以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
≪1.アトマイズ装置≫
<1-1.概要>
アトマイズ装置は、金属熔湯に高圧水や高圧ガス等の流体を噴射して熔滴状に粉砕させ、粉砕されて飛散した熔滴を凝固させることによって金属粉体を製造する装置である。なお、熔滴状とは、金属熔湯が液滴(熔滴)の状態にあることをいう。また、得られる金属粉体をアトマイズ粉ともいう。
図1は、本実施の形態に係るアトマイズ装置の構成の一例を示す図である。アトマイズ装置1は、熔解炉(坩堝炉)3から注湯された金属熔湯Mを出湯するタンディッシュ11と、タンディッシュ11から落下する金属熔湯Mに流体を噴射する流体噴射ノズル12と、流体噴射ノズル12を上部に設け、流体噴射により熔滴を形成して金属粉体を生成させる場となるチャンバー13と、を備える。
アトマイズ装置1においては、タンディッシュ11の少なくともその内部形状が、上下方向の上方に向かうに従って、注湯される金属熔湯Mの湯面の面積が大きくなるような形状に形成されている。
また、アトマイズ装置1は、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面Msの高さ(湯面高さMh)を測定する計測部31と、計測部31にて測定された湯面高さMhに基づいてタンディッシュ11内への金属熔湯Mの注湯量を制御する制御部32と、を備える。
計測部31は、タンディッシュ11内を撮像することによってタンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面Msの画像を取得し、その画像から湯面高さMhを測定する。例えば、タンディッシュ11内から放射される赤外線より得られる熱画像を撮像するものであることが好ましい。計測部31は、タンディッシュ11内の湯面Msの画像を撮ることで、その湯面Msの面積を算出することができる。上述のようにアトマイズ装置1においては、タンディッシュ11の内部形状が、上下方向の上方に向かうに従って注湯される金属熔湯Mの湯面Msの面積が大きくなるような形状に形成されている。このことから、湯面高さMhが上下に振れたときに湯面Msの面積の違いによってそれを検知でき、湯面高さMhを的確に測定することができる。
タンディッシュ11内の湯面高さMhを測定する方法として、音波や光の反射を利用する方法も考えられるが、その金属熔湯Mの湯面Msが注湯によって波立つ、あるいは金属熔湯Mが高い温度であるために湯面Ms上方に生じる熱気流等の影響により、正確に湯面高さMhを測定できない可能性がある。この点、計測部31では、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面Msの画像を撮るようにしており、その画像から面積を算出して湯面高さを測定していることから、種々の影響を受けることなくその湯面高さMhを正確にかつ効率的に測定することができる。
図2及び図3では、開口部径R1と底部径R2との比率が異なるタンディッシュ(タンディッシュ11A、タンディッシュ11B)の態様をそれぞれ例示している。開口部径R1と底部径R2の比率としては、特に限定されないが、R2/R1で表す比の関係が0.25以上0.65以下程度であることが好ましく、0.30以上0.55以下程度であることがより好ましい。好ましくはこのような比率のタンディッシュ11とすることで、湯面高さMhが上下に振れた場合に、その振れをより容易にかつ的確に検知できる。
このようなアトマイズ装置1によれば、タンディッシュ11における金属熔湯Mの湯面高さを略一定に保つことができ、それにより、タンディッシュ11からの金属熔湯Mの供給量を安定化させることができる。その結果、安定した供給量で供給される金属熔湯Mにより、その金属熔湯Mに流体を噴射して製造される金属粉体の粒径のばらつきを抑えることができる。
また、このアトマイズ装置1は、例えば、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収するプロセスにおいて、銅(Cu)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)とを含む金属熔湯(合金熔湯)Mから、酸を用いた浸出処理(酸浸出)に供する合金粉体(銅ニッケルコバルト合金)を製造するために用いる装置として好適である。すなわち、アトマイズ装置1を用いることにより、タンディッシュ11からの合金熔湯Mの供給量を安定化させて、粒径のばらつきを抑えた合金粉体を効果的に製造できるため、そのような合金粉体を酸浸出に供することで、NiやCo等の有価金属の浸出効率を効果的に向上させることができる。
なお、図1では、流体噴射ノズル12から噴射される流体として高圧水を用いる水アトマイズ装置1を示している。以下では、水アトマイズ装置を例に挙げて説明を続けるが、流体としてガスを用いるガスアトマイズ装置であっても、良好に適用できる。また、図1では、アトマイズ装置1の構成ではないが、タンディッシュ11に金属熔湯Mを注湯する熔解炉5も併せて示す。
<1-2.アトマイズ装置の各構成について>
[タンディッシュ]
タンディッシュ11は、熔解炉5から注湯される金属熔湯Mを内部に貯留し、底部11bに装着された出湯ノズル11Nより、金属熔湯Mをチャンバー13内に出湯する。タンディッシュ11から出湯する金属熔湯Mは、出湯ノズル11Nから自由落下してチャンバー13内に供給される。
なお、出湯ノズル11Nから金属熔湯Mをチャンバー13内へ出湯することを、金属熔湯Mを「供給する」とも表現する。詳しく後述するが、出湯ノズル11Nから自由落下する金属熔湯Mは、チャンバー13の上部位置に設けられた流体噴射ノズル12から噴射される高圧水と衝突して熔滴となり、チャンバー13内に飛散した状態で供給される。
タンディッシュ11は、少なくともその内部が、上下方向の上方に向かうに従って、熔解炉5から注湯され貯留される金属熔湯Mの湯面の面積が大きくなるような形状に形成されている。上下方向とは、図1に示す構成図紙面の上下の方向をいい、図1中に垂直断面で示すタンディッシュ11のその垂直方向をいう。換言すると、タンディッシュ11内において底部11bから上部の開口部11aに向かって金属熔湯Mが徐々に貯まっていく方向である。また、金属熔湯Mの湯面とは、図1中で「Ms」で指し示す部分であり、タンディッシュ11内に注湯され貯留される金属熔湯Mの上面をいい、例えばタンディッシュ11の内部形状が逆円錐台の形状である場合、金属熔湯Mの湯面は略円形の面となる。また、湯面Msの面積とは、金属熔湯Mの上面の面積をいう。なお、開口部11aとは、タンディッシュ11に上部付近に設けられた、熔解炉5からの金属熔湯Mの注湯口を意味する。
図2、図3はそれぞれ、タンディッシュ11の内部の垂直断面図であり、内部の形状の例を示す図である。各図に示すように、タンディッシュ11の内部は、例えば逆円錐台形、逆円錐形である。タンディッシュ11の内部は、底部11bから上部の開口部11aに向かって、つまりは、注湯される金属熔湯Mの湯面Msの高さ(湯面高さMh)が高くなるに従って、その湯面Msの面積が次第に大きくなるような形状に形成されている。
このような内部形状のタンディッシュ11では、例えば目標とする所定の湯面高さMhにおいてその金属熔湯Mをほぼ一定に維持することができる。すなわち、タンディッシュ11の出湯ノズル11Nから金属熔湯Mを供給していく一方で、連続的に一定速度でタンディッシュ11内に熔解炉5から新たな金属熔湯Mを注湯していくとき、タンディッシュ11の内部形状が、湯面高さMhが高くなるに従ってその湯面Msの面積が大きくなる形状であることにより、注湯される金属熔湯Mの湯面高さMhの変動は緩やかになる。そのため、例えば目標とする高さで金属熔湯Mの湯面高さMhを略一定に維持することができる。なお、熔解炉5からタンディッシュ11への金属熔湯Mの注湯速度は、おおよそ一定の速度に保たれている。また、タンディッシュ11への金属熔湯Mの注湯は、例えば、熔解炉5を傾動させることで行うことができる(図1参照)。
