[エンジンの全体構成]
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。まず、本発明に係る排気浄化装置が適用されるエンジンの全体構成について、図1に基づいて説明する。図1に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼル車載エンジンであって、エンジン本体1と、エンジン本体1における燃焼に必要な空気を供給する吸気システム3Sと、エンジン本体1から排出された排気ガスを浄化して外部に排出する排気システム4S(排気浄化装置)と、吸気システム3Sによって供給される空気(吸気)を圧縮しつつエンジン本体1に送り出す過給装置50と、排気システム4Sを流通する排気ガスの一部を吸気システム3Sに還流するEGR装置70とを備えている。
エンジン本体1は、一列に並ぶ複数の気筒2(図1では1つの気筒2のみを示す)を有する直列多気筒型のものであり、当該複数の気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、各気筒2の上部開口を閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、各気筒2にそれぞれ往復動可能に挿入された複数のピストン5とを有している。なお、各気筒2の構造は同一であるため、以下では基本的に1つの気筒2のみに注目して説明を進める。
ピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。燃焼室6には、後述する燃料噴射弁15からの噴射により、軽油を主成分とする燃料が供給される。そして、供給された燃料が圧縮着火により燃焼(拡散燃焼)し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
シリンダブロック3には、クランク軸7の角度(クランク角)と、クランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)とを検出するクランク角センサSN1が設けられている。シリンダヘッド4には、エンジン本体1(シリンダブロック3およびシリンダヘッド4)の内部を流通する冷却水の温度を検出する水温センサSN2が設けられている。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に開口する吸気ポート9及び排気ポート10と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12と、吸気弁11及び排気弁12をクランク軸7の回転に連動して開閉駆動する動弁機構13,14とが設けられている。
シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6に燃料(軽油)を噴射する燃料噴射弁15が設けられている。燃料噴射弁15は、例えば、燃焼室6の天井面の中央部から放射状に燃料を噴射する多噴孔型の噴射弁である。なお、図示を省略するが、ピストン5の冠面には、燃料噴射弁15から噴射された燃料を受け入れるための凹部(キャビティ)が形成されている。
吸気システム3Sは、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30を含む。吸気通路30の下流端(インテークマニホールド)は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30には、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、過給装置50により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ32と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁33と、各気筒2に吸気が均等に取り入れられるようにするためのサージタンク34とが、吸気通路30の上流側(エンジン本体1から遠い側)からこの順に設けられている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31よりも下流側の部分には、吸気通路30を通じてエンジン本体1に導入される空気(新気)の流量を検出するエアフローセンサSN3が設けられている。また、サージタンク34には、その内部の吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN4が設けられている。
排気システム4Sは、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40を含む。排気通路40の上流端(エキゾーストマニホールド)は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。この排気通路40には、排気ガスに含まれる各種の有害成分を浄化するための複数の触媒41〜44が設けられている。本実施形態では、酸化触媒41と、DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)42と、SCR触媒43と、スリップ触媒44とが、排気通路40の上流側(エンジン本体1に近い側)からこの順に設けられている。また、排気通路40におけるDPF42とSCR触媒43との間の部分には、尿素インジェクタ45とミキシングプレート47とが設けられている。
