JP7137281B2 - 水系コンポジット黒インク - Google Patents
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Description
黒色系の顔料インクとしては、カーボンブラックを含有する単色黒インクの他、モノクロの画像や写真に求められる優れた画像品質や滑らかなグレイトーンを表現する等のため、複数の有彩色顔料を含有するコンポジット黒インクが用いられている。
例えば、特許文献1には、着色剤としてイエロー染料、マゼンタ染料及びシアン染料を含むインクジェット記録用水性ブラックインクが開示されている。
一方、近年特に、記録物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いるものが主流となってきている。
特許文献3には、水不溶性樹脂で被覆されたカーボンブラックと、水不溶性樹脂で被覆されたシアン顔料と、水不溶性樹脂で被覆されたマゼンタ顔料と、水不溶性樹脂の粒子と、水とを含有し、カーボンブラックの含有比率が1~2質量%であり、全顔料の合計量が1.8~3.5質量%である黒色インク組成物が開示されている。その実施例では、カーボンブラックの含有量は全顔料の総量に対して41質量%以上である。
特許文献4には、カーボンブラックと、マゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤とを含有し、カーボンブラックの含有量が全顔料の総量に対して70質量%以下である黒色水系インクが開示されている。その実施例では、カーボンブラックの含有量は全顔料の総量に対して66質量%以上である。
しかしながら、顔料でコンポジット黒インクを構成すると、インクジェットノズルの目詰まりが生じ易く、さらにカーボンブラックを含む場合はより目詰まりが生じ易い傾向があった。この理由として、インク中に複数種の有彩色の顔料が配合されるため、インク中の顔料の均一な分散状態が損なわれ易く顔料の凝集が生じやすいことと考えられる。さらにカーボンブラック含む場合は、カーボンブラックは有機顔料と比べて異形度が高いため凝集し易く、インク中の顔料の均一な分散状態がより損なわれ易く顔料の凝集がより生じやすいことと考えられる。顔料が吐出ノズル内で凝集すると、吐出ノズルの詰まりや吐出不良の原因となる。
特許文献2~4に記載のインクやインクジェット記録方法では、色目の調整のためにコンポジット黒インクを使用しているが、インクジェット吐出ノズルの目詰まり防止性や吐出性については何ら検討されていない。
本発明は、目詰まり防止性に優れた顔料を用いた水系コンポジット黒インク、及びその製造方法を提供することを課題とする。
すなわち、本発明は、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕顔料を含有する架橋ポリマー粒子と水を含む水系コンポジット黒インクであって、
顔料が、少なくとも2種以上の有彩色の顔料を含むコンポジット黒顔料であり、
架橋ポリマー粒子を構成する架橋前のポリマーが、カルボキシ基を有し、その酸価が120mgKOH/g以上であり、該カルボキシ基の一部が架橋剤との反応による架橋構造を有しており、
カーボンブラックの含有量が、該コンポジット黒顔料中0質量%以上50質量%未満である、水系コンポジット黒インク。
〔2〕シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、黒インクを混合して水系コンポジット黒インクを得る工程を有する、前記〔1〕に記載の水系コンポジット黒インクの製造方法。
本発明の水系コンポジット黒インク(以下、単に「黒インク」ともいう)は、顔料を含有する架橋ポリマー粒子と水を含む黒インクであって、顔料が、少なくとも2種以上の有彩色の顔料を含むコンポジット黒顔料であり、架橋ポリマー粒子を構成する架橋前のポリマーが、カルボキシ基を有し、その酸価が120mgKOH/g以上であり、該カルボキシ基の一部が架橋剤との反応による架橋構造を有しており、カーボンブラックの含有量が、該コンポジット黒顔料中0質量%以上50質量%未満であることを特徴とする。
本発明の黒インクは目詰まり防止性に優れるが、これは、顔料を含有するポリマー粒子が特定の酸価を有し、架橋剤により顔料表面に強固に固定化され、かつ、架橋により水不溶性となっていることにより、顔料を含有する架橋ポリマー粒子が吐出ノズル内面に付着しにくくなり、また、吐出ノズル内面に付着してもメンテナンス液及び黒インクに容易に再分散するためであると考えられる。しかしながら、カーボンブラックは有機顔料に比べて異形度が大きく凝集性が高いため、カーボンブラックの含有量が多すぎると目詰まり防止効果が抑制される。本発明においては、前記構成に加えてカーボンブラックの含有量をコンポジット黒顔料中0質量%以上50質量%未満としたことにより、目詰まり防止性が向上したと考えられる。
なお、本明細書において、「水系」とは、黒インクに含有される媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
架橋ポリマー粒子は、カルボキシ基を有するポリマー(架橋前のポリマー)を、カルボキシ基と反応しうる架橋剤で架橋して得ることが好ましい。顔料含有架橋ポリマー粒子は、架橋前のポリマーで分散した顔料分散体を得た後、該顔料分散体中の顔料を分散しているポリマーを架橋剤で架橋して得ることがより好ましい。
本発明の水系コンポジット黒インクは、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料等をそれぞれ含有する架橋ポリマー粒子を含む水系有彩色インクをそれぞれ予め調製し、それらのシアンインク、マゼンタインク、イエローインク等を混合して、製造することが好ましく、さらに、カーボンブラックを含有する架橋ポリマー粒子を含む水系黒色インクを予め調製し、それらの黒色インク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク等を混合して、製造することがより好ましい。
コンポジット黒顔料は、少なくとも2種以上の有彩色の顔料を含み、好ましくは3種以上の有彩色の顔料を含む。有彩色の顔料としては、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料、レッド顔料、グリーン顔料、ブルー顔料等が挙げられる。コンポジット黒顔料は、シアン顔料と、マゼンタ顔料と、イエロー顔料とを含むことが好ましく、カーボンブラックと、シアン顔料と、マゼンタ顔料と、イエロー顔料とを含むことがより好ましい。シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料はそれぞれ異なる吸収波長を持つために、それらを混合することで広い範囲の光を吸収し、カーボンブラックを含有する黒インク単独と同様の黒色を示す。
