以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
また、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「シート」は板やフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念であり、したがって、「化粧シート」は、「化粧板」や「化粧フィルム」と呼ばれる部材と呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
図1乃至図3は、本発明の一実施の形態を説明するための図である。図1は、化粧ボード10及び化粧シート20を平面図で示している。すなわち、図1には、化粧シート20の表面20aが示されている。図2は、図1のII-II線に沿った断面図であり、図3は図1のIII-III線に沿った断面図である。図2及び図3に示すように、化粧ボード10は、下地材11、接合層17及び化粧シート20を有している。化粧シート20は、互いに対向する一対の主面として、表面20a及び裏面20bを有している。図2及び図3に示すように、化粧シート20は、下地材11の被覆面11a上に、接合層17を介して積層されて使用される。このとき、化粧シート20の裏面20bが、下地材11の被覆面11aに対面する。一方、化粧シート20の表面20aには、模様部30が設けられている。模様部30によって、化粧シート20の表面20aには、凹凸形状の模様が形成されている。化粧シート20は、表面20aの凹凸形状の模様によって優れた意匠性を発現することができる。とりわけ、ここで説明する化粧シート20及び化粧ボード10では、下地材11の被覆面11aに形成された凹部12及び凸部13の影響を効果的に排除して、期待された優れた意匠性を有効に発揮することを可能にするための工夫がなされている。
まず、化粧ボード10及び化粧シート20の構成を概略的に説明する。
下地材11は、化粧シート20の下地となる部材である。下地材11の材料は、化粧ボード10の用途に応じて適宜に決定される。化粧ボード10が、壁、床、天井等に適用される場合、下地材11は、例えば各種樹木の木材からなる単板、合板、集成材、パーチクル板、纖維板等の木製板材、コンクリート、モルタル等のセメント系材料、石膏ボード、珪酸カルシウム等からなる無機非金屬板、或いは鉄、アルミニウム等からなる金屬板となる。化粧ボード10が車両等に適用される場合、下地材11は、例えば樹脂製板材、或いは金屬板となる。化粧ボード10が、家具や電気製品に適用される場合、下地材11は、例えば木製板材や樹脂製板材となる。
接合層17は、化粧シート20の裏面20bの側に設けられ、下地材11と化粧シート20とを接合する。接合層17としては、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いることができる。接合層17としては、例えば澱粉系接着剤であるヤヨイ化学社製の商品名「ルーアマイルド」等を用いることができる。接合層17の厚さ、すなわち化粧シート20の表面20aの法線方向ndに沿った接合層17の長さは、例えば0.1μm以上10μm以下である。
ここで、化粧シート20の表面20aの法線方向ndとは、化粧シート20の表面20aを全体的かつ大局的に見た場合において、化粧シート20の表面20aの平面方向に直交する方向のことを意味する。
化粧シート20は、化粧ボード10の表面をなし、化粧ボード10の表面を加飾する。すなわち、化粧シート20は、建築物の壁、床及び天井等の内装材、車両等の内装材、家具や電気機器等の表面を形成するようになる部材である。したがって、後述する表面形状を確保し得る限りにおいて、内装材、家具、電気機器等の用途に応じた構成を取り得る。
図2及び図3に示された一例において、化粧シート20は、基材21と、化粧シート20の表面20aの側の基材21上に設けられた模様部30と、を有している。化粧シート20の取り扱い性等を考慮すると、化粧シート20の厚さTs、すなわち化粧シート20の表面20aの法線方向に沿った化粧シート20の長さは、600μm以下であることが好ましい。
