以下、添付図面に基づいて、本発明を屋根の改修に適用した例について説明する。
(第1実施形態)
図1に示す第1実施形態の建築板は、屋根の改修に用いられる屋根板10であって、既設の屋根2を下地(構造物下地)として葺設される。
以下、既設の屋根2を既設屋根2という。また、屋根板10を、既設屋根2の屋根板20と区別するため、新設屋根板10という。
本実施形態の建築板の施工構造は、複数の新設屋根板10の端部が、階段状に重ねられて既設屋根2上に施工された構造であり、既設屋根2と、複数の新設屋根板10と、既設屋根2に固定され複数の新設屋根板10を保持する複数の保持具3とを備えている。
本実施形態の既設屋根2は、野地21と、野地21の上に敷かれた下葺材25と、野地21の上に下葺材25を介して葺かれた複数の屋根板20とを備えている。以下、屋根板20を既設屋根板20という。
下葺材25は、例えばアスファルトルーフィングであって、シート状に形成されている。本実施形態の既設屋根板20は、平面視略矩形板状のスレート瓦であって、セメント系成形材料を成形し、養生硬化することで製造される。
複数の既設屋根板20は、図3に示すように、野地21上に、軒棟方向と軒方向との両方向に並べて設置されている。ここで、軒棟方向とは屋根の勾配方向であり、軒方向とは軒棟方向と直交する水平方向である。すなわち、軒棟方向は、新設屋根板10が階段状に並ぶ方向であり、軒方向は、新設屋根板10が階段状に並ぶ方向と直交する方向である。
図1に示すように、複数の既設屋根板20は、軒棟方向に隣接する既設屋根板20のうち、軒側の既設屋根板20に棟側の既設屋根板20が表側から重ね合わされている。すなわち、複数の既設屋根板20は、軒棟方向に隣接する既設屋根板20の幅方向(軒棟方向)端部が階段状に重ねられて野地21に施工されている。更に言い換えれば、軒棟方向に隣接する既設屋根板20にあっては、一方の既設屋根板20(軒側の既設屋根板20)の隣接方向他方側(棟側)の部分に、他方の既設屋根板20(棟側の既設屋根板20)の隣接方向一方側の部分が表側から重なり合っている。
複数の既設屋根板20は、軒方向に隣接する既設屋根板20同士を突付けた状態で、野地21上に設置されている。ここで、「突付け」とは、軒方向に隣接する屋根板20のうちの一方の端面と、他方の端面とを突き合せることを意味する。既設屋根板20の上面は、棟側に隣接した既設屋根板20によって覆われる被覆部22と、棟側に隣接した既設屋根板20によって覆われずに露出した曝露部(露出部)23とを備えている。
既設屋根板20の被覆部22には、釘やビス等の固着具24が厚み方向に貫通している。固着具24は、下葺材25を介して野地21に打入されており、これにより、既設屋根板20は野地21に固定されている。
図1及び図3に示すように、複数の新設屋根板10は、複数の既設屋根板20の上に、軒棟方向と軒方向との両方向に並べて設置されている。本実施形態の新設屋根板10は、既設屋根板20と同様の平板状のスレート瓦であって、セメント系成形材料を成形し、養生硬化することで製造される。
本実施形態の新設屋根板10は、各既設屋根板20の曝露部23上に載置されており、対応する曝露部23を表側から覆っている。図1に示すように、新設屋根板10の厚みTnは、既設屋根板20の厚みToと略同じである。図3に示すように新設屋根板10の軒方向の長さBn1は、既設屋根板20の軒方向の長さBo1と同じである。
図1に示すように、新設屋根板10の軒棟方向の幅Bn2は、対応する既設屋根板20の曝露部23の軒棟方向の幅Bo2と略同じである。詳しくは新設屋根板10の軒棟方向の幅は、曝露部23の軒棟方向の幅よりもわずかに大きく、新設屋根板10の軒側端部は、対応する既設屋根板20よりも軒側に突出している。
複数の新設屋根板10は、軒棟方向に隣接する新設屋根板10のうち、軒側の新設屋根板10の棟側端部に、棟側の新設屋根板10の軒側端部が表側から階段状に重なり合うように既設屋根板20上に設置されている。
すなわち、軒棟方向に隣接する新設屋根板10にあっては、一方の新設屋根板10の隣接方向他方側の端部に、他方の新設屋根板10の隣接方向一方側の端部が表側から重なり合うように施工されている。
