JP2021066903A - 有価金属を回収する方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】有価金属を安価に回収できる方法を提供すること。【解決手段】有価金属を回収する方法であって、以下の工程:有価金属として少なくとも銅(Cu)を含む装入物を準備する工程と、前記装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して、有価金属を含有する熔融合金と、スラグと、を含む還元物にする工程と、前記還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収合金として回収する工程と、前記回収合金の少なくとも一部を硫化して、硫化物含有物質にする工程と、を含み、前記還元熔融処理の加熱温度が1300℃以上1550℃以下であり、前記硫化の際、硫化物含有物質中の銅(Cu)に対する硫黄(S)のモル比(S/Cu比)を0.50以上にする、方法。【選択図】図1

Description

本発明は有価金属を回収する方法に関する。
近年、軽量で大出力の電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に負極材と正極材とセパレータと電解液とを封入した構造を有している。ここで、外装缶は鉄(Fe)やアルミニウム(Al)等の金属からなる。負極材は負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータはポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなる。電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む。
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため、自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みである。また製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池がある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」)を資源として再利用することが求められている。
再利用の手法として、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属を極力酸化してこれをスラグとする一方で、有価金属の酸化を極力抑制してこれを合金として回収する。
例えば、特許文献1は、銅製錬炉でリチウムイオン電池からエンタルピー及び金属を回収するプロセスであって、前記製錬炉に有用な供給原料及びスラグ形成剤を供給する工程と、発熱剤及び還元剤を添加する工程と、を含み、前記発熱剤及び/又は還元剤の少なくとも一部が、金属鉄、金属アルミニウム、及び炭素のうちの1つ以上を含むリチウムイオン電池に置き換えられることを特徴とする、プロセスを開示している(特許文献1の請求項1)。
また特許文献2は、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、前記廃リチウムイオン電池を600℃以上の温度で焙焼して酸化処理を行う酸化焙焼工程と、酸化焙焼により得られた酸化焙焼物を、炭素の存在下で還元熔融して、スラグと有価金属を含む合金とを得る還元熔融工程と、を有する有価金属の回収方法を開示している(特許文献2の請求項1)。また特許文献2には廃リチウムイオン電池から、乾式製錬プロセスによってリンを効率よく除去しながら有価金属を効果的に回収する方法を提供することが課題である旨、還元熔融処理での炭素の存在量をコントロールすることによって、リンの還元を抑制するとともにリンを有効に分離して、リン品位の低い合金を得ることができる旨が記載されている。
さらに特許文献3は、廃リチウムイオン電池に含まれるリンを除去するリンの除去方法であって、前記廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去した後、該電池の内容物を粉砕して粉砕物とする粉砕工程と、前記粉砕物を500℃以上1200℃以下の温度で酸化焙焼する酸化焙焼工程と、前記酸化焙焼工程により得られた酸化焙焼物を還元する還元工程と、前記還元工程により得られた還元物を熔融して合金化する熔融工程と、熔融合金を部分硫化して、硫化物と、リンを含む残留合金とを得る部分硫化工程と、前記硫化物と前記残留合金とを分離することによってリンを除去する分離工程とを有する、リンの除去方法が開示されている(特許文献3の請求項1)。また特許文献3には、硫黄の添加量を調整しながら部分硫化を行って硫化物を残留合金との2相を生成させるようにすることで、有価金属を硫化物とする一方で、リンを残留合金中に残留させることができ、有価金属から効果的にリンを分離して除去することができる旨が記載されている(特許文献3の[0051])。
国際公開第2015/096945号 特開2019−135321号公報 特開2018−197385号公報
特許文献1に開示されるように、銅製錬炉を用いることができれば、銅製錬にあわせてリチウムイオン電池から銅やニッケルなどの有価金属を効率的に回収することができる。一方で、コバルトは、銅製錬ではスラグに分配されるため、これを回収することができない。コバルトを回収するためには、廃リチウムイオン電池に焙焼等の処理を施して、合金とスラグを分離して、得られた合金を湿式処理する方法が考えられる。
