JP7173007B2 - リボフラビン誘導体含有培地 - Google Patents
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Description
複数のボトルは、例えば、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、緩衝剤等から構成される基礎培地、タンパク質等から構成されるサプリメントからなり、サプリメントは種類によってはさらに2乃至それ以上に分別され収容される。これらは冷蔵品又は冷凍品として供される。
一般的に、幹細胞増殖用の培地は、基礎培地とサプリメント(1又は複数のサプリメント)を使用時に混合し完全培地とした後、液体で保管される。完全培地は通常、2週間程度の保管が可能とされている。しかしながら、実際、2週間保管した完全培地を使用した場合、細胞が生育しない場合があり、また、その原因も不明であった。
再生医療には、安定的に細胞を培養し供給できるシステムが不可欠であり、その為の培地及び該培地の製造方法の開発が求められている。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]リボフラビン誘導体を含む、幹細胞増殖用培地。
[2]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]記載の培地。
[3]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物(好ましくは、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物)である、上記[1]又は[2]記載の培地。
[4]幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の培地。
[5]リボフラビンを含まない、上記[1]~[4]のいずれかに記載の培地。
[6]アミノ酸、ビタミン、ミネラル及び緩衝剤を含む基礎培地並びに1又は複数のサプリメントを混合してなる培地であって、リボフラビン誘導体が基礎培地に含まれることを特徴とする、幹細胞増殖用培地。
[7]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[6]記載の培地。
[8]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物(好ましくは、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物)である、上記[6]又は[7]記載の培地。
[9]幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、上記[6]~[8]のいずれかに記載の培地。
[10]リボフラビンを含まない、上記[6]~[9]のいずれかに記載の培地。
[11]リボフラビン誘導体を含む、幹細胞増殖用培地の安定化剤。
[12]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[11]記載の剤。
[13]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物(好ましくは、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物)である、上記[11]又は[12]記載の剤。
[14]幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、上記[11]~[13]のいずれかに記載の剤。
[15]リボフラビン誘導体を添加することを特徴とする、幹細胞増殖用培地を安定化する方法。
[16]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[15]記載の方法。
[17]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物(好ましくは、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物)である、上記[15]又は[16]記載の方法。
[18]幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、上記[15]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]リボフラビン誘導体を添加することを特徴とする、幹細胞増殖用培地の製造方法。
[20]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[19]記載の方法。
[21]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物(好ましくは、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物)である、上記[19]又は[20]記載の方法。
[22]幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、上記[19]~[21]のいずれかに記載の方法。
