以下、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
まず、下記の式(1)に示される血管内皮細胞増殖作用を呈するヒドロキシピラン誘導体は炭素元素28個、水素元素27個、窒素元素1個及び酸素元素9個から構成されている。
すなわち、C28H27N1O9の化学式である。構成成分はヒドロキシピラン、ジヒドロキシベンゼン及びロイシンである。
このヒドロキシピラン誘導体は式(1)に示されるようにヒドロキシピラン1分子にエチレン側鎖、ジヒドロキシベンゼン及びロイシンから構成されている。ヒドロキシピランはジヒドロキシベンゼンと結合し、このジヒドロキシベンゼンは水酸基を介してジヒドロキシベンゼンを伴ったエチレン性カルボン酸と結合している。さらに、ジヒドロキシベンゼンの水酸基はLーロイシンのカルボン酸と結合している。
構造的には中央に位置するベンゼン環及びロイシンの疎水性部分は疎水性を呈し、一方、ヒドロキシピラン、アミノ基及び水酸基は水溶性を呈する。この構造からこの誘導体は親水性と疎水性を兼ね合わせている。つまり、水溶性状態と脂溶性状態の性質を併せ持っている。この誘導体は疎水性の官能基により細胞膜の親油性部分を通過しやすい。また、核膜部分も通過して血管内皮細胞増殖に直接作用し、かつ、ミトコンドリアのATP産生を増加させることにより、血管内皮細胞増殖作用を呈する。
すなわち、この誘導体はVEGF(血管内皮細胞増殖因子)やVEGF受容体を介さずに、直接、血管内皮細胞を増殖させる。この増殖性はVEGFが欠乏した状態やVEGFの増加による血管新生や癌の成長という副作用を生じない。
この誘導体による血管内皮細胞増殖のメカニズムは核内STAT1の転写因子の結合性と反応性を高めること、ならびにミトコンドリアでATP産生を促進させることである。さらに、ミトコンドリアではミトコンドリア膜に結合して膜を安定化させる。前述したようにVEGFの働きには関与しない。
しかし、VEGFと共存することによって血管内皮細胞の増殖性は相乗的に効果を発揮する。すなわち、VEGFとこの誘導体は作用部位が異なるために、VEGFの効果は消去せず、また、抑制されることもなく、相乗的に増殖作用を発揮する。
この誘導体はヒドロキシピラン、ロイシン、ジヒドロキシベンゼンなどの既存物質がエステル結合したものであることから安全性が高い。
このヒドロキシピラン誘導体をヒドロキシピラン、ロイシン、ジヒドロキシベンゼンを原料として有機化学的に合成することができる。この有機合成された誘導体は標準物質として解析や分析に利用される。しかし、化学的な製造にはコストがかかり、かつ、有害な有機溶媒と重金属を使用することから、産業には利用しにくいという安全性上の欠点がある。
このヒドロキシピラン誘導体の構造についてはこの誘導体の重水素化クロロホルム中の600MHzのH-NMR(1H-NMR)解析(ブルカー製)により、ピークの位置は1.13、1.87、1.97、2.19、3.02、3.12、3.14、3.27、3.39、3.80、3.97、4.41、5.10、5.12、7.50、8.24、9.66及び13.98ppmに認められる。
また、この誘導体の重水素化クロロホルム中のC-NMR(13C-NMR)解析ではピークの位置は17.4、29.4、35.3、37.4、53.2、55.4、65.8、67.1、72.6、74.3、87.0、90.6、97.0、109.8、113.6、113.7、117.5、121.7、121.9、131.2、142.8、143.8、158.7、165.2、170.0、171.9、190.7及び193.4ppmに認められる。
このヒドロキシピラン誘導体は天然由来であることから安全性が高く、また、細胞内や核内への移行性に優れている。しかし、仮に、この誘導体を大量に摂取した場合でも、生体内で過剰量は分解されることから安全性が高い。
