JP7037124B2 - 盛土補強構造 - Google Patents
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このような構造のものは、地震時における盛土基礎地盤の安定化に一定の効果があるが、頂部が法尻付近に位置する鋼矢板では、盛土高さを越える大規模洪水による洗掘、越水、浸透等による盛土自体の破壊を防止することができない。
特許文献1には、盛土内の左右の法肩部に鋼矢板を連結した地中鋼製壁体を配置すること(以下、(a)の構造)や、盛土の天端の中央部に鋼矢板を連結した地中鋼製壁体を配置すること(以下、(b)の構造)が記載されている。これらによれば、越水時にも地中鋼製壁体が天端の高さを確保し、破堤により堤外側(河川側)から堤内側(民家などが存在する側)へ水が一気に流入することを防止することができるため、盛土構造物の補強として効果的である。
また、(b)の構造においても、鋼矢板壁付近に水みちが形成され、浸透によって盛土コア部分の損傷や沈下が生じるおそれがある。地震や浸透によって盛土が変形し、鋼矢板が不安定な構造となった状態で、越水によって河川から遠い側(堤内側)の盛土が洗掘された場合、鋼矢板が自立して安定を保てず、補強効果を得られない可能性がある。
また、特許文献5には、鋼矢板壁の長さを盛土下端付近に留め、鋼矢板の不同沈下(ばらばらに沈下すること)防止のための、一部の鋼矢板のみ支持層まで根入れするという構造も提案されている。
しかし、特許文献1に示すような、盛土の天端に鋼矢板を2列に打込む方法では、盛土のコア部分に水が滞留することにより、補強前には生じなかった盛土の液状化が地震時に生じ、鋼矢板に大きな力が作用するため、堤防構造の安定を保てない可能性がある。
一方、特許文献4や特許文献5のような、盛土内の排水性を高める対応では、透水性を高めるために盛土地盤内の鋼矢板の剛性を犠牲にしており、地震時や越水時に鋼矢板の安定を保てない可能性がある。
前記地中鋼製壁体は、前記盛土基礎地盤における支持層に根入れされた長尺鋼矢板と、前記盛土の下端近傍まで到達する短尺鋼矢板によって構成され、
前記長尺鋼矢板は連続することなく間隔をあけて配置され、前記短尺鋼矢板は前記長尺鋼矢板間に1枚又は複数枚配置され、
前記長尺鋼矢板における、前記盛土基礎地盤に位置する部位に、補強部材が設けられ、
該補強部材は、前記長尺鋼矢板の開口側を閉じて閉断面を形成する部材であることを特徴とするものである。
a≦b×IL/Is
ただし、IL:長尺鋼矢板における補強部材が設けられた断面における断面二次モーメント(m4)
Is:短尺鋼矢板の断面二次モーメント(m4)
b:短尺鋼矢板幅(mm)
以下、各構成要素を詳細に説明する。
盛土5は、河川13の両側の盛土基礎地盤3上に形成されており、盛土基礎地盤3の下方には支持層15が形成されている。盛土基礎地盤3は、上方の地層が地震時において液状化する液状化層となり、液状化層の下方は非液状化層となる(図16参照)。
地中鋼製壁体11は、前述のように、長尺鋼矢板7と短尺鋼矢板9によって形成され、図1に示すように、盛土5内に配置されている短尺部、その下方であって長尺鋼矢板7に後述の補強部材19が取り付けられた補強部、その下方の長尺部から構成されている。
本実施の形態では、2枚の地中鋼製壁体11が互いに対向して法肩付近に打設され、両者がタイロッド等の連結材17で連結されている。
以下、長尺鋼矢板7と短尺鋼矢板9について詳細に説明する。
長尺鋼矢板7は、フランジ部7aとウェブ部7bを有するハット形の鋼矢板であり、その下端が支持層15に根入れされている。
そして、長尺鋼矢板7における、盛土基礎地盤3に位置する部位の一部に、補強部材19が離散的に設けられている。長尺鋼矢板7に補強部材19を取り付けることで、鋼矢板の変形性能を確保しつつ、盛土基礎地盤3においても連続鋼矢板壁と同等以上の剛性を確保することができるようになる。
このように、長尺鋼矢板7における補強部分を、長尺鋼矢板7と同一断面の補強部材19を面対称に接合した閉断面とすることで、地中鋼製壁体11が安定して自立するとともに、長尺鋼矢板7の引き抜き耐力も向上するため、越水時における地中鋼製壁体11の倒壊に対する抵抗力も大きくなる。
短尺鋼矢板9は、長尺鋼矢板7と同様にフランジ部9aとウェブ部9bを有するハット形の鋼矢板であり、その下端は盛土5の下端近傍まで打設されている。
このように、長尺鋼矢板7が盛土5の連続方向に連続することなく、必ず短尺鋼矢板9が配置されるようにすることで、長尺鋼矢板7の間隔を大きくすることができ、地震時の液状化層から地中鋼製壁体11にかかる土圧を受け流すことができるとともに、施工期間の短縮とコストの縮減効果も期待できる。
