本発明の一実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」をそれぞれ意味する。
本発明は、(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満であるアクリル系樹脂及び(B)アクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%含有するアクリル系樹脂組成物から成る延伸フィルムであって、100℃環境下(乾熱)120時間経過後の寸法変化率の絶対値が0.7%以下であり、85℃、85%RH雰囲気下(湿熱)に120時間静置した際の寸法変化率の絶対値が0.5%以下であり、かつMIT往復折り曲げ回数が150回以上であることを特徴とする。
(延伸フィルム)
本発明の延伸フィルムは、(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満であるアクリル系樹脂(以下、(A)アクリル系樹脂ということもある)及び(B)アクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%含有するアクリル系樹脂組成物から成る延伸フィルムである。ここで、(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満であるアクリル系樹脂及び(B)アクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%を含むアクリル系樹脂をアクリル系樹脂組成物と定義する。
本発明の延伸フィルムは、100℃環境下120時間経過後の寸法変化率および85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の寸法変化率が改善されており、MIT耐屈曲性に優れている。
100℃環境下120時間経過後の寸法変化率の絶対値としては、延伸フィルムの長手方向(MD方向)、および幅方向(TD方向)の平均が0.7%以下であり、好ましくは0.6%以下、より好ましくは0.5%以下である。0.7%以下となると、偏光子に貼合した際に液晶表示装置のコントラスト低下や周辺むらを抑制できる。中でも寸法変化率の絶対値は、延伸フィルムの長手方向(MD方向)、および幅方向(TD方向)のいずれも0.7%以下が好ましく、0.6%以下がより好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
一方、上記寸法変化率の絶対値の下限としては、特に限定されず、上記寸法変化率の絶対値は、延伸フィルムの長手方向(MD方向)、および幅方向(TD方向)のいずれも、例えば、0.1%以上でよい。上記寸法変化率の絶対値が0.1%以上であると、偏光子に貼合した際に、偏光子自体が収縮しても、その収縮に延伸フィルムが追随しやすい。ここでの100℃の雰囲気下に120時間静置した際の寸法変化率は、延伸フィルムを100℃に設定した環境試験機中で120時間静置した前後の寸法変化を、三次元測定器を用いて測定することができる。
85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の寸法変化率の絶対値としては、延伸フィルムの長手方向(MD方向)、および幅方向(TD方向)の平均が0.5%以下、好ましくは0.4%以下である。0.5%以下となると、偏光子に貼合した際に液晶表示装置のコントラスト低下や周辺むらを抑制できる。中でも、寸法変化率の絶対値は、延伸フィルムの長手方向(MD方向)、および幅方向(TD方向)のいずれも0.5%以下が好ましく、0.4%以下がより好ましい。
一方、上記寸法変化率の絶対値の下限としては、特に限定されず、上記寸法変化率の絶対値は、延伸フィルムの長手方向(MD方向)、および幅方向(TD方向)のいずれも、例えば、0.1%以上でよい。上記寸法変化率の絶対値が0.1%以上であると、偏光子に貼合した際に、偏光子自体が収縮しても、その収縮に延伸フィルムが追随しやすい。ここでの85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の寸法変化率は、延伸フィルムを85℃、85%RHに設定した環境試験機中で120時間静置した前後の寸法変化を、三次元測定器を用いて測定することができる。
実使用上、本発明の延伸フィルムは他のフィルムと積層されて用いることが多く、乾熱および湿熱条件下での寸法変化率が小さいと、積層された他フィルムとの間に生じる寸法変化率の差から生じる歪や反りの発生を抑制することができる。なお、「寸法変化率が小さい(大きい)」等とは、「寸法変化率の絶対値が小さい(大きい)」等を意味するものとする。
ここで、延伸フィルムの機械的特性を改善させるために、(B)アクリル系ゴム粒子とともにアクリル系熱可塑性エラストマーも検討されている。しかしながら、本発明者らの検討の結果、アクリル系熱可塑性エラストマーを用いた場合には、製膜フィルムにおいてアクリル系熱可塑性エラストマーがディスク状からロッド状に長く伸びた分散形状となることが多く、(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満のアクリル系樹脂との界面が増大し、(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満のアクリル系樹脂とアクリル系熱可塑性エラストマーの界面破壊が起こり易くなり、結果として剥離強度が低下したり、偏光子に貼合したのち断裁する際に、クラックが生じたり、エッジ部分が欠け落ちるという問題が生じうる。本発明の(B)アクリル系ゴム粒子を用いた場合には、熱可塑性エラストマーを用いた場合と比較して分散形状が球形に近くなり、(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満のアクリル系樹脂との界面積をより小さく抑えることが可能となり、上記課題を解決しうる。特に延伸温度を高く設定すると配向が抑えられ、(B)アクリル系ゴム粒子の分散形状をより球形に近くすることが可能となり好ましい。
本発明の延伸フィルムは、当該フィルムの片面若しくは両面に易接着層を設けることが可能である。易接着層を設けることにより、例えば、偏光子保護フィルムとして用いる場合、接着剤を介して偏光子に貼り合わせる際に、接着剤による偏光子保護フィルムと偏光子との密着性を補強することができる。また未延伸フィルムに易接着層を設けて、その後延伸することにより、易接着層を有する延伸フィルムを得ることも可能である。
