JP7139238B2 - 高分子材料の硫黄架橋構造解析方法 - Google Patents

高分子材料の硫黄架橋構造解析方法 Download PDF

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本発明は、加硫ゴムなどの硫黄架橋された高分子材料における硫黄架橋構造の解析方法に関する。
加硫ゴムなどの硫黄架橋された高分子材料の物性を評価するために、高分子材料の硫黄架橋構造を解析する技術が求められている。
例えば、特許文献1には、高分子材料にX線を照射して硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得し、得られたX線吸収スペクトルを、硫黄-硫黄間成分と硫黄-炭素間成分を含む複数の成分でフィッティングして、硫黄-硫黄間成分と硫黄-炭素間成分のピーク面積比から硫黄架橋鎖連結長を算出することが記載されている。
ところで、硫黄架橋構造の解析においては、架橋形態(硫黄架橋鎖連結長)とともに、架橋密度を評価できれば、より詳細な解析が可能となる。架橋密度は、例えば、硫黄濃度を硫黄架橋鎖連結長で割ることにより算出することができるため、特許文献1に記載の技術において架橋密度を求めるためには硫黄濃度を求める必要がある。硫黄濃度を求める場合、加硫ゴムなどの高分子材料に含まれる硫黄が全て架橋構造に使われているのであれば、上記X線吸収スペクトルにおけるエッジジャンプの高さを用いて硫黄濃度を算出することができる。
しかしながら、加硫ゴムのためのゴム組成物には、通常、加硫反応を促進するために酸化亜鉛が配合されており、そのため、酸化亜鉛と硫黄との反応により生成する硫黄酸化物(硫酸亜鉛:ZnSO)が加硫ゴムに含まれる場合がある。また、加硫ゴムが熱老化することによって硫黄酸化物が生成することもある。このように、加硫ゴムに含まれる硫黄は全て架橋構造に使われるわけではないため、全て架橋構造に使われているとして架橋密度を計算すると、誤差が生じてしまい、架橋密度を精度高く算出することはできない。
特許文献2には、硫黄架橋された高分子材料における架橋部分の硫黄の化学情報を高精度に得るために、架橋ゴムのX線吸収スペクトルから硫黄酸化物の成分を除去することが記載されている。具体的には、X線吸収スペクトルのXANES領域を波形分離することにより硫黄酸化物の比率を算出し、算出した比率に基づいて、加硫ゴムのEXAFS振動から硫酸酸化物のEXAFS振動を差し引くことにより、加硫ゴムのX線吸収スペクトルから硫黄酸化物の成分を除去するというものである。エッジジャンプの高さに着目して架橋部分を構成する硫黄についての硫黄濃度を求めることは開示されていない。
特開2017-198548号公報 特開2017-40618号公報
本発明の実施形態は、以上の点に鑑みてなされたものであり、硫黄酸化物を考慮することができる高分子材料の硫黄架橋構造解析方法を提供することを目的とする。
本発明の実施形態に係る高分子材料の硫黄架橋構造解析方法は、
硫黄濃度が既知の試料にX線を照射して硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することにより硫黄濃度とエッジジャンプの高さとの関係である第1の関係を求めること、
硫黄酸化物を含む試料にX線を照射して硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することにより硫黄酸化物成分とエッジジャンプの高さとの関係である第2の関係を求めること、
硫黄架橋構造の解析対象である硫黄架橋された高分子材料にX線を照射して、硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得すること、
前記高分子材料について得られたX線吸収スペクトルから、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さを求めるとともに、前記第2の関係を用いて硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さを求めること、および、
前記硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さと前記硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さから、前記第1の関係を用いて、前記高分子材料についての前記硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄濃度を求めること、
を含むものである。
本発明の実施形態によれば、硫黄架橋された高分子材料中に存在する硫黄酸化物を考慮することにより、精度の高い高分子材料の硫黄架橋構造の解析が可能になる。
硫黄濃度とエッジジャンプ高さとの関係を示すグラフ X線測定装置の測定試料と検出器との関係を示す概念図 硫黄酸化物成分(SO成分ピーク面積)とエッジジャンプ高さとの関係を示すグラフ 硫黄酸化物を含む試料についてのX線吸収スペクトルのフィッティング結果を示す図 硫黄-硫黄間成分に用いる非対称ガウス関数を示す図 加硫ゴムについてのX線吸収スペクトルのフィッティング結果を示す図 硫黄酸化物を含む試料について測定したX線吸収スペクトルの図
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
本実施形態に係る硫黄架橋構造解析方法は、以下の工程を含む。
・工程1:硫黄濃度が既知の試料にX線を照射して硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することにより硫黄濃度とエッジジャンプ(edge jump)の高さとの関係である第1の関係を求める工程、
・工程2:硫黄酸化物を含む試料にX線を照射して硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することにより硫黄酸化物成分とエッジジャンプの高さとの関係である第2の関係を求める工程、
