[新規ビスナフチルフルオレン類]
本発明のビスナフチルフルオレン類は、前記式(1)で表される。前記式(1)において、フルオレン環の9-位に結合するナフタレン環の置換位置は、特に限定されず、1-位又は2-位のいずれかの位置であってもよいが、高い収率及び選択率でビスナフチルフルオレン類が得られる点から、2-位が好ましい。
R1で表される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1-6アルキル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロへキシル基などのC5-8シクロアルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。異なるナフタレン環に置換するそれぞれの炭化水素基R1の種類は、互いに同一又は異なっていてもよいが、通常、同一である。これらのうち、アルキル基、アリール基が汎用され、高い収率及び選択率でビスナフチルフルオレン類が得られる点から、アルキル基が好ましい。さらに、アルキル基のうち、C1-3アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
炭化水素基R1の置換位置は、特に限定されないが、フルオレン環の9位に対して、1位又は2位で結合するナフチル基の5~8位のいずれかの位置に置換している場合が多く、フルオレン環の9位に対して、ナフタレン環の1位又は2位が置換し(1-ナフチル又は2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位などの関係で置換しているのが好ましく、高い収率及び選択率でビスナフチルフルオレン類が得られる点から、2,6位で置換しているのが特に好ましい。
基R2において、シクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基としては、R1として例示したシクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基が挙げられ、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。これらのうち、シアノ基、ハロゲン原子が好ましい。
R2の置換数nは、0~4の整数であり、例えば0~3、好ましくは0~2の整数であり、さらに好ましくは0又は1、特に0である。なお、フルオレン骨格を形成する2つのベンゼン環において、それぞれの置換数nは、互いに同一又は異なっていてもよく、それぞれのR2の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、nが2以上である場合、同一のベンゼン環に置換する2以上のR2の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、R2の置換位置は特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位乃至7位であってもよい。フルオレン環の2位乃至7位としては、例えば、2位、3位、7位が挙げられる。
新規ビスナフチルフルオレン類としては、9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-エチル-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-メチル-1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(アルキルナフチル)フルオレン;9,9-ビス(6-シクロへキシル-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(シクロアルキルナフチル)フルオレン;9,9-ビス(6-フェニル-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(アリールナフチル)フルオレンなどが挙げられる。これらのうち、9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(6-C1-3アルキル-2-ナフチル)フルオレンが好ましい。
[新規ビスナフチルフルオレン類の製造方法]
本発明の新規ビスナフチルフルオレン類の製造方法は、特に限定されないが、前記式(1a)で表されるフルオレノン化合物と、前記式(1b)で表されるナフタレン化合物とを反応させる方法により製造してもよい。本発明では、前記ナフタレン化合物が反応性基を有していないにも拘わらず、新規ビスナフチルフルオレン類を製造できるため、生産性が高い。
前記式(1a)で表されるフルオレノン化合物としては、前記ビスナフチルフルオレン類のフルオレン骨格に対応するフルオレノンを利用でき、通常、フルオレノンである。
前記式(1b)で表されるナフタレン化合物としては、前記ビスナフチルフルオレン類のナフタレン骨格に対応するフルオレノン化合物を利用でき、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、1-エチルナフタレンなどのアルキルナフタレン;2-シクロへキシルナフタレンなどのシクロアルキルナフタレン;2-フェニルナフタレンなどのアリールナフタレンなどが挙げられる。これらのうち、ビスナフチルフルオレン類の収率及び選択率を向上できる点から、2位に炭化水素基を有するナフタレン化合物が好ましく、2-C1-3アルキルナフタレンがさらに好ましく、2-メチルナフタレンが最も好ましい。
前記式(1b)で表されるナフタレン化合物の割合は、前記式(1a)で表されるフルオレノン化合物1モルに対して2モル以上であればよいが、ビスナフチルフルオレン類の選択率を向上できる点から、例えば2~6モル、好ましくは2.5~5.5モル、さらに好ましくは3~5モル、最も好ましくは3.5~4.5モルである。ナフタレン化合物の割合が少なすぎると、選択率が低下する虞がある。
さらに、本発明では、前記フルオレノン化合物と前記ナフタレン化合物とは、酸触媒及び助触媒としてのチオール類の共存下で反応させるのが好ましい。
酸触媒は、無機酸であってもよく、有機酸であってもよく、無機酸と有機酸との組み合わせであってもよい。
無機酸としては、硫酸、硝酸、亜硝酸、塩酸、硝酸、ヨウ化水素、臭化水素、フッ化水素、クロム酸;ホスフィン酸、ホスホン酸、リン酸、二リン酸、トリポリリン酸などのリン酸類;ヘキサフルオロリン酸、H[(CF3CF2)3PF3]、H[(CF3CF2CF2)3PF3]などのハロゲン化リン酸;過塩素酸、過臭素酸などの過ハロゲン酸;過マンガン酸;チオシアン酸;塩化スルホン酸、フルオロスルホン酸などのハロゲン化スルホン酸;テトラフルオロホウ酸、H[(C6F5)4B]などのハロゲン化ホウ酸;ヘキサフルオロアンチモン酸などのハロゲン化アンチモン酸;H[(C6F5)4Ga]などのハロゲン化ガリウム酸;H[(CF3SO2)3C];H[(CF3SO2)2N]などが挙げられる。これらの無機酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
