JP7020623B2 - イソブテンの製造方法 - Google Patents

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本発明は、特定のγ-アルミナ触媒を用い、tert-ブチルアルコール(以下、「TBA」と略記することがある。)を脱水してイソブテンを製造する方法に関する。
イソブテンは、炭素-炭素二重結合を有するオレフィンであり、多種多様な有機化合物へ変換できるため、有機合成化学の分野で極めて有用な化合物である。
イソブテンは、主にナフサ分解工程のC4留分から、ブタジエンを除去したラフィネート1に主成分として含まれている。また、イソブテンは、重質油のFCC分解から得られるC4留分にも含まれている。いずれのC4留分の場合もイソブテンとn-ブテンを含むが、両者の沸点が近いため蒸留分離では高純度のイソブテンを得ることは困難である。
高純度のイソブテンを得る方法としては、前記の通り蒸留では困難であるため、TBAを酸性条件下で処理し、脱水反応することによって合成する方法が検討されている。
従来、アルコールの脱水反応には、硫酸等の強酸を用いて均一系で行う方法が一般的であるが、この方法では強酸を使用するため腐食性が高く、また、脱水反応後に排出される酸を含む廃液処理が必要であり、工業的な製造方法として好ましくない。
他方、気相下で固体酸触媒を用いる脱水反応として、γ-アルミナ触媒を用いたアルコールの脱水反応によりオレフィン類を製造する方法が検討されており、該方法によって高純度のイソブテンを合成する方法が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
特開平4-247043号公報 特開平4-300840号公報 国際公開第2007/052505号
特許文献1および2では、炭素数2~4までの低級アルコールを脱水して低級オレフィンを製造するに当たり、γ-アルミナ触媒を用いているが、使用される低級アルコールとしてn-ブタノールやi-ブタノールが使用されることは記載されているもののTBAを用いることの記載がなく、具体的な実施例においてもイソブタノールからイソブテンを製造するにとどまり、TBAを用いた場合にどのような結果になるのかこれらの特許文献から予想することは困難である。また、これらの特許文献における反応成績は決して良いとはいえず、さらに反応は高い圧力を必要とするため高い耐圧性を有する設備を必要とするなど、工業的に有利とはいえない。
また、特許文献3には、Na含有量がNaOに換算して0.1~0.6重量%の範囲であり、Si含有量がSiOに換算して0.4重量%以下である特定のγ-アルミナ触媒を用いるなどして、高収率でイソブテンを得ることが開示されている。しかし、本発明者らが、特許文献3に記載された範囲のNa含有量およびSi含有量を有するγ-アルミナ触媒を使用して試験したところ、反応性が低いことが判明し、高収率でイソブテンを得ることができなかった。
そこで本発明は、γ-アルミナ触媒の活性を維持でき、高収率でTBAからイソブテンを得る製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは特定のγ-アルミナ触媒を用いることによって上記課題を解決できることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]tert-ブチルアルコールと、Na含有量がNaO換算で0.1質量%未満であるγ-アルミナ触媒とを接触させる工程を含む、イソブテンの製造方法。
[2]前記γ-アルミナ触媒のSi含有量がSiO換算で0.5質量%未満である、[1]に記載のイソブテンの製造方法。
[3]前記γ-アルミナ触媒の比表面積が100~300m/gである、[1]または[2]に記載のイソブテンの製造方法。
[4]前記tert-ブチルアルコールと前記γ-アルミナ触媒とを180~370℃の範囲内の温度で接触させる、[1]~[3]のいずれか1つに記載のイソブテンの製造方法。
本発明によれば、γ-アルミナ触媒の活性を維持でき、高収率でTBAからイソブテンを得る製造方法を提供することができる。
本発明に係るイソブテンの製造方法は、tert-ブチルアルコールと、Na含有量がNaOで0.1質量%未満であるγ-アルミナ触媒とを接触させる工程を含む。
(TBA)
本発明で用いるTBAの純度は、特に限定されないが、純度が高い方が容積効率の観点から好ましい。具体的には60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましい。
TBAは市販品を用いてもよいし、ナフサクラッカーからのC4留分の水和反応によって合成してもよい。
また、TBAはガス状で反応器へ供給することができるが、この際に本発明の効果を損なわない範囲で、窒素やアルゴンなどの不活性ガスと共に供給してもよい。
