JP7204868B1 - リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 - Google Patents

リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】充電状態での長期保存時にガスが発生しにくいリチウム二次電池用正極活物質、これを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池の提供。【解決手段】リチウム金属複合酸化物と、Liと元素Xとを含むLi-X化合物と、を備えるリチウム二次電池用正極活物質であって、前記Li-X化合物はリチウムイオン導電性を有する酸化物であり、前記元素Xは、Nb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、下記(A)及び(B)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。0.09≦X(XPS)/X(ICP)≦0.22 ・・・(A)0.5≦Li(XPS)/Li(ICP)≦1.5 ・・・(B)【選択図】なし

Description

本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
リチウム二次電池を構成する正極には、リチウム二次電池用正極活物質が用いられる。リチウム二次電池用正極活物質は、リチウム金属複合酸化物を含む。
例えば特許文献1は、リチウム金属複合酸化物に相当する主成分原料と、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含有する酸化物を含むリチウム遷移金属系化合物粉体を開示している。
このようなリチウム遷移金属系化合物粉体は、リチウム二次電池用正極材料としての使用において、レート特性や出力特性を向上させ、低コスト化、耐高電圧化及び高安全性化が図れることが特許文献1に記載されている。
JP-A-2008-305777
リチウム二次電池の応用分野が進む中、電池特性や安全性の他、より長寿命のリチウム二次電池を提供できるリチウム二次電池用正極活物質が求められる。
リチウム二次電池の寿命を短くする現象として、充電時にリチウム二次電池が膨れる現象が知られている。この現象は、リチウム二次電池が充電状態の際に生じる副反応により発生するガスが原因であることが知られている。そのため、充電状態での保管が想定されるリチウム二次電池において、ガスの発生を抑制することは重要である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、充電状態で保管される場合でもガスが発生しにくいリチウム二次電池用正極活物質、これを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。
本発明の一態様は[1]~[8]を包含する。
[1]リチウム金属複合酸化物と、Liと元素Xとを含むLi-X化合物と、を備えるリチウム二次電池用正極活物質であって、前記Li-X化合物はリチウムイオン導電性を有する酸化物であり、前記元素Xは、Nb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、下記(A)及び(B)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
0.09≦X(XPS)/X(ICP)≦0.22 ・・・(A)
0.5≦Li(XPS)/Li(ICP)≦1.5 ・・・(B)
((A)中、X(XPS)は、X線光電子分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子の表面における前記元素Xの存在割合(%)である。X(ICP)は、ICP発光分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子における前記元素Xの存在割合(%)である。
(B)中、Li(XPS)は、X線光電子分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子の表面におけるLiの存在割合(%)である。Li(ICP)は、ICP発光分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子における前記Liの存在割合(%)である。)
[2]前記X(XPS)は、下記(C)を満たす、[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
0.01≦X(XPS)≦0.30 ・・・(C)
[3]前記Li(XPS)は、下記(D)を満たす、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
0.4≦Li(XPS)≦1.2 ・・・(D)
[4]下記組成式(I)を満たす、[1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)Co1-a]O ・・・(I)
(式(I)中、MはMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、XはNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦a≦0.2、0≦y≦0.5、0≦z≦0.7、0<w≦0.1、y+z+w<1を満たす。)
[5]D10、D90及びD50が下記(E)を満たす、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
(D90-D50)/(D50-D10)≦3.0 ・・・(E)
((E)中、D10はリチウム二次電池用正極活物質の10%累積体積粒度であり、D50は50%累積体積粒度であり、D90は90%累積体積粒度である。)
[6]BET比表面積が1.0m/g以上を満たす、[1]~[5]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[7][1]~[6]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
[8][7]に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
本発明によれば、充電状態で保管される場合でもガスが発生しにくいリチウム二次電池用正極活物質、これを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することができる。
本発明によれば、より長寿命のリチウム二次電池を提供することができる。
リチウム二次電池の一例を示す模式図である。 全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
<リチウム二次電池用正極活物質>
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、リチウム金属複合酸化物と、Liと元素Xとを含むLi-X化合物と、を備える。リチウム二次電池用正極活物質は、後述する(A)及び(B)を満たす。
本明細書において、金属複合化合物(Metal Composite Compound)を以下「MCC」と称する。
リチウム金属複合酸化物(Lithium Metal Composite Compound)を以下「LiMO」と称する。
リチウム二次電池用正極活物質(Cathode Active Material for lithium secondary batteries)を以下「CAM」と称する。
「Li」との表記は、特に言及しない限りLi金属単体ではなく、Li元素であることを示す。Ni、Co、Mn等の他の元素の表記も同様である。
CAMは粒子であり、粒子は一次粒子と、二次粒子とを含む。
本明細書において、「一次粒子」とは、外観上に粒界が存在しない粒子であって、二次粒子を構成する粒子を意味する。より詳細には、「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡等で5000倍以上20000倍以下の視野にて粒子を観察した場合に、粒子表面に明確な粒界が見られない粒子を意味する。
本明細書において、「二次粒子」とは、複数の前記一次粒子が間隙をもって三次元的に結合した粒子を意味する。二次粒子は、球状、略球状の形状を有する。
通常、前記二次粒子は前記一次粒子が10個以上凝集して形成される。
本実施形態において、CAMが備える一次粒子は、LiMOの粒子である。
本実施形態において、CAMが備える一次粒子の少なくとも一部は、表面にLi-X化合物を備える。
CAMが含む二次粒子は、一次粒子の凝集体であり、一次粒子同士の間に間隙を備える。
Li-X化合物は、例えば二次粒子の表面や間隙に存在する。LiMOの表面に存在するLi-X化合物は、LiMOを電解液から保護する膜として作用しうる。このため、電解液がLiMOに接触することで生じる電解液の分解反応を抑制できる。元素Xを含むLi-X化合物は、化学的安定性が高く、LiMOの組成に取り込まれずにLiMOの表面や間隙に存在しやすいため、このような効果が発揮される。
≪リチウム金属複合酸化物≫
LiMOは、Liと、任意金属元素であるNi、Co及び元素Mを含む化合物である。元素MはMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。
≪Li-X化合物≫
Li-X化合物はLiと元素Xとを含む化合物である。元素XはNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素である。
Li-X化合物は具体的には、ニオブ酸リチウム、タングステン酸リチウム、モリブデン酸リチウムが挙げられる。
ニオブ酸リチウムとしては、LiNbO、LiNbO、LiNb、又はLiNb等が挙げられる。ニオブ酸リチウムは、リチウムイオン導電性を有する。
タングステン酸リチウムとしては、LiWO、LiWO又はLiWOが挙げられる。タングステン酸リチウムは、リチウムイオン導電性を有する。
モリブデン酸リチウムとしては、LiMoOが挙げられる。モリブデン酸リチウムは、リチウムイオン導電性を有する。
高いリチウムイオン導電性を発揮する観点から、Li-X化合物は、ニオブ酸リチウム、又はタングステン酸リチウムであることが好ましく、特にニオブ酸リチウムが好ましい。
[Li-X化合物の確認方法]
元素Xを含む化合物がリチウムを含有したLi-X化合物であるかは、CAMをX線吸収微細構造(XAFS)解析、X線光電子分光(XPS)分析することで確認することができる。
XAFS解析によれば、着目する原子の局所構造の情報を得ることができる。原子の局所構造とは、例えば原子の価数、隣接する原子種、結合性等が挙げられる。
XAFS解析は、測定対象であるCAMに照射する前のX線強度(I)と測定対象であるCAMを透過した後のX線強度(I)の比(I/I)を測定し、解析する。
