A.実施形態:
A-1.静電チャック10の構成:
図1は、本実施形態における静電チャック10の外観構成を概略的に示す斜視図であり、図2は、本実施形態における静電チャック10のXZ断面構成を概略的に示す説明図であり、図3は、本実施形態における静電チャック10のXY断面構成を概略的に示す説明図である。図2には、図3のII-IIの位置における静電チャック10のXZ断面構成が示されており、図3には、図2のIII-IIIの位置における静電チャック10のXY断面構成が示されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック10は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
静電チャック10は、対象物(例えば半導体ウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されたセラミックス部材100およびベース部材200を備える。セラミックス部材100とベース部材200とは、セラミックス部材100の下面S2とベース部材200の上面S3とが上記配列方向に対向するように配置される。セラミックス部材100の下面S2は、特許請求の範囲における第2の表面に相当し、ベース部材200の上面S3は、特許請求の範囲における第3の表面に相当する。
セラミックス部材100は、例えば円形平面の板状部材であり、セラミックス(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)により形成されている。セラミックス部材100の直径は例えば50mm~500mm程度(通常は200mm~450mm程度)であり、セラミックス部材100の厚さは例えば1mm~10mm程度である。
セラミックス部材100の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された一対のチャック電極400が設けられている(図2参照)。一対のチャック電極400に電源(図示せず)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によって半導体ウェハWがセラミックス部材100における下面S2とは反対側の表面(以下、「吸着面S1」という)に吸着固定される。セラミックス部材100の吸着面S1は、上述した配列方向(Z軸方向)に略直交する略平面状の表面である。ただし、本実施形態では、セラミックス部材100の吸着面S1に複数の微小な突起が形成されており、半導体ウェハWが吸着面S1に吸着固定された状態では、吸着面S1と半導体ウェハWの表面との間にわずかな空間が存在する。セラミックス部材100の吸着面S1は、特許請求の範囲における第1の表面に相当し、Z軸方向は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。また、本明細書では、Z軸に直交する方向(すなわち、吸着面S1に平行な方向)を「面方向」という。
ベース部材200は、例えばセラミックス部材100と同径の、または、セラミックス部材100より径が大きい円形平面の板状部材であり、例えば金属(アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されている。ベース部材200の直径は例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~470mm)であり、ベース部材200の厚さは例えば20mm~40mm程度である。
ベース部材200の内部には冷媒流路210が形成されている(図2参照)。冷媒流路210に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材200が冷却され、接着層300を介したベース部材200とセラミックス部材100との間の伝熱によりセラミックス部材100が冷却され、セラミックス部材100の吸着面S1に保持された半導体ウェハWが冷却される。これにより、半導体ウェハWの温度制御が実現される。
セラミックス部材100とベース部材200とは、セラミックス部材100の下面S2とベース部材200の上面S3との間に配置された接着層300によって互いに接合されている。接着層300は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤により構成されている。接着層300の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度である。接着層300は、特許請求の範囲における接合部に相当する。
A-2.ガスを供給するための構成:
また、静電チャック10は、セラミックス部材100と半導体ウェハWとの間の伝熱性を高めて半導体ウェハWの温度分布の均一性をさらに高めるため、セラミックス部材100の吸着面S1と半導体ウェハWの表面との間に存在する空間にガスを供給するための構成を備えている。なお、本実施形態では、このようなガスとして、ヘリウムガス(Heガス)が用いられる。以下、ヘリウムガスを供給するための構成について、図1~図3、および、図2のX1部を拡大して示す図4を参照して説明する。
A-2-1.ベース部材200におけるガスを供給するための構成:
図2および図4に示すように、ベース部材200の下面S4には、図示しないヘリウムガス源と接続されるガス源接続孔221が形成されており、ベース部材200の上面S3には、ガス供給孔222が開口している。ベース部材200の内部には、ガス源接続孔221とガス供給孔222とを連通するガス供給流路220が形成されている。ガス源接続孔221とガス供給孔222とガス供給流路220とは、特許請求の範囲における第2の流路に相当する。
A-2-2.接着層300におけるガスを供給するための構成:
また、図2および図4に示すように、接着層300には、ベース部材200に形成されたガス供給孔222に連通すると共に、接着層300を厚さ方向(上下方向)に貫通する貫通孔310が形成されている。
A-2-3.セラミックス部材100におけるガスを供給するための構成:
また、図1および図2に示すように、セラミックス部材100の吸着面S1には、8つのガス噴出孔102が開口している。また、セラミックス部材100の内部には、セラミックス部材100に形成された後述する収容室140の上面144(図4)と、セラミックス部材100の吸着面S1に開口するガス噴出孔102とを接続するガス噴出流路110が形成されている。ガス噴出流路110は、収容室140の上面144から上方に延びる第1の縦流路111(図2~図4)と、第1の縦流路111と連通すると共に面方向に環状に延びる横流路114(図2および図3)と、横流路114から上方に延びてガス噴出孔102に連通する第2の縦流路112(図2)とから構成されている。ガス噴出流路110は、特許請求の範囲における第1の流路に相当する。
なお、本実施形態の静電チャック10では、ヘリウムガスの供給経路が2系統存在する。すなわち、図3に示すように、セラミックス部材100の内部には2つの横流路114が形成されている。図2および図3に示すように、2つの横流路114の内のセラミックス部材100の中心に近い方の横流路114は、第1の縦流路111を介して、図2および図4に示す収容室140と連通しており、かつ、第2の縦流路112を介して、吸着面S1に開口する8つのガス噴出孔102の内のセラミックス部材100の中心に近い4つのガス噴出孔102と連通している。また、2つの横流路114の内のセラミックス部材100の中心から遠い方の横流路114は、第1の縦流路111を介して、図示しない収容室140と連通しており、かつ、第2の縦流路112を介して、吸着面S1に開口する8つのガス噴出孔102の内のセラミックス部材100の中心から遠い4つのガス噴出孔102と連通している。なお、後述の充填部材160は、ヘリウムガスの供給経路の2系統のそれぞれに配置されるとしてもよいし、2系統のうちの一方だけに配置されるとしてもよい。
また、図2および図4に示すように、セラミックス部材100の内部には、収容室140が形成されている。収容室140は、吸着面S1に近い側の内表面である上面144と、セラミックス部材100の下面S2に近い側の内表面である下面145と、上面144の周縁と下面145の周縁とをつなぐ内表面である側面142と、を有する。収容室140の上面144には、ガス噴出流路110(ガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111)が開口している。本実施形態では、収容室140(収容室140の内部空間)の形状は、略円柱状である。このため、収容室140における上面144の面積と、収容室140における下面145の面積と、収容室140における上下方向(Z軸方向)に直交する任意の断面の面積とは略同一である。また、図2に示すように、収容室140の上面144は、セラミックス部材100を上下方向(Z軸方向)に二等分する中心線Lより吸着面S1側に位置している。また、セラミックス部材100の下面S2から収容室140までの第1の最短距離D1は、セラミックス部材100の吸着面S1から収容室140までの第2の最短距離D2より長い。本実施形態では、収容室140の下面145も、中心線Lより吸着面S1側に位置している。
