JP7088269B2 - 前処理液、インキセット、及び印刷物の製造方法 - Google Patents
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Description
前記前処理液は、無機金属塩および/または有機金属塩と、有機アミンとを、いずれも溶解状態で含み、
前記無機金属塩および/または有機金属塩が多価金属塩を含み、かつ、前記多価金属塩由来の金属イオンの含有量が、前処理液全量に対し1重量%以上15重量%以下であり、
前記有機アミンの重量平均分子量(Mw)が500以下であり、
前記有機アミンの含有量が、前記前処理液全量に対し0.15重量%以上3重量%以下であり、
前記前処理液が、さらに、有機溶剤およびバインダー樹脂を含有し、
前記有機溶剤の含有量が、前記前処理液全量に対し0.1重量%以上50重量%以下であり、
前記前処理液が、25℃における表面張力が20~32mN/mである有機溶剤を、前記前処理液中の水溶性有機溶剤全量に対して35~100重量%含み、
前記前処理液が、沸点が200℃以上の有機溶剤を含まないか、前記沸点が200℃以上の有機溶剤の含有量が、前記前処理液中の前記有機溶剤全量に対し20重量%以下であり、
前記前処理液に含まれる金属イオンの含有量に対する、前記バインダー樹脂の含有量の重量比が、0超過50未満であり、
前記バインダー樹脂が、数平均分子量(Mn)が3,000以上90,000以下である水溶性樹脂を含有し、
前記水性インクジェットインキと前記前処理液のpHの差が0以上2以下であることを特徴とする前処理液(ただし、前記前処理液が、HLB値が1~8である、アセチレン系界面活性剤を含む場合を除く)に関する。
30m/分以上の速度で搬送される記録媒体に前処理液を付与する工程と、前記前処理液を付与した部分に、前記水性インクジェットインキを1パス印刷方式により付与する工程とを含み、
前記記録媒体が紙またはフィルム基材であることを特徴とする、水性インクジェットインキ印刷物の製造方法に関する。
本発明の前処理液は、無機金属塩及び/または有機金属塩を、溶解状態で含有することを特徴とする。本発明において金属塩は、前記記録媒体上におけるインクジェットインキの溶解及び/または分散機能を低下させ、顔料凝集を引き起こすことにより、インク滴同士の混合によるにじみや色むらを改善させるものである。この効果を発現する材料として、カチオン性樹脂や有機酸などもあげられるが、これらの材料と比較して金属塩は低分子量でありカチオン成分の移動が容易であること、さらには液中で安定であることから、前処理液を塗布した記録媒体上にインクジェットインキが吐出された際に、高印字率であってもインクジェットインキ層の最上部にまで瞬時にカチオン成分が移動し、顔料凝集を引き起こすことで、高速印刷においてもにじみや色むらが発生せず、高画質な印刷物が得られる。
さらに、これらの無機金属塩の中でも、水への溶解度及び、前記インクジェットインキ中の成分との相互作用が効率よく、素早く起こる点から、塩化カルシウムが特に好ましい。
また有機金属塩の具体例として、例えば、パントテン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸などの有機酸の、カルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、亜鉛塩などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの有機酸金属塩の中でも、水への溶解度、及び、前記インクジェットインキ中の成分との相互作用の点から、乳酸及び/または酢酸のカルシウム塩がより好ましい。
(金属イオンの配合量)(重量%)=WC×MM÷MC
本発明の前処理液は、有機アミンを、溶解状態で含有することを特徴とする。本発明において有機アミンは、上記の通り、高速印刷での前処理液の記録媒体上への均一塗布を可能とする。その結果、凝集剤である無機金属塩及び/または有機金属塩の凝集効果を印刷物面内で均一に発現させることができ、高画質な印刷物を短時間で製造することができる。同時に、凝集剤である無機金属塩及び/または有機金属塩の凝集効果を損なうことのないpH調整剤として、上記の通りインクジェットインキとのpH差を2以下に調整することで、凝集効果を最大限に発現させ、高画質な印刷物の製造を可能とすることができる。
本発明の前処理液は、表面張力を調整し、記録媒体上への濡れ性を向上させるため界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤としては、アセチレン系、シロキサン系、アクリル系、フッ素系など用途に合わせて様々なものが知られているが、記録媒体上への濡れ性、後に付与されるインクジェットインキの濡れ広がり性、及び前処理液の印刷安定性とを両立させるためには、シロキサン系及び/またはアセチレン系の界面活性剤を使用することが好ましく、前処理液を塗工する際のむらを防ぐことができる点から、アセチレン系の界面活性剤を使用することが最も好ましい。
上記の界面活性剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
HLB値=0.89×A+1.11
本発明の前処理液には、さらに有機溶剤を含むことができる。有機溶剤を併用することで、前処理液の保湿・乾燥性や濡れ性をより好適なものに調整することができる。なお有機溶剤には、上記の有機アミンは含まれない。
1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコールなどの2価アルコール(グリコール)類、
グリセリンなどの3価アルコール類を挙げることができる。
上記例示化合物のうち、本発明では特にエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、3-メトキシー1-ブタノール、3-メトキシー3-メチル-1-ブタノールなどの1価アルコール類を使用することが好ましい。
