JP7077498B2 - 金属回収方法 - Google Patents

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Description

本発明は、二次電池の回収物からニッケルやコバルトなどの有価金属を回収する金属回収方法に関するものである。
近年、携帯電話やコンピューターの需要増加、並びに、自動車電動化に伴い、二次電池、例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池の需要が急激に増加している。これらの二次電池は、正極あるいは負極に、コバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属を含んでおり、使用済みの二次電池からの有価金属回収は資源の有効活用の観点から極めて重要な社会的課題となっている。
また、二次電池の需要増加に伴い、製造工程で発生する二次電池の不良品(工程屑)の量も増加傾向にあり、有価物を含むこれら工程屑からの有価金属の回収もまたきわめて重要な課題である。
なお、二次電池は、正極、負極、セパレーターが層状に重ねられた構造となり、これらの層状構造が鉄やアルミ製の筐体に厳重に収められている。また、筐体や電極以外の部材、例えば負極集電体にも、銅などの元素が含まれている。そのため、ニッケル及びコバルトなどの有価金属を回収するためには、上述した鉄、アルミ、銅などの金属元素を安全に事前除去する必要があり、有価金属の回収に先立ち加熱、破砕、選別等の前処理工程が行われている。
このような前処理工程を経て得られた二次電池の回収物には、ニッケル及びコバルトを含む酸化物や金属が混合物となって存在している。このような二次電池の回収物からニッケルやコバルトを得る方法としては、酸化物を酸に溶解後、溶媒抽出、電解精錬するような方法が主流である。ただ、このような酸を用いる方法、言い換えれば湿式の方法は、高コストであることが課題で、より低コストな有価元素回収技術が望まれてきた。
一方、還元剤を用いて二次電池の回収物からニッケルやコバルトを得る方法としては、以下に示す特許文献1~特許文献3の方法も知られている。
特許文献1には、安全かつ簡便で、経済性に優れ、しかも高純度、高収率で廃二次電池から有価金属を回収することを目的とする有価金属の回収方法が記載されている。
特許文献1の方法は、廃二次電池を物理分別し、分離工程により分離された負極材にカーボンまたはプラスチックを添加して還元溶融処理する還元・溶融処理工程を備えたものとなっている。
特許文献2には、リチウム二次電池の製造過程において大量に発生するコバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属の金属酸化物からなる副産物から、効率よく有価金属を回収する有価金属の回収方法が記載されている。特に、特許文献2は、二次電池の製造過程で発生するアルカリ金属を含む金属酸化物から有価金属を回収するものとなっている。
具体的には、上述した特許文献2の方法では、二次電池の製造過程で発生するアルカリ金属を含む金属酸化物に、還元剤及び造滓材を加えて溶融し、金属酸化物を還元して沈降させることで有価金属を回収するものとなっている。
特許文献3には、低コストで残留硫黄分を除去することにより、有価金属の純度価値を高め、かつ、熔融工程で生成される残留硫黄由来の低融点組成スラグが、熔融装置の耐火物、例えば不定形耐火材等を浸食することによる耐火材の損傷を防ぐことができるコバルト等の有価金属の回収方法が記載されている。
具体的には、上述した特許文献3の方法では、(1)予備焙焼処理、つまり粉砕処理及び篩分け処理を経て、1次濃縮物を得る処理、(2)1次濃縮物を硫酸で溶解処理し、溶液を得る工程、(3)溶液を水酸化処理後、低硫黄化処理する工程、(4)溶融し、有価金属を回収する工程が行われ、(4)の熔融工程において、熔融助剤(高炉水砕スラグ)および還元剤(コークス)を添加し混合し、混合物を1500℃で30分間保持することで、有価金属を回収可能としている。
国際公開第2000/025382号公報 特開2000-226619号公報 特開2016-037661号公報