図2および図4に示すように、セラミックス部材100に形成された収容室140には、絶縁材料により形成され、かつ、通気性を有する充填部材(「通気性プラグ」とも呼ばれる)160が充填されている。充填部材160は、セラミックス部材100よりも気孔率が高いため、充填部材160の熱伝導率は、比較的緻密なセラミックス部材100の熱伝導率より低い。充填部材160の形成材料としては、例えば、セラミックス多孔質体やグラスファイバー、耐熱性ポリテトラフルオロエチレン樹脂スポンジ等を用いることができる。充填部材160は、特許請求の範囲における多孔質部に相当する。
充填部材160は、収容室140の上面144に対向する上面対向面164と、収容室140の下面145に対向する下面対向面165と、上面対向面164の周縁と下面対向面165の周縁とをつなぐ側面162とを有する。本実施形態では、充填部材160の形状は、収容室140の形状と同様、略円柱状である。このため、充填部材160の上面対向面164の面積と、充填部材160の下面対向面165の面積と、充填部材160の上下方向(Z軸方向)に直交する任意の断面の面積(以下、単に「充填部材160の断面積」という)とは略同一である。また、充填部材160は、収容室140内にほぼ隙間無く埋設されている。すなわち、充填部材160の外周面(上面対向面164、下面対向面165、側面162)は、収容室140の内表面(上面144、下面145、側面142)のそれぞれに接している。
また、ガス噴出流路110の第1の開口部113の収容室140の上面144における開口面積は、充填部材160の断面積より小さく、かつ、上下方向(Z軸方向)視で第1の開口部113の全体は充填部材160(上面対向面164)に重なる。また、上下方向視で、第1の開口部113は、充填部材160(上面対向面164)の面方向における中央寄りに位置している。第1の開口部113は、特許請求の範囲における第1の流路における多孔質部側の開口部に相当する。
また、図2に示すように、充填部材160の上面対向面164は、上記中心線Lより吸着面S1側に位置している。また、セラミックス部材100の下面S2から充填部材160までの第1の最短距離D1は、セラミックス部材100の吸着面S1から充填部材160までの第2の最短距離D2より長い。本実施形態では、充填部材160の下面対向面165も、中心線Lより吸着面S1側に位置している。
さらに、セラミックス部材100の内部には、ガス中継流路116が形成されている。ガス中継流路116は、上下方向に沿って直線状に延びており、収容室140の下面145に開口するとともに、セラミックス部材100の下面S2に開口している。ガス中継流路116は収容室140の下面145に開口している第2の開口部117を有する。第2の開口部117の収容室140の下面145における開口面積は、充填部材160の下面対向面165の面積より小さく、かつ、上下方向(Z軸方向)視で第2の開口部117の全体は下面対向面165に重なっている。また、上下方向視で、第2の開口部117は、充填部材160(下面対向面165)の面方向における中央寄りに位置している。
また、ガス中継流路116は、セラミックス部材100の下面S2に開口している第3の開口部118を有する。第3の開口部118のセラミックス部材100の下面S2における開口面積は、充填部材160の断面積より小さい。換言すれば、セラミックス部材100の上下方向(Z軸方向)に平行な断面(図4のXZ断面)において、第3の開口部118の上下方向に直交する方向(X軸方向)の幅(以下、単に「幅」という)は、充填部材160の幅より狭い。また、上下方向(Z軸方向)視で、第3の開口部118の全体は、充填部材160(充填部材160の下面対向面165)に重なっている。
また、第3の開口部118は、接着層300に形成された貫通孔310に連通している。本実施形態では、第3の開口部118の開口面積と、接着層300に形成された貫通孔310の上下方向に直交する断面における開口面積とは略同一である。ガス中継流路116は、特許請求の範囲における第3の流路に相当し、第2の開口部117は、特許請求の範囲における、第3の流路における多孔質部側の開口部に相当する。
このように、収容室140内に絶縁材料により形成された充填部材160が充填されていることにより、収容室140内を経由したセラミックス部材100とベース部材200との間の放電や収容室140内でのヘリウムガスの放電の発生が抑制される。