しかしながら、このような方法でも課題が残されている。合金の湿式処理では、合金に含まれる有価金属(銅、ニッケル及びコバルト)を酸を用いて溶解し抽出する。しかしながら、銅、ニッケル及びコバルトは酸に溶けにくい。合金を塊状のまま湿式処理すると、溶解に時間がかかり、コスト増につながるという問題がある。これに対処すべく、粉砕により合金を微粉化して、有価金属の溶解を促進させる方策が考えられる。しかしながら、有価金属(銅、ニッケル及びコバルト)を含む合金は非常に硬く展延性もあるため、粉砕による微細化が困難である。また、一般的に用いられるショット化や水砕化によって微細化する手法も考えられるが、銅−ニッケル−コバルト系合金はその融点が千数百度と高く、これをショット化・水砕化するには高価な設備が必要である。また、ショット化・水砕化で得られる粒子は粗粒となり粉砕性も高くないという問題がある。さらに合金微粉は一般的に発火しやすく、可燃性固体の危険物として取り扱う必要があり、コスト増の原因となる。このような問題点があるため、廃リチウムイオン電池から有価金属を安価に回収する技術の開発が望まれる。
本発明者らは、このような実情に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、スラグと分離した合金の少なくとも一部を所定の条件で硫化することで、粉砕による微細化が容易になり、その結果、有価金属を安価に回収できるとの知見を得た。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、有価金属を安価に回収できる方法の提供を課題とする。
本発明は、下記(1)〜(5)の態様を包含する。なお、本明細書において、「〜」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち、「X〜Y」は「X以上Y以下」と同義である。
(1)有価金属を回収する方法であって、以下の工程:
有価金属として少なくとも銅(Cu)を含む装入物を準備する工程と、
前記装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して、有価金属を含有する熔融合金と、スラグと、を含む還元物にする工程と、
前記還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収合金として回収する工程と、
前記回収合金の少なくとも一部を硫化して、硫化物含有物質を得る工程と、を含み、
前記還元熔融処理の加熱温度が1300℃以上1550℃以下であり、
前記硫化の際、硫化物含有物質中の銅(Cu)に対する硫黄(S)のモル比(S/Cu比)を0.50以上にする、方法。
(2)前記酸化処理の際に前記装入物を酸化焙焼して酸化焙焼物とし、前記還元熔融処理の際に前記酸化焙焼物を還元熔融して還元物とする、上記(1)の方法。
(3)前記硫化の際、回収合金に硫黄(S)を添加する、上記(1)又は(2)の方法。
(4)前記硫化物含有物質を粉砕して粉砕物とする工程と、
前記粉砕物に湿式処理を施して有価金属を回収する工程と、をさらに含む、上記(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)前記装入物が廃リチウムイオン電池を含む、上記(1)〜(4)のいずれかの方法。
本発明によれば、有価金属を安価に回収できる方法が提供される。
有価金属の回収方法の一例を示す。
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
1.有価金属の回収
本実施形態の有価金属を回収する方法は、以下の工程:有価金属として少なくとも銅(Cu)を含む装入物を準備する工程(準備工程)と、この装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して、有価金属を含有する熔融合金と、スラグと、を含む還元物にする工程(酸化還元熔融工程)と、この還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収合金として回収する工程(スラグ分離工程)と、この回収合金の少なくとも一部を硫化して、硫化物含有物質にする工程(硫化工程)と、を含む。また還元熔融処理の加熱温度が1300℃以上1550℃以下であり、硫化の際、硫化物含有物質中の銅(Cu)に対する硫黄(S)のモル比(S/Cu比)を0.50以上にする。
本実施形態の方法では、有価金属として少なくとも銅(Cu)を含む装入物から有価金属を回収する。ここで有価金属は回収対象となるものであり、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。また本実施形態は主として乾式製錬プロセスによる回収方法である。しかしながら、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。各工程の詳細について以下に説明する。
<準備工程>
