JP7009294B2 - 二酸化炭素と水素から炭化水素を製造するための触媒、その触媒の製造方法、及び二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造する方法 - Google Patents

二酸化炭素と水素から炭化水素を製造するための触媒、その触媒の製造方法、及び二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造する方法 Download PDF

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本発明は、二酸化炭素と水素から炭化水素を製造するための触媒、その触媒の製造方法、及び二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造する方法に関する。
近年、地球温暖化への関心が高まっており、温室効果ガス排出削減等の国際的枠組みを協議するCOP(Conference of the Parties)では、世界共通の長期目標として産業革命前からの平均気温の上昇を2℃よりも十分下方に保持することを目的とし、排出ピークをできるだけ早期に抑え、最新の科学に従って急激に削減することが目標とされている。COP21パリ協定では、全ての国が長期の温室効果ガス低排出開発戦略を策定・提出するように努めるべきとされており、我が国では長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことが策定された。人為的に排出されている温室効果ガスの中では、二酸化炭素の影響量が最も大きいと見積もられており、二酸化炭素削減のための対策技術開発が各所で精力的に行われている。対策技術の一つとして、排出された二酸化炭素を有用物に変換する幾つかの試みが提案されているが、二酸化炭素を別の物質に変換させるためには大きなエネルギーが必要であり、反応を促進させるための有効な触媒の開発が望まれていた。
また、二酸化炭素削減に資する技術とするためには、需要の多い有用物を製造する必要がある。炭化水素(メタンやガソリン等の燃料)は二酸化炭素を炭素源として製造可能な有用物の中でも最も需要が多く、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する技術は二酸化炭素削減のための対策技術として位置付けられる。
化学反応によって炭化水素を製造する技術としては、一酸化炭素と水素の混合ガス、いわゆる合成ガスを原料として、触媒を用いて変換するF-T合成が知られている。触媒としては、コバルト系、鉄系が有効であり、世界中で精力的に技術開発が行われてきた。主触媒であるコバルト、鉄の微細構造、助触媒の機能等、触媒性能に対する触媒組成、構造の詳細が明らかにされている。一方、二酸化炭素と水素を原料とした炭化水素への変換においても、従来のF-T合成触媒に似た組成の触媒を使用する試みについて、鉄系触媒の報告(非特許文献1、2)や、コバルト系触媒(非特許文献3)の報告があるものの、地球温暖化への関心の高まりを受けて取り組みの始まった研究が多く、触媒性能に対する詳細な検討は十分とは言えない状況である。
M.Albercht et al., Applied Catalysis B:Environmental, 204(2017)119-126 Y.H.Choi et al., Applied Catalysis B:Environmental, 202(2017)605-610 C.G.Visconti et al., Catalysis Today, 277(2016)161-170
二酸化炭素と水素を原料とした炭化水素製造における反応は、従来の一酸化炭素と水素を原料としたF-T合成反応と同様に発熱反応であるが、プラントの安定操業のためには反応熱を効果的に除去することが重要である。反応形式としては、気相合成プロセス(固定床、噴流床、流動床)と、液相合成プロセス(スラリー床)があり、それぞれ特徴を有しているが、熱除去効率が高く、生成した高沸点炭化水素の触媒上への蓄積やそれに伴う反応管閉塞が起こらないスラリー床液相合成プロセスが有利であると予想される。しかし、二酸化炭素を排出する発生源において、炭化水素への変換プラントを併設する場合には、天然ガス田を対象とした従来のF-T合成プラントと比較して生産量は少なくなると考えられ、この場合にはマイクロチャネル反応器が有利となる可能性も考えられる。
一般的に触媒の活性は、高ければ高いほど好ましいことは言うまでもない。特にスラリー床では、良好なスラリー流動状態を保持するためにはスラリー濃度、ひいては触媒濃度を一定の値以下にする必要があるという制限が存在するため、触媒の高活性化は、プロセス設計の自由度を拡大する上で、非常に重要な要素となる。
ところが、二酸化炭素と水素を原料とする炭化水素製造においては、触媒性能に及ぼす因子に関する知見は十分ではない。このような反応における触媒活性や選択性は未だ十分ではなく、鉄系触媒ではC5以上の液状生成物は得られるものの反応温度が300℃程度と厳しく、コバルト系触媒を使用すると反応温度は220℃程度と比較的マイルドになるもののC5以上の液状生成物の生成量はわずかである。以上、プラントの設計自由度を拡大する観点からも高性能触媒の開発が急務である。即ち、本発明では反応温度が220℃程度と低い条件でコバルト系触媒を使用してもC5以上の液状生成物が、高い選択率で製造可能な触媒を提供する。