・工程3:硫黄架橋構造の解析対象である硫黄架橋された高分子材料にX線を照射して、硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得する工程、
・工程4:前記高分子材料について得られたX線吸収スペクトルから、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さを求めるとともに、前記第2の関係を用いて硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さを求める工程、および、
・工程5:前記硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さと前記硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さから、前記第1の関係を用いて、前記高分子材料についての前記硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄濃度を求める工程。
このように本実施形態では、硫黄濃度とエッジジャンプの高さとの関係(第1の関係)を求めるとともに、硫黄酸化物成分とエッジジャンプの高さとの関係(第2の関係)を求めておき、解析対象である硫黄架橋された高分子材料を用いて取得したX線吸収スペクトルからこれら第1及び第2の関係を用いることにより、硫黄酸化物の影響を除外した架橋部分の硫黄に基づく硫黄濃度を求めることができる。
好ましい一実施形態において、硫黄架橋構造解析方法は、更に以下の工程を含んでもよく、これにより硫黄架橋密度を精度よく算出することができる。
・工程6:前記高分子材料について得られたX線吸収スペクトルを、硫黄-硫黄間成分、硫黄-炭素間成分及び硫黄酸化物成分を含む少なくとも3つの成分でフィッティングする工程、
・工程7:前記硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さを算出して、前記硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さから、前記第2の関係を用いて、前記硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さを求める工程、
・工程8:前記硫黄-硫黄間成分のピーク面積と硫黄-炭素間成分のピーク面積を算出して、前記硫黄-硫黄間成分と硫黄-炭素間成分のピーク面積比から架橋硫黄鎖連結長を算出する工程、及び、
・工程9:前記硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄濃度と前記架橋硫黄鎖連結長とから硫黄架橋密度を算出する工程。
本実施形態において、硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルは、物体にX線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定することにより得られるものである。X線吸収スペクトルには、硫黄K殻吸収端と呼ばれる硫黄元素特有の急峻な立ち上がり(吸収端)が見られ、この吸収端付近の微細な構造は、X線吸収微細構造(XAFS:x-ray absorption fine structure)と呼ばれる。XAFSは、吸収端から数十eV程度までのX線吸収端構造(XANES:x-ray absorption near edge structure)と、それよりも高エネルギー側の1000eV程度までの範囲に現れるX線広域微細構造(EXAFS:extended x-ray absorption fine structure)からなる。そのうち、XANESは、電子状態などの化学状態に敏感であり、着目原子がどのような原子と結合しているかといった化学状態の解析に適用することができる。一実施形態において、硫黄原子のK殻吸収端である硫黄K殻吸収端についてXANES領域におけるX線吸収スペクトルを用いて、硫黄架橋構造の解析を行う。
硫黄架橋構造の解析対象としては、硫黄架橋された樹脂やゴムなどの高分子材料が用いられる。高分子の種類は特に限定されない。好ましくは、加硫ゴムであり、ゴムポリマーに硫黄等の加硫剤を含む種々の配合剤を配合したゴム組成物を加硫してなる加硫ゴムを解析対象とすることができる。
ここで、ゴムポリマーとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などのジエン系ゴムが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種類以上ブレンドして用いることができる。
高分子材料には、硫黄架橋させるための硫黄が加硫剤として配合される。加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄が挙げられる。一実施形態として、上記ゴム組成物において、加硫剤の配合量は、ゴムポリマー100質量部に対して0.1~10質量部でもよく、0.5~8質量部でもよい。
高分子材料には、また、充填剤や酸化亜鉛、加硫促進剤などの様々な配合剤を任意成分として配合してもよい。一実施形態として、上記ゴム組成物の場合、かかる配合剤として、充填剤、シランカップリング剤、オイル等の軟化剤、可塑剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、加硫促進剤など、通常ゴム工業で使用される各種配合剤を用いることができる。上記充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、タルク、クレー、アルミナなどの各種無機充填剤が挙げられ、カーボンブラック及び/又はシリカが好ましい。一実施形態として上記ゴム組成物の場合、充填剤の配合量は、例えば、ゴムポリマー100質量部に対して10~200質量部でもよく、20~150質量部でもよい。また、加硫促進剤の配合量は、ゴムポリマー100質量部に対して0.1~7質量部でもよく、0.5~5質量部でもよい。また、酸化亜鉛の配合量は、ゴムポリマー100質量部に対して0.1~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよい。
