以下、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
解糖系活性化作用を呈するフェニルプロパノイド誘導体とは、下記の式(1)で示される構造からなるものである。
前記の式(1)のようにシナピルアルコールの1分子とカフェ酸の1分子とフェニルアラニンの1分子からなる。これらの結合はすべて天然型であり、エステル結合を介して結合している。
このフェニルプロパノイド誘導体は化学合成によりシナピルアルコール、カフェ酸及びフェニルアラニンを原料として化学合成して得ることができる。しかし、その化学的な合成では原料のロスが著しいため、産業への利用は限定される。フェニルプロパノイド誘導体の標準品や微量な試供品を得るためには化学合成は好ましい。
このフェニルプロパノイド誘導体の構造を解析することは有効成分の特定ができる点から好ましい。また、製品や製剤に利用する時の含有量の指標などの標準物質として利用できることから好ましい。
このフェニルプロパノイド誘導体の構造解析の一例として、たとえば、重水素化クロロホルム中の400MHzのH−NMRにより、ピークの位置は0.930、1.090〜2.300、2.776、2.918、3.543、5.5〜5.67、6.022〜6.216、6.243、6.51〜6.55、6.586、6.596及び6.843ppmに認められる。
さらに、このフェニルプロパノイド誘導体は高速液体クロマトグラフィーや質量分析装置で解析され、その構造が同定される。
もともとフェニルプロパノイドとはフェニルアラニンを初発として、脱アミノ化によってケイヒ酸になり、さらに、水酸化を受けてクマル酸となり、一連のフェニルプロパノイドとなる。フェニルプロパノイドは自然界の植物、微生物、動物に存在する物質であり、ヒトでは桂皮やシナモンとして食用に利用されており、その安全性は確認されている。
このフェニルプロパノイド自体は弱い脂溶性であり、細胞膜や核膜の脂質二重膜を通過しやすく、細胞質、ミトコンドリア膜や核内遺伝子に到達することからドラッグデリバリーの点から利点があり、薬動力学の点からも効果が確実に発揮されることから好ましい。
特に、細胞質では解糖系を活性化してグルコースからピルビン酸の産生及びATP産生を促進させる。解糖系の活性化のメカニズムとしては解糖系の酵素の活性化であり、ホスホグリセリン酸キナーゼに対する活性化作用が著しい。
ヒトの細胞を用いた研究では細胞質の解糖系が4倍〜6倍程度に活性化する。この解糖系活性化の程度は細胞の種類により異なるものの、皮膚上皮細胞、神経細胞、筋肉細胞、肝臓細胞など全身の細胞で認められる。
また、酵母や発酵に用いる有用な微生物に対しても解糖系を活性化し、物質産生を増加させ、発酵を促進させる。この発酵促進の働きは反応性が低い発酵にも活用できる。つまり、反応性の乏しい発酵を促進することにより、目的とする発酵物の生成を促進することは好ましい。
このフェニルプロパノイド誘導体の中で構造の中心となるシナピルアルコール部分は化学式C11H14O4で桂皮酸を経て生合成される天然成分である。抗酸化、抗菌性、抗炎症、ホルモン調節、エネルギー産生、酵素活性化や抑制作用など様々な機能を有している。
また、シナピルアルコールにはベンゼン環に2つのメソキシ部分と水酸基を一つ有しており、このアルコール部分も反応性が高く、脂肪酸や有機酸との間にエステルを形成しやすい性質がある。
また、構成成分であるカフェ酸は化学式C9H8O4のフェニルプロパノイドの一種である。コーヒーなどにも含まれる有機酸で、抗酸化、抗菌性に加えて血流促進、血圧低下などの働きがある。また、食経験も豊富で安全性が確認されている。
このカフェ酸はキナ酸とともにクロロゲン酸を形成するなど反応性に富んだ有機酸である。ベンゼン環には2つのフェノール性水酸基が存在しており、このフェノール性水酸基が抗酸化作用と抗菌作用を発揮している。
また、カフェ酸は血管平滑筋細胞内に取り込まれてカルシウムの取り込みと代謝を調整することにより血圧や血流をコントロールする。この血流の増加は吸収及び代謝機能を改善させることから好ましい。