有機酸としては、ギ酸などの脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸などの芳香族ジカルボン酸;グリコール酸、クエン酸などのヒドロキシカルボン酸;メタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸;トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸などのフルオロアルカンスルホン酸などのハロアルカンスルホン酸;ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのアレーンスルホン酸;メチオニン、オルニチン、ロイシン、リシン、アスパラギン、アスパラギン酸、アミノ安息香酸などのアミノ酸;プロトン化エタノールなどが挙げられる。
本発明では、反応性基を有さないナフタレン化合物が反応基質であるにも拘わらず、酸触媒として、超強酸を用いることなく、ビスナフチルフルオレン類を合成できる。そのため、酸触媒の酸解離定数pKa(25℃)は、-11以上であってもよく、例えば-10~4、好ましくは-8~2、さらに好ましくは-5~0、最も好ましくは-3~-1である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、酸触媒が複数の解離段を有する場合、pKaは第1段目の解離段の値を意味する。
前記酸触媒のうち、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの有機酸が汎用され、メタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸が好ましい。
特に、酸触媒として、前記pKaが-8~2の酸触媒を含むのが好ましく、pKaが-8~2の酸触媒と他の酸触媒とを組み合わせてもよい。pKaが-5~0の酸触媒と他の酸触媒とを組み合わせてもよい。pKaが-5~0の酸触媒は、メタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸であってもよい。酸触媒中のpKaが-8~2の酸触媒の割合は50重量%以上であってもよく、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であり、100重量%(メタンスルホン酸などのpKaが-8~2の酸触媒のみ)である。
酸触媒の割合は、前記式(1a)で表されるフルオレノン化合物1モルに対して1モル以上であればよいが、ビスナフチルフルオレン類への転化率(収率)を向上できる点から、例えば1.2~10モル、好ましくは2~6モル、さらに好ましくは2.5~5.5モル、最も好ましくは3~5モルである。酸触媒の割合が少なすぎると、収率が低下する虞がある。
助触媒であるチオール類としては、助触媒として機能する慣用のチオール類を利用できる。慣用のチオール類としては、メルカプト酢酸(チオグリコール酸)、β-メルカプトプロピオン酸、α-メルカプトプロピオン酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸などのメルカプトカルボン酸;チオ酢酸、チオプロピオン酸などのチオカルボン酸;メルカプトエタノールなどのチオグリコール;メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、1-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;ベンジルメルカプタンなどのアラルキルメルカプタンなどが挙げられる。アルキルメルカプタンとしては、C1-16アルキルメルカプタンが好ましく、C1-4アルキルメルカプタンが特に好ましい。これらのチオール類は塩の形態であってもよい。塩としては、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩などが例示できる。これらのチオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのチオール類の中でも、メルカプトC1-6カルボン酸が好ましく、メルカプトC2-6カルボン酸が特に好ましい。さらに、メルカプトC2-6カルボン酸の中でも、メルカプトC2-4カルボン酸が好ましく、β-メルカプトプロピオン酸などのメルカプトC2-3カルボン酸が特に好ましい。
チオール類の割合は、前記式(1a)で表されるフルオレノン化合物1モルに対して0.01モル以上であればよいが、例えば0.01~0.5モル、好ましくは0.03~0.3モル、さらに好ましくは0.05~0.2モル、最も好ましくは0.1~0.15モルである。チオール類の割合は、酸触媒1モルに対して0.01モル以上であればよいが、例えば0.01~1モル、好ましくは0.02~0.5モル、さらに好ましくは0.03~0.3モル、最も好ましくは0.05~0.15モルである。チオール類の割合が少なすぎると、収率及び選択率が低下する虞がある。
反応は、前記フルオレノン化合物及び前記ナフタレン化合物を反応器に仕込み、酸触媒及びチオール類の存在下、攪拌することにより行うことができる。酸触媒は、全量を反応系に仕込んでもよく、連続的又は間欠的に反応系に滴下してもよい。例えば、反応は、前記フルオレノン化合物、前記ナフタレン化合物及びチオール類を反応器に仕込み、攪拌しつつ酸触媒を滴下した後、さらに加熱しながら攪拌することにより行ってもよい。
酸触媒を滴下する場合、滴下に要する時間は使用する酸触媒の量によっても異なるが、通常1分以上であり、例えば5~30分であってもよい。滴下の際の温度は、例えば10~100℃、好ましくは20~70℃、さらに好ましくは40~65℃である。
滴下終了後、加熱しながら、さらに攪拌することにより反応を進行させるのが好ましい。反応温度は、使用するナフタレン化合物や酸触媒の種類によって異なるが、例えば70~200℃、好ましくは80~150℃、さらに好ましくは85~130℃、最も好ましくは90~110℃である。反応温度が低すぎると、収率が低下する虞があり、高すぎると、選択率が低下する虞がある。反応時間は、例えば1~20時間、好ましくは3~15時間、さらに好ましくは5~10時間である。
