JP7243905B2 - 積層体、包装材、及び梱包体 - Google Patents

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Description

本発明は、特に包装用途に適して用いられるポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層を有する積層体、包装材、及び梱包体に関する。
ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等に優れるため、包装用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気絶縁用途等の様々な用途に用いられている。この中でも包装用途においては、ポリプロピレンフィルムの上にアルミニウム(以降、「Al」と称することがある。)の薄膜を蒸着した積層フィルムが広く用いられている(例えば、特許文献1)。しかしながら、Al蒸着によって得られるフィルムは不透明なものとなるため、内容物の視認性が要求される用途には適さない。また、近年は包装用プラスチックをリサイクルする動きが活発化しているが、Al蒸着層を含むフィルムは、リサイクル性が十分ではないという問題もある。
前述のような事情から、従来のAlの蒸着層を酸化アルミニウム(以降、AlOxと称することがある。)や酸化ケイ素(以降、SiOxと略すことがある。)等の透明蒸着層で置き換える動きがある。これらの透明蒸着層を用いた場合、包装材の透明性及びリサイクル性を向上させることができる。
具体的には、例えば特許文献2には、ポリプロピレンフィルムの上に、ポリエステル系ポルウレタン樹脂をベースとしたアンダーコート層を設け、その上にAlOxもしくはSiOxの透明蒸着層を設けることにより、密着性を強化した積層ポリプロピレンフィルムが記載されている。また、特許文献3には、ポリプロピレンフィルム基材の上に、AlOxとSiOxの二元蒸着が施された積層ポリプロピレンフィルムが記載されている。
特開2007-105893号公報 特開2021-020391号公報 国際公開第2017/221781号
しかしながら、特許文献2の積層ポリプロピレンフィルムは高温における耐熱性が不足しており、高温環境下での後加工工程において水蒸気バリア性が損なわれやすいという問題がある。また、特許文献3の積層ポリプロピレンフィルムも、ポリプロピレンフィルム基材の耐熱性が不足しており高温下で収縮しやすいため、水蒸気バリア性が十分ではないという問題がある。また、特許文献3の積層ポリプロピレンフィルムにおいては、AlOxとSiOxの二元蒸着の場合は蒸着層が厚くなり、クラックや層間剥離が生じやすい点も問題となる。すなわち、特許文献2や3の積層ポリプロピレンフィルムには、高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途へ適用が困難であるという課題があった。
そこで本発明は、高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途に好適に用いることができる積層体を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ね、以下の本発明に至った。すなわち本発明は、ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層を有する積層体であって、水蒸気透過率が3.0g/m/day未満であり、前記無機酸化物層の剥離力が0.7N/15mm以上であり、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことを特徴とする、積層体である。
本発明により、優れた水蒸気バリア性と無機酸化物層の密着性を両立し、高温環境下での加工や使用が必要でありながら、湿気の影響を軽減することが求められる用途、例えば包装材料用に好適な積層体を提供することができる。
以下、本発明の積層体について詳細に説明する。本発明の積層体は、ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層を有し、水蒸気透過率が3.0g/m/day未満であり、前記無機酸化物層の剥離力が0.7N/15mm以上であり、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことを特徴とする。
まず、本発明の積層体は、ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層を有する。本発明において、ポリプロピレン系樹脂フィルムとは、全構成成分を100質量%としたときに、ポリプロピレン系樹脂を80質量%以上100質量%以下含み、かつ、表層1μm部分のポリプロピレン系樹脂の含有量が、いずれの面においても80質量%以上100質量%以下である、シート状の成形体をいう。具体例としては、ポリプロピレン系樹脂を80質量%以上100質量%以下含む単層若しくは複数層からなるフィルムや、このようなフィルムの少なくとも一方の表層にポリプロピレン系樹脂以外の成分を主成分とする厚み200nm以下の層(以下、アンカー層と呼ぶことがある)を有するフィルムが挙げられる。後者の例においては、当該層の厚みが100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。これは、積層構成が簡明になることや、積層体全体に占めるポリプロピレン系樹脂以外の成分の含有率が小さくなることで、積層体の製造コストやリサイクル性が向上するためである。また、ポリプロピレン系樹脂とは、樹脂を構成する全構成単位を100mol%としたときに、その90mol%以上100mol%以下がプロピレン単位である樹脂をいい、以下他の系統の樹脂についても同様に解釈することができる。なお、ポリプロピレン(PP)系樹脂としては、バイオマス由来のいわゆるバイオPPや、ケミカルリサイクル又はマテリアルリサイクルにより製造されるいわゆるリサイクルPPも好適に用いられる。
また、無機酸化物層とは、周期表の2族から14族(ただし炭素を除く)より選ばれる1種以上の元素と酸素を含み、X線光電子分光法(XPS)により検出される元素全体を100atomic%としたときに、炭素元素が15atomic%以下である層である。この無機酸化物層は、主に積層体の水蒸気バリア性を高める役割を担う。周期表の2族から14族(ただし炭素を除く)より選ばれる元素の中でも加工コストやガスバリア性の観点から、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、及びケイ素より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、アルミニウム、ケイ素より選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、アルミニウムであることがさらに好ましい。X線光電子分光法(XPS)により測定される無機酸化物層中の酸素元素の割合は、1atomic%以上80atomic%以下であることが好ましい。
無機酸化物層の厚みは、2nm以上30nm以下であることが好ましく、2nm以上20nm以下であることがより好ましく、3nm以上15nm以下であることがさらに好ましく、4nm以上10nm以下であることが特に好ましい。無機酸化物層の厚みを2nm以上とすることで、無機酸化物層中のピンホール等の欠陥を減らし、積層体の水蒸気バリア性を良好なものとすることができる。また、厚みを30nm以下とすることで、柔軟でクラックの起こりにくい無機酸化物層にするとともに、無機酸化物層を十分に酸化させて良質な膜とすることができ、積層体の水蒸気バリア性を良好なものとすることができる。なお、無機酸化物層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察で測定されるものであり、その詳細な測定方法は後述する。
本発明の積層体は、湿気の影響を軽減する特性が求められる用途への適用の観点から、水蒸気透過率が3.0g/m/day未満であることが重要である。水蒸気透過率を3.0g/m/day未満とすることで、例えば、積層体を包装材料用に用いる際に、内容物が吸湿して劣化するのを軽減することができる。上記観点から水蒸気透過率は、好ましくは2.0g/m/day以下、より好ましくは1.5g/m/day以下、さらに好ましくは1.0g/m/day以下である。また、水蒸気透過率は小さければ小さいほど好ましく下限は特に限定されないが、実質的には水蒸気透過率は0.01g/m/day以上となる。なお、水蒸気透過率は、JIS K 7129-2(2019)のB法に従い、温度40℃、湿度90%RHの条件で測定することができ、その詳細な測定方法は後述する。
水蒸気透過率を3.0g/m/day未満又は上記の好ましい範囲とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層体の主配向軸方向の145℃におけるtanδを0.25以下にする方法、無機酸化物層の厚みを2nm以上30nm以下とする方法、無機酸化物層の表面のSt値を700nm以下にする方法、無機酸化物層の表面のSku値を300以下にする方法、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時に、縦延伸工程で加熱弛緩処理を施す方法、ポリプロピレン系樹脂組成物の分子量分布Mz/Mwを1.5以上4.5以下とする方法等を用いることができる。また、ポリプロピレン系樹脂フィルムを後述のように積層構成として、C層を構成する全成分を100質量%としたときに、C層が石油樹脂を3質量%以上20質量%以下含む態様とする方法等も挙げられる。なお、これらの方法はいずれも必須要件というわけではなく、また適宜組み合わせることができる。
また、本発明の積層体は、無機酸化物層の剥離力が0.7N/15mm以上であることが重要である。無機酸化物層の剥離力は、ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層の剥離強度のことであり、無機酸化物層を積層した側の面に接着剤でポリプロピレンフィルムをラミネートし、これを剥離することにより測定することができる。詳細な測定方法は後述する。無機酸化物層の剥離力を0.7N/15mm以上とすることで、製袋加工時や搬送時にポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層が自然剥離し、水蒸気バリア性が低下するのを防ぐことができる。そのため、本発明の積層体を包装材料用途に用いる際の信頼性が向上する。上記観点から無機酸化物層の剥離力の下限は、好ましくは0.8N/15mm、より好ましくは1.0N/15mm、さらに好ましくは1.2N/15mm、特に好ましくは1.5N/15mmである。無機酸化物層の剥離力は大きいほど好ましいため、その上限は特に限定されるものではないが、実質的に10.0N/15mm程度である。
無機酸化物層の剥離力を0.7N/15mm以上又は上記の好ましい範囲とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂フィルムの無機酸化物層と接する側の表層(後述のA層)の樹脂組成物の融点を、下限が150℃、好ましくは152℃、より好ましくは154℃であり、かつ上限が167℃、好ましくは164℃、より好ましくは163℃である範囲に調整する方法が挙げられる。また、表層(後述のA層)の融解エンタルピーΔHmを、下限が70J/g、好ましくは75J/g、より好ましくは80J/gであり、上限が110J/g、好ましくは105J/g、より好ましくは100J/gである範囲に調整する方法も挙げられる。さらに別の方法としては、積層体を製造する際、ポリプロピレン系樹脂フィルムの無機酸化物層を積層する側の表面に、大気中、もしくは酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、シランガスあるいはこれらの混合物の雰囲気ガス中でコロナ放電処理を行う方法の他、プラズマ処理を行う方法、イオンビーム処理を行う方法も挙げられる。特に、コロナ放電処理に関しては、酸素濃度が10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下の雰囲気ガス中で行うことが効果的であり、酸素濃度が1%以下である雰囲気ガスの具体的な態様としては、特に窒素ガス、炭酸ガスあるいはこれらの混合物を採択することが効果的である。また、前述した雰囲気ガス中でのコロナ放電処理と、プラズマ処理、イオンビーム処理を組み合わせる方法も効果的である。かかる処理を行うことで、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面においてポリプロピレン分子鎖切断に伴う低分子量物の生成を抑制しつつ、効率的に親水性の官能基を導入することができ、無機酸化物層の剥離力を0.7N/15mm以上に制御することが容易になる。それ以外の方法としては、ポリプロピレン系樹脂フィルムの無機酸化物層と接する側の表面に、ポリプロピレン系樹脂あるいは無機酸化物以外の成分を主成分とする厚み200nm以下の層(アンカー層)を設ける方法も挙げられる。なお、これらの方法をすべて組み合わせることは必須ではないが、適宜組み合わせて用いてもよく、表層の樹脂組成物の融点と融解エンタルピーΔHmを上記範囲とした上で、前述した雰囲気ガス中でのコロナ処理(さらにイオンビーム処理)を行うことが特に効果的である。
