以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
図1は、第1実施形態に係る溶接電源装置A1の内部構成を示すブロック図であり、被覆アーク溶接システムの全体構成を示している。
図1に示すように、被覆アーク溶接システムは、溶接電源装置A1、被覆アーク溶接棒Bおよび溶接棒ホルダCを備える。溶接棒ホルダCは、作業者が把持して溶接を行うためのものであり、被覆アーク溶接棒Bを保持し、溶接電源装置A1から入力される交流電流を被覆アーク溶接棒Bに通電する。溶接電源装置A1は、商用電源Dから入力される交流電力を変換して、出力端子a,bから出力する。一方の出力端子aは、ケーブルによって被加工物Wに接続される。他方の出力端子bは、ケーブルによって溶接棒ホルダCに接続される。溶接電源装置A1は、被覆アーク溶接棒Bの先端を被加工物Wに接触させた後に引き離したときにアークを発生させて、発生させたアークに電力を供給する。当該アークの熱によって、溶接が行われる。
溶接電源装置A1は、整流平滑回路1、インバータ回路2、トランス3、整流平滑回路5、再点弧回路6、インバータ回路7、制御回路8、電流センサ91、電圧センサ92,93、および操作部10を備える。
整流平滑回路1は、商用電源Dから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路1は、交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備える。なお、整流平滑回路1の構成は限定されない。
インバータ回路2は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子を備える。インバータ回路2は、制御回路8から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路1から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。なお、インバータ回路2は直流電力を高周波電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路2が本発明の「インバータ回路」に相当する。
トランス3は、インバータ回路2が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路5に出力する。トランス3は、一次側巻線3a、二次側巻線3bおよび補助巻線3cを備える。一次側巻線3aの各入力端子は、インバータ回路2の各出力端子にそれぞれ接続される。二次側巻線3bの各出力端子は、整流平滑回路5の各入力端子にそれぞれ接続される。また、二次側巻線3bには、2つの出力端子とは別にセンタタップが設けられている。二次側巻線3bのセンタタップは、接続線4によって、出力端子bに接続される。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと二次側巻線3bの巻き数比に応じて変圧されて、整流平滑回路5に入力される。補助巻線3cの各出力端子は、充電回路63の各入力端子にそれぞれ接続される。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと補助巻線3cの巻き数比に応じて変圧されて、充電回路63に入力される。二次側巻線3bおよび補助巻線3cは一次側巻線3aに対して絶縁されているので、商用電源Dから入力される電流が二次側の回路および充電回路63に流れることを防止することができる。
整流平滑回路5は、トランス3から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路5は、高周波電流を整流する全波整流回路51と、平滑する直流リアクトル52とを備える。直流リアクトル52は、全波整流回路51とインバータ回路7とを接続する正極側の接続線および負極側の接続線に、それぞれ配置されており、2つの直流リアクトル52は、カップリングされている。直流リアクトル52は、極性切り替え時に蓄えられた電気エネルギーを放出することで、アーク切れを抑制する機能も果たす。整流平滑回路5の正極側の出力端子はインバータ回路7の正極側の入力端子に接続され、整流平滑回路5の負極側の出力端子はインバータ回路7の負極側の入力端子に接続される。なお、整流平滑回路5の構成は限定されない。整流平滑回路5が、本発明の「整流回路」に相当する。