XPS分析はCAMの表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、CAMの構成元素とその電子状態を分析することができる。XPS分析を実施することで、CAMが備える元素Xを含む化合物の組成分析を行うことができる。
本実施形態において、元素Xを含む化合物の組成分析は、XAFS解析を利用する。
具体的には、作製した元素Xを含むCAMを測定装置であるXAFSビームラインに導入し、以下の条件で元素XのXAFS測定、及び解析を実施する。このとき、想定されるLi-X化合物の標準試料のXAFS測定を併せて実施する。
測定装置 :大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 BL-12C
測定吸収端 :Nb-K吸収端、W-L吸収端、Mo-K吸収端
得られたXAFSスペクトルはピーク値からベースライン値を差し引き、CAMと標準試料のピーク形状を比較することで、元素Xを含む化合物の組成分析を実施する。
≪(A)及び(B)≫
CAMは、下記(A)及び(B)を満たす。
0.09≦X(XPS)/X(ICP)≦0.22 ・・・(A)
0.5≦Li(XPS)/Li(ICP)≦1.5 ・・・(B)
((A)中、X(XPS)は、X線光電子分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子の表面における前記元素Xの存在割合(%)である。X(ICP)は、ICP発光分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子における前記元素Xの存在割合(%)である。
(B)中、Li(XPS)は、X線光電子分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子の表面におけるLiの存在割合(%)である。Li(ICP)は、ICP発光分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子における前記Liの存在割合(%)である。)
[X(XPS)及びLi(XPS)の測定]
本実施形態において、「X線光電子分光法」を「XPS」と記載する。
XPSによれば、CAMの粒子の表面にX線を照射したときに生じる光電子のエネルギーを測定することで、CAMの粒子の表面の構成元素を分析することができる。
XPSにより構成元素が分析される「CAMの粒子の表面」とは、CAMの粒子の最表面と、最表面から粒子の中心に向かって生成した光電子が脱出できる深さ領域である。この深さ領域は概ね10nmの深さまでの領域をいう。
本実施形態においては、励起X線としてAlKα線を照射したときにCAMの粒子の表面から放出される光電子の結合エネルギーを分析する。XPSによれば、CAMの粒子の表面における元素Xの存在割合とLiの存在割合を分析できる。
X(XPS)及びLi(XPS)の測定にあたり、X線源にはAlKα線を用い、測定時には帯電中和のために中和銃(加速電圧0.3V、電流100μA)を使用する。
測定の条件として、スポットサイズ=100μm、PassEnergy=112eV、Step=0.1eV、Dwelltime=50msとする。得られたXPSスペクトルについて、解析ソフト (MultiPak(Version9.9.0.8))を用い、CAM中の粒子の表面に存在する各金属元素のピーク強度から各金属元素の元素数を算出する。測定には、数mgのCAMの粉末を用いる。
次に、CAMの粒子の表面における元素Xの存在割合(%)を求める。具体的には、XPS測定によって得られるスペクトルにおいて、各金属元素のピーク面積から各金属元素の元素数を算出し、Li元素を除く各金属元素数の合計値100%に対する元素Xの元素数の割合(原子%)であるX(XPS)(単位:%)を求める。
同様に、CAMの粒子の表面におけるLiの存在割合(%)を求める。具体的には、CAM中の粒子表面のXPS測定によって得られるスペクトルにおいて、各金属元素のピーク面積から各金属元素の元素数を算出し、Li元素を除く各金属元素数の合計値100%に対するLiの元素数の割合であるLi(XPS)(単位:%)を求める。
X線光電子分光装置としては、例えばアルバック・ファイ社製、PHI5000 VersaProbe IIIを使用できる。
[X(ICP)及びLi(ICP)の測定]
本実施形態において、「ICP発光分光法」を「ICP」と記載する。
ICPによれば、CAMの粒子全体に存在する元素X及びLiの量を分析することができる。
ICPによるCAMの分析は、数10mgのCAM粉末を酸、またはアルカリに溶解させる。このとき、溶液中の元素濃度がppmオーダーとなる割合で溶解させる。その後、ICP発光分光分析装置を用いて分析を行う。
ICP発光分光分析装置としては、例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000が使用できる。
ICPによる測定結果から、CAMの粒子における元素Xの存在割合(%)を求める。具体的には、まず、CAM中の粒子全体に存在する各金属元素量から各金属元素の元素数を算出する。次に、Li元素を除く各金属元素数の合計値100%に対する元素Xの元素数の割合であるX(ICP)(単位:%)を求める。
同様に、CAMの粒子におけるLiの存在割合(%)を求める。具体的には、まず、CAM中の粒子全体に存在する各金属元素量から各金属元素の元素数を算出する。次に、Li元素を除く各金属元素数の合計値100%に対するLiの元素数の割合であるLi(ICP)(単位:%)を求める。
(A)
CAMは、下記(A)を満たす。
0.09≦X(XPS)/X(ICP)≦0.22 ・・・(A)
(A)は、下記(A)-1~(A)-4のいずれかであることが好ましい。
0.10≦X(XPS)/X(ICP)≦0.21 ・・・(A)-1
0.11≦X(XPS)/X(ICP)≦0.20 ・・・(A)-2
0.12≦X(XPS)/X(ICP)≦0.19 ・・・(A)-3
0.12≦X(XPS)/X(ICP)≦0.18 ・・・(A)-4
(A)は、CAMの二次粒子全体の元素Xの存在割合であるX(ICP)と、二次粒子表面の元素Xの存在割合であるX(XPS)との比を示す。(A)の値は、二次粒子の表面と間隙とで、元素Xがどの程度偏在しているかの指標となる。「二次粒子の間隙」とは、二次粒子の内部に存在する間隙を意味する。
Li-X化合物は二次粒子の内部に偏在しにくい性質があり、X(ICP)の値から元素Xの存在が確認された場合には二次粒子の表面、あるいは二次粒子の間隙、あるいはその両方に元素Xが存在する可能性がある。(A)が上記の数値を満たすCAMは、二次粒子の間隙に元素Xが偏在していると考えられる。
(A)の値が1と等しい場合、二次粒子の表面と間隙とで、元素Xの存在量は偏りが小さい、換言すれば二次粒子の表面と間隙とで元素Xが均一に存在していると考えられる。
(A)の値が1を超える場合、二次粒子の表面に元素Xが偏在すると考えられる。
(A)の値が1よりも小さい場合、二次粒子の間隙に元素Xが偏在すると考えられる。
二次粒子は一次粒子の凝集体であり、二次粒子の内部には空間(間隙や細孔)が存在する。このような構造の二次粒子は、二次粒子の外表面の表面積よりも、内表面の表面積の方が大きくなると考えられる。二次粒子の外表面及び内表面において、同様に電解液の分解反応は生じうる。ここで、二次粒子の外表面とは、二次粒子外部の空間と二次粒子を構成する一次粒子との界面を意味し、二次粒子の内表面とは、二次粒子内部の空間と二次粒子を構成する一次粒子との界面を意味する。
上記(A)を満たす二次粒子は、二次粒子の外表面と比較して二次粒子の内表面が、より高い割合でLi-X化合物により保護されていると考えられる。二次粒子の内表面は、二次粒子の外表よりも二次粒子全体の電解液の分解反応への影響が大きいと考えられる。このため二次粒子の内表面が保護されていると、電解液の分解反応が効果的に抑制され、充電状態で保管された時のガス発生量を抑えることができると考えられる。
(B)
CAMは、下記(B)を満たす。
0.5≦Li(XPS)/Li(ICP)≦1.5 ・・・(B)
(B)は、下記(B)-1~(B)-3のいずれかであることが好ましい。
0.55≦Li(XPS)/Li(ICP)≦1.4 ・・・(B)-1
0.6≦Li(XPS)/Li(ICP)≦1.3 ・・・(B)-2
0.7≦Li(XPS)/Li(ICP)≦1.2 ・・・(B)-3
(B)は、CAMの二次粒子全体のLiの存在量であるLi(ICP)と、二次粒子表面のLiの存在量であるLi(XPS)との比を示す。(B)の値は、二次粒子の表面と間隙とで、Liがどの程度偏在しているかの指標となる。
(B)によれば、二次粒子の表面と間隙とで、Liがどの程度偏在しているかを評価することができる。
(B)の値によるLiの偏在態様は、上記(A)の説明と同様である。(B)が上記の数値を満たすCAMは、二次粒子の表面と間隙とで、Liの存在量は偏りが小さい、換言すれば二次粒子の表面と間隙とでLiが均一に存在していると考えられる。(B)の値が1を超えると、残留Li成分が二次粒子の表面に偏在し、1未満であると、残留Li成分が二次粒子の内部に偏在することとなる。
残留Li成分とは、CAMを製造する際に、未反応のまま残留したリチウム化合物、あるいは大気中の成分との副反応により生じたリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)である。残留Li成分は、リチウム二次電池の充電時にガスを発生させる原因となる。
リチウム二次電池の電池内部においてガスが発生する原因の例として、代表的には以下の2つが挙げられる。
1つ目は、CAMの粒子の表面において生じる電解液の還元分解反応である。還元分解反応が生じるCAMの粒子の表面とは、CAMの二次粒子の表面と、二次粒子を構成する一次粒子の表面である。
2つ目は、リチウム二次電池を構成する電解質が、充電時に分解されて生じる酸(例えばフッ化水素)に起因する反応である。生じた酸が残留Li成分と反応すると、ガスが発生する副反応が生じる。残留Li成分が二次粒子の表面に偏在すると、ガスが発生しやすくなる。
(A)を満たすCAMは、二次粒子の表面よりも、二次粒子の間隙にLi-X化合物が偏在している。電池が作動した際に、電解液は二次粒子の表面から内部に拡散する。このとき二次粒子の間隙に偏在するLi-X化合物が保護膜として作用するため、電解液の還元分解が生じにくくなる。このためガスの発生が抑制されうる。
さらに(B)を満たすCAMは、二次粒子の表面と内部でLiの存在割合の偏りが小さいことから、残留Li成分の偏在が少なく、二次粒子の表面と間隙とでLiが均一に存在していると考えられる。このようなCAMは電解液との副反応が生じにくい。このためガスの発生が抑制されうる。
(A)及び(B)を満たすCAMは、上記の理由から充電状態で保管された時にガスが発生しにくいリチウム二次電池を提供できる。
