以下、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
皮膚幹細胞の活性化作用を呈するフラボノイド誘導体とは、下記の式(1)で示される構造体である。
前記の式(1)のように皮膚幹細胞の活性化作用を呈するフラボノイド誘導体はフラボノイドの1分子、没食子酸の1分子及びグアニンの1分子から構成されている。
これらの分子及びその結合はすべて自然界に存在する天然型であり、各分子間はエステル結合などを介して結合している。
このフラボノイド誘導体はフラボノイド、没食子酸及びグアニンを原料として化学合成により生成される。
しかし、その化学的な合成では原料の損失が多く、製造コストが高くなるため、産業への利用は限定される。化学合成された純度の高いフラボノイド誘導体は分析の標準品や微量な試供品を得るために用いられる。
このフラボノイド誘導体の構造を解析することは有効成分の特定ができる点から好ましい。また、製品や製剤に利用して販売する際の有効成分の含有量の指標として利用できることから好ましい。
このフラボノイド誘導体の構造解析の一例として化学合成された高純度(純度90%以上)の標準品を用いて重水素化ジメチルスルホキシド中の90MHzのH−NMRにより解析した場合、ピークの位置は3.074、3.425、3.774、3.807、4.007、4.085、4.194、5.717、7.137、7.269、7.356、7.393、7.721、9.257、10.212及び13.542ppmに認められる。
さらに、このフラボノイド誘導体は高速液体クロマトグラフィーや質量分析装置で解析され、その構造が同定される。
この構成成分であるフラボノイドは天然に存在している化合物である。フラボノイドの化学式はC16H17O4であり、分子量は273である。
このフラボノイドはポリフェノールの一種であり、抗炎症作用、抗腫瘍作用、脂肪燃焼作用、神経保護作用、育毛作用や抗菌作用などの優れた働きを呈する。
このフラボノイド誘導体ではフラボノイドは側鎖のベンゼン環の3位でグアニンの複素環の窒素元素と共有結合している。また、側鎖のベンゼン環の5位の水酸基と没食子酸のカルボン酸とエステル結合した構造を呈する。
このフラボノイドとグアニンと没食子酸の結合は没食子酸の水酸基による抗酸化作用により活性酸素やフリーラジカルなどから守られ、構造が安定化する。
さらに、このフラボノイド誘導体は吸収率と反応性が高くなる。つまり、フラボノイド骨格による疎水性と没食子酸の水酸基による水溶性及びグアニンによる塩基性が加わり、両親媒性とpHに対する緩衝能力を呈することにより吸収が高まる。
構成成分である没食子酸はgallic acidといわれ、化学式C7H6O5で天然に存在するタンニンの一種である。この没食子酸は植物や動物に保持され、フェニルアラニンやフェノールや安息香酸から誘導される。
没食子酸は防腐作用や抗菌作用を目的として植物が生合成するタンニンであり、緑茶、シラカバ、松の葉や枝など、植物や自然界に豊富に存在する。食経験も豊かであり、その安全性は確認されている。
このフラボノイド誘導体において没食子酸部分は抗酸化作用の他に、DNA分子を加齢、酸化、活性酸素や紫外線から防御して遺伝子を保護する働きがある。遺伝子の安定化に寄与している。また、ラジカルスカベンジャー作用を呈してラジカルを消去する。ラジカル類はコラーゲンやエラスチンなどのたんぱく質を分解することから、ラジカルを消去する働きは組織の保護の目的でも好ましい。
さらに、没食子酸のカルボン酸部分は弱酸性に荷電していることから、耐酸性が強く、経口摂取された場合に、胃酸に対して抵抗性を示し、結果としてフラボノイド誘導体の体内への吸収率が高まることは好ましい。また、中性であるため、皮膚に塗布した場合、皮膚に対して刺激性がないことは安全性の点から好ましい。
構成成分の一つであるグアニンは核酸の成分であり、化学式C5H5N5Oであり、分子量151.13である。このグアニンはDNAやRNAの構成成分であることから、遺伝子に直接働く。グアニンは活性酸素によりグアニンの8位の炭素元素が酸化されて8ヒドロキシグアニンに変換しやすく、この酸化体は遺伝子の切断や変異を発生させる。また、細胞機能を低下させ、疾患につながる。