インバータ回路7は、例えば、単相ハーフブリッジ型のPWM制御インバータであり、2つのスイッチング素子を備える。インバータ回路7の出力端子は、出力端子aに接続される。インバータ回路7は、制御回路8から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、インバータ回路7の出力端子の電位(出力端子aの電位)を、整流平滑回路5の正極側の出力端子の電位と負極側の出力端子の電位とで交互に切り替える。これにより、インバータ回路7は、出力端子a(被加工物Wに接続)の電位が出力端子b(溶接棒ホルダCを介して被覆アーク溶接棒Bに接続)の電位より高い状態である正極性と、出力端子aの電位が出力端子bの電位より低い状態である逆極性とを交互に切り替える。つまり、インバータ回路7は、整流平滑回路5から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ回路7の出力電流は、正極性と逆極性とが切り替わるときに向きが変わり、それ以外の期間では最大電流または最小電流を継続する矩形波状の波形になる。なお、インバータ回路7の構成は限定されず、例えばフルブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路7が本発明の「第2インバータ回路」に相当する。
再点弧回路6は、整流平滑回路5とインバータ回路7との間に配置されており、溶接電源装置A1の出力極性が切り替わるときに、溶接電源装置A1の出力端子a,b間に再点弧電圧を印加する。再点弧電圧は、極性切り替え時の再点弧性を向上させるために印加する高電圧である。出力極性が正極性から逆極性に切り替わるときにアーク切れが発生しやすいので、本実施形態では、再点弧回路6は、正極性から逆極性に切り替わるときにのみ再点弧電圧を印加し、逆極性から正極性に切り替わるときには再点弧電圧を印加しない。再点弧回路6は、ダイオード61、再点弧コンデンサ62、充電回路63および放電回路64を備える。
ダイオード61と再点弧コンデンサ62とは直列接続されて、インバータ回路7の入力側に並列接続される。ダイオード61は、アノード端子がインバータ回路7の正極側の入力端子に接続され、カソード端子が再点弧コンデンサ62の一方の端子に接続される。再点弧コンデンサ62は、一方の端子がダイオード61のカソード端子に接続され、他方の端子がインバータ回路7の負極側の入力端子に接続される。再点弧コンデンサ62は、所定の静電容量以上のコンデンサであり、溶接電源装置A1の出力に印加するための再点弧電圧を充電される。再点弧コンデンサ62は、充電回路63によって充電され、放電回路64によって放電される。また、ダイオード61は、インバータ回路7のスイッチング時のサージ電圧を、再点弧コンデンサ62に吸収させる。つまり、再点弧コンデンサ62は、サージ電圧を吸収するためのスナバ回路としても機能する。
充電回路63は、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電するための回路であり、再点弧コンデンサ62に並列に接続される。充電回路63は、トランス3の補助巻線3cから入力される高周波電圧を直流電圧に変換する整流平滑回路(図示なし)、および、直流電圧を昇圧して再点弧コンデンサ62に出力するコンバータ(図示なし)を備える。コンバータは、例えば、絶縁型フォワードコンバータや昇圧チョッパ回路などである。充電回路63は、後述する充電制御部86から入力される充電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を充電する状態と充電しない状態とで切り替える。なお、充電回路63の構成は限定されない。
放電回路64は、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧を放電するための回路であり、ダイオード61と再点弧コンデンサ62との接続点と、二次側巻線3bのセンタタップと出力端子bとを接続する接続線4との間に接続される。放電回路64は、後述する放電制御部85から入力される放電回路駆動信号に応じて通電を行うスイッチング素子(図示なし)、および、当該スイッチング素子に直列接続される限流抵抗(図示なし)を備える。放電回路64は、放電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を放電する状態と放電しない状態とで切り替える。なお、放電回路64の構成は限定されない。
電流センサ91は、溶接電源装置A1の出力電流を検出するものであり、本実施形態では、インバータ回路7の出力端子と出力端子aとを接続する接続線71に配置される。本実施形態では、電流がインバータ回路7から出力端子aに向かって流れる場合を正としており、電流が出力端子aからインバータ回路7に向かって流れる場合を負としている。電流センサ91は、出力電流の瞬時値を検出し、平均値を算出して、出力電流Iとして制御回路8に入力する。平均値は、瞬時値の絶対値の所定時間の積分値を所定時間で除算することで算出される。所定時間は、出力電圧波形の例えば1周期に相当する時間である。なお、所定時間は限定されない。なお、平均値に代えて、実効値を算出してもよい。なお、電流センサ91の構成は限定されず、接続線71から出力電流を検出するものであればよい。なお、電流センサ91の配置場所は限定されない。例えば、電流センサ91は、接続線4に配置されてもよい。