また上記の分子構造中にヒドロキシル基を1個以上含むアルコール類は、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
水溶性有機溶剤の配合量を上記範囲内に収めることで、保湿性、乾燥性と濡れ性とが両立した前処理液を得ることができるとともに、前処理液の印刷方法によらず長期にわたり安定した印刷が可能となる。
ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコールジアルキルエーテル類、
2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ε-カプロラクタム、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-2-エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-オクトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-オクトキシプロピオンアミドなどの含窒素系溶剤、
γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどの複素環化合物などを使用することができる。
上記の有機溶剤は、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
グリセリンなどの3価アルコール類、
ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテル類、
ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコールジアルキルエーテル類、
及び上記に例示した含窒素系溶剤や複素環化合物のいずれかを挙げることができる。
1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、などの2価アルコール(グリコール)類、
エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテル類、
ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコールジアルキルエーテル類などが挙げられる。
これらの化合物の中でも、上記理由により、少なくとも分子構造中にヒドロキシル基を1個以上含むアルコール類を選択することが特に好ましく、少なくとも1価アルコール類を含むことが最も好ましい。
なお上記の有機溶剤は、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
本発明の前処理液には、さらにバインダー樹脂を含むことができる。バインダー樹脂とは、インクジェットインキと反応液の反応に関与しない水溶性高分子であり、バインダー樹脂を併用することで、印刷物の耐水性を向上させることができるため、前記印刷物を様々な用途に使用することができる。なお一般的には、バインダー樹脂として水溶性樹脂と樹脂微粒子が知られており、本発明ではどちらを用いても差し支えないが、インクジェットインキと瞬時に混和し、高速印刷において前処理液の凝集能力をより効果的に発現させる点から、水溶性樹脂を選択したほうが好ましい。
これらのうち、後から印刷されるインクジェットインキ中の液体成分を吸収し、特に高速印刷において乾燥性を良化させることができる点から、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリアルキレンオキサイド、セルロース誘導体の少なくとも1種を選択することが好ましい。
とりわけポリビニルアルコールは、透明性、皮膜強度、顔料に対するバインダー力などの、インクジェットインキ用前処理剤に必要な物性を有しており、かつ入手が容易であること、変性物も含め種類が豊富であることなどの点から特に好ましい。
さらには、経時でのpH低下が抑制されることから、けん化度が95%以上であるポリビニルアルコールを用いることが最も好ましい。
すなわち、前記バインダー樹脂としてけん化度が95%以上であるポリビニルアルコールを用いることで、耐水性、波打ち・カール抑制に加え、光沢、透明性に優れたインクジェット受理層が得られ、かつ、経時でのpH安定性に優れた前処理液を得ることができる。
本発明の前処理液に含まれる水の含有量としては、前処理液全量に対し10~90重量%の範囲であることが好ましい。
上記の通り、本発明の前処理液はインクジェットインキとのpH差が0以上2以下の範囲であるが、pHを前記範囲内に収めるため、前処理液に、有機アミン以外のpH調整剤を添加することができる。本発明では、pH調整能を有する材料を任意に選択することができ、塩基性化させる場合は、アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを使用することができる。また酸性化させる場合は塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸、ホウ酸、フマル酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸などを使用することができる。
また本発明の前処理液は、所望の物性値とするために、必要に応じて消泡剤、防腐剤などの添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤を使用する場合、その配合量は前処理液全量に対して0.01重量%以上10重量%以下とすることが好ましい。
上記の成分からなる本発明の前処理液は、例えば、金属塩、有機アミン、水、及び、必要に応じて界面活性剤、水溶性有機溶剤、有機アミン以外のpH調整剤や、上記で挙げたような適宜に選択される添加剤成分を加え、撹拌・混合したのち、必要に応じて濾過することで製造される。ただし本発明の前処理液の製造方法は上記に限定されるものではない。
