以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
図1〜図4は、第1実施形態に係る溶接電源装置を説明するための図である。図1は、溶接電源装置A1を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。図2(a)は、溶接電源装置A1の充電回路63の一例を示す回路図である。図2(b)は、溶接電源装置A1の放電回路64の一例を示す回路図である。図2(c)は、溶接電源装置A1の電流センサ91の一例を示す簡略図である。図3は、再点弧回路6の制御を説明するためのタイムチャートであり、溶接電源装置A1の各信号の波形を示している。図4は、再点弧電圧印加前後のタイムチャートであり、溶接電源装置A1の各信号の波形を示している。
図1に示すように、溶接システムは、溶接電源装置A1および溶接トーチBを備えている。当該溶接システムは、交流アーク溶接を行う、例えばTIG溶接システムである。溶接電源装置A1は、商用電源Dから入力される交流電力を変換して、出力端子a,bから出力する。一方の出力端子aは、ケーブルによって被加工物Wに接続されている。他方の出力端子bは、ケーブルによって溶接トーチBの電極に接続されている。溶接電源装置A1は、溶接トーチBの電極の先端と被加工物Wとの間にアークを発生させて、電力を供給する。当該アークの熱によって、溶接が行われる。溶接トーチB、被加工物Wおよび発生したアークを合わせたものが、溶接電源装置A1の負荷なので、これらを合わせたものを示す場合は、「溶接負荷」と記載する。
溶接電源装置A1は、整流平滑回路1、インバータ回路2、トランス3、整流平滑回路5、再点弧回路6、インバータ回路7、制御回路8、電流センサ91、および電圧センサ92を備えている。
整流平滑回路1は、商用電源Dから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路1は、交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、整流平滑回路1の構成は限定されない。
インバータ回路2は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子を備えている。インバータ回路2は、制御回路8から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路1から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。なお、インバータ回路2は直流電力を高周波電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路2が本発明の「第1のインバータ回路」に相当する。
トランス3は、インバータ回路2が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路5に出力する。トランス3は、一次側巻線3a、二次側巻線3bおよび補助巻線3cを備えている。一次側巻線3aの各入力端子は、インバータ回路2の各出力端子にそれぞれ接続されている。二次側巻線3bの各出力端子は、整流平滑回路5の各入力端子にそれぞれ接続されている。また、二次側巻線3bには、2つの出力端子とは別にセンタタップが設けられている。二次側巻線3bのセンタタップは、接続線4によって、出力端子bに接続されている。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと二次側巻線3bの巻き数比に応じて変圧されて、整流平滑回路5に入力される。補助巻線3cの各出力端子は、充電回路63の各入力端子にそれぞれ接続されている。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと補助巻線3cの巻き数比に応じて変圧されて、充電回路63に入力される。二次側巻線3bおよび補助巻線3cは一次側巻線3aに対して絶縁されているので、商用電源Dから入力される電流が二次側の回路および充電回路63に流れることを防止することができる。
整流平滑回路5は、トランス3から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路5は、高周波電流を整流する全波整流回路と、平滑する直流リアクトルとを備えている。なお、整流平滑回路5の構成は限定されない。
