(第1実施例)図面を参照して第1実施例の取り付け構造1を説明する。第1実施例は、シリンダユニット10(ブレーキマスタシリンダユニット10)をダッシュパネルに取り付ける構造である。取り付け構造1は、複数の支持板と複数の防振板を用いる。図1に、複数の支持板と複数の防振板の分解図を示す。図1では、理解を助けるために、ダッシュパネルの図示は省略してある。また、図中の座標系の「前」、「後」などは、車両を基準とした呼称である。
図1では示されていないが、ダッシュパネルは、第1防振板31(および鉄カラー18)とブレーキペダル2の間に位置する。詳しくは後述するが、第1防振板31の後面にダッシュパネルの前面が接する。
シリンダユニット10は、プッシュロッド4でブレーキペダル2に連結される。プッシュロッド4の後端がブレーキペダル2のピボット3に連結される。プッシュロッド4はシリンダユニット10の内部で油圧ピストンに連結されている。運転者がブレーキペダルを踏むと、プッシュロッド4を介して油圧ピストンが押され、ブレーキマスタシリンダユニット10の内部の油圧が上昇する。図示は省略しているが、シリンダユニット10は、油圧パイプによってブレーキアクチュエータに接続されており、シリンダ内の油圧が高くなると、ブレーキアクチュエータが動作し、車輪が制動される。
シリンダユニット10は、電気モータ12を備えている。詳しいメカニズムの説明は省略するが、電気モータ12は、ブレーキペダル2の踏み込み力に応じてシリンダ内の油圧を高める。すなわち、電気モータ12によって、シリンダユニット10が出力する油圧が増幅される。電気モータ12の増幅力によって、小さな踏み込み力で大きな油圧出力(すなわち制動力)が得られる。
一方、電気モータ12を備えることによって、シリンダユニット10が重くなり、シリンダユニット10の振動がダッシュパネルに与える影響が大きくなる。そこで、シリンダユニット10は、防振板を介してダッシュパネルに支持される。板厚方向の剛性が低い防振板を採用することで、シリンダユニット10の振動を効果的に抑えることができる。ただし、シリンダユニット10とダッシュパネルの間に1枚の防振板を単純に挟んだだけでは、次の課題が生じる。シリンダユニット10を支持する部分の剛性が低いと、運転者がブレーキペダルを踏んだときにシリンダユニット10が動いてしまう。シリンダユニット10が動くと、ブレーキペダルを踏み込む力に対する抵抗力が変動する。抵抗力が変動すると運転者に違和感を与えるおそれがある。実施例で説明する取り付け構造1は、シリンダユニット10の振動を抑制することと、ブレーキペダル2の踏み込み力に対する高い剛性の確保を両立することができる。
図1の説明に戻る。図1ではダッシュパネルの図示は省略しているが、ダッシュパネルは、第1防振板31(および鉄カラー18)とブレーキペダル2の間に位置する。ダッシュパネルとシリンダユニット10の間には、第1防振板31、ユニット側支持板14、第2防振板32、パネル側支持板15、第3防振板33が、車両後方側から前方側へ向けてこの順で積層されている。ユニット側支持板14とパネル側支持板15は金属(鉄)で作られている。第1-第3防振板31-33は、防振ゴムで作られている。第1-第3防振板31-33は、例えば、エチレンプロピレンゴム(Ethylene Propylene Diene Monomer)で作られている。
第1-第3防振板31-33、ユニット側支持板14、パネル側支持板15は、中央に大きな孔を有しており、それらの孔をプッシュロッド4が通過する。第1-第3防振板31-33、ユニット側支持板14、パネル側支持板15のそれぞれは、中央の大きな孔の周囲に小さな複数の孔を有している。それらの孔に、六角低頭ボルト17、スタッドボルト16などが挿通される。六角低頭ボルト17には鉄カラー19が付随しており、スタッドボルト16には鉄カラー18が付随している。六角低頭ボルト17、鉄カラー19、スタッドボルト16、鉄カラー18の関係については後述する。