本発明の前処理液のpHは上記にも記載したとおり、特に限定するものではないが、pH≧7であれば無機金属塩及び/または有機金属塩の凝集効果が高くなる上に、前記前処理液が搭載される印刷装置に使用される部材、特に金属部材に対する腐食などのダメージを抑制することができるため好ましい。特に好ましいpH範囲は7~10である。
本発明のインクジェットインキは、耐水性、耐光性、耐候性、耐ガス性などを有する観点に加え、高速印刷において本発明の前処理液を使用した際に染料と比較して凝集速度が速いという観点から、色材として顔料を含む。本発明では、公知の有機顔料、無機顔料のいずれも使用することができる。これらの顔料は、インクジェットインキ全量に対して0.1重量%以上20重量%以下の範囲で含まれることが好ましく、0.5重量%以上15重量%以下の範囲で含まれることがより好ましく、1重量%以上10重量%以下の範囲で含まれることが特に好ましい。顔料の含有率を0.1重量%以上にすることで、1パス印刷であっても十分な発色性を得ることができる。また顔料の含有率を20重量%以下とすることで、インクジェットインキの粘度をインクジェット印刷に適した範囲に収めることができ、結果として長期の印字安定性を確保することができる。
上記顔料をインクジェットインキ中で安定的に分散保持する方法として、顔料分散樹脂を顔料表面に吸着させ分散する方法、水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させ分散する方法、顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し分散剤や界面活性剤なしでインキ中に分散する方法、自己分散性がある樹脂で顔料を被覆しマイクロカプセル化する方法などを挙げることができる。
本発明のインクジェットインキに使用される水溶性有機溶剤は、公知のものを任意に用いることができるが、1気圧下で沸点が180℃以上280℃以下であるグリコールエーテル系溶剤及び/またはアルキルポリオール系溶剤を2種以上含有することが好ましい。なお1気圧下における沸点は、183℃以上270℃以下の範囲内であることが好ましく、185℃以上250℃以下の範囲内であることがより好ましい。上記の沸点範囲を満たす水溶性有機溶剤を用いることにより、インクジェットインキの濡れ性と乾燥性を好適な範囲に制御することができ、吐出安定性が良好になる上に、前処理液と組み合わせた際、にじみなどの画質欠陥を防止することができる。
ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテルなどのグリコールジアルキルエーテル類となる。
本発明のインクジェットインキにはバインダー樹脂を加えることが好ましい。上記にも記載したように、バインダー樹脂としては、一般に水溶性樹脂と樹脂微粒子が知られている。このうち樹脂微粒子は水溶性樹脂と比較して高分子量であること、また樹脂微粒子はインクジェットインキ粘度を低くすることができ、より多量の樹脂をインクジェットインキ中に配合することができることから、印刷物の耐性を高めるのに適している。樹脂微粒子として使用される樹脂の種類としては、アクリル系、スチレンアクリル系、ウレタン系、スチレンブタジエン系、塩化ビニル系、ポリオレフィン系などが挙げられる。中でも、インキ組成物の安定性、印刷物の耐性の面を考慮するとアクリル系、スチレンアクリル系の樹脂微粒子が好ましく使用される。
本発明のインクジェットインキは、表面張力を調整し画質を向上させる目的で界面活性剤を使用することが好ましい。一方で、表面張力が低すぎるとインクジェットヘッドのノズル面がインクジェットインキで濡れてしまい、吐出安定性を損なうことから、界面活性剤の種類と量の選択は非常に重要である。最適な濡れ性の確保と、インクジェットノズルからの安定吐出の実現という観点から、シロキサン系、アセチレン系、フッ素系の界面活性剤を使用することが好ましく、シロキサン系、アセチレン系の界面活性剤を使用することが特に好ましい。界面活性剤の添加量としては、インクジェットインキ全量に対して、0.01重量%以上5.0重量%以下が好ましく、0.05重量%以上3.0重量%以下がさらに好ましい。
本発明のインクジェットインキに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
また本発明のインクジェットインキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤などの添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インキの全重量に対して、0.01重量%以上10重量%以下が好適である。
本発明のインクジェットインキは単色で使用してもよいが、用途に合わせて複数の色を組み合わせたインクジェットインキセットとして使用することもできる。組み合わせは特に限定されないが、シアン、イエロー、マゼンタの3色を使用することでフルカラーの画像を得ることができる。また、ブラックインキを追加することで黒色感を向上させ、文字などの視認性を上げることができる。さらにオレンジ、グリーンなどの色を追加することで色再現性を向上させることも可能である。白色以外の印刷媒体へ印刷を行う際にはホワイトインキを併用することで鮮明な画像を得ることができる。また、水性インクジェットインキがマゼンタインキを有する場合、前記マゼンタインキが、マゼンタ顔料としてC.I.ピグメントバイオレッド19を有することが特に好ましい。
上記したような成分からなる本発明のインクジェットインキは、例えば、以下のプロセスを経て製造される。ただし本発明のインクジェットインキの製造方法は以下に限定されるものではない。
まず顔料分散樹脂と水とが混合された水性媒体に顔料を添加し、混合攪拌した後、分散機を用いて分散処理を行う。この後、必要に応じて遠心分離や濾過を行い、顔料分散体を得る。
次いで、上記顔料分散液に、水溶性有機溶剤、水、及び必要に応じて上記で挙げたバインダー樹脂、界面活性剤やその他の添加剤を加え、撹拌・混合する。