基材21は、基材21上に設けられる模様部30を適切に支持するシート状の部材である。基材21は、化粧シート20の表面20aの一部を形成する。基材21は、例えばポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂等のシート状の樹脂、上質紙、薄葉紙、リンター紙、クラフト紙等の紙、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、硝子等の材料の纖維からなる織布又は不織布等で形成される。特に、化粧シート20が所謂壁紙である場合、前記紙の一方の表面上にポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、アクリル樹脂等の樹脂層を積層し、必要に応じて該樹脂層を発泡させて細胞状(乃至スポンジ状)構造とした所謂壁紙現反等で形成される。基材21の厚さ、すなわち化粧シート20の表面20aの法線方向ndに沿った基材21の長さは、化粧シート20の取り扱い性や模様部30の適切な支持性等を考慮すると、50μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上250μm以下であることがより好ましい。
模様部30は、基材21上に設けられ、化粧シート20の表面20aの一部を形成する。模様部30によって、化粧シート20の表面20aには、凹凸形状が形成される。図1に示すように、模様部30は、第1方向d1に延びる複数の第1線状部31と、第1方向d1に非平行な第2方向d2に延びる複数の第2線状部32と、分散して配置された複数の突出部35と、を含んでいる。図示された例では、第1方向d1と第2方向d2とは、交叉角度90°で互いに直交しているが、交叉角度はこれに限らず、例えば、60°、45°等とすることが出來る。また、第1方向d1及び第2方向d2は、化粧シート20の表面20aの法線方向ndと直交している。
模様部30に含まれる第1線状部31、第2線状部32及び突出部35は、典型的には、一体的に形成される。第1線状部31、第2線状部32及び突出部35は、例えば、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂等の樹脂を用いて、作成され得る。
第1線状部31及び第2線状部32は、織物を模した模様である。したがって、複数の第1線状部31及び第2線状部32は、組織された織物の形状となっている。図示された例では、第1線状部31及び第2線状部32は、平織を表す形状となっている。しかしながら、第1線状部31及び第2線状部32は、綾織等の他の織り方を表す形状となっていてもよい。第1線状部31及び第2線状部32による織物の形状によって、化粧シート20の表面20aに凹凸形状が形成される。この凹凸形状によって、化粧シート20は優れた意匠性を発現することができる。すなわち、第1線状部31及び第2線状部32によって、化粧シート20に優れた意匠性を付与することができる。
図示された例では、第1線状部31は、第2方向d2に配列されており、第2線状部32は、第1方向d1に配列されている。配列された複数の第1線状部31の間隔S1は、0.2mm以上6mm以下であることが好ましく、0.5mm以上3mm以下であることがより好ましい。同様に、配列された複数の第2線状部32の間隔S2は、0.2mm以上6mm以下であることが好ましく、0.5mm以上3mm以下であることがより好ましい。第1線状部31の配列の間隔S1及び第2線状部32の配列の間隔S2がこのような範囲にあれば、化粧シート20に優れた意匠性を付与することができる。なお、第1線状部31の配列の間隔S1と第2線状部32の配列の間隔S2とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、各第1線状部31の配列の間隔S1及び各第2線状部32の配列の間隔S2は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
また、各第1線状部31の幅W1、すなわち第1線状部31が延びる方向である第1方向d1に直交する方向に沿った各第1線状部31の長さは、0.2mm以上6mm以下であることが好ましく、0.2mm以上2mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上1.5mm如何更に好ましい。同様に、各第2線状部32の幅W2、すなわち第2線状部32が延びる方向である第2方向d2に直交する方向に沿った各第2線状部32の長さは、0.2mm以上6mm以下であることが好ましく、0.2mm以上2mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上1.5mm如何更に好ましいい。第1線状部31の幅W1及び第2線状部32の幅W2がこのような範囲にあれば、化粧シート20に優れた意匠性を付与することができる。なお、第1線状部31の幅W1と第2線状部32の幅W2とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、各第1線状部31の幅W1及び各第2線状部32の幅W2は、各線状部31,32の延びる方向に沿って一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