図2に示すように、軒方向に隣接する新設屋根板10同士は、突付けられている。すなわち、新設屋根板10は、軒方向に突付けて施工されている。本実施形態の建築板の施工構造では、複数の既設屋根板20が千鳥葺で葺設され、かつ、複数の新設屋根板10が一文字葺で葺設されている。このため、軒方向に隣接する新設屋根板10の突付け部分と、軒方向に隣接する既設屋根板20の突付け部分とは、軒方向において異なる位置に配置されるところと、軒方向において同じ位置に配置されるところとがある。なお、軒方向に隣接する新設屋根板10の突付け部分と、軒方向に隣接する既設屋根板20の突付け部分とは、屋根全体に亘って、軒方向において異なる位置に配置されてもよいし、軒方向において同じ位置に配置されてもよい。
図1及び図2に示すように、既設屋根2には、複数の新設屋根板10を保持する複数の保持具3が取り付けられている。保持具3は、軒方向に延びており、保持具3の長手方向は、軒方向と一致している。
本実施形態の保持具3は、軒方向の長さが、新設屋根板10及び既設屋根板20の各々の軒方向の長さBn1,Bo1よりも長い。このため、保持具3は、軒方向に並んだ複数の既設屋根板20に亘り、かつ軒方向に並んだ複数の新設屋根板10に亘っている。
本実施形態の保持具3は、図4に示すように横断面形状が長手方向に亘って一様であり、例えば、金属板を曲げ加工することにより形成される。
図1に示すように、保持具3は軒棟方向に隣接する新設屋根板10の間に配置されている。以下、保持具3を介して軒棟方向に隣接する新設屋根板10のうち、軒側に配置される一方の新設屋根板10を軒側新設屋根板10aといい、棟側に配置される他方の新設屋根板10を棟側新設屋根板10bという。
また、以下では、軒棟方向に隣接する既設屋根板20のうち、軒側新設屋根板10aによって曝露部23が覆われる一方の既設屋根板20を軒側既設屋根板20aといい、棟側新設屋根板10bによって曝露部23が覆われる他方の既設屋根板20を棟側既設屋根板20bという。
保持具3は、軒側新設屋根板10aの棟側において既設屋根2側(下地側)に固定されている。
本実施形態の保持具3は、固定片30と、保持片31とを有している。固定片30は、軒側新設屋根板10aの棟側において既設屋根2側に固定される。保持片31は、固定片30から表側に延びて、軒側新設屋根板10aの棟側端部と棟側新設屋根板10bの軒側端部との重なり部分において、新設屋根板10のそれぞれの端部が差し込まれて該端部を保持する。
具体的に本実施形態の保持片31は、棟側端保持片310と、軒側端保持片311とを有している。棟側端保持片310は、軒側新設屋根板10aの棟側端を保持する。軒側端保持片311は、棟側新設屋根板10bの軒側端を保持する。
既設屋根2に対して固定される固定片30は、軒棟方向に延びた板状に形成されている。固定片30は、軒側既設屋根板20aと棟側既設屋根板20bとの間に差し込まれて軒側既設屋根板20aと棟側既設屋根板20bとで上下に挟まれている。これにより、固定片30は、既設屋根2に対して固定されている。なお、固定片30は、軒側既設屋根板20aを野地21に固定するための固着具24よりも軒側に位置している。
軒側新設屋根板10aの棟側端を保持する棟側端保持片310は、断面L字状に形成されており、固定片30の軒側端から表側(上側)に向かって延びた立上片33と、立上片33における固定片30とは反対側の端(表側の端)から軒側に延びた延出片34とを備えている。つまり、棟側端保持片310は、固定片30の軒側端から表側に一旦延びると共に軒側に延びている。
立上片33は棟側既設屋根板20bの軒側端面に沿い、かつ、軒側新設屋根板10aの棟側端面に沿っている。この立上片33の上下幅は、新設屋根板10の厚みと略同じである。
延出片34は、軒側新設屋根板10aの棟側端部の表面に沿って配置されている。これにより、軒側新設屋根板10aの棟側端部は、延出片34と軒側既設屋根板20aとに挟まれて、既設屋根2に対して固定されている。また、延出片34は、棟側新設屋根板10bの軒側端部の裏面に沿っている。
棟側新設屋根板10bの軒側端を保持する軒側端保持片311は、断面L字状に形成されており、延出片34の軒側端から表側に延びた支持片35と、支持片35における延出片34とは反対側の端から棟側に延びた押え片36とを備えている。つまり、軒側端保持片311は、棟側端保持片310の軒側端から表側に一旦延びると共に棟側に延びている。