さらに、この誘導体は粉末にして水溶液と反応する際に水素ガスを発生する。発生する水素ガスは活性酸素を除去する働きがあるため、紫外線や酸化物質によって発生した活性酸素を除去して生体を安定に維持できることから好ましい。また、水素ガスはヒドロキシルラジカルを消去し、還元作用を呈し、かつ、抗酸化作用を発揮することから好ましい。
また、この誘導体は血管内皮細胞に働き、増殖させる。また、血管内皮細胞のミトコンドリアに働き、ATPを産生させる。このATP産生増加の働きはミトコンドリア膜の安定化作用に起因している。ミトコンドリア膜はATP産生の際に発生する呼吸によって障害を受けてATP産生の能力が低下する。ここには活性酸素が関与しているがこの誘導体は発生する活性酸素を除去する働きがある。
この誘導体は末梢血管の血管内皮細胞を増殖させ、ATPを産生させることにより、末梢循環を改善させる。末梢循環の改善により、皮膚、心臓、神経、肝臓、腎臓、消化器の働きを維持し、健康的にする。たとえば、皮膚の末梢血管の増強と血流の改善により、皮膚細胞を増加させてシワを改善する。また、メラニンの排泄を促進させてシミやクスミを改善する。
さらに、心臓においては冠血管を増強して心臓に良い働きをもちらす。さらに、神経においては脳血管障害に対して改善作用を発揮する。
このヒドロキシピラン誘導体の抽出方法または製造方法としては発酵法、酵素反応法や化学合成法などがある。たとえば、このヒドロキシピラン誘導体の製造方法としてはオクラ芽、コメヌカ、大豆などから抽出することができる。また、種々の植物や植物カルスからも抽出することができる。また、この抽出方法ではプロテアーゼやリパーゼなどの消化酵素を利用することは抽出効率が高められることから好ましい。
特に、オクラと米糠を納豆菌及び紅麹菌で発酵させる発酵法、または、ヒト口腔細胞または皮膚表皮細胞を培養して培養液を得る製造方法はこの誘導体の効率的な製造工程である。
特に、オクラ芽と米糠を納豆菌及び紅麹菌で発酵させて得られる発酵液を培地としてヒト口腔細胞を培養してその培養液を得るという製造方法はこのヒドロキシピラン誘導体の製造方法の一つであり、効率的な製造方法である。これらの発酵技術及び培養技術は日本では経験と知識が豊富であり、かつ、安全性も高いことから好ましい。ヒトの口腔細胞にはエステル結合酵素やエステル変換酵素が含有されていることからヒト口腔細胞を用いる方法は特異的である。
さらに、高純度の誘導体を得る目的で精製されることは好ましい。精製の方法としては、分離用の樹脂を用いて分離用溶媒で抽出する精製操作を利用することは好ましい。
例えば、分離用担体または樹脂により分離され、分取されることは好ましい。分離用担体または樹脂としては、表面が後述のようにコーティングされた、多孔性のヒドロキシピラン、酸化珪素化合物、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン-ビニルベンゼン共重合体等が用いられる。0.1~300μmの粒度を有するものが好ましく、粒度が細かい程、精度の高い分離が行なわれるが、分離時間が長い欠点がある。
例えば、逆相担体または樹脂として表面が疎水性化合物でコーティングされたものは、疎水性の高い物質の分離に利用される。陽イオン物質でコーティングされたものは陰イオン性に荷電した物質の分離に適している。また、陰イオン物質でコーティングされたものは陽イオン性に荷電した物質の分離に適している。特異的な抗体をコーティングした場合には、特異的な物質のみを分離するアフィニティ担体または樹脂として利用される。
アフィニティ担体または樹脂は、抗原抗体反応を利用して抗原の特異的な調製に利用される。分配性担体または樹脂は、シリカゲル(メルク社製)等のように、物質と分離用溶媒の間の分配係数に差異がある場合、それらの物質の単離に利用される。
これらのうち、製造コストを低減することができる点から、吸着性担体または樹脂、分配性担体または樹脂、分子篩用担体または樹脂及びイオン交換担体または樹脂が好ましい。さらに、分離用溶媒に対して分配係数の差異が大きい点から、逆相担体または樹脂及び分配性担体または樹脂はより好ましい。