さらに、各第1線状部31の厚さT1、すなわち化粧シート20の表面20aの法線方向ndに沿った第1線状部31の長さ(深度とも呼ばれる)は、例えば100μm以上600μm以下である。同様に、各第2線状部32の厚さT2、すなわち化粧シート20の表面20aの法線方向ndに沿った第2線状部32の長さ(深度とも呼ばれる)は、例えば100μm以上600μm以下である。第1線状部31の厚さT1と第2線状部32の厚さT2とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、各第1線状部31の厚さT1及び各第2線状部32の厚さT2は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
なお、図示された例に限らず、模様部30は、第1方向d1に延びる複数の第1線状部31及び第1方向d1に非平行な第2方向d2に延びる複数の第2線状部32に加えて、第1方向d1及び第2方向d2の両方に非平行な第3方向に延びる複数の第3線状部等をさらに有していてもよい。
突出部35は、図1に示すように、基材21上に分散して複数配置されている。図2及び図3に示されているように、突出部35は、基材21から突出した形状を有している。突出部35は、第1線状部31及び第2線状部32とともに、模様部30として化粧シート20の表面20aに凹凸形状を形成し、化粧シート20に意匠性を付与する。実在の織布の中には、縦横に交叉して織られた糸(これらが第1線状部31及び第2線状部32に相当する)の表面の一部に該糸の直徑よりも大きな直徑の節状の纖維塊が附随する場合が有り、ネップ(nep)と呼稱される。突出部35は第1線状部31及び第2線状部32から成る織布に於けるネップ乃至これに類似する意匠外觀を再現するものでもある。また同時に、突出部35は、後述するように、不陸を目立たなくさせることが本発明者らによって見出された。本発明に於いては、突出部35は特に不陸を目立ち難くすることを主目的として設けられている。突出部35は、例えば第1線状部31及び第2線状部32と同一の材料で形成されている。
突出部35の厚さTn、すなわち化粧シート20の表面20aの法線方向ndに沿った突出部35の長さ(深度とも呼ばれる)は、第1線状部31の厚さT1及び第2線状部32の厚さT2より厚くなっている。突出部35の厚さTnは、第1線状部31の厚さT1及び第2線状部32の厚さT2より、300μm以上厚くなっていることがより好ましく、600μm以上厚くなっていることが更に好ましい。具体的な例としては、突出部35の厚さTnは、300μm以上1100μm以下である。
また、化粧シート20の平面視において、突出部35の大きさ、具体的には突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均Dは、1mm以上7mm以下であり、好ましくは2mm以上5mm以下である。化粧シート20の平面視における突出部35の面積は、例えば化粧シート20の写真を画像処理することで、算出され得る。突出部35の面積を円周率で除算して平方根をとった値を突出部35ごとに算出し、その二倍の平均をとることで、突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均Dを算出することができる。
さらに、化粧シート20の平面視において、突出部35の密度、すなわち化粧シート20の面積のうち、突出部35が占める割合Pは、10%以上50%以下であり、好ましくは、30%以上40%以下である。化粧シート20の面積のうち、突出部35が占める割合Pは、例えば、化粧シート20から1辺が10mmの正方形を切り出して、当該正方形の部分に含まれる突出部35の面積の合計を、当該正方形の面積で割ることで、算出することができる。
また、化粧シート20の平面視において、突出部35の個数密度は、3個/cm2以上であることが好ましく、5個/cm2以上であることがより好ましい。ここで、突出部35の個数密度とは、化粧シート20の平面視における単位面積あたりに含まれる突出部35の個数のことを意味する。突出部35の個数密度は、例えば化粧シート20のうち、1辺が10mmの正方形を切り出して、当該正方形の部分に含まれる突出部35の個数を、当該正方形の面積で割ることで、算出することができる。なお、1個の突出部とは、化粧シート20の平面視において、連続した1つの塊となっており、他の突出部とは独立している突出部35のことを意味する。
