A.第1実施形態:
A-1.静電チャック100の構成:
図1は、第1実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、図2は、第1実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図であり、図3は、第1実施形態における静電チャック100のXY断面構成を概略的に示す説明図である。図2には、図3のII-IIの位置における静電チャック100のXZ断面構成が示されており、図3には、図2のIII-IIIの位置における静電チャック100のXY断面構成が示されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
静電チャック100は、対象物(例えば半導体ウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウェハW(以下、「ウェハW」という)を固定するために使用される。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置された板状部材10およびベース部材20を備える。板状部材10とベース部材20とは、板状部材10の下面S2(図2参照)とベース部材20の上面S3とが、後述する接合部30を挟んで上記配列方向に対向するように配置される。すなわち、ベース部材20は、ベース部材20の上面S3が板状部材10の下面S2側に位置するように配置される。
板状部材10は、上述した配列方向(Z軸方向)に略直交する略円形平面状の上面(以下、「吸着面」という)S1を有する部材であり、例えばセラミックス(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)により形成されている。板状部材10の直径は例えば50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、板状部材10の厚さは例えば1mm~10mm程度である。板状部材10の吸着面S1は、特許請求の範囲における第1の表面に相当し、板状部材10の下面S2は、特許請求の範囲における第2の表面に相当し、Z軸方向は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。また、本明細書では、Z軸方向に直交する方向を「面方向」という。
図2に示すように、板状部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されたチャック電極40が配置されている。Z軸方向視でのチャック電極40の形状は、例えば略円形である。チャック電極40に電源(図示せず)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWが板状部材10の吸着面S1に吸着固定される。上述の通り、板状部材10の吸着面S1は、Z軸方向に略直交する平面状の表面である。ただし、本実施形態では、板状部材10の吸着面S1に複数の微小な突起が形成されており、ウェハWが吸着面S1に吸着固定された状態では、吸着面S1とウェハWの表面との間にわずかな空間が存在する。
ベース部材20は、例えば板状部材10と同径の、または、板状部材10より径が大きい円形平面の板状部材であり、例えば金属(アルミニウムやアルミニウム合金等)のような導電性を有する材料により形成されている。ベース部材20の直径は例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm)であり、ベース部材20の厚さは例えば20mm~40mm程度である。ベース部材20の上面S3は、特許請求の範囲における第3の表面に相当する。
ベース部材20は、板状部材10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置された接合部30によって、板状部材10に接合されている。接合部30は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂材料(接着材料)により構成されている。接合部30の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度である。なお、接合部30は、板状部材10の下面S2の全面に配置されていてもよく、または、下面S2の一部のみに配置されていてもよい。
ベース部材20の内部には冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却され、接合部30を介したベース部材20と板状部材10との間の伝熱(熱引き)により板状部材10が冷却され、板状部材10の吸着面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度分布の制御が実現される。
また、図2に示すように、静電チャック100は、板状部材10とウェハWとの間の伝熱性を高めてウェハWの温度分布の制御性をさらに高めるため、板状部材10の吸着面S1とウェハWの表面との間に存在する空間に不活性ガス(例えば、ヘリウムガス(Heガス))を供給するための構成を備えている。以下、ヘリウムガスを供給するための構成について詳述する。