また、アトマイズ装置1では、計測部31においてタンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面高さMhを測定するようにしており、その湯面高さMsに基づいて制御部32において湯面高さMhが所定の高さで略一定となるように、熔解炉5の傾動角度を自動調整してタンディッシュ11への金属熔湯Mの注湯量を調整している。このことにより、より高い精度で金属熔湯Mの湯面高さMhを一定に維持できる。
出湯ノズル11Nから供給される金属熔湯Mの供給量(供給速度)は、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面高さに基づく圧力に起因するため、湯面高さをほぼ一定に維持できれば、出湯ノズル11Nから供給される単位時間当たりの金属熔湯Mのノズル径に応じた供給量もほぼ一定に安定化させることができる。
なお、金属熔湯Mの供給量は、製造した金属粉体の粒径や後述する流体噴射ノズル12からの高圧水の噴射量等の条件に応じて適宜設定すればよい。例えば、金属熔湯Mの供給量としては10kg/分以上75kg/分以下程度の範囲に設定する。
ここで、出湯ノズル11Nからチャンバー13内に供給された金属熔湯Mは、チャンバー13上部の流体噴射ノズル12から噴射される高圧水が衝突して熔滴状となって飛散する。このとき、タンディッシュ11からの金属熔湯Mの供給量が変化すると、形成される熔滴の大きさも変化することになり所定の時間内で製造される金属粉体(アトマイズ粉)の粒径分布にばらつきが生じる。例えば、熔解炉5からの注湯される金属熔湯Mの湯面高さが高くなると、高くなった湯面高さに基づいて出湯ノズルNから供給される金属熔湯Mの供給量が大きくなる。すると、一定速度で噴射される高圧水が衝突して形成される熔滴の大きさは大きくなり、相対的に粒径の大きな金属粉体が製造され、その粒度分布は例えば双峰性分布となる等、粒径のばらつきが生まれる。
この点において、上述したタンディッシュ11の内部形状であることにより、注湯される金属熔湯Mの湯面高さをほぼ一定に維持できれば、金属熔湯Mの供給量も安定化させることが可能となる。これにより、高圧水が衝突して形成される熔滴の大きさのばらつきを抑えることができ、得られる金属粉体の粒度分布はシャープな単峰性分布となる。
また、熔解炉5からタンディッシュ11への金属熔湯Mの注湯が終了し、タンディッシュ11内の金属熔湯Mが減少して湯面高さが徐々に低くなる段階の場合、例えば図4に示すような従来の円筒形状の内部形状を有するタンディッシュ100では、湯面高さの低下に伴い、出湯ノズル100Nから供給される金属熔湯の供給量は徐々に低下する。すると、その供給量の低下により、一定速度で噴射される高圧水が衝突して形成される熔滴の大きさは小さくなり、相対的に粒径の小さな金属粉体が製造され、その粒度分布は例えば双峰性分布となる等、粒径のばらつきが生まれる。なお、図4に示すタンディッシュ100の内部の円筒形状は、湯面レベルが高くなるに従ってその湯面の面積が大きくなる形状ではなく、湯面レベルにかかわらずその湯面の面積が一定となる形状である。
この点において、上述したタンディッシュ11の内部形状であることにより、図5に示すように、内部が円筒形状のタンディッシュ(仮想線で表す部分の形状)と比べて、図中の破線丸囲み部に示す部分、すなわち金属熔湯Mの供給量を低下させることになる部分が無くなる。そのため、湯面高さが徐々に低くなってもその湯面高さに基づく圧力の変動は小さくなり、これにより、金属熔湯Mの供給量を安定に維持することができる。そして、金属熔湯Mの供給量も安定化させることが可能となることにより、高圧水が衝突して形成される熔滴の大きさのばらつきを抑えることができ、得られる金属粉体の粒度分布はシャープな単峰性分布となる。
このようにタンディッシュ11によれば、その大部分を占める、熔解炉5から連続的に金属熔湯Mが内部に注湯される段階においても、また、最後の部分である、金属熔湯Mの注湯が終了して徐々の湯面高さが低くなってくる段階においても、出湯ノズル11Nから供給される金属熔湯Mの供給量を安定化させることができる。
また、上述したように、アトマイズ装置1では、計測部31においてタンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面高さMhを測定するようにしており、その湯面高さMsに基づいて制御部32において湯面高さMhが所定の高さで略一定となるように、熔解炉5の傾動角度を自動調整してタンディッシュ11への金属熔湯Mの注湯量を調整している。このことから、より高い精度で金属熔湯Mの湯面高さMhを一定に維持でき、そしてこれにより、タンディッシュ11からの金属熔湯Mの供給量をより一層効果的に安定化させることができる。
図2、図3での説明に戻り、タンディッシュ11(11A,11B)の内部の形状は、これら図に示すように、例えば逆円錐台形、逆円錐形である。タンディッシュ11の内部は、上部の開口部11aの径(開口部径)R1が、底部11bの径(底部径)R2よりも大きくなるように形成され、これにより、金属熔湯Mの湯面の高さが高くなるに従ってその湯面の面積が次第に大きくなるような形状となっている。なお、当然に、タンディッシュ11の内部の垂直断面視(図2、図3)において、金属熔湯Mの湯面の位置(図示しない)に相当する位置の壁面が傾斜しており、例えば逆円錐台形や逆円錐形の形状を構成している。
図2に示すタンディッシュ11Aと、図3に示すタンディッシュ11Bとでは、開口部径R1と底部径R2との比率が異なる態様をそれぞれ例示している。R1とR2の比率としては、特に限定されないが、R2/R1で表す比の関係が0.25以上0.65以下程度であることが好ましく、0.30以上0.55以下程度であることがより好ましい。R2/R1が0.25より小さすぎると、所定の目標高さでの湯面高さを略一定に維持できるものの、内容積が小さくなり、アトマイズ加工による処理効率が低下する。一方で、R2/R1が0.65より大きくなると、図4に示したような円筒形状に近似していくようになるため、湯面高さを安定化させることが困難になる可能性がある。
また、図3に示すタンディッシュ11Bのように、内部が逆円錐台の形状に形成されたタンディッシュの底部11bにおいて、その底部11bに装着された出湯ノズル11Nに向かって下方に傾斜する傾斜部21を設けることができる。なお、傾斜部21は、タンディッシュ11Bの内部に設けられる。このように、出湯ノズル11Nに向かって下方に傾斜する傾斜部21が設けられることで、特に、金属熔湯Mの注湯が終了して徐々の湯面高さが低くなってくる段階において、出湯ノズル11Nを介して供給される金属熔湯Mの供給量の低下をより一層効率的に抑えることができる。これにより、供給量をより安定化させることができ、得られる金属粉体の粒径のばらつきを抑えることができる。
なお、タンディッシュ11の構成材料は、特に限定されず、例えばアルミナ製とすることができる。また、タンディッシュ11の底部11bに装着された出湯ノズル11Nの構成材料についても、特に限定されず、例えばジルコニア製とすることができる。また、出湯ノズル11Nのノズル径も、金属熔湯の種類(組成)や出湯量等に応じて適宜決定すればよく、例えばノズル直径で3mm~10mm程度とすることができる。