図2に、ダッシュパネル20を車室側からみた図を示す。図2では、ブレーキペダルの図示は省略してある。ダッシュパネル20の手前にはスペーサ21が位置しており、シリンダユニット10は、スペーサ21などを介してダッシュパネル20に固定される。先に述べたパネル側支持板15(図1参照)が4本のスタッドボルト16でダッシュパネル20に固定され、ユニット側支持板14(図1参照)が4本の六角低頭ボルト17でシリンダユニット10に固定される。プッシュロッド4のシリンダユニット10の側はベローズチューブで囲まれるが、図2(および以降の図)ではベローズチューブの図示は省略した。
図2のIII-III線に沿った断面図を図3に示す。図3は、スタッドボルト16と六角低頭ボルト17を横断する断面を示す。図3では、ブレーキペダル2とプッシュロッド4と電気モータ12は仮想線で描いてある。
先に述べたように、ダッシュパネル20とシリンダユニット10の間には、第1防振板31、ユニット側支持板14、第2防振板32、パネル側支持板15、第3防振板33が、車両後方側から前方側へ向けてこの順で積層されている。パネル側支持板15には、スタッドボルト16が溶接されている。パネル側支持板15は、スタッドボルト16によって、ダッシュパネル20に固定される。パネル側支持板15は、ダッシュパネル20とシリンダユニット10の間で、ダッシュパネル20に平行に位置する。スタッドボルト16は、鉄カラー18に挿通され、ダッシュパネルに固定される。ダッシュパネル20の後ろ側では、スタッドボルト16に別の鉄カラー22が通される。スタッドボルト16は、スペーサ21を介してナット23でダッシュパネル20に固定される。別言すれば、パネル側支持板15、鉄カラー18、22、ダッシュパネル20、スペーサ21が、スタッドボルト16とナット23で両側から締め付けられる。パネル側支持板15、鉄カラー18、22、ダッシュパネル20、スペーサ21は、全て金属(鉄)で作られている。特に、鉄カラー18の一端にダッシュパネル20が接しており、他端にパネル側支持板15が接している。パネル側支持板15とダッシュパネル20の間には第1防振板31とユニット側支持板14と第2防振板32も挟まれているが、パネル側支持板15が受ける荷重は鉄カラー18を介して直接にダッシュパネル20に伝達される。
ユニット側支持板14は、六角低頭ボルト17でシリンダユニット10に固定される。ユニット側支持板14は、パネル側支持板15とダッシュパネル20の間でダッシュパネル20に平行に位置している。シリンダユニット10とユニット側支持板14の間には、鉄カラー19が挟まれている。鉄カラー19の一端がユニット側支持板14に接しており、他端がシリンダユニット10に接している。シリンダユニット10とユニット側支持板14の間には、第2防振板32、パネル側支持板15、第3防振板33も挟まれているが、ユニット側支持板14が受ける荷重は鉄カラー19を介して直接にシリンダユニット10に伝達される。
ブレーキペダル2はピボット3でプッシュロッド4に連結されている。先に述べたように、プッシュロッド4の一端はシリンダユニット10に連結されている。ブレーキペダル2が踏まれると、プッシュロッド4を介してシリンダユニット10に前向きの力(踏み込み力)が加わる。
図4を参照してブレーキペダル2の踏み込み力のダッシュパネル20への伝達経路を説明する。図4は、図3と同じ図に、力を示す矢印を加えた図である。ブレーキペダル2の踏み込み力Fは、プッシュロッド4を介してシリンダユニット10に伝わる。シリンダユニット10に伝わった踏み込み力Fは、六角低頭ボルト17と鉄カラー19を介してユニット側支持板14に伝わる(グレーの矢印A)。この力は、ユニット側支持板14を前方へ押す。ユニット側支持板14の前面には第2防振板32が接しており、第2防振板32の前面にはパネル側支持板15が接している。ユニット側支持板14に伝わった踏み込み力Fは、第2防振板32を介してパネル側支持板15へ伝わる(グレーの矢印B)。パネル側支持板15は、踏み込み力Fによって前へ押される。
一方、パネル側支持板15は、スタッドボルト16、鉄カラー18、22、スペーサ21、ナット23を介してダッシュパネル20に剛に固定されている。従ってパネル側支持板15は、踏み込み力Fによって前方へ押されるが、パネル側支持板15は動かず、この踏み込み力Fをしっかりと受け止めることができる(黒い矢印C、D)。すなわち、踏み込み力Fはダッシュパネル20がしっかりと受け止める。
