JP7217867B2 - 排気ガス浄化装置の診断装置 - Google Patents
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Description
NOx還元反応における余剰アンモニアが排出される現象、所謂、アンモニアスリップ現象を抑制しつつ、NOx浄化率を高くするためには、SCR触媒に対して過不足のない尿素水を供給する必要がある。そこで、SCR触媒の浄化性能について、劣化(異常)診断が行われている。
しかし、特許文献1の技術では、アンモニア濃度が上昇していない状況にも拘らず、排気浄化システムの浄化異常を誤診断する虞がある。
図8(a)~図8(d)は、走行車両の速度、SCR触媒の温度、アンモニア吸着量、及びSCR触媒前後のNOx濃度を夫々示すグラフである。
この検証実験の車両では、実際にSCR触媒に吸着されている現アンモニア吸着量(以下、実吸着量という)が零の状態からエンジンが始動され、走行開始後、400secの時点でSCR触媒に対して尿素水の噴射が開始されている。
尚、検証実験に用いたSCR触媒は、銅イオン交換ゼオライトを主な構成要素として構成され、正常な浄化性能を備えている。また、SCR触媒前後に配置されたNOx濃度センサについても、正常な機能を備えている。
図8(d)に示すように、尿素水の噴射開始直後の所定期間(400~450sec)、各NOx濃度センサが正常で且つSCR触媒も劣化していないにも拘らず、下流側NOx濃度が上流側NOx濃度よりも高くなる異常値を示し、その後、正常状態に戻っている。
この検証実験の結果、尿素水が噴射された直後の所定期間、下流側NOx濃度センサが、上流側NOx濃度センサよりも高いセンサ出力(異常出力)を出力することが知見された。
図9に示すように、SCR触媒に吸着されるNOxは、SCR触媒の温度に依存し、所定温度(120℃)をピークとする放物線を描く特性を備えている。また、図10に示すように、SCR触媒に吸着されるNOxは、ガス接触性が高い程、減少する特性を備えている。しかも、SCR触媒の温度とガス接触性の何れの項目であっても、NOの吸着量よりもNO2の吸着量が多くなる傾向になっている。
銅は、1価の状態でゼオライト内に存在することが可能である。
また、NO2は、NO2イオンの状態でゼオライト内に存在することが可能である。
1価の銅から1つの電子がNO2に供給されると、NO2がNO2イオンになり、銅とNO2は配位結合するため、両者は電気的に結合する。
それ故、ゼオライト内にアンモニアが存在していない場合、ゼオライトに対してNO2が配位結合により吸着される。特に、DPF(Diesel Particulate Filter)の再生直後にエンジンが停止され、エンジン冷却後エンジンが再始動された場合、NOxの吸着傾向が強くなる。この状況で、ゼオライト内にアンモニアが供給されると、アンモニアが優先的にゼオライトに配位結合され、先に吸着されているNO2が放出される。
即ち、SCR触媒にアンモニアが吸着されていない状況からエンジンを始動する状況では、SCR触媒のNOx浄化率が誤診断される虞がある。
前記制御手段は、推定されたアンモニア吸着量が所定閾値以下のとき、前記選択還元触媒の浄化率の診断を制限するため、前段階において配位結合により吸着され且つ尿素水の供給後選択還元触媒から放出されるNOxを浄化率の診断対象から除外することができる。
これにより、選択還元触媒にアンモニアが吸着されていない状況からエンジンを始動する場合に、NOx浄化率の誤診断を回避することができる。
この構成によれば、所定温度をピークとする放物線状のNOx特性を考慮することができ、第1設定温度をNOx特性の所定温度に設定することで浄化率診断の制限領域を最小限に抑えることができる。
この構成によれば、選択還元触媒に吸着されたNOxをアンモニアに置換した後、浄化率診断を適正に開始することができる。
この構成によれば、適正量の尿素水を選択還元触媒に供給することができ、選択還元触媒に吸着されるアンモニア吸着量を容易に推定することができる。
この構成によれば、アンモニアスリップ現象を防止しつつ適正量の尿素水を供給することができる。
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明に係る排気浄化装置が適用されるエンジンの全体構成について、図1に基づいて説明する。