このフラボノイド誘導体のグアニン部分にはDNAやRNAの酸化やラジカルによる分解を防御する働きがある。つまり、フラボノイド誘導体のグアニン部分は酸化による酸化体の形成の代わりに参加されることにより遺伝子の酸化や変異が抑制される。
このフラボノイド誘導体は両親媒性であることにより、細胞内に浸透しやすく、また、核膜内に到達しやすく、遺伝子に直接作用することは好ましい。
また、フラボノイド誘導体は疎水性を呈して核膜に浸透して皮膚幹細胞を活性化する。この幹細胞の活性化のメカニズムはDNAポリメラーゼの遺伝子レベルでの活性化及びEGF(Epidermal Growth Factor)受容体の活性化である。
つまり、DNAポリメラーゼはDNAを複製し、核酸を増加させ、細胞を増殖させる鍵となる酵素である。フラボノイド誘導体はDNAポリメラーゼを活性化させる。このフラボノイド誘導体はDNAポリメラーゼを活性化させる作用により皮膚幹細胞は活性化する。
さらに、フラボノイド誘導体はEGF受容体の反応性を活性化するメカニズムは受容体の親和性の増加であり、EGF受容体の立体構造を変化させることによりEGF受容体の反応性が高まる。同時に、FGF受容体も活性化されることは好ましい。すなわち、EGFとの併用により相乗効果が認められることは好ましい。
また、フラボノイド誘導体は8−オキソグアニンDNAグリコシラーゼまたは8−ヒドロキシルデオキシグアニンDNAグリコシターゼ(いずれもOGG1と略す)の活性化も誘発する。
DNAポリメラーゼは遺伝子の増殖と修復を行う酵素である。遺伝子の障害の対する修復の一つにSOS修復といわれるDNAポリメラーゼを介した修復作用がある。この修復は塩基の変化や付加体に働き、DNA鎖の切断と複製を行う工程からなる。
OGG1は8OHdGのような塩基の酸化体の排除と正常な塩基の組み込みを行う工程である。このフラボノイド誘導体はOGG1の活性中心に働きかけてOGG1の働きを高める。この遺伝子修復の働きはEGFとの相乗作用が認められることから好ましい。
このフラボノイド誘導体による幹細胞の活性化は核内に遺伝子が存在するすべての幹細胞にも働く。さらに、遺伝子の障害の方法も活性酸素、フリーラジカル、紫外線、化学物質、医薬品の副作用、金属、加齢などすべての物質による障害に対応する。たとえば、神経幹細胞の遺伝子の障害に対しても修復させ、神経幹細胞を活性化する。
さらに、フラボノイド誘導体は皮膚の角質細胞膜も通過しやすく、角質層のバリア機能を維持する働きにより肌の健康や美容が保持される点は好ましい。また、このフラボノイド誘導体は細胞膜を通過し、皮膚細胞内で皮膚幹細胞を活性化して細胞の再生や機能を促進することから好ましい。
植物に対してはこのフラボノイド誘導体が植物の細胞壁と細胞膜を通過して植物細胞内に入り、皮膚幹細胞を促進し、花の開花や結実、葉の成長を促進して植物の寿命を延長することは好ましい。すなわち、植物活性化剤としての働きがある。
また、このフラボノイド誘導体は両親媒性であり、水溶性の化粧水と油性のクリームのいずれにも配合できる点は好ましい。このフラボノイド誘導体は遺伝子の修復に働き、細胞の増殖、正常なコラーゲンやエラスチン産生を促進することにより皮膚細胞機能を促進することは好ましい。
たとえば、神経においても神経幹細胞を活性化する。神経幹細胞は認知症、アルツハイマー症などで活性酸素やアミロイドβたんぱく質による遺伝子の障害を受けやすく、遺伝子は修復されにくいという弱点がある。そのため、このフラボノイド誘導体による神経幹細胞の活性化は神経の働きを回復させることは神経疾患の防御と回復の目的で好ましい。
また、神経終末からの神経伝達物質の放出を促進して神経伝達を高めることは好ましい。また、運動神経細胞の神経末端からのアセチルコリンの放出を高めることにより筋肉の収縮を高めて神経と筋肉の活動性を増すことは好ましい。