なお、突出部35は、以上の条件を満たしていれば、任意の形状を有していてよい。ただし、後述する効果を期待する観点から、突出部35は、平面視において、円形状または円形状に近い形状よりも、例えば、図1に図示の如く、円形状を不規則に変調し輪郭線も円弧を歪ませたりランダム化した波形乃至折線形状を有していることが理想的である。とりわけ、平面視における突出部35の最大長さの、当該最大長さが得られる方向と直交する方向に沿った突出部35の長さに対する比が、1.3以上5以下であることが好ましく、1.5以上3以下であることがより好ましい。
ところで、化粧シート20は、下地材11の被覆面11a上に積層され、下地材11に対して固定される。下地材11の被覆面11aは、平坦面であることが好ましい。この場合、化粧シート20の表面20aに皺等の変形が生じることを抑制することができ、これにより、化粧シート20の表面20aが期待された意匠性を発揮することができる。
しかしながら、既に説明したように、被覆面11aには、その一部に凹部12や凸部13が形成されていることもある。一例として、螺子等を用いて下地材11を他の部材(建築物の壁面等も含む)に固定する場合、螺子の頭部が下地材11の被覆面11aから突出して、図3に示すような凸部13を形成することがある。また逆に、下地材11の被覆面11aに螺子の頭部を収容する穴(凹み)が形成され、当該穴に収容された螺子頭部上に、図2に示すような凹部12が形成されることもある。さらに、複数の板材を並べて下地材11を形成する場合には、複数の板材間に溝状の凹部12が形成され得る。下地材11の被覆面11aに形成される凹部12や凸部13は、「不陸」と呼ばれ、その存在が、化粧シート20越しに視認されることもある。この場合、化粧シート20の表面20aが創出する意匠性を低下させるだけでなく、さらに、その存在自体が化粧シート20及び化粧ボード10の意匠性を害する。
その一方で、本件発明者らは、不陸の隠蔽について鋭意検討を重ねたところ、化粧シート20の表面20aにおいて不陸を目立たなくさせ得る凹凸形状を見出した。そして更に実験および検討を繰り返すことで、本件発明者らは、以下に説明する第1~第3の特徴を有する本実施の形態による化粧シート20によれば、後述する実施例によっても実証されているように、不陸を効果的に目立たなくさせ得ることを確認した。この点について以下に説明する。
上述してきた本実施の形態の化粧シート20において、模様部30は、複数の第1線状部31及び複数の第2線状部32に加え、平面内に分散して配置された複数の突出部35を含んでいる。この化粧シート20では、複数の第1線状部31及び複数の第2線状部32が織物の形状となることで凹凸形状が形成されるとともに、突出部35によっても絲に付随する纖維塊(nep)状の凹凸形状が形成される。そして、本実施の形態の第1の特徴として、図2及び図3の如く突出部35の厚さが第1線状部31及び第2線状部32の厚さより厚くなっていると、後述する第2及び第3の特徴との組み合わせにおいて、不陸を目立たなくすることができた。とりわけ、突出部35の厚さが第1線状部31及び第2線状部32の厚さより300μm以上厚くなっていると、より効果的に不陸を目立たなくすることができた。突出部35が不陸隠蔽性を効果的に発揮し得る理由の詳細は不明であるが、以下に、推定の理由を説明する。ただし、本発明は、以下の推定に拘束されない。
第1の特徴を有する化粧シート20では、分散して配置された突出部35による凹凸形状が、厚さの相違から、突出部35以外による凹凸よりも目立つようになる。このため、突出部35以外による凹凸は、化粧シート20に形成されていたとしても、突出部35による凹凸形状に紛れて目立ちにくくなる。この結果、下地材11の凹部12や凸部13に起因する凹凸、すなわち不陸も、突出部35による凹凸形状によって、目立ちにくくなる。とりわけ、突出部35の厚さが第1線状部31及び第2線状部32の厚さより300μm以上厚くなっていると、突出部35による凹凸形状がより目立つため、突出部35以外の要素による凹凸形状は、より目立ちにくくなった。さらに、突出部35の厚さが第1線状部31及び第2線状部32の厚さより600μm以上厚くなっていると、突出部35による凹凸形状がさらに目立ち、突出部35以外の要素による凹凸形状は、さらに目立ちにくくなった。
これに加えて、実際に化粧シート20は、日光、電燈光等の照明光の下で観察される。照明光を凹凸形状から成る模樣部30が遮蔽して陰翳部を生じる。其の際に、第1線状部31及び第2線状部32の生成する陰翳部は延在した線状を呈し、一方、突出部35の生成する陰翳部は延在せずに比較的狭い範圍に局在化する。