(C)
X(XPS)は、下記(C)を満たすことが好ましい。
0.01≦X(XPS)≦0.30 ・・・(C)
(C)は、下記(C)-1~(C)-3であることが好ましい。
0.02≦X(XPS)≦0.25 ・・・(C)-1
0.03≦X(XPS)≦0.2 ・・・(C)-2
0.04≦X(XPS)≦0.18 ・・・(C)-3
(A)、(B)に加え、(C)を満たすCAMは、二次粒子の表面にも元素Xが存在し、かつ二次粒子の間隙に元素Xがより偏在している。このようなCAMは、充電状態で保管された時にガスが発生しにくいリチウム二次電池を提供できる。
≪(D)≫
Li(XPS)は、下記(D)を満たすことが好ましい。
0.4≦Li(XPS)≦1.2 ・・・(D)
(D)は、下記(D)-1~(D)-3であることが好ましい。
0.45≦Li(XPS)≦1.15 ・・・(D)-1
0.50≦Li(XPS)≦1.1 ・・・(D)-2
0.55≦Li(XPS)≦1.05 ・・・(D)-3
(A)、(B)に加え、(D)を満たすCAMは、二次粒子の表面と間隙とで、Liの存在量の偏りが小さく、二次粒子の表面に過剰にLiが存在していない、即ち二次粒子の表面に存在する残留Li成分が少なく、電解液との副反応がより生じにくい。このようなCAMは、充電状態で保管された時にガスが発生しにくいリチウム二次電池を提供できる。
(A)、(B)、(C)に加え、(D)を満たすCAMは、二次粒子の間隙に元素Xがより偏在し、二次粒子の表面と間隙とで、Liの存在量は偏りが小さく、二次粒子の表面に過剰にLiが存在していない、即ち二次粒子の表面に存在する残留Li成分が少なく、二次粒子の間隙がLi-X化合物により効果的に保護されており、電解液との副反応がより生じにくい。このようなCAMは、充電状態で保管された時にガスが発生しにくいリチウム二次電池を提供できる。
[組成式]
CAMは、下記組成式(I)を満たすことが好ましい。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)Co1-a]O ・・・(I)
(式(I)中、MはMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、XはNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦a≦0.2、0≦y≦0.5、0≦z≦0.7、0<w≦0.1、y+z+w<1を満たす。)
組成式(I)において、aはサイクル特性を向上させる観点から、-0.03以上が好ましく、0以上であることがより好ましく、0.002以上が特に好ましい。また、初回効率が高いリチウム二次電池を得る観点から、aは0.1以下が好ましく、0.09以下がより好ましく、0.07以下が特に好ましい。
aの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
aは、-0.03≦a≦0.1を満たすことが好ましく、0≦a≦0.09を満たすことがより好ましく、0.002≦a≦0.07を満たすことが特に好ましい。
組成式(I)において、放電効率が高いリチウム二次電池を得る観点から、0<y+z+w<0.6を満たすことが好ましく、0<y+z+w≦0.5を満たすことがより好ましく、0<y+z+w≦0.25を満たすことがさらに好ましく、0<y+z+w≦0.2を満たすことが特に好ましい。
組成式(I)において、yは電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、0.05以上がより好ましく、0.08以上が特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、0.4以下が好ましく、0.3以下が特に好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、yは、0.05≦y≦0.4、0.08≦y≦0.3が挙げられる。
組成式(I)において、zはサイクル特性を向上させる観点から0.0002以上がより好ましく、0.0005以上が特に好ましい。また、0.15以下が好ましく、0.13以下がより好ましく、0.1以下が特に好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
zは0.0002≦z≦0.15を満たすことが好ましい。
組成式(I)において、wはサイクル特性を向上させる観点から0.001以上がより好ましく、0.002以上が特に好ましい。また、0.09以下が好ましく、0.08以下がより好ましく、0.07以下が特に好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
wは0.001≦w≦0.09を満たすことが好ましい。
a、y、z及びwの組み合わせとしては、0.002≦a≦0.07かつ0.08≦y≦0.3かつ0.0002≦z≦0.15かつ0.001≦w≦0.09を満たすことが好ましい。
[組成分析]
CAMの組成分析は、得られたCAMの粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置を用いて測定できる。
ICP発光分光分析装置としては、例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000が使用できる。
(層状構造)
CAMの結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm及びP63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c及びC2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
これらのうち、初回放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
≪D10、D90及びD50
CAMは、D10、D90及びD50が下記(E)を満たすことが好ましい。
(D90-D50)/(D50-D10)≦3.0 ・・・(E)
((E)中、D10はCAMの10%累積体積粒度である。D50はCAMの50%累積体積粒度である。D90はCAMの90%累積体積粒度である。)
(E)の好ましい例を以下に記載する。
(D90-D50)/(D50-D10)≦2.9 ・・・(E)-1
(D90-D50)/(D50-D10)≦2.85 ・・・(E)-2
(D90-D50)/(D50-D10)≦2.7 ・・・(E)-3
(E)の好ましい例を以下にさらに記載する。
1.0≦(D90-D50)/(D50-D10)≦3.0 ・・・(E)-10
1.1≦(D90-D50)/(D50-D10)≦2.9 ・・・(E)-11
1.3≦(D90-D50)/(D50-D10)≦2.85 ・・・(E)-12
1.5≦(D90-D50)/(D50-D10)≦2.7 ・・・(E)-13
(E)を満たすCAMは、正極を製造する際に充填しやすくなり、導電助剤との接触が良好になりやすい。このため、抵抗が小さい正極を製造できる。
[D10、D90及びD50の測定]
本明細書において、測定対象物の10%累積体積粒度であるD10、50%累積体積粒度であるD50及び90%累積体積粒度であるD90は、以下の乾式の方法により測定できる。測定対象物は、CAMである。
具体的には、まず、測定対象物2gを用いてレーザー回折粒度分布計により乾式粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から10%累積時の粒子径の値が10%累積体積粒度D10(μm)である。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値が50%累積体積粒度D50(μm)である。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から90%累積時の粒子径の値が、90%累積体積粒度D90(μm)である。
レーザー回折粒度分布計としては、例えばマルバーン製、MS2000が使用できる。
≪BET比表面積≫
CAMは、BET比表面積が1.0m/g以上を満たすことが好ましい。またCAMは、BET比表面積が2.5m/g以下を満たすことが好ましい。CAMは、BET比表面積が1.2m/g以上2.5m/g以下を満たすことが好ましく、1.4m/g以上2.5m/g以下を満たすことがより好ましい。
BET比表面積が上記の下限値以上であるCAMを用いると、リチウム二次電池の出力特性を高めやすい。
BET比表面積が上記の上限値以下であるCAMを用いると、CAMと電解液との接触面積が増大しにくく、電解液の分解に起因するガスが発生しにくい。
[BET比表面積の測定]
測定対象物のBET比表面積は、BET比表面積測定装置により測定できる。BET比表面積測定装置としては、例えば、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いることができる。粉末状の測定対象物を測定する場合、前処理として窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させることが好ましい。測定対象物はCAMである。
本実施形態において、充電状態で保管された時にガスが発生しにくいか否かは下記の方法により確認する。
具体的には、リチウム二次電池を充電後、所定の条件で保存した後にガスの発生量を測定する。
[ガス発生量の測定]
(リチウム二次電池用正極の作製)
本実施形態のCAMと導電材とバインダーとを、CAM:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)で混練し、ペースト状の正極合剤を調製する。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いる。導電材にはアセチレンブラックを用いる。バインダーには、ポリフッ化ビニリデンを用いる。
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して60℃で1時間乾燥し、150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得る。このリチウム二次電池用正極の電極面積は34.96cmとする。
(リチウム二次電池用負極の作製)
人造黒鉛とスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、人造黒鉛:SBR:CMC=96.5:2:1.5(質量比)の組成となる割合で加えて混練することにより、ペースト状の負極合剤を調製する。負極合剤の調製時には、純水を溶媒として用いる。
得られた負極合剤を、集電体となる厚さ10μmのCu箔に塗布して、60℃で1時間乾燥し、120℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用負極を得た。このリチウム二次電池用負極の電極面積は37.44cmとした。