図2および図4に示すように、図示しないヘリウムガス源から供給されたヘリウムガスが、ガス源接続孔221からベース部材200内部のガス供給流路220内に流入する。ガス供給流路220内に流入したヘリウムガスは、ガス供給流路220からガス供給孔222を経て接着層300の貫通孔310内に流入する。貫通孔310内に流入したヘリウムガスは、セラミックス部材100の内部のガス中継流路116と、収容室140内に充填された充填部材160の内部とを通過して、セラミックス部材100の内部のガス噴出流路110を構成する第1の縦流路111内に流入し、横流路114および第2の縦流路112を経て吸着面S1に形成された各ガス噴出孔102から噴出する。このようにして、吸着面S1と半導体ウェハWの表面との間に存在する空間に、ヘリウムガスが供給される。
A-3.静電チャック10の製造方法:
本実施形態における静電チャック10の製造方法を説明する。はじめに、セラミックス部材100を作製する。例えば、複数のセラミックスグリーンシート(例えばアルミナグリーンシート)を準備し、各セラミックスグリーンシートに、チャック電極400や各ガス流路(ガス噴出流路110やガス中継流路116)等を構成するための孔開け加工やメタライズインクの印刷等を行う。この際に、上述の収容室140を構成するための孔開け加工も行う。その後、複数のセラミックスグリーンシートを積層する。その際、積層されたセラミックスグリーンシートに形成された収容室140内に、充填部材160の焼成前の前駆体(図示せず)を配置する。これにより、充填部材160の前駆体が内部に配置されたセラミックスグリーンシートの積層体が形成される。その積層体を熱圧着し、所定の円板形状にカットすることにより、充填部材160の前駆体が内部に配置されたセラミックス部材100の焼成前の前駆体が形成される。そして、セラミックス部材100の前駆体を焼成し、最後に研磨加工等を行うことにより、セラミックス部材100が製造される。
また、ベース部材200を準備する。ベース部材200は、公知の製造方法によって製造可能である。次に、セラミックス部材100とベース部材200とを接合する。具体的には、セラミックス部材100の下面S2とベース部材200の上面S3とを、接着剤を介して貼り合わせた状態で、接着剤を硬化させる硬化処理を行うことにより、接着層300を形成する。なお、セラミックス部材100とベース部材200との間に接着剤を配置する際には、上述した貫通孔310に対応する孔を設け、接着剤の硬化処理によってできる接着層300に貫通孔310が形成されるようにする。以上の工程により、上述した構成の静電チャック10の製造が完了する。
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態における静電チャック10では、セラミックス部材100より気孔率が高い充填部材160がセラミックス部材100の内部に配置されている(図2および図4参照)。この充填部材160は、セラミックス部材100の吸着面S1に開口するガス噴出流路110と、下面S2に開口するガス中継流路116とに連通している。これにより、例えば充填部材160を備えずにガス噴出流路110とガス中継流路116とが直接つながった構成に比べて、セラミックス部材100の吸着面S1からベース部材200までの沿面距離が長くなるため、吸着面S1に保持された半導体ウェハWとベース部材200とが短絡することを抑制することができる。
また、セラミックス部材100の下面S2に開口するガス中継流路116の第3の開口部118の開口面積は、充填部材160の断面積より小さい(図4参照)。これにより、例えば、充填部材160とベース部材200との間に接合部が介在せずに比較的に大きい空洞が介在している従来の構成に比べて、接着層300に対するセラミックス部材100の接合面積が増えるので、充填部材160の存在に起因してセラミックス部材100からベース部材200への伝熱性(熱引き特性)が局所的に低下することが抑制され、セラミックス部材100の吸着面S1における温度特異点となることが抑制され、温度分布の均一性の向上を図ることができる。以下、この点について具体的に説明する。
図5は、比較例の静電チャック10Xの構成を概略的に示す説明図である。図5には、比較例の静電チャック10Xの構成の内、図4に示す部分(X1部)と同等の部分X1Aの構成が拡大して示されている。以下、比較例の静電チャック10Xのうち、本実施形態の静電チャック10と共通する構成については同じ符号を付して説明を省略し、異なる構成のみ説明する。図5に示す比較例の静電チャック10Xは、図4に示す本実施形態の静電チャック10と比較して、収容室および充電部材の位置が異なる。