上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過分離、遠心分離などの手法により除去し、インクジェットインキとする。濾過分離の方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。またフィルター開孔径は、粗大粒子、ダストが除去できるものであれば、特に制限されないが、好ましくは0.3~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
本発明のインクジェットインキは、25℃における粘度を3~20mPa・sに調整することが好ましい。この粘度領域であれば、特に通常の4~10KHzの周波数を有するヘッドから10~70KHzの高周波数のヘッドにおいても安定した吐出特性を示す。特に、25℃における粘度を4~10mPa・sとすることで、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドに対して用いても、安定的に吐出させることができる。
本発明の前処理液とインクジェットインキからなるインキセットを用いて印刷物を製造する方法として、30m/分以上の速度で搬送される記録媒体上に前処理液を付与したのち、前記前処理液を付与した部分に、インクジェットインキを1パス印刷方式により付与する方法が好ましく用いられる。
本発明では、インクジェットインキを印刷する前に、30m/分以上の速度で搬送される記録媒体上に前処理液が付与される。記録媒体上への前処理液の付与方法として、インクジェット印刷のように記録媒体に対して非接触で印刷する方式と、記録媒体に対し前処理液を当接させて印刷する方式のどちらを採用してもよい。
本発明では、前処理液を記録媒体に付与したのち、インクジェットインキを付与する前に、前記記録媒体に熱エネルギーを作用させ、記録媒体上の前処理液を乾燥させることが好ましい。また特に、インクジェットインキを付与する前に前処理液を完全に乾燥させる、すなわち、前記前処理液の液体成分を完全に除去された状態とすることが好ましい。前処理液が完全に乾燥する前にインクジェットインキが付与されると、インクジェットインキ中の固体成分の溶解及び/または分散機能の低下を一層促進できる一方で、記録媒体上の液体成分が過剰となり、インクジェット印刷後に作用させる熱エネルギーが不十分である場合、記録媒体の波打ちやにじみなどの画像欠陥が発生する可能性がある。
本発明の前処理液付与・乾燥装置は、後述するインクジェット印刷装置に対し、インラインあるいはオフラインで装備されるが、印刷時の利便性の点から、インラインで装備されることが好ましい。
上記で説明したとおり、インクジェットインキは記録媒体に対し1パス印刷方式により付与される。なお1パス印刷方式としては、上記のように、停止している記録媒体に対しインクジェットヘッドを一度だけ走査させる方法と、固定されたインクジェットヘッドの下部に記録媒体を一度だけ通過させる方法の2種類があるが、インクジェットヘッドを走査させる場合、前記インクジェットヘッドの動きを加味して吐出タイミングを調整する必要があり、着弾位置のずれが生じやすいことから、本発明では、インクジェットヘッドを固定し記録媒体を走査する方法が好ましく用いられる。その際、記録媒体の搬送速度は30m/分以上とすることが好ましい。特に、前処理液の付与装置をインクジェット印刷装置に対しインラインで設置する場合、前記前処理液の付与装置からインクジェット印刷装置までが連続的に配置され、前処理液が付与された記録媒体がそのままインクジェット印刷部へ搬送されてくることが好ましい。
1パス印刷方式として、固定されたインクジェットヘッドの下部に記録媒体を一度だけ通過させる方法を採用する場合、記録幅方向における記録解像度は、インクジェットヘッドの設計解像度によって決定される。上記の通り、本発明では記録幅方向の記録解像度も600dpi以上であることが好ましいことから、必然的に、インクジェットヘッドの設計解像度としても600dpi以上であることが好ましい。インクジェットヘッドの設計解像度が600dpi以上であれば、1色につき1個のインクジェットヘッドで印刷することができるため、装置の小型化や経済性の観点で好ましい。なお600dpiよりも低い設計解像度のインクジェットヘッドを使用する場合は、1色につき複数のインクジェットヘッドを記録媒体の搬送方向に並べて使用することで、1パス印刷であっても記録幅方向における記録解像度として600dpi以上を実現することができる。
前処理液が付与された記録媒体上にインクジェットインキを付与したあと、前記インクジェットインキ、及び未乾燥の前処理液を乾燥させるため、前記記録媒体に熱エネルギーを作用させることが好ましい。本発明で好ましく用いられる熱エネルギーの作用方法や条件は、上記の前処理液の乾燥に使用されるものと同様である。
インクジェットインキ乾燥装置は、インクジェット印刷装置に対しインラインあるいはオフラインで装備されるが、印刷時の利便性などの点から、インラインで装備されることが好ましい。また本発明では、にじみや色むら、記録媒体のカールなどを防止するため、熱エネルギーは印刷後30秒以内に付与することが好ましく、20秒以内に付与することがより好ましく、10秒以内に付与することが特に好ましい。
本発明では、前処理液の付与量に対するインクジェットインキの付与量の比を0.1以上10以下とすることが好ましい。なお付与量の比としてより好ましくは0.5以上9以下であり、特に好ましくは1以上8以下である。付与量の比を上記範囲に収めることにより、前処理液量が過剰となることで起こる記録媒体の風合いの変化や、インクジェットインキ量が過剰となり前処理液の効果が不十分となることで起こるにじみや色むらが起こることなく、高品質の印刷物を得ることができる。
上記のように、本発明のインキセットを用いて印刷物を製造する場合、その印刷速度は30m/分以上であることが好ましく、50m/分以上であることがより好ましく、75m/分以上であることが特に好ましい。
