウムイオン電池

Claims (1)

  1. 正極と負極と水系電解液とを備える水系リチウムイオン電池であって、
    前記正極が正極集電体層と正極活物質層とを備え、
    前記正極活物質層が、粒子状であり、一次粒子径が1nm以上100μm以下である正極活物質としてマンガン酸リチウムを含み、
    前記正極活物質層の充填率が70%以上78%以下であり、
    前記正極集電体層が、Tiから構成されており、
    前記水系電解液が水1kgあたりリチウムイオンを5mol以上15mol以下含む、
    水系リチウムイオン電池。
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