フェニルプロパノイド誘導体ではシナピルアルコールのアルコール性水酸基とカフェ酸のカルボン酸部分がエステル結合している。カフェ酸のベンゼン環の水酸基はすべて遊離型であり、カフェ酸の抗酸化、抗菌性及び血流作用は維持されている。
また、構成成分であるフェニルアラニンは分子式C9H11O2でありL型であり、必須アミノ酸の一つである。ベンゼン環は疎水性を有し、生体内でチロシンに変換される。また、神経伝達物質であるドーパ、ドーパミンとノルアドレナリンとアドレナリンへと誘導される。
フェニルアラニンは神経伝達物質を産生することから、神経細胞に対する刺激作用を呈することは、神経や脳機能の保護の点から好ましい。その作用機序としてNGF受容体の活性化とmRNAレベルでのアップレギュレーションが関与している。
フェニルプロパノイド誘導体ではフェニルアラニンは疎水性を高めるとともに、シナピルアルコールに電子を供給することにより、構造の安定化に供する。その結合はシナピルアルコールのベンゼン環の水酸基とフェニルアラニンのカルボン酸部分がエステル結合している。
このフェニルプロパノイド誘導体は細胞質内で解糖系を活性化する。その結果、細胞のATP産生とピルピン酸産生が増加して酸素が少ない状況でも肌の血流を増加させ、肌細胞の再生と修復機能を高める。また、その抗酸化力によりシミの原因となるメラニンの産生を抑制して美白作用を呈する。その作用機序としてEGF受容体の活性化とmRNAレベルでのアップレギュレーションが関与しており、EGFとの併用により活性化されることは好ましい。
また、このフェニルプロパノイド誘導体は神経細胞の細胞質に到達して細胞質の解糖系を活性化して神経細胞活動を亢進させる。特に、虚血や脳梗塞により低酸素状態にある脳ではATP産生を促し、神経活動を亢進させる。
特に、大脳皮質ではアミロイドの形成を抑制してアルツハイマー病の予防と治療に利用されることは好ましい。NGFとの併用によりこの働きが活性化されることは好ましい。
このフェニルプロパノイド誘導体は心筋梗塞においては冠状動脈の梗塞による虚血状態でも心筋のATP産生を増加させて心筋の活動を維持させることにより心筋梗塞の予防と治療に効果を発揮する。特に、梗塞部位の血管平滑筋においてこのフェニルプロパノイド誘導体は弛緩作用を発揮して血流を改善する。
また、このフェニルプロパノイド誘導体は無呼吸状態で解糖系を介してATPを産生することにより運動時の筋肉の収縮を高めることは好ましい。特に、アスリートが筋肉を増強したい場合、筋肉細胞でのグルコース利用を高めてピルビン酸とATPを産生させることから好ましい。
また、このフェニルプロパノイド誘導体は癌の抑制を目的とした免疫療法にも利用できる。癌により機能の低下したマクロファージ、ナチュラルキラー細胞やランゲルハンス細胞などの免疫細胞の解糖系を活性化することにより免疫機能を亢進させ、癌や免疫疾患に対する免疫療法に利用できる。
このフェニルプロパノイド誘導体は生体内では腎臓のエステラーゼにより分解され、尿中に排泄される。分解されて構成成分であるシナピルアルコール、カフェ酸とフェニルアラニンに分解される。したがって、このフェニルプロパノイド誘導体は体内に蓄積されることはなく、分解も生体内酵素で行われ、分解物も天然物であることから安全性が高い。
このフェニルプロパノイド誘導体は脂肪細胞膜に浸透しやすく、中性脂肪の分解を高め、糖質も分解させる。糖質が消費されることから糖尿病の予防やダイエット対策にも好ましい。
さらに、このフェニルプロパノイド誘導体は皮膚上皮細胞の炎症も抑制し、シワの形成を抑制する。また、角質細胞を安定化させることにより皮膚角質のバリア機能を維持し、異物や刺激物、細菌の侵入を抑制する。この働きは化粧料として利用できる。特に、EGFとの併用により皮膚表皮の幹細胞が増殖されることは好ましい。
このフェニルプロパノイド誘導体は解糖系を活性化することによりマクロファージやリンパ球などの細胞を活性化することから免疫賦活剤や抗アレルギー剤として利用できる。また、このフェニルプロパノイド誘導体は神経細胞の細胞膜に働き、神経細胞の解糖系を活性化して細胞膜の電位と神経の伝導を高めることにより認知症やアルツハイマー症、パーキンソン症の治療剤に適する。