また、このフラボノイド誘導体は皮膚細胞の皮膚幹細胞を高めてコラーゲンやエラスチンの産生を高めることは好ましい。化粧料としての利用が高まることから好ましい。
このフラボノイド誘導体は心筋梗塞においては冠状動脈の梗塞や虚血状態でも心筋の幹細胞を活性化して心臓の活動を活性化して強心作用を発揮することは好ましい。
特に、梗塞部位の血管においてはこのフラボノイド誘導体は血管新生を促進し、血流の改善し、血圧を低下させる。
また、このフラボノイド誘導体はアスリートや運動時、筋肉を増強したい場合、筋肉細胞の遺伝子レベルでのエネルギー産生を活性化することから好ましい。
このフラボノイド誘導体は生体内では腎臓や肝臓のエステラーゼにより分解され、尿中に排泄される。分解されて構成成分である安全性の高いフラボノイド、没食子酸及びグアニンに分解される。したがって、このフラボノイド誘導体は体内に蓄積されることはなく、分解も生体内酵素で行われ、分解物も天然物であることから安全性が高い。
さらに、フラボノイド部分には植物の生育を促進する植物活性化作用がある。すなわち、このフラボノイド誘導体は植物の生育を促進できる点は産業上の利用の点から好ましい。
また、植物が細菌やウイルスに感染した場合、遺伝子が障害を受ける場合がある。このような遺伝子の障害に対して幹細胞を活性化することは好ましい。
このフラボノイド誘導体は天然にも存在しており、マツバランの葉、エーデルワイスの花、蘭の花、キンカンなどのかんきつ類、植物の新芽、蕾などの原基組織やその他の植物にも認められる。特に、マツバランの葉、蘭の花の蕾などは利用しやすい。
このフラボノイド誘導体を上記の植物から抽出することは可能である。ただし、精製には大量の原料を必要とし、有機溶媒などを利用することから産業上への利用は制限される。
このフラボノイド誘導体はマツバランの葉、エーデルワイスの花や蘭の花、マツバランの葉を発酵法などにより増加させることは好ましい。発酵法としては大豆と混合して納豆菌やベニコウジ菌により発酵させて得る。用いる菌体は食用に利用できるものであるため、安全性が高い。
この方法は食経験があり、フラボノイド誘導体の産生量も多いことから好ましい。得られたフラボノイド誘導体を医薬品素材として利用する場合、目的とするフラボノイド誘導体を精製することは、目的とするフラボノイド誘導体の純度が高まり、不純物を除去できる点から好ましい。
医薬品としては注射剤または経口剤または塗布剤などの非経口剤として利用され、医薬部外品としては錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、塗布剤、ゲル剤、歯磨き粉等に配合されて利用される。経口剤としては錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。前記の錠剤はシェラックまたは砂糖などで被覆することもできる。
また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の液体担体を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を添加することができる。
非経口剤としては、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。
注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
食品製剤としては皮膚幹細胞を活性化するため、美容食品に利用される。保健機能食品として栄養機能食品や特定保健用食品に利用することは好ましい。
得られた食品製剤をイヌやネコなどのペットや家畜動物に利用する場合、皮膚の毛艶や脱毛の回復を目的とした飼料やペット用サプリメントとして利用される。
化粧料として常法に従って界面活性化剤、溶剤、増粘剤、賦形剤等とともに用いることができる。例えば、クリーム、毛髪用ジェル、洗顔剤、美容液、化粧水等の形態とすることができる。
化粧料の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状または粉末状として用いることができる。