準備工程では装入物を準備する。装入物は有価金属回収の処理対象となるものであり、少なくとも銅(Cu)を含有している。装入物は銅(Cu)以外の有価金属(Ni、Co)を含んでもよい。装入物は有価金属(Cu等)を金属の形態で含んでもよく、あるいは酸化物等の化合物の形態で含んでもよい。また装入物は有価金属以外の他の無機成分や有機成分を含んでもよい。装入物は、銅(Cu)を含む限り、その対象が特に限定されず、廃リチウムイオン電池、銅線・銅箔、プリント配線基板などが例示される。また後続する酸化還元熔融工程での処理に適したものであれば、その形態は限定されない。準備工程で装入物に粉砕等の処理を施して、適した形態にしてもよい。さらに準備工程で装入物に熱処理や分別処理等の処理を施して、水分や有機物等の不要成分を除去してもよい。
<酸化還元熔融工程>
酸化還元熔融工程では、準備した装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して還元物にする。この還元物は熔融合金とスラグとを分離して含む。熔融合金は有価金属を含有する。そのため有価金属を含む成分(熔融合金)とその他の成分とを、還元物中で分離させることが可能である。これは付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属(Cu、Ni、Co)は酸素親和力が低いからである。例えばアルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的にAl>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまりアルミニウム(Al)が最も酸化され易く、銅(Cu)が最も酸化されにくい。そのため付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグとなり、有価金属(Cu、Ni、Co)は還元されて熔融金属(合金)となる。このようにして、付加価値の低い金属と有価金属とを、それぞれスラグと熔融合金として分離することができる。
熔融処理の際、酸化物系フラックスを処理物に加えることが好ましい。酸化物系フラックスを用いて還元物を熔融することで、アルミニウム(Al)等の酸化物を含有するスラグをフラックスに溶解させて除去させることができる。酸化物系フラックスとして、その融点が合金の融点に近く、また、アルミニウム(Al)に対する溶解度の高いものが好ましい。このような酸化物系フラックスとして、融点が1500℃以下となる、酸化カルシウム(CaO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)及び/又は酸化鉄(Fe等)が例示される。さらに、熔融処理の際にフッ化カルシウム(CaF等)を添加してもよい。これにより、スラグの融点が低下してエネルギーコストの更なる低減が可能となる。
酸化還元熔融工程の際、酸化処理と還元熔融処理は、同時に行ってもよく、あるいは別々に行ってもよい。同時に行う方法として、還元熔融処理で得られた熔融物に酸化剤を吹き込む手法が挙げられる。具体的には、熔融物に金属製チューブ(ランス)を挿入して、バブリングによって酸化剤を吹き込めばよい。この場合、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を酸化剤に用いることができる。しかしながら酸化還元熔融工程が酸化焙焼工程と還元熔融工程とを別々に含むことが好ましい。そのような手法として、酸化処理の際に、準備した装入物を酸化焙焼して酸化焙焼物とし、還元熔融処理の際に、得られた酸化焙焼物を還元熔融して還元物とする手法が挙げられる。酸化焙焼工程と還元熔融工程の詳細を以下に説明する。
<酸化焙焼工程>
酸化焙焼工程は、装入物を酸化焙焼(酸化処理)して酸化焙焼物にする工程である。酸化焙焼工程を設けることで、装入物が炭素を含む場合であってもこの炭素を酸化除去し、その結果、後続する還元熔融工程での有価金属の合金一体化を促進させることができる。すなわち還元熔融工程で有価金属は還元されて局所的な熔融微粒子になる。炭素は熔融微粒子(有価金属)が凝集する際に物理的な障害となる。そのため酸化焙焼工程を設けないと、熔融微粒子の凝集一体化及びそれによるメタル(熔融合金)とスラグの分離性を炭素が妨げ、有価金属回収率が低下してしまう場合がある。これに対して、予め酸化焙焼工程で炭素を除去しておくことで、還元熔融工程での熔融微粒子(有価金属)の凝集一体化が進行し、有価金属の回収率をより一層に高めることが可能となる。
その上、酸化焙焼工程を設けることで、酸化のばらつきを抑えることが可能となる。酸化焙焼工程では、装入物に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化することが可能な酸化度で処理(酸化焙焼)を行うことが望ましい。一方で、酸化焙焼の処理温度、時間及び/又は雰囲気を調整することで、酸化度は容易に制御される。そのため酸化焙焼工程によって酸化度をより厳密に調整することができ、酸化ばらつきを抑制できる。
酸化度の調整は次のようにして行う。先述したように、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的にAl>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。酸化焙焼工程では、アルミニウム(Al)の全量が酸化されるまで酸化を進行させる。鉄(Fe)の一部が酸化されるまで酸化を促進させてもよいが、コバルト(Co)が酸化されてスラグとして回収されることがない程度に酸化度を留める。
