以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書では、長手方向(MD)とは、微多孔膜連続成形の機械方向を意味し、かつ幅方向(TD)とは微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向を意味する。
本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において、「~」とは、特に言及しない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む意味である。
本明細書において、或る部材が特定成分を主成分として含有することは、特定成分の含有量が部材の質量を基準として50質量%以上であることを意味する。特に言及しない限り、本明細書に記載の物性又は数値は、実施例において説明される方法により測定又は算出されるものである。
<電池用セパレータ>
本発明の一態様は、ポリオレフィン微多孔膜を含む電池用セパレータを提供する。電池用セパレータは、例えばリチウムイオン二次電池(LIB)などの非水系二次電池において使用されることができる。
電池用セパレータは、ポリマー成分として、ポリオレフィン微多孔膜に由来するポリオレフィン樹脂などを含み、そして電池の高安全性の観点から、ポリオレフィン微多孔膜のポリマー成分の主成分は、ポリエチレンであることが好ましい。
電池用セパレータの厚みは、単層型と多層型のいずれの場合においても、2μm以上30μm未満であることが好ましい。30μm未満の厚みを有する電池用セパレータは、電池用セパレータの抵抗を抑制して、電池のサイクル特性を良好にすることができる。2μm以上の厚みを有する電池用セパレータは、電池の発熱時に複数の電極間の絶縁性を保つことによって、電池の安全性を確保することができる。電池用セパレータの厚みは、電池の安全性を向上させるという観点から、より好ましくは2μm以上20μm未満であり、更に好ましくは2μm以上12μm未満であり、特に好ましくは2μm以上11μm未満である。
電池用セパレータは、バブルポイント法により測定される平均流量孔径が0.02μm以上0.15μm以下であることが好ましい。バブルポイント法による平均流量孔径の測定は、実施例に記載の方法に従って行われることができる。セパレータの平均流量孔径が0.15μm以下であると、(i)ポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータにおいて局所的な反応が起きないので、局所的な発熱も起き難く、電池の安全性に寄与することができ、かつ(ii)電極上でのリチウム(Li)イオンの出入りを均一にし易く、それにより電池のサイクル特性を良好にすることもできる。セパレータの平均流量孔径が0.02μm以上であると、セパレータの電気抵抗を抑制して、電池のサイクル特性を良好にすることができる。電池のサイクル特性の観点から、バブルポイント法により測定される電池用セパレータの平均流量孔径は、より好ましくは0.03μm以上0.10μm未満であり、更に好ましくは0.05μm以上0.08μm未満である。
本実施形態の電池用セパレータは、透気度(sec/100cm3)の下限値が、好ましくは5sec/100cm3以上、より好ましくは10sec/100cm3以上、更に好ましくは20sec/100cm3以上であり、そして透気度の上限値が、好ましくは500sec/100cm3以下、より好ましくは300sec/100cm3以下、更に好ましくは200sec/100cm3以下である。また、100sec/100cm3以下であることができる。透気度が5sec/100cm3以上であることにより、自己放電を抑制することができる。透気度が500sec/100cm3以下であることにより、電池の出力を担保することができる。上記の透気度(sec/100cm3)は、実施例に記載の手法により測定される。
<ポリオレフィン微多孔膜>
ポリオレフィン微多孔膜は、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高いものが好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜そのものが電池用セパレータとして使用されることができる。
(動的粘弾性)
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、動的粘弾性測定において、170℃での貯蔵弾性率(G’)が、500,000Pa以上1,500,000Pa以下であり、かつ170℃での損失正接(tan△)が、0.40以上0.90以下である。
170℃でのG’が500,000Pa~1,500,000Paであり、かつtan△が0.40~0.90のポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータを電池に用いることによって、高エネルギー密度の電池内で短絡が起きても熱暴走を防止することができる傾向にある。この傾向は、例えば発熱量の大きい正極を備える電池の釘刺試験などのように安全性試験において顕著である。
本実施形態においてポリオレフィン微多孔膜の170℃での動的粘弾性を特定する理由としては、理論に拘束されることを望まないが、170℃より高い温度領域で特定の貯蔵弾性率とtan△が発現しても熱暴走化の抑制に間に合わず、他方、170℃より低い温度領域では正確な動的粘弾性測定は難しいことが考えられる。
ポリオレフィン微多孔膜の170℃での貯蔵弾性率(G’)が500,000Pa以上であると、電池の発熱時に、ポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータによる正極と負極の絶縁効果が高まり、電池の安全性を向上させることができる。ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’が1,500,000Pa以下であると、例えば電池の釘刺試験などの安全性試験において、電池の発熱時に、ポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータが、例えば釘などの異物にまとわりつくという効果が高まり、ひいては電池の安全性を向上させることができる。ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’は、電池の安全性を更に向上させるという観点から、700,000Pa以上1,300,000Pa以下であることが好ましく、900,000Pa以上1,100,000Pa以下であることがより好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのtan△が0.90以下であると、電池の発熱時に、ポリオレフィン微多孔膜の適切な粘性が確保されて、ポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータによる正極と負極の絶縁効果が高まるため電池の安全性を向上させることができる。ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのtan△が0.40以上であると、例えば電池の釘刺試験などの安全性試験において、電池の発熱時に、ポリオレフィン微多孔膜の適切な粘性が確保されて、ポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータが、例えば釘などの異物にまとわりつくという効果が高まり、ひいては電池の安全性を向上させることができる。ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのtan△は、電池の安全性を更に向上させるという観点から、0.45以上0.80未満であることが好ましく、0.50以上0.70未満であることがより好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の170℃での貯蔵弾性率(G’)及び/又は損失正接(tan△)は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、使用するポリオレフィン原料の選定、樹脂成分の分子量、ポリオレフィン微多孔膜中の無機粒子の含有、無機粒子の物理的性質または化学的性質、無機粒子と流動パラフィン等の可塑剤との予備分散などの各種の製造条件を制御することにより、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
なお、ポリオレフィン微多孔膜の溶融粘弾性を測定した場合と、ポリオレフィン微多孔膜の原料となるポリオレフィン樹脂の溶融粘弾性を測定した場合とでは、得られる値が異なる場合がある。また、原料となるポリオレフィン樹脂の溶融粘弾性を測定可能な手法でも、ポリオレフィン微多孔膜の溶融粘弾性を測定するのに好ましくない手法もある。そのため、本実施形態において、上記の貯蔵弾性率(G’)及び損失正接(tan△)はそれぞれ、実施例に記載の手法により測定される。
本実施形態では、原料となるポリオレフィン樹脂を対象とするのではなく、ポリオレフィン微多孔膜を対象として、その溶融粘弾性測定による各種パラメータを特定範囲内に制御している。これにより、電池内におけるセパレータの各種パラメータを特定範囲内に制御することができ、ひいては、内部短絡時に熱暴走を防止することができる。
ポリオレフィン微多孔膜の構成要素、及び好ましい実施形態について以下に説明する。
[構成要素]
電池用セパレータとしては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を含む多孔膜、ポリオレフィン系の繊維の織物(織布)、ポリオレフィン系の繊維の不織布、紙、並びに、絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、塗工工程を経て多層多孔膜、すなわち電池用セパレータを得る場合に塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚を従来のセパレータより薄くして、リチウムイオン二次電池等の電池内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜(以下、「ポリオレフィン微多孔膜」ともいう。)が好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜は、二次電池用セパレータとして使用されたときのシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜は、170℃での貯蔵弾性率(G’)及び/又は損失正接(tan△)を上記で説明された数値範囲内に調整して電池の安全性を向上させるという観点から、ポリオレフィン樹脂に加えて、無機粒子を含むことが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の樹脂成分の粘度平均分子量(Mv)は、ポリオレフィン微多孔膜の170℃での貯蔵弾性率(G’)及び/又は損失正接(tan△)を上記で説明された数値範囲内に調整して電池の安全性を向上させるという観点から、300,000以上1,000,000未満であることが好ましく、350,000以上800,000未満であることがより好ましく、400,000以上700,000未満が更に好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の樹脂成分のMvが400,000以上700,000未満であると、貯蔵弾性率と損失弾性率のバランスが良く、釘のまとわりつき効果と絶縁効果の両立がし易い。ポリオレフィン微多孔膜の樹脂成分のMvは、実施例に記載の方法に従って測定されることができる。