また、図1~3では、タンディッシュ11における開口部11aについて、その全面が開口しているような形態を示しているが、全面に開口していることに限られない。上述したように、開口部11aとは、タンディッシュ11に上部付近に設けられた、熔解炉5からの金属熔湯Mの注湯口を意味するものであり、タンディッシュ11の天井付近の一部に熔解炉5からの金属熔湯Mが注湯される開口があればよい。なお、その場合でも、開口部11aとは、その開口している部分を含むタンディッシュ11の上面を意味する。
[流体噴射ノズル]
流体噴射ノズル12は、後述するチャンバー13の上部(天井)位置に設けられ、タンディッシュ11の出湯ノズル11Nから供給され自由落下する金属熔湯Mに対して流体である高圧水を噴射するノズルである。なお、流体噴射ノズル12が設けられて金属熔湯Mに高圧水を噴射する位置が、金属熔湯Mを熔滴状に粉砕する位置となるため、当該部分がアトマイズ粉砕部となる。
流体である高圧水は、金属熔湯Mを粉砕するための媒体である。なお、本実施の形態においては、流体として高圧水を用いた例を示しているが、窒素やアルゴン等の不活性ガスや空気等のガスであってもよい。その場合、高圧のガスを流体として用いて金属粉体を得るガスアトマイズ装置となる。なお、上述したタンディッシュ11の形状は、水アトマイズ装置であってもガスアトマイズ装置であっても、良好に適用することができる。
流体噴射ノズル12の構造や形状は、高圧水を所望とする噴射量で金属熔湯Mに噴射できれば、特に限定されない。また、流体噴射ノズル12は、落下する金属熔湯Mを中心軸として、相対するように偶数個(例えば、2個、4個、6個)設けられることが好ましい。また、流体噴射ノズル12においては、製造される金属粉体の収量が最大となるように、金属熔湯Mに対して噴射される高圧水の角度(噴射角度)を調整することができる。例えば、高圧水の相対角度(頂角)が例えば30°~50°になるように調整して、落下する金属熔湯Mに対する水の噴射角度(頂角)が15°~25°となるように調整できる。
また、流体噴射ノズル12から噴射する高圧水の噴射条件は、製造しようとする金属粉体の粒径等に応じて適宜設定することが好ましい。
具体的にその噴射条件に関して、噴射する高圧水の圧力としては、例えば6MPa以上20MPa以下程度に設定することが好ましい。圧力が6MPa未満であると、得られる金属粉体の粒径が過度に大きくなる可能性があり、圧力が20MPaを超えると、金属粉体が過度に微細になって分離回収性が低下する可能性がある。また、圧力を高めるために、高価なポンプを使用する必要があり、金属粉体の製造コストが高くなる。
また、金属熔湯Mの供給量(落下量)に対する高圧水の噴射量の質量比(比水率)としては、例えば5.0倍以上7.0倍以下程度に設定することが好ましい。金属熔湯Mの供給量は単位時間あたりの平均供給量であり、また高圧水の噴射量は単位時間あたりの平均噴射量であり、金属熔湯Mの供給量や高圧水の噴射量が時間変動する場合にはその平均値である。比水率が5.0倍未満であると、得られる金属粉体の粒径が過度に大きくなる可能性があり、比水率が7.0倍を超えると、金属粉体が微細になり過ぎる可能性がある。
また、噴射する高圧水の温度としては、例えば2℃以上35℃以下程度に設定することが好ましい。水温が過度に低いと、設備を停止した場合に配管内で水が凍結して水漏れ等の問題を引き起こす恐れがあり、水温が過度に高いと、得られる金属粉体の粒径が大きくなる傾向にある。なお、高圧水の温度は、チラー19等を設けてその設定温度を調整することで制御できる。
[チャンバー]
チャンバー13は、出湯ノズル11Nの位置においてタンディッシュ11と連結されており、タンディッシュ11からその出湯ノズル11Nを介して金属熔湯Mが供給される。また、チャンバー13は、上述した流体噴射ノズル12を上部に設け、出湯ノズル11Nから供給され自由落下する金属熔湯Mに対して高圧水を噴射することで熔滴を形成して金属粉体を生成させる。
具体的に、チャンバー13内においては、出湯ノズル11Nを介して落下する金属熔湯Mに対して高圧水を噴射すると、その金属熔湯Mが粉砕されて熔滴が生成する。生成した熔滴は、チャンバー13内を飛散して底部の方向へと落下していく。また、生成した熔滴は、高圧水によって冷却され、さらにチャンバー13内で飛散して落下していく過程で冷却され、急速に凝固して金属粉体の形態となる。水アトマイズ法を行うアトマイズ装置1では、チャンバー13内の下部には流体噴射ノズル12から噴射された水が貯留され水相を形成しており、凝固状態へと向かう金属粉体もその水相中に流入して冷却される。
なお、チャンバー13においては、製造される金属粉体の収量が最大となるように、金属熔湯Mに対して噴射される高圧水の角度(噴射角度)が調整されている。また、上述したように、単位時間内に落下する金属熔湯量、噴射する単位時間当たりの高圧水量、噴射する高圧水の圧力、高圧水の温度等については、金属粉体の収量や所望とする金属粉体の粒径等に応じて適宜設定することができる。
また、チャンバー13は、内部に空気が侵入しないように、窒素ガス等の不活性ガスを流入させることによってその内圧を大気圧よりも高く維持できる構造となっている。また、チャンバー13には、ガス排出構造18が連結されており、チャンバー13内に充満する水素ガス等のガスを空気の流入無しに外部に排出可能となっている。
チャンバー13の底部には、金属粉体を含むスラリーを排出するための排出口13eが設けられており、排出口13eに連結された回収配管14を介して金属粉体が回収される。
[計測部]
計測部31は、例えばタンディッシュ11の上方に設けられ、タンディッシュ11内の金属熔湯の湯面高さMhを測定する。計測部31は、タンディッシュ11内を撮像することによって、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面Msの画像を取得する。上述したように、タンディッシュ11の内部形状が、上下方向の上方に向かうに従って注湯される金属熔湯Mの湯面Msの面積が大きくなるような形状に形成されている。このことから、湯面高さMhが上下に振れたときに湯面Msの面積の違いによって湯面高さMhを的確に測定することができる。
計測部31は、ビデオカメラやサーモグラフィ等の装置により構成される。中でも、タンディッシュ11内から放射される赤外線の熱画像を撮像できるサーモグラフィであることが好ましい。なお、音波や光の反射を利用して湯面高さMsを測定する方法もあるが、湯面が注湯により波立つ、あるいは金属熔湯Mが高い温度であるために生じる熱気流等の影響により、これらの利用が難しい場合がある。
より具体的に、アトマイズ装置1において、タンディッシュ11の上方に計測部31を設置することができる。例えば、計測部31としてサーモグラフィをタンディッシュ11の上方に設置し、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの上面の輪郭が明確に観察できるようにして撮像し、タンディッシュ11内から放射される赤外線を検出して温度分布を熱画像として捉えるようにする。タンディッシュ11は、例えば逆円錐形状のように、上下方向の上方に向かうに従って金属熔湯Mの面積が大きくなるような形状に形成されているため、合金熔湯Mの上面は円の形状として観察される。そのため、事前に円の直径と湯面高さ(Mh)との関係を演算式とすることで、その円の直径からタンディッシュ11内の合金熔湯Mの湯面高さMhを算出することができる。このように、計測部31では、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの上面の輪郭を撮像するという簡易な方法により、湯面高さMhを的確に算出することができる。