ところで、特許文献1の方法は、同文献の第6表~第11表の実施例からも明らかなように、塊成物の状態で還元を行う方法ではないため、塊成物中での回収物と還元剤との混合比率である「O/R」、言い換えれば本発明で指針として用いられる「O/R」を計算可能な根拠は全く開示されていない。また、特許文献1の酸素濃度を還元剤の濃度で除した比率を算出しても、特許文献1には算出した比率がいずれも1以上となる例しか記載されておらず、本発明とはかけ離れた比率で還元が行われていることは明らかである。加えて、特許文献1には還元剤の粒度に関する記載が無い。そのため、特許文献1に本発明の契機となるような知見を見出すことはできない。
また、特許文献2の比較例を見ると、還元剤(Fe)の量が記載されているので、還元剤の量もわかるように見える。しかし、特許文献2の方法で用いられる還元剤はFeSiである。それゆえ、特許文献2にはSi量の記載が無いので、上述した「O/R」を計算することは不可能である。また、FeSiと一言で言っても、Fe/Si比は同じ金属でもさまざまに変動する場合があり、Si量の記載が無い以上、上述した比率「O/R」を厳密に計算することは不可能である。さらに、特許文献2においては、同文献の図1にあるように、FeSiを塊成物中のみならず、溶融状態の金属/酸化物浴中に段階的に投入するため「O/R」を計算することは困難であり、塊成物中の酸素量/還元剤量の比率(O/R)が溶融後に得られる金属の磁選回収効率等に及ぼす影響にも言及されていない。加えて、特許文献2にも還元剤の粒度に関する記載が無い。そのため、特許文献2に本発明の契機となるような知見を見出すことはできない。
さらに、特許文献3の実施例には、上述した混合比率「O/R」を計算可能な例があるが、算出される値は本発明の範囲外(O/R=1)である。また、特許文献3は、コバルトのみならずニッケルが入っている場合について言及されていない。そのため、この特許文献3に本発明の契機となるような知見を見出すことはできない。
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みて創出されたものであり、二次電池の回収物から、全世界的に資源制約のあるニッケルやコバルトを、安価かつ効率よく、金属の状態で回収することができる金属回収方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の金属回収方法は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の金属回収方法は、二次電池の電極体を、少なくとも加熱、破砕し、少なくともニッケル、コバルトが酸化物の状態で残された回収物に、炭素を含む粉状体を還元剤として作用させて前記酸化物を還元し、前記回収物から金属のニッケル及びコバルトを有価物として回収する金属回収方法において、前記酸化物を含む回収物に還元剤を混合して混合物とし該混合物を塊成物に成形する第1の工程を行い、前記第1の工程で成形された塊成物については、該塊成物を加熱することにより前記酸化物のうちからニッケル及びコバルトの酸化物を還元する第2の工程を行い、前記第2の工程で還元が行われた後で、前記塊成物を加熱することにより酸化物を溶融することで、前記第2の工程で還元されて生成した金属のニッケル及びコバルトを、溶融した酸化物から分離する第3の工程を行い、前記分離された金属のニッケル及びコバルトを冷却後に回収する第4の工程を行うものであって、還元前の塊成物中において、ニッケルまたはコバルトと化合している酸素量をO[mol/kg]、塊成物中の還元剤の含有量をR[mol/kg]とした場合に、酸素量O[mol/kg]を還元剤の含有量R[mol/kg]で除した「O/R」が、0.14≦O/R≦0.97を満足し、かつ、前記第2及び第3の工程において、前記塊成物の加熱する際の加熱温度を1400℃以上とすることを特徴とする。
なお、好ましくは、前記還元剤として、炭素、金属Al、金属Siのうちの少なくとも一つ以上を用いるとよい。
なお、好ましくは、前記還元剤の組成は、前記粉粒体の粒径75μm以下の積算体積が65%以上とされているとよい。