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体又は多段重合体等が挙げられる。また、これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、ポリオレフィン微多孔膜が二次電池用セパレータとして使用されたときのシャットダウン特性の観点から、ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、高分子量ポリエチレン(HMWPE)、及び超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等が挙げられる。
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等が挙げられる。
共重合体の具体例としては、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンラバー等が挙げられる。
また、ポリオレフィン樹脂は、電池の熱暴走を初期段階で止めるという観点から、130℃から140℃までの範囲内に融点を持つポリエチレンを主成分とすることが好ましい。
本願明細書において、高分子量ポリエチレンとは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上のポリエチレンを意味する。ポリエチレンについてMvは、ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を測定することで、次式にて算出することができる。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
一般に、超高分子量ポリエチレンのMvは、100万以上であるため、仮にかかる定義に従えば、本願明細書における高分子量ポリエチレン(HMWPE)は、定義上、UHMWPEを包含する。また、かかる定義とは異なる定義に基づいて「超高分子量ポリエチレン」と称さるポリエチレンであっても、Mvが10万以上である場合には、本実施形態における高分子量ポリエチレンに該当する可能性がある。
本願明細書において、高密度ポリエチレンとは密度0.942~0.970g/cm3のポリエチレンをいう。なお、本発明においてポリエチレンの密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
ポリオレフィン微多孔膜が二次電池用セパレータとして使用されたときに低融点かつ高強度の要求性能を満たす観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、特に高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。更に、速やかなヒューズ挙動を発現する観点から、ポリオレフィン微多孔膜の主成分がポリエチレンであることが好ましい。「ポリオレフィン微多孔膜の主成分がポリエチレンである」とは、ポリオレフィン微多孔膜の全質量に対して、50質量%を超えてポリエチレンを含むことを意味する。ポリオレフィン微多孔膜の全質量に対して、ポリエチレンは、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、なおも更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いるポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(以下、Mv)は、好ましくは5万以上500万未満、より好ましくは8万以上200万未満、更に好ましくは10万以上100万未満である。粘度平均分子量が5万以上であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。更に、二次電池用セパレータとしたときに、粘度平均分子量が500万未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の原料として、複数のポリオレフィン原料を混合して用いてよい。複数のポリオレフィン原料を混合して用いる場合、中でも、Mvが10万以上30万以下のポリエチレンとMvが50万以上100万未満のポリエチレンを含むことが好ましい。Mvが10万以上30万以下のポリエチレンを含むことにより、溶融混錬時に粘度が上がりすぎることなく、ポリオレフィンの分子量劣化を抑制することができ、延伸時に過度な残留応力が残らず、熱収縮が小さくなる傾向にある。また、温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にある。更に、ポリオレフィン微多孔膜が溶融したときに粘性が生じ易くなるため、電池の短絡後の溶融時に適度に電極に適度に侵入してアンカー効果を発現し易くなり、熱収縮を抑えて短絡面積の増加を抑制し易くなると推測される。Mvが50万以上100万未満のポリエチレンを含むことにより、溶融混錬時に応力が大きくなり、樹脂を均一に混錬することが可能になる。また、ポリオレフィン微多孔膜が重合体同士の絡み合いを発現するため、高強度となる傾向にあると共に、ポリオレフィン微多孔膜が溶融し300℃近くの高温に達したときに粘度が下がり過ぎることなく、樹脂が流出せずにその場にとどまり易くなるため、熱暴走を抑制し易くなると推測される。
また、多孔膜の耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、及びポリプロピレンの混合物を用いてもよい。ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いられるポリプロピレンの割合は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、好ましくは1質量%以上10質量%以下、より好ましくは3質量%以上10質量%以下、更に好ましくは4質量%以上(又は4質量%超え)9質量%以下、より更に好ましくは5質量%以上8質量%以下である。ポリプロピレンの割合が1質量%以上であることにより、ポリオレフィン微多孔膜が150℃前後の高温に達したときに容易に破膜しづらくなり、電池短絡時の初期に微小なピンホールが生じ難くなる。ポリプロピレンの割合が10質量%以下であることにより、300℃近い高温に達したときに溶融した樹脂の流動性が大きくなり過ぎず、樹脂の流出又は電極への過度な染み込みによる電極の露出による熱暴走を回避し易くなる。
ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いられるポリプロピレンのMvは好ましくは20万以上100万以下、より好ましくは25万以上90万以下、更に好ましくは30万以上80万以下である。理論に拘束されることを望まないが、ポリプロピレンのMvが20万以上であることにより、溶融混錬時に重合体同士の絡み合いが強くなることでポリエチレン中に均一にポリプロピレンが分散され、ポリプロピレンの耐熱性を効果的に発現できると推測される。また、ポリオレフィン微多孔膜が300℃近い高温に達したときにも粘度が上がりすぎないため好ましい。ポリプロピレンのMvが100万以下であることにより、溶融混錬時の過度な絡み合いによる重合体の分子量劣化を抑制し易くなる。また、ポリオレフィン微多孔膜の残留応力を抑制し易くなる。
ポリプロピレンのMvは、ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を測定することで、次式に従って算出することができる。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
ポリオレフィン微多孔膜の原料として用いられるポリプロピレンとしては、耐熱性と高温での溶融粘度を高めるという観点からホモポリマーであることが好ましい。中でも、アイソタクティックポリプロピレンが好ましい。アイソタクティックポリプロピレンの量は、ポリオレフィン微多孔膜全体のポリプロピレンの総質量に対して、好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは100質量%(全て)である。アイソタクティックポリプロピレンが90質量%以上であることにより、短絡時の昇温による微多孔膜の更なる溶融を抑制することができる。また、アイソタクティックポリプロピレンは結晶性が高いため、可塑剤との相分離が進行し易くなり、多孔性が良好で透過性の高い膜が得られる傾向にある。そのため、出力又はサイクル特性に好ましい影響を与えることができる。更に、ホモポリマーは非晶部が少ないため、融点以下の熱がかかったとき又は残留応力によって非晶部が収縮したときにおける熱収縮の増加を抑制することができ、また、短絡初期にセパレータの温度が100℃前後に達したときに非晶部の収縮によって短絡面積が増加するという問題を抑制し易くなる。
ポリオレフィン原料に含まれてもよいポリオレフィン樹脂、及びその含有量は、上記の説明に限定されず、ポリオレフィン原料は、本発明における作用効果の発揮を著しく阻害しない範囲内であれば、上記で説明したのと異なるポリオレフィン樹脂を含んでもよいし、また上記で説明した含有量とは異なる含有量でもよい。
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量%に対して、20質量%以下であることがシャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
ポリオレフィン微多孔膜の物性又は原料特性の観点から、ポリオレフィン原料は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(分子量分布:Mw/Mn)が1.0以上15.0以下であることが好ましく、3.0以上12.0以下であることがより好ましく、5.0以上9.0以下であることが更に好ましい。上記の重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、実施例に記載の手法により測定される。
(無機粒子)
無機粒子は、可塑剤などの孔形成剤の抽出工程を含むポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、得られるポリオレフィン微多孔膜の170℃での貯蔵弾性率(G’)及び/又は損失正接(tan△)を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、200℃以上の温度での耐熱性を有することが好ましい。
無機粒子は、ポリオレフィン樹脂への分散性の点から、平均粒径が5nm以上であることが好ましい。また、無機粒子による増粘効果がより一層向上する観点、及び延伸時においてポリオレフィン樹脂と無機粒子の間の界面剥離が起こり難くなり、孔形状をフレキシブルに制御し易いという観点から、無機粒子の平均粒径が600nm以下であることが好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜が無機粒子を含む場合には、ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’及び/又はtan△を上記で説明された数値範囲内に調整して電池の安全性を向上させるという観点からも無機粒子の平均粒径は、5nm以上600nm以下であることが好ましい。これらの観点から、無機粒子の平均粒径は、15nm以上200nm未満であることがより好ましく、30nm以上150nm未満であることが更に好ましい。
無機粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡、又は透過型電子顕微鏡により計測できる。平均粒径を算出する際には、個々の粒子が単独で存在している状態での粒子径を用いるのであって、粒子が凝集している場合は、凝集物を構成する一次粒子の粒子径を用いるものとする。