踏み込み力Fは、第2防振板32を圧縮する。第2防振板32の板厚方向の剛性が高ければ、シリンダユニット10はダッシュパネル20にしっかりと支えられ、踏み込み力Fが加わっても動かない。従って、実施例の取り付け構造1は、ブレーキペダル2の踏み込み力Fに対して高い剛性を確保する。
踏み込み力Fによってシリンダユニット10は前方へ押されるので、シリンダユニット10の後ろに接している第3防振板33は踏み込み力Fの伝達に寄与しない。また、踏み込み力Fによってユニット側支持板14も前方へ押されるので、ユニット側支持板14の後面に接している第1防振板31も踏み込み力Fの伝達に寄与しない。
一方、電気モータ12が作動すると、シリンダユニット10が振動する。シリンダユニット10の振動の伝達経路を、図5を用いて説明する。図5は、図3の断面図に振動の伝達経路を示す矢印を加えた図である。電気モータ12の振動(モーメントM)は、シリンダユニット10を振動させる。シリンダユニット10にはユニット側支持板14が剛に固定されており、ユニット側支持板14も振動する。シリンダユニット10には第3防振板33が接しており、ユニット側支持板14には第1防振板31が接している。シリンダユニット10の振動は第1、第3防振板31、33に伝わる(黒い矢印E)。それゆえ、第1、第3防振板31、33の板厚方向の剛性が低ければ、シリンダユニット10の振動を効果的に抑えることができる。ユニット側支持板14には第2防振板32も接しているが、第2防振板32の板厚方向の剛性が高くても、剛性の低い第1、第3防振板31、33によって、シリンダユニット10の振動は抑えられる。
第1実施例の取り付け構造1は、第2防振板32として板厚方向の剛性の高い防振板を採用し、第1、第3防振板31、33として、板厚方向の剛性の低い防振板を採用する。別言すれば、第1実施例の取り付け構造1は、第2防振板32の板厚方向の剛性が第1、第3防振板31、33の板厚方向の剛性よりも高い。上記の構造により、シリンダユニット10の振動を抑制することと、ブレーキペダル2の踏み込み力に対する高い剛性の確保を両立することができる。
上記した効果は、鉄カラー22とスペーサ21が無くても得られる。
(第2実施例)図6に、第2実施例の取り付け構造1aの断面図を示す。第2実施例の取り付け構造1aも、第1-第3防振板、パネル側支持板15、ユニット側支持板14を備えている。
パネル側支持板15は、スタッドボルト16でダッシュパネル20に固定されている。パネル側支持板15は、ダッシュパネル20とシリンダユニット10の後方で、ダッシュパネル20に平行に配置されている。ダッシュパネル20とパネル側支持板15の間には鉄カラー18が挟まれており、パネル側支持板15はダッシュパネル20に剛に固定される。パネル側支持板15は、スタッドボルト16でダッシュパネル20に固定される。
ユニット側支持板14は、六角低頭ボルト17によってシリンダユニット10に固定されている。ユニット側支持板14は、ダッシュパネル20とパネル側支持板15の間で、パネル側支持板15に平行に配置されている。ユニット側支持板14とシリンダユニット10の間には、鉄カラー19が挟まれており、ユニット側支持板14はシリンダユニット10に剛に固定されている。
パネル側支持板15とユニット側支持板14の間に第1防振板31が挟まれている。ユニット側支持板14とダッシュパネル20の間に第2防振板32が挟まれている。ダッシュパネル20とシリンダユニット10の間に第3防振板33が挟まれている。別言すれば、パネル側支持板15、第1防振板31、ユニット側支持板14、第2防振板32、ダッシュパネル20、第3防振板33、シリンダユニット10が、車両後方側から前方側へ向けてこの順序で積層されている。ブレーキペダル2、プッシュロッド4、電気モータ12の構成は、第1実施例と同じである。
第2防振板32の板厚方向の剛性は、第1、第3防振板31、33の板厚方向の剛性よりも高い。第2実施例の取り付け構造1aも、第1実施例で説明した技術と同じ原理によって同じ利点が期待できる。すなわち、第2実施例の取り付け構造1aも、シリンダユニット10の振動を抑制することと、ブレーキペダル2の踏み込み力に対する高い剛性の確保を両立することができる。