長尺鋼矢板7の断面二次モーメント(m4)をIL0、短尺鋼矢板9の断面二次モーメント(m4)をIS、補強部材19付きの長尺鋼矢板7の断面二次モーメント(m4)をIL、長尺鋼矢板7の中心間の距離(m)をa、短尺鋼矢板9の中心間の距離をbとすると(図3参照)、長尺鋼矢板7の平均的な断面二次モーメント(m4/m):IML0、補強部材19付きの長尺鋼矢板7の平均的な断面二次モーメント(m4/m):IML、短尺鋼矢板9の平均的な断面二次モーメント(m4/m):IMSはそれぞれ以下のようになる。
IML0=IL0×1/a ・・・(1)
IML=IL×1/a ・・・(2)
IMS=IS×1/b ・・・(3)
このとき、長尺鋼矢板7における補強部材19を設けた部位が、短尺鋼矢板9と同等以上の剛性を確保するためには、補強部材19付の長尺鋼矢板7の平均的な断面二次モーメントIMLが、短尺鋼矢板9の平均的な断面二次モーメントIMS以上となればよい。すなわち、IML≧IMSとなり、この式に上記の(2)式、(3)式を代入して整理すると、a≦b×IL/ISを満たす間隔aで長尺鋼矢板7を配置することで、盛土基礎地盤3においても盛土5内の連続鋼矢板壁と同等以上の剛性を確保することができるようになる。
三次元数値解析は、図4に示すように、鋼矢板21を幅方向に連続に配置した場合(図4(a))、鋼矢板21を単独で配置した場合(図4(b))、鋼矢板21における継手部の幅方向の変形を拘束した状態で単独で配置場合(図4(c))、の3つのケースで境界条件を変更し、曲げ解析を行って変形性能を比較した。
なお、図4(a)の場合は、鋼矢板21の一端はxyz変位固定、他端はxz変位固定、中間部はx変位固定、yz回転固定とした。また、図4(b)の場合は、鋼矢板21の一端はxyz変位固定、他端はxz変位固定とした。また、図4(c)の場合は、鋼矢板21の一端はxyz変位固定、他端はxz変位固定、中間部はx変位固定とした。
解析の結果、図6に示すように、単独で配置した場合には降伏モーメントに達した後に耐力低下が生じるため、変形性能が小さい。これに対して、連続に配置した場合及び継手部の幅方向の変形を拘束した場合には降伏モーメントに達した後も耐力低下が生じておらず、ほぼ同等に変形性能が向上していることが分かる。
図7は解析モデルの説明図であり、鋼矢板21の一端はxyz変位固定、他端はxz変位固定、中間部には所定間隔Lで補強部分を設けてx変位固定とした。
上述の解析で、鋼矢板21が単独で配置されている場合は、降伏モーメントに達した後に耐力低下が生じるため、鋼矢板21が連続的に配置されている場合に比べて、変形性能が小さいことが分かった。盛土5の補強効果を数値解析で検討する際は、鋼矢板21をはり要素としてモデル化する場合が多い。鋼矢板21の曲げモーメント-曲率の関係を、全塑性モーメントを折れ点とする完全バイリニアモデルとすることを想定し、はり要素における鋼矢板21の変位が急増する(ヒンジ化する)までの面積S0と、三次元数値解析における鋼矢板21の耐力低下が生じるまでの面積Sが同等となるための補強部材19の配置間隔Lを調べた(図8参照)。
Lを0.5mごとに大きい方から小さい方へ変化させ、解析によって得られる面積Sが面積S0より大きくなるときの最大値を縦軸に、(b/t)/(235/fy)0.5を横軸として整理すると、図9に示すようなグラフが得られる。図9に示すグラフの近似直線(y=-0.0788x+8.4265)を含む下方の領域であれば、完全バイリニアモデルの想定と同等以上の変形性能を確保できる。なお、図9の横軸のパラメータは、欧州構造基準Eurocodeにおける鋼矢板21の変形性能の分類パラメータを引用している。
よって、y≦-0.0788x+8.4265におけるyをLにxを、(b/t)/(235/fy)0.5に置き換えることで、下記に示す(4)式が得られ、(4)式を満たす間隔で補強部材19を配置することで、上述のように、完全バイリニアモデルの想定と同等以上の変形性能を確保できる。
解析の結果、図11(a)に示す正曲げの方向が、図11(b)に示す負曲げよりも抵抗力が大きいことが分かった(図12参照)。すなわち、長尺部は、鋼矢板21の継手の無い背面を盛土5側に向けること、換言すれば開口側を外側(法面側)に向けることで、より構造の安定度が増す。この場合、補強部材19は、図2に示すように、自ずと盛土5の法面側につくことになる。
このような本実施の形態の盛土補強構造1の効果を図13に基づいて具体的に説明する。
図13は、(a)に示すように、(i)補強なしの場合、(ii)支持層15まで打設した二重鋼矢板23による補強の場合、(iii)図1に示す発明例の場合、の3つの場合の比較を示す図である。
