JP7217045B2 - 魚節及び魚節の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明の課題は、味に影響があると考えられる乳酸含有量を制御した魚節やその制御方法を提供することにある。
項1.
以下の工程を含む、ユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けにより魚節の乳酸含有量を制御する方法:
原料荒節又は裸節の乳酸含有量から低減する乳酸低減量を決定する工程;及び
前記乳酸低減量に応じて、原料荒節又は裸節の質量とカビ付け期間を制御する工程。
項2.
ユーロチウム属(Eurotium属)菌を含有する魚節の乳酸低減剤。
項3.
ユーロチウム属(Eurotium属)菌を用いて得られるカビ付け魚節であって、
該魚節に占める乳酸含有量が、2800mg/100g以下であり、
水分量が15~24質量%であり、かつ
乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)が、質量部比率で0.3以上である魚節。
項4.
前記ユーロチウム属(Eurotium属)菌が、以下の特性を有する、項3に記載の魚節:
裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上。
項5.
質量が115g以下である、項3又は4に記載の魚節。
項6.
項3~5のいずれかに記載のカビ付け魚節を製造する方法であって:
原料魚を凍結する工程;
該原料魚を解凍する工程;
荒節又は裸節を製造する工程;及び
該荒節又は裸節にユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けをする工程;
を含み、
ここで、該ユーロチウム属(Eurotium属)菌は、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上の特性を有する、製造方法。
項7.
前記原料魚の質量が、1.8kg以下である、項6に記載の魚節の製造方法。
項8.
前記カビ付けをする工程に供される荒節又は裸節の質量が、115g以下である、項6又は7に記載の魚節の製造方法。
本明細書において、「水分」とは、魚節を切削して得た厚削り、または魚節を目開き5mmの篩を通過するように粉砕して得た粗粉砕物を、「削りぶしの日本農林規格」(平成25年11月12日改正農林水産省告示第2770号)6条に規定する「水分」の「測定方法」に従って測定して得られる値を指す。
本明細書において、「乳酸含有量」とは、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル」の第6章「炭水化物及び有機酸」に記載のHPLC法に準じて分析した値である。なお乳酸含有量は、水分15質量%含有換算値(mg/100g)で表わす。
本明細書において、「イノシン酸ナトリウム含有量」とは、魚節を目開き850μm の篩を通過するように粉砕機で粉砕して得られた魚節粉末50gを蒸留水1000mLで99-100℃で15分間抽出して得られた抽出液について、HPLC法(カラム:MCI GEL CDR-10,φ4.6mm×250mm(三菱ケミカル社製)、移動相:1M 酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.3)、流速:1.5mL/分、カラム温度:60℃、検出波長:260nm、標品試薬:5′-イノシン酸二ナトリウム塩水和物(Sigma-Aldrich社製))にて分析した値から、魚節100g(水分15質量%含有換算)あたりの5’-イノシン酸二ナトリウム塩水和物(mg)として求めた値である。なおイノシン酸ナトリウム含有量は、水分15質量%含有換算値(mg/100g)で表わす。
本明細書において、「魚節」とは、枯節、荒節、又は裸節を包含し、カビ付けした節も含む。ここで、魚種は限定されず、鰹節、宗田鰹節、鮪節、鯖節、鯵節、鰯節、鮭節が含まれる。カビ付け魚節は、枯節又は本枯節であっても良いが、枯節でなくても良い。
本発明において、荒節をそのままカビ付けに供することができる。さらに、荒節の表面部分を研磨等によって除去して裸節にした後にカビ付けに供しても良い。本発明では限定はされないが、裸節を用いることが好ましい。ここで、荒節の製造方法は特に限定はされず、常法にて行うことができる。すなわち、限定はされないが典型的には以下の方法がある。
本発明において、魚節の水分調節方法は、限定はされず、魚節を水や水溶液に浸漬する方法、魚節に水や水溶液を噴霧する方法などが例示される。魚節へ所望の量の水分が吸水されれば、いずれの方法を採用してもよい。