分離用溶媒として有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒に耐性を有する担体または樹脂が用いられる。また、医薬品製造または食品製造に利用される担体または樹脂は好ましい。これらの点から吸着性担体としてダイヤイオン(三菱化学(株)社製、HP-20及びHP-21)及びXAD-2またはXAD-4(ロームアンドハース社製)、分子篩用担体としてセファデックスLH-20(アマシャムファルマシア社製)、分配用担体としてシリカゲル、イオン交換担体としてIRA-410(ロームアンドハース社製)、逆相担体としてDM1020T(富士シリシア社製)がより好ましい。
このうち、ダイヤイオンHP-20、セファデックスLH-20及びDM1020Tは分離効率が高く、使用実績も多いことから、さらに好ましい。
得られた抽出物は、分離前に分離用担体または樹脂を膨潤化させるための溶媒に溶解される。その量は、分離効率の点から抽出物の重量に対して1~40倍量が好ましく、4~20倍量がより好ましい。分離の温度としては物質の安定性の点から4~30℃が好ましく、10~23℃がより好ましい。
分離用溶媒には、水、または、水を含有する低級アルコール、親水性溶媒、親油性溶媒が用いられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが用いられるが、食用として利用されているエタノールが好ましい。
セファデックスLH-20を用いる場合、分離用溶媒には低級アルコールが好ましい。シリカゲルを用いる場合、分離用溶媒にはクロロホルム、メタノール、酢酸またはこれらの混合液が好ましい。
ダイヤイオンHP-20及びDM1020Tを用いる場合、分離用溶媒はメタノール、エタノール等の低級アルコールまたは低級アルコールと水の混合液が好ましい。また、活性を含む画分を採取して乾燥または真空乾燥により溶媒を除去し、粉末または濃縮液として得ることは溶媒による影響を除外できることから、好ましい。
このヒドロキシピラン誘導体は優れた血管内皮細胞増殖作用を発揮して皮膚の末梢血管に働き、メラニン排泄や皮膚の血流を改善させる化粧料に用いられることは好ましい。つまり、化粧料、シャンプー、まつ毛増殖剤、育毛剤、毛髪用化粧料として利用できる。さらに、VEGFとの相乗作用によって血流を改善して皮膚のターンオーバーを増加させる化粧料として利用できる。
医薬品として注射剤または経口剤または塗布剤などの非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、塗布剤、ゲル剤、歯磨き粉等に配合されて利用される。
経口剤としては錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。上記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。上記の錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。
また、上記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を添加することができる。
非経口剤としては、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。
注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
食品製剤として血管内皮細胞増殖作用を目的とした食品、血管内皮細胞増殖作用を目的とした健康食品、さらには、皮膚保護のための食品などに利用される。また、保健機能食品として栄養機能食品や特定保健用食品に利用することは好ましい。