本発明に用いる易接着層としては、特開2009-193061号公報、特開2010-55062号公報などに記載の公知の技術を用いて形成させることができる。即ち、例えば、カルボキシル基を有するウレタン樹脂と架橋剤とを含む易接着剤組成物で形成させることができる。ウレタン樹脂を用いることにより、偏光子保護フィルムと偏光子の密着性に優れた易接着層が得られうる。易接着剤組成物は、その作業性の観点及び、環境保護の観点から好ましくは、水系である。
本発明の延伸フィルムの内部へイズは、1.0%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下が良い。内部へイズが1.0%より低いことにより、液晶パネルに実装した時の品質が良好になる。
本発明の延伸フィルムでは、MIT耐屈曲試験における切断するまでのMIT往復折り曲げ回数(以下、折り曲げ回数とも記載する)が改善される。折り曲げ回数としては、延伸フィルムの長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)の平均が150回以上、好ましくは200回以上が良い。150回以上になると、長尺製膜の工程による破断のリスクや、液晶パネルへ貼合したのちのリワーク性の点で良好である。中でも、折り曲げ回数は、延伸フィルムの長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)のいずれも150回以上が好ましく、200回以上がより好ましい。本発明による延伸フィルムにおける一軸延伸もしくは二軸延伸は任意で実施できる。ただし二軸延伸を施すことで、MIT耐屈曲試験における切断するまでのMIT往復折り曲げ回数を増大させることが出来るため、より好ましい。
上記(B)アクリル系ゴム粒子を含まないアクリル系樹脂からなるフィルムであっても、延伸条件等の加工方法によっては、MIT耐屈曲試験においてMIT往復折り曲げ回数が150回以上を実現することは可能であるが、その際の延伸条件は延伸温度を下げる方向であったり、延伸倍率を上げる方向であることから、延伸工程においての破断リスクが高くなる。本発明によれば、通常よりも高い延伸温度で延伸した場合であっても、(B)アクリル系ゴム粒子の効果によりMIT耐屈曲試験における折り曲げ回数150回以上を実現でき、延伸時の破断のリスクが低く、且つ、寸法変化が小さく、透明性の良好なアクリル樹脂組成物による延伸フィルムを得ることが可能となるため、偏光子保護フィルムとして好適に使用することができる。
ここでのMIT耐屈曲試験は、MIT耐柔疲労試験機を用いて、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが0.38mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175回/分、荷重1.96Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数と定義する。
本発明の延伸フィルムのガラス転移温度は100℃以上であり、好ましくは105℃以上であり、より好ましくは110℃以上である。ここでのガラス転移温度は、アクリル系樹脂およびアクリル系樹脂組成物10mgを用いて、示差走査熱量計を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定したものである。
本発明の(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満であるアクリル系樹脂の平均屈折率は1.48以上であることが好ましい。(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満であるアクリル系樹脂と、(B)アクリル系ゴム粒子との屈折率差が0.02以下であることも好ましく、0.01以下であることがより好ましい。本発明の延伸フィルムは、(B)アクリル系ゴム粒子が、(A)アクリル系樹脂中に分散した状態であることから、アクリル系樹脂と前記(B)アクリル系ゴム粒子との屈折率差が小さくなるほど、延伸フィルムの内部へイズが低下する傾向にある。ここでの延伸フィルムの平均屈折率は、例えばアッベ屈折計を用いて測定することができる。
ここでの内部へイズは、液体測定用ガラスセルに得られたフィルムを入れ、その周辺に純水を充填した状態のガラスセルを対象にヘイズメーター(濁度計)を用い測定したヘイズ値と定義する。
((A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満であるアクリル系樹脂)
本発明では、(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満であるアクリル系樹脂を使用する。アクリル系樹脂のガラス転移温度が110℃以上120℃未満であると、(B)アクリル系ゴム粒子と混合したアクリル系樹脂組成物からなる延伸フィルムのガラス転移温度が高くなり、耐熱性に優れたフィルムを得ることが出来る。耐熱性をより向上させる観点からは、(A)アクリル系樹脂のガラス転移温度は115℃以上であることが好ましく、116℃以上であることがより好ましい。
ここで、(A)ガラス転移温度が110℃以上120℃未満であるアクリル系樹脂を構成するモノマーとしては、メタクリル酸メチル等を挙げることができる。アクリル系樹脂中のモノマーとしてメタクリル酸メチル単位を85重量%以上有することが好ましく、90重量%以上有することがより好ましく、95重量%以上有することが特に好ましい。
アクリル系樹脂を構成するモノマーとして、メタクリル酸メチルを用い、メタクリル酸メチルの量を85重量%以上とすることにより、環化処理等を行わずともガラス転移温度を110℃以上と高くすることができる。このため、耐熱性に優れ、生産の簡便性やコストの点で好ましく、また湿気に対する品質安定性の観点で好ましい。
メタクリル酸メチル以外にも、例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなども用いてもよい。
また、上記モノマー(単量体)以外にも、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、スチレンなどの芳香族ビニル系モノマーを共重合することも可能である。