本発明者らは、シリカを主体とする触媒担体にコバルトが担持され、シリカ製造の原料や触媒製造工程において混入する成分であるナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計を0.15質量%超3.5質量%以下の適切な範囲に制御することによって、二酸化炭素と水素を原料とする炭化水素製造において触媒が高い性能を有すること、特にC5以上の液状生成物を高い選択率で生成することを見出し、本発明に至った。
本発明は、二酸化炭素からの炭化水素製造において高い活性を有する触媒と触媒の製造方法及び該触媒を用いた炭化水素の製造方法に関する。更に詳しくは、以下に記す通りである。
(1) シリカを主成分とする触媒担体と、
前記触媒担体に担持されたコバルトと、を含み、
さらに、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムを、合計で、0.15質量%超3.5質量%以下含む、二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
(2)さらに、前記触媒担体に担持されたジルコニウム成分を含む、(1)に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
(3)前記触媒中におけるナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計量が0.2~2.0質量%である、(1)又は(2)に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
(4)前記触媒中におけるコバルトの含有量が金属換算で5~50質量%である、(1)~(3)のいずれかに記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造する触媒。
(5)前記触媒中におけるジルコニウム成分の含有量がZr/Coのモル比で0.03~0.6である、(2)~(4)のいずれかに記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
(6)前記触媒担体が、8~50nmの細孔径、80~450m/gの比表面積、および0.3~2.0mL/gの細孔容量を同時に満足する、(1)~(5)のいずれかに記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
(7)前記触媒担体が球状のシリカである(1)~(6)のいずれかに記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
(8)前記触媒担体を、噴霧法により球状に成形する、(1)~(7)のいずれかに記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒の製造方法。
(9)前記触媒担体中のナトリウムの含有量が0.15質量%超3.5質量%以下である、(8)に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒の製造方法。
(10)(1)~(7)のいずれかに記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒を製造する方法であって、シリカを主成分とする触媒担体に、含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法を用いて、コバルト成分及び/又はジルコニウム成分を担持させる二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒の製造方法。
(11)前記触媒担体にジルコニウム成分を担持させ、乾燥処理、又は乾燥処理及び焼成処理を行い、
次いで前記触媒担体にコバルト成分を担持させ、還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う、(10)に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒の製造方法。
(12)(1)~(7)のいずれかに記載の二酸化炭素から炭化水素を製造する触媒を用いて炭化水素を製造する、二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造する方法。
(13)スラリー床を用いた液相反応で前記炭化水素を製造する、(12)に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造する方法。
本発明によると二酸化炭素と水素を原料とする炭化水素製造において、反応温度が低くても活性に優れ、C5以上の液状生成物の選択率の高いコバルト系触媒を提供することができる。
以下、本発明を好適な実施形態に基づき、更に詳述する。
<1.触媒>