電圧センサ92は、再点弧コンデンサ62の端子間電圧を検出するものである。電圧センサ92は、端子間電圧の瞬時値を検出して制御回路8に入力する。電圧センサ93は、溶接電源装置A1の出力電圧を検出するものであり、出力端子a,b間の端子間電圧を検出する。電圧センサ93は、端子間電圧の瞬時値を検出し、平均値を算出して、出力電圧Vとして制御回路8に入力する。平均値は、瞬時値の絶対値の所定時間の積分値を所定時間で除算することで算出される。所定時間は、出力電圧波形の例えば1周期に相当する時間である。なお、所定時間は限定されない。なお、平均値に代えて、実効値を算出してもよい。電圧センサ93が本発明の「電圧センサ」に相当する。
操作部10は、作業者による操作を受けつけるものである。操作部10は、操作手段を備えており、作業者による操作手段の操作を操作信号として制御回路8に出力する。操作部10は、操作手段の1つとして、図示しない閾値電圧設定ボタンを備える。閾値電圧設定ボタンは、例えば2つのボタンからなり、一方のボタンは閾値電圧を大きくするためのボタンであり、他方のボタンは閾値電圧を小さくするためのボタンである。各ボタンが押圧されると、操作部10は、これに応じた操作信号を制御回路8に出力する。当該操作信号を入力された制御回路8は、設定されている閾値電圧を変更する。また、制御回路8は、閾値電圧またはこれに応じて変化する数値を、図示しない表示装置(例えば、液晶ディスプレイや7セグメントディスプレイなど)に表示させる。作業者は、表示装置をみることで、現在の閾値電圧を認識できる。なお、操作部10は他の操作手段も備えるが、説明を省略する。
制御回路8は、溶接電源装置A1を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路8は、電流センサ91から出力電流Iを入力され、電圧センサ92から再点弧コンデンサ62の端子間電圧の瞬時値を入力され、電圧センサ93から出力電圧Vを入力される。そして、制御回路8は、インバータ回路2、インバータ回路7、充電回路63および放電回路64に、それぞれ駆動信号を出力する。制御回路8は、電流制御部81、目標電流設定部82、極性切替制御部83、放電制御部85、充電制御部86、閾値設定部871、比較部872、計時部873、および停止部874を備える。
電流制御部81は、溶接電源装置A1の出力電流をフィードバック制御するために、インバータ回路2を制御する。電流制御部81は、電流センサ91から入力される出力電流Iと目標電流設定部82から入力される目標電流との偏差に基づいて、PWM制御により、インバータ回路2のスイッチング素子を制御するための出力制御駆動信号を生成する。また、本実施形態では、電流制御部81は、停止部874から入力される停止信号がオン(例えばハイレベル信号)の間、出力制御駆動信号の出力を停止する。これにより、インバータ回路2は、スイッチング素子のスイッチングが停止し、高周波電力の出力を停止する。
極性切替制御部83は、溶接電源装置A1の出力極性を切り替えるために、インバータ回路7を制御する。極性切替制御部83は、インバータ回路7の出力極性を切り替えるようにスイッチング素子を制御するためのパルス信号であるスイッチング駆動信号を生成する。スイッチング駆動信号は、オン(例えばハイレベル信号)のときに出力端子a(被加工物W)を出力端子b(被覆アーク溶接棒B)より高電位(正極性)とし、オフ(例えばローレベル信号)のときに出力端子a(被加工物W)を出力端子b(被覆アーク溶接棒B)より低電位(逆極性)とする。溶接電源装置A1の出力電流は、スイッチング駆動信号がオンからオフに切り替わった時から減少し、ゼロを過ぎて極性が変わった後に最小電流値になる。また、溶接電源装置A1の出力電流は、スイッチング駆動信号がオフからオンに切り替わった時から増加し、ゼロを過ぎて極性が変わった後に最大電流値になる。溶接電源装置A1の出力電流が最大電流値から最小電流値に変化するまでの時間、および、最小電流値から最大電流値に変化するまでの時間は、スイッチング駆動信号の周期(出力電流の周期)と比較して十分小さい時間であるので、出力電流の波形は、矩形波状の波形になる。スイッチング駆動信号は、放電制御部85にも出力される。
放電制御部85は、放電回路64を制御する。放電制御部85は、極性切替制御部83から入力されるスイッチング駆動信号に基づいて、放電回路64を制御するための放電回路駆動信号を生成して、放電回路64に出力する。放電回路駆動信号は、充電制御部86にも入力される。