上記メタクリル酸メチル樹脂の構造は、特に限定されるものではなく、リニアー(鎖状)ポリマー、ブロックポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、及び架橋ポリマー等のいずれであってもよい。
ブロックポリマーの場合、A-B型、A-B-C型、A-B-A型、及びこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。
ポリメタクリル酸メチルの製造方法としては、特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化-縣濁重合法、縣濁重合法、塊状重合法、溶液重合法などが適用可能であるが、光学分野に用いる場合、不純物が少ないとの観点から、塊状重合法、溶液重合法が特に好ましい。例えば、特開昭56-8404、特公平6-86492、特公平7-37482、あるいは特公昭52-32665などに記載の方法に準じて製造できる。
((B)アクリル系ゴム粒子)
アクリル系ゴム粒子としては、ゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体(硬質重合体ともいう)からなるシェル層とを有するコアシェル型弾性体が好ましい。コア層を構成するゴム状重合体のTgは20℃以下が好ましく、-60℃~20℃がより好ましく、-60℃~10℃がさらに好ましい。コア層を構成するゴム状重合体のTgが20℃を超えると、アクリル系樹脂組成物の機械的強度の向上が十分ではないおそれがある。シェル層を構成するガラス状重合体(硬質重合体)のTgは、50℃以上が好ましく、50℃~140℃がより好ましく、60℃~130℃がさらに好ましい。シェル層を構成するガラス状重合体のTgが50℃より低いと、アクリル系樹脂組成物の耐熱性が低下するおそれがある。
上記コアシェル型弾性体におけるコア層の含有割合は、好ましくは30重量%~95重量%、より好ましくは50重量%~90重量%である。上記コアシェル型弾性体中におけるシェル層の含有割合は、好ましくは5重量%~70重量%、より好ましくは10重量%~50重量%である。上記コアシェル型弾性体には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なその他の成分を含んでいても良い。
上記コア層を構成するゴム状重合体を形成する重合性モノマーとしては、任意の適切な重合性モノマーを使用してもよい。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーは、(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、(メタ)アクリル酸エステルは50重量%以上含まれることが好ましく、50重量%~99.9重量%含まれることがより好ましく、60重量%~99.9重量%含まれることがさらに好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ラウロイル、(メタ)アクリル酸ステアリル等、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル等、アルキル基の炭素数が2~10の(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソノニルがより好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーは、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーを含むことが好ましい。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー中、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーは0.01重量%~20重量%含まれることが好ましく、0.1重量%~20重量%含まれることがより好ましく、0.1重量%~10重量%含まれることがさらに好ましく、0.2重量%~5重量%含まれることが特に好ましい。
上記分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン等の芳香族ジビニルモノマー、ジ(メタ)アクリル酸エチレン、ブチレングリコールジ(メタ)アクリル酸ブチレン、ジ(メタ)アクリル酸ヘキシレン、ジ(メタ)アクリル酸オリゴエチレン、ジ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン等のポリ(メタ)アクリル酸アルカンポリオール等や、ジ(メタ)アクリル酸ウレタン、ジ(メタ)アクリル酸エポキシ等を挙げることができる。また、異なる反応性のビニル基を有する多官能性モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、イタコン酸ジアリル等を挙げることができる。これらのなかでも、ジメタクリル酸エチレン、ジアクリル酸ブチレン、メタクリル酸アリルが好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーには、上記(メタ)アクリル酸エステルおよび分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーと共重合可能な他の重合性モノマーを含んでも良い。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー中、他の重合性モノマーは0重量%~49.9重量%含まれることが好ましく、0重量%~39.9重量%含まれることがより好ましい。
上記他の重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル、芳香族ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、シアン化ビニリデン、メタクリル酸メチル、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート等を挙げることができる。また、他の重合性モノマーとしては、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を有するモノマーでもよい。具体的には、エポキシ基を有するモノマーとして、例えば、メタクリル酸グリシジル等を挙げることができ、カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができる。水酸基を有するモノマーとして、例えば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル等を挙げることができる。アミノ基を有するモノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記シェル層を構成するガラス状重合体を形成する重合性モノマーとしては、任意の適切な重合性モノマーを使用してもよい。