酸化焙焼工程で酸化度を調整するにあたり、適量の酸化剤を導入することが好ましい。特に装入物が廃リチウムイオン電池を含む場合には、酸化剤の導入が好ましい。リチウムイオン電池は、外装材としてアルミニウムや鉄等の金属を含んでいる。また正極材や負極材としてアルミニウム箔や炭素材を含んでいる。さらに集合電池の場合には外部パッケージとしてプラスチックが用いられている。これらはいずれも還元剤として作用する材料である。酸化剤を導入することで、酸化焙焼工程での酸化度を適切な範囲内に調整できる。
酸化剤は、炭素や付加価値の低い金属(Al等)を酸化できるものである限り、特に限定されない。しかしながら、取り扱いが容易な、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体が好ましい。酸化剤の導入量は、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な量(化学当量)の1.2倍程度(例えば1.15〜1.25倍)が目安となる。
酸化焙焼(酸化処理)の加熱温度は、700℃以上1100℃以下が好ましく、800℃以上1000℃以下がより好ましい。700℃以上で、炭素の酸化効率をより一層に高めることができ、酸化時間を短縮することができる。また、1100℃以下で、熱エネルギーコストを抑制することができ、酸化焙焼の効率を高めることができる。
酸化焙焼(酸化処理)は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また後続する還元熔融工程で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。焙焼炉として、装入物を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で酸化処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例して、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)が挙げられる。
<還元熔融工程>
還元熔融工程は、得られた酸化焙焼物を加熱して還元熔融し、還元物にする工程である。この工程の目的は、酸化焙焼工程で酸化した付加価値の低い金属(Al等)を酸化物のままに維持する一方で、酸化した有価金属(Cu、Ni、Co)を還元及び熔融し一体化した合金として回収することである。なお還元処理後に得られる材料を「還元物」といい、熔融物として得られる合金を「熔融合金」という。
還元熔融処理の際に還元剤を導入するのが好ましい。還元剤として炭素及び/又は一酸化炭素を用いることが好ましい。炭素は、回収対象である有価金属(Cu、Ni、Co)を容易に還元する能力がある。例えば1モルの炭素で2モルの有価金属酸化物(銅酸化物、ニッケル酸化物等)を還元することができる。また炭素や一酸化炭素を用いる還元手法は、金属還元剤を用いる手法(例えば、アルミニウムを用いたテルミット反応法)に比べて安全性が極めて高い。炭素として人工黒鉛及び/又は天然黒鉛を使用することができ、また不純物コンタミネーションの恐れが無ければ、石炭やコークスを使用することができる。還元剤の導入量は、酸化した有価金属(Cu、Ni、Co)1モルに対してカーボン量で0.5〜1モルが好ましく、0.6〜0.8モルがより好ましい。
還元熔融処理の加熱温度は、特に限定されるものではない。しかしながら加熱温度は1300℃以上1550℃以下が好ましく、1350℃以上1450℃以下がより好ましい。1550℃超の温度では、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、坩堝等の耐火物の消耗が激しくなり、生産性が低下する恐れがある。一方で、1300℃未満の温度では、スラグと熔融合金の分離性が悪化し回収率が低下する問題がある。また還元熔融処理は公知の手法で行えばよい。例えば酸化焙焼物を坩堝に装入し、抵抗加熱等により加熱する手法が挙げられる。なお還元熔融処理の際に粉塵や排ガス等の有害物質が発生することがあるが、公知の排ガス処理等の処理を施すことで、有害物質を無害化することができる。
酸化焙焼工程を設けた場合には、還元熔融工程で酸化処理を行う必要はない。しかしながら、酸化焙焼工程での酸化が不足している場合や、酸化度のさらなる調整を目的とする場合には、還元熔融工程で追加の酸化処理を行ってもよい。追加の酸化処理を行うことで、より厳密な酸化度の調整が可能となる。
<スラグ分離工程>
スラグ分離工程では、酸化還元熔融工程で得られた還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収合金として回収する。スラグと熔融合金は比重が異なる。そのため、熔融合金に比べ比重の小さいスラグは熔融合金の上部に集まるので、比重分離により分離回収することができる。なお回収合金(熔融合金)は有価金属(Cu等)を含むが、その組成は特に限定されない。しかしながら、ある程度の量の銅(Cu)を含ませることで、後述する硫化工程での硫化及び粉砕工程での微細化をより一層に進めることが可能となる。合金中の銅(Cu)含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
<硫化工程>