支持片35は、上下幅が新設屋根板10の厚みと略同じであって、棟側新設屋根板10bの軒側端面に沿っており、棟側新設屋根板10bの軒側端面を支持する。押え片36は棟側新設屋根板10bの軒側端部の表面に沿っており、棟側新設屋根板10bの軒側端部は押え片36と延出片34とで挟まれて保持されている。これにより、棟側新設屋根板10bの軒側端部は、既設屋根2に対して固定されている。また、支持片35には、水抜き孔が設けられていてもよい。なお、この水抜き孔は、その軒側に敷設された新設屋根板10の突付け部分に対応する箇所以外の部分に形成されることが好ましい。
本実施形態の建築板の施工構造にあっては、棟側新設屋根板10bの軒側端部及び棟側既設屋根板20bの軒側端部が、保持具3の棟側端保持片310及び軒側端保持片311によってそれぞれ覆われる。このため、棟側新設屋根板10bと棟側既設屋根板20bとの間に、雨水が浸入し難くなっている。
保持具3の軒方向の長さは、図3に示す新設屋根板10及び既設屋根板20の各々の軒方向の長さBn1,Bo1よりも長く、保持具3は、軒方向に並んだ複数の既設屋根板20に亘り、かつ軒方向に並んだ複数の新設屋根板10に亘る。このため、軒方向に並んだ既設屋根板20同士の突付け部分の軒側端部、及び、軒方向に並んだ新設屋根板10同士の突付け部分の軒側端部が、保持具3により覆われて、これらの部分からの雨水の浸入が抑制される。
図1に示す新設屋根板10の既設屋根2への施工は、例えば、以下のように行われる。まず、最も棟側に配置されている軒方向に並ぶ複数の既設屋根板20上に、接着剤4(図3参照)を塗布し、複数の新設屋根板10をセットする。
次に、上述した複数の新設屋根板10の軒側端部において、複数の保持具3を固定する。この場合、保持具3の固定は、上述の新設屋根板10である棟側新設屋根板10bがセットされた棟側既設屋根板20bと、この棟側既設屋根板20bの軒側に隣接した軒側既設屋根板20aとの間に、軒側から保持具3の固定片30を差し込み(図3参照)、押え片36と延出片34との間に棟側新設屋根板10bの軒側端部を差し込むことで行われる。これにより、固定片30は両既設屋根板20によって上下に挟まれて既設屋根2に固定され、また、当該新設屋根板10の軒側端部が押え片36と延出片34との間に挟まれて固定される。
なお、上記のように保持具3を棟側既設屋根板20bと軒側既設屋根板20aとの間に差し込む際には、立上片33を棟側既設屋根板20bの軒側端面に当てることで、保持具3の軒棟方向の位置決めを容易に行うことができる。
次に、上述した複数の棟側新設屋根板10bの軒側に隣接する複数の軒側新設屋根板10aを、軒側既設屋根板20a上に軒方向に並べてセットする。このとき、軒側新設屋根板10aの棟側端部を、保持具3の延出片34と軒側既設屋根板20aとの間に軒側から差し込む。これにより、軒側新設屋根板10aの棟側端部は、保持具3の延出片34と軒側既設屋根板20aとの間に挟まれて既設屋根2に固定される。
なお、上記のように軒側新設屋根板10aの棟側端部を、保持具3の延出片34と軒側既設屋根板20aとの間に挿入する際には、軒側新設屋根板10aの棟側端面を保持具3の立上片33に当てることで、軒側新設屋根板10aの軒棟方向の位置決めを容易に行うことができる。
次に、上述の複数の軒側新設屋根板10aの軒側端部において、複数の保持具3を固定する。このとき、軒側既設屋根板20aと、この軒側既設屋根板20aの更に軒側に隣接した既設屋根板20との間に、保持具3の固定片30を差し込んで、この保持具3の軒側端保持片311により、軒側新設屋根板10aの軒側端部を保持する。そして、以後、同様の工程を棟側から軒側に向かって順に繰り返し行うことにより、新設屋根板10を、既設屋根2の棟から軒先に亘って施工する。
なお、最も棟側に位置する新設屋根板10と、最も軒側に位置する保持具3とは、ねじ等の固着具を用いて既設屋根2に固定してもよい。この場合、複数の新設屋根板10を既設屋根板20に対してより強固に固定することができる。
また、本実施形態では、保持具3が新設屋根板10の端部よりも長尺であったが、これに限定されない。例えば、保持具3は、新設屋根板10の端部よりも短尺で、軒方向に並ぶ新設屋根板10の突付け部分のみを保持するものであってもよい。
