以下、この発明に係るろう材付き基材の製造方法について、この発明を適用して作製可能なろう材付き基材の構成例を挙げて、適宜図面を参照しながら説明する。
この発明を適用して作製可能なろう材付き基材としては、例えば、気密封止用キャップ(以下、単に「キャップ」という。)が挙げられる。キャップの構成例としては、例えば、図5および図6に示すようなキャップ10が挙げられる。このキャップ10は、平面的に見て、略四角形の板形状を有する。このキャップ10の板形状をなす上面(Z2側)および下面(Z1側)の縁部分は、丸みを帯びてR面状になっている。図6に示すP-P断面においては、このキャップ10の略四角形状の断面をなす4つの角部分が、それぞれ丸みを帯びてR面状になっている。このキャップ10の厚み(Z方向)は、おおよそ、30μm以上200μm以下の範囲で設計される。
このキャップ10は、下側(Z1側)に配置された基材11と、上側(Z1側)に配置されたろう材12とを含む。基材11の厚み(Z方向)は、おおよそ、15μm以上170μm以下の範囲で設計される。ろう材12の厚み(Z方向)は、おおよそ、3μm以上30μm以下の範囲で設計される。こうしたキャップは、基材とろう材とで構成された2層構造のもの(キャップ10)に限定されない。例えば、被覆層と基材と中間材とろう材とで構成された4層構造(被覆層/基材/中間材/ろう材)のキャップであってもよい。また、例えば、基材がめっき層で被覆され、そのめっき層が被覆層および中間材の機能を有する、4層構造(めっき層/基材/めっき層/ろう材)のキャップであってもよい。なお、被覆層および中間材については後述する。
キャップ10を構成する基材11は、例えば、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)またはCo(コバルト)などを含む、熱膨張係数が小さいFe-Ni系合金、Fe-Ni-Cr系合金、Fe-Ni-Co系合金またはFe-Ni-Cr-Co系合金などの金属板材からなる。基材11は、低熱膨張特性の観点で、30質量%以上50質量%以下のNiと、残部Feおよび不可避的不純物からなるものが好ましく、あるいは、25質量%以上35質量%以下のNiと、10質量%以上25質量%以下のCoと、残部Feおよび不可避的不純物からなるものが好ましい。
キャップ10を構成するろう材12は、例えば、Ag(銀)に対して10質量%以上約35質量%以下のCu(銅)を含有する、Ag-15%質量CuまたはAg-28質量%CuなどのAg-Cu系合金、あるいは、さらに約6質量%以下のSn(錫)を含有するAg-Cu-Sn系合金などからなる、ろう板材からなる。ろう材12は、少なくともAgおよびCuを含有し、Agに対して10質量%以上35質量%以下のCuを含有するものが好ましい。ろう材12は、接合温度を下げるための低融点化の観点で、少なくともAgおよびCuを含有し、共晶点付近(Cuが約28質量%±5質量%)となる、Agに対して23質量%以上33質量%以下のCuを含有するものが好ましい。ろう材12は、接合強度向上の観点で、少なくともAgおよびCuを含有し、AgとCuの合計に対するAgの含有質量比が、AgとCuの合計に対するCuの含有質量比よりも大きいものが好ましい。なお、基材とろう材の間にCuまたはCu合金からなる中間材を設ける場合は、接合時の加熱により中間材からろう材へCuが拡散する可能性を考慮し、Agに対して10質量%以上20質量%以下のCuを含有するろう材を用いるのが好ましい。
なお、キャップを構成する場合、キャップを接合する際のろう材の融解および再凝固による熱応力緩和の観点で、キャップの基材とろう材の間に中間材(図示略)を配置してもよい。中間材としては、例えば、熱伝導性がよいC1020(JIS規格)などの純CuまたはCuとNiを含むCu合金(Cu-Ni系合金)からなる銅板材が挙げられる。中間材の厚み(Z方向)は、おおよそ、5μm以上50μm以下の範囲で設計されるが、キャップの厚み(Z方向)の30%程度に設計するのが好ましい。