かかるゴム組成物は、バンバリーミキサーなどの混合機を用いて各成分を常法に従い混練することにより作製することができ、該ゴム組成物を常法に従い加熱して加硫することにより加硫ゴムが得られる。
解析対象としての高分子材料の形状は、特に限定されず、例えばシート状のものを用いることができる。一実施形態として、解析対象としては、シート状に加硫成形したゴムシートを用いてもよく、あるいはまた、タイヤ等の加硫ゴム製品からシート状に切り出したものを用いてもよい。
上記工程1では、硫黄濃度が既知の試料を用いて、硫黄濃度とエッジジャンプの高さとの関係(第1の関係)を求める。
硫黄濃度が既知の試料としては、硫黄濃度が分かっているものであれば、上記解析対象としての高分子材料と同様の硫黄架橋されたものでもよく、未架橋のものでもよい。また、必ずしも高分子材料でなくてもよく、例えばKBr粉末と硫黄粉末を乳鉢などで混合し、錠剤成型器を使ってタブレット状にしたものでもよい。好ましくはゴムポリマーに硫黄等の加硫剤を配合したゴム組成物である。
工程1では、硫黄濃度が既知の試料にX線を照射して硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することにより、第1の関係を求める。第1の関係を求めるためには、硫黄濃度が異なる複数の試料についてX線吸収スペクトルを取得してエッジジャンプを求めればよく、これにより、例えば図1に示すように、硫黄濃度とエッジジャンプの高さとの第1の関係を示す検量線(以下、検量線1という。)を得ることができる。
硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得する方法としては、公知のXAFS法(特にはXANES法)を用いることができる。詳細には、試料にX線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量(吸収強度)を測定する。X線は、硫黄原子のK殻吸収端に対応するエネルギーにて照射され、これにより、硫黄K殻についてXANES領域におけるX線吸収スペクトルが得られる。X線の走査エネルギー範囲としては、2400~3000eVであることが好ましく、2450~2500eVでもよく、2460~2490eVでもよい。
硫黄K殻吸収端におけるXAFS法においては、(1)試料を透過してきたX線強度を、フォトダイオードアレイ検出器等を用いて検出する透過法、(2)試料にX線を照射した際に発生する蛍光X線を、Lytle検出器や半導体検出器などを用いて検出する蛍光法、及び、(3)試料にX線を照射した際に流れる電流を検出する電子収量法などがあり、いずれを用いてもよい。好ましくは、蛍光法を用いることである。蛍光法は、より詳細には、試料にX線を照射した際に発生する蛍光X線を測定する方法であり、X線吸収量と蛍光X線の強度に比例関係があることを用いて、蛍光X線の強度からX線吸収量を間接的に求める方法である。
XAFS法を行う際に使用するX線としては、例えば1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上の高輝度X線であることが好ましい。また、X線の光子数は10(photons/s)以上であることが好ましく、より好ましくは10(photons/s)以上である。このようなX線を放射するシンクロトロンとしては、高輝度光科学研究センターのSPring-8、「知の拠点あいち」のあいちシンクロトロン光センターなどが挙げられる。
一般に、XAFS法により得られるスペクトルの形状は、吸収端より低エネルギー側のベースラインから高エネルギー側に向かって急激な信号強度の階段状ジャンプ(即ち、エッジジャンプ)となっており(図6参照)、このエッジジャンプの高さが測定対象原子の濃度に比例することが知られている(渡辺巌「XAFSを用いた気液界面における単分子膜へのイオン吸着挙動」、表面科学、第25巻第3号、139-145頁、2004年)。そのため、硫黄濃度とエッジジャンプの高さとの関係を示す上記検量線が得られる。
X線吸収スペクトルからエッジジャンプの高さを求める方法としては、特に限定されないが、例えば、X線スペクトルからエッジジャンプの高さを直接読み取ってもよく、後述する工程2と同様のフィッティングを行い、その結果得られる階段関数成分からエッジジャンプの高さを求めてもよい。
X線吸収スペクトルからエッジジャンプの高さを読み取る場合、例えばX線エネルギーが2485~3000eVの範囲内における特定のエネルギー値でのX線吸収量を読み取ればよい。一般にこの範囲ではX線吸収量は大きく変化しないので、そのような範囲内でエネルギー値を決めればよい(図6参照)。より好ましくは2485~2500eVの範囲であり、例えば2490eVでのX線吸収量を読み取るようにしてもよい。
工程1でX線吸収スペクトルを取得する際には、X線検出器の位置を固定することが好ましい。すなわち、硫黄濃度が異なる複数の試料についてX線吸収スペクトルを取得する際に、試料とX線検出器との距離を一定にしてX線を照射して、硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することが好ましい。
詳細には、図2に示すように、蛍光法では、高分子材料等の試料にX線を照射し、それにより発生する蛍光X線をX線検出器で検出する。その際、測定試料とX線検出器との距離によりX線吸収量の大きさが異なる。例えば、図2中、二点鎖線で示す位置よりも実線で示す位置にX線検出器を配置した方がエッジジャンプの高さは大きくなる。そのため、X線検出器を同じ位置に固定して測定することにより、対象元素である硫黄の濃度の違いをエッジジャンプの高さで表すことができる。
上記工程2では、硫黄酸化物を含む試料を用いて、硫黄酸化物成分とエッジジャンプの高さとの関係(第2の関係)を求める。
