シートベルトを引き出し可能に巻き取るスプールにモータとして電気的に短絡した直流モータを連結することで、例えば衝突速度が大きく乗員が大柄な体格を有する車両衝突時に衝突速度が小さく乗員が小柄な体格を有する車両衝突時に比してシートベルトの引出速度が大きくなるときに、モータ回転数(単位時間当たりのモータ回転数)が大きくなることによってモータの回転抵抗力を大きくして乗員の拘束荷重を大きくすることができるなど、乗員の体格や衝突速度に応じてシートベルトによる乗員の拘束荷重を調整することが可能となる。
シートベルト装置ではまた、シートベルトを引き出し可能に巻き取るスプールにモータとしてブラシ付き直流モータを連結し、車両の衝突が予測される場合に、シートベルトを巻取方向に所定の時間間隔で移動及び停止を繰り返して移動させるようにモータを駆動して乗員を拘束し、車両の衝突予測を乗員に報知させることが考えられている。
このようにシートベルトを引き出し可能に巻き取るスプールにブラシ付き直流モータが連結される場合、衝突予測時にモータを駆動させて乗員に報知させると共に、車両衝突時にモータを短絡させてモータの回転抵抗力によってシートベルトの引き出しを抑制して乗員を拘束することが考えられる。
しかしながら、本願発明者等は、種々の試験研究などを重ねた結果、シートベルトを巻き取るスプールにブラシ付き直流モータを連結し、衝突予測時にモータを駆動させて乗員に報知させると共に、車両衝突時にモータを短絡させてモータの回転抵抗力によってシートベルトの引き出しを抑制して乗員を拘束する場合、銅と黒鉛とを混合焼結した黒鉛質ブラシなどのブラシを用いると、図8の実線に示すように、モータの回転抵抗力は、モータの駆動時間が短い場合、モータを短絡させたときにモータ回転数が大きくなるにつれて大きくなるが、図8の破線で示すように、モータの駆動時間が長くなると、モータを短絡させたときにモータ回転数が大きくなったときに低下することを見出した。
したがって、モータの駆動時間が長くなる場合においても、モータの回転抵抗力が低下することを抑制し、衝突予測時にモータを駆動させて乗員に報知させると共に、車両衝突時にモータを短絡させてモータの回転抵抗力によってシートベルトの引き出しを抑制して乗員を拘束することが望まれる。
そこで、本発明は、シートベルトを引き出し可能に巻き取るスプールに連結したモータの回転抵抗力が低下することを抑制し、衝突予測時に乗員に報知させると共に衝突検出時に乗員の拘束性能を確保して乗員の安全性を確保することができる車両用シートベルト装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
まず、本願の請求項1に記載の発明は、シートに着座した乗員を拘束するシートベルトと、前記シートベルトを引き出し可能に巻き取るリトラクタとを備えた車両用シートベルト装置であって、前記リトラクタは、回転可能に支持されて前記シートベルトを引き出し可能に巻き取るスプールと、前記スプールに連結されるモータとを備え、前記モータは、対向配置される永久磁石と、前記永久磁石の径方向内側に回転可能に支持されるアーマチュアとを有し、前記アーマチュアは、前記スプールに連結されるモータ回転軸と、前記モータ回転軸に固定されるアーマチュアコアと、前記アーマチュアコアに巻かれたアーマチュアコイルと、前記モータ回転軸に固定されて前記アーマチュアコイルに接続されるコンミテータとを有し、前記車両用シートベルト装置は、前記コンミテータがブラシを介して電源に接続されて前記モータが駆動される第1回路と、前記コンミテータが前記ブラシを介することなく短絡されて前記モータが短絡され前記シートベルトが引き出されるときに前記モータが前記スプールの引出方向の回転に伴って回転される前記モータ回転軸の回転に応じて回転抵抗力を発生する第2回路とに選択的に切り替える切替手段を備えていることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、車両の衝突を検出する衝突検出手段と、前記切替手段の作動を制御する切替制御手段とを備え