以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
図1~図3は、第1実施形態に係る溶接電源装置を説明するための図である。図1は、溶接電源装置A1を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。図2(a)は、溶接電源装置A1の充電回路63の一例を示す回路図である。図2(b)は、溶接電源装置A1の放電回路64の一例を示す回路図である。図3は、再点弧回路6の制御を説明するためのタイムチャートであり、溶接電源装置A1の各信号の波形を示している。
図1に示すように、溶接システムは、溶接電源装置A1および溶接トーチBを備えている。当該溶接システムは、溶接トーチBが非消耗電極式のトーチである交流TIG溶接システムである。溶接電源装置A1は、商用電源Dから入力される交流電力を変換して、出力端子a,bから出力する。一方の出力端子aは、ケーブルによって被加工物Wに接続されている。他方の出力端子bは、ケーブルによって溶接トーチBの電極に接続されている。溶接電源装置A1は、溶接トーチBの電極の先端と被加工物Wとの間にアークを発生させて、電力を供給する。当該アークの熱によって、溶接が行われる。溶接トーチB、被加工物Wおよび発生したアークを合わせたものが、溶接電源装置A1の負荷なので、これらを合わせたものを示す場合は、「溶接負荷」と記載する。
溶接電源装置A1は、整流平滑回路1、インバータ回路2、トランス3、整流平滑回路5、再点弧回路6、インバータ回路7、制御回路8、電流センサ91、および電圧センサ92を備えている。
整流平滑回路1は、商用電源Dから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路1は、交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、整流平滑回路1の構成は限定されない。
インバータ回路2は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子を備えている。インバータ回路2は、制御回路8から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路1から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。なお、インバータ回路2は直流電力を高周波電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。
トランス3は、インバータ回路2が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路5に出力する。トランス3は、一次側巻線3a、二次側巻線3bおよび補助巻線3cを備えている。一次側巻線3aの各入力端子は、インバータ回路2の各出力端子にそれぞれ接続されている。二次側巻線3bの各出力端子は、整流平滑回路5の各入力端子にそれぞれ接続されている。また、二次側巻線3bには、2つの出力端子とは別にセンタタップが設けられている。二次側巻線3bのセンタタップは、接続線4によって、出力端子bに接続されている。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと二次側巻線3bの巻き数比に応じて変圧されて、整流平滑回路5に入力される。補助巻線3cの各出力端子は、充電回路63の各入力端子にそれぞれ接続されている。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと補助巻線3cの巻き数比に応じて変圧されて、充電回路63に入力される。二次側巻線3bおよび補助巻線3cは一次側巻線3aに対して絶縁されているので、商用電源Dから入力される電流が二次側の回路および充電回路63に流れることを防止することができる。
整流平滑回路5は、トランス3から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路5は、高周波電流を整流する全波整流回路と、平滑する直流リアクトルとを備えている。なお、整流平滑回路5の構成は限定されない。
インバータ回路7は、例えば、単相ハーフブリッジ型のPWM制御インバータであり、2つのスイッチング素子を備えている。インバータ回路7の出力端子は、出力端子aに接続されている。インバータ回路7は、制御回路8から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、インバータ回路7の出力端子の電位(出力端子aの電位)を、整流平滑回路5の正極側の出力端子の電位と負極側の出力端子の電位とで交互に切り換える。これにより、インバータ回路7は、出力端子a(被加工物Wに接続)の電位が出力端子b(溶接トーチBの電極に接続)の電位より高い状態である正極性と、出力端子aの電位が出力端子bの電位より低い状態である逆極性とを交互に切り換える。つまり、インバータ回路7は、整流平滑回路5から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。なお、インバータ回路7は直流電力を交流電力に変換するものであればよく、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路7が本発明の「インバータ回路」に相当する。