硫黄酸化物としては、架橋構造に含まれないことが明らかな硫酸亜鉛(ZnSO)、即ちSO成分が挙げられる。但し、これに限定されるものではなく、SO成分やSO成分などの他の硫黄酸化物を対象としてもよく、その場合、それぞれの硫黄酸化物について、第2の関係(即ち、後述する検量線)を作成して、それぞれの硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さを、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さから、差し引くようにすればよい。
硫黄酸化物を含む試料としては、例えば、ゴムポリマーなどのポリマーに硫黄酸化物を添加して混合したものでもよく、無機粉末と混合してタブレット状に成型したものを用いてもよい。ここでは、架橋構造に含まれない硫黄酸化物によるエッジジャンプの高さを求めるため、硫黄酸化物以外には硫黄を含有しない試料を測定対象とする。そのため、硫黄架橋された高分子材料は、測定対象として使用しない。
工程2では、硫黄酸化物の含有量が異なる複数の試料にX線を照射して、それぞれ硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することにより、第2の関係を求める。第2の関係を求めるためには、これら複数のX線吸収スペクトルについて、硫黄酸化物成分とエッジジャンプの高さとを求めればよく、図3に示すように、両者の関係(第2の関係)を示す検量線(以下、検量線2という。)が得られる。なお、工程2において硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得する方法は、測定試料として硫黄酸化物を含む試料を用いる点を除き、上述した工程1と同様であり、説明は省略する。
X線吸収スペクトルからエッジジャンプの高さを求める方法としては、工程1と同様、X線吸収スペクトルからエッジジャンプの高さを直接読み取ってもよく、あるいはまた、以下に述べるようにフィッティングを行った結果として得られる階段関数成分からエッジジャンプの高さを求めてもよい。
一実施形態において、工程2では、硫黄酸化物を含む試料について得られたX線吸収スペクトルを、硫黄酸化物成分及び階段関数成分を含む少なくとも2つの成分でフィッティングし、硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さと階段関数成分のエッジジャンプの高さを求めて、硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さと階段関数成分のエッジジャンプの高さとの関係を第2の関係として求めてもよい。
フィッティングは、硫黄酸化物成分及び階段関数成分とともに、硫黄-硫黄間成分(以下、S-S成分という。)及び硫黄-炭素間成分(以下、S-C成分という。)を含む4成分で行ってもよく、更に、図4にその一例を示すように、硫黄酸化物成分(SO成分)、階段関数成分、S-S成分及びS-C成分とともに、硫黄-亜鉛間成分(以下、S-Zn成分という。)と多重散乱成分を用いて行ってもよい。
ここで、硫黄酸化物成分は、S-O結合に基づくX線吸収成分であり、硫黄酸化物が硫酸亜鉛の場合、SOに基づくX線吸収成分である。
階段関数(step function)成分は、連続帯への電子の遷移に基づくX線吸収成分である。XANES領域は内殻軌道(K殻)から、非占有軌道への励起である。励起エネルギーが大きくなるにつれ、電子は原子核の拘束から抜け出し、非占有軌道よりも高エネルギーの連続帯へと励起されるようになる。このように徐々に増えていく連続帯への電子の遷移によるX線吸収を考慮した成分である。
S-S成分は、架橋部分の硫黄原子間の結合であるS-S結合に基づくX線吸収成分である。
S-C成分は、高分子鎖の炭素原子と架橋部分の硫黄原子との結合であるS-C結合に基づくX線吸収成分である。
S-Zn成分は、S-Zn結合に基づくX線吸収成分であり、ゴム組成物に添加された亜鉛華(ZnO)が反応することによって生成される硫化亜鉛(ZnS)によるX線吸収を考慮したものである。
多重散乱(multiple scattering)成分は、XANES領域の光電子による多重散乱に基づくX線吸収成分である。
X線吸収スペクトルをフィッティングする際に使用する関数としては、上記の各成分を表現できるものであればよく、種々の関数を用いることができる。
例えば、硫黄酸化物成分、S-C成分、S-Zn成分、及び多重散乱成分には、正規分布を示すガウス関数を用いてもよい。ガウス関数としては、例えば、下記式(1)で表されるものを用いることができる。
Figure 0007139238000001
式(1)中、aはピーク高さ(ピーク強度)、bはピークトップでのX線エネルギー(eV)、cはピークの半値幅(eV)、xは照射X線エネルギー(eV)を示す。
階段関数成分には、シグモイド関数を用いることが好ましい。階段関数成分は、エネルギーが高くなるにつれて徐々に増加するため、シグモイド関数を用いて表現することができる。シグモイド関数としては、例えば、下記式(2)で表されるものを用いることができる。
Figure 0007139238000002
式(2)中、dはエッジジャンプの高さ、eは定数、fはイオン化ポテンシャル(eV)を示す。一実施形態において、dを変数とし、e及びfを定数として、上記のフィッティングを行ってもよい。なお、階段関数成分が上手くフィッティングできない場合には、XPS(X線光電子分光法)を用いて算出したイオン化ポテンシャルの値を上記fとして用いてもよく、これによりフィッティングの精度を向上することができる。