、前記切替制御手段は、前記衝突検出手段によって車両の衝突が検出された場合に前記第2回路に切り替えるように前記切替手段の作動を制御することを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、車両の衝突を予測する衝突予測手段と、前記切替手段の作動を制御する切替制御手段とを備え、前記切替制御手段は、前記衝突予測手段によって車両の衝突が予測された場合に前記第1回路に切り替えるように前記切替手段の作動を制御することを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、前記モータの駆動を制御するモータ制御手段を備え、前記モータ制御手段は、前記衝突予測手段によって車両の衝突が予測された場合に前記シートベルトを引出方向及び巻取方向の少なくとも一方に移動させて車両の衝突予測を乗員に報知するように前記モータの駆動を制御することを特徴とする。
本願の請求項1に記載の発明によれば、シートベルト装置のリトラクタは、シートベルトを引き出し可能に巻き取るスプールに連結されるモータを備え、モータのアーマチュアは、スプールに連結されるモータ回転軸に固定されてアーマチュアコイルに接続されるコンミテータを有する。
そして、シートベルト装置は、コンミテータがブラシを介して電源に接続される第1回路と、コンミテータがブラシを介することなく短絡されてモータが短絡されシートベルトが引き出されるときにモータがスプールの引出方向の回転に伴って回転されるモータ回転軸の回転に応じて回転抵抗力を発生する第2回路とを選択的に切り替える切替手段を備える。
これにより、第1回路に切り替えられたときにはコンミテータがブラシを介して電源に接続されてモータを駆動させることができるので、車両の衝突が予測された場合に第1回路に切り替えることで、モータの駆動によってシートベルトを移動させて衝突予測を乗員に報知させることができる。また、第2回路に切り替えられたときにはコンミテータがブラシを介することなく短絡されてモータを短絡させることができるので、車両の衝突が検出された場合に第2回路に切り替えることで、前面衝突などの車両衝突時に車体前側に移動される乗員の移動に伴ってシートベルトが引き出されるときに、シートベルトを巻き取るスプールに連結されたモータの回転抵抗力によってシートベルトの引き出しを抑制して乗員を拘束することができる。
例えば衝突速度が大きく乗員が大柄な体格を有する車両衝突時には衝突速度が小さく乗員が小柄な体格を有する車両衝突時に比してシートベルトの引出速度が大きくなるが、シートベルトの引出速度が大きい場合にはモータの回転抵抗力を大きくすることができるので、乗員の体格や衝突速度が異なる場合においても、乗員の体格や衝突速度に対応するシートベルトの引出速度に応じたモータの回転抵抗力によってシートベルトの引き出しを抑制して乗員を拘束することができる。
また、第2回路に切り替えられたときにはコンミテータを電源に接続してモータを駆動するためのブラシを介することなくモータが短絡されるので、前記ブラシを介してモータが短絡される場合のようにモータの回転抵抗力が低下することを抑制することができる。
したがって、シートベルトを引き出し可能に巻き取るスプールに連結したモータの回転抵抗力が低下することを抑制し、衝突予測時に乗員に報知させると共に衝突検出時に乗員の拘束性能を確保して乗員の安全性を確保することができる。
また、請求項2に記載の発明によれば、車両の衝突が検出された場合に第2回路に切り替えられることにより、車両衝突時にシートベルトが引き出されるときにスプールに連結されたモータのモータ回転数が大きくなる場合にモータの回転抵抗力を大きくすることができ、乗員の体格や衝突速度が異なる場合においても、車両衝突時に乗員を拘束することができる。
また、請求項3に記載の発明によれば、車両の衝突が予測された場合に第1回路に切り替えられることにより、衝突予測時にコンミテータがブラシを介して電源に接続されてモータを駆動させることができるので、シートベルトを引出方向及び巻取方向の少なくとも一方に移動させて衝突予測を乗員に報知させることが可能である。