酸化触媒41は、排気ガス中のCOおよびHCを酸化して無害化する(CO2及びH2Oに変換する)ための触媒であり、例えば、多孔質性の担体と、当該担体に担持された白金やパラジウム等の触媒物質とを有している。DPF42は、排気ガス中のスート(煤)を捕集するためのフィルタである。このDPF42には、フィルタ再生時の高温条件下でスートを燃焼させるための白金等の触媒物質が含まれている。
尿素インジェクタ45は、高純度の尿素を純水で水溶化してなる尿素水を排気通路40内に供給する噴射弁である。尿素インジェクタ45には、尿素水を供給する供給管46aの下流端が接続されている。供給管46aの上流端には、尿素水を貯留する尿素タンク46が接続されている。また、供給管46aには、尿素水を尿素インジェクタ45へ供給するポンプ46P(ポンプ装置)が組み入れられている。尿素インジェクタ45から排気通路40内に尿素水が噴射されると、この尿素水に含まれる尿素は、高温下での加水分解によりアンモニア(NH3)に変換されて、下流側のSCR触媒43に吸着される。
ポンプ46Pは、加圧式のポンプであり、加圧力を発生することで、供給管46aを通して、尿素タンク46に貯留された尿素水を尿素インジェクタ45へ供給する。なお、前記加圧力が停止されると、尿素インジェクタ45の内部及び供給管46a内に存在する尿素水は、尿素タンク46に引き戻される。すなわち、ポンプ46Pは、尿素インジェクタ45へ尿素水を供給すると共に、尿素インジェクタ45に一旦供給された尿素水を尿素タンク46へ回収する動作を実行可能なポンプ装置である。
ミキシングプレート47は、排気通路40を前後に仕切る板状の部材であり、排気通路40における尿素インジェクタ45とSCR触媒43との間の部分に設けられている。ミキシングプレート47には、排気ガスの流れを攪拌するための複数の開口が形成されている。このようなミキシングプレート47は、尿素インジェクタ45から噴射された尿素水に含まれる尿素を均一に分散させつつ下流側(SCR触媒43)に送出する役割を果たす。
SCR触媒43は、尿素インジェクタ45よりも下流側の排気通路40に設けられ、排気ガス中のNOxを還元して浄化する(N2やH2Oに変換する)ための触媒である。SCR触媒43は、例えば、多孔質性の担体と、当該担体に担持されたバナジウム、タングステン、またはゼオライト等の触媒物質とを有している。上述したとおり、SCR触媒43には、尿素インジェクタ45が噴射した尿素水から生成されるアンモニアが吸着される。SCR触媒43は、このアンモニアを還元剤として用いた化学反応(アンモニアの還元作用)により、排気ガス中のNOxをN2やH2Oに変換させる。
スリップ触媒44は、SCR触媒43に吸着されずにスリップした(つまりNOxの還元に使われないまま下流側に流出した)アンモニアを酸化するための酸化触媒である。このスリップ触媒44としては、例えば酸化触媒41と同様の構造のものを用いることができる。
排気通路40におけるDPF42とSCR触媒43との間の部分には、排気ガスに含まれるNOxの濃度を検出するNOx濃度センサSN5が設けられている。また、このNOx濃度センサSN5よりも下流側であってSCR触媒43の直上流に位置する部分の排気通路40(ミキシングプレート47とSCR触媒43との間の部分)には、排気ガスの温度を検出する排気温センサSN6が設けられている。
過給装置50は、いわゆる2ステージ型の過給装置であり、直列に配置された第1過給機51および第2過給機52を有している。第1過給機51は、いわゆるターボ過給機であり、排気通路40を流通する排気ガスにより回転駆動されるタービン61と、タービン61と連動して回転可能に設けられ、吸気通路30を流通する吸気を圧縮する第1コンプレッサ62とを有している。第1コンプレッサ62は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ32との間の部分に配置され、タービン61は、排気通路40における酸化触媒41よりも上流側の部分に配置されている。排気通路40には、タービン61をバイパスするためのバイパス通路63が設けられており、このバイパス通路63には開閉可能なウェストゲート弁64が設けられている。
第2過給機52は、いわゆる電動過給機であり、電気式の駆動モータ66と、駆動モータ66により回転駆動されることで吸気を圧縮する第2コンプレッサ67とを有している。第2コンプレッサ67は、吸気通路30における第1コンプレッサ62よりも下流側(第1コンプレッサ62とインタークーラ32との間)の部分に配置されている。吸気通路30には、第2コンプレッサ67をバイパスするためのバイパス通路68が設けられている。バイパス通路68には、開閉可能なバイパス弁69が設けられている。