得られた食品製剤をイヌやネコなどのペットや家畜動物に利用する場合、皮膚の血流や血管を強化することにより、栄養素の有効利用を目的として飼料やペット用サプリメントとして利用される。
化粧料として常法に従って界面活性化剤、溶剤、増粘剤、賦形剤等とともに用いることができる。例えば、クリーム、毛髪用ジェル、洗顔剤、美容液、化粧水等の形態とすることができ、血管内皮細胞増殖作用を呈する化粧料となる。化粧料の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状または粉末状として用いることができる。この誘導体は水溶性と油溶性の両方の溶媒に溶解する。この両親媒性の性質はこの誘導体の利用を広げることから好ましい。
また、この誘導体は血管内皮細胞増殖作用を利用した植物活性化剤としても利用される。この誘導体は植物の栄養素の循環を改善させ、生育を活性化し、開花、結実、収穫量の増加をもたらすことは好ましい。たとえば、この誘導体にHB-101(株式会社フローラ製)の植物活力剤とともに植物の成長を促進する働きが増強され、維持され、安定化されることから好ましい。
以下に、式(1)に示される血管内皮細胞増殖作用を呈するヒドロキシピラン誘導体の製造方法で、ヒト口腔細胞の培養工程を含む方法について説明する。具体的には、オクラ芽と米糠を納豆菌及び紅麹菌で発酵させて得られる発酵液を培地としてヒト口腔細胞を培養してその培養液を得るという製造工程からなる。この製造工程は以下のように、オクラ芽と米糠を納豆菌及び紅麹菌で発酵させて得られる製造工程とこの発酵液を培地としてヒト口腔細胞を培養するという2つの製造工程からなる。
用いる原料はオクラ芽と米糠を納豆菌及び紅麹菌並びにヒト口腔細胞である。
オクラ芽はアオイ科トロロアオイ属で学名Abelmoschus Esculentusであるオクラの種子から発芽させた新芽である。オクラには豊富な栄養素、特に、ムコ多糖、ムコ多糖タンパク質、ムチンなどの粘性のある物質を含有している。オクラの芽には、ムコ多糖の他に細胞の成長を促進する栄養素が含有されている。これらの栄養素はヒト口腔細胞を増殖させるために好ましい。ここで用いるオクラの芽は日本産、アジア産、アメリカ産などのいずれでも用いられるが、日本産のオクラの芽は品質が安定し、農薬の汚染も少ないことから好ましい。特に、株式会社サラダコスモ製のオクラの芽は無農薬栽培され、安全性と品質が高いことから好ましい。
オクラの芽は乾燥され、粉末化されることが好ましく、発酵の前にオートクレーブ滅菌されることは発酵をスムーズに行うることから好ましい。3マイクロメーター以下の粒子サイズの粉末が発酵の工程を実施しやすくすることから好ましい。
また、原料となる米糠は国産、アジア産、アメリカ産などいずれの産地でも良いが無農薬
の米より採取される日本産のものが好ましい。特に、マルカワみそ株式会社製の無農薬で有機JAS認定の米糠は品質が高いことから好ましい。
これらの原料は使用に際して株式会社奈良機械製作所製の自由ミル、スーパー自由ミル、サンプルミル、ゴブリン、スーパークリーンミル、マイクロス、減圧乾燥機として東洋理工製の小型減圧乾燥機、株式会社マツイ製の小型減圧伝熱式乾燥機DPTH-40、エーキューエム九州テクノス株式会社製のクリーンドライVD-7、VD-20、中山技術研究所製DM-6などの粉砕機で乾燥され、粉砕される。これにより発酵の工程が効率的に進行されやすい。
用いる納豆菌は学名Bacillus subtilisで日本では納豆の製造や食品加工に汎用され、食経験が豊富で有用な食用菌である。沖縄や鹿児島などの日本産、中国や台湾の東南アジア原産の菌種が用いられる。このうち、納豆素本舗製の納豆菌は高い発酵性を呈することから好ましい。
上記の発酵に関するそれぞれの添加量は、オクラの芽1重量に対して米糠は0.3~5重量、納豆菌は0.004~0.05重量が好ましい。納豆菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