具体的には、図5に示すように、比較例の静電チャック10Xでは、セラミックス部材100Aの下面S2に凹所140Aが形成されている。凹所140Aは、吸着面S1に近い側の内表面である上面144Aと、セラミックス部材100の下面S2に開口した下側開口部145Aと、上面144Aの周縁と下側開口部145Aの周縁とをつなぐ側面142Aと、を有する。この凹所140A内に充填部材160Aが配置されている。充填部材160Aは、本実施形態における充填部材160と略同一構造であるものとする。
また、比較例の静電チャック10Xでは、下側開口部145Aの開口面積は、充填部材160Aにおける上下方向に直交する方向の断面の面積と略同一である。このため、充填部材160Aの表面(下面165A)が下側開口部145Aからセラミックス部材100Aの下面S2に露出している。セラミックス部材100Aとベース部材200とを接合する接着層300Aには、下側開口部145Aに連通する貫通孔310Aが形成されている。貫通孔310Aの開口面積は、下側開口部145Aの開口面積と略同一である。ここで、仮に、貫通孔310Aの開口面積が、下側開口部145Aの開口面積より小さいとすると、例えば、充填部材160Aにおけるガスの通気性が低下するおそれがある。すなわち、セラミックス部材100Aとベース部材200との接合段階において、接着層300Aを形成するための硬化前の接合剤が、多孔質の充填部材160Aの気孔内に入り込み、その入り込んだ接着剤が硬化することによって充填部材160Aに目詰まりが生じ、その結果、充填部材160Aにおけるガスの通気性が低下するおそれがある。このため、比較例の静電チャック10Xのように、充填部材160Aの表面がセラミックス部材100Aの下面S2に露出する構成では、充填部材160Aの露出する表面に接着層300Aが接触しないようにすることが好ましい。そのため、比較例の静電チャック10Xでは、接着層300Aによる充填部材160Aの通気性低下を抑制するためには、充填部材160Aの露出する表面(下面対向面165)に対応した比較的に大きな貫通孔310Aを形成せざるを得ない。
このように、充填部材160Aの表面がセラミックス部材100Aの下面S2に露出する比較例の静電チャック10Xでは、次に述べるように、セラミックス部材100Aの吸着面S1における温度特異点となり、温度分布が不均一になり、また、セラミックス部材100Aとベース部材200との接合強度が低下するおそれがある。
すなわち、比較例の静電チャック10Xでは、充填部材160Aの露出する表面(下面対向面165)に対応した比較的に大きな貫通孔310Aによって、充填部材160Aとベース部材200との間に、接着層300Aより熱伝導率が低い空洞が形成される。空洞の熱伝導率は、接着層300の熱伝導率に比べて低い。このため、セラミックス部材100Aより熱伝導率が低い充填部材160Aの下に、さらに熱伝導率が低い空洞が連続して存在していることになる。換言すれば、充填部材160Aとベース部材200との間には、特に熱伝導率が低い空洞しか存在しない。このため、充填部材160Aが配置された付近において熱が蓄積されやすく、セラミックス部材100Aからベース部材200への伝熱性が局所的に低下し、セラミックス部材100Aの吸着面S1における温度特異点となり、温度分布の不均一になるおそれがある。また、比較例の静電チャック10Xでは、接着層300Aとセラミックス部材100Aおよびベース部材200との接触面積が比較的に小さいため、セラミックス部材100Aとベース部材200との接合強度が低下するおそれがある。
これに対して、本実施形態の静電チャック10では、図4に示すように、充填部材160はセラミックス部材100の下面S2に露出しておらず、下面S2には、充填部材160の断面積より小さい開口面積を有する第3の開口部118が形成されている。すなわち、充填部材160の下には、主として、熱伝導率が比較的に高いセラミックス部材100のセラミックス部分が存在している。このため、本実施形態の静電チャック10によれば、充填部材160Aとベース部材200との間に空洞しか存在しない比較例の静電チャック10Xに比べて、セラミックス部材100からベース部材200への伝熱性が局所的に低下することが抑制される。
また、本実施形態の静電チャック10では、接着層300には、第3の開口部118に対応した比較的小さい開口面積を有する貫通孔310が形成されており、充填部材160とベース部材200との間に形成される空洞が形成される範囲が狭い。このため、本実施形態の静電チャック10によれば、充填部材160Aとベース部材200との間に比較的に大きい空洞が存在する比較例の静電チャック10Xに比べて、セラミックス部材100からベース部材200への伝熱性が局所的に低下することがさらに効果的に抑制される。しかも、本実施形態の静電チャック10では、接着層300とセラミックス部材100Aおよびベース部材200との接触面積が比較的に大きいため、比較例の静電チャック10Xに比べて、セラミックス部材100とベース部材200との接合強度が高い。