また、請求項4に記載の発明によれば、車両の衝突が予測される場合にシートベルトを引出方向及び巻取方向の少なくとも一方に移動させて車両の衝突予測を乗員に報知させることにより、車両衝突前に車両が衝突する可能性があることを乗員に認識させることができる。
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るシートベルト装置の概略構成図である。本発明の実施形態に係るシートベルト装置は、車両に装備され、車室内のシートに着座した乗員を拘束することにより乗員を保護するものである。
図1に示すように、車両の前席シート1に備えられるシートベルト装置10は、シート1に着座した乗員の上胴部及び腰部を拘束することにより乗員を保護する三点式のシートベルト装置であり、シート1に着座した乗員を拘束するシートベルト11と、センタピラー2の車体下側に固定されてシートベルト11を引き出し可能に巻き取るリトラクタ21とを備えている。
シートベルト装置10は、リトラクタ21から引き出されたシートベルト11を、センタピラー2の車体上側に固定された上側ベルトアンカ3を介してシート1の車幅方向外側に配置された下側ベルトアンカ4に固定すると共に、シートベルト11に装着されたタングプレート5をシート1の車幅方向内側に配置されたバックル6に係合させ、シート1に着座した乗員の上胴部及び腰部を拘束することにより乗員を保護するようになっている。
図2は、シートベルト装置のリトラクタを示す断面図である。図2に示すように、シートベルト装置10のリトラクタ21は、センタピラー2に取り付けられ、シートベルト11を引き出し可能に巻き取るスプール30と、スプール30に連結されるモータ40とを備えている。
スプール30は、スプール回転軸部31と、スプール回転軸部31に固定されると共にシートベルト11が固定されて略円筒状に形成される円筒部32とを備え、センタピラー2に固定されたハウジング7にスプール回転軸部31が回転可能に支持されることにより回転可能に支持されている。
ハウジング7は、スプール30の軸方向両側に平行に配置されて軸受15を介してスプール30のスプール回転軸部31を回転可能に支持する両側の側面部8と、スプール30の下側において両側の側面部8を連結する連結部9とを備え、断面略コ字状に形成されている。ハウジング7は、車体前側に配置される側面部8が締結部材B1を用いてセンタピラー2に固定されることにより車体に固定され、これにより、スプール30は車体に回転可能に支持されている。
スプール30はまた、センタピラー2とハウジング7との間に配設されてスプール30を巻き取り方向に付勢するスプリングユニット33を備え、スプリングユニット33内に配置された渦巻きバネにスプール回転軸部31が連結されてシートベルト11を巻き取る方向に付勢されている。
モータ40は、図2に示すように、ハウジング7の側面部8に平行に配設された第1プレート部材51及び第2プレート部材52を介してハウジング7に取り付けられている。モータ40は、第1プレート部材51に締結部材B2を用いて取り付けられ、第1プレート部材51は、第2プレート部材52に筒状部材53を介して締結部材B3を用いて取り付けられ、第2プレート部材52は、ハウジング7の側面部8に締結部材B4を用いて取り付けられている。
スプール30のスプール回転軸部31は、第2プレート部材52に形成されたスプール用挿通穴52aに挿通され、モータ40のモータ回転軸41は、第1プレート部材51に形成されたモータ用挿通穴51aに挿通されている。スプール30は、スプール回転軸部31とモータ回転軸41とが第1プレート部材51と第2プレート部材52との間においてスプライン嵌合されてモータ40に連結されている。
図3は、リトラクタに備えられるモータを示す断面図、図4は、図3におけるY4-Y4線に沿ったモータの断面図、図5は、図3におけるY5-Y5線に沿ったモータの断面図である。図3から図5に示すように、モータ40は、スプール30にスプライン嵌合されて連結されるモータ回転軸41を有するブラシ付き直流モータ40である。