模樣部30が生成する陰翳部が第1線状部31及び第2線状部32の生成する線状の陰翳部のみの場合は、螺子穴等による不陸が化粧シート表面に生成する局在化した陰翳とは異質な外觀の爲、斯かる局在化した螺子穴等による陰翳が浮き立ち、目立ってしまう。逆に、模樣部30が生成する陰翳部が突出部35による局在化した陰翳部のみの場合は、目地溝等による線状に延在した不陸が化粧シート表面に生成する線状の陰翳とは異質な外觀の爲、斯かる延在した目地溝等による陰翳が浮き立ち、目立ってしまう。
一方、本発明の化粧シート20の模樣部30は、第1線状部31及び第2線状部32の生成する線状に延在する陰翳部と突出部35の生成する局在化した陰翳部との兩者を生成する。仍って、下地材11上の不陸が、局在化した螺子穴等、延在した目地溝等、或いは兩者混在の何れの場合であっても、化粧シート20の模樣部30の生成する陰翳によって、下地材11の生成する陰翳を紛らわして、目立ち難くすることができる。
また、本実施の形態の化粧シート20では、化粧シート20の平面視において、化粧シート20の面積のうち、突出部35が占める割合Pが大きいほど、突出部35による凹凸形状が目立つため、不陸を効果的に目立たなくさせることができた。そして、本実施の形態の第2の特徴として、化粧シート20の平面視における化粧シート20の面積のうち、突出部35が占める割合Pが10%以上であると、第1及び第3の特徴との組み合わせにおいて、不陸を効果的に目立たなくさせることができた。さらに、突出部35が占める割合Pが30%以上であると、不陸をより効果的に目立たなくさせることができた。突出部35が占める割合Pが増すと化粧シート20の表面20aにおいて、突出部35による凹凸形状がより目立つことになる。したがって、このような不陸隠蔽現象は、上述した不陸隠蔽性が生じる現象ともが合致していると言える。
しかしながら、化粧シート20の平面視において、化粧シート20の面積のうち、突出部35が占める割合Pが大きすぎると、突出部35による凹凸形状が目立ちすぎて、第1線状部31及び第2線状部32による凹凸形状の意匠性を低下させることになる。このため、化粧シート20の平面視における化粧シート20の面積のうち、突出部35が占める割合Pは、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
さらに、化粧シート20の平面視において、各突出部35が大きいほど、不陸を効果的に目立たなくさせることができた。そして、本実施の形態の第3の特徴として、化粧シート20の平面視において、突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均Dが1mm以上であると、上述した第1及び第2の特徴との組み合わせにおいて、不陸を効果的に目立たなくさせることができた。さらに、突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均Dが2mm以上であると、不陸をより効果的に目立たなくさせることができた。突出部35が大きいと化粧シート20の表面20aにおいて、突出部35による凹凸形状がより目立つことになる。したがって、このような不陸隠蔽現象は、上述した不陸隠蔽性が生じる現象ともが合致していると言える。
しかしながら、各突出部35が大きすぎると、突出部35による凹凸形状が目立ちすぎて、第1線状部31及び第2線状部32による凹凸形状の意匠性を低下させることになる。このため、化粧シート20の平面視において、突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均Dは7mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
なお、化粧シート20の平面視における突出部35の個数密度も、不陸隠蔽性に影響を与え得ることが本件発明者らによって確認された。本件発明者らの検討によれば、化粧シート20の平面視において、突出部35の個数密度が大きいほど、突出部35による凹凸形状が目立つため、不陸を効果的に目立たなくさせることができた。具体的には、化粧シート20の平面視において、突出部35の個数密度が3個/cm2以上であると、不陸を効果的に目立たなくさせることができた。