再点弧回路6は、整流平滑回路5とインバータ回路7との間に配置されており、溶接電源装置A1の出力極性が切り換わるときに、溶接電源装置A1の出力端子a,b間に再点弧電圧を印加する。正極性から逆極性に切り換わるときにアーク切れが発生しやすいので、本実施形態では、再点弧回路6は、正極性から逆極性に切り換わるときにのみ再点弧電圧を印加し、逆極性から正極性に切り換わるときには再点弧電圧を印加しない。再点弧回路6は、ダイオード61、再点弧コンデンサ62、充電回路63および放電回路64を備えている。
ダイオード61と再点弧コンデンサ62とは直列接続されて、インバータ回路7の入力側に並列接続されている。ダイオード61は、アノード端子がインバータ回路7の正極側の入力端子に接続され、カソード端子が再点弧コンデンサ62の一方の端子に接続されている。再点弧コンデンサ62は、一方の端子がダイオード61のカソード端子に接続され、他方の端子がインバータ回路7の負極側の入力端子に接続されている。再点弧コンデンサ62は、所定の静電容量以上のコンデンサであり、溶接電源装置A1の出力に印加するための再点弧電圧を充電される。再点弧コンデンサ62は、充電回路63によって充電され、放電回路64によって放電される。また、ダイオード61は、インバータ回路7のスイッチング時のサージ電圧を、再点弧コンデンサ62に吸収させる。つまり、再点弧コンデンサ62は、サージ電圧を吸収するためのスナバ回路としても機能する。
充電回路63は、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電するための回路であり、再点弧コンデンサ62に並列に接続されている。図2(a)は、充電回路63の一例を示す図である。図2(a)に示すように、本実施形態では、充電回路63は、整流平滑回路63c、昇圧チョッパ63d、スイッチ63e、および電流センサ63fを備えている。整流平滑回路63cは、交流電圧を全波整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備え、トランス3の補助巻線3cから入力される高周波電圧を直流電圧に変換する。なお、整流平滑回路63cの回路構成は限定されない。
スイッチ63eは、整流平滑回路63cと昇圧チョッパ63dとの接続を開閉するスイッチであり、本実施形態では、整流平滑回路63cの正極側の出力端子と、昇圧チョッパ63dの正極側の入力端子とを接続する接続線に配置されている。なお、スイッチ63eの配置位置は限定されない。スイッチ63eは、本実施形態では、半導体のスイッチング素子である。なお、機械式のスイッチであってもよい。スイッチ63eは、後述する充電制御部86から充電回路駆動信号を入力される。スイッチ63eは、入力される充電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間は閉路して、整流平滑回路63cと昇圧チョッパ63dとが接続された状態にする。これにより、整流平滑回路63cが出力する直流電圧が、昇圧チョッパ63dに入力される。一方、充電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間は開路して、整流平滑回路63cと昇圧チョッパ63dとが接続されない状態にする。したがって、整流平滑回路63cが出力する直流電圧は、昇圧チョッパ63dに入力されない。
電流センサ63fは、充電回路63の充電電流を検出するものであり、本実施形態では、スイッチ63eが配置される接続線に配置されている。なお、電流センサ63fの配置位置は限定されない。電流センサ63fは、充電電流の瞬時値を検出して駆動回路63aに入力する。
昇圧チョッパ63dは、整流平滑回路63cから入力される直流電圧を昇圧して、再点弧コンデンサ62に出力する。昇圧チョッパ63dは、入力端子と出力端子との間にコイルとダイオードとを直列に接続(コイルの一方の端子とダイオードのアノード端子とを接続し、入力端子側にコイル、出力端子側にダイオードを配置)し、その接続点にスイッチング素子63bを並列に接続し、ダイオードのカソード端子にコンデンサを並列に接続した構成となっている。なお、昇圧チョッパ63dの回路構成は限定されない。本実施形態では、スイッチング素子63bは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。なお、スイッチング素子63bは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)、バイポーラトランジスタなどであってもよい。