S-S成分については、左右対称な分布を持つガウス関数を用いて表現することもできるが、架橋硫黄鎖の熱振動によるS-S結合長の揺らぎを考慮して、左右非対称な分布を持つ非対称ガウス関数を用いてもよい。非対称ガウス関数は、上記式(1)で表される複数のガウス関数の足し合わせで表現することができる。図5に示すように、上記式(1)で表される基準ガウス関数(C関数)を定め、ピークトップがC関数の高エネルギー側に等間隔にシフトし且つピーク高さが等差に減少する複数のガウス関数(C関数:C、C、……。ここでmは1以上の整数)を定める。C関数では、上記a、b及びcを定数とし、C関数以降のC関数(m=2~)については、ピークトップのシフト幅とピーク高さの等差減少値を定めて、m個のC関数を定義する。その際に、C関数の半値幅とピーク高さの積は一定とする。m個のC関数を足し合わせることにより、非対称ガウス関数が得られる。得られた非対称ガウス関数では、ピークトップでのX線エネルギー(eV)を定数とし、ピーク高さを変数として、上記のフィッティングを行うことができる。
以上の各成分を用いて、X線吸収スペクトルに対してフィッティング(曲線当てはめとも称される。)する方法としては、特に限定されず、一般的な方法を用いることができる。例えば、各成分の関数を足し合わせた関数と、X線吸収スペクトルの残差二乗和が0に近づくように、フィッティングを行えばよい。これにより、X線吸収スペクトルを各成分にピーク分離することができる。すなわち、それぞれの成分についてフィッティング処理後の曲線が得られる。図4には、フィッティング処理後の各成分の曲線と、これらを合成した曲線(フィッティングによる近似曲線)を示しており、測定スペクトルによく一致していることが分かる。
次いで、フィッティング処理後の曲線から、硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さと階段関数成分のエッジジャンプの高さを求めることができる。なお、硫黄酸化物成分のピーク面積は、当該フィッティング曲線により囲まれた部分の面積(図4においてハッチングで示す部分の面積)である。
これにより、例えば図3に示すように、硫黄酸化物成分(SO成分)のピーク面積と階段関数成分のエッジジャンプの高さとの第2の関係を示す検量線2が得られる。なお、ピーク面積の代わりにピーク高さを用いてもよく、即ち、硫黄酸化物成分のピーク高さと階段関数成分のエッジジャンプの高さとの第2の関係を示す検量線を得てもよい。
上記工程3では、硫黄架橋構造の解析対象である硫黄架橋された高分子材料についてX線吸収スペクトルを取得する。図6はその一例を示したものである。
工程3において硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得する方法は、測定試料として硫黄架橋密度が未知の硫黄架橋された高分子材料を用いる点を除き、上述した工程1と同様である。なお、解析対象である高分子材料とX線検出器との距離は、工程1で第1の関係を求めたときの試料とX線検出器との距離と同じ距離に設定することが好ましい。これにより、後述する工程5において、エッジジャンプの高さから第1の関係を用いて硫黄濃度を算出することができる。
上記工程4では、工程3により得られたX線吸収スペクトルから、そのスペクトルにおけるエッジジャンプの高さを、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さHa(図6参照)として求める。すなわち、このエッジジャンプの高さHaは、解析対象である高分子材料に含まれる全ての硫黄に基づくエッジジャンプの高さである。
エッジジャンプの高さHaを求める方法としては、工程3で得られたX線吸収スペクトルからエッジジャンプの高さを直接読み取ってもよく、あるいはまた、工程6において階段関数成分を用いてフィッティングを行ったときの当該フィッティング後の階段関数成分におけるエッジジャンプの高さを用いてもよい。X線吸収スペクトルからエッジジャンプの高さを直接読み取る方法の詳細は、工程1と同様である。
工程4においては、また、工程3により得られたX線吸収スペクトルから、上記の第2の関係(検量線2)を用いて、硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さHo(図6参照)を求める。このエッジジャンプの高さHoは、一実施形態において、工程6及び7により求めることができるので、工程6及び7について説明する。
工程6では、工程3により得られたX線吸収スペクトルを、S-S成分、S-C成分及び硫黄酸化物成分を含む少なくとも3つの成分でフィッティングする。フィッティングは、より好ましくはS-S成分、S-C成分、硫黄酸化物成分及び階段関数成分を含む少なくとも4成分で行うことであり、更に好ましくはS-S成分、S-C成分、硫黄酸化物成分及び階段関数成分とともに、S-Zn成分と多重散乱成分を用いて行うことであり、更には、図6に示すように、S-S成分、S-C成分、硫黄酸化物成分(SO成分)、階段関数成分、S-Zn成分、多重散乱成分及びSO成分を用いて行うことである。これら各成分を用いたフィッティングの方法は、上述した工程2におけるフィッティングと同様であり、説明は省略する。
工程7では、工程6で得られた硫黄酸化物成分のフィッティング曲線から硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さを算出する。そして、求めた硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さから、上記第2の関係を用いて、硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さHoを求める。詳細には、硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さと、硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さHoとの関係を示す検量線2を用いて、硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さから対応するエッジジャンプの高さHoを求める。
