本発明の残存寿命予測装置は、例えば自動変速機の残存寿命を予測する場合に好適に適用されるが、その他の動力伝達装置やエンジン、ダンパ装置、動力源を断接するクラッチ、差動装置、各部の歯車、ベアリング等の軸受、サスペンション装置、クッション装置など、種々の車両部品の残存寿命を予測する場合に適用できる。自動変速機のように複数の構成要素を有する場合、車両部品として個々の構成要素の残存寿命を予測することもできる。残存寿命の予測対象である車両部品を備えた車両については、エンジンや電動モータ等の動力源によって走行できるものであれば良く、電気自動車やハイブリッド車両、エンジン駆動車両など何でも良い。変速機も要件ではない。
自動変速機は、クラッチやブレーキ、オイルポンプ、ベアリングなど、負荷が作用する複数の構成要素を備えており、それぞれ残存寿命が相違する。このように複数の構成要素を有する車両部品については、複数の構成要素についてそれぞれ残存寿命を予測するとともに、その複数の構成要素のうち予測した残存寿命が最も短い構成要素の残存寿命を車両部品全体(自動変速機など)の残存寿命とすることが望ましい。但し、必ずしも総ての構成要素について残存寿命を求める必要はなく、実験やシミュレーション等によって寿命が短いと予想される複数の構成要素を選択しても良い。単一の構成要素を予め特定し、その単一の構成要素について残存寿命を求めて、その残存寿命を車両部品全体の残存寿命としても良いなど、種々の態様が可能である。
データ未取得区間特定部は、例えば車両の累積走行距離または累積走行時間が不連続に変化した区間、すなわち累積走行距離または累積走行時間のデータが途切れた区間を、データ未取得走行区間と判定するが、データ未取得走行区間でも累積して変化する累積回転数等の他の累積量を用いて判定することもできる。また、走行関連情報として車両の位置情報を取得することにより、その位置情報が不連続に変化した区間をデータ未取得走行区間と判定することもできるなど、他の態様でデータ未取得走行区間を特定することも可能である。位置情報が不連続に変化した区間は、その位置情報の変化に基づいてデータ未取得走行区間の距離を求めることが可能で、データ取得走行区間の距離を求めることもでき、総走行距離との割合等に基づいて残存寿命を補正することができる。上記累積走行距離や累積走行時間等の走行関連情報は、寿命関連データとして利用することもできる。
残存寿命演算部は、例えばデータ未取得走行区間を含む車両の総走行区間とデータ取得走行区間との割合に応じて残存寿命を低下(減少)させるように構成されるが、必ずしも総走行区間で均一に残存寿命が低下するとは限らないため、データ未取得走行区間の前後の一定区間の寿命関連データに基づいて残存寿命を低下させても良い。残存寿命演算部はまた、例えばデータ未取得走行区間に基づいて寿命関連データを補完するデータ補完処理部と、そのデータ補完処理部によって補完された後の補完後データに基づいて残存寿命を算出する寿命算出部と、を備えて構成されるが、車両から送信された実際の寿命関連データに基づいて算出した残存寿命を、総走行区間とデータ取得走行区間との割合等に基づいて補正しても良いなど、他の態様で補正することもできる。
残存寿命演算部は、例えば寿命関連データに基づいて車両部品に加えられた負荷(トルク、回転速度など)の大きさと頻度(総回数、総時間、総回転数など)との関係である負荷分布を求め、耐久性が成り立つ負荷分布として予め定められた強度情報(疲労限度など)と比較して累積疲労損傷度を算出し、その累積疲労損傷度に基づいて残存寿命を予測することが望ましい。累積疲労損傷度は、各負荷領域における疲労損傷度を積算した値で、例えばマイナー則や修正マイナー則に従って算出される。残存寿命の予測に際しては、必ずしも負荷分布を用いる必要はなく、例えば予め定められた寿命特性等に基づいて、走行距離或いは走行時間だけで残存寿命を予測することもできるなど、対象となる車両部品の損傷原因等に応じて種々の態様が可能である。自動変速機等の動力伝達装置についても、走行距離或いは走行時間だけから残存寿命を予測することが可能で、寿命関連データとして累積走行距離或いは累積走行時間のみがデータ管理センタへ送信されても良い。前記特許文献1、2に記載の技術を用いて残存寿命を予測することもできる。
寿命関連データは、残存寿命演算部が残存寿命を予測するのに必要な情報で、例えば車両部品に加えられる負荷を求めるために必要な情報である。自動変速機の場合、負荷として入力トルクが大きく影響するため、寿命関連データとして、例えば車両の駆動源トルク(エンジンブレーキ等の負トルクを含む)などが必要である。自動変速機の入力側に電気式無段変速部が配置されている場合、その電気式無段変速部の回転機の回生トルクも、自動変速機の負荷すなわち残存寿命に影響する。自動変速機の潤滑油の油温、車両の平均加速度、車両の共振走行距離なども、自動変速機の各部の残存寿命に影響するため、それ等の情報も寿命関連データとして含めると良い。潤滑油が交換された場合も、その潤滑油によって潤滑されるベアリングや歯車等の車両部品の残存寿命に影響するため、潤滑油の交換の有無を含むメンテナンス情報も含めると良い。自動変速機等の車両部品を交換した場合、寿命関連データも新たに取得し直す必要があるため、例えば車両部品の個体毎に識別情報を付与し、その識別情報により車両部品の寿命関連データを個別に管理して残存寿命を算出することが望ましい。
残存寿命予測装置は、例えばデータ未取得区間特定部および残存寿命演算部がデータ管理センタのサーバに備えられるが、データ未取得区間特定部および残存寿命演算部を車両の制御装置やディーラ(販売会社)の端末等に設け、データ管理センタから寿命関連データ等の必要なデータを読み込んで所定の処理を実行するようにしても良い。データ管理センタは、例えば携帯電話網や無線LAN網、インターネット等の無線通信のネットワークを介して車両から寿命関連データや走行関連情報を読み込んで管理するもので、車両のメーカー等によって設置され、ディーラに設けられても良い。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である残存寿命予測装置140によって残存寿命が予測される機械式有段変速部20を有する車両10の動力伝達装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン14と第1回転機MG1と第2回転機MG2とを備えている。動力伝達装置12は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部18および機械式有段変速部20等を備えている。電気式無段変速部18は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン14に連結されている。機械式有段変速部20は、電気式無段変速部18の出力側に連結されている。また、動力伝達装置12は、機械式有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。動力伝達装置12において、エンジン14や第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速部20へ伝達され、その機械式有段変速部20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。なお、以下の説明では、トランスミッションケース16をケース16、電気式無段変速部18を無段変速部18、機械式有段変速部20を有段変速部20という。また、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。また、無段変速部18や有段変速部20等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン14のクランク軸、後述する連結軸34などの軸心である。
エンジン14は、駆動トルクを発生することが可能な動力源として機能する機関であって、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置90によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置50が制御されることにより、エンジン14の出力トルクであるエンジントルクTe が制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速部18に連結されている。