ポリオレフィン微多孔膜は、無機粒子を8体積%以上60体積%未満含むことが好ましい。本明細書では、ポリオレフィン微多孔膜中の無機粒子の含有割合としての「体積%」は、「含まれている重量分率(wt%)から真比重で変化した材料のみのvol%(つまり空孔部を除く)」を意味する。ポリオレフィン微多孔膜中の無機粒子の含有割合が8体積%以上60体積%未満の範囲内にあると、ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’及び/又はtan△を上記で説明された数値範囲内に調整し易くなり、ひいては電池の安全性も向上させることができる。電池の安全性を更に向上させるという観点からは、ポリオレフィン微多孔膜中の無機粒子の含有割合は、より好ましくは12体積%以上50体積%未満であり、更に好ましくは15体積%以上40体積%未満である。
ポリオレフィン微多孔膜に含まれる無機粒子は、ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’とtan△のバランスを取るという観点や、電池のサイクル特性の観点から、イオン性化合物であることが好ましい。
《イオン性化合物》
本実施形態において用いられるイオン性化合物とは、一つ以上のカチオン及び一つ以上のアニオンの組み合わせから成り、イオン結合性の高い化学結合に基づき、電気的に中性である化合物を指す。
イオン性化合物としては、カチオンとアニオンの組み合わせから成るものであれば特に限定されないが、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム等の硝酸塩;リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム等のリン酸塩;フッ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩;ヘキサフルオロリン酸リチウム等のヘキサフルオロリン酸塩;テトラフルオロホウ酸リチウム等のテトラフルオロホウ酸塩;過塩素酸リチウム等の過塩素酸塩が挙げられる。
イオン性化合物のアニオンは、蓄電デバイス内部での安定性及びコストの両面を考慮すると、好ましくは硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、及びハロゲン化物イオンから成る群から選ばれる一種以上であり、より好ましくは硫酸イオン、リン酸イオン、及びハロゲン化物イオンから成る群から選ばれる一種以上であり、更に好ましくは硫酸イオン及び/又はリン酸イオンであり、特に硫酸イオンが好ましい。
また、イオン性化合物のカチオンは、蓄電デバイス内部での安定性及びコストの両面を考慮すると、好ましくはアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンであって、より好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、及びバリウムイオンから成る群から選ばれる一種以上であり、更に好ましくは、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、及びバリウムイオンから成る群から選ばれる一種以上であって、特にバリウムイオンが好ましい。すなわち、イオン性化合物としては、蓄電デバイス内部での安定性を考慮すると、硫酸バリウムが最も好ましい。また、イオン性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
イオン性化合物の形状としては、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、塊状等が挙げられ、上記形状を有するイオン性化合物を複数種組み合わせて用いてもよい。イオン性化合物の形状は特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂への分散性の観点からは柱状、球状、又は多面体のものが好ましく、球状のものがより好ましい。
蓄電デバイス内部という特殊な環境においては、分解して二酸化炭素を発生させる可能性のある炭酸塩よりは、硫酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物などのイオン性化合物の方が、蓄電デバイス内部での安定性が高いため、好ましい。中でも、ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’とtan△を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、硫酸塩がより好ましく、硫酸バリウムが更に好ましい。
アルミナ等の金属酸化物は、その化学結合の性質としては、イオン結合性よりも共有結合性が高いことが知られている。したがって、本実施形態では、アルミナ、ベーマイト、シリカ、チタニア、イットリア、ジルコニア、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、及び酸化セリウムは、金属酸化物に分類し、イオン性化合物には含めない。また、チタン酸カリウム(K2O・8TiO2)など、複数の金属酸化物からなる化合物も金属酸化物に分類するものとする。
イオン性化合物のポリオレフィン微多孔膜中に占める割合(すなわち、微多孔膜中のイオン性化合物の含有量)は、ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’とtan△を上記で説明された数値範囲内に調整して電池の安全性を向上させるという観点から、下限値については、好ましくは8体積%以上、より好ましくは12体積%以上、更に好ましくは15体積%以上であり、そして上限値については、好ましくは60体積%未満、より好ましくは50体積%未満、更に好ましくは40体積%未満である。本明細書では、ポリオレフィン微多孔膜中のイオン性化合物の含有割合としての「体積%」は、「含まれている重量分率(wt%)から真比重で変化した材料のみのvol%(つまり空孔部を除く)」を意味する。
イオン性化合物は、その平均粒径が5nm以上600nm以下であると好ましく、15nm以上200nm以下であるとより好ましく、30nm以上150nm未満であると更に好ましい。イオン性化合物の平均粒径が5nm以上であると、電池用セパレータの膜厚及び空孔分布が均一化されて、電池の入出力特性が向上するため、好ましい。また、平均粒径が500nm以下であると、セパレータの孔径が均一化されて、局所的な大孔径部分が生じ難くなり、電池の安全性が向上する。
イオン性化合物は、ポリオレフィン樹脂への分散性を高めるために、表面処理剤により表面処理されているものを用いる。この表面処理としては、例えば、飽和脂肪酸及び/又はその塩(飽和脂肪酸塩)、不飽和脂肪酸及び/又はその塩(不飽和脂肪酸塩)、ポリシロキサン、シランカップリング剤などによる処理が挙げられる。ポリオレフィン樹脂への分散性の観点から、イオン性化合物の表面処理剤としては、好ましくは飽和脂肪酸及びその塩、並びに不飽和脂肪酸及びその塩であり、より好ましくは炭素数8以上の飽和脂肪酸及びその塩、及び炭素数8以上の不飽和脂肪酸及びその塩であって、更に好ましくは炭素数12以上の飽和脂肪酸及びその塩、及び炭素数12以上の不飽和脂肪酸及びその塩である。上述の表面処理剤で、イオン性化合物を表面処理すると、ポリオレフィン樹脂に対してイオン性化合物が高度に分散し、凝集物を起点としたマクロボイドの発生が抑制されるため、蓄電デバイスの安全性を向上する観点から好ましい。
飽和脂肪酸としては、具体的には、酪酸(炭素数4)、吉草酸(炭素数5)、カプロン酸(炭素数6)、エナント酸(炭素数7)、カプリル酸(炭素数8)、ペラルゴン酸(炭素数9)、カプリン酸(炭素数10)、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、ペンタデシル酸(炭素数15)、パルミチン酸(炭素数16)、マルガリン酸(炭素数17)、ステアリン酸(炭素数18)、アラキジン酸(炭素数20)、ベヘン酸(炭素数22)、リグノセリン酸(炭素数24)、セロチン酸(炭素数26)、モンタン酸(炭素数28)、メリシン酸(炭素数30)などが挙げられる。飽和脂肪酸塩のカチオンとしては、特に限定なく種々のカチオンを用いることができるが、蓄電デバイス中での安定性が高いアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンが好ましい。
不飽和脂肪酸としては、具体的には、クロトン酸(炭素数4)、ミリストレイン酸(炭素数14)、パルミトレイン酸(炭素数16)、オレイン酸(炭素数18)、バクセン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)、リノレン酸(炭素数18)、エレオステアリン酸(炭素数18)、ミード酸(炭素数20)、アラキドン酸(炭素数20)、ネルボン酸(炭素数24)などが挙げられる。不飽和脂肪酸塩のカチオンとしては、特に限定なく種々のカチオンを用いることができるが、蓄電デバイス中での安定性が高いアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンが好ましい。
イオン性化合物の表面親水性度は、フィラー表面の親水性及び疎水性の程度を表す指標である。具体的には、イオン性化合物の比表面積をガス吸着法にて測定する際に、吸着質として水蒸気を用いた場合のイオン性化合物の比表面積(SWater)を、吸着質として窒素を用いた場合のイオン性化合物の比表面積(SNitrogen)で除して、表面親水性度(SWater/SNitrogen)を算出する。フィラー表面が親水的であれば、SWaterが大きくなるため、SWater/SNitrogenは大きくなり、フィラー表面が疎水的であれば、SWaterが小さくなるため、SWater/SNitrogenは小さくなる。なお、比表面積の測定は、JIS Z 8830:2013に準じて行うものとする。
イオン性化合物の表面親水性度は、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.3以上であり、更に好ましくは0.4以上である。表面親水性度が0.2以上であることで、イオン性化合物の電解液に対する親和性が高まり、セパレータのイオン伝導性が向上する。また、イオン性化合物の表面親水性度は、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.8以下であり、更に好ましくは0.7以下である。表面親水性度が0.9以下であることにより、ポリオレフィン樹脂中でのイオン性化合物の分散性が高まり、ポリオレフィン微多孔膜の品質が向上する。また、イオン性化合物の表面親水性度が0.2~0.9の範囲内にあると、イオン性化合物を含むポリオレフィン微多孔膜の170℃での貯蔵弾性率(G’)と損失正接(tan△)を上記で説明された数値範囲内に調整し易くなる。
[ポリオレフィン微多孔膜のその他の性質]
本実施形態のポリオレフィン微多孔膜は、突刺強度が、好ましくは100gf以上600gf以下、より好ましくは150gf以上500gf以下、更に好ましくは200gf以上400gf以下である。突刺強度が100gf以上であることによりポリオレフィン微多孔膜を用いた電池を作製するときに、電極表面の凹凸に接触したときの微小な薄膜化又は破膜を防ぐことができ、微短絡による電池不良を抑制することができる。突刺強度が600gf以下であることにより、電池の収縮応力を抑制することができる。突刺強度は、実施例に記載の手法により測定される。