A-2.ヘリウムガスを供給するための詳細構成:
図1~図5を参照して、ヘリウムガスを供給するための詳細構成について説明する。図4には、図2のX1部のXZ断面構成が拡大して示されている。図5には、図4のV-Vの位置における静電チャック100のXY断面構成が示されている。なお、図5に示す点線は、後述の説明のために便宜上図示された点線である。
図2に示すように、ベース部材20の下面S4には、図示しないヘリウムガス源と接続されるガス源接続孔221が形成されており、ベース部材20の上面S3には、ガス供給孔222が開口している。ベース部材20の内部には、ガス源接続孔221とガス供給孔222とを連通するガス供給流路220が形成されている。
また、図2および図4に示すように、接合部30には、ベース部材20に形成されたガス供給孔222に連通すると共に、接合部30を厚さ方向(上下方向)に貫通する貫通孔310が形成されている。
また、図1および図2に示すように、板状部材10の吸着面S1には、8つのガス噴出孔102が開口している。また、板状部材10の内部には、板状部材10に形成された後述する凹部140の底面144(図4)と、板状部材10の吸着面S1に開口するガス噴出孔102と、を接続するガス噴出流路110が形成されている。ガス噴出流路110は、凹部140の底面144から上方に延びる第1の縦流路111(図2~図5)と、第1の縦流路111と連通すると共に面方向に環状に延びる横流路114(図2および図3)と、横流路114から上方に延びてガス噴出孔102に連通する第2の縦流路112(図2)とから構成されている。なお、本実施形態では、1つの凹部140の底面144に、3つの第1の縦流路111が開口している。また、図2および図3では、これらの3つの第1の縦流路111を、便宜上1つの第1の縦流路111として図示している。
なお、本実施形態の静電チャック100では、ヘリウムガスの供給経路が2系統存在する。すなわち、図3に示すように、板状部材10の内部には2つの横流路114が形成されている。図2および図3に示すように、2つの横流路114の内の板状部材10の中心に近い方の横流路114は、第1の縦流路111を介して、図2および図4に示す凹部140と連通しており、かつ、第2の縦流路112を介して、吸着面S1に開口する8つのガス噴出孔102の内の板状部材10の中心に近い4つのガス噴出孔102と連通している。また、2つの横流路114の内の板状部材10の中心から遠い方の横流路114は、第1の縦流路111を介して、図示しない凹部140と連通しており、かつ、第2の縦流路112を介して、吸着面S1に開口する8つのガス噴出孔102の内の板状部材10の中心から遠い4つのガス噴出孔102と連通している。
また、図2および図4に示すように、板状部材10の下面S2には、板状部材10とベース部材20との相対位置に多少の誤差があっても、ベース部材20に形成されたガス供給流路220と板状部材10に形成されたガス噴出流路110とが確実に連通するように、凹部140が形成されている。凹部140は、接合部30に形成された貫通孔310に連通している。なお、凹部140が貫通孔310に連通しているとは、凹部140内に他の部材(例えば、後述の充填部材160および接着層)が存在しない状態において凹部140が貫通孔310に連通していることを意味する。具体的には、凹部140は、接合部30の厚さ方向視で、貫通孔310と重なるように形成されている。
凹部140は、吸着面S1に近い側の内面である底面144と、凹部140の開口部146(下面S2に開口する孔)の周縁と底面144の周縁とをつなぐ内面である側面142とを有する。すなわち、凹部140を画定する板状部材10の内面は底面144と側面142とを有する。底面144と側面142とは、特許請求の範囲における凹部を画定する板状部材の内面に相当する。凹部140の底面144には、ガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)が開口している。本実施形態の板状部材10では、このような凹部140が形成されているため、板状部材10に対するベース部材20の面方向における相対位置が、ベース部材20に形成されたガス供給流路220が凹部140に対向するような範囲にあれば、ガス供給流路220とガス噴出流路110との連通が確保される。
本実施形態では、凹部140の形状は、Z軸方向において、凹部140の上部の内の外周部が上方向に突出した形状である。換言すれば、Z軸方向において、凹部140の底面144には段差が形成されており、底面144における内周側の部分(以下、「浅底部SB」という)の位置が、底面144における浅底部SBの外側に隣接する部分(以下、「深底部DB」という)の位置より、下側となっている。これにより、Z軸方向において、深底部DBの位置は、凹部140の底面144において第1の縦流路111が開口している位置より上側に位置することとなる。浅底部SBは、特許請求の範囲における第1の底面に相当し、深底部DBは、特許請求の範囲における第2の底面に相当する。