EGR装置70は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路71と、EGR通路71に設けられたEGRクーラ72およびEGR弁73とを有している。EGR通路71は、排気通路40におけるタービン61よりも上流側の部分と、吸気通路30におけるスロットル弁33とサージタンク34との間の部分とを互いに接続している。EGRクーラ72は、例えばエンジンの冷却水を利用した熱交換器であり、EGR通路71を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(EGRガス)を冷却する。EGR弁73は、EGR通路71におけるEGRクーラ72よりも下流側(吸気通路30に近い側)の部分に設けられ、EGR通路71を流通する排気ガスの流量を調整する。
[制御系統]
図2は、本実施形態のエンジンの制御系統を示すブロック図である。本実施形態のエンジンが搭載される車両は、エンジンを統括的に制御するコントローラ100を備える。コントローラ100は、マイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。本実施形態においてコントローラ100は、尿素インジェクタ45及びポンプ46Pの動作を制御する制御部として機能する。なお、コントローラ100は、単一のプロセッサである必要はなく、電気的に接続された複数のプロセッサを含んでいても良い。例えば、コントローラ100は、主にエンジン本体1を制御するための第1のプロセッサと、尿素インジェクタ45及びポンプ46P等のドーシング制御のための第2のプロセッサとを含んでいても良い。
コントローラ100には各種センサによる検出情報が入力される。具体的には、コントローラ100は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気圧センサSN4、NOx濃度センサSN5、および排気温センサSN6と電気的に接続されている。これらのセンサによって検出された各種情報、例えばクランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、吸気流量、吸気圧(過給圧)、排気ガス中のNOx濃度、および排気ガスの温度等の情報が、それぞれコントローラ100に入力される。
上記に加えて車両には、当該車両の走行速度(以下、車速という)を検出する車速センサSN7と、車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度を検出するアクセルセンサSN8と、外気温を検出する外気温センサSN9とが設けられている。これら車速センサSN7、アクセルセンサSN8、および外気温センサSN9による検出情報もコントローラ100に入力される。
コントローラ100は、上記各センサSN1〜SN9からの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、コントローラ100は、燃料噴射弁15、スロットル弁33、尿素インジェクタ45、ポンプ46P、ウェストゲート弁64、駆動モータ66、バイパス弁69、およびEGR弁73等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
上記制御に関する機能的要素として、コントローラ100は、主制御部101、SCR状態推定部102、ドージング制御部103、UI(尿素インジェクタ)温度推定部104、及びUI保護制御部105を有している。なお、UI温度推定部104及びUI保護制御部105(制御部)は、上述の尿素水の沸騰による尿素インジェクタ45の破損を防止しつつ、NOxの浄化性能を確保する制御を行うための機能部である。
主制御部101は、エンジン本体1での燃焼制御を司る制御モジュールである。例えば、主制御部101は、クランク角センサSN1により検出されるエンジン回転速度と、アクセルセンサSN8の検出値(アクセル開度)から特定されるエンジン負荷(要求トルク)と、エアフローセンサSN3により検出される吸気流量と、に基づいて、燃料噴射弁15からの燃料の噴射量および噴射タイミングを決定し、その決定に従って燃料噴射弁15を制御する。
また、主制御部101は、上記エンジン回転速度/負荷等に基づいて目標過給圧を設定するとともに、吸気圧センサSN4により検出される吸気圧(過給圧)がこの目標過給圧に一致するように、ウェストゲート弁64およびバイパス弁69の各開度や駆動モータ66の回転を制御する。さらに、主制御部101は、EGR率(気筒2に導入される全ガスに対するEGRガスの割合)の目標値である目標EGR率を上記エンジン回転速度/負荷等に基づいて設定し、この目標EGR率が実現されるようにスロットル弁33およびEGR弁73の各開度を制御する。
SCR状態推定部102は、SCR触媒43の状態を推定する処理を司る制御モジュールである。例えば、SCR状態推定部102は、NOx濃度センサSN5により検出される排気ガス中のNOx濃度と、排気温センサSN6により検出される排気ガスの温度と、尿素インジェクタ45からの尿素水の噴射量とに基づいて、SCR触媒43の温度やアンモニア吸着量を推定する。
ドージング制御部103は、尿素インジェクタ45による尿素水の噴射制御を司る制御モジュールである。例えば、ドージング制御部103は、SCR状態推定部102により推定されるSCR触媒43の温度に基づいて尿素水の噴射量を決定し、その決定に従って尿素インジェクタ45を制御する。
UI温度推定部104は、各種のセンサからの入力情報に基づいて、尿素インジェクタ45の内部温度の推定値を導出する。具体的にはUI温度推定部104は、現状における排気ガスの流量、排気ガスの温度、車速、尿素インジェクタ45からの尿素水の噴射量などに基づいて、尿素インジェクタ45の内部温度の推定値を導出する。