(リチウム二次電池の作製)
(リチウム二次電池用負極の作製)で作製される負極上に、セパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置き、その上に(リチウム二次電池用正極の作製)で作製されるリチウム二次電池用正極を置いた後、アルミラミネートフィルムで包む。ここに電解液を1000μl注入し、真空包装機にてアルミラミネートを封止してリチウム二次電池(パウチ型)を作製する。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの16:10:74(体積比)混合液に、LiPFを1.3mol/lとなる割合で溶解した溶液を用いる。
上記の方法で作製されるリチウム二次電池を用いて、以下の方法でガス発生量を測定する。
(測定方法)
評価対象となるCAMを正極に用いて、パウチ型のリチウム二次電池を作製する。異なるCAMの物性を比較する場合には、CAM以外の電池構成が共通するリチウム二次電池を作製して評価する。
前記のパウチ型のリチウム二次電池を以下の条件でフォーメーションする。
フォーメーション条件:試験温度25℃で0.05CAでSOC10%まで充電し、試験温度60℃で10時間放置し、その後、試験温度25℃で、0.1CAで4.3VまでCC-CV充電で電流が0.05CAになるまで充電を行う。さらに、0.2CAで2.5Vまで放電した後、0.2CAでの充放電を2サイクル実施する。
その後リチウム二次電池の体積をアルキメデス法により測定し、保存前の体積を求める。
アルキメデス法は、自動比重計を用いて、リチウム二次電池の空中重量と水中重量の差からリチウム二次電池全体の実体積を測定する方法である。
次いで、4.3Vまで充電し、60℃の恒温槽内で7日間保存する。その後、0.2CAの電流値で2.5Vまで放電を実施したパウチ型のリチウム二次電池の体積をアルキメデス法で測定する。60℃、7日間保存後の体積と保存前の体積の差からガス発生量(単位:cc/g)を求める。なお、ガス発生量の単位における質量(g)は、CAMの重さの規格である。
なお、充電状態のリチウム二次電池を60℃の恒温槽内に7日間保存するという試験は、常温と比較して副反応が非常に起きやすい状態であり、ガスが生じやすい状態である。すなわち、上記試験は、リチウム二次電池を充電状態で常温にて長期間保管することを想定した加速試験であり、本技術分野において一般的に用いられている試験条件である。上記試験においてガス発生量が少なければ、充電状態で常温にて長期間保管された場合においても、ガスが発生しにくいと評価できる。
上記の方法により測定したガス発生量が0.13cc/g以下であると、「充電状態で常温にて長期間保管された場合でもガスが発生しにくい」と評価する。
<正極活物質の製造方法1>
CAMの製造方法は、MCCの製造工程と、MCC、リチウム化合物及び化合物Xとを混合し混合物を得る工程と、CAMを得る工程と、を順に実施する方法である。MCCは、金属複合酸化物又は金属複合水酸化物である。化合物Xについては後述する。
[MCCの製造工程]
まず、NiとCoと、任意金属である元素Mとを含むMCCを調製する。
MCCは、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、Ni、Co及びAlを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
まず共沈殿法、特にJP-A-2002-201028に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液、及び錯化剤を反応させ、Ni(1-y-z)CoAl(OH)(式中、y+z=1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
上記アルミニウム塩溶液の溶質であるアルミニウム塩としては、例えば硫酸アルミニウムやアルミン酸ソーダ等が使用できる。
以上の金属塩は、上記Ni(1-y-z)CoAl(OH)の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
錯化剤は、水溶液中で、Ni、Co、及びAlのイオンと錯体を形成可能な化合物である。例えば、アンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
アンモニウムイオン供給体としては、水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。
錯化剤は含まれていなくてもよく、錯化剤が含まれる場合、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のmol数の合計に対するmol比が0より大きく2.0以下である。
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ性水溶液を添加する。アルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用できる。
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも低い場合には、混合液を加熱して40℃になったときにpHを測定する。
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも高い場合には、混合液を冷却して40℃になったときにpHを測定する。
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びアルミニウム塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、Ni、Co、及びAlが反応し、Ni(1-y-z)CoAl(OH)が生成する。
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を反応槽の上部からあふれさせて分離する、オーバーフロータイプの反応槽である。
反応槽内は不活性雰囲気であってもよい。不活性雰囲気であると、ニッケルよりも酸化されやすい元素が凝集してしまうことを抑制し、均一なMCCを得ることができる。
また、反応槽内には酸素を導入してもよい。反応槽内に酸素を導入する方法は、酸素を含むガスをバブリングする方法が挙げられる。このとき、多量に酸素を導入することなく、不活性雰囲気を保ちつつ酸素ガスを導入することが好ましい。遷移金属の酸化量を増やすと、比表面積は大きくなる。
上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、またはそれらの混合ガスを反応槽内に供給し、得られる反応生成物の酸化状態を制御してもよい。
得られる反応生成物を酸化する化合物として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどを使用することができる。
得られる反応生成物を還元する化合物として、シュウ酸、ギ酸などの有機酸、亜硫酸塩、ヒドラジンなどを使用する事ができる。
以上の反応後、得られた反応生成物を水で洗浄した後、乾燥することで、MCCが得られる。本実施形態では、MCCとして、金属複合水酸化物であるニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物が得られる。また、反応生成物に水で洗浄するだけでは混合液に由来する夾雑物が残存してしまう場合には、必要に応じて、反応生成物を、弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。
なお、上記の例では、MCCとして、ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を製造しているが、金属複合酸化物であるニッケルコバルトアルミニウム金属複合酸化物を調製してもよい。
例えば、ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を酸化することによりニッケルコバルトアルミニウム金属複合酸化物を調製することができる。酸化のための焼成時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を1時間以上30時間以下とすることが好ましい。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/時間以上が好ましく、200℃/時間以上がより好ましく、250℃/時間以上が特に好ましい。
本明細書における最高保持温度とは、焼成工程における焼成炉内雰囲気の保持温度の最高温度であり、焼成工程における焼成温度を意味する。複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、最高保持温度とは、各加熱工程のうちの最高温度を意味する。
本明細書における昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から最高保持温度に到達するまでの時間と、焼成装置の焼成炉内の昇温開始時の温度から最高保持温度までの温度差とから算出される。
MCCの乾燥条件は特に制限されない。MCCが金属複合酸化物又は金属複合水酸化物である場合、乾燥条件は、例えば、下記1)~3)のいずれの条件でもよい。
1)金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化又は還元されない条件。具体的には、金属複合酸化物が金属複合酸化物のまま維持される乾燥条件、金属複合水酸化物が金属複合水酸化物のまま維持される乾燥条件である。
2)金属複合水酸化物が酸化される条件。具体的には、金属複合水酸化物が金属複合酸化物に酸化される乾燥条件である。
3)金属複合酸化物が還元される条件。具体的には、金属複合酸化物が金属複合水酸化物に還元される乾燥条件である。
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化又は還元されない条件にするためには、乾燥時の雰囲気に窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスを使用すればよい。
金属複合水酸化物が酸化される条件にするためには、乾燥時の雰囲気に酸素又は空気を使用すればよい。
また、金属複合酸化物が還元される条件にするためには、乾燥時に、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。
MCCの乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
[混合物を得る工程]
MCCを乾燥させた後、リチウム化合物と、化合物Xとを混合する。