本実施形態にかかる触媒は、シリカを主成分とする触媒担体(以下、単に「シリカ担体」ともいう。)上に、二酸化炭素と水素を原料とする炭化水素製造に活性を有する金属としてコバルトを含むものである。また、助触媒としてジルコニウム成分を含むことができる。
そして、本実施形態においては、触媒中におけるナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの総含有量は、0.15質量%超3.5質量%以下である。このように、触媒がナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属を適切な範囲で含有することで、C5以上の液状生成物の選択率が向上する。触媒性能へ最も影響が大きいのは、アルカリ金属のナトリウム、及びカリウムであり、次に影響が大きいのはアルカリ土類金属のカルシウムとマグネシウムである。触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量が3.5質量%を上回ると、反応活性が低下するため、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量は3.5質量%以下とすることが好ましい。
なお、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属は、触媒の製造時において混入し得る成分である。例えば、触媒担体製造時においては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムはシリカを主成分とする担体の製造工程で使用される洗浄水に含有されるものや、出発原料に含有される金属によるものがある。
また、触媒担体に金属系化合物を担持する際には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムは担持する金属系化合物の前駆体、担持の際の処理水や洗浄水、担持後の乾燥工程や焼成工程で混入する可能性がある。これらのうち、カリウムは、シリカを主成分とする担体から製造した触媒においては、ごく僅かしか含まれていないことが多く、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量が比較的多い。通常、これらの成分は、不純物として認識されており、他の不純物、例えば大量の硫酸ナトリウム、アルミニウム、鉄などとともに、極力除去した上で触媒担体として使用される。
従って、本発明においては、通常混入を避け、極力含有量を低減させるべき成分であるナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムを敢えて適切な範囲の合計含有量に制御することにより、C5以上の液状生成物の選択率を向上させることを可能とした。
なお、これらの金属は、酸化物等の化合物となって存在するものも多いが、全て金属換算した量で含有量を算出する。触媒中におけるナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの総含有量は、0.15質量%超3.5質量%以下であり、好ましくは0.2~2.0質量%、より好ましくは0.2~1.2質量%である。なお、これらアルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量は総含有量であり、これらの中でいずれかが含まれない場合もあるが、その場合においてもこれらの総含有量が0.15質量%超3.5質量%以下であれば良い。
(1.1. 触媒担体)
上述したように、本実施形態に係る触媒において、触媒担体は、シリカを主成分とする。ここでいうシリカを主成分とする触媒担体とは、シリカ含有量が50質量%以上で100質量%未満のものであり、シリカ以外にアルミナを含有するシリカ-アルミナ担体や、シリカ担体の製造工程における不可避的不純物を少量含むものを指す。触媒中、及び触媒担体中のシリカ含有量の測定方法は、酸分解やアルカリ溶融等の前処理後にICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy-Auger Electron Spectroscopy)法にて測定する方法とする。
なお、シリカを主成分とする触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量は0.15質量%超3.5質量%以下が好ましく、より好ましくは0.2~2.0質量%、更に好ましくは0.2~1.2質量%である。
触媒担体の物理性状としては特に限定されないが、触媒活性の観点からは、金属の分散度を高く保ち、担持したコバルト金属の反応に寄与する効率を向上させるためには、高比表面積の触媒担体を使用することが好ましい。しかし、比表面積を大きくするためには、気孔径を小さくする、細孔容積を大きくする必要があるものの、この二つの要因を増大させると、耐摩耗性や強度が低下することになるため、触媒担体の各物性が、以下に示す範囲とすることが、活性、強度の両面から好ましい。細孔径が8~50nm、比表面積が80~450m/g、細孔容積が0.3~2.0mL/gを同時に満足するものが、触媒用の担体として、極めて好適である。細孔径が8~30nm、比表面積が100~400m/g、細孔容積が0.4~1.5mL/gを同時に満足するものであればより好ましく、細孔径が10~20nm、比表面積が150~350m/g、細孔容積が0.4~1.2mL/gを同時に満足するものであれば更に好ましい。上記の比表面積はBET法で、細孔容積は前記水銀圧入法で測定する。また、細孔径はガス吸着法で測定する。