本発明の金属回収方法によれば、二次電池の回収物から、全世界的に資源制約のあるニッケルやコバルトを、安価かつ効率よく、金属の状態で回収することができる。
酸素量と還元剤の含有量との比、及び加熱温度が、金属のニッケル及びコバルトの回収率に及ぼす影響をまとめた図である。
以下、本発明に係る金属回収方法の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1に示すように、本発明の金属回収方法は、二次電池から得られた回収物から金属のニッケル及びコバルトを有価物として回収するものとなっている。具体的には、本実施形態の場合であれば、ニッケルやコバルトの酸化物を含む回収物に還元剤を作用させて、酸化物を還元し、金属の状態(還元された状態)でニッケルやコバルトを、磁選などの手法を用いて回収するものとなっている。
詳しくは、本発明の金属回収方法は、酸化物を含む回収物に還元剤を混合して混合物(例えば混合粒など)としこの混合物を加熱することにより酸化物を還元し、還元後の混合物を溶融することで金属のニッケル及びコバルトを混合物中で分離するものであるか、酸化物を含む回収物に還元剤を混合して混合物としこの混合物を塊成物に成形した上でこの塊成物を加熱することにより酸化物を還元し、還元後の塊成物を溶融することで金属のニッケル及びコバルトを塊成物中で分離するものである。
なお、混合物の状態で加熱を行うよりも、塊成物として加熱して還元を行えば、還元反応の反応効率を高めることができる(反応速度を上げることができる)ため好ましい。
さらに、還元が終了した混合物或いは塊成物からは金属のニッケル及びコバルトを回収する必要があるが、本発明の金属回収方法では、還元後の混合物或いは塊成物を酸化物が溶融する温度以上に加熱することで、金属のニッケル及びコバルトを混合物或いは塊成物中で酸化物から分離し、金属のニッケル及びコバルトを冷却後に磁力を用いて簡便に回収するものとなっている。
特記すべきは、上述した溶融分離を可能とするように、本実施形態の金属回収方法では、還元前の混合物或いは塊成物中において、ニッケルまたはコバルトと化合している酸素の量を、混合物或いは塊成物の単位重量当たりでO[mol/kg]とし、混合物或いは塊成物中の還元剤の含有量をR[mol/kg]とした場合に、酸素量O[mol/kg]を還元剤の含有量R[mol/kg]で除した「O/R」が、0<O/R≦0.97という関係を満足し、かつ、加熱温度が1400℃以上で混合物或いは塊成物を加熱するものとされている。
以降では、本発明の金属回収方法について詳しく説明する。
本発明の金属回収方法を用いて有価金属を回収する回収物は、二次電池(主には使用済みの二次電池)、あるいは二次電池の製造工程で発生した工程屑を有するものである。具体的には、上述した二次電池としては、例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池などを挙げることができ、これらの電池は携帯電話、コンピューターの需要増加や、自動車電動化に伴い、近年になって需要が急激に増加している。これらの二次電池は、正極あるいは負極に、コバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属を含んでおり、使用済み電池からの有価金属回収は資源の有効活用の観点から極めて重要な社会的課題となっている。また、二次電池の需要増加に伴い、製造工程で発生する二次電池の不良品(工程屑)の量も増加傾向であり、有価物を含むこれら工程屑からの有価金属を回収することも重要な課題の一つである。
ただ、上述した二次電池の電極体は、正極、負極、セパレーターが層状に重ね合わされた層状構造となっており、これらの電極体は鉄やアルミ製の筐体に厳重に収められている。また、筐体以外の部分、例えば負極集電体は銅などで形成されており、ニッケル及びコバルト以外にも有価物として様々な元素(金属)が二次電池には含まれている。そのため、これらの様々な金属を安全に事前除去するため、二次電池の回収物については、最初に加熱、破砕、選別等の前処理が行われており、これらの前処理を既に行ったものが本発明の金属回収方法で扱われる回収物となる。