インバータ回路7は、例えば、単相ハーフブリッジ型のPWM制御インバータであり、2つのスイッチング素子を備えている。インバータ回路7の出力端子は、出力端子aに接続されている。インバータ回路7は、制御回路8から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、インバータ回路7の出力端子の電位(出力端子aの電位)を、整流平滑回路5の正極側の出力端子の電位と負極側の出力端子の電位とで交互に切り替える。これにより、インバータ回路7は、整流平滑回路5から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。また、インバータ回路7は、出力端子aの電位を切り替えることで、出力電流の極性を切り換える。なお、インバータ回路7は直流電力を交流電力に変換するものであればよく、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路7が本発明の「第2のインバータ回路」に相当する。
再点弧回路6は、整流平滑回路5とインバータ回路7との間に配置されており、溶接電源装置A1の出力電流の極性が切り換わるときに、溶接電源装置A1の出力端子a,b間に再点弧電圧を印加する。一般的に、出力端子a(被加工物W)が正で出力端子b(溶接トーチB)が負である正極性から、出力端子a(被加工物W)が負で出力端子b(溶接トーチB)が正である逆極性に切り換わるときに、アーク切れが発生しやすいことが知られている。本実施形態では、正極性から逆極性に切り換わるときにのみ再点弧電圧を印加させ、逆極性から正極性に切り換わるときには再点弧電圧を印加させない。再点弧回路6は、ダイオード61、再点弧コンデンサ62、充電回路63および放電回路64を備えている。
ダイオード61と再点弧コンデンサ62とは直列接続されて、インバータ回路7の入力側に並列接続されている。ダイオード61は、アノード端子がインバータ回路7の正極側の入力端子に接続され、カソード端子が再点弧コンデンサ62の一方の端子に接続されている。ダイオード61は、インバータ回路7の入力電圧の過渡電圧を、再点弧コンデンサ62に吸収させる。再点弧コンデンサ62は、一方の端子がダイオード61のカソード端子に接続され、他方の端子がインバータ回路7の負極側の入力端子に接続されている。再点弧コンデンサ62は、所定の静電容量以上のコンデンサであり、溶接電源装置A1の出力に印加するための再点弧電圧を充電される。再点弧コンデンサ62は、充電回路63によって充電され、放電回路64によって放電される。
充電回路63は、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電するための回路であり、再点弧コンデンサ62に並列に接続されている。図2(a)は、充電回路63の一例を示す図である。図2(a)に示すように、本実施形態では、充電回路63は、整流平滑回路63cおよび絶縁型フォワードコンバータ63dを備えている。整流平滑回路63cは、交流電圧を全波整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備え、トランス3の補助巻線3cから入力される高周波電圧を直流電圧に変換する。なお、整流平滑回路63cの回路構成は限定されない。絶縁型フォワードコンバータ63dは、整流平滑回路63cから入力される直流電圧を昇圧して、再点弧コンデンサ62に出力する。絶縁型フォワードコンバータ63dは、スイッチング素子63bを駆動するための駆動回路63aを備えている。駆動回路63aは、後述する充電制御部86から入力される充電回路駆動信号に基づいて、スイッチング素子63bを駆動させるためのパルス信号を出力する。駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間、所定のパルス信号をスイッチング素子63bに出力する。これにより、再点弧コンデンサ62が充電される。一方、駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間、パルス信号の出力を行わない。よって、再点弧コンデンサ62の充電は停止される。すなわち、充電回路63は、充電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を充電する状態と充電しない状態とで切り替える。なお、駆動回路63aを設けずに、充電制御部86が充電回路駆動信号としてパルス信号をスイッチング素子63bに直接入力するようにしてもよい。また、充電回路63の構成は限定されない。充電回路63は、絶縁型フォワードコンバータ63dに代えて、昇圧チョッパ回路などを備えるようにしてもよい。また、充電回路63に供給される電力は、トランス3の補助巻線3cからのものに限定されない。トランス3に補助巻線3cを設けず、二次側巻線3bから電力を供給するようにしてもよいし、他の電源から供給するようにしてもよい。また、インバータ回路7の入力電圧の過渡電圧を吸収させるだけで再点弧コンデンサ62を充電できる場合は、充電回路63を設けないようにしてもよい。