[23]リボフラビン誘導体、アミノ酸、ビタミン、ミネラル及び緩衝剤を含む基礎培地並びに1又は複数のサプリメントを混合することを特徴とする、幹細胞増殖用培地の製造方法。
[24]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[23]記載の方法。
[25]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物(好ましくは、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物)である、上記[23]又は[24]記載の方法。
[26]幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、上記[23]~[25]のいずれかに記載の方法。
[27]上記[1]~[10]のいずれかに記載の培地中で培養することを特徴とする、幹細胞の培養方法。
[28]上記[1]~[10]のいずれかに記載の培地中で培養することを特徴とする幹細胞の製造方法。
[29]リボフラビン誘導体、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、緩衝剤及び1又は複数のサプリメントを含む、幹細胞増殖用培地。
[30]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[29]記載の培地。
[31]リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物(好ましくは、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物)である、上記[29]又は[30]記載の培地。
[32]幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、上記[29]~[31]のいずれかに記載の培地。
[33]リボフラビンを含まない、上記[29]~[32]のいずれかに記載の培地。
本発明はリボフラビン誘導体を含む、幹細胞増殖用培地(以下、本発明の培地とも称する)及びその製造方法を提供する。
本発明の幹細胞増殖用培地は、通常、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、緩衝剤等から構成される基礎培地に、タンパク質等の補助的な成分(サプリメントとも称する)を混合することで完全培地として調製/製造される。本発明の一実施態様として、基礎培地に1又は複数のサプリメントを混合することで得られる完全培地が挙げられる。複数のサプリメントを用いる場合、サプリメントの種類によっては互いに悪影響を及ぼす場合があり、別々に収容することが求められる(サプリメント1及び2、等)。本発明の別の一実施態様としては、基礎培地にサプリメント1及び2を混合することで得られる完全培地が挙げられる。
本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)は、好ましくは、リボフラビン誘導体、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、緩衝剤、1又は複数のサプリメントを含む。
本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)は、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、緩衝剤を含む基礎培地と、1又は複数のサプリメントとが、別々のボトル等の容器に封入され、これらが組み合わされた、幹細胞増殖用培地キットの形態で提供され、用時混合して完全培地として使用するものであってもよい。
リボフラビン誘導体がFMNの場合(塩及び/又は水和物の場合はFMNのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、好ましくは5nM~3μM;FADの場合(塩及び/又は水和物の場合はFADのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、好ましくは5nM~20μM;RTBの場合(塩及び/又は水和物の場合はRTBのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、好ましくは5nM~0.5μMである。
本発明の培地において、基礎培地中に鉄(Fe2+)を含む化合物(例えば硫酸第一鉄 七水和物)0.083~0.125mg/L(好ましくは約0.104mg/L)、及び亜鉛(Zn2+)を含む化合物(例えば硫酸亜鉛 七水和物)0.086~0.13mg/L(好ましくは約0.108mg/L)を含む場合において、リボフラビン誘導体がFMNの場合(塩及び/又は水和物の場合はFMNのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、特に好ましくは5nM~2.57μM;FADの場合(塩及び/又は水和物の場合はFADのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、特に好ましくは5nM~15.2μM;RTBの場合(塩及び/又は水和物の場合はRTBのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、特に好ましくは5nM~0.47μMである。