製造された化粧料は肌の障害された遺伝子の修復やコラーゲンやエラスチンの増加及び肌の維持など美容の目的で利用される。
また、このフラボノイド誘導体は遺伝子が障害された歯肉細胞の機能の維持を目的とした歯磨き剤、洗口液や歯磨きペーストなどに利用できる。
植物に対しては遺伝子の障害を回復させることにより発芽の促進、成長、結実と収穫量の増加を目的とした植物活性化剤として利用することができる。
この植物活性化剤は希少な蘭や花の活性化の目的で利用でき、葉や野菜、穀類の栽培を安定化させる。植物工場における野菜、果実や葉の栽培にも利用でき、栽培効率を上げることができる。花を利用する場合、蘭やエーデルワイスの花などが好ましい。
製造方法の一つとしてマツバランの葉、大豆粉末と納豆本舗製の納豆菌を添加して発酵させた発酵液を紅麹本舗製のベニコウジ菌で発酵する工程からなる皮膚幹細胞の活性化作用を呈するフラボノイド誘導体の製造方法について説明する。なお、この方法は一例であり、種々の植物から精製または誘導することができる。エーデルワイスの花なども好ましい。
原料となる物質はマツバランの葉、大豆粉末、納豆本舗製の納豆菌及び紅麹本舗製のベニコウジ菌である。
ここでいうマツバランは学名Psilotum nudumであり、マツバラン科のシダ植物である。日本で生産が多く、観賞用の他に食品としても利用され、食経験も豊富である。使用するのはマツバランの葉であり、その茎を含有していても良い。葉と茎の両方を含むことはコスト的に好ましい。
マツバランの葉は日本、アメリカ、アジア、その他の国で採取されたいずれのものでも良いが、品質が高く、価格の点から、日本産は品質が良いことから好ましい。
マツバランの葉は乾燥され、粉末化されることが好ましく、発酵の前にオートクレーブ滅菌されることは発酵をスムーズに行えることから好ましい。
3マイクロメーター以下の粒子サイズの粉末が発酵の工程を実施しやすくすることから好ましい。
原料となる大豆粉末は、日本産、中国産、アメリカ産、ロシア産などいずれの産地の大豆でも利用できるが、トレーサビリティーが確実であり、生産者が明確である日本産が好ましい。
このうち、有機栽培や無農薬で栽培された大豆は有害な農薬や金属を含有しないことから、さらに好ましい。
大豆は使用に際して、株式会社奈良機械製作所製の自由ミル、スーパー自由ミル、サンプルミル、ゴブリン、スーパークリーンミル、マイクロス、減圧乾燥機として東洋理工製の小型減圧乾燥機、株式会社マツイ製の小型減圧伝熱式乾燥機DPTH−40、エーキューエム九州テクノス株式会社製のクリーンドライVD−7、VD−20、中山技術研究所製DM−6などの粉砕機で粉砕される。これにより発酵の工程が効率的に進行されやすい。
さらに、マツバランの葉と大豆は粉砕後、オートクレーブなどにより滅菌されることは雑菌の繁殖を防御できることから好ましい。
用いる納豆本舗製の納豆菌は学名バチルス サブチリスで日本では納豆の製造に汎用され、食経験が豊富で有用な食用菌である。沖縄や鹿児島などの日本産、中国や台湾の東南アジア原産の菌種が用いられる。用いる納豆菌は納豆本舗製であり、高い発酵性を呈する。
この納豆菌はマツバランの葉と大豆から由来するフラボノイドと没食子酸とグアニンの結合反応を促進する。
前記の発酵に関するそれぞれの添加量はマツバランの葉の乾燥粉末1重量に対し、大豆粉末は0.001〜7重量及び納豆本舗製の納豆菌は0.002〜0.07重量が好ましい。納豆菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
また、この発酵は42〜44℃に加温され、発酵は1日間から14日間行われる。目的とするフラボノイド誘導体をHPLCやTLCにより定量することならびに菌体の増殖性を確認することにより、発酵の工程管理を実施することは産生量が調整されることから好ましい。
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