計測部31において、例えば、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの上面の輪郭を明確にするために、画像処理によって二値化や多値化画像に変換してもよく、それにより、円の面積を数値化して事前に求めた円の面積と湯面高さMhとの関係を演算式とすることができる。また、タンディッシュ11が逆四角錘台形状である場合には、四角形の面積から湯面高さMhを求めることもできる。また、例えば金属熔湯Mの上面の形状をメッシュに分割し、メッシュの数を測定してもよいし、輪郭に接する平行線の間隔を長さとして測定してもよい。なお、いずれの場合も、事前に測定値と湯面高さMhとの関係を演算式に近似しておくだけで、湯面高さMhを求めることができる。
ビデオカメラやサーモグラフィといった装置により構成される計測部31は、例えばタンディッシュ11の上方に設置されるため、そのタンディッシュ11からの放射熱や熱気流の影響を受けやすくなる。この点に関して、遮光ガラスや赤外線を透過し難い熱線遮蔽ガラス等を、ビデオカメラやサーモグラフィとタンディッシュ11との間に挿入することで、放射熱の影響を軽減できる。また、タンディッシュ11内からの熱気流を回避するために、タンディッシュの真上ではなく斜め上方から観察することで、タンディッシュ11が逆円錐形状の場合には金属熔湯Mの上面の輪郭を円形ではなく楕円形として観察し、タンディッシュ11が逆四角錘台形状の場合には正方形、長方形、台形等の面積に近似して計算することも可能であり、これにより、ビデオカメラやサーモグラフィ自体の温度が上昇して計測不能となる事態を回避することもできる。
なお、金属熔湯Mの注湯中であって落下している金属熔湯Mが画像に映り込んでいても、タンディッシュ11内の湯面上面の例えば2分の1以上の面積が観察できれば、その面積から湯面高さMhを適切に算出することができる。
計測部31にて測定された金属熔湯Mの湯面高さMhの値の情報は、後述する制御部32に送られ、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面高さMsが所定の高さで略一定となるように、熔解炉5からタンディッシュ11内への金属熔湯Mの注湯量が調整される。計測部31によりタンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面高さMhが求まれば、その湯面高さMhが目標高さよりもどのくらい低いのかあるいは高いのかを算出し、その差異を減少するために熔解炉5からの金属熔湯Mの注湯量を適切に制御することができる。
[制御部]
制御部32は、計測部31にて測定されたタンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面高さMhの情報を取得し、その湯面高さMhを略一定に保つように、タンディッシュ11内への金属熔湯Mの注湯量を調整する。
ここで、熔解炉5からタンディッシュ11への金属熔湯Mの注湯は、例えば、熔解炉5を傾動させることで行われる(図1参照)。アトマイズ装置1では、計測部31にて測定されたタンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面高さMhの情報が制御部32に送られたのち、制御部32では、湯面高さMhが所定の高さで略一定となるように、熔解炉5の傾動角度を自動調整してタンディッシュ11への金属熔湯Mの注湯量を調整している。このことにより、高い精度で金属熔湯Mの湯面高さMhを一定に維持できる。
より具体的には、例えば、制御部32は、計測部31から送られてきた、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面高さMhの情報に基づいて、熔解炉5の傾きを調整する傾動装置を制御する。制御部32は、例えば、傾動装置の油圧シリンダーを駆動する油の供給や油圧の開放を行うことで、熔解炉5の傾きを調整するように構成される。
制御部32は、例えば、計測された湯面高さMhが目標下限高さよりも低いと判断した場合には、傾動装置の油圧ポンプを作動させて熔解炉5の傾動角度を大きくし、金属熔湯Mの注湯量を増加させるようにすることで湯面高さMhを目標高さまで自動で上昇させる。そして、湯面高さが目標上限高さまで達したと判断した場合には、傾動装置の油圧シリンダーの油を抜いて油圧を開放し、熔解炉5の傾動を戻して金属熔湯Mの注湯量を減少させる。このような操作を繰り返すことで、湯面高さMhを上限高さと下限高さの間に調整し、タンディッシュ11から落下する単位時間当たりの熔湯合金量を一定にすることができる。
[その他の構成]
アトマイズ装置1においては、回収配管14の他方の端部にフィルタ15が連結されている。フィルタ15では、回収配管14を介して排出された金属粉体を含むスラリーに対する固液分離処理が施され、スラリーから固形分である金属粉体が分離され回収される。フィルタ15において金属粉体が分離された後の水は、配管を介して接続されたタンク16に貯留され、チラー19等により温度調整が行われたのち、高圧ポンプ17にて流体噴射ノズル12に循環供給される。流体噴射ノズル12では、循環された水に圧力を付加し、金属熔湯Mを粉砕するための高圧水として再利用する。
≪2.有価金属の回収方法≫
次に、上述した構成を備えるアトマイズ装置1を用いてCuとNiとCoとを構成成分として含む合金粉体を製造する工程を含む、有価金属の回収方法について説明する。
本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法である。具体的に、この有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池に対して前処理を行う工程(廃電池前処理工程)S1と、前処理後の廃リチウムイオン電池を熔融して合金熔湯(CuとNiとCoとを含む合金熔湯)Mを準備する工程(合金熔湯準備工程)S2と、合金熔湯Mに流体を噴射して合金粉体を製造する工程(合金粉体製造工程)S3と、製造した合金粉体を酸により浸出する工程(酸浸出工程)S4と、を含む。
そして、合金粉体製造工程S3では、上述した構成を有するアトマイズ装置1を用いることを特徴としている。合金粉体製造工程S3では、アトマイズ装置1を用いてアトマイズ法により合金粉体を製造することで、タンディッシュ11における合金熔湯Mの湯面高さをほぼ一定に保つことができ、タンディッシュ11からの合金熔湯Mの供給量を安定化させることができる。その結果、安定した供給量で供給される合金熔湯Mにより、その合金熔湯Mに流体を噴射して製造される合金粉体の粒径のばらつきを抑えることができる。
廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、CuとNiとCoとを構成成分として含む合金粉体(銅ニッケルコバルト合金)に対して酸浸出を施し、NiやCoを選択的に溶液中に浸出させるとき、合金粉体の粒径のばらつきが酸浸出効率に影響を及ぼすことが確認されている。粒度分布を含む粒形態によっては、ほとんど酸に溶解しない場合もある。この点、合金粉体製造工程S3においてアトマイズ装置1を用いたアトマイズ法により合金粉体を製造することで、粒径のばらつきが抑えられ、シャープな粒度分布を有する合金粉体を得ることができ、酸浸出に供したときにその浸出効率を効果的に向上させることが可能となる。
[廃電池前処理工程]
廃電池前処理工程S1は、有価金属の回収原料である廃リチウムイオン電池に対して前処理を施す工程である。前処理とは、後述する合金熔湯準備工程S2にて原料を熔融して合金熔湯を得るに先立つ処理である。ここで、廃リチウムイオン電池とは、使用済みの電池だけでなく、電池の製造過程で生じた不良品の電池も包含する意味である。