また、このフェニルプロパノイド誘導体は分解された構成成分がすべて自然界に存在する物質であり、その食経験や化粧品としての利用実績が豊富であることから安全性が確認されている。さらに、このフェニルプロパノイド誘導体は眼の角膜細胞、水晶体細胞、網膜細胞の解糖系を活性化することにより結膜炎、白内障、緑内障、網膜剥離による細胞の増殖を促進し、視力の回復に利用される。
このフェニルプロパノイド誘導体は天然にも存在しており、エゾウコギの根などに極微量認められる。このフェニルプロパノイド誘導体を精製により上記の植物から抽出することは可能である。ただし、精製には大量の原料を必要とすることから、製造方法として産業上への利用は制限される。
このフェニルプロパノイド誘導体はエゾウコギの根を発酵法などにより増加させることは好ましい。発酵の方法としては大豆と混合して納豆菌やベニコウジ菌により発酵させて得る。この方法は食経験があり、フェニルプロパノイド誘導体の産生量も多いことから好ましい。
得られたフェニルプロパノイド誘導体を医薬品素材として利用する場合、目的とするフェニルプロパノイド誘導体を精製することは、目的とするフェニルプロパノイド誘導体の純度が高まり、不純物を除去できる点から好ましい。
医薬品として、注射剤または経口剤または塗布剤などの非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、塗布剤、ゲル剤、歯磨き粉等に配合されて利用される。
経口剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。前記の錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。
また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の液体担体を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を添加することができる。
非経口剤としては、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。
注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
食品製剤として解糖系を活性化させることによる細胞機能性の活性化や免疫改善をもたらすサプリメント、滋養強壮系の食品、皮膚の健康を維持する美容サプリメント、神経、肝臓や腎臓の機能を向上させる健康食品、筋肉を増強し、脂肪を分解するダイエットなどを目的とした健康食品や美容食品などに利用される。また、保健機能食品として栄養機能食品や特定保健用食品に利用することは好ましい。
得られた食品製剤をイヌやネコなどのペットや家畜動物に利用する場合、解糖系の活性化を介して全身の上皮組織や筋肉、骨細胞の強化を目的とした飼料やペットサプリメントとして利用される。
化粧料として常法に従って界面活性化剤、溶剤、増粘剤、賦形剤等とともに用いることができる。例えば、クリーム、毛髪用ジェル、洗顔剤、美容液、化粧水等の形態とすることができる。
化粧料の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状または粉末状として用いることができる。
得られた化粧料は低酸素状態でも解糖系を活性化してATP産生を高めることにより皮膚細胞の増殖を促し、ケラチンやコラーゲンの産生を促進することにより、シワを防止し、たるみを防ぐことは好ましい。さらに、解糖系を活性化させ、メラニンの産生を抑制することによる美白作用が発揮される。
また、このフェニルプロパノイド誘導体はフェノール性の水酸基により抗菌作用と抗酸化作用を発揮し、炎症の抑制と歯肉細胞の活性化を目的とした歯磨き剤、洗口液や歯磨きペーストなどに利用できる。
次に、エゾウコギの根、大豆粉末と納豆菌を添加して発酵させた発酵液をベニコウジ菌で発酵する工程からなる前記の式(1)で示される解糖系活性化作用を呈するフェニルプロパノイド誘導体の製造方法について説明する。
ここでいうフェニルプロパノイド誘導体とはシナピルアルコールの1分子とカフェ酸の1分子とフェニルアラニンの1分子からなる物質であり、これらの結合はすべて天然型であり、エステル結合である。フェニルプロパノイド誘導体は細胞内の細胞質に浸透し、解糖系を活性化することにより、虚血、脳梗塞、心筋梗塞、炎症や癌の増殖を抑制する。