図4および図5に示すように、凹部140の底面144における浅底部SBは、例えば、Z軸方向に略直交し、かつ、Z軸方向視において略円形である。具体的には、Z軸方向視において、浅底部SBの直径Wsは例えば、0.5mm~9.5mm程度である。また、Z軸方向において、浅底部SBの開口部146からの深さLs(以下、「浅底部SBの深さLs」ともいう)は例えば、0.5mm~9.5mm程度である。ここで、浅底部SBの深さLsは、Z軸方向において、凹部140の開口部146によって構成される面に含まれる任意の点から、浅底部SBに含まれる任意の点までの距離である。また、全てのガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)は、底面144の内の浅底部SBに開口している。換言すれば、Z軸方向視において、全ての第1の縦流路111の外縁は、浅底部SBの外縁に取り囲まれている。具体的には、図5に示すように、3つのガス噴出流路110の外縁の全てを含む範囲Rが、浅底部SBの外縁に取り囲まれている。
図4および図5に示すように、凹部140の底面144における深底部DBは、例えば、Z軸方向に略直交し、かつ、Z軸方向視において略円環形状である。換言すれば、深底部DBは、Z軸方向視において、浅底部SBの外周を取り囲んでいる。具体的には、Z軸方向視において、深底部DBの外径Wtは例えば、1mm~10mm程度である。また、Z軸方向において、深底部DBの径方向における幅Wd(すなわち、底面144の中心を通る直線方向における長さ、以下、「深底部DBの幅Wd」ともいう)は例えば、0.5mm~3mm程度である。また、Z軸方向において、深底部DBの開口部146からの深さLd(以下、「深底部DBの深さLd」ともいう)は例えば、1mm~10mm程度であり、浅底部SBの深さLsより深い。浅底部SBの深さLsと深底部DBの深さLdとの差Laは、後述する凹部140における沿面距離を確保する観点から、例えば、0.5mm以上であることが好ましい。また、当該差Laは、Z軸方向における板状部材10の厚さを確保する観点、または、板状部材10の吸着面S1における温度分布への影響を抑制する観点から、例えば、3mm以下であることが好ましい。当該差Laは、より好ましくは、0.5mm~2.5mmであり、さらに好ましくは、1mm~2mmである。なお、Z軸方向において、深底部DBと吸着面S1との間の距離は、2mm程度確保されていることが好ましい。ここで、深底部DBの深さLdは、浅底部SBの深さLsと同様に、Z軸方向において、凹部140の開口部146によって構成される面に含まれる任意の点から、深底部DBに含まれる任意の点までの距離である。また、いずれのガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)も、底面144の内の深底部DBに開口していない。換言すれば、Z軸方向視において、全ての第1の縦流路111の外縁は、深底部DBの内縁の内側に位置している。具体的には、図5に示すように、3つのガス噴出流路110の外縁の全てを含む範囲Rが、深底部DBの内縁の内側に位置している。また、Z軸方向視において、深底部DBの外縁は、開口部146の外縁と略一致する。
図2および図4に示すように、板状部材10に形成された凹部140には、絶縁材料により形成され、かつ、通気性を有する充填部材(「通気性プラグ」とも呼ばれる)160が充填されている。充填部材160は比較的気孔率が高いため、充填部材160の熱伝導率は、比較的緻密な板状部材10の熱伝導率より低い。充填部材160の形成材料としては、例えば、セラミックス多孔質体やグラスファイバー、耐熱性ポリテトラフルオロエチレン樹脂スポンジ等を用いることができる。
充填部材160は、凹部140の開口部146から露出する(開口部146を介して露出する)露出面166と、凹部140の底面144に対向する底面対向面164と、露出面166の周縁と底面対向面164の周縁とをつなぐ側面162とを有する。露出面166と底面対向面164と側面162とは、特許請求の範囲における充填部材の表面に相当する。なお、本実施形態では、充填部材160の形状は、Z軸方向において、充填部材160の上部の内の外周部が上方向に突出した形状である。換言すれば、Z軸方向において、充填部材160の底面対向面164には、凹部140と同様の段差が形成されており、底面対向面164の内の、凹部140の底面144における浅底部SBに対向する部分(以下、「浅部SP」という)の位置が、底面対向面164の内の、凹部140の底面144における深底部DBに対向する部分であって、浅部SPの外側に隣接する部分(以下、「深部DP」という)の位置より、下側となっている。これにより、Z軸方向において、深部DPの位置は、充填部材160の底面対向面164において、Z軸方向視で第1の縦流路111が開口している位置に対向する位置より上側に位置することとなる。本実施形態において、充填部材160は、Z軸方向視において、浅部SPに重なる部分である内側部IPと、深部DPに重なる部分である外側部OPとが一体の部材として形成されている。
