JP7029651B2 - 樹脂組成物及びそれを用いた多層構造体、並びにロングラン安定性改善方法 - Google Patents

樹脂組成物及びそれを用いた多層構造体、並びにロングラン安定性改善方法 Download PDF

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Description

本発明は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)を含有する樹脂組成物、およびこれを用いた多層構造体、並びにロングラン安定性改善方法に関するものであり、さらに詳しくは、レトルト処理等の熱水処理後であってもガスバリア性の低下が抑制され、且つ高温加工条件での分解発泡抑制とロングラン安定性を併せ持つ樹脂組成物及び当該樹脂組成物を用いた多層構造体、並びにこれを利用したロングラン安定性改善方法に関する。
EVOH樹脂は、分子鎖に含まれる水酸基が強固に水素結合して結晶部を形成し、かかる結晶部が外部からの酸素の侵入を防止するため、酸素バリア性をはじめとして、優れたガスバリア性を示すことができる。このため、EVOH樹脂層をガスバリア層として用いた多層フィルムが食品等の包装用フィルムとして利用されている。しかしながら、EVOH樹脂層をガスバリア層として用いた多層フィルムで包装した包装物を、レトルト処理のように、長時間、熱水にさらされる処理に供すると、ガスバリア性能が低下することが知られている。かかるガスバリア性の低下は、熱水処理により、多層フィルムの端縁等からEVOH樹脂層内に水分が入り込み、EVOH樹脂の分子間の水素結合が崩れ、外部から酸素分子が侵入しやすくなったためと考えられている。
熱水処理によるガスバリア性能の低下を抑制する方法としては、EVOH樹脂に、乾燥剤として、水和物形成性の金属塩を配合することが知られている。また、EVOH樹脂に耐熱水性を付与する目的で、ポリアミド系樹脂を配合する技術が知られている。例えば、特許文献1の実施例7、実施例8には、EVOH樹脂とポリアミド系樹脂の混合物に、カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物を含有する樹脂組成物が提案され、具体的にコハク酸二ナトリウム塩水和物の脱水物が、熱水処理後も優れたガスバリア性を保持しており、230℃における溶融粘度値の経時安定性が良好であることが示されている。
また、特許文献2には、熱水処理後のガスバリア性の保持に加えて、さらに溶融混練特性も改善したEVOH樹脂組成物として、EVOH樹脂とポリアミド系樹脂の混合物に、乾燥剤として、多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物を含有することが提案されている。具体的には、硫酸マグネシウム水和物の部分脱水物または完全脱水物を含有する樹脂組成物は、230℃における経時的な溶融粘度挙動において初期粘度値に対する粘度減少挙動を示し(表3)、熱水処理後も優れたガスバリア性を保持すること(表4)が示されている。
特開2010-59418号公報 特開2011-225800号公報
近年では、多層成形装置の進歩により、従来の主流であった共押出成形のみならず共射出成形によるEVOH樹脂組成物の使用用途が拡大しつつある。共射出成形では、金型内へ成形材料が高圧で射出注入されることから、成形材料として押出時よりも高い流動性が要求される。このため、通常、成形材料としてのEVOH樹脂組成物を、250℃以上の高温条件で溶融混錬、可塑化、移送する必要がある。
しかしながら、特許文献1,2に記載の樹脂組成物では、共押出成形で一般的な230℃の温度条件で良好なロングラン安定性を示すものの、250℃~280℃の高温条件では、耐熱性が不十分な場合、EVOH樹脂の一部が分解し、得られる成形品に気泡が見られる。また、高温下では、樹脂組成物のネットワーク構造の緻密化が進むことにより増粘して、流動性が低下する、すなわちロングラン安定性が低下する場合がある。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、レトルト処理等の熱水処理後であってもガスバリア性の低下が抑制され、且つ高温加工条件での分解発泡抑制とロングラン安定性を併せ持つ樹脂組成物を提供することにある。
本発明者は、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)、及び乾燥剤(C)を含有する樹脂組成物の熱分解特性に着目して検討した結果、高温下での重量減少率を従来よりも大きくすることにより、熱水処理後も優れたガスバリア性を保持し、かつ高温加工条件での分解発泡抑制とロングラン安定性を併せ持つことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の樹脂組成物は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)、ポリアミド系樹脂(B)、乾燥剤(C)、及び塩基性金属塩(D)(但し、乾燥剤(C)に該当する金属塩を除く)を含有する樹脂組成物であって、前記乾燥剤(C)は、融点が300℃以上である水和物形成性のカルボン酸金属塩であり、前記塩基性金属塩(D)は、炭素数12~30のカルボン酸の金属塩であり、当該塩基性金属塩(D)の樹脂組成物に対する含有率は、金属量換算で40~1000ppmであり、250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率が5重量%以上35重量%以下であることを特徴とする。
記塩基性金属塩(D)の融点は、250℃以下であることが好ましい。
本発明の多層構造体は、上記本発明に係る樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有することを特徴とする。
本発明は、別の見地において、樹脂組成物のロングラン安定性改善方法を提供する。すなわち、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)、ポリアミド系樹脂(B)、及び乾燥剤(C)として融点が300℃以上である水和物形成性のカルボン酸金属塩を含有する樹脂組成物の250℃超の押出成形又は射出成形におけるロングラン安定性を改善する方法であって、さらに炭素数12~30のカルボン酸の塩基性金属塩(D)を、当該塩基性金属塩(D)中の金属の前記樹脂組成物に対する含有率として40~1000ppmとなるように配合することにより、前記樹脂組成物の250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率を、5重量%以上35重量%以下に調整することを特徴とする方法である。
本発明の樹脂組成物は、熱水処理後のガスバリア性に優れ、かつ高温加工条件での分解発泡抑制とロングラン安定性を併せ持つものであり、他の熱可塑性樹脂との共押出成形、共射出成形のような高温での成形加工に有効である。
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)、ポリアミド系樹脂(B)、乾燥剤(C)、及び塩基性金属塩(D)(但し、乾燥剤(C)に該当する金属塩を除く)を含有する樹脂組成物であって、前記塩基性金属塩(D)の樹脂組成物に対する含有率は、金属量換算で40~1000ppmであり、250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率が5重量%以上35重量%以下であることを特徴とする。
以下、各成分について、説明する。
[EVOH樹脂(A)]
本発明で用いるEVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体(エチレン-ビニルエステル共重合体)をケン化させることにより得られる、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率の観点から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができるが、一般的にはメタノール等の低級アルコールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
このようにして製造されるEVOH樹脂は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主として含有し必要に応じてケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
酢酸ビニル以外のビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
上記エチレン及び上記ビニルエステル系モノマーは、通常はナフサなどの石油由来の原料が用いられているが、シェールガスなど天然ガス由来の原料や、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモなどに含まれる糖、デンプンなどの成分、又はイネ、麦、キビ、草植物等などに含まれるセルロースなどの成分から精製した植物由来の原料からのモノマーを用いてもよい。
EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値で、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定した値で、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
また、該EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
前記コモノマーとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーが挙げられる。
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH樹脂を用いることもできる。
特に、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH樹脂は、二次成型性が良好になる点で好ましく、中でも1,2-ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
かかる1,2-ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂は、側鎖に1,2-ジオール構造単位を含むものである。かかる1,2-ジオール構造単位とは、具体的には下記構造単位(1)で示される構造単位である。
Figure 0007029651000001
(1)式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における有機基としては、特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。
~Rは、通常炭素数1~30、特には炭素数1~15、さらには炭素数1~4の飽和炭化水素基または水素原子が好ましく、水素原子が最も好ましい。R~Rは、通常炭素数1~30、特には炭素数1~15、さらには炭素数1~4のアルキル基または水素原子が好ましく、水素原子が最も好ましい。特に、R~Rがすべて水素であるものが最も好ましい。
また、一般式(1)で表わされる構造単位中のXは、代表的には単結合である。
なお、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。かかる結合鎖としては特に限定されないが、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、-O-、-(CHO)m-、-(OCH)m-、-(CHO)mCH-等のエーテル結合部位を含む構造;-CO-、-COCO-、-CO(CH)mCO-、-CO(C)CO-等のカルボニル基を含む構造;-S-、-CS-、-SO-、-SO2-等の硫黄原子を含む構造;-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-等の窒素原子を含む構造;-HPO-等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造;-Si(OR)-、-OSi(OR)-、-OSi(OR)O-等の珪素原子を含む構造;-Ti(OR)-、-OTi(OR)-、-OTi(OR)O-等のチタン原子を含む構造;-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-等のアルミニウム原子を含む構造などの金属原子を含む構造等が挙げられる。なお、Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数であり、通常1~30、好ましくは1~15、さらに好ましくは1~10である。その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で-CHOCH-、および炭素数1~10の炭化水素鎖が好ましく、さらには炭素数1~6の炭化水素鎖、特には炭素数1であることが好ましい。
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R~Rがすべて水素原子であり、Xが単結合であるものである。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
Figure 0007029651000002
上記一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位を含有する場合、その含有量は通常0.1~20モル%、さらには0.1~15モル%、特には0.1~10モル%のものが好ましい。
また、本発明で使用されるEVOH樹脂は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、MFRが異なるもの、他のコモノマー単位が異なるもの、一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位の含有量が異なるものなどを挙げることができる。
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などが含有されていてもよい。
上記熱安定剤は、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で添加され、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類または硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類を用いることができる。これらのうち、特に、酢酸、リン酸、ホウ酸を含むホウ素化合物を添加することが好ましい。
酢酸を含有する場合、その含有量は、EVOH樹脂100重量部に対して通常0.001~1重量部、好ましくは0.005~0.2重量部、特に好ましくは0.010~0.1重量部である。酢酸の含有量が少なすぎると、酢酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎるとフィルム成形の場合に、均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
また、ホウ素化合物を含有する場合、その含有量は、EVOH樹脂100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001~1重量部であり、好ましくは0.002~0.2重量部であり、特に好ましくは0.005~0.1重量部である。ホウ素化合物の含有量が少なすぎると、ホウ素化合物の含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎるとフィルム成形の場合に均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
EVOH樹脂に酢酸、ホウ素化合物、リン酸等の添加物を含有させる方法については、特に限定しない。例えば、i)含水率20~80重量%のEVOH樹脂の多孔性析出物を、添加物の水溶液と接触させて、前記多孔性析出物に添加物を含有させた後、乾燥する方法;
ii)EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に添加物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法;
iii)EVOH樹脂と添加物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法;
iv)EVOH樹脂の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の有機酸類で中和して、残存する酢酸等の有機酸類や副生成する塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。
本発明の効果をより顕著に得るためには、添加物の分散性に優れるi)、ii)の方法、有機酸およびその塩を含有させる場合はiv)の方法が好ましい。
〔ポリアミド系樹脂(B)〕
ポリアミド系樹脂(B)は、アミド結合がEVOH樹脂のOH基及び/又はエステル基との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、熱水処理時のEVOH樹脂の溶出を防止することができる。例えば、多層構造体として食品の包装材として用いた場合において、該包装材の熱水処理後に包装材端部にて発生するEVOH樹脂の溶出を防止することができる。
該ポリアミド系樹脂(B)としては、公知のものを用いることができる。
具体的には例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。また共重合ポリアミド系樹脂としては、例えばポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミド;ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-p-フェニレン・3-4’ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド;非晶性ポリアミド;これらのポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性した変性ポリアミド;メタキシリレンジアンモニウムアジペート等が挙げられる。あるいはこれらの末端変性ポリアミド系樹脂であることもロングラン安定性の点で好ましい。