本発明において、荒節又は裸節の質量調整の方法は、限定はされず、例えば、節を調製後に、切断機、破砕機、又は粉砕機などを用いて切り、質量を調整することができる。あるいはまた、荒節を製造する過程において、例えば生魚の切断や煮熟後の魚の切断等によって、質量調整が可能となる。切断は、例えば、パイプカッター又はカッターミル等を使用して行うことができる。
本発明に用いられるカビ付け用カビとしては、ユーロチウム属(Eurotium属)菌が使用される。限定はされないが、例えば、Eurotium repens、Eurotium rubrum、Eurotium herbariorum、Eurotium umbrosum、Eurotium amstelodami等を用いることができる。いずれの種由来でも用いることができるが、好ましくは、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性の比率が0.9以上の株を選択して使用する。より好ましくはこの比率が、1以上10以下の株である。具体的には、限定はされないが、例えば、ユーロチウム・ルーペンス(Eurotium repens)YM-1418(寄託番号NITE P-738、以下、YM1418という)、ユーロチウム・ルブラム(Eurotium rubrum)YM-1478(寄託番号NITE P-03338、以下、YM1478という)、従来の鰹節の製造に広く用いられるカビ菌株(以下、従来菌株という)、ユーロチウム・ヘルバリオラム(Eurotium herbariorum)JCM1575((独)理化学研究所バイオリソースセンターより入手、以下、JCM1575という)が用いられ得るが、特に好ましくは、YM1418、YM1478、又は従来菌株を用いることができる。
まき網で捕獲され船舶にてブライン凍結された質量2.5kgの冷凍カツオを、水温を調節した水中で12時間かけて、魚の中心温度が-4℃以上0℃以下の範囲になるように解凍し、得られたカツオを原料魚として常法で鰹荒節を製造した。この鰹荒節について、表面部を略均等に5質量%研磨し表面部を除去して、1本あたりの質量が150gの裸節を得た。この裸節の水分は19.0%、脂質は3.5%、乳酸含有量は3410mg/100g、イノシン酸含有量は818mg/100gであった。
本発明は、以下の工程を含む、ユーロチウム属菌によるカビ付けにより魚節の乳酸含有量を制御する方法に関する。
すなわち、原料となる荒節又は裸節の乳酸含有量から低減する乳酸低減量を決定する工程;及び
前記乳酸低減量に応じて、カビ付け期間を制御する工程を含む。
原料となる荒節又は裸節の乳酸含有量から低減する乳酸低減量の決定は、原料となる荒節又は裸節の乳酸含有量を測定する測定工程;及び目標とする乳酸含有量と前記測定工程で得た乳酸含有量の差を求めて決定することが可能である。
ここで、原料荒節又は裸節の質量は所定の範囲であることが好ましく、原料荒節又は裸節を所定の範囲の質量とするように制御することもできる。
(1)公知のいずれかの方法で得られる荒節又は裸節の水分と乳酸含有量を測定する。
(2)目標とする乳酸含有量と、(1)で得た実際の乳酸含有量の差を求め、目標乳酸低減量を決定する。
(3)(2)で決定した目標乳酸低減量に応じて、荒節又は裸節の質量と、カビ付け期間(日)を表1から決定する。
(5)(3)の表1から得られる質量の範囲に入るように荒節又は裸節の質量を調整する(この範囲に入っている場合は省略)。
(6)胞子濃度が1×105~5×105個/mLのカビ液(好ましくは胞子濃度1×105~4×105個/mLのカビ液)を噴霧して、カビを荒節又は裸節へ接種する。カビ液の付着量は、節100gあたり1~6.5mL(好ましくは2~5mL)付着させる。これによって、節の水分は16~26%に調整される。
(7)(3)で決定した日数に渡ってカビ付けを行う。
(7-1)カビ付け期間中のカビ付け庫の温度は、好ましくは20~30℃程度に保ち、表1のカビ付け期間経過直後の魚節の水分が15~24%になるように、カビ付け中の湿度を50~99%に調節して、カビ付けを行う。
ここで、対象とする魚節の乳酸の初期値が1300mg/100未満であり、魚節質量が10g以上60g未満の節を対象とする場合は、表1の(ロ)に従ってカビ付けし、乳酸量がほぼ0mg/100gの魚節を得ることができる。
なお、カビ付け期間の間に乾燥工程を挟んでも良いが乾燥工程がなくても良い。乾燥は乾燥機による乾燥でも、天日干による乾燥でも良い。乾燥工程は温度30℃~80 ℃になるように行う。天日干の場合の温度管理は成り行きで行う。乾燥工程が入る場合、乾燥工程は、限定はされないが、好ましくは1~5回、より好ましくは2~4回行う。乾燥工程の1回あたりの時間は、限定はされないが、好ましくは1~5時間、より好ましくは、2~4時間行う。