本発明の黒インクは、吐出ノズルの目詰まりを防止する観点から、カーボンブラックをコンポジット黒顔料中0質量%以上50質量%未満の量で含有するコンポジット黒顔料を用いる。しかしながら、シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料の配合量のバランスが悪いと、特定の波長の光が吸収されずに反射するため、反射された光に近い色が視認される。そのため、本発明の黒インクは、広範囲の光を吸収させて黒色度を高める観点から、顔料として、カーボンブラックを含有することが好ましい。
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
シアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料の配合比はシアン顔料:マゼンタ顔料:イエロー顔料が、好ましくは0.1~2:0.1~2:0.1~2、より好ましくは0.2~1.8:0.2~1.8:0.2~1.8、更により好ましくは0.5~1.5:0.5~1.5:0.5~1.5である。
シアン顔料としては、C.I.ピグメント・ブルー15、C.I.ピグメント・ブルー15:2、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16、C.I.ピグメント・ブルー60、C.I.ピグメント・グリーン7、及び米国特許4311775号明細書に記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。
これらの中でも、目詰まり防止性及び耐候性の観点から、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16から選ばれる1種以上が好ましく、C.I.ピグメント・ブルー15:3、及びC.I.ピグメント・ブルー15:4から選ばれる1種以上がより好ましい。
これらの中でも、目詰まり防止性及び耐候性の観点から、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド202、C.I.ピグメント・レッド209、C.I.ピグメント・バイオレット19から選ばれる1種以上が好ましく、C.I.ピグメント・レッド122、及びC.I.ピグメント・バイオレット19から選ばれる1種以上がより好ましい。
これらの中でも、目詰まり防止性及び耐候性の観点から、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメント・イエロー155、及びC.I.ピグメント・イエロー185から選ばれる1種以上が好ましく、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメント・イエロー155、及びC.I.ピグメント・イエロー185から選ばれる1種以上がより好ましい。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
顔料含有架橋ポリマー粒子を構成するポリマーは、顔料分散作用を発現する顔料分散剤としての機能と、記録媒体への定着剤としての機能を有する。
このポリマーは、未中和の状態では勿論、そのカルボキシ基の一部を中和した後でも水不溶性である。ここで、「水不溶性」とは、ポリマーを水に分散させたとき、透明とならないことを意味する。具体的には、未中和又は中和した水不溶性ポリマーの水分散体に対して、レーザー光や通常光による観察でチンダル現象が認められる場合、又は、実施例に記載のレーザー粒子解析システムを用いる測定法において平均粒径が観測される場合、のいずれかの場合をいう。更に具体的には、ポリマーを105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。前記溶解量は、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。
ポリマーのカルボキシ基の一部は、架橋剤で架橋することにより、カルボキシ基を有するポリマーが水溶性ポリマーであっても架橋により水不溶性ポリマーとなる。
水不溶性ポリマーは、顔料含有架橋ポリマー粒子とは別に、顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子として、黒インク中に配合することができる。
(a)カルボキシ基含有ビニルモノマーは、顔料含有架橋ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いることが好ましい。カルボキシ基含有ビニルモノマーとしては、カルボン酸モノマーが用いられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられるが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましい。
(b)疎水性ビニルモノマーは、顔料含有架橋ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いることが好ましい。疎水性ビニルモノマーとしては、炭素数1以上22以下のアルキル基又は炭素数6以上22以下のアリール基を有するアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1~22、好ましくは炭素数6~18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレン、α-メチルスチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(b)疎水性モノマーは、前記のモノマーを2種以上使用してもよく、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
(c)マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料含有架橋ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いることができる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c)マクロモノマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(c)マクロモノマーとしては、顔料含有架橋ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS-6(S)、AN-6(S)、HS-6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロモノマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