また、突出部35を含まない従来の化粧シートでは、第1線状部の配列の間隔及び第2線状部の配列の間隔が0.2mm以上6mm以下である場合や、第1線状部の幅及び第2線状部の幅が0.2mm以上6mm以下である場合、不陸が目立っていた。上述したように、第1線状部の配列の間隔及び第2線状部の配列の間隔が0.2mm以上6mm以下である場合や、第1線状部の幅及び第2線状部の幅が0.2mm以上6mm以下である場合、化粧シートに優れた意匠性を付与することができる。しかしながら、突出部35を含まない従来の化粧シートでは、不陸が目立ってしまうため、第1線状部の配列の間隔及び第2線状部の配列の間隔が0.2mm以上6mm以下としたり、第1線状部の幅及び第2線状部の幅が0.2mm以上6mm以下としたりしても、優れた意匠性を発現することができなかった。一方、上述した実施の形態の化粧シート20によれば、突出部35による凹凸形状を目立たせることで不陸による凹凸形状を目立ちにくくすることができる。このため、第1線状部31の配列の間隔S1及び第2線状部32の配列の間隔S2を0.2mm以上6mm以下としたり、第1線状部31の幅W1及び第2線状部32の幅W2を0.2mm以上6mm以下としたりすることで、化粧シート20に優れた意匠性を付与することができる。すなわち、化粧シート20が優れた意匠性を発現することができる。
次に、化粧シート20の製造方法の一例を説明する。
まず、図4に示すように、米坪量80g/m2の壁紙用裏打紙で形成された基材21の上に、模様部30となる発泡剤を含有した樹脂層30aを積層させる。このとき、Tダイスを用い、溶融押し出しラミネート法により、樹脂層30aを非発泡状態で基材21に接合させる。樹脂層30aの材料組成としては、主原料にエチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)などのオレフィン系樹脂を使用することができる。その他の材料として、無機充填剤、顔料、発泡剤、発泡助剤、架橋助剤、安定剤、滑剤等を公知の配合でブレンドすることができる。発泡前の樹脂層30aは0.04~0.1mm程度の厚みで製膜し、後の工程で発泡させて0.3~1.0mm程度の発泡樹脂層30bとすることが好ましい。
次に、必要に応じて、樹脂層30aまたは基材21の上に絵柄模様層を設ける。絵柄模様層の形成にはグラビア印刷、フレキソ印刷等が用いられる。印刷インキとしては、着色剤、結着材樹脂、溶剤を含む印刷インキを使用できる。これらのインキは公知、又は市販のものを使用してもよい。さらに絵柄模様層の上に表面保護層を積層してもよい。表面保護層についてもグラビア印刷、フレキソ印刷等、フィルムラミネート、押し出しラミネート等公知の方法を用いることができる。表面保護層は艶調整が目的であれば、例えば、シリカなどの既知フィラーを含んでもよい。表面強度が目的であれば、電離放射線硬化型樹脂を樹脂成分として含有するものが好適である。厚みは0.1~15μmが好ましい。
続いて、樹脂層30aに電離放射線を照射する。樹脂層30aに電子線を照射することで発泡性や強度を調整することができる。電子線照射の条件としては、例えば加速電圧150~250kv、照射量10~70kGyが好ましい。
上記のように基材21上に樹脂層30aを形成した後、基材21及び樹脂層30aを加熱発泡炉に通し、図5に示すように、樹脂層30aの厚みを5~10倍となるように発泡させる。加熱条件は、熱分解型発泡剤の分解により発泡樹脂層30bが形成される条件であれば特には限定されないが、例えば炉内温度200~400℃が好ましい。
次に、図6に示すように、エンボス加工によって、発泡樹脂層30bに凹凸形状を賦型する。エンボス加工は、模様部30の凹凸が反転した凹凸形状がエンボス版として表面に形成された金属ロール70を用いた凹凸賦型により、行われる。凹凸形状を賦型されることで、図7に示すように、発泡樹脂層30bから、第1線状部31、第2線状部32及び突出部35を含む模様部30が形成される。以上の工程によって、化粧シート20が製造される。
ここで、賦型に用いられるエンボス版が形成された金属ロール70の製造方法の一例について説明する。
まず、エンボス版に形成する凹凸形状を規定するための、版下画像を作成する。版下画像では、形成すべき凹凸形状を画像濃度(濃淡)で表している。エンボス版に形成すべき凹凸形状とは、第1線状部31、第2線状部32及び突出部35を含む模様部30の凹凸が反転した凹凸形状のことである。版下画像は、デジタルデータであることが好ましい。版下画像は、例えば、CAD等を用いて作成される。あるいは、版下画像は、突出部35が設けられた織物の表面形状をスキャンしてAD変換することで作成される。作成されたデジタルデータでは、2次元座標平面内に画素データが配列してなり、各画素データは各々固有の濃度値を有している。
得られた版下画像に基づいて、エンボス版を作製する。まず、図8に示すような、エンボス版が表面に形成される金属ロール70を準備する。金属ロール70は、回転駆動軸71を有する中空の鉄製の円筒の表面に銅層をメッキ形成したものである。金属ロール70は、砥石で表面を研磨して粗面化されており、彫刻用レーザ光の鏡面反射による彫刻効率の低下を防止する処理がなされている。