放電回路64は、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧を放電するものであり、ダイオード61と再点弧コンデンサ62との接続点と、二次側巻線3bのセンタタップと出力端子bとを接続する接続線4との間に接続されている。図2(b)は、放電回路64の一例を示す図である。図2(b)に示すように、放電回路64は、スイッチング素子64aおよび限流抵抗64bを備えている。本実施形態では、スイッチング素子64aは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)である。なお、スイッチング素子64aは、バイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などであってもよい。スイッチング素子64aと限流抵抗64bとは直列接続されて、再点弧コンデンサ62に直列接続されている。スイッチング素子64aのコレクタ端子は限流抵抗64bの一方の端子に接続されており、スイッチング素子64aのエミッタ端子は、接続線64cによって、接続線4に接続されている。なお、限流抵抗64bをスイッチング素子64aのエミッタ端子側に接続するようにしてもよい。また、スイッチング素子64aのゲート端子には、後述する放電制御部85から、放電回路駆動信号が入力される。スイッチング素子64aは、放電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間オン状態になる。これにより、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧は、限流抵抗64bを介して、放電される。一方、スイッチング素子64aは、放電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間オフ状態になる。これにより、再点弧電圧の放電は停止される。すなわち、放電回路64は、放電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を放電する状態と放電しない状態とで切り換える。なお、放電回路64の構成は限定されない。
電流センサ91は、電流を検出するものであり、本実施形態では、インバータ回路7の出力端子と出力端子aとを接続する接続線71に配置されている。図2(c)は、電流センサ91の一例を示す簡略図である。図2(c)に示すように、電流センサ91は、接続線71を挿通される磁気コア911、および、磁気コア911に巻回された検出コイル912を備えている。本実施形態では、電流がインバータ回路7から出力端子aに向かって流れる場合を正としており、電流が出力端子aからインバータ回路7に向かって流れる場合を負としている。また、本実施形態では、スイッチング素子64aのエミッタ端子と接続線4とを接続する接続線64cが、接続線71の近くまで引き回されている。そして、接続線64cは、再点弧電流の流れる向きが正の向きになるように、電流センサ91の磁気コア911に挿通されている。一方、接続線71を流れる再点弧電流は、負の向きに流れる。したがって、電流センサ91は、溶接電源装置A1の出力電流に追加されている再点弧電流を打ち消した電流を検出する。電流センサ91は、検出した検出電流を制御回路8に入力する。なお、電流センサ91の構成は限定されず、接続線71と接続線64cとから、出力電流に追加されている再点弧電流を打ち消した検出電流を検出するものであればよい。本実施形態においては、接続線71が本発明の「第1の接続線」に相当し、接続線64cが本発明の「第2の接続線」に相当する。また、電流センサ91が、本発明の「電流センサ」に相当する。なお、電流センサ91の配置場所は限定されない。例えば、電流センサ91を、図1において破線で示している電流センサ91’の位置に配置するようにしてもよい。この場合でも、接続線4と接続線64cとから、出力電流に追加されている再点弧電流を打ち消した検出電流を検出することができる。
電圧センサ92は、再点弧コンデンサ62の端子間電圧を検出するものである。電圧センサ92は、端子間電圧を検出して制御回路8に入力する。
制御回路8は、溶接電源装置A1を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路8は、電流センサ91から検出電流を入力され、電圧センサ92から再点弧コンデンサ62の端子間電圧を入力される。そして、制御回路8は、インバータ回路2、インバータ回路7、充電回路63および放電回路64に、それぞれ駆動信号を出力する。制御回路8は、電流制御部81、目標電流設定部82、極性切換制御部83、放電制御部85、および充電制御部86を備えている。