二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応に十分な活性を発現する触媒を得るためには、比表面積は80m/g以上であることが好ましい。この比表面積を下回ると、担持した金属の分散度が低下してしまい、活性金属の反応への寄与効率が低下する可能性がある。また、450m/g超とすると、細孔容積と細孔径が上記範囲を同時に満足することが困難となる場合がある。
細孔径を小さくするほど比表面積を大きくすることが可能となるが、8nmを下回ると、細孔内のガス拡散速度が水素と二酸化炭素では異なり、細孔の奥へ行くほど水素分圧が高くなるという結果を招き、メタン等の軽質炭化水素が多量に生成しやすくなるため、8nm以上の細孔径とすることが好ましい。加えて、生成した炭化水素の細孔内拡散速度も低下し、結果として、見かけの反応速度を低下させることとなる。また、一定の細孔容積で比較を行うと、細孔径が大きくなるほど比表面積が低下するため、細孔径が50nmを超えると、比表面積を増大させることが困難となり、活性金属の分散度が低下してしまうため、細孔径は50nm以下とすることが好ましい。
細孔容積は0.3~2.0mL/gの範囲内にあるものが好ましい。0.3mL/gを下回るものでは、細孔径と比表面積が上記範囲を同時に満足することが困難となり好ましくなく、また、2.0mL/gを上回る値とすると、強度が低下してしまうため、好ましくない。
(1.2. コバルト)
本実施形態に係る触媒の触媒担体上には、コバルトが担持されている。コバルトは、本実施形態に係る触媒において、触媒活性を示す主たる成分である。通常、コバルトは、コバルト粒子として触媒担体上に存在する。活性を示すコバルト粒子は、還元処理によって全部が金属化されたコバルト粒子であってもよい。また、大部分は金属化されているが一部としてコバルト酸化物が残存したコバルト粒子であってもよい。
触媒中におけるコバルトの担持率(含有量)は、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~40質量%である。この範囲を下回ると活性を十分発現しない場合があり、また、この範囲を上回ると分散度が低下して、担持したコバルトの利用効率が低下することがあり、不経済となる。
ここでいう担持率とは、担持したコバルトが最終的に100%還元されるとは限らないため、100%還元されたと考えた場合の金属コバルトの質量が触媒質量全体に占める割合を指す。触媒中のコバルトの定量方法は、酸分解やアルカリ溶融等の前処理後にICP-AES法にて測定する方法とする。
(1.3. ジルコニウム成分)
また、本実施形態に係る触媒の触媒担体上には、コバルトとともにジルコニウム成分が担持されていることが好ましい。ジルコニウム成分は、本実施形態に係る触媒の耐水性を向上させ、長期にわたって触媒の活性を維持する。また、ジルコニウム成分は、さらにC5以上の液状生成物の選択性を向上させるとともに、触媒の活性自体をも向上させる。
ところで、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応においては、下記化学式にも記載されるように、一酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応と比較して副生する水の量が多くなる。一般的に炭化水素製造のための触媒の活性種は金属状態であることから、副生する水と金属状態の活性種が反応して金属酸化物に変化すること等による触媒失活が起こり易くなる。
Figure 0007009294000001
そして、特に、ジルコニウム成分は、後述する推定機構により、本実施形態に係る触媒の耐水性を向上させ、触媒失活を防止することができる。
コバルトと共に担持するジルコニウム成分の担持量の適正範囲は、活性向上効果、液状生成物選択性向上効果、耐水性向上効果、寿命延長効果を発現するための最低量以上であり、担持したジルコニウム成分の分散度が極端に低下して、添加したジルコニウム成分のうち効果発現に寄与しないジルコニウム成分の割合が高くなり不経済となる担持量以下であればよい。
具体的には、触媒中におけるジルコニウム成分の含有量(担持量)は、コバルトとジルコニウムのモル比で、好ましくはZr/Co=0.03~0.6であり、より好ましくは0.04~0.4、さらに好ましくは0.05~0.3である。この範囲を下回るとジルコニウム成分を添加することによる活性向上効果、液状生成物選択性向上効果、耐水性向上効果、寿命延長効果を十分発現することができず、また、この範囲を上回ると担持したジルコニウムの利用効率が低下して不経済となる。