また、キャップを構成する場合、キャップの耐食性向上の観点で、基材の表面(Z2側)に被覆層を配置してもよい。被覆層としては、例えば、接触抵抗が小さいAu(金)、Pt(プラチナ)、Ag、Pd(パラジウム)、Niなどからなる単一金属または合金の層が挙げられる。コストの観点で好ましくは、NiまたはNi合金からなる被覆層である。こうした被覆層は、被覆層となるNi板材などの金属板を基材の表面に圧延接合するか、被覆層となるNiめっき層などを基材の表面にめっきすることにより形成することができる。基材の表面を被覆する場合、その被覆材の厚み(Z方向)は、おおよそ、1μm以上6μm以下の範囲で設計されるが、キャップの厚み(Z方向)の1%程度に設計するのが好ましい。
このキャップ10は、基材11を構成する上記金属板材と、ろう材12を構成する上記ろう板材とを、積層状態で圧延して接合したクラッド板材を、図5に示すような板形状に打ち抜いて形成することができる。つまり、このキャップ10は、2層のクラッド板材から構成されている。この結果、キャップ10を構成する基材11とろう材12は、互いに強固に接合されており、接合界面において剥がれるのを抑制することが可能であるとともに、接合界面に腐食因子が侵入するのを抑制することが可能である。なお、基材11とろう材12との接合は、より強固な接合強度を得る観点で、拡散焼鈍による金属拡散接合であることが好ましい。こうしたキャップ10(ろう材付き基材)の具体的な製造方法については後述する。
この発明を適用して作製可能な上記したキャップ10(ろう材付き基材)を用いて、例えば、電子部品収納パッケージ(以下、単に「パッケージ」という。)を構成することができる。電子部品収納パッケージの構成例として、例えば、図7に示すようなパッケージ50が挙げられる。このパッケージ50は、上記したキャップ10と、このキャップ10のろう材12の下方(Z1側)に接合される絶縁筐体51とを備えている。この絶縁筐体51の底面51aには、水晶振動子などの電子部品52がバンプ53を介して取り付けられている。キャップ10の表面10aと絶縁筐体51の表面51bとは、キャップ10のろう材12がシーム溶接などにより溶融して生じる溶融ろうの再凝固により接合されている。上記したキャップ10と絶縁筐体51との接合は、これにより構成されるパッケージ50の内部空間が気密状態になるように行われている。
絶縁筐体51は、アルミナなどのセラミックスにより形成されているとともに、蓋のない箱状に形成されている。また、箱状の絶縁筐体51は、絶縁筐体51の中央部に形成された収納部(内部空間)と、絶縁筐体51の枠状の壁部の上面に形成され、キャップ10のろう材12に対して接合される略四角形の枠状の表面51b(溶着面)とを有している。また、キャップ10と絶縁筐体51の枠状の表面51b(溶着面)とは、上記したように、キャップ10のろう材12を利用して接合されている。ここで、絶縁筐体51の表面51b(溶着面)と溶融ろうとの密着性を向上させるために、絶縁筐体51の表面51b(溶着面)にW(タングステン)からなるW層、NiからなるNi層およびAuからなるAu層がこの順で積層されたメタライズ層が設けられていてもよい。
この発明を適用して作製可能な上記キャップとは異なるろう材付き基材としては、例えば、気密封止用シールリング(以下、単に「シールリング」という。)が挙げられる。シールリングの構成例としては、例えば、図8および図9に示すようなシールリング20が挙げられる。このシールリング20は、平面的に見て、略四角形の枠形状(四角リング形状)を有する。このシールリング20の枠形状をなす上面(Z2側)および下面(Z1側)の縁部分は、丸みを帯びてR面状になっている。図9に示すP-P断面においては、このシールリング20の略四角形状の各断面において、その断面をなす4つの角部分が、それぞれ丸みを帯びてR面状になっている。このシールリング20の厚み(Z方向)は、おおよそ、80μm以上700μm以下の範囲で設計される。
このシールリング20は、下側(Z1側)に配置された基材21と、上側(Z1側)に配置されたろう材22とを含む。基材21の厚み(Z方向)は、おおよそ、60μm以上680μm以下の範囲で設計される。ろう材22の厚み(Z方向)は、おおよそ、5μm以上100μm以下の範囲で設計される。