このフェニルプロパノイド誘導体のシナピルアルコールとカフェ酸とフェニルアラニンは天然に存在し、食経験も豊富であり、安全性が認められていることから好ましい。
この誘導体は皮膚、神経、骨、筋肉、肝臓や腎臓などにも働き、解糖系を活性化してATPを産生することにより、細胞を増殖させ、血流を改善し、炎症を抑制する。
この製造方法とはエゾウコギの根、大豆粉末と納豆菌を添加して発酵させた発酵液をベニコウジ菌で発酵する工程からなる。
原料となる物質はエゾウコギの根、大豆粉末、納豆菌及びベニコウジ菌である。
ここでいうエゾウコギは学名Acanthopanax senticosusまたはEleutherococcus senticosusであり、ウコギ科タラノキ属の多年草の植物である。その根には香りを呈し、山菜としても食用されている。食経験も豊富である。
また、エゾウコギの根を利用した漢方薬は五加皮(ごかひ)であり、筋肉の増強、骨の強化、抗炎症の働きが知られている。エゾウコギの根にはタンニンやポリフェノール、有機酸、ミネラル、色素、ポリフェノール、桂皮酸類が含有されていることからフェニルプロパノイド誘導体を製造する原料として好ましい。
エゾウコギの根は日本、中国、台湾、アメリカなどいずれの国の由来でも良い。特に、日本産で低農薬や減農薬で生産されたものは好ましい。たとえば、北海道にある合同会社園芸科学が栽培したエゾウコギは品質が良いことから好ましい。
エゾウコギの根は乾燥され、粉末化されることが好ましく、発酵の前にオートクレーブ滅菌されることは発酵をスムーズに行うることから好ましい。
3マイクロメーター以下の粒子サイズの粉末が発酵の工程を実施しやすくすることから好ましい。
原料となる大豆粉末は、日本産、中国産、アメリカ産、ロシア産などいずれの産地の大豆でも利用できるが、トレーサビリティーが確実であり、生産者が明確である日本産が好ましい。
このうち、有機栽培や無農薬で栽培された大豆は有害な農薬や金属を含有しないことから、さらに好ましい。
大豆は使用に際して、株式会社奈良機械製作所製の自由ミル、スーパー自由ミル、サンプルミル、ゴブリン、スーパークリーンミル、マイクロス、減圧乾燥機として東洋理工製の小型減圧乾燥機、株式会社マツイ製の小型減圧伝熱式乾燥機DPTH−40、エーキューエム九州テクノス株式会社製のクリーンドライVD−7、VD−20、中山技術研究所製DM−6などの粉砕機で粉砕される。これにより発酵の工程が効率的に進行されやすい。
さらに、エゾウコギの根と大豆は粉砕後、オートクレーブなどにより滅菌されることは雑菌の繁殖を防御できることから好ましい。
用いる納豆菌は学名バチルス サブチリスで日本では納豆の製造に汎用され、食経験が豊富で有用な食用菌である。沖縄や鹿児島などの日本産、中国や台湾の東南アジア原産の菌種が用いられる。用いる納豆菌は高い発酵性を呈する。
この納豆菌はエゾウコギの根と大豆からなるシナピルアルコールとカフェ酸とフェニルアラニンの結合を促進する。
前記の発酵に関するそれぞれの添加量はエゾウコギの根の乾燥粉末1重量に対し、大豆粉末は0.05〜5重量及び納豆菌は0.001〜0.05重量が好ましい。納豆菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
また、この発酵は40〜43℃に加温され、発酵は1日間から10日間行われる。目的とするフェニルプロパノイド誘導体をHPLCやTLCにより定量することならびに、菌体の増殖性を確認することにより、発酵の工程管理を実施することは好ましい。
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
この発酵の工程によってシナピルアルコールとカフェ酸とフェニルアラニンとが結合するものの、その結合が不安定であることから次のベニコウジ菌による発酵を行う。
用いるベニコウジ菌は学名Monascuc purpureusの糸状菌であり、古くから日本、中国や台湾において紅酒や豆腐ようなどの発酵食品に利用されている。また、沖縄や鹿児島などの日本産、中国や台湾の東南アジア原産の菌種が用いられる。ベニコウジ菌は発酵効率に優れている。