また、本発明の積層体は、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことが重要である。積層体の主配向軸方向とは、長さ50mm(測定方向)×幅10mmの矩形状サンプルを、室温下で引張速度を300mm/分として測定方向に引っ張ったときの、破断するまでの最大荷重より求めた最大点強度の応力が最も大きくなる方向をいい、その決定方法の詳細は後述する。SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことで、本発明の積層体にヒートシール等の高温処理を含む後加工を施す際に、積層体が熱によって変形し、無機酸化物層にピンホールやクラックといった欠陥が生成するのを抑制できる。その結果、積層体は優れた水蒸気バリア性を維持することが可能となる。
SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことは、121℃以上の高温領域における収縮応力が小さいことを意味する。121℃以上の高温領域での収縮応力が小さい場合、121℃未満から室温に至るまでの温度領域においては収縮応力がより一層小さくなり、経時での寸法変化が極めて小さくなる。そのため、本発明の積層体をロールとして長期保管する際の寸法安定性が良好になり、ロールの変形、例えばシワの発生(巻き締まり)を抑制することができる。
このような特性を具備することにより、積層体を長期保管した後に印刷やラミネート、製袋加工等の後加工を施して食品包装用の袋等の最終製品にしようとする際に、ロール自体のシワ(巻き締まり)や幅方向の厚みムラの発生による品位の低下が軽減される。その結果、このような品位低下に起因する印刷のずれ等より不良品として破棄を強いられる部位を減らし、最終製品の収率を高くすることができる。なお、積層体の品位の低下は、ロール状体での長期保管時の寸法安定性により評価することが可能であり、その評価方法は後述する。上記観点からSF145℃-SF121℃の上限は、好ましくは2.00MPa、より好ましくは1.80MPa、さらに好ましくは1.70MPa、特に好ましくは1.50MPaである。なお、SF145℃-SF121℃は小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、実質的には0.05MPa程度である。
SF145℃やSF121℃は、実施例に示す温度条件、荷重条件で熱機械分析を行い、得られた熱収縮応力曲線より読み取ることができる。熱機械分析装置は、測定が可能なものであれば特に制限されず適宜選択することができ、例えば、TMA/SS6000(セイコーインスツルメント(株)製)等を用いることができる。
積層体のSF145℃-SF121℃を2.50MPa以下もしくは上記の好ましい範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時にテンター装置の条件を調整する方法が挙げられる。より具体的には、テンターの熱処理温度の下限を140℃、より好ましくは150℃、さらに好ましくは155℃、特に好ましくは161℃とし、上限を167℃、より好ましくは166℃、さらに好ましくは165℃とする方法、弛緩率の下限を2%、より好ましくは5%、さらに好ましくは7%、特に好ましくは9%とし、上限を20%、より好ましくは18%、さらに好ましくは17%、特に好ましくは15%とする方法等が挙げられる。テンターの熱処理温度を168℃以上にすると、主配向軸方向に強く配向していた分子鎖が緩み、SF145℃-SF121℃を2.50MPa以下に制御することが困難になる場合がある。また、ポリプロピレン系樹脂フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂組成物について、分子量分布Mz/Mwを1.5以上4.5以下とする方法や、対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値を1.0%以上10%以下とする方法も挙げられる。さらに、ポリプロピレン系樹脂フィルムを後述のように複合構成として、C層を構成する全成分を100質量%としたときに、C層が石油樹脂を3質量%以上20質量%以下含む態様とする方法等も挙げられる。なお、これらの方法はいずれも必須要件というわけではなく、また適宜組み合わせることができる。
本発明の積層体は、145℃での主配向軸方向のtanδが0.25以下であることが好ましい。tanδは損失正接とも呼ばれ、積層体を構成する樹脂の分子鎖の運動性の程度と相関し、一般的に100℃以上の領域では高温になるほど増加する。145℃での主配向軸方向のtanδは、145℃付近でのフィルム中の分子鎖の運動性の程度と相関する指標である。この値を小さくすること、言い換えれば高温での分子鎖の運動を抑制することで、積層体の高温下での熱収縮応力を抑制し、積層体の熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことが容易になる。上記観点から145℃での主配向軸方向のtanδは、好ましくは0.23以下、より好ましくは0.21以下、さらに好ましくは0.19以下である。なお、145℃での主配向軸方向のtanδは小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、実質的には0.01程度である。tanδは、-100℃まで低温冷却し、昇温開始後-100℃から180℃に到達するまでの粘弾性-温度曲線より求めることができ、その測定方法の詳細は後述する。
積層体の145℃での主配向軸方向のtanδを0.25以下とする方法は、特に限定されるものではないが、ポリプロピレン系フィルムを構成する樹脂組成物の分子量分布Mz/Mwを小さくする方法や、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜工程において、一軸延伸後に加熱弛緩処理を施す方法、テンターの熱処理温度を高くする方法、テンターのリラックス率を高くする方法等が挙げられる。これらの方法を単独で又は適宜組み合わせて用いることで、tanδを小さくすることができる。
本発明の積層体は、無機酸化物層が、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に直接接していることが好ましい。本発明において「直接接している」とは、ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層の間に厚みが200nmより大きい他の層が存在しない態様をいう。このような態様とすることにより、積層体の製造コストやリサイクル性が向上する。ポリプロピレン系樹脂と無機酸化物層の間にアンカー層を設ける場合も、その厚みは200nm以下である必要があり、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。なお、リサイクル性の評価方法は後述するが、通常、ポリプロピレン系樹脂との相溶性が高い成分、例えばポリエチレン樹脂や石油樹脂等はリサイクル性への影響がない若しくは小さい一方、ポリプロピレン系樹脂との相溶性が低い成分、例えばアンダーコート層に好適に用いることができるエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の樹脂はリサイクル工程中でゲル化物等の異物を生じ、リサイクル性を低下させる場合がある。
積層体の層構成は、サンプル断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により確認することができる。なお、後述するコロナ処理やプラズマ処理、イオンビーム処理といった表面処理により、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表層付近について、官能基の導入、分子量の低下等の改質が施された場合においては、該改質領域を改質されていない部分と別の層とは見なさないものとする。
積層体を、無機酸化物層が、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に直接接している態様とする方法としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜後、コート層等を積層する工程を経ずに、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に蒸着等により無機酸化物層を積層する方法や、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に、ポリプロピレン系樹脂以外の成分を主成分とする厚み200nm以下の層(アンカー層)をコーティング等によって積層し、その上に蒸着等により無機酸化物層を積層する方法等が挙げられる。
また、本発明の積層体は、無機酸化物層の表面のSt値が700nm以下であることが好ましい。ここでSt値とは、三次元非接触表面形状計測により測定した最大断面高さSt値をいい、測定方法の詳細については後述する。無機酸化物層の表面のSt値が700nm以下であることは、当該表面が粗大突起等を有さず、十分に平滑なものであることを意味する。従って、このような態様とすることで、無機酸化物層の厚みが均一となり、無機酸化物層中にピンホールやクラック等の欠陥が少なくなるため、積層体の水蒸気バリア性を良好なものとすることができる。上記観点からSt値の上限は好ましくは600nm、より好ましくは500nmである。また、St値の下限値は、積層体に適度な滑り性を付与する程度に凹凸を形成し、搬送性を良好にする観点から100nmとなる。
無機酸化物層の表面のSt値を700nm以下又は上記の好ましい範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時に、口金の温度を260℃以下、より好ましくは240℃以下とする方法、キャスティングドラムの温度を30℃以下とする方法、長手方向の延伸倍率を4.5倍以上とする方法、テンターの熱処理温度を167℃以下、より好ましくは166℃以下、さらに好ましくは165℃以下とする方法、無機酸化物層を形成する層が粗大突起の原因となる平均粒径が300nmを超える(好ましくは200nm以上である)アルミナ、シリカ、架橋シリコーン、架橋ポリメタクリル酸メチルといった無機又は有機粒子を当該層の樹脂全体100質量%に対し1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上含有しないこと、縦延伸後の弛緩処理を行うこと等が挙げられる。より具体的には、口金の温度を下げること、キャスティングドラムの温度を下げること、長手方向の延伸倍率を上げること、テンターの熱処理温度を下げること、無機酸化物層を形成する層が上記粒子を含有しないこと等により、無機酸化物層の表面のSt値を700nm以下又は上記の好ましい範囲に制御することができる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いることが可能であり、全ての方法を組み合わせることは必須ではないが、口金の温度を下げること、及び無機酸化物層を形成する層が上記粒子を当該層の樹脂全体100質量%に対し1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上含有しないことが特に効果的である。
本発明の積層体は、無機酸化物層の表面のSku値が300以下であることが好ましい。ここでSkuとは、三次元非接触表面形状計測により測定したSku(尖り度)をいう。無機酸化物層の表面のSku値が300以下であることは、当該面が粗大突起等を有さず、十分に平滑なものであることを意味する。従って、無機酸化物層の厚みが均一となり、無機酸化物層中にピンホールやクラック等の欠陥が少なくなるため、積層体の水蒸気バリア性を良好なものとすることができる。上記観点からSku値の上限は好ましくは100、より好ましくは10である。また、Sku値の下限値は、積層体に適度な滑り性を付与する程度に凹凸を形成し、搬送性を良好にする観点から1.0となる。