図1に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼル車載エンジンであって、エンジン本体1と、エンジン本体1における燃焼に必要な空気を供給する吸気システム3Sと、エンジン本体1から排出された排気ガスを浄化して外部に排出する排気システム4S(排気ガス浄化装置)と、吸気システム3Sによって供給される空気(吸気)を圧縮しつつエンジン本体1に送り出す過給装置50と、排気システム4Sを流通する排気ガスの一部を吸気システム3Sに還流するEGR装置70等を備えている。
また、排気通路40におけるDPF42とSCR触媒43との間の部分には、尿素インジェクタ45とミキシングプレート47とが設けられている。
SCR触媒43は、例えば、多孔質性の担体と、当該担体に担持されたバナジウム、タングステン、またはゼオライト等の触媒物質とを有している。本実施形態では、銅イオン交換ゼオライトを用いている。上述したとおり、SCR触媒43には、尿素インジェクタ45が噴射した尿素水から生成されるアンモニアが吸着される。SCR触媒43は、このアンモニアを還元剤として用いた化学反応(アンモニアの還元作用)により、排気ガス中のNOxをN2やH2Oに変換させる。
図2は、本実施形態のエンジンの制御系統を示すブロック図である。本実施形態のエンジンが搭載される車両は、エンジンを統括的に制御するコントローラ100(制御手段)を備える。コントローラ100は、マイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。本実施形態においてコントローラ100は、尿素インジェクタ45及びポンプ46Pの動作を制御する制御部として機能する。
尚、コントローラ100は、単一のプロセッサである必要はなく、電気的に接続された複数のプロセッサを含んでいても良い。例えば、コントローラ100は、主にエンジン本体1を制御するための第1のプロセッサと、尿素インジェクタ45及びポンプ46P等のドーシング制御のための第2のプロセッサとを含んでいても良い。
浄化率Dは、次式(1)によって演算されている。
D=実浄化率/理論浄化率 …(1)
尚、実浄化率は、NOx濃度センサSN5のセンサ出力値からNOx濃度センサSN10のセンサ出力値を差分して求められ、理論浄化率は、燃料噴射弁15からの燃料噴射量、燃料噴射時期、エンジン回転速度、及び空燃比に関与する吸入空気量等に基づき気筒内に発生するNOx濃度等に基づき求められる。
第1実行条件は、現時点においてSCR触媒43に吸着されているアンモニアの実吸着量Qc(以下、現アンモニア吸着量Qcという)が零相当の判定閾値La(例えば、0.1g/l)よりも大きいことである。
現アンモニア吸着量Qcが判定閾値La以下の場合、SCR触媒43(ゼオライト)に対してNOx(NO2)が配位結合により吸着される。その後、アンモニアが供給されると、アンモニアが優先的にSCR触媒43に配位結合され、先に吸着されているNOxが脱離することから、下流側のNOx濃度センサSN10において浄化に係る正確なNOx濃度を取得できず、上流側のNOx濃度センサSN5と下流側のNOx濃度センサSN10の出力逆転現象が生じるからである。
(a)NOx濃度センサSN5,SN10の出力が何れも設定値(例えば、100ppm)以上
(b)SCR触媒43の温度が第1設定温度(120℃)以上
(c)排気ガス流量が設定流量以上
尚、第2実行条件には、上記3項目の他に以下の項目を加えることも可能である。
(d)尿素水供給から所定時間以上経過
(e)DPF42の再生から所定時間以内
(f)NO2の存在比率が略50%
浄化率Dが予め設定された判定閾値Ld以上の場合、SCR触媒43が正常に機能しているため、正常判定する。浄化率Dが判定閾値Ld未満の場合、SCR触媒43が劣化等の要因により機能異常を発生しているため、異常判定する。
浄化診断部105は、異常判定した場合、メータパネルに設けられたランプ等の報知手段(図示略)によって乗員に報知している。
次に、図3~図6を参照して、尿素インジェクタ45からの尿素水の噴射動作の制御であるドージング制御について、ドージング制御部103がエンジンの通常運転時等に実行するベーシックなドージング制御について説明する。この通常運転時のドージング制御では、SCR触媒43の温度に応じてアンモニアの目標吸着量(図5のQa)を設定し、この目標吸着量に応じた量の尿素水を尿素インジェクタ45から噴射する制御が実行される。
