以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
図1〜図5は、第1実施形態に係る溶接電源装置を説明するための図である。図1は、溶接電源装置A1を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。図2は、溶接電源装置A1の充電回路63および放電回路64の一例を示す回路図である。図3は、再点弧回路6の制御を説明するためのタイムチャートであり、溶接電源装置A1の各信号の波形を示している。図4は、過電流抑制制御を説明するためのタイムチャートであり、溶接電源装置A1の各信号の波形を示している。図5は、電流制御部81が行う電流制御切替処理を示すフローチャートである。
図1に示すように、溶接システムは、溶接電源装置A1および溶接トーチBを備えている。当該溶接システムは、交流アーク溶接を行う、例えばTIG溶接システムである。溶接電源装置A1は、商用電源Dから入力される交流電力を変換して、出力端子a,bから出力する。一方の出力端子aは、ケーブルによって被加工物Wに接続されている。他方の出力端子bは、ケーブルによって溶接トーチBの電極に接続されている。溶接電源装置A1は、溶接トーチBの電極の先端と被加工物Wとの間にアークを発生させて、電力を供給する。当該アークの熱によって、溶接が行われる。溶接トーチB、被加工物Wおよび発生したアークを合わせたものが、溶接電源装置A1の負荷なので、これらを合わせたものを示す場合は、「溶接負荷」と記載する。
溶接電源装置A1は、整流平滑回路1、インバータ回路2、トランス3、整流回路4、直流リアクトル5、再点弧回路6、インバータ回路7、制御回路8、過電流検出回路88、電流センサ91、および電圧センサ92を備えている。
整流平滑回路1は、商用電源Dから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路1は、交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。
インバータ回路2は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子を備えている。インバータ回路2は、制御回路8から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路1から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。なお、インバータ回路2は直流電力を交流電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路2が本発明の「第1のインバータ回路」に相当する。
トランス3は、インバータ回路2が出力する高周波電圧を変圧して、整流回路4に出力する。トランス3は、一次側巻線3a、二次側巻線3bおよび補助巻線3cを備えている。一次側巻線3aの各入力端子は、インバータ回路2の各出力端子にそれぞれ接続されている。二次側巻線3bの各出力端子は、整流回路4の各入力端子にそれぞれ接続されている。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと二次側巻線3bの巻き数比に応じて変圧されて、整流回路4に入力される。補助巻線3cの各出力端子は、充電回路63の各入力端子にそれぞれ接続されている。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと補助巻線3cの巻き数比に応じて変圧されて、充電回路63に入力される。二次側巻線3bおよび補助巻線3cは一次側巻線3aに対して絶縁されているので、商用電源Dから入力される電流が二次側の回路および充電回路63に流れることを防止することができる。
整流回路4は、例えば全波整流回路であり、トランス3より入力される高周波電力を整流して、インバータ回路7に出力する。なお、整流回路4は、高周波電力を整流するものであればよく、例えば半波整流回路であってもよい。直流リアクトル5は、整流回路4がインバータ回路7に出力する直流電流を平滑化する。
インバータ回路7は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子を備えている。インバータ回路7は、制御回路8から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流回路4から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。なお、インバータ回路7は直流電力を交流電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路7が本発明の「第2のインバータ回路」に相当する。