排気ガスの流量及び温度は、尿素インジェクタ45の加熱要素として参照されるデータである。排気ガスの流量は、例えば、エアフローセンサSN3により検出される吸気流量やEGR弁73の開度等から推定することができる。排気ガスの温度は、尿素インジェクタ45に近い位置に配置されている排気温センサSN6により検出値を用いることができる。車速及び尿素水の噴射量は、尿素インジェクタ45の冷却要素として参照されるデータである。すなわち、車速が高いほど尿素インジェクタ45に吹き当たる走行風が増えて放熱が促進され、尿素水の噴射量が多いほど、尿素水自体による尿素インジェクタ45の冷却効果が増すからである。車速は、車速センサSN7の検出値を用いることができる。そして、車速が所定速度以下の低速であることを、尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温に達したと判定する条件として用いることができる。また、尿素水の噴射量は、ドージング制御部103が決定した噴射量を参照することができる。
UI保護制御部105は、UI温度推定部104により導出された尿素インジェクタ45の内部温度が、予め定められた温度を超過する高温であるとき、尿素水の沸騰による弊害を防止するために、NOxの浄化性能を可及的に低下させることなく、尿素インジェクタ45を保護する制御を実行する。
大略的には、尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温に達するような運転条件下であることが検出された場合に、まずUI保護制御部105は、尿素インジェクタ45へ供給する尿素水量を増量させて、尿素インジェクタ45の自己冷却を試みる。そして、前記自己冷却でも尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温よりも低下しない場合であって、且つ、エンジン本体1からのNOxの発生量が所定の基準発生量よりも少ない運転状態である場合に、尿素水の回収制御を実行する。尿素水の回収制御では、尿素タンク46から尿素インジェクタ45への尿素水の供給を停止させると共に、尿素インジェクタ45内の尿素水を尿素タンク46に回収する回収動作を実行するように、尿素インジェクタ45及びポンプ46Pが制御される。このような尿素インジェクタ45の保護制御については、後記で詳述する。
[ベースとなるドージング制御について]
次に、図3〜図6を参照して、尿素インジェクタ45からの尿素水の噴射動作の制御であるドージング制御について、ドージング制御部103がエンジンの通常運転時等に実行するベーシックなドージング制御について説明する。この通常運転時のドージング制御では、SCR触媒43の温度に応じてアンモニアの目標吸着量(図5のQa)を設定し、この目標吸着量に応じた量の尿素水を尿素インジェクタ45から噴射するといった制御が実行される。なお、目標吸着量は、SCR触媒43において吸着可能なアンモニア量に基づいて予め定められる。
図3は、通常運転時のドージング制御の具体的手順を示すフローチャートである。制御がスタートすると、コントローラ100(ドージング制御部103)は、SCR触媒43の温度Tsを推定する(ステップS1)。なお、SCR触媒43の温度Tsは、典型的には、SCR触媒43の担体の温度、つまり床温のことである。
図4は、上記ステップS1においてSCR触媒43の温度Tsを推定する手順を模式的に示す図である(図中ではSCR触媒のことを単にSCRと略記している)。コントローラ100は、まず、排気温センサSN6により検出されるSCR触媒43の直前の排気ガスの温度と、排気ガスの流量とに基づいて、SCR触媒43への入熱量を算出する。上述の通り、排気ガスの流量は、エアフローセンサSN3により検出される吸気流量やEGR弁73の開度等から推定することができる。
次に、コントローラ100は、車速センサSN7により検出される車速と、外気温センサSN9により検出される外気温とに基づいて、SCR触媒43からの放熱量を算出する。コントローラ100は、算出されたSCR触媒43の入熱量および放熱量と、予め記憶されているSCR触媒43の熱容量とに基づいて、SCR触媒43の温度Tsを算出する。SCR触媒43の温度Tsは、入熱量が大きいかまたは放熱量が小さいほど高い値に算出され、入熱量が小さいかまたは放熱量が大きいほど低い値に算出される。ここで、SCR触媒43からの放熱量は、車速が高いほど大きいものとして扱うことができる。これは、車速が高いほどSCR触媒43に吹き当たる走行風が増えて放熱が促進されるからである。逆に、放熱量は、車速が低いほど小さくなるので、SCR触媒43の温度Tsは、車速が低いほど高いと推定されることになる。
次いで、コントローラ100は、SCR触媒43に吸着させるべきアンモニアの目標吸着量Qaを決定する(ステップS2)。図5は、SCR触媒43の温度とアンモニアの上限吸着量Qx及び目標吸着量Qaとの関係を示すグラフである。目標吸着量Qaは、SCR触媒43において所要のNOx浄化を行い得る適正なアンモニア吸着量であって、図5のグラフに示すように、上限吸着量Qxよりも少ない領域において、SCR触媒43の温度(SCR温度)Tsに応じて可変的に設定される。コントローラ100は、SCR触媒43の温度Tsと目標吸着量Qaとの関係を定めたマップを予め記憶しており、上記ステップS1で推定されたSCR触媒43の温度Tsをこのマップに照合することにより、目標吸着量Qaを決定する。
