JP7145070B2 - ばね用銅合金極細線及びその製造方法 - Google Patents

ばね用銅合金極細線及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ばね用銅合金極細線及びその製造方法に関し、例えば、精密電子機器等に組み入れられる導電性を有したばね用銅合金極細線及びその製造方法に関する。
近年、各種の小型精密電子機器等に、極細線からなるばねが多用されている(例えば、カメラモジュールのサスペンションばね等)。この種のばねは、優れた強度のみならず、高い導電性が求められている。強度と導電性の両方の要求を満たす材料として、電気抵抗の小さい銅合金が種々提案されている。
例えば、下記特許文献1には、Ni:3.0~29.5質量%、Al:0.5~7.0質量%、Si:0.1~1.5質量%を含み、残部がCu及び不可避的不純物とからなるFCC構造の銅合金であって、前記銅合金の母相中に、Siを含むNiAlのL12構造で、FCC構造のγ’相が析出していて、かつ、導電率が8.5IACS%以上で、ビッカース硬さが220Hv以上である高強度銅合金が記載されている。
特許第5743165号公報
上記銅合金において、その化学成分の一つであるSiは、Alと比較してNiと結びつきやすい性質を有し、優先的にNiSi化合物を生成する傾向がある。また、Cuの融点は1085℃であり、NiSiの析出温度約1300℃よりも低い。このため、上記銅合金の熱処理は、1085℃未満で行なう必要があるが、それではNiSiの固溶ができず、母材中に粒径の大きなNiSi化合物が析出する傾向がある。図2には、この種のCu-Ni-Si系合金中のNiSi化合物の一例を示す。このような銅合金からなる線材を伸線加工によって、例えば100μm以下程度まで極細化を試みると、粒径の大きなNiSi化合物の存在によって断線や割れが生じやすく、歩留まりが低下するという問題があった。
本発明の課題は、優れた強度及び高い導電率を有するばね用銅合金極細線を、伸線加工時の断線や割れを抑制して、歩留まり良く製造することにある。
本発明は、線径が100μm以下のばね用銅合金極細線であって、質量%で、6.0%<Ni<15.0%、Sn<6.0%、Al<1.2%、残部がCu及び不可避不純物で構成され、引張強さが1350MPa以上であり、導電率が4.0%IACS以上であり、Ni、Sn及びAlの関係比率が0.20≦(2Sn+Al)/3Ni≦0.37を充足する、ばね用銅合金極細線である。
本発明の好ましい態様では、上記銅合金は、質量%で、10.0%<Ni<14.0%、2.0%<Sn<5.9%、0.5%<Al<1.2%、残部がCu及び不可避不純物で構成されても良い。
本発明の好ましい態様では、上記銅合金は、Ni、Sn及びAlの関係比率が0.24≦(2Sn+Al)/3Ni≦0.31を充足するように構成されても良い。
本発明の他の態様では、上記銅合金は、さらに、B<0.05%を含むことができる。
本発明の他の態様では、上記銅合金は、さらに、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの群から選ばれる1種以上の金属を0.005%以上0.1%以下で含むことができる。
本発明の他の態様では、上記銅合金は、さらに、0.05%≦Mg≦0.2%を含むことができる。
本発明の他の態様では、上記銅合金は、さらに、0.05%≦Ti≦0.2%を含むことができる。
本発明の他の態様では、上記銅合金は、さらに、0.005%≦Ca≦0.1%を含むことができる。
また、本発明のばね用銅合金極細線の製造方法は、質量%で、6.0%<Ni<15.0%、Sn<6.0%、Al<1.2%、残部がCu及び不可避不純物で構成され、かつ、Ni、Sn及びAlの関係比率が0.20≦(2Sn+Al)/3Ni≦0.37を充足する銅合金の線材を準備する工程と、前記線材を700℃以上かつ1085℃未満の温度で0.5分以上かつ120分以下の時間で熱処理する工程と、前記熱処理後、線材中に析出されるNi-Al系化合物の析出物の粒径が50nm以下の状態で総加工率が95%を超える冷間伸線する工程と、を含むことができる。
本発明によれば、優れた強度及び高い導電率を有するばね用銅合金極細線を、伸線加工時の断線や割れを抑制して、歩留まり良く製造することができる。
発明材1の析出物の状態を示すSEMの写真である。 Cu-Ni-Si系合金中のNiSi化合物の一例を示すSEMの写真である。 熱処理から冷却までの工程を説明する装置概略図である。 比較材15の所々に孔が発生している状態を示すSEMの写真である。
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本明細書では、特に指定する場合を除き、各構成元素の含有量の単位「%」は「質量%」を意味していることに注意されたい。