モータ40は、電源に電気的に接続された状態において駆動されると共に、電気的に短絡された状態においてシートベルト11が引き出されるときにスプール30の引出方向の回転に伴って回転されるモータ回転軸41の回転に応じて回転抵抗力を発生するようになっている。
モータ40は、磁性材料から有底円筒状に形成されてヨークとして機能するハウジング42と、断面略半円弧状に形成されてハウジング42内に固定されて対向配置される1対の永久磁石43と、モータ回転軸41を有して永久磁石43の径方向内側に回転可能に支持されるアーマチュア44と、ハウジング42の開口部を覆うようにハウジング42に装着されるブラシホルダ45とを備えている。
アーマチュア44は、モータ回転軸41を有すると共にモータ回転軸41に固定されて径方向外側に放射状に突出する複数のティース44aを備えたアーマチュアコア44bを有し、アーマチュア44のティース44a間に形成されるスロットにそれぞれ複数のアーマチュアコイル44cが巻かれている。
アーマチュア44は、モータ回転軸41が軸受37を介してハウジング42及びブラシホルダ45に回転可能に支持されることにより回転可能に支持されている。アーマチュア44はまた、モータ回転軸41の軸方向一方側にコンミテータ(整流子)46を備え、コンミテータ46は、アーマチュアコイル44cに接続されている。
ブラシホルダ45は、スプリング部材45bによって径方向内側に付勢されてコンミテータ46に押し付けられる一対のブラシ45aを備えている。一対のブラシ45aは、コンミテータ46の周方向に異なる位置に配置され、コンミテータ46を介してアーマチュアコイル44cに接続されるようになっている。ブラシ45aは、銅と黒鉛とを混合焼結した黒鉛質ブラシなどのカーボンブラシが用いられる。
ブラシホルダ45は、モータ回転軸41の軸方向一方側が突出するようにハウジング42に装着され、ハウジング42にブラシホルダ45が装着された状態でハウジング42が第1プレート部材51に取り付けられている。一対のブラシ45aにはそれぞれ、電源に接続可能である端子が接続され、電源に接続可能に構成されている。
ブラシホルダ45はまた、モータ回転軸41の軸方向一方側に一対のブラシ45aに離間してコンミテータ46に摺接する銅リング47を備えている。銅リング47は、ブラシホルダ45に固定されると共にコンミテータ46の径方向外側に配置され、図5に示すように、円筒状に形成される円筒部47aと、円筒部47aから径方向内側に突出してコンミテータ46に摺接する一対の摺接部47bとを備え、一対の摺接部47bは、電磁クラッチまたはソレノイド(図示しない)によってコンミテータ46に摺接可能に構成されている。
一対の摺接部47bは、コンミテータ46の周方向に異なる位置に配置され、コンミテータ46を介してアーマチュアコイル44cに接続されるようになっている。一対の摺接部47bを備えた銅リング47には、接地可能である端子が接続され、接地可能に構成されている。銅リング47が接地されたとき、モータ40は、コンミテータ46がブラシ45aを介することなく銅リング47を介して短絡されて電気的に短絡される。
モータ40の永久磁石43は、図4に示すように、ハウジング42内に固定される永久磁石43a、43bを備え、永久磁石43a、43bは、断面略半円弧状に同一形状に形成されて対向配置されている。永久磁石43aは、径方向内側の磁極がN極とされ、永久磁石43bは、径方向内側の磁極がS極とされ、永久磁石43は、永久磁石43aのN極から永久磁石43bのS極に向かう方向に永久磁石43による磁束が形成されている。
モータ40では、電気的に短絡された状態において、車両衝突時にシートベルト11が引き出されるときにスプール30の引出方向の回転に伴って回転される矢印A1で示すモータ回転軸41の回転に応じて逆起電力が発生し、モータ回転軸41の回転を抑制するように回転抵抗力が発生する。モータ40の回転抵抗力は、モータ回転数(単位時間当たりのモータ回転数)が大きくなるにつれて大きくなり、シートベルト11の引出速度が大きくなるときに大きくして乗員の拘束荷重を大きくすることができる。