昇圧チョッパ63dは、スイッチング素子63bを駆動するための駆動回路63aを備えている。駆動回路63aは、充電制御部86から入力される充電回路駆動信号と、電流センサ63fから入力される充電電流の瞬時値とに基づいて、スイッチング素子63bを駆動させるためのパルス信号を出力する。駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間、パルス信号の出力を行わない。この間、スイッチング素子63bはオフ状態が継続する。このとき、スイッチ63eが開路しているので、整流平滑回路63cが出力する直流電圧は、昇圧チョッパ63dに入力されない。つまり、充電回路63は、充電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間、再点弧コンデンサ62の充電を停止する。
また、駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間でも、電流センサ63fから入力される充電電流の瞬時値が閾値電流より大きい間は、パルス信号の出力を行わない。この間、スイッチング素子63bはオフ状態が継続する。このとき、スイッチ63eが閉路しているので、昇圧チョッパ63dは、整流平滑回路63cから入力される直流電圧をそのまま、再点弧コンデンサ62に印加する。これにより、再点弧コンデンサ62は、急速に充電される。閾値電流は、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が整流平滑回路63cの出力電圧に近くなって、充電電流が小さくなったことを判定するための閾値である。つまり、駆動回路63aは、充電電流の瞬時値を閾値電流と比較することで、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が整流平滑回路63cの出力電圧に近づいたか否かを判断する。そして、駆動回路63aは、充電電流の瞬時値が閾値電流以下になると、スイッチング素子63bにパルス信号を出力する。昇圧チョッパ63dは、パルス信号によって駆動し、整流平滑回路63cから入力される直流電圧を昇圧して、再点弧コンデンサ62に印加する。これにより、再点弧コンデンサ62は、さらに充電される。つまり、充電回路63は、充電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間、再点弧コンデンサ62の充電を行う。
すなわち、充電回路63は、充電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を充電する状態と充電しない状態とで切り換える。また、充電回路63は、再点弧コンデンサ62を充電する状態において、充電電流の瞬時値に基づいて、整流平滑回路63cから入力される直流電圧をそのまま再点弧コンデンサ62に印加して急速充電する状態と、昇圧して印加することでさらに充電する状態とで切り換える。なお、充電回路63に供給される電力は、トランス3の補助巻線3cからのものに限定されない。トランス3に補助巻線3cを設けず、二次側巻線3bから電力を供給するようにしてもよいし、他の電源から供給するようにしてもよい。
放電回路64は、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧を放電するものであり、ダイオード61と再点弧コンデンサ62との接続点と、二次側巻線3bのセンタタップと出力端子bとを接続する接続線4との間に接続されている。図2(b)は、放電回路64の一例を示す図である。図2(b)に示すように、放電回路64は、スイッチング素子64aおよび限流抵抗64bを備えている。本実施形態では、スイッチング素子64aは、IGBTである。なお、スイッチング素子64aは、バイポーラトランジスタ、MOSFETなどであってもよい。スイッチング素子64aと限流抵抗64bとは直列接続されて、再点弧コンデンサ62に直列接続されている。スイッチング素子64aのコレクタ端子は限流抵抗64bの一方の端子に接続されており、スイッチング素子64aのエミッタ端子は、接続線64cによって、接続線4に接続されている。なお、限流抵抗64bをスイッチング素子64aのエミッタ端子側に接続するようにしてもよい。また、スイッチング素子64aのゲート端子には、後述する放電制御部85から、放電回路駆動信号が入力される。スイッチング素子64aは、放電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間オン状態になる。これにより、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧は、限流抵抗64bを介して、放電される。一方、スイッチング素子64aは、放電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間オフ状態になる。これにより、再点弧電圧の放電は停止される。すなわち、放電回路64は、放電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を放電する状態と放電しない状態とで切り換える。なお、放電回路64の構成は限定されない。