末端変性ポリアミド系樹脂とは、具体的には例えば、炭素数1~22の炭化水素基で変性された末端変性ポリアミド系樹脂であり、市販のものを用いてもよい。より詳細には、例えば末端変性ポリアミド系樹脂の末端COOH基の数[a]と、末端CONR1020基(但し、R10は炭素数1~22の炭化水素基、R20は水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基)の数[b]が、
100×b/(a+b)≧5
を満足する末端変性ポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。
末端変性ポリアミド系樹脂は、通常の未変性ポリアミド系樹脂のカルボキシル基を末端調整剤によりN-置換アミド変性したものであり、変性前のポリアミド系樹脂が含有していたカルボキシル基の総数に対して5%以上変性されたポリアミド系樹脂である。かかる変性量が少なすぎると、ポリアミド系樹脂中のカルボキシル基が多く存在することとなり、かかるカルボキシル基が溶融成形時にEVOH樹脂と反応してゲルなどを発生し、フィルムを作製する場合には外観が不良となりやすい傾向がある。かかる末端変性ポリアミド系樹脂は、例えば特公平8-19302号公報に記載の方法にて製造することができる。
上記末端調整剤としては、ポリアミド系樹脂中のカルボキシル基量を減少させるために、カルボキシル基と反応することが可能なアミンが用いられる。かかるアミンとは、HNR1020で表わされるモノ置換アミン(R20が水素原子)またはジ置換アミンである。HNR1020のR10および/またはR20が有機基の場合、カルボキシル基を有さない炭化水素基であればよく、本発明の趣旨を阻害しない範囲において水酸基、アミノ基、カルボニル基等、他の官能基を有していても構わないが、好ましくは脂肪族炭化水素基である。具体的には、R10及びR20は炭素数1~22の炭化水素基であり、好ましくは炭素数5~20の炭化水素基である。R10とR20とは同じであっても異なっていても良い。
末端変性ポリアミド系樹脂の変性されていない末端のカルボキシル基の含有量は、少ないことが好ましい。ポリアミド系樹脂をベンジルアルコールに溶解し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液にて滴定して算出した値(ポリマー1gに対するモル当量)で通常0~50μeq/ポリマー1gであり、好ましくは0~30μeq/ポリマー1gであり、特に好ましくは0~25μeq/ポリマー1gである。かかる値が大きすぎる場合、製膜時にゲルなどを発生し外観不良となりやすく、レトルト性が低下する傾向にある。かかる値が小さすぎる場合、物性の面からは不都合はないが、生産性が低下する傾向があるので、ある程度は残存していても構わない。この場合、通常5~50μeq/ポリマー1g、さらには10~30μeq/ポリマー1g、特には15~25μeq/ポリマー1gであることが望ましい。
また、未変性ポリアミド系樹脂の末端NH2基についても末端カルボキシル基の場合と同様に、炭素数1~22の炭化水素基で変性されていることが好ましい。従って、このときに用いる末端調整剤としては、ポリアミド系樹脂中のアミノ基量を減少させるため、アミノ基と反応することが可能なカルボン酸、具体的には、RCOOHで表わされるモノカルボン酸(式中、Rは炭素数1~22の炭化水素基)が用いられる。
以上のような末端変性ポリアミド系樹脂の融点は、通常200~250℃、好ましくは200~230℃である。
〔乾燥剤(C)〕
本発明の樹脂組成物は、乾燥剤(C)が含有されていることを特徴とする。前記乾燥剤(C)としては、一般に公知の吸湿性化合物、水溶性乾燥剤を用いることができる。好ましくは水溶性乾燥剤、より好ましくは水和物形成性の金属塩である。水溶性乾燥剤、特に水和物形成性の金属塩を用いた場合に、水分子を結晶水として取り込む性質を有することから、熱水処理により樹脂組成物層に侵入した水分を、結晶水として吸収して、EVOH樹脂層における分子間の水素結合の崩れを防止し、これによりガスバリア性能の低下を抑制することができると考えられる。
上記吸湿性化合物としては、例えばシリカゲル、ベントナイト、モレキュラーシーブ、高吸水性樹脂等が挙げられる。
上記水溶性乾燥剤としては、例えば、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、砂糖、リン酸三リチウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムや、各種水和物形成性の金属塩等が挙げられる。
本発明で用いられる水和物形成性の金属塩とは、結晶水として水分を吸収しうる塩で、その製造法は限定されないが、例えば、水和物として合成し、それを乾燥脱水したものを用いることができる。乾燥脱水により、完全脱水物(無水物)となっていることが吸湿性の点で好ましいが、部分脱水物(飽和量未満の水和物)であってもよい。
上記水和物形成性の金属塩を構成する金属としては、1価、2価、又は3価の金属であり、1価の金属としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が挙げられる。また、2価の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、銅、亜鉛、鉄等の2価イオンを形成できる遷移金属が挙げられる。さらに、3価の金属としては、アルミニウム、鉄等が挙げられる。この中で好ましい金属は、ナトリウム、マグネシウムであり、特に好ましい金属はマグネシウムである。
また、水和物形成性の金属塩を構成する酸としては、例えば硫酸、カルボン酸、リン酸、ホウ酸、硝酸、炭酸、亜硫酸等が挙げられる。この中で好ましい酸は、硫酸、カルボン酸、リン酸であり、特に好ましい酸は硫酸、カルボン酸である。
水和物形成性の金属塩の具体例としては、例えば塩化コバルト、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩化物;リン酸二水素一ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム等のリン酸塩;コハク酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、ジクエン酸三マグネシウム等のカルボン酸塩;硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩が挙げられる。これらのうち、レトルト処理後のガスバリア性回復の点から、硫酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩が好ましく、特に硫酸マグネシウム、及びジクエン酸三マグネシウムの部分脱水物または完全脱水物が好ましく用いられる。
上記のような水和物形成性の金属塩は、吸湿して結晶水を有する水和物を形成する。例えば、結晶水を持つ硫酸金属塩としては、例えば硫酸ナトリウム(Na2SO4・10H2O)、硫酸カリウム(K2SO4・1H2O)などの1価金属塩;硫酸ベリリウム(BeSO4・4H2O)、硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)、硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)等のアルカリ土類金属塩;硫酸銅(CuSO4)・5H2O)、硫酸亜鉛(ZnSO4・7H2O)、硫酸鉄(FeSO4・7H2O)等の遷移金属塩;硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・16H2O)などが挙げられる。