前記の発酵に関するそれぞれの添加量は前記の発酵物1重量に対してベニコウジ菌は0.0003〜0.008重量が好ましい。ベニコウジ菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
また、この発酵は40〜43℃に加温され、発酵は1日間から8日間行われる。この発酵の工程によってベニコウジ菌の還元作用によりこのフェニルプロパノイド誘導体の構造が安定化される。
前記の発酵物は含水エタノールで抽出されることは、生成物を効率良く回収し、菌を滅菌でき、次の工程が実施しやすいことから、好ましい。また、得られた発酵物を超音波処理することは、生成物が分離しやすいことから、好ましい。また、凍結乾燥などにより、濃縮することは、以下の工程が短時間に実施できることから好ましい。
前記の還元反応物から、目的とするフェニルプロパノイド誘導体を分離し、精製することは純度の高い物質として摂取量を減少させることができる点から好ましい。この精製の方法としては、分離用の樹脂などの精製操作を利用することが好ましい。
例えば、分離用担体または樹脂により分離され、分取されることにより目的とするフェニルプロパノイド誘導体が得られる。分離用担体または樹脂としては、表面が後述のようにコーティングされた、多孔性の多糖類、酸化珪素化合物、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン−ビニルベンゼン共重合体等が用いられる。0.1〜300μmの粒度を有するものが好ましく、粒度が細かい程、精度の高い分離が行なわれるが、分離時間が長い欠点がある。
例えば、逆相担体または樹脂として表面が疎水性化合物でコーティングされたものは、疎水性の高い物質の分離に利用される。陽イオン物質でコーティングされたものは陰イオン性に荷電した物質の分離に適している。また、陰イオン物質でコーティングされたものは陽イオン性に荷電した物質の分離に適している。特異的な抗体をコーティングした場合には、特異的な物質のみを分離するアフィニティ担体または樹脂として利用される。
アフィニティ担体または樹脂は、抗原抗体反応を利用して抗原の特異的な調製に利用される。分配性担体または樹脂は、シリカゲル(メルク社製)等のように、物質と分離用溶媒の間の分配係数に差異がある場合、それらの物質の単離に利用される。
これらのうち、製造コストを低減することができる点から、吸着性担体または樹脂、分配性担体または樹脂、分子篩用担体または樹脂及びイオン交換担体または樹脂が好ましい。さらに、分離用溶媒に対して分配係数の差異が大きい点から、逆相担体または樹脂及び分配性担体または樹脂はより好ましい。
分離用溶媒として有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒に耐性を有する担体または樹脂が用いられる。また、医薬品製造または食品製造に利用される担体または樹脂は好ましい。
これらの点から吸着性担体としてダイヤイオン(三菱化学(株)社製)及びXAD−2またはXAD−4(ロームアンドハース社製)、分子篩用担体としてセファデックスLH−20(アマシャムファルマシア社製)、分配用担体としてシリカゲル、イオン交換担体としてIRA−410(ロームアンドハース社製)、逆相担体としてDM1020T(富士シリシア社製)がより好ましい。
これらのうち、ダイヤイオン、セファデックスLH−20及びDM1020Tはさらに好ましい。
得られた抽出物は、分離前に分離用担体または樹脂を膨潤化させるための溶媒に溶解される。その量は、分離効率の点から抽出物の重量に対して2〜50倍量が好ましく、4〜20倍量がより好ましい。分離の温度としては物質の安定性の点から11〜39℃が好ましく、12〜37℃がより好ましい。
分離用溶媒には、水、または、水を含有する低級アルコール、親水性溶媒、親油性溶媒が用いられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが用いられるが、食用として利用されているエタノールが好ましい。