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むことが好ましい。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種が50重量%~100重量%含まれることが好ましく、60重量%~100重量%含まれることがより好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等、アルキル基の炭素数が1~4のものが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等を挙げることができ、これらのなかでも、スチレンが好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーを含んでいても良い。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーは0重量%~10重量%含まれることが好ましく、0重量%~8重量%含まれることがより好ましく、0重量%~5重量%含まれることがさらに好ましい。
上記分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーの具体例としては、前述したものと同様のものを挙げることができる。
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、上記(メタ)アクリル酸エステルおよび分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーと共重合可能な他の重合性モノマーを含んでいても良い。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、他の重合性モノマーは0重量%~50重量%含まれることが好ましく、0重量%~40重量%含まれることがより好ましい。
上記他の重合性モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、シアン化ビニリデン、前述したもの以外の(メタ)アクリル酸エステル、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート等を挙げることができる。また、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を有するものでもよい。エポキシ基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート等を挙げることができ、カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができ、水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシメタクリレート、2-ヒドロキシアクリレート等を挙げることができ、アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
本発明におけるコアシェル型弾性体の製造方法としては、コアシェル型の粒子を製造し得る任意の適切な方法を採用することができる。
例えば、コア層を構成するゴム状重合体を形成する重合性モノマーを懸濁または乳化重合させて、ゴム状重合体粒子を含む懸濁または乳化分散液を製造し、続いて、該懸濁液または乳化分散液にシェル層を構成するガラス状重合体を形成する重合性モノマーを加えてラジカル重合させ、ゴム状重合体粒子の表面をガラス状重合体が被覆してなる多層構造を有するコアシェル型弾性体を得る方法が挙げられる。ここで、ゴム状重合体を形成する重合性モノマー、および、ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、一段で重合しても良いし、組成比を変更して2段以上で重合してもよい。
本発明の延伸フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物中の(B)アクリル系ゴム粒子の分散形状は、特に制限は無いが、成形方法や延伸方法によって球状、扁平状、ディスク状でありうる。分散粒径については特に制限は無いが、いずれの分散形状においても、長軸方向及び短軸方向の平均分散長は共に10nm~500nmであることが好ましく、100nm~400nmであることがより好ましく、150nm~300nmであることがさらに好ましい。平均分散長が10nm以下となるとアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度が低下する傾向にある。平均分散長が500nmを超えると、分散状態が不均一になり、ヘイズが増大したり、ピール強度及びMIT往復折り曲げ回数が低下する傾向にある。
前記(B)アクリル系ゴム粒子の平均分散長は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて目視測定することが一般的である。
本発明のアクリル系フィルムの物性バランスを確保するためには、上記コアシェル型弾性体の構造を適宜制御することが望ましい。
上記コアシェル型弾性体の好ましい構造としては、例えば、(a)軟質の内層および硬質の外層を有し、上記内層が(メタ)アクリル系架橋重合体層を有するもの、(b)硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層を有し、上記内層が少なくとも一種の硬質重合体層からなり、上記中間層が(メタ)アクリル系架橋重合体層からなる軟質重合体を有するものなどが挙げられる。各層のモノマー種を適宜選択することによって、アクリル系樹脂組成物の諸物性(機械的特性、光学特性、配向複屈折や光弾性係数)を任意に制御することができる。「軟質」は、重合体のガラス転移温度が20℃未満であることが好ましく、「硬質」は、重合体のガラス転移温度が20℃以上であることが好ましい。