このようにして、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さHaと、硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さHoを求めた後、工程5において、上記第1の関係(検量線1)を用いて、高分子材料についての硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄濃度を求める。本実施形態では、この硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄濃度を、高分子材料における架橋部分を構成する硫黄についての硫黄濃度とみなし、「架橋硫黄濃度」ともいう。なお、架橋硫黄濃度は、高分子材料の全硫黄分から硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄についての濃度であり、硫黄酸化物の硫黄分とともに硫化亜鉛の硫黄分など架橋部分を構成しない他の硫黄分を差し引いた硫黄濃度であってもよい。
工程5では、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さHaから硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さHoを差し引いたものを、架橋部分を構成する硫黄に基づくエッジジャンプの高さHc(図6参照)とみなして、架橋硫黄濃度を算出する。
詳細には、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さHaから硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さHoを引くことで、硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄に基づくエッジジャンプの高さHcを求め、求めたエッジジャンプの高さHcから、第1の関係を用いて、架橋硫黄濃度を求めてもよい。あるいはまた、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さHaから第1の関係を用いて高分子材料中に含まれる硫黄全体についての硫黄濃度を求めるとともに、硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さHoから第1の関係を用いて高分子材料中に含まれる硫黄酸化物についての硫黄濃度を求め、前者から後者を差し引くことにより、架橋硫黄濃度を求めてもよい。
また、工程6で得られたS-S成分とS-C成分の各フィッティング曲線から、工程8において、それぞれS-S成分のピーク面積とS-C成分のピーク面積を算出し、両者の比(ピーク面積比)を算出することにより、解析対象である高分子材料の架橋硫黄鎖連結長を算出してもよい。なお、S-S成分及びS-C成分のピーク面積は、各フィッティング曲線により囲まれた部分の面積である。
架橋高分子材料中での硫黄架橋構造は、架橋部分の硫黄の連結数をnとして「C-S-C」で表され、この硫黄の連結数(詳細には連結数の平均)が架橋高分子材料の架橋硫黄鎖連結長である。架橋硫黄鎖連結長は、例えば、S-S成分のピーク面積Sと、S-C成分のピーク面積Cから、両者の比R=C/(C+S)を算出し、下記式(3)から算出することができる。
Figure 0007139238000003
架橋硫黄鎖連結長としては、式(3)のLの代わりに、例えば、S-C成分のピーク面積Cに対するS-S成分のピーク面積Sの比(S/C)を算出してもよい。また、S-S成分とS-C成分の合計のピーク面積(S+C)に対するS-S成分のピーク面積比(S/(S+C))でもよい。
工程8において架橋硫黄鎖連結長を求めた後、工程9において、架橋硫黄鎖連結長と、工程5で求めた架橋硫黄濃度とから、硫黄架橋密度を算出する。詳細には、工程5で得られた架橋硫黄濃度をPとし、工程8で得られた架橋硫黄鎖連結長をLとして、硫黄架橋密度Dは、D=P/Lにより算出することができる。硫黄架橋密度Dは、高分子材料の単位体積あたり(例えば1mLあたり)の、架橋本数(例えば本/mL)や架橋のモル数(例えばmol/mL)として、求めることができ、単位を持つ値として算出することができる。
以上のように、本実施形態によれば、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さHaから硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さHoを差し引くことにより、架橋構造に含まない硫黄を除いて硫黄濃度を算出することができる。そのため、架橋硫黄鎖連結長と硫黄濃度から硫黄架橋密度を算出する際に、架橋構造に含まれない硫黄の影響を抑えて、硫黄架橋密度を精度よく求めることができる。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[検量線1の導出]
バンバリーミキサーを用いて、100質量部のSBR(JSR(株)製「JSR1502」)に対して下記表1に示す質量部(phr)の硫黄(細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」)を添加し100℃以下の条件で混練した後、100℃で低温プレスすることにより、厚さ1.0mmの未加硫ゴムシートを得た。得られた未加硫ゴムシートについて、配合組成から、硫黄濃度P、即ち単位体積あたりの硫黄原子数(個/mL)を算出した。
また、未加硫ゴムシートに対し、蛍光法による硫黄K殻吸収端におけるXANES測定を実施してX線吸収スペクトルを取得した。XANES測定は、「知の拠点あいち」のあいちシンクロトロン光センターにおいて、以下の測定条件により行った。測定では、全ての測定対象について、X線検出器と測定対象との距離は一定とした(下記の検量線2の導出及び硫黄架橋密度の算出における測定において同じ)。
・X線の輝度:2.0×1012photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw
・X線の光子数:~3.0×1010photons/s
・分光器:結晶分光器
・X線検出器:シリコンドリフト検出器
・測定法:蛍光法
・X線のエネルギー範囲:2400~2500eV。
得られたX線吸収スペクトルに対してフィッティングを行い、その結果得られた階段関数成分から、各未加硫ゴムシートのエッジジャンプ高さdを求めた。このようにして求めたエッジジャンプ高さdと硫黄濃度Pから、両者の関係を示す検量線1として、図1に示す検量線(d=4.19×10-22P+0.0093)を得た。
フィッティングの方法は、以下の通りである。すなわち、X線吸収スペクトルを、S-S成分、S-C成分、S-Zn成分、多重散乱成分及び階段関数成分の5つの成分でフィッティングし、各成分のピーク面積を算出した。その際、S-C成分、S-Zn成分及び多重散乱成分については、式(1)のガウス関数を用いた。式(1)中のパラメータは、S-C成分については、a(ピーク高さ)を変数、b(ピークトップでのエネルギー)を2473eV(定数)、c(ピークの半値幅)を1.8eV(定数)とし、S-Zn成分については、a及びbを変数、cを1.8eV(定数)とし、多重散乱成分については、a及びbを変数、cを4eV(定数)に設定した。また、階段関数成分については、式(2)のシグモイド関数を用いた。式(2)中のパラメータは、d(エッジジャンプの高さ)は変数、e(定数)=0.7、f(イオン化ポテンシャル)=2476eV(定数)に設定した。
また、S-S成分については、非対称ガウス関数を用いた。非対称ガウス関数は、式(1)を用いて、aを2、bを2471.1eVとしたC1関数を定め、またC1関数から順に、ピークトップが高エネルギー側に等間隔(0.015eV)にシフトし且つピーク高さが等差(0.003)に減少する100個のC関数(m=1~100)を定めた。その際、C関数は、ピーク高さと半値幅の積が一定値(2.8)となるように定義した。これら100個のC関数を足し合わせることにより、S-S成分の非対称ガウス関数を得た。非対称ガウス関数のピークトップのエネルギー(eV)は2472eVに設定し、ピーク高さを変数とした。
このようにして定義したS-S成分、S-C成分、S-Zn成分、多重散乱成分及び階段関数成分の5つの成分を足し合わせた関数と、測定スペクトルの残差二乗和が0に近づくように、フィッティングを行った。
Figure 0007139238000004
[検量線2の導出]
バンバリーミキサーを用いて、100質量部のSBR(JSR(株)製「JSR1502」)に対して下記表2に示す質量部(phr)の硫酸亜鉛(ZnSO)を添加し100℃以下の条件で混練した後、100℃で低温プレスすることにより、厚さ1.0mmの未加硫ゴムシートを得た。得られた未加硫ゴムシートに対し、蛍光法による硫黄K殻吸収端におけるXANES測定を実施してX線吸収スペクトルを取得した。X線吸収スペクトルの測定条件は、検量線1の導出の場合と同じである。
その結果、図7に示すように、硫酸亜鉛の添加量が多いほど、2482eV付近のピークが高くなり、また2490eV付近のX線吸収量も多いことが分かった。
得られたX線吸収スペクトルに対してフィッティングを行い、その結果得られた硫黄酸化物成分と階段関数成分のフィッティング曲線から、硫黄酸化物成分のピーク面積と階段関数成分のエッジジャンプの高さを求めた。フィッティングは、S-S成分、S-C成分、S-Zn成分、多重散乱成分及び階段関数成分とともに、硫黄酸化物成分(SO成分)を加えた6つの成分で行い、その他は検量線1の導出と同様に行った。硫黄酸化物成分については、式(1)のガウス関数を用い、式(1)中のパラメータは、a(ピーク高さ)を変数、b(ピークトップでのエネルギー)を2481.6eV(定数)、c(ピークの半値幅)を2.4eV(定数)とした。図4にフィッティング結果の一例を示す。
このようにして求めたエッジジャンプ高さdと硫黄酸化物成分(SO成分)のピーク面積Aから、両者の関係を示す検量線2として、図3に示す検量線(A=130.2d-0.8166)を得た。
Figure 0007139238000005
[硫黄架橋密度の算出]
バンバリーミキサーを使用し、SBR100質量部、酸化亜鉛2部、ステアリン酸1部、硫黄2部、加硫促進剤1部を混練した後、金型モールドでプレス加工(160℃、30分)することにより、厚さ1.0mmの加硫ゴムシートを作製した。
各成分の詳細は以下の通りである。
・SBR:JSR(株)製「JSR1502」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」。
得られた加硫ゴムシートを120℃で7日間にて熱老化させ、熱老化後の加硫ゴムシートについて、硫黄K殻吸収端におけるXANES測定を実施して、X線吸収スペクトルを得た。X線吸収スペクトルの測定条件は、検量線1の導出の場合と同じである。得られたX線吸収スペクトルを図6に示す。
次いで、X線吸収スペクトルに対してフィッティングを行った。フィッティングは、S-S成分、S-C成分、S-Zn成分、多重散乱成分及び階段関数成分とともに、SO成分とSO成分を加えた7つの成分で行い、その他は検量線1の導出と同様に行った。SO成分については、検量線2の導出と同様、式(1)のガウス関数を用い、式(1)中のパラメータは、a(ピーク高さ)を変数、b(ピークトップでのエネルギー)を2481.6eV(定数)、c(ピークの半値幅)を2.4eV(定数)とした。また、SO成分については、式(1)のガウス関数を用い、式(1)中のパラメータは、a(ピーク高さ)を変数、b(ピークトップでのエネルギー)を2471.9eV(定数)、c(ピークの半値幅)を2.4eV(定数)とした。フィッティング結果は図6に示すとおりである。