シールリング20を構成する基材21は、例えば、Fe、Ni、CrまたはCoなどを含む、熱膨張係数が小さいFe-Ni系合金、Fe-Ni-Cr系合金、Fe-Ni-Co系合金またはFe-Ni-Cr-Co系合金などの金属板材からなる。基材21は、低熱膨張特性の観点で、30質量%以上50質量%以下のNiと、残部Feおよび不可避的不純物からなるものが好ましく、あるいは、25質量%以上35質量%以下のNiと、10質量%以上25質量%以下のCoと、残部Feおよび不可避的不純物からなるものが好ましい。
シールリング20を構成するろう材22は、例えば、Agに対して10質量%以上約35質量%以下のCuを含有する、Ag-15%質量CuまたはAg-28質量%CuなどのAg-Cu系合金、あるいは、さらに約6質量%以下のSnを含有するAg-Cu-Sn系合金などからなる、ろう板材からなる。ろう材12は、少なくともAgおよびCuを含有し、Agに対して10質量%以上35質量%以下のCuを含有するものが好ましい。ろう材12は、接合温度を下げるための低融点化の観点で、少なくともAgおよびCuを含有し、共晶点付近(Cuが約28質量%±5質量%)となる、Agに対して23質量%以上33質量%以下のCuを含有するものが好ましい。ろう材22は、接合強度向上の観点で、少なくともAgおよびCuを含有し、AgとCuの合計に対するAgの含有質量比が、AgとCuの合計に対するCuの含有質量比よりも大きいものが好ましい。なお、基材とろう材の間にCuまたはCu合金からなる中間材を設ける場合は、接合時の加熱により中間材からろう材へCuが拡散する可能性を考慮し、Agに対して10質量%以上20質量%以下のCuを含有するろう材を用いるのが好ましい。
なお、シールリングを構成する場合、シールリングを接合する際のろう材の融解および再凝固による熱応力緩和の観点で、シールリングの基材とろう材の間に中間材(図示略)を配置してもよい。中間材としては、例えば、熱伝導性がよいC1020(JIS規格)などの純CuまたはCuとNiを含むCu合金(Cu-Ni系合金)からなる銅板材が挙げられる。中間材の厚み(Z方向)は、おおよそ、5μm以上50μm以下の範囲で設計されるが、シールリングの厚み(Z方向)の30%程度に設計するのが好ましい。
また、シールリングを構成する場合、シールリングの耐食性向上の観点で、基材の表面(Z2側)に被覆層を配置してもよい。被覆層としては、例えば、接触抵抗が小さいAu、Pt、Ag、Pd、Niなどからなる単一金属または合金の層が挙げられる。コストの観点で好ましくは、NiまたはNi合金からなる被覆層である。こうした被覆層は、被覆層となるNi板材などの金属板を基材の表面に圧延接合するか、被覆層となるNiめっき層などを基材の表面にめっきすることにより形成することができる。基材の表面を被覆する場合、その被覆材の厚み(Z方向)は、おおよそ、1μm以上6μm以下の範囲で設計されるが、シールリングの厚み(Z方向)の1%程度に設計するのが好ましい。
このシールリング20は、基材21を構成する上記金属板材と、ろう材22を構成する上記ろう板材とを、積層状態で圧延して接合したクラッド板材を、図8に示すような枠形状に打ち抜いて形成することができる。つまり、このシールリング20は、2層のクラッド板材から構成されている。この結果、シールリング20を構成する基材21とろう材22は、互いに強固に接合されており、接合界面において剥がれるのを抑制することが可能であるとともに、接合界面に腐食因子が侵入するのを抑制することが可能である。なお、基材21とろう材22との接合は、より強固な接合強度を得る観点で、拡散焼鈍による金属拡散接合であることが好ましい。こうしたシールリング20(ろう材付き基材)の具体的な製造方法については後述する。
この発明を適用して作製可能な上記したシールリング20(ろう材付き基材)を用いて、例えば、電子部品収納パッケージ(以下、単に「パッケージ」という。)を構成することができる。電子部品収納パッケージの構成例として、例えば、図10に示すようなパッケージ60が挙げられる。このパッケージ60は、上記したシールリング20と、このシールリング20の下方(Z1側)に接合される絶縁筐体61と、このシールリング20の上方(Z2側)に接合されるNi被覆されたキャップ64と、を備えている。この絶縁筐体61の底面61aには、水晶振動子などの電子部品62がバンプ63を介して取り付けられている。シールリング20の表面20aと絶縁筐体61の表面61bとは、シールリング20のろう材22がシーム溶接などにより溶融して生じる溶融ろうの再凝固により接合されている。また、シールリング20の表面20bと、キャップ64のNi被覆された表面64aとは、シールリング20と絶縁筐体61との接合において同時に通電することによりキャップ64のNi被覆部分を溶融して再凝固させることにより接合されている。上記したシールリング20と絶縁筐体61との接合およびシールリング20とキャップ64との接合は、これにより構成されるパッケージ60の内部空間が気密状態になるように行われている。