ジルコニウム成分は、触媒中においていかなる状態で存在してもよいが、好ましくは金属ジルコニウムおよび/またはジルコニウム酸化物として、より好ましくはジルコニウム酸化物(例えばZrO)として存在する。これにより、上述したジルコニウム成分を添加することによる各効果がより確実に発揮される。
また、ジルコニウム成分は、触媒担体上にあればよく、触媒担体上でコバルト共に混在してもよいし、コバルトと触媒担体との間に存在してもよいし、触媒担体上に担持されたコバルト上に存在してもよい。
特に、本発明者らは、上述の効果を発現するためには、触媒担体上にジルコニウム酸化物が存在し、活性を示すコバルト粒子がジルコニウム酸化物上に存在する触媒構造が好ましいと推定している。活性向上効果は、ジルコニウム酸化物が存在することでコバルト粒子がより高分散で担持されるため、活性表面積が増大することが要因と推定される。
液状生成物選択性向上効果は、ジルコニウム酸化物が存在することでコバルト表面の電子状態が二酸化炭素の吸着を促進し、中間体であるCHを生成し易いためであると推定される。中間体であるCHの存在量が多くなると連鎖成長が起こり易くなり、液状生成物が生成し易くなる。
耐水性向上効果は、触媒担体上にジルコニウム酸化物が存在することで、活性を示すコバルト粒子と触媒担体の界面を減少し、副生水により形成が加速されるコバルトシリケートの形成が抑制されることが関与していると推察される。また、ジルコニウム酸化物と活性を示すコバルト粒子の相互作用は触媒担体と活性を示すコバルト粒子の相互作用よりも大きいため、コバルト化合物とジルコニウム化合物を担持してなる触媒の活性を示すコバルト粒子間ではシンタリングが比較的起こり難く、シンタリングが起こり易い副生水が存在する雰囲気においても耐水性が向上すると考えられる。
寿命延長効果は、上記の耐水性向上とシンタリング抑制により、活性を発現する触媒構造をより長く保持できることによると考えられる。
(1.4. 形状、粒径等)
一般的に触媒の粒子径は、熱や物質の拡散が律速となる可能性を低くするという観点からは、小さいほど好ましい。しかし、スラリー床による炭化水素製造では、生成する炭化水素の内、高沸点炭化水素は反応容器内に蓄積されるため、触媒と生成物との固液分離操作が必ず必要になることから、触媒の粒子径が小さ過ぎる場合、分離操作の効率が大きく低下するという問題が発生する。よって、スラリー床用の触媒には最適な粒子径範囲が存在する。触媒担体の粒径は、20~250μm程度、平均粒径として40~150μm程度が好ましい。なお本明細書中において、平均粒径とは、レーザ回折法による体積基準メジアン径(D50)をいう。
また、反応中に触媒が破壊、粉化を起こして、粒子径が小さくなることがあり、この点、注意が必要である。即ち、スラリー床では相当高い原料ガス空塔速度(0.1m/秒以上)で運転されることが多く、触媒粒子は反応中に激しく互いに衝突するため、物理的な強度や耐摩耗性(耐粉化性)が不足すると、反応中に触媒粒径が低下して、上記分離操作に不都合をきたすことがある。更に、スラリー床では液媒体として有機物を使用するが、炭素源として二酸化炭素、一酸化炭素のいずれを使用する場合でも多量の水が副生する。したがって、耐水性が低く、水により強度低下や破壊、粉化を起こし易い触媒を用いる場合は、反応中に触媒粒径が細かくなることがあり、上記と同様に分離操作に不都合をきたすことになる。
また、一般的に、スラリー床用の触媒は、上記したような最適粒径となるように粉砕して粒度調整をして実用に供することが多い。ところが、このような破砕状の触媒には予亀裂が入っていたり、鋭角な突起が生じていたりすることが多く、機械的強度や耐摩耗性に劣る場合がある。このため、このような破砕状の触媒をスラリー床に用いた場合には、触媒が破壊して微粉が発生することになり、生成する高沸点炭化水素と触媒との分離が困難になる場合がある。
このように、スラリー床反応用の触媒には、耐摩耗性、強度が要求される。また、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応では、水が副生するために、水の存在下で破壊、粉化するような触媒又は担体を用いると、前述したような不都合が生じることになるために注意を要する。よって、予亀裂が入っている可能性が高く、鋭角な角が折損、剥離し易い破砕状の担体ではなく、球状の担体を用いた触媒が好ましい。例えば、円形度と呼ばれる、粒子を画像解析した際の二次元画像における面積と周囲長を元に数値で表現する、形状の複雑さを測る指標などを用いることもでき、この円形度が0.7以上が好ましい。
二酸化炭素を排出する発生源において、炭化水素への変換プラントを併設する比較的小規模なプラントの場合、マイクロチャネル反応器が有利となる可能性が考えられるが、ミリオーダー以下の流路に触媒を充填することを考慮すると、スラリー床の場合と同様に粒径は20~250μm程度が好ましい。
なお、炭化水素への変換プラントとして、マイクロチャネル反応器ではない通常の固定床を採用する場合には、反応器内での圧力損失を勘案して、触媒はペレット状の形状に成型することが好ましく、例えば、シリカを主成分とする触媒担体を含有する前駆体を押出成型にて加工することが可能である。