得られた階段関数成分のフィッティング曲線から、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さHaは0.142であった。また、得られたSO成分のフィッティング曲線から、SO成分のピーク面積を算出したところ1.26であったので、図3に示す検量線2からSO成分に基づくエッジジャンプの高さHo=0.016を求めた。そして、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さHaからSO成分に基づくエッジジャンプの高さHoを差し引くことで、架橋部分を構成する硫黄に基づくエッジジャンプの高さHc=0.126を求めた。このエッジジャンプの高さHcから、図1に示す検量線1を用いて、架橋硫黄濃度P=2.78×1020個/mLを求めた。
また、フィッティングの結果得られたS-S成分とS-C成分のフィッティング曲線から、S-S成分のピーク面積とS-C成分のピーク面積をそれぞれ求め、両者の比から上記式(3)により架橋硫黄鎖連結長L=2.10を求めた。そして、架橋硫黄濃度Pと、架橋硫黄鎖連結長Lとから、硫黄架橋密度D=P/L=1.32×1020本/mLを得た。
このように本実施例によれば、硫黄酸化物であるSO成分についてそのピーク面積とエッジジャンプの高さHoとの関係を示す検量線2を求めておき、硫黄全体のエッジジャンプの高さHaからこのSO成分に基づくエッジジャンプの高さHoを差し引くことにより、架橋部分を構成する硫黄についての硫黄濃度を求めることができる。このように硫黄酸化物を考慮した硫黄濃度を求めることができるので、より精度の高い硫黄架橋密度を算出することができる。
なお、この実施例では、SO成分についてはフィッティングする際の成分としてのみ用い、これに基づくエッジジャンプの高さは考慮していないが、SO成分についてもそれに基づくエッジジャンプの高さを考慮して、架橋部分を構成する硫黄に基づくエッジジャンプの高さを求めるようにしてもよい。その場合は、SO成分についてもSO成分と同様の検量線を求めておけばよい。また、S-Zn成分についても同様に、それに基づくエッジジャンプの高さを考慮して、架橋部分を構成する硫黄に基づくエッジジャンプの高さを求めるようにしてもよく、その場合は、S-Zn成分についてSO成分と同様の検量線を求めておけばよい。

Claims (5)

  1. 硫黄濃度が既知の試料にX線を照射して硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することにより硫黄濃度とエッジジャンプの高さとの関係である第1の関係を求めること、
    硫黄酸化物を含む試料にX線を照射して硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得することにより硫黄酸化物成分とエッジジャンプの高さとの関係である第2の関係を求めること、
    硫黄架橋構造の解析対象である硫黄架橋された高分子材料にX線を照射して、硫黄K殻吸収端のX線吸収スペクトルを取得すること、
    前記高分子材料について得られたX線吸収スペクトルから、硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さを求めるとともに、前記第2の関係を用いて硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さを求めること、および、
    前記硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さと前記硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さから、前記第1の関係を用いて、前記高分子材料についての前記硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄濃度を求めること、
    を含む、高分子材料の硫黄架橋構造解析方法。
  2. 前記高分子材料について得られたX線吸収スペクトルを、硫黄-硫黄間成分、硫黄-炭素間成分及び硫黄酸化物成分を含む少なくとも3つの成分でフィッティングし、
    前記硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さを算出して、前記硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さから、前記第2の関係を用いて、前記硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さを求め、
    前記硫黄-硫黄間成分のピーク面積と硫黄-炭素間成分のピーク面積を算出して、前記硫黄-硫黄間成分と硫黄-炭素間成分のピーク面積比から架橋硫黄鎖連結長を算出し、
    前記硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄濃度と前記架橋硫黄鎖連結長とから硫黄架橋密度を算出する、請求項1に記載の硫黄架橋構造解析方法。
  3. 前記硫黄全体に基づくエッジジャンプの高さから前記硫黄酸化物に基づくエッジジャンプの高さを引くことで、前記硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄に基づくエッジジャンプの高さを求め、求めたエッジジャンプの高さから前記第1の関係を用いて前記硫黄酸化物の硫黄分を除いた硫黄濃度を求める、請求項1又は2に記載の硫黄架橋構造解析方法。
  4. 前記硫黄酸化物を含む試料について得られたX線吸収スペクトルを、硫黄酸化物成分及び階段関数成分を含む少なくとも2つの成分でフィッティングし、前記硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さと前記階段関数成分のエッジジャンプの高さを求めて、前記硫黄酸化物成分のピーク面積又はピーク高さと前記階段関数成分のエッジジャンプの高さとの関係を前記第2の関係として求める、請求項1~3のいずれか1項に記載の硫黄架橋構造解析方法。
  5. 前記硫黄酸化物が硫酸亜鉛である請求項1~4のいずれか1項に記載の硫黄架橋構造解析方法。
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