本発明の培地において、基礎培地中に鉄(Fe2+)を含む化合物(例えば硫酸第一鉄 七水和物)0.332~0.5mg/L(好ましくは約0.417mg/L)、及び亜鉛(Zn2+)を含む化合物(例えば硫酸亜鉛 七水和物)0.344~0.52mg/L(好ましくは約0.432mg/L)を含む場合において、リボフラビン誘導体がFMNの場合(塩及び/又は水和物の場合はFMNのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、特に好ましくは5nM~0.47μM;FADの場合(塩及び/又は水和物の場合はFADのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、特に好ましくは5nM~2.57μM;RTBの場合(塩及び/又は水和物の場合はRTBのフリー体無水和物に換算して)、本発明の幹細胞増殖用培地(完全培地)中、特に好ましくは5nM~0.47μMである。
基礎培地に含まれるアミノ酸の含有量は、例えば、基礎培地1Lに対して、1mg~100g程度である。
基礎培地に含まれるビタミンの含有量は、例えば、基礎培地1Lに対して、0.0001~100mg程度である。
基礎培地に含まれるミネラルの含有量は、例えば、基礎培地1Lに対して、0.0001~10000mg程度である。
本発明の培地(好ましくは基礎培地中)は、少なくとも、鉄及び/又は亜鉛(例えば、硫酸鉄又はその水和物(例えば硫酸第一鉄 七水和物)、及び/又は、硫酸亜鉛又はその水和物(例えば硫酸亜鉛 七水和物))を含むことが好ましい。
本発明の培地における、硫酸鉄又はその水和物の含有量は、DMEM/F-12の硫酸鉄又はその水和物の含有量に対して、好ましくは5~500mol%、より好ましくは10~150mol%、さらに好ましくは20~30mol%である。
本発明の培地における、硫酸亜鉛又はその水和物の含有量は、DMEM/F-12の硫酸亜鉛又はその水和物の含有量に対して、好ましくは5~500mol%、より好ましくは10~150mol%、さらに好ましくは20~30mol%である。
本発明の培地における、硫酸鉄又はその水和物の含有量は、硫酸第一鉄 七水和物の場合、基礎培地1Lに対して、好ましくは0.021~2.085mg、より好ましくは0.042~0.626mg、さらに好ましくは0.083~0.125mgLである。
本発明の培地における、硫酸亜鉛又はその水和物の含有量は、硫酸亜鉛 七水和物の場合、基礎培地1Lに対して、好ましくは0.022~2.160mg、より好ましくは0.043~0.648mg、さらに好ましくは0.086~0.130mgである。
基礎培地に含まれる緩衝剤の含有量は、例えば、基礎培地1Lに対して、0.001~10000mg程度である。
本発明の培地において、サプリメントの量は、例えば、基礎培地100重量部に対して、1~50重量部程度である。
幹細胞増殖用培地は通常、基礎培地及びサプリメント(1又は複数のサプリメント)から構成され、使用時に混合して液体の完全培地として調製される。保管後の完全培地は、その細胞増殖における性能が劣化しているが、リボフラビン誘導体を該培地中に添加することによって、当該培地の保管後の劣化を防ぐことができる。本明細書中、保管後の完全培地の「劣化」とは、保管前(例、調製直後)の培地で細胞を培養した場合に得られる細胞増殖の程度に比べてその程度が減少していることを意味する。リボフラビン誘導体を添加することを特徴とする、幹細胞増殖用培地を安定化する方法(以下、本発明の安定化方法とも称する)において、添加するリボフラビン誘導体としては、上記1.幹細胞増殖用培地で用いたものと同様のものが挙げられる。リボフラビン誘導体は、完全培地に添加しても基礎培地に添加してもよいが好ましくは基礎培地に添加する。本発明の安定化方法において添加するリボフラビン誘導体の量は、幹細胞増殖用培地の液体保管による劣化が抑制できる限り特に限定されないが、通常、基礎培地に対して、6nM~16μM、好ましくは6nM~3μM、より好ましくは6nM~0.6μMとなるように添加される。本発明の安定化方法において添加するリボフラビン誘導体の量は、幹細胞増殖用培地(完全培地)中5nM~500μM、好ましくは5nM~100μM、特に好ましくは5nM~20μMとなる量で添加される。基礎培地あるいは完全培地への添加をより簡便に実施するために、予め所定の濃度でリボフラビン誘導体を含む幹細胞増殖用培地の安定化剤(以下、本発明の安定化剤とも称する)を調製しておいてもよい。本発明の安定化剤は、有効成分としてリボフラビン誘導体を含んでいれば、その他の成分を含んでいても含んでいなくてもよい。取扱いのし易さ、保管安定性等の観点から、加えて培地に添加して用いる点において各種添加剤が含まれていてもよい。各種添加剤としては自体公知のものが用いられるが培地構成成分の1乃至2種以上とともに製剤化することもできる。