具体的に、廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池を無害化する無害化工程S11と、廃リチウムイオン電池を粉砕する粉砕工程S12と、を有する。
無害化工程S11は、廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化、並びに外装缶の除去を目的する処理(「無害化処理」ともいう)を行う工程である。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液等を有している。そのため、廃リチウムイオン電池をそのまま用いて粉砕処理等を行うと、爆発の恐れがあり危険である。このことから、何らかの手法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。また、廃リチウムイオン電池を構成する外装缶は、金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)から構成されることが多く、こうした金属製の外装缶はそのまま回収することが比較的容易である。したがって、無害化工程S11において電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
無害化処理の具体的な方法は、特に限定されない。例えば、針状の刃先で廃リチウムイオン電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また、廃リチウムイオン電池を加熱して電解液を燃焼することで無害化する手法が挙げられる。
無害化工程S11において外装缶に含まれるAlやFeを回収する場合には、除去した外装缶を粉砕した後に、粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けしてもよい。Alは軽度の粉砕で容易に粉状になるため、これを効率的に回収することができる。また、磁力選別によって外装缶に含まれるFeを回収してもよい。
粉砕工程S12は、無害化処理後の廃リチウムイオン電池の内容物を破砕して破砕物を得る工程である。得られた破砕物は、熔融化(熔湯化)するための原料となる。粉砕工程S12は、乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的とした処理を行う工程であり、反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
粉砕処理の具体的な方法は、特に限定されない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて破砕することができる。
[予備加熱工程]
必要に応じて、後述する熔融工程S21を含む合金熔湯準備工程S2の前に、破砕した廃リチウムイオン電池(破砕物)を予備加熱(酸化焙焼)処理して予備加熱物にする工程(予備加熱工程)を設けてもよい。
予備加熱工程(酸化焙焼工程)では、廃リチウムイオン電池に含まれる炭素量を減少させる処理を行う。このような工程を設けることで、廃リチウムイオン電池が炭素を過剰に含む場合であっても、その炭素を有効に酸化除去でき、後工程の熔融工程S21にて有価金属の合金一体化を促進させることができる。
すなわち、熔融工程で有価金属は還元されて局所的な熔融微粒子になるが、炭素は熔融微粒子(有価金属)が凝集する際の物理的な障害となることがある。炭素により、熔融微粒子の凝集一体化及びそれによる熔融合金(メタル)とスラグの分離が妨げられると、有価金属の回収率が低下してしまうことがある。これに対して、予備加熱工程を設けて炭素を酸化除去しておくことで、熔融工程での熔融微粒子の凝集一体化を進行させることができ、有価金属の回収率を高めることができる。また、廃リチウムイオン電池に含まれるリン(P)は、比較的還元されやすい不純物であるため、炭素が過剰に存在すると、リンが還元されて有価金属と共に熔融合金に取り込まれてしまう可能性がある。その点、予備加熱工程にて過剰な炭素を予め除去しておくことで、熔融合金へのリンの混入を防ぐことができる。なお、予備加熱物(予備加熱処理後の粉砕物)に含まれる炭素量としては、1質量%未満であることが好ましい。
また、予備加熱工程を設けることで、酸化のばらつきを抑えることが可能となる。予備加熱工程では、廃リチウムイオン電池に含まれる比較的付加価値の低い金属(Al等)を酸化することが可能な酸化度で処理(酸化焙焼)することが好ましい。予備加熱処理の温度、時間及び/又は雰囲気を調整することで、酸化度を容易に制御できる。
酸化度の調整は、例えば次のようにして行う。すなわち、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。予備加熱工程における処理では、Alの全量が酸化されるまで酸化を進行させる。なお、Feの一部が酸化されるまで酸化を促進させるようにしてもよいが、Coが酸化されてスラグへ分配されることがない程度に酸化度を留めることが好ましい。
予備加熱処理は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより、不純物である炭素(C)の酸化除去及びAlの酸化を効率的に行うことができる。酸化剤は、特に限定されないが、取り扱いが容易な点で酸素含有ガス(空気、純酸素、酸素富化ガス等)が好ましい。また、酸化剤の導入量としては、例えば酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が好ましい。
予備加熱処理の温度(加熱温度)は、600℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましい。このような加熱温度とすることで、炭素の酸化効率をより一層に高めることができ、また加熱時間を短縮できる。また、加熱温度は900℃以下が好ましく、これにより熱エネルギーコストを抑制することができ、予備加熱の効率を高めることができる。
予備加熱処理は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また、後工程の熔融工程S21で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。予備加熱炉として、装入物を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で酸化処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例としては、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)が挙げられる。
[合金熔湯準備工程]
合金熔湯準備工程S2は、廃リチウムイオン電池を熔融して合金熔湯(CuとNiとCoとを含む合金熔湯)Mを準備する工程である。合金熔湯準備工程S2は、廃リチウムイオン電池の粉砕物を熔融する熔融工程S21と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収する回収工程S22と、回収した合金を合金熔湯Mにする熔湯化工程S23と、を有する。
熔融工程S21は、原料(廃リチウムイオン電池の破砕物又は予備加熱物)を熔融炉内に投入し、その原料を加熱熔融して、Cuと、Niと、Coと、を構成成分として含む合金(メタル)と、この合金の上方に位置するスラグと、を生成する。具体的には、まず、原料を加熱熔融することによって熔体にする。熔体は、合金とスラグとを熔融した状態で含んでいる。次いで、得られた熔体を熔融物にする。熔融物は、合金とスラグとをそれぞれに凝集した状態で含む。