結晶水を有するカルボン酸塩水和物としては。具体的には、例えば1価カルボン酸塩として酢酸ナトリウム(CH3COONa・3H2O)、酢酸カルシウム((CH3COO)2Ca・H2O)等の酢酸塩;乳酸カルシウム((CH3CH(OH)COO)2Ca・5H2O)等の乳酸塩;グルコン酸亜鉛((CH2(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)COO)2Zn・3H2O)、グルコン酸カルシウム((CH2(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)COO)2Ca・H2O)等のグルコン酸塩;安息香酸マグネシウム((C65COO)2Mg・4H2O)、安息香酸カルシウム((C65COO)2Ca・3H2O)等の安息香酸塩;リンゴ酸ナトリウム(NaOOCCH(OH)CH2COONa)・3H2O)、リンゴ酸カルシウム(OOCCH(OH)CH2COO)Ca・H2O)等のリンゴ酸塩;2価カルボン酸塩としてシュウ酸カリウム((COONa)2・H2O)、シュウ酸アンモニウム((COONH42・H2O)等のシュウ酸塩;コハク酸二ナトリウム((CH2COONa)2・6H2O)、コハク酸二カリウム((CH2COOK)2・3H2O)等のコハク酸塩;L-グルタミン酸水素カリウム(HOOCCH(NH2)CH2CH2COOK・H2O)、L-グルタミン酸水素ナトリウム(HOOCCH(NH2)CH2CH2COONa・H2O)、L-グルタミン酸マグネシウム((OOCCH(NH2)CH2CH2COO)Mg・4H2O)等のグルタミン酸塩;L-アスパラギン酸ナトリウム(HOOCCH2CH(COOH)NH2・H2O)等のアスパラギン酸塩;L-酒石酸水素ナトリウム(HOOCCH(OH)CH(OH)COONa・H2O),L-酒石酸二ナトリウム(NaOCOCH(OH)CH(OH)COONa・2H2O)等の酒石酸塩;3価カルボン酸塩としてクエン酸三カリウム(KOCOCH2C(OH)(COOK)CH2COOK・H2O)、クエン酸三ナトリウム((C35O(COO)3)Na3・2H2O)、ジクエン酸三マグネシウム((C35O(COO)32Mg3・14H2O)、ジクエン酸三カルシウム((C35O(COO)32Ca3・4H2O)等のクエン酸塩;4価カルボン酸塩としてエチレンジアミン四酢酸カルシウムニナトリウム(Ca(OOCCH2)2NCH2CH2N(CH2COONa)2・2H2O)、エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム((HOOCCH2)2NCH2CH2N(CH2COONa)2・2H2O)等のEDTA四酢酸塩等のEDTAカルボン酸塩等が挙げられる。
上記カッコ内で示した化学式は、各金属塩の飽和水和物の化学式である。本発明で乾燥剤として用いる水和物形成性の金属塩は、上記のような水和物を形成できる部分脱水物または完全脱水物である。金属塩の飽和水和物が有する結晶水量を重量基準にて100%とした場合、部分脱水物は、飽和水和物の結晶水の一部が脱水されたもので、通常、結晶水量が90%未満の結晶水を有する該金属塩の水和物が該当する。常温で、飽和水和物の方が安定に存在できるような部分脱水物を用いることが好ましいことから、結晶水量が70%未満にまで脱水された部分水和物を用いることが好ましく、より好ましくは完全脱水物である。
本発明において、乾燥剤(C)の融点は、吸水効果の点から300℃以上であることが好ましい。かかる融点が低すぎると溶融成形後の乾燥剤機能が低下することがある。
EVOH樹脂(A)/ポリアミド系樹脂(B)の含有重量比は、通常99/1~70/30であり、好ましくは97/3~75/25、特に好ましくは95/5~85/15である。ポリアミド系樹脂の比率が大きすぎる場合、ロングラン安定性およびガスバリア性が低下する傾向がある。ポリアミド系樹脂の含有量比率が小さすぎる場合には、熱水処理後のEVOH樹脂の溶出抑制効果が低下する傾向にある。
ベース樹脂であるEVOH樹脂(A)及びポリアミド系樹脂(B)の総量と乾燥剤(C)の含有重量比((A+B)/C)は、通常、50超/50未満~99/1、より好ましくは70/30~99/1、さらに好ましくは80/20~95/5、特に好ましくは85/15~95/5である。なお、前記乾燥剤(C)が結晶水を持つ金属塩の部分脱水物である場合は、完全脱水物としての重量における混合重量比率が((A+B)/C)である。
乾燥剤(C)の含有量が多すぎる場合、透明性が損なわれたり、凝集により成形時に成形機のスクリーンメッシュが閉塞しやすくなるなどの傾向があり、少なすぎる場合にはEVOH樹脂(A)に入り込んだ水分を除去する効果が低下し、ボイル処理やレトルト処理などの熱水処理後のガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、乾燥剤(C)のポリアミド系樹脂(B)に対する含有重量比(C/B)としては、乾燥剤(C)が完全脱水物としての含有重量比にて、通常95/5~5/95であり、好ましくは70/30~30/70、特に好ましくは60/40~40/60である。ポリアミド系樹脂の比率が大きすぎる場合には、熱水処理後のガスバリア性が低下する傾向がある。ポリアミド系樹脂の比率が小さすぎる場合には、熱水処理時にEVOH樹脂が溶出しやすくなる傾向がある。
〔塩基性金属塩(D)〕
本発明の樹脂組成物は、上記EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)及び乾燥剤(C)の他、塩基性金属塩(D)(但し、乾燥剤(C)に該当する金属塩を除く)を含有することが好ましい。塩基性金属塩を含有させることで、本発明の樹脂組成物の熱分解特性である「250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率が5重量%以上35重量%以下」を充足させることができる。
塩基性金属塩(D)とは、ブレンステッド・ローリーの定義よりプロトン受容体として作用する化合物であり、具体的には例えば(1)アルカリ金属、またはアルカリ土類金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸(炭素数12~30のカルボン酸、炭酸など)からなる金属塩、(2)遷移金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸(炭素数12~30のカルボン酸、炭酸など)からなる金属塩であり、以下に例示した化合物類が挙げられる。
(I)アルカリ金属、またはアルカリ土類金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸からなる金属塩
・ナトリウム塩(ステアリン酸ナトリウム、12-ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ベヘン酸ナトリウム、モンタン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなど)
・カリウム塩(ステアリン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、モンタン酸カリウム、炭酸カリウムなど)
・マグネシウム塩(ステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、ベヘン酸マグネシウム、モンタン酸マグネシウム、炭酸マグネシウムなど)
・カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム、炭酸カルシウムなど)
(II)遷移金属と25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3より大きい弱酸からなる金属塩
・亜鉛塩(ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、モンタン酸亜鉛など)
・バリウム塩(ステアリン酸バリウム、12-ヒドロキシステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウムなど)
・アルミニウム塩(ステアリン酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウムなど)
・リチウム塩(ステアリン酸リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、ラウリン酸リチウム、ベヘン酸リチウム、モンタン酸リチウム)
本発明において、塩基性金属塩(D)の融点は、溶融成形安定性の点から250℃以下であることが好ましく、特には120~240℃、更には140~230℃であることが好ましい。かかる融点が高すぎるとロングラン安定性の改善効果が低下する傾向がある。
また、上記弱酸としては、25℃の水溶液中における酸解離定数pKaが3~6である弱酸が好ましく、具体的には炭素数12~30のカルボン酸(高級脂肪酸)からなる金属塩が好ましい。さらに塩基性金属塩(D)としては、マグネシウム塩が好ましい。中でも高級脂肪酸のマグネシウム塩が最も好ましく、少量で熱安定効果が高いため、ロングラン安定性のための含有量調節に有利である。
これらの塩基性金属塩(D)は通常は単独で用いるが、2種以上を混合して使用することもできる。
また、ロングラン安定性の観点から、下式で表される炭素数12~30の脂肪族モノカルボン酸の1種または2種以上と周期律表第2族金属の酸化物または水酸化物とを乾式直接法により加熱反応させて得られる下記の特殊金属石鹸を用いることもできる。下式中、αは0.1~1.0の数字、Mは周期律表第2族の2価の金属、Rは炭素数11~29の飽和又は不飽和のアルキル基をそれぞれ表す
αMO・M(OOCR)2
以上のような塩基性金属塩(D)としては、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)の溶融混錬を行う温度条件(通常300℃以下の温度)において溶融し、かつ塩基性を示す。したがって、このような塩基性金属塩(D)を含有する樹脂組成物を溶融成形すると、塩基性金属塩(D)が融解することで、乾燥剤(C)として酸性金属塩を用いた場合に、酸性金属塩を中和することができる。これにより、酸性下で不安定な傾向にあるEVOH樹脂の安定化が図られ、溶融成形安定性を向上させる効果が得られる。