シートベルト装置10では、車両衝突時にシートベルト11が引き出されるときに乗員が大柄な体格を有する場合には乗員が小柄な体格を有する場合に比して体重が大きくシートベルト11の引出速度が大きく、また衝突速度が大きい場合には衝突速度が小さい場合に比してシートベルト11の引出速度が大きくなることから、モータ40の回転抵抗力を大きくして乗員の拘束荷重を大きくすることができる。これにより、乗員の体格や衝突速度に応じてシートベルト11による乗員の拘束荷重を調整することが可能となる。
図6は、シートベルト装置の構成を示すブロック図である。図6に示すように、シートベルト装置10は、電源61と、電源61に接続されると共にモータ40に接続されてモータ40を駆動可能に構成される駆動装置62と、モータ40と駆動装置62及び電源61との接続状態を切り替える切替装置63とを備えている。
切替装置63は、モータ40と駆動装置62及び電源61との接続状態を切り替えると共に、モータ40と接地点Grとの接続状態を切り替えるように構成されている。図6に示すように、切替装置63は、モータ40の銅リング47に接続された第1端子aと接地点Grに接続された第2端子bとの接続状態を切り替えると共に、モータ40のブラシ45aに接続された第3端子cと駆動装置62及び電源61に接続された第4端子dとの接続状態を切り替えるように構成されている。
切替装置63は、第1端子aと第2端子bとを接続することなく第3端子cと第4端子dとを接続してコンミテータ46がブラシ45aを介して電源61に接続されてモータ40が駆動される第1回路L1と、第3端子cと第4端子dとを接続することなく第1端子aと第2端子bとを接続してコンミテータ46がブラシ45aを介することなく短絡されてモータ40が短絡されシートベルト11が引き出されるときにモータ40がスプール30の引出方向の回転に伴って回転されるモータ回転軸41の回転に応じて回転抵抗力を発生する第2回路L2とに選択的に切り替えるようになっている。
シートベルト装置10はまた、シートベルト装置10が装備される車両に、車両の前方の障害物を検出する障害物検出センサ65と、車両の車速を検出する車速センサ66と、車両の衝突を検出する衝突検出センサ67とを備えている。
障害物検出センサ65は、ミリ波レーダやCCDカメラなどを用いることができ、車両の前方の障害物を検出すると共に障害物と車両との相対距離及び相対速度を検出するように構成されている。衝突検出センサ77は、車両の車体前後方向の加速度を検出する加速度センサであり、車両の衝突を検出するように構成されている。
シートベルト装置10はまた、シートベルト装置10の作動を制御するコントロールユニット60を備えている。コントロールユニット60には、障害物検出センサ65、車速センサ66、衝突検出センサ67からの信号などが入力され、コントロールユニット60は、これらの信号などに基づいて切替装置63及び駆動装置62などの作動を制御してモータ40の駆動を制御する。なお、コントロールユニット60は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
コントロールユニット60は、車速センサ66によって検出される車速が、例えば15km/hなどの所定車速以上であるときに、障害物検出センサ65によって検出される障害物と車両との相対距離と相対速度とに基づいて、障害物と車両との相対距離を障害物と車両との相対速度で除した衝突予測時間を算出し、衝突予測時間が予め設定された衝突予測判定時間以下である場合に車両の衝突を予測するようになっている。なお、車両の車速に関わらず、衝突予測時間が衝突予測判定時間以下である場合に車両の衝突を予測するようにしてもよい。