電流制御部81は、溶接電源装置A1の出力電流をフィードバック制御するために、インバータ回路2を制御する。電流制御部81は、電流センサ91から入力される検出電流を絶対値回路によって絶対値信号に変換し、当該絶対値信号と目標電流設定部82から入力される目標電流との偏差に基づいて、PWM制御により、インバータ回路2のスイッチング素子を制御するための出力制御駆動信号を生成して、インバータ回路2に出力する。
極性切換制御部83は、溶接電源装置A1の出力電流の極性を切り換えるために、インバータ回路7を制御する。極性切換制御部83は、インバータ回路7の出力極性を切り換えるようにスイッチング素子を制御するためのパルス信号であるスイッチング駆動信号を生成して、インバータ回路7に出力する。スイッチング駆動信号は、放電制御部85にも出力される。
放電制御部85は、放電回路64を制御する。放電制御部85は、極性切換制御部83から入力されるスイッチング駆動信号に基づいて、放電回路64を制御するための放電回路駆動信号を生成して、放電回路64に出力する。放電回路駆動信号は、充電制御部86にも入力される。
図3に示すように、電流センサ91が検出した検出電流(図3(b)参照)は、スイッチング駆動信号(図3(a)参照)に応じて変化する。図3(a)に示すスイッチング駆動信号は、オンのときに出力端子a(被加工物W)を正、出力端子b(溶接トーチB)を負とし、オフのときに出力端子a(被加工物W)を負、出力端子b(溶接トーチB)を正とする。検出電流は、スイッチング駆動信号がオンからオフに切り換わった時(図3における時刻t1)から減少し、ゼロを過ぎて(図3における時刻t2)極性が変わった後に最小電流値になる(図3における時刻t3)。また、検出電流は、スイッチング駆動信号がオフからオンに切り換わった時(図3における時刻t6)から増加し、ゼロを過ぎて(図3における時刻t7)極性が変わった後に最大電流値になる(図3における時刻t8)。放電制御部85は、検出電流の極性が正極性から逆極性に変わるときにオンとなるように、放電回路駆動信号を生成する。具体的には、放電制御部85は、スイッチング駆動信号が切り換わったとき(図3における時刻t1)にオンに切り換わり、オンに切り換わった後、放電時間が経過したとき(図3における時刻t4)にオフに切り換わるパルス信号を生成し、放電回路駆動信号として出力する(図3(c)参照)。放電時間は、放電状態を継続する時間であり、溶接電源装置A1の出力電流の極性が変わるまでの時間より長い所定時間が設定されている。
なお、放電制御部85が放電回路駆動信号を生成する方法は、これに限定されない。溶接電源装置A1の出力電流の極性が変わるときに再点弧電圧を印加できればよいので、放電回路駆動信号は、極性が変わる前にオンになり、極性が変わった後にオフになればよい。
充電制御部86は、充電回路63を制御する。充電制御部86は、放電制御部85から入力される放電回路駆動信号と、電圧センサ92から入力される再点弧コンデンサ62の端子間電圧とに基づいて、充電回路63を制御するための充電回路駆動信号を生成して、充電回路63に出力する。
図3に示すように、再点弧コンデンサ62の端子間電圧(図3(e)参照)は、放電回路駆動信号(図3(c)参照)がオンになって(図3における時刻t1)、検出電流(図3(b)参照)の極性が変わったとき(図3における時刻t2)に、再点弧コンデンサ62の放電により低下する。次の放電のタイミングまでに、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電する必要がある。また、再点弧コンデンサ62が目標電圧まで充電された場合は、それ以上の充電を行う必要がない。充電制御部86は、再点弧コンデンサ62の放電後から、再点弧コンデンサ62が目標電圧になるまでオンとなるように、充電回路駆動信号を生成する。具体的には、充電制御部86は、放電制御部85より入力される放電回路駆動信号がオンからオフに切り換わったとき(図3における時刻t4)にオンに切り換わり、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が目標電圧になったとき(図3における時刻t5)にオフに切り換わるパルス信号を生成し、充電回路駆動信号として出力する(図3(d)参照)。
次に、本実施形態に係る溶接電源装置A1の作用および効果について説明する。
本実施形態によると、電流センサ91は、溶接電源装置A1の出力電流から再点弧電流を打ち消した検出電流を検出する。そして、電流制御部81は、電流センサ91から入力される検出電流に基づいて、フィードバック制御を行う。
図4は、再点弧電圧印加前後のタイムチャートであり、溶接電源装置A1の各信号の波形を示している。同図(a)はインバータ回路7に入力されるスイッチング駆動信号を示しており、同図(b)は放電回路64に入力される放電回路駆動信号を示している。放電回路駆動信号は、時刻t11でスイッチング駆動信号がオンからオフに切り換わったときにオンになり、時刻t13までオン状態を継続する。この間、再点弧電圧が印加される。