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。
これらのリチウム化合物のうち、水酸化リチウムや酢酸リチウムは、空気中の二酸化炭素と反応して、炭酸リチウムを数%含みうる。
化合物Xとは、元素XとしてNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物である。
化合物Xは、元素XがNbである場合には、酸化ニオブ(Nb、NbO)が挙げられる。
化合物Xは、元素XがWである場合には、酸化タングステン(WO、WO)、タングステン酸、塩化タングステンが挙げられる。
化合物Xは、元素XがMoである場合には、酸化モリブデン(MoO)が挙げられる。
MCCと、リチウム化合物と、化合物Xとを含む混合物を焼成することにより、LiMOと、Li-X化合物とを備え(A)及び(B)を満たすCAMが得られる。以下の説明において、MCCと、リチウム化合物と、化合物Xとを含む混合物を、混合物1と記載する場合がある。
混合物1を焼成することにより、MCCと、リチウム化合物とが反応して一次粒子が成長し、一次粒子同士が凝集して焼結し、間隙を有する二次粒子が形成される。さらに、リチウム化合物に含まれるリチウムと、化合物Xとが反応し、Li-X化合物が形成される。Li-X化合物は間隙に存在する。
本発明者らの検討により、粒径、及び下記(円形度の測定方法)に記載の方法により得られる円形度を適切な範囲に調整した化合物Xを用いると二次粒子の間隙に元素Xが多く偏在し、二次粒子の表面よりも間隙に存在する元素Xの量が多いCAMが得られやすいことが見いだされた。化合物Xの粒径、及び円形度を適切な範囲に調整とすることで、MCCへの化合物Xの分散性を高めることができる。
化合物Xの添加量は、元素Xの種類に応じて異なる。化合物Xの添加量は、金属複合化合物に含まれる金属元素の総物質量に対する、元素Xの物質量の割合により適宜調整する。
例えば、MCCに含まれる金属元素の総物質量に対する、化合物Xに含まれる元素Xの物質量の割合は、0.1mol%以上2.5mol%以下であることが好ましい。
LiMOの間隙に効率的にLi-X化合物を偏在させるため、化合物Xの50%累積体積粒度D50(μm)は、0.02μm以上20μm以下であることが好ましく、0.05μm以上14μm以下であることがより好ましい。
(円形度の測定方法)
化合物Xの円形度は以下の方法で測定する。
まず、化合物Xの画像を光学顕微鏡で撮影し、化合物Xの投影像である粒子画像を得る。次に、化合物Xを構成する個々の粒子について、下記式(X)により算出される円形度を測定する。得られた円形度を横軸に、累積体積を縦軸とし、化合物Xの円形度分布曲線が得られる。
下記式(X)に示す円形度は、数値が1に近づくほど真円であることを意味する。
円形度=4πS/L…(X)
(Sは化合物Xの投影画像の投影面積であり、Lは化合物X粒子の周囲長である。)
得られた累積粒度分布曲線において、低円形度粒子側から50%累積時の円形度の値が50%累積体積円形度C50である。同様に、得られた累積円形度分布曲線において、低円形度粒子側から10%、及び90%累積時の円形度の値が、それぞれ10%累積体積円形度C10、及び90%累積体積円形度C90である。
円形度の測定には、例えばマルバーン社製のモフォロギシリーズ(装置名:Morphologi G3SE)が使用できる。
化合物Xが元素XとしてNbを含有する場合、化合物XのC50は、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8以上が更に好ましい。
化合物Xが元素XとしてNbを含有する場合、化合物Xの累積体積円形度より算出される(C90-C10)/C50は、0.9以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることが更に好ましい。また、化合物Xの(C90-C10)/C50は、0.3以上が好ましく、0.35以上がより好ましく、0.4以上が更に好ましい。
化合物Xが元素XとしてWまたはMoを含有する場合、化合物XのC50は、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8以上が更に好ましい。
化合物Xが元素XとしてWまたはMoを含有する場合、化合物Xの累積体積円形度より算出される(C90-C10)/C50は、0.8以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.6以下であることが更に好ましい。また、化合物Xの(C90-C10)/C50は、0.1以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.25以上が更に好ましい。
50が上記範囲であると、化合物Xの円形度が高いことを意味する。このような化合物Xを添加することで、MCCと化合物Xが接触しやすくなりLi-X化合物の分散性が向上する。
(C90-C10)/C50が上記範囲であると、円形度に一定のばらつきを有する化合物Xであることを意味する。(C90-C10)/C50が上記上限値以下であると、円形度が低い化合物Xが比表面積の増大に寄与し、MCCと接触しやすくなり、LiMOの間隙へ表面拡散しやすくなる。(C90-C10)/C50が下限値以上であると、円形度の低い化合物Xが多すぎず、MCCと接触しやすくなり、LiMOの間隙へ表面拡散しやすくなる。
化合物Xが元素XとしてNbを含有する場合、化合物XのD50は、10μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることが更に好ましい。また、化合物XのD50は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることが特に好ましい。
化合物Xが元素XとしてWまたはMoを含有する場合、化合物XのD50は、1.29μm以下であることが好ましく、1.28μm以下であることがより好ましい。また、化合物XのD50は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることが特に好ましい。
50、C50及び(C90-C10)/C50が上記の範囲である化合物Xを用いると、二次粒子の間隙に元素Xが多く偏在し、二次粒子の表面よりも間隙に存在する元素Xの量が多いCAMが得られやすくなり、さらに(A)、(B)、(C)及び(D)を満たすCAMを製造しやすくなる。
MCC、リチウム化合物、及び化合物Xは、それぞれの凝集体がなくなるまで均一に混合することが好ましい。MCC、リチウム化合物、及び化合物Xを均一に混合できれば混合装置は限定されないが、例えば、レーディゲミキサーを用いて混合することが好ましい。
リチウム化合物、MCC及び化合物Xは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、MCCとしてニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を用いる場合、リチウム化合物と金属複合水酸化物と化合物Xは、LiNi(1-y-z-w)CoAl(式中、y+z+w=1)の組成比に対応する割合で用いられる。
また、最終目的物であるCAMにおいて、リチウム化合物に含まれるLiと、MCCに含まれる金属元素とのmol比が0.98以上、1.1以下となる比率で混合すると、得られるCAMの(B)及び(D)を本実施形態の好ましい範囲に制御しやすい。
[CAMを得る工程]
ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物、リチウム化合物及び化合物Xの混合物を焼成することによって、LiMOとしてリチウム-ニッケルコバルトアルミニウム金属複合酸化物を有し、間隙にLi-X化合物を有するCAMを得ることができる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられる。本実施形態においては酸素雰囲気で焼成することが好ましい。
焼成工程は、1回のみの焼成であってもよく、複数回の焼成段階を有していてもよい。
複数回の焼成段階を有する場合、最も高い温度で焼成する工程を本焼成と記載する。本焼成の前には、本焼成よりも低い温度で焼成する仮焼成を行ってもよい。また、本焼成の後には本焼成よりも低い温度で焼成する後焼成を行ってもよい。
本焼成の焼成温度(最高保持温度)は、LiMOの粒子の成長を促進させる観点から、600℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましく、700℃以上が特に好ましい。また、LiMOの粒子にクラックが形成されることを防止し、粒子強度を維持する観点から、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましく、1000℃以下が特に好ましい。
本焼成の最高保持温度の上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、600℃以上1200℃以下、650℃以上1100℃以下、700℃以上1000℃以下が挙げられる。
本焼成を600℃以上で実施すると、(A)、(B)、(C)及び(D)を満たすCAMが得られやすい。
仮焼成又は後焼成の焼成温度は、本焼成の焼成温度よりも低ければよく、例えば350℃以上800℃以下の範囲が挙げられる。
焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることができる。
[任意工程]
・洗浄工程
本実施形態においては、焼成後の焼成物を純水やアルカリ性洗浄液などの洗浄液で洗浄することが好ましい。
アルカリ性洗浄液としては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、LiCO(炭酸リチウム)、NaCO(炭酸ナトリウム)、KCO(炭酸カリウム)および(NHCO(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物の水溶液並びに前記無水物の水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
洗浄工程において、洗浄液と焼成物とを接触させる方法としては、各洗浄液中に、焼成物を投入して撹拌する方法や、各洗浄液をシャワー水として、焼成物にかける方法等が挙げられる。各洗浄液をシャワー水として、焼成物にかける方法としては、洗浄液中に、焼成物を投入して撹拌した後、各洗浄液から焼成物を分離し、次いで、各洗浄液をシャワー水として、分離後の焼成物にかける方法が挙げられる。
洗浄に用いる洗浄液の温度は、15℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、8℃以下がさらに好ましい。洗浄液の温度を上記範囲で洗浄液が凍結しない温度に制御することで、洗浄時に焼成物の結晶構造中から洗浄液中へのリチウムイオンの過度な溶出が抑制できる。