合金は、主として有価金属を含む。そのため、有価金属とその他の成分とのそれぞれを、合金及びスラグとして分離することが可能となる。このことは、比較的付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属は酸素親和力が低いためである。例えば、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまり、Alが最も酸化され易く、Cuが最も酸化されにくい。そのため、比較的付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグになり、有価金属(Cu、Ni、Co)は還元されて合金になる。このようにして、比較的付加価値の低い金属と有価金属とを、スラグと合金とに分離することができる。
原料を熔融するに際しては、酸素分圧を制御してもよい。酸素分圧の制御は、公知の手法で行うことができる。例えば、原料や、その原料が熔解して得られた熔体に、還元剤や酸化剤を導入する方法が挙げられる。還元剤としては、炭素品位の高い材料(黒鉛粉、黒鉛粒、石炭、コークス等)や一酸化炭素を用いることができる。あるいは、原料のうち炭素品位の高い成分を還元剤として用いることもできる。また、酸化剤としては、酸化性ガス(空気、酸素等)や炭素品位の低い材料を用いることができる。あるいは、原料のうち炭素品位の低い成分を酸化剤として用いることもできる。
還元剤や酸化剤の導入についても公知の手法により行うことができる。例えば、還元剤や酸化剤が固体状物質である場合には、これを原料や熔体に投入して導入することができる。また、還元剤や酸化剤がガス状物質である場合には、熔融炉に設けられたランス等の導入口から導入することができる。還元剤や酸化剤の導入タイミングについても、特に限定されず、熔原料を熔融炉内に投入すると同時に導入してもよく、あるは原料が熔融して熔体になった段階で導入してもよい。
また、熔融工程S21における熔融処理では、フラックスを導入(添加)してもよい。フラックスを添加することで、熔融処理温度を低温化することができ、エネルギーコストを低減させることができる。さらに、リン(P)の除去をより一層進行させることができる。フラックスは、不純物元素を取り込んで融点の低い塩基性酸化物を形成する元素を含むものであることが好ましい。例えば、リンは酸化すると酸性酸化物となるため、熔融処理により形成されるスラグが塩基性となるほど、スラグにリンを取り込ませて除去し易くなる。その中でもフラックスとしては、安価でかつ常温において安定であるカルシウム化合物を含むものがより好ましい。カルシウム化合物として、例えば酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)を挙げることができる。
熔融処理において、原料を熔融する際の加熱温度は特に限定されないが、1400℃以上1600℃以下が好ましく、1450℃以上1550℃以下がより好ましい。加熱温度を1400℃以上にすることで、有価金属(Cu、Co、Ni)が十分に熔融し、流動性が高められた状態で合金を形成する。そのため、後述する回収工程S22にて合金とスラグとを分離する際の効率性を高めることができる。また、より好ましく加熱温度を1450℃以上にすることで、合金の流動性をさらに高めることができ、不純物成分と有価金属との分離効率をより一層向上させることができる。一方で、加熱温度が1600℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、坩堝や炉壁等の耐火物の消耗が激しくなり、生産性が低下する可能性がある。
回収工程S22は、熔融工程S21で得られた熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を合金原料として回収する。スラグと合金とは、その比重が異なる。合金に比べ比重の小さいスラグは、合金の上部に集まるため、比重分離によって容易に分離回収することができる。回収工程S22での処理により、Cuと、Niと、Coと、を構成成分として含む合金原料を得ることができる。
熔湯化工程S23は、回収した合金原料を加熱熔解して合金熔湯Mにする。具体的には、準備した合金原料を熔解炉(坩堝炉)内に投入し、その合金原料を加熱熔解することによって、流動性がある熔湯(合金熔湯M)にする。加熱熔解の温度としては、後述する合金粉体製造工程S3にて所望の合金粉体を製造する観点から、1450℃以上1550℃以下が好ましい。熔湯化工程S23での処理により、Cuと、Niと、Coと、を構成成分として含む合金熔湯Mを得ることができる。
[合金粉体製造工程]
合金粉体製造工程S3は、アトマイズ装置1を用いたアトマイズ法により合金粉体(アトマイズ粉)を製造する工程である。具体的には、熔解炉5にて得られた合金熔湯Mを、アトマイズ装置1を構成するタンディッシュ11内に注湯し、タンディッシュ11からチャンバー13内に所定の供給量で合金熔湯Mを自由落下により供給して、落下する合金熔湯Mに高圧水や高圧ガス等の流体を噴射することにより熔滴状に粉砕させる。チャンバー13内では、粉砕されて飛散した熔滴が急速に冷却され凝固することによって、合金粉体が生成する。
本実施の形態に係る有価金属の回収方法では、合金粉体製造工程S3において、上で詳述した構成を有するアトマイズ装置1を用いて合金粉体を製造することを特徴としている。すなわち、アトマイズ装置1として、合金熔湯Mが内部に注湯されてその合金熔湯Mを底部11bに装着された出湯ノズル11Nより出湯させるタンディッシュ11と、タンディッシュ11の下方に配置されてそのタンディッシュ11から落下する合金熔湯Mに流体を噴射する流体噴射ノズル12と、を備えていて、タンディッシュ11の少なくともその内部が、上下方向の上方に向かうに従って、熔解炉5から注湯される合金熔湯Mの湯面の面積が大きくなるような形状に形成されている装置を用いる。
また、アトマイズ装置1は、タンディッシュ11内の金属熔湯Mの湯面Msの高さ(湯面高さMh)を測定する計測部31と、計測部31にて測定された湯面高さMhに基づいてタンディッシュ11内への金属熔湯Mの注湯量を制御する制御部32と、をさらに備えていて、湯面高さMhが所定の高さで略一定となるように、熔解炉5の傾動角度を自動調整してタンディッシュ11への金属熔湯Mの注湯量を調整している。
アトマイズ装置1の具体的な構成等については、上で詳述したとおりであるため、ここでの説明は省略する。
合金粉体製造工程S3において、アトマイズ装置1を用いて合金粉体を製造することにより、タンディッシュ11における金属熔湯Mの湯面高さをほぼ一定に保つことができ、それにより、タンディッシュ11からの金属熔湯Mの供給量を安定化させることができる。そしてその結果、安定した供給量で供給される金属熔湯Mにより、その金属熔湯Mに流体を噴射して製造される合金粉体の粒径のばらつきを抑えることができる。このようにして製造される、粒径のばらつきの小さい合金粉体によれば、後述する酸浸出工程S4での酸浸出に供することで、NiやCo等の有価金属の浸出効率を効果的に向上させることができる。
ここで、アトマイズ装置1を用いた合金粉体の製造に供する合金熔湯は、上述したように、廃リチウムイオン電池に由来するものであり、電池の構成成分であるCu、Ni、及びCoを含有するとともに、不純物成分として少なくともマンガン(Mn)、鉄(Fe)を含有する。合金熔湯中におけるこれら金属元素の質量割合は、特に限定されないが、例えば、上述したCu、Ni、Co、Mn、及びFeの5つの金属元素がそれぞれ0.1質量%以上の割合で含有され、また、これら5つの金属元素の合計で98質量%以上含有される。また、合金熔湯中におけるCuの質量割合は、例えば、24質量%以上80質量%以下程度となっている。