塩基性金属塩(D)の概念には、乾燥剤(C)として用いられるような、水和物形成性の金属塩も含まれ得る。しかしながら、(D)成分として用いる塩基性金属塩は、乾燥剤として用いられる塩基性金属塩が除かれる。好ましい塩基性金属塩である融点250℃以下の塩基性金属塩あるいは炭素数12~30のカルボン酸金属塩は、200℃~300℃の溶融混錬、溶融成形時には、溶融するのに対して、(C)成分として用いられる金属塩は、溶融せずに固体として存在しているという点で区別可能である。
溶融混錬、溶融成形温度で溶融できる塩基性金属塩(D)は、特定範囲内で樹脂組成物に含有されていることで、EVOH樹脂の高温での分解発泡を抑制することができる。また、溶融することにより、固体状態で存在している乾燥剤の滑剤として働くことができ、ひいては増粘傾向を抑制することができる。すなわち、本発明の樹脂組成物は、乾燥剤(C)の配合により、混練時のトルク値が増大する傾向にあり、さらには、EVOH樹脂の溶出防止に効果的なポリアミド系樹脂の添加も、EVOH樹脂の混練時のトルク値を増大させる傾向があるが、本発明の樹脂組成物では、塩基性金属塩(D)を含有させることにより、このような増粘傾向が抑制され、結果として、ロングラン安定性を確保できる。
塩基性金属塩(D)を含有させることによる、EVOH樹脂を含有する樹脂組成物の増粘の抑制(優れたロングラン安定性)は、EVOH樹脂の溶出防止に効果的なポリアミド系樹脂共存下でも損なわれずに発揮されるという点で、特に有利である。
樹脂組成物に含まれる上記塩基性金属塩(D)の含有率としては、塩基性金属塩(D)に含まれる金属量換算で、通常は40~1000ppm、好ましくは50~1000ppm、特に好ましくは80~500ppmであることが好ましい。かかる含有率が小さすぎると、高温での溶融成形におけるロングラン安定性が低下して長期間製造においてゲル・フィッシュアイ増加を引き起こす恐れがある。逆に、かかる含有率が大きすぎると、高温での溶融成形における熱分解が促進されて発泡等による成形品不良を引き起こす恐れがある。尚、塩基性金属塩(D)がマグネシウム塩である場合には、熱安定効果が高いことから、必要とされる含有率は、他の金属塩の場合より少なくて済む。具体的には、マグネシウム量換算で、通常は40~350ppm、好ましくは50~300ppm、特に好ましくは80~250ppmである。
なお、樹脂組成物に含まれる塩基性金属塩(D)の含有量は、アルカリ金属、アルカリ土類金属の場合には、EVOH樹脂組成物を硫酸灰化後、ICP発光分析法により金属量換算で定量することができる。後述するその他の添加剤等と、塩基性金属塩(D)とが共通する場合があるが、上記含有率は、(D)成分として含有される塩基性金属由来の金属量である。
〔その他の添加剤(E)〕
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記成分の他、必要に応じて、以下のような化合物を、その他の添加剤(E)として、含有してもよい。
その他の添加剤を含有する場合、本発明の効果を阻害しない範囲内で含有することが好ましい。具体的には、添加剤総量として、樹脂組成物全体の通常10重量%以下(0重量%を含む)、さらには5重量%以下とすることが好ましい。
その他の添加剤(E)としては、EVOH樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(以下、「他の熱可塑性樹脂」という)、分散剤、板状無機フィラー、酸素吸収剤などが挙げられる。さらに、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);充填材(例えば無機フィラー等);界面活性剤、ワックス;共役ポリエン化合物、エンジオール基含有物質(例えば、没食子酸プロピルなどのフェノール類など)、アルデヒド化合物(例えば、クロトンアルデヒド等の不飽和アルデヒド類など)などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
上記他の熱可塑性樹脂としては、具体的には例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、ポリ環状オレフィン、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド、共重合ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
上記の他の熱可塑性樹脂は、通常はナフサなど石油由来の原料が用いられているが、シェールガスなど天然ガス由来の原料や、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモなどに含まれる糖、デンプンなどの成分、またはイネ、麦、キビ、草植物などに含まれるセルロースなどの成分から精製した植物由来の原料を用いてもよい。
上記分散剤としては、従来より樹脂組成物に用いられていた分散剤で、例えば、高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のグリセリンエステル、メチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等、又はその酸変性品)、高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等が挙げられ、好適には高級脂肪酸および/またはそのエステル、アミドが、更に好適には高級脂肪酸グリセリンエステルが用いられる。
上記板状無機フィラーとしては、例えば、含水ケイ酸アルミニウムを主成分とし、粒子が板状となっているカオリン、層状ケイ酸鉱物である雲母やスメクタイト、水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなるタルクなどが挙げられる。これらのうち、カオリンが好ましく用いられる。カオリンの種類としては、特に限定せず、焼成されていても、いなくてもよいが、好ましくは焼成カオリンである。
これらの板状無機フィラーを含有させることにより、樹脂組成物のガスバリア性が一層向上する。板状無機フィラーは、多層構造をしていることから、混練時に、乾燥剤の完全脱水物又は部分脱水物がフィラー間に入り込むことによって、フィラー同士が接触衝突により破壊、細分化されることを防止する。さらにフィルム成形の場合に、板状フィラーの板状面がフィルムの面方向に配向されやすく、樹脂組成物層の酸素遮断に有効である。
上記酸素吸収剤とは、包装される内容物よりも素早く酸素を捕捉する化合物または化合物系である。具体的には、無機系の酸素吸収剤、有機系の酸素吸収剤、無機触媒と有機化合物を組み合わせて用いる複合型酸素吸収剤等が挙げられる。
無機系酸素吸収剤は、金属及び金属化合物が挙げられ、これらと酸素が反応することにより酸素を吸収するものである。上記金属としては、水素よりもイオン化傾向の大きい金属(Fe、Zn、Mg、Al、K、Ca、Ni、Snなど)が好ましく、代表的には鉄である。これらの金属は、粉末状で用いられることが好ましい。鉄粉としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉等、その製法等に依らず、従来より公知のものを特に限定されることなく何れも使用可能である。また、使用する鉄は、一旦酸化された鉄を還元処理したものであってもよい。また、上記金属化合物としては酸素欠損型金属化合物が好ましい。ここで、酸素欠損型金属化合物としては、酸化セリウム(CeO)や、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられ、これらの酸化物が還元処理により結晶格子中から酸素が引き抜かれて酸素欠損状態となり、雰囲気中の酸素と反応することにより酸素吸収能を発揮するものである。以上のような金属および金属化合物は、反応促進剤としてハロゲン化金属等を含有することも好ましい。
有機系酸素吸収剤としては、水酸基含有化合物、キノン系化合物、二重結合含有化合物、被酸化性樹脂が挙げられる。これらに含まれる水酸基や二重結合に酸素が反応することにより、酸素を吸収することができる。有機系酸素吸収剤としては、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体およびその環化物等が好ましい。
複合型酸素吸収剤とは、遷移金属触媒と有機化合物の組合せをいい、遷移金属触媒によって酸素を励起し、有機化合物と酸素が反応することにより酸素を吸収するものである。包装の内容物である食品等よりも早く、複合型酸素吸収剤中の有機化合物が酸素と反応することにより、酸素を捕捉、吸収する化合物系である。遷移金属系触媒を構成する遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ルテニウム、パラジウムから選ばれる少なくとも一種であり、中でも樹脂との相溶性、触媒としての機能性、安全性の点でコバルトが好ましい。有機化合物としては、有機系酸素吸収剤であるポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体およびその環化物等が好ましく、その他の有機化合物としては、MXDナイロン等の窒素含有樹脂、ポリプロピレン等の三級水素含有樹脂、ポリアルキレンエーテルユニットを有するブロック共重合体等のポリアルキレンエーテル結合含有樹脂、アントラキノン重合体が好ましい。