本発明の安定化剤の剤型は特に限定されず、溶液状(懸濁液、乳液等の剤型を含む)、固形状(粉末状等の剤型を含む)、半固形状(ゲル状等の剤型を含む)であり得る。溶液状の本発明の安定化剤は、液体培地への添加が容易であり好ましい。固形状、半固形状の本発明の安定化剤は取扱いのし易さ、保管安定性等の観点から好ましい。固形状、半固形状の本発明の安定化剤はそのまま培地に添加しても、必要に応じ培地への添加前に溶解してから用いることもできる。
3.本発明の培養方法
本発明の培養方法は、幹細胞(好ましくは、iPS細胞)を本発明の培地で培養する工程を含む。
幹細胞の培養に用いられる培養器は、幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、及びローラーボトルが挙げられ得る。
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
本実施例では、DMEM/F-12培地中の成分を改変したModified DMEM/F-12培地の保管安定性について、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いて評価した。
Modified DMEM/F-12培地の組成を表1に記載する。なお、表1の組成から、FMNを除いた培地を、Modified DMEM/F-12(FMN-)とする。これら培地組成の差異の抜粋を表2に示した。
(i)RFVをリボフラビン誘導体であるフラビンモノヌクレオチド(FMN)・Na塩(リボフラビン5’-モノフォスファートナトリウム(東京化成工業株式会社、R0023、以下同じ))に変更し、且つ濃度を20mol%に低減した。
(ii)Fe3+(硝酸第二鉄 九水和物)を0mol%とした。
(iii)Fe2+(硫酸第一鉄 七水和物)を25mol%に低減した。
(iv)Zn2+(硫酸亜鉛 七水和物)の含量を25mol%に低減した。
Modified DMEM/F-12をEssential8(Thermo Fisher SCIENTIFIC社:A1517001)、TeSR-E8(STEMCELL Technologies社:#05940)、TeSR2(STEMCELL Technologies社: #05860)の各サプリメントと混合し完全培地を調製した。その培地をガラス扉の冷蔵庫に非遮光下(蛍光灯照射時間10hr/日)で保管後、培養に用いることにより培地の保管安定性を検討した。
以下の各実施例において、「Essential8のサプリメント」は、Essential8 (Thermo Fisher SCIENTIFIC社:A1517001)のサプリメントであり、「TeSR-E8のサプリメント」は、TeSR-E8 (STEMCELL Technologies社: #05940)のサプリメントであり、「TeSR2のサプリメント」は、TeSR2 (STEMCELL Technologies社: #05860)のサプリメントである。
RFVがiPS細胞培養時に必須な成分であるか検討を行った。基礎培地(A液:Modified DMEM/F-12(FMN-))にEssential8のサプリメント(B液)を混合して完全培地を調製した。完全培地にRFVを最終濃度0.00、0.0176、0.044、0.088、0.176mg/Lになるように添加した培地を調製した(表3のNo.1~No.5)。合わせて、低減したミネラル成分の影響を把握するため、Fe2+とZn2+を100mol%になるように添加した培地の調製も実施した(表3のNo.6~No.10)。
培地を調製後、マトリゲルをコートした12ウェルプレートを用意し、1ウェルあたり10,000個の細胞をシングルセルの状態で播種した。細胞を播種した当日に上記にて調製した培地を用いて評価を行った。培養期間は7日間とし、培養開始7日目にIncuCyte Zoom(エッセンバイオサイエンス社)を用い、細胞増殖の指標として、細胞被覆率を計測した。播種時には、最終濃度10μMのY-27632(和光純薬工業社:036-24023)を添加した培地を使用し、翌日以降の評価においては、Y-27632を添加していない培地で培養した。
結果を図1、2に示した。いずれのFe2+とZn2+濃度においても、RFV0.00mg/Lでは細胞が死滅した。細胞培養にはRFVが必須であることが示された。
DMEM/F-12を改変したModified DMEM/F-12 の効果を検討した。DMEM/F-12およびModified DMEM/F-12を以下の通り組み合わせ、基礎培地(A液)及びサプリメント(Essential8のサプリメント(B液)又はTeSR-E8のサプリメント(B液、C液))からなる完全培地を調製した(表4)。各培地を0、2、5週間冷蔵にて非遮光下で保管後、iPS細胞の増殖能を計測した。
2週間(図3上段)又は5週間(図3下段)保管後の増殖能検討結果を図3に示した。増殖能検討結果より基礎培地をModified DMEM/F-12にすると、5週間保管後も培地の安定性を維持させることが可能であることが示された。
Fe2+、Zn2+、およびRFVが培地の保管安定性にどの程度寄与するのか検討を行った。Modified DMEM/F-12(FMN-)に、各成分を添加した完全培地をそれぞれ調製した(表5)。各培地を0、2週間冷蔵にて非遮光下で保管後、iPS細胞の増殖能を検討した。
