<実施形態>
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態にかかる加熱装置30及び熱成形装置1の概略構成図である。熱成形装置1は、加熱装置30と、成形装置40とを備えている。さらに、熱成形装置1は、シート供給装置81と、シート保持装置83と、搬送制御部51と、成形装置制御部53とを備えている。なお、搬送制御部51及び成形装置制御部53は、図示しないCPU等を含む回路部を有している。
シート供給装置81及びシート保持装置83は、搬送制御部51の制御によって作動する。具体的には、シート供給装置81は、搬送制御部51の制御により、シート載置台85に載置されている複数のシート90(未成形シート91)から、1枚のシート90を取り出し、シート保持装置83に供給する。また、シート保持装置83は、シート供給装置81によって供給されたシート90を保持しつつ、搬送制御部51の制御によって加熱装置30へ搬送する。
シート90は、単一層からなる熱可塑性のシートであり、具体的には、熱可塑性樹脂からなるシートである。なお、本実施形態では、シート90として、カット状(枚葉型)のシートを使用する場合を例示して説明するが、これに限定されず、例えば、ロール状に巻き取られた長尺のシートを引き出して使用するようにしても良い。
加熱装置30は、未成形シート91の上面91bを加熱する上側ヒータ10と、未成形シート91の下面91cを加熱する下側ヒータ20と、未成形シート91の上面91bの温度を計測する上側温度センサ13と、未成形シート91の下面91cの温度を計測する下側温度センサ23と、ヒータ制御部52とを備える(図1参照)。なお、ヒータ制御部52は、図示しないCPU等を含む回路部を有しており、上側ヒータ10および下側ヒータ20の、それぞれの温度を制御するための制御プログラムが記憶されている。
この加熱装置30(上側ヒータ10と下側ヒータ20)は、ヒータ制御部52の制御によって作動し、未成形シート91(成形装置40によって成形される前のシート90)を加熱して軟化または溶融させる。上側ヒータ10と下側ヒータ20とは、未成形シート91が加熱装置30によって加熱される位置(図4に示す位置)に配置されたときに、上側ヒータ10が未成形シート91の上面91bの上方に位置し、下側ヒータ20が未成形シート91の下面91cの下方に位置するように設けられている。
ここで、上側ヒータ10について説明する。図2は、上側ヒータ10の平面図であり、熱を放射する放熱部10b側から上側ヒータ10を平面視した図である。図3は、上側ヒータ10を構成するヒータ要素11の平面図である。上側ヒータ10は、X方向(図2において横方向)とY方向(図2において縦方向)に隣接して配列された複数のヒータ要素11を有する。図2に示す例では、上側ヒータ10は、X方向に6個のヒータ要素11が隣接して配置されたヒータ要素11の列が、Y方向に5列隣接して並ぶ態様で、合計30個のヒータ要素11を有する。これらのヒータ要素11によって、放熱部10bが構成されている。
ヒータ要素11は、定格電圧での昇温速度が60[℃/秒]以上である急速応答可能な高速追従型ヒーターである。このヒータ要素11は、図3に示すように、略八角形状の絶縁板15と、絶縁板15の表面に配置された蛇行形状のヒーターエレメント16とを有する。ヒーターエレメント16は、一方向に間隔を空けて並ぶ複数の発熱板17と、隣り合う発熱板17の端部を互い違いに連結する複数の連結板18とを備えている。各ヒータ要素11が発する熱量は、ヒータ制御部52が、各ヒータ要素11に供給する電力量によって制御する。従って、上側ヒータ10の温度は、ヒータ制御部52が、ヒータ要素11に供給する電力量によって制御する。なお、下側ヒータ20も、上述した上側ヒータ10と同様の構成を有する(図2及び図3参照)。
上側温度センサ13は、放射温度計であり、上側ヒータ10の内部に配置されている。具体的には、上側温度センサ13は、平面視で、上側ヒータ10の中央領域に位置する4つのヒータ要素11に囲まれるようにして、上側ヒータ10の中央領域に設けられている(図2参照)。この上側温度センサ13は、未成形シート91の上面91bの温度を計測して、シート上面温度C3として出力する。この出力により、ヒータ制御部52は、未成形シート91の上面91bの温度(シート上面温度C3)を検知する。
また、下側温度センサ23は、放射温度計であり、下側ヒータ20の内部に配置されている。具体的には、下側温度センサ23は、平面視で、下側ヒータ20の中央領域に位置する4つのヒータ要素11に囲まれるようにして、下側ヒータ20の中央領域に設けられている(図2参照)。この下側温度センサ23は、未成形シート91の下面91cの温度を計測して、シート下面温度C4として出力する。この出力により、ヒータ制御部52は、未成形シート91の下面91cの温度(シート下面温度C4)を検知する。
また、上側ヒータ10に含まれる複数のヒータ要素11のうち、平面視で上側ヒータ10の略中央に位置する1つのヒータ要素11Bには、熱電対温度計14が取り付けられている。この熱電対温度計14は、ヒータ要素11Bの温度を検出して、上側ヒータ10の温度(上側ヒータ温度C1)として出力する。この出力により、ヒータ制御部52は、上側ヒータ10の温度(上側ヒータ温度C1)を検知する。
また、下側ヒータ20に含まれる複数のヒータ要素11のうち、平面視で下側ヒータ20の略中央に位置する1つのヒータ要素11Bには、熱電対温度計24が取り付けられている。この熱電対温度計24は、ヒータ要素11Bの温度を検出して、下側ヒータ20の温度(下側ヒータ温度C2)として出力する。この出力により、ヒータ制御部52は、下側ヒータ20の温度(下側ヒータ温度C2)を検知する。
ところで、熱可塑性のシート90を加熱すると、加熱によってシート90が軟化または溶融することでシート90が下方に垂れるように変形する。より具体的には、加熱時間の経過に伴ってシート90の軟化または溶融が進行するにしたがって、シート90の上面90bが上側ヒータ10から遠ざかってゆき、反対に、シート90の下面90cが下側ヒータ20に近づいてゆく。