以上述べたような触媒を用いることにより、二酸化炭素と水素とを原料として炭化水素を製造する反応において、液状炭化水素の選択性が高めることができる。この結果、液状炭化水素の生産量が高くなる。また、ジルコニウム成分を含む場合には耐水性が高く、長寿命な触媒を得ることができる。
上述のようにして得られた触媒の寿命延長効果を評価する方法としては、触媒をオートクレーブに溶媒と共に仕込み強撹拌状態として、二酸化炭素と水素を供給しながら昇温・昇圧することでオートクレーブ内を完全混合状態に保ちながら炭化水素を製造する反応を行い、断続的に撹拌を停止する手法が挙げられる。完全混合状態では、活性点で副生した水は直ちには原料ガス、生成ガスとの混合が進まない。したがって、副生した水は活性点近傍に滞留することになり、水への耐性が低い触媒は急速に活性低下することとなる。撹拌停止によって触媒を活性低下させた後、再度完全混合状態として触媒活性を評価し、撹拌停止前後での活性低下の度合を評価することで副生水への耐性を把握できる。
その他には、高圧ポンプで強制的に水をオートクレーブ内に導入して、水分圧が高い条件を作り出す手法でも評価することができる。いずれも副生水への耐性は、水分圧を高い条件とした前後での活性の比率で評価する。
<2.触媒の製造方法>
次に、上述した触媒の製造方法について、好適な実施形態に基づき説明する。
(2.1. 触媒担体の調整)
まず、シリカを主成分とする触媒担体を調製する。一般にシリカの製造方法は、乾式法と湿式法に大別される。乾式法としては燃焼法、アーク法等、湿式法としては沈降法、ゲル法等があり、いずれの製造方法でも触媒担体を製造することは可能であるが、ゲル法を除く上記方法では球状に成形することが技術的、経済的に困難である為、シリカゾルを気体媒体中又は液体媒体中で噴霧させて容易に球状に成形することが可能であるゲル法(噴霧法)が好ましい。球状の触媒担体を製造する際には、一般的なスプレードライ法等の噴霧法を用いればよい。特に、20~250μm程度の粒径の球状シリカ担体を製造する際には、噴霧法が適しており、耐摩耗性、強度、耐水性に優れた球状シリカ担体が得られる。
例えば、上記ゲル法にて触媒担体としてのシリカ担体を製造する際には、製造工程で多量の硫酸ナトリウムが生成するため、これを取り除くために通常多量の洗浄水を用いる。アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量を適切な範囲とする観点からは、全く洗浄しない方法や、使用する洗浄水を極端に少なくすることで硫酸ナトリウムを適切な範囲で残存させる方法が考えられるが、硫酸ナトリウムを多量に含有したシリカは比表面積、細孔容積、細孔径の物性制御が困難となる。
従って、物性も同時に適切な範囲とするためには、硫酸ナトリウムの除去が必要であり、多量の洗浄水を用いた洗浄工程が必要である。洗浄工程において、工業用水等のアルカリ金属、アルカリ土類金属を多く含んだ洗浄水のみを用いると、担体中に多量のアルカリ金属、アルカリ土類金属が残留することになり、シリカ担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムを適切な範囲とすることが可能であるが、イオン交換水等のアルカリ金属、アルカリ土類金属を全く含まないものを使用することもできる。アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有率制御の方法としては、適切な含有率の工業用水を選択する他、イオン交換水などのアルカリ金属、アルカリ土類金属を全く含まないものを工業用水と組み合わせて用いることもできる。
洗浄によって、アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量が適切な範囲を下回る場合には、シリカ担体を製造後、アルカリ金属、アルカリ土類金属を担持することで含有させることができる。シリカを主成分とする触媒担体へアルカリ金属、アルカリ土類金属を担持する方法は、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によればよい。担持において使用する原料(前駆体)である化合物としては、溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、水酸化物等が使用可能であるが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。なお、水溶液にした際にアルカリ性が強すぎるものは、シリカ担体を溶解させることがあるため、アルカリ性であっても弱いもの、例えば炭酸塩が好ましい。
シリカ担体は鉄、アルミニウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属以外の不純物が含まれることが多く、これら不純物の含有量を低下させることで触媒性能を向上させ、且つアルカリ金属、アルカリ土類金属を適切な範囲に制御する方法としては、シリカ担体製造においてはアルカリ金属、アルカリ土類金属を含めて可能な限り不純物量を低下させ、その後、アルカリ金属、アルカリ土類金属を担持させることが好ましい。
また、シリカを主成分とする触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量が少ない場合には、これら成分を担持することができる。