図4および図5に示すように、充填部材160の底面対向面164における浅部SPは、例えば、Z軸方向に略直交し、かつ、Z軸方向視において略円形である。具体的には、Z軸方向視において、浅部SPの直径は、凹部140の底面144における浅底部SBの直径Wsと略同一であり、例えば、0.5mm~9.5mm程度である。また、Z軸方向において、浅部SPを有する内側部IPの長さは、底面144における浅底部SBの深さLsと略同一であり、例えば、0.5mm~9.5mm程度である。また、全てのガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)は、底面対向面164の内の浅部SPに対向している。
図4および図5に示すように、充填部材160の底面対向面164における深部DPは、例えば、Z軸方向に略直交し、かつ、Z軸方向視において略円環形状である。換言すれば、深部DPは、Z軸方向視において、浅部SPの外周を取り囲んでいる。具体的には、Z軸方向視において、深部DPの外径は、凹部140の底面144における深底部DBの外径Wtと略同一であり、例えば、1mm~10mm程度である。また、Z軸方向において、深部DPの径方向における幅(すなわち、底面対向面164の中心を通る直線方向における長さ)は、凹部140の底面144における深底部DBの幅Wdと略同一であり、例えば、0.5mm~3mm程度である。また、Z軸方向において、深部DPを有する外側部OPの長さは、底面144における深底部DBの深さLdと略同一であり、例えば、1mm~10mm程度であり、浅部SPの長さより長い。また、いずれのガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)も、底面対向面164の内の深部DPに対向していない。また、Z軸方向視において、深部DPの外縁は、露出面166の外縁と略一致する。
上述したように、凹部140の形状と、凹部140に充填される充填部材160の形状とは略一致している。換言すれば、充填部材160における底面対向面164は、凹部140を画定する底面144と対向しており、かつ、底面144に沿っている。また、充填部材160における側面162は、凹部140を画定する側面142と対向しており、かつ、側面142に沿っている。
凹部140の側面142と充填部材160の側面162との間には、接着層(図示せず)が配置されており、この接着層によって、充填部材160が板状部材10に接合されている。接着層は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤により構成されている。本実施形態において、接着層の熱伝導率は、充填部材160の熱伝導率より高く、かつ、板状部材10の熱伝導率より低い。なお、本実施形態では、充填部材160の底面対向面164は凹部140の底面144に接しており、充填部材160の底面対向面164と凹部140の底面144との間には接着層は配置されていない。
このように、凹部140内に絶縁材料により形成された充填部材160が充填され、凹部140の側面142と充填部材160の側面162との間に接着層が配置されることにより、凹部140内を経由した板状部材10とベース部材20との間の放電や凹部140内でのヘリウムガスの放電の発生が抑制される。
図2および図4に示すように、図示しないヘリウムガス源から供給されたヘリウムガスが、ガス源接続孔221からベース部材20内部のガス供給流路220内に流入すると、流入したヘリウムガスは、ガス供給流路220からガス供給孔222を経て接合部30の貫通孔310内に流入し、さらに、凹部140内に充填された充填部材160の内部を通過して板状部材10の内部のガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111内に流入し、横流路114および第2の縦流路112を経て吸着面S1に形成された各ガス噴出孔102から噴出する。このようにして、吸着面S1とウェハWの表面との間に存在する空間に、ヘリウムガスが供給される。
A-3.静電チャック100の製造方法:
本実施形態の静電チャック100の製造方法は、例えば以下の通りである。はじめに、板状部材10とベース部材20とを準備する。板状部材10およびベース部材20は、公知の製造方法によって製造可能である。例えば、板状部材10は以下の方法で製造される。すなわち、複数のセラミックスグリーンシート(例えばアルミナグリーンシート)を準備し、各セラミックスグリーンシートに、チャック電極40や各ガス流路等を構成するための孔開け加工やメタライズインクの印刷等を行い、その後、複数のセラミックスグリーンシートを積層して熱圧着し、所定の円板形状にカットした上で焼成し、最後に研磨加工等を行うことにより、板状部材10が製造される。なお、本実施形態では、ガス噴出流路110(第1の縦流路111、横流路114、第2の縦流路112)は、セラミックスグリーンシートへの上記孔開け加工を行うことにより形成される。