このことを考慮して、本実施形態の加熱装置30では、図4に示すように、上側ヒータ10と下側ヒータ20とが、未成形シート91が加熱装置30によって加熱される位置(図4に示す位置、上側ヒータ10と下側ヒータ20との間の位置)に配置されたとき(すなわち、未成形シート91の加熱を開始するとき)に、上側ヒータ10(未成形シート91の上面91bと対向する放熱部10b)と未成形シート91の上面91bとの間の距離D1と、下側ヒータ20(未成形シート91の下面91cと対向する放熱部20b)と未成形シート91の下面91cとの間の距離D2が、D1<D2の関係を満たすように設けられている。詳細には、上側ヒータ10と下側ヒータ20とは、シート90の加熱を開始するときに、距離D1と距離D2とがD1<D2の関係を満たすように位置し、且つ、シート90の加熱期間中、互いの位置を変えることなくシート90を加熱する。このようにすることで、加熱によって下方に垂れるように変形するシート90が下側ヒータ20に接触することを防止することができると共に、上側ヒータ10と下側ヒータ20とによってシート90をより適切に加熱することができる。なお、図4は、上側ヒータ10と下側ヒータ20とによって未成形シート91の加熱を開始するときの、上側ヒータ10と下側ヒータ20と未成形シート91との位置関係を示す図である。
成形装置40は、成形装置制御部53の制御によって作動し、加熱装置30によって加熱されて軟化した未成形シート91を成形する。この成形装置40は、成形品Mの形状に応じたキャビティ(不図示)が形成された上型41と、クランプ42と、上型41を保持する上テーブル(不図示)と、クランプ42を保持する下テーブル(不図示)と、上テーブルと下テーブルを昇降可能に保持する成形用テーブル駆動機構(不図示)と、上型41のキャビティ内に差圧を発生させる差圧供給機構(不図示)とを備えている。
この成形装置40では、成形装置制御部53の制御により、以下のようにして未成形シート91を成形して、成形済シート92(成形品Mを含むシート90)を作製する。具体的には、加熱装置30による加熱によって軟化した未成形シート91が、上型41とクランプ42との間に搬入されると、離間位置に配置されていた上型41とクランプ42とが、成形用テーブル駆動機構の駆動によって近接位置に移動する。なお、離間位置は、上型41とクランプ42との距離が最も離れた位置である。また、近接位置は、上型41とクランプ42とが最も近接する位置であり、上型41とクランプ42とによって未成形シート91の成形が行われる位置である。
上型41とクランプ42とが近接位置に配置されると、差圧供給機構によって上型41のキャビティ内に差圧を発生させて、この差圧によってシート90を上型41に密接させる。これにより、未成形シート91が、上型41のキャビティに応じた形状に変化して、成形済シート92(成形品Mを含むシート90)になる。その後、成形用テーブル駆動機構の駆動によって、上型41とクランプ42とを離間位置に移動させて、成形済シート92が取り出される。
次に、本実施形態の加熱装置30のヒータ温度制御について、詳細に説明する。本実施形態の熱成形装置1を構成する加熱装置30では、目標時間Tt11内に、未成形シート91(上面91bおよび下面91c)を目標温度(第1目標温度Ct11および第2目標温度Ct12)まで加熱するための昇温率(後述する第1基準昇温率TR11,第2基準昇温率TR12,第1指令昇温率TR21,第2指令昇温率TR22)に基づき、上側ヒータ10と下側ヒータ20とがそれぞれ独立して制御される。
具体的には、昇温率に基づき、未成形シート91の加熱開始から加熱完了までにおける所定の時間毎(例えば1秒毎)の、上側ヒータ10を制御するためのシート温度指令値と、下側ヒータ20を制御するためのシート温度の指令値と、のそれぞれを算出し、このシート温度の指令値に基づいて、上側ヒータ10および下側ヒータ20のそれぞれのヒータ要素11に供給する電力量を調節する。この電力量の調節により、上側ヒータ10および下側ヒータ20の温度を変化させ、未成形シート91を加熱する。したがって、ヒータ制御部52は、予め、ヒータ制御部52に記憶されている制御プログラムに従って、昇温率の算出を行う。
ヒータ制御部52は、まず、第1基準昇温率TR11および第2基準昇温率TR12を算出する。第1基準昇温率TR11とは、未成形シート91の上面91bの温度が、目標時間Tt11の内に、摂氏0℃から第1目標温度Ct11に達するための、例えば1秒毎の上面91bの温度の上昇率であり、第1目標温度Ct11を目標時間Tt11で割ることで求まる(Ct11/Tt11)。
第2基準昇温率TR12とは、未成形シート91の下面91cの温度が、目標時間Tt11の内に、摂氏0℃から第2目標温度Ct12に達するための、例えば1秒毎の下面91cの温度の上昇率であり、第2目標温度Ct12を目標時間Tt11で割ることで求まる(Ct12/Tt11)。
ここで、第1基準昇温率TR11、第2基準昇温率TR12ともに摂氏0℃からの昇温率としているのには、以下のような理由がある。
未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度は、加熱前には室温となっていることが想定される。例えば、室温を温度Cs11(図6参照)とすれば、0秒時点から目標時間Tt11までの間に、温度Cs11から目標温度(第1目標温度Ct11および第2目標温度Ct12)に達するため昇温率は、図6に示す昇温率TR41のような傾きとなる。しかし、室温は、季節や環境により変動するため、例えば、室温が、温度Cs11とは異なる温度Cs12であった場合には、0秒時点から目標時間Tt11までの間に、温度Cs11から目標温度(第1目標温度Ct11および第2目標温度Ct12)に達するため昇温率は、図6に示す昇温率TR42のような傾きとなる。
このように、季節や環境により、目標温度(第1目標温度Ct11および第2目標温度Ct12)に達するための昇温率が変動すると、未成形シート91の加熱具合が変動し、成形品Mの品質が一定とならないおそれがある。そこで、昇温率が季節や環境に左右されないよう、第1基準昇温率TR11および、第2基準昇温率TR12を、摂氏0℃からの昇温率としているのである。
例えば、加熱前の未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度が温度Cs11であれば、図6に示すように、時点Ts11から加熱が開始され、目標時間Tt11までの間に、目標温度(第1目標温度Ct11および第2目標温度Ct12)に達する。一方で、加熱前の未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度が温度Cs12であれば、図6に示すように、時点Ts12から加熱が開始され、目標時間Ct11までの間に、目標温度(第1目標温度Ct11および第2目標温度Ct12)に達する。加熱前の未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度が温度Cs11であっても、温度Cs12であっても、第1基準昇温率TR11または第2基準昇温率TR12に基づいて昇温されるため、未成形シート91の加熱具合が、季節や環境に左右されずに一定となり、成形品Mの品質が安定する。