(γ-アルミナ触媒)
γ-アルミナ触媒を製造する際には不純物としてNaが含まれることがある。本発明に用いるγ-アルミナ触媒中のNa含有量は、NaO換算で0.1質量%未満であり、好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.04質量%以下である。当該Na含有量は本発明の効果の観点などから0質量%に近い程好ましく、当該Na含有量は、例えば0.001質量%以上とすることができ、0.015質量%以上であってもよい。上記Na含有量が0.1質量%以上であると、反応活性に影響を与えγ-アルミナ触媒の活性を維持できず、また高収率でイソブテンを得ることができない。
γ-アルミナ触媒中のNa含有量を低減させる方法としては特に限定されるものではなく、例えばγ-アルミナ触媒の製造工程において適宜酸洗浄するなど公知の技術を採用することができる。
γ-アルミナ触媒中のNa含有量の測定は、例えばJIS K 0119:2008に準じ蛍光X線分析通則により行うことができ、他には高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法)や原子吸光光度法等でも行うことができる。
本発明に用いるγ-アルミナ触媒中のSi含有量は、SiO換算で0.5質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.45質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下、特に好ましくは0質量%である。上記Si含有量が0.5質量%未満であれば、反応活性に影響を与えγ-アルミナ触媒の活性を維持しにくくなるおそれが少なく、また高収率でイソブテンを得やすくなる傾向にある。
γ-アルミナ触媒中にSiを含有させる方法としては、例えば特許文献2に記載された方法などの公知の技術を採用することができる。
γ-アルミナ触媒中のSi含有量の測定は、例えばJIS K 0119:2008に準じ蛍光X線分析通則により行うことができ、他には高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法)等でも行うことができる。
γ-アルミナ触媒の比表面績は、100~300m/gの範囲内であることが好ましく、150~260m/gの範囲内であることがより好ましく、200~250m/gの範囲内であることがさらに好ましい。γ-アルミナ触媒の比表面績が上記範囲内であれば、触媒の活性をより高めることができ高収率でイソブテンを得ることができる。
γ-アルミナ触媒の比表面績の測定は、例えばJIS Z8830:2013に準じ比表面積測定方法(BET法)により行うことができる。
γ-アルミナ触媒の形状については特に制限はなく、粉末状、粒子状、球状、円柱状、リング状などいずれの形状でもよい。
γ-アルミナ触媒は市販品を用いてもよいし、自ら成形してもよい。成形方法に特に制限はなく、押し出し成形法、打錠成形法、転動式造粒法などいずれの成形法でもよい。
(反応条件)
本発明では、典型的には、TBAとγ-アルミナ触媒とを接触させる工程において、該接触によりTBAの脱水反応が起きる。
TBAとγ-アルミナ触媒とを接触させる温度(以下、「反応温度」ということもある。)は、好ましくは180~370℃、より好ましくは200~370℃、さらに好ましくは230~350℃、よりさらに好ましくは260~340℃の範囲内の温度である。反応温度が上記範囲内であれば、好適な反応速度で反応が進行し、より高収率でイソブテンを得ることができる。
TBAを脱水反応する際の反応圧力は、特に制限はなく、常圧でもよく、加圧してもよい。ただし、圧力が高くなると専用の設備が必要となることから、20kg/cm以下が好ましい。
反応器へのTBAの供給量は、γ-アルミナ触媒の使用量に対する供給速度(LHSV)として、触媒活性を維持するために、0.1~10hr-1が好ましく、0.2~7hr-1がより好ましい。
上記TBAとγ-アルミナ触媒との接触工程における反応方式は、例えば連続方式を採用することができる。また反応器としては、例えば固定床方式が挙げられる。
上記TBAとγ-アルミナ触媒との接触工程により生成されるイソブテンは、典型的には水蒸気と共にガス状で生成される。そのため、当該接触工程を経て排出されるガス状のイソブテンを冷却し凝縮することで、水とイソブテンとを分離することができる。当該冷却工程についてより具体的には、後述する実施例に記載の方法により行うことができる。
以下、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。また、特記しない限り「%」は「質量%」を意味する。