上記実施形態では、上下方向(Z軸方向)視で、第1の開口部113および第2の開口部117の両方は、充填部材160の面方向における中央寄りに位置している。これにより、第1の開口部113等が、充填部材160の周縁寄りに位置している構成に比べて、セラミックス部材100の吸着面S1からベース部材200までの沿面距離が長くなるため、吸着面S1に保持された半導体ウェハWとベース部材200との短絡を、より効果的に抑制することができる。
また、本実施形態では、充填部材160の上面対向面164は、上記中心線Lより吸着面S1側に位置している。これにより、充填部材160の上面対向面164が中心線Lよりセラミックス部材100の下面S2側に位置している構成に比べて、充填部材160による絶縁効果を向上させることができる。
また、本実施形態では、セラミックス部材100の下面S2から充填部材160までの第1の最短距離D1は、セラミックス部材100の吸着面S1から充填部材160までの第2の最短距離D2より長い。これにより、絶縁効果を高めるために充填部材160をセラミックス部材100の吸着面S1に近づけつつ、充填部材160が大型になることを抑制できる。
A-5.本実施形態における変形例:
図6は、実施形態における変形例の静電チャック10Bの充填部材160周辺部(X1B部)を拡大して示す説明図である。変形例の静電チャック10Bの構成の内、上記実施形態の静電チャック10と同一の構成については、同一符号を付すことによって、その説明を省略する。
上述した実施形態の静電チャック10では、セラミックス部材100は、一体成形されたものであり、充填部材160は、そのセラミックス部材100の内部に埋設されていた(図2および図4参照)。これに対して、図6に示すように、変形例の静電チャック10Bでは、セラミックス部材100Bは、第1のセラミックス部132と第2のセラミックス部134とを備えて構成されており、充填部材160は、第1のセラミックス部132と第2のセラミックス部134との間に配置されている。
具体的には、変形例の静電チャック10Bでは、第1のセラミックス部132は、上記セラミックス部材100と略同一の外形を有し、また、第1のセラミックス部132の下面S2Bに第1の凹所136が形成されている。第1の凹所136は、吸着面S1に近い側の内表面である上面144Bと、第1のセラミックス部132の下面S2Bに開口した下側開口部147Bと、上面144Bの周縁と下側開口部147Bの周縁とをつなぐ側面146Bと、を有する。この第1の凹所136の上下方向の長さは、充填部材160の上下方向の長さより長く、かつ、第1の凹所136の内径は、充填部材160の外径より大きい。
一方、第2のセラミックス部134は、全体としては、略円柱状である。第2のセラミックス部134の上面134Uには、充填部材160を収容可能な第2の凹所140Bが形成されている。第2の凹所140Bは、第2のセラミックス部134の上面134Uに開口した上側開口部137と、下面S2Bに近い側の内表面である底面145Bと、上側開口部137の周縁と底面145Bの周縁とをつなぐ側面142Bと、を有する。この第2の凹所140Bの上下方向の寸法は、充填部材160の上下方向の寸法と略同一であり、かつ、第2の凹所140Bの内径は、充填部材160の外径と略同一である。このため、第2の凹所140B内に充填部材160を収容可能である。また、第2の凹所140Bの底面145Bには、第2のセラミックス部134の下面134Dまで貫通するガス中継流路116Bが形成されている。ガス中継流路116Bは、底面145Bに開口する第2の開口部117Bと、下面134Dに開口する第3の開口部118Bとを有する。ガス中継流路116Bの形状等は、上述のガス中継流路116と略同一である。
また、第1の凹所136の上下方向の寸法は、第2のセラミックス部134の上下方向の寸法と略同一であり、かつ、第1の凹所136の内径は、第2のセラミックス部134の外径と略同一である。このため、第1の凹所136内に第2のセラミックス部134を収容可能である。例えば、第1のセラミックス部132と第2のセラミックス部134とを個別に成形し、第2のセラミックス部134の第2の凹所140B内に充填部材160を収容させ、第2のセラミックス部134の上面134Uと、第1のセラミックス部132の第1の凹所136の上面144Bとが対向するように、第1の凹所136内に第2のセラミックス部134を収容させる。これにより、充填部材160は、第1のセラミックス部132と第2のセラミックス部134とによって上下に挟まれた状態でセラミックス部材100Bの内部に配置されている。なお、第2のセラミックス部134と第1のセラミックス部132の第1の凹所136との間には、接着層(図示せず)が配置されていることが好ましい。また、充填部材160と上面対向面164の第2の凹所140Bとの間にも、接着層(図示せず)が配置されていることが好ましい。