第1回転機MG1および第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能および発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1および第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ54に接続されており、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1および第2回転機MG2の各々の出力トルクであるMG1トルクTg およびMG2トルクTm が制御される。回転機の出力トルクは、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1および第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1および無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32とを備えている。中間伝達部材30には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度Ne を制御可能な回転機であって、差動用回転機に相当する。第2回転機MG2は、駆動トルクを発生することが可能な動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン14および第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置12は、動力源の動力を駆動輪28へ伝達する。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、およびリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には中間伝達部材30および第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機としての機械式変速機構、つまり無段変速部18と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材30は、有段変速部20の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されており、また、無段変速部18の入力側にはエンジン14が連結されているため、有段変速部20は、動力源(第2回転機MG2またはエンジン14)と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。中間伝達部材30は、駆動輪28に動力源の動力を伝達する為の伝達部材である。有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36および第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含み、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、およびブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路56内のリニアソレノイドバルブSL1-SL4等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合圧としての各係合油圧Pcbによりそれぞれのトルク容量である係合トルクTcbが変化させられることで、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
有段変速部20は、第1遊星歯車装置36および第2遊星歯車装置38の複数の回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、互いに連結されるとともに、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。第1遊星歯車装置36は、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を相対回転可能に備えており、第2遊星歯車装置38は、サンギヤS2、キャリアCA2、およびリングギヤR2の3つの回転要素を相対回転可能に備えている。
有段変速部20は、複数の係合装置CBのうちの何れかの所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni /出力回転速度No )が異なる複数のギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部20は、複数の係合装置CBの係合解放状態が変更されることにより、ギヤ段が切り替えられる、すなわち変速が実行される。有段変速部20は、複数のギヤ段が形成される有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称する。AT入力回転速度Ni は、有段変速部20の入力回転部材の回転速度であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、また、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nm と同値である。AT入力回転速度Ni は、MG2回転速度Nm で表すことができる。出力回転速度No は、有段変速部20の出力回転部材である出力軸22の回転速度であって、無段変速部18と有段変速部20とを合わせた全体の変速機である複合変速機40の出力回転速度でもある。複合変速機40は、エンジン14と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する変速機である。
有段変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段「1st」の変速比γatが最も大きく、ハイ側すなわちAT4速ギヤ段「4th」側へ向かうに従って、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置CBの各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図2において、係合装置の欄の「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
有段変速部20は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち所定のATギヤ段が選択的に形成される。有段変速部20の変速制御においては、係合装置CBの何れか2つの掴み替え、すなわち係合装置CBの何れか1つの係合、および係合装置CBの他の何れか1つの解放により変速が実行される、所謂クラッチツークラッチ変速が実行される。本実施例では、例えばAT2速ギヤ段「2nd」からAT1速ギヤ段「1st」へのダウンシフトを2→1ダウンシフトと表す。他のアップシフトやダウンシフトについても同様である。
図3は、無段変速部18および有段変速部20の複数の回転要素の回転速度の相対的関係を直線で表すことができる共線図である。図3において、無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部20の入力回転速度)を表すm軸である。また、有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1およびキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1およびリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯数比ともいう)ρ0に応じて定められている。また、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36、38の各ギヤ比ρ1、ρ2に応じて定められている。差動機構32および遊星歯車装置36、38は何れもシングルピニオン型の遊星歯車装置であるため、共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間隔を「1」とすると、キャリアとリングギヤとの間隔は各遊星歯車装置のギヤ比ρ(=サンギヤの歯数Zs /リングギヤの歯数Zr )となる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速部20へ伝達するように構成されている。無段変速部18では、縦線Y2を横切る各直線L0、L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
また、有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結される。有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4により、AT1速ギヤ段「1st」、AT2速ギヤ段「2nd」、AT3速ギヤ段「3rd」、AT4速ギヤ段「4th」における各々の出力軸22の回転速度が示される。