また、尿素インジェクタ45からの尿素水の噴射は、SCR触媒43の温度が第2設定温度(例えば、180℃)以上で実行されている。
尚、目標吸着量は、SCR触媒43において吸着可能なアンモニア量に基づいて予め定められる。
制御がスタートすると、コントローラ100(ドージング制御部103)は、SCR触媒43の温度Tsを推定する(S1)。尚、図中、Si(i=1,2,…)は、各ステップを示す。また、SCR触媒43の温度Tsは、典型的には、SCR触媒43の担体の温度、つまり床温のことである。
コントローラ100は、まず、排気温センサSN6により検出されるSCR触媒43の直前の排気ガスの温度と、排気ガスの流量とに基づいて、SCR触媒43への入熱量を算出する。上述の通り、排気ガスの流量は、エアフローセンサSN3により検出される吸気流量やEGR弁73の開度等から推定することができる。
ここで、SCR触媒43からの放熱量は、車速が高い程大きいものとして扱うことができる。これは、車速が高い程SCR触媒43に吹き当たる走行風が増えて放熱が促進されるからである。逆に、放熱量は、車速が低い程小さくなるので、SCR触媒43の温度Tsは、車速が低い程高いと推定されることになる。
コントローラ100は、上記S4で求められたアンモニア消費量Wと、アンモニアの要求余剰供給量Qdとに基づいて、尿素水の噴射量Uを算出する。ここで、アンモニアの要求余剰供給量Qdとは、SCR触媒43において現アンモニア吸着量Qcを目標吸着量Qaまで高めるのに必要なアンモニアの余剰供給量のことであり、上記S2で決定されたアンモニアの目標吸着量Qaから、上記S3で算出された現アンモニア吸着量Qcを差し引くことで得られる値である。尿素水の噴射量Uは、要求余剰供給量Qdが多い程、また、アンモニア消費量Wが多い程、より大きい値として算出される。
以上が、ドージング制御の基本動作である。続いて、SCR触媒43の浄化性能が正常に機能しているかを診断する浄化診断制御について説明する。
この浄化診断制御は、NOx浄化率の誤診断を回避し、浄化診断の精度を向上することを企図するもので、主に浄化率演算部104及び浄化診断部105によって実行される。
S12では、現アンモニア吸着量Qcが推定され、S13に移行する。
前述したドージング制御(S3)と同様に、アンモニア供給量から、SCR触媒43での各時点のアンモニア消費量を差し引いた蓄積分を時間ごとに積算して現アンモニア吸着量Qcを推定する。
S13の判定の結果、現アンモニア吸着量Qcが閾値Laよりも大きい場合、第1実行条件が成立するため、S14に移行する。
S14では、第2実行条件(a)~(c)が成立したか否か判定する。
S14の判定の結果、第2実行条件(a)~(c)が成立した場合、浄化診断を行う条件を満たすため、S15に移行する。S14の判定の結果、第2実行条件(a)~(c)が成立しない場合、正確な浄化診断を行える状態ではないため、リターンする。
S16では、浄化率Dが閾値Ld以上か否か判定する。
S16の判定の結果、浄化率Dが閾値Ld以上の場合、SCR触媒43の浄化性能が十分に機能しているため、正常判定を行い(S17)、リターンする。
S16の判定の結果、浄化率Dが閾値Ld未満の場合、SCR触媒43の浄化性能が十分に機能していないため、異常判定を行い(S18)、リターンする。
現アンモニア吸着量Qcが閾値La以下の場合、排気ガス中のNOxがSCR触媒43に吸着され、アンモニアの供給によりNOxが脱離するため、本来、存在しないはずのNOxがSCR触媒43の下流に放出される。この放出されたNOxが、NOx濃度センサSN10に検出された場合、正確な浄化率Dを取得できないからである。
S19の判定の結果、尿素インジェクタ45から尿素水を噴射可能、つまり、SCR触媒43温度Tsが第2設定温度(180℃)以上である場合、現アンモニア吸着量Qcが閾値La以下であっても、アンモニアがSCR触媒43に吸着され、NOxの脱離現象が発生しないため、S14に移行する。S19の判定の結果、尿素インジェクタ45から尿素水を噴射可能ではない場合、S20に移行する。
SCR触媒43へのNOxの流入は、上流側NOx濃度センサSN5のセンサ出力に基づき判定される。S20の判定の結果、SCR触媒43にNOxが流入した場合、既に排気ガス中のNOxがSCR触媒43に吸着されているため、S21に移行する。
S20の判定の結果、SCR触媒43にNOxが流入していない場合、未だ排気ガス中のNOxがSCR触媒43に吸着されていないため、S19に移行する。