この発酵の工程によって生成されるフラボノイド誘導体はその結合が不安定であり、分解されやすいことから次の紅麹本舗製のベニコウジ菌による発酵を行い、目的とするフラボノイド誘導体の結合を安定化させる。
用いる紅麹本舗製のベニコウジ菌は学名Monascus purpureusの糸状菌であり、古くから日本、中国や台湾において紅酒や豆腐ようなどの発酵食品に利用されている。また、沖縄や鹿児島などの日本産、中国や台湾の東南アジア原産の菌種が用いられる。紅麹本舗製のベニコウジ菌は発酵効率に優れており、また、安全性も高い。
前記の発酵に関するそれぞれの添加量は前記の発酵物1重量に対してベニコウジ菌は0.0005〜0.09重量が好ましい。紅麹本舗製のベニコウジ菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
また、この発酵は41〜44℃に加温され、発酵は1日間から20日間行われる。この発酵の工程によってベニコウジ菌の酸化及び還元作用によりこのフラボノイド誘導体の構造が安定化される。
前記の発酵物は含水エタノールで抽出されることは、生成物を効率良く回収し、菌を滅菌でき、次の工程を実施しやすいことから好ましい。また、得られた発酵物を超音波処理することは生成物が溶媒に分散し、目的とする物質を分離しやすいことから好ましい。また、凍結乾燥などにより、濃縮することは、以下の工程が短時間に実施できることから好ましい。
前記の還元反応物から、目的とするフラボノイド誘導体を分離し、精製することは純度の高い物質を得られる点から好ましい。この精製の方法としては、分離用の樹脂などの精製操作を利用することが好ましい。
例えば、分離用担体または樹脂により分離され、分取されることにより目的とするフラボノイド誘導体が得られる。分離用担体または樹脂としては、表面が後述のようにコーティングされた、多孔性の多糖類、酸化珪素化合物、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン−ビニルベンゼン共重合体等が用いられる。0.1〜300μmの粒度を有するものが好ましく、粒度が細かい程、精度の高い分離が行なわれるが、分離時間が長い欠点がある。
例えば、逆相担体または樹脂として表面が疎水性化合物でコーティングされたものは、疎水性の高い物質の分離に利用される。陽イオン物質でコーティングされたものは陰イオン性に荷電した物質の分離に適している。また、陰イオン物質でコーティングされたものは陽イオン性に荷電した物質の分離に適している。特異的な抗体をコーティングした場合には、特異的な物質のみを分離するアフィニティ担体または樹脂として利用される。
アフィニティ担体または樹脂は、抗原抗体反応を利用して抗原の特異的な調製に利用される。分配性担体または樹脂は、シリカゲル(メルク社製)等のように、物質と分離用溶媒の間の分配係数に差異がある場合、それらの物質の単離に利用される。
これらのうち、製造コストを低減することができる点から、吸着性担体または樹脂、分配性担体または樹脂、分子篩用担体または樹脂及びイオン交換担体または樹脂が好ましい。さらに、分離用溶媒に対して分配係数の差異が大きい点から、逆相担体または樹脂及び分配性担体または樹脂はより好ましい。
分離用溶媒として有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒に耐性を有する担体または樹脂が用いられる。また、医薬品製造または食品製造に利用される担体または樹脂は好ましい。
これらの点から吸着性担体としてダイヤイオン(三菱化学(株)社製)及びXAD−2またはXAD−4(ロームアンドハース社製)、分子篩用担体としてセファデックスLH−20(アマシャムファルマシア社製)、分配用担体としてシリカゲル、イオン交換担体としてIRA−410(ロームアンドハース社製)、逆相担体としてDM1020T(富士シリシア社製)がより好ましい。
これらのうち、ダイヤイオン、セファデックスLH−20及びDM1020Tはさらに好ましい。