上記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により上記の材料を混合することは好ましい。まず、オクラの芽と米糠は納豆菌により発酵が行われる。発酵は37~42℃で24時間から96時間行われることが好ましい。温度が低く、時間が短い場合には発酵が進まず、温度が高く、時間が長い場合には腐敗するおそれがある。発酵物はろ過されてろ液が以下の工程に供される。
発酵の条件は上記の発酵法に準ずる。納豆菌の発酵によりポリフェノール、タンパク質が分解されて低分子化される。
この発酵したろ液は紅麹菌により発酵される。用いる紅麹菌は、学名Monascaceaeで、食経験が豊富で有用な食用菌である。沖縄や鹿児島などの日本産、中国や台湾の東南アジア原産の菌種が用いられる。このうち、紅麹本舗製の紅麹菌は高い発酵性を呈することから好ましい。
発酵に関するそれぞれの添加量は上記の納豆菌の発酵液1重量に対して紅麹菌は0.001~0.03重量が好ましい。紅麹菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
また、この発酵は、35~48℃に加温され、発酵は4日間から14日間行われる。
発酵後、90℃程度の加温により納豆菌と紅麹菌が死滅し、発酵が停止される。この発酵液は濾過され、ろ液はヒト口腔細胞の培養用培地として利用される。そのため、オートクレーブ滅菌される。これをヒト口腔細胞用培地とする。
この発酵液を培地としてヒト口腔細胞が培養される。ヒトの口腔細胞にはエステル結合酵素やエステル変換酵素が含有されていることからヒト口腔細胞を用いる方法は優れている。つまり、ヒト口腔細胞は倫理的な同意の基にウイルスや細菌に感染していないことを確認した成人ヒトの口腔内より採取される。すなわち、滅菌された綿棒に上記のヒト口腔細胞用培地を浸潤させた後、口腔を摩擦させることにより口腔組織が採取される。摩擦は非侵襲的に実施され、検体採取者に肉体的負荷がかからないように実施する。この検体採取は医療的な行為ではない。
この摩擦された口腔組織は上記のヒト口腔細胞用培地に含有した1%コラゲナーゼ液により細胞が分散される。つまり、ヒト口腔組織を15mL容の滅菌試験管(FALCON製など)に入れ、ヒト口腔細胞用培地に含有した1%コラゲナーゼ液を10mLを添加し、37℃で5分間加温し、撹拌される。加温後、4℃に冷却され、分散された細胞を細胞分離装置(FALCON製のセルストレーナーなど)により回収する。細胞に上記のヒト口腔細胞用培地を添加して細胞を洗浄し、細胞数を1mLあたり1000個として35mm径培養用シャーレ(FALCON製など)に播種され、5%炭酸ガス下、37℃で培養される。
培養は炭酸ガス培養器(たとえば、ヤマト科学製のBNA600など)内で実施される。細胞の状態を顕微鏡で観察しつつ、5日~10日の間培養される。コンフルエントになる前に培養を停止させ、培養液を滅菌ピペット(FALCON製など)により採取し、滅菌遠沈管(FALCON製など)に移す。これを1500rpmにて5分間、遠心分離し、残存する細胞を遠沈させ、上清部分を採取する。この上清部分を100℃、5分間煮沸滅菌して冷却後、メンブレンフィルターにより精密濾過し、清浄な容器に移して目的とするヒドロキシピラン誘導体を含有する溶液とする。
上記の反応物から、目的とするヒドロキシピラン誘導体を上記に記載した精製方法により分離し、精製することは純度の高い物質として摂取量を減少させることができる点から好ましい。特に、ダイヤイオンHP-20を用いたカラムクロマトにより精製する工程は純度が高まり、回収率が高いことから好ましい。なお、この精製工程を3回~5回程度繰り返すことによって純度の高い精製品が得られる。
ヒドロキシピラン誘導体を含む画分を採取して乾燥または真空乾燥により溶媒を除去し、目的とするヒドロキシピラン誘導体を粉末または濃縮液として得ることは溶媒による影響を除外できることから、好ましい。