コントロールユニット60はまた、車両の衝突が予測される場合、第1回路L1に切り替えるように切替装置63の作動を制御する第1回路切替制御を行うと共に、シートベルト11を巻取方向に移動させて車両の衝突予測を乗員に報知するように駆動装置62の作動を制御してモータ40の駆動を制御する衝突予測報知制御を行う。乗員への衝突予測の報知は、シートベルト11を巻取方向に所定の時間間隔で移動及び停止を繰り返して移動させることにより行う。
一方、コントロールユニット60は、衝突検出センサ67によって車両の衝突が検出される場合、第2回路L2に切り替えるように切替装置63の作動を制御する第2回路切替制御を行う。第2回路切替制御が行われると、コンミテータ46がブラシ45aを介することなく短絡されてモータ40が短絡されシートベルト11が引き出されるときにモータ40がスプール30の引出方向の回転に伴って回転されるモータ回転軸41の回転に応じて回転抵抗力を発生する。
図7は、シートベルト装置の制御を示すフローチャートである。図7に示すように、コントロールユニット60には先ず、各種信号が読み込まれ(ステップS1)、障害物と車両との相対距離及び相対速度、車両の車速、車両の衝突の有無などが読み込まれる。
そして、車両の衝突が予測されたか否かが判定される(ステップS2)。ステップS2での判定結果がノー(NO)の場合、すなわち車両の衝突が予測されない場合、ステップS1~S2が繰り返されるが、ステップS2での判定結果がイエス(YES)の場合、すなわち車両の衝突が予測された場合、第1回路切替制御を行い(ステップS3)、第1回路L1に切り替えるように切替装置63の作動を制御する。車両の衝突が予測された場合に第1回路切替制御が行われると、コンミテータ46がブラシ45aを介して電源61に接続されてモータ40が駆動される。
また、ステップS2での判定結果がイエスの場合、すなわち車両の衝突が予測された場合、衝突予測報知制御を行い(ステップS4)、シートベルト11を巻取方向に移動させて車両の衝突予測を乗員に報知するようにモータ40の駆動を制御する。
次に、車両の衝突が検出されたか否かが判定される(ステップS5)。ステップS5での判定結果がノーの場合、ステップS1~S5が繰り返されるが、ステップS5での判定結果がイエスの場合、すなわち車両の衝突が検出された場合、第2回路切替制御を行い(ステップS6)、第2回路L2に切り替えるように切替装置63の作動を制御する。第2回路L2に切り替えられたことで、銅リング47に設けられた電磁クラッチまたはソレノイドが駆動され、一対の摺接部47bがコンミテータ46に摺接するようになる。なお、上述の実施形態では、電磁クラッチまたはソレノイドで一対の摺接部47bをコンミテータ46に摺接可能に構成されているが、これに限られない。例えば、駆動用モータとブレーキ用モータを設け、双方を電気的に切り替えてもよい。
車両の衝突が検出された場合に第2回路切替制御が行われると、コンミテータ46がブラシ45aを介することなく短絡されてモータ40が短絡され、前面衝突などの車両衝突時に車体前側に移動される乗員の移動に伴ってシートベルト11が引き出されるときにモータ40がスプール30の引出方向の回転に伴って回転されるモータ回転軸41の回転に応じて回転抵抗力を発生する。
本実施形態では、シートベルト11を巻取方向に移動させて車両の衝突予測を乗員に報知するようにモータ40の駆動を制御しているが、シートベルト11を巻取方向及び引出方向に繰り返し移動させて車両の衝突予測を乗員に報知するようにモータ40の駆動を制御するようにしてもよい。また、シートベルト11を引出方向に移動させて車両の衝突予測を乗員に報知するようにモータ40の駆動を制御することも可能である。
このように、本実施形態に係るシートベルト装置10では、リトラクタ21は、シートベルト11を引き出し可能に巻き取るスプール30に連結されるモータ40を備え、モータ40のアーマチュア44は、スプール30に連結されるモータ回転軸41に固定されてアーマチュアコイル44cに接続されるコンミテータ46を有する。