また、シリカを主成分とする触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量を、0.15質量%超3.5質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.2~2.0質量%、更に好ましくは0.2~1.2質量%とする。
シリカを主成分とする触媒担体へナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムを担持する方法は、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によればよい。担持において使用する原料(前駆体)としては、担持後に乾燥処理又は、乾燥処理及び焼成処理を行う際に、カウンターイオン(例えば炭酸ナトリウムであればNaCO中の(CO)2-)が揮散するものであり、溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等が使用可能であるが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。
このようなシリカを主成分とする触媒担体の製造法の一具体例を以下に例示する。珪酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを混合し、pHが2~10.5となる条件で生成させたシリカゾルを、空気等の気体媒体中又は前記ゾルと不溶性の有機溶媒中へ噴霧してゲル化させ、次いで、酸処理、水洗、乾燥する。ここで、珪酸アルカリとしては珪酸ソーダ水溶液が好適で、NaO:SiOのモル比は1:1~1:5、シリカの濃度は5~30質量%が好ましい。用いる酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、有機酸等が使用できるが、製造する際の容器への腐食を防ぎ、有機物が残留しないという観点からは、硫酸が好ましい。酸の濃度は1~10mol/Lが好ましく、この範囲を下回るとゲル化の進行が著しく遅くなり、また、この範囲を上回るとゲル化速度が速過ぎてその制御が困難となり、所望の物性値を得ることが難しくなるため、好ましくない。また、有機溶媒中へ噴霧する方法を採用する場合には、有機溶媒として、ケロシン、パラフィン、キシレン、トルエン等を用いることができる。
(2.2. コバルトのみ担持を行う場合)
シリカを主成分とする触媒担体へコバルト化合物を担持する方法は、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によればよい。担持において使用する原料(前駆体)であるコバルト化合物としては、担持後に乾燥処理及び還元処理、又は、乾燥処理、焼成処理及び還元処理を行う際に、カウンターイオン(例えばコバルト硝酸塩であればCo(NO中の(NO))が揮散するものであり、溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、アセチルアセトナート等が使用可能であるが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。なお、担持後の乾燥処理は省略することもできる。コバルト化合物として硝酸コバルト、酢酸コバルトを用いると、焼成時に酸化コバルトに容易に変化し、その後のコバルト酸化物の還元処理も容易であるため好ましい。
また、コバルトの担持操作中に一定量はナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムが混入しても良く、極端に純度の高いコバルト前駆体を使用する必要がないため触媒コストの観点から好ましい。
(2.3. ジルコニウム成分とコバルトとの担持を行う場合)
ジルコニウム成分を担持する場合にも、上記と同様の方法によればよい。担持において使用する原料(前駆体)であるジルコニウム成分としては、同様に担持後に乾燥処理及び還元処理、又は、乾燥処理、焼成処理及び還元処理を行う際に、カウンターイオンが揮散するものであり、溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、アセチルアセトナート等が使用可能であるが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。具体的には、酢酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウムは、焼成時にジルコニウム酸化物に容易に変化するため好ましい。なお、担持後の乾燥処理は省略することもできる。
コバルト成分、ジルコニウム成分のシリカを主成分とする触媒担体への担持は、前述の担持方法によって行うことが可能であるが、最初に触媒担体にジルコニウム成分を担持させ、次いで触媒担体にコバルト成分を担持させることが好ましい。