電流センサ91は、溶接電源装置A1の出力電流を検出するものであり、本実施形態では、インバータ回路7の出力端子と出力端子aとを接続する接続線71に配置されている。本実施形態では、電流がインバータ回路7から出力端子aに向かって流れる場合を正としており、電流が出力端子aからインバータ回路7に向かって流れる場合を負としている。電流センサ91は、出力電流の瞬時値を検出して制御回路8に入力する。なお、電流センサ91の構成は限定されず、接続線71から出力電流を検出するものであればよい。なお、電流センサ91の配置場所は限定されない。例えば、電流センサ91は、接続線4に配置されてもよい。電流センサ91が本発明に係る「電流センサ」に相当する。
電圧センサ92は、再点弧コンデンサ62の端子間電圧を検出するものである。電圧センサ92は、端子間電圧の瞬時値を検出して制御回路8に入力する。
制御回路8は、溶接電源装置A1を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路8は、電流センサ91から出力電流の瞬時値を入力され、電圧センサ92から再点弧コンデンサ62の端子間電圧の瞬時値を入力される。そして、制御回路8は、インバータ回路2、インバータ回路7、充電回路63および放電回路64に、それぞれ駆動信号を出力する。制御回路8は、電流制御部81、目標電流設定部82、極性切換制御部83、放電制御部85、および充電制御部86を備えている。
電流制御部81は、溶接電源装置A1の出力電流をフィードバック制御するために、インバータ回路2を制御する。電流制御部81は、電流センサ91から入力される出力電流の瞬時値信号を絶対値回路によって絶対値信号に変換し、当該絶対値信号と目標電流設定部82から入力される目標電流との偏差に基づいて、PWM制御により、インバータ回路2のスイッチング素子を制御するための出力制御駆動信号を生成して、インバータ回路2に出力する。
極性切換制御部83は、溶接電源装置A1の出力極性を切り換えるために、インバータ回路7を制御する。極性切換制御部83は、インバータ回路7の出力極性を切り換えるようにスイッチング素子を制御するためのパルス信号であるスイッチング駆動信号を生成して、インバータ回路7に出力する。スイッチング駆動信号は、放電制御部85および充電制御部86にも出力される。
放電制御部85は、放電回路64を制御する。放電制御部85は、極性切換制御部83から入力されるスイッチング駆動信号に基づいて、放電回路64を制御するための放電回路駆動信号を生成して、放電回路64に出力する。
図3に示すように、溶接電源装置A1の出力電流(図3(b)参照)は、スイッチング駆動信号(図3(a)参照)に応じて変化する。図3(a)に示すスイッチング駆動信号は、オンのときに出力端子a(被加工物W)を出力端子b(溶接トーチB)より高電位(正極性)とし、オフのときに出力端子a(被加工物W)を出力端子b(溶接トーチB)より低電位(逆極性)とする。溶接電源装置A1の出力電流は、スイッチング駆動信号がオンからオフに切り換わった時(図3における時刻t1)から減少し、ゼロを過ぎて(図3における時刻t2)極性が変わった後に最小電流値になる。また、溶接電源装置A1の出力電流は、スイッチング駆動信号がオフからオンに切り換わった時(図3における時刻t4)から増加し、ゼロを過ぎて(図3における時刻t5)極性が変わった後に最大電流値になる。放電制御部85は、溶接電源装置A1の出力電流が正から負に変わるときにオンになっているように、放電回路駆動信号を生成する。具体的には、放電制御部85は、スイッチング駆動信号がオンからオフに切り換わったとき(図3における時刻t1)にオンに切り換わり、オンに切り換わった後、所定時間T1が経過したとき(図3における時刻t3)にオフに切り換わるパルス信号を生成し、放電回路駆動信号として出力する(図3(c)参照)。
所定時間T1は、放電状態を継続する時間であり、アークの再点弧によって溶接電源装置A1の出力電流が正から負に変わるタイミング(図3における時刻t2)を完全に超えるまで継続するように設定されている。所定時間T1が短すぎると出力電流がゼロになったときに再点弧電圧を放電できず、再点弧できない場合がある。また、所定時間T1は、充電が開始される前に放電を終了させるように、設定されている。本実施形態では、インバータ回路7の出力周波数が500Hzで、正極性と逆極性の比率が7:3の場合に、所定時間T1が逆極性の期間の半分になるように、所定時間T1を300μ秒程度としている。なお、所定時間T1は限定されず、実験やシミュレーションに基づいて設定すればよい。
なお、放電制御部85が放電回路駆動信号を生成する方法は、これに限定されない。溶接電源装置A1の出力電流が正から負に変わるときに再点弧電圧を印加できればよいので、放電回路駆動信号は、出力電流が正から負に変わる前にオンになり、出力電流が正から負に変わった後にオフになればよい。