洗浄後の焼成物は、適宜乾燥させてもよい。
以上の工程により、CAMが得られる。
<正極活物質の製造方法2>
本実施形態のCAMの製造方法は、MCCの製造工程と、MCC及びリチウム化合物とを混合しLiMOを得る工程と、LiMOと化合物Xとを混合し、焼成してCAMを得る工程と、を順に実施する方法である。
[MCCの製造工程]
CAMの製造方法2における、MCCの製造工程に関する説明は、前記CAMの製造方法1におけるMCCの製造工程に関する説明と同様である。
[リチウム複合金属化合物を得る工程]
得られたMCCと、リチウム化合物を混合する。MCCとリチウム化合物とを含む混合物を焼成することにより、LiMOが得られる。
本工程において用いるリチウム化合物は、CAMの製造方法1において説明したリチウム化合物と同様の化合物が使用できる。
以上のリチウム化合物とMCCとは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、MCCとしてニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を用いる場合、リチウム化合物とMCCは、LiNi(1-y-z)CoAl(式中、y+z=1)の組成比に対応する割合で用いられる。また、最終目的物であるCAMにおいて、リチウム化合物に含まれるLiと、MCCに含まれる金属元素とのmol比が0.98以上、1.1以下となる比率で混合すると、得られるCAMの(B)及び(D)を本実施形態の好ましい範囲に制御しやすい。
ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物及びリチウム化合物の混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトアルミニウム金属複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられる。
ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物及びリチウム化合物の混合物を焼成する焼成工程は、1回のみの焼成であることが好ましい。以下において、ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物及びリチウム化合物の混合物の焼成を一次焼成と記載する。
一次焼成は、後述する二次焼成の焼成温度よりも低ければよく、例えば350℃以上800℃以下の範囲が挙げられる。
[CAMを得る工程]
一次焼成後に得られる焼成物と、化合物Xとを混合し、さらに焼成することで、CAMが得られる。一次焼成後に得られる焼成物と化合物Xとを混合を焼成する工程を二次焼成と記載する。
一次焼成によりMCCと、リチウム化合物とが反応して一次粒子が成長し、一次粒子同士が凝集して焼結し、間隙を有する二次粒子が形成される。一次焼成後に得られる焼成物と化合物Xとを混合して二次焼成することにより、間隙に元素Xが存在しやすくなる。一次粒子同士の焼結と、元素Xの間隙への拡散は、二次焼成の工程において生じやすいため、CAMの製造方法1と同様に、間隙に元素Xが存在しやすくなると考えられる。
CAMの製造方法2において用いる化合物Xについての説明は、CAMの製造方法1における化合物Xの説明と同様である。
二次焼成の焼成温度(最高保持温度)は、間隙にLi-X化合物を均一に存在させる観点から、600℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましく、700℃以上が特に好ましい。また、CAMの粒子にクラックが形成されることを防止し、粒子強度を維持する観点から、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましく、1000℃以下が特に好ましい。
二次焼成の最高保持温度の上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、600℃以上1200℃以下、650℃以上1100℃以下、700℃以上1000℃以下が挙げられる。
二次焼成を600℃以上で実施すると、(A)、(B)、(C)及び(D)を本実施形態の好ましい範囲に制御しやすい。
焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることができる。
化合物Xの添加量は、元素Xの種類に応じて、LiMOに含まれるLi以外の金属元素の総物質量に対する、元素Xの物質量の割合が好ましい範囲になる割合に調整する。
例えば、CAMの製造工程において、元素XとしてNb、W及びMoからなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する化合物を用いる場合、LiMOに含まれるリチウム原子以外の金属元素の総物質量に対する、元素Xの物質量の割合は、0.1mol%以上2.5mol%以下であることが好ましい。
化合物X及びLiMOは、化合物Xの凝集体又はLiMOの凝集体がなくなるまで均一に混合される。化合物X及びLiMOを均一に混合できれば混合装置は限定されないが、例えば、レーディゲミキサーを用いて混合することが好ましい。
<リチウム二次電池>
次いで、本実施形態のCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の構成を説明する。
さらに、本実施形態のCAMを用いる場合に好適なリチウム二次電池用正極(以下、正極と称することがある。)について説明する。
さらに、正極の用途として好適なリチウム二次電池について説明する。
本実施形態のCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
リチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
図1は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
まず、図1に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
次いで、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、まずCAM、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)及び繊維状炭素材料などを挙げることができる。
正極合剤中の導電材の割合は、CAM100質量部に対して5-20質量部であると好ましい。
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂;ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の樹脂を挙げることができる。
(正極集電体)
正極が有する正極集電体としては、Al、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、電極プレス工程を行って固着する方法が挙げられる。
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)が挙げられる。
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
リチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物又は硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO及びSiOなど式SiO(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;SnO及びSnOなど式SnO(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;LiTi12及びLiVOなどのリチウムとチタンとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。負極活物質として使用可能な材料として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の材料を用いてもよい。
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い及び繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと記載することがある)、スチレンブタジエンゴム(以下、SBRと記載することがある)、ポリエチレン及びポリプロピレンを挙げることができる。
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布又は乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
(セパレータ)
リチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂又は含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布又は織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。また、JP-A-2000-030686又はUS20090111025A1に記載のセパレータを用いてもよい。
(電解液)
リチウム二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
電解液に含まれる電解質としては、LiClO及びLiPFなどのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート類を用いることができる。
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPFなどのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。電解液に含まれる電解質および有機溶媒として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の電解質および有機溶媒を用いてもよい。
<全固体リチウム二次電池>
次いで、全固体リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明の一態様に係るCAMを全固体リチウム二次電池のCAMとして用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウム二次電池について説明する。