加熱装置30のヒータ温度制御についての説明に戻ると、ヒータ制御部52は、未成形シート91の上面91bの温度が第1基準昇温率TR11に沿って上昇するように上側ヒータ10の温度を制御し、未成形シート91の下面91cの温度が第2基準昇温率TR12に沿って上昇するように下側ヒータ20の温度を制御する。しかし、ここで留意しなければならないのは、上側ヒータ10および下側ヒータ20の温度変化が行われてから、実際に未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度が変化するまでの反応時間である。
例えば、目標時間Tt11を60秒とし、第1目標温度Ct11および第2目標温度Ct12を130℃とすれば、第1基準昇温率TR11および第2基準昇温率TR12は、2.17℃/秒となる。これは、上側ヒータ10および下側ヒータ20に対するシート温度の指令値を、10秒時点では摂氏21.7℃、20秒時点では摂氏43.4℃というように、摂氏0℃から1秒毎に2.17℃づつ上昇させていくことで、未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度が60秒で摂氏130℃に達するということを意味する。
しかし、実際には、例えば、60秒時点で摂氏130℃というシート温度の指令値を出したとしても、その瞬間に未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度が摂氏130℃に達するわけではない。つまり、上側ヒータ10および下側ヒータ20の出力変更から実際に上側ヒータ10および下側ヒータ20の温度が上昇し、その熱が未成形シート91(上面91b,下面91c)に伝わって摂氏130℃となるまでの反応時間がある。
よって、この反応時間を考慮せずに、第1基準昇温率TR11および第2基準昇温率TR12に基づいてシート温度指令値を算出すると、未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度は、目標時間Tt11内に、目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達することが出来ない。つまり、図5に示すように、未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度が、目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達するまでに、反応時間Td(図5参照)分だけ余分に時間がかかるため、実際には、破線で示す昇温率TR31に沿って、未成形シート91が加熱されることとなってしまう。目標時間Tt11内に、未成形シート91(上面91b,下面91c)の温度が、目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達することが出来ないこととなると、サイクルタイムの遅れが発生し、生産効率に悪影響を及ぼすおそれがある。
そこで、ヒータ制御部52は、ヒータ制御部52に記憶されている制御プログラムに従って、上記の反応時間Tdを考慮した第1指令昇温率TR21および第2指令昇温率TR22を算出する。
第1指令昇温率TR21とは、未成形シート91の上面91bの温度が、目標時間Tt11から反応時間Tdを減じた第1指令目標時間Tt21の内に、摂氏0度から第1目標温度Ct11に達するための、上面91bの温度の上昇率である(TR21=Ct11/(Tt11-Td))。
反応時間Tdを考慮した第1指令昇温率TR21により、シート温度の指令値を求め、当該指令値により、ヒータ要素11に供給する電力量を調節し、上側ヒータ10の温度を変化させれば、実際の未成形シート91の上面91bの温度は、第1基準昇温率TR11に沿って上昇していくため、目標時間Tt11内に、第1目標温度Ct11に達することが出来る。よって、サイクルタイムの遅れが解消される。
第2指令昇温率TR22とは、未成形シート91の下面91cの温度が、目標時間Tt11から反応時間Tdを減じた第2指令目標時間Tt22の内に、摂氏0度から第2目標温度Ct12に達するための、下面91cの温度の上昇率である(TR22=Ct12/(Tt11-Td))。
反応時間Tdを考慮した第2指令昇温率TR22により、シート温度の指令値を求め、当該指令値により、ヒータ要素11に供給する電力量を調節し、下側ヒータ20の温度を変化させれば、実際の未成形シート91の下面91cの温度は、第2基準昇温率TR12に沿って上昇していくため、目標時間Tt11内に、第2目標温度Ct12に達することが出来る。よって、サイクルタイムの遅れが解消される。
なお、反応時間Tdは、作業者が反応時間Tdを複数回測定し、その平均値をヒータ制御部52に手動で入力することとしても良いし、ヒータ制御部52が、自動で反応時間Tdを複数回測定し、その平均値を用いて第1指令昇温率TR21および第2指令昇温率TR22の算出を行うこととしても良い。
次に、上側ヒータ10および下側ヒータ20による未成形シート91の加熱工程について、図7および図8を用いて説明する。図7は、未成形シート91の加熱開始から加熱完了までの上側ヒータ10および下側ヒータ20の制御フローを示す図である。図8は、未成形シート91の加熱開始から加熱終了までの、上側ヒータ温度C1と下側ヒータ温度C2とシート上面温度C3とシート下面温度C4の温度変動(温度変化の推移)を示している。なお、図8では、上側ヒータ温度C1を一点鎖線で示し、下側ヒータ温度C2を破線で示し、シート上面温度C3を太い実線で示し、シート下面温度C4を細い実線で示している。なお、本実施形態では、第1目標温度Ct11および第2目標温度Ct12は、ともに摂氏130度に設定され、目標時間Tt11は60秒に設定さている。従って、本実施形態では、60秒間で、ヒータ制御部52によって制御される上側ヒータ10及び下側ヒータ20の加熱によって、未成形シート91の上面91bの温度が摂氏130℃にまで昇温すると共に、未成形シート91の下面91cの温度も摂氏130℃にまで昇温して、未成形シート91が軟化する。
上側ヒータ10および下側ヒータ20による未成形シート91の加熱工程は、例えば、作業者が加熱装置30の動作開始ボタン等を操作することで、開始される。