絶縁筐体61は、アルミナなどのセラミックスにより形成されているとともに、蓋のない箱状に形成されている。また、箱状の絶縁筐体61は、絶縁筐体61の中央部に形成された収納部(内部空間)と、絶縁筐体61の枠状の壁部の上面に形成され、シールリング20のろう材22に対して接合される略四角形の枠状の表面61b(溶着面)とを有している。また、シールリング20と絶縁筐体61の枠状の表面61b(溶着面)とは、上記したように、シールリング20のろう材22を利用して接合されている。ここで、絶縁筐体61の表面61b(溶着面)と溶融ろうとの密着性を向上させるために、絶縁筐体61の表面61b(溶着面)にWからなるW層、NiからなるNi層およびAuからなるAu層がこの順で積層されたメタライズ層が設けられていてもよい。
次に、この発明に係るろう材付き基材の製造方法の一実施形態について、図11などを参照しながら説明する。なお、ここで説明するろう材付き基材の製造方法は、電子部品収納パッケージに用いられるキャップ10(図5参照)とシールリング20(図8参照)のいずれにも適用することができる。
この発明に係るろう材付き基材の製造方法は、電子部品収納パッケージに用いられるろう材付き基材の製造方法に適用することができる。この発明は、例えば図11に示すように、基材110とろう材120とが積層接合されたクラッド板材100を打ち抜いてクラッド個片10Sを形成する工程と、クラッド個片10Sをエッチングする工程と、エッチング後のクラッド個片10Sをバレル研磨する工程と、を備える、ろう材付き基材の製造方法である。
この発明において、クラッド個片10Sを形成する工程は、基材110とろう材120とが積層接合されたクラッド板材100を、ろう材120側(Z1側)から基材110側(Z2側)に向かって打ち抜くことにより、クラッド個片10Sを形成するプロセスを含む。クラッド板材100は、例えば、熱膨張係数が約4.8×10-6/K(20℃~100℃)のFe-Ni-Co系の合金(例えば、Niが約29質量%、Coが約17質量%、残部がFeと微量添加元素と不純物からなる合金)などからなる金属板材と、融点が約780℃のAg-Cu系の合金(例えば、Cuが約28質量%、残部がAgと微量添加元素と不純物からなる合金)などからなるろう板材とを、積層状態で圧延して接合することにより作製することができる。また、クラッド板材100に対して拡散焼鈍を行うことにより、基材110とろう材120との接合をより強固にすることができる。
クラッド個片10Sの形態は、打ち抜き加工が可能である限り、制限されない。クラッド個片10Sは、例えば、上記キャップ10のような形態であってもよいし、上記シールリング20のような形態であってもよい。
ここで、上記のようなクラッド個片を形成する工程の一実施形態について説明する。
まず、クラッド個片用の素材となるクラッド板材を準備する。このクラッド板材は、例えば、Fe-29%Ni-17%Co合金からなる金属板材と、Ag-15%Cu合金からなるろう板材とを、積層状態で圧延して接合し、さらに拡散焼鈍して作製する。次いで、このクラッド板材を用いてクラッド個片を作製する。このクラッド個片は、図11に示すように、クラッド板材をろう材側(Z1側)から基材側(Z2側)に向かって打ち抜いて作製する。なお、打ち抜きの際に付着した油分などを除去するために、打ち抜き後のクラッド個片に対して脱脂洗浄をしてもよい。こうして得られるクラッド個片は、平面的に見て、例えば、略四角形状のキャップ用のクラッド個片であってよく、あるいは、略四角形の枠形状(四角リング形状)のシールリング用のクラッド個片であってよい。