同図(c)は、インバータ回路7から出力される溶接電源装置A1の出力電流を示している。当該出力電流には、再点弧電流が含まれている。同図(d)は再点弧電流を示している。また、同図(e)は、電流センサ91が検出する検出電流を示しており、溶接電源装置A1の出力電流(同図(c)参照)から再点弧電流(同図(d)参照)を減じたものになっている。同図(f)は目標電流設定部82が設定する目標電流を示している。同図(f)では目標電流を5Aとしている。したがって、定常状態では検出電流は5Aに制御されている。電流センサ91が検出した検出電流は、絶対値回路によって絶対値にされてフィードバック制御に用いられる。したがって、電流が出力端子aからインバータ回路7に向かって流れる場合は、検出電流は−5Aに制御されている。同図(g)は電流制御部81がインバータ回路2に出力する出力制御駆動信号を示している。出力制御駆動信号は、電流センサ91が検出した検出電流(同図(e)参照)の絶対値と、目標電流(同図(f)参照)との偏差に基づいて生成される。
時刻t11でスイッチング駆動信号がオンからオフに切り換わったときから出力電流は低下する。そして、時刻t12で出力電流がゼロを過ぎて極性が変わったときから再点弧電流が出力電流と同じ向きに流れる(同図(d)参照)ので、出力電流は再点弧電流が追加されて負の方向に大きくなる(同図(c)参照)。再点弧電流は例えば−20A程度になる。これにより、出力電流にオーバーシュートが発生する(同図(c)時刻t12から時刻t13参照)。
しかし、同図(e)に示すように、電流センサ91が検出する検出電流においては、出力電流から再点弧電流が打ち消されているので、オーバーシュートが発生していない。出力制御駆動信号は、検出電流の絶対値と目標電流との偏差に基づいて生成される。検出電流にはオーバーシュートが発生しないので、偏差が極端に小さな値にならず、時刻t12から時刻t13においても、出力制御駆動信号のパルス幅は極端に小さくならない。つまり、出力制御駆動信号は、出力電流のオーバーシュートの影響を受けない。したがって、インバータ回路2の出力は抑制されず、検出電流は目標電流に制御されて定常状態になっている。インバータ回路2の出力が抑制されてないので、時刻t13で再点弧電流が流れなくなって、出力電流が検出電流に一致したときにも、アンダーシュートは発生していない。以上のように、溶接電源装置A1においては、再点弧電圧の印加により出力電流にオーバーシュートが発生しても、アンダーシュートは発生しない。本実施形態では、フィードバック制御に用いるフィードバック電流として出力電流に代えて検出電流を用いることで偏差を調整し、再点弧電圧印加時の出力電流のオーバーシュートの影響を受けないようにして、出力電流のアンダーシュートの発生を防止している。
また、本実施形態によると、接続線64cを電流センサ91の磁気コア911に挿通するだけであり、他のセンサを設けたり、制御の方法を変更する必要がない。したがって、容易にアンダーシュートの対策を行うことができる。
図5〜図9は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
図5は、本発明の第2実施形態に係る溶接電源装置A2を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。なお、図5においては、制御回路8の内部構成の記載を省略している。図5に示す溶接電源装置A2は、電流センサ91をインバータ回路7の出力側ではなく、入力側に配置している点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(図1参照)と異なっている。
第2実施形態においては、電流センサ91の磁気コア911に、インバータ回路7の2つの入力端子にそれぞれ接続された接続線と、再点弧回路6が再点弧電流を出力する接続線64cとが挿通されている。接続線64cは、第1実施形態の場合と同様に、出力電流から再点弧電流を打ち消す方向に挿通されている。本実施形態においては、電流センサ91が、本発明の「電流センサ」に相当する。
第2実施形態に係る電流センサ91は、第1実施形態に係る電流センサ91と同様に、出力電流に追加されている再点弧電流を打ち消した検出電流を検出して、制御回路8に出力する。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、電流センサ91の配置位置は限定されず、電流センサ91が、出力電流に追加されている再点弧電流を打ち消した検出電流を検出できればよい。例えば、整流平滑回路5と再点弧回路6との間に、電流センサ91を配置するようにしてもよい。