図3中の実線で示す、直線L0および直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するハイブリッド走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対回転速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTe に対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd (=Te /(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg )が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTd とMG2トルクTm との合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段「1st」-AT4速ギヤ段「4th」のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wg は、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wg の全部または一部を用いて、或いは発電電力Wg に加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTm を出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTm が入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン回転速度Ne はゼロとされ、MG2トルクTm が車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段「1st」-AT4速ギヤ段「4th」のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。ここでのMG2トルクTm は、正回転の力行トルクである。
図3中の破線で示す、直線L0Rおよび直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対回転速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTm が入力され、そのMG2トルクTm が車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段「1st」が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置90によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段「1st」が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTm とは正負が反対となる後進用のMG2トルクTm が第2回転機MG2から出力されることで、後進走行を行うことができる。ここでは、前進用のMG2トルクTm は正回転の正トルクとなる力行トルクであり、後進用のMG2トルクTm は負回転の負トルクとなる力行トルクである。縦線Y5と直線LRとの交点「Rev」は、この後進走行時における出力軸22の回転速度である。このように、車両10では、前進用のATギヤ段を用いて、MG2トルクTm の正負を反転させることで後進走行を行う。なお、ハイブリッド走行モードにおいても、例えばエンジン回転速度Ne をアイドル回転速度等に維持されるように第1回転機MG1を無負荷とし、第2回転機MG2を負回転とすることにより、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
動力伝達装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と、第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と、中間伝達部材30が連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0と、の3つの回転要素を有する差動機構32を備えており、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構としての無段変速部18が構成される。無段変速部18は、入力回転部材となる連結軸34の回転速度と同値であるエンジン回転速度Ne と、出力回転部材となる中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度Nm との比の値である変速比γ0(=Ne /Nm )が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
ここで、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部20にて所定のATギヤ段が形成されることで、駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度つまりエンジン回転速度Ne が上昇或いは下降させられる。従って、ハイブリッド走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、所定のATギヤ段が形成された有段変速部20と無段変速機として作動させられる無段変速部18とで、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
また、無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、所定のATギヤ段が形成される有段変速部20と有段変速機のように変速させる無段変速部18とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40において、エンジン回転速度Ne の出力回転速度No に対する比の値である変速比γt(=Ne /No )が異なる複数のギヤ段を成立させるように、有段変速部20と無段変速部18とを協調制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることで成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された無段変速部18および有段変速部20によって形成されるトータル変速比であって、無段変速部18の変速比γ0と有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部20の各ATギヤ段と1または複数種類の無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1または複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、AT1速ギヤ段「1st」に対して模擬1速ギヤ段-模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段「2nd」に対して模擬4速ギヤ段-模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段「3rd」に対して模擬7速ギヤ段-模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段「4th」に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。複合変速機40では、出力回転速度No に対して複数の変速比γtを実現するエンジン回転速度Ne となるように無段変速部18が制御されることにより、一つのATギヤ段に対して変速比γtが異なる複数の模擬ギヤ段を成立させることができる。また、複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部18が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
図1に戻り、車両10は、エンジン14の出力制御、無段変速部18の変速制御、および有段変速部20の変速制御などの各種の制御を実行するコントローラとして電子制御装置90を備えている。