経年変化による地下水の状態に関しては、図13(b)に示すように、(i)の補強なしの場合には、雨水が浸透するので、時間の経過によって地下水位は盛土5がない場合と同様の水位に戻る。(ii)の二重鋼矢板補強の場合には、盛土5から浸透した水が鋼矢板間で地下水として滞留する。(iii)の本発明例では、浸透した雨水は長尺鋼矢板7の隙間から外部に排水され、地下水の上昇にはならない。
もっとも、地震後や越水時により安定した構造を確保するには、図1に示したように、地中鋼製壁体11を2列として、連結材17で互いに結合するのが望ましい。
以上、長尺鋼矢板7、短尺鋼矢板9とも、ハット形鋼矢板の場合について説明したが、ハット形鋼矢板以外にも、U形又はZ形鋼矢板の場合も本発明の適用が可能である。
数値解析は、図16に示す構造の盛土5について、(i)補強なしの場合、(ii)対向する2枚の鋼矢板からなる二重鋼矢板23を連続的に配置した場合(図17参照)、(iii)本発明を適用した場合(図18参照)を比較するというものである。なお、図16に示すN値は、JIS A 1219で定められた標準貫入試験より定まる値である。
使用した鋼矢板は45Hハット形鋼矢板であり、その仕様は以下の表に示す通りである。また、(iii)の本発明例では、長尺鋼矢板7を3.6mピッチで配置し、短尺部は8m、補強部は9m、長尺部は6mとした。また、(ii)、(iii)共に連結材17としてのタイロッド(φ36mm)を2.7mピッチで設置した。
また、図24に示すように、地震後の鋼矢板の形状についても、(ii)の場合と(iii)の場合で同程度であることが分かる。
3 盛土基礎地盤
5 盛土
7 長尺鋼矢板
7a フランジ部
7b ウェブ部
9 短尺鋼矢板
9a フランジ部
9b ウェブ部
11 地中鋼製壁体
13 河川
15 支持層
17 連結材
19 補強部材
19a フランジ部
19b ウェブ部
21 鋼矢板
23 二重鋼矢板
25 頂版
Claims (5)
- 盛土基礎地盤上に連続するように設けられた盛土に、連続方向に沿って打設された複数のハット形又はU形又はZ形の鋼矢板を連結して形成された地中鋼製壁体が設けられた盛土補強構造であって、
前記地中鋼製壁体は、前記盛土基礎地盤における支持層に根入れされた長尺鋼矢板と、前記盛土の下端近傍まで到達する短尺鋼矢板によって構成され、
前記長尺鋼矢板は連続することなく間隔をあけて配置され、前記短尺鋼矢板は前記長尺鋼矢板間に1枚又は複数枚配置され、
前記長尺鋼矢板における、前記盛土基礎地盤に位置する部位に、補強部材が設けられ、
該補強部材は、前記長尺鋼矢板の開口側を閉じて閉断面を形成する部材であり、
隣接する前記長尺鋼矢板の連続方向の中心間距離をaとしたときに、中心間距離aが下式を満たすことを特徴とする盛土補強構造。
a≦b×I L /I s
ただし、I L :長尺鋼矢板における補強部材が設けられた断面における断面二次モーメント(m 4 )
I s :短尺鋼矢板の断面二次モーメント(m 4 )
b:短尺鋼矢板幅(mm) - 盛土基礎地盤上に連続するように設けられた盛土に、連続方向に沿って打設された複数のハット形又はU形又はZ形の鋼矢板を連結して形成された地中鋼製壁体が設けられた盛土補強構造であって、
前記地中鋼製壁体は、前記盛土基礎地盤における支持層に根入れされた長尺鋼矢板と、前記盛土の下端近傍まで到達する短尺鋼矢板によって構成され、
前記長尺鋼矢板は連続することなく間隔をあけて配置され、前記短尺鋼矢板は前記長尺鋼矢板間に1枚又は複数枚配置され、
前記長尺鋼矢板における、前記盛土基礎地盤に位置する部位に、補強部材が設けられ、
該補強部材は、前記長尺鋼矢板の開口側を閉じて閉断面を形成する部材であり、
前記補強部材は、複数が離散的に設けられており、補強部材間の距離Lが下式を満たすことを特徴とする盛土補強構造。
- 隣接する前記長尺鋼矢板の連続方向の中心間距離をaとしたときに、中心間距離aが下式を満たすことを特徴とする請求項2に記載の盛土補強構造。
a≦b×I L /I s
ただし、I L :長尺鋼矢板における補強部材が設けられた断面における断面二次モーメント(m 4 )
I s :短尺鋼矢板の断面二次モーメント(m 4 )
b:短尺鋼矢板幅(mm) - 前記補強部材は、前記長尺鋼矢板におけるフランジ部及びウェブ部で形成される断面と面対称な断面形状を有する部材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の盛土補強構造。
- 前記地中鋼製壁体は2列設けられており、該地中鋼製壁体を構成する前記長尺鋼矢板は、開口側を外側に向けて、ウェブ部を対向させるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の盛土補強構造。
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