硫化工程では、回収合金(熔融合金)の少なくとも一部を硫化して、硫化物含有物質にする。この工程で、回収合金に含まれる有価金属の少なくとも一部が硫化される。特に有価金属たる銅(Cu)は硫化されやすく、硫化された銅(硫化銅)は脆い。そのため脆い硫化銅を含む硫化物含有物質は、後述する粉砕工程でこれを容易に微細化(微粉化)することができる。微細化された硫化物含有物質は比表面積が高い。したがって粉砕後の湿式処理を効率的に行うことが可能になる。具体的には、硫化物含有物質に含まれる銅(Cu)等の有価金属を酸を用いて溶解し抽出する際、この溶解及び抽出に必要な時間を短縮することができる。その結果、有価金属の回収を安価に行うことが可能となる。
本実施形態では、硫化物含有物質中の銅(Cu)に対する硫黄(S)のモル比(S/Cu比)を0.50以上とする。S/Cu比を0.50以上とすることで、銅(Cu)の硫化を進めることができ、硫化物含有物質の脆化を十分にすることができる。これに対して、S/Cu比が0.50未満であると、硫化物含有物質の脆化が不十分となり、粉砕工程での微細化が困難となる。しかしながら、S/Cu比が過度に高いと、有価金属の硫化が著しく進んでしまい後工程である湿式処理工程において、酸への浸出が悪化するという問題がある。したがって、S/Cu比は、0.90以下が好ましく、0.80以下がより好ましく、0.70以下がさらに好ましい。
硫化工程では、回収合金の一部のみを硫化してもよい。この場合には、硫化物含有物質は、硫化物と合金との混在物となる。例えば回収合金が銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を含む場合には、銅(Cu)が優先的に硫化されて硫化銅となる。そのため、硫化物含有物質は硫化銅とニッケル−コバルト合金との混在物となる。ただし、銅(Cu)の全てが硫化していなくともよく、逆にニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の一部が硫化していてもよい。あるいは回収合金の全てを硫化してもよい。この場合には、硫化物含有物質は硫化物を主とする。例えば回収合金が有価金属として銅(Cu)のみを含む場合には、硫化物含有物質は硫化銅を主とする。いずれにしても、硫化物含有物質を容易に粉砕でき、安価に有価金属を回収できればよい。
硫化の手法は特に限定されるものではない。しかしながら、回収合金に硫黄含有物質を導入することが好ましい。硫黄含有物質は、合金を硫化できるものであれば特に限定はない。例えば、硫黄(S)や硫化水素(HS)などが挙げられる。しかしながら、熔融状態の回収合金に硫黄(S)を添加することが特に好ましい。
<粉砕工程>
必要に応じて、得られた硫化物含有物質を粉砕して粉砕物とする工程(粉砕工程)を設けてもよい。これにより、硫化物含有物質の比表面積が格段に高くなり、後続する湿式処理での有価金属の回収を短時間で行うことが可能となる。粉砕は、ボールミル、ロッドミル及び/又はディスクミルといった公知の粉砕機を用いて行えばよい。また、硫化物含有物質を粗砕し、さらに微粉砕してもよい。粗砕は、ジョークラッシャー等の公知の粗砕機を用いて行えばよい。
<湿式処理工程>
必要に応じて、得られた粉砕物に湿式処理を施す工程(湿式処理工程)を設けてもよい。湿式処理により粉砕物から有価金属を回収することができる。湿式処理は中和処理や溶媒抽出処理といった公知の手法で行えばよい。例えば粉砕物(微細化された硫化物含有物質)が銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を含有する場合、硫酸等の酸を用いて粉砕物から有価金属(Cu、Ni、Co)を浸出し(浸出工程)、その後、溶媒抽出等の手法で銅(Cu)を抽出する(抽出工程)。残存するニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を含有する溶液は、電池製造プロセスにおける正極活物質の製造に利用することができる。
このような本実施形態の方法によれば、スラグと分離した合金の少なくとも一部を所定条件で硫化することにより、有価金属含有物(硫化物含有物質)が脆化し、その粉砕により微細化を容易に行うことができる。その結果、有価金属を短時間に効率的且つ安価に回収することが可能となる。
本発明者らの知る限り、このような観点で有価金属を回収する技術は知られていない。例えば特許文献1には銅製錬炉でリチウムイオン電池からエンタルピー及び金属を回収するプロセスが開示され、また特許文献2には廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法が開示されている。しかしながらこれらの文献には硫化工程を設けることの開示はなく、ましてや所定条件で合金を硫化することで微細化が容易になるとの認識はない。
特許文献3には熔融合金を部分硫化して、硫化物と、リンを含む残留合金とを得る部分硫化工程を有するリンの除去方法が開示されている。しかしながらこの部分硫化はリンの除去を目的としており、微細化を目的としたものでない。実際、特許文献3では硫化物の粉砕は行われておらず、また微細化の観点から硫化条件を制御することは認識されていない。その上、特許文献3の方法では還元処理と熔融処理が別の工程で行われるとともに、硫化物と残留合金の分離工程が必要である。これに対して、本実施形態の方法では還元熔融処理は同一の工程で行われており、還元処理と熔融処理とを分ける必要がない。また硫化物と残留合金の分離工程は必ずしも必要ではなく、硫化物含有物質をそのまま粉砕することが可能である。ただし必要に応じて分離工程を設けてもよいことはいうまでもない。