本実施形態のポリオレフィン微多孔膜は、透気度(sec/100cm3)の下限値が、好ましくは5sec/100cm3以上、より好ましくは10sec/100cm3以上、更に好ましくは20sec/100cm3以上であり、そして透気度の上限値が、好ましくは500sec/100cm3以下、より好ましくは300sec/100cm3以下、更に好ましくは200sec/100cm3以下である。突刺強度100gf以上を維持できる限り、100sec/100cm3以下であることができる。透気度が5sec/100cm3以上であることにより、自己放電を抑制することができる。透気度が500sec/100cm3以下であることにより、電池の出力を担保することができる。上記の透気度(sec/100cm3)は、実施例に記載の手法により測定される。
本実施形態のポリオレフィン微多孔膜は、MD、及びTDの引張破断強度が好ましくは500kgf/cm2以上2000kgf/cm2以下、より好ましくは750kgf/cm2以上1750kgf/cm2以下、更に好ましくは1000kgf/cm2以上1500kgf/cm2以下である。MD、及びTDの引張破断強度が500kgf/cm2以上であると、電池が外力により変形したとき等にセパレータが破膜する可能性を低減することができる。MD、及びTDの引張破断強度が2000kgf/cm2以下であると、残留応力を低くすることができ、熱収縮の抑制により短絡面積の増加を防ぎ易くなるため好ましい。上記の引張破断強度(kgf/cm2)は、実施例に記載の手法により測定される。
本実施形態のポリオレフィン微多孔膜は、MD及び/又はTDの引張伸度が好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、より更に好ましくは60%以上である。MD、及びTDの引張伸度が30%以上であると、電池が外力により変形したとき等にセパレータが破断する可能性を低減することができる。また、微小な異物が存在した状態でポリオレフィン微多孔膜と電極とを積層したときに生じる微小区間においてポリオレフィン微多孔膜が歪を受け、ピンホールが発生して、微短絡による電池不良を起こす可能性を低減することができる。ポリオレフィン微多孔膜のMD及び/又はTDの引張伸度の上限値は、特に限定されず、例えば300%以下でよい。引張伸度(%)は、実施例に記載の手法により測定される。
本実施形態のポリオレフィン微多孔膜は、TDの引張伸度に対するMDの引張伸度の比率(MDの引張伸度/TDの引張伸度)が、0.70以上1.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.75以上1.45以下、更に好ましくは0.80以上1.40以下、より更に好ましくは0.85以上1.35以下である。TDの引張伸度に対するMDの引張伸度の比率が0.70以上1.5以下であることにより、低収縮応力を特徴とする微多孔膜で懸念される微小異物が存在するときの異方性による亀裂の発生を抑制することができる。
ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上30μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下、更に好ましくは1μm以上12μm以下、より更に好ましくは1μm以上11μm以下、最も好ましくは2μm以上11μm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、機械的強度の観点から0.5μm以上であることが好ましく、LIBの高容量化の観点から30μm以下であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜全体の厚みは、例えば、ダイリップ間隔、延伸工程における延伸倍率等を制御することによって調整することができる。
ポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント法により測定される平均流量孔径は、0.02μm以上0.15μm以下であることが好ましい。バブルポイント法による平均流量孔径の測定は、実施例に記載の方法に従って行われることができる。ポリオレフィン微多孔膜の平均流量孔径が0.15μm以下であると、(i)ポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータにおいて局所的な反応が起きないので、局所的な発熱も起き難く、電池の安全性に寄与することができ、かつ(ii)電極上でのリチウム(Li)イオンの出入りを均一にし易く、それにより電池のサイクル特性を良好にすることもできる。ポリオレフィン微多孔膜の平均流量孔径が0.02μm以上であると、セパレータの電気抵抗を抑制して、電池のサイクル特性を良好にすることができる。電池のサイクル特性の観点から、バブルポイント法により測定されるポリオレフィン微多孔膜の平均流量孔径は、より好ましくは0.03μm以上0.10μm未満であり、更に好ましくは0.05μm以上0.08μm未満である。ポリオレフィン微多孔膜の平均流量孔径は、使用するポリオレフィン原料の選定、樹脂成分の分子量、ポリオレフィン微多孔膜中の無機粒子の含有、無機粒子の物理的性質または化学的性質、無機粒子と流動パラフィン等の可塑剤との予備分散などの各種の製造条件、二軸延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、及び熱固定時の緩和率を制御すること、並びにこれらを組み合わせることにより調整することができる。
ポリオレフィン微多孔膜の最大孔径は、好ましくは0.03μm以上1.20μm以下、より好ましくは0.04μm以上0.10μm以下、更に好ましくは0.05μm以上0.08μm以下である。最大孔径が0.03μm以上であることにより、良好なイオン電導性を持つため好ましい。最大孔径が1.20μm以下であることにより、電池内の副生成物による目詰まり又は自己放電を防止できる観点から望ましい。上記の最大孔径(μm)は、実施例に記載の手法により測定される。
ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、好ましくは25%以上95%以下、より好ましくは35%以上80%以下、更に好ましくは40%以上65%以下である。ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、イオン伝導性向上の観点から25%以上であることが好ましく、耐電圧特性の観点から95%以下であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、使用するポリオレフィン原料の選定、樹脂成分の分子量、ポリオレフィン微多孔膜中の無機粒子の含有、無機粒子の物理的性質または化学的性質、無機粒子と流動パラフィン等の可塑剤との予備分散などの各種の製造条件、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、二軸延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、及び熱固定時の緩和率を制御すること、並びにこれらを組み合わせることによって調整することができる。上記の気孔率は、実施例に記載の手法により測定される。
ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率については、高温時の膜の形状安定性が高く、釘刺試験等の安全性試験の際に電池の熱暴走状態において短絡を抑制するという観点から、120℃でMDに測定されるとき、20%以下であることが好ましく、-10%以上15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、-5%以上10%以下であることがより更に好ましく、0%以上5%以下であることが特に好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率は、120℃でTDに測定されるとき、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、-10%以上10%以下であることが更に好ましく、-5%以上8%以下であることがより更に好ましく、0%以上5%以下であることが特に好ましい。
<多層多孔膜>
本実施形態では、上記で説明されたポリオレフィン微多孔膜と、その片面または両面に配置される少なくとも1つの層とを有する多層多孔膜も提供される。多層多孔膜は、少なくとも1つの層の性質に応じて、ポリオレフィン微多孔膜に単数又は複数の機能を付与することができるだけでなく、電池用セパレータとして使用されるときに電池の安全性を向上させることもできる。
具体的には、多層多孔膜は、下記1~3のいずれかの層構成を有することができる:
層構成1:ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される無機多孔層とを含む;
層構成2:ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される熱可塑性樹脂層とを含む;及び
層構成3:ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される、多機能層、無機多孔層および熱可塑性樹脂層から成る群から選択される少なくとも一層とを含む。
(無機多孔層)
無機多孔層は、無機粒子及びバインダ高分子を含む。無機多孔層を含む多層多孔膜は、無機多孔層の孔構造を有するため、イオン透過性を維持しながら、薄膜でも熱収縮抑制能に優れたものとなる。
無機多孔層に使用される無機粒子としては、特に限定されないが、耐熱性及び電気絶縁性が高く、かつ非水系二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機多孔層に使用される無機粒子の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム又はベーマイト、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。これらの中でも、アルミナ、ベーマイト、及び硫酸バリウムから成る群から選ばれる少なくとも1つが、非水系二次電池内での安定性の観点から好ましい。また、ベーマイトとしては、電気化学素子の特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトが好ましい。無機粒子は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
無機多孔層に使用される無機粒子の形状としては、例えば、板状、鱗片状、多面体、針状、柱状、粒状、球状、紡錘状、ブロック状等が挙げられ、上記形状を有する無機粒子を複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透過性と耐熱性のバランスの観点からは、ブロック状が好ましい。
無機多孔層に使用される無機粒子のアスペクト比としては、1.0以上3.0以下であることが好ましく、より好ましくは、1.1以上2.5以下である。アスペクト比が3.0以下であることで、多層多孔膜の水分吸着量を抑制し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点、及びPO微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。
無機粒子が無機多孔層中に占める割合において、90質量%以上99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは91質量%以上98質量%以下であり、更に好ましくは92質量%以上98質量%以下である。無機粒子の割合が90質量%以上であることで、イオン透過性の観点、及びポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度での変形を抑制する観点から好ましい。また、この割合が99質量%以下であることで、無機粒子同士の結着力又は無機粒子とポリオレフィン微多孔膜との界面結着力を維持する観点で好ましい。