次に、板状部材10の下面S2に、凹部140を形成する。凹部140は、例えば研磨加工によって形成される。凹部140は、ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111に連通するように形成される。さらに、凹部140の底面144に、深底部DBを形成する。深底部DBについても、凹部140と同様に、例えば研磨加工によって形成される。具体的には、深底部DBは、凹部140の底面144の内の外周部を円環形状となるように、更に研磨加工することによって形成される。
次に、凹部140の形状に沿うように加工された充填部材160を準備する。その後、準備された充填部材160を、板状部材10の凹部140内に設置する。具体的には、絶縁材料により形成された充填部材160の側面162に接着剤を塗布し、充填部材160を凹部140内に挿入する。このとき、充填部材160は、充填部材160の底面対向面164が凹部140の底面144(浅底部SBおよび深底部DB)に接触するまで押し込まれる。充填部材160の挿入が完了した時点では、充填部材160の側面162と凹部140の側面142との間に接着剤が配置され、充填部材160の底面対向面164と凹部140の底面144(浅底部SBおよび深底部DB)との間には接着剤が存在しない状態となる。その後、接着剤を硬化させて接着層を形成する。以上のようにして、凹部140内に充填部材160が設置される。
次に、板状部材10とベース部材20とを接合する。具体的には、板状部材10の下面S2とベース部材20の上面S3とを、接着剤を介して貼り合わせた状態で、接着剤を硬化させる硬化処理を行うことにより、接合部30を形成する。なお、板状部材10とベース部材20との間に接着剤を配置する際には、上述した貫通孔310に対応する孔を設け、接着剤の硬化処理によってできる接合部30に貫通孔310が形成されるようにする。以上の工程により、上述した構成の静電チャック100の製造が完了する。
A-4.第1実施形態の効果:
以上説明したように、第1実施形態の静電チャック100は、Z軸方向に略直交する平面状の吸着面S1と、吸着面S1とは反対側の下面S2と、を有する板状部材10と、上面S3を有し、上面S3が板状部材10の下面S2側に位置するように配置された、導電性を有するベース部材20と、を備え、板状部材10の吸着面S1上にウェハWを保持する静電チャック100である。また、本実施形態の静電チャック100では、板状部材10には、吸着面S1に開口するガス噴出流路110と、下面S2に開口する開口部146と、ガス噴出流路110に連通する凹部140と、が形成されている。本実施形態の静電チャック100において、凹部140を画定する板状部材10の内面(底面144)は、ガス噴出流路110が開口する浅底部SBと、Z軸方向視において、浅底部SBの外周を囲み、かつ、Z軸方向において、凹部140の開口部146からの深さLsが、浅底部SBより深い深底部DBと、を有する。また、本実施形態の静電チャック100では、ベース部材20には、ガス噴出流路110に連通するガス供給流路220が内部に形成されている。また、本実施形態の静電チャック100では、凹部140内には、通気性を有し、かつ、絶縁材料により形成された充填部材160が充填されている。
本実施形態の静電チャック100は、上記構成であるため、以下に説明するように、静電チャック100において短絡の発生を抑制することができる。
図6は、比較例の静電チャック100Xの構成を概略的に示す説明図である。図6には、比較例の静電チャック100Xの構成の内、図4に示す部分(X1部)と同等の部分の構成が拡大して示されている。図6に示す比較例の静電チャック100Xは、図4に示す第1実施形態の静電チャック100と比較して、凹部140および充填部材160の形状が異なる。具体的には、比較例の静電チャック100Xでは、凹部140(凹部140の内部空間)の形状は、略円柱状である。すなわち、凹部140の底面144は面一である。また、底面144の中心を通る凹部140のXZ断面(すなわち、図6に示す断面)の形状は、矩形である。比較例の静電チャック100Xにおける凹部140は、このような構成であるため、Z軸方向において、凹部140の底面144には段差が形成されておらず、また、凹部140の底面144における内周側にガス噴出流路110が開口する浅底部と、底面144における浅底部の外側に隣接する深底部と、の両方を有する構成でもない。
なお、比較例の静電チャック100Xにおける凹部140の開口部146の大きさは、第1実施形態の静電チャック100における凹部140の開口部146の大きさと同一である。そのため、比較例の静電チャック100Xにおける、凹部140の底面144に形成された第1の縦流路111(ガス噴出流路110)の外縁から、凹部140の開口部146までの最短距離(すなわち、沿面距離)は、第1実施形態の静電チャック100における当該最短距離(沿面距離)より短いこととなる。