反応は、加圧下で行ってもよいが、常圧化又は減圧下で行う場合が多い。さらに、収率及び選択率を向上できる点から、減圧下で行うのが好ましく、圧力は、例えば10000~10Pa、好ましくは5000~10Pa、さらに好ましくは1000~10Paである。
反応は、不活性溶媒、例えば、トルエン、キシレンなどの溶媒の存在下で行ってもよいが、通常、溶媒の非存在下で行うことができる。また、過剰量のナフタレン化合物を用いる場合には、加熱下では溶媒としても機能し、反応をよりスムーズに行うことができる。反応は、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
反応の進行は、液体クロマトグラフィーなどの分析手段により追跡でき、反応混合物中に未反応のフルオレノン化合物が0.5重量%以下となった時点を終点とすることができる。得られたビスナフチルフルオレン類は、慣用の方法で精製してもよい。
[ビス(カルボキシナフチル)フルオレン類及びその製造方法]
本発明のビスナフチルフルオレン類は、高い屈折率及び耐熱性を有するため、添加剤や樹脂原料などとして利用できる。なかでも、硬化剤や樹脂原料などとして利用する場合、反応性基を導入してもよく、前記ビスナフチルフルオレン類を酸化することによりカルボキシル基を導入し、前記式(2)で表されるビス(カルボキシナフチル)フルオレン類を製造してもよい。
前記ビスナフチルフルオレン類としては、前記式(1)において、R1の炭化水素基がアルキル基であるビスナフチルフルオレン類が好ましい。さらに、前記R1のアルキル基は、ビス(カルボキシナフチル)フルオレン類の生産性の点から、C1-3アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
ビスナフチルフルオレン類の酸化方法としては、各種の酸化剤を用いて酸化する慣用の酸化方法を利用できる。慣用の酸化方法としては、酸素ガス(酸素分子);過マンガン酸塩などのマンガン化合物;過酸化水素、過酢酸などの過酸化物;オゾンなどによる酸化方法などが挙げられる。これらのうち、選択率及び収率を向上できる点から、酸化剤として酸素ガス(酸素分子)を用いて酸化する方法が好ましい。
酸素ガスを用いて酸化する方法では、溶媒の非存在下でビスナフチルフルオレン類を酸化してもよいが、溶媒中でビスナフチルフルオレン類を酸化してもよい。溶媒としては、慣用の溶媒を利用でき、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸などのC1-10脂肪族カルボン酸を含む溶媒が好ましく、酪酸などのC2-6脂肪族モノカルボン酸が特に好ましい。溶媒の割合は、ビスナフチルフルオレン類1重量部に対して、例えば0.1重量部以上であってもよく、例えば0.1~100重量部、好ましくは1~50重量部、さらに好ましくは5~30重量部である。
酸素ガスの導入方法としては、ビスナフチルフルオレン類を含む溶媒を攪拌しながら、溶媒中に吹き込む方法が好ましい。酸素ガスの導入量は、例えば10~1000ml/分、好ましくは100~500ml/分、さらに好ましくは100~200ml/分である。
酸素ガスを用いた酸化方法では、酸化触媒の存在下で酸化するのが好ましい。酸化触媒としては、コバルト含有触媒とセリウム含有触媒と臭素含有触媒との組み合わせが好ましい。
コバルト含有触媒は、コバルトを含んでいればよく、コバルト単体であってもよく、コバルト化合物であってもよい。コバルト化合物としては、酸化物;酢酸塩などのC1-6アルカン酸塩、スルホン酸塩などの有機酸塩;硫酸塩などの無機酸塩;ハロゲン化物などが挙げられる。これらのうち、酢酸コバルトなどのアルカン酸コバルト塩が好ましい。コバルト含有触媒の割合は、ビスナフチルフルオレン類100重量部に対して、例えば1~30重量部、好ましくは3~20重量部、さらに好ましくは5~10重量部である。
セリウム含有触媒も、セリウムを含んでいればよく、セリウム単体であってもよく、セリウム化合物であってもよい。セリウム化合物としては、酸化物;酢酸塩などのC1-6アルカン酸塩、スルホン酸塩などの有機酸塩;硫酸塩などの無機酸塩;ハロゲン化物などが挙げられる。これらのうち、酢酸セリウムなどのアルカン酸セリウム塩が好ましい。セリウム含有触媒の割合は、ビスナフチルフルオレン類100重量部に対して、例えば1~20重量部、好ましくは2~10重量部、さらに好ましくは3~8重量部である。
臭素含有触媒も、臭素を含んでいればよく、臭素単体(臭素分子)であってもよく、臭素化合物であってもよい。臭素化合物として、臭化水素、金属臭化物、臭化アルキル、臭化アンモニウムなどが挙げられる。これらのうち、臭化ナトリウムなどのアルカリ金属臭化物が好ましい。臭素含有触媒の割合は、ビスナフチルフルオレン類100重量部に対して、例えば0.1~10重量部、好ましくは0.3~5重量部、さらに好ましくは0.5~1重量部である。
酸素ガスを用いた酸化反応は、反応性などの点から、加熱下で行うのが好ましい。反応温度は、例えば100℃以上、好ましくは120~200℃、さらに好ましくは130~180℃、最も好ましくは150~170℃である。さらに、反応を促進する点から、加熱に加えて、ビスナフチルフルオレン類を含む溶媒を攪拌しながら、酸素ガスを導入するのが好ましい。
前記酸化触媒は、一括して添加してもよく、分割して添加してもよい。例えば、酸化触媒の一部を酸素ガス導入前に添加し、酸素ガスの導入後、残部の酸化触媒を添加し、加熱下で攪拌してもよい。酸化触媒が複数の組み合わせである場合、予め50~130℃、好ましくは80~100℃の温度で加熱して酸化触媒を攪拌することにより、各触媒を均一に分散させてもよい。
酸化のための反応時間は、例えば1時間以上であればよく、好ましくは3~30時間、さらに好ましくは5~20時間である。
本発明では、このような方法でビスナフチルフルオレン類[特に、ビス(メチルナフチル)フルオレン類]を酸化することにより、前記式(2)において、基Xがヒドロキシル基であるビス(カルボキシナフチル)フルオレン類が得られる。得られたビス(カルボキシナフチル)フルオレン類は、慣用の方法で、基Xがアルコキシ基である酸エステル化物又は基Xがハロゲン原子である酸ハライドにエステル化又はハロゲン化(修飾)してもよい。
基Xのアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などのC1-4アルコキシ基などが挙げられる。これらのうち、C1-2アルコキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
基Xのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。これらのうち、塩素、臭素が好ましく、塩素が特に好ましい。
[ポリエステル樹脂]