無機酸化物層の表面のSku値を300以下又は上記の好ましい範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、無機酸化物層の表面のSt値を700nm以下又は上記の好ましい範囲に制御する方法と同様の方法を用いることができるが、その中でも特に、無機酸化物層と接する側の表層が、平均粒径が300nmを超える(好ましくは200nm以上である)アルミナ、シリカ、架橋シリコーン、架橋ポリメタクリル酸メチルといった無機又は有機粒子を当該層の樹脂全体100質量%に対し1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上含有しない方法、口金の温度を260℃以下、より好ましくは240℃以下とする方法が効果的である。また、一軸延伸後に加熱弛緩処理を施す方法も、幅方向に延伸する際の延伸均一性を高めることができ、フィルム表面の急峻な尖り部分をなだらかにできるため効果的である。なお、これらの方法を全て組み合わせることは必須ではないが、適宜組み合わせて用いることが可能である。
Sku値及びSt値は、公知の三次元非接触表面形状の測定器(例えば、(株)日立ハイテクサイエンスの走査型白色干渉顕微鏡)及び、その付属の解析システムにより測定することができ、詳細な測定条件や解析条件は実施例に示す。
本発明の積層体は、主配向軸方向のF5値をF5(x)、主配向軸直交方向のF5値をF5(y)とした際、F5(x)/F5(y)が1.3以上5.0以下であることが好ましい。F5(x)とは、長方形のサンプル(主配向軸直交方向(短辺)10mm×主配向軸方向(長辺)150mm)のサンプルを、室温の環境下で引張速度を300mm/分として引っ張り、伸び5%となった時にかかっていた荷重を、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×10mm)で除した値いう(単位:MPa)。F5(y)も測定方向を変えた以外は同様とする。
F5(x)/F5(y)を1.3以上5.0以下とすることで、積層体の長手方向と幅方向の剛性のバランスが良好になり、製造後の搬送工程やハンドリング等によって無機酸化物層にクラックが入りにくくなるため、積層体の良好な水蒸気バリア性を保つことが容易になる。上記観点から、F5(x)/F5(y)の範囲はより好ましくは1.7以上4.0以下であり、さらに好ましくは1.9以上3.5以下であり、特に好ましくは2.1以上3.5以下である。
F5(x)/F5(y)を1.3以上5.0以下とする方法は特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時に長手方向の延伸倍率を4.5倍以上8.0倍以下、好ましくは4.5倍以上6.0倍以下とし、幅方向の延伸倍率を8.0倍以上16倍以下、好ましくは9.0倍以上12倍以下とした上で、かつ両者が等しくならないようにする方法が挙げられる。
また、本発明の積層体は、酸素透過率が60cc/m/day以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで、積層体を例えば食品包装用に用いる際、内容物が酸化劣化を受けるのを抑制し、その寿命をより長くすることが可能となる。上記観点から、酸素バリア性は40cc/m/day以下がより好ましく、20cc/m/day以下がさらに好ましく、1cc/m/day以下が特に好ましく、0.5cc/m/day以下が最も好ましい。酸素透過率の数値は小さければ小さいほど好ましく、その下限は特に限定されないが、実質的には0.01cc/m/day程度である。なお、酸素バリア性はJIS K 7126-2(2006)の等圧法により測定することができ、その詳細な条件等は実施例に示す。
酸素透過率を60cc/m/day以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、後述するトップコート層を積層する方法が挙げられる。また、これに積層体の主配向軸方向の145℃におけるtanδを0.25以下にする方法、無機酸化物層の表面のSt値を700nm以下にする方法、無機酸化物層の表面のSku値を300以下にする方法、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時に、縦延伸工程で加熱弛緩処理を施す方法、ポリプロピレン系樹脂組成物の分子量分布Mz/Mwを1.5以上4.5以下とする方法等を適宜組み合わせて用いることも可能である。
本発明の積層体は、包装用途に好適なものとする観点から、厚みが8μm以上60μm以下であることが好ましい。厚みを8μm以上とすることで、積層体に剛性を持たせ、製袋加工時や搬送時のたるみ、張力に対して破れにくくすることができる。上記観点から厚みの下限は、10μmがより好ましく、12μmがさらに好ましい。一方、厚みを60μm以下とすることで、ハンドリング性を良好にできる他、製造コストを抑えることもできる。上記観点から厚みの上限値は、50μmがより好ましく、40μmがさらに好ましく、30μmが特に好ましい。なお、積層体の厚みは、積層体の任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で接触式のマイクロメータで測定し、得られた全測定値の算術平均値を求めることにより決定することができる。
積層体の厚みを8μm以上60μm以下又は上記の好ましい範囲とする方法は、特に制限されず、例えば、積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時に、ポリプロピレン系樹脂組成物の溶融押出の吐出量を調整する方法や、溶融シートの冷却固化の際にキャストドラムの回転速度を調整する方法、溶融シートを吐出する口金のリップ間隙を調整する方法、長手方向の延伸倍率を調整する方法、幅方向の延伸倍率を調整する方法等を用いることができる。より具体的には、吐出量を下げること、キャストドラムの回転速度を上げること、口金のリップ間隙を小さくすること、長手方向や幅方向の延伸倍率を上げることで、厚みを小さくすることができる。
本発明の積層体は、全体に占めるポリプロピレン系樹脂の含有量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。かかる範囲とすることで、積層体が実質的に単一の素材で構成されている材料、すなわちモノマテリアル材料であると見なすことができ、リサイクル性を良好なものとすることができる。上記観点及び実現可能性の観点から、積層体全体に占めるポリプロピレン系樹脂の含有量の上限は100質量%となる。
本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの層構成は、層を構成する全成分中にポリプロピレン系樹脂を80質量%以上100質量%含む層(以下、ポリプロピレン系樹脂層ということがある。)を一つ有する構成とすることも、複数有する構成とすることもできる。以下、ポリプロピレン系樹脂フィルムの層構成について具体的に説明する。ここで、ポリプロピレン系樹脂層のうち無機酸化物層に最も近い層(ポリプロピレン系樹脂層が一つの場合は当該層)をA層、A層から最も遠い層(2層構成の場合はA層でない層)をB層とし、A層とB層の間に位置するポリプロピレン系樹脂層がある場合は、これらの層をA層に近いものから順にC層、D層とアルファベット順に定義する。このとき、ポリプロピレン系樹脂層を3つ以上有する場合、A層とB層は同一組成とすることも可能である。
また、A層の表面には、無機酸化物層との密着性を高めること等を目的として、必要に応じてポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を主成分とする層(アンカー層)を設けることができるが、その厚みは200nm以下であり、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。かかる構成とすることで、本発明の積層体のリサイクル性を良好なものとすることができる。
本発明の積層体の好ましい層構成は、無機酸化物層/ポリプロピレン系樹脂フィルム、あるいはトップコート層(後述)/無機酸化物層/ポリプロピレン系樹脂フィルムである。(なお、ポリプロピレン系樹脂フィルムが厚み200nm以下のアンカー層を含む態様も許容される。)具体例としては、無機酸化物層/A層、無機酸化物層/A層/B層、無機酸化物層/A層/C層/B層、トップコート層/無機酸化物層/A層、トップコート層/無機酸化物層/A層/B層、トップコート層/無機酸化物層/A層/C層/B層等の態様が挙げられる。以下、ポリプロピレン系樹脂フィルムを構成とする各層の好ましい態様について説明する。
A層は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とし、かつ、粗大突起の原因となる平均粒径200nm以上のアルミナ、シリカ、架橋シリコーン、架橋ポリメタクリル酸メチルといった無機又は有機粒子をA層の樹脂全体100質量%に対し、1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上含有しないことが好ましい。かかる組成とすることで、積層体の表面粗さ(St値やSku値)を小さく制御しやすくなる。
B層は、ポリプロピレン系樹脂とは非相溶である熱可塑性樹脂を少量含むことが好ましい。以下、「ポリプロピレン系樹脂とは非相溶である熱可塑性樹脂」について、単に「非相溶樹脂」ということがある。一般に、蒸着加工や製袋加工においては適度な搬送性が求められるため、従来はフィルム表層(例えばA層やB層)に平均粒径200nm以上のアルミナ、シリカ、架橋シリコーン、架橋ポリメタクリル酸メチルといった無機又は有機粒子や、有機滑剤を添加するなどしてフィルム表面に凹凸を形成し、易滑性を付与する方法が採択されてきた。しかしながら、このような粒子により形成される突起は硬質であり、ポリプロピレン系樹脂フィルムから製造される積層体を巻き取りロール状の製品として移送する際、相対する無機酸化物層に削れ、ピンホール、クラック等の欠陥を生じる原因となる。そのため、このような粒子を用いると積層体の水蒸気バリア性が損なわれやすい。また、有機粒子はポリプロピレン系樹脂フィルムを巻き取りロール状の製品として移送する際に相対する表層(例えばA層)に転写されやすく、ポリプロピレン系樹脂フィルムに無機酸化物層を積層した際に、無機酸化物層の剥離力を低下させる。B層が非相溶樹脂を少量含むことで、B層表面に、そのドメイン構造を利用した軟質な表面凹凸を付与することができる。そのため、適度な滑り性を損なわずに、積層体の水蒸気バリア性、無機酸化物層の剥離力をいずれも良好なものとすることができる。
非相溶樹脂としては、例えば、ポリメチルペンテン系樹脂等を好ましく用いることができる。B層がポリプロピレン系樹脂と非相溶樹脂とを含むと、キャストフィルム(未延伸ポリプロピレンフィルム)のα晶系球晶サイズを微小にすること、またはポリプロピレン系樹脂成分の全てあるいは一部をメゾ相として形成することで、延伸に伴う非相溶樹脂ドメインとポリプロピレン系樹脂との界面剥離を抑制することができる。界面剥離を抑えることでポリプロピレンフィルムを白化させずに表面突起を形成でき、蒸着加工のシワによる蒸着ムラや製袋加工時の搬送シワが生じにくく良好な加工適性を得ることができる。
B層中の非相溶樹脂の含有量は、層全体100質量%中、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上6.0質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上4質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以上2.0質量%以下である。非相溶樹脂の含有量が0.1質量%以上であることにより、B層表面に効率よく表面突起が形成されるため、B層表面の滑り性が良好となり、蒸着加工や製袋加工におけるシワの発生が軽減される。一方で、B層における非相溶樹脂の含有量が10質量%以下であることにより、B層内における過剰なドメイン形成が抑えられ、延伸時に樹脂同士の界面で生じるボイドの過剰発生による透明性低下が軽減される。
なお、B層だけでなく、前述のA層も非相溶樹脂を含有する態様も好ましく採択される。かかる態様とすることで、A層の表面に、そのドメイン構造を利用した微細、かつ軟質な表面凹凸を付与することができる。そのため、粒子や滑剤を用いることなく適度な滑り性を付与することができ、無機酸化物層を積層した後の積層体について、水蒸気バリア性や酸素バリア性を損なうことなく、ハンドリング性を良好なものとすることができる。A層が非相溶樹脂を含有する場合の含有量は、B層の場合と同様、層全体100質量%中、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上6.0質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上4質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以上2.0質量%以下である。