[TBA]
実施例および比較例で用いたTBAは以下のものである。
TBA:純度99.7質量%(sec-ブチルアルコールを0.2質量%、および、水分を0.1質量%含有する。)
[γ-アルミナ触媒]
(1)実施例および比較例で用いたγ-アルミナ触媒中のNa含有量(NaO換算)は、JIS K 0119:2008に準じ蛍光X線分析通則により測定した。
(2)実施例および比較例で用いたγ-アルミナ触媒中のSi含有量(SiO換算)は、JIS K 0119:2008に準じ蛍光X線分析通則により測定した。
(3)実施例および比較例で用いたγ-アルミナ触媒の比表面積は、JIS Z8830:2013に準じ比表面積測定方法(BET法)により測定された値を用いた。
[ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)]
分析機器:GC-14A(株式会社島津製作所製)
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)
使用カラム:DB-1(長さ:60m、膜厚5μm、内径0.32mm)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
分析条件:Inject.Temp.250℃、Detect.Temp.250℃
昇温条件:40℃(10min保持)→(5℃/分で昇温)→150℃(0min保持)→(10℃/分で昇温)→280℃(3min保持)
内部標準物質:1,4-ジオキサン
<実施例1>
外部に電気炉を有する内径2cm、長さ50cmの縦型反応管に、表1に示すγ-アルミナ触媒を25mL充填し、TBAがフィードされる反応管上部の温度を130℃、触媒層の温度(反応温度)を340℃に設定した。TBAをLHSV=2.7hr-1(9.3mL/hr)で反応器の塔頂部からフィードし、反応圧力は常圧下で反応を行った。反応管の下部は直列で2個の冷却容器に接続し、流出される反応ガスを、1個目の容器では氷水で冷却して水を凝縮し、2個目の容器ではアセトン-ドライアイスで冷却してイソブテンを凝縮させた。
反応開始後、8時間経過したところで、冷却容器に採取した反応液をGC分析し、反応成績を求めた。TBAの転化率は99.96%、イソブテンの選択率は99.81%であった。
<実施例2~3、比較例1>
表1に示す物性値が異なるγ-アルミナ触媒を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
Figure 0007020623000001
<実施例4~6、比較例2>
表2に示すγ-アルミナ触媒を用い、反応温度を260℃に下げたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
Figure 0007020623000002
<実施例7~8>
表3に示す反応温度およびLHSVに変更したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
<実施例9>
表3に示す反応温度およびLHSVに変更したこと以外は実施例1と同様に行った。引き続き反応時間を50時間まで延ばして反応成績を確認した。
実施例9では反応時間を50時間まで延ばして反応成績を確認した結果、反応成績はほとんど低下することなく、触媒活性が維持されることを確認した。結果を表3に示す。
Figure 0007020623000003
本発明の製造方法によれば、高収率でTBAからイソブテンを得ることができるため、イソブテンを用いる有機合成化学の分野などで利用可能である。

Claims (6)

  1. tert-ブチルアルコールと、Na含有量がNaO換算で0.1質量%未満であるγ-アルミナ触媒とを接触させる工程を含前記接触工程が常圧で行われる、イソブテンの製造方法。
  2. 前記γ-アルミナ触媒のSi含有量がSiO換算で0.5質量%未満である、請求項1に記載のイソブテンの製造方法。
  3. 前記γ-アルミナ触媒の比表面積が100~300m/gである、請求項1または2に記載のイソブテンの製造方法。
  4. 前記tert-ブチルアルコールと前記γ-アルミナ触媒とを180~370℃の範囲内の温度で接触させる、請求項1~3のいずれか1項に記載のイソブテンの製造方法。
  5. 前記接触工程を経て流出される反応ガスを冷却してイソブテンを得る工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のイソブテンの製造方法。
  6. 前記反応ガスを冷却する工程において、イソブテンと水が分離される、請求項5に記載のイソブテンの製造方法。
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