上側ヒータ10と下側ヒータ20の制御は、ヒータ制御部52によって、それぞれ独立して行われる。つまり、上側ヒータ10の制御は、第1指令昇温率TR21に基づいたシート温度の指令値により行われ、下側ヒータ20の制御は、第2指令昇温率TR22に基づいたシート温度の指令値により行われる。例えば、目標時間Tt11を60秒とし、第1目標温度Ct11および第2目標温度を摂氏130℃とし、反応時間Tdを3秒とすれば、第1指令昇温率TR21および第2指令昇温率TR22は、2.28℃/秒となる。よって、シート温度の指令値は、0秒時点で摂氏0℃であり、1秒毎に2.28℃上昇されていく。
このシート温度の指令値は、上側ヒータ10および下側ヒータ20の制御が開始される0秒時点から1秒毎に2.28℃上昇されていくが、シート温度の指令値が、上側温度センサ13が計測するシート上面温度C3に達するまでは、上側ヒータ10のヒータ要素11に供給する電力量の制御は行われず、待機状態となる(図7中S11:NO)。同様に、シート温度の指令値が、下側温度センサ23が計測するシート下面温度C4に達するまでは、下側ヒータ20のヒータ要素11に供給する電力量の制御は行われず、待機状態となる(図7中S11:NO)。
そして、1秒毎に上昇していくシート温度の指令値が、上側温度センサ13(または下側温度センサ23)が計測するシート上面温度C3(またはシート下面温度C4)に達すると(図7中S11:YES)、シート温度の指令値に基いて、上側ヒータ10のヒータ要素11に供給する電力量の制御が開始される(図7中S12)。同様に、1秒毎に上昇していくシート温度の指令値が、下側温度センサ23が計測するシート下面温度C4に達すると(図7中S11:YES)、シート温度の指令値に基づいて、下側ヒータ20のヒータ要素11に供給する電力量の制御が開始される(図7中S12)。
つまり、図8に示すように、シートの温度(すなわちシート上面温度C3およびシート下面温度C4)が、室温(例えば、摂氏約20℃)となっていれば、シート温度の指令値が、室温に到達して初めて上側ヒータ10および下側ヒータ20のヒータ要素11に供給する電力量の制御が行われるのである。図8中の時点Ts13から、ヒータの温度(すなわち上側ヒータ温度C1および下側ヒータ温度C2)が上昇しているのは、そのためである。常に摂氏0℃からシート温度の指令値を制御することで、季節や環境による昇温率の変動を防ぐことができる。これにより、未成形シート91の加熱具合が季節や環境によって変動することを防ぎ、成形品Mの品質を安定させることが出来る。
ヒータ要素11に供給する電力量の制御が開始された後も、引き続き、シート温度の指令値が第1指令昇温率TR21,第2指令昇温率TR22に基づいて1秒毎に上昇されていく。そして、その上昇される指令値により、ヒータ要素11に供給する電力量が上昇されていき、未成形シート91(上面91b,下面91c)の加熱が、目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に到達するように進められる。
この加熱が進められている間、ヒータ制御部52は、上側温度センサ13の計測温度(すなわちシート上面温度C3)に基づき、未成形シート91(上面91b)の温度が、第1基準昇温率TR11に沿って上昇しているか否かモニタリングを行うとともに、下側温度センサ23の計測温度(すなわちシート下面温度C4)に基づき、未成形シート91(下面91c)の温度が、第2基準昇温率R12に沿って上昇しているか否かモニタリングを行う(図7中S13)。
つまり、所定の単位時間毎(例えば、シート温度の指令値の上昇に合わせて1秒毎)に、上側温度センサ13および下側温度センサ23によってシートの温度(シート上面温度C3およびシート下面温度C4)を計測し、該計測の時点において、第1基準昇温率TR11に基づいて達しているべき上面91bの温度と、上側温度センサ13の計測温度(すなわちシート上面温度C3)とがずれていないか観察を行うとともに、第2基準昇温率TR12に基づいて達しているべき下面91cの温度と、下側温度センサ23の計測温度(すなわちシート下面温度C4)とがずれていないか観察を行う。そして、シート上面温度C3にずれがあると判断されれば、上側ヒータ10のヒータ要素11に供給する電力量を調整し、そのずれ量を解消するよう、上側ヒータ10の温度の制御を行い、シート下面温度C4にずれがあると判断されれば、下側ヒータ20のヒータ要素11に供給する電力量を調整し、そのずれ量を解消するよう、下側ヒータ20の温度の制御を行う。例えば、図8には、上側ヒータ10及び下側ヒータ20の温度(すなわち、上側ヒータ温度C1と下側ヒータ温度C2)が、時点Ts13で急激に上昇された後、目標時間Tt11まで、微少な上昇と下降を繰り返していることが示されている。この上側ヒータ温度C1と下側ヒータ温度C2の微少な上昇と下降は、モニタリングによって、ヒータ要素11に供給する電力量が調整され、上側ヒータ10および下側ヒータ20の温度の制御が行われていることを示している。
このモニタリングは、目標時間Tt11が経過するまで(例えば、60秒が経過するまで)継続される(図7中S14:NO)。そして、目標時間Tt11が経過すると(図7中S14;YES)、加熱の制御は終了する。
さらに、本実施形態では、ヒータ制御部52は、図8に示すように、目標時間Tt11経過後、制御プログラムに従って、上側温度センサ13及び下側温度センサ23の計測温度(シート上面温度C3及びシート下面温度C4)が目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に維持されるように、上側ヒータ10及び下側ヒータ20の温度(すなわち、上側ヒータ温度C1と下側ヒータ温度C2)を制御する。
このようにすることで、加熱終了時のシート90の上側半分と下側半分とにおいて、厚み方向の温度分布の違いをより一層小さくすることができる。すなわち、シート90の上面90bから厚み方向中央部90dまでの温度分布と、シート90の下面90cから厚み方向中央部90dまでの温度分布との違いを、より一層小さくすることができる。さらには、加熱装置30によって複数のシートを順に加熱した場合に、複数のシート90間において、シート90の上面90bの温度変動(温度変化の推移)及び下面90cの温度変動(温度変化の推移)の違いがより一層小さくなり、複数のシート90間において、シート90の厚み方向の温度分布の違いもより一層小さくなる。
これにより、加熱終了時(成形前)のシート90(未成形シート91)の上側半分と下側半分とにおいて、軟化の程度(軟化具合)の違いをより一層小さくすることができる(換言すれば、軟化具合を略同等にできる)。さらには、加熱装置30によって順次加熱した複数のシート90間において、シート90の厚み方向の軟化具合の違いもより一層小さくなる。このため、その後、成形装置40によってシート90を成形したときに、シート90間におけるシート90の変形具合(伸び具合)の違いがより一層小さくなり、成形品Mの品質がより一層安定する(シート90の成形不良もより一層低減することもできる)。