図1は、電子制御装置90の入出力系統を併せて示した図であり、また、電子制御装置90によって実行される制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、ROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、出力回転速度センサ62、MG1回転速度センサ64、MG2回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、ブレーキペダルセンサ71、ステアリングセンサ72、ドライバ状態センサ73、Gセンサ74、ヨーレートセンサ76、バッテリセンサ78、油温センサ79、車両周辺情報センサ80、GPS(全地球測位システム)アンテナ81、外部ネットワーク通信用アンテナ82、ナビゲーションシステム83、運転支援設定スイッチ群84、シフトポジションセンサ85など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne 、車速Vに対応する出力回転速度No 、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng 、AT入力回転速度Ni であるMG2回転速度Nm 、運転者の加速要求の大きさを表すアクセルペダルの踏込み操作量であるアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキ(常用ブレーキ)を作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、ブレーキペダルの踏力に対応する、運転者によるブレーキペダルの踏込操作力の大きさを表すブレーキ操作量Bra、車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角θswおよび操舵方向Dsw、ステアリングホイールが運転者によって握られている状態を示す信号であるステアリングオン信号SWon、運転者の状態を示す信号であるドライバ状態信号Drv、車両10の前後加速度Gx 、車両10の左右加速度Gy 、車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw 、バッテリ54のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat 、バッテリ電圧Vbat 、係合装置CBの油圧アクチュエータへ供給される作動油すなわち係合装置CBを作動させる作動油の温度である作動油温THoil 、カメラや距離センサ等で検出した車両周辺情報Iard 、GPS信号Sgps 、通信信号Scom 、ナビ情報Inavi、自動運転制御やオートクルーズ制御等の運転支援制御における運転者による設定を示す信号である運転支援設定信号Sset 、車両10に備えられたシフトレバーの操作ポジションPOSsh など)が、それぞれ供給される。
ドライバ状態センサ73は、例えば運転者の表情や瞳孔などを撮影するカメラ、運転者の生体情報を検出する生体情報センサなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、運転者の視線や顔の向き、眼球や顔の動き、心拍の状態等の運転者の状態を取得する。
車両周辺情報センサ80は、例えばライダー、レーダー、および車載カメラなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、走行中の道路に関する情報や車両周辺に存在する物体に関する情報を直接的に取得する。ライダーは、例えば車両10の前方の物体、側方の物体、後方の物体などを各々検出する複数のライダー、または、車両10の全周囲の物体を検出する一つのライダーであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iard として出力する。レーダーは、例えば車両10の前方の物体、前方近傍の物体、後方近傍の物体などを各々検出する複数のレーダーなどであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iard として出力する。前記ライダーやレーダーによる物体情報には、検出した物体の車両10からの距離と方向とが含まれる。車載カメラは、例えば車両10のフロントガラスの裏側に設けられた、車両10の前方を撮像する単眼カメラまたはステレオカメラであり、撮像情報を車両周辺情報Iard として出力する。この撮像情報には、走行路の車線、走行路における標識、及び走行路における他車両や歩行者や障害物などの情報が含まれる。
運転支援設定スイッチ群84は、自動運転制御を実行させる為の自動運転選択スイッチ、オートクルーズ制御を実行させる為のクルーズスイッチ、オートクルーズ制御における車速を設定するスイッチ、クルーズ制御における先行車との車間距離を設定するスイッチ、設定された車線を維持して走行するレーンキープ制御を実行させる為のスイッチなどを含んでいる。
通信信号Scom は、例えばサーバや道路交通情報通信システムなどの車外装置であるセンタとの間で送受信された道路交通情報など、および/または、前記センタを介さずに車両10の近傍にいる他車両との間で直接的に送受信された車車間通信情報などを含んでいる。道路交通情報には、例えば道路の渋滞、事故、工事、所要時間、駐車場などの情報が含まれる。車車間通信情報は、例えば車両情報、走行情報、交通環境情報などを含んでいる。車両情報には、例えば乗用車、トラック、二輪車などの車種を示す情報が含まれる。走行情報には、例えば車速V、位置情報、ブレーキペダルの操作情報、ターンシグナルランプの点滅情報、ハザードランプの点滅情報などの情報が含まれる。交通環境情報には、例えば道路の渋滞、工事などの情報が含まれる。
ナビ情報Inaviは、例えばナビゲーションシステム83に予め記憶された地図データに基づく道路情報や施設情報などの地図情報などを含んでいる。道路情報には、市街地道路、郊外道路、山岳道路、高速自動車道路すなわち高速道路などの道路の種類、道路の分岐や合流、道路の勾配、制限車速などの情報が含まれる。施設情報には、スーパー、商店、レストラン、駐車場、公園、車両10を修理する拠点、自宅、高速道路におけるサービスエリアなどの拠点の種類、所在位置、名称などの情報が含まれる。サービスエリアは、例えば高速道路で、駐車、食事、給油などの設備のある拠点である。
ナビゲーションシステム83は、GPS信号Sgps に基づいて、予め記憶された地図データ上に自車位置を特定する。ナビゲーションシステム83は、表示装置89に表示した地図上に自車位置を表示する。ナビゲーションシステム83は、目的地が入力されると、出発地から目的地までの走行経路を演算し、表示装置89やスピーカ等で運転者に走行経路などの指示を行う。表示装置89は、例えばタッチ操作が可能なマルチディスプレイなどで、ナビゲーションシステム83以外の種々の用途に使用可能で、車両10の点検に関するメンテナンス情報などについても表示できる。また、表示装置89は、画像表示だけでなく音声や音楽等の音を発生することもできる。
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、外部ネットワーク通信用アンテナ82、ホイールブレーキ装置86、操舵装置87、情報通知装置88など)に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se 、第1回転機MG1および第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、通信信号Scom 、ホイールブレーキによる制動トルクを制御する為のブレーキ制御指令信号Sbra 、車輪(特には前輪)の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Sste 、運転者に警告や報知を行う為の情報通知制御指令信号Sinf など)が、それぞれ出力される。
ホイールブレーキ装置86は、車輪にホイールブレーキによる制動トルクを付与するブレーキ装置である。ホイールブレーキ装置86は、運転者による例えばブレーキペダルの踏込操作などに応じて、ホイールブレーキに設けられたホイールシリンダへブレーキ油圧を供給する。このホイールブレーキ装置86では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキペダルの踏力に対応した大きさのマスタシリンダ油圧が直接的にブレーキ油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置86では、例えばABS制御時、横滑り抑制制御時、車速制御時、自動運転制御時などには、ホイールブレーキによる制動トルクの発生の為に、各制御で必要なブレーキ油圧がホイールシリンダへ供給される。上記車輪は、駆動輪28および不図示の従動輪である。
操舵装置87は、例えば車速V、操舵角θswおよび操舵方向Dsw、ヨーレートRyaw などに応じたアシストトルクを車両10の操舵系に付与する。操舵装置87では、例えば自動運転制御時などには、前輪の操舵を制御するトルクを車両10の操舵系に付与する。
情報通知装置88は、例えば車両10の走行に関わる何らかの部品が故障したり、その部品の機能が低下した場合に、運転者に対して警告や報知を行う装置である。情報通知装置88は、例えばモニタやディスプレイやアラームランプ等の表示装置、および/またはスピーカやブザー等の音出力装置などである。表示装置として前記表示装置89を利用することも可能である。音出力装置は、運転者に対して聴覚的な警告や報知を行う装置である。
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、運転制御手段すなわち運転制御部94、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部96、およびハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部98を備えている。