再点弧回路6は、整流回路4とインバータ回路7との間に配置されており、インバータ回路7の出力電流の極性が切り換わるときに、溶接電源装置A1の出力端子a,b間に高電圧を印加する。当該高電圧は、極性切り換え時の再点弧性を向上させるためのものであり、以下では「再点弧電圧」と記載する場合がある。再点弧回路6は、ダイオード61、再点弧コンデンサ62、充電回路63および放電回路64を備えている。
再点弧コンデンサ62は、所定の静電容量以上のコンデンサであり、溶接電源装置A1の出力に印加するための再点弧電圧を充電される。再点弧コンデンサ62は、整流回路4に対して並列に接続されている。再点弧コンデンサ62は、充電回路63によって充電され、放電回路64によって放電される。
充電回路63は、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電するための回路であり、再点弧コンデンサ62に並列に接続されている。図2(a)は、充電回路63の一例を示す図である。図2(a)に示すように、本実施形態では、充電回路63は、整流平滑回路63cおよび絶縁型フォワードコンバータ63dを備えている。整流平滑回路63cは、交流電圧を全波整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備え、トランス3の補助巻線3cから入力される高周波電圧を直流電圧に変換する。なお、整流平滑回路63cの回路構成は限定されない。絶縁型フォワードコンバータ63dは、整流平滑回路63cから入力される直流電圧を昇圧して、再点弧コンデンサ62に出力する。絶縁型フォワードコンバータ63dは、スイッチング素子63bを駆動するための駆動回路63aを備えている。駆動回路63aは、後述する充電制御部86から入力される充電回路駆動信号に基づいて、スイッチング素子63bを駆動させるためのパルス信号を出力する。駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間、所定のパルス信号をスイッチング素子63bに出力する。これにより、再点弧コンデンサ62が充電される。一方、駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間、パルス信号の出力を行わない。よって、再点弧コンデンサ62の充電は停止される。すなわち、充電回路63は、充電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を充電する状態と充電しない状態とで切り替える。なお、駆動回路63aを設けずに、充電制御部86が充電回路駆動信号としてパルス信号をスイッチング素子63bに直接入力するようにしてもよい。また、充電回路63の構成は限定されない。充電回路63は、絶縁型フォワードコンバータ63dに代えて、昇圧チョッパ回路などを備えるようにしてもよい。
放電回路64は、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧を放電するものであり、再点弧コンデンサ62に直列に接続されている。図2(b)は、放電回路64の一例を示す図である。図2(b)に示すように、放電回路64は、スイッチング素子64aおよび限流抵抗64bを備えている。本実施形態では、スイッチング素子64aは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)である。なお、スイッチング素子64aは、バイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などであってもよい。スイッチング素子64aと限流抵抗64bとは直列接続されて、再点弧コンデンサ62に直列接続されている。スイッチング素子64aのエミッタ端子は整流回路4の正極側の端子に接続され、スイッチング素子64aのコレクタ端子は限流抵抗64bの一方の端子に接続されている。なお、限流抵抗64bをスイッチング素子64aのエミッタ端子側に接続するようにしてもよい。また、スイッチング素子64aのゲート端子には、後述する放電制御部85から、放電回路駆動信号が入力される。スイッチング素子64aは、放電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間オン状態になる。これにより、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧は、限流抵抗64bを介して、放電される。一方、スイッチング素子64aは、放電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間オフ状態になる。これにより、再点弧電圧の放電は停止される。すなわち、放電回路64は、放電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を放電する状態と放電しない状態とで切り換える。なお、放電回路64の構成は限定されない。
ダイオード61は、放電回路64に並列接続されており、アノード端子がインバータ回路7の入力の正極側の端子に接続され、カソード端子が再点弧コンデンサ62に接続されている。ダイオード61は、インバータ回路7の入力電圧の過渡電圧を、再点弧コンデンサ62に吸収させる。