次に、レーザ光彫刻機を用いて、金属ロール70の表面を版下画像のデータに基づいて彫刻する。金属ロール70の表面に彫刻される凹凸形状の版深は、版下画像における各画素の濃度値に基づいて得ることができる。版深は、例えば最大で600μmである。レーザ光彫刻機は、図8に示すように、レーザヘッド72からレーザ光を出射することができる。レーザヘッド72から出射されるレーザ光Lは、例えば、発振波長1024nm、レーザスポット径10μm、出力600Wである。レーザ光彫刻機による彫刻は、金属ロール70をその回転駆動軸71を介して電動機で駆動して回転駆動軸71を中心軸として回転させつつ、レーザ光の照射のON-OFF(照射又は非照射)を切り換えながら、行われる。また、蒸発した金属が粉体となって金属ロール70の表面に残留又は付着することを防止するため、彫刻液吐出口73から彫刻液Fを金属ロール70の表面のレーザ光照射領域に吹き付けた状態でレーザ光照射を行う。レーザヘッド72が移動することで、レーザ光Lは、金属ロール70の表面の全面を走査することができる。レーザ光Lが1回照射されると、金属の蒸発で例えば深さ10μmの凹部を形成することができる。この場合、金属ロール70の表面のある部分に50μmの凹部を形成するには、レーザ光が金属ロール70の表面を走査する際に、5回のみレーザ光の照射をONとなるように制御する。
尚、金屬ロール70上の各位置に対応する版下画像の画像濃度を彫刻すべき版深に変換するに当たっては、先ず、エンボス版上の所望の(設計目標としての)版深の分布幅(最大版深と最小版深との差であり、これはエンボス加工後に得られる化粧シートの表面の最大の高低差に対応する)を決定し、而かる後、版下画像の画像濃度(各画素における濃度値)の分布幅を版深の分布幅に対応するよう、レーザ光彫刻機のレーザヘッド72を移動させる彫刻制御プログラムを設定する。具体的には、版下画像の画像濃度に対して、画像濃度が大きな部分を版深の大きな部分に対応させる場合は、最大濃度が最大版深(最大彫刻量)に、又、最小濃度が最小版深(最小彫刻量)に対応するようプログラムする。
金属ロール70の表面の彫刻後、彫刻液を洗浄し、電解研磨を行う。金属ロール70の表面に付着した彫刻液及び金属の残渣を除去する。その後、該金属ロール表面にメッキにより厚さ10μmのクロム層を形成する。以上により、模様部30の凹凸が反転した凹凸形状がエンボス版として表面に形成された金属ロール70を得ることができる。
以上のように、本実施の形態の化粧シート20は、基材21と、基材21上に設けられた模様部30と、を備え、模様部30は、第1方向d1に延びる複数の第1線状部31と、第1方向d1に非平行な第2方向d2に延びる複数の第2線状部32と、分散して配置された複数の突出部35と、を含み、突出部35の厚さTnは、第1線状部31の厚さT1及び第2線状部32の厚さT2より厚く、化粧シート20の平面視における化粧シート20の面積のうち、突出部35が占める割合Pは、10%以上50%以下であり、化粧シート20の平面視において、突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均Dは、1mm以上7mm以下である。このような化粧シート20によれば、突出部35による凹凸形状を目立たせることで、突出部35以外による凹凸、すなわち不陸を目立ちにくくすることができる。不陸を目立ちにくくすることで、化粧シート20は、優れた意匠性を発現することができる。
また、本実施の形態の化粧シート20において、突出部35の厚さTnは、第1線状部31の厚さT1及び第2線状部32の厚さT2より、300μm以上厚くなっている。このような化粧シート20によれば、突出部35による凹凸形状をより目立たせることで、突出部35以外による凹凸、すなわち不陸をより目立ちにくくすることができる。不陸をより目立ちにくくすることで、化粧シート20は、より優れた意匠性を発現することができる。
さらに、本実施の形態の化粧シート20において、第1線状部31の幅W1は、0.2mm以上6mm以下であり、第2線状部32の幅W2は、0.2mm以上6mm以下である。このような化粧シート20は、優れた意匠性を付与され得る。したがって、化粧シート20は、より優れた意匠性を発現することができる。
また、本実施の形態の化粧シート20において、複数の第1線状部31の間隔S1は、0.2mm以上6mm以下であり、複数の第2線状部32の間隔S2は、0.2mm以上6mm以下である。このような化粧シート20は、優れた意匠性を付与され得る。したがって、化粧シート20は、より優れた意匠性を発現することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