水不溶性ポリマーには、顔料含有架橋ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から、更に、(d)ノニオン性モノマーをモノマー成分として用いることができる。
(d)ノニオン性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2~30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートがより好ましい。
上記(a)~(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
以上のとおり、水不溶性架橋ポリマーを調製するための水不溶性ポリマーとしては、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上の(a)カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上の(b)疎水性ビニルモノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーであることが好ましく、更に(c)マクロモノマー由来の構成単位、及び(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーとすることができる。
ポリマーの酸価は、構成するモノマーの質量比から算出することができる。また、適当な有機溶剤(例えば、MEK)にポリマーを溶解又は膨潤させて滴定する方法でも求めることができる。
(a)成分の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下である。
(b)成分の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
(c)成分を含有する場合、(c)成分の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(d)成分を含有する場合、(d)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
[(a)成分/(b)成分]の質量比は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.35上、更に好ましくは0.40以上であり、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.2以下である。
ビニル系ポリマーは、前記モノマー混合物を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に特に制限はないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、炭素数1~3の脂肪族アルコール、炭素数3~6のケトン、エーテル、エステル等が挙げられる。これらの中では、ケトンが好ましく、メチルエチルケトン又はそれと水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。
重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t-ブチルペルオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001~5モル、より好ましくは0.01~2モルである。
重合連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、2-メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
また、重合モノマーの連鎖の様式に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれの重合様式でもよい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
上記の重合工程で得られる水不溶性ポリマー溶液は、顔料含有架橋ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒を後述する工程1に用いる有機溶媒としてそのまま利用することが好ましい。
水不溶性ポリマー溶液の固形分濃度は、顔料含有架橋ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
水不溶性ポリマー粒子の分散体の市販品例としては、「Neocryl A1127」(DSM NeoResins社製、アニオン性自己架橋水系アクリル樹脂)、「ジョンクリル390」(BASFジャパン株式会社製)等のアクリル樹脂、「ジョンクリル7100」、「ジョンクリル734」、「ジョンクリル690」、「ジョンクリル586」、「ジョンクリル538」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン-アクリル樹脂、及び「ビニブラン701」(日信化学工業株式会社製)等の塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
なお、数平均分子量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
カーボンブラック、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料等のそれぞれの顔料を含有する架橋ポリマー粒子(顔料含有架橋ポリマー粒子)は、水分散体として下記の工程1~3を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程1:カルボキシ基を有し、酸価が120mgKOH/g以上であるポリマー(a)、有機溶媒、中和剤、顔料、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料を含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)の分散体を得る工程