運転制御部94は、車両10の運転制御として、運転者の運転操作に基づいて走行する自律運転制御と、運転者の運転操作に因らず車両10の運転制御を自動的に行うことで走行する自動運転制御、例えば運転者により入力された目的地や地図情報などに基づいて自動的に目標走行状態を設定し、その目標走行状態に基づいて加減速と操舵とを自動的に行うことで走行する自動運転制御とを行うことが可能である。自律運転制御は、運転者の運転操作による自律運転にて走行する運転制御であり、運転者の運転操作による手動運転にて走行する手動運転制御である。その自律運転は、アクセル操作、ブレーキ操作、操舵操作などの運転者の運転操作によって車両10の通常走行を行う運転方法である。自動運転制御は、自動運転にて走行する運転制御である。その自動運転は、運転者の運転操作(意思)に因らず、各種センサからの信号や情報等に基づく電子制御装置90による制御により加減速、制動、操舵などを自動的に行うことによって車両10の走行を行う運転方法である。
運転制御部94は、運転支援設定スイッチ群84における自動運転選択スイッチにおいて自動運転が選択されていない場合には、自律運転モードを成立させて自律運転制御を実行する。運転制御部94は、有段変速部20やエンジン14や回転機MG1、MG2を各々制御する指令をAT変速制御部96およびハイブリッド制御部98に出力することで自律運転制御を実行する。
運転制御部94は、運転者によって運転支援設定スイッチ群84における自動運転選択スイッチが操作されて自動運転が選択されている場合には、自動運転モードを成立させて自動運転制御を実行する。具体的には、運転制御部94は、運転者により入力された目的地や燃費優先度や車速や車間距離等の各種設定と、GPS信号Sgps に基づく自車位置情報と、ナビ情報Inaviおよび/または通信信号Scom に基づく、カーブ等の道路状態や勾配や高度や法定速度等の前記地図情報、インフラ情報、および天候等と、車両周辺情報Iard に基づく走行路の車線、走行路における標識、走行路における他車両や歩行者などの情報とに基づいて、自動的に目標走行状態を設定する。運転制御部94は、設定した目標走行状態に基づいて加減速と制動と操舵とを自動的に行うことで自動運転制御を行う。この加減速は車両10の加速と車両10の減速とであり、ここでの減速には制動を含めても良い。
運転制御部94は、前記目標走行状態として、目標ルートおよび目標進路、実際の車間距離などに基づく安全マージンを考慮した目標車速、目標車速や走行抵抗分などに基づく目標駆動トルクまたは目標加減速度などを設定する。上記走行抵抗は、例えば予め運転者によって車両10に設定された値、車外との通信により取得された地図情報や車両諸元に基づく値、または、走行中に勾配や実駆動量や実前後加速度Gx 等に基づいて演算された推定値などが用いられる。運転制御部94は、目標駆動トルクが得られるように、有段変速部20やエンジン14や回転機MG1、MG2を各々制御する指令をAT変速制御部96およびハイブリッド制御部98に出力する。目標駆動トルクが負値の場合すなわち制動トルクが必要な場合は、エンジン14によるエンジンブレーキトルク、第2回転機MG2による回生ブレーキトルク、およびホイールブレーキ装置86によるホイールブレーキトルクのうちの少なくとも一つのブレーキトルクが車両10に作用させられる。例えば、運転制御部94は、利用可能な範囲でホイールブレーキトルクを演算し、目標駆動トルクが得られるように、そのホイールブレーキトルクを作用させる為のブレーキ制御指令信号Sbra をホイールブレーキ装置86に出力する。加えて、運転制御部94は、設定した目標走行状態に基づいて前輪の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Sste を操舵装置87に出力する。
AT変速制御部96は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係、すなわち予め定められた関係である図4に例示したATギヤ段変速マップ等、を用いて有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部20の変速制御を実行する。AT変速制御部96は、この有段変速部20の変速制御では、有段変速部20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、リニアソレノイドバルブSL1-SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば車速Vおよび要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部20の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度No などを用いても良いし、また、要求駆動力Frdemに替えて要求駆動トルクTrdemやアクセル開度θacc やスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、および破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。自動運転制御の場合、上記要求駆動力Frdemや要求駆動トルクTrdemとして、例えば目標駆動力や目標駆動トルクを適用すれば良い。
ハイブリッド制御部98は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1および第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、および第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。ハイブリッド制御部98は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc および車速Vを適用することで、駆動要求量としての駆動輪28における要求駆動力Frdem[N]を算出する。駆動要求量としては、要求駆動力Frdemの他に、駆動輪28における要求駆動トルクTrdem[Nm]、駆動輪28における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸22における要求AT出力トルク等を用いることもできる。自動運転制御の場合、上記要求駆動力Frdemや要求駆動トルクTrdemとして、例えば目標駆動力や目標駆動トルクを適用すれば良い。
ハイブリッド制御部98は、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン14を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Se と、第1回転機MG1および第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Se は、例えばそのときのエンジン回転速度Ne におけるエンジントルクTe を出力するエンジン14のパワーであるエンジンパワーPe の指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTe の反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度Ng におけるMG1トルクTg を出力する第1回転機MG1の発電電力Wg の指令値であり、また、指令出力時のMG2回転速度Nm におけるMG2トルクTm を出力する第2回転機MG2の消費電力Wm の指令値である。
ハイブリッド制御部98は、例えば無段変速部18を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPe が得られるエンジン回転速度Ne とエンジントルクTe となるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wg を制御することで、無段変速部18の無段変速制御を実行して無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γtが制御される。
ハイブリッド制御部98は、例えば無段変速部18を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部96による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように車速Vに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Ne を制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、車速Vの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。このように、ハイブリッド制御部98は、エンジン回転速度Ne を有段変速のように変化させる変速制御が可能である。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTrdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