放電制御部85は、溶接電源装置A1の出力電流が正から負に変わるときにオンになっているように、放電回路駆動信号を生成する。具体的には、放電制御部85は、スイッチング駆動信号がオンからオフに切り替わったときにオン(例えばハイレベル信号)に切り替わり、オンに切り替わった後、所定時間が経過したときにオフ(例えばローレベル信号)に切り替わるパルス信号を生成し、放電回路駆動信号として出力する。所定時間は、放電状態を継続する時間であり、アークの再点弧によって溶接電源装置A1の出力電流が正から負に変わるタイミングを完全に超えるまで継続するように設定される。なお、放電制御部85が放電回路駆動信号を生成する方法は限定されない。
充電制御部86は、充電回路63を制御する。充電制御部86は、放電制御部85から入力される放電回路駆動信号と、電圧センサ92から入力される再点弧コンデンサ62の端子間電圧の瞬時値とに基づいて、充電回路63を制御するための充電回路駆動信号を生成して、充電回路63に出力する。
再点弧コンデンサ62の端子間電圧は、放電回路駆動信号がオンになって、出力電流の向きが変わったときに再点弧電流が流れることで急減する。次の放電のタイミングまでに、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電する必要がある。また、再点弧コンデンサ62が目標電圧まで充電された場合は、それ以上の充電を行う必要がない。充電制御部86は、再点弧コンデンサ62の放電後から、再点弧コンデンサ62が目標電圧になるまでオンとなるように、充電回路駆動信号を生成する。具体的には、充電制御部86は、放電制御部85より入力される放電回路駆動信号がオンからオフに切り替わったときにオン(例えばハイレベル信号)に切り替わり、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が目標電圧になったときにオフ(例えばローレベル信号)に切り替わるパルス信号を生成し、充電回路駆動信号として出力する。なお、充電制御部86が充電回路駆動信号を生成する方法は限定されない。
閾値設定部871は、閾値電圧V0を設定する。閾値設定部871は、現在の閾値電圧V0を記憶しており、操作部10から閾値電圧設定ボタンの押圧による操作信号(閾値電圧を変更するための操作信号)が入力されると、設定されている閾値電圧V0を変更する。閾値設定部871は、設定されている閾値電圧V0を比較部872に出力する。
比較部872は、溶接電源装置A1の出力電圧を閾値電圧V0と比較する。具体的には、比較部872は、電圧センサ93から入力される出力電圧Vと、閾値設定部871から入力される閾値電圧V0とを比較する。比較部872は、出力電圧Vが閾値電圧V0以上の場合に例えばハイレベルになり、出力電圧Vが閾値電圧V0より低い場合に例えばローレベルになる比較信号を生成して、計時部873に出力する。
計時部873は、所定時間Tを計時する。計時部873は、比較部872より入力される比較信号がハイレベルの間(出力電圧Vが閾値電圧V0以上の間)、タイマにより計時を行い、所定時間Tが経過したときに、停止部874にタイミング信号を出力する。計時部873は、所定時間Tが経過する前に、比較部872より入力される比較信号がローレベルになった場合は、計時を停止し、タイマを「0」に初期化する。したがって、計時部873は、比較信号がハイレベルの状態が所定時間Tだけ継続した場合にのみ、タイミング信号を出力する。これにより、出力電圧Vが瞬間的に閾値電圧V0以上になった場合にまでインバータ回路2を停止してしまうことを防止できる。所定時間Tは、例えば数百ms程度であるが、これに限定されない。
停止部874は、インバータ回路2を停止させるための停止信号を生成する。停止部874は、計時部873からタイミング信号が入力されたときにオン(例えばハイレベル)になり、その後、電流センサ91から入力される出力電流Iが「0」になったときにオフ(例えばローレベル)になる停止信号を生成して、電流制御部81に出力する。なお、停止信号をオフにするタイミングは、これに限定されない。アークが消滅した後にオフにすればいいので、停止部874は、停止信号がオンになった後、アークが消滅するまでの時間を完全に超える所定時間が経過したときに、停止信号をオフにしてもよい。
閾値設定部871、比較部872、計時部873、および停止部874が、溶接終了時のアーク消滅のタイミングを調整するための構成である。なお、制御回路8は、各部をモジュール化したプログラムを実行するマイクロコンピュータによって実現してもよいし、論理回路を含むデジタル回路またはアナログ回路で実現してもよい。
次に、溶接終了時の溶接電源装置A1の動作について説明する。