図6は、本発明の第3実施形態に係る溶接電源装置A3を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。図6に示す溶接電源装置A3は、検出電流の検出方法が異なる点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(図1参照)と異なっている。
第3実施形態において、電流センサ91は、溶接電源装置A3の出力電流を検出して、電流制御部81に入力する。電流センサ93は、再点弧電流を検出するものであり、再点弧回路6が再点弧電流を出力する接続線64cに配置されている。本実施形態では、再点弧電流が流れる向きを正としている。電流センサ93は、検出した再点弧電流を電流制御部81に入力する。電流制御部81は、電流センサ91より入力される出力電流から、電流センサ93より入力される再点弧電流を減じて、検出電流を検出する減算部811を備えている。電流制御部81は、減算部811が検出した検出電流を、フィードバック制御に用いる。本実施形態においては、電流センサ91、電流センサ93および減算部811が、本発明の「電流センサ」に相当する。また、電流センサ91が本発明の「第1の電流センサ」に相当し、出力電流が本発明の「第1の電流」に相当する。また、電流センサ93が本発明の「第2の電流センサ」に相当し、再点弧電流が本発明の「第2の電流」に相当する。
第3実施形態においても、電流制御部81は、検出電流を用いてフィードバック制御を行う。したがって、再点弧電圧の印加により出力電流にオーバーシュートが発生しても、アンダーシュートは発生しない。また、第3実施形態においては、接続線64cを電流センサ91まで引き回す必要がない。
なお、第3実施形態においては、出力電流に関係なく、電流制御部81が出力電流から再点弧電流を減じた検出電流をフィードバック制御に用いる場合について説明したが、これに限られない。出力電流が再点弧電流より大きい場合は、オーバーシュートが発生しない。したがって、電流制御部81は、目標電流設定部82が設定する目標電流が再点弧電流に基づく所定の電流値より大きい場合は、電流センサ91より入力される出力電流をそのままフィードバック制御に用い、目標電流が所定の電流値以下の場合だけ、減算部811が検出した検出電流をフィードバック制御に用いるようにしてもよい。所定の電流値は、再点弧コンデンサ62に充電される再点弧電圧と限流抵抗64bの抵抗値から算出される電流値に基づいて設定すればよい。この場合でも、オーバーシュートが発生するときのアンダーシュートの対策とすることができる。また、オーバーシュートが発生しないときには、検出電流を用いることなく出力電流に応じた制御とすることができる。
図7および図8は、本発明の第4実施形態に係る溶接電源装置A4を説明するための図である。図7は、溶接電源装置A4を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。図8は、再点弧電圧印加前後のタイムチャートであり、溶接電源装置A4の各信号の波形を示している。図7に示す溶接電源装置A4は、出力電流から再点弧電流を打ち消した検出電流ではなく、出力電流をそのままフィードバック制御に用い、再点弧電圧印加時に目標電流を変更する点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(図1参照)と異なっている。
第4実施形態において、電流センサ91は、溶接電源装置A4の出力電流を検出して、電流制御部81に入力する。本実施形態においては、電流センサ91が、本発明の「電流センサ」に相当する。目標電流設定部82は、放電制御部85から放電回路駆動信号を入力され、放電回路駆動信号がオンの間、すなわち、再点弧電圧が印加されている間、目標電流を所定電流を加算した電流に切り替える。所定電流は、再点弧回路6が出力する再点弧電流に応じて、あらかじめ設定されている。例えば、再点弧コンデンサ62に充電される再点弧電圧が300Vで、限流抵抗64bが15Ωの場合、計算上は20Aの再点弧電流が流れるので、本実施形態では、所定電流を20A程度に設定している。
図8は、再点弧電圧印加前後のタイムチャートであり、溶接電源装置A4の各信号の波形を示している。同図(a)はインバータ回路7に入力されるスイッチング駆動信号を示しており、同図(b)は放電回路64に入力される放電回路駆動信号を示している。同図(c)は、インバータ回路7から出力される溶接電源装置A4の出力電流を示している。同図(d)は目標電流設定部82が設定する目標電流を示している。同図(d)では、放電回路駆動信号がオフの期間は目標電流が5Aとされ、放電回路駆動信号がオンの期間は目標電流が、所定電流(20A)を加算された25Aとされている。同図(e)は電流制御部81がインバータ回路2に出力する出力制御駆動信号を示している。出力制御駆動信号は、電流センサ91が検出した出力電流(同図(c)参照)の絶対値と、目標電流(同図(d)参照)との偏差に基づいて生成される。