また、このヒドロキシピラン誘導体を粉末化することは防腐及び安定性の目的から好ましい。
以下、上記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。なお、これらは一例であり、素材、原料や検体の違いに応じて常識の範囲内で条件を変更させることが可能である。
株式会社サラダコスモより購入したオクラの芽を用いた。これを粉砕機(株式会社奈良機械製作所製のスーパー自由ミル)にて粉砕し、オクラの芽の乾燥粉末粉砕物を1kg得た。
また、マルカワみそ株式会社より購入した無農薬の米糠を用いた。粉砕機により粉砕して約1kgを発酵に利用した。
オクラの芽の粉砕物1kg及び米糠の粉砕物1kgを清浄な発酵タンク(滅菌された発酵用丸形40リットルタンク)に入れて滅菌された水道水10kgを添加し、攪拌した。これを煮沸滅菌して滅菌状態を維持させつつ、冷却した。
これとは別に、納豆素本舗より購入した納豆菌の10gを小型発酵タンクに供し、滅菌した大豆粉末とともに前培養させた培養液を用意した。
上記の前培養した納豆菌の溶液を上記のオクラの芽と米糠粉末を入れた発酵タンクに添加し、攪拌後、39~42℃の温度範囲で加温し、発酵させた。
発酵過程では、通気によりバブリングと攪拌を行いつつ、発酵液のサンプリングを行った。発酵の状態は溶出したタンパク質の定量(ビューレット法)によりモニタリングした。
発酵終了後、得られた発酵液の上清を濾過布により粗濾過してろ液を得た。
この発酵ろ液5kgを清浄な発酵タンクに入れ、ここに紅麹本舗製の紅麹菌10gを前培養した紅麹菌を添加して、発酵させた。38~42℃の温度範囲に加温し、発酵を約7日間実施した。
発酵後、90℃設定の加温により納豆菌と紅麹菌を死滅させて発酵を停止された。この発酵液を東洋濾紙の濾紙(No.2)により吸引ろ過し、ろ液をオートクレーブ滅菌し、これをヒト口腔細胞用培地とした。
ヒト口腔細胞は倫理的な同意の基にウイルスや細菌に感染していないことを確認した成人(日本人男性、60歳)の口腔内より採取した。滅菌された綿棒に上記のヒト口腔細胞用培地を浸潤させた後、口腔を摩擦した。この摩擦は検体採取者に肉体的負荷がかからないように実施した。なお、上記の男性以外にも、10名の男性(日本人、22歳~72歳)及び8名の女性(日本人、23歳~80歳)の口腔細胞でも同様に実施し、同様な結果を得た。
摩擦して得られた口腔組織を15mL容の滅菌試験管(FALCON製)に入れ、上記のヒト口腔細胞用培地に含有した1%コラゲナーゼ液10mLを添加し、37℃で5分間加温し、撹拌した。
加温後、4℃に冷却し、分散された細胞を細胞分離装置(FALCON製のセルストレーナー)によりろ液として細胞を回収した。この細胞に上記のヒト口腔細胞用培地を添加して細胞を洗浄し、細胞数を1mLあたり1000個とした。この1mLを35mm径培養用シャーレ(FALCON製など)に播種した、炭酸ガス培養液(ヤマト科学製のBNA600)内で5%炭酸ガス下、37℃で培養した。顕微鏡で観察し、コンフルエントになる前に培養を停止した。
この培養液を滅菌ピペット(FALCON製)により採取し、滅菌遠沈管(FALCON製)に移した。これを1500rpmにて5分間、遠心分離して残存する細胞を遠沈させて上清部分を採取した。
この上清部分を100℃、5分間煮沸滅菌して冷却後、メンブレンフィルターにより精密濾過し、清浄な容器に移して目的とするヒドロキシピラン誘導体を含有する溶液とした。これを検体1とした。培養としてシャーレは50枚程度利用し、これらを合わせて検体1の溶液を41g採取した。
得られた検体1の30gを精製水100mLに懸濁して3%エタノールで膨潤させたダイヤイオンHP-20(三菱化学製)500g入りガラスカラム(3cm径×長さ90cm)に供した。3%エタノール1800mLで洗浄後、15%エタノール1000mLで、さらに洗浄した。
