JP7176937B2 - 複合固体電解質の製造方法 - Google Patents
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Description
全固体電池の中でも全固体リチウムイオン電池は、リチウムイオンの移動を伴う電池反応を利用するためエネルギー密度が高いという点、また、正極と負極の間に介在する電解質として、有機溶媒を含む電解液に替えて固体電解質を用いるという点で注目されている。
特許文献1には、大気暴露時に硫化水素の発生を抑制し且つイオン伝導度の低下を抑制することが可能な硫化物固体電解質が開示されている。
本開示は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本開示の目的は、硫化物系固体電解質のイオン伝導度を向上させることができる複合固体電解質の製造方法を提供することである。
前記硫化物系固体電解質と、下記一般式(1)又は下記一般式(2)のいずれかで表される前記コーティング材と、を接触させ、前記硫化物系固体電解質の表面に前記コーティング材を付着させた前駆体を得る工程と、
前記前駆体を20℃以上、160℃未満の温度で加熱する工程と、を含むことを特徴とする、複合固体電解質の製造方法を提供する。
Ha-(C(R0)2)m-C(R0)3・・・一般式(1)
[一般式(1)中、mは0≦m≦12の整数、Haはハロゲン元素、R0は水素、フッ素、及びメチル基からなる群より選ばれる1種の基である。]
前記硫化物系固体電解質と、下記一般式(1)又は下記一般式(2)のいずれかで表される前記コーティング材と、を接触させ、前記硫化物系固体電解質の表面に前記コーティング材を付着させた前駆体を得る工程と、
前記前駆体を20℃以上、160℃未満の温度で加熱する工程と、を含むことを特徴とする、複合固体電解質の製造方法を提供する。
Ha-(C(R0)2)m-C(R0)3・・・一般式(1)
[一般式(1)中、mは0≦m≦12の整数、Haはハロゲン元素、R0は水素、フッ素、及びメチル基からなる群より選ばれる1種の基である。]
ハロゲン元素を官能基として有する有機化合物と硫化物系固体電解質とを接触させて加熱すると、硫化物系固体電解質を構成する「-S-Li+」の硫黄原子と有機化合物を構成する「-C-Ha」(Haはハロゲン元素)の炭素原子が結合(-S-C-)する反応が起こることで、硫化物系固体電解質の表面に有機化合物がコーティングされる。
一方で、有機化合物を構成する「-C-Ha」のハロゲン原子と硫化物系固体電解質を構成する「-S-Li+」のリチウム原子が反応し、硫化物系固体電解質の表面でハロゲン化リチウム(Li-Ha)が生成する。
そして、生成したハロゲン化リチウムが硫化物系固体電解質のイオン伝導度の向上に寄与すると考えられる。
複合固体電解質は、硫化物系固体電解質の表面がコーティング材で被覆されてなるものであり、硫化物系固体電解質の表面の少なくとも一部がコーティング材で被覆されていればよく、硫化物系固体電解質の表面の全体がコーティング材で被覆されていてもよい。
以下、各工程について順に説明する。
接触工程は、前記硫化物系固体電解質と、上記一般式(1)又は上記一般式(2)のいずれかで表される前記コーティング材と、を接触させ、硫化物系固体電解質の表面にコーティング材を付着させた前駆体を得る工程である。
接触方法は特に限定されず、乳鉢、遊星型ボールミル等を用いて混合することにより接触させてもよいし、硫化物系固体電解質をコーティング材に浸漬させることにより接触させてもよい。
硫化物系固体電解質における各元素のモル比は、原料における各元素の含有量を調製することにより制御できる。また、硫化物系固体電解質における各元素のモル比や組成は、例えば、ICP発光分析法で測定することができる。
硫化物系固体電解質の結晶状態は、例えば、硫化物系固体電解質に対してCuKα線を使用した粉末X線回折測定を行うことにより確認することができる。
本開示において、ガラスとは、結晶化度が20%未満の材料を意味し、ガラスセラミックスとは、結晶化度が20%以上80%未満の材料を意味し、結晶とは、結晶化度が80%以上の材料を意味する。
結晶化度は、硫化物系固体電解質についてNMR測定を行い、得られたNMRのスペクトルにおいて、下記式に示す、結晶に帰属されるピーク面積を全体のピーク面積で除した値に100を乗じた値とすることができる。
結晶化度(%)=(結晶に帰属されるピーク面積)÷(全体のピーク面積)×100