本発明のポリエステル樹脂は、前記ビス(カルボキシナフチル)フルオレン類をジカルボン酸成分として用いることにより得られ、ジカルボン酸単位が、少なくとも前記式(3)で表されるジカルボン酸単位を含むポリエステル樹脂である。
(ジカルボン酸単位)
ジカルボン酸単位は、前記式(3)で表されるジカルボン酸単位に加えて、他のジカルボン酸成分由来の単位をさらに含んでいてもよい。
他のジカルボン酸成分としては、フルオレン骨格を有する他のジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
前記フルオレン骨格を有する他のジカルボン酸としては、2,7-ジカルボキシフルオレンなどのフルオレンジカルボン酸;9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレン;9-(1,2-ジカルボキシエチル)フルオレン;9-(2,3-ジカルボキシプロピル)フルオレンなどの9-(ジカルボキシC2-6アルキル)フルオレンなどが挙げられる。
前記芳香族ジカルボン酸としては、ナフタレンジカルボン酸などの縮合多環式芳香族ジカルボン酸;ビフェニルジカルボン酸などのアリールアレーンジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの単環式芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
前記脂環族ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのシクロアルイカンジカルボン酸などが挙げられる。
前記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などのC2-12アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。
さらに、これら他のジカルボン酸成分は、エステル形成性誘導体であってもよい。前記エステル形成性誘導体としては、メチルエステルなどのC1-4アルキルエステル、酸クロライドなどの酸ハライド、酸無水物などが挙げられる。
これら他のジカルボン酸成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、フルオレン骨格を有する他のジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸が好ましく、9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレン、テレフタル酸が特に好ましい。他のジカルボン酸成分由来の単位の割合は、ジカルボン酸単位全体に対して、例えば50モル%以下、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。他のジカルボン酸成分由来の単位の割合は、ジカルボン酸単位全体に対して、例えば0.01~50モル%である。なお、前記割合は、モノマーの仕込み割合であってもよいが、ポリエステル樹脂中に導入される構成単位の割合であるのが好ましい(以下、同様)。
式(3)で表されるジカルボン酸単位の割合は、ジカルボン酸単位全体に対して、例えば50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。式(3)で表されるジカルボン酸単位の割合が少なすぎると、屈折率及び耐熱性が低下する虞がある。
また、必要に応じて、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸成分又はその成分由来の単位を少量使用してもよい。前記単位の割合は、ジカルボン酸成分とポリカルボン酸成分との総量に対して、例えば10モル%以下である。前記単位を含む場合、前記単位の割合は、ジカルボン酸成分とポリカルボン酸成分との総量に対して例えば0.1~8モル%、好ましくは0.2~5モル%である。前記ポリカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸などが挙げられる。
(ジオール単位)
ジオール単位は、特に限定されないが、成形性(特に射出成形の成形性)を向上できる点から、少なくとも前記式(4)で表されるジオール単位を含むのが好ましい。
前記式(4)において、アルキレン基Aとしては、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基などが挙げられる。これらのうち、エチレン基などのC2-3アルキレン基が好ましい。
オキシアルキレン基(OA)の繰り返し数kは、1以上の整数であればよく、例えば1~5の整数、好ましくは1~3の整数、さらに好ましくは1又は2、最も好ましくは1である。繰り返し数kが大きすぎると、耐熱性や屈折率が低下する虞がある。
式(4)で表されるジオール単位として、具体的には、アルカンジオールやポリアルキレングリコール(又はポリアルカンジオール)などのジオール成分に由来する構成単位などが挙げられる。
前記アルカンジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルカンジオールなどが挙げられる。
前記ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリC2-6アルカンジオール、好ましくはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジ乃至テトラC2-4アルカンジオールなどが挙げられる。
式(4)で表されるジオール単位は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルカンジオールに由来する単位が好ましく、エチレングリコールに由来する単位が特に好ましい。
ジオール単位は、前記式(4)で表されるジオール単位に加えて、他のジオール成分由来の単位をさらに含んでいてもよい。
他のジオール成分としては、例えば、フルオレン骨格を有するジオール、ジヒドロキシアレーン、芳香脂肪族ジオール、ビスフェノール類、ビフェノール類;及びこれらのジオール成分のC2-4アルキレンオキシド(又はアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体[例えば、1モルのビスフェノールAに対して、2~10モル程度のエチレンオキシドが付加した付加体など]などが挙げられる。
前記フルオレン骨格を有するジオールとしては、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシアリール]フルオレン;9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシ-(モノ又はジ)C1-4アルキル-アリール]フルオレン;9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシ-C6-10アリールアリール]フルオレンなどが挙げられる。