図2は、本実施形態の全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。図2に示す全固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側にCAMと負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400に記載される構造が挙げられる。各部材を構成する材料については、後述する。
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
全固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
全固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様であるCAM及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
(固体電解質)
本実施形態の正極活物質層111に含まれる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質及び有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質及び水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。各電解質としては、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2012/0251871A1、US2018/0159169A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物及びガーネット型酸化物などが挙げられる。各酸化物の具体例は、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2020/0259213A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物としては、LiLa1-aTiO(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LiLa1-bTaO(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物及びLiLa1-cNbO(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
NASICON型酸化物としては、Li1+dAlTi2-d(PO(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物とは、Li (式中、Mは、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。Mは、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。m、n、o、p及びqは、任意の正数である。)で表される酸化物である。
LISICON型酸化物としては、Li-Li(Mは、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。Mは、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表される酸化物などが挙げられる。
ガーネット型酸化物としては、LiLaZr12(LLZともいう)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、LiS-P系化合物、LiS-SiS系化合物、LiS-GeS系化合物、LiS-B系化合物、LiI-SiS-P系化合物、LiI-LiS-P系化合物、LiI-LiPO-P系化合物及びLi10GeP12系化合物などを挙げることができる。
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「LiS」「P」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、LiS-P系化合物には、LiSとPとを主として含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。LiS-P系化合物に含まれるLiSの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して50~90質量%である。LiS-P系化合物に含まれるPの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して10~50質量%である。また、LiS-P系化合物に含まれる他の原料の割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して0~30質量%である。また、LiS-P系化合物には、LiSとPとの混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
LiS-P系化合物としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI及びLiS-P-Z(m、nは正の数である。Zは、Ge、ZnまたはGaである。)などを挙げることができる。
LiS-SiS系化合物としては、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-P-LiCl、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiSO及びLiS-SiS-LiMO(x、yは正の数である。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はInである。)などを挙げることができる。
LiS-GeS系化合物としては、LiS-GeS及びLiS-GeS-Pなどを挙げることができる。
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH、LiBH-3KI、LiBH-PI、LiBH-P、LiBH-LiNH、3LiBH-LiI、LiNH、LiAlH、Li(NHI、LiNH、LiGd(BHCl、Li(BH)(NH)、Li(NH)I及びLi(BH)(NHなどを挙げることができる。
(ポリマー系固体電解質)
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物及びポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
(導電材及びバインダー)
正極活物質層111が有する導電材としては、上述の(導電材)で説明した材料を用いることができる。また、正極合剤中の導電材の割合についても同様に上述の(導電材)で説明した割合を適用することができる。また、正極が有するバインダーとしては、上述の(バインダー)で説明した材料を用いることができる。
(正極集電体)
正極110が有する正極集電体112としては、上述の(正極集電体)で説明した材料を用いることができる。
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質、導電材及びバインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質及び導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、上述の(正極集電体)で説明した正極合剤をペースト化する場合に用いることができる有機溶媒と同じものを用いることができる。
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、上述の(正極集電体)で説明した方法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。正極110に用いる具体的な材料の組み合わせとしては、本実施形態に記載のCAMと表1に記載する組み合わせが挙げられる。
Figure 0007204868000001
Figure 0007204868000002
Figure 0007204868000003
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。負極活物質、負極集電体、固体電解質、導電材及びバインダーは、上述したものを用いることができる。
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、及び負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質を有している。
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極活物質層121が接する態様で負極120を積層させることで製造することができる。
以上のような構成のリチウム二次電池において、本実施形態のCAMを用いているため、充電状態で保管された時にガス発生量の少ないリチウム二次電池を提供できる。
また、以上のような構成の正極は、上述した構成のCAMを有するため、リチウム二次電池を充電状態で保管されたとしてもガス発生量を低減できる。
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、充電状態で保管されてもガス発生量の少ない二次電池となる。
[X(XPS)及びLi(XPS)の測定]
上記[X(XPS)及びLi(XPS)の測定]に記載の方法により、X(XPS)及びLi(XPS)を測定した。
[X(ICP)及びLi(ICP)の測定]
上記[X(ICP)及びLi(ICP)の測定]に記載の方法により、X(ICP)及びLi(ICP)を測定した。
[組成分析]
CAMの組成分析は、上記[組成分析]に記載の方法により実施した。
[D10、D90及びD50の測定]
上記[D10、D90及びD50の測定]に記載の方法により、D10、D90及びD50を測定した。
[BET比表面積の測定]
上記[BET比表面積の測定]に記載の方法により、BET比表面積を測定した。
[ガス発生量の測定]
上記[ガス発生量の測定]に記載の方法により、ガス発生量を測定した。
上記(円形度の測定方法)により、円形度を測定した。
≪実施例1≫
1.CAM-1の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを、NiとCoとAlとの原子比が88:9:3となる割合で混合して、混合原料液を調製した。
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.6(液温40℃での測定時)になるよう、水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の粒子を得た。
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥することで、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1を得た。