これに50%エタノール700mLを添加して分画を分離した。50mLずつ分画して目的とするヒドロキシピラン誘導体はHPLC法により検出し、ヒドロキシピラン誘導体の分画を採取した。この精製操作を5回実施して最終精製物とした。この液体をエバポレーターにより減圧蒸留してエタノールを蒸発させ、精製されたヒドロキシピラン誘導体の溶液とした。これを検体2とした。
以下に、ヒドロキシピラン誘導体の構造解析に関する試験方法及び結果について説明する。
(試験例1)
上記のように得られた検体1及び検体2を精製水に希釈し、濾過後、高速液体クロマトグラフィ(HPLC、島津製作所)で分析した。
さらに、上記検体1及び検体2を重水素化クロロホルム中、600MHzの核磁気共鳴装置(NMR、ブルカー製)で解析した。構造解析の結果、検体2及び検体1からヒドロキシピランの1分子、ロイシンの1分子、エチレン基の2分子、ジヒドロキシベンゼンの2分子が結合した目的とする誘導体が検出された。
600MHzのH-NHR分析結果では、1.13、1.87、1.97、2.19、3.02、3.12、3.14、3.27、3.39、3.80、3.97、4.41、5.10、5.12、7.50、8.24、9.66及び13.98ppmにピークが認められた。
さらに、C-NMR分析結果では、17.4、29.4、35.3、37.4、53.2、55.4、65.8、67.1、72.6、74.3、87.0、90.6、97.0、109.8、113.6、113.7、117.5、121.7、121.9、131.2、142.8、143.8、158.7、165.2、170.0、171.9、190.7及び193.4ppmにピークが認められた。
以下に、C-NMRの解析結果のチャートを示した。(横軸単位はppm、縦軸単位はピーク強度を示す。)
上記の分析値は有機化学合成されたヒドロキシピラン誘導体のピークと同一であり、目的とするヒドロキシピラン誘導体として同定された。検体2に含まれるこの誘導体は98.2%、つまり、純度98.2%であった。
なお、検体1中のこの誘導体の純度は78.2%であった。
以下に、ヒト由来血管内皮細胞の増殖性及びATP産生に関する確認試験について述べる。
(試験例2)
ヒト由来血管内皮細胞(成人由来、皮膚微小血管タイプ、D10017)をタカラバイオより購入して用いた。この血管内皮細胞は成人皮膚由来であり、皮膚の血管を評価するために適している。このヒト由来血管内皮細胞を専用の培養液(タカラバイオ製)にて5%炭酸ガス下、37℃で培養した。増殖の認められた細胞をトリプシンEDTA液で剥離し、培養液に分散して2000個の細胞を35mm径シャーレ(ファルコン組織培養ディッシュ3001、ファルコン製)に培養液1mLとともに播種した。
これをさらに1日間培養して細胞をシャーレに付着させた。ここに、実施例で採取された検体1、検体2及びVEGFを最終濃度10mg/mL(1%濃度)となるように添加した。対照としたVEGFはヒト細胞で発現させた高活性の組換え体VEGF(ヒューマンザイム製)であり、フナコシより購入して用いた。
さらに、検体2とVEGFを同時に添加する相乗的な作用を調べる群も設定した。なお、溶媒対照として培養液のみを添加する群を設けた。実験は5枚のシャーレで実施し、平均値を求めて溶媒対照との比率にて結果を表記した。
検体処理2日後に、生きた細胞数をトリプシンとEDTA液にて剥離し、培養液に分散してトリパンブルー色素法により顕微鏡下、血球計数盤を用いて計数した。また、細胞を低張処理により破壊した。この細胞分散液に含有されるATP量を化学発光によるATP定量キット(カイマン製)にて定量した。なお、通常の培養液にはVEGFが含有されていないことをHPLC法(島津製作所製)により定量した。VEGFの測定条件はShimpackSCRを用い、移動相として0.1%酢酸含有20%アセトニトリルを用いてカラム温度37℃で290nmの波長で測定した。標準物質として上記のVEGFを用いた。