すなわち、前処理で、リチウム、カルシウム、アルミニウムやそれらの酸化物以外の金属、例えば、鉄などが取り除かれ、ニッケル、コバルト、マンガンなどが主に酸化物の状態で残されたものが、本明細書における「回収物」と言われるものになる。
本発明の金属回収方法を用いて上述した回収物から有価金属を回収するに際しては、以下の4つの工程が行われる。
上述した回収物に対しては、回収物に還元剤を混合する工程(混合工程)、或いは該混合したものをさらに塊成物に成形する工程(混合・塊成化工程)が第1の工程として行われる。この第1の工程において回収物に混合される還元剤には、炭素、金属Al、または金属Siが好ましくは用いられる。この還元剤に用いられる炭素は、酸化状態となっていない単体の炭素で構成されるものであり、例えば、石炭、木炭、コークス、黒鉛、グラファイトなどの粉粒体を用いることができる。また、金属Al及び金属Siは、酸化されていない状態(酸素と化合可能な状態)のものであり、例えば金属Al及び金属Siの粉末(粉粒体)などが用いられる。
粉粒体とされた還元剤としては、回収物と均一に混合され、反応速度が大きくなるように、粒径75μm以下の積算体積が65%以上とされたものを用いるのが好ましい。言い換えれば、還元剤には、上述した粒度となるように、篩い分けなどの手段を用いて粒度調整されたものが用いられる。
上述した回収物には主に、リチウム、カルシウム、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム等の酸化物が含まれている。上述した還元剤を適切に選択することで、回収物に含まれる元素のうち、ニッケルやコバルトなど、比較的貴な元素は酸化物の状態から単体の金属に還元される。一方、リチウムやカルシウムなど、比較的卑な物質は、上述した還元剤では還元されることはないため、酸化物の状態のままで変化することがない。
また、上述した回収物及び還元剤には、バインダとして、蝋蜜、小麦粉などの有機バインダー、またはベントナイトなどの無機バインダを加え、適宜水を加えて混合することで、ペレットなどの塊成物に成形可能となっている。
上述した回収物と還元剤とは、混合された後、ペレタイザーなどを用いて、直径が5~50mmの短い円柱状のペレットや、直径が5~50mmの扁平球状の塊成物(球を平たく押しつぶしたような形状、ブリケット状ともいう)に形成される。このような塊成物の状態にした上で還元反応を行うことで、還元剤と回収物との接触面積が大きくなり、還元反応の効率が向上する(反応速度が大きくなる)。
第1の工程で成形された混合物或いは塊成物については、第2の工程として、加熱により混合物或いは塊成物中での還元剤の還元反応を促進させて、コバルトやニッケルの酸化物を単体の金属に還元する工程(加熱工程)である。
具体的には、上述したように、還元剤により酸化物から単体の金属に還元される主な元素はニッケル及びコバルトである。つまり、混合物或いは塊成物に含まれるニッケルの酸化物及びコバルトの酸化物を十分に還元させるだけの還元剤を投入する必要がある。
一方、例えば還元剤に炭素(C)を選択した場合、炭素は還元剤として利用されるのみならず、加熱後生成した単体の金属と化学反応して炭素の合金(炭化物)が生成する場合があるため、回収物に対して還元剤を必要以上に配合するのは好ましくない。
つまり、混合物或いは塊成物中のニッケル、コバルトと化合している酸素量O[mol/kg]と、還元剤の量R[mol/kg]との比(配合比)には適切な範囲が存在すると考えられる。本発明者は、鋭意検討の結果、混合物或いは塊成物中のニッケル、コバルトと化合している酸素量Oと、混合物或いは塊成物中での還元剤の量Rとの比率、言い換えれば、酸素量Oを還元剤の量Rで除した値について、以下の式(1)に示すような適切な範囲が存在することを把握した。
0<O/R≦0.97 ・・・(1)
なお、表1に示すように、混合物或いは塊成物中のニッケル、コバルトと化合している酸素量O[mol/kg]とは、混合物或いは塊成物中においてニッケルについては、すべての酸化物がNiOの状態で存在しているものと考え、またコバルトについてもすべての酸化物がCo2O3の状態で存在しているものと考えて、混合物或いは塊成物の単位重量当たりのモル濃度を求めたものである。