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、mol比がLi/(Ni+Co+Al)=1.10となる割合で秤量して混合した。
さらに、NbをNb/(Ni+Co+Al)=1.0mol%となる割合で秤量して混合した。
実施例1において用いたNbは、D50が1.26μm、C50が0.82、(C90-C10)/C50が0.41であった。
その後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成した。
その後、さらに酸素雰囲気下790℃で6時間焼成した。
その後、水洗し、窒素雰囲気下210℃で10時間の条件で乾燥し、CAM-1を得た。
2.CAM-1の評価
CAM-1の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.01、y=0.09、z=0.03、w=0.01であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。CAM-1をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。
≪実施例2≫
1.CAM-2の製造
実施例1における焼成温度790℃を760℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の実験を行い、CAM-2を得た。
2.CAM-2の評価
CAM-2の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.06、y=0.09、z=0.02、w=0.01であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。CAM-2をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。
≪実施例3≫
1.CAM-3の製造
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、mol比がLi/(Ni+Co+Al)=1.10となる割合で秤量して混合した。
得られた混合物を酸素雰囲気下で650℃で5時間焼成し、焼成物を得た。
焼成物とWOをW/(Ni+Co+Al)=0.75mol%となる割合で秤量して混合した。
実施例3において用いたWOは、D50が0.25μm、C50が0.86、(C90-C10)/C50が0.29であった。
その後、酸素雰囲気下790℃で6時間焼成した。
その後、水洗し、150℃で10時間の条件で減圧乾燥し、CAM-3を得た。
2.CAM-3の評価
CAM3の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=-0.02、y=0.09、z=0.03、w=0.002であり、元素XはWであり、元素MはAlであった。CAM-3をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。
≪比較例1≫
1.CAM-11の製造
50が34.0μm、C50が0.69、(C90-C10)/C50が0.50であるNbを用いたこと以外は、実施例1と同様の実験を行い、CAM-11を得た。
2.CAM-11の評価
CAM11の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.016、y=0.090、z=0.021、w=0.005であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。CAM-11をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。
≪比較例2≫
1.CAM-12の製造
50が1.30μm、C50が0.82、(C90-C10)/C50が0.27であるNbを用いたこと以外は、実施例1と同様の実験を行い、CAM-12を得た。
2.CAM-12の評価
CAM-12の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.033、y=0.087、z=0.029、w=0.012であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。CAM-12をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。
≪比較例3≫
1.CAM-13の製造
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、mol比がLi/(Ni+Co+Al)=1.10となる割合で秤量して混合した。
得られた混合物を酸素雰囲気下650℃で5時間焼成し、焼成物を得た。
焼成物と、比較例2に記載のNbをNb/(Ni+Co+Al)=1.0mol%となる割合で秤量して混合した。
その後、酸素雰囲気下760℃で6時間焼成した。
その後、水洗し、窒素雰囲気下210℃で10時間の条件で乾燥し、CAM-13を得た。
2.CAM-13の評価
CAM-13の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.02、y=0.09、z=0.03、w=0.01であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。CAM-13をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。
≪比較例4≫
1.CAM-14の製造
比較例1におけるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、mol比がLi/(Ni+Co+Al)=1.03となる割合で秤量して混合し、水洗、乾燥を省略したこと以外は、実施例2と同様の実験を行い、CAM-14を得た。
2.CAM-14の評価
CAM-14の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=-0.01、y=0.09、z=0.03、w=0.01であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。CAM-14をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。
CAM-1~CAM-3、CAM-11~CAM-14のX(XPS)、X(ICP)、X(XPS)/X(ICP)、Li(XPS)、Li(ICP)、Li(XPS)/Li(ICP)、D10、D50、D90、(D90-D50)/(D50-D10)、BET比表面積及びガス発生量を表4に記載する。
Figure 0007204868000004
表4に記載に通り、(A)及び(B)を満たすCAMを用いた場合、充電状態での高温保存試験において、ガス発生量が少ないリチウム二次電池を製造することができた。
1:セパレータ、3:負極、4:電極群、5:電池缶、6:電解液、7:トップインシュレーター、8:封口体、10:リチウム二次電池、21:正極リード、100:積層体、110:正極、111:正極活物質層、112:正極集電体、113:外部端子、120:負極、121:負極活物質層、122:負極集電体、123:外部端子、130:固体電解質層、200:外装体、200a:開口部、1000:全固体リチウム二次電池

Claims (5)

  1. リチウム金属複合酸化物と、Liと元素Xとを含むLi-X化合物と、を備えるリチウム二次電池用正極活物質であって、前記Li-X化合物はリチウムイオン導電性を有する酸化物であり、前記元素Xは、Nb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、下記(A)及び(B)を満たし、
    下記X(XPS)は、下記(C)を満たし、
    下記Li(XPS)は、下記(D)を満たし、
    下記組成式(I)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
    0.09≦X(XPS)/X(ICP)≦0.22 ・・・(A)
    0.5≦Li(XPS)/Li(ICP)≦1.5 ・・・(B)
    0.01≦X(XPS)≦0.30 ・・・(C)
    0.4≦Li(XPS)≦1.2 ・・・(D)
    ((A)中、X(XPS)は、X線光電子分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子の表面における前記元素Xの存在割合(%)である。X(ICP)は、ICP発光分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子における前記元素Xの存在割合(%)である。
    (B)中、Li(XPS)は、X線光電子分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子の表面におけるLiの存在割合(%)である。Li(ICP)は、ICP発光分光法により測定される、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子における前記Liの存在割合(%)である。)
    Li[Li (Ni (1-y-z-w) Co 1-a ]O ・・・(I)
    (式(I)中、MはMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、XはNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦a≦0.2、0≦y≦0.5、0≦z≦0.7、0<w≦0.1、y+z+w<1を満たす。)
  2. 10、D90及びD50が下記(E)を満たす、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
    (D90-D50)/(D50-D10)≦3.0 ・・・(E)
    ((E)中、D10はリチウム二次電池用正極活物質の10%累積体積粒度であり、D50は50%累積体積粒度であり、D90は90%累積体積粒度である。)
  3. BET比表面積が1.0m/g以上を満たす、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
  4. 請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
  5. 請求項に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
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