ハイブリッド制御部98は、走行モードとして、モータ走行モードまたはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部98は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。図4の一点鎖線Aは、車両10の走行用の動力源を、少なくともエンジン14とするか、第2回転機MG2のみとするかを切り替える為の境界線である。すなわち、図4の一点鎖線Aは、ハイブリッド走行とモータ走行とを切り替える為のハイブリッド走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図4の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速Vおよび要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標で構成された動力源切替マップの一例である。なお、図4では、便宜上、この動力源切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。自動運転制御でも、同様の動力源切替マップを用いてモータ走行モードとハイブリッド走行モードとを切り替えて走行することができる。
一方、本実施例では、残存寿命予測装置140によって車両部品である前記有段変速部20の残存寿命が予測され、表示装置89に表示される。残存寿命予測装置140は、車両10の電子制御装置90に設けられた寿命管理部100の他、車両10の外部に設けられた残存寿命管理センタのサーバ142を備えて構成されている。図5は、残存寿命予測装置140として機能する部分を取り出して示した機能ブロック線図で、寿命管理部100は、外部ネットワーク通信用アンテナ82を介して残存寿命管理センタのサーバ142との間で各種の情報を送受信することが可能である。残存寿命管理センタは、車両10のメーカー等によって設けられたもので、無線通信機144を備えており、携帯電話網や無線LAN網、インターネット等の無線通信のネットワークを介して車両10の寿命管理部100との間で情報を送受信することができる。寿命管理部100は、外部ネットワーク通信用アンテナ82を用いてサーバ142との間で情報を授受しているが、外部ネットワーク通信用アンテナ82とは別に寿命管理用の通信機器が設けられても良い。残存寿命管理センタはデータ管理センタに相当する。
車両10の電子制御装置90に設けられた寿命管理部100は、機能的にデータ送信部102、残存寿命記憶部104、および残存寿命伝達部106を備えている。データ送信部102は、有段変速部20の残存寿命に影響する各種の寿命関連データを、車両10の走行時に自動的に走行関連情報と共にサーバ142に送信する。有段変速部20は、残存寿命に関係する多数の構成要素、具体的には係合装置CBや出力軸22、遊星歯車装置36、38、図示しないベアリング、油圧制御回路56に設けられた電動式オイルポンプ等を備えており、それ等の構成要素の最短残存寿命が有段変速部20全体の残存寿命となる。したがって、寿命関連データは、それ等の構成要素の残存寿命すなわち負荷や耐久性に影響するもので、例えば駆動源であるエンジン14および第2回転機MG2のトルク(負トルクを含む)、電気式無段変速部18の第2回転機MG2の回生トルク、有段変速部20の各ATギヤ段の変速比γat、有段変速部20の潤滑油の油温THoil 、車速Vに対応する出力回転速度No 、車両10の加速度dV/dt、潤滑油の交換の有無等を含む車両10のメンテナンス情報、などを含んでいる。動力伝達経路が異なるATギヤ段についても、寿命関連データとして送信する。油温THoil は油圧制御回路56の作動油の温度であるが、この作動油は各部の潤滑油としても用いられるため、潤滑油の油温と同値である。加速度dV/dtは、車速Vの変化から算出できるが、加速度センサが設けられても良い。有段変速部20は必要に応じて交換される場合があるため、その寿命関連データは、有段変速部20を個別に識別して管理する必要がある。有段変速部20には、個体ごとに識別情報としてシリアル番号(個別識別番号)が付与されており、寿命関連データは、そのシリアル番号と共に送信される。車両10を特定する車体番号なども送信される。
走行関連情報は、トンネル等の通信環境の影響でサーバ142が寿命関連データを受信できなかった場合に、サーバ142が、車両10が走行中であるにも拘らず寿命関連データを受信できなかったデータ未取得走行区間か否かを判定できる情報で、例えば累積走行距離Lc や累積走行時間Tc が適当である。すなわち、その累積走行距離Lc または累積走行時間Tc が不連続に変化した場合、不連続に変化した走行距離や走行時間をデータ未取得走行区間と判定することができる。累積走行距離Lc や累積走行時間Tc は、走行距離計やタイマー等によって検出することができる。本実施例では、累積走行距離Lc および累積走行時間Tc の両方が走行関連情報として送信される。データ未取得走行区間を判定するための走行関連情報として、車両10の走行に伴って積算される他の累積量や、GPS信号Sgps から求められる車両10の位置情報を用いることもできる。
残存寿命記憶部104は、サーバ142から送られて来た残存寿命に関する情報を記録媒体に記憶するものである。残存寿命伝達部106は、記録媒体に記憶された残存寿命情報を読み出して外部に伝達するもので、例えば表示装置89に表示する。
サーバ142は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を有する所謂マイクロコンピュータを備えて構成されている。サーバ142は、機能的にデータ取得部150、データ未取得区間特定部152、データ補完処理部154、寿命算出部156、および寿命情報送信部158を備えており、図6のフローチャートのステップS1~S9(以下、ステップを省略して単にS1~S9という。)に従って信号処理を実行する。図6のS1~S4はデータ取得部150に相当し、S5はデータ未取得区間特定部152に相当し、S6はデータ補完処理部154に相当し、S7およびS8は寿命算出部156に相当し、S9は寿命情報送信部158に相当する。本実施例では、データ補完処理部154および寿命算出部156によって残存寿命演算部が構成されている。
図6のS1では、寿命関連データの取得開始か否か、具体的には車両10の走行に伴って前記データ送信部102から有段変速部20に関する寿命関連データや走行関連情報の送信が開始され、それ等の情報を受信したか否かを判断する。寿命関連データ等を受信していなければそのまま終了するが、寿命関連データ等を受信した場合にはS2以下を実行する。S2では、受信した寿命関連データのシリアル番号が、過去に受信した車両10の有段変速部20のシリアル番号と同一か否かを判断し、同一であれば直ちにS4以下を実行する。シリアル番号が異なる場合は、有段変速部20が交換されたと判断できるため、寿命関連データを新たに取得し直す必要があり、S3に続いてS4以下を実行することにより、新たなシリアル番号で受信した寿命関連データを管理する。
S4では、受信した寿命関連データや走行関連情報をリアルタイムにデータ記録媒体160に記憶する。S5では、データ記録媒体160に記憶された走行関連情報として例えば累積走行距離Lc を読み出し、その累積走行距離Lc が不連続に変化しているデータ未取得走行区間があるか否かを判断する。そして、累積走行距離Lc が不連続に変化しているデータ未取得走行区間がある場合には、その不連続走行距離Lclをデータ未取得走行区間、すなわちデータ未取得走行距離と判定し、S6でデータ未取得走行距離Lclに基づいてデータ補完処理を実行した後、S7の残存寿命演算処理を実行する。データ未取得走行区間が無い場合は、S6を実行することなくS7の残存寿命演算処理を実行する。なお、累積走行時間Tc が不連続に変化している不連続走行時間Tclをデータ未取得走行区間、すなわちデータ未取得走行時間と判定し、そのデータ未取得走行時間Tclに基づいてデータ補完処理を行なうこともできる。
S6のデータ補完処理は、有段変速部20の複数の構成要素についてそれぞれ前記寿命関連データから求めた負荷(トルクや回転速度など)の大きさと頻度(総使用回数、総使用時間、総回転数など)との関係である負荷分布を、データ未取得走行距離Lclに基づいて補完する。具体的には、車両10の総走行距離である累積走行距離Lc と、その累積走行距離Lc からデータ未取得走行距離Lclを減算したデータ取得走行距離(Lc -Lcl)との割合〔Lc /(Lc -Lcl)〕を求め、次式(1) に示すように負荷分布の実データ(頻度)を掛け算することにより補完後データが得られる。累積走行距離Lc は車両10の総走行区間に相当し、データ未取得走行距離Lclはデータ未取得走行区間に相当する。なお、総走行時間である累積走行時間Tc およびデータ未取得走行時間Tclを用いて、次式(2) に従って負荷分布の補完処理を行なうこともできる。(1) 式および(2) 式の割合〔Lc /(Lc -Lcl)〕、〔Tc /(Tc -Tcl)〕は必ずしも一致しないため、例えば寿命予測の対象である構成要素の損傷原因等に応じて(1) 式と(2) 式とを使い分けても良い。