アンモニアの目標吸着量Qaは、上限吸着量Qxよりも小さい値に設定される。上限吸着量Qxとは、SCR触媒43に吸着させることが可能な上限のアンモニア吸着量であり、飽和吸着量とも呼ばれるものである。SCR触媒43は、その内部温度が高くなるほどアンモニアを吸着し難くなるという性質がある。このため、図5の上限吸着量Qxのラインは、全体として、高温側(右側)ほど吸着量が少なくなる(右下がりの)傾向を有している。上限吸着量Qxを越える領域は、アンモニアがSCR触媒43をスリップして排気通路40の下流側に流出するアンモニアスリップ領域となる。
上記のような上限吸着量Qxの傾向に合わせて、アンモニアの目標吸着量Qaも、SCR触媒43の温度Tsが高いほど低下する(逆に温度Tsが低いほど高くなる)可変的な値に設定される。コントローラ100は、このような可変的な目標吸着量Qaに応じて、尿素インジェクタ45及びポンプ46Pの動作を制御することになる。但し、このように温度に依存して目標吸着量Qaが変化するのは、SCR触媒43の温度Tsが一定の高温化領域(Ts=T1〜T2の範囲)に属している範囲だけである。温度T1以下となる低温側の範囲では、目標吸着量Qaが一定値Q1に設定され、温度T2以上となる高温側の範囲では、目標吸着量Qaが一律にゼロに設定される。なお、低温側(Ts≦T1)で目標吸着量Qaが一定値Q1とされるのは、Q1程度のアンモニアが吸着されていればNOxの浄化性能が十分に良好になるので、Q1よりもさらに吸着量を増やす意味がないからである。
次いで、コントローラ100は、現時点でSCR触媒43に吸着されているアンモニアの量である現アンモニア吸着量Qcを推定する(ステップS3)。後述のステップS5で詳述するが、現アンモニア吸着量Qcは、尿素インジェクタ45からの尿素水の噴射量を決定する過程で使用されるパラメータである。このため、現アンモニア吸着量Qcは、これまでの尿素水の噴射量の履歴から逆算により求めることができる。すなわち、尿素水の噴射量の履歴から求められる各時点のアンモニア供給量から、SCR触媒43での各時点のアンモニア消費量(次述のステップS4で算出)を差し引いた分が、SCR触媒43に都度蓄積されることになるので、この蓄積分を時間ごとに積算したものを現アンモニア吸着量Qcとして算出することができる。
次いで、コントローラ100は、SCR触媒43において消費されるアンモニアの量であるアンモニア消費量Wを推定する(ステップS4)。コントローラ100は、NOx濃度センサSN5により検出される排気ガス中のNOx濃度と、演算により推定される排気ガスの流量(吸気流量の検出値やEGR弁73の開度等から求められる値)とに基づいて、SCR触媒43に流入するNOxの量を算出する。算出されたNOxの流入量に基づいて、コントローラ100は、SCR触媒43でNOx還元のために消費されるアンモニアの量、つまりアンモニア消費量Wを算出する(後述する図6の一部参照)。
次いで、コントローラ100は、尿素インジェクタ45から噴射すべき尿素水の噴射量Uを決定し(ステップS5)、この決定した噴射量Uに相当する尿素を尿素インジェクタ45から噴射させるよう、尿素インジェクタ45及びポンプ46Pの動作を制御する(ステップS6)。
図6は、上記ステップS5において噴射量Uを決定する手順を模式的に示す図である。コントローラ100は、上記ステップS4で求められたアンモニア消費量Wと、アンモニアの要求余剰供給量Qdとに基づいて、尿素水の噴射量Uを算出する。ここで、アンモニアの要求余剰供給量Qdとは、SCR触媒43においてアンモニア吸着量Qcを目標吸着量Qaまで高めるのに必要なアンモニアの余剰供給量のことであり、上記ステップS2で決定されたアンモニアの目標吸着量Qaから、上記ステップS3で算出された現アンモニア吸着量Qcを差し引くことで得られる値である。尿素水の噴射量Uは、要求余剰供給量Qdが多いほど、また、アンモニア消費量Wが多い程、より大きい値として算出される。
[尿素インジェクタの保護制御]
以上が、ドージング制御の基本動作である。続いて、尿素インジェクタ45の内部温度が、尿素水の沸騰が生じ得る程度の高温に達する条件において実行されるドージング制御、換言すると尿素インジェクタの保護制御について説明する。この保護制御は、既述の通り、尿素水の沸騰に伴う尿素インジェクタ45のダメージを抑止しつつ、NOxの浄化性能を可及的に低下させないことを企図するもので、主にUI温度推定部104及びUI保護制御部105によって実行される。
当該保護制御は、主に排気通路40を通過する排気ガスが通常時よりも相当に高温化する運転条件、或いは、排気通路40の冷却要素の能力が低下する運転条件において実行される。前者としては、例えばDPF42の再生処理のために意図的に排気ガスを高温化する運転条件が挙げられる。後者としては、車速が低く、走行風による冷却能力が低下する運転条件が挙げられる。このような運転条件に至っているか否か、つまり尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温に達する条件であるか否かは、UI温度推定部104の処理によって判定される。この保護制御は、尿素インジェクタ45への尿素水の供給量を増量させる増量制御と、尿素インジェクタ45から尿素水を回収する回収制御とからなる。