<変形例>
次に上記実施形態の変形例について説明する。上記実施形態においては、目標時間Tt11経過後、上側温度センサ13及び下側温度センサ23の計測温度(シート上面温度C3及びシート下面温度C4)が目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に維持されるように、上側ヒータ10及び下側ヒータ20の温度(すなわち、上側ヒータ温度C1と下側ヒータ温度C2)を制御しているが、目標時間Tt11が経過するまで、シート上面温度C3及びシート下面温度C4が第1基準昇温率TR11および第2基準昇温率TR12に沿って上昇するように上側ヒータ10および下側ヒータ20の温度の制御を行うと、図9に示すように、シート上面温度C3及びシート下面温度C4が、第1目標温度Ct11及び第2目標温度Ct12を超えてしまい、オーバーシュートするおそれがある(図9に示す破線部)。
そこで、このオーバーシュートを防ぐために、本変形例においては、ヒータ制御部52は、上面91bの温度(シート上面温度C3)が、第1目標温度Ct11よりも低い所定の第1閾値Ct21に達したときに、シート上面温度C3が第1目標温度Ct11に維持されるように、上側ヒータ10の温度(すなわち、上側ヒータ温度C1)を制御するとともに、下面91cの温度(シート下面温度C4)が、第2目標温度Ct12よりも低い所定の第2閾値Ct22に達したときに、下面91cの温度(シート下面温度C4)が第2目標温度Ct12に維持されるように、下側ヒータ20の温度(すなわち、下側ヒータ温度C2)を制御することとしている。
具体的には、図10に示すフローの通りの制御が行われる。図10中のS11からS13までは、上記実施形態で説明した図7に示す制御と同一の制御であるため説明を省略する。
モニタリング(図10中S13)は、上側温度センサ13及の計測温度(シート上面温度C3)が第1閾値Ct21に到達するまで、および、下側温度センサ23の計測温度(シート下面温度C4)が、第2閾値Ct22に到達するまで継続される(図10中S15:NO)。
そして、上側温度センサ13の計測温度(シート上面温度C3)が、第1閾値Ct21に到達すると(図10中S15:YES)、加熱の制御は終了し、上側温度センサ13の計測温度(シート上面温度C3)を、第1目標温度Ct11に維持する制御に切り替える(図10中S16)。同様に、下側温度センサ23の計測温度(シート下面温度C4)が、第2閾値Ct22に到達すると(図10中S15:YES)、加熱の制御は終了し、下側温度センサ23の計測温度(シート下面温度C4)を、第2目標温度Ct12に維持する制御に切り替える(図10中S16)。
このように制御を行うことで、図9に示すように、シート上面温度C3およびシート下面温度C4は、オーバーシュートを起こさず、それぞれ滑らかに第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12に到達するため、オーバーシュートの発生を抑えることが可能である。なお、第1閾値Ct21は、例えば第1目標温度Ct11から前記第1目標温度Ct11の10%を減じた値であり、第2閾値Ct22は、例えば第2目標温度Ct12から第2目標温度Ct12の10%を減じた値である。ただし、閾値Ct21,Ct22はこれに限定されるものではなく、複数回試験を行うなどして、可能な限りオーバーシュートを抑えることが可能な閾値に調整される。
なお、以上説明した本実施形態およびその変形例は、ともにシート90が単一層からなる熱可塑性のシートとし、第1目標温度Ct11と第2目標温度Ct12とを同一の温度として説明しているが、シート90を、上面側の層と下面側の層とで材質が異なるような複数の層からなる熱可塑性のシートとしても良い。
この場合は、第1目標温度Ct11と第2目標温度Ct12とが異なる温度となる場合があり、それぞれの目標温度に基づき、第1基準昇温率TR11および第2基準昇温率TR12、第1指令昇温率TR21および第2指令昇温率TR22が算出される。また、シート90の、上面側の層と下面側の層とで材質が異なれば、上面側と下面側とで反応時間Tdも異なってくる場合がある。
それぞれの目標温度に基づいて計算される昇温率(第1基準昇温率TR11および第2基準昇温率TR12、第1指令昇温率TR21および第2指令昇温率TR22)に基づき、上側ヒータ10と下側ヒータ20は独立して制御されるため、シート90が複数の層からなるシートであったとしても、上面91bは、安定して目標時間Tt11内に第1目標温度Ct11に達することができ、下面91cは、安定して目標時間Tt11内に第2目標温度Ct12に達することができる。つまり、上側ヒータ10は、上面91bの温度が第1基準昇温率TR11に沿って上昇するように上側ヒータ10の温度が制御され、下側ヒータ20は、下面91cの温度が第2基準昇温率TR12に沿って上昇するように下側ヒータ20の温度の制御が制御されるため、上面91b,下面91cともに、安定して目標時間Tt11内に第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12に達することができる。
以上説明したように、本実施形態に係る加熱装置30によれば、
(1)シート90(未成形シート91)を加熱する加熱装置30において、シート90(未成形シート91)の上面91bを加熱する上側ヒータ10と、シート90(未成形シート91)の下面91cを加熱する下側ヒータ20と、シート90(未成形シート91)の上面91bの温度を計測する上側温度センサ13と、シート90(未成形シート91)の下面91cの温度を計測する下側温度センサ23と、上側温度センサ13及び下側温度センサ23の計測温度に基づいて、上側ヒータ10及び下側ヒータ20の温度を制御するヒータ制御部52、を備え、ヒータ制御部52は、上面91bの温度が、目標時間Tt11の内に、シート90(未成形シート91)の成形に必要な上面91bの温度である第1目標温度Ct11に達するための、上面91bの温度の上昇率である第1基準昇温率TR11と、下面91cの温度が、目標時間Tt11の内に、シート90(未成形シート91)の成形に必要な下面91cの温度である第2目標温度Ct12に達するための、下面91cの温度の上昇率である第2基準昇温率TR12と、を算出し、上面91bの温度が、第1基準昇温率TR11に沿って上昇するように、上側温度センサ13の計測温度に基づいた上側ヒータ10の温度の制御と、下面91cの温度が、第2基準昇温率TR12に沿って上昇するように、下側温度センサ23の計測温度に基づいた下側ヒータ20の温度の制御と、を行うこと、を特徴とする。