バインダ高分子は、無機多孔層において複数の無機粒子同士を結び付けたり、無機多孔層とポリオレフィン微多孔膜を結び付けたりする材料である。バインダ高分子の種類としては、多層多孔膜がセパレータとして使用される際、非水系二次電池の電解液に対して不溶であり、且つ非水系二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
バインダ高分子の具体例としては、以下の1)~7)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース;
7)融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル。
短絡時の安全性の観点からは、3)アクリル系重合体、5)含フッ素樹脂、及び7)ポリマーとしてのポリアミドが好ましい。ポリアミドとしては、耐久性の観点から全芳香族ポリアミド、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
バインダ高分子と電極との適合性の観点からは上記2)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記3)アクリル系重合体及び5)含フッ素樹脂が好ましい。
上記2)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3-ブタジエンが好ましい。
上記3)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルから成る群から選ばれる少なくとも一つを示す。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸を挙げることができる。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアメタクリレート;エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)、ブチルアクリレート(BA)が好ましい。
アクリル系重合体は、非水系二次電池の安全性の観点から、EHA又はBAを主な構成単位として含むポリマーであることが好ましい。主な構成単位とは、ポリマーを形成するための全原料に対して40モル%以上を占めるモノマーと対応するポリマー部分をいう。
上記2)共役ジエン系重合体および3)アクリル系重合体は、これらと共重合可能な他の単量体をも共重合させて得られるものであってもよい。用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマール酸、イタコン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、上記2)共役ジエン系重合体は、他の単量体として上記(メタ)アクリル系化合物を共重合させて得られるものであってもよい。
バインダ高分子は、常温を超えるような高温時でさえも複数の無機粒子間の結着力が強く、熱収縮を抑制するという観点から、ラテックスの形態であることが好ましく、アクリル系重合体のラテックスであることがより好ましい。
無機多孔層を形成するための塗工液には、分散安定化又は塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤を加えてもよい。分散剤は、スラリー中で無機粒子表面に吸着し、静電反発などにより無機粒子を安定化させるものであり、例えば、ポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、ポリオキシエーテルなどである。分散剤の添加量としては固形分換算で0.2重量部以上5.0重量部以下が好ましく、より好ましくは0.3重量部以上1.0重量部以下が好ましい。
無機多孔層の総厚みは、0.1μm~10μmであることが好ましく、より好ましくは0.2μm~7μm、更に好ましくは0.3μm~4μmである。無機多孔層の総厚みとは、ポリオレフィン微多孔膜の片面に形成された場合は無機多孔層の厚みを、PO微多孔膜の両面に形成された場合は両方の無機多孔層の厚みの合計を示す。無機多孔層の総厚みが0.1μm以上であることで、ポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度での変形を抑制する観点で好ましく、総厚みが10μm以下であることで、電池容量の向上の観点で好ましい。
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂を主成分として含む層であり、所望により他の成分を含んでよい。高接着性の観点から、熱可塑性樹脂層とポリオレフィン微多孔膜が直接接触していることが好ましい。
熱可塑性樹脂層中に占める熱可塑性樹脂の割合は、電極に対する接着性の観点から、3質量%超が好ましく、10質量%以上がより好ましく、更に好ましくは、20質量%以上、40質量%以上、60質量%以上、又は80質量%以上であり、90質量%以上が特に好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、上記の無機多孔層に含まれるバインダ高分子の具体例などが挙げられ、中でも、接着性の観点、及び非水系二次電池の釘刺試験又は短絡時の安全性の観点からは、2)共役ジエン系重合体、3)アクリル系重合体、5)含フッ素樹脂、及び7)ポリマーとしてのポリアミドが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の表面の全面積に対する熱可塑性樹脂層の面積割合は、100%以下、95%以下、80%以下、75%以下、又は70%以下であることが好ましく、また、この面積割合は、5%以上、10%以上、又は15%以上であることが好ましい。この面積割合を100%以下とすることは、熱可塑性樹脂によるポリオレフィン微多孔膜の孔の閉塞を抑制し、セパレータの透過性を一層向上する観点から好ましい。この面積割合を5%以上とすることは、電極との接着性を一層向上する観点から好ましい。
熱可塑性樹脂層をポリオレフィン微多孔膜又は無機多孔層の面の一部分に配置する場合、熱可塑性樹脂層の配置パターンとしては、例えば、ドット状、斜線状、ストライプ状、格子状、縞状、亀甲状、ランダム状等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
熱可塑性樹脂層の厚みは、ポリオレフィン微多孔膜の片面当たり、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることが更に好ましく、また10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、4μm以下であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂層の厚みを0.1μm以上とすることは、電極と多層多孔膜の間の接着力を均一に発現する観点で好ましく、その結果、電池特性を向上させることができる。熱可塑性樹脂層の厚みを10μm以下とすることは、イオン透過性の低下を抑制する観点で好ましい。
(多機能層)
多機能層は、ポリオレフィン微多孔膜又はセパレータに多数の機能を付与する層であり、例えば、上記の無機多孔層と熱可塑性樹脂層の両方の機能を有することができる。より詳細には、多機能層は、上記で説明された、バインダ高分子又は熱可塑性樹脂と、無機粒子とを含み、所望により分散剤などの追加の成分を含んでよい。多機能層の厚みは、限定されるものではないが、ポリオレフィン微多孔膜に付与する機能、及び塗工条件に応じて決定されることができる。
<ポリオレフィン微多孔膜の製造方法>
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、特に制限はなく、既知の製造方法を採用することができる。例えば、以下の方法:
(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出することにより多孔化させる方法;
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法;
(3)ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法;
(4)ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法
等が挙げられる。
以下、ポリオレフィン微多孔膜を製造する方法の一例として、上記(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、孔形成材を抽出する方法を説明する。
孔形成材としては、可塑剤、無機材又はそれらの組み合わせを挙げることができる。その中でも可塑剤が望ましい。
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレン又はポリプロピレンの場合には、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こり難く、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
本実施形態では、ポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’及びtan△を上記で説明された数値範囲内に調整して電池の安全性を向上させるという観点から、上記(1)の方法に先立って、無機粒子と流動パラフィンを予め分散する工程(以下、事前分散工程という)を行なうことが好ましい。
可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、事前分散工程では、無機粒子及び可塑剤を、予めボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌法、薄膜旋回方式による機械撹拌法、キャビテーションを利用した機械撹拌法、乱流によるせん断を利用した機械撹拌法などの分散装置を用いて予め無機粒子を可塑剤中に分散してスラリーを形成しておくことが好ましい。特に好ましくは薄膜旋回方式による機械撹拌法である。具体例としては、PRIMIX社のフィルミックスがある。薄膜旋回方式による機械撹拌法での分散の前に、ディスパーザー等で事前攪拌をしておくとより好ましい。事前分散工程では、可塑剤はその一部のみを投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温し、サイドフィードしながら混練することがより好ましい。このような分散方法を用いることにより、無機粒子の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と無機粒子と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができ、得られるポリオレフィン微多孔膜の170℃でのG’及びtan△を上記で説明された数値範囲内に調整し易くなる傾向にある。
事前分散工程にとって好ましい条件は、薄膜旋回方式による機械撹拌法の場合、無機粒子と可塑剤の合計量に対し、無機粒子の割合が1.0体積%以上35.0体積%未満であり、より好ましくは5.0体積%以上20.0体積%未満であり、さらに好ましくは8.0体積%以上15.0体積%未満である。1.0体積%より小さくなると、効率的に無機粒子に力がかからず、分散性が低くなる。一方で、35.0体積%以上になると粘度が高くなりすぎ、分散時に発熱し、無機粒子や可塑剤が変質してしまう可能性がある。
分散時の可塑剤の温度は、20℃以上250℃未満が好ましく、より好ましくは20℃以上100℃未満であり、さらに好ましくは20℃以上50℃未満である。20℃以上では可塑剤の流動性が程よく、効率的に無機粒子に力がかかり、分散性が高くなる。250℃以下にすることで無機粒子や可塑剤の変質を防ぐことができる。