図6に示す比較例の静電チャック100Xは、上述した構成であるため、板状部材10の凹部140における導電経路は、導電経路ERとなり、第1実施形態の静電チャック100の凹部140における導電経路ERより短くなる。このため、比較例の静電チャック100Xでは、凹部140において十分な沿面距離を確保することが困難であり、静電チャック100Xにおいて短絡の発生を抑制することができないおそれがある。
図7は、他の比較例の静電チャック100Yの構成を概略的に示す説明図である。図7には、比較例の静電チャック100Yの構成の内、図4に示す部分(X1部)と同等の部分の構成が拡大して示されている。図7に示す比較例の静電チャック100Yは、図4に示す第1実施形態の静電チャック100と比較して、凹部140および充填部材160の形状が異なる。具体的には、比較例の静電チャック100Yでは、凹部140(凹部140の内部空間)の形状が、底面144に近い一部分(以下、「底面近傍部P11」という)では、略円柱状であり、残りの一部分(以下、「開口近傍部P12」という)では、底面近傍部P11より径の大きい略円柱状である。そのため、比較例の静電チャック100Yでは、底面144の中心を通る凹部140のXZ断面(すなわち、図7に示す断面)において、側面142を表す線が階段状になっている(すなわち、側面142を表す線が面方向に平行な部分を有する)。比較例の静電チャック100Yにおける凹部140は、このような構成であるため、凹部140の上部の内の外周部が上方向に突出した形状ではなく、また、Z軸方向において、底面近傍部P11の外周部分における上端部の位置は、第1の縦流路111が開口している凹部140の底面144の位置より上側に位置する構成でもない。
なお、比較例の静電チャック100Yにおける凹部140の開口部146の大きさは、第1実施形態の静電チャック100における凹部140の開口部146の大きさと同一である。そのため、比較例の静電チャック100Yにおける、凹部140の底面144に形成された第1の縦流路111(ガス噴出流路110)の外縁から、凹部140の開口部146までの最短距離(沿面距離)は、比較例の静電チャック100Xにおける当該最短距離(沿面距離)と同等である。すなわち、比較例の静電チャック100Yにおける上記最短距離(沿面距離)についても、第1実施形態の静電チャック100における上記最短距離(沿面距離)より短いこととなる。
図7に示す比較例の静電チャック100Yは、上述した構成であるため、板状部材10の凹部140における導電経路は、導電経路ERとなり、第1実施形態の静電チャック100の凹部140における導電経路ERより短くなる。このため、比較例の静電チャック100Yでは、凹部140において十分な沿面距離を確保することが困難であり、静電チャック100Yにおいて短絡の発生を抑制することができないおそれがある。
これに対し、図4に示す第1実施形態の静電チャック100では、凹部140の底面144は、第1の縦流路111(ガス噴出流路110)が開口する浅底部SBと、Z軸方向視において、浅底部SBの外周を囲み、かつ、Z軸方向において、凹部140の開口部146からの深さが、浅底部SBより深い深底部DBと、を有している。このような構成であるため、板状部材10の凹部140における導電経路は、導電経路ERとなる。このため、第1実施形態の静電チャック100において、板状部材10の凹部140における導電経路ERの距離は、上述した比較例の静電チャック100Xおよび静電チャック100Yにおける導電経路ERの距離と比較して、浅底部SBの深さLsと深底部DBの深さLdとの差Laの2倍の距離長くなる。従って、第1実施形態の静電チャック100によれば、板状部材10の凹部140の内面(より具体的には、底面144)における沿面距離を長くすることができ、ひいては、静電チャック100において短絡の発生を抑制することができる。
また、第1実施形態の静電チャック100は、充填部材160が、凹部140を画定する板状部材10の内面(底面144および側面142)の全体と対向しており、かつ、充填部材160の表面の内の上記内面に対向する表面(底面対向面164および側面162)は、凹部140の内面(底面144および側面142)に沿った形状を有している。
第1実施形態の静電チャック100の構成において、充填部材160の表面(底面対向面164および側面162)が導通経路となることがある。第1の実施形態の静電チャック100では、充填部材160の表面(底面対向面164および側面162)が凹部140を画定する板状部材10の内面(底面144および側面142)に沿った形状を有しているため、当該構成における導通経路の距離は、充填部材160の表面が凹部140の内面に沿っていない形状である構成における導通経路の距離より長い。具体的には、第1実施形態の静電チャック100において、充填部材160における導電経路ERの距離は、例えば、充填部材160がその外周部において上方向に突出した部分を有さない略円柱状である構成における導通経路の距離より長い。すなわち、充填部材160における導電経路ERの距離は、板状部材10の凹部140における導電経路ERの距離と同様に、Z軸方向において、浅部SPと深部DPとの差Laの2倍の距離長くなる。従って、第1実施形態の静電チャック100によれば、充填部材160の表面(より具体的には、底面対向面164)における沿面距離を長くすることができ、ひいては、静電チャック100において短絡の発生をより効果的に抑制することができる。