電流センサ91は、溶接電源装置A1の出力電流を検出するものであり、本実施形態では、インバータ回路7の一方の出力端子と出力端子aとを接続する接続線に配置されている。電流センサ91は、出力電流の瞬時値を検出して制御回路8および過電流検出回路88に入力する。本実施形態では、電流がインバータ回路7から出力端子aに向かって流れる場合を正としており、電流が出力端子aからインバータ回路7に向かって流れる場合を負としている。なお、電流センサ91の配置位置は限定されない。
電圧センサ92は、再点弧コンデンサ62の端子間電圧を検出するものである。電圧センサ92は、端子間電圧の瞬時値を検出して制御回路8に入力する。
過電流検出回路88は、溶接電源装置A1の出力電流の過電流を検出する回路である。過電流検出回路88は、電流センサ91から入力される出力電流の瞬時値から実効値を算出し、当該実効値が所定の電流閾値より大きくなった場合に、過電流であると判断する。過電流検出回路88は、過電流を検出した場合、過電流検出信号を制御回路8に出力する。
制御回路8は、溶接電源装置A1を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路8は、電流センサ91から出力電流の瞬時値を入力され、電圧センサ92から再点弧コンデンサ62の端子間電圧の瞬時値を入力される。そして、制御回路8は、インバータ回路2、インバータ回路7、充電回路63および放電回路64に、それぞれ駆動信号を出力する。制御回路8は、電流制御部81、目標電流設定部82、極性切換制御部83、波形目標設定部84、放電制御部85、充電制御部86、およびタイミング検出部87を備えている。
電流制御部81は、インバータ回路2を制御する。電流制御部81は、電流センサ91から入力される出力電流の瞬時値から実効値を算出し、当該実効値と目標電流設定部82から入力される目標電流(実効値)とに基づいて、PWM制御により、インバータ回路2のスイッチング素子を制御するための出力制御駆動信号を生成して、インバータ回路2に出力する。また、電流制御部81は、過電流検出回路88から過電流検出信号を入力された場合に、PWM制御を停止して、過電流を抑制するための過電流抑制制御を行う。過電流が解消されて、過電流検出回路88から過電流検出信号が入力されなくなった場合、電流制御部81は、過電流抑制制御を停止して、PWM制御を再開する。過電流抑制制御の詳細については後述する。
極性切換制御部83は、インバータ回路7を制御する。極性切換制御部83は、電流センサ91から入力される出力電流の瞬時値と波形目標設定部84から入力される電流波形目標値とに基づいて、インバータ回路7のスイッチング素子を制御するためのスイッチング駆動信号を生成して、インバータ回路7に出力する。
放電制御部85は、放電回路64を制御する。放電制御部85は、極性切換制御部83から入力されるスイッチング駆動信号に基づいて、放電回路64を制御するための放電回路駆動信号を生成して、放電回路64に出力する。放電回路駆動信号は、充電制御部86にも入力される。
図3に示すように、溶接電源装置A1の出力電流(図3(b)参照)は、スイッチング駆動信号(図3(a)参照)に応じて変化する。図3(a)に示すスイッチング駆動信号は、オンのときに出力端子a(被加工物W)を正、出力端子b(溶接トーチB)を負とし、オフのときに出力端子a(被加工物W)を負、出力端子b(溶接トーチB)を正とする。溶接電源装置A1の出力電流は、スイッチング駆動信号がオンからオフに切り換わった時(図3における時刻t1)から減少し、ゼロを過ぎて(図3における時刻t2)極性が変わった後に最小電流値になる(図3における時刻t3)。また、溶接電源装置A1の出力電流は、スイッチング駆動信号がオフからオンに切り換わった時(図3における時刻t5)から増加し、ゼロを過ぎて(図3における時刻t6)極性が変わった後に最大電流値になる(図3における時刻t7)。放電制御部85は、溶接電源装置A1の出力電流の極性が変わるときにオンとなるように、放電回路駆動信号を生成する。具体的には、放電制御部85は、スイッチング駆動信号が切り換わったとき(図3における時刻t1、t5)にオンに切り換わり、オンに切り換わった後、放電時間が経過したときにオフに切り換わるパルス信号を生成し、放電回路駆動信号として出力する(図3(c)参照)。放電時間は、放電状態を継続する時間であり、出力電流の極性が変わるまでの時間より長い所定時間が設定されている。本実施形態では、所定時間を、出力電流の瞬時値が最大電流値または最小電流値になるまでの時間で設定しているので、図3(c)に示す放電回路駆動信号は、時刻t3、t7でオフに切り換わっている。実際には、出力電流の瞬時値が最大電流値または最小電流値になるタイミングと、放電回路駆動信号がオフに切り換わるタイミングとが一致するとは限らない。