(1)に記載の加熱装置30によれば、上側ヒータ10の温度(上側ヒータ温度C1)と下側ヒータ(下側ヒータ温度C2)の温度は、それぞれ第1基準昇温率TR11、第2基準昇温率TR12に基づき、独立して制御されるため、加熱対象のシート90(未成形シート91)が上面91b側の層と下面91c側の層とで材質が異なるような複数の層からなるシート90(未成形シート91)を加熱する場合、目標時間Tt11内に、上面91bと下面91cとでそれそれ異なる目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)まで、安定して加熱することができる。このため、その後、成形装置40によってシート90を成形したときに、シート90(成形済シート92)間におけるシート90(成形済シート92)の変形具合(伸び具合)の違いが小さくなり、成形品Mの品質が安定する。
(2)(1)に記載の加熱装置30において、上側ヒータ10と下側ヒータ20とは、シート90(未成形シート91)の加熱を開始するときの、上側ヒータ10とシート90(未成形シート91)の上面91bとの間の距離D1と、下側ヒータ20とシート90(未成形シート91)の下面91cとの間の距離D2とが、D1<D2の関係を満たすように設けられていること、を特徴とする。
シート90(未成形シート91)の上面91bを加熱する上側ヒータ10(シート90(未成形シート91)の上面91bよりも上側に配置された上側ヒータ10)と、シート90(未成形シート91)の下面91cを加熱する下側ヒータ20(シート90(未成形シート91)の下面91cよりも下側に配置された下側ヒータ20)とによって、シート90(未成形シート91)(例えば、熱可塑性樹脂からなるシート、あるいは、熱可塑性樹脂を含むシート)を加熱する場合、加熱によってシートが軟化または溶融することでシート90(未成形シート91)が下方に垂れるように変形することがある。この場合、加熱時間の経過に伴ってシート90(未成形シート91)の軟化または溶融が進行するにしたがって、シート90(未成形シート91)の上面91bが上側ヒータ10から遠ざかってゆき、反対に、シート90(未成形シート91)の下面91cが下側ヒータ20に近づいてゆく。
このことを考慮して、上述の加熱装置30では、上側ヒータ10と下側ヒータ20とが、シート90(未成形シート91)が加熱装置30によって加熱される位置に配置されたとき(すなわち、シート90(未成形シート91)の加熱を開始するとき)の、上側ヒータ10とシート90(未成形シート91)の上面91bとの間の距離D1と、下側ヒータ20とシート90(未成形シート91)の下面91cとの間の距離D2とが、D1<D2の関係を満たすように設けられている。このようにすることで、加熱によってシート90(未成形シート91)が下方に垂れるように変形する場合でも、当該シート90(未成形シート91)が下側ヒータ20に接触することを防止することができると共に、上側ヒータ10と下側ヒータ20とによって当該シート90(未成形シート91)を適切に加熱することができる。
(3)(1)または(2)に記載の加熱装置30において、第1基準昇温率TR11は、摂氏0℃から第1目標温度Ct11に達するための、上面91bの温度の上昇率であること、第2基準昇温率TR12は、摂氏0℃から第2目標温度Ct12に達するための、下面91cの温度の上昇率であること、を特徴とする。
加熱前のシート90(未成形シート91の上面91bおよび下面91c)は、室温となっていることが想定される。目標時間Tt11内に、室温から目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)まで達するように加熱を行うとした場合、季節や環境によって、シート90(未成形シート91の上面91bおよび下面91c)の加熱具合が変動し、成形品Mの品質が安定しないおそれがある。そこで、第1基準昇温率TR11を、摂氏0℃から第1目標温度Ct11に達するための上面91bの温度の上昇率とするとともに、第2基準昇温率TR12を、摂氏0℃から第2目標温度Ct12に達するための下面91cの温度の上昇率とすることで、シート90(未成形シート91の上面91bおよび下面91c)の加熱具合が季節や環境に左右されなくなる。よって、成形品Mの品質が安定する。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の加熱装置30において、目標時間Tt11の間において、所定の単位時間ごと(例えば1秒ごと)に、上側温度センサ13により上面91bの温度を計測し、該計測の時点において第1基準昇温率TR11に基づいて達しているべき上面91bの温度と、上側温度センサ13の計測温度とのずれ量に基づき、上側ヒータ10の温度の制御を行うこと、単位時間ごとに、下側温度センサ23により下面91cの温度を計測し、該計測の時点において第2基準昇温率TR12に基づいて達しているべき下面91cの温度と、下側温度センサ23の計測温度とのずれ量に基づき、下側ヒータ20の温度の制御を行うこと、を特徴とする。
(4)に記載の加熱装置30によれば、目標時間Tt11の間において、所定の単位時間ごとに、上側温度センサ13により上面91bの温度を計測し、該計測の時点において第1基準昇温率TR11に基づいて達しているべき上面91bの温度と、上側温度センサ13の計測温度とのずれ量に基づき、上側ヒータ10の温度の制御を行うとともに、単位時間ごとに、下側温度センサ23により下面91cの温度を計測し、該計測の時点において第2基準昇温率TR12に基づいて達しているべき下面91cの温度と、下側温度センサ23の計測温度とのずれ量に基づき、下側ヒータ20の温度の制御を行うため、加熱が行われている間、上記ずれ量を解消し、上面91bの温度が第1基準昇温率TR11に沿って昇温するように制御することができるとともに、下面91cの温度が第2基準昇温率TR12に沿って昇温するように制御することができる。よって、シート90(未成形シート91の上面91bおよび下面91c)を、安定して目標時間Tt11内に目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達するよう加熱することができる。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の加熱装置30において、ヒータ制御部52は、ヒータ制御部52から上側ヒータ10に温度制御の指令が出された時点から、実際に上面91bの温度が変動するまでの反応時間Tdを考慮し、上面91bの温度が第1基準昇温率TR11に沿って上昇するよう上側ヒータ10を制御するための第1指令昇温率TR21を算出し、第1指令昇温率TR21に基づいて、上側ヒータ10の温度の制御を行うこと、ヒータ制御部52から下側ヒータ20に温度制御の指令が出された時点から、実際に下面91cの温度が変動するまでの反応時間Tdを考慮し、下面91cの温度が第2基準昇温率TR12に沿って上昇するよう下側ヒータ20を制御するための第2指令昇温率TR22を算出し、第2指令昇温率TR22に基づいて、下側ヒータ20の温度の制御を行うこと、を特徴とする。