このような合金熔湯の温度としては、特に限定されないが、例えば、Ni、Co、Mn、及びFeの合計質量%を「T」とするとき、(1383+1.9×T)℃以上(1483+1.9×T)℃以下の範囲に調整し、温度調整した合金熔湯をアトマイズ装置1に注湯することが好ましい。このような温度に調整することで、合金熔湯の熔融状態が適切に維持されるとともに、アトマイズ装置1に注湯して合金粉体を製造したときに、より一層に粒径のばらつきが小さい合金粉体を得ることができる。
合金熔湯の温度調整は、上述した熔湯化工程S23での処理において熔解炉(図1に示す熔解炉5)で行うことができ、その熔湯化工程S23にて熔湯化するときの温度条件としてもよい。あるいは、熔湯化して合金熔湯を得たのちに、温度調整のステップを別途設けて熱源により熱を加える等することで調整するようにしてもよい。なお、熔解炉4を例えば誘導炉等により構成することで、所定の周波数の出力によって効率的に熱エネルギーを付加することができる。
また、熔解炉5からアトマイズ装置1のタンディッシュ11内に合金熔湯Mを注湯するに先立ち、空のタンディッシュ11内を、例えばLPGバーナーで1000℃以上に加熱しておいてもよい。これにより、タンディッシュ11内に貯められる合金熔湯Mと、熔解炉内の合金熔湯Mとの温度差が解消され、タンディッシュ11内に注湯された合金熔湯Mの温度低下を抑えることができ、適切な温度を維持できる。
さらに、落下する合金熔湯Mの単位時間当たりの平均質量に対する合金熔湯Mに噴射する高圧水の単位時間当たりの平均重量の倍率や、落下する合金熔湯Mの単位時間当たりの平均質量、合金熔湯Mに水を噴射するための高圧ポンプ17の給水圧力を所定の範囲に制御することで、合金粉体の粒径のばらつきを抑えることができる。例えば、合金熔湯Mに噴射する高圧水の単位時間当たりの平均重量を、例えば、落下する合金熔湯Mの単位時間当たりの平均質量の5.0倍~7.0倍程度とする。また、落下する合金熔湯Mの単位時間当たりの平均質量を10kg/min.~75kg/min.程度とする。また、合金熔湯Mに水を噴射するための高圧ポンプ17の給水圧力を8MPa~20MPa程度とする。なお、噴射する水はチラー19で冷却して温度を一定とする。
[酸浸出工程]
酸浸出工程S4(有価金属回収工程)では、製造された合金粉体に酸溶媒による浸出処理を施して、合金粉体からNi及びCoを酸溶媒に選択的に溶解する。また、それにより、銅(Cu)をNi及びCoから分離する。このようにして、Cuと分離した形態で、Ni及びCoの有価金属を回収することができる。
酸溶媒としては、有価金属の回収に用いられる公知の酸溶液を用いることができる。具体的に、酸溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。例えば酸溶液として硫酸を用い、その硫酸に合金粉体を浸漬させることで、合金粉体中のNi及びCoが硫酸溶液中に溶解し、溶液中で硫酸ニッケル及び硫酸コバルトになる。一方で、合金粉体中のCuは、溶解度の低い硫酸銅になり、残渣物として沈殿する。したがって、沈殿物となったCu成分(硫酸銅)を、Ni及びCoを含む溶液から分離することができる。
上述したように、合金粉体製造工程S3にて製造される合金粉体は、粒径のばらつきが小さい合金粉体である。そのため、酸浸出処理における浸出性と分離回収性に優れているという特徴がある。したがって、このような合金粉体、すなわちアトマイズ装置1を用いて製造された合金粉体を用いる、本実施の形態に係る有価金属の回収方法によれば、有価金属であるNi及びCoを高い浸出率でもって浸出できるとともに、Ni及びCoとCuとを高い分離性でもって分離回収することができる。
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
≪実施例、比較例≫
[実施例]
実施例及び比較例において、廃電池市場で流通しているリチウムイオン電池工場の中間品スクラップや無害化された使用済の廃電池を使用し(廃電池前処理工程S1)、その廃電池試料から合金熔湯準備工程S2を経て合金熔湯を得た。そして、合金粉体製造工程S3にて、得られた合金熔湯から、銅(Cu)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)とを構成成分として含む合金粉体を製造した。
合金粉体製造工程S3では、図1に構成例を示すようなアトマイズ装置(1)を用いた。すなわち、タンディッシュ(11)の内部が、上下方向の上方に向かうに従って、注湯される合金熔湯(M)の湯面の面積が大きくなるような形状である逆円錐台形状の水アトマイズ装置(1)を用いた。より具体的には、実施例1~4では、内部断面形状が図2に示すようなものであって、開口部(11a)の径R1と底部(11b)の径R2との比(R2/R1)が0.5であるタンディッシュ(11)を備えた水アトマイズ装置(1)を用いた(下記表2中では「逆円錐台形[1]と表記する」)。また、実施例5では、内部断面形状が図3に示すようなものであって、開口部(11a)の径R1と底部(11b)の径R2との比(R2/R1)が0.3であるタンディッシュ(11)を備えた水アトマイズ装置(1)を用いた(下記表2中では「逆円錐台形[2]と表記する」)。
なお、水アトマイズ装置(1)において、タンディッシュ(11)はアルミナ製であり、そのタンディッシュ11の底部(11b)にはノズル直径4mm~8mmのジルコニア製の出湯ノズル(11N)が装着されているものであった。
また、水アトマイズ装置(1)は、タンディッシュ(11)内の合金熔湯(M)の湯面高さ(Mh)を測定する計測部(31)と、測定された湯面高さMhに基づいてタンディッシュ(11)内への合金熔湯(M)の注湯量を制御する制御部(32)と、をさらに備えており、湯面高さ(Mh)が所定の高さで略一定となるように、熔解炉(3)の傾動角度を自動調整してタンディッシュ(11)への合金熔湯(M)の注湯量を調整した。
また、水アトマイズ装置(1)において、タンディッシュ(11)内に装入された合金熔湯(M)の湯面高さ(Mh)を測定する手段(計測部31)をタンディッシュ上方に設置した。より具体的には、実施例1、2、5では、湯面高さ(Mh)を測定する手段としてビデオカメラを使用し、遮光ガラスをビデオカメラとタンディッシュ(11)との間に装入して露出を調整し、タンディッシュ(11)内の合金熔湯上面の輪郭が明確に観察できるようにして撮像した。タンディッシュ(11)は逆円錐形状であるため、合金熔湯上面は円の形状として観察され、事前に円の直径と湯面高さ(Mh)との関係を演算式とすることでその円の直径からタンディッシュ(11)内の合金熔湯(M)の湯面高さ(Mh)を算出した。なお、タンディッシュ(11)内の合金熔湯(M)の上面の輪郭を明確にするために、画像処理によって二値化や多値化画像に変換して直径ではなく円の面積を数値化し、事前に求めた円の面積と湯面高さとの関係を演算式として使用した。
計測部(31)にて算出された湯面高さ(Mh)の情報は、制御部32に送られ、その制御部32による熔解炉(3)の傾動角度の調整により、熔解炉(3)からタンディッシュ11への合金熔湯(M)の注湯量を自動調整し、タンディッシュ(11)内の湯面高さMhを略一定に保った。これにより、タンディッシュ(11)から水アトマイズ加工へ供給する量も一定に維持された。
また、実施例3、4では、湯面高さ(Mh)を測定する手段としてサーモグラフィを使用し、熱画像として直接タンディッシュ(11)内の合金熔湯(M)の上面の輪郭が明確となるように撮像した。サーモグラフィを使用することで、そのサーモグラフィがタンディッシュ(11)内から放射される赤外線を検出し、温度分布を熱画像として捉えることができた。これにより、タンディッシュ(11)内の合金熔湯(M)の上面の輪郭から湯面高さ(Mh)を算出した。タンディッシュ(11)が逆円錐形状であるため、実際の湯面高さ(Mh)との関係式を事前に作成しておくことで、タンディッシュ(11)内の合金熔湯(M)の上面の輪郭から湯面高さ(Mh)を容易に求めることができた。