工程2:工程1で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体A」ともいう)を得る工程
工程3:工程2で得られた顔料水分散体Aを、架橋剤で架橋処理し、顔料含有架橋ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体B」ともいう)を得る工程
工程1では、まず、ポリマー(a)を有機溶媒に溶解させ、更に中和剤、顔料、水、及び必要に応じて、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。ポリマー(a)の有機溶媒溶液、中和剤、顔料、水等を混合する順序に特に制限はないが、ポリマー(a)を有機溶媒に溶解し、これに中和剤、水、顔料の順に加えることが好ましい。
用いる有機溶媒に制限はないが、炭素数1~3の脂肪族アルコール、炭素数3~8のケトン、エーテル、エステル等が好ましく、顔料への濡れ性、水不溶性ポリマーの溶解性、及び水不溶性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4~8のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
ポリマー(a)のカルボキシ基の少なくとも一部は、中和剤で中和することが好ましい。得られる分散体のpHは、皮膚刺激性を低減する等の観点から好ましくは5.5以上、より好ましくは6以上であり、そして、部材腐食を抑制する観点から、好ましくは13以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは11以下である。
中和剤としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミン等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等がより好ましく、水酸化ナトリウムが更に好ましい。
中和剤は、中和操作の観点から、水溶液として用いることが好ましく、中和剤水溶液の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
なお、ポリマー(a)を予め中和しておいてもよい。
ポリマー(a)のカルボキシ基の中和度は、得られる黒インクの保存安定性及び目詰まり防止性の観点から、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは35モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマー(a)の加重平均酸価(mgKOH/g)×ポリマー(a)の質量(g)}/(56×1000)]〕×100
顔料混合物中の各成分の含有量は、得られる顔料水分散体の保存安定性、目詰まり防止性、及び生産性の観点から、以下のとおりである。
工程1における顔料の顔料混合物中の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
ポリマー(a)の顔料混合物中の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは8質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。
有機溶媒の顔料混合物中の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
水の顔料混合物中の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
工程1において、前記顔料混合物を分散処理する方法に特に制限はない。本分散だけで顔料含有ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程1における温度、とりわけ予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下であり、分散時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.8時間以上であり、そして、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは130MPa以上であり、そして、好ましくは200MPa以下、より好ましくは180MPa以下である。
また、パス回数は、好ましくは3回以上、より好ましくは10回以上であり、そして、好ましくは30回以下、より好ましくは25回以下である。
工程2では、工程1で得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(顔料水分散体A)を得ることができる。得られた顔料水分散体A中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
得られる顔料水分散体Aは、顔料含有ポリマー粒子が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、顔料含有ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料とポリマーにより粒子が形成されていればよいが、前述のように、ポリマー(a)に顔料が内包された粒子形態であることが好ましい。
なお、顔料水分散体Aの固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、黒インクの目詰まり防止性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは120nm以下である。
なお、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、黒インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
工程3では、得られる黒インクの保存安定性及び目詰まり防止性の観点から、工程2で得られた顔料水分散体Aを、架橋剤で架橋処理し、顔料含有架橋ポリマー粒子の顔料水分散体Bを得る。この工程で、顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマー(a)のカルボキシ基の一部を架橋し、顔料含有ポリマー粒子の表層部に架橋構造を形成させる。すなわち、水不溶性架橋ポリマーは、顔料表面上でポリマー(a)と架橋剤との架橋反応によって得られ、顔料含有ポリマー粒子に含まれるポリマー(a)が架橋剤によって架橋された水不溶性架橋ポリマーとなる。