分散後の粘度(B型粘度計)は500mPa・s~20,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは2,000mPa・s~15,000mPa・s、さらに好ましくは5,000mPa・s~12,000mPa・sである。分散後の粘度を500mPa・s以上にすることで、効率的に無機粒子に力がかかり、分散性が高くなる。分散後の粘度を20,000mPa・s以下にすることで、ポリオレフィン樹脂組成物との溶融混錬設備への供給が比較的容易になる。
次いで、ポリオレフィン樹脂組成物と無機粒子を分散させた可塑剤を溶融混練する。事前分散工程で可塑剤の一部のみを投入した場合は、残りの可塑剤を適宜加温し、樹脂混練装置にサイドフィードしながら混練することがより好ましい。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、及び必要によりその他の添加剤を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で孔形成材を導入して混練する方法が挙げられる。
混練時の、ポリオレフィン樹脂、無機粒子、及び可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂、無機粒子、及び可塑剤から成る組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~80質量%である。可塑剤の質量分率が90質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが成形性向上のために十分なものとなる傾向にある。一方、可塑剤の質量分率が10質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン分子鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し易く、強度も増加し易い。
押出機により、ポリオレフィン樹脂組成物と無機粒子、その他の添加剤、及び可塑剤とから成る組成物の溶融混錬を行う場合には、溶融混錬区間の温度(混錬温度)は、ポリオレフィン微多孔膜の膜強度、孔径均一性の観点から好ましくは140℃以上230℃未満、より好ましくは150℃以上210℃未満である。
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製のロールに接触させるときに、少なくとも一対のロールで挟み込むことは、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるため、より好ましい。溶融混練物をTダイからシート状に押出すときのダイリップ間隔は、200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジ又は欠点等の膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において、膜破断等のリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く、冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法により実施することができる。シート状成形体に圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し、最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
シート状成形体又は多孔膜が延伸される延伸工程は、シート状成形体から孔形成材を抽出する工程(孔形成工程)の前に行ってよいし、シート状成形体から孔形成材を抽出した多孔膜に対して行ってもよい。更に、延伸工程は、シート状成形体からの孔形成材の抽出の前と後に行ってもよい。
孔形成材を抽出する工程では、シート状成形体から孔形成材を除去してセパレータを形成する。孔形成材として使用した可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法は、バッチ式と連続式のいずれであってもよい。セパレータの収縮を抑えるために、浸漬及び乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、セパレータ中の可塑剤残存量は、セパレータ全体の質量に対して1質量%未満に調整することが好ましい。
可塑剤を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒であり、且つ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔膜の強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。また、得られた多孔膜の熱収縮性の観点から、少なくとも2回の延伸工程を行うことが好ましい。
シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。孔径の均一性、延伸の均一性、シャットダウン性の観点からは、同時二軸延伸が好ましい。
ここで、同時二軸延伸とは、MD(微多孔膜連続成形の機械方向)の延伸とTD(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD、及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
延伸倍率は、面倍率で28倍以上100倍未満の範囲であることが好ましく、32倍以上70倍以下の範囲であることがより好ましく、36倍以上50倍以下であることが更に好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍未満、TDに4倍以上10倍未満の範囲であることが好ましく、MDに5倍以上9倍未満、TDに5倍以上9倍未満の範囲であることがより好ましく、MDに5.5倍以上8.5倍未満、TDに5.5倍以上8.5倍未満の範囲であることが更に好ましい。総面積倍率が28倍以上であると、得られるポリオレフィン微多孔膜の強度が高まると共に孔径が小さくなり過ぎないため、サイクル特性に優れる。一方、総面積倍率が100倍以下であると、残留応力が大きくなり過ぎないため過度な熱収縮を防ぐことができ、破断伸度の低下を防ぐことができ、過度な大孔径化又は孔径の不均一化を防ぐことができる。
上記シート状成型体又はポリオレフィン微多孔膜の延伸時の温度は、120℃を超えることが好ましく、122℃を超えることがより好ましい。また、延伸時の温度は、131℃以下であることが好ましく、129℃以下であることがより好ましい。延伸時の温度、特に二軸延伸時の温度が120℃を超えることにより、過度な残留応力による熱収縮の増加を抑制することができる。延伸時の温度、特に二軸延伸時の温度が131℃以下であることにより、ポリオレフィン微多孔膜に十分な強度を与えることができると共に、膜表面の溶融による孔径分布の乱れを防ぎ、電池の充放電を繰り返したときのサイクル性能を担保することができる。
ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮を抑制するために、延伸工程後又はポリオレフィン微多孔膜形成後に熱処理を行い、熱固定することもできる。
熱収縮を抑制する観点から、ポリオレフィン微多孔膜に熱固定を施すことが好ましい。熱固定の方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気、及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気、及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行っても構わない。これらの熱固定は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
より高強度かつ高気孔率なポリオレフィン微多孔膜を得る観点から、延伸操作の倍率は、膜のMD、及び/又はTDに、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.4倍超えであり、好ましくは2.6倍未満、さらに好ましくは2.2倍未満である。また、熱固定時にMDとTD両方に延伸を施す場合には、MDとTDの延伸倍率の積は好ましくは3.5倍未満、より好ましくは3.0倍未満である。熱固定時のMD、及び/又はTDの延伸倍率が1.1倍以上であることにより、高気孔率化と低熱収縮化の効果を得ることができ、2.3倍以下であることにより過度な大孔径化又は引張伸度の低下を防ぐことができる。熱処理時のMDとTDの延伸倍率の積が3.5倍未満であることにより、熱収縮の増加を抑制することができる。
この可塑剤抽出後の熱固定時の延伸操作は、好ましくはTDに行う。延伸操作における温度は、透過性を維持したまま熱収縮率を抑制し、孔径均一性を保つ観点から110℃以上140℃以下であることが好ましい。
熱固定時の緩和操作は、膜のMD、及び/又はTDへの縮小操作のことである。所定の条件範囲で緩和操作を行うことにより、溶融後の温度上昇に伴う応力低下を緩やかにすることができ、160℃付近でも容易に破膜しないポリオレフィン微多孔膜を得ることができる。緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、好ましくは1.0未満、より好ましくは0.97未満、更に好ましくは0.95未満であり、より更に好ましくは0.90未満、最も好ましくは0.85未満である。緩和率は膜品位の観点から、0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。緩和操作は、MD、TD双方で行ってもよいが、MD又はTDのいずれか一方にのみ行ってもよい。上記倍率、及び歪速度での延伸と緩和を行うことで、MD、及び/又はTDの熱収縮を適正な範囲に制御することができる。
この可塑剤抽出後の熱固定時の緩和操作は、好ましくはTDに行う。緩和操作における温度は、熱収縮率の抑制と孔径均一性を保つ観点から、125℃以上140℃以下であることが好ましい。
<多層多孔膜の製造方法>
本実施形態に係る多層多孔膜の製造方法は、特に限定されないが、一例として、上記で製造されたポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、多機能層、無機多孔層、及び熱可塑性樹脂層から成る群から選択される少なくとも一層を配置する工程を含むことができる。
多機能層、無機多孔層又は熱可塑性樹脂層の配置方法は、特に限定されず、例えば、これらのいずれかの層の構成成分を含む塗工液を、ポリオレフィン微多孔膜の片面若しくは両面に、又はポリオレフィン微多孔膜上に形成された層上に、塗工する方法が挙げられる。
塗工液の調製方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌法などが挙げられる。
塗工層の厚みは、0.1~10μmであることが好ましく、0.2~7μmであることがより好ましく、0.3~4μmであることが更に好ましい。また、塗工層の数は、0~5層であることが好ましく、0~3層であることがより好ましい。塗工層の厚みを適正に制御することで、電池容量を高めることが出来る。無機塗工は、基材の収縮を抑制して電池の安全性を高める効果があり、有機塗工は、電極との密着性を高め加工性を高める効果がある。無機成分と有機ポリマー成分を混合する事で、両方の特徴をバランスよく達成する事が出来る。
塗工方法については、所望の塗工パターン、塗工膜厚、及び塗工面積を実現できる方法であれば特に限定はなく、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、インクジェット塗布法等が挙げられる。