本発明のばね用銅合金極細線は、線径が100μm以下であって、6.0%<Ni<15.0%、Sn<6.0%、Al<1.2%、残部がCu及び不可避不純物で構成され、引張強さが1350MPa以上であり、導電率が4.0%IACS以上であり、しかも、Ni、Sn及びAlの関係比率が0.20≦(2Sn+Al)/3Ni≦0.37を充足する。以下、これらの構成について、詳細について説明する。
[線径100μm以下]
本発明のばね用銅合金線は、例えば、精密電子機器において、例えば、サスペンションばねや接点ばねとして組み込まれるもので、そのような要請から、線径が100μm以下の極細線として提供される。線材の横断面は、真円状の他、扁平状でも良い。後者の場合、長径が100μm以下であれば良い。本発明のばね用銅合金線は、主成分がCuであるため、例えば、孔ダイスを用いた冷間伸線加工によって100μm以下の所望の線径に調整することができる。
本発明で各元素を前記分量に制限する理由は次による。
[6.0%<Ni<15.0%]
Niは、SnやAlと化合し、銅合金材料の強度及びばね特性を向上させるために添加される。したがって、Niの含有量が6.0%以下では、SnやAlとの化合量も減少し、十分な強度が得られない。このような観点から、Niは、好ましくは10.0%以上、さらに好ましくは11.0%以上とされる。逆に、Niが15.0%以上になると、SnやAlと結合する量を超えた範囲で添加されることになり、高強度化は可能であるが、多量の化合物が形成されることから靭性が低下し、それに伴なって加工性及びばね特性の低下や導電率の低下を招く。このような観点から、Niは、好ましくは14.0%以下、さらに好ましくは13.0%以下とされる。
[Sn<6.0%]
本発明は、銅合金材料の強度及びばね特性を向上させるために、従来の特許文献1に開示されていたCu-Ni-Si系合金で添加されていたSiに変えて、Snを採用している。Ni-Sn系化合物の析出温度は、700~800℃の範囲であり、これはCuの融点(1085℃)よりも低い。したがって、本発明の銅合金によれば、Ni-Sn系化合物の析出温度よりも高温で、かつ、Cuの融点よりも低い温度で熱処理することができるため、Cuを融解させることなくNi-Snの析出物を固溶することができる。
Snは、Niと化合して銅合金材料の強度及びばね特性を向上させる。銅合金中のSnの拡散は遅いため、合金中にSnの化合物が生成したとしてもその成長速度は遅く、過飽和に固溶した状態を維持することが可能である。したがって、本発明では、Snの過飽和固溶による固溶強化により銅合金の強度を向上させることが可能である。加えて、伸線加工により、過飽和固溶しているSnが化合物として析出し、伸線加工後の極細線の導電率は向上する。また、Snの過飽和固溶は、銅合金の加工硬化係数を大きくし、伸線加工時の加工硬化を増大させる利点を有する。さらに、Snの原子半径はCuの1.2倍以上であり、CuのマトリックスとNi-Al系金属間化合物の界面に偏析し、ドラッグ効果によりNi-Al系化合物の成長を抑制することで、Ni-Al系化合物の微細化に寄与すると推察される。
一方、Snの含有量が多くなると、過剰なSnが結晶粒界の強度を低下させ、伸線加工時や鍛造時に材料の割れを発生させるおそれがある。このような観点より、Snの含有量は、6.0%未満とされる必要があり、好ましくは5.9%以下、より好ましくは5.0%以下とされる。なお、Snの含有量が少ないと、十分な強度の向上が期待できないおそれがある。このような観点より、Snの含有量は、好ましくは2.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、特に好ましくは4.0%以上とされる。
[Al<1.2%]
Alも、Niと化合して銅合金材料の強度及びばね特性を向上させるために必須の元素であるが、Alの含有量が多くなると、過剰なNi3Al系化合物が生成されることにより、合金硬度が上昇し、ひいては、靭性低下による伸線加工時の断線を招くおそれがある。このような観点より、Alの含有量は1.2%以下とされるが、より好ましくは1.1%以下とされる。なお、Alの含有量が少ないと、十分な強度の向上が期待できないおそれがある。このような観点から、Alの含有量は0.5%以上が好ましく、より好ましくは1.0%以上とされる。
[0.20≦(2Sn+Al)/3Ni≦0.37]