補完後データ=〔Lc /(Lc -Lcl)〕×実データ ・・・(1)
補完後データ=〔Tc /(Tc -Tcl)〕×実データ ・・・(2)
図7~図10は、有段変速部20が備える複数の構成要素に関するデータ補完処理等を具体的に説明する図で、負荷の大きさと頻度との関係である負荷分布の一例であり、破線は前記寿命関連データから求められた実データで、実線はS6のデータ補完処理によって得られた補完後データである。図7は前記クラッチC1に関する負荷分布で、負荷は伝達トルク、頻度は係合時間である。図8はベアリングに関する負荷分布で、負荷は回転速度、頻度は総回転数や総回転時間である。図9は電動式オイルポンプに関する負荷分布で、負荷は回転トルク、頻度は総回転数や総回転時間である。図10は出力軸22に関する負荷分布で、負荷は伝達トルク、頻度は総回転数や総回転時間である。ここで、クラッチC1等の係合装置CB、出力軸22、遊星歯車装置36、38の各部の歯車やベアリングに加えられる負荷は、有段変速部20の入力トルクが同じでもATギヤ段毎に異なり、何分の1、或いは何倍にもなるため、ATギヤ段を考慮して計算される。すなわち、ATギヤ段毎に動力の伝達経路が相違し、異なる構成要素を介して動力が伝達される。また、例えば第2回転機MG2による回生が行なわれた場合、駆動輪28からの入力になるため、それぞれの構成要素が受ける負荷が相違し、それも考慮して計算される。
S7の残存寿命演算処理は、有段変速部20の各構成要素毎に耐久性が相違するため、各構成要素毎に求められた前記補完後データに基づいてそれぞれ残存寿命を算出する。すなわち、補完後データを、耐久性が成り立つ負荷分布として予め定められた強度情報と比較して、マイナー則等に従って累積疲労損傷度Dc を算出し、その累積疲労損傷度Dc に基づいて残存寿命を予測する。強度情報は、各負荷領域において構成要素が寿命に達する頻度(疲労限度)の情報で、図7~図10に一点鎖線で示した寿命S-N線は強度情報の一例であり、その傾き等は構成要素毎に相違している。この強度情報(寿命S-N線)は、実験やシミュレーション等により予め一定のマップや演算式等が定められて記憶しておいても良いが、同一の有段変速部20を搭載した多数の車両のデータ(ビッグデータなど)に基づいて定めることもできる。
そして、例えば図7に示したように、補完後データの負荷分布の各負荷領域Si における頻度nfiと寿命S-N線の頻度Nfiとを用いて、次式(3) に示すように頻度nfiを頻度Nfiで割り算することにより、その負荷領域Si における疲労損傷度Dciを算出する。また、次式(4) に示すように、総ての負荷領域Si の疲労損傷度Dciを積算することにより累積疲労損傷度Dc を算出する。この累積疲労損傷度Dc =1が、疲労限度すなわち当該構成要素の寿命を意味する。したがって、(1-Dc )が残存寿命に対応し、現在までの総走行距離である累積走行距離Lc を用いて次式(5) に従って残存走行距離Lrem を求めることができる。残存走行距離Lrem は、当該構成要素が寿命に達するまでに走行可能な残りの距離で、当該構成要素の残存寿命に相当する。また、総走行時間である累積走行時間Tc を用いて、当該構成要素が寿命に達するまでに走行可能な残りの時間である残存走行時間Trem を、次式(6) に従って算出することができる。
Dci=nfi/Nfi ・・・(3)
Dc =ΣDci ・・・(4)
Lrem =〔(1-Dc )/Dc 〕×Lc ・・・(5)
Trem =〔(1-Dc )/Dc 〕×Tc ・・・(6)
上記残存走行距離Lrem 、残存走行時間Trem はそれぞれ一定値であっても良いが、本実施例では誤差等を考慮して所定の幅をもって算出される。例えば、(5) 式、(6) 式による算出値に対して、その一定割合をプラスマイナスしても良い。また、「一般的使用」の場合と、「厳しい使用」の場合とに分けて求めることもできる。すなわち、上記(5) 式および(6) 式は、現在時点(累積走行距離Lc )までの運転状態がそのまま継続されることを前提として残存寿命を算出しているが、これを「一般的使用」の場合とし、例えばこれよりも一定割合だけ減らした残存寿命を「厳しい使用」の場合として算出しても良い。3つ以上に場合分けして残存寿命を求めることもできる。
ここで、構成要素によっては、潤滑油の油温THoil や車両10の加速度dV/dt、共振も耐久性に影響するため、それ等を考慮して残存寿命を求めることができる。すなわち、前記負荷分布の実データや補完後データ、累積疲労損傷度Dc 、或いは残存寿命である残存走行距離Lrem 、残存走行時間Trem を、油温THoil や車両10の平均加速度、或いは共振走行距離等によって修正しても良い。例えば、油温THoil は、一般に低温である程耐久性に対して有利に働くが、油温THoil は走行環境や走行時間等によって逐次変化する。このため、潤滑油が耐久性に影響する係合装置CBやベアリング等の構成要素については、例えば図11に示すように標準油温Soil の場合に1.0で、それよりも高温側では1.0よりも大きくなり、低温側では1.0よりも小さくなるように、予め定められた修正係数のマップ等を用いて、例えば寿命関連データから前記負荷分布の実データを算出する際などに修正することが望ましい。構成要素によって影響が異なるため、構成要素毎に異なる修正係数が定められても良い。標準油温Soil は、予め定められた設計温度などで、例えば120℃程度である。
車両10の加速度dV/dtは、一般に大きいと耐久性に対して不利に働くが、加速度dV/dtは走行環境や走行時間等によって逐次変化するため、平均加速度を用いて修正する。平均加速度は、例えば前進および後進走行中に発生する正負の加速度の絶対値の平均値が適当であるが、前進走行中だけでも良い。加速度dV/dtが耐久性に影響する係合装置CBや出力軸22等の構成要素については、例えば図12に示すように標準平均加速度Sacc の場合に1.0で、それよりも高加速度側では1.0よりも大きくなり、低加速度側では1.0よりも小さくなるように、予め定められた修正係数のマップ等を用いて、例えば実データや補完後データ、或いは累積疲労損傷度Dc を修正することが望ましい。構成要素によって影響が異なるため、構成要素毎に異なる修正係数が定められても良い。標準平均加速度Sacc は、予め定められた設計平均加速度などで、例えば0.3G程度である。なお、逆の特性の修正係数を用いて、残存寿命である残存走行距離Lrem や残存走行時間Trem を修正しても良い。
車両10の共振は、一般に耐久性に対して不利に働くため、車両10が共振発生しながら走行する共振走行距離を用いて修正する。共振には波状路共振やパワトレ共振などがあるが、共振走行か否かは、共振検知センサによって検知することができるし、出力回転速度No 等の回転速度やトルクの周期的な変動から判定することもできる。共振が耐久性に影響する係合装置CBや出力軸22等の構成要素については、例えば図13に示すように標準共振走行距離Sdis の場合に1.0で、それよりも長距離側では1.0よりも大きくなり、短距離側では1.0よりも小さくなるように、予め定められた修正係数のマップ等を用いて、例えば実データや補完後データ、或いは累積疲労損傷度Dc を修正することが望ましい。構成要素によって影響が異なるため、構成要素毎に異なる修正係数が定められても良い。標準共振走行距離Sdis は、予め定められた設計共振走行距離などである。上記共振走行距離の代わりに、共振走行時間や共振走行回数を用いても良い。なお、逆の特性の修正係数を用いて、残存寿命である残存走行距離Lrem や残存走行時間Trem を修正しても良い。
残存寿命の算出に際してはまた、波状路の走行等により駆動輪28から大きなトルクが入力された場合、耐久性に対して不利であるため、入力回数や波状路走行時間等に応じて例えば負荷分布の実データや補完後データ、累積疲労損傷度Dc を増大させるプラス補正を行なったり、残存寿命である残存走行距離Lrem や残存走行時間Trem を減少させるマイナス補正を行なったりしても良い。また、潤滑油が交換されると潤滑性能が回復し、係合装置CBやベアリング等の構成要素の耐久性に対して有利に働くため、メンテナンス情報から潤滑油の交換を判断し、例えば負荷分布の実データや補完後データ、累積疲労損傷度Dc を減少させるマイナス補正を行なったり、残存寿命である残存走行距離Lrem や残存走行時間Trem を増大させるプラス補正を行なったりしても良い。潤滑油が交換されると粘度が低くなるため、電動式オイルポンプの耐久性にも有利であるが、摩擦部品である係合装置CBやベアリング等に比べて影響が小さいため、構成要素毎に補正の程度(率など)を相違させても良い。