図2は、溶接終了時の溶接電源装置A1の各部の波形を示すタイムチャートである。同図(a)はアーク長の時間変化を示し、同図(b)は電圧センサ93が検出する出力電圧Vの時間変化を示し、同図(c)は電流センサ91が検出する出力電流Iの時間変化を示す。同図(d)は計時部873のタイマの動作状態を示し、同図(e)は停止部874が出力する停止信号を示す。なお、本明細書で参照する各タイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
溶接を終了させるために、作業者は、時刻t1から、被覆アーク溶接棒Bを一定の速さで引き上げている。これにより、アーク長は、引き上げに応じて長くなっている(図2(a)参照)。また、アーク長に応じて出力電圧Vも高くなっている(図2(b)参照)。一方、出力電流Iは、すぐに低下せず、徐々に低下している(図2(c)参照)。
そして、時刻t2において、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になっている(図2(b)参照)。これにより、比較部872が比較信号としてハイレベル信号を計時部873に出力し、計時部873はタイマを起動して計時を開始する。そして、時刻t3において、タイマによる計時時間が所定時間Tを経過したので(図2(d)参照)、計時部873がタイミング信号を停止部874に出力し、停止部874が電流制御部81に出力する停止信号がオンになっている(図2(e)参照)。これにより、電流制御部81は出力制御駆動信号の出力を停止するので、インバータ回路2は、スイッチング素子のスイッチングが停止して、高周波電力の出力を停止する。したがって、出力電圧Vは「0」になり(図2(b)参照)、出力電流Iも急激に低下する(図2(c)実線参照)。
そして、時刻t4において、出力電流Iが十分低下して、例えばI0以下になったときに、アークが消滅している(図2(a)参照)。そして、時刻t5において、出力電流Iが「0」になって、停止信号がオフになっている(図2(e)参照)。
仮に、閾値電圧V0に応じたインバータ回路2の停止を行わなかった場合、出力電流Iは急低下せず、定電流特性に応じて低下し(図2(c)破線参照)、I0以下になるまでに時間を要する(時刻t10参照)。また、このときのアーク長は長くなり(図2(a)破線参照)、出力電圧Vは高くなる(図2(b)破線参照)。つまり、溶接電源装置A1は、閾値電圧V0に応じたインバータ回路2の停止を行うことにより、アークが消滅するタイミングを早くし、アークが消滅するときのアーク長を短くすることができる。また、閾値電圧V0は、操作部10の閾値電圧設定ボタンの操作により、変更可能である。閾値電圧V0が小さいほど、インバータ回路2の停止が早くなるので、アーク消滅のタイミングを早める(アーク消滅までの被覆アーク溶接棒Bの引き上げ量を小さくする)ことができる。また、閾値電圧V0が大きいほど、インバータ回路2の停止が遅くなるので、アーク消滅のタイミングを遅らせる(アーク消滅までの被覆アーク溶接棒Bの引き上げ量を大きくする)ことができる。作業者は、アーク消滅のタイミングが、従来の垂下特性の溶接電源装置(図9(a)に示す溶接電源装置A100参照)を用いた場合と同程度と感じる程度に、閾値電圧V0を調整することができる。
次に、本実施形態に係る被覆アーク溶接システムの作用および効果について説明する。
本実施形態によると、制御回路8は、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になった場合に、出力制御駆動信号の出力を停止する。これにより、インバータ回路2の出力が停止されて、溶接電源装置A1の出力電流が急低下して、アークが消滅する。したがって、溶接電源装置A1の出力特性は定電流特性であるが、アークを早く消滅させることができる。また、閾値電圧V0は、操作部10の閾値電圧設定ボタンの操作により、変更可能である。閾値電圧V0が小さいほどアーク消滅のタイミングが早くなる。したがって、作業者は、アーク消滅のタイミングが、従来の垂下特性の溶接電源装置(図9(a)に示す溶接電源装置A100参照)を用いた場合と同程度と感じる程度に、閾値電圧V0を調整することができる。アーク消滅のタイミングに対しての違和感の感じ方は、作業者によって異なる。作業者は自分の感覚に応じて、閾値電圧V0を設定できる。これにより、アーク消滅のタイミングについての作業者の違和感を抑制できる。なお、作業者は、アーク消滅のタイミングを自分の好みのタイミングに調整することも可能である。
また、本実施形態によると、制御回路8は、計時部873を備え、出力電圧Vが閾値電圧V0以上の状態が所定時間Tだけ継続した場合にのみ、インバータ回路2を停止させる。これにより、出力電圧Vが瞬間的に閾値電圧V0以上になった場合にまでインバータ回路2を停止してしまうことを防止できる。