前記ジヒドロキシアレーンとしては、ヒドロキノン、レゾルシノールなどが挙げられる。
前記芳香脂肪族ジオールとしては、ベンゼンジメタノールなどが挙げられる。
前記ビスフェノール類としては、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールSなどが挙げられる。
前記ビフェノール類としては、p,p’-ビフェノールなどが挙げられる。
前記他のジオール成分は、これらのジオール成分のC2-4アルキレンオキシド(又はアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体であってもよい。前記ジオール成分のC2-4アルキレンオキシドとしては、1モルのビスフェノールAに対して、2~10モル程度のエチレンオキシドが付加した付加体などが挙げられる。
これら他のジオール成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシフェニル]フルオレンなどが汎用される。他のジオール成分由来の単位の割合は、ジオール単位全体に対して50モル%以下であってもよく、例えば0.01~50モル%、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
式(4)で表されるジオール単位の割合は、ジオール単位全体に対して50モル%以上であってもよく、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは100モル%であってもよい。式(4)で表されるジオール単位の割合が少なすぎると、成形性が低下する虞がある。
また、必要に応じて、3以上のヒドロキシル基を有するポリオール成分又はその成分に由来する単位を少量使用してもよい。前記単位の割合は、ジオール成分とポリオール成分との総量に対して10モル%以下であってもよい。前記単位を含む場合、前記単位の割合は、例えば0.1~8モル%、好ましくは0.2~5モル%である。前記ポリオール成分としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのアルカンポリオールなどが挙げられる。
(ポリエステル樹脂の特性)
本発明のポリエステル樹脂は、少なくとも前記式(3)で表されるジカルボン酸単位を含む樹脂であり、種々の特性(例えば、光学的特性、機械的特性、熱的特性など、特に光学的特性、機械的特性)において優れている。特に、前記式(3)で表されるジカルボン酸単位と前記式(4)で表されるジオール単位とを組み合わせたポリエステル樹脂は、射出成形によって高い屈折率及び耐熱性を有する成形体を製造できる。
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は高く、160℃以上の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、160~200℃、165~198℃、170~195℃、175~190℃、180~185℃である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
本発明のポリエステル樹脂の5重量%減少温度も高く、300℃以上の範囲から選択でき、例えば300~600℃、好ましくは350~500℃、さらに好ましくは380~480℃、最も好ましくは400~450℃である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、5重量%減少温度は、示差熱熱重量同時測定装置を用いて測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
本発明のポリエステル樹脂の重量平均分子量は、15000~80000程度の範囲から選択でき、例えば20000~70000、好ましくは25000~60000、さらに好ましくは30000~50000、最も好ましくは35000~45000程度であってもよい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによってポリスチレン換算で測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
本発明のポリエステル樹脂の20℃、波長589nmでの屈折率は、例えば1.65以上の範囲から選択でき、例えば1.67以上、好ましくは1.68以上、さらに好ましくは1.69以上である。前記屈折率は、例えば1.65~1.75、好ましくは1.67~1.72、さらに好ましくは1.68~1.7、最も好ましくは1.69~1.695である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、屈折率は、多波長アッベ屈折計を用いて測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
本発明のポリエステル樹脂の20℃でのアッベ数は、例えば25.0以下の範囲から選択でき、例えば22.0以下、好ましくは21.0以下、さらに好ましくは20.0以下、最も好ましくは19.0以下である。前記アッベ数は、17.0~25.0の範囲から選択でき、例えば17.0~22.0、好ましくは17.0~21.0、さらに好ましくは17.0~20.0、最も好ましくは17.0~19.0である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、アッベ数は、多波長アッベ屈折計を用いて測定できる。
本発明のポリエステル樹脂の20℃、波長600nmでの複屈折(ガラス転移点よりも10℃高い温度で3倍に延伸したフィルムにおける複屈折)の絶対値は、例えば75×10-4以下の範囲から選択でき、例えば、60×10-4以下、好ましくは50×10-4以下、さらに好ましくは40×10-4以下、特に30×10-4以下であり、より低い複屈折が求められる場合には、例えば25×10-4以下、好ましくは20×10-4以下である。前記複屈折の絶対値は、0.001×10-4~75×10-4の範囲から選択でき、例えば0.005×10-4~60×10-4、好ましくは0.01×10-4~50×10-4、さらに好ましくは0.1×10-4~40×10-4、最も好ましくは1×10-4~30×10-4であり、より低い複屈折が求められる場合には、例えば5×10-4~25×10-4、好ましくは10×10-4~20×10-4である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、複屈折は、回転検光子法を用いて測定できる。
(ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明のポリエステル樹脂は、ジオール成分とビス(カルボキシナフチル)フルオレン類を含むジカルボン酸成分とを反応(重合又は縮合)させることにより製造できる。重合方法(製造方法)としては、慣用の方法、溶融重合法(ジオール成分とジカルボン酸成分とを溶融混合下で重合させる方法)、溶液重合法、界面重合法などが例示できる。好ましい方法は、溶融重合法である。
また、反応において、ジオール成分及びジカルボン酸成分の使用量(使用割合)は、前記単位の割合と同様の範囲から選択できるが、必要に応じて各成分などを過剰に用いて反応させてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどの脂肪族ジオール成分は、留出できない他の成分由来骨格の割合よりも過剰に使用してもよい。また、反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、慣用のエステル化触媒又はエステル交換触媒、重縮合触媒などを利用できる。
エステル化触媒(エステル交換触媒)としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などの金属化合物などが挙げられる。前記アルカリ金属としては、ナトリウムなどが挙げられる。前記アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどが挙げられる。前記遷移金属としては、マンガン、亜鉛、カドミウム、鉛、コバルト、チタンなどが挙げられる。金属化合物は、酢酸塩、プロピオン酸塩などの有機酸塩などであってもよい。これらのエステル化触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、酢酸マンガンや酢酸カルシウムなどの酢酸塩が好ましい。
エステル化触媒の使用量は、ジカルボン酸成分1モルに対して、例えば0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~30×10-4モルである。
重縮合触媒としては、ナトリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;マンガン、亜鉛、カドミウム、鉛、コバルト、チタンなどの遷移金属;アルミニウムなどの周期表第13族金属;ゲルマニウムなどの周期表第14族金属;アンチモンなどの周期表第15族金属などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、アルコキシド;酢酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩;ホウ酸塩、炭酸塩などの無機酸塩;金属酸化物などであってもよく、代表的には、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム-n-ブトキシドなどのゲルマニウム化合物;三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレンリコレートなどのアンチモン化合物;テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなどのチタン化合物などが例示できる。
これらの重縮合触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、二酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物が好ましい。
重縮合触媒の使用量は、ジカルボン酸成分1モルに対して、例えば0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。
また、反応は、必要に応じて、熱安定剤や光安定剤、酸化防止剤などの安定剤、重合調整剤などの存在下で行ってもよい。前記熱安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物などが挙げられる。安定剤の使用量は、ジカルボン酸成分1モルに対して、例えば0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。
反応は、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、例えば1×102~1×104Paの減圧下で行うこともできる。反応温度は、重合法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は、例えば150~300℃、好ましくは180~290℃、さらに好ましくは200~280℃である。
[成形体]
本発明のポリエステル樹脂は、前記のように、優れた光学的特性(高屈折率など)、機械的特性、高耐熱性を有している。そのため、本発明には、前記ポリエステル樹脂(又はその樹脂組成物、以下、樹脂組成物を含めてポリエステル樹脂ということがある)で構成された成形体も含まれる。前記成形体としては、光学フィルム、光学レンズ、光学シートなどの光学用部材などが挙げられる。成形体の形状は、特に限定されず、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造;棒状、管状又はチューブ状、中空状、レンズ状などの三次元的構造などが挙げられる。
このような成形体は、前記ポリエステル樹脂で構成されていればよく、前記ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物で構成してもよい。このような樹脂組成物は、各種添加剤を含んでいてもよい。前記添加剤としては、充填剤又は補強剤;染顔料などの着色剤;導電剤;難燃剤;可塑剤;滑剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの安定剤;離型剤;帯電防止剤;分散剤;流動調整剤;レベリング剤;消泡剤;表面改質剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末などの低応力化剤;炭素材などが挙げられる。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の割合は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、例えば30重量部以下、好ましくは0.1~20重量部、さらに好ましくは1~10重量部である。
成形体は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して製造することができる。これらのうち、射出成形法が好ましい。