比較例1,3として、突出部35が設けられていない化粧シートを用意した。また、実施例1~3及び比較例2として、第1線状部31及び第2線状部32の幅W1,W2、厚さT1,T2、突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均D、及び、化粧シート20の平面視における化粧シート20の面積のうち突出部35が占める割合P、を、それぞれ変化させた化粧シートを用意した。なお、第1線状部31及び第2線状部32の間隔S1,S2及び突出部の厚さTnは、各実施例及び比較例で同一となっている。
なお、各実施例及び比較例において、第1線状部31の幅W1及び第2線状部32の幅W2は、同一かつ一定となっており、以下では線状部31,32の幅Wと簡略化して表記する。同様に、第1線状部31の間隔S1及び第2線状部の間隔S2は、同一かつ一定となっており、以下では線状部31,32の間隔Sと簡略化して表記する。さらに、第1線状部31の厚さT1及び第2線状部32の厚さT2は、同一かつ一定となっており、以下では線状部31,32の厚さTと簡略化して表記する。各実施例及び比較例における、線状部31,32の幅W、間隔S、厚さT及び突出部35の直径の平均D、割合P、厚さTnは、後述する表1に示された値とした。
各実施例及び比較例について、不陸を目立たなくさせる性能、すなわち不陸隠蔽性について評価した。不陸隠蔽性の評価方法について、以下に説明する。
各実施例及び比較例の化粧シートについて、図9に示すように、平坦な被覆面上に、直径10mmの平面視が円形状のシールsを貼り、仮想の凸状不陸を形成した。凸状不陸は、厚さ100μmのシールsを1枚貼り付けた第1仮想不陸c1と、同一のシールsをそれぞれ2~5枚重ねて貼り付けた第2仮想不陸c2~第5仮想不陸c5と、を形成した。各実施例及び比較例の化粧シートを、それぞれ、被覆面上の第1仮想不陸c1~第5仮想不陸c5が形成されている領域に貼り付けた。図10は、第1仮想不陸c1、第2仮想不陸c2、第3仮想不陸c3及び第4仮想不陸c4上に貼り付けられた化粧シートの一例について、その表面を示している。
各実施例及び比較例の化粧シートについて、表面を肉眼目視観察し、第1仮想不陸c1~第5仮想不陸c5の存在がそれぞれ視認されるか否かを確認した。この観察は、化粧シートを水平な台に配置し、暗室において化粧シートのシート面に対して10°の角度から光を照射して行った。各実施例及び比較例の化粧シートに対し、第1仮想不陸c1~第5仮想不陸c5が視認されなかった数と同数の点数を付与した。すなわち、第1仮想不陸c1~第5仮想不陸c5のいずれも視認されなかった柄の評価を5点とし、第5仮想不陸c5のみが観察された柄の評価を4点とし、第5仮想不陸c5及び第4仮想不陸c4のみが観察された柄の評価を3点とし、第5仮想不陸c5、第4仮想不陸c4及び第3仮想不陸c3のみが観察された柄の評価を2点とし、第5仮想不陸c5、第4仮想不陸c4、第3仮想不陸c3及び第2仮想不陸c2のみが観察された柄の評価を1点とし、5仮想不陸c5~第1仮想不陸c1のいずれも観察された柄の評価を0点とした。そして、同一の実施例及び比較例の化粧シートの2~10箇所について斯かる評価点を求め、それらの複数の評価点の平均値を以って当該化粧シートの不陸隠蔽性の評価点とした。此の評価点が2.5点以上の化粧シートを不陸隠蔽性が高いと評価した。
各実施例及び比較例に対する不陸隠蔽性の評価結果を、以下の表1に示す。また、図11には、比較例1に係る化粧シートの表面の写真が示されており、図12には、実施例1に係る化粧シートの表面の写真が示されており、図13には、実施例2に係る化粧シートの表面の写真が示されている。
上記の各実施例においては、突出部35の厚さTnは、第1線状部31の厚さT1及び第2線状部32の厚さT2より厚くなっており、化粧シート20の平面視における化粧シート20の面積のうち、突出部35が占める割合は、10%以上50%以下となっており、化粧シート20の平面視において、突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均Dは、1mm以上7mm以下となっている。これらの実施例1~3においては、不陸隠蔽性の評価点は2.5点以上となっている。すなわち、各実施例において、不陸隠蔽性が高くなっており、不陸を目立たなくさせることができる。
また、実施例1と比較例2との比較から、化粧シート20の平面視において、突出部35の面積と同一面積となる円の直径の平均Dが2mm以上となっていると、不陸隠蔽性をより高めることができることが理解される。これは、突出部35による凹凸形状が目立つことで、不陸を効果的に目立たなくさせることができたためであると考えられる。
以上、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、この他にも種々の態様で実施可能である。