図7は、図5のグラフに、尿素水の増量制御Qupに関連する事項を追記したグラフである。この増量制御Qupにおいては、上限ガード供給量Qmaxが参照される。上限ガード供給量Qmaxは、目標吸着量Qaを達成するために必要な尿素水の供給量よりも多く、且つ、上限吸着量Qxを超過する尿素水の供給量となる領域において、真の尿素水の供給限界を示すラインである。つまり、アンモニアスリップ領域に入り込む尿素水の供給量となるが、スリップ触媒44にてSCR触媒43をスリップしたアンモニアを処理できる限界ラインである。
上述の通り、通常のドージング制御においては、SCR触媒43の温度Tsに応じて、目標吸着量Qaに沿うようにポンプ46Pから尿素インジェクタ45へ供給される尿素水の供給量が制御される。この増量制御Qupにおいては、UI保護制御部105は、目標吸着量Qaを越える尿素水を尿素インジェクタ45へ供給する。これにより、尿素水が冷却媒体として機能し、尿素インジェクタ45を冷却することが可能となる。但し、上限ガード供給量Qmaxを超過するほど尿素水を供給すると、スリップ触媒44で処理しきれないアンモニアが車両から排出されてしまう。この場合、アンモニア臭を発散させることになるので、上限ガード供給量Qmaxを超過しない範囲で、尿素水を増量することが望ましい。
尿素水の回収制御は、上記の増量制御Qupを行っても尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温を下回らない場合であって、エンジン本体1からのNOxの発生量が所定の基準発生量よりも少ない運転状態である場合に実行される。すなわち、排気通路40を流れるNOxの量が少ない状態では、SCR触媒43における当面のNOx還元処理に支障がないと推定できることから、UI保護制御部105は前記回収制御を実行する。具体的にはUI保護制御部105は、尿素インジェクタ45への尿素水の供給を停止させると共に、尿素インジェクタ45内に残存している尿素水が尿素タンク46に回収されるよう、ポンプ46Pの動作を制御する。
これに対し、エンジン本体1からのNOxの発生量が所定の基準発生量よりも多い運転状態では、前記回収制御は実行されない。すなわち、UI保護制御部105は、排気通路40を流れるNOxの量が多く、NOx還元処理に支障が生じ得る状況では、前記回収制御を実行しない。つまり、尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温に至っている場合に、無条件に尿素インジェクタ45から尿素水を回収してしまうのではなく、NOxの発生量から相対的にみてSCR触媒43のNOxの浄化能力が十分でないと推定されるときは、尿素水を回収しない。この場合、上記の増量制御Qupが継続されることになる。
図8は、上述の尿素インジェクタ45の保護制御の考え方を図示したタイムチャートである。当該保護制御においてモニターされるのは、尿素インジェクタ45の内部温度(UI内部温度)と、排気通路40を現状において流れているNOxの量(NOx流量現在値)とである。UI内部温度は、UI温度推定部104が導出する推定値が参照される。NOx流量現在値は、例えば、排気通路40において尿素インジェクタ45の直上流に配置されているNOx濃度センサSN5の検出値と、エアフローセンサSN3により検出される吸気流量やEGR弁73の開度等から推定される排気ガスの流量とから算出することができる。
タイミングt1において、UI内部温度が「所定値1」を超過すると、尿素水の噴射量が増量される。これが、図7に示した尿素水の増量制御Qupである。「所定値1」は、任意の温度に設定できるが、尿素インジェクタ45内の圧力下において尿素水に沸騰が生じる直前の温度であることが望ましい。これにより、尿素インジェクタ45内で現に尿素水の沸騰が生じる前に、尿素水を増量させたり、尿素インジェクタ45から回収させたりすることができる。従って、尿素インジェクタ45のダメージを確実に抑止することができる。なお、タイミングt1の時点では、まだ尿素水の回収制御は実行されない。
タイミングt1に続くタイミングt2において、NOx流量現在値が「所定値2」を下回ると、尿素水の回収制御が実行される。すなわち、UI内部温度が「所定値1」を超過し、且つ、NOx流量現在値が「所定値2」を下回るというAND条件が成立すると、尿素水の回収制御が開始される。一方、このタイミングt2で、尿素インジェクタ45からの尿素水の噴射は停止される。この例では、t1〜t2の間が、尿素水の増量制御Qupが実行される期間となる。勿論、t1においてNOx流量現在値が「所定値2」を下回っていれば、t1で前記回収制御が開始されることになる。