2.廃リチウムイオン電池からの回収
本実施形態の装入物は、少なくとも銅(Cu)を含む限り、限定されない。しかしながら装入物は廃リチウムイオン電池を含むのが好ましい。廃リチウムイオン電池は、リチウム(Li)及び有価金属(Cu、Ni、Co)を含むとともに、付加価値の低い金属(Al、Fe)や炭素成分を含んでいる。そのため、廃リチウムイオン電池を装入物として用いることで、有価金属を効率的に分離回収することができる。なお廃リチウムイオン電池とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法を図1を用いて説明する。図1は回収方法の一例を示す工程図である。図1に示されるように、この方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去する廃電池前処理工程(S1)と、廃電池の内容物を粉砕して粉砕物とする第1粉砕工程(S2)と、粉砕物を酸化焙焼する酸化焙焼工程(S3)と、酸化焙焼物を還元及び熔融して合金化する還元熔融工程(S4)と、得られた合金をスラグから分離するスラグ分離工程(S5)と、分離した合金を硫化する硫化工程(S6)と、得られた硫化物含有物質を粉砕する第2粉砕工程(S7)とを有する。各工程の詳細を以下に説明する。
<廃電池前処理工程>
廃電池前処理工程(S1)は、廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化並びに外装缶の除去を目的に行われる。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液などを有している。そのためそのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。何らかの方法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。また外装缶は金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)から構成されることが多い。こうした金属製の外装缶はそのまま回収することが比較的に容易である。このように廃電池前処理工程(S1)で電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
廃電池前処理の具体的な方法は特に限定されるものではない。例えば針状の刃先で廃電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また廃電池を加熱して、電解液を燃焼して無害化する手法が挙げられる。
廃電池前処理工程(S1)で、外装缶に含まれるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)を回収する場合には、除去した外装缶を粉砕した後に、粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けしてもよい。アルミニウム(Al)は軽度の粉砕で容易に粉状になるため、これを効率的に回収することができる。また磁力選別によって、外装缶に含まれる鉄(Fe)を回収してもよい。
<第1粉砕工程>
第1粉砕工程(S2)では廃リチウムイオン電池の内容物を粉砕して粉砕物とする。この工程は乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的にしている。反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。具体的な粉砕方法は特に限定されるものではない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。なお廃電池前処理工程と第1粉砕工程とは、これらを併せて先述する準備工程に相当する。
<酸化焙焼工程>
酸化焙焼工程(S3)では、第1粉砕工程(S2)で得られた粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物とする。この工程の詳細は先述したとおりである。
<還元熔融工程>
還元熔融工程(S4)では、酸化焙焼工程(S3)で得られた酸化焙焼物を還元熔融して還元物とする。この工程の詳細は先述したとおりである。
<スラグ分離工程>
スラグ分離工程(S5)では、還元熔融工程(S4)で得られた還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収合金として回収する。この工程の詳細は先述したとおりである。
<硫化工程>
硫化工程(S6)では、スラグ分離工程で分離した回収合金(熔融合金)の少なくとも一部を硫化して、硫化物含有物質とする。この工程の詳細は先述したとおりである。
<第2粉砕工程>
必要に応じて、得られた硫化物含有物質を粉砕して粉砕物とする工程(第2粉砕工程(S7))を設けてもよい。この工程は先述する粉砕工程に相当し、その詳細は先述したとおりである。
<湿式処理工程>
必要に応じて、得られた粉砕物に湿式処理を施す工程(湿式処理工程)を設けてもよい。この工程の詳細は先述したとおりである。