本発明はまた、ユーロチウム属菌を含有する魚節の乳酸低減剤をも包含する。本発明の魚節の乳酸低減剤において、ユーロチウム属菌の種類、乳酸低減剤としての使用方法等については、前記魚節の乳酸含有量を制御する方法で記載した内容に準じる。
本発明の別の態様ではまた、ユーロチウム属菌のカビを用いて、以下の特性を示す魚節が得られる。
該魚節に占める乳酸含有量が、2800mg/100g以下であり、
水分量が15~24質量%であり、
乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)が、質量部比率で0.3以上である。
本発明のカビ付け魚節に占める乳酸含有量は、2800mg/100g以下であり、好ましくは、2700mg/100g以下であり、より好ましくは、2500mg/100g以下であり、さらに好ましくは、2000mg/100g以下、場合によって1600mg/100g以下、1000mg/100g以下、とすることもできる。乳酸量がほぼ0mg/100gの魚節とすることもできる。乳酸量は、所望により、50~2800mg/100g、500~2700mg/100g、1000~2500mg/100g程度とすることもできる。
本発明のカビ付け魚節の質量は115g以下であることが好ましく、用途等に応じて、60g以上115g以下、10g以上60g未満、1g以上10g未満、0.01g以上1g未満など、いずれの質量とすることもできる。
本発明のカビ付け魚節水分量は、15~24質量%であり、好ましくは16~23質量%である。
本発明のカビ付け魚節におけるイノシン酸ナトリウム含有量は、650~700mg/100g程度の通常範囲の値であっても良い(例えば、市販かつお削りぶし「氷温熟成かつおマイルド削り」(ヤマキ株製)商品裏面記載値)。しかし、上述のとおり、ウェーバー・フェヒナーの 法則に基づき、一般的に人間は1.2倍の濃度差で味の差を感じることができるとされていることから、一般的な荒節よりも強く旨味を感じるために、イノシン酸ナトリウム含有量が少なくとも780~840mg/100g(650×1.2~700×1.2)程度、あるいは840mg/100g以上とすることも好ましく、より好ましくは812~875mg/100g(650×1.25~700×1.25)程度、あるいは875mg/100g以上とすることができる。イノシン酸ナトリウム含有量の上限は限定はされないが、好ましくは、1500mg/100g以下、より好ましくは、1300mg/100g以下とすることができる。
本発明のカビ付け魚節は、乳酸含有量が、2800mg/100g以下であり、水分量が15~24質量%であり、乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)が、質量部比率で0.3以上のカビ付け魚節であり得る。本発明においては、このようなカビ付け魚節の製造方法を提供することができる。本発明の魚節の製造方法は以下の工程を含む。
原料魚を凍結する工程;
該魚を解凍する工程;
荒節又は裸節を製造する工程;
ユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けをする工程;
ここで、該ユーロチウム属菌は、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上の特性を有する。
さらに、カビ付け条件については、上記表1の条件に従うことができる。
鰹荒節から調整した裸節を使用して、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性を測定したところ、以下の結果であった。
(1)まき網で捕獲され船舶にてブライン凍結された質量約1.7kgの冷凍カツオを、水温を調節した水中で12時間かけて、魚の中心温度が-4℃以上0℃以下の範囲になるように解凍し、得られたカツオを原料魚として常法で鰹荒節を製造した。この鰹荒節について、両頭グラインダーを用いて鰹荒節の表面部を略均等に5質量%程度研磨し、表面部を除去して、1本あたりの質量が107.5gの裸節を得た。この裸節の水分は16.8%、乳酸含有量は3119mg/100gであった。
(2)次に、目的とする乳酸含有量と(1)で得た乳酸含有量の差を求め、乳酸の低減量を決定した。製造しようとするカビ付け魚節の目標乳酸含有量は2260mg/100gとした。(1)で求めた乳酸含有量との差を求めたところ、乳酸の目標低減量として859mg/100gと判明した。