「所定値2」は、上述の「所定の基準発生量」に相当する値であって、エンジン本体1からのNOxの発生量が低レベルであるとされる範囲内において予め定められる値である。具体的には「所定値2」は、排気通路40中のNOx流量が、低レベル流量の範疇において予め定められる流量(所定の基準流量)となる値である。本実施形態では、NOx濃度センサSN5の検出結果から導出される排気通路40中のNOx流量に基づき、「所定値2」を満たすか否かが判定される。一般に、エンジン本体1が低負荷運転領域で運転されている場合は、NOxの発生量が低レベルとなり、排気通路40中のNOx流量も少なくなる。このため、「所定値2」は、低負荷運転領域において発生するNOx流量を参照して設定することが望ましい。すなわち、低負荷運転領域で運転されている場合に、前記回収動作を実行させることが望ましい。
タイミングt2に続くタイミングt3において、NOx流量現在値が「所定値3」を超過した場合、尿素水の回収制御は停止され、尿素インジェクタ45からの尿素水に噴射が再開される。これは、排気通路40中のNOx流量の増量に対応して、SCR触媒43のNOx浄化能力を増強するためである。すなわち、タイミングt2以降は、尿素水の噴射が停止され、NOx流量が低レベルであるとはいえ、SCR触媒43に吸着されているアンモニアが徐々に消費されている状態である。このため、SCR触媒43におけるNOxの浄化性能が低下しており、NOx流量の増量に対応し難い状態に至っているからである。「所定値3」は、上記「所定値2」と同じ温度に設定しても良いし、「所定値2」よりも僅かに低い又は高いNOx流量に設定しても良い。尿素水の噴射の再開によって、SCR触媒43の吸着アンモニア量を回復させることができる。なお、t3から所定期間は、通常よりも多い量の尿素水を尿素インジェクタ45から噴射させるようにしても良い。
或いは、タイミングt3において、UI内部温度が「所定値4」を下回った場合、尿素水の回収制御は停止され、尿素インジェクタ45からの尿素水に噴射が再開される。これは、UI内部温度が所定の高温状態を脱した場合、尿素水の沸騰が生じなくなるので、もはや尿素水の回収制御を実行する必要がないからである。「所定値4」は、上記「所定値1」と同じ温度に設定しても良いし、「所定値1」よりも僅かに低い又は高い温度に設定しても良い。すなわち、NOx流量現在値が「所定値3」を超過する、又は、UI内部温度が「所定値4」を下回るというOR条件が成立すると、尿素水の回収制御が終了されるものである。
[コントローラによる制御フロー]
図9は、コントローラ100による保護制御の具体例を示すフローチャートである。コントローラ100のドージング制御部103によって図3に示したドージング制御が実行されている状況下において、UI温度推定部104は所定のサンプリング周期に、尿素インジェクタ45の内部温度(UI内部温度)が先述の「所定値1」を超過しているか否かをモニターする(ステップS11)。UI内部温度が「所定値1」未満である場合(ステップS11でNO)、UI保護制御部105は保護制御を実行せず、図3のドージング制御が継続される。
これに対し、UI内部温度が「所定値1」を超過している場合(ステップS11でYES)、UI保護制御部105は、保護制御の第1ステップとして、尿素水の増量制御を作動させる(ステップS12)。具体的にはUI保護制御部105は、ポンプ46Pから尿素インジェクタ45へ向けて送る尿素水量を、所定量だけ増量させる。尿素水の増量によって、尿素インジェクタ45の冷却性能が高められると共に、SCR触媒43へ吸着されるアンモニア量を増加させることができ、その時点におけるSCR触媒のNOx浄化能力を高めることができる。
次にUI保護制御部105は、NOx濃度センサSN5が検出する排気通路40中のNOx濃度と排気ガスの流量とから求められるNOx流量現在値が、先述の「所定値2」を下回っているか否かを判定する(ステップS13)。NOx流量現在値が「所定値2」を下回っていない場合(ステップS13でNO)、つまり、エンジン本体1からのNOxの発生量が前記基準発生量よりも多い運転状態である場合、尿素水噴射を停止してしまうと当面のNOx還元処理に支障が生じ得る状態である。このため、ステップS11に戻り、UI内部温度が「所定値1」を超過している限りにおいて、尿素水の増量制御(ステップS12)が継続される。
一方、NOx流量現在値が「所定値2」を下回る状態となった場合(ステップS13でYES;図8のタイミングt2)、UI保護制御部105は、保護制御の第2ステップとして、尿素水の回収制御を作動させる(ステップS14)。具体的にはUI保護制御部105は、ポンプ46Pから尿素インジェクタ45へ向けての尿素水の供給動作を停止させる。これにより、尿素水の噴射は停止される(ステップS15)。そして、UI保護制御部105は、ポンプ種別にもよるが、必要に応じてポンプ46Pに負圧を発生させ、尿素インジェクタ45の内部及び供給管46a内に残存している尿素水を尿素タンク46へ回収させる。
続いてUI保護制御部105は、NOx流量現在値が、先述の「所定値3」を超過する状態であるか否かを判定する(ステップS16)。NOx流量現在値が「所定値3」を超過していない場合(ステップS16でNO)、まだNOx流量が少なく、現状のSCR触媒43においてNOxを浄化できる状態であるので、尿素水の回収制御は直ちに停止されない。一方、NOx流量現在値が「所定値3」を超過している場合(ステップS16でYES;図8のタイミングt3)、UI保護制御部105は尿素水の回収制御を停止させる(ステップS18)。これにより、図3に示すドージング制御の実行状態に復帰する。