本発明のインキセットを用いて印刷する際、使用する記録媒体としては公知のものを任意に用いることができ、例えば上質紙、再生紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、微塗工紙、合成紙の様な紙基材や、ポリ塩化ビニルシート、PETフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムの様なプラスチック基材などが使用できる。上記の基材は印刷媒体の表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの印刷媒体の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。さらに印字面の反対側に剥離粘着層などを設けても良く、また印字後、印字面に粘着層などを設けても良い。また本発明で用いられる記録媒体の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。
下記記載の材料を攪拌しながら1時間混合し、その後60℃に加温し、さらに1時間混合したのち、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、前処理液1を得た。
・ 塩化カルシウム2水和物 5部
(トクヤマ社製)
・トリエタノールアミン(TEA;3級アミン、分子量149) 0.5部
・PVA105 5部
(クラレ社製ポリビニルアルコール、けん化度98-99%(完全けん化)、重合度5 00)
・2-プロパノール 4部
・3-メトキシブタノール 4部
・サーフィノール465(エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤) 0.4部
・プロキセルGXL 0.05部
(防腐剤、アーチケミカルズ社製1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オン溶液)
・イオン交換水 81.05部
下表1~3に記載の材料を使用し、前処理液1と同様の方法により、前処理液2~63を得た。
・CaCl2・2H2O:塩化カルシウム2水和物
・MgCl2・6H2O:塩化マグネシウム6水和物
・MgSO4:硫酸マグネシウム
・Ca(NO3)2:硝酸カルシウム
・NaCl:塩化ナトリウム
・(CH3COO)2Ca・H2O:酢酸カルシウム1水和物
・CH3COONa・3H2O:酢酸ナトリウム3水和物
・(CH3CH(OH)COO)2Ca・5H2O:DL―乳酸カルシウム五水和物
・DMAE:ジメチルアミノエタノール(3級アミン、分子量89)
・エポミンSP-003:日本触媒社製ポリエチレンイミン(2級アミン、分子量30 0)
・エポミンSP-006:日本触媒社製ポリエチレンイミン(2級アミン、分子量60 0)
・アルマテックスH700:三井東圧化学株式会社製水溶性ポリアミン(分子量700)
・PVA103:クラレ社製ポリビニルアルコール(ノニオン性)、けん化度98-9 9%(完全けん化)、重合度300、数平均分子量13,200
・PVA220:クラレ社製ポリビニルアルコール(ノニオン性)、けん化度87-8 9%(部分けん化)、重合度2000、数平均分子量88,000
・ハイドランCP-7020:大日本インキ化学工業社製カチオン性ポリウレタン(固 形分40%)
・ジョンクリル1674:BASF社製アクリルエマルジョン(アニオン性)、固形分 45%
・iPrOH:2-プロパノール(沸点82℃、静的表面張力21mN/m)
・MB:3-メトキシブタノール(沸点161℃、静的表面張力29mN/m)
・1,2-PD:1,2-プロパンジオール(沸点188℃、静的表面張力35mN/ m)
・1,3-BuD:1,3-ブタンジオール(沸点207℃、静的表面張力37mN/ m)
・1,2-PenD:1,2-ペンタンジオール(沸点210℃、静的表面張力28m N/m)
・1,2-HexD:1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃、静的表面張力26m N/m)
・EDG:ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃、静的表面張力2 8mN/m)
・サーフィノール440:エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤
・サーフィノール104:エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤
・ダイノール607:エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤
・TegoWet280:エボニックデグサ社製シロキサン系界面活性剤
・KF-351A:信越シリコーン社製シロキサン系界面活性剤
・ZonylFS-300:DuPont社製フッ素系界面活性剤
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてスチレン40部、アクリル酸30部、ベヘニルアクリレート30部、及び重合開始剤であるV-601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V-601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、分散樹脂1の溶液を得た。さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部を添加し中和したのち、水を100部添加し水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分が30%になるように調整した。これより、顔料分散樹脂1の固形分50%の水性化溶液を得た。上記顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)のpHを、堀場製作所社製卓上型pHメータF-72を用いて測定したところ、9.7であった。また東ソー社製HLC-8120GPCを用い、上記に示した方法で顔料分散樹脂の重量平均分子量を測定したところ、22,500であった。