また、B層にはヒートシール層としての役割を担わせることもできる。ヒートシールとは、内容物を充填・包装し袋としての形態をとるにあたり、加熱処理を通じてフィルム同士が溶融して圧着した状態(若しくはその工程)のことであり、ヒートシール性とは、加熱により溶融・圧着するフィルム側の性質のことである。また、ヒートシール層とは、層全体100質量%中に、融点が150℃未満のポリプロピレン系樹脂を50質量%より多く100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下含む層をいう。このような態様とすることで、加熱により袋としての形態をとることが容易となる。
B層にヒートシール層としての役割を担わせる場合は、低温・高速ヒートシール性を付与する観点から、低結晶性の融点の低いポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましく、具体的にはエチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体等を好ましく用いることができる。
また、B層にヒートシール層としての役割を担わせる場合、B層の融点は、低温・高速シール性を付与する観点から100℃以上150℃未満であることが好ましく、より好ましくは110℃以上148℃以下、さらに好ましくは120℃以上145℃以下である。なお、B層の融点は、積層体のB層を示差走査熱量分析(DSC)で分析した際の融解による吸熱ピークのうち、最も低温側のピーク温度として読み取ることができる。なお、B層は、ポリプロピレン系樹脂とは非相溶である樹脂を含むことが粒子や滑材を添加せずに適度な滑り性を付与する観点から重要であるが、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、塩素捕捉剤、帯電防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤等を含むこともできる。
B層を積層する方法は特に限定されないが、製膜時の溶融共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式の他、押出ラミネートやドライラミネート等が挙げられる。生産効率及びコストの観点からは、溶融共押出による積層方法が好ましい。ポリプロピレンフィルムのB層の厚みは特に制限されるものではないが、ポリプロピレンフィルム全体厚み100%に対して、下限は0.5%が好ましく、より好ましくは1%である。他方、上限は80%が好ましく、より好ましくは60%、さらに好ましくは40%、特に好ましくは10%である。
ポリプロピレン系樹脂フィルムがC層を有する場合、C層はポリプロピレン系樹脂のみを構成成分としていてもよいが、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂としては、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、α-オレフィン系エラストマー、石油樹脂等が挙げられるが、その中では特に、石油樹脂が好ましく採択される。本明細書中において石油樹脂とは、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホン基またはそれらの変成体等からなる極性基を有さない石油樹脂であり、具体的には石油系不飽和炭化水素を原料とするシクロペンタジエン系、あるいは高級オレフィン系炭化水素を主原料とする樹脂である。
C層が石油樹脂を含むことで、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時の均一延伸性が高まるため、長手方向の延伸温度を低くすること、具体的には120℃以下とすることが可能になる。そのため、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面粗さを小さくしつつ、配向度や耐熱性を高めることができるため、本発明の積層体の水蒸気バリア性を良好なものとしやすくなる。また、石油樹脂はポリプロピレン系樹脂の非晶部分の自由体積を小さくし、水蒸気を拡散しにくくする効果もあるため、その点においても積層体の水蒸気バリア性を良好なものとすることができる。一方、石油樹脂の添加量が過剰であると、ポリプロピレン系樹脂フィルムの剛性が低下し、蒸着等によって無機酸化物層を形成する際にピンホールやクラックが発生しやすくなり、積層体の水蒸気バリア性が損なわれる場合がある。上記観点から、C層に石油樹脂を添加する場合の含有量は、全構成成分を100質量%としたときに、3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上17質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以上16質量%以下であることが特に好ましい。また、石油樹脂の軟化点は、90℃以上150℃以下であることが好ましく、100℃以上130℃以下とすることがより好ましい。かかる範囲とすることで、ポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜時の均一延伸性を高めることが容易となる。
本発明の積層体は、優れた水蒸気バリア性と無機酸化物層の密着性を両立し、高い耐熱性も有することから、包装材に好適に用いることができる。本発明の積層体の包装対象物は特に制限されないが、水蒸気により変質しやすいもの、例えば食品や医薬品、化粧品、生花等が挙げられる。
以下、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルム全体のポリプロピレン系樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ということがある。)について説明する。
樹脂組成物の分子量分布Mz/Mwの上限は4.5が好ましく、4.0がより好ましく、3.5がさらに好ましい。Mz/Mwの下限は実質1.5程度である。Mz/Mwが4.5以下である場合、ポリプロピレン系樹脂フィルムに熱をかけた際に緩和する高分子量成分が少ないため、積層体の145℃におけるtanδを0.25以下に制御しやすくなる。樹脂組成物の分子量分布Mz/Mwを上記の値とするためには、原料となるポリプロピレン系樹脂の重合時の水素ガス濃度を調整する方法や、触媒及び/又は助触媒の選定、組成の選定を適宜行う方法、過酸化物処理を施す方法、複数のポリプロピレン系樹脂原料を適切な比率でブレンドする方法等が好ましく採用される。
また、樹脂組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値が1.0%以上10%以下であることが好ましい。上限は8.0%以下がより好ましく、6.0%以下がさらに好ましい。対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値が1.0%以上であることにより、ポリプロピレン系樹脂フィルムを延伸する際、タイ分子となる高分子量成分が十分となって均一延伸性が高まる。一方、対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値が10%以下であることにより、ポリプロピレン系樹脂フィルムから製造される積層体について、熱をかけた際に緩和する分子鎖が過剰とならず、熱収縮応力の上昇が抑えられる。
また、樹脂組成物を構成するポリプロピレン系樹脂成分のメルトフローレート(MFR)は、2.0g/10分以上、20g/10分以下(230℃、21.18N荷重)の範囲であることが製膜性やフィルム強度の観点から好ましい。MFRの下限は、2.5g/10分がより好ましく、3.0g/10分がさらに好ましい。上限は、10g/10分がより好ましい。樹脂組成物のMFRを上記の値とするためには、原料となるポリプロピレン系樹脂の平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。より具体的には、重合時の水素ガス濃度を調整する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行い、ポリプロピレン樹脂の分子量や分子量分布を制御する方法、過酸化物処理を施す方法等が好ましく採用される。高分子量成分を低減することでMFRは高くなる。
本発明の積層体は、無機酸化物層の上に、トップコート層を有してもよい。トップコート層とは、無機酸化物層のポリプロピレン系樹脂フィルムとは反対側の表面に積層された有機化合物または有機無機混合物を含む層であり、前述の無機酸化物層の要件を満たさない層のことである。積層体がトップコート層を有することで、無機酸化物層を保護することや、無機酸化物層のみでは十分に得られにくい、酸素バリア性を向上させる効果期待できる。
有機無機混合物を含むトップコート層の好ましい一例として、例えば金属又はケイ素原子を含むアルコキシドおよび/またはその重縮合物と、水溶性高分子の混合物が挙げられる。トップコートに用いられる金属又はケイ素原子を含むアルコキシドは、一般式「M(OR)」で表される。当該一般式中nは自然数、Mは金属原子(例えば、Ti、Alなど)またはケイ素原子(Si)、Rはアルキル基(特に炭素数1~4の低級アルキル基が好ましい。)を表わす。金属又はケイ素原子を含むアルコキシドは、反応性と安定性、コストの観点から例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランを好適に用いることができ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。金属又はケイ素原子を含むアルコキシドは、ネットワークを形成するために加水分解したり、重縮合したりしていてもよい。
トップコートに用いられる水溶性高分子は、ビニルアルコール系樹脂や、ポリビニルピロリドン、デンプン、セルロース系樹脂などが挙げられるが、中でもガスバリア性に優れるビニルアルコール系樹脂が好ましい。ビニルアルコール系樹脂には、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等があり、これらの樹脂は単独で用いても、2種類以上の混合物であってもよい。ビニルアルコール系樹脂は、一般に、ポリ酢酸ビニルやその共重合体などをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高い方が好ましい。
トップコート層の、水溶性高分子に対する金属又はケイ素原子を含むアルコキシドの混合比率は、金属又はケイ素原子を含むアルコキシドをSiO換算した質量比率で、水溶性高分子/金属アルコキシド=15/85~85/15が好ましい。なお、SiO換算した質量比率とは、金属アルコキシドに含まれるケイ素原子のモル数からSiO質量に換算したものであり、水溶性高分子/金属又はケイ素原子を含むアルコキシド(質量比)で表される。
トップコート層の厚みは200nm以上600nm以下が好ましく、350nm以上500nm以下がより好ましい。トップコート層の厚みが200nm以上の場合、無機酸化物層のピンホールやクラックを十分に埋めることができ、優れた酸素バリア機能が発現する。一方、トップコート層の厚みが600nm以下であることにより、厚みによるクラックや、硬化不足による酸素バリア性の低下を軽減できる。
以下、具体例を挙げて本発明の積層体の製造方法について説明するが、本発明の積層体は当該製造方法によるものに限定されない。
まず、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製造方法を示す。ポリプロピレン系樹脂フィルムの製造においては、まず、溶融したポリプロピレン系樹脂もしくはポリプロピレン系樹脂組成物を支持体上に溶融押出して未延伸ポリプロピレンフィルムとする。次いで、この未延伸ポリプロピレンフィルムを長手方向に延伸し、次いで幅方向に延伸して、逐次二軸延伸せしめる。その後、熱処理及び弛緩処理を施して二軸配向ポリプロピレンフィルムを製造する。以下、より具体的に説明するが、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルム及びその製造方法は、必ずしもこれに限定して解釈されるものではない。
まず、ポリプロピレン系樹脂フィルムを単層構成とする場合は、原料となるポリプロピレン系樹脂(単一もしくは混合物)を、押出温度220℃~280℃、好ましくは230℃~270℃に設定した単軸押出機から溶融押出し、濾過フィルターを通過させて異物等を取り除く。続いてこの溶融樹脂200℃~260℃、より好ましくは210℃~240℃の温度でスリット状口金から押し出す。
一方、ポリプロピレン系樹脂フィルムを2層以上の積層構成とする場合は、各層の原料となるポリプロピレン系樹脂(それぞれ、単一もしくは混合物)を、押出温度220℃~280℃、好ましくは230℃~270℃に設定した別々の単軸押出機から溶融押出し、濾過フィルターを通過させて異物等を取り除いた後、これらの溶融樹脂を、所望の層構成(例えば3層の場合、未延伸のA層をa層、未延伸のB層をb層、未延伸のC層をc層とすると、a層/c層/b層)となるように、フィードブロック等で合流させる。続いて、200℃~260℃、より好ましくは210℃~240℃の温度でスリット状口金から押し出す。なお、2層以上の押出を行う際、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン等のポリプロピレン系樹脂以外の成分は用いないことが好ましい。かかる構成とすることで、リサイクル時のゲル化物等の異物を抑制し、積層体のリサイクル性を良好なものとすることができる。