塗工液に含まれる溶媒としては、無機粒子を均一且つ安定に分散又は溶解できるものが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、及びヘキサンが挙げられる。
塗工液の含有成分は、多機能層、無機多孔層又は熱可塑性樹脂層について、上記で説明された構成成分でよい。例えば、無機多孔層を形成する場合には、無機粒子と、樹脂バインダと、水又は水系溶媒(例えば、水とアルコールとの混合物など)と、所望により分散剤とを含むスラリーを、微多孔膜の少なくとも一方の表面に塗工してよい。
塗工に先立ち、ポリオレフィン微多孔膜に表面処理を施しておくと、塗工液を塗工し易くなると共に、ポリオレフィン微多孔膜と塗工層の接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
塗工後に、ポリオレフィン微多孔膜の融点以下の温度での乾燥、減圧乾燥、溶媒抽出などにより、塗工膜から溶媒を除去してよい。また、電池特性に著しく影響を及ぼさない範囲内であれば、多層多孔膜に溶媒を一部残存させてよい。
代替的には、ポリオレフィン微多孔膜と、多機能層、無機多孔層、及び熱可塑性樹脂層から成る群から選択される少なくとも一層とを、別々に製造しておいて、貼付、積層、接着、融着などにより両者を統合してよく、またはポリオレフィン微多孔膜の樹脂原料と各層の樹脂原料とを共押出して多層多孔膜を形成してよい。
<電池>
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜と多層多孔膜は、例えば電池等において、具体的には非水系二次電池用セパレータとして、使用されることができる。非水系二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池等が挙げられる。本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータは、リチウムイオン二次電池に組み込まれることによって、リチウムイオン二次電池の熱暴走を抑制するだけでなく、高容量電極を備える場合でさえも、高出力特性及び高サイクル特性などの電池特性と安全性とを両立することができる。
電池の正極としては、既知の電池用正極を使用することができ、本発明の作用効果の観点から、発熱、熱分解又は酸素(О2)放出し易い正極も使用することができる。正極活物質としては、特に限定されないが、正極活物質の構造安定性の観点から、好ましくは、(1)一般式LiNixCoyMa1-x-yO2{式中、Maは、Mn及びAlから成る群より選ばれる一種以上を表し、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、かつx+y≦1である。}で示される層状酸化物正極活物質、(2)一般式LiMn2-xMbxO4{式中、Mbは遷移金属から成る群より選ばれる一種以上を表し、かつ0.2≦x≦0.7である。}で示されるスピネル型酸化物正極活物質、(3)Li2McO3とLiMdO2{式中、Mc及びMdは、別個独立に遷移金属から成る群より選ばれる一種以上を表す。}の複合酸化物であって、一般式zLi2McO3-(1-z)LiMdO2{式中、Mc及びMdは、別個独立に遷移金属から成る群より選ばれる一種以上を表し、かつ0.05≦z≦0.95である。}で示されるLi過剰層状酸化物正極活物質、(4)LiMe1-xFexPO4{式中、Meは、Mn及びCoから成る群より選ばれる一種以上を表し、かつ0≦x≦1である。}で示されるオリビン型正極活物質、(5)Li2MfPO4F{式中、Mfは、遷移金属から成る群より選ばれる一種以上を示す。}から成る群より選ばれる一種以上の正極活物質などが挙げられる。
中でも、正極活物質は、本発明の作用効果の観点からLiNixCoyMn1-x-yO2{式中、0≦x≦1であり、0≦y≦1であり、かつx+y≦1。}又はLiNixCoyAl1-x-yO2{式中、0.7≦x≦1、0≦y≦0.3、かつx+y≦1。}で示される組成を有することが好ましい。具体的には、LiNixCoyMn1-x-yO2{式中、0.5≦x≦1、0≦y≦0.5、かつx+y≦1である。}、及びLiNi0.85Co0.1Al0.05O2が好ましい。
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成されることができる。
正極以外の電池構成部材としては、負極、電解液、電池外装体などがあり、本発明の作用効果を阻害しない限り、既知の部材を使用してよい。
以下、実施例、及び比較例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、及び比較例に限定されるものではない。
<ポリオレフィン微多孔膜の溶融粘弾性測定>
・試料の調製
溶融粘弾性測定の試料は以下の方法で作製した。以下の条件以外は、JIS K 7151(1995)に従って試料の作製を実施した。ポリオレフィン微多孔膜を総厚み約5mmになるように複数枚重ね、プレス機を用いて25℃、10MPaで2分間プレスし、微多孔膜間の空気を可能な限り除き、ポリオレフィン微多孔膜の積層体を得た。ポリオレフィン微多孔膜の積層体を厚み0.8mm、10cm四方のシート成型用SUS枠に配置し、プレス機を用いて0.1MPa、200℃で2分間予熱した後、10MPa、200℃で2分間プレスし、応力を緩和させるために0.1MPa、200℃で2分間保持した。その後、積層体を厚み0.8mmのSUS枠に配置したまま0.1MPa、25℃で2分間プレスして冷却固化させ、約0.8mm、面積約100cm2のポリオレフィンシートを得た。得られたポリオレフィンシートから気泡を含まない箇所を選び、8mmφの円形型抜き器を用いて打ち抜き、直径8mmφ、厚み約0.8mmの溶融粘弾性測定試料を得た。
・溶融粘弾性測定
貯蔵弾性率(G’)、損失正接(tan△)は、Anton Paar社製のMCR302を用いて、以下の条件により求めた。以下の条件以外は、JIS K 7244-10:2005に従って測定を実施した。
ゼロ点調整:170℃で実施
測定温度:170℃
昇温速度:0.05℃/min
固定治具:8mmφのパラレルプレート
試料寸法:8mmφ 厚さ0.8mm
ギャップ:可変式(0.25Nとなるように測定中に適宜自動調整)
測定角周波数:1.0Hz
せん断歪み:5.0%
測定手順:80℃でサンプルを設置し、サンプルに0.25N印加した後に、上記条件で170℃まで昇温し、温度とギャップが安定したことを確認した後、測定を開始する。
<引張試験>
引張試験機(島津オートグラフAG-A型)を用いてMD、及びTDの引張試験を行い、サンプル破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除し、MD、及びTDの引張破断強度(kgf/cm2)とした。測定条件は、温度;23±2℃、湿度:40%、サンプル形状;幅10mm×長さ100mm、チャック間距離;50mm、引張速度;200mm/minである。
引張伸度(%)は、破断に至るまでの伸び量(mm)をチャック間距離(50mm)で除して、100を乗じることにより求めた。
<粘度平均分子量(Mv)>
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。
ポリエチレンについては、次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
無機粒子を含むポリオレフィン微多孔膜の樹脂成分のMvについては、溶剤などによりポリオレフィン微多孔膜から無機粒子を溶出させてから、残りの樹脂成分について上記ポリエチレン又はポリプロピレンと同様にMvを測定する。また、ポリオレフィン微多孔膜の主成分がポリエチレンの場合は、ポリエチレンに用いる極限粘度とMvの上記関係式を用いてMvを算出するものとする。
<ポリオレフィン原料のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)>
・試料の調製
ポリオレフィン原料を秤量し、濃度が1mg/mlになるように溶離液1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を加えた。高温溶解器を用いて、160℃で30分静置したのち、160℃で1時間揺動させ、試料がすべて溶解したことを目視で確認した。160℃のまま、0.5μmフィルターでろ過し、ろ液をGPC測定試料とした。
・GPC測定
GPC装置として、Agilent社製のPL-GPC220(商標)を用い、東ソー(株)製のTSKgel GMHHR-H(20) HT(商標)の30cmカラム2本を使用し、上記で調整したGPC測定試料500μlを測定機に注入し、160℃にてGPC測定を行った。
なお、標準物質として市販の分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成し、求められた各試料のポリスチレン換算の分子量分布データを得た。ポリエチレンの場合は、ポリスチレン換算の分子量分布データに0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることにより、ポリエチレン換算の分子量分布データを取得した。ポリプロピレンの場合は、(ポリプロピレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=26.4/41.3)を乗じることにより、ポリプロピレン換算の分子量分布データを取得した。これにより、各試料の重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を得た。
<平均流量孔径(μm)、最大孔径(μm)>
バブルポイント法(ASTM F316-86,JIS K 3832)に準拠し、パームポロメータ(Porous Materials,Inc.社:CFP-1500AE)を用い、ポリオレフィン微多孔膜または電池用セパレータの平均流量孔径および最大孔径を測定した。浸液には同社製のパーフルオロポリエステル(商品名「Galwick」、表面張力γ=15.6dyn/cm)を用いた。乾燥曲線、及び湿潤曲線について、印加圧力、及び空気透過量の測定を行い、得られた乾燥曲線の1/2の曲線と湿潤曲線とが交わる圧力PHD(Pa)から、次式により平均流量径dHD(μm)を求める。
dHD=2860×γ/PHD
<膜厚(μm)>
微小測厚器(東洋精機製 タイプKBM)を用いて、室温23℃、湿度40%の雰囲気下で試料の膜厚を測定した。端子径5mmφの端子を用い、44gfの荷重を印加して測定した。
<気孔率(%)>
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm3)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/膜密度)/体積×100
なお、膜密度としては、用いたポリオレフィン樹脂と無機粒子の各々の密度と混合比より計算で求められる値を用いた。
<透気度(sec/100cm3)>
JIS P-8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G-B2(商標)を用いて温度23℃、湿度40%の雰囲気下でポリオレフィン微多孔膜の透気抵抗度を測定し透気度とした。
<突刺強度(gf)>
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、温度23℃、湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(gf)を得た。
<120℃での熱収縮率(%)>