こうして、それぞれの顔料は水不溶性架橋ポリマーで水系媒体に分散させた顔料水分散体となる。
架橋剤としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する水不溶性多官能エポキシ化合物が好ましい。本発明に用いられるポリマーはカルボキシ基を有するため、該カルボキシ基の一部が水不溶性多官能エポキシ化合物で架橋される。架橋剤は、より好ましくは分子中に2以上のグリシジルエーテル基を有する化合物、更に好ましくは分子中に3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。
ここで、架橋剤の「水不溶性」とは、架橋剤を25℃のイオン交換水100gに飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が好ましくは50g未満であることをいう。前記溶解量は、好ましくは40g以下、より好ましくは35g以下である。
架橋剤は、水系媒体中で効率よく架橋反応を行わせる観点、及び得られる黒インクの保存安定性及び目詰まり防止性の観点から、該架橋剤の水溶率は、好ましくは50質量%未満、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。ここで、水溶率(質量%)とは、室温25℃にて水90質量部に架橋剤10質量部を溶解したときの溶解率(%)をいい、具体的には、実施例に記載の方法により測定される。
架橋剤のエポキシ当量(g/eq)は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下である。
なお、エポキシ当量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
これらの中では、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(水溶率31質量%)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27質量%)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(水溶率0質量%)から選ばれる1種以上が好ましい。
水不溶性多官能エポキシ化合物の市販品としては、ナガセケムテックス株式会社製のデナコールEXシリーズ、日油株式会社製のエピオールBE、同Bシリーズ等が挙げられる。
架橋剤とポリマー(a)のカルボキシ基との架橋は、ポリマー(a)で顔料を分散した後に行うことが好ましい。
架橋反応の温度は、反応の完結と経済性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下である。
また、架橋反応の時間は、上記と同様の観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、更に好ましくは6時間以下である。
架橋されたポリマーの架橋度は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。架橋度は「架橋剤のエポキシ基のモル当量数/ポリマー(a)のカルボキシ基のモル当量数」の百分比(モル%)である。
本発明に係る黒色インク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク等の水系インクは、前記工程1~3に加えて、更に下記工程4を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程4:工程3で得られた顔料水分散体Bと有機溶媒とを混合し、水系インクを得る工程
工程4における顔料水分散体Bと有機溶媒との混合方法に特に制限はない。
用いられる有機溶媒は、各水系インクの保存安定性等を向上させる観点から、沸点が90℃以上の有機溶媒を含むことが好ましく、2種以上の有機溶媒を含む場合、沸点の加重平均値が250℃以下である有機溶媒が好ましい。有機溶媒の沸点の加重平均値は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
当該有機溶媒の具体例としては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。これらの中では、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールジエチルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましく、グリセリン、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパンから選ばれる1種以上が更に好ましい。
界面活性剤は、表面張力等のインク特性を調整するために用いられ、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられるが、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤が好ましく、非イオン性界面活性剤がより好ましい。
非イオン性界面活性剤の中では、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物、アルコールのアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルカノールアミド等が好ましい。
これらの界面活性剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明の水系コンポジット黒インクは、上記で得られた顔料含有架橋ポリマー粒子を含む黒色インク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク等の水系インクを配合することにより得ることができる。
水系コンポジット黒インクの各成分の含有量、インク物性は以下のとおりである。
カーボンブラックを含むコンポジット黒顔料の合計含有量は、色相の変動を抑制し、画像の光学濃度を向上させ、吐出ノズルの目詰まりを防止する観点から、黒インク中、好ましくは3.8質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは4.2質量%以上であり、そして、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