コアシェル型弾性体の更に好ましい構造の具体例としては、例えば、(i)多層構造粒子のシェル層がアクリル酸エステルを0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上含む非架橋のメタクリル樹脂であるもの、(ii)多層構造粒子のシェル層がアクリル酸エステルの含有量の異なる2段以上の多層からなり、トータルでアクリル酸エステルを1重量%以上含む非架橋のメタクリル樹脂であるもの、(iii)多層構造粒子のコア層が、有機過酸化物をレドックス型開始剤として使用して重合した、架橋メタクリル系樹脂からなる最内層粒子のラテックスの存在下に、過酸(過硫酸、過リン酸塩等)を熱分解型開始剤として使用しアクリル酸エステル、多官能性モノマー、適宜その他のモノマーを共重合してなる中間層を形成した多層構造を有するもの、等が例示される。このような構造を有することにより、本発明のアクリル系樹脂組成物中でコアシェル型弾性体が良好に分散しやすくなり、フィルムを形成した際に未分散や凝集による欠陥が少なく、強度、靭性、耐熱性、透明性、外観に優れ、さらに温度変化や応力による白化が抑制され、品質に優れたフイルムを得ることが出来る。
(アクリル系樹脂組成物)
本発明の延伸フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物中の、アクリル系ゴム粒子の含有量は、アクリル系樹脂組成物に対してアクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%含む。アクリル系ゴム粒子の含有量が1重量%未満であると、アクリル系樹脂組成物の機械的特性の向上が十分ではなく、50重量%を超えると、アクリル系樹脂組成物の耐熱性が低下したり、ヘイズが悪化するおそれがある。
アクリル系ゴム粒子の含有量は、アクリル系樹脂組成物に対してアクリル系ゴム粒子を2重量%~35重量%含有することが好ましく、3重量%~25重量%含有することがより好ましく、3重量%~20重量%含有することがさらに好ましく、3重量%~15重量%含有することが特に好ましい。
特に偏光子保護フィルムなどの光学フィルムとして延伸フィルムを用いる場合、アクリル系ゴム粒子が多すぎると、異物が増加する傾向にあるため、アクリル系ゴム粒子は少ない方が好ましい。一方で、少なくなりすぎると機械的強度の向上が不十分となる傾向がある。本発明では、通常よりも高温の条件で延伸した延伸フィルムを用いることにより、アクリル系ゴム粒子が少ない場合であっても寸法変化率の増大を抑制しつつ、機械的強度を向上させることが可能となる。
また本発明の延伸フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましく、105℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることが特に好ましい。ここでのガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC、(株)SII製、DSC7020)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により解析した値である。ガラス転移温度が100℃以上であると、偏光子保護フィルムに代表される液晶パネルを構成するフィルムとして積層したときに寸法変化が小さく、また寸法変化に伴う積層フィルムの反りが小さくかつ位相差変化が小さくなり、実使用上の不具合が少ない。
アクリル系樹脂組成物には、必要に応じ、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブルーライトカットを目的とした特定波長吸収剤もしくは特定波長吸収色素、ラジカル捕捉剤などの耐光性安定剤や、位相差調整剤、触媒、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、抗菌・脱臭剤、蛍光増白剤、相溶化剤等を単独または2種以上組み合わせて、本発明の目的を損なわない範囲であれば添加してもよい。
紫外線吸収剤については、例えば、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾオキサジン系化合物およびオキサジアゾール系化合物等が挙げられる。これらの中でも添加量に対する紫外線吸収性能や溶融押出をする場合、揮発性の観点でトリアジン系化合物が好ましい。
位相差調整剤については、負の位相差を付与する場合は、例えばスチレン骨格を持つ化合物であればよく、アクリロニトリル-スチレン共重合体が例示される。
(A)アクリル系樹脂と(B)アクリル系ゴム粒子の混合方法に関しては、特に限定されなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。例えば、重量式フィーダーを用いて押出機に供給し溶融混練りする方法や、(A)アクリル系樹脂および(B)アクリル系ゴム粒子ともに相溶性に優れた溶媒により溶液の状態で混合する等が挙げられる。
押出機を用いて混合する場合、用いる押出機は特に限定されるものではなく、各種押出機を用いることができる。具体的には単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。中でも二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、(A)アクリル系樹脂と(B)アクリル系ゴム粒子を均一混合する条件の自由度が広い。また、押出機の上流側から原料投入ホッパー等を用いて(A)アクリル系樹脂及び(B)アクリル系ゴム粒子を投入し混合しても良いし、(B)アクリル系ゴム粒子のみを、押出機の途中からサイドフィーダーや、重量式フィーダー等を用いて投入し混合してもよい。(B)のアクリル系ゴム粒子の熱劣化を防止する観点からは、サイドフィーダーから投入して混合することが好ましい。
本発明における(B)アクリル系ゴム粒子と混合する前の(A)アクリル系樹脂の状態、および/もしくは(A)アクリル系樹脂と(B)アクリル系ゴム粒子の混合した状態において、樹脂中の異物低減を目的として、押出機の最後にフィルターを設置することも可能である。フィルターの前には(A)アクリル系樹脂/アクリル系樹脂組成物を昇圧するためにギアポンプを設置した方が好ましい。フィルターの種類としては、溶融ポリマーからの異物除去が可能なステンレス製のリーフディスクフィルターを使用するのが好ましく、フィルターエレメントとしてはファイバータイプ、パウダータイプ、あるいはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。