銅合金の導電率及び加工性を高めるためには、Cuの重量%を大きくすれば良い。一方、本発明の銅合金中には、化合物としてNiAlとNiSnが析出され、これらが強度向上に寄与する。発明者らは、以上の点から、ばね用銅合金極細線として必要な強度及び加工性を満足させるために、Niに対するSn及びAlの適した比率を規定した。そして、種々の実験の結果、上記Niに対するSn及びAl量を規定するパラメータ(2Sn+Al)/3Niが0.37を超える場合、Ni量に比してSn量やAl量が相対的に多くなるため、鍛造や伸線時に割れや断線が発生し、歩留まりが低下することが判明した。逆に、上記Niに対するSn及びAl量を規定するパラメータ(2Sn+Al)/3Niが0.20を下回ると、Ni量が相対的に過多となり、本発明の対象とするばね材として必要な強度が確保できないことも判明している。これらの観点より、パラメータ(2Sn+Al)/3Niは、0.24以上が望ましく、また、0.31以下が望ましい。
[B<0.05%]
本発明の銅合金線は、任意元素として、さらに、0.05%未満でBが添加されても良い。Bの元素の添加によって、合金中の結晶粒が微細化され、さらに高い強度を得ることができる。一方、Bの含有量が多くなると、材料の所々に孔(いわゆる「巣」)が発生するおそれがあるので、Bの含有量は0.05%未満、好ましくは0.02%以下がより望ましい。
[La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの群から選ばれる1種以上の金属が0.005%~0.1%]
本発明の銅合金線は、任意元素として、さらに、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの群(以下、「ランタノイド」という。)から選ばれる1種以上の金属を0.005%以上0.1%以下で添加されても良い。ランタノイドの添加によって、銅合金の高温域における粒界酸化が抑制され、熱間加工性が向上する。ここで、ランタノイドの含有量(ランタノイドの合計の含有量で以下同様である。)が0.005%未満では、銅合金の高温域における粒界酸化を十分に抑制することができない。このような観点から、ランタノイドの含有量は0.005%以上、好ましくは0.01%以上が望ましい。一方、ランタノイドの含有量が多くなると、余分なコストがかかる上、銅合金の粒界に過剰に偏析して熱間加工性を阻害するおそれがあるので、ランタノイドの含有量は0.1%以下、好ましくは0.08%以下がより望ましい。なお、ランタノイドに属する金属は、それぞれ近似した化学的性質を持つため、これらの中からいずれか1種又は2種以上を組合せて上記含有量が得られれば、上述の作用を発揮させることができる。また、ミッシュメタルのように、上記ランタノイドを任意の組合せで含む合金が添加されても良い。
[0.05%≦Mg≦0.2%]
本発明の銅合金線の他の態様では、任意元素として、さらに、0.05%以上0.2%以下でMgが添加されても良い。Mgの元素の添加によって、結晶粒が微細化し、引張強さが向上する。ここで、Mgの含有量が0.05%未満では、十分な結晶粒の微細化効果が得られない。このような観点から、Mgの含有量は0.05%以上、好ましくは0.1%以上が望ましい。一方、Mgの含有量が多くなると、介在物の生成によって伸線性が阻害されるおそれがあるので、Mgの含有量は0.2%以下、好ましくは0.15%以下がより望ましい。
[0.05%≦Ti≦0.2%]
本発明の銅合金線の他の態様では、任意元素として、さらに、0.05%以上0.2%以下でTiが添加されても良い。Tiの元素の添加によって、Tiが微細析出物として析出し、引張強さが向上する。ここで、Tiの含有量が0.05%未満では、十分な微細析出物としての析出の効果が得られない。このような観点から、Tiの含有量は0.05%以上、好ましくは0.1%以上が望ましい。一方、Tiの含有量が多くなると、導電性が低下するので、Tiの含有量は0.2%以下、好ましくは0.15%以下がより望ましい。
[0.005%≦Ca≦0.1%]
本発明の銅合金線の他の態様では、任意元素として、さらに、0.005%以上0.1%以下でCaが添加されても良い。Caの元素の脱酸作用により、清浄度が向上し、加工性が向上する。ここで、Caの含有量が0.005%未満では、十分な脱酸作
用効果が得られない。このような観点から、Caの含有量は0.005%以上、好ましくは0.008%以上が望ましい。一方、Caは添加そのものが困難であるが、Caの含有量が多くなると、鋳造時に材料の所々に内部欠陥としての孔(いわゆる「巣」)が発生するおそれがあるので、Caの含有量は0.1%以下、好ましくは0.012%以下がより望ましい。
[不可避不純物]
本発明は、以上のような成分元素で構成され、残部が不可避的不純物とCuでなる銅合金線である。不可避的不純物としては、例えば、O、Zn、Mn、Si、Fe、Sなどを挙げることができる。特にOは酸化物を作って塑性加工性を悪化させるとともに導電性を低下させ、また、S及びFeも有害な粗大介在物を形成させることから、それらの合計は0.20%以下となるように管理されることが望ましい。また、個々の不純物の含有量は、0.10%以下程度とされる。