また、本実施形態の建築板は、既設屋根2上に施工される屋根板であるが、野地等の屋根下地に直接葺設される屋根板であってもよい。この場合、保持具3は、例えば、固定片30が下地に対して釘やねじ等の固着具を用いて固着されることで、下地に対して固定され、この保持具3により屋根板の軒側端部が保持される。また、この場合、施工の際には、上記改修方法とは反対に、軒先から棟側に順に施工される。すなわち、まず、軒先にスタータとなる平板屋根板を野地21に固定する。次に、野地21におけるスタータ用屋根板の棟側の位置に保持具3の固定片30を釘等で固定する。このとき、保持具3の延出片34でスタータ用屋根板の棟側端を押える。次に、保持具3の軒側端保持片311にスタータ用屋根板の棟側に配置される屋根板の軒側端を差し込み、そして、この屋根板の棟側に新たな保持具3の固定片30を固定し、以後、この工程を棟側に向かって繰り返し行うことにより、屋根板を屋根面全体に施工することができる。
(第2実施形態)
次に第2実施形態について説明する。図5及び図6に示す第2実施形態の建築板の施工構造は、複数の保持具3(図1参照)に代わる複数の保持具3Aを備えている。なお、保持具3Aは、第1実施形態の保持具3と略同様の構成を有するため、以下では、保持具3Aについて、第1実施形態の保持具3と異なる点についてのみ説明する。また、本実施形態の建築板の施工構造は、下葺材5Aと、複数の捨て板6Aとを更に備えている。
図6に示すように、複数の既設屋根板20の表面には、下葺材5Aが配置されている。下葺材5Aは、例えばアスファルトルーフィングであって、シート状に形成されている。下葺材5Aは、粘着剤を介して既設屋根2の上面全体に亘って敷かれている。なお、下葺材5Aは、粘着剤を介することなく、ビス止め等で既設屋根板20上に固定されていてもよい。
下葺材5Aは、階段状に重ねられた複数の既設屋根板20の表面に沿って配置されている。下葺材5Aは、軒側既設屋根板20aの棟側端部と棟側既設屋根板20bの軒側端部との重なり部分において階段状に曲がっており、軒側既設屋根板20aの表面、棟側既設屋根板20bの軒側端面及び棟側既設屋根板20bの表面に沿っている。
図5に示すように、既設屋根2の上には、下葺材5Aを介して複数の捨て板6Aが配置されている。各捨て板6Aは、既設屋根板20の曝露部23(図6参照)上に配置され、軒方向に隣接する新設屋根板10の突付け部分の裏側に配置されている。
各捨て板6Aは、軒方向に隣接する新設屋根板10の突付け部分から浸入した雨水を受ける。各捨て板6Aは、例えば金属製であり、板金を曲げ加工することで一体に形成される。図8に示すように、各捨て板6Aは、板状部60Aと、一対の堰部61Aと、端縁部62Aとを有している。板状部60Aは、軒棟方向に長い矩形板状に形成されている。板状部60Aは、下葺材5Aを介して既設屋根板20の上面に沿って配置されている(図5参照)。
板状部60Aにおける軒方向の両端には、表側に向かって突出した一対の堰部61Aが、それぞれ形成されている。各堰部61Aは、板状部60Aの軒棟方向の全長に亘っている。各堰部61Aは、板状部60Aの軒方向の端から表側に向かって突出した縦片610Aと、縦片610Aの上端から、軒方向において一対の堰部61Aの外側に向かって突出した横片611Aとを有している。図5に示すように、一対の堰部61Aの横片611Aには、軒方向に隣接する新設屋根板10の突付け部分がそれぞれ載せられている。このため、例えば新設屋根板10が踏まれる等して、新設屋根板10に下向きの力が加わったとき、この新設屋根板10を捨て板6Aで支持することができ、これにより、新設屋根板10の変形が抑制される。
図8に示すように、板状部60Aにおける棟側端には、表側に向かって突出した端縁部62Aが形成されている。端縁部62Aは、板状部60Aの軒方向の全長に亘っている。端縁部62Aは、軒方向に隣接する新設屋根板10の突付け部分の棟側端面に沿って配置されている。一対の堰部61A及び端縁部62Aは、雨水が前記突付け部分から板状部60Aに落下して板状部60A上を流れたときに、この雨水を堰き止めて広がりを抑えつつ、この雨水を板状部60Aの軒側に排出されるようにガイドする。なお、端縁部62A及び一方の堰部61Aは、省略可能である。また、捨て板6Aも省略可能である。