(延伸フィルムの製造方法)
本発明の延伸フィルムの製造方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明のアクリル系樹脂組成物を成形してフィルムを製造できる方法であれば、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
具体的には、例えば、射出成形、溶融押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、等を挙げることが出来る。また、本発明に係るアクリル系樹脂組成物を溶解可能な溶剤に溶解させた後、成形させる溶液流延法やスピンコート法によって、本発明に係るフィルムを製造することが出来る。
中でも溶剤を使用しない溶融押出法を用いることが好ましい。溶融押出法によれば、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
本発明のアクリル系樹脂組成物を溶融押出法によりフィルムに成形する場合、まず、本発明のアクリル系樹脂組成物を、予備乾燥し、その後押出機に供給し、該アクリル系樹脂組成物を加熱溶融させる。さらに、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイなどのダイスに供給する。次に、Tダイに供給されたアクリル系樹脂組成物を、シート状の溶融樹脂として押し出し、冷却ロールなどを用いて冷却固化して、未延伸フィルム(原反フィルムともいう)を得る。この際、フィルムの表面性(平滑性)を良好にするために、金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールに挟み込むことも可能である。
本発明のアクリル系樹脂組成物を溶液流延法により未延伸フィルムに成形する場合、本発明のアクリル系樹脂組成物を有機溶媒とともに溶液とした後、当該溶液を支持体に流延し、加熱乾燥して未延伸フィルムを製造する方法である。溶剤流延法に用いることができる溶剤は、公知の溶剤から選択され得る。塩化メチレンおよびトリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤は本発明のアクリル系樹脂を溶解しやすく、また沸点も低いため好ましい溶剤である。また、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの、極性の高い非ハロゲン系の溶剤も用いることができる。さらに、トルエン、キシレンおよびアニソール等の芳香族系溶剤、ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフランおよびピラン等の環状エーテル系溶剤、ならびにメチルエチルケトン等のケトン系の溶剤も使用可能である。これらの溶剤は単独で使用してもよい。また、複数種を混合して用いてもよい。溶剤の使用量は、キャスティングを充分に行える程度に熱可塑性樹脂を溶解し得る限り、任意の量とすることができる。なお、本明細書中で「溶解」とは、キャスティングを充分に行える程度の均一な状態で樹脂が溶媒中に存在していることをいう。必ずしも、完全に溶質が溶媒に溶解していることを必要としない。溶液中の樹脂濃度は、好ましくは、1重量%~90重量%であり、より好ましくは、5重量%~70重量%であり、さらに好ましくは、10重量%~50重量%である。好ましい支持体としては、ステンレス製のエンドレスベルトを用いてもよい。あるいはポリイミドフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルム等のような、フィルムを用いることもできる。
本発明の延伸フィルムは未延伸フィルム(原反フィルムともいう)を延伸して得られる。未延伸フィルムを延伸することにより所望の厚みの延伸フィルムを製造することができたり、延伸フィルムの機械的特性を向上させることができる。延伸方法としては従来公知の方法を用いることができる。例えば溶融押出により成形した未延伸の原反フィルムを、一軸延伸または二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することができる。延伸フィルムの長手方向(MD方向)、幅方向(TD方向)共に優れた機械的特性を持たせる為には二軸延伸することが好ましい。延伸方法としては、同時二軸延伸であっても、逐次二軸延伸であってもよい。
延伸倍率については(二軸延伸である場合はフィルムのMD方向、TD方向共に)、1.5倍~3.0倍であることが好ましく、1.8倍~2.8倍であることがより好ましい。延伸倍率がこの範囲内であれば、延伸に伴うフィルムの機械的特性向上を充分にできる。また配向度が上がりすぎることもなく、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際における寸法変化を小さくでき、さらには偏光子に貼合した際の剥離強度が低下する可能性も小さい。延伸速度については、1.1倍/分以上で行うことが好ましく、5倍/分以上で行うことがより好ましい。また、100倍/分以下であることが好ましく、50倍/分以下であることがより好ましい。逐次二軸延伸の場合は、一段目の延伸速度と二段目の延伸速度が同じでも、異なっていてもよい。逐次二軸延伸において、通常、一段目の延伸は長手方向(MD方向)の延伸であり、二段目の延伸は幅方向(TD方向)の延伸である。
延伸温度は、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)+35℃~Tg+55℃で行うことが好ましい。延伸温度の下限は、Tg+35℃、Tg+36℃でよく、延伸温度の上限は、Tg+55℃、Tg+45℃、Tg+41℃でよい。延伸温度の下限と延伸温度の上限との組み合わせは、延伸温度の下限が延伸温度の上限以下である限り、特に限定されず、いかなる組み合わせであってもよい。延伸温度は、Tg+35℃~Tg+45℃で行うことがより好ましく、Tg+36℃~Tg+45℃で行うことがさらに好ましい。