重合性単量体としてアクリル酸50部、ラウリルメタクリレート50部を用いる以外は、顔料分散樹脂1と同様の方法を用いることで、顔料分散樹脂2の固形分30%の水性化溶液を得た。上記顔料分散樹脂2の水性化溶液(固形分30%)のpHは8.1、顔料分散樹脂2の重量平均分子量は15,000であった。
顔料を20部、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)を20部、水60部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、顔料分散液1を得た。各インキ作製に使用した顔料は、以下のとおりである。
Cyan:トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G
(C.I.ピグメントブルー15:3)
Magenta:クラリアント社製Inkjet Magenta E5B02
(C.I.ピグメントバイオレッド19)
Yellow:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT-1405G
(C.I.ピグメントイエロー14)
Black:オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85
(カーボンブラック)
顔料分散樹脂として顔料分散樹脂2の水性化溶液(固形分30%)を用い、Magenta顔料にDIC社製FASTOGEN SUPER MAGENTA RG(C.I.ピグメントレッド122)を使用する以外は、顔料分散液1と同様の方法を用いることで、顔料分散液2を得た。
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ジョンクリル819(BASF社製アクリル樹脂、重量平均分子量14,500、酸価75mgKOH/g)を20部、ジメチルアミノエタノール2.38部、水77.62部を添加し、水溶化した。この混合溶液1gをサンプリングし、180℃20分加熱乾燥し、固形分濃度を測定した。得られた固形分濃度をもとに、作製した水溶性樹脂ワニスの不揮発分が20%になるように水を加えることで、固形分濃度20%の水溶性樹脂ワニスを得た。
下記記載の材料をディスパーで撹拌を行いながら混合容器へ順次投入し、十分に均一になるまで撹拌した。その後、pHが8.5になるようにトリエタノールアミンで調整したのち、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行った。顔料分散液1として、CMYKの4色をそれぞれ使用することによりCMYKインクジェットインキセット1を得た。
・顔料分散液1 30部
・ジョンクリル538 13部
(BASF社製アクリル樹脂エマルジョン、固形分46%、MFT65℃)
・1,2-ペンタンジオール 10部
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル 10部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 5部
・サーフィノール465 0.2部
・プロキセルGXL 0.05部
・イオン交換水 31.75部
下表4に記載の材料を使用し、トリエタノールアミンまたは塩酸でpHを調整した以外は、インクジェットインキ1と同様の方法により、インクジェットインキ2~13を得た。ただし表4中には、pH調整に使用したトリエタノールアミンまたは塩酸については記載していない。
・CaboJet:
Cyan:Carbojet250C(キャボット社製自己分散型カーボンブラック 水溶液、固形分10%)、
Magenta:Carbojet265M(キャボット社製自己分散型カーボンブ ラック水溶液、固形分10%)、
Yellow:(Carbojet270)キャボット社製自己分散型カーボンブラ ック水溶液、固形分10%)、
Black:Carbojet200(キャボット社製自己分散型カーボンブラック 水溶液、固形分20%)
・ジョンクリル537:BASF社製アクリル樹脂エマルジョン、固形分46%、MF T42℃
・1,2-PG:1,2-プロパンジオール
・1,2-BuD:1,2-ブタンジオール
・1,2-PenD:1,2-ペンタンジオール
・1,5-PenD:1,5-ペンタンジオール
・iPDG:ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル
・BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
・MFG:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・DEG:ジエチレングリコール
・TEG:トリエチレングリコール
上記で作成した前処理液を、印刷試験機イージープルーフ(松尾産業株式会社製)を用い、OKトップコート+紙(王子製紙株式会社製)に均一に塗布した。このとき、ローラとして線数140線/インチのセラミックローラを用い、塗工速度を調整することで、WET塗布量が6.0±0.3cm3/m2になるようにした。前処理液を塗布したのち、OKトップコート+紙を50℃のエアオーブンにて3分間乾燥させることで、前処理液を付与した記録媒体を製造した。
記録媒体を搬送できるコンベヤの上部にインクジェットヘッドKJ4B-QA(京セラ社製)を設置し、インクジェットインキを充填した。なお上記インクジェットヘッドは設計解像度が600dpi、最大駆動周波数が30kHzであり、前記最大駆動周波数かつ印刷速度75m/分で印刷したとき、記録媒体搬送方向における記録解像度が600dpiとなる。
次いで、コンベヤ上に前処理液を付与した記録媒体を固定したのち、前記コンベヤを一定速度で駆動させ、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際に、CMYKの順にインクジェットインキをドロップボリューム12pLで吐出し、高精細カラーデジタル標準画像データ(ISO/JIS-SCIDJISX9201準拠JSA-00001)のサンプル番号5(自転車)の印刷を行った。印刷後、10秒以内に前記印刷物を50℃エアオーブンに入れ3分間乾燥させることで、にじみ評価用印刷物を作成した。なお、下表5に示す3種類の印刷条件で印刷を実施し、記録媒体搬送方向における記録解像度や印刷速度を変えた印刷物を作成した。