なお、捨て板6Aの軒側端部は、軒側新設屋根板10aの棟側端部上に位置させてもよく、板状部60A上を流れた雨水が軒側新設屋根板10aの表面を流れることになり、防水性が向上するものである。
図5に示すように、複数の保持具3Aは、複数の新設屋根板10を保持する。保持具3Aは、各新設屋根板10の軒側端面に沿って左右方向に複数並べて設けられている。本実施形態では、各新設屋根板10の軒側端部における軒方向の両側部分に、一対の保持具3Aがそれぞれ配置されている。
図6に示すように、各保持具3Aは、軒側新設屋根板10aの裏側において既設屋根2側に固定されている。各保持具3Aは、第1実施形態の固定片30(図1参照)に代えて、固定片30Aを有している。各保持具3Aの固定片30Aは、軒棟方向に延びた板状に形成されており、立上片33の下端から軒側に向かって突出している。すなわち、本実施形態の立上片33は、固定片30Aの棟側端から表側に向かって延びている。各保持具3Aの固定片30Aは、下葺材5Aを介して棟側既設屋根板20bの表面に沿って配置されている。
図7に示すように、固定片30Aには、上下方向に貫通した挿通孔37Aが形成されている。図6に示すように、各保持具3Aの挿通孔37Aには、釘やビス等の固着具70Aが厚み方向に貫通している。各固着具70Aは、下葺材5A、既設屋根板20及び下葺材25を順に通って野地21に打ち込まれている。これにより、各保持具3Aは、既設屋根2及び野地21に対して固定されている。本実施形態の固着具70Aは、頭部の上面が固定片30Aの上面と面一となる皿頭ねじである。なお、固着具70Aは、皿頭ねじ以外のねじ又は釘であってもよい。
本実施形態の軒側新設屋根板10aの棟側端部は、保持具3Aの延出片34と、固定片30Aにおける延出片34に対向する部分との間に挟まれて、既設屋根2に対して固定されている。
本実施形態では、棟側新設屋根板10bの軒側端部の軒方向の両側部分が、一対の保持具3Aによってそれぞれ保持される。このため、棟側新設屋根板10bの新設屋根板10が風等でバタついたりすることが抑制される。
また、棟側新設屋根板10bの軒側端部を保持する一対の保持具3Aは、軒方向において捨て板6Aが一対の保持具3Aの外側に位置するように配置される。すなわち、捨て板6Aは、軒方向に隣接する棟側新設屋根板10bのうち、一方の棟側新設屋根板10bの軒側端部を保持する保持具3Aと、他方の棟側新設屋根板10bの軒側端部を保持する保持具3Aとの間に配置されている。このため、仮に軒方向に隣接する棟側新設屋根板10bの突付け部分から雨水が浸入したとしても、この雨水は捨て板6Aの堰部61Aで堰き止められる。したがって、前記突付け部分から浸入した雨水が、既設屋根2において固着具70Aが打ち込まれた部分に至り難く、防水性が高い。
本実施形態の新設屋根板10の既設屋根2への施工は、例えば、以下のように行われる。まず、下葺材5Aを既設屋根2の上面全体に亘って敷く。次に、最も棟側に配置されている軒方向に並ぶ複数の既設屋根板20上に、下葺材5Aを介して複数の新設屋根板10をセットする。この時、新設屋根板10の軒側端部が、既設屋根板20の軒側端部よりも僅かに軒側に突出するよう位置する。
次に、上述の複数の新設屋根板10の軒側において、複数の既設屋根板20上に複数の保持具3Aを固定し、かつ、複数の捨て板6Aを下葺材5A上にセットする。この場合、保持具3Aの固定は、例えば以下のように行われる。
まず、上述のようにセットされた新設屋根板10である棟側新設屋根板10bの軒側端部と、この棟側新設屋根板10bがセットされた棟側既設屋根板20bの軒側に隣接した軒側既設屋根板20aとの間に、軒側から保持具3Aの棟側端保持片310を差し込み、この保持具3Aの押え片36と延出片34との間に棟側新設屋根板10bの軒側端部を差し込む。次に、固着具70Aを、固定片30Aの挿通孔37Aを通して、下葺材5A、既設屋根板20及び野地21に打ち込む。これにより、保持具3Aは既設屋根2及び野地21に固定される。
また、捨て板6Aは、棟側の端部が、棟側新設屋根板10bの軒側端部と、軒側既設屋根板20aとの間に差し込まれた状態で、軒側既設屋根板20aの曝露部23上に下葺材5Aを介してセットされる。