充電制御部86は、充電回路63を制御する。充電制御部86は、極性切換制御部83から入力されるスイッチング駆動信号と、電圧センサ92から入力される再点弧コンデンサ62の端子間電圧の瞬時値とに基づいて、充電回路63を制御するための充電回路駆動信号を生成して、充電回路63に出力する。
図3に示すように、再点弧コンデンサ62の端子間電圧(図3(e)参照)は、放電回路駆動信号(図3(c)参照)がオンになって(図3における時刻t1)、時刻t2で出力電流の向きが変わったとき(図3における時刻t2)に再点弧電流が流れることで急減する(同図(e)参照)。次の放電のタイミングまでに、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電する必要がある。また、再点弧コンデンサ62が目標電圧V0まで充電された場合は、それ以上の充電を行う必要がない。充電制御部86は、溶接電源装置A1の出力電流が負から正に変わるときはオフになっており、出力電流の向きが変わってからオンになって、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が目標電圧V0になるまでオンとなるように、充電回路駆動信号を生成する。具体的には、充電制御部86は、スイッチング駆動信号がオフからオンに切り換わった後(図3における時刻t4)、所定時間T2が経過したとき(図3における時刻t6)にオンに切り換わり、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が目標電圧V0になったとき(図3における時刻t8)にオフに切り換わるパルス信号を生成し、充電回路駆動信号として出力する(図3(d)参照)。
所定時間T2は、充電開始を待機する時間であり、アークの再点弧によって溶接電源装置A1の出力電流が負から正に変わるタイミング(図3における時刻t5)を完全に超えるまで継続するように設定されている。所定時間T2が短すぎるとアークの再点弧の前に充電が開始されて再点弧コンデンサ62の端子間電圧が上昇してしまい、サージ電圧を吸収しきれない場合がある。一方、所定時間T2が長すぎると充電のための時間が短くなり、放電に間に合わない場合がある。所定時間T2は、正極性の期間の半分以下の時間にするのが望ましい。本実施形態では、インバータ回路7の出力周波数が500Hzで、正極性と逆極性の比率が3:7の場合に、所定時間T2が正極性の期間の半分になるように、所定時間T2を300μ秒程度としている。なお、所定時間T2は限定されず、実験やシミュレーションに基づいて設定すればよい。所定時間T2は、所定時間T1と同じであってもよいし、異なっていてもよい。所定時間T2が本発明の「所定時間」に相当する。充電回路駆動信号は、正極性の期間に充電が完了してオフになってから逆極性の期間はオフを継続し、逆極性から正極性に切り換わって、出力電流の向きが変わってから、オンに切り換わる。
図3に示すように、再点弧コンデンサ62の端子間電圧(図3(e)参照)は、充電回路駆動信号(図3(d)参照)がオンになったとき(図3における時刻t6)から増加し、充電回路駆動信号がオフになった後(図3における時刻t8)は、次の放電まで一定になる。本実施形態では、充電回路63が昇圧チョッパによって充電を行うので、充電の開始当初の期間(図3における時刻t6~t7)は、充電速度が大きい。したがって、再点弧コンデンサ62の端子間電圧は、当該期間に急上昇する。そして、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が整流平滑回路63cの出力電圧に近づいた後の期間(図3における時刻t7~t8)は、充電速度が小さい。したがって、再点弧コンデンサ62の端子間電圧は、当該期間にゆっくり上昇する。
なお、充電制御部86が充電回路駆動信号を生成する方法は、これに限定されない。充電回路駆動信号は、溶接電源装置A1の出力電流が負から正に変わるときはオフになっており、出力電流の向きが変わってからオンになればよい。
次に、本実施形態に係る溶接電源装置A1の作用および効果について説明する。
本実施形態によると、充電制御部86は、逆極性から正極性に切り換わった後、インバータ回路の出力電流の向きが変わってからオンに切り換わる充電回路駆動信号を生成して、充電回路63に出力する。これにより、充電回路63は、逆極性から正極性に切り換わった後、インバータ回路の出力電流の向きが変わってから充電を開始する。したがって、少なくとも、逆極性から正極性に切り換わったときから出力電流の向きが変わるまでの間、再点弧コンデンサ62は、再点弧電圧を充電されない。これにより、再点弧コンデンサ62は、再点弧電圧の充電速度が速い場合でも、サージ電圧を吸収するスナバ回路として機能することができる。したがって、再点弧コンデンサ62がサージ電圧を吸収できなくなることを抑制できる。これにより、吸収しきれなかったサージ電圧がインバータ回路7のスイッチング素子に印加されることを抑制できる。