前記S7で、各構成要素の残存寿命(残存走行距離Lrem や残存走行時間Trem )がそれぞれ算出されると、次にS8を実行する。S8では、複数の構成要素のうち予測した残存寿命が最も短い構成要素の残存寿命を有段変速部20の残存寿命とする。そして、S9では、その残存寿命に関する情報、すなわち最短の残存走行距離Lrem や残存走行時間Trem を、車両10の寿命管理部100に送信する。その残存寿命の構成要素名等を一緒に送信しても良い。なお、残存寿命を算出するサーバ142が設けられた残存寿命管理センタにおいても、その有段変速部20の残存寿命や各構成要素の残存寿命を表示できるようにしても良い。また、その残存寿命情報を、車両10に送信するとともに、その車両10の点検等を行なうディーラの端末等に送信するようにしても良い。残存寿命管理センタやディーラ等は、有段変速部20が交換された時などに、残存寿命の情報を提供したり、中古販売される際に残存寿命が最短の最弱構成要素を新品に交換することを促したりすることができる。
上記残存寿命情報を受信した車両10においては、寿命管理部100の残存寿命記憶部104により、サーバ142から送られて来た残存寿命に関する情報を記録媒体に記憶する。また、その記録媒体に記憶された残存寿命情報を読み出して外部に伝達する残存寿命伝達部106は、残存寿命の伝達指示(表示指示など)があったか否かを判断し、伝達指示があった場合に残存寿命として残存走行距離Lrem や残存走行時間Trem を表示装置89に表示する。表示の代わりに、或いは表示に加えて、音声で伝達しても良い。伝達指示と関係無く伝達したり、残存寿命が所定値以下になった場合などに、自動的にランプの点灯や警告音等で知らせるようにしたりしても良い。車両10とは別の残存寿命表示ツールが有線通信または無線通信を介して寿命管理部100に接続され、その残存寿命表示ツールからの表示指示に従って残存寿命が残存寿命表示ツールに表示されるようにしても良い。残存寿命表示ツールは、パソコンやタブレット、或いは専用機などである。
図14は、残存寿命を表示させる際のエンター画面170の一例で、ディーラ名やパスワード等の所定事項が入力されてエンター釦172がタッチ操作された場合に、表示指示があったと判断する。図14のエンター画面170は、表示装置89のメンテナンス画面等から選択できるように設けられており、「ディーラ名」および「パスワード」が正しいことを条件として先へ進むことができる。すなわち、この残存寿命の表示は、車両10の定期点検時等にディーラの整備工場で、予め許可された特定の作業者、例えばその整備工場の技術者等に対して行なうことを前提としており、ユーザー等の第三者が勝手に見ることが制限されている。
図15は、上記「ディーラ名」および「パスワード」が正しく入力されてエンター釦172がタッチ操作された場合に、表示装置89に表示される残存寿命表示画面180の一例である。この残存寿命表示画面180には、「車両名」、「車体番号」の欄に加えて残存寿命表示部182、車両履歴情報表示部184が設けられている。「車両名」、「車体番号」は、車両購入時等に予め電子制御装置90等に登録されており、担当者は「車体番号」が一致していること等を確認する。残存寿命表示部182には、有段変速部20の予測残存寿命(残存走行時間Trem および残存走行距離Lrem )が、「一般的使用」の場合と「厳しい使用」の場合とに分けてそれぞれ所定の幅をもって表示される。したがって、これを見た作業者は、有段変速部20の交換時期を適切に判断することができる。予測残存寿命として、残存走行時間Trem および残存走行距離Lrem の何れか一方が表示されるだけでも良い。車両履歴情報表示部184には、車両10の購入日に加えて、ATF(潤滑油)の交換等のメンテナンス情報が一覧表示されるようになっている。
図1に戻って、車両10は、上記の各種の制御を実行する電子制御装置90のプログラムやデータの一部または全部が、車両用ソフトウェア更新システム110によって更新される。車両用ソフトウェア更新システム110は、電子制御装置90とは別に車両10に設けられた一対の第1ゲートウェイECU120、第2ゲートウェイECU126と、外部のソフト配信センタとを備えて構成されている。第1ゲートウェイECU120、第2ゲートウェイECU126は、何れもCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を有する所謂マイクロコンピュータを備えて構成されている電子制御装置である。
第1ゲートウェイECU120は無線更新部として機能するもので、無線通信機122、125を介してソフト配信センタのサーバ124との間で情報を送受信することが可能であり、必要に応じて新たな更新用ソフトウェアをサーバ124からダウンロードして電子制御装置90のソフトウェア(プログラムやデータ)を更新する。ソフト配信センタは、車両10のメーカー等によって設けられたもので、携帯電話網や無線LAN網、インターネット等の無線通信を介して第1ゲートウェイECU120との間で情報を送受信できる。無線通信機122の代わりに前記外部ネットワーク通信用アンテナ82を利用することもできる。
第2ゲートウェイECU126は有線更新部として機能するもので、更新ツール130を有線により機械的に着脱可能に接続できるコネクタ128を備えている。更新ツール130は、使用可能な更新用ソフトウェアが予め有線通信或いは無線通信等によりサーバ124等からダウンロードされて記憶されているもので、本実施例では車両10を取り扱う各ディーラに備えられている。更新ツール130は、少なくとも車両10に関する更新用ソフトウェアについて、ソフト配信センタのサーバ124と同期(シンクロ)させられており、例えば整備工場の技術者等により操作されて電子制御装置90のソフトウェア(プログラムやデータ)を更新することができる。
このように、本実施例の残存寿命予測装置140においては、寿命関連データが車両10の走行に関する累積走行距離Lc と共に無線通信を介して残存寿命管理センタのサーバ142に送信されるため、累積走行距離Lc が不連続に変化している走行距離を、残存寿命管理センタが寿命関連データを受信できなかったデータ未取得走行距離Lclとして特定することができる。したがって、そのデータ未取得走行距離Lclに基づいて、そのデータ未取得走行距離Lclにおける有段変速部20の寿命低下を加味して、残存寿命である残存走行距離Lrem および残存走行時間Trem を予測することが可能で、その残存走行距離Lrem および残存走行時間Trem の予測精度が向上する。
また、車両10の総走行区間である累積走行距離Lc と、データ取得走行区間であるデータ取得走行距離(Lc -Lcl)との割合〔Lc /(Lc -Lcl)〕に応じて、前記(1) 式に従って負荷分布の実データを補完することにより残存寿命を低下させるため、データ未取得走行距離Lclにおける寿命関連データの欠落に拘らず、残存寿命である残存走行距離Lrem および残存走行時間Trem を高い精度で予測することができる。
また、寿命関連データから得られた負荷分布の実データを、データ未取得走行区間であるデータ未取得走行距離Lclに基づいて補完し、その負荷分布の補完後データに基づいて残存寿命として残存走行距離Lrem および残存走行時間Trem を算出するため、その残存走行距離Lrem および残存走行時間Trem を高い精度で予測することができる。
また、寿命関連データに基づいて有段変速部20に加えられた負荷の大きさと頻度との関係である負荷分布の実データを求め、本実施例では(1) 式に従って補完した後の補完後データと予め定められた強度情報(寿命S-N線)とを比較して累積疲労損傷度Dc を算出し、その累積疲労損傷度Dc に基づいて(5) 式および(6) 式に従って残存寿命として残存走行距離Lrem および残存走行時間Trem を算出するため、その残存走行距離Lrem および残存走行時間Trem を高い精度で予測することができる。
また、車両10の走行関連情報として累積走行距離Lc および累積走行時間Tc の両方がデータ管理センタに送信され、その累積走行距離Lc 、累積走行時間Tc が不連続に変化した区間をデータ未取得走行区間(データ未取得走行距離Lcl、データ未取得走行時間Tcl)と判定するため、データ未取得走行区間を容易に高い精度で特定することができる。
また、本実施例は耐久性が異なる複数の構成要素を有する動力伝達装置として有段変速部20の残存寿命を予測する場合で、複数の構成要素についてそれぞれ残存寿命(残存走行距離Lrem および残存走行時間Trem )を予測し、その予測した残存寿命が最も短い構成要素の残存寿命を有段変速部20の残存寿命とするため、耐久性が異なる複数の構成要素を有する有段変速部20の残存寿命を適切に評価することができる。
また、本実施例ではデータ未取得区間特定部152、および残存寿命演算部であるデータ補完処理部154、寿命算出部156が、外部の残存寿命管理センタのサーバ142に備えられているため、例えば車両10に搭載された電子制御装置90によって残存寿命を算出する場合に比較して、多量のデータを迅速に処理して残存寿命を高い精度で求めることができる。また、その残存寿命に関する情報が車両10に送信され、表示装置89に表示されて整備工場の技術者等に伝達されるため、有段変速部20の残存寿命を容易に把握して必要に応じて適切に交換することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。