セファデックスLH−20を用いる場合、分離用溶媒には低級アルコールが好ましい。シリカゲルを用いる場合、分離用溶媒にはクロロホルム、メタノール、酢酸またはそれらの混合液が好ましい。
ダイヤイオン及びDM1020Tを用いる場合、分離用溶媒はメタノール、エタノール等の低級アルコールまたは低級アルコールと水の混合液が好ましい。
フェニルプロパノイド誘導体を含む画分を採取して乾燥または真空乾燥により溶媒を除去し、目的とするフェニルプロパノイド誘導体を粉末または濃縮液として得ることは溶媒による影響を除外できることから、好ましい。
また、最終抽出を食用油や化粧料に用いる油脂で実施することは、得られるフェニルプロパノイド誘導体が安定に維持されることから好ましい。例えば、大豆油、米ぬか油、グレープシード油、オリーブ油、ホホバ油で抽出することは好ましい。
また、このフェニルプロパノイド誘導体を粉末化することは防腐の目的から好ましい。
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。なお、これらは一例であり、素材、原料や検体の違いに応じて常識の範囲内で条件を変更させることが可能である。
北海道で減農薬と有機肥料により栽培されたエゾウコギの新根を合同会社園芸科学より購入して用いた。この葉を水道水で水洗後、天日で乾燥させ、粉砕機(株式会社奈良機械製作所製のスーパー自由ミル)にて粉砕し、エゾウコギの根の乾燥粉末粉砕物を1.0kg得た。
北海道産の大豆をミキサー(クイジナート製)に供し、大豆の粉砕物1.0kgを得た。前記のエゾウコギの根と大豆の粉砕物をオートクレーブに供し、121℃、20分間、滅菌した。
これらを清浄な発酵タンク(滅菌された発酵用丸形40リットルタンク)に入れ、滅菌された水道水5kgを添加し、攪拌した。
これとは別に、納豆本舗製の粉末納豆菌の10gを小型発酵タンクに供し、滅菌した大豆粉末と前培養させた発酵準備液を用意した。
前記の前培養した納豆菌の発酵準備液とエゾウコギの根の乾燥粉末と大豆とを入れた発酵タンクに添加し、攪拌後、41〜42℃の温度範囲で加温し、発酵させた。
発酵過程では、通気によりバブリングと攪拌を行いつつ、発酵液のサンプリングを行った。発酵終了後、発酵タンクより発酵物を取り出し、煮沸滅菌した。この発酵物を濾過布により濾過して、納豆菌による発酵液1.3kgを得た。この発酵液1kgに対して紅麹本舗製のベニコウジ菌の11gを添加して39℃で5日間発酵させた。
この発酵物にエタノールを添加して煮沸滅菌した。これを濾過し、濾過液を目的とするフェニルプロパノイド誘導体とした。これを検体1とした。
さらに、構造解析及び実験の目的で精製物を得た。つまり、前述の検体1のフェニルプロパノイド誘導体の100gに6%エタノール含有精製水の1Lを添加し、ダイアイオン(三菱化学製)500gを6%エタノール液に懸濁して充填したガラス製カラムに供した。
これに3Lの6%エタノール液を添加して清浄し、さらに、75%エタノール液を1L添加して目的とするフェニルプロパノイド誘導体を溶出させ、濃縮して精製した。精製されたフェニルプロパノイド誘導体を減圧蒸留により、エタノール部分を除去し、水溶液とした。これをフェニルプロパノイド誘導体の精製物22gを得てこれを検体2とした。
以下に、フェニルプロパノイド誘導体の構造解析に関する試験方法及び結果について説明する。
(試験例1)
上記のように得られた検体2をエタノールに溶解し、質量分析器付き高速液体クロマトグラフィ(HPLC、島津製作所)で分析した。
これを核磁気共鳴装置(400MHz、H−NMR、ブルカー製)で解析した結果、検体2からシナピルアルコールとカフェ酸とフェニルアラニンの各1分子からなるフェニルプロパノイド誘導体が検出された。
すなわち、H−NMRの重水素化クロロホルム中ケミカルシフトは0.930、1.090、1.592、2.291、2.300、2.776、2.918、3.543、5.501、5.506、5.670、6.022、6.216、6.243、6.512、6.556、6.586、6.596、6.843ppmにピークを認めた。
上記の解析結果は、化学的に合成した標準品と同一構造を呈することが判明した。すなわち、検体2からシナピルアルコール1分子とカフェ酸1分子とフェニルアラニン1分子がエステル結合したフェニルプロパノイド誘導体であると確認できた。