共役ポリエン化合物の具体例としては、例えばイソプレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素-炭素二重結合を2個有する共役ジエン化合物;1,3,5-ヘキサトリエン、2,4,6-オクタトリエン-1-カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素-炭素二重結合を3個有する共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8-デカテトラエン-1-カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素-炭素二重結合を4個以上有する共役ポリエン化合物などが挙げられる。これらの共役ポリエン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
<樹脂組成物の重量減少率>
本発明の樹脂組成物は、上記組成を有し、且つ250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率が5重量%以上35重量%以下であることを特徴とする。
上記重量減少率は、高温加工条件における耐熱分解性の指標であり、熱重量測定装置を用いて、樹脂組成物を250℃、窒素雰囲気下の条件で1時間保持した際の重量を測定して、加熱前の重量に対する減少率(重量%)を算出することで求められる。
本発明が目的とする、高温加工条件での分解発泡抑制とロングラン安定性を併せ持つためには、上述のような重量減少率を充足する必要がある。
熱重量測定装置で測定した重量減少率は、特定の温度条件における樹脂の耐熱分解性を表す指標であり、数値が小さいほど分解ガス発生量が少なくなり、即ち樹脂組成物の耐熱分解性が高いことを意味する。反対に、数値が大きいほど分解ガス発生量が多くなり、即ち樹脂組成物の耐熱分解性が低いことを意味する。
本発明の樹脂組成物において、250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率は、5~35重量%、好ましくは7.5~25重量%、特に好ましくは10~20重量%である。かかる重量減少率が小さすぎると、高温での溶融成形におけるロングラン安定性が不足して長期間製造においてゲル・フィッシュアイ増加を引き起こすこととなる。逆に、かかる重量減少率が大きすぎると、高温での溶融成形における熱分解が促進されて発泡等による成形品不良を引き起こすこととなる。
樹脂組成物が、250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率が5重量%以上35重量%以下であることを充足させる方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1)EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)、乾燥剤(C)を含有する組成物に対して、塩基性金属塩(D)を配合して、その配合比率(塩基性金属塩の金属量など)を所定の割合に調整する方法
(2)EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)、乾燥剤(C)を含有する組成物に対して、塩基性金属塩(D)を配合して、その混合条件(温度、混合装置など)を所定の条件に調整する方法
(3)EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)、乾燥剤(C)を含有する組成物において、乾燥剤(C)の比表面積(粒度状態)を調整する方法
(4)EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)、乾燥剤(C)を含有する組成物において、ポリアミド系樹脂(B)もしくは乾燥剤(C)の種類(例えば、異なる2種以上のポリアミド系樹脂もしくは乾燥剤を配合するなど)を調整する方法
これらのうち、樹脂組成物の品質や生産効率影響を考慮すると手法(1)が好ましく用いられる。
手法(1)、(2)で用いられる塩基性金属塩(D)は、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)の溶融混錬を行う温度条件(通常300℃以下の温度)において溶融する性質を有し、かつ塩基性を示すことから、溶融成形安定性を向上させる効果が得られる。
要するに、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)、及び乾燥剤(C)を含有する樹脂組成物の250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率を、5重量%以上35重量%以下に調整することにより、高温での熱分解性を抑制するとともに、樹脂組成物のロングラン安定性を改善できる。
また、重量減少率を上記範囲に調整するもっとも好ましい方法としては、塩基性金属塩(D)を、当該塩基性金属塩(D)中の金属の前記樹脂組成物に対する含有率として40~1000ppmとなるように配合することであり、好ましくは50~1000ppm、特に好ましくは80~500ppmである。かかる含有率が低すぎると高温での溶融成形におけるロングラン安定性が低下して長期間製造においてゲル・フィッシュアイ増加を引き起こす傾向があり、高すぎると高温での溶融成形における熱分解が促進されて発泡等による成形品不良を引き起こす傾向がある。
<樹脂組成物の調製方法>
上記のEVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)と、乾燥剤(C)を混合するにあたっては、通常溶融混錬法または機械的混合法(ペレットドライブレンド)が行われるが、好ましくは溶融混錬法である。具体的には、各成分をドライブレンド後に溶融混合する方法や、溶融状態のEVOH樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)に乾燥剤(C)を混合する方法が挙げられる。
塩基性金属(D)を含有する場合、(i)(A)、(B)、(C)、(D)の各成分を同時にブレンドする方法;(ii)(A)成分と(D)成分を予め混合した組成物に、(B)成分及び(C)成分を添加する方法;(iii)(A)成分と(B)成分を予め混合した組成物に、(C)成分及び(D)成分を添加する方法;(iv)(A)、(B)及び(C)成分を予め混合した組成物に、(D)成分を添加する方法;(v)(A)、(B)及び(D)成分を予め混合した組成物に、(C)成分を添加する方法;(vi)まず(A)及び(B)成分の混合物に(C)及び(D)成分を過剰量配合して(C)成分及び(D)成分の高濃度組成物(マスターバッチ)を製造し、この高濃度組成物にEVOH樹脂(A)又はポリアミド系樹脂(B)を加えることで、(C)及び(D)成分を希釈し、目的の組成とする方法などが挙げられる。
マスターバッチにおけるEVOH樹脂(A)及びポリアミド系樹脂(B)の総量と乾燥剤(C)の含有重量比〔(A+B)/C)〕は、通常10/90~50未満/50超である。
また、マスターバッチに対するEVOH樹脂(A)の含有重量比(A/マスターバッチ)は、マスターバッチの組成にもよるが、通常10/90~99/1であり、好ましくは20/80~95/5であり、特に好ましくは30/70~90/10である。
各成分の混合は、例えばバンバリーミキサー等でドライブレンドする方法や単軸または二軸の押出機等で溶融混練し、ペレット化する方法等の任意のブレンド方法が採用され得る。かかる溶融混錬温度は、通常150~300℃、好ましくは170~250℃である。
このような溶融混錬温度下では、塩基性金属塩(D)は、通常溶融するが、乾燥剤(C)として用いられる金属塩は溶融せず、固体状態で組成物中に存在している。
尚、乾燥剤(C)の水溶液に、EVOH樹脂(A)および/またはポリアミド系樹脂(B)を浸漬することにより、これらの樹脂に前記(C)成分を含浸させ、その後、乾燥することによって製造する方法(含浸法)も採用可能である。しかしながら、この含浸法は、樹脂組成物を成形した成形物中において、乾燥剤(C)の水和物形成能を低下させる傾向があるため採用し難い。
また、乾燥剤(C)を、EVOH樹脂(A)、ポリアミド系樹脂(B)と混合し、溶融混練した後、乾燥剤(C)の水和水を蒸発させて本発明の樹脂組成物を得る方法も採用可能であるが、かかる方法では樹脂組成物中に発泡が起こる傾向があるため採用し難い。
本発明の樹脂組成物は、原料を溶融混練した後に直接溶融成形品を得ることも可能であるが、工業上の取り扱い性の点から、上記溶融混練後に樹脂組成物ペレットを得、これを溶融成形法に供し、溶融成形品を得ることが好ましい。経済性の点から、押出機を用いて溶融混練し、ストランド状に押出し、これをカットしてペレット化する方法が好ましい。
かかるペレットの形状は例えば、球形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、球状(ラグビーボール状)または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、球状の場合は径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、高さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、円柱状の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