打ち抜き後のキャップ用のクラッド個片は、例えば、全体の厚み(板厚)が40μm以上900μm以下、基材の厚みが40μm以上900μm以下、ろう材の厚みが2μm以上60μm以下、四角形状の外周を構成する長辺(外長辺)が1mm以上30mm以下、短辺(外短辺)が0.80mm以上30mm以下に形成されている。打ち抜き後のシールリング用のクラッド個片は、例えば、全体の厚み(板厚)が90μm以上600μm以下、基材の厚みが50μm以上600μm以下、ろう材の厚みが10μm以上60μm以下、四角リング形状の外周を構成する長辺(外長辺)が1mm以上30mm以下、短辺(外短辺)が0.80mm以上30mm以下、四角リング形状の内周を構成する長辺(内長辺)が0.80mm以上30mm以下、短辺(内短辺)が0.60mm以上30mm以下に形成されている。こうして得られたクラッド個片の中には、過度に大きいと判断される基材突出部分が確認されるものがある。
上記のように、ろう材側(Z1側)から基材側(Z2側)に向かって打ち抜いて形成したクラッド個片10Sには、通常、基材110の延伸より形成され、基材110からZ2側に突出する針状や箔状の打ち抜きバリ(基材突出部分B1、B2)が形成される。このとき、しばしば、もしくは突発的に、通常の基材突出部分B2(突出量t1)とは異なり、基材110からの突出が過度に大きい基材突出部分B1(突出量t2、t2>t1)が形成されることがある。こうした過度に大きな基材突出部分B1(突出量t2)が形成されてしまったクラッド個片10Sに対して図2に示す従来のプロセスを適用すると、上記したように、図3に示すようなバリの貼り付き不具合が発生することがある。一方、こうした過度に大きな基材突出部分B1(突出量t2)が形成されてしまったクラッド個片10Sに対しては、この発明を適用するのが特に有効である。なお、こうした過度に大きな基材突出部分は、キャップ10のような形態であればクラッド個片10Sの基材110の外周側に形成され、シールリング20のような形態であればクラッド個片10Sの基材210の外周側と内周側の両方に形成される可能性がある。
この発明において、クラッド個片10Sをエッチングする工程は、クラッド個片10Sを、基材110は溶けやすく、ろう材120は溶けにくい、エッチング液により、エッチングするプロセスを含む。また、クラッド個片10Sをエッチングする工程は、エッチングにより、クラッド板材100をクラッド個片10Sの形状に打ち抜く際に基材110の延伸により形成された基材突出部分B1、B2を、融解または半融解するプロセスを含むことができる。なお、過度に大きな基材突出部分B1(突出量t2)は基部が残る半融解の状態になりやすく、適度な大きさの基材突出部分B2(突出量t1)は基部が残らない融解の状態になりやすい。
クラッド個片10Sをエッチングする工程では、エッチング液の特異な性質、つまり、基材110は溶けやすく、ろう材120は溶けにくい、という性質により、クラッド個片10Sの基材110側が積極的にエッチングされる。そして、基材110の全表面がエッチングされる過程で、基材110から突出する基材突出部分B1、B2がエッチングされる。その結果、基材110から突出していた基材突出部分B1、B2は、半融解して適度な大きさに限縮されるか、融解して略除去される。例えば、上記エッチングにより、少なくとも、過度に大きかった突出量t2の基材突出部分B1は半融解して適度な大きさに限縮され、より小さかった突出量t1(t1<t2)の基材突出部分B2は融解して除去される。したがって、この発明に係る上記したエッチング効果により、図11(b)に示すような過度に大きな基材突出部分B1(突出量t2)が形成されたクラッド個片10Sであっても、その基材突出部分B1は、少なくとも、過度に大きな突出量t2から、図11(c)に示すような適度な大きさの突出量(例えばt1、t1<t2)に限縮することができる。
ここで、クラッド個片10Sをエッチングする工程の一実施形態について、シールリング用のクラッド個片を例に挙げて、説明する。なお、ここで説明する内容は、キャップ用のクラッド個片に対しても同様に適用することができる。