メカニカルミリングは、原料組成物を、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えばボールミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルが好ましく、特に遊星型ボールミルが好ましい。所望のガラスを効率良く得ることができるからである。
遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば200rpm~600rpmの範囲内、中でも250rpm~500rpmの範囲内であることが好ましい。
遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間~100時間の範囲内、中でも1時間~50時間の範囲内であることが好ましい。
ボールミルに用いられる容器および粉砕用ボールの材料としては、例えばZrO2およびAl2O3等を挙げることができる。
粉砕用ボールの径は、例えば1mm~20mmの範囲内である。
極性の非プロトン性液体としては、特に限定されるものではないが、例えばアセトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類等を挙げることができる。
また、無極性の非プロトン性液体としては、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等の鎖状エーテル類;テトロヒドロフラン等の環状エーテル類;クロロホルム、塩化メチル、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル類;酢酸エチル等のエステル類;フッ化ベンゼン、フッ化ヘプタン、2,3-ジハイドロパーフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン等のフッ素系化合物を挙げることができる。なお、上記液体の添加量は、特に限定されるものではなく、所望の硫化物系固体電解質を得ることができる程度の量であれば良い。
また、結晶は、例えば、ガラスを熱処理すること、原料組成物に対して固相反応処理すること等により得ることができる。
熱処理温度は、ガラスの熱分析測定により観測される結晶化温度(Tc)よりも高い温度であればよく、通常、195℃以上である。一方、熱処理温度の上限は特に限定されない。
ガラスの結晶化温度(Tc)は、示差熱分析(DTA)により測定することができる。
熱処理時間は、所望の結晶化度が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば1分間~24時間の範囲内であり、中でも、1分間~10時間の範囲内が挙げられる。
熱処理の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。
また、硫化物系固体電解質の粒子の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、下限が0.5μm以上であることが好ましく、上限が2μm以下であることが好ましい。
硫化物系固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。また、2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合してもよい。
なお、コーティング材としては、一般式(1)において片末端にハロゲン元素を官能基として有していれば、硫化物系固体電解質の表面においてハロゲン化リチウムを発生させることができ、硫化物系固体電解質のイオン伝導度を向上させることができると考えられ、一般式(1)においてmが0≦m≦12の整数の範囲内であるコーティング材であれば、硫化物系固体電解質のイオン伝導度を向上させることができると考えられる。
上記一般式(1)中において、Haはハロゲン元素であり、中でもCl、Br、又はIが好ましく、Br、又はIが特に好ましい。
R0は水素、フッ素、及びメチル基からなる群より選ばれる1種の基であればよい。
なお、当該置換基中、mは0≦m≦12の整数であればよく、硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度を向上させる観点から、mは0≦m≦7であってもよい。R0は水素、フッ素、及びメチル基からなる群より選ばれる1種の基であればよい。