また、第1実施形態の静電チャック100では、充填部材160が、一体の部材として形成されている。このため、充填部材160が導通経路となる場合において、充填部材160が複数の部材から形成される構成と比較して、当該複数の部材間を通る導通経路をなくすことができるため、充填部材160におけるより長い沿面距離を確保することができる。従って、第1実施形態の静電チャック100によれば、静電チャック100において短絡の発生をより効果的に抑制することができる。
B.第2実施形態:
図8は、第2実施形態の静電チャック100aの構成を概略的に示す説明図である。図8には、第2実施形態の静電チャック100aの構成の内、図4に示す部分(X1部)と同等の部分の構成が拡大して示されている。図9には、図8のIX-IXの位置における静電チャック100のXY断面構成が示されている。なお、図9に示す点線は、後述の説明のために便宜上図示された点線である。以下では、第2実施形態の静電チャック100aの構成の内、上述した第1実施形態の静電チャック100の構成(図4等参照)と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
図8に示すように、第2実施形態の静電チャック100aでは、板状部材10に形成された凹部140内に、複数の部材が充填されている点で、上述した第1実施形態の静電チャック100の構成と異なる。具体的には、第2実施形態の静電チャック100aでは、凹部140内に、内側充填部材160aと外側充填部材170とが充填されている。内側充填部材160aは、Z軸方向視において、底面144の浅底部SBに重なる部分であり、外側充填部材170は、Z軸方向視において、底面144の深底部DBに重なる部分である。内側充填部材160aは、特許請求の範囲における内側部に相当し、外側充填部材170は、特許請求の範囲における外側部に相当する。
内側充填部材160aは、凹部140の開口部146から露出する(開口部146を介して露出する)露出面166と、凹部140の底面144の内の浅底部SBに対向する底面対向面164と、露出面166の周縁と底面対向面164の周縁とを繋ぐ側面162とを有する。なお、本実施形態では、内側充填部材160aの形状は略円柱状である。Z軸方向視において、内側充填部材160aの直径および長さは、第1実施形態における充填部材160の内側部IPの直径および長さと略同一である。また、全てのガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)は、内側充填部材160aにおける底面である底面対向面164に対向している。
内側充填部材160aは、第1実施形態における充填部材160と同様に、絶縁材料により形成され、かつ、通気性を有する材料により形成されている。内側充填部材160aは、第1実施形態における充填部材160と同様に、比較的気孔率が高く、内側充填部材160aの熱伝導率は、比較的緻密な板状部材10の熱伝導率より低い。内側充填部材160aの形成材料としては、第1実施形態における充填部材160と同様の材料を用いることができる。
外側充填部材170は、凹部140の開口部146から露出する(開口部146を介して露出する)露出面176と、凹部140の底面144の内の深底部DBに対向する底面対向面174と、露出面176の内周縁と底面対向面174の内周縁とを繋ぐ内側面171と、露出面176の外周縁と底面対向面174の外周縁とを繋ぐ外側面172とを有する。なお、本実施形態では、外側充填部材170の形状は円筒状である。Z軸方向視において、外側充填部材170の外径、長さおよび幅は、第1実施形態における充填部材160の外側部OPの外径、長さおよび幅と略同一である。また、Z軸方向視において、外側充填部材170の内径は、内側充填部材160aの直径と略同一である。また、いずれのガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)も、外側充填部材170における底面である底面対向面174に対向していない。
外側充填部材170は、内側充填部材160aの熱伝導率より高い熱伝導率を有する材料により形成されている。外側充填部材170の形成材料としては、例えば、多孔質性または緻密性を有する、セラミックスや絶縁性を有する樹脂等を用いることができる。
外側充填部材170は、内側充填部材160aの側面162と外側充填部材170の内側面171との間に配置された接着剤(図示せず)によって、内側充填部材160aに接合されている。当該接着剤としては、絶縁性を有する接着剤であれば特に限定されない。