黒インク中のカーボンブラックの含有量は、上記と同様の観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、更に好ましくは0.6質量%以上、より更に好ましくは0.8質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下、更に好ましくは2.6質量%以下、より更に好ましくは2.4質量%以下である。
また、黒インク中のシアン顔料、マゼンタ顔料、及びイエロー顔料のそれぞれの含有量は、上記と同様の観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、更に好ましくは0.6質量%以上、より更に好ましくは0.8質量%以上であり、そして、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.2質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下、より更に好ましくは1.8質量%以下である。
水不溶性架橋ポリマーの黒インク中の含有量は、黒インクの保存安定性、吐出ノズルの目詰まり防止性の観点から、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上であり、そして、好ましくは6質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは2.4質量%以下である。
(顔料含有架橋ポリマー粒子の含有量)
顔料含有架橋ポリマー粒子の黒インク中の含有量は、黒インクの保存安定性、吐出ノズルの目詰まり防止性の観点から、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、より更に好ましくは3.5質量%以上であり、そして、好ましくは17.0質量%以下、より好ましくは12.0質量%以下、更に好ましくは10.0質量%以下、より更に好ましくは8.0質量%以下、より更に好ましくは6.0質量%以下である。
(水の含有量)
黒インク中の水の含有量は、上記と同様の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下である。
黒インクの32℃の粘度は、黒インクの保存安定性、吐出ノズルの目詰まり防止性の観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更により好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。
黒インクのpHは、黒インクの保存安定性、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは7以上、より好ましくは8以上、更により好ましくは8.5以上であり、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更により好ましくは9.5以下である。
本発明の黒インクは、公知のインクジェット記録装置に装填し、記録媒体にインク液滴として吐出させて画像等を記録することができる。
インクジェット記録装置としては、サーマル式及びピエゾ式があるが、ピエゾ式のインクジェット記録用黒インクとして用いることがより好ましい。
用いることができる記録媒体としては、高吸水性の普通紙、低吸水性のコート紙、及び樹脂フィルムが挙げられる。コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられる。
樹脂フィルムとしては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等のフィルムが挙げられるが、ポリエステルフィルム及びポリプロピレンフィルムが好ましい。これらの樹脂フィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよい。また、印刷適性を向上させる観点から、コロナ処理、プラズマ処理等の放電加工による表面処理を行った樹脂フィルムを用いてもよい。
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中に樹脂0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP PTFE 0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
レーザー粒子解析システム「ELSZ-1000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定する粒子の濃度が約5×10-3重量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度165°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒径を顔料含有ポリマー粒子の平均粒径とした。
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=100-測定試料の水分(%)
室温25℃にてイオン交換水90質量部及びエポキシ化合物10質量部(W1)をガラス管(25mmφ×250mmh)に添加し、該ガラス管を水温25℃に調整した恒温槽中で1時間静置した。次いで、該ガラス管を1分間激しく振とうした後、再び恒温槽中で12時間静置した。次いで、水から分離して沈殿又は浮遊する未溶解物を回収し、40℃、ゲージ圧-0.08MPaの環境下で6時間乾燥後、秤量(W2)した。以下の式により、水溶率(質量%)を算出した。
水溶率(質量%)={(W1-W2)/W1}×100
水不溶性多官能エポキシ化合物のエポキシ当量は、JIS K7236に従い、京都電子工業株式会社製、電位差自動滴定装置、AT-610を用いて電位差滴定法により測定した。
アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)38.5部、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)152.5部、α-メチルスチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)9部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2-メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-65、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル))2.2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、カルボキシ基を有するポリマー溶液a(ポリマーの数平均分子量:11000、酸価150mgKOH/g)を得た。