次に複数の棟側新設屋根板10bの軒側に隣接する複数の軒側新設屋根板10aを、複数の軒側既設屋根板20aの曝露部23上に配置する。このとき、軒側新設屋根板10aの棟側端部を、対応する保持具3Aの延出片34と固定片30Aとの間に差し込む。また、このとき、軒側新設屋根板10aの軒方向の端部を、対応する捨て板6Aの横片611A上に載せ、かつ、この軒側新設屋根板10aの軒側端面を、対応する捨て板6Aの端縁部62Aに沿って配置する。
次に複数の軒側新設屋根板10aの軒側において、上述と同様に、複数の保持具3Aを固定し、かつ、複数の捨て板6Aを下葺材5A上にセットする。すなわち、この場合、保持具3Aの固定は、軒側新設屋根板10aの軒側端部と、軒側既設屋根板20aの更に軒側に隣接した既設屋根板20との間に、軒側から保持具3Aの棟側端保持片310を差し込み、この保持具3Aの押え片36と延出片34との間に軒側新設屋根板10aの軒側端部を差し込むことで行われる。そして、以後、同様の工程を棟側から軒側に向かって順に繰り返し行うことにより、新設屋根板10を、既設屋根2の棟から軒先に亘って施工する。
なお、最も棟側に位置する新設屋根板10と、最も軒側に位置する保持具3Aとは、ねじ等の固着具を用いて既設屋根2及び野地21に固定してもよい。
上述した本実施形態の保持具3Aは、図9に示すように、新設屋根板10を野地21に直接葺設する場合にも利用できる。図9に示す例では、保持具3Aの固定片30Aが、野地21上に下葺材25を介して配置されており、この固定片30Aの挿通孔37A(図7参照)に通された固着具70Aが、下葺材25を介して野地21に固着されることにより、保持具3Aは野地21に対して固定されている。
この場合も複数の新設屋根板10は、棟から軒先に向かって順に施工される。すなわち、まず、下葺材25を野地21の上面全体に亘って敷く。次に最も棟側に位置する新設屋根板10を野地21上に下葺材25を介してセットする。
次に、上述した複数の新設屋根板10である複数の棟側新設屋根板10bの軒側において、複数の保持具3Aを固定し、かつ、複数の捨て板6Aを下葺材25上にセットする。この場合、保持具3Aの固定は、棟側新設屋根板10bの軒側端部と、野地21上の下葺材25との間に、軒側から保持具3Aの棟側端保持片310を差し込み、この保持具3Aの押え片36と延出片34との間に棟側新設屋根板10bの軒側端部を差し込む。次に、固着具70Aを、固定片30Aの挿通孔37A及び下葺材25を通して、野地21に打ち込む。これにより、保持具3Aは野地21に固定される。
また、捨て板6A(図8参照)は、棟側の端部が、棟側新設屋根板10bの軒側端部と、野地21上の下葺材25との間に差し込まれた状態で、下葺材25上にセットされる。
次に複数の棟側新設屋根板10bの軒側に隣接する複数の軒側新設屋根板10aを、野地21上に下葺材25を介して配置する。このとき、軒側新設屋根板10aの棟側端部を、対応する保持具3Aの延出片34と固定片30Aとの間に差し込む。また、このとき、軒側新設屋根板10aの軒方向の端部を、対応する捨て板6A(図8参照)の横片611A上に載せ、かつ、この軒側新設屋根板10aの軒側端面を、対応する捨て板6Aの端縁部62Aに沿って配置する。
次に複数の軒側新設屋根板10aの軒側において、上述と同様に、複数の保持具3Aを固定し、かつ、複数の捨て板6Aを下葺材25上にセットする。そして、以後、同様の工程を棟側から軒側に向かって順に繰り返し行うことにより、新設屋根板10を、既設屋根2の棟から軒先に亘って施工する。
(補足)
以上説明した各実施形態は、適宜設計変更可能である。例えば、既設屋根板20、新設屋根板10及び保持具3,3Aの各々の材質や形状は、適宜変更可能である。
また、上述した各実施形態の建築板は、屋根板10であるが、建物の外壁を構成する壁板であってもよい。また、建築板は外装材に限られず、建物の内壁を構成する壁板等であってもよい。さらには、建築板は、フェンスなどの外構に設置されるものであってもよい。
また、上述した各本実施形態の屋根板は、全体に亘って厚みが均一な板であるが、これに限定されず、例えば、軒側端ほど厚みが大きくなる断面くさび形状の板であってもよい。このような形状により、厚み感を表現することが可能となる。
(効果)