以上説明したように、変形例の静電チャック10Bにおいても、セラミックス部材100Bより気孔率が高い充填部材160がセラミックス部材100Bの内部に配置されている(図6参照)。この充填部材160は、セラミックス部材100の吸着面S1に開口するガス噴出流路110と、下面S2Bに開口するガス中継流路116Bとに連通している。これにより、例えば充填部材160を備えずにガス噴出流路110とガス中継流路116Bとが直接つながった構成に比べて、セラミックス部材100Bの吸着面S1からベース部材200までの沿面距離が長くなるため、吸着面S1に保持された半導体ウェハWとベース部材200とが短絡することを抑制することができる。
B.その他の変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上記各実施形態における静電チャック10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、充填部材160の形状は、略円柱状であるとしたが、これに限らず、例えば略円錐状や略角柱状などであるとしてもよい。この場合は、充填部材160における第1の方向(Z軸方向)に直交する断面の面積のうち、最大の面積を「充填部材の断面の面積」とする。また、充填部材160の形状は、収容室140の形状と異なっており、充填部材160と収容室140との間に隙間が存在するとしてもよい。また、充填部材160と収容室140との間に接着層(図示せず)が配置されているとしてもよい。なお、接着層の熱伝導率は、充填部材160の熱伝導率より高く、かつ、セラミックス部材100の熱伝導率より低いことが好ましい。接着層は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤により構成されていることが好ましい。また、充填部材160は、セラミックス部材100と一体で形成されていてもよいし、別体として形成されてもよい。例えば、充填部材160は、セラミックス部材100と同一材料で形成されており、かつ、気孔率がセラミックス部材100より高い構成であるとしてもよい。
上記実施形態では、1つの充填部材160に対して1つのガス中継流路116(第3の流路)が連通しているとしたが、1つの充填部材160に対して複数のガス中継流路116が連通しているとしてもよい。このような構成の場合、複数のガス中継流路116における第3の開口部118の開口面積の合計が、充填部材160の断面積より小さければ本発明の効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、上下方向(Z軸方向)視で、第1の開口部113は、充填部材160の面方向における中央寄りに位置しているとしたが、これに限らず、第1の開口部113は、充填部材160の面方向における周縁寄りに位置しているとしてもよい。また、上記実施形態では、第1の開口部113の全体は充填部材160に重なるとしたが、これに限らず、上下方向視で、第1の開口部113の一部または全部は充填部材160に重ならないとしてもよい。さらに、上記実施形態では、ガス噴出流路110(第1の流路)は、充填部材160の上面対向面164に連通しているとしたが、ガス噴出流路110が充填部材160の側面162に連通しているとしてもよい。但し、上記実施形態の構成であれば、ガスの供給経路の短縮化を図りつつ、充填部材160による半導体ウェハWとベース部材200との短絡抑制の効果を得ることができる。
また、上記実施形態において、充填部材160の上面対向面164および下面対向面165は、中心線Lより吸着面S1側に位置しているとしたが、これに限らず、例えば、充填部材160の上面対向面164は中心線Lより吸着面S1側に位置しており、下面対向面165は中心線Lよりセラミックス部材100の下面S2側に位置しているとしてもよいし、充填部材160の上面対向面164および下面対向面165の両方がセラミックス部材100の下面S2側に位置しているとしてもよい。