溶融成形時のフィード性を安定させる点では、得られた樹脂組成物ペレットの表面に滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、例えば、高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等、又はその酸変性品)、高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等が挙げられ、好適には高級脂肪酸および/またはそのエステル、アミドが、更に好適には高級脂肪酸金属塩および/または高級脂肪酸アミドが用いられる。
滑剤の性状としては、固体状(粉末、微粉末、フレーク等)、半固体状、液体状、ペースト状、溶液状、エマルジョン状(水分散液)等、任意の性状のものが使用可能であるが、本発明の目的とする樹脂組成物ペレットを効率よく得るためには、エマルジョン状のものが好ましい。
かかる滑剤を樹脂組成物ペレットの表面に付着させる方法としては、ブレンダー等で滑剤と樹脂組成物ペレットを混合させて付着させる方法、滑剤の溶液又は分散液に樹脂組成物ペレットを浸漬させて付着させる方法、樹脂組成物ペレットに滑剤の溶液又は分散液をスプレーして付着させる方法等を挙げることができ、好適には、ブレンダー等に樹脂組成物ペレットを仕込んで攪拌下にエマルジョン状の滑剤を、樹脂組成物ペレット100重量部に対して滑剤の固形分として0.001~1重量部/hr、更には0.01~0.1重量部/hrの速度で徐々に添加することが、滑剤の均一付着のためには好ましい。さらに、ペレット表面に付着させた滑剤が全てペレットに密着し、溶融成形機内で滑剤が遊離することがない樹脂組成物ペレットを得るためには、樹脂組成物ペレットの表面温度を、該滑剤の融点(mp)から50℃低い温度(mp-50)よりも高く、かつ該EVOH樹脂の融点未満にて滑剤と接触させる方法が最も好ましい方法である。
滑剤の付着量としては、樹脂組成物ペレットに対して10~1000ppm、更には20~500ppm、特には50~250ppmであることが、溶融成形時のフィード性が安定する点で好ましい。
<溶融成形品>
本発明の樹脂組成物は、溶融成形法により例えばフィルム、シート、カップやボトルなどに成形することができる。かかる溶融成形方法としては、押出成形法(T-ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法等が挙げられる。溶融成形温度は、通常150~300℃の範囲から選択される。
本発明の樹脂組成物を含む溶融成形物はそのまま各種用途に用いてもよい。このとき、樹脂組成物の層の厚みは通常1~5000μm、好ましくは5~4000μm、特に好ましくは10~3000μm以上である。
なお、樹脂組成物層は、本発明の樹脂組成物から形成される層であり、通常、上記のような溶融成形を行うことにより得られる。本発明の樹脂組成物を成形してなる溶融成形物は、通常、ベース樹脂である、EVOH樹脂(A)とポリアミド系樹脂(B)の均一混合物に、乾燥剤(C)及び塩基性金属塩(D)が分散した状態となっている。
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、上記本発明の樹脂組成物を含む層を少なくとも1層有するものである。本発明の樹脂組成物を含む層(以下、単に「樹脂組成物層」というと、本発明の樹脂組成物を含む層をいう)は、他の基材と積層することで、さらに強度を上げたり他の機能を付与することができる。
上記基材としては、EVOH樹脂以外の熱可塑性樹脂(以下「基材樹脂」という)が好ましく用いられる。
多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と熱可塑性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10層である。
上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を介層してもよい。
上記のような多層構造体のうち、特に、本発明の樹脂組成物層を中間層として含み、その中間層の両側層として、基材樹脂層を設けた多層構造体の単位(b/a/b、又はb/接着性樹脂層/a/接着性樹脂層/b)を、少なくとも含む多層構造体が好ましい。本発明の樹脂組成物層を挟んだサンドイッチ状の多層構造体においては、樹脂組成物層の両側に位置する少なくとも1つの層(基材樹脂層b又は接着性樹脂層)に、疎水性樹脂を用いることで、外部からの吸湿を防止できるので、(C)成分による乾燥効果がより有効に発揮することができると推測される。従って、熱水処理に供される用途に用いられる包装材料用多層構造体の場合、上記多層構造体の単位において、樹脂組成物層の両側に位置する少なくとも1つの層に疎水性樹脂を用いることで、熱水処理後の酸素透過度が良好となる。
上記「基材樹脂」としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)オレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性オレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。
上記「基材樹脂」原料としては、上記例のように、通常はナフサなどの石油由来の原料が用いられているが、シェールガスなどの天然ガス由来の原料や、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモなどに含まれる糖、デンプンなどの成分、またはイネ、麦、キビ、草植物などに含まれるセルロースなどの成分から精製した植物由来の原料を用いてもよい。
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性オレフィン系樹脂等のオレフィン系樹脂であり、特にポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂は疎水性樹脂として好ましく用いられる。
また、接着剤樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性オレフィン系樹脂等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
多層構造体において、本発明の樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が樹脂組成物層の両側に位置する少なくとも1つの層となることから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
なお、上記環状オレフィン系樹脂としては、公知の樹脂(例えば、特開2003-103718号公報、特開平5-177776号公報、特表2003-504523号公報等参照)を用いることができる。環状オレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の鎖状脂肪族ポリオレフィンと比べて、湿分透過度が低い。このため、本発明の樹脂組成物層を中間層とし、その両面に用いる他の熱可塑性樹脂層や接着性樹脂層を用いたサンドイッチ構造の多層構造体では、他の熱可塑性樹脂層や接着性樹脂層に環状オレフィン系樹脂を用いることで、湿気や熱水処理等による外部からの水分混入量を少なくでき、結果として、樹脂組成物層における(C)成分の乾燥効果が有効に発揮され、熱水処理後の酸素透過度が良好となる。
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいても良い。
本発明の樹脂組成物を上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。本発明の樹脂組成物は、ロングラン安定性、耐熱分解性に優れているので、共押出に好適である。
上記の如き多層構造体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度、熱処理を行う。
また、本発明の樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定するなどの処理を行えばよい。
また、場合によっては、本発明の多層構造体からカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用され、具体的には押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)などが挙げられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、更には多層構造体を構成する樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~30000μm、好ましくは10~20000μm、特に好ましくは20~10000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