この実験の結果、溶媒対照に比して検体1による内皮細胞数は182%、検体2では241%、VEGFでは173%となった。さらに、検体2とVEGFの同時添加では、溶媒対照に比して569%になった。この結果から、検体1と検体2はVEGFよりも優れた内皮細胞の増殖作用を示すと考えられた。さらに、検体2はVEGFと相乗作用を示した。
また、ATP含量については、溶媒対照に比して検体1では134%、検体2では202%、VEGFでは114%となった。さらに、検体2とVEGFの同時添加では、溶媒対照に比して433%になった。この結果から、検体1と検体2はATP産生についてVEGFよりも優れた増加作用を示すと考えられた。
なお、活性型であるリン酸化STATの半定量をPhosph-STATCell-Based ELISAキット(R&Dシステム、フナコシより購入)を用いて内皮細胞を96孔マイクロプレート(ファルコン製)に播種して定量した結果、溶媒対照に比して検体1の添加により154%、検体2の添加により232%、VEGFの添加により111%となった。この結果、検体1及び検体2はSTAT1を含むSTATを増加させると結論された。一方、VEGFによるSTATの増加作用は軽度であり、検体1及び検体2が優れていた。
以下に、ヒト由来皮膚表皮細胞の増殖性及びATP産生に関する確認試験について述べる。
(試験例3)
ヒト由来皮膚表皮細胞(成人由来、表皮ケラチノサイト、KGM-Gold)をロンザジャパン株式会社より購入して用いた。この細胞は成人皮膚由来であり、表皮細胞の増殖を評価するために適している。このヒト由来皮膚表皮細胞を専用の無血清培養液(ロンザジャパン製)にて5%炭酸ガス下、37℃で培養した。増殖の認められた細胞をトリプシンEDTA液(和光純薬製)で剥離し、培養液に分散して5000個の細胞を35mm径シャーレ(ファルコン組織培養ディッシュ3001、ファルコン製)に培養液1mLとともに播種した。
これをさらに2日間培養して細胞をシャーレに付着させた。ここに、実施例で採取された検体1、検体2及び陽性対照としたEGFを最終濃度10mg/mL(1%濃度)となるように添加した。対照としたEGFはオリエンタル酵母製のヒト組み換え体EGF(製品コード47061000)を購入して用いた。
さらに、検体2とEGFを同時に添加する群も設定した。なお、溶媒対照として無血清培養液のみを添加する群を設けた。実験は5枚のシャーレで実施し、平均値を求めて溶媒対照との比率にて結果を表記した。
検体処理2日後に、トリプシンとEDTA液にて剥離し、培養液に分散してトリパンブルー色素法により顕微鏡下、生きた細胞数を血球計数盤を用いて計数した。また、細胞を低張処理により破壊した。この細胞分散液に含有されるATP量を化学発光によるATP定量キット(カイマン製)にて定量した。なお、用いた無血清培養液にはEGFが含有されていないことを確認した。
この実験の結果、溶媒対照に比して検体1による皮膚表皮細胞数は163%、検体2では231%、EGFでは155%となった。さらに、検体2とEGFの同時添加では、溶媒対照に比して491%になった。この結果から、検体1と検体2はEGFよりも優れた内皮細胞の増殖作用を示すと考えられた。さらに、検体2はEGFと相乗作用を示した。
また、ATP含量については、溶媒対照に比して検体1では141%、検体2では191%、EGFでは109%となった。さらに、検体2とEGFの同時添加では、溶媒対照に比して266%になった。この結果から、検体1と検体2はATP産生についてEGFよりも優れた増加作用を示すと考えられた。
さらに、細胞を精製水に分散して超音波破砕機により細胞分散液を得た。この細胞分散液中に含まれるケラチン量をELISA法(コスモ・バイオ株式会社)により定量した。その結果、ケラチン量は溶媒対照の値を100%として検体1では138%、検体2では192%、EGFでは128%となった。ケラチンは皮膚組織にとって有用成分であり、皮膚を保護することから、検体1及び検体2はEGFよりも優れた皮膚保護作用を示した。