第2実施例の取り付け構造1aは、第1実施例の取り付け構造1と同じ利点を期待できる。ただし、第1実施例の取り付け構造1は、第2実施例と比較して、シリンダユニット10を取り付ける作業が容易である。第1実施例の取り付け構造1では、第1-第3防振板31-33と、ユニット側支持板14と、パネル側支持板15をシリンダユニット10に取り付けてから、それらのアセンブリをダッシュパネル20に取り付けることができる。
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。第2防振板32の板厚方向の剛性は、第1、第3防振板31、33の板厚方向の剛性よりも高い。同じ材料を第1-第3防振板31-33に用いる場合、第2防振板32として、第1、第3防振板31、33の板厚よりも薄い防振板を採用すればよい。あるいは、第2防振板32として、第1、第3防振板31、33よりも固い材料を採用すればよい。
実施例の取り付け構造1、1aでは、ユニット側支持板14は六角低頭ボルト17でシリンダユニット10に固定される。ユニット側支持板14は、六角低頭ボルト17以外のネジでシリンダユニット10に固定されてもよい。パネル側支持板15は、スタッドボルト16でダッシュパネル20に固定される。パネル側支持板15は、スタッドボルト16以外のネジでダッシュパネル20に固定されてもよい。
(参考)実施例の取り付け構造1、1aでは、シリンダユニット10(およびユニット側支持板14)と、ダッシュパネル20(およびパネル側支持板15)が直接に接することなく、防振板を介して連結するように、3枚の防振板を採用した。シリンダユニット10(およびユニット側支持板14)と、ダッシュパネル20(およびパネル側支持板15)が一部で直接に接触することを許容する場合、実施例1、1aの構成よりも効果は低いが、次の構成によっても、シリンダユニット10の防振と、ブレーキの踏み込み力に対する高い剛性の確保を両立することができる。
参考1の取り付け構造は、第1実施例1の構造から第3防振板33を除いたものである。すなわち、パネル側支持板15は、シリンダユニット10とダッシュパネル20の間でダッシュパネル20に平行に配置されており、ダッシュパネル20に固定されている。ユニット側支持板14は、ダッシュパネル20とパネル側支持板15の間に配置されており、シリンダユニット10に固定されている。第1防振板31は、ダッシュパネル20とユニット側支持板14の間に挟まれている。第2防振板は、ユニット側支持板14とパネル側支持板15の間に挟まれている。そして、第2防振板32の板厚方向の剛性が第1防振板33の板厚方向の剛性よりも高い。この構成の場合。パネル側支持板15はシリンダユニット10に直接に接してしまうが、第1防振板31がシリンダユニット10の振動を抑制する。
参考2の取り付け構造は、第1実施例1の構造から第1防振板31を除いたものである。すなわち、パネル側支持板15は、シリンダユニット10とダッシュパネル20の間でダッシュパネル20に平行に配置されており、ダッシュパネル20に固定されている。ユニット側支持板14は、ダッシュパネル20とパネル側支持板15の間に配置されており、シリンダユニット10に固定されている。防振板(実施例の第2防振板32)が、ユニット側支持板14とパネル側支持板15の間に挟まれている。別の防振板(実施例の第3防振板33)が、パネル側支持板15とシリンダユニット10の間に挟まれている。そして、防振板(実施例の第2防振板32)の板厚方向の剛性が、別の防振板(実施例の第3防振板33)の板厚方向の剛性よりも高い。この構成の場合。ユニット側支持板14がダッシュパネル20に直接に接してしまうが、別の防振板(実施例の第3防振板33)がシリンダユニット10の振動を抑制する。
他の参考として、図6の取り付け構造1aから第1防振板31と第3防振板33の一方を除いてもよい。さらには、ブレーキペダルの踏み込み力に対する剛性を高めるためには、上記複数の参考の構造において、第2防振板32を除いてもよい。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。