まず、特定のエッチング液を準備する。エッチング液は、シールリング用のクラッド個片を構成する基材(Fe-29%Ni-17%Co合金)が溶けやすく、ろう材(Ag-28%Cu合金)が溶けにくい、という性質を呈する液とする。例えば、35質量%濃度の過酸化水素水を1Lあたり150mL、70質量%濃度の硫酸を1Lあたり2.35mL、酸性フッ化アンモニウムを1Lあたり8.0g、という割合で混合した液を基本液とする。この基本液1Lに対して水9Lを加えて希釈した液を、エッチング液とする。
シールリング用のクラッド個片のエッチングは、例えば、重力方向に対して約30度傾く傾斜エッチング槽を備えたエッチング装置を用いて行うことができる。傾斜エッチング槽内のエッチング液(液温は約25℃)にクラッド個片を浸漬させた状態で、傾斜エッチング槽を約25rpmで連続回転させながら、約15分間放置する。エッチング時間(放置時間)は、シールリング用のクラッド個片の数量、サイズ、基材突出部分の大きさなどの諸条件に適するように設定する。エッチング後のシールリング用のクラッド個片には、過度に大きいと判断される基材突出部分は確認されなかった。なお、シールリング用のクラッド個片に対するエッチングは、1回に制限されず、基材突出部分の残存の程度などに応じて2回以上行ってもよく、エッチング液の補充あるいは新液への交換も可能である。また、エッチング後のシールリング用のクラッド個片は洗浄してよい。例えば、エッチング後のシールリング用のクラッド個片に対して、エッチング液を除去するための水洗浄と、Feなどの異物を除去して変色を抑制するための塩酸洗浄と、塩酸を除去するための水洗浄と、水分の除去を促進するためのアルコール浸漬と、バレル研磨をする前に変色するのを抑制するための真空脱気による乾燥とを、この順に行ってよい。
この発明において、エッチング後の図11(c)に示すようなクラッド個片10eをバレル研磨する工程は、従来知られたバレル研磨方法を適用することができる。なお、このバレル研磨に際して、クラッド個片10eに対して適切な研磨媒体(バレルメディア)を混合することができる。なお、この発明において、クラッド個片10eをバレル研磨する工程は、バレル研磨により、上記エッチングによる基材突出部分の融解残部分があった場合、つまり、過度に大きかった突出量t2の基材突出部分B1が半融解して適度な大きさに限縮され、例えば、図11(c)に示すような基材突出部分B1(突出量t1)が残った場合、これを除去するとともに、さらなるバレル研磨により基材110(基材11)のろう材120(ろう材12)が接合されていない側の角部R3、R4を丸形状に形成するプロセスを含むことができる。このプロセスを含むことにより、クラッド個片10eの基材110側の基材突出部分B1(突出量t1)をより確実に除去することができるため、良品質のろう材付き基材10をより確実に得ることができる。
ここで、エッチング後のクラッド個片10eをバレル研磨する工程の一実施形態について、シールリング用のクラッド個片を例に挙げて、説明する。なお、ここで説明する内容は、キャップ用のクラッド個片に対しても同様に適用することができる。
上記エッチング後のシールリング用のクラッド個片のバレル研磨は、例えば、株式会社チップトン製の横型バレル装置HS―R801を用いて行うことができる。横型バレル内に、エッチング後のシールリング用のクラッド個片を入れて、さらに適量のバレルメディアを入れる。バレルメディアとしては、例えば、株式会社チップトン製のHP-12を用いることができる。HP-12は、セラミックからなる不定形の粒子群(短径が1.3mm未満の粒子の分布率が5%以下、短径または長径が1.3mm以上3.3mm以下の粒子の分布率が85%以上、長径が3.3mmを超える粒子の分布率が10%以下)で構成される。バレル研磨は、横型バレル装置を起動し、約15分間放置する。バレル研磨時間(放置時間)は、シールリング用のクラッド個片の数量、サイズ、基材突出部分の残存大きさなどの諸条件に適するように設定する。