また、本実施形態によると、充電制御部86が生成する充電回路駆動信号は、スイッチング駆動信号がオフからオンに切り換わったときから所定時間T2が経過したときにオンに切り換わる。これにより、充電回路63は、逆極性から正極性に切り換わったときから所定時間T2が経過したときに、再点弧コンデンサ62への充電を開始する。したがって、充電回路63は、アークの再点弧によって出力電流が負から正に変わってから、再点弧コンデンサ62への充電を開始することができる。
また、本実施形態によると、充電回路63は、充電開始時には、整流平滑回路63cが出力する直流電圧をそのまま再点弧コンデンサ62に印加して、再点弧コンデンサ62を急速に充電する。そして、充電回路63は、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が整流平滑回路63cの出力電圧に近づいたときからは、スイッチング素子63bのスイッチングを行って、昇圧チョッパ63dを駆動させる。これにより、整流平滑回路63cが出力する直流電圧を昇圧して再点弧コンデンサ62に印加し、再点弧コンデンサ62を目標電圧V0まで充電する。したがって、再点弧コンデンサ62を充電する時間を短縮できる。これにより、放電までに充電が間に合わなくなることを抑制できる。
なお、本実施形態においては、充電回路63において、駆動回路63aが、電流センサ63fが検出した充電電流に基づいてパルス信号を出力する場合について説明したが、これに限られない。例えば、駆動回路63aは、再点弧コンデンサ62の端子間電圧に基づいてパルス信号を出力してもよいし、時間の経過に基づいてパルス信号を出力してもよい。また、駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間ずっと、パルス信号を出力してもよい。また、充電回路63の構成は限定されない。充電回路63は、昇圧チョッパ63dに代えて、降圧チョッパや絶縁型フォワードコンバータなどを備えるようにしてもよい。ただし、充電回路63は充電速度が速いものが望ましい。
図4および図5は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
図4および図5は、本発明の第2実施形態に係る溶接電源装置A2を説明するための図である。図4は、溶接電源装置A2を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。図5は、再点弧回路6の制御を説明するためのタイムチャートであり、溶接電源装置A2の各信号の波形を示している。溶接電源装置A2は、放電制御部85が溶接電源装置A2の出力電流に基づいて放電回路駆動信号を生成し、充電制御部86が溶接電源装置A2の出力電流に基づいて充電回路駆動信号を生成する点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(図1および図2参照)と異なっている。
図4に示すように、第2実施形態に係る放電制御部85は、電流センサ91が検出した出力電流の瞬時値を入力される。そして、極性切換制御部83から入力されるスイッチング駆動信号と、電流センサ91から入力される出力電流の瞬時値とに基づいて、放電回路駆動信号を生成する。第2実施形態に係る放電制御部85は、第1実施形態のように所定時間T1に基づいて放電回路駆動信号をオフに切り換えるのではなく、アークの再点弧が完了したことを出力電流の瞬時値により判断して、放電回路駆動信号をオフに切り換える。また、図4に示すように、第2実施形態に係る充電制御部86も、電流センサ91が検出した出力電流の瞬時値を入力される。そして、極性切換制御部83から入力されるスイッチング駆動信号と、電流センサ91から入力される出力電流の瞬時値とに基づいて、充電回路駆動信号を生成する。第2実施形態に係る充電制御部86は、第1実施形態のように所定時間T2に基づいて充電回路駆動信号をオンに切り換えるのではなく、アークの再点弧が完了したことを出力電流の瞬時値により判断して、充電回路駆動信号をオンに切り換える。
図5に示すように、放電制御部85は、スイッチング駆動信号がオンからオフに切り換わったとき(図5における時刻t1)にオンに切り換わり、オンに切り換わった後、出力電流の瞬時値が所定電流I1以下になったとき(図5における時刻t3)にオフに切り換わるパルス信号を生成し、放電回路駆動信号として出力する(図3(c)参照)。
所定電流I1は、最小電流値とゼロとの間の電流値であって、アークの再点弧が完了したことを判断するための電流値である。所定電流I1は、検出された出力電流の瞬時値に検出誤差が含まれていたとしても、出力電流の向きが変わったと確実に判断できる電流値が設定される。所定電流I1が大きすぎると(ゼロに近すぎると)再点弧が完了する前に放電を停止してしまい、再点弧できない場合がある。本実施形態では、インバータ回路7の目標電流が5A(最小電流値が-5A)の場合でも、所定電流I1が最小電流値の半分以上になるように、所定電流I1を-2A程度としている。なお、所定電流I1は限定されず、実験やシミュレーションに基づいて設定すればよい。