なお、放電制御部85が放電回路駆動信号を生成する方法は、これに限定されない。溶接電源装置A1の出力電流の極性が変わるときに再点弧電圧を印加できればよいので、放電回路駆動信号は、極性が変わる前にオンになり、極性が変わった後にオフになればよい。例えば、電流センサ91から出力電流の瞬時値を入力され、出力電流の瞬時値がゼロになって所定の時間が経過したときに、放電回路駆動信号をオフに切り換えるようにしてもよい。また、出力電流の瞬時値が最大電流値または最小電流値になったときに切り換えるようにしてもよい。なお、実際には、電流センサ91から入力される電流瞬時値は微小変動するので、電流瞬時値が所定の第1閾値以上になった場合に最大電流値になったと判断し、電流瞬時値が所定の第2閾値以下になった場合に最小電流値になったと判断すればよい。また、放電制御部85が、極性切換制御部83からスイッチング駆動信号を入力される代わりに、波形目標設定部84から電流波形目標値を入力され、電流波形目標値が切り換わったときに、放電回路駆動信号をオンに切り換えるようにしてもよい。この場合も、放電回路駆動信号の波形は、スイッチング駆動信号に基づいて切り換える場合と同様となる。また、出力電流の瞬時値が最大電流値から低下したとき、または、最小電流値から上昇したときに、放電回路駆動信号をオンに切り換えるようにしてもよい。この場合も、放電回路駆動信号の波形は、スイッチング駆動信号に基づいて切り換える場合と同様となる。また、最大電流値より小さくゼロより大きい第1閾値と、最小電流値より大きくゼロより小さい第2閾値とを設定し、放電回路駆動信号を、出力電流の瞬時値が第1閾値と第2閾値との間の範囲に入ったときにオンに切り換え、当該範囲から外れたときにオフに切り換えるようにしてもよい。この場合でも、放電回路駆動信号は、極性が変わる前にオンになり、極性が変わった後にオフになる。
充電制御部86は、充電回路63を制御する。充電制御部86は、放電制御部85から入力される放電回路駆動信号と、電圧センサ92から入力される再点弧コンデンサ62の端子間電圧の瞬時値とに基づいて、充電回路63を制御するための充電回路駆動信号を生成して、充電回路63に出力する。
図3に示すように、再点弧コンデンサ62の端子間電圧(図3(e)参照)は、放電回路駆動信号(図3(c)参照)がオンになって(図3における時刻t1)、出力電流(図3(b)参照)の極性が変わったとき(図3における時刻t2)に、再点弧コンデンサ62の放電により低下する。次の放電のタイミング(図3における時刻t6)までに、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電する必要がある。また、再点弧コンデンサ62が目標電圧まで充電された場合は、それ以上の充電を行う必要がない。充電制御部86は、再点弧コンデンサ62の放電後から、再点弧コンデンサ62が目標電圧になるまでオンとなるように、充電回路駆動信号を生成する。具体的には、充電制御部86は、放電制御部85より入力される放電回路駆動信号がオンからオフに切り換わったとき(図3における時刻t3、t7)にオンに切り換わり、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が目標電圧になったとき(図3における時刻t4、t8)にオフに切り換わるパルス信号を生成し、充電回路駆動信号として出力する(図3(d)参照)。
タイミング検出部87は、後述する過電流抑制制御において、再点弧コンデンサ62の端子間電圧を閾値電圧V0と比較するタイミングを検出する。具体的には、タイミング検出部87は、極性切換制御部83から入力されるスイッチング駆動信号に基づいて、次にスイッチング駆動信号が切り替るタイミングの所定時間Tだけ前の比較タイミングを検出する。スイッチング駆動信号は周期的に切り換わるので、前回の切り替りのタイミングからの時間を計時することで、比較タイミングを検出することができる。厳密には、スイッチング駆動信号が切り替るタイミングと出力電流の極性が切り換わるタイミングとでは時間差がある(図3における時刻t1と時刻t2)が、当該時間差は所定時間Tと比べて十分小さいので、比較タイミングは、極性が切り換わるタイミングの所定時間Tだけ前のタイミングということができる。なお、タイミング検出部87は、極性切換制御部83が出力するスイッチング駆動信号の代わりに、波形目標設定部84が出力する電流波形目標値に基づいて比較タイミングを検出するようにしてもよい。また、タイミング検出部87は、他の方法で比較タイミングを検出するようにしてもよい。タイミング検出部87は、比較タイミングを検出したときに、タイミング信号を電流制御部81に出力する。
次に、電流制御部81が行う過電流抑制制御について説明する。