時刻t12から時刻t13において、再点弧電流が追加されるので、出力電流は負の方向に大きくなって、オーバーシュートが発生する(同図(c)参照)。しかし、この期間の目標電流は、通常時の5Aに所定電流20Aが加算された25Aになっている(同図(d)参照)ので、偏差は小さくならない。よって、出力制御駆動信号のパルス幅は小さくならず(同図(e)参照)、インバータ回路2の出力は抑制されない。したがって、時刻t13で再点弧電圧が印加されなくなったときに、出力電流のアンダーシュートは発生していない(同図(c)参照)。以上のように、第4実施形態においても、再点弧電圧の印加により出力電流にオーバーシュートが発生しても、アンダーシュートは発生しない。本実施形態では、フィードバック制御において目標電流を変更することで偏差を調整し、再点弧電圧印加時の出力電流のオーバーシュートの影響を受けないようにして、出力電流のアンダーシュートの発生を防止している。また、第4実施形態においては、接続線64cを電流センサ91まで引き回す必要がないし、電流センサを追加する必要もない。
なお、第4実施形態では、再点弧コンデンサ62に充電される再点弧電圧と限流抵抗64bの抵抗値から算出した電流値を所定電流として設定しているが、これに限られない。実際に流れる再点弧電流は、溶接負荷の状態などよって異なってくる。また、所定電流を小さくすると、出力電流が目標電流を超えて、インバータ回路2の出力が抑制され、アンダーシュートが発生する場合がある。逆に、所定電流を大きくすると、インバータ回路2の出力が増加され過ぎる場合がある。所定電流は、計算上の電流値を基準にして、シミュレーションや実験によって、最適な値を決定すればよい。なお、所定電流を小さく設定して、アンダーシュートが発生する場合があるとしても、アンダーシュートの発生を抑制することができるという効果を奏することはできる。アンダーシュートの発生を抑制できれば、アーク切れの発生を抑制することができる。
また、第4実施形態においては、再点弧電圧が印加されている間、目標電流を所定電流を加算した電流に切り替えているが、再点弧電流の変化に合わせて変化させるようにしてもよい。また、第4実施形態においては、出力電流に関係なく、再点弧電圧が印加されている間、目標電流を切り替える場合について説明したが、これに限られない。出力電流が再点弧電流より大きい場合は、オーバーシュートが発生しない。したがって、目標電流設定部82が設定する目標電流が再点弧電流に基づく所定の電流値より大きい場合は、再点弧電圧印加時でも、目標電流をそのままとし、目標電流が所定の電流値以下の場合だけ、再点弧電圧印加時に目標電流を切り替えるようにしてもよい。所定の電流値は、再点弧コンデンサ62に充電される再点弧電圧と限流抵抗64bの抵抗値から算出される電流値に基づいて設定すればよい。この場合でも、オーバーシュートが発生するときのアンダーシュートの対策とすることができる。また、オーバーシュートが発生しないときには、不要な目標電流の変更による制御の乱れを防ぐことができる。
図9は、本発明の第5実施形態に係る溶接電源装置A5を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。なお、図9においては、制御回路8の内部構成の記載を省略している。図9に示す溶接電源装置A5は、再点弧回路6をインバータ回路7の出力側に配置している点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(図1参照)と異なっている。なお、本実施形態では、再点弧コンデンサ62がインバータ回路7のスナバ回路としての機能を果たさないので、ダイオード61および再点弧コンデンサ62の負極側の配線(接続線4に接続されている配線)を設けないようにしてもよい。
第5実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、上記第1ないし第5実施形態では、溶接電源装置A1ないしA5をTIG溶接システムに用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る溶接電源装置は、その他の半自動溶接システムにも用いることができる。また、本発明に係る溶接電源装置は、ロボットによる全自動溶接システムにも用いることができるし、被覆アーク溶接システムにも用いることができる。また、本発明は、交流出力専用の溶接電源装置だけでなく、交直両用の溶接電源装置にも適用することができる。
本発明に係る溶接電源装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。