さらに、多層構造体における樹脂組成物層と基材樹脂層との厚みの比(樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、本発明の樹脂組成物からなる層は、熱水処理後のガスバリア性が優れるため、熱水処理を行なう食品の包装材料として特に有用である。
本発明の樹脂組成物は、高熱安定性に優れているので、共射出成形により、多層構造の容器や蓋材を、直接成形することができる。得られた容器、蓋材は、本発明の樹脂組成物層をガスバリア層とする容器、蓋材である。
以上のようにして得られる多層構造体の容器は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、重量基準を意味する。
<測定・評価方法>
(1)熱重量減少率[250℃,1時間]
得られた樹脂組成物ペレットを、250℃、素雰囲気下の条件で1時間保持した。保持前後の試料重量を、熱重量測定装置「Pyris1 TGA」(パーキンエルマー製)を用いて測定し、加熱前の重量に対する重量減少率(重量%)を算出した。
(2)高温耐熱性試験[280℃,10分]
得られた樹脂組成物ペレットを、アルミカップ上に10g載せ、窒素ガス雰囲気下の無酸化雰囲気恒温器(「IPHH-202M」(ESPEC製))内で、280℃の温度条件で加熱した。加熱10分後に、溶融されたペレットを恒温器から取り出し、冷却固化させることでプレート形状の成形品(直径:55mm,厚み:4mm)を得た。得られたプレート表面に発生した気泡状態を目視にて観察し、下記基準に基づいて評価した。
良好: 表面に気泡が発生せず。
不良:表面に多数の気泡発生(EVOH樹脂の分解ガスに伴う発泡)。
(3)混練特性
調製した組成物を、溶融混練装置「プラストグラフ(ブラベンダー製)」を用いて、下記溶融混練条件で混練した場合の5分後(T5)及び60分後(T60)のトルク値(Nm)を、測定した。
溶融混練条件
・ローラーミキサー:W50E(試料投入量 55g)
・装置設定温度 :250℃
・ニーダー回転数 :50ppm
(4)ロングラン安定性
(3)で測定したトルク値(Nm)から、5分後のトルク値(T5)に対する60分後のトルク値(T60)の比(T60/T5)が1以上の場合は増粘傾向にあることを示している。当該値が0.001~0.7であれば、ロングラン安定性に優れているといえる。
〔樹脂組成物No.1-8の製造及び評価〕
EVOH樹脂(A)として、エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6%、ホウ酸含有量500ppm(ホウ素分析値より換算)のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(MFR4.3g/10分(210℃、荷重2160g)、揮発分0.2%)、ポリアミド系樹脂(B)として、末端変性6ナイロン[末端COOH基:22μeq/g、末端COOH基の数を[a]とし、末端CONR1020基(但し、R10は炭素数1~22の炭化水素基、R20は水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基)の数を[b]とした場合、100×b/(a+b)=31、融点225℃、MFR5g/10分(250℃、荷重2160g)]、乾燥剤(C)として、JOST CHEMICAL製のジクエン酸三マグネシウム(無水物)(融点:300℃以上)を用いた。
また、塩基性金属塩としては、以下に示した化合物を用いた。
・ステアリン酸マグネシウム(C36704Mg):サンエース製「SAK MS-P」(融点:145℃)
・ステアリン酸カルシウム(C36704Ca):日油製「カルシウムステアレートS」(融点:154℃)
・ステアリン酸亜鉛(C36704Zn):勝田化工製「EZ-104」(融点:122℃)
・特殊高級脂肪酸マグネシウム塩(0.44MgO・(C10CH(OH)C1020COO)2Mg):酸化マグネシウムと12-ヒドロキシステアリン酸の乾式直接法により加熱反応して得られた金属塩(融点:229℃)
EVOH樹脂、ポリアミド系樹脂、乾燥剤、塩基性金属塩を、表1に示す割合でブレンドした後、フィーダーに仕込み、ミキシングゾーンを2箇所有する2軸押出機にて下記条件で溶融混練した。このようにして調製したEVOH樹脂組成物を、ストランド状に押出してドラム型ペレタイザーで切断し、円柱状ペレット(ペレット径:2mm、ペレット長さ:3.5mm、揮発分:0.3%)を得た。
樹脂組成物No.1-8の製造に用いた溶融混練条件
・2軸押出機: 直径32mm、L/D=56(日本製鋼所製)
・押出機設定温度: C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/C9/C10/C11/C12/C13/C14/C15/C16/D=90/90/110/150/220/230/230/230/230/230/230/230/230/230/230/230℃
・スクリュー回転数: 150ppm
・吐出量: 12kg/時間
・ストランドの冷却: 空冷
・引取速度: 8.8m/分
上記で作成した樹脂組成物のペレットNo.1-8について、上記方法に基づいて、高温耐熱性試験[280℃,1時間]、混練特性、ロングラン安定性を評価した。結果を表1に示す。
Figure 0007029651000003
表1から、塩基性金属塩として高級脂肪酸マグネシウム塩を用いて、かつ高級脂肪酸マグネシウム塩の金属量として樹脂組成物に対して100~200ppmとなるように配合した場合には、熱重量減少率が5重量%以上35重量%以下を満足しており、高温耐熱性とロングラン安定性ともに良好な結果が得られることがわかる。(No.1-3)
一方、塩基性金属塩を配合しない場合には、熱重量減少率が5%未満となり、T60/Tが2以上で、増粘傾向が強くなり、ロングラン安定性が不足する結果であった。(No.8)
次に、高級脂肪酸マグネシウム塩の金属量として樹脂組成物に対して30ppmと少ない場合には、熱重量減少率が5%未満となり、T60/Tが1以上で増粘傾向が強くなり、ロングラン安定性が不足する結果であった。(No.4)
高級脂肪酸マグネシウム塩の含有率が高い場合(樹脂組成物に対するMg量として400ppm)、熱重量減少率が35%を超え、高温条件で発泡が認められ、高温耐熱性が不足する結果であった。(No.5)
塩基性金属塩として高級脂肪酸カルシウム塩又は高級脂肪酸亜鉛を使用し、樹脂組成物に対するカルシウム又は亜鉛の含有率がそれぞれ100ppm,250ppmとなるように配合した場合には、熱重量減少率が5%未満となり、T60/Tが1以上で増粘傾向が強くなり、ロングラン安定性が不足する結果であった。(No.6,7)
本発明の樹脂組成物は、高温加工条件での分解発泡抑制とロングラン安定性を併せ持つことから、他の熱可塑性樹脂との共押出成形、共射出成形のような高温での成形加工を適用することができる。更に、レトルト処理等の熱水処理後であってもガスバリア性の低下が抑制された、本発明の樹脂組成物層を有する多層構造体を効率的に生産することができ、工業上、有用である。

Claims (4)

  1. エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)、ポリアミド系樹脂(B)、乾燥剤(C)、及び塩基性金属塩(D)(但し、乾燥剤(C)に該当する金属塩を除く)を含有する樹脂組成物であって、
    前記乾燥剤(C)は、融点が300℃以上である水和物形成性のカルボン酸金属塩であり、
    前記塩基性金属塩(D)は、炭素数12~30のカルボン酸の金属塩であり、
    当該塩基性金属塩(D)の樹脂組成物に対する含有率は、金属量換算で40~1000ppmであり、
    250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率が5重量%以上35重量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
  2. 前記塩基性金属塩(D)の融点は、250℃以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
  3. 請求項1又は2に記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有することを特徴とする多層構造体。
  4. エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)、ポリアミド系樹脂(B)、及び乾燥剤(C)として融点が300℃以上である水和物形成性のカルボン酸金属塩を含有する樹脂組成物の250℃超の押出成形又は射出成形におけるロングラン安定性を改善する方法であって、
    さらに炭素数12~30のカルボン酸の塩基性金属塩(D)を、当該塩基性金属塩(D)中の金属の前記樹脂組成物に対する含有率として40~1000ppmとなるように配合することにより、
    前記樹脂組成物の250℃で窒素雰囲気下1時間保持した際の重量減少率を、5重量%以上35重量%以下に調整することを特徴とする樹脂組成物のロングラン安定性改善方法。
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