得られた抽出物は、分離前に分離用担体または樹脂を膨潤化させるための溶媒に溶解される。その量は、分離効率の点から抽出物の重量に対して2〜30倍量が好ましく、4〜20倍量がより好ましい。分離の温度としては物質の安定性の点から10〜30℃が好ましく、12〜25℃がより好ましい。
分離用溶媒には、水、または、水を含有する低級アルコール、親水性溶媒、親油性溶媒が用いられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが用いられるが、食用として利用されているエタノールが好ましい。
セファデックスLH−20を用いる場合、分離用溶媒には低級アルコールが好ましい。シリカゲルを用いる場合、分離用溶媒にはクロロホルム、メタノール、酢酸またはそれらの混合液が好ましい。
ダイヤイオン及びDM1020Tを用いる場合、分離用溶媒はメタノール、エタノール等の低級アルコールまたは低級アルコールと水の混合液が好ましい。
フラボノイド誘導体を含む画分を採取して乾燥または真空乾燥により溶媒を除去し、目的とするフラボノイド誘導体を粉末または濃縮液として得ることは溶媒による影響を除外できることから好ましい。
また、最終抽出を食用油や化粧料に用いる油脂で実施することは、得られるフラボノイド誘導体が脂溶性に変換されることから脂溶性の溶媒に親和する点で好ましい。例えば、大豆油、米ぬか油、グレープシード油、オリーブ油、ホホバ油で抽出することは好ましい。
また、このフラボノイド誘導体を粉末化することは防腐の目的から好ましい。以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。なお、これらは一例であり、素材、原料や検体の違いに応じて常識の範囲内で条件を変更させることが可能である。
減農薬栽培されたマツバラン(学名Psilotum nudum)の葉を東邦植物園から購入して用いた。この葉を水道水で水洗後、天日で乾燥させ、粉砕機(株式会社奈良機械製作所製のスーパー自由ミル)にて粉砕し、マツバランの葉の乾燥粉末粉砕物を1.0kg得た。
また、北海道産の大豆(学名Glycine max)をミキサー(クイジナート製)に供し、大豆の粉砕物1.0kgを得た。前記のマツバランの葉と大豆の粉砕物をオートクレーブ(SDL−320、トミー製)に供し、121℃、20分間、滅菌した。
これらを清浄な発酵タンク(滅菌された発酵用丸形40リットルタンク、遠藤科学製)に入れ、滅菌された水道水5kgを添加し、攪拌した。
これとは別に、納豆本舗製の粉末納豆菌(学名Bacillus subtilis)の10gを上記の発酵タンクに供し、滅菌した大豆粉末と前培養させた発酵準備液を用意した。
前記の前培養した納豆菌の発酵準備液とマツバランの葉の乾燥粉末と大豆とを入れた発酵タンクに添加し、攪拌後、42〜43℃の温度範囲で加温し、発酵させた。
発酵過程では通気によりバブリングと攪拌を行いつつ、発酵液のサンプリングを行い、7日間発酵させた。発酵終了後、発酵タンクより発酵物を取り出し、煮沸滅菌した。この発酵物を濾過布により濾過して、納豆菌による発酵液1.1kgを得た。この発酵液1kgに対して紅麹本舗製のベニコウジ菌(学名Monascus purpureus)の10gを添加して41〜42℃で7日間発酵させた。
この発酵物にエタノールを添加して発酵を停止した。さらに、煮沸滅菌した。これを濾過し、濾過液を目的とするフラボノイド誘導体とした。これを検体1とした。
さらに、構造解析及び実験の目的で精製物を得た。つまり、前述の検体1のフラボノイド誘導体の100gに5%エタノール含有精製水の2Lを添加し、ダイヤイオン(AMP03型、三菱化学製)500gを5%エタノール液に懸濁して充填したガラス製カラム(遠藤科学製)に供した。
これに10Lの5%エタノール液を添加して清浄し、さらに、20%エタノール液を1L添加して洗浄した。また、55%エタノール液を1L添加して目的とするフラボノイド誘導体を溶出させ、この溶出液を濃縮して精製した。精製されたフラボノイド誘導体を減圧蒸留により、エタノール部分を除去し、水溶液とした。これを真空乾燥させ、フラボノイド誘導体の精製物60gを得てこれを検体2とした。収率は約6%であり、天然物から製造するには十分な収量であり、この製造方法が優れた製法であることが確認された。