また、コンベヤ上に前処理液を付与した記録媒体を固定したのち、前記コンベヤを一定速度で駆動させ、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際に、CMYKそれぞれのインクジェットインキをドロップボリューム12pLで吐出し、印字率100%のベタ印刷を各色で行った。印刷後、10秒以内に前記印刷物を50℃エアオーブンに入れ3分間乾燥させることで、ベタ印刷物を作成した。なお、上表5に示す3種類の印刷条件で印刷を実施し、記録媒体搬送方向における記録解像度や印刷速度を変えたベタ印刷物を作成した。
上記で作成した、コンベヤ駆動条件の異なるにじみ評価用印刷物、及びベタ印刷物について、下記評価を行った。得られた評価結果は表6~7に示す。
前記にじみ評価用印刷物の4C(CMYK)印刷部のドット形状を顕微鏡で200倍で観察し、にじみの評価を行った。評価結果は以下の通りとし、△以上をにじみ良好とした。
◎:表5に示した3種類の印刷条件の全てで、4C印刷部のドットが独立しており、にじみが見られなかった。
○:表5に示した3種類の印刷条件のうち、印刷条件A、及びBまたはCでは、4C印刷部のドットが独立しており、にじみが見られなかったが、残りの印刷条件ではにじみが見られた。
△:表5に示した3種類の印刷条件のうち印刷条件Aでは、4C印刷部のドットが独立しており、にじみが見られなかったが、印刷条件B及びCではにじみが見られた。
×:表5に示した3種類の印刷条件の全てで、4C印刷部のドットが混色し、にじみが見られた。
ベタ印刷物における色むらの程度を目視観察し、色むらの評価を行った。評価結果は以下の通りとし、△以上を色むら良好とした。なお評価はCMYK全色で行い、最も評価の悪いものを表6~7に記載した。
◎:表5に示した3種類の印刷条件の全てで、色むらが見られなかった。
○:表5に示した3種類の印刷条件のうち、印刷条件A、及びBまたはCでは色むらが見られなかったが、残りの印刷条件で色むらが見られた。
△:表5に示した3種類の印刷条件のうち印刷条件Aでは色むらが見られなかったが、印刷条件B及びCで色むらが見られた。
×:表5に示した3種類の印刷条件の全てで色むらが見られた。
ベタ印刷物における記録媒体の波打ちやカールの発生具合を目視観察し、波打ち・カールの評価を行った。評価結果は以下の通りとし、△以上を波打ち・カール良好とした。評価はCMYK全色で行い、最も評価の悪いものを表6~7に記載した。
◎:表5に示した3種類の印刷条件の全てで、波打ちやカールが見られなかった。
○:表5に示した3種類の印刷条件のうち、印刷条件A、及びBまたはCでは波打ちやカールが見られなかったが、残りの印刷条件で波打ちやカールが見られた。
△:表5に示した3種類の印刷条件のうち印刷条件Aでは波打ちやカールが見られなかったが、印刷条件B及びCで波打ちやカールが見られた。
×:表5に示した3種類の印刷条件の全てで波打ちやカールが見られた。
マゼンタ、イエロー、シアンインキを用いてそれぞれ作製したベタ印刷物について、分光測色計X-RITE528を用い、光源D50、視野角2°、CIE表色系にてLab値を測定した。マゼンタ、イエロー、シアン各色領域において、ジャパンカラー2007及び欧州の色標準であるFOGRA39と比較した際に、鮮やかさの度合いを数値化した彩度C=√(a2+b2)が高く、各ガモットの外側に位置するかどうかを評価した。評価結果は以下の通りとし、△以上を濃度実用レベルと判断した。
◎:マゼンタ、イエロー、シアン全てで彩度がジャパンカラー2007及びFOGRA39よりも高く、各ガモットの外側に位置する。
○:マゼンタ、イエロー、シアンいずれか1つの領域で彩度がジャパンカラー2007及びFOGRA39よりも低く、いずれか1つのガモットの内側に位置する。
△:マゼンタ、イエロー、シアンいずれか2つの領域で彩度がジャパンカラー2007及びFOGRA39よりも低く、いずれか2つのガモットの内側に位置する。
×:マゼンタ、イエロー、シアン全てで彩度がジャパンカラー2007およびFOGRA39よりも低く、3つ全てのガモットの内側に位置する。
<耐水性>
ベタ印刷物を水に浸した綿棒で10往復こすり、印刷物の耐水性の評価を行った。評価結果は以下の通りとし、△以上を印刷物の乾燥性良好とした。なお評価はCMYK全色で行い、最も評価の悪いものを表6~7に記載した。
◎:10往復後も、綿棒にインクが全く付着しなかった。
○:7往復では綿棒にインクが全く付着しなかったが、10往復以内に綿棒にインクの付着が見られた。
△:5往復では綿棒にインクが全く付着しなかったが、7往復以内では綿棒にインクの付着が見られた。
×:5往復以内に綿棒にインクの付着が見られた。
ベタ印刷部を綿棒で10往復こすり、印刷物の乾燥性の評価を行った。評価結果は以下の通りとし、△以上を印刷物の乾燥性良好とした。評価はCMYK全色で行い、最も評価の悪いものを表6~7に記載した。
◎:表5に示した3種類の印刷条件の全てで、綿棒にインクが全く付着しなかった。
○:表5に示した3種類の印刷条件のうち、印刷条件A及びBでは綿棒にインクが全く付着しなかったが、印刷条件Cでは綿棒にインクの付着が見られた。
△:表5に示した3種類の印刷条件のうち印刷条件Aでは綿棒にインクが全く付着しなかったが、印刷条件B及びCでは綿棒にインクの付着が見られた。
×:表5に示した3種類の印刷条件の全てで綿棒にインクの付着が見られた。
次いで、上記で作製した前処理液について、下記方法にて塗工むらの評価を行った。得られた評価結果は表6~7に示した。