また、ベンゼン環を構成する少なくとも一つの水素がハロゲン元素に置換していれば、コーティング材として用いたときに硫化物系固体電解質の表面においてハロゲン化リチウムを発生させることができ、硫化物系固体電解質のイオン伝導度を向上させることができると考えられる。そのため、一般式(2)で表されるコーティング材であれば、硫化物系固体電解質のイオン伝導度を向上させることができると考えられる。
加熱工程は、前記前駆体を20℃以上、160℃未満の温度で加熱する工程である。
加熱温度は、硫化物系固体電解質の表面にコーティング材を十分に付着させて、硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度を向上させる観点から、下限が20℃以上であればよく、25℃以上であってもよく、上限が160℃未満であればよく、100℃以下であってもよい。
加熱時間は、特に限定されないが、コーティング材と硫化物系固体電解質とを十分に混合する観点から、1~16時間であってもよい。
加熱時の雰囲気は、特に限定されないが、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
1.硫化物系固体電解質の合成
硫化物系固体電解質の原料として、Li2S(三津和化学工業社製)、P2S5(アルドリッチ社製)、LiI(高純度化学社製)、LiBr(高純度化学社製)を狙いの組成になるように秤量し、これらの原料を45mLのZrO2ポットにΦ5mmのZrO2ボールと共に投入した。
そしてこれらの原料を、回転数500rpm、20時間の条件でミリングすることにより硫化物ガラスの粉末を得た。
この硫化物ガラスの粉末500mgをペレット化し、石英管に入れ真空封入した。ペレットを200℃で3時間焼成後、乳鉢でペレットを粉砕することにより、組成が15LiBr・10LiI・75(0.75Li2S・0.25P2S5)で表される硫化物系固体電解質のガラスセラミックスの粉末を得た。
[接触工程]
上記で得た硫化物系固体電解質の粉末を300mg秤量した。コーティング材として、ヘプタデカフルオロ-n-オクチルブロミド(東京化成社製)を当該粉末に1ml添加した。そして、硫化物系固体電解質の粉末をヘプタデカフルオロ-n-オクチルブロミドに浸漬させることにより、前駆体を得た。このとき、硫化物系固体電解質の粉末の全てが、ヘプタデカフルオロ-n-オクチルブロミドに浸かるように容器を選定した。
[加熱工程]
その後、得られた前駆体を、100℃のホットプレート上で16時間加熱し、複合固体電解質を得た。
得られた複合固体電解質の粉末を100mg秤量し、1cm2の面積のペレット成形機を用いて6ton/cm2(≒588MPa)の圧力でプレスし、面積1cm2、厚さ約0.5mmのペレットを作製した。
得られたペレットに対して、インピーダンスアナライザ(VMP3、Bio-logic製)を用いた交流インピーダンス法による測定を行い、100kHzにおける抵抗値を求めた。そして当該抵抗値をペレットの厚さで補正することにより、25℃における複合固体電解質のイオン伝導度を求めた。結果を表1に示す。
上記「1.硫化物系固体電解質の合成」で得られた15LiBr・10LiI・75(0.75Li2S・0.25P2S5)を比較例1の硫化物系固体電解質として、上記「2.コーティング処理」を実施しなかった。比較例1の硫化物系固体電解質について、実施例1と同様の方法で、イオン伝導度を測定した。
上記「1.硫化物系固体電解質の合成」において、硫化物系固体電解質の原料として、Li2S(三津和化学工業社製)、P2S5(アルドリッチ社製)、LiCl(高純度化学社製)を狙いの組成になるように秤量し、硫化物ガラスのペレットの焼成温度は500℃とし、硫化物系固体電解質としてLi6PS5Clの結晶の粉末を得たこと以外は実施例1と同様の方法で複合固体電解質を得た。実施例2の複合固体電解質について、実施例1と同様の方法で、イオン伝導度を測定した。
Li6PS5Clを比較例2の硫化物系固体電解質として、上記「2.コーティング処理」を実施しなかった。比較例2の硫化物系固体電解質について、実施例1と同様の方法で、イオン伝導度を測定した。
上記「2.コーティング処理」の[加熱工程]において、前駆体を25℃のホットプレート上で16時間加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で複合固体電解質を得た。実施例3の複合固体電解質について、実施例1と同様の方法で、イオン伝導度を測定した。