過電流抑制制御は、過電流検出回路88から過電流検出信号を入力されている間、電流制御部81が、PWM制御を停止して行う制御である。電流制御部81は、通常時はPWM制御を行って、溶接電源装置A1の出力電流の実効値を、目標電流設定部82から入力される目標電流に一致させるように、フィードバック制御を行っている。しかし、過電流検出回路88から過電流検出信号を入力された場合、電流制御部81は、PWM制御を停止して、過電流を抑制するための過電流抑制制御を行う。過電流抑制制御では、電流制御部81は、過電流を抑制するために、直前のPWM制御での出力制御駆動信号のパルス幅を所定の割合(例えば半分)で小さくして固定し、デューティ比を減少させた出力制御駆動信号を生成して出力する。これにより、インバータ回路2の出力電圧波形はデューティ比が小さくなったものとなり、インバータ回路7に供給される直流電圧は低減する。よって、インバータ回路7の出力電力は抑制されて、過電流が抑制される。
図4は、過電流抑制制御を説明するためのタイムチャートである。図4(a)は、インバータ回路2の出力電圧波形を示している。図4(b)は、溶接電源装置A1の出力電流の実効値の波形を示している。図4(c)は、充電回路63の整流平滑回路63cの出力電圧の波形を示している。図4(d)は、再点弧コンデンサ62の端子間電圧Vcの波形を示している。
時刻t11において、溶接電源装置A1の出力電流が急激に大きくなって、破線で示す電流閾値より大きくなっている(図4(b)参照)。これにより、過電流検出回路88が過電流を検出して、過電流検出信号を制御回路8に出力する。制御回路8は、過電流検出信号を入力されたことで、時刻t12において、PWM制御を停止して、過電流抑制制御を開始している。過電流抑制制御では、インバータ回路2に出力する出力制御駆動信号のパルス幅を、直前のPWM制御でのパルス幅の半分に固定している。したがって、インバータ回路2の出力電圧波形のパルス幅も、それまでの半分になっている(図4(a)参照)。これにより、インバータ回路2の出力電圧を整流平滑してインバータ回路7に入力される直流電圧は低下する。なお、インバータ回路7に入力される直流電圧の波形は、図4(c)の波形と同様になる。インバータ回路7に入力される直流電圧が低下することにより、インバータ回路7の出力電流(溶接電源装置A1の出力電流)は低下して(図4(b)参照)、過電流が抑制されている。
しかし、整流平滑回路63cの出力電圧も低下することで(図4(c)参照)、再点弧コンデンサ62の端子間電圧Vcの充電速度が低下している(図4(d)参照)。時刻t12以降の端子間電圧Vcの傾きが、時刻t12以前の傾きと比べて小さくなっている。この充電速度のままでは、再点弧電圧の放電時(時刻t16)に、再点弧コンデンサ62の充電量が不足する可能性がある。
本実施形態における過電流抑制制御では、再点弧コンデンサ62の充電量が不足しないかを判断し、充電量が不足する場合には、出力制御駆動信号のパルス幅はそのままで、周波数を高くして出力する。具体的には、電流制御部81は、過電流抑制制御において、タイミング検出部87からタイミング信号を入力されたときに、再点弧コンデンサ62の端子間電圧Vcを閾値電圧V0と比較し、端子間電圧Vcが閾値電圧V0より小さい場合、再点弧コンデンサ62の充電量が不足すると判断する。この場合、電流制御部81は、パルス幅はそのままで、周波数を高くした(例えば1.5倍)出力制御駆動信号を生成して出力する。これにより、インバータ回路2が出力する高周波電圧の波形も出力制御駆動信号と同様に変化し、充電回路63の整流平滑回路63cの出力電圧が高くなる。よって、再点弧コンデンサ62の充電速度が大きくなる。これにより、再点弧コンデンサ62の充電量が不足しないように充電することができる。
図4に示すタイムチャートでは、極性が切り換わるタイミングである時刻t16より所定時間Tだけ前の時刻t13において、タイミング検出部87からタイミング信号を入力され、このときの端子間電圧Vcと閾値電圧V0とが比較されている。そして、端子間電圧Vcが閾値電圧V0より小さいので、時刻t14において、出力制御駆動信号のパルス幅をそのままで、周波数を1.5倍にしている。したがって、インバータ回路2の出力電圧波形も同様に、パルス幅はそのままで周波数が1.5倍になっている(図4(a)参照)。これにより、整流平滑回路63cの出力電圧が高くなって(図4(c)参照)、再点弧コンデンサ62の端子間電圧Vcの充電速度が大きくなっている(図4(d)参照)。時刻t14以降の端子間電圧Vcの傾きが、時刻t14以前の傾きと比べて大きくなっている。その後、時刻t15で、端子間電圧Vcが目標電圧になって充電が停止されて、時刻t16で放電されている(図4(d)参照)。
閾値電圧V0および所定時間Tは、再点弧コンデンサ62の充電量が不足することを適切に判断できるように、出力制御駆動信号のパルス幅の減少割合や周波数の増加割合に基づいて、あらかじめ設定される。所定時間Tを長くするのであれば、閾値電圧V0を比較的小さい値とすることができる。一方、所定時間Tを短くするのであれば、閾値電圧V0を比較的大きな値とする必要がある。また、周波数の増加割合Fは、パルス幅の減少割合Wと所定時間Tとから、下記(1)式により算出するようにしてもよい。なお、αは所定の係数である。例えば、α=7.5×10-5、T=0.1ms、W=0.5(半分)の場合、F=1.5になる。なお、より単純化して、所定時間Tを考慮せず、周波数の増加割合Fをパルス幅の減少割合Wの逆数(例えば、パルス幅を半分にした場合は、周波数を2倍)としてもよい。