(3)次に、(2)で決定した乳酸の目標低減量に応じて、裸節の質量(1片あたり質量(g))と、カビ付け期間(日)を表1に従って決定した。その結果、裸節の大きさ(細断後の1片あたりの質量(g))は、60g以上115g以下であり、カビ付け期間(日)は、35日間以上41日間以下と把握された。
(4)次に、(1)で取得した裸節の水分量を確認したところ、15~21%の範囲に入っていたため、加水は省略した。
(5)次に、(1)で取得した裸節の質量を確認したところ、質量は107.5gであり、(3)で決定した質量の範囲内であったため、裸節の細断処理は省略した。
(6)次に、接種用のカビ液を調節し、これを噴霧して、カビを魚節へ接種した。カビはYM1418を用いた。カビ液の胞子濃度は、4×105個/mLとなるように調整し、接種用カビ液とした。接種用カビ液を、魚節100gあたり約5mL噴霧して、接種した。この処理直後の魚節の水分は20.7%になった。
(7)次に、カビ付けを35日間行った。カビ付け庫は、温度を25~30℃に保ち、カビ付け終了時の魚節の水分が16.1%になるように湿度を85~99%に調節した。
(8)カビ付け開始14日目、21日目、28日目に3時間ずつ熱風乾燥処理を行った。乾燥機の温度設定は60℃とした。その後速やかにカビ付け庫へ戻した。
(9)35日目に回収し、得られたかび付け魚節の乳酸含有量を測定したところ、2254mg/100gであり、乳酸865mg/100gの低減を認め、目的の乳酸含有量の魚節を得ることができた。
実施例1と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表3に記載の通りである。また、実施例2~4は、0.5kg以上4.5kg未満の原料魚を使用した。
実施例1~4と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表4に記載の通りである。
実施例1~4と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表5に記載の通りである。
実施例1~4と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表6に記載の通りである。
次に、鰹荒節の製造にあたって、魚体全体の質量が1.8kg以下、又は1.8kg超であり、ブライン凍結処理を行った原料魚を用いた例を表7に示す。実施例1と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表7に記載の通りである。
次に、魚節の製造にあたって、鰹以外の原料魚で、実施例1~4と同様の方法で、乳酸含有量の制御を行った。但し、それぞれの条件については、表8に記載の通りである。
Claims (8)
- 以下の工程を含む、ユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けにより魚節の乳酸含有量を制御する方法:
原料荒節又は裸節の乳酸含有量から低減する乳酸低減量を決定する工程;及び
前記乳酸低減量に応じて、原料荒節又は裸節の質量とカビ付け期間を制御する工程。 - ユーロチウム属(Eurotium属)菌を含有する魚節の乳酸低減剤。
- ユーロチウム属(Eurotium属)菌を用いて得られるカビ付け魚節であって、
該魚節に占める乳酸含有量が、2800mg/100g以下であり、
水分量が15~24質量%であり、かつ
乳酸含有量に対するイノシン酸ナトリウム含有量(イノシン酸ナトリウム含有量/乳酸含有量)が、質量部比率で0.3以上である魚節。 - 前記ユーロチウム属(Eurotium属)菌が、以下の特性を有する、請求項3に記載の魚節:
裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上。 - 質量が115g以下である、請求項3又は4に記載の魚節。
- 請求項3~5のいずれかに記載のカビ付け魚節を製造する方法であって:
原料魚を凍結する工程;
該原料魚を解凍する工程;
荒節又は裸節を製造する工程;及び
該荒節又は裸節にユーロチウム属(Eurotium属)菌によるカビ付けをする工程;
を含み、
ここで、該ユーロチウム属(Eurotium属)菌は、裸節上における乳酸デヒドロゲナーゼ活性/M40Y上での乳酸デヒドロゲナーゼ活性が0.9以上の特性を有する、製造方法。 - 前記原料魚の質量が、1.8kg以下である、請求項6に記載の魚節の製造方法。
- 前記カビ付けをする工程に供される荒節又は裸節の質量が、115g以下である、請求項6又は7に記載の魚節の製造方法。
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