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
例1
(1)有価金属の回収
廃リチウムイオン電池を装入物に用いて有価金属を回収した。回収は以下の工程にしたがって行った。
<廃電池前処理工程(準備工程)>
廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の使用済み角形電池、及び電池製造工程で回収した不良品を準備した。これらの廃電池を塩水中に浸漬して放電させた後、水分を除去し、大気中260℃で焙焼して電解液及び外装缶を分解除去した。こうして電池内容物を得た。
<第1粉砕工程(準備工程)>
得られた電池内容物を、粉砕機(株式会社氏家製作所、グッドカッター)を用いて粉砕し、装入物とした。
<酸化焙焼工程>
得られた粉砕物(装入物)を酸化焙焼して酸化焙焼物とした。酸化焙焼は、ロータリーキルンを用いて大気中900℃で180分間の条件で行った。
<還元熔融工程>
得られた酸化焙焼物に還元剤として黒鉛を有価金属酸化物の合計モル数の0.6倍のモル数だけ添加した後に混合し、得られた混合物をマグネシア製坩堝に装入した。その後、坩堝に装入した混合物を加熱して還元熔融処理を施して合金化し、熔融合金とスラグとを含む還元物を得た。還元熔融処理は、抵抗加熱により1300℃で60分間の条件で行った。
<スラグ分離工程>
得られた還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収合金として回収した。
<硫化工程>
得られた回収合金に硫化処理を施し、硫化物含有物質とした。硫化処理は、熔融状態の回収合金に硫黄(S)を添加することにより行った。硫黄(S)添加量は、硫化物含有物質中の銅(Cu)に対する硫黄(S)のモル比(S/Cu比)が0.56となるように調整した。得られた硫化物含有物質は硫化物と合金との混在物であった。
<第2粉砕工程>
得られた硫化物含有物質をロッドミルを用いて粉砕して粉砕物とした。
<湿式処理工程>
得られた粉砕物に湿式処理を施し、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を回収した。湿式処理は次のようにして行った。すなわち粉砕物に純水を加えスラリー化し加温した後に酸を加え目的とする金属を浸出した。
(2)評価
<回収合金の組成分析>
スラグ分離工程で得た回収合金(熔融合金)の組成分析を、次のようにして行った。すなわち回収合金の表面を研磨処置後、蛍光X線による分析を実施した。
<有価金属回収率>
メタル(Cu、Ni及びCo)回収率(有価金属回収率)を、式:回収率=(浸出液中のCu、Ni及びCo)/(回収合金中のCu、Ni及びCo)×100にしたがい求めた。
例2〜例17
合金組成、還元熔融温度及びS/Cu比を表1に示される値とした以外は例1と同様にして有価金属の回収及び評価を行った。なお合金組成は、廃電池前処理工程で準備した18650型円筒型電池、使用済み角形電池及び不良品の割合を変えることで制御した。
(3)結果
例1〜例17について得られた結果を表1に示す。なお例1〜例12は実施例であり、例13〜例17は比較例である。
表1に示されるように、実施例たる例1〜例12は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の回収率が95%以上と高く、良好な結果を示した。これに対して比較例たる例13〜例17はいずれもコバルト(Co)回収率がかなりの程度に低い値となった。
例1〜例12で良好な結果が得られた理由は、脆化した硫化物含有物質が容易に粉砕できるようになった結果、湿式処理での有価金属(Cu、Ni、Co)の回収が効率的に行われたためと考えられる。
Figure 2021066903

Claims (5)

  1. 有価金属を回収する方法であって、以下の工程:
    有価金属として少なくとも銅(Cu)を含む装入物を準備する工程と、
    前記装入物に酸化処理及び還元熔融処理を施して、有価金属を含有する熔融合金と、スラグと、を含む還元物にする工程と、
    前記還元物からスラグを分離して、熔融合金を回収合金として回収する工程と、
    前記回収合金の少なくとも一部を硫化して、硫化物含有物質にする工程と、を含み、
    前記還元熔融処理の加熱温度が1300℃以上1550℃以下であり、
    前記硫化の際、硫化物含有物質中の銅(Cu)に対する硫黄(S)のモル比(S/Cu比)を0.50以上にする、方法。
  2. 前記酸化処理の際に前記装入物を酸化焙焼して酸化焙焼物とし、前記還元熔融処理の際に前記酸化焙焼物を還元熔融して還元物とする、請求項1に記載の方法。
  3. 前記硫化の際、熔融状態の回収合金に硫黄(S)を添加する、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記硫化物含有物質を粉砕して粉砕物とする工程と、
    前記粉砕物に湿式処理を施して有価金属を回収する工程と、をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記装入物が廃リチウムイオン電池を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
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