本発明のポリエステル樹脂は、種々の光学的特性に優れているため、フィルムを形成するのにも有用である。好ましいフィルムは光学フィルムである。そのため、本発明には、前記ポリエステル樹脂で形成されたフィルム(光学フィルム)も含まれる。
このようなフィルムの厚みは、1~1000μm程度の範囲から用途に応じて選択でき、例えば1~200μm、好ましくは5~150μm、さらに好ましくは10~120μmである。
このようなフィルム(光学フィルム)は、前記ポリエステル樹脂を、慣用の成膜方法、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融押出法、カレンダー法などを用いて成膜(又は成形)することにより製造できる。
フィルムは、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムなどの延伸フィルムであってもよい。延伸倍率は、一軸延伸又は二軸延伸において各方向にそれぞれ1.1~10倍、好ましくは1.2~8倍、さらに好ましくは1.5~6倍であり、通常1.1~2.5倍、好ましくは1.2~2.3倍、さらに好ましくは1.5~2.2倍である。
なお、二軸延伸の場合、等延伸であっても、偏延伸であってもよい。前記等延伸では、例えば、縦横両方向に1.5~5倍延伸であり、前記偏延伸は、例えば、縦方向に1.1~4倍、横方向に2~6倍延伸である。
また、一軸延伸の場合、縦延伸であっても横延伸であってもよい。前記縦延伸では、例えば、縦方向に2.5~8倍延伸であり、前記横延伸では、例えば、横方向に1.2~5倍延伸である。
延伸フィルムの厚みは、例えば1~150μm、好ましくは3~120μm、さらに好ましくは5~100μmである。
なお、このような延伸フィルムは、成膜後のフィルム(又は未延伸フィルム)に、延伸処理を施すことにより得ることができる。延伸方法は、特に制限が無く、一軸延伸の場合、湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、テンター法(フラット法ともいわれる)であってもチューブ法であってもよいが、延伸厚みの均一性に優れるテンター法が好ましい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料の略号及び詳細、並びに得られた樹脂又はフィルムの評価方法を以下に示す。
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製「DSC 6220」)を用いて、アルミパンに試料を入れ、50~300℃の範囲でガラス転移温度(Tg)を測定した。
[分子量]
試料をクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製「HLC-8320GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
[屈折率]
試料を280℃で熱プレスすることによって、厚みが200~300μmのフィルムを成形した。このフィルムを縦20~30mm×横10mmの短冊状に切り出し、試験片を得た。得られた試験体について、多波長アッベ屈折計((株)アタゴ製「DR-M4(循環式恒温水槽60-C3)」)を用いて、測定温度20℃で、接触液にジヨードメタンを使用して、589nm(D線)の屈折率nDを測定した。
[5重量%減少温度]
示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイナノテクノロジー(株)製「EXSTAR6000 TG/DTA6200」)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で、25℃から500℃まで測定した。
[転化率及び選択率]
転化率及び選択率は、HPLCの各シグナルの面積比から求めた。転化率(%)は、{1-[フルオレノンの面積比/(メチルナフタレンの面積比+目的物の面積比)]}×100、また選択率(%)は、[目的物の面積比/(1-メチルナフタレンの面積比-フルオレノンの面積比)]×100で求めた。
(HPLC条件)
使用機器:(株)島津製作所製「LCMS-2010Aシリーズ」
カラム:TSKgel ODS-80TM 250×4.5mm
溶出液(体積比):アセトニトリル/水=55/45~95/5(グラジェント)。
実施例1[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
メカニカルスターラーを備えた2リットルの三口フラスコ中に、9-フルオレノン(FLN)1.08g(6mmol)、2-メチルナフタレン2.56g(18mmol)、β-メルカプトプロピオン酸0.08g(0.75mmol)を加え、50℃で加熱攪拌した。攪拌した混合液に、メタンスルホン酸1.33g(14mmol)を15分かけて滴下した後、常圧で1時間かけて100℃まで昇温した。その後、原料の成分が揮散しない程度に、100~10000Paの範囲で調整して減圧しながら加熱撹拌を3時間実施した。液体クロマトグラフィー(LC)にてフルオレノンの消失を確認し、80℃まで冷却した。反応溶液にトルエン(10g)及びイオン交換水(10g)を加え分液操作によって有機層を取り出し、さらに10重量%のNaOH水溶液(10g)で洗浄した後、イオン交換水(10g×3)を使用して洗浄操作を行った。得られた有機層を減圧留去によって濃縮し、HPLC分析を使用して得られた濃縮液の選択率、転化率を求めたところ、転化率98.68%、選択率は約69.77%であった(表1)。得られた濃縮液にメタノール15gを加えてクレアミクス処理を施すことで塊状の粗生成物(1.71g、LC純度90.1%)を得た。得られた粗生成物をテトラヒドロフラン3mlに溶解した後、シリカゲル3gを添加して5分間攪拌し、次いで加熱減圧下(60℃バス;油回転ポンプ)によって濃縮乾固することにより粗体吸着済シリカゲルを得た。ガラスカラムにシリカゲル50g、粗体吸着済シリカゲル及び硫酸ナトリウムをこの順序で仕込み、ヘキサン/テトラヒドロフランを移動相として分取することにより白色固体(1.61g、収率 60.1%)を得た。
実施例2~9[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
メタンスルホン酸又は2-メチルナフタレンの使用量を表1に示す使用量に変更する以外は実施例1と同様にして9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例10及び11[9,9-ビス(5-メチル-1-ナフチル)フルオレンの合成]