[引張強さ]
本発明のばね用銅合金極細線は、充分な強度を発揮するために、引張強さが1350MPa以上に調整されるが、より好ましくは1400MPa以上に調整される。本明細書において、極細線の引張強さは、JIS-Z2241「金属材料引張試験方法」に準じて測定される。
[導電率]
本発明のばね用銅合金極細線は、導電率が4.0%IACS以上とされる。これにより、例えば、カメラモジュール用のサスペンションばねや、その他、種々の導電性ばねとして好適に利用できる。本実施形態のばね用銅合金極細線は、線径が100μm以下と非常に小さく、電気抵抗も小さいことから、その電気特性として導電率が4.0%IACS以上を有するものであれば十分である。好ましくは、導電率は、6.0%IACS以上8.5%IACS以下とされる。本明細書において、導電率はJIS-C3002「電気用銅線及びアルミニウム線試験方法」に準拠した20℃の恒温槽中での4端子法(試料長さ100mm)により測定される。
[銅合金極細線の製造方法]
本発明の極細線は、上記化学成分を有する所定の線径を有する銅合金線(母材線)が700℃以上かつ1085℃未満の温度で0.5分以上かつ120分以下の時間で固溶化熱処理される。これにより、線材中のNi-A1系化合物及びNi-Sn系化合物をCu中に固溶することができる。次に、熱処理後、銅合金線中に析出したNi-Al系化合物の粒径が50nm以下の状態で、総加工率が95%を超える冷間伸線加工が行われる。
上記固溶化熱処理の温度が700℃未満の場合、鋳造時に生成した化合物が分解・固溶せず残存するという問題があり好ましくない。逆に、上記固溶化熱処理の温度が1085℃を超えると、母材元素であるCuが融解するため採用できない。また、熱処理時間が0.5分未満では、充分な固溶化を行なうことができず、逆に120分を超えると、時効析出した化合物の粗大化が顕著となり、加工性が低下するという不具合がある。
上記固溶化熱処理の後、例えば、銅合金線の冷却が行われる。熱処理後の銅合金線が高温状態のまま空気に触れると表面が酸化するため、表面のスケールを除去する処理工程が別途必要になる。本実施形態では、これらの工程を不要とすべく、図3に示されるような設備を用い、無酸化性雰囲気での熱処理(光輝焼鈍)が行われる。この設備は、例えば、熱処理部100と、冷却部200とを含む。熱処理部100は、炉本体102と、その中を貫通して延びるSUS316等のステンレス製のパイプ104とを含む。パイプ104の内部には、水素やアルゴン等のガスが充填されることで、無酸化雰囲気とされる。銅合金線300は、炉本体102内のパイプ104の内部を図において右側へ走行することにより、線材表面の酸化を防止しつつ熱処理がなされる。
パイプ104の下流側の一部は、炉本体102からはみ出している。パイプ104のはみ出し部分は、冷却部200で冷却される。冷却部200は、温調された冷却水が供給される水槽202を含んでいる。この水槽202でパイプ104が冷却される。これにより、パイプ104内の銅合金線300は、パイプ104を介して冷却される(間接冷却)。パイプ104のはみ出し長や銅合金線の送り速度等が適宜調整され、パイプ104から露出した銅合金線の温度を、酸化温度よりも低く制御することができる。以上のような工程は、銅合金線の表面酸化を抑制するとともに、内部でSn化合物の粒径が大きく成長するのを抑制するのにも役立つ。
また、銅合金線中に析出したNi-Al系化合物の粒径が50nm以下の状態で、総加工率が95%を超える冷間伸線加工、より好ましくは98%以上の冷間伸線加工が行われる。これにより、本実施形態では、粒径の大きなNi-Al系化合物の析出物に起因した伸線時の断線や割れを抑制することができる。この際、加工率が95%以下では、加工硬化による強度向上が不十分で、目的とする強度を得ることが困難という不具合がある。なお、冷間伸線加工時において上記化合物の粒径が50nm以下であるか否かは、少なくとも冷間伸線加工直前の線材の上記化合物の粒径を検査することで判別することができる。なぜなら、それ以後、冷間伸線加工中に粒径が著しく成長することがない(即ち、極細線領域での冷間伸線加工に影響を及ぼすまでには成長しない)ためである。
以下、本発明のより詳細な実施例が説明されるが、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