合金粉体製造工程S3では、周波数400Hzの誘導炉(熔解炉5)の出力により合金熔湯の温度を調整し、その誘導炉(5)を傾動させて、内部形状が逆円錐台形のタンディッシュ(11)へ合金熔湯(M)を流し込み、タンディッシュ(11)内の合金熔湯(M)の湯面高さをほぼ一定に保つとともに、出湯ノズル(11N)からの単位時間当たりの出湯量を一定にして、水アトマイズ装置(1)のチャンバー(13)内に合金熔湯(M)を供給した。このとき、計測部(31)にて測定したタンディッシュ(11)内の合金熔湯(M)の湯面高さ(Mh)の情報が制御部(32)に送られ、誘導炉(5)を傾動させてタンディッシュ(11)内に合金熔湯(M)を注湯する傾動装置の傾きを調整しながら行った。
制御部(32)による傾動装置の傾き調整は、油圧シリンダーを駆動する油の供給や油圧の開放を行うことで行った。より具体的には、制御部(32)において、測定された湯面高さ(Mh)が目標下限高さよりも低いと判断した場合には、油圧ポンプを作動させて傾動装置の傾きを大きくして誘導炉(5)を傾動させ、合金熔湯(M)の注湯量を増加させることによって湯面高さ(Mh)を目標高さまで自動で上昇させた。そして、湯面高さ(Mh)が目標上限高さまで達したと判断した場合には、油圧シリンダーの油を抜いて油圧を開放し、誘導炉(5)の傾動を戻して注湯量を減少させた。これを繰り返すことで、湯面高さ(Mh)を上限高さと下限高さの間に調整し、タンディッシュ(11)から落下供給される、単位時間当たりの熔湯合金量を一定にした。
なお、誘導炉(5)からタンディッシュ(11)への合金熔湯(M)の出湯にあたり、誘導炉(5)内の合金熔湯(M)の温度と、タンディッシュ(11)の出湯ノズル(11N)から出湯される合金熔湯(M)の温度とが同程度の温度に保持されるように、事前に空のタンディッシュ(11)内をLPGバーナーで1000℃以上に加熱しておいた。
水アトマイズ装置(1)では、ほぼ一定の出湯量でタンディッシュ(11)から出湯ノズル(11N)を介してチャンバー(13)内に合金熔湯を供給し、出湯ノズル(11N)から落下した合金熔湯に対してチャンバー(13)の上部に設けた流体噴射ノズル(12)から高圧水を噴射し、熔滴状に粉砕して合金粉体を製造した。チャンバー(13)内で得られた合金粉体は、回収配管(14)を介してフィルタ(15)まで移送させ、そこで固液分離した回収した。
[比較例]
比較例1では、水アトマイズ装置として、内部断面形状が図4に示すような円筒形状のタンディッシュ(100)を備える装置を用い、また、タンディッシュ(100)内の合金熔湯の湯面高さを測定する装置を設けなかったこと以外は、実施例と同様にして合金粉体を製造した。
また、比較例2、3では、水アトマイズ装置として、タンディッシュ内に装入された合金熔湯の湯面高さを測定する装置を以下のものとしたこと以外は、実施例と同様にして合金粉を製造した。
具体的に、比較例2では、音波を用いて合金熔湯の湯面高さを測定した。しかしながら、音波を用いた湯面高さの測定では、測定範囲の空気の温度の影響を強く受け、高温であるほど音速は速くなるために温度が高い場合と低い場合とで測定結果に違いが生じ、利用できなかった。また、工場内に空気の流れがある場合にはその流れの方向や強さによって湯面高さの算出結果にばらつきが生じ、またタンディッシュからの放射熱や熱気流の影響を軽減するために測定器とタンディッシュとの間に熱線遮蔽板等を装入することもできず、利用できなかった。
また、比較例3では、タンディッシュの重量変化からタンディッシュ内の合金熔湯の重量を得ることによって湯面高さを算出した。しかしながら、水アトマイズ法では、タンディッシュと水アトマイズ加工チャンバーとの間は水素爆発を防止するため空気の流入が無いように密閉させなければならず、タンディッシュとチャンバーは一体化されるため、重量の測定手段を配置することができず、測定することができなかった。なお、チャンバーを含む重量を測定しようとしても水や粉の重量も含まれてしまい、タンディッシュ内の合金熔湯の重量は全体の重量に比べて小さすぎてしまい、湯面高さの変動を重量変動からは精度よく検出することはできなかった。
≪結果及び評価≫
下記表1に、実施例1~5及び比較例1~3の各試験例での合金熔湯の組成を示す。なお、表1では、ガス成分(炭素、窒素、酸素)を除く化学定量分析結果の組成を示している。
また、下記表2に、実施例1~5及び比較例1の各試験例における合金粉体の製造条件とその試験結果を示す。
各試験では、それぞれの条件で合金粉体(アトマイズ粉)を製造加工したときの加工時における異常の有無、製造した合金粉体の粒度分布、及びその合金粉体を酸浸出したときの酸浸出効率を評価した。
アトマイズ加工時の異常に関しては、加工中に出湯ノズル(11N)における湯詰まりの発生について確認し、湯詰まりの異常が発生した場合を異常有り(表中に「有」と表記)とし、湯詰まりの異常が発生しなかった場合を異常無し(表中に「無」と表記)として評価した。
合金粉体の粒度分布については、粒径300μm以上の粗粒粉の発生がなく、また5μm未満の微粉の発生がなかった場合を良好(表中に「○」と表記)と判断し、粗粒粉及び微細粉のいずれか又はその両方が発生した場合を不良(表中に「×」と表記)と判断して評価した。
酸浸出効率に関しては、各試験例で製造した、Cuと、Niと、Coと、を構成成分として含む合金粉体を硫酸溶液に浸漬させて酸浸出処理を行い、処理開始から6時間以内に98%以上の溶解率(浸出率)でNi及びCoが溶解した場合には酸浸出効率が良好(表中に「○」と表記)と判断し、98%未満の溶解率であった場合には酸浸出効率が不十分(表中に「×」と表記)と判断して評価した。なお、硫酸溶液は、Ni及びCoが硫酸塩として溶解するのに必要な硫酸量の2.0当量~3.0当量となる量を用意した。
実施例1~4では、タンディッシュ(11)内の形状が逆円錐台形に形成されたものを用いて合金粉体を製造したことにより、製造された合金粉体について、粒径300μm以上の粗粒粉や5μm未満の微粉の発生はなかった。さらに、合金粉体に対する酸浸出においても、6時間以内に98%以上のNi及びCoが溶解して良好であった。また、アトマイズ加工中は湯詰まり等の異常は発生せず良好な操作が可能であった。
また、実施例5でも、タンディッシュ(11)内の形状が逆円錐台形に形成されたものを用いて合金粉体を製造したことにより、製造された合金粉体については、粒径300μm以上の粗粒粉や5μm未満の微粉の発生はなかっただけでなく、5μm以上の範囲での微粉の割合が少なく、よりシャープな粒度分布であった。このことは、実施例5では、実施例1~4で用いた装置よりもR2/R1の比率がより小さい略逆円錐形に形成されたものを用いて合金粉体を製造したことで、タンディッシュ(11)内の合金熔湯が少なくなった段階においても、出湯ノズル(11N)からの供給量の変動が少なかったためと考えられる。さらに、合金粉体に対する酸浸出においても、6時間以内に98%以上のNi及びCoが溶解して良好であった。また、アトマイズ加工中は湯詰まり等の異常は発生せず良好な操作が可能であった。
一方で、比較例1では、タンディッシュ(100)内の形状が従来型の円筒形状に形成されたものを用い、さらに湯面高さを測定せずに合金粉体を製造したことにより、アトマイズ加工中は湯詰まり等の異常は発生しなかったものの、粒径300μm以上の粗粒が発生し、また5μm未満の微粉が発生した。また、その合金粉体に対する酸浸出においても、6時間以内でのNi及びCoの溶解率が98%未満となった。