また、本実施形態によると、溶接電源装置A1は、インバータ回路7を備え、出力極性が切り替わる交流電力を出力できる。したがって、作業者は、従来の被覆アーク溶接システム(図9(a)参照)同様、交流溶接を行うことができる。また、本実施形態によると、溶接電源装置A1は、再点弧回路6を備え、正極性から逆極性に切り替わるときに再点弧電圧を印加する。したがって、アーク切れの発生を抑制できる。
なお、本実施形態においては、溶接電源装置A1の出力電流の波形を矩形波状とした場合について説明したが、これに限られない。例えば、溶接電源装置A1が、正弦波状の交流電流を出力してもよい。極性切替制御部83が、出力電流の波形が正弦波状になるように、スイッチング駆動信号を生成すればよい。出力電流の波形を正弦波状とすると、発生するアークが幅広になるので、溶接痕を幅広にすることができる。これにより、溶接痕が、従来の被覆アーク溶接システム(図9(a)参照)による溶接痕により近いものになる。したがって、作業者の違和感をより解消することができる。また、溶接電源装置A1からの発生音を抑制することができる。
また、本実施形態においては、操作部10の操作により閾値電圧V0を直接変更する場合について説明したが、これに限られない。例えば、作業者が操作部10の操作により、溶接棒ホルダCに取り付けた被覆アーク溶接棒Bの種類を選択し、閾値設定部871が選択された被覆アーク溶接棒Bの種類に応じて、適切な閾値電圧V0を自動的に設定してもよい。具体的には、被覆アーク溶接棒Bの直径および材質と、最適な閾値電圧V0との対応関係の閾値テーブルをメモリに記憶しておく。最適な閾値電圧V0とは、アーク消滅のタイミング(アーク消滅までの被覆アーク溶接棒Bの引き上げ量)が、当該直径および材質の被覆アーク溶接棒Bを従来の垂下特性の溶接電源装置(図9(a)に示す溶接電源装置A100参照)に用いた場合と同程度になるような閾値電圧V0である。そして、制御回路8は、被覆アーク溶接棒Bの直径および材質を選択する画面を表示装置に表示し、操作部10からの選択操作を受け付ける。作業者は、操作部10の操作手段の操作により、被覆アーク溶接棒Bの直径および材質を選択入力する。制御回路8は、操作部10から入力される操作信号に応じて、被覆アーク溶接棒Bの直径および材質を設定する。閾値設定部871は、設定された直径および材質に対応する閾値電圧V0を閾値テーブルから読み出して、比較部872に出力する。本変形例においては、被覆アーク溶接棒Bの直径および材質に対応した最適な閾値電圧V0が設定される。したがって、アーク消滅のタイミングが、当該直径および材質の被覆アーク溶接棒Bを従来の垂下特性の溶接電源装置に用いた場合と同様のタイミングになる。これにより、アーク消滅のタイミングについての作業者の違和感を抑制できる。
なお、閾値設定部871は、被覆アーク溶接棒Bの直径または材質のいずれかのみに応じて閾値電圧V0を設定してもよい。また、閾値設定部871は、被覆アーク溶接棒Bの種類の代わりに、溶接を行う継手の形式に応じて閾値電圧V0を設定してもよい。継手の形式には、突合せ継手、T継手、角継手、重ね継手、ヘリ継手などがあり、継手の形式によって、最適な閾値電圧V0が異なる。この場合は、制御回路8は、継手の形式を作業者に選択入力させる。なお、制御回路8は、被覆アーク溶接棒Bの種類と継手の形式との両方を作業者に選択入力させて、最適な閾値電圧V0を設定してもよい。また、制御回路8は、その他の要素を選択入力させ、または、所定のセンサで所定の物理量を検出して、最適な閾値電圧V0を設定してもよい。
図3ないし図8は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
図3および図4は、本発明の第2実施形態に係る溶接電源装置A2を説明するための図である。図3は、溶接電源装置A2の制御回路8の内部構成を示すブロック図である。なお、溶接電源装置A2の制御回路8以外の構成は、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(図1参照)と同様である。図3に示す溶接電源装置A2は、計時部873を備えない点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なっている。
第2実施形態に係る比較部872は、比較信号を生成して、停止部874に出力する。停止部874は、比較部872から入力される比較信号がローレベルからハイレベルに切り替ったときにオン(例えばハイレベル)になる停止信号を生成して、電流制御部81に出力する。
図4は、溶接終了時の溶接電源装置A2の各部の波形を示すタイムチャートである。同図(a)はアーク長の時間変化を示し、同図(b)は電圧センサ93が検出する出力電圧Vの時間変化を示し、同図(c)は電流センサ91が検出する出力電流Iの時間変化を示す。同図(d)は、停止部874が出力する停止信号を示す。