以上説明した第1実施形態及び第2実施形態の建築板の施工構造は、複数の建築板(新設屋根板(10))の端部が階段状に重ねられて構造物下地に施工された建築板の施工構造であって、以下に示す特徴を有する。構造物下地に固定され、前記端部の重なり部分においてそれぞれの前記端部が差し込まれて該端部を保持する保持具(3;3A)を備える。以下、この特徴を有する建築板の施工構造を、第1の態様の建築板の施工構造という。
第1の態様の建築板の施工構造にあっては、階段状に重ねられて施工された複数の建築板の重なり部分において、それぞれの前記端部が保持具(3;3A)に差し込まれて該端部が保持される。この場合、複数の建築板を、建築板に釘等の固着具を貫通する孔を形成することなく固定することができて、防水性を高めることができる。
また、第1実施形態の建築板の施工構造は、第1の態様の建築板の施工構造において、以下に示す付加的な特徴を有する。構造物下地には、複数の既設建築板(既設屋根板)の端部が階段状に重ねられて施工されている。保持具(3)は、既設建築板の間に差込固定されている。以下、この建築板の施工構造を第2の態様の建築板の施工構造という。
第2の態様の建築板の施工構造にあっては、建築板を既設建築板の表側に保持具(3)を用いて施工することができる。また、保持具(3)は既設建築板の間に差し込んで容易に固定することができる。
また、第1実施形態の建築板の施工構造は、第2の態様の建築板の施工構造において、以下に示す付加的な特徴を有する。建築板及び既設建築板は、略矩形状をなしている。建築板の板幅(Bn2)は、既設建築板の曝露部(23)と略同一幅である。以下、この建築板の施工構造を第3の態様の建築板の施工構造という。
第3の態様の建築板の施工構造にあっては、既設建築板の曝露部(23)と略同一幅の建築板を用いて、当該建築板によって構成される外観を、既設建築板の外観と同様の段差のある外観とすることができる。
また、第1実施形態の建築板の施工構造は、第3の態様の建築板の施工構造において、以下に示す付加的な特徴を有する。建築板は、曝露部(23)に接着固定されている。以下、この建築板の施工構造を第4の態様の建築板の施工構造という。
第4の態様の建築板の施工構造にあっては、建築板が既設建築板に接着固定される。このため、保持具(3)で保持された建築板が、風などでバタついたりすることを抑制できる。
また、第2実施形態の建築板の施工構造は、第1の態様の建築板の施工構造において、以下に示す付加的な特徴を有する。保持具(3A)は、建築板の裏側において、構造物下地に固着具(70A)で固定されている。以下、この建築板の施工構造を第5の態様の建築板の施工構造という。
第5の態様の建築板の施工構造にあっては、保持具(3A)を固着具(70A)を用いて構造物下地に容易に固定することができる。また、構造物下地において固着具(70A)が打ち込まれた箇所は、建築板で覆われるため、雨水が浸入し難い。
また、第2実施形態の建築板の施工構造は、第1~5の態様の建築板の施工構造において、以下に示す付加的な特徴を有する。建築板は、階段状に並ぶ方向と直交する方向に突付けて施工されており、この突付け部分の裏側に捨て板(6A)が配置される。捨て板(6A)の少なくとも前記直交する方向の両端縁に堰部(61A)が形成される。以下、この建築板の施工構造を第6の態様の建築板の施工構造という。
第6の態様の建築板の施工構造にあっては、隣接する建築板の突付け部分から浸入した雨水を捨て板(6A)で受けて、この雨水が保持具(3A)側に流れることを堰部(61A)によって抑制することができる。このため、構造物下地において固着具(70A)が打ち込まれた箇所には、雨水がより一層浸入し難くなる。
また、第2実施形態の建築板の施工構造は、第5又は第6の態様の建築板の施工構造において、以下に示す付加的な特徴を有する。構造物下地には、複数の既設建築板の端部が階段状に重ねられて施工されている。保持具(3A)は、既設建築板の曝露部(23)において、構造物下地に固着具(70A)で固定されている。以下、この建築板の施工構造を第7の態様の建築板の施工構造という。
第7の態様の建築板の施工構造にあっては、建築板を既設建築板の表側に保持具(3A)を用いて施工することができる。
また、第1実施形態及び第2実施形態の建築板の施工構造は、第2~4,7のいずれかの態様の建築板の施工構造において、以下に示す付加的な特徴を有する。建築板及び既設建築板は、いずれも屋根板である。以下、この建築板の施工構造を、第8の態様の建築板の施工構造という。