単層構成、複合構成いずれの場合においても、溶融押出時は樹脂を十分に溶融させ、スクリュー回転によるせん断による分子鎖の切断を軽減することで、高温でもポリプロピレン系樹脂フィルムの構造が緩和せず主配向軸方向の145℃におけるtanδを0.25以下に制御しやすくなる。一方で、口金からの吐出直前における溶融樹脂の温度を低くすることで、キャスト工程での未延伸フィルム中の球晶サイズを小さくすることができ、延伸後のポリプロピレン系樹脂フィルムの表面粗さ、さらには積層体の表面粗さ(St値やSku値)を小さく制御しやすくなる。そのため、濾過フィルター前は高温、濾過フィルター通過後は濾過フィルター前よりも低温とし、吐出直前の口金温度はさらに低温化した多段式低温化が達成できるような温度設定とすることが好ましい。
次に、スリット状口金から押し出された溶融樹脂シートを、表面温度が10℃~40℃に制御されたキャスティングドラム(冷却ドラム)上で冷却固化させ、未延伸ポリプロピレンフィルムを得る。溶融樹脂シートのキャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法、エアーチャンバー法等のうちいずれの手法を用いてもよく、また複数の方法を組み合わせてもよいが、フィルムの平面性を良好にでき、かつ表面粗さを制御することが可能なエアーナイフ法が好ましい。また、エアーナイフ法を用いる場合、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアーが流れるようにエアーナイフの位置を適宜調整することが好ましい。
キャスティングドラムの表面温度は、得られるポリプロピレンフィルムの表面を平滑にし、蒸着等により形成する無機酸化物層の厚み均一性及び密着性向上を図る観点から、好ましくは10℃~30℃、より好ましくは10℃~27℃、最も好ましくは10℃~25℃である。かかる温度範囲とすることで、未延伸ポリプロピレンフィルムの特にドラム面側(無機酸化物層を形成する側)の表層部分のメゾ相分率を高め、該未延伸ポリプロピレンフィルムがメゾ相構造を有するようにすることができる。
メゾ相とは、結晶と非晶の中間相であり、溶融状態から非常に速い冷却速度で固化させた際に特異的に生成する相である。一般的にポリプロピレン系樹脂を冷却固化させると、結晶化して球晶が成長することが知られているが、このように球晶が生じた未延伸ポリプロピレンフィルムを延伸すると、球晶内部や球晶間の結晶と非晶の間などで延伸応力に差が生じ、局所的な延伸斑が発生して厚み斑や構造斑に繋がると考えられる。一方、メゾ相は球晶形態をとらないため、延伸斑を生じさせない。そのため、メゾ相構造が形成されると延伸均一性が高くなり、フィルムとしたときの厚みをより均一に制御し、かつ表面粗さをより小さく均一制御することができる。また、未延伸フィルムが球晶構造を有さない場合、長手方向への延伸(縦延伸)を行う際の温度を、球晶を有する未延伸プロピレンフィルムよりも低くすることができる。
次に、未延伸ポリプロピレンフィルムを二軸延伸し、二軸配向せしめる。まず、未延伸ポリプロピレンフィルムを下限が好ましくは70℃、より好ましくは80℃、上限が好ましくは140℃、より好ましくは130℃、さらに好ましくは120℃に保たれたロール間に通して予熱する。引き続き該未延伸ポリプロピレンフィルムを、下限が好ましくは70℃、より好ましくは80℃、上限が好ましくは140℃、より好ましくは130℃、さらに好ましくは120℃の温度範囲に保ち、長手方向に2.0倍以上15倍以下、好ましくは4.0倍以上10倍以下、より好ましくは4.5倍以上8.0倍以下、さらに好ましくは4.5倍以上6.0倍以下の延伸倍率で縦延伸する。続いて、得られたフィルムを下限が好ましくは50℃、より好ましくは60℃、上限が好ましくは90℃、より好ましくは80℃に保たれたロール間に通して冷却した後、フィルムに長手方向の加熱弛緩処理を施す。すなわち、下限が好ましくは70℃、より好ましくは80℃、上限が好ましくは140℃、より好ましくは130℃に保たれたロール間に通し、ロール周速差を利用して下限が好ましくは1.0%、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは3.0%、特に好ましくは4.0%であり、上限が好ましくは15%、より好ましくは13%、さらに好ましくは12%、特に好ましくは10%である弛緩処理を施した後、室温まで冷却して一軸配向フィルムを得る。かかる弛緩処理を施すことで、縦延伸で長手方向に強く配向した分子鎖を残しつつ、一部の拘束力が弱い分子鎖の歪みを取り除くことができる。その結果、その結果、二軸延伸後のポリプロピレン系樹脂フィルムについて、長手方向、幅方向ともに熱収の原因となる分子鎖の歪みが少ない構造とすることが容易になり、主配向軸方向の145℃におけるtanδを0.25以下に制御しやすくなる。その結果、ポリプロピレン系樹脂フィルムに蒸着等によって無機酸化物層を設ける際に無機酸化物層にピンホールやクラック等の欠陥が生じることを抑制し、積層体の水蒸気バリア性を良好なものとすることができる。
また、本発明のポリプロピレン系樹脂フィルムの無機酸化物層と接する側の表層にアンカー層を設ける場合、その方法としては、前記一軸配向フィルムに水系溶媒を用いた塗料組成物を塗布し、その後の工程で乾燥・熱処理する方法、すなわちインラインコート法が好ましく採択される。かかる方法を用いることで、積層体の製造工程を簡略化し製造コストを低減できるだけでなく、塗布された層をその後フィルム幅方向に延伸するため、最終的に得られるアンカー層の厚みを200nm以下に制御することが容易になり、積層体のリサイクル性を良好なものとしやすくなる。
次いで一軸配向フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してテンターに導き、フィルムの幅方向両端部をクリップで把持したまま幅方向へ延伸(横延伸)する。その際の温度(幅方向の延伸温度)は155~175℃、好ましくは162~172℃である。また、幅方向の延伸倍率は8.0倍以上20.0倍以下とするのが好ましく、より好ましくは8.5倍以上16.0倍以下、さらに好ましくは9.0倍以上12.0倍以下である。幅方向の延伸倍率を8.0倍以上とすることで、長手方向の高い配向状態を保ったまま幅方向にも高い配向を付与し、面内の分子鎖緊張を高めることができる。そのため、特に包装用途として用いる際、蒸着時の熱に対するフィルムの構造安定性を高め、均一な蒸着膜を形成することにより水蒸気バリア性や酸素バリア性を良好なものとすることができる。また、幅方向の延伸倍率を20.0倍以下とすることで、製膜時のフィルム破れを防ぎ、生産性を良好なものとすることができる。
また、プロピレン系樹脂フィルムの製造においては、面積延伸倍率を40倍以上100倍以下とすることが好ましい。面積延伸倍率は、長手方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率を乗じた値である。面積延伸倍率の下限はより好ましくは45倍、さらに好ましくは50倍である。
ポリプロピレン系樹脂フィルムの製造においては、横延伸後に熱処理及び弛緩処理を施すことが好ましい。具体的には、テンターのクリップで幅方向両端部を緊張把持したまま幅方向に2%以上20%以下の弛緩を与えつつ、140℃以上167℃以下の温度で熱処理を施すことが好ましい。熱処理温度は、150℃以上であることがより好ましく、155℃以上であることがさらに好ましく、161℃以上であることが特に好ましい。熱処理温度を140℃以上又は上記の好ましい範囲とすることで、ポリプロピレン系樹脂フィルムの熱に対する構造安定性を向上させ、無機酸化物層を蒸着等により形成して積層体とする際に、無機酸化物層にピンホール、クラック等の欠陥が生じる現象(熱負け現象)を抑制することができる。その結果、積層体の水蒸気バリア性や酸素バリア性を良好なものとすることができる。また、熱処理温度は166℃以下であることがより好ましく、165℃以下であることがさらに好ましい。熱処理温度を167℃以下又は前述の好ましい範囲とすることで、ポリプロピレン系樹脂フィルムの平面性を良好なものとし、積層体のSt値やSku値を小さくすることができる。
弛緩処理においては、フィルムの熱に対する構造安定性を高める観点から、弛緩率の下限を2%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、7%とすることがさらに好ましく、9%とすることが特に好ましい。また、上限を20%とすることが好ましく、18%とすることがより好ましく、17%とすることがさらに好ましく、15%とすることが特に好ましい。弛緩率が2%以上であることにより、熱機械分析(TMA)により測定される熱収縮率応力についてSF145℃-SF121℃≦2.50MPaとすることが容易となる。一方、弛緩率が20%以下であることにより、テンター内部でのフィルムの弛みが抑えられる結果、製膜後のフィルムにシワが発生しにくくなり、さらに機械特性の低下や蒸着時のムラも軽減される。
その後、クリップで幅方向両端部を引き続き緊張把持したまま、100~145℃の冷却工程を経てテンターの外側へ導き、幅方向両端部のクリップを解放する。かかる冷却工程を経ることで、熱処理では除去しきれなかったフィルム中の歪みが除去されて高温での熱収縮が抑制されるため、本発明の積層体の水蒸気バリア性をより良好なものとすることができる。
上記の冷却工程を経た後は、フィルムをテンターの外側へ導いて室温雰囲気下でフィルム幅方向両端部のクリップを解放し、ワインダー工程にてフィルム幅方向両側のエッジ部をスリットする。その後、無機酸化物層を積層する面(通常はキャストドラムと接していた側の表面)に対し、無機酸化物層の剥離力を高くすることを目的として、インラインでの表面改質処理を施すことが好ましい。インラインでの表面改質処理としては、例えば、大気中、もしくは酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、シランガスあるいはこれらの混合物の雰囲気ガス中でのコロナ放電処理、もしくはプラズマ処理、イオンビーム処理等が挙げられる。特に、コロナ放電処理に関しては、酸素濃度が10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下の雰囲気ガス中で行うことが効果的であり、酸素濃度が1%以下である雰囲気ガスの具体的な態様としては、特に窒素ガス、炭酸ガスあるいはこれらの混合物を採択することが効果的である。また、前述した雰囲気ガス中でのコロナ放電処理と、プラズマ処理、イオンビーム処理を組み合わせる方法も効果的である。かかる雰囲気中で処理を行うことで、フィルム表面においてポリプロピレンの分子鎖切断に伴う低分子量物の生成を抑制しつつ、効率的に親水性の官能基を導入することができるため、無機酸化物層の剥離力を高くすることが容易になる。
こうして得られたフィルムをロール状に巻き取って、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムを得ることができる。なお、ポリプロピレン系樹脂フィルムに前記アンカー層を設ける構成とする場合、いったんロール状に巻き取り後、別途オフラインコートによって表層にアンカー層を設けることも可能である。但し、前述したように製造コストや層厚みの観点から、アンカー層を設ける方法としてはインラインコート法を採択することがより好ましい。
続いて、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に、無機酸化物層を積層して積層体とする方法を説明する。なお、ここでいうポリプロピレン系樹脂フィルムは、前述の方法により得られたポリプロピレン系樹脂フィルムであっても、前述の工程からインラインでの表面改質処理を除いて得られたポリプロピレン系樹脂フィルムであってもよい。すなわち、前者の場合は表面改質処理を2回、後者の場合は1回行うこととなる。