また、図5に示すように、充電制御部86は、スイッチング駆動信号がオフからオンに切り換わった後(図5における時刻t4)、出力電流の瞬時値が所定電流I2以上になったとき(図5における時刻t6)にオンに切り換わり、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が目標電圧V0になったとき(図5における時刻t8)にオフに切り換わるパルス信号を生成し、充電回路駆動信号として出力する(図5(d)参照)。
所定電流I2は、最大電流値とゼロとの間の電流値であって、アークの再点弧が完了したことを判断するための電流値である。所定電流I2は、検出された出力電流の瞬時値に検出誤差が含まれていたとしても、出力電流の向きが変わったと確実に判断できる電流値が設定される。所定電流I2が小さすぎると(ゼロに近すぎると)アークの再点弧の前に充電が開始されて再点弧コンデンサ62の端子間電圧が上昇してしまい、サージ電圧を吸収しきれない場合がある。一方、所定電流I2が大きくなるほど(ゼロから離れるほど)、充電のための時間が短くなるので、できるだけ小さい方がいい。所定電流I2は、最大電流値の半分以下とするのが望ましい。本実施形態では、インバータ回路7の目標電流が5A(最大電流値が5A)の場合でも、所定電流I2が最大電流値の半分以下になるように、所定電流I2を2A程度としている。なお、所定電流I2は限定されず、実験やシミュレーションに基づいて設定すればよい。所定電流I2は、所定電流I1と絶対値が同じであってもよいし、異なっていてもよい。所定電流I2が本発明の「所定電流」に相当する。
本実施形態によると、充電制御部86は、逆極性から正極性に切り換わった後、インバータ回路の出力電流の向きが変わってからオンに切り換わる充電回路駆動信号を生成して、充電回路63に出力する。これにより、充電回路63は、逆極性から正極性に切り換わった後、インバータ回路の出力電流の向きが変わってから充電を開始する。したがって、少なくとも、逆極性から正極性に切り換わったときから出力電流の向きが変わるまでの間、再点弧コンデンサ62は、再点弧電圧を充電されない。これにより、再点弧コンデンサ62は、再点弧電圧の充電速度が速い場合でも、サージ電圧を吸収するスナバ回路として機能することができる。したがって、再点弧コンデンサ62がサージ電圧を吸収できなくなることを抑制できる。これにより、吸収しきれなかったサージ電圧がインバータ回路7のスイッチング素子に印加されることを抑制できる。
また、本実施形態によると、充電制御部86が生成する充電回路駆動信号は、スイッチング駆動信号がオフからオンに切り換わった後、出力電流の瞬時値が所定電流I2以上になったときにオンに切り換わる。これにより、充電回路63は、逆極性から正極性に切り換わった後、出力電流の瞬時値が所定電流I2以上になったときに、再点弧コンデンサ62への充電を開始する。したがって、充電回路63は、アークの再点弧によって出力電流が負から正に変わってから、再点弧コンデンサ62への充電を開始することができる。また、本実施形態によると、アークの再点弧を出力電流の瞬時値により判断して、充電回路駆動信号をオンに切り換えるので、第1実施形態のように所定時間T2に基づいて充電回路駆動信号をオンに切り換える場合と比較して、充電回路駆動信号をオンに切り換えるタイミングを早くできる場合が多い。したがって、充電を行う時間をより長くできる。
本実施形態においては、放電制御部85が、アークの再点弧が完了したことを出力電流の瞬時値により判断して、放電回路駆動信号をオフに切り換える場合について説明したが、これに限られない。第1実施形態のように、放電制御部85は、所定時間T1に基づいて放電回路駆動信号をオフに切り換えてもよい。また、本実施形態においては、充電制御部86が、アークの再点弧が完了したことを出力電流の瞬時値により判断して、充電回路駆動信号をオンに切り換える場合について説明したが、これに限られない。第1実施形態のように、充電制御部86は、所定時間T2に基づいて充電回路駆動信号をオンに切り換えてもよい。
なお、上記第1および第2実施形態では、溶接電源装置A1,A2をTIG溶接システムに用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る溶接電源装置は、その他の半自動溶接システムにも用いることができる。また、本発明に係る溶接電源装置は、ロボットによる全自動溶接システムにも用いることができるし、被覆アーク溶接システムにも用いることができる。また、本発明は、交流出力専用の溶接電源装置だけでなく、交直両用の溶接電源装置にも適用することができる。
本発明に係る溶接電源装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。