*2 No.3には、Fe2+として、硫酸第一鉄 七水和物をModified DMEM/F-12(FMN-)に添加した。mol%とは、DMEM/F-12に対する相対モル濃度であり、硫酸第一鉄 七水和物の100mol%は0.417 mg/Lである(表2)。
*3 No.4には、Zn2+として、硫酸亜鉛 七水和物をModified DMEM/F-12(FMN-)に添加した。mol%とは、DMEM/F-12に対する相対モル濃度であり、硫酸亜鉛 七水和物の100mol%は0.432 mg/Lである(表2)。
*4 No.5には、RFV誘導体に加え、RFVをModified DMEM/F-12(FMN-)に添加した。mol%とは、DMEM/F-12に対する相対モル濃度であり、RFVの80mol%とは、0.176 mg/L(0.58μM)である(表2)。
増殖能検討結果を図4に示した。RFVが含まれる培地では、2週間保管後に細胞が生育できなかったことから、保管安定性低下の要因としてリボフラビンの存在が考えられた。一方、本実験では、Fe2+、Zn2+は培地の保管安定性低下には寄与しないことが確認された。
RFVの代わりにFMNが含有されている培地として、L-15培地があり、腫瘍細胞など増殖の速い細胞の増殖用として市販されている。本培地が幹細胞用培地として使用可能であるか検討を行った。基礎培地としてL-15(和光純薬工業(株):128-06075)を、サプリメントとしてEssential8のサプリメントを用いて完全培地を調製し、調製後すみやかにiPS細胞の増殖能を検討した。マトリゲルまたはiMatrix-511をコートした6ウェルプレートを用意し、1ウェルあたり13,000個の細胞をシングルセルの状態で播種した。細胞を播種した当日に上記にて調製した培地を用いて評価を行った。培養期間は7日間とし、培養開始7日目にIncuCyte Zoomにて細胞被覆率を計測した。播種時には、最終濃度10μMのY-27632を添加した培地を使用し、翌日以降の評価においては、Y-27632を添加していない培地で培養した。
マトリゲル培養結果を図5上段に、iMatrix-511培養結果を図5下段に示す。両培養においても保管の有無に関わらずiPS細胞の培養はできなかった。
RFV誘導体であるFAD及びRTBの有効性を検討するとともに、FMN、FAD及びRTBの有効濃度範囲を検討した。基礎培地としてModified DMEM/F-12(FMN-)を用い、サプリメントとしてEssential8またはTeSR2のサプリメントを用いて完全培地を調製した。完全培地にRFV、FMN(リボフラビン5’-モノフォスファートナトリウム)、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物(東京化成工業株式会社、F0014、以下同じ))及びRTB(四酪酸リボフラビン、和光純薬工業(株)、185-00861)をそれぞれ最終濃度0.47~15.2μM(塩及び/又は水和物の場合はフリー体無水和物に換算した濃度)になるように添加した。Fe2+とZn2+が100mol%になるように添加した培地についても調製した。
各培地を2週間冷蔵にて非遮光下で保管後、iPS細胞の増殖能を検討した。マトリゲルをコートした12ウェルプレートを用意し、1ウェルあたり10,000個の細胞をシングルセルの状態で播種した。細胞を播種した当日に上記にて調製した培地を用いて評価を行った。培養期間は7日間とし、培養開始7日目にIncuCyte Zoomにて細胞被覆率を計測した。播種時には、最終濃度10μMのY-27632を添加した培地を使用し、翌日以降の評価においては、Y-27632を添加していない培地で培養した。
Essential8のサプリメントを用いた培地の培養結果を表6と表7に、TeSR2のサプリメントを用いた培地の培養結果を表8と表9に示す。いずれの培地においても、FMN、FAD及びRTBともにRFVよりも保管安定性が高かった。またFMN及びRTBよりもFADの方が、培養可能な濃度は高かった。Fe2+とZn2+の濃度は、低い方が保管安定性が高かった。
*Fe2+とZn2+は25mol%
基礎培地:Modified DMEM/F-12(FMN-)、サプリメント:Essential8のサプリメント
*Fe2+とZn2+は100mol%
基礎培地:Modified DMEM/F-12(FMN-)、サプリメント:Essential8のサプリメント
*Fe2+とZn2+は25mol%
基礎培地:Modified DMEM/F-12(FMN-)、サプリメント:TeSR2のサプリメント
*Fe2+とZn2+は100mol%
基礎培地:Modified DMEM/F-12(FMN-)、サプリメント:TeSR2のサプリメント
RFV誘導体であるFADの有効濃度範囲を検討するため、実施例5の未実施部分について評価した。基礎培地としてModified DMEM/F-12(FMN-)を用い、サプリメントとしてTeSR2のサプリメントを用いて完全培地を調製した。完全培地にFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム水和物)を最終濃度0.47~15.2μMになるように添加した。Fe2+とZn2+が100mol%になるように添加した培地について調製した。