時刻t2において、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になっている(図4(b)参照)。これにより、比較部872が比較信号としてハイレベル信号を停止部874に出力し、停止部874が電流制御部81に出力する停止信号がオンになっている(図4(d)参照)。これにより、インバータ回路2は、高周波電力の出力を停止する。したがって、出力電圧Vは「0」になり(図4(b)参照)、出力電流Iも急激に低下する(図4(c)参照)。
本実施形態においても、制御回路8は、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になった場合に、出力制御駆動信号の出力を停止するので、アークを早く消滅させることができる。また、閾値電圧V0は、操作部10の閾値電圧設定ボタンの操作により変更可能なので、作業者は、アーク消滅のタイミングを調整することができる。これにより、アーク消滅のタイミングについての作業者の違和感を抑制できる。さらに、本実施形態によると、制御回路8は、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になるとすぐに(所定時間Tの経過を待つことなく)、インバータ回路2を停止させる。したがって、アーク消滅のタイミングは、第1実施形態の場合より早くなる。
図5は、本発明の第3実施形態に係る溶接電源装置A3を説明するための図であり、溶接電源装置A3の制御回路8の内部構成を示すブロック図である。なお、溶接電源装置A3の制御回路8以外の構成は、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(図1参照)と同様である。図5に示す溶接電源装置A3は、計時部873に設定される所定時間Tが目標電流に応じて変化する点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なっている。
第3実施形態に係る計時部873は、目標電流設定部82から目標電流を入力される。そして、計時部873は、入力された目標電流に応じて、所定時間Tを設定する。目標電流が大きいほど、溶接終了時のアーク消滅に時間がかかる。したがって、計時部873は、目標電流が大きいほど、誤検出防止のための所定時間Tを短くすることで、アーク消滅にかかる時間を短縮する。計時部873は、所定時間Tを目標電流に応じて線形的に変化させてもよいし、目標電流と所定時間Tとの対応関係のテーブルをメモリに記憶しておき、入力された目標電流に対応する所定時間Tを当該テーブルから読み出してもよい。
本実施形態においても、制御回路8は、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になった場合に、出力制御駆動信号の出力を停止するので、アークを早く消滅させることができる。また、閾値電圧V0は、操作部10の閾値電圧設定ボタンの操作により変更可能なので、作業者は、アーク消滅のタイミングを調整することができる。これにより、アーク消滅のタイミングについての作業者の違和感を抑制できる。また、本実施形態においても、制御回路8は、計時部873を備え、出力電圧Vが閾値電圧V0以上の状態が所定時間Tだけ継続した場合にのみ、インバータ回路2を停止させる。これにより、出力電圧Vが瞬間的に閾値電圧V0以上になった場合にまでインバータ回路2を停止してしまうことを防止できる。さらに、本実施形態によると、計時部873は、目標電流が大きいほど所定時間Tを短くするので、アーク消滅にかかる時間が長くなることを抑制できる。これにより、目標電流が大きい場合に、作業者が、アーク消滅のタイミングが遅く感じることを抑制できる。
図6および図7は、本発明の第4実施形態に係る溶接電源装置A4を説明するための図である。図6は、溶接電源装置A4の制御回路8の内部構成を示すブロック図である。なお、溶接電源装置A4の制御回路8以外の構成は、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(図1参照)と同様である。図6に示す溶接電源装置A4は、比較部872に第2閾値電圧V1が設定されており、出力電圧Vが第2閾値電圧V1以下になったときに、目標電流を減少させる点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なっている。
第4実施形態に係る比較部872は、閾値電圧V0とは別に、第2閾値電圧V1(<V0)が設定されている。比較部872は、電圧センサ93から入力される出力電圧Vを、第2閾値電圧V1とも比較する。第2閾値電圧V1はあらかじめ設定されている。なお、第2閾値電圧V1は、固定値でもよいし、目標電流などに応じて変化する値であってもよい。また、操作部10の操作により変更可能でもよい。比較部872は、出力電圧Vが第2閾値電圧V1以上の場合に例えばハイレベルになり、出力電圧Vが第2閾値電圧V1より低い場合に例えばローレベルになる第2比較信号を生成して、目標電流設定部82に出力する。