以下にヒト皮膚上皮細胞を用いた確認試験について述べる。
(試験例2)
クラボウ株式会社より購入したヒト由来皮膚上皮細胞を用いた。培養液として5%牛胎児血清含有MEM培地(Sigma製)を用いて培養した、1000個の細胞を35mm培養シャーレ(FALCON製)に播種し、5%炭酸ガス下、37℃で培養した。これを紫外線照射装置(アイグラフィクス株式会社製)により紫外線照射した。さらに、前記の検体1、検体2及び陽性対照としてEGF(フナコシ(株)、ヒトタイプ)を0.1mg/mlの最終濃度で添加した。これを48時間培養して試験した。
細胞を剥離後、細胞数を計数した後、細胞懸濁液を調整した。また、この細胞懸濁液から細胞質分画をショ糖密度遠心法により精製した。この部分を用いて細胞質の解糖系活性を嫌気的条件下でのATP産生(和光純薬製東洋インキのATP測定キット)を指標として分光光学的に定量した。さらに、細胞内のケラチン量について抗ケラチン抗体(低分子タイプ)を用いたELISA法にて測定した。なお、シャーレは5枚を用いてその平均値を算出した。溶媒を添加した溶媒対照群と比較した。また、一部、EGFと検体2との相乗効果についても調べた。
その結果、検体1の0.1mg/mlの添加により皮膚上皮細胞数は溶媒対照群に比して平均値として155%に増加した。また、検体2では256%に増加した。一方、EGFでは146%の増加であり、検体1及び検体2の方が優れていた。さらに、EGFとの相乗効果も認められ、細胞数は390%に増加した。
細胞質の解糖系活性については検体1により溶媒対照群に比して177%に増加した。また、検体2の添加によって溶媒対照の415%と、増加が認められた。EGFでは244%となり、検体1及び検体2による解糖系活性化作用が著しかった。EGFとの相乗効果も認められ、細胞数は789%に増加した。
解糖系活性化作用は細胞活性の指標でもあることから、検体1と検体2の処理で解糖系の活性が増加したことは検体1と検体2により細胞活性化作用が確認された。また、EGFとの相乗効果も認められた。
細胞内ケラチン量については検体1により溶媒対照群に比して177%に増加した。また、検体2の添加によっては溶媒対照の285%となった。EGFでは153%となり、検体1及び検体2の方がケラチン産生の増加に優れていた。EGFとの相乗効果も認められ、細胞数は655%に増加した。
以下にヒト神経細胞の障害モデルを用いた確認試験について述べる。
(試験例3)
コスモバイオから購入したヒト神経細胞(Human Neurons(HN))を用いた。培養液としては、専用の培養液(神経細胞増殖培地)を用いて培養した、1000個の細胞を35mm培養シャーレに播種し、5%炭酸ガス下、37℃で培養した。これに1%のアクリルアミド水溶液を添加して神経細胞を弱らせた。
ここに、前記の実施例1で得られた検体1及び検体2、陽性対照としてNGF(フナコシ(株)、ヒトタイプ)を0.1mg/mlの最終濃度で添加した。これを48時間培養した。
培養後、細胞を剥離後、細胞数を計数した後、神経細胞懸濁液を調整した。この細胞懸濁液から細胞質分画をショ糖密度遠心法により精製した。この部分を用いて細胞質の解糖系活性を嫌気的条件下でのATP産生(和光純薬製東洋インキのATP測定キット)を指標として分光光学的に定量した。さらに、細胞内のケラチン量について抗ケラチン抗体(低分子タイプ)を用いたELISA法にて測定した。なお、シャーレは5枚を用いてその平均値を算出した。溶媒を添加した溶媒対照群と比較した。
その結果、検体1の0.1mg/mlの添加により神経細胞数が溶媒対照群に比して平均値として152%に増加した。また、検体2では244%に増加した。一方、NGFでは149%の増加であり、検体1及び検体2の方が優れていた。
神経細胞内の細胞質の解糖系活性については検体1により溶媒対照群に比して161%に増加した。また、検体2の添加によっては溶媒対照の242%と増加した。NGFでは133%となり、検体1及び検体2の方がNGFに比べて解糖系活性化作用に優れていた。さらに、別の試験ではNGFとの相乗効果も確認された。