また、混合物或いは塊成物中での還元剤の量Rとは、単位重量当たりの混合物或いは塊成物に含まれるすべての還元剤のモル濃度を示している。
Figure 0007077498000001
なお、上述した式(1)により求められる「O/R」の値は、好ましくは0.42≦O/R≦0.97、より好ましくは0.53≦O/R≦0.97とされるのが良い。「O/R」の値が上述した範囲に規定されるのは、以下の2つの理由による。
すなわち、
理由(1):「O/R」の値が1を超えると、酸素量に対して還元剤の量が不足し、ニッケル及びコバルトの酸化物の金属化が不十分となる。その結果、酸化物とメタルとが十分に分離せず、有価物を回収することが困難となる。
理由(2):「O/R」が低くし過ぎると、酸素量に対して還元剤の量が十分となるため、酸化物の還元が不十分となる事態は起こり難い。しかし、還元せずに混合物或いは塊成物中に残留した還元剤により金属及び酸化物の凝集が阻害され、磁選を行う際にメタルや酸化物が微細化してしまい、冷却後の磁選で分別する際の磁選効率が低下してしまう可能性がある。
そこで、本発明の金属回収方法では、「O/R」の値を0より大きく、好ましくは0.42以上、より好ましくは0.53以上であって、且つ、0.97以下とすることで、金属のコバルト及びニッケルと、酸化物とを確実に分離して、高い回収率で金属のコバルト及びニッケルを回収可能としている。
第2の工程で還元が行われた後の混合物或いは塊成物については、混合物或いは塊成物を酸化物の溶融温度以上で溶融することで、金属のニッケル及びコバルトを混合物或いは塊成物中で分離する工程(溶融分離工程)が第3の工程として行われる。
すなわち、上述したようにリチウムやカルシウムなどのような比較的卑な金属は、還元剤を用いても還元されず、酸化物のままとなる。このような酸化物を加熱して融解させると、還元されて生成した金属のニッケル及びコバルトと、還元されずに混合物或いは塊成物中に残っている酸化物とが凝集・分離を起こし、冷却後に金属を磁選にて回収しやすくなる。言い換えれば、この第3の工程は、最終の磁選工程(第4の工程)で、強磁性体の金属ニッケル及び金属コバルトを磁選しやすくするための準備工程となっている。
なお、第3の工程で混合物或いは塊成物を加熱する際の加熱温度、言い換えれば還元反応を実施する温度は、1400℃以上とされている。このように1400℃以上で混合物或いは塊成物を加熱することで、金属のニッケル及びコバルトと、混合物或いは塊成物中に残っている酸化物とを、確実に分離することが可能となる。一方、加熱温度を1500℃以上とすると、炉の耐火物の損傷が激しくなり、耐火物交換のための費用が大きくなる。それゆえ、経済性の観点からは、第3の工程での加熱温度は1500℃未満が好ましく、更には1450℃以下が好ましい。
第3の工程で溶融分離が行われた混合物或いは塊成物については、第4の工程として、冷却後に磁選などの手段を用いることにより、混合物或いは塊成物から金属のニッケルやコバルトが、安価かつ効率よく、回収される。
次に、比較例及び実施例を用いて、本発明の有価金属の回収方法が有する作用効果について詳しく説明する。
実施例及び比較例は、三元系正極材(ニッケル、コバルト、マンガンを含む正極材)の回収物(以降、原料という場合がある)に対して、還元剤として瀝青炭(以降、炭材という場合がある)を所定の配合比で配合し、さらにバインダー及び水を添加した後、直径が10mm~30mmの球状に成形し、成形後に乾燥機で乾燥させてサンプルを作製した。なお、上述した回収物に対する還元剤の配合比、言い換えればサンプルにおける還元剤の配合率は、実施例のもので塊成物の単位重量当たり11.16%~46.49%とし、比較例のもので塊成物の単位重量当たり9.58%~12.53%とした。
なお、還元剤に用いる瀝青炭には、レーザー回折・散乱法にて測定した場合に、粒度75μm以下の積算体積が65%以上の粒度分布が得られるように、ボールミルにて粉砕したものを使用した。