NOx流量現在値が「所定値3」を超過していない場合(ステップS16でNO)、さらにUI保護制御部105は、UI内部温度が先述の「所定値4」を下回っているか否かを判定する(ステップS17)。UI内部温度が「所定値4」を超過している場合(ステップS17でNO)、尿素水の沸騰が生じ得る状態であるので、ステップS14に戻り、UI保護制御部105は尿素水の回収制御を継続する。一方、UI内部温度が「所定値4」を下回っている場合(ステップS17でYES;図8のタイミングt3)、UI保護制御部105は尿素水の回収制御を停止させる(ステップS18)。
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係るエンジンの排気システム4S(排気浄化装置)によれば、次のような作用効果を奏する。本実施形態のコントローラ100は、尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温に達すると無条件に尿素水を尿素インジェクタ45から回収する回収動作を実行させるのではなく、尿素インジェクタ45が高温化(UI内部温度が「所定値1」を超過)し、且つ、エンジン本体からのNOxの発生量が所定の基準発生量よりも少ない運転状態(NOx流量現在値が「所定値2」を下回る)という2つの要件が満たされたときに、前記回収動作を実行させる。換言すると、尿素インジェクタ45が高温化する条件であっても、NOx発生量が前記基準発生量よりも多ければ尿素水の回収動作が実行されない。
つまり、NOx発生量が前記基準発生量よりも少ない場合は、たとえSCR触媒43におけるアンモニア量が所定の基準吸着量よりも少ない状態であっても、当該SCR触媒43によって十分にNOxの浄化を行うことが可能である。つまり、直ちに尿素水の供給を要する状態ではない。この場合、尿素インジェクタ45から尿素水を回収し、当該尿素インジェクタの高温化45に伴う尿素水の沸騰を防止する。一方、NOx発生量が前記基準発生量よりも多い場合は、SCR触媒43に十分なアンモニア量を吸着させておくことが要請される状態である。この場合は、尿素インジェクタ45から尿素水を回収せず、直ちに尿素水を排気通路内に供給可能な体制としておく。このような制御をコントローラ100が実行することで、NOxの浄化性能を低下させることなく、尿素水の沸騰に伴う尿素インジェクタ45のダメージを抑制することができる。
また、コントローラ100は、尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温に達する条件下であって、NOx濃度センサSN5(NOxセンサ)の検出結果より得られるNOx流量が所定の基準流量よりも少ない場合に、前記回収動作を実行させる。一般に、自動車等の車両の排気通路40には、NOx濃度センサSN5が備えられている。このため本実施形態によれば、標準装備のNOx濃度センサSN5の検出結果を利用して、コントローラ100に、上記の前記回収動作を実行させるか否かの判定を実行させることができる。
さらに、コントローラ100は、尿素インジェクタ45の温度が所定の高温に達する条件下であって、エンジン本体からのNOxの発生量が所定の基準発生量よりも多い運転状態である場合には、尿素タンク46から尿素インジェクタ45への尿素水の供給量を増量させる増量制御を行う。この増量された尿素水によって、尿素インジェクタ45の冷却性能が高められる。また、尿素水の増量によって、SCR触媒43へ吸着されるアンモニア量を増加させることができ、これによりNOxの発生量が多い運転状態であっても、SCR触媒43にて十分にNOxを浄化させることが可能となる。
また、コントローラ100は、車両の車速が所定速度以下の低速であることを、尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温に達したと判定する条件として用いている。車速が低速であると、走行風による尿素インジェクタ45の冷却効果が低減するので、低車速であることをもって尿素インジェクタ45の内部温度が高温化したことを推定することができる。従って、尿素インジェクタ45の内部温度が直接計測できない場合でも、車速に基づき尿素インジェクタ45の高温化を的確に判断させることができる。
[変形実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、次のような変形実施形態を取り得る。
(1)上記実施形態では、尿素インジェクタ45の保護制御として、尿素水の増量制御及び回収制御を行う例を示した。すなわち、先ずは尿素水の増量制御を試み、それでも尿素インジェクタ45の冷却が進まない場合であって、NOx流量現在値が基準発生量よりも少ないという条件を満たすときに、尿素水の回収制御を行う例を示した。これに代えて、尿素水の増量制御を省き、シンプルに尿素インジェクタ45の内部温度が所定の高温であって、NOx流量現在値が基準発生量よりも少ないときに、尿素水の回収制御を実行させるようにしても良い。
(2)上記実施形態では、軽油を主成分とする燃料を圧着着火させるディーゼルエンジンに本発明の排気浄化装置を適用した例について説明した。本発明を適用可能なエンジンは、NOxを浄化するためにSCR触媒を設ける必要のあるエンジンであればよく、例えばガソリンを主成分とする燃料をリーンな空燃比下で燃焼させるリーンバーンガソリンエンジンに本発明を適用してもよい。