ここで、ガラス転移温度が110℃以上120℃未満のアクリル系樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上のアクリル系樹脂と比べて耐熱性が低く、寸法変化率が大きくなりやすい傾向がある。しかしながら本発明の(A)アクリル系樹脂は、通常よりも高温の延伸温度である上記範囲で延伸することにより、100℃の雰囲気下に120時間静置した際の寸法変化率および85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際における寸法変化率が小さくなる傾向にある。さらに、高温で延伸することにより通常生じるMIT往復折り曲げ回数の低下をアクリル系ゴム粒子の添加により抑制することが可能となる。すなわち、延伸温度を上記範囲内にすることにより、寸法変化率が小さく、MIT耐屈曲性に優れたバランスの良い延伸フィルムを製造することができる。なお、フィルムの品質等の観点から、逐次二軸延伸の場合、幅方向(TD方向)の延伸における延伸温度が長手方向(MD方向)の延伸における延伸温度以上であることが好ましく、特に、二段目の延伸として行われる幅方向(TD方向)の延伸における延伸温度が、一段目の延伸として行われる長手方向(MD方向)の延伸における延伸温度以上であることが好ましい。
(用途)
本発明の延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして使用する場合は偏光子と貼合されて偏光板となる。偏光子は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させて得た偏光子等を挙げることができる。
この偏光板はさらに種々のフィルムと貼り合わされて、各種製品に用いることができる。その用途は特に限定されるものではないが、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのディスプレイ分野等に好適に用いることができる。
本発明の延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして使用する場合は、偏光子の外側(液晶側と反対側の外板)に用いることが好ましい。本発明の延伸フィルムは、湿熱条件下でも寸法変化率が小さいため、より外気にさらされ易い外板として使用した場合であっても、寸法変化率の増大を防ぐことが出来る。また本発明の延伸フィルムを外板として使用する場合、上述の紫外線吸収剤を添加したものを用いることができる。紫外線吸収剤を外板として用いることにより、偏光子の劣化を抑制できる。
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
(ガラス転移温度)
(A)アクリル系樹脂およびアクリル系樹脂組成物10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)SII製、DSC7020)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
(MIT耐屈曲試験)
フィルムを幅15mmの短冊状にカットしこれを試験片とした。この試験片を、東洋精機(株)製のMIT耐柔疲労試験機型式Dを用いて、試験荷重1.96N、速度175回/分、折り曲げクランプの曲率半径Rは0.38mm、折り曲げ角度は左右へ135°で測定した。MD方向、TD方向についてそれぞれ行い、算術平均値をMIT往復折り曲げ回数とした。
<アクリル系ゴム粒子の製造>
(アクリル系ゴム粒子(B)の製造例)
以下の組成の混合物をガラス製反応器に仕込み、窒素気流中で攪拌しながら80℃に昇温したのり、メタクリル酸メチル27部、メタクリル酸アリル0.5部、t-ドデシルメルカプタン0.1部からなる単量体混合物とt-ブチルハイドロパーオキサイド0.1との混合液のうち25%を一括して仕込み、45分間の重合を行った。
脱イオン水 220部
ホウ酸 0.3部
炭酸ナトリウム 0.03部
N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.09部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレート 0.09部
エチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム 0.006部
硫酸第一鉄 0.002部
続いてこの混合液の残り75%を1時間にわたって連続添加した。添加終了後、同温度で2時間保持し重合を完結させた。また、この間に0.2部のN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムを追加した。得られた最内層架橋メタクリル系重合体ラテックスの重合転化率(重合生成量/モノマー仕込量)は98%であった。
得られた最内層重合体ラテックスを窒素気流中で80℃に保ち、過硫酸カリウム0.1部を添加したのち、アクリル酸n-ブチル41部、スチレン9部、メタクリル酸アリル1部からなる単量体混合物を5時間にわたって連続添加した。この間にオレイン酸カリウム0.1部を3回に分けて添加した。モノマー混合液の添加終了後、重合を完結させるためにさらに過硫酸カリウムを0.05部添加し2時間保持した。得られたゴム粒子の重合転化率は99%、粒径は240nmであった。
得られたゴム粒子ラテックスを80℃に保ち、過硫酸カリウム0.05部を添加したのちメタクリル酸メチル21.5部、アクリル酸n-ブチル1.5部の単量体混合物を1時間にわたって連続添加した。モノマー混合液の追加終了後1時間保持しグラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は99%であった。得られたゴム含有グラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウムで塩析凝固、熱処理、乾燥を行い、白色粉末状のアクリル系ゴム粒子(B)を得た。
(実施例1)
アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル含有量99重量%、分子量105,000)(A1)と、アクリル系ゴム粒子(B1)を10重量%を含む混合物を、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機(L/D=30)にて混練した。ホッパーから樹脂混合物を2kg/hrで供給し、押出機各温調ゾーンの設定温度を260℃、スクリュー回転数100rpmとした。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化し、アクリル系樹脂組成物(C1)を得た。アクリル樹脂組成物について、上記の方法に従って、ガラス転移温度を測定した結果、117℃であった。