上記「2.コーティング処理」の[加熱工程]において、前駆体を100℃のホットプレート上で1時間加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で複合固体電解質を得た。実施例4の複合固体電解質について、実施例1と同様の方法で、イオン伝導度を測定した。
上記「2.コーティング処理」の[加熱工程]において、前駆体を160℃のホットプレート上で16時間加熱したこと以外は実施例1と同様の方法で複合固体電解質を得た。比較例3の複合固体電解質について、実施例1と同様の方法で、イオン伝導度を測定した。
上記「2.コーティング処理」の[接触工程]において、コーティング材をヘプタデカフルオロ-n-オクチルブロミドの代わりにヘプタデカフルオロ-n-オクチルヨージドを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で複合固体電解質を得た。実施例5の複合固体電解質について、実施例1と同様の方法で、イオン伝導度を測定した。
上記「2.コーティング処理」の[接触工程]において、コーティング材をヘプタデカフルオロ-n-オクチルブロミドの代わりにヘプタンを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で複合固体電解質を得た。比較例4の複合固体電解質について、実施例1と同様の方法で、イオン伝導度を測定した。
実施例1の複合固体電解質及び比較例1の硫化物系固体電解質のそれぞれの表面のリチウム元素の量と臭素元素の量を、X線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により、XPS装置(アルバック・ファイ社製、PHI5000)を用いて分析した。結果を図1、図2に示す。
図1は、実施例1の複合固体電解質及び比較例1の硫化物系固体電解質のそれぞれの表面のリチウム元素の量を示すグラフである。図1において、実施例1の値は、比較例1の値を100としたときの比較例1に対する相対値である。
図1に示すように、実施例1のリチウム元素の量は、比較例1の値を100としたとき120であった。
図2は、実施例1の複合固体電解質及び比較例1の硫化物系固体電解質のそれぞれの表面の臭素元素の量を示すグラフである。図2において、実施例1の値は、比較例1の値を100としたときの比較例1に対する相対値である。
図2に示すように、実施例1の臭素元素の量は、比較例1の値を100としたとき129であった。
実施例1と比較例1及び実施例2と比較例2をそれぞれ比較すると、コーティング材で被覆された硫化物系固体電解質は、コーティング材で被覆されていない硫化物系固体電解質よりもイオン伝導度が向上することが実証された。また、硫化物系固体電解質の種類や結晶化度に関わらず、イオン伝導度の向上効果が得られた。
実施例1よりも高温で加熱工程を行った比較例3は、比較例1よりも僅かにイオン伝導度が向上していたが、所望のイオン伝導度は得られなかった。これは、添加したコーティング材である有機化合物が揮発し、当該有機化合物が硫化物系固体電解質と接触することができず、化学反応が進行しなかったためと考えられる。
したがって、適切な温度範囲内で加熱処理することで硫化物系固体電解質とコーティング材である有機化合物との反応速度を大きくすることができ、硫化物系固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができると考えられる。
図1、図2に示ようにリチウム元素の量と、臭素元素の量は、共に実施例1の方が比較例1よりも大きい。そのため、複合固体電解質の表面で発生するハロゲン化リチウムが、硫化物系固体電解質のイオン伝導度の向上に寄与していると考えられる。
Claims (1)
- 硫化物系固体電解質の表面がコーティング材で被覆されてなる複合固体電解質の製造方法であって、
前記硫化物系固体電解質としてLi 6 PS 5 Cl、又は、15LiBr・10LiI・75(0.75Li 2 S・0.25P 2 S 5 )と、前記コーティング材としてヘプタデカフルオロ-n-オクチルブロミド、又は、ヘプタデカフルオロ-n-オクチルヨージドと、を接触させ、前記硫化物系固体電解質の表面に前記コーティング材を付着させた前駆体を得る工程と、
前記前駆体を25℃以上、100℃以下の温度で1~16時間加熱する工程と、を含むことを特徴とする、複合固体電解質の製造方法。
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