合成例1において、モノマー混合比をアクリル酸55部、スチレン136部、α-メチルスチレン9部に変更した以外は、合成例1と同様の手順でポリマー溶液b(ポリマーの数平均分子量:12000、酸価214mgKOH/g)を得た。
製造例1
スチレンーアクリル酸共重合体(ジョンクリル586、BASFジャパン株式会社製、重量平均分子量:4300、酸価:108mgKOH/g)25部をMEK78.6部と混合し、更に5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%、富士フイルム和光純薬株式会社製、容量滴定用)6.3部を加え、該ポリマーのカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が40%になるように中和した(中和度40モル%)。更にイオン交換水400部を加え、その中にカーボンブラック(キャボット社製「Monarch 717」)100部を加え、ディスパー(浅田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて、20℃でディスパー翼を7000rpmで回転させる条件で60分間攪拌した。
得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理した。得られた分散液にイオン交換水250部を加え、攪拌した後、減圧下で60℃でMEKを完全に除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が20%の顔料水分散体A1-1(平均粒径108nm)を得た。
製造例2~4
製造例1で使用したカーボンブラック(Monarch 717)を、シアン顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:Chromofine Blue 6338JC、C.I.ピグメント・ブルー15:3)、マゼンタ顔料(大日精化工業株式会社製、商品名:Chromofine Red 6114JC、C.I.ピグメント・レッド122)、イエロー顔料(山陽色素株式会社製、商品名: Fast Yellow 7414、C.I.ピグメント・イエロー74)に変更した以外は、製造例1と同様にして、シアン顔料(A1-2)、マゼンタ顔料(A1-3)、イエロー顔料(A1-4)をそれぞれ含有する水不溶性ポリマー粒子(酸価:108mgKOH/g)の水分散体A1-2~A1-4を得た。
製造例5~8
製造例1~4において、ジョンクリル586に代えて、合成例1で得られたポリマー溶液aを減圧乾燥させて得られたポリマー(酸価:150mgKOH/g)25部を用いた以外は、製造例1~4と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A2-1~A2-4を得た。
製造例9~12
製造例1~4において、ジョンクリル586に代えて、合成例2で得られたポリマー溶液bを減圧乾燥させて得られたポリマー(酸価:214mgKOH/g)25部を用いた以外は、製造例1~4と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A3-1~A3-4を得た。
製造例13~16
製造例1~4において、ジョンクリル586に代えて、スチレン-アクリル酸共重合ポリマー(ジョンクリル690、BASFジャパン株式会社製、重量平均分子量:16500、酸価:240mgKOH/g)25部を用いた以外は、製造例1~4と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A4-1~A4-4を得た。
製造例17
黒顔料水分散体A1-1 100部(固形分濃度20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(デナコールEX-321、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量:140)0.96部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過して、黒顔料水分散体B1-1を得た。
製造例18~20
製造例17において、黒顔料水分散体A1-1に代えて、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A1-2~A1-4を用いた以外は、製造例17と同様にして、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体B1-2~B1-4を得た。
製造例21~24
製造例17~20において、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A1-1~A1-4に代えて、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A2-1~A2-4を用いた以外は、製造例17~20と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体B2-1~B2-4を得た。
製造例25~28
製造例17~20において、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A1-1~A1-4に代えて、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A3-1~A3-4を用いた以外は、製造例17~20と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体B3-1~B3-4を得た。
製造例29~32
製造例17~20において、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A1-1~A1-4に代えて、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体A4-1~A4-4を用いた以外は、製造例17~20と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体B4-1~B4-4を得た。
製造例33~36
製造例17~20において、デナコールEX-321の量を0.96部から0.48部に変更した以外は、製造例17~20と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体B5-1~B5-4を得た。