第8の態様の建築板の施工構造にあっては、保持具(3;3A)を用いて、既設建築板(既設屋根板(20))の上に建築板(新設屋根板(10))を施工することができ、これにより、容易に屋根の改修を行うことができる。
また、第1実施形態及び第2実施形態の保持具(3;3A)は、第1~第8の態様の建築板の施工構造に用いられる保持具(3;3A)であって、以下に示す特徴を有している。前記構造物下地に固定される固定片(30;30A)と、固定片(30;30A)から表側に延びて前記端部の重なり部分においてそれぞれの前記端部が差し込まれて該端部を保持する保持片(31)と、を有する。以下、この特徴を有する保持具(3;3A)を、第1の態様の保持具(3;3A)という。
第1の態様の保持具(3;3A)は、固定片(30;30A)及び保持片(31)が連続して形成された保持具(3;3A)であり、固定片(30;30A)を構造物下地側に固定した状態で、保持片(31)により、前記端部の重なり部分においてそれぞれの前記端部が差し込まれて該端部を保持することができる。
また、第1実施形態及び第2実施形態の屋根の改修方法は、複数の既設屋根板(20)が階段状に重ねられ、これら既設屋根板(20)上に新設屋根板(10)を施工する屋根の改修方法であって、以下に示す特徴を有する。新設屋根板(10)を棟側の既設屋根板(20)の曝露部(23)上にセットした状態で、既設屋根板(20)の前記重なり部分に保持具(3)を差し込んで、保持具(3)により新設屋根板(10)の軒側端部を保持する工程と、他の新設屋根板(10)の棟側端部を保持具(3)と軒側の既設屋根板(20)との間に差し込んで当該他の新設屋根板(10)を軒側の既設屋根板(20)の曝露部(23)上にセットする工程と、を繰り返し行って、新設屋根板(10)を複数の既設屋根板(20)上に施工する。以下、この特徴を有する屋根の改修方法を、第1の態様の屋根の改修方法という。
第1の態様の屋根の改修方法にあっては、保持具(3)により、新設屋根板(10)の軒側端部と、前記他の新設屋根板(10)の棟側端部とを保持することができる。このため、新設屋根板(10)に釘等の固着具を貫通する孔を形成することなく固定することができて、防水性を高めることができる。また、保持具(3)は、既設屋根板(20)の幅方向端部の重なり部分に差し込んで容易に固定することができる。
また、第2実施形態の屋根の改修方法は、複数の既設屋根板(20)が階段状に重ねられ、これら既設屋根板(20)上に新設屋根板(10)を施工する屋根の改修方法であって、以下に示す特徴を有する。新設屋根板(10)を棟側の既設屋根板(20)の曝露部(23)上にセットした状態で、保持具(3A)により新設屋根板(10)の軒側端部を保持し、保持具(3A)を軒側の既設屋根板(20)上に固定する工程と、他の新設屋根板(10)の棟側端部を保持具(3A)により保持して当該他の新設屋根板(10)を軒側の既設屋根板(20)の曝露部(23)上にセットする工程と、を繰り返し行って、新設屋根板(10)を複数の既設屋根板(20)上に施工する。以下、この特徴を有する屋根の改修方法を、第2の態様の屋根の改修方法という。
第2の態様の屋根の改修方法にあっては、保持具(3A)により、新設屋根板(10)の軒側端部と、前記他の新設屋根板(10)の棟側端部とを保持することができる。このため、新設屋根板(10)に釘等の固着具を貫通する孔を形成することなく固定することができて、防水性を高めることができる。また、保持具(3A)は、固着具(70A)により、軒側の既設屋根板(20)及び屋根下地に容易に固定することができる。
また、第1実施形態及び第2実施形態の屋根の改修方法は、第1又は第2の態様の屋根の改修方法において、以下に示す付加的な特徴を有している。棟側の既設屋根板(20)の曝露部(23)上に新設屋根板(10)をセットする際に、該新設屋根板(10)を曝露部(23)に接着固定する。以下、この屋根の改修方法を第3の態様の屋根の改修方法という。
第3の態様の屋根の改修方法にあっては、新設屋根板(10)が既設屋根板(20)に接着固定される。このため、保持具(3)で保持された新設屋根板(10)が、風などでバタついたりすることを抑制できる。