上側ヒータ10および下側ヒータ20の温度変化が行われてから、実際にシート90(未成形シート91の上面91bおよび下面91c)の温度が変化するまでには、反応時間Tdが存在する。そのため、目標時間Tt11の時点で目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達するように上側ヒータ10および下側ヒータ20に指令を出したとしても、上記反応時間Tdのために、シート90(未成形シート91の上面91bおよび下面91c)の温度は、目標時間Tt11から数秒遅れて目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達することになる。そうすると、サイクルタイムに遅れが生じ、生産効率に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、反応時間Tdを考慮した第1指令昇温率TR21に基づいて上側ヒータ10の温度を制御し、第2指令昇温率TR22に基づいて下側ヒータ20の温度を制御することで、安定して目標時間Tt11内に目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達するよう加熱することができ、サイクルタイムの遅れが解消される。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の加熱装置30において、ヒータ制御部52は、上面91bの温度が第1目標温度Ct11よりも低い所定の第1閾値Ct21に達したときに、上側ヒータ10の温度を、上面91bの温度が第1目標温度Ct11に維持されるよう制御すること、下面91cの温度が第2目標温度Ct12よりも低い所定の第2閾値Ct22に達したときに、下側ヒータ20の温度を、下面91cの温度が第2目標温度Ct12に維持されるよう制御すること、を特徴とする。
目標時間Tt11が経過するまで、シート(未成形シート91の上面91bおよび下面91c)が第1基準昇温率TR11,第2基準昇温率TR12に沿って上昇するように、上側ヒータ10,下側ヒータ20の温度の制御を行うと、シート上面温度C3,シート下面温度C4が、オーバーシュートするおそれがある。そこで、加熱装置30を上記(6)のようにすれば、シート上面温度C3,シート下面温度C4は、オーバーシュートを起こさず、滑らかに第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12に到達することができる。
(7)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の加熱装置30において、第1目標温度Ct11と、第2目標温度Ct12とは、同一の温度であること、を特徴とする。
例えば、加熱対象のシート90(未成形シート91)が単一層からなるシートである場合、上面91b、下面91cともに同一の目標時間Tt11内に、同一の目標温度に達するよう加熱することが求められる。しかし、従来は、上側ヒータ10及び下側ヒータ20によってシート90(未成形シート91)の加熱を開始してから、シート90(未成形シート91)の上面91bの温度及び下面91cの温度が目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に到達するまでの期間における、シート90(未成形シート91)の上面91bの温度変動(温度変化の推移)と下面91cの温度変動(温度変化の推移)とが大きく異なることがあった。
このように、シート90(未成形シート91)の上面91bの温度変動と下面91cの温度変動との違いが大きくなることで、加熱終了時のシート90(未成形シート91)の上側部分(上側半分)と下側部分(下側半分)との間において、厚み方向の温度分布の違いが大きくなることがあった。すなわち、シート90(未成形シート91)の上面91bから厚み方向中央までの温度分布と、シート90(未成形シート91)の下面91cから厚み方向中央までの温度分布とが、大きく異なってしまうことがあった。さらには、加熱装置30によって複数のシート90(未成形シート91)を順に加熱した場合に、複数のシート90(未成形シート91)間において、シート90(未成形シート91)の上面91bの温度変動(温度変化の推移)及び下面91cの温度変動(温度変化の推移)が大きく異なる場合があり、加熱終了時のシート90(未成形シート91)間において、シート90(未成形シート91)の厚み方向の温度分布が大きく異なることがあった。
このため、例えば、加熱装置30によって、単一層からなる熱可塑性のシート90(未成形シート91)を加熱した場合には、加熱終了時のシート90(未成形シート91)の上側部分(上側半分)と下側部分(下側半分)との間で軟化または溶融の程度の違いが大きくなることがあった。さらには、順次加熱した複数のシート90(未成形シート91)間においても、シート90(未成形シート91)の厚み方向の軟化または溶融の程度が大きく異なることがあった。このため、その後、成形装置40によってシート90を成形したときに、シート90(成形済シート92)間におけるシート90(成形済シート92)の変形具合(伸び具合)の違いが大きくなり、成形品Mの品質が安定しないことがあった。
また、液状の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維シートを加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させて炭素繊維複合シートを形成した場合は、シートの上側部分(上側半分)と下側部分(下側半分)との間で、樹脂の硬化の程度の違いが大きくなることがあった。さらには、順次加熱した複数のシート間においても、シートの厚み方向における樹脂の硬化の程度が大きく異なることがあった。このため、炭素繊維複合シートの品質が安定しないことがあった。