F=α/(W・T) ・・・・ (1)
端子間電圧Vcが目標電圧になって充電が停止されたときに、出力制御駆動信号の周波数は元に戻される。そして、次の比較タイミング(タイミング検出部87からタイミング信号を入力されるとき)までは、出力制御駆動信号は元の周波数で生成される。すなわち、比較タイミングが到来する度に、充電量が不足するか否かが判断され、不足すると判断された場合にのみ、充電完了までの間だけ、出力制御駆動信号の周波数が高くされる。なお、出力制御駆動信号の周波数を元に戻すタイミングは、充電が停止されたときに限定されず、極性が切り替わったときや、放電が行われたときとしてもよい。出力制御駆動信号の周波数を高くする期間は限定されるので、過電流の抑制に与える影響は限定される。
図5は、電流制御部81が行う、電流制御をPWM制御と過電流抑制制御とで切り替える処理(以下では、「電流制御切替処理」とする)を示すフローチャートである。当該処理は、溶接電源装置A1が溶接のための電力を溶接トーチBに供給している間、実行される。電流制御部81は、通常時、PWM制御を行っており、PWM制御により生成した出力制御駆動信号をインバータ回路2に出力する。
まず、過電流が検出されたか否かが判別される(S1)。具体的には、過電流検出回路88から過電流検出信号が入力されたか否かが判別される。過電流が検出されていない場合(S1:NO)、ステップS1に戻って、過電流が検出されるまで待つ。過電流が検出された場合(S1:YES)、出力制御駆動信号のパルス幅が減少される(S2)。具体的には、直前のPWM制御での出力制御駆動信号のパルス幅を所定の割合(例えば半分)で小さくして固定し、デューティ比を減少させた出力制御駆動信号を生成して出力する。これにより、PWM制御から過電流抑制制御に切り替る。
次に、比較タイミングになったか否かが判別される(S3)。具体的には、タイミング検出部87からタイミング信号が入力されたか否かが判別される。比較タイミングでない場合(S3:NO)、ステップS3に戻って、比較タイミングになるまで待つ。比較タイミングになった場合(S3:YES)、再点弧コンデンサ62の端子間電圧Vcが検出される(S4)。具体的には、電圧センサ92から入力される端子間電圧Vcを取得する。次に、端子間電圧Vcが閾値電圧V0より小さいか否かが判別される(S5)。端子間電圧Vcが閾値電圧V0より小さい場合(S5:YES)、再点弧コンデンサ62の充電量が不足すると判断されて、出力制御駆動信号の周波数が増加されて(S6)、ステップS7に進む。具体的には、直前の出力制御駆動信号のパルス幅はそのままで、周波数を大きくした出力制御駆動信号を生成して出力する。一方、端子間電圧Vcが閾値電圧V0以上の場合(S5:NO)、このままでも再点弧コンデンサ62の充電量が不足しないと判断されて、出力制御駆動信号の周波数は変更せずに、ステップS7に進む。
次に、再点弧コンデンサ62の充電が完了したか否かが判別される(S7)。具体的には、電圧センサ92から入力される端子間電圧Vcを取得し、端子間電圧Vcが目標電圧になったか否かが判別される。充電が完了していない場合(S7:NO)、ステップS7に戻って、充電が完了するまで待つ。充電が完了した場合(S7:YES)、出力制御駆動信号の周波数が元に戻される(S8)。なお、ステップS7で、充電が完了したか否かを判別する代わりに、極性が切り替わったか否かや、放電が行われたか否かを判別するようにしてもよい。
次に、過電流が検出されてからの経過時間が、設定時間を経過したか否かが判別される(S9)。設定時間を経過していない場合(S9:NO)、過電流が解消したか否かが判別される(S10)。具体的には、過電流検出回路88から過電流検出信号が入力されなくなったか否かが判別される。過電流が解消していない場合(S10:NO)、ステップS3に戻って、ステップS3〜S10が繰り返される。ステップS9において、設定時間を経過した場合(S9:YES)、過電流による悪影響を防ぐために、出力制御駆動信号の生成が停止されて、電流制御切替処理が終了される。出力制御駆動信号の生成が停止されることで、インバータ回路2が停止し、溶接電源装置A1の出力が停止する。また、ステップS10において、過電流が解消した場合(S10:YES)、PWM制御に戻されて(S11)、ステップS1に戻る。具体的には、PWM制御により生成した出力制御駆動信号をインバータ回路2に出力する。
なお、図5のフローチャートに示す電流制御切替処理は一例であって、上述したものに限定されない。
次に、本実施形態に係る溶接電源装置A1の作用および効果について説明する。