表1に示す化学成分組成を有する銅合金材料(発明材1~11、比較材12~15)を、連続鋳造機を用いて、各々1250℃で溶解し、連続鋳造して直径9.5mmの鋳造ロッド(母材線)を製造した。発明材1~5はCu-Ni-Sn-Al材であり、発明材6及び7は、Cu-Ni-Sn-Al-B材である。発明材8ないし11は、Cu-Ni-Sn-Alのベース材に、ランタノイドとしてのLa+Ce、Mg、Ti及びCaをそれぞれ添加したものである。比較材12は、発明材に比してAlの含有量を高めたものであり、比較材13及び14は、発明材に比してSnの含有量を高めたものであり、比較材15は、発明材に比してBの含有量を高めたものである。
Figure 0007145070000001
次に、上記鋳造ロッドを冷間伸線加工と温度800~950℃での中間熱処理を繰返し行ないながら線径0.5~2.0mmに細径化して、さらに、温度850~900℃×0.5~10.0min.の条件で熱処理を行なって軟質素線とし、そして、この軟質素線を連続伸線機で各々加工率95%の冷間伸線加工を行なうことで、最終仕上げ線径50μmの硬質銅合金線を得た。
発明材1ないし11については、いずれも伸線加工時に断線や割れが発生せず、比較材12ないし15に比べても良好な加工性を有することが確認された。また、ばね材として要求される引張強さと導電率を具えることも確認できた。図1には、発明材1のSEM画像を示す。なお、発明材8については、ランタノイドとして、La及びCeを添加したが、ランタノイドの他の金属であるPr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuを添加した場合でも、これらが互いによく似た化学的性質を持つことから、同様の効果が奏される。
一方、比較材12は、Alの含有量が多く、熱処理後であっても硬度が大きくかつ靭性が低いために極細線領域(100μm以下の線径)への伸線加工時に断線した。また、比較材13は、Snの含有量が多かったため、過剰なSnの偏析により結晶粒界の強度を低下させたことで、鍛造時及び伸線加工時に割れが発生したと推察される。さらに、比較材14については、比較材12及び13の不具合の両方が発生した。加えて、比較材15は、図4に示されるように、材料の所々に孔が発生していることが確認された。これらの比較材12ないし15については、いずれも引張強さと導電率の測定は行なわなかった。

Claims (9)

  1. 線径が100μm以下のばね用銅合金極細線であって、
    質量%で、6.0%<Ni<15.0%、Sn<6.0%、0.5%≦Al<1.2%、残部がCu及び不可避不純物で構成され、
    引張強さが1350MPa以上であり、
    導電率が4.0%IACS以上であり、
    Ni、Sn及びAlの関係比率が0.20≦(2Sn+Al)/3Ni≦0.37を充足する、
    ばね用銅合金極細線。
  2. 質量%で、10.0%<Ni<14.0%、2.0%<Sn<5.9%、0.5%<Al<1.2%、残部がCu及び不可避不純物で構成されている請求項1記載のばね用銅合金極細線。
  3. Ni、Sn及びAlの関係比率が0.24≦(2Sn+Al)/3Ni≦0.31を充足する請求項2記載のばね用銅合金極細線。
  4. さらに、B<0.05%を含む請求項1ないし3のいずれかに記載のばね用銅合金極細線。
  5. さらに、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの群から選ばれる1種以上の金属を0.005%以上0.1%以下で含む、請求項1ないし3のいずれかに記載のばね用銅合金極細線。
  6. さらに、0.05%≦Mg≦0.2%を含む請求項1ないし3のいずれかに記載のばね用銅合金極細線。
  7. さらに、0.05%≦Ti≦0.2%を含む請求項1ないし3のいずれかに記載のばね用銅合金極細線。
  8. さらに、0.005%≦Ca≦0.012%を含む請求項1ないし3のいずれかに記載のばね用銅合金極細線。
  9. 引張強さが1350MPa以上であり、かつ、導電率が4.0%IACS以上であるばね用銅合金極細線の製造方法であって、
    質量%で、6.0%<Ni<15.0%、Sn<6.0%、0.5%≦Al<1.2%、残部がCu及び不可避不純物で構成され、かつ、Ni、Sn及びAlの関係比率が0.20≦(2Sn+Al)/3Ni≦0.37を充足する銅合金の線材を準備する工程と、
    前記線材を700℃以上かつ1085℃未満の温度で0.5分以上かつ120分以下の時間で熱処理する工程と、
    前記熱処理後、線材中に析出されるNi-Al系化合物の析出物の粒径が50nm以下の状態で総加工率が95%を超える冷間伸線する工程と、
    を含むばね用銅合金極細線の製造方法。
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