サンプルとして、多孔膜をMDに100mmかつTDに100mm、MDに50mmかつTDに50mm、またはMDに30mmかつTDに30mmの加熱前の長さ(mm)に切り取り、120℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルに当たらないように、サンプルを10枚の紙に挟んだ。サンプルをオーブンから取り出して冷却した後、長さを測定して加熱後の長さ(mm)とし、下式にて熱収縮率を算出した。測定はMDとTDでそれぞれ行った。
熱収縮率(%)={(加熱前の長さ-加熱後の長さ)/加熱前の長さ}×100
<平均粒径>
走査型電子顕微鏡(SEM)HITACHI社製「型式S-4800」を用い、かつ無機粒子の測定試料としてはオスミウム蒸着したものを用いて、加速電圧1.0kVで試料を観察し、平均粒径を測定した。
<表面親水性度>
イオン性化合物をガラス管に0.5g量り取り、0.001mmHg以下の圧力下、150℃で18時間真空脱気を行った。次に、多検体高性能比表面積・細孔分布測定装置「3Flex」(Micromeritics社製)にて、JIS Z 8830:2013に準じて、吸着質として窒素又は水蒸気を用いて、イオン性化合物の比表面積を測定した。吸着質として水蒸気を使用したときに得られた比表面積(SWater)を、吸着質として窒素を使用したときに得られた比表面積(SNitrogen)で除することで、イオン性化合物の表面親水性度(SWater/SNitrogen)を算出した。
<電池評価:釘刺試験>
以下の手順a~cにより、正極、負極、及び非水電解液を調整した。
a.正極の作製
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NCM)(Ni:Co:Mn=6:2:2(元素比))を94.0質量%、アセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm3、数平均粒子径48nm)を3.0質量%、並びにバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(密度1.75g/cm3)を3.0質量%の比率で混合し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。このときの正極活物質塗布量は235g/m2であった。
b.負極の作製
負極活物質としてグラファイト粉末(密度2.23g/cm3、数平均粒子径12.7μm)を96.7質量%、並びにバインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)、及びジエンゴム系ラテックス1.9質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。このときの負極活物質塗布量は132g/m2であった。
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより、非水電解液を調製した。
d.電池作製
上記a~cで得られた正極、負極、及び非水電解液、並びに実施例1~15で得られたセパレータを使用して、電流値1A(0.3C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電したサイズ100mm×60mm、容量3Ahのラミネート型二次電池を作製した。
e.釘刺評価
ラミネート型二次電池を、温調可能な防爆ブース内の鉄板上に静置した。ラミネート型二次電池の中央部に、防爆ブース内の温度を40℃に設定し、直径3.0mmの鉄製釘を、2mm/secの速度で貫通させ、釘は貫通した状態で維持した。釘内部に、釘が貫通した後ラミネート電池内部の温度が測定できるように設置した熱電対の温度を測定し、最高到達温度を以下のように評価した。
(安全性試験の評価基準)
・最高到達温度
A:180℃以下
B:180℃より高く200℃以下
C:200℃より高く230℃以下
D:230℃より高く260℃以下
E:260℃より高く290℃以下
F:290℃より高く320℃以下
G:320℃より高い
<サイクル試験>
実施例、及び比較例で得たセパレータをそれぞれ使用し、上記手順dで得られた簡易電池を用いて、以下の手順でサイクル特性の評価を行った。
(1)前処理
上記簡易電池を、1/3Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を8時間行い、その後1/3Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。次に、1Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を3時間行い、更に1Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。最後に1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電をした後、4.2Vの定電圧充電を3時間行った。なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表す。
(2)サイクル試験
上記前処理を行った電池を、温度25℃の条件下で、充電電流1Cで充電終止電圧4.2Vまで充電を行った後、放電電流1Cで放電終止電圧3Vまで放電を行った。これを1サイクルとして充放電を繰り返した。そして、初期容量(第1回目のサイクルにおける容量)に対する300サイクル後の容量保持率を用いて、以下の基準でサイクル特性を評価した。
(3)サイクル特性の評価基準
A:95%以上100%以下の容量保持率
B:90%以上95%未満の容量保持率
C:85%以上90%未満の容量保持率
D:85%未満の容量保持率
≪比較例1、5~9≫
ポリオレフィン微多孔膜を、以下の手順で作製した。
表1に示されるとおり、特定の分子量を有する高密度ポリエチレンと、特定の平均粒径及び親水性度を有する硫酸バリウムを、表1に示す割合で混合して樹脂組成物を形成した。樹脂組成物に、酸化防止剤として、0.3質量部のテトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンを混合し、得られた混合物を、二軸押出機にフィーダーを介して投入した。更に孔形成材として流動パラフィン(37.78℃における動粘度75.90cSt)を、ポリオレフィン樹脂、無機粒子、及び流動パラフィンから成る組成物中に占める流動パラフィンの質量分率が表1に示される割合となるようにサイドフィードで押出機に注入し、200℃で混練し、押出機先端に設置したTダイから、表1に示すダイリップ間隔で押出した。押出後、直ちに押出物を30℃に冷却したキャストロールで冷却固化させ、シートを成形した。このシートを同時二軸延伸機で表1に示される温度条件で7×6倍に延伸した後、塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後、シートを乾燥し、テンター延伸機により表1に示される温度条件と延伸倍率で幅方向(TD)に延伸した。その後、この延伸シートを横延伸後の幅から0.82倍になるように幅方向(TD)に緩和する熱処理を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
≪実施例1~21,23、及び比較例2~4≫
ポリオレフィン微多孔膜を、以下の手順で作製した。
表1に示されるとおり、特定の平均粒径及び親水性度を有する硫酸バリウム、孔形成材としての流動パラフィン(37.78℃における動粘度75.90cSt)を、硫酸バリウムと流動パラフィンの総量のうちの硫酸バリウムの体積分率が表1に示される割合となるようにし、オートミクサー(PRIMIX社製)を用いて、室温で、4,000rpmで、3分間攪拌した。次に、フィルミックス80型(PRIMIX社製)を用いて、周速40m/sで、3分間、事前分散して、予備分散物を形成した。
次いで、表1に示される分子量を有する高密度ポリエチレンと、酸化防止剤としての0.3質量部のテトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンと、上記で形成された予備分散物とを、ポリオレフィン微多孔膜中の無機粒子の含有率が表1に示される割合になるように、二軸押出機にフィーダーを介して投入した。必要に応じて流動パラフィン(37.78℃における動粘度75.90cSt)を、ポリオレフィン樹脂、無機粒子、及び流動パラフィンから成る組成物中に占める流動パラフィンの質量分率が表1に示す割合となるようにサイドフィードで押出機に注入し、混錬温度200℃で混練し、押出機先端に設置したTダイから、表1に示すダイリップ間隔で押出した。押出後、直ちに押出物を30℃に冷却したキャストロールで冷却固化させ、シートを成形した。このシートを同時二軸延伸機で表1に示される温度条件で7×6倍に延伸した後、塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを抽出除去した。その後、シートを乾燥し、テンター延伸機により表1に示される温度条件と延伸倍率で幅方向(TD)に延伸した。その後、この延伸シートを横延伸後の幅から0.82倍になるように幅方向(TD)に緩和する熱処理を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
≪実施例24≫
表1に示されるとおり、無機粒子にシリカを用いて、高密度ポリエチレンの分子量、事前分散時の無機粒子と流動パラフィンから成る組成物中に占める無機粒子の体積分率、ポリオレフィン微多孔膜中の無機粒子の含有率、ポリオレフィン樹脂、無機粒子、及び流動パラフィンから成る組成物中に占める流動パラフィンの質量分率、ダイリップ間隔、二軸延伸温度、テンター延伸機の温度、テンター延伸時の延伸倍率などを変更したこと以外は実施例1と同じ方法に従って、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
≪実施例22≫
実施例5で得られたポリオレフィン微多孔膜に以下の手順で無機多孔層を形成した。
(無機多孔層の形成)
無機粒子として95重量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4重量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100重量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、樹脂バインダとして4.6重量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、ガラス転移温度-23℃、構成モノマー:ブチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸)を添加することにより無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、実施例5で得られたポリオレフィン微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、5μmの無機多孔層が形成されたポリオレフィン微多孔膜を得た。
≪比較例10≫
比較例6で得られたポリオレフィン微多孔膜を以下の手順で架橋処理に供した。
(架橋処理)
比較例6の膜に電子線架橋を実施した。20kGyで3回電子線を膜の表面に照射した後に、裏返して、裏面も20kGyで3回電子線を照射することで、架橋を行った。
ただし、粘弾性測定は、比較例6の膜を上記項目<ポリオレフィン微多孔膜の溶融粘弾性測定>と同じ手順で約0.8mm、面積約100cm2のシート状にしてから、同じ条件で架橋を実施した後に、8mmφの円形型抜き器を用いて打ち抜いて作製した、直径8mmφ、厚み約0.8mmの溶融粘弾性測定試料を用いて測定した。
実施例で得られたポリオレフィン微多孔膜または塗工膜、及び比較例で得られたポリオレフィン微多孔膜または架橋膜について、上記の方法に従って各種の物性を測定して評価した。測定結果と評価結果を表1に示す。