視認性向上のため、前処理液10gにKayafectRedPLiquid(日本化薬社製染料)を0.1g添加し、よく混合し溶解させた。前記染料を添加した前処理液を、印刷試験機イージープルーフ(松尾産業株式会社製)を用い、OKトップコート+紙(王子製紙株式会社製)に均一に塗布した。このとき、ローラとして線数140線/インチのセラミックローラを用い、塗工速度を調整することで、WET塗布量が6.0±0.3cm3/m2になるようにした。前処理液を塗布したのち、OKトップコート+紙を50℃のエアオーブンにて3分間乾燥させることで、染料を添加した前処理液を付与した記録媒体を作成した。前記染料を添加した前処理液を付与した記録媒体を連続で10枚作成し、各記録媒体における色むらの程度を目視観察することで、前処理液の塗工適性を評価した。評価結果は以下の通りとし、△以上を前処理液の塗工むらが良好とした。
◎:10枚全てでまったく塗工むらが見られなかった。
○:10枚のうち1枚で塗工むらが見られた。
△:10枚のうち2枚で塗工むらが見られた。
×:10枚のうち3枚以上で塗工むらが見られた。
次いで、上記で作製したインクジェットインキについて、下記方法にて吐出安定性の評価を行った。得られた評価結果は表6~7に示した。
インクジェットヘッドKJ4B-QA、またはKJ4B-Z(京セラ社製)を搭載したインクジェット吐出装置を準備し、インクジェットインキを充填した。なお、インクジェットヘッドKJ4B-Zは設計解像度が1200dpi、最大駆動周波数が64kHzであり、前記最大駆動周波数かつ印刷速度80m/分で印刷したとき、記録媒体搬送方向における記録解像度が1200dpiとなる。次いで、KJ4B-QAを使用した場合はドロップボリューム5pL及び駆動周波数30kHz、KJ4B-Zを使用した場合はドロップボリューム2pL及び駆動周波数64kHzの条件で、2時間連続で吐出を行ったあと、ノズルチェックパターンを印字してノズル抜け本数をカウントすることで、吐出安定性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、△以上を吐出安定性良好とした。
◎:印刷開始後2時間後のノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが全くなかった
○:印刷開始後2時間後のノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが1~4本
△:印刷開始後2時間後のノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが5~9本
×:印刷開始後2時間後のノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが10本以上
Claims (8)
- 少なくとも顔料を含む水性インクジェットインキと共に用いられる前処理液であって、
前記前処理液は、無機金属塩および/または有機金属塩と、有機アミンとを、いずれも溶解状態で含み、
前記無機金属塩および/または有機金属塩が多価金属塩を含み、かつ、前記多価金属塩由来の金属イオンの含有量が、前処理液全量に対し1重量%以上15重量%以下であり、
前記有機アミンの重量平均分子量(Mw)が500以下であり、
前記有機アミンの含有量が、前記前処理液全量に対し0.15重量%以上3重量%以下であり、
前記前処理液が、さらに、有機溶剤およびバインダー樹脂を含有し、
前記有機溶剤の含有量が、前記前処理液全量に対し0.1重量%以上50重量%以下であり、
前記前処理液が、25℃における表面張力が20~32mN/mである有機溶剤を、前記前処理液中の水溶性有機溶剤全量に対して35~100重量%含み、
前記前処理液が、沸点が200℃以上の有機溶剤を含まないか、前記沸点が200℃以上の有機溶剤の含有量が、前記前処理液中の前記有機溶剤全量に対し20重量%以下であり、
前記前処理液に含まれる金属イオンの含有量に対する、前記バインダー樹脂の含有量の重量比が、0超過50未満であり、
前記バインダー樹脂が、数平均分子量(Mn)が3,000以上90,000以下である水溶性樹脂を含有し、
前記水性インクジェットインキと前記前処理液のpHの差が0以上2以下であることを特徴とする前処理液(ただし、前記前処理液が、HLB値が1~8である、アセチレン系界面活性剤を含む場合を除く。)。 - 前記有機アミンが2級アミンおよび/または3級アミンであることを特徴とする、請求項1記載の前処理液。
- 前記沸点が200℃以上の有機溶剤の含有量が、前処理液中の有機溶剤全量に対し0.1重量%以上15重量%以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の前処理液。
- 前記バインダー樹脂が、ノニオン性水溶性樹脂を含有することを特徴とする、請求項1~3いずれか記載の前処理液。
- 請求項1~4いずれか記載の前処理液と、顔料、水溶性有機溶剤、及び、水を含む水性インクジェットインキとからなるインキセットであって、
前記水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤が、1気圧下で沸点が180℃以上280℃以下であるグリコールエーテル系溶剤及び/またはアルキルポリオール系溶剤を2種以上含有することを特徴とするインキセット。 - 前記水性インクジェットインキが、1気圧下における沸点が240℃以上である水溶性有機溶剤を、前記水性インクジェットインキ全量に対し0重量%以上10重量%未満含有することを特徴とする、請求項5記載のインキセット。
- 前記水性インクジェットインキが、さらにバインダー樹脂として水溶性樹脂を含有することを特徴とする、請求項5または6記載のインキセット。
- 請求項1~4いずれか記載の前処理液、または、請求項5~7いずれかに記載のインキセットを用いる水性インクジェットインキ印刷物の製造方法であって、
30m/分以上の速度で搬送される記録媒体に前処理液を付与する工程と、前記前処理液を付与した部分に、前記水性インクジェットインキを1パス印刷方式により付与する工程とを含み、
前記記録媒体が紙またはフィルム基材であることを特徴とする、水性インクジェットインキ印刷物の製造方法。
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