S21の判定の結果、浄化診断中止条件が不成立の場合、リターンする。
浄化診断中止条件は、例えば、現アンモニア吸着量Qcが閾値La以下、又はSCR触媒43の温度Tsが第1設定温度(120℃)未満である。
現アンモニア吸着量Qcが閾値La超の場合、NOxはSCR触媒43に吸着され難く、また、温度Tsが第1設定温度以上の場合、NOx特性上、SCR触媒43から脱離するNOxが減少するからである。
例えば、前回エンジン停止時において現アンモニア吸着量Qcが閾値La以下(S13:No)且つ今回エンジン始動時のSCR触媒43の温度Tsが第1設定温度よりも低い場合(S19:No,S20:Yes)、NOx特性上、SCR触媒43の温度Ts上昇に比例してNOx吸着量が増加し、SCR触媒43から脱離するNOxも増加するため、浄化診断を中止している。この浄化診断の中止は、エンジン始動後、現アンモニア吸着量Qcが増加すると共にSCR触媒43の温度Tsが上昇して浄化診断中止条件が不成立になるまで継続される。
本実施形態によれば、コントローラ100(SCR状態推定部102)が、SCR触媒43に吸着されている現アンモニア吸着量Qcを推定するため、現アンモニア吸着量QcをパラメータとしてNOxのSCR触媒43に対する吸着状態、所謂吸着され易さを判定することができる。コントローラ100(浄化率演算部104)は、推定された現アンモニア吸着量Qcが所定閾値La以下のとき、SCR触媒43の浄化率Dの診断を制限するため、前段階において配位結合により吸着され且つ尿素水の供給後SCR触媒43から放出されるNOxを浄化率Dの診断対象から除外することができる。
これにより、SCR触媒43にアンモニアが吸着されていない状況からエンジンを始動する場合に、NOx浄化率Dの誤診断を回避することができる。
1〕前記実施形態においては、軽油を主成分とする燃料を圧着着火させるディーゼルエンジンに本発明の排気浄化装置を適用した例について説明した。本発明を適用可能なエンジンは、NOxを浄化するためにSCR触媒を設ける必要のあるエンジンであれば良く、例えばガソリンを主成分とする燃料をリーンな空燃比下で燃焼させるリーンバーンガソリンエンジンに本発明を適用しても良い。
43 SCR触媒
45 尿素インジェクタ
100 コントローラ
4S 排気システム
SN5 (上流側)NOx濃度センサ
SN10 (下流側)NOx濃度センサ
Claims (5)
- エンジンの排気通路に尿素水を供給可能な尿素インジェクタと、この尿素インジェクタよりも下流側の排気通路に設けられ且つ前記尿素インジェクタが供給した尿素水から生成されたアンモニアの還元作用により排気ガス中のNOxを浄化する選択還元触媒と、この選択還元触媒の上流側及び下流側の排気通路に夫々配設された上流側及び下流側NOx濃度センサと、前記上流側及び下流側NOx濃度センサのセンサ出力に基づき前記選択還元触媒の浄化率を診断する制御手段とを備えた排気ガス浄化装置の診断装置において、
前記制御手段は、前記選択還元触媒に吸着されているアンモニア吸着量を推定すると共に、推定されたアンモニア吸着量が所定閾値以下のとき、前記選択還元触媒の浄化率の診断を制限することを特徴とする排気ガス浄化装置の診断装置。 - 前記制御手段は、前回エンジン停止時の前記選択還元触媒のアンモニア吸着量が前記閾値以下且つエンジン始動時における前記選択還元触媒の温度が第1設定温度よりも低いとき、前記選択還元触媒の浄化率の診断を制限することを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化装置の診断装置。
- 前記制御手段は、前記選択還元触媒の温度が第2設定温度よりも低いとき、前記尿素インジェクタによる尿素水の供給を停止すると共に、前記選択還元触媒の温度が前記第2設定温度よりも低いとき、前記選択還元触媒の浄化率の診断を制限することを特徴とする請求項1又は2に記載の排気ガス浄化装置の診断装置。
- 前記制御手段は、前記選択還元触媒のアンモニア吸着量が目標吸着量になるように前記尿素インジェクタを制御することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の排気ガス浄化装置の診断装置。
- 前記目標吸着量が、前記選択還元触媒の温度に応じて設定されることを特徴とする請求項4に記載の排気ガス浄化装置の診断装置。
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