本発明の無機酸化物層は、気相成膜法で製造することができる。無機酸化物層の成膜には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などの公知の方法を用いることができるが、特に、生産性よく高速で成膜できる点から、真空蒸着法を用いることが好ましい。真空蒸着法により無機酸化物原料を蒸発させる方法としては、電子線(EB)蒸着法、抵抗加熱法、誘導加熱法などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。無機酸化物を得る方法としては、酸化物を直接蒸発させる方法の他、前記方法で無機物の蒸発量を調整した上で、蒸発ガス中に酸素を導入して酸素量や膜質を制御した無機酸化物層を得る方法が挙げられる。導入するガスとしては、酸素を含んでいれば、膜質制御のために他のガスとして不活性ガスなどを含んでいても構わない。例として酸化アルミニウム層を得る場合には、アルミニウムを蒸発させて、酸素を導入する方法が挙げられる。酸素を含むガスを導入して無機酸化物層を形成する場合、蒸発源直上より酸素を導入することが好ましい。蒸発源直上とは蒸発源とメインドラム中心を結んだ直線上に酸素ガス導入管があることをいう。前記位置からメインドラム方向に向かって酸素を拡散させながら導入すると、金属蒸気と酸素が混合しやすく、均一に安定して酸化した膜を得ることができるため、無機酸化物層全域の膜質が良好になりバリア性が向上する。蒸着のメインロールは、フィルムの熱負けを防止するために冷却することが好ましく、その温度は、好ましくは20℃以下、より好ましくは0℃以下である。
このとき、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に無機酸化物層を形成する直前に、ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層の剥離力を向上させるために、前述したポリプロピレン系樹脂フィルムの製膜工程内で行うインラインでの表面改質処理とは別に、更に、オフラインでの表面改質処理を施すことが好ましい。オフラインでの表面改質処理としては、例えば、特定のガス雰囲気下でのコロナ処理、プラズマ処理、イオンビーム処理等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面改質処理は、大気圧下でも、真空雰囲気下でも実施することができるが、真空雰囲気で実施すると、フィルム表面に付着していた水分を除去することができ、また、表面改質処理によって生成する低分子量成分が再付着することを抑制できる。さらに、表面改質処理を蒸着直前に実施し、大気開放せずに連続して蒸着を行うことによって表面汚染を抑制し、フィルム表面に生成した活性種が反応することで蒸着層の強い密着を実現できる。表面改質処理におけるガスは、アルゴン、窒素、ヘリウム、ネオン、酸素、炭酸ガス、水素、アンモニア、炭化水素(C2n+2、ただしnは1~4の整数)などを単独または混合して使用できる。表面改質処理に使用するガスは、放電のしやすさや得られる活性種のエネルギー、導入したい官能基の種類によって適宜選定できるが、官能基を導入するために炭酸ガスや酸素ガス、安定放電しやすいアルゴンや窒素を含むことが好ましい。
本発明において、蒸着前の特に好ましい表面改質処理として、イオンビーム処理が挙げられる。イオンビーム処理とは、電極で発生させたプラズマから荷電粒子を引き出し、フィルム表面に照射することで表面を処理する手法である。イオンビーム処理は、後述する電圧と電流の調整範囲が広い点で、基材に合わせた適切な条件を選定することができる点で好ましい。本発明においては、特にフィルム幅方向に均一に処理するために、電極構造を直線状に長くしたアノードレイヤー型のイオン源を用いることが好ましい。アノードレイヤー型イオン源は、その前面に円周状あるいはレーストラック状の間隙部を備え、その内部にはスリットの間隙に磁界を形成するための磁石と、高電圧を印加できるアノードを備える構成であり、間隙幅方向に磁場を形成した上で、開口部背面に配置されたアノードに、間隙部(カソード)に対して正の電圧を印加し、間隙部磁場による電子のホール運動によりプラズマを強化するとともにイオンを加速するイオン源である。この電極を直線状に長くし、長手方向がフィルムの搬送方向と直角になるように配置すれば、フィルム全体を均一に処理することができ、好ましい。
ポリプロピレン系樹脂フィルムをイオンビーム処理する際のチャンバーの真空度は、1×10-5Pa以上5×10-2Pa以下が好ましい。1×10-5Pa以上とすることで安定した放電を得ることができ、5×10-2Pa以下とすることでイオンビームの拡散を防止し、十分な処理効果を得ることができる。処理に使用するガスは、アルゴン、窒素、ヘリウム、ネオン、酸素、炭酸ガス、水素、アンモニア、炭化水素(C2n+2、ただしnは1~4の整数)などを単独または混合して使用できるが、安定して入手しやすい点からアルゴン、窒素、ヘリウム、酸素、炭酸ガスが好ましく、密着に寄与する官能基を付与しやすく、安定放電領域が広い点から、窒素、酸素、炭酸ガスがより好ましい。
イオンビーム処理は、放電中の電圧と電流で処理強度を調整することができる。イオンビーム処理の投入電圧は、0.5kV以上3.0kV以下が好ましく、0.7kV以上2.5kV以下がより好ましい。投入電圧を0.5kV以上とすることで放電が安定し、3.0kV以下とすることで処理強度が過剰となることによるフィルム表面へのダメージを軽減できる。
イオンビーム処理の電流値は、処理雰囲気における活性種の量を示しており、電流値が多いと反応開始のトリガーとなる粒子数が増えることになる。つまり電流値を調整することは、反応開始点の量を調整することである。イオンビーム処理の処理面積あたりの電流値は30mA・sec/m以上1500mA・sec/m以下が好ましく、50mA・sec/m以上600mA・sec/m以下がより好ましい。処理面積あたりの電流値は、処理中の電流値を、電極幅とフィルムの搬送速度で除した値である。電流値が大きい、すなわち活性種の数が多い場合、分子鎖に数多く活性種が作用し、多くの点で反応が開始される。電流値を30mA・sec/m以上にすることで、密着に寄与する官能基を増やすことができ、1500mA・sec/m以下にすることで、反応が開始する量を制限し、フィルムがダメージを受けて表層が脆弱化することを抑制できる。
ポリプロピレン系樹脂フィルム層に無機酸化物層を積層した後、さらにトップコート層を形成することができる。トップコート層を無機酸化物層上に塗工する方法(方式)としては、ダイレクトグラビア方式や、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等、特に限定はなく既知の方法を用いることができる。トップコート層が有機無機混合物を含む場合、該層に含まれる金属アルコキシドは、熱によって重縮合反応が進行し、強固な膜となってバリア性を向上させることができる。従って、有機無機混合物層の反応をより進行させるために、得られた積層体をさらに熱処理することもできる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下に示す態様に限定されない。なお、各項目の評価は以下の方法により行った。
[特性値の測定方法、効果の評価方法]
本発明における特性値の測定方法、並びに効果の評価方法は次の通りである。
(1)水蒸気透過率
本発明の積層体について、JIS K 7129-2(2019)のB法に従い、MOCON/Modern Controls社製の水蒸気透過率測定装置“PERMATRAN-W”(登録商標)3/31を用いて、積層体の無機酸化物を積層していない面から水蒸気を透過させるように設定し、温度40℃、湿度90%RHの条件で測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、得られた4つの測定値の平均値を算出し、該サンプルの水蒸気透過率とした(単位:g/m/day)。
(2)酸素透過率
本発明の積層体について、JIS K 7126-2(2006)の等圧法に従い、MOCON/Modern Controls社製の酸素透過率測定装置“OXTRAN”(登録商標)2/20を用いて、積層体の無機酸化物を積層していない面から酸素を透過させるように設定し、温度23℃、湿度90%RHの条件で酸素透過率を測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、得られた4つの測定値の平均値を算出し、該サンプルの酸素透過率とした(単位:cc/m/day)。
(3)無機酸化物層の剥離力
積層体の、無機酸化物層、あるいは無機酸化物層とトップコート層を積層した側の面に、厚さ20μmのポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製 二軸延伸ポリプロピレンフィルムFOR)をラミネートした。DICグラフィックス株式会社製接着剤ディックドライLX-500(接着剤の主剤)、KW-75(硬化剤)、及び酢酸エチル溶剤を10:1:30(重量比)で室温にて攪拌しながら混合し、バーコーターで積層体の蒸着面に厚さ2μmで塗布し、85℃に設定した熱風オーブンで乾燥後、上述のポリプロピレンフィルムをラミネートした。このラミネート体を40℃で48時間エージングした後、幅15mmにカットしてサンプルを取得し、以下の装置及び条件で剥離力を測定した。サンプルは、厚さ(1.5)mmのSUS板に、両面テープ(日東電工株式会社製両面テープNo.532 テープ厚0.08mm)で蒸着基材側を貼り合わせてエアチャックで固定し、貼り合わせたポリプロピレンフィルムをもう一方のエアチャックで固定して、ポリプロピレンフィルム側を引っ張って測定した。なお、剥離においては無機酸化物層の表面にポリプロピレン系樹脂フィルムの表層が付着する場合があるが、その場合も無機酸化物層が剥離したものと見なして、得られた測定値を無機酸化物層の剥離力として扱った。
測定装置:株式会社エー・アンド・デイ製テンシロン万能材料試験機RTG-1210
ロードセル:50N
剥離角度:180°
剥離速度:50mm/min
測定環境:室温23℃湿度50%。
(4)積層体の厚み
本発明の積層体(ポリプロピレン系樹脂フィルムに無機酸化物層、あるいは無機酸化物層とトップコート層が設けられた積層体)について、任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で、接触式のアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K-312A型)を用いて測定した。その10箇所の厚みの算術平均値を積層体の厚み(単位:μm)とした。なお、本測定法により得られる厚みの精度(単位:μm)は小数第1位までであり、無機酸化物層の厚みは別途、(5)の方法により測定した。
(5)無機酸化物層の厚み
本発明の積層体を構成する無機酸化物層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)により断面観察を行うことで測定した。断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム((株)日立製作所製 FB-2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて)作製した。続いて、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製 H-9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、任意の10箇所について無機酸化物層の厚みを確認した。それらの算術平均値を無機酸化物層の厚み(単位:nm)とした。
(6)SF145℃-SF121℃
<積層体の主配向軸を定める方法>
まず、積層体の主配向軸を定める方法を示す。積層体を準備し、任意の方向を長辺として、長さ50mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプル<1>とした。この際、矩形のサンプル<1>の長辺が向く方向を0°と定義した。次に、長辺方向が0°方向から右に15°回転した方向となるように、同サイズのサンプル<2>を採取した。以下同様に、矩形のサンプルの長辺方向を15°ずつ回転させ、同様にサンプル<3>~<12>を採取した。次に、各矩形のサンプルを引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)に、長辺方向が引張方向となるように初期チャック間距離20mmでセットし、室温の雰囲気下で引張速度を300mm/分として引張試験を行った。このときサンプルが破断するまでの最大荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×幅)で除した値を最大点強度の応力として算出した。各サンプルについて同様の測定を5回ずつ行って最大点強度の応力の平均値を求め、当該平均値が最大であったサンプルの長辺方向を積層体の主配向軸とし、これに直交する方向を積層体の主配向軸と直交する方向とした。
<熱機械分析(TMA)による熱収縮応力の測定>
積層体を、前述のように定めた「主配向軸方向」を長辺として幅4mm、長さ50mmの長方形の試料に切り出し、試長20mmとなるよう金属製チャックに挟み込んだ。その後に下記の熱機械分析装置にセットし、下記温度条件、荷重条件にて試長を一定保持した積層体における主配向軸方向の熱収縮応力曲線を求めた。
(装置)
・装置 :TMA/SS6000(セイコーインスツルメント(株)製)
(温度条件)
・温度範囲 :23~200℃