そして、シートベルト装置10は、コンミテータ46がブラシ45aを介して電源61に接続される第1回路L1と、コンミテータ46がブラシ45aを介することなく短絡されてモータ40が短絡されシートベルト11が引き出されるときにモータ40がスプール30の引出方向の回転に伴って回転されるモータ回転軸41の回転に応じて回転に応じて回転抵抗力を発生する第2回路L2とを選択的に切り替える切替装置63を備える。
これにより、第1回路L1に切り替えられたときにはコンミテータ46がブラシ45aを介して電源73に接続されてモータ40を駆動させることができるので、車両の衝突が予測された場合に第1回路L1に切り替えることで、モータ40の駆動によってシートベルト11を移動させて衝突予測を乗員に報知させることができる。また、第2回路L2に切り替えられたときにはコンミテータ46がブラシ45aを介することなく短絡されてモータ40を短絡させることができるので、車両の衝突が検出された場合に第2回路L2に切り替えることで、前面衝突などの車両衝突時に車体前側に移動される乗員の移動に伴ってシートベルト11が引き出されるときに、シートベルト11を巻き取るスプール30に連結されたモータ40の回転抵抗力によってシートベルト11の引き出しを抑制して乗員を拘束することができる。
例えば衝突速度が大きく乗員が大柄な体格を有する車両衝突時には衝突速度が小さく乗員が小柄な体格を有する車両衝突時に比してシートベルト11の引出速度が大きくなるが、シートベルト11の引出速度が大きい場合にはモータ40の回転抵抗力を大きくすることができるので、乗員の体格や衝突速度が異なる場合においても、乗員の体格や衝突速度に対応するシートベルト11の引出速度に応じたモータ40の回転抵抗力によってシートベルト11の引き出しを抑制して乗員を拘束することができる。
また、第2回路L2に切り替えられたときにはコンミテータ46を電源61に接続してモータ40を駆動するためのブラシ45aを介することなくモータ40が短絡されるので、ブラシ45aを介してモータ40が短絡される場合のようにモータ40の回転抵抗力が低下することを抑制することができる。
ブラシ45aを介してモータ40が短絡される場合、ブラシ45aとして銅と黒鉛とを混合焼結した黒鉛質ブラシなどのカーボンブラシを用いると、モータ40の駆動時間が長くなった場合にモータ40を短絡させると、ブラシ45aの接触部分が炭化し、モータ回転数が大きくなったときにモータ40の回転抵抗力が低下するが、ブラシ45aを介することなくモータ40が短絡されるので、モータ40の回転抵抗力が低下することを抑制することができる。
したがって、シートベルト11を引き出し可能に巻き取るスプール30に連結したモータ40の回転抵抗力が低下することを抑制し、衝突予測時に乗員に報知させると共に衝突検出時に乗員の拘束性能を確保して乗員の安全性を確保することができる。
また、車両の衝突が検出された場合に第2回路L2に切り替えられる。これにより、車両衝突時にシートベルト11が引き出されるときにスプール30に連結されたモータ40の回転数が大きくなる場合にモータ40の回転抵抗力を大きくすることができ、乗員の体格や衝突速度が異なる場合においても、車両衝突時に乗員を拘束することができる。
また、車両の衝突が予測された場合に第1回路L1に切り替えられる。これにより、衝突予測時にコンミテータ46がブラシ45aを介して電源61に接続されてモータ40を駆動させることができるので、シートベルト11を引出方向及び巻取方向の少なくとも一方に移動させて衝突予測を乗員に報知させることが可能である。
また、車両の衝突が予測される場合にシートベルト11を引出方向及び巻取方向の少なくとも一方に移動させて車両の衝突予測を乗員に報知させる。これにより、車両衝突前に車両が衝突する可能性があることを乗員に認識させることができる。
本実施形態では、シートベルト装置10は、前席シート1に備えられているが、前席シート1より車体後側に配置される後席シートについても同様に適用可能であり、かかる場合、リトラクタ21はセンタピラー2に代えてリアピラーなどの車体に固定して取り付けられる。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。