製造例37~40
製造例17~20において、デナコールEX-321の量を0.96部から0.72部に変更した以外は、製造例17~20と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体B6-1~B6-4を得た。
製造例41~44
製造例17~20において、デナコールEX-321の量を0.96部から1.20部に変更した以外は、製造例17~20と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体B7-1~B7-4を得た。
製造例45~48
製造例17~20において、デナコールEX-321 0.96部を1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(デナコールEX-212、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量:151)1.04部に変更した以外は、製造例17~20と同様にして、黒、シアン、マゼンタ、イエローの顔料水分散体B8-1~B8-4を得た。
調製例1
製造例17で得られたカーボンブラックを含有する黒顔料水分散体B1-1を用いて、水系インク中で、顔料5%、ジエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)20%、プロピレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)10%、サーフィノール104PG-50(日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系活性剤のプロピレングリコール溶液、有効分50%)2%、エマルゲン120(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)2%とし、合計量が100%となるようイオン交換水を添加し、得られた混合液を5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)で濾過して水系黒インクC1-1を得た。
調製例2~36
調製例1において、使用した黒顔料水分散体B1-1を、表1に示すように変更した以外は、調製例1と同様にして、水系インクC1-2~C9-4を得た。結果を表1に示す。
表1中、顔料のKは黒、Cはシアン、Mはアゼンタ、Yはイエローを示す。
実施例1~9、比較例1~5
調製例1~36で得られた黒、シアン、マゼンタ、イエローの水系インクを、表2に示す配合割合で混合し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)で濾過して水系コンポジット黒インク(顔料合計含有量:5%)D-1~D14を得た。
得られたコンポジット黒インクを用いて、以下の方法により、インクジェット記録における目詰まり防止性を評価した。結果を表2に示す。
表2中、顔料のKは黒、Cはシアン、Mはアゼンタ、Yはイエローを示す。また、CB含有量(%)は、コンポジット黒顔料中のカーボンブラックの含有量(%)を示す。
市販のインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM-930C)を用い、汎用光沢紙「OKトップコートプラス」(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m2、60°光沢度49.0、光沢紙と純水との接触時間100m秒における吸水量4.9g/m2)に、ファインモード(高速印字モード)で全色をベタ印字したのち、ノズルキャップ(インク吐出口に密着するキャップ)を手動で外し、室温25℃湿度20%RHに4時間放置した後に3回クリーニング操作を行い、放置前と同じ画像を印刷し、印刷状態が回復するかどうかを、下記の基準により、目視で評価した。
(評価基準)
A:プリンターノズルの目詰まりがなく、よれ、ぬけがない。
B:プリンターノズルの目詰まりが若干あり、よれがあるが、ぬけはない。
C:プリンターノズルの目詰まりがあり、よれ、ぬけがある。
ここで、「よれ」とは、吐出していないノズルはないが、細い白い筋が入る場合をいい、「ぬけ」とは、吐出していないノズルがあり、太い白い筋が入る場合をいう。
Claims (6)
- 顔料を含有する架橋ポリマー粒子と水を含む水系コンポジット黒インクであって、
顔料が、少なくとも2種以上の有彩色の顔料を含むコンポジット黒顔料であり、
架橋ポリマー粒子を構成する架橋前のポリマーが、カルボキシ基を有し、その酸価が120mgKOH/g以上であり、該カルボキシ基の一部が架橋剤との反応による架橋構造を有しており、
該コンポジット黒顔料が、カーボンブラックと、シアン顔料と、マゼンタ顔料と、イエロー顔料とを含み、
該カーボンブラックの含有量が、該コンポジット黒顔料中2質量%以上50質量%未満である、水系コンポジット黒インク。 - 架橋ポリマー粒子を構成する架橋前のポリマーの酸価が320mgKOH/g以下である、請求項1に記載の水系コンポジット黒インク。
- コンポジット黒顔料の含有量が、インク中、3.8質量%以上12質量%以下である、請求項1又は2に記載の水系コンポジット黒インク。
- インク中、カーボンブラックの含有量が0.2質量%以上3質量%以下、シアン顔料の含有量が0.2質量%以上2.5質量%以下、マゼンタ顔料の含有量が0.2質量%以上2.5質量%以下、イエロー顔料の含有量が0.2質量%以上2.5質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の水系コンポジット黒インク。
- カーボンブラックを含有する架橋ポリマー粒子を含む水系黒色インク、シアン顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インク、マゼンタ顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インク、及びイエロー顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インクを配合してなる、請求項1~4のいずれかに記載の水系コンポジット黒インク。
- 黒色インク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクを混合してコンポジット黒インクを得る工程を有する、請求項1~5のいずれかに記載の水系コンポジット黒インクの製造方法。
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