本実施形態によると、電流制御部81は、通常時にはPWM制御を行うが、過電流検出回路88から過電流検出信号を入力された場合に、PWM制御を停止して、過電流抑制制御を行う。過電流抑制制御では、電流制御部81は、直前のPWM制御での出力制御駆動信号のパルス幅を所定の割合(例えば半分)で小さくして固定し、デューティ比を減少させた出力制御駆動信号を生成して出力する。電流制御部81は、タイミング検出部87からタイミング信号を入力されたときに、再点弧コンデンサ62の端子間電圧Vcを閾値電圧V0と比較する。そして、電流制御部81は、端子間電圧Vcが閾値電圧V0より小さい場合、再点弧コンデンサ62の充電量が不足すると判断して、パルス幅はそのままで、周波数を高くした(例えば1.5倍)出力制御駆動信号を生成して出力する。これにより、インバータ回路2が出力する高周波電圧の波形も出力制御駆動信号と同様に変化し、充電回路63の整流平滑回路63cの出力電圧が高くなる。よって、再点弧コンデンサ62の充電速度が大きくなる。これにより、再点弧コンデンサ62の充電量が不足しないように充電することができるので、アーク切れの発生をより抑制することができる。
本実施形態によると、放電回路64は、放電制御部85より入力される放電回路駆動信号に基づいて、放電を制御する。放電回路駆動信号(図3(c)参照)は、スイッチング駆動信号(図3(a)参照)が切り換わったときにオンに切り換わり、オンに切り換わった後、出力電流の極性が変わるまでの時間より長い放電時間が経過したときにオフに切り換わる。したがって、溶接電源装置A1の出力電流の極性が変わるときには、放電回路駆動信号は必ずオンとなっているので、放電回路64は再点弧電圧を適切に印加することができる。
なお、本実施形態においては、比較タイミングで端子間電圧Vcが閾値電圧V0より小さい場合に、再点弧コンデンサ62の充電量が不足すると判断しているが、充電量の不足を判断する手法はこれに限られない。例えば、比較タイミングでデューティ比が所定値より小さい場合に充電量が不足すると判断するようにしてもよい。また、比較タイミングに関係なく、デューティ比が所定値より小さい場合に充電量が不足すると判断するようにしてもよい。また、過電流検出によりパルス幅が小さくなった場合に、無条件で(デューティ比に関係なく)、充電量が不足すると判断するようにしてもよい。
本実施形態においては、出力電流の波形が略矩形波である場合(図3(b)参照)について説明したが、これに限られない。出力電流の波形が正弦波であってもよい。波形目標設定部84が電流波形目標値として正弦波信号を出力し、極性切換制御部83が電流センサ91から入力される出力電流の瞬時値と波形目標設定部84から入力される電流波形目標値とに基づいてスイッチング駆動信号を生成するようにすれば、出力電流の波形を正弦波とすることができる。出力電流の波形を正弦波とすると、発生するアークが幅広になるので、溶接痕を幅広のものとすることができる。また、溶接電源装置A1からの発生音を抑制することができる。
本実施形態においては、溶接電源装置A1の出力電流の極性が変わるときに再点弧電圧を印加する場合について説明したが、これに限られない。一般的に、出力端子a(被加工物W)が正で出力端子b(溶接トーチB)が負である正極性から、出力端子a(被加工物W)が負で出力端子b(溶接トーチB)が正である逆極性に切り換わるときに、アーク切れが発生しやすいことが知られている。したがって、正極性から逆極性に切り換わるときにのみ再点弧電圧を印加させ、逆極性から正極性に切り換わるときには再点弧電圧を印加させないようにしてもよい。この場合、タイミング検出部87は、極性が切り換わるタイミングのうち、正極性から逆極性に切り換わるタイミングに基づいて、比較タイミングを検出すればよい。当該変形例では、よりアーク切れが発生しやすい、正極性から逆極性に切り換わるときに再点弧電圧を印加するので、アーク切れの発生を抑制することができる。また、比較的にアーク切れが発生しにくい、逆極性から正極性に切り換わるときには再点弧電圧を印加させないので、逆極性から正極性に切り換わるときにも再点弧電圧を印加する場合と比べて、限流抵抗64bでの損失を低減することができる。また、再点弧電圧を放電してから次に放電するまでの時間が長くなるので、極性切換周波数がより高くなった場合でも対応することができる。
上記変形例のように正極性から逆極性に切り換わるときにのみ再点弧電圧を印加する場合は、再点弧回路6をインバータ回路7の出力側に配置するようにしてもよい。この場合を、第2実施形態として、以下に説明する。
図6は、第2実施形態に係る溶接電源装置A2を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。図6において、第1実施形態に係る溶接システム(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。なお、図6においては、制御回路8を簡略化して記載している。図6に示すように、溶接電源装置A2は、再点弧回路6をインバータ回路7の出力側に配置している点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なる。