上述した塊成物のサンプルが作製されたら、各サンプルを無煙炭を敷き詰めたグラファイト坩堝内の上に設置し、高周波にてグラファイト坩堝を加熱し、坩堝からの輻射加熱によりサンプルを溶解させた。なお、所定温度に到達するまでは約100℃/minで昇温を行い、所定温度に到達した後は6分間に亘って同じ温度にサンプルを保持した。この加熱の際には、塊成物の横に設置したR熱電対にて常時計測した。また、サンプルを保持する温度(加熱温度)は、実施例で1400℃、比較例で1300℃、1350℃、1375℃、1400℃とした。さらに、坩堝内にはN2ガスやArガスを、塊成物への直接吹き付けが生じないように供給し、坩堝内をN2及びArの不活性雰囲気(非酸化雰囲気)とした。
上述した加熱と溶融を行ったサンプルについては、実際に磁選を行って、有価金属が効率的に回収可能であるかどうか評価した。
具体的には、溶融後のサンプルを冷却した後、3.35mmの目開きを有する篩を用いて篩い分けを行った。このようにして篩い分けを行った後、篩上に残ったものについて磁選を行った。
上述した篩い分けと磁選を行った結果、篩上に残ったものから磁選にてメタルを分別できたものを「○」の評価とした。また、篩い分けにおいて全ての塊成物が篩下となったものを「△」の評価とした。さらに、そもそもメタル/スラグ分離しないものを「×」の評価とした。
上述した評価結果としたのは、次のような理由からである。
すなわち、回収物に含まれるメタル/スラグは最終的に磁選等の方法で分別され、回収される。例えば、分別手段に磁選を選択した場合には、磁着物がニッケルやコバルトなどのメタル、非磁着物がスラグなどに分別される。
上述した回収物に還元材が適正に配合されていれば、加熱時にメタル同士が合体して凝集を起こすと共に、スラグ同士が合体して凝集を起こし、磁選の際には良好な磁選効率でメタルとスラグが分別される。
しかし、還元材が回収物に過剰に含まれる場合、還元に使用されずに塊成物中に残留した還元材により、金属やスラグの合体、凝集が阻害され、塊成物中に生成するメタル/スラグが細かくなり(粒径が小さくなり)、磁選効率が低下してしまう。つまり、磁選効率の良し悪しは、塊成物中に生成されるメタル/スラグの粒径で決まり、磁選効率の良し悪しを左右する粒径の閾値は3.35mmであることから、3.35mmの目開きを有する篩を用いて篩い分けが可能かどうかで、○(良好な磁選効率でメタルが磁選される場合)と、△(良好な磁選効率とはいえないが、メタルの磁選は可能となる場合)を判定するようにしている。
なお、加熱が低温(1400℃より低い温度)となる、あるいは塊成物中で還元材が不足する(O/Cが0.97より大きくなる)場合、そもそもメタルとスラグが溶融分離しないため、塊成物の形状を保持したまま炉外へ排出することとなり、この場合は篩い分けしても塊成物の全てが篩上に残り、さらに磁選でメタル/スラグを分離できないため、×(メタル/スラグの分別は不可能)とした。
上述した実施例及び比較例の結果については、表2にまとめて示している。
Figure 0007077498000002
表2に示すように、「O/R」が0.97より大きい1.09や1.15とされ、加熱温度も1350℃と1400℃より低いNo.1、No.2、No.5の実験例は、塊成物中で還元材が不足した状態となり、加熱温度も低いため、有価物の回収結果は「×」の結果となる。
一方、「O/C」が0.97より小さい0.85であっても、加熱温度が1300℃や1350℃と1400℃より低いNo.4、No.6の実験例は、塊成物中で還元材は不足しないが、加熱温度が低いため、有価物の回収結果は「×」の結果となっている。
また、加熱温度が1400℃であっても、「O/R」が0.97より大きい1.15とされたNo.3の実験例は、加熱温度は十分に高温であるが、塊成物中で還元材が不足するため、有価物の回収結果は「×」の結果となっている。
上述したNo.1~No.2の実験例、言い換えれば比較例に比して、「O/R」が0.97以下であって0より大きく、且つ、加熱温度が1400℃以上を満足するNo.9~No.14の実験例は、塊成物中で還元材が不足することがなく、加熱温度も十分に高いため、有価物の回収結果は「○」または「△」の結果となっている。