以下に、フラボノイド誘導体の構造解析に関する試験方法及び結果について説明する。
(試験例1)
上記のように得られた検体2をエタノールに溶解し、質量分析器付き高速液体クロマトグラフィ(HPLC、島津製作所)で分析した。
させら、これを核磁気共鳴装置(90MHz、H−NMR、ブルカー製)で解析した結果、検体1と検体2からフラボノイドの1分子と没食子酸の2分子からなるフラボノイド誘導体が検出された。
すなわち、重水素化ジメチルスルホキシド中のH−NMR測定の結果、ピークの位置は3.074、3.425、3.774、3.807、4.007、4.085、4.194、5.717、7.137、7.269、7.356、7.393、7.721、9.257、10.212及び13.542ppmに認められた。
上記の解析結果から化学的に合成した標準品と同一構造を呈することが判明した。すなわち、検体2からフラボノイド1分子と没食子酸の1分子とグアニンの1分子が結合した目的とするフラボノイド誘導体であると確認できた。
以下にヒト由来皮膚幹細胞を用いた幹細胞の活性化作用試験について述べる。なお、この試験方法は生化学的に成分の働きを検証できる再現性のある常法である。
(試験例2)
クラボウより購入したヒト由来表皮細胞(表皮由来、エピーダーセル)を用いた。培養液として5%牛胎児血清含有MEM培地(Sigma製)を用いて培養した1000個の細胞を35mm培養シャーレ(FALCON製)に播種し、5%炭酸ガス下、37℃で培養した。
この皮膚細胞からSSEA−3抗体を用いた抗体ビーズ法により皮膚幹細胞を採取した。つまり、SSEA−3抗体(フナコシ製、ラット由来、IgMタイプ)をAnti−PhycoerythrinPE マイクロビーズ(Miltenyl Biotec製)に標識して細胞を分離した。
このビーズは抗体やリガンドを利用して細胞又はその他のサンプルを間接磁気標識して分離する時に使用する分離ビーズである。
分離した皮膚幹細胞を培養液で洗浄後、プレートに播種した。ここに紫外線照射装置(クオークテクノロジー製)により280nmの紫外線を1時間照射した。ここに、前記の検体1、検体2及び陽性対照としてEGF(フナコシ製、表皮成長因子)をいずれも0.1mg/mlの最終濃度で添加した。これを48時間培養して試験した。
培養液を採取後、幹細胞の増殖率をトリパンブルー法により計数した。その後、幹細胞の懸濁液を調製した。ここからmRNAを核酸抽出キット(フナコシ製)により抽出した。常法に従い、RT−PCR法によりDNAポリメラーゼ及び8−オキソグアニンDNAグリコシラーゼ(OGG1と略す)のmRNAを定量した。同時に、細胞懸濁液中の8−OHdG量をキット(日本老化制御研究所製)にて定量した。8−OHdGに特異的なモノクローナル抗体を使用したELISAキットである。
なお、シャーレは5枚を用いてその平均値を算出した。溶媒を添加した溶媒対照群と比較した。また、EGFと検体2との併用による効果も調べた。
その結果、検体1の0.1mg/mlの添加により皮膚幹細胞数は溶媒対照群に比して平均値として244%に増加した。また、検体2では369%に増加した。一方、EGFでは190%となった。この結果、検体1及び検体2の方がEGFよりも優れた幹細胞活性化作用を呈した。なお、EGFと検体2の併用により788%に増加し、相乗的な効果も認められた。
上記の細胞中のDNAポリメラーゼのmRNA発現量(コピー数)は溶媒対照群では14コピー、検体1処理群では320コピー、検体2処理群では662コピ−、EGF処理群では230コピーであった。なお、EGFと検体2の併用により1228コピーとなり、相乗的な効果も認められた。
DNAポリメラーゼのmRNA発現量は検体1及び検体2で高く、EGFより優っていた。これは検体1及び検体2による皮膚幹細胞の活性化作用を示していた。