目標電流設定部82は、比較部872より入力される第2比較信号がハイレベルになった場合、設定されている目標電流を例えば数10%減少させる。目標電流が減少すると、電流制御部81は減少後の目標電流に応じて出力制御駆動信号を生成する。したがって、溶接電源装置A4の出力電流は減少する。
図7は、溶接終了時の溶接電源装置A4の各部の波形を示すタイムチャートである。同図(a)はアーク長の時間変化を示し、同図(b)は電圧センサ93が検出する出力電圧Vの時間変化を示し、同図(c)は電流センサ91が検出する出力電流Iの時間変化を示す。同図(d)は計時部873のタイマの動作状態を示し、同図(e)は停止部874が出力する停止信号を示す。
時刻t2より前の時刻t11において、出力電圧Vが第2閾値電圧V1以上になっている(図7(b)参照)。これにより、比較部872が第2比較信号としてハイレベル信号を目標電流設定部82に出力し、目標電流設定部82が電流制御部81に出力する目標電流を減少させる。これにより、出力電流Iは減少している(図7(c)参照)。そして、時刻t2において、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になってタイマが起動され、時刻t3において、所定時間Tを経過したので停止信号がオンになって、出力電流Iが急激に低下する(図7(c)参照)。そして、時刻t4において、出力電流IがI0以下になったときに、アークが消滅している。出力電流Iは、時刻t11のときに減少しているので、時刻t3の後、I0以下になるまでの時間(時刻t3から時刻t4までの時間)が短縮されている。
本実施形態においても、制御回路8は、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になった場合に、出力制御駆動信号の出力を停止するので、アークを早く消滅させることができる。また、閾値電圧V0は、操作部10の閾値電圧設定ボタンの操作により変更可能なので、作業者は、アーク消滅のタイミングを調整することができる。これにより、アーク消滅のタイミングについての作業者の違和感を抑制できる。また、本実施形態においても、制御回路8は、計時部873を備え、出力電圧Vが閾値電圧V0以上の状態が所定時間Tだけ継続した場合にのみ、インバータ回路2を停止させる。これにより、出力電圧Vが瞬間的に閾値電圧V0以上になった場合にまでインバータ回路2を停止してしまうことを防止できる。さらに、本実施形態によると、制御回路8は、出力電圧Vが第2閾値電圧V1以上になったときに目標電流を減少させて、出力電流を減少させる。したがって、アーク消滅にかかる時間を短縮できる。これにより、作業者が、アーク消滅のタイミングが遅く感じることを抑制できる。
図8は、本発明の第5実施形態に係る溶接電源装置A5の内部構成を示すブロック図であり、被覆アーク溶接システムの全体構成を示している。なお、図8においては、制御回路8の内部構成の記載を省略している。図8に示す溶接電源装置A5は、インバータ回路7を備えておらず、直流電力を出力する点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なっている。
溶接電源装置A5は、インバータ回路7および再点弧回路6を備えていない。整流平滑回路5の正極側の出力端子は出力端子aに接続され、整流平滑回路5の負極側の出力端子は出力端子bに接続される。溶接電源装置A5は、整流平滑回路5が高周波電力から変換した直流電力を出力する。
本実施形態においても、制御回路8は、出力電圧Vが閾値電圧V0以上になった場合に、出力制御駆動信号の出力を停止するので、アークを早く消滅させることができる。また、閾値電圧V0は、操作部10の閾値電圧設定ボタンの操作により変更可能なので、作業者は、アーク消滅のタイミングを調整することができる。これにより、アーク消滅のタイミングについての作業者の違和感を抑制できる。また、本実施形態においても、制御回路8は、計時部873を備え、出力電圧Vが閾値電圧V0以上の状態が所定時間Tだけ継続した場合にのみ、インバータ回路2を停止させる。これにより、出力電圧Vが瞬間的に閾値電圧V0以上になった場合にまでインバータ回路2を停止してしまうことを防止できる。さらに、本実施形態によると、直流電力を出力することができる。
本発明に係る被覆アーク溶接システムおよび被覆アーク溶接用の溶接電源装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る被覆アーク溶接システムおよび被覆アーク溶接用の溶接電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。