板状部材10の吸着面S1の内、凹部140内に充填された充填部材により、Z軸方向視で凹部140と重なる領域付近は、温度特異点となることがあり、また、当該領域付近では、温度分布制御の応答性が低下することがある。第2実施形態の静電チャック100aでは、凹部140内に充填される充填部材が、Z軸方向視において、凹部140の底面144における浅底部SBに重なる内側充填部材160aと、底面144における深底部DBに重なる外側充填部材170と、を含んでいる。また、外側充填部材170の熱伝導率が、内側充填部材160aの熱伝導率より高い。このため、外側充填部材170が設けられた箇所では板状部材10とベース部材20との間における伝熱性の低下を抑制することができる。従って、本実施形態の静電チャック100aによれば、静電チャック100aにおいて短絡の発生を抑制することができるとともに、板状部材10の吸着面S1における温度分布の均一性の低下を抑制しつつ、温度分布制御の応答性の低下を抑制することができる。
C.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上記第1実施形態において、充填部材160は、板状部材10に形成された凹部140の内面に沿った形状を有しているが、これに限定されない。例えば、充填部材160が深部DPを有していない形状、すなわち、略円柱状であってもよい。上記第2実施形態においても、同様に、内側充填部材160aおよび外側充填部材170が凹部140の内面に沿った形状を有していなくてもよい。例えば、外側充填部材170は、Z軸方向において、内側充填部材160aの長さと略同一の長さであってもよい。
上記各実施形態において、板状部材10に形成された凹部140における深底部DBは、Z軸方向視において、凹部140の最外周部に形成されているが、これに限定されない。例えば、Z軸方向において、深底部DBは、凹部140の外周部より内側に形成されていてもよい。このような構成において、深底部DBの上記外周部を浅底部SBと同程度の深さとすることができる。また、上記各実施形態において、Z軸方向における、凹部140に形成される深底部DBの数は、1つに限定されず、複数であってもよい。例えば、Z軸方向において、凹部140に形成された深底部DBの外周に、更なる深底部DBが形成されていてもよい。また、上記各実施形態において、Z軸方向視において、凹部140における深底部DBの形状は、連続した円環状であるが、これに限定されず他の形状であってもよく、また連続していなくてもよい。
上記各実施形態における凹部140および充填部材160(内側充填部材160aおよび外側充填部材170)の構成は、板状部材10に形成された全ての凹部140および充填部材160(内側充填部材160aおよび外側充填部材170)において採用されていてもよく、また、その一部において採用されていてもよい。
上記各実施形態において、板状部材10に形成された凹部140に開口する第1の縦流路111(ガス噴出流路110)の数は3つであるが、これに限定されず、1つや2つ、または、4つ以上であってもよい。
また、上記各実施形態において、板状部材10の内部に、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されたヒータ電極を設けてもよい。このような構成では、ヒータ電極に電源から電圧が印加されると、ヒータ電極が発熱することによって板状部材10が温められ、板状部材10の吸着面S1に保持されたウェハWが温められる。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ヒータ電極は、板状部材10の内部ではなく、板状部材10のベース部材20側(板状部材10と接合部30との間)に配置されるとしてもよい。
また、上記各実施形態では、板状部材10とベース部材20とが、接合部30により接合されるとしているが、板状部材10とベース部材20との接合方法として、他の方法(例えば、ろう付けや機械的接合等)が採用されてもよい。
また、上記各実施形態では、板状部材10の内部に1つのチャック電極40が設けられた単極方式が採用されているが、板状部材10の内部に一対のチャック電極40が設けられた双極方式が採用されてもよい。また、上記各実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。
また、上記各実施形態における静電チャック100の製造方法はあくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記各実施形態では、凹部140が、板状部材10の製造後の研磨加工によって形成されるとしているが、凹部140が、焼成前のセラミックスグリーンシートへの孔開け加工によって形成されるとしてもよい。
また、本発明は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャック100に限らず、板状部材とベース部材とを備え、板状部材の表面上に対象物を保持する他の保持装置(例えば、真空チャックやヒータ装置等)にも適用可能である。