溶接電源装置A2において、再点弧回路6は、インバータ回路7の出力側に配置されており、出力端子b(溶接トーチB)の電位を高くするように、出力端子a,b間に再点弧電圧を印加する構成になっている。放電回路64は、スイッチング駆動信号(図3(a)参照)がオンからオフに切り換わったとき(図3における時刻t1)に導通しており、出力電流(図3(b)参照)の極性が変わったとき(図3における時刻t2)に、再点弧コンデンサ62が放電し、再点弧電圧が出力端子a,b間に印加される。
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
図7は、充電回路63への電力の供給元を変更した実施形態を示している。図7(a)は、第3実施形態に係る溶接電源装置A3を示すブロック図である。図7(a)において、第1実施形態に係る溶接システム(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。なお、図7(a)においては、再点弧回路6より下流側の構成および制御回路8の記載を省略している(図7(b)および(c)も同様)。図7(a)に示すように、溶接電源装置A3は、充電回路63の各入力端子がトランス3の二次側巻線3bの各出力端子にそれぞれ接続されている点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なる。第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第3実施形態によると、トランス3に補助巻線3cを設ける必要がない。よって、より簡易な構成とすることができる。
図7(b)は、第4実施形態に係る溶接電源装置A4を示すブロック図である。図7(b)において、第1実施形態に係る溶接システム(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。図7(b)に示すように、溶接電源装置A4は、充電回路63に代えて充電回路63’を備え、充電回路63’の各入力端子が整流回路4の各出力端子にそれぞれ接続されている点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なる。
充電回路63’は、充電回路63(図2(a)参照)の整流平滑回路63cから整流回路を省略したものである。充電回路63’は、整流回路4の出力電圧を入力されるので、整流回路を必要としない。第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第4実施形態によると、充電回路63’を充電回路63より簡易な構成とすることができる。
図7(c)は、第5実施形態に係る溶接電源装置A5を示すブロック図である。図7(c)において、第1実施形態に係る溶接システム(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。図7(c)に示すように、溶接電源装置A5は、充電回路63の各入力端子がインバータ回路2の各出力端子にそれぞれ接続されている点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1と異なる。第5実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第5実施形態によると、トランス3に補助巻線3cを設ける必要がない。よって、より簡易な構成とすることができる。
なお、上記第1ないし第5実施形態では、過電流対策として出力制御駆動信号のパルス幅を小さくした場合について説明したが、これに限られない。本発明は、他の理由で出力制御駆動信号のパルス幅が小さくなった場合にも、適用することができる。例えば、パルス電流出力を行う場合、目標電流設定部82は、目標電流として、第1の目標電流と第1の目標電流より小さい第2の目標電流とを交互に設定する。この場合、目標電流が第1の目標電流から第2の目標電流に切り替えられたときに、出力制御駆動信号のパルス幅が小さくなる。また、目標電流設定部82が設定する目標電流が小さい場合も、出力制御駆動信号のパルス幅が小さくなる。これらの場合でも、本発明を適用することで、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、上記第1ないし第5実施形態では、溶接電源装置A1ないしA5をTIG溶接システムに用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る溶接電源装置は、その他の半自動溶接システムにも用いることができる。また、本発明に係る溶接電源装置は、ロボットによる全自動溶接システムにも用いることができるし、被覆アーク溶接システムにも用いることができる。また、本発明は、交流出力専用の溶接電源装置だけでなく、交直両用の溶接電源装置にも適用することができる。
本発明に係る溶接電源装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。