・昇温速度 :10℃/分
・保持 :10分
・サンプリング時間:10秒/回
・窒素冷却 :なし
(荷重条件)
・制御モード :L
・待機中上限変位 :0μm
・スタート変位 :0μm
・荷重レート :0.1μm/分
・保持 :600分
・測定雰囲気 :窒素中
・測定厚み :上記(4)の積層体厚みを用いた。
<SF145℃-SF121℃の算出>
前述の測定方法で得た熱収縮応力曲線から、25℃に最も近い温度における収縮応力値をゼロ点として補正した上で、以下の各数値を読み取り、SF145℃-SF121℃を算出した。
SF145℃:積層体の主配向軸方向の145℃における熱収縮応力(MPa)
SF121℃:積層体の主配向軸方向の121℃における熱収縮応力(MPa)。
(7)主配向軸方向の145℃におけるtanδ
(6)で定めた積層体の主配向軸方向を測定方向とし、測定方向を長辺として切り出した試験片(幅5mm×長さ20mm)を23℃雰囲気下で装置チャック部に取付け、-100℃まで低温冷却し、昇温開始後-100℃から180℃に到達するまでのtanδを測定した。動的粘弾性法により粘弾性-温度曲線を描き、各温度でのtanδを算出した。試験はn=3で行い得られた値の平均値を当該測定方向におけるtanδとした。なお、測定装置及び条件は下記の通りである。
・装置 :Rheogel-E4000(UBM製)
・ジオメトリー :引張
・チャック間距離:10mm
・周波数 :10Hz
・歪み :0.1~0.2%
・温度範囲 :-100~180℃
・昇温速度 :5℃/分
・測定雰囲気 :窒素中。
(8)無機酸化物層の表面のSt値及びSku値
St値及びSku値の測定は、三次元非接触表面形状の測定器である、(株)日立ハイテクサイエンスの走査型白色干渉顕微鏡VS1540を使用して行った。また、解析においては付属の解析ソフトにより、撮影画面を多項式4次近似面補正にてうねり成分を除去し、次いでメジアン(3×3)フィルタにて処理後、補間処理(高さデータの取得ができなかった画素に対し周囲の画素より算出した高さデータで補う処理)を行った。測定条件は下記の通りとした。
製造元:株式会社日立ハイテクサイエンス
装置名:走査型白色干渉顕微鏡VS1540
・測定条件:対物レンズ 10×
鏡筒 1×
ズームレンズ 1×
波長フィルタ 530nm white
・測定モード:Wave
・測定ソフトウェア:VS-Measure Version10.0.4.0
・解析ソフトフェア:VS-Viewer Version10.0.3.0
・測定面積:0.561×0.561mm
(9)F5(x)/F5(y)
積層体の試長方向((6)で定めた主配向軸方向、及び主配向軸と直交する方向)を長辺方向として切り出した長方形のサンプル(幅(短辺)10mm×長さ(長辺)150mm)をそれぞれ測定試料とした。次にサンプル引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)に、初期チャック間距離20mmでセットし、室温の環境下で引張速度を300mm/分としてサンプルの引張試験を行った。この際、試料の中心がチャック間の中央近傍に来るように試料の長辺方向の位置を調整した。またサンプル伸び5%時にかかっていた荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×幅(10mm))で除した値を、伸度5%時の応力(F5値、単位:MPa)として算出した。測定は各方向につき5回行い、その算術平均値として、主配向軸方向のF5値をF5(x)、主配向軸と直交する方向のF5値をF5(y)とし、F5(x)/F5(y)を算出した。
(10)ポリプロピレン系樹脂、及びポリプロピレン系樹脂フィルムの対数分子量Log(M)=6.5のときの微分分布値、分子量分布Mz/Mw
試料として、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムに用いられるポリプロピレン系樹脂、あるいは、本発明の積層体から無機酸化物層、あるいは無機酸化物層とトップコート層の部分を剥離し、ポリプロピレン系樹脂フィルムのみとしたものを用いた。前記試料について、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒とし、165℃で30分間攪拌し、溶解させた。その後、孔径0.5μmの焼結フィルターを用いて加熱濾過し、ろ液中に含まれる試料成分の分子量分布を下記の装置及び条件により測定して、対数分子量Log(M)が6.5のときの微分分布値を読み取った。また、下記の標準試料を用いて作成した分子量の検量線を用い、かつ分子量が5000以下の成分は除いた上で、試料の重量平均分子量Mw、及びZ平均分子量Mzを求め、分子量分布Mz/Mwを算出した。
・装置:Agilent社製高温GPC装置PL-GPC220
・検出器:Agilent社製示差屈折率検出器(RI検出器)
・カラム:Agilent製PL1110-6200(20μm MIXED-A)×2本
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:140℃
・注入量:0.300mL
・試料濃度:1mg/mL
・標準試料:東ソー製単分散ポリスチレン、東京化成製ジベンジル。
(11)ポリプロピレン系樹脂フィルムの表層の樹脂組成物の融点、融解エンタルピーΔHm
試料として、本発明の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの表層(A層)に用いられる原料の樹脂組成物(原料が複数混合されている場合は、それらを所定の割合で混合した樹脂組成物)、もしくは、積層体から無機酸化物層、あるいは無機酸化物層とトップコート層を剥離してポリプロピレン系樹脂フィルムを得て、その表層(A層)のポリプロピレン系樹脂組成物を切削したものを用いた。示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgの試料を30℃から260℃まで、昇温速度20℃/分で昇温した。次いで、260℃で5分間保持した後、20℃/分の条件で30℃まで降温した。さらに、30℃で5分間保持した後、30℃から260℃まで20℃/分の条件で再昇温した。この再昇温時に得られる吸熱カーブのピーク温度を表層の樹脂組成物の融点とした。なお複数のピーク温度が観測できる場合には最も高温の温度を表層の樹脂組成物の融点とした。また、同カーブの温度100℃以上180℃以下の領域における吸熱ピークから融解エンタルピーΔHm(J/g)を読み取った。
(12)ヒートシール性
積層体の無機酸化物層とは反対側の表面に東レ(株)製の二軸延伸ポリプロピレンフィルムである「“トレファン”(登録商標)#30-2500H」を重ね合わせ、平板ヒートシーラーを用いて以下の条件でヒートシールし貼合品を作製した。その後、オリエンテック社製“テンシロン”(登録商標)を使用して本発明の積層体と前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの界面についてT字型剥離試験を行い、ヒートシール強度を測定した。なお、剥離試験の貼合品は幅20mm×長さ150mmの短冊状にサンプリングし、300mm/分の引張速度でヒートシール強度を測定した。本測定は3回行い、得られた値の平均値をヒートシール強度(N/25.4mm)とした。ヒートシール強度が2N/25.4mm以上を達成できた場合、ヒートシール性が合格(○)であると判定し、2N/25.4mm未満であれば、ヒートシール性が不合格(×)であると判定した。
<ヒートシール条件>
・プレス圧 :0.4N/mm
・プレス時間:1sec
・ヒーター温度:120℃。
(13)リサイクル性
まず、(3)に示す方法により、積層体から無機酸化物層、あるいは無機酸化物層とトップコート層を剥離して除去した。続いて、残ったポリプロピレン系樹脂フィルム側の部分を細かく切り刻み、総重量1gのサンプルを採取した。得られたサンプルを260℃に加熱したホットプレート上のシャーレに入れて10分間溶融させ、十分に攪拌した後に取り出して室温まで冷却した。続いて、冷却したサンプルを2枚の金属板間に挟み込み、240℃に加熱したプレス機に入れて1分間予熱した後に、圧力60kgf/cmでプレスして厚み100μmの薄膜シートを得た。得られた薄膜シートの外観を目視確認し、以下の基準に従ってリサイクル性を判定した(○を合格とした。)。
○:薄膜サンプル全体が均一であり、異物が見られなかった。
×:薄膜サンプル中に異物が見られた。
(14)積層体の長期保管時の寸法安定性
本発明の積層体を300mm幅のロールとして巻き取り、温度40℃、湿度90%RHの環境下で7日間保管した後のロールの外観を目視確認し、下記の基準に従って評価した。
○:ロールにシワ(巻き締まり)が見られなかった。
△:ロールに1本以上10本以下のシワ(巻き締まり)が見られた。
×:ロールに11本以上のシワ(巻き締まり)が見られた。
[各実施例、各比較例のポリプロピレンフィルムの製造に用いた成分]
各実施例、各比較例の積層体を構成するポリプロピレン系樹脂フィルムの製造には、以下の成分を使用した。
(A層用ポリプロピレン系樹脂)
A1:エチレン-プロピレン共重合体(エチレン含有量1.0%、融点:158℃、MFR=3.0g/min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:3.9、Mz/Mw:3.4)
A2:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:164℃、MFR=4.0g/10min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:3.8、Mz/Mw:3.1)
A3:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:166℃、MFR=3.0g/10min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:4.0、Mz/Mw:3.3)
A4:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:167℃、MFR=3.5g/min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:8.2、Mz/Mw:4.2)
A5:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:166℃、MFR=4.0g/10min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:10.6、Mz/Mw:4.7)
A6:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:161℃、MFR:2.3g/10min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:13.2、Mz/Mw:5.5)
A7:高溶融張力ポリプロピレン樹脂(MFR=3.0g/min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:13.0、Mz/Mw:5.3)。
(A層用マスターバッチ、及びポリプロピレン系樹脂以外の樹脂)
ポリメチルペンテン系樹脂A:三井化学(株)製“TPX”(登録商標)(RT31、融点:235℃、MFR:21g/10min@260℃)
AM1:A1(90質量部)、ポリメチルペンテン系樹脂A(10質量部)、酸化防止剤(0.1質量部)を260℃に設定した押出機で混練押出した後、ストランドを水冷後チップ化することにより作製したマスターバッチ。
(B層用ポリプロピレン系樹脂)
B1:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:164℃、MFR=3.0g/10min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:3.7、Mz/Mw:3.2)
B2:エチレン-プロピレンランダム共重合体(融点:130℃、MFR=3.0g/min)。
(B層用マスターバッチ、及びポリプロピレン系樹脂以外の樹脂)
ポリメチルペンテン系樹脂B:三井化学(株)製“TPX”(登録商標)(DX845、融点:232℃、MFR:9g/10min@260℃)
BM1:B1(90質量部)、ポリメチルペンテン系樹脂B(10質量部)、酸化防止剤(0.1質量部)を260℃に設定した押出機で混練押出した後、ストランドを水冷後チップ化することにより作製したマスターバッチ。
(C層用ポリプロピレン系樹脂、及びポリプロピレン系樹脂以外の樹脂)
C1:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:167℃、MFR=3.0g/10min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:6.8、Mz/Mw:3.6)