得られたアクリル系樹脂組成物(C1)を、100℃で5時間乾燥後、押出機出口にTダイを備えた口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機(L/D=30)を用いて製膜した。ホッパーからアクリル系樹脂組成物(C1)を2kg/hrで供給し、押出機各温調ゾーンの設定温度を270℃、スクリュー回転数100rpmとした。押出機出口に設けられたTダイから押し出されたシート状の溶融樹脂を冷却ロールで冷却して幅160mm、厚み160μmの原反フィルム(D1)を得た。
得られた原反フィルム(D1)を、(株)井元製作所製、二軸延伸装置(IMC-1905)を用いて、延伸倍率2倍(縦・横)、ガラス転移温度より38℃高い温度で同時二軸延伸を行い、延伸フィルム(E1)を作製した。
上記の方法に従って、MIT往復折り曲げ回数を測定したところ、MD239回、TD208回であった。この平均値を求めた結果を表1に示す。
(高温高湿条件下での寸法変化率)
上記で得られた延伸フィルム(E1)を90mm×90mmの大きさにカッターを用いて切り出し、フィルムの四隅から対角線の内側方向へ20mmの場所にΦ1mmのポンチで孔を開け、ミツトヨ製MF201型三次元測定器を用いて孔間隔を測定した。続いて孔間隔を測定した延伸フィルムを、85℃、85%RHに設定したナガノサイエンス製LH-20型環境試験機中で120時間静置した後の孔間隔を再度測定した。85℃、85%RH雰囲気下での静置前後の孔間隔差から、MD、TD方向の寸法変化率(湿熱)を各々測定し、寸法変化率(湿熱)の平均値を算出した。ここで、静置前に比べて静置後にフィルムが収縮している場合をマイナス、膨張している場合をプラスとした。その結果、MD-0.33%、TD-0.38%であり、静置前に比べて収縮したフィルムが得られた。
(乾熱条件下での寸法変化率)
上記で得られた延伸フィルム(E1)を90mm×90mmの大きさにカッターを用いて切り出し、フィルムの四隅から対角線の内側方向へ20mmの場所にΦ1mmのポンチで孔を開け、ミツトヨ製MF201型三次元測定器を用いて孔間隔を測定した。続いて孔間隔を測定した延伸フィルムを、100℃、0%RHに設定したナガノサイエンス製LH-20型環境試験機中で120時間静置した後の孔間隔を再度測定した。100℃0%RH雰囲気下での静置前後の孔間隔差から、MD、TD方向の寸法変化率(乾熱)を各々測定し、寸法変化率(湿熱)の平均値を算出した。ここで、静置前に比べて静置後にフィルムが収縮している場合をマイナス、膨張している場合をプラスとした。その結果、MD-0.41%、TD-0.49%であり、静置前に比べて収縮したフィルムが得られた。
これらの結果より寸法変化率の平均値を求めた結果を表1に示す。
(実施例2)
上記、アクリル樹脂(A1)に代わり、スミペックスMHF(住友化学製、メタクリル酸メチル含有量5重量%、A2)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、アクリル樹脂組成物(C2)を得た。アクリル樹脂組成物について、上記の方法に従って、ガラス転移温度を測定した結果、114℃であった。
得られたアクリル樹脂組成物(C2)を上記実施例1と同様の操作を行い、厚み160μmの原反フィルム(D2)を得た。得られた原反フィルム(D2)をガラス転移温度より41℃高い温度で実施した以外は、上記実施例1と同様の操作を行い、延伸フィルム(E2)を得た。
上記の方法に従って、寸法変化率、MIT往復折り曲げ回数を測定した。MIT往復折り曲げ回数は、MD191回、TD247回、寸法変化率は、湿熱がMD-0.35%、TD-0.48%、乾熱がMD-0.64%、TD-0.64%であった。結果を表1に示す。
(比較例1)
上記、原反フィルム(D1)をガラス転移温度より28℃高い温度で同時二軸延伸を行い、延伸フィルム(E3)を作成した。MIT往復折り曲げ回数は、MD611回、TD718回、寸法変化率は、湿熱がMD-0.76%、TD-0.96%、乾熱がMD-0.81%、TD-1.05%であった。結果を表1に示す。
(比較例2)
上記、原反フィルム(D2)をガラス転移温度より31℃高い温度で同時二軸延伸を行い、延伸フィルム(E4)を作成した。MIT往復折り曲げ回数は、MD731回、TD822回、寸法変化率は、湿熱がMD-0.97%、TD-1.28%、乾熱がMD-1.37%、TD-1.49%であった。結果を表1に示す。
(比較例3)
上記、アクリル樹脂(A1)を実施例1と同様の操作を行い、厚み160μmの原反フィルム(D3)を得た。原反フィルム(D3)をガラス転移温度より27℃高い温度で同時二軸延伸を行い、延伸フィルム(E5)を作成した。MIT往復折り曲げ回数は、MD32回、TD88回、寸法変化率は、湿熱がMD-0.73%、TD-0.94%、乾熱がMD-0.73%、TD-0.85%であった。結果を表1に示す。
(比較例4)
上記、原反フィルム(D3)をガラス転移温度より37℃高い温度で同時二軸延伸を行い、延伸フィルム(E6)を作成した。MIT往復折り曲げ回数は、MD11回、TD12回、寸法変化率は、湿熱がMD-0.26%、TD-0.27%、乾熱がMD-0.40%、TD-0.36%であった。結果を表1に示す。
(比較例5)
上記、スミペックスMHF(A2)を実施例1と同様の操作を行い、厚み160μmの原反フィルム(D4)を得た。原反フィルム(D4)をガラス転移温度より30℃高い温度で同時二軸延伸を行い、延伸フィルム(E7)を作成した。MIT往復折り曲げ回数は、MD37回、TD45回、寸法変化率は、湿熱がMD-0.99%、TD-1.18%、乾熱がMD-1.07%、TD-1.23%であった。結果を表1に示す。
(比較例6)
上記、原反フィルム(D4)をガラス転移温度より40℃高い温度で同時二軸延伸を行い、延伸フィルム(E8)を作成した。MIT往復折り曲げ回数は、MD10回、TD15回、寸法変化率は、湿熱がMD-0.34%、TD-0.44%、乾熱がMD-0.55%、TD-0.60%であった。結果を表1に示す。
表1から、本発明の延伸フィルムは、アクリル系ゴム粒子を添加することにより、MIT耐屈曲性を良好にすることができ、かつ高温な延伸温度であるTg+35℃以上で延伸することにより、乾熱・湿熱条件下での延伸フィルムの寸法変化率の絶対値が各々0.7%以下・0.5%以下と小さく、寸法変化率を抑制することができることがわかった。すなわち、機械特性および寸法安定性のバランスに優れた延伸フィルムを得ることができた。