上記の細胞中のOGG1のmRNA発現量(コピー数)は溶媒対照群では19コピー、検体1処理群では322コピー、検体2処理群では981コピ−、EGF処理群では230コピーであった。なお、EGFと検体2の併用により1905コピーとなり、相乗的な効果も認められた。
OGG1のmRNA発現量は検体1及び検体2で高く、EGFより優っていた。これは検体1及び検体2による皮膚幹細胞の活性化作用を示していた。
上記の細胞中の8OHdG量は溶媒対照群では590ng、検体1処理群では103ng、検体2処理群では59ng、EGF処理群では207ngであった。なお、EGFと検体2の併用により23ngとなり、EGFとの相乗的な効果も認められた。
8OHdGは遺伝子が活性酸素により修飾された変異した状態であり、遺伝子の障害をあらわしている。検体1及び検体2でこの値が低く、EGFの働きより優っていた。これは検体1及び検体2による皮膚幹細胞の活性化作用を示していた。
一方、安全性試験の一環として人工皮膚であるEpiSkin(SkinEthic社製)を用いた皮膚刺激性実験では、検体1及び検体2の添加により刺激性は認められず、安全性が確認された。なお、この方法は皮膚刺激性試験評価法として動物を使用しない代替法として確立されている。
以下にヒト神経細胞の障害モデルを用いた遺伝子障害に対する回復試験について述べる。なお、この試験方法は神経細胞に対する成分の働きを遺伝子的に検証できる再現性のある常法である。
(試験例3)
コスモバイオから購入したヒト神経細胞(Human Neurons(HN))を用いた。培養液として専用の培養液(神経細胞増殖培地)を用いて培養した1000個の細胞を35mm培養シャーレに播種し、5%炭酸ガス下、37℃で培養した。これに1%の神経毒であるアクリルアミド水溶液(和光純薬製)を添加して神経細胞を障害させた。アクリルアミドは神経細胞の遺伝子に変異を与える毒性物質であり、認知症などの障害モデルである。
ここに、前記の実施例1で得られた検体1及び検体2、陽性対照としてNGF(フナコシ(株)、ヒトタイプ)をいずれも0.1mg/mlの最終濃度で添加した。これを48時間培養した。
培養終了後、細胞数を顕微鏡的に計数した。さらに、上記と同様の方法により、神経細胞の働きを検証した。すなわち、細胞の懸濁液を調製し、ここからmRNAを核酸抽出キット(フナコシ製)により抽出した。常法に従い、RT−PCR法によりDNAポリメラーゼ及び8−オキソグアニンDNAグリコシラーゼ(OGG1と略す)のmRNAを定量した。同時に、細胞懸濁液中の8−OHdG量をキット(日本老化制御研究所製)にて定量した。8−OHdGに特異的なモノクローナル抗体を使用したELISAキットである。
その結果、検体1の0.1mg/mlの添加により神経細胞数は溶媒対照群に比して平均値として144%に増加した。また、検体2では202%に増加した。一方、NGFでは131%となった。この結果、検体1及び検体2はNGFよりも優れた細胞活性化作用を呈した。
上記の細胞中のDNAポリメラーゼのmRNA発現量(コピー数)は溶媒対照群では22コピー、検体1処理群では255コピー、検体2処理群では783コピ−、NGF処理群では129コピーであった。
DNAポリメラーゼのmRNA発現量は検体1及び検体2で高く、NGFより優っていた。これは検体1及び検体2による神経細胞の遺伝子修復作用を示していた。
上記の細胞中のOGG1のmRNA発現量(コピー数)は溶媒対照群では29コピー、検体1処理群では290コピー、検体2処理群では899コピ−、NGF処理群では180コピーであった。
OGG1のmRNA発現量は検体1及び検体2で高く、NGFより優っていた。これは検体1及び検体2による神経細胞の活性化作用を示していた。
上記の細胞中の8OHdG量は溶媒対照群では299ng、検体1処理群では31ng、検体2処理群では17ng、NGF処理群では198ngであった。
8OHdGは遺伝子が活性酸素により修飾された変異した状態であり、遺伝子の障害をあらわしている。検体1及び検体2でこの値が低く、NGFの働きより優っていた。これは検体1及び検体2による神経細胞の活性化作用を示していた。