2-メチルナフタレンの代わりに1-メチルナフタレンを使用し、メタンスルホン酸の使用量を表1に変更する以外は実施例1と同様にして9,9-ビス(5-メチル-1-ナフチル)フルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例12[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
反応温度を130℃に変更する以外は実施例4と同様にして9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例13[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
反応温度を85℃に変更する以外は実施例4と同様にして9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例14[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
反応時間を5時間に変更する以外は実施例13と同様にして9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例15[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
反応時間を8時間に変更する以外は実施例13と同様にして9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例16[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
酸触媒として、メタンスルホン酸1.33g(14mmol)の代わりに、硫酸0.69g(7mmol)を用い、常圧で1時間かけて100℃まで昇温した後、減圧せずに、そのまま常圧で加熱撹拌を3時間実施する以外は、実施例1と同様にして9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例17~19[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
酸触媒として、硫酸0.69g(7mmol)の代わりに、表1に示す硫酸及びメタンスルホン酸を用いる以外は実施例16と同様にしてビスメチルナフチルフルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例20~24[9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
酸触媒として、硫酸0.69g(7mmol)の代わりに、表1に示すメタンスルホン酸を用いる以外は実施例16と同様にして9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレンを合成し、転化率及び選択率を測定した。
実施例1~24で得られたビス(メチルナフチル)フルオレンの転化率及び選択率を表1に示す。
なお、実施例10及び11では、多数の異性体が存在し、帰属を確定できず、選択率を求めることができなかった。
実施例25
[9,9-ビス(6-カルボキシ-2-ナフチル)フルオレンの合成]
磁気攪拌子、ガス吹込管、還流冷却器及び三方コックを装着した反応器に酢酸コバルト(II)7.84g、酢酸セリウム(III)2.64g、臭化ナトリウム0.406g及び酪酸 75mlを仕込んで90℃で攪拌分散させ、次いで実施例1で得られた9,9-ビス(6-メチル-2-ナフチル)フルオレン11.7gを添加して攪拌分散させ、次いで温度を165℃に上げて酸素を約180ml/分で反応液に吹き込みつつ同温度で5.5時間攪拌した。HPLC分析により、目的物を含む複数の成分の生成及び原料の残留が確認されたため、反応液を120℃に冷却して酢酸コバルト(II)3.92g、酢酸セリウム(III)1.32g及び臭化ナトリウム0.203gを添加して、次いで温度を165℃に上げて同温度で4.5時間攪拌した。HPLC分析により、反応生成物は、目的が主体であること及び原料が実質的に消失したことが確認された。反応液を90℃まで冷却して精製水(900ml)に滴下し、次いで室温で12時間攪拌した。析出物を濾別して精製水(10×180ml)で洗浄し、次いで加熱減圧下(80℃バス;油回転ポンプ)によって乾固することにより淡褐色固体(14.4g;定量的)を得た。HPLC分析により、反応生成物は目的物の約80%を含有することが判明した。
[9,9-ビス(6-メトキシカルボニル-2-ナフチル)フルオレンの合成]
磁気攪拌子、還流冷却器及び三方コックを装着した反応器に、得られた9,9-ビス(6-カルボキシ-2-ナフチル)フルオレンを9.32gを計りとり、窒素置換した後、塩化チオニル131g及びジメチルホルムアミド0.2gを添加して溶解分散させ、次いで2.5時間加熱還流させ、さらに塩化チオニル65.7gを添加して2.5時間加熱還流させた。反応液を55℃まで冷却した後、加熱減圧下(55℃バス;ダイアフラムポンプ)に塩化チオニルを留去し、次いで窒素雰囲気下に室温まで冷却することにより酸塩化物(淡褐色半固体)を得た。窒素置換した後、ジクロロメタン60mlを添加して溶解分散させ、次いでメタノール7.44ml(184mmol)を5分間かけて滴下し、さらに室温で37時間攪拌した。反応液にシリカゲル5。7gを添加して5分間攪拌した後、加熱減圧下(80℃バス;ダイアフラムポンプ)に乾固することにより粗体吸着シリカゲルを得た。ガラスカラムにシリカゲル54.3g、粗体吸着済シリカゲルをこの順序で充填し、ヘキサン/酢酸エチル系を移動相[移動相組成は次の通り:ヘキサン→ヘキサン/酢酸エチル(体積比9/1)→ヘキサン/酢酸エチル(体積比7/1)→ヘキサン/酢酸エチル(体積比5/1)]とするクロマトグラフィーにより、淡黄色固体(2.55g、収率52%)を得た。HPLC分析により、淡黄色固体は実質的に単一成分からなることが判明した。
[ポリエステル樹脂の製造]
得られた9,9-ビス(6-メトキシカルボニル-2-ナフチル)フルオレン(1.59g(3mmol))、エチレングリコール(0.78g(12.5mmol))、エステル交換触媒、及び重縮合反応の触媒として、チタニウムテトラブトキシド(0.3mg(1μmol))を加えて撹拌しながら徐々に加熱溶融し、240℃まで昇温した後、315℃、150Pa以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらエチレングリコールを除去することでポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂を評価した結果、重量平均分子量は40000、屈折率1.692、ガラス転移温度188℃、5重量%減少温度438℃であった。