そこで、(7)に記載の加熱装置30のように、第1目標温度Ct11と、第2目標温度Ct12とを、同一の温度とすれば、第1基準昇温率TR11、第2基準昇温率TR12が同一となり、シート(未成形シート91の上面91bおよび下面91c)を、安定して目標時間Tt11内に目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達するよう加熱することができる。よって、シート90(未成形シート91)の加熱を開始してからシート90(未成形シート91)の上面温度(シート上面温度C3)及び下面温度(シート下面温度C4)が目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に到達するまでの期間における、シート90(未成形シート91)の上面91bの温度変動(温度変化の推移)と下面91cの温度変動(温度変化の推移)との違いを小さくすることができる。換言すれば、シート90(未成形シート91)の上面温度C3及び下面温度C4が目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に到達するまでの加熱期間中、シート90(未成形シート91)の上面91bの温度変動(温度変化の推移)と下面91cの温度変動(温度変化の推移)とを略同一にすることができる。
これにより、加熱終了時のシート90(未成形シート91)の上側半分と下側半分との間において、厚み方向の温度分布の違いが小さくなる。すなわち、シート90(未成形シート91)の上面91bから厚み方向中央までの温度分布と、シート90(未成形シート91)の下面91cから厚み方向中央までの温度分布との違いを小さくすることができる。さらには、加熱装置30によって複数のシート90(未成形シート91)を順に加熱した場合に、複数のシート90(未成形シート91)間において、シートの上面の温度変動(温度変化の推移)及び下面の温度変動(温度変化の推移)の違いが小さくなり、複数のシート90(未成形シート91)間において、シート90(未成形シート91)の厚み方向の温度分布の違いも小さくなる。
このため、例えば、上述の加熱装置30によって、単一層からなる熱可塑性のシート90(未成形シート91)を加熱した場合には、シート90(未成形シート91)の上側部分(上側半分)と下側部分(下側半分)との間で軟化または溶融の程度の違いを小さくすることができる。さらには、順次加熱した複数のシート90(未成形シート91)間においても、シート90(未成形シート91)の厚み方向の軟化または溶融の程度の違いを小さくすることができる。このため、その後、成形装置によってシート90を成形したときに、シート90(成形済シート92)間におけるシート90(成形済シート92)の変形具合(伸び具合)の違いが小さくなり、成形品Mの品質が安定する。
また、液状の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維シートを加熱することで、熱硬化性樹脂を硬化させて炭素繊維複合シートを形成した場合は、シートの上側部分(上側半分)と下側部分(下側半分)との間で、樹脂の硬化の程度の違いを小さくすることができる。さらには、順次加熱した複数のシート間においても、シートの厚み方向における樹脂の硬化の程度の違いを小さくすることができる。このため、形成される炭素繊維複合シートの品質が安定する。
さらに、上記課題を解決するために、本発明の熱成形装置1は、次のような構成を有している。
(8)(1)乃至(7)のいずれか1つに記載の加熱装置30と、加熱装置30による加熱を行ったシート90(未成形シート91)を成形する成形装置40と、を備えること、を特徴とする。
(8)に記載の熱成形装置1によれば、前述の加熱装置30を備えているため、シート90(未成形シート91)の上面91b側と下面91c側とを、安定して目標時間Tt11内に目標温度(第1目標温度Ct11,第2目標温度Ct12)に達するよう加熱することができる。さらに、上述の熱成形装置1は、前述の加熱装置30による加熱を行ったシート90(未成形シート91)を成形する成形装置40を備えている。前述の加熱装置30によって順次加熱を行った複数のシート90(未成形シート91)を、成形装置40によって順次成形することで、品質が安定した成形品M(成形済シート92)を得ることができる。
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、本実施形態では、加熱装置30(上側ヒータ10及び下側ヒータ20)の位置を固定し、位置が固定された加熱装置30にシート90を供給するようにした。しかしながら、これとは反対に、シート90の位置を固定し、加熱装置30(上側ヒータ10及び下側ヒータ20)を、シート90を加熱する位置まで移動させるようにしても良い。成形装置40についても同様である。
また、本実施形態では、図4に示すように、上側ヒータ10及び下側ヒータ20を、D1<D2の関係を満たすように設けた。しかしながら、本発明は、D1=D2とする場合、D1>D2とする場合にも適用することができる。
また、本実施形態では、加熱装置30によって熱可塑性樹脂からなるシート90を加熱して軟化または溶融させる例を示したが、本発明の加熱装置は、このようなシートを加熱するものに限定されない。例えば、本発明の加熱装置は、液状の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維シートを加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させて炭素繊維複合シートを形成する場合にも適用することができる。
この場合でも、シートの加熱を開始してからシート上面温度C3が第1目標温度Ct11に到達するまでの期間およびシート下面温度C4が第2目標温度Ct12に到達するまでの期間における、シートの上面の温度変動(温度変化の推移)と下面の温度変動(温度変化の推移)との違いを小さくすることができる。さらには、複数のシートを順に加熱した場合に、複数のシート間において、シートの上面の温度変動(温度変化の推移)及び下面の温度変動(温度変化の推移)の違いが小さくなり、複数のシート間において、シートの厚み方向の温度分布の違いも小さくなる。これにより、シートの上側部分(上側半分)と下側部分(下側半分)との間で、熱硬化性樹脂の硬化の程度の違いを小さくすることができる。さらには、順次加熱した複数のシート間においても、シートの厚み方向における樹脂の硬化の程度の違いを小さくすることができる。これにより、形成される炭素繊維複合シートの品質を安定させることができる。