各培地を2週間冷蔵にて非遮光下で保管後、iPS細胞の増殖能を検討した。マトリゲルをコートした12ウェルプレートを用意し、1ウェルあたり10,000個の細胞をシングルセルの状態で播種した。細胞を播種した当日に上記にて調製した培地を用いて評価を行った。培養期間は7日間とし、培養開始7日目にIncuCyte Zoomにて細胞被覆率を計測した。播種時には、最終濃度10μMのY-27632を添加した培地を使用し、翌日以降の評価においては、Y-27632を添加していない培地で培養した。
培養結果を表10に示す。Fe2+とZn2+が100mol%では、0.47~2.57μMで培養可能であった。
*Fe2+とZn2+は100mol%
基礎培地:Modified DMEM/F-12(FMN-)、サプリメント:TeSR2のサプリメント
Claims (16)
- リボフラビン誘導体を含む、幹細胞増殖用培地であって、
リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種であり、及び
幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、
幹細胞増殖用培地。 - リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物である、請求項1記載の培地。
- リボフラビンを含まない、請求項1又は2記載の培地。
- アミノ酸、ビタミン、ミネラル及び緩衝剤を含む基礎培地並びに1又は複数のサプリメントを混合してなる培地であって、リボフラビン誘導体が基礎培地に含まれることを特徴とする、幹細胞増殖用培地であって、
リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種であり、及び
幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、
幹細胞増殖用培地。 - リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物である、請求項4記載の培地。
- リボフラビンを含まない、請求項4又は5記載の培地。
- リボフラビン誘導体を含む、幹細胞増殖用培地の安定化剤であって、
リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種であり、及び
幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、
幹細胞増殖用培地の安定化剤。 - リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物である、請求項7記載の剤。
- リボフラビン誘導体を添加することを特徴とする、幹細胞増殖用培地を安定化する方法であって、
リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種であり、及び
幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、
幹細胞増殖用培地を安定化する方法。 - リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物である、請求項9記載の方法。
- リボフラビン誘導体を添加することを特徴とする、幹細胞増殖用培地の製造方法であって、
リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種であり、及び
幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、
幹細胞増殖用培地の製造方法。 - リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物である、請求項11記載の方法。
- リボフラビン誘導体、アミノ酸、ビタミン、ミネラル及び緩衝剤を含む基礎培地並びに1又は複数のサプリメントを混合することを特徴とする、幹細胞増殖用培地の製造方法であって、
リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド、フラビンモノヌクレオチド、四酪酸リボフラビン、それらの塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種であり、及び
幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、
幹細胞増殖用培地の製造方法。 - リボフラビン誘導体が、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩、或いは、その水和物である、請求項13記載の方法。
- 請求項1~6のいずれか1項に記載の培地中で培養することを特徴とする、ES細胞又はiPS細胞の培養方法。
- 請求項1~6のいずれか1項に記載の培地中で培養することを特徴とする、ES細胞又はiPS細胞の製造方法。
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