なお、No.9~No.14の実験例、言い換えれば実施例の中でも、「O/R」が0.14や0.42であるNo.13及びNo.14の実験例は、篩い分けにおいて全ての塊成物が篩下となっており、3.35mmの目開きを有する篩を用いて篩い分けができない。つまり、No.13及びNo.14の実験例は、磁選は可能であっても、磁選の効率はNo.9~No.12の実験例よりも良くないと判断される。このことから、No.9~No.12の実験例については「○」の評価結果、No.13及びNo.14の実験例については「△」の評価結果とした。
上述したNo.1~No.14の実験結果を横軸に「O/C」縦軸に「加熱温度」をとってまとめると、図1に示すような結果となる。
すなわち、図1に示すように、図中に斜線で示される範囲、すなわち「O/R」が0より大きいと共に0.97以下となり、且つ、加熱温度1400℃以上となる範囲に含まれる実験例は、いずれも「○」または「△」の結果となる。これに対して、上述した斜線の範囲外に存在する実験例は、いずれも「×」の結果となる。
以上のことから、二次電池から得られた回収物に還元剤を混合して塊成物を成形し、成形した塊成物を加熱することにより酸化物を還元し、還元後の塊成物を溶融することで金属のニッケル及びコバルトを塊成物中で分離し、塊成物中で分離した金属のニッケル及びコバルトを冷却後に磁選を用いて有価物として回収するする際に、還元前の塊成物中において、ニッケルまたはコバルトと化合している酸素量をO[mol/kg]、塊成物中の還元剤の含有量をR[mol/kg]とした場合に、酸素量O[mol/kg]を還元剤の含有量R[mol/kg]で除した「O/R」が、0<O/R≦0.97という関係を満足するように塊成物を形成し、かつ、塊成物の加熱する際の加熱温度を1400℃以上として加熱を行うことで、二次電池の回収物から資源制約のあるニッケルやコバルトを、安価かつ効率よく、金属の状態で回収することができる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。

Claims (3)

  1. 二次電池の電極体を、少なくとも加熱、破砕し、少なくともニッケル、コバルトが酸化物の状態で残された回収物に、炭素を含む粉状体を還元剤として作用させて前記酸化物を還元し、前記回収物から金属のニッケル及びコバルトを有価物として回収する金属回収方法において、
    前記酸化物を含む回収物に還元剤を混合して混合物とし該混合物を塊成物に成形する第1の工程を行い、
    前記第1の工程で成形された塊成物については、該塊成物を加熱することにより前記酸化物のうちからニッケル及びコバルトの酸化物を還元する第2の工程を行い、
    前記第2の工程で還元が行われた後で、前記塊成物を加熱することにより酸化物を溶融することで、前記第2の工程で還元されて生成した金属のニッケル及びコバルトを、溶融した酸化物から分離する第3の工程を行い、
    前記分離された金属のニッケル及びコバルトを冷却後に回収する第4の工程を行うものであって、
    還元前の塊成物中において、ニッケルまたはコバルトと化合している酸素量をO[mol/kg]、塊成物中の還元剤の含有量をR[mol/kg]とした場合に、酸素量O[mol/kg]を還元剤の含有量R[mol/kg]で除した「O/R」が、0.14≦O/R≦0.97を満足し、
    かつ、
    前記第2及び第3の工程において、前記塊成物の加熱する際の加熱温度を1400℃以上とする
    ことを特徴とする金属回収方法。
  2. 前記還元剤として、炭素、金属Al、金属Siのうちの少なくとも一つ以上を用いることを特徴とする請求項1に記載の金属回収方法。
  3. 記還元剤の組成は、前記粉粒体の粒径75μm以下の積算体積が65%以上とされている
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の金属回収方法。
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