また、上記実施形態では、上下方向(Z軸方向)視で、第2の開口部117は、充填部材160の面方向における中央寄りに位置しているとしたが、これに限らず、第2の開口部117は、充填部材160の面方向における周縁寄りに位置しているとしてもよい。また、上記実施形態では、第2の開口部117の全体は充填部材160に重なるとしたが、これに限らず、上下方向視で、第2の開口部117の一部または全部は充填部材160に重ならないとしてもよい。さらに、上記実施形態では、ガス中継流路116(第3の流路)は、充填部材160の下面対向面165に連通しているとしたが、ガス中継流路116が充填部材160の側面162に連通しているとしてもよい。但し、上記実施形態の構成であれば、ガスの供給経路の短縮化を図りつつ、充填部材160による半導体ウェハWとベース部材200との短絡抑制の効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、上下方向(Z軸方向)視で、第3の開口部118の全体は、充填部材160に重なるとしたが、これに限らず、上下方向視で、第3の開口部118の一部または全部は充填部材160に重ならないとしてもよい。但し、上記実施形態の構成であれば、ガスの供給経路の短縮化を図りつつ、充填部材160による半導体ウェハWとベース部材200との短絡抑制の効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、第3の開口部118の開口面積と、接着層300に形成された貫通孔310の開口面積とは略同一であるとしたが、これに限らず、第3の開口部118の開口面積は、貫通孔310の開口面積より大きくてもよいし小さくてもよい。但し、上述したように、第3の開口部118の開口面積が貫通孔310の開口面積以下であれば、接着層300による充填部材160の目詰まりを抑制することができる。また、貫通孔310の開口面積は、充填部材160の断面積より小さければ、上述の比較例の静電チャック10Xに比べて、接着層300とセラミックス部材100Aおよびベース部材200との接触面積が大きいため、セラミックス部材100とベース部材200との接合強度を向上させることができる。
また、本実施形態では、セラミックス部材100の下面S2から充填部材160までの第1の最短距離D1は、セラミックス部材100の吸着面S1から充填部材160までの第2の最短距離D2より長いとしているが、第1の最短距離D1は、第2の最短距離D2と同じ、または、第2の最短距離D2より短いとしてもよい。
また、上記各実施形態において、セラミックス部材100の内部に、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されたヒータ電極を設けてもよい。このような構成では、ヒータ電極に電源から電圧が印加されると、ヒータ電極が発熱することによってセラミックス部材100が温められ、セラミックス部材100の吸着面S1に保持された半導体ウェハWが温められる。これにより、半導体ウェハWの温度制御が実現される。ヒータ電極は、セラミックス部材100の内部ではなく、セラミックス部材100のベース部材200側(セラミックス部材100と接着層300との間)に配置されるとしてもよい。
また、上記各実施形態では、冷媒流路210がベース部材200の内部に形成されるとしているが、冷媒流路210が、ベース部材200の内部ではなく、ベース部材200の表面(例えばベース部材200と接着層300との間)に形成されるとしてもよい。
また、上記実施形態において、セラミックス部材100とベース部材200とが、一体の接着層300ではなく、複数の接合部分によって接合されているとしてもよい。具体的には、セラミックス部材100とベース部材200との間に、セラミックス部材100とベース部材200との対向方向に直交する一の仮想平面上に配置された複数の接合部分が離散的に形成されているとしてもよい。これらの複数の接合部分は、特許請求の範囲における接合部に相当する。また、上記各実施形態では、セラミックス部材100とベース部材200とが、接着層300により接合されるとしているが、セラミックス部材100とベース部材200との接合方法として、他の方法(例えば、ろう付けや機械的接合等)が採用されてもよい。
また、上記各実施形態では、セラミックス部材100の内部に一対のチャック電極400が設けられた双極方式が採用されているが、セラミックス部材100の内部に1つのチャック電極400が設けられた単極方式が採用されてもよい。また、上記各実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。
また、上記各実施形態における静電チャック10の製造方法はあくまで一例であり、種々変形可能である。
また、本発明は、静電引力を利用して半導体ウェハWを保持する静電チャック10に限らず、セラミックス板とベース部材とを備え、セラミックス板の表面上に対象物を保持する他の保持装置(例えば、真空チャックやヒータ装置等)にも適用可能である。