上記のようにエッチング後にバレル研磨をしたシールリング用のクラッド個片には、図3に示すようなバリの貼り付き部分は確認されない。そして、このエッチング後にバレル研磨をしたシールリング用のクラッド個片は、基材側の縁部の角の丸みのR半径がおおむね30μm以上50μm以下に形成され、基材の厚みの0.1倍以上0.3倍以下の範囲内になる。基材側の縁部の角の丸みのR半径が基材の厚みの0.1倍以上0.3倍以下の範囲内であることにより、シールリング用のクラッド個片に適する、好ましい機械的強さを確保することができる。また、このシールリング用のクラッド個片は、ろう材側の縁部の角の丸みのR半径がおおむね60μm以上150μm以下に形成され、ろう材の厚みの1.1倍以上2.4倍以下の範囲内になる。ろう材側の縁部の角の丸みのR半径がろう材の厚みの1.1倍以上2.4倍以下の範囲内であることにより、シールリング用のクラッド個片に適する、好ましい量のろう材を確保することができる。この場合、Ag-Cu系合金またはAg-Cu-Sn系合金からなるろう材であってよい。また、基材とろう材の間にCuまたはCu-Ni系合金からなる中間材を備えることが好ましく、基材とろう材の接合強度を高めることができる。また、基材のろう材とは反対側にNiまたはNi合金からなる被覆層を備えることは好ましく、基材の耐食性を高めることができる。
また、キャップ用のクラッド個片の場合も上記と同様のエッチングおよびバレル研磨を行えば、図3に示すようなバリの貼り付き部分がなく、基材側の縁部の角の丸みのR半径が基材の厚みの0.1倍以上0.3倍以下になり、ろう材側の縁部の角の丸みのR半径がろう材の厚みの1.1倍以上1.5倍以下になる。基材側の縁部の角の丸みのR半径が基材の厚みの0.1倍以上0.3倍以下の範囲内であることにより、キャップ用のクラッド個片に適する、好ましい機械的強さを確保することができる。また、ろう材側の縁部の角の丸みのR半径がろう材の厚みの1.1倍以上1.5倍以下の範囲内であることにより、キャップ用のクラッド個片に適する、好ましい量のろう材を確保することができる。この場合、Ag-Cu系合金またはAg-Cu-Sn系合金からなるろう材であってよい。また、基材とろう材の間にCuまたはCu-Ni系合金からなる中間材を備えることが好ましく、基材とろう材の接合強度を高めることができる。また、基材のろう材とは反対側にNiまたはNi合金からなる被覆層を備えることは好ましく、基材の耐食性を高めることができる。
バレル研磨後のシールリング用のクラッド個片(ろう材付き基材)は洗浄してよい。例えば、バレル研磨後のシールリング用のクラッド個片(ろう材付き基材)に対して、バレル研磨に起因する異物を除去するための水洗浄と、水分の除去を促進するためのアルコール浸漬と、真空脱気による乾燥とを、この順に行ってよい。これらの処理もキャップ用のクラッド個片に対して同様に適用することができる。
上述したように、この発明は、キャップ10のような形態のろう材付き基材にも適用することができるし、シールリング20のような形態のろう材付き基材にも適用することができる。そして、この発明において、打ち抜き後のクラッド個片に対して、バレル研磨をする前にエッチングをすることは、特に重要である。上記したキャップやシールリングなどのろう材付き基材の製造に際して、クラッド板材からクラッド個片を形成し、このクラッド個片をエッチングし、エッチングをした後のクラッド個片をバレル研磨することにより、良品質のろう材付き基材を得ることができる。具体的には、図11を参照して説明したように、打ち抜き後のクラッド個片10Sに対してエッチングをすることにより適度な突出量t1の基材突出部分B1を有するクラッド個片10eを得て、このエッチング後のクラッド個片10eに対してバレル研磨をすることにより、量産に適する標準的な研磨時間内に、クラッド個片10eの基材突出部分B1を確実に除去し、良品質の図11(d)に示すようなろう材付き基材10(キャップ10やシールリング20など)を得ることができる。
これにより、打ち抜き後のクラッド個片に対してバレル研磨をする従来の製造方法において発生しやすい不具合、すなわち、打ち抜き後にエッチングをしなかったクラッド個片に残る過度に大きなバリがバレル研磨中に曲げられ、押し付けられ、基材110の平面部分100bに貼り付きバリBfとして残存する不具合の発生を抑制することができる。その結果、基材にバリ残り(基材突出部分)がなく、ろう材(特に角部)の過度な滅失がない、例えば、電子部品収納パッケージのキャップおよびシールリングに適する、ろう材付き基材を得ることができる。