C2:ホモポリプロピレン系樹脂(融点:164℃、MFR=4.0g/10min、Log(M)=6.5のときの微分分布値:1.0、Mz/Mw:2.6)
(石油樹脂、及びマスターバッチ)
石油樹脂1:T-REZ HA125(JXTGエネルギー社製、軟化点125℃)
石油樹脂2:Tg80℃、臭素価3cg/g、水添率99%のポリジシクロペンタジエン
CM1:C1(70質量部)、石油樹脂1(30質量部)、酸化防止剤(0.1質量部)を240℃に設定した押出機で混練押出した後、ストランドを水冷後チップ化することにより作製したマスターバッチ。
(粒子、添加剤等)
P1:平均粒径400nmのシリカ粒子
P2:平均粒径300nmのシリカ粒子
P3:平均粒径2μmのポリメタクリル酸系重合体の架橋粒子。
(実施例1)
A層用のポリプロピレン系樹脂原料として、A1、A2を質量比が70:30となるように混合したものを用いた。また、B層(ヒートシール層)用の原料として、B1、BM1を質量比が80:20となるように混合したものを用いた。さらに、C層用の原料として、C1、C2、CM1を質量比が50:25:25となるように混合したものを用いた。各層の原料を別々の単軸押出機である押出機(A)、押出機(B)、押出機(C)にそれぞれ供給して260℃で溶融押出を行い、80μmカットの焼結フィルターで異物を除去した後、250℃に設定した配管を通過させた。その後、フィードブロックを用いてa/c/bの3層積層(未延伸のA層がa層、未延伸のC層がc層、未延伸のB層がb層)で積層比が1/13/1となるよう押出量を調節し、その溶融積層ポリマーを240℃に設定したT型スリットダイより吐出させた。その後、吐出させた溶融シートを20℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させて冷却固化し、未延伸シートを得た。
次に、該未延伸ポリプロピレンフィルムを複数のロール群にて段階的に105℃まで予熱し、そのまま周速差を設けたロール間に通し、長手方向に5.0倍に延伸した。続いて、延伸後のフィルムを70℃に保たれたロール間に通して冷却した後、再度、90℃に保たれたロール間に通し、ロール周速差を利用して5.0%の弛緩処理を施した後、室温まで冷却して一軸配向フィルムを得た。
さらに、得られた一軸配向フィルムをテンターに導き、フィルム幅方向両端部をクリップで把持したまま170℃で幅方向に10.5倍延伸した後、幅方向に10%の弛緩を与えながら165℃で熱処理を行った。その後、クリップで幅方向両端部を引き続き緊張把持したまま、140℃の冷却工程を経てフィルムをテンターの外側へ導き、フィルム幅方向両端部のクリップを解放した。次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・分/mの処理強度で、炭酸ガスと窒素ガスを15:85の体積比で混合した混合気体雰囲気下(酸素濃度:0.8体積%)でコロナ放電処理を行った上で、得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムをロールとして巻き取った。
続いて、上記の二軸配向ポリプロピレンフィルムをイオンビーム処理し、処理に連続して電子線蒸着法で酸化アルミニウム層を設けた。イオンビーム処理は、リニア型アノードレイヤータイプのイオン源を用いて、酸素雰囲気下、2.5×10-3Pa、アノード電圧2.5kV、処理面積あたりの電流値63mA・sec/mで動作させて表面処理した。無機酸化物層の形成は、蒸着材料としてアルミニウムを用い、ガス導入管から酸素ガスを吹き込みながら、投入電力、電流を調整して厚さ7nmの酸化アルミニウム層を得た。
さらに以下のようにトップコート層を積層した。トップコート層は、以下の手順で調製した塗工液を以下に述べる方法で厚さ350nmになるように塗工した。ポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度98.5%)を、質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱攪拌して固形分10質量%のポリビニルアルコール溶液を得た。また、テトラエトキシシラン8.4gとメタノール3.3gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液13.3gを攪拌しながら液滴することでテトラエトキシシラン溶液を得た。さらに、コルコート株式会社製エチルシリケート48を8.0gとメタノール12.0gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液を5.0g攪拌しながら液滴して、エチルシリケート溶液を得た。テトラエトキシシラン溶液とエチルシリケート溶液を、SiO換算固形分重量が60/40になるように混合し、無機成分溶液を得た。その後、PVAの固形分と、無機成分溶液のSiO換算固形分重量比が65/35になるように、ポリビニルアルコール溶液と、無機成分溶液を混合・攪拌し、水で希釈して固形分12%の塗工液を得た。得られた塗工液を無機化合物層上に塗工し、110℃で乾燥して、積層体を得た。得られた積層体の特性を表1-1に示す。
(実施例2)
トップコート層を積層しなかったこと、キャスティングドラムの温度を18℃としたことの他は、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表1-1に示す。
(実施例3~6、9、10)
ポリプロピレン系樹脂フィルムの原料、製膜条件を表1に示す通りに変更した他は、実施例2と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表1-1に示す。
(実施例7)
ポリプロピレン系樹脂フィルムの原料、製膜条件を表1に示す通りに変更したこと、酸化アルミニウム層を積層する前にコロナ放電処理、イオンビーム処理を行わず、代わりにA層表面に下記手順でアンダーコート層を積層したこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表1-1に示す。
<アンダーコート層の積層>
ロールとして巻き取った二軸配向ポリプロピレンフィルムのA層に対し、下記の混合塗剤をオフラインのグラビアコーターにて塗布後、110℃×30秒間の熱風乾燥を行い、厚み700nmのアンダーコート層を積層した。
<混合塗剤>
ポリエステルウレタン系水分散性樹脂である“ハイドラン”(登録商標)AP-201(DIC(株)製、固形分濃度23質量%)100質量部に対し、架橋剤としてメラミン化合物“アミディア”(登録商標)APM(DIC(株)製)を6質量部添加し、さらに架橋触媒として水溶性の酸性化合物である“キャタリスト”PTS(DIC(株)製)を1質量部添加した。続いて純水を添加し、全体の固形分濃度が10質量%となるように調整して、混合塗剤を得た。
(実施例8)
ポリプロピレン系樹脂原料として、A4を用いた。本原料を260℃に設定した単軸押出機に供給して溶融させ、80μmカットの焼結フィルターで異物を除去した後、260℃に設定した配管を通過させ、260℃に設定したT型スリットダイより吐出した。その後、吐出させた溶融シートを32℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させて冷却固化し、未延伸シートを得た。その他、製膜条件を表1に示す通りに変更した他は、実施例2と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表1-1に示す。
(比較例1)
ポリプロピレン系樹脂原料として、A5を用いた。本原料を250℃で溶融押出し、80μmカットの焼結フィルターで異物を除去した後、250℃に設定した配管を通過させ、250℃に設定したT型スリットダイより吐出させた。その後、吐出させた溶融シートを30℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させて冷却固化し、未延伸ポルプロピレンフィルムを得た。
次に、該未延伸ポリプロピレンフィルムを複数のロール群にて段階的に135℃まで予熱し、そのまま周速差を設けたロール間に通し、長手方向に4.5倍に延伸して一軸配向フィルムを得た。さらに、得られた一軸配向フィルムをテンターに導き、フィルム幅方向両端部をクリップで把持したまま160℃で幅方向に8.2倍延伸した後、幅方向に6.7%の弛緩を与えながら168℃で熱処理を行った。その後、フィルムをテンターの外側へ導き、フィルム幅方向両端部のクリップを解放した。次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・分/mの処理強度で、大気中でコロナ放電処理を行った上で、得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムをロールとして巻き取った。
続いて、蒸着源として3~5mm程度の大きさの粒子状のAl(純度99.5%)とSiO(純度99.9%)を用い、電子ビーム蒸着法で、上記のポリプロピレン系樹脂フィルム上にAlとSiOを同時に蒸着しAl-SiO系薄膜層の形成を行った。蒸着材料は、直径40mmの円形の坩堝をカーボン板で2つに仕切り、それぞれに粒状のAl、粒状のSiOを混合せずに投入した。加熱源として一台の電子銃を用い、Al2OとSiOのそれぞれを時分割で電子ビームを照射して加熱し、ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に加熱気化しAlとSiOとを混合して蒸着させた。その時の電子銃のエミッション電流は205mA、加速電圧は6kV、坩堝に投入された酸化アルミニウムには160mA×6kV相当の、酸化硅素には45mA×6kV相当の電力投入がされた。蒸着時の真空圧は1.1×10-4Paとし、フィルムを支持するロールの温度を23℃とした。薄膜層の厚みは製膜速度を変更することによって20nmとなるように蒸着し、積層体を得た。得られた積層体の特性を表1-2に示す。
(比較例2)
A6、A7、石油樹脂2、P1を質量比が92:5:3:0.15となるように混合したものを二軸押出機に供給して270℃でガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥したチップを得た。本チップを原料として用いたこと、及び製膜条件を表1に示す通りに変更したことの他は、実施例2と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表1-2に示す。
(比較例3、4)
AlOx蒸着の前の表面処理を大気中でのコロナ放電処理のみとしたこと、及びポリプロピレン系樹脂フィルムの原料、製膜条件を表1に示す通りに変更したことの他は、実施例2と同様にして積層体を得た。得られた積層体の特性を表1-2に示す。
Figure 0007243905000001
Figure 0007243905000002
表中の「混合ガス中」とは、炭酸ガスと窒素ガスを15:85の体積比で混合した混合気体雰囲気下(酸素濃度:0.8体積%)であることを意味する。
本発明の積層体は、優れた水蒸気バリア性と無機酸化物層の密着性を両立し、高い耐熱性も有することから、湿気の影響を軽減する特性が求められる用途、特に食品の包装材料用途に好適に用いることができる。

Claims (10)

  1. ポリプロピレン系樹脂フィルムと無機酸化物層を有する積層体であって、水蒸気透過率が3.0g/m/day未満であり、前記無機酸化物層の剥離力が0.7N/15mm以上であり、熱機械分析(TMA)により測定される主配向軸方向の121℃における応力をSF121℃、主配向軸方向の145℃における応力をSF145℃としたときに、SF145℃-SF121℃≦2.50MPaを満たすことを特徴とする、積層体。
  2. 主配向軸方向の145℃におけるtanδが0.25以下である、請求項1に記載の積層体。
  3. 前記無機酸化物層が、前記ポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に直接接している、請求項1または2に記載の積層体。
  4. 前記無機酸化物層の表面のSt値が700nm以下である、請求項1または2に記載の積層体。
  5. 前記無機酸化物層の表面のSku値が300以下である、請求項1または2に記載の積層体。
  6. 主配向軸方向のF5値をF5(x)、主配向軸直交方向のF5値をF5(y)とした際、F5(x)/F5(y)が1.3以上5.0以下である、請求項1または2に記載の積層体。
  7. 酸素透過率が60cc/m/day以下である、請求項1または2に記載の積層体。
  8. 包装材に用いられる、請求項1または2に記載の積層体。
  9. 請求項1または2に記載の積層体を有する、包装材。
  10. 請求項9に記載の包装材により内容物が梱包されている、梱包体。
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