具体的には、コバルト成分の溶液、ジルコニウム成分の溶液をそれぞれ調製し、最初にジルコニウム成分の溶液を用いてシリカを主成分とする触媒担体にジルコニウム成分を担持させ、乾燥処理または乾燥処理及び焼成処理後、コバルト成分の溶液を用いて更に触媒担体へコバルトを担持させる。担持後は必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う。このような処理を施すことにより、コバルト成分の全部を金属化、又は一部を酸化物化し残りを金属化して、且つ、ジルコニウム成分を酸化物化することができる。
(2.4 触媒製造例)
以下に、触媒担体からジルコニウム成分を含まない触媒を得る方法の一例を示す。
コバルト前駆体の水溶液にナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量が0.15質量%超3.5質量%以下であるシリカを主成分とする触媒担体を含浸して処理後、乾燥、又は乾燥と焼成処理を行い、必要に応じて乾燥と還元処理、又は乾燥と焼成と還元処理を行い、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する触媒を得ることができる。
コバルト前駆体の含浸担持を行った後、必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き担体表面のコバルト化合物をコバルト金属に還元(例えば、常圧水素気流中450℃-15時間、通常は250~600℃程度の範囲であるが、特に限定されない。)することで触媒が得られる。なお、焼成して酸化物に変化させた後に還元処理を行っても、焼成せずに直接還元処理を行っても良い。
還元処理の温度を高くしたり時間を長くしたりすることにより還元条件を厳しくすると、還元処理後に金属系化合物が酸化物の状態から金属状態まで還元される比率が高くなり、極端に厳しい還元処理を行うと活性金属のみの状態にすることも可能となる。しかし、一般的な還元条件ではコバルト酸化物を一部含有する化学状態となることが多い。
還元処理後の触媒は、大気に触れて酸化失活しないように取り扱う必要があるが、触媒担体上のコバルト金属の表面を大気から遮断するような安定化処理を行うと、大気中での取り扱いが可能となり好適である。この安定化処理には、低濃度の酸素を含有する窒素、二酸化炭素、不活性ガスを触媒に触れさせて、担体上の活性金属の極表層のみを酸化するいわゆるパッシベーション(不動態化処理)を行ったり、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応を液相で行う場合には反応溶媒や溶融したワックス等に浸漬して大気と遮断したりする方法があり、状況に応じて適切な安定化処理を行えばよい。
また、以下に、ジルコニウム成分を含む触媒を得る方法の一例を示す。
ジルコニウム前駆体の水溶液にナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量が0.15質量%超3.5質量%以下であるシリカを主成分とする触媒担体を含浸して処理後、乾燥、又は乾燥と焼成処理を行い、次いでコバルト前駆体の水溶液にジルコニウム成分を担持した触媒担体を含浸して処理後、乾燥、又は乾燥と焼成処理を行い、必要に応じて乾燥と還元処理、又は乾燥と焼成と還元処理を行い、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する触媒を得ることができる。
触媒担体についてジルコニウム成分の含浸担持を行った後、必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き担体表面のジルコニウム化合物をジルコニウム酸化物に変換(例えば、空気気流中450℃-2h、通常は300~550℃程度の範囲であるが、特に限定されない。)することでジルコニア担持シリカが得られる。ジルコニウム成分の担持後には乾燥処理(例えば空気中100℃-1h)を行い、引き続き焼成処理を行っても、乾燥処理を行うだけで次工程であるコバルト含浸担持を行っても良いが、ジルコニウム成分がコバルト成分含浸担持操作中にコバルト成分の中に取り込まれることでジルコニウムの添加効率が低下しないようにするためには、焼成処理を行ってジルコニウム酸化物に変換しておくと良い。
次いで、触媒担体についてコバルト前駆体の含浸担持を行った後、必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き担体表面のコバルト化合物をコバルト金属に還元(例えば、常圧水素気流中450℃-15h、通常は250~600℃程度の範囲であるが、特に限定されない。)することで触媒が得られるが、焼成して酸化物に変化させた後に還元処理を行っても、焼成せずに直接還元処理を行っても良い。還元後の処理は上記のジルコニウム成分を含まない触媒と同様に実施することができる。
以上のような構成あるいは製造法を用いれば、強度や耐摩耗性を損なうことなく、高い活性および高い液状炭化水素選択性を発現する二酸化炭素と水素とを原料として炭化水素を製造するための触媒の提供が可能となる。
<3.炭化水素の製造方法>
次に、上述した触媒を用いた炭化水素の製造方法について、好適な実施形態に基づき説明する。
炭化水素の製造は、二酸化炭素および水素を本実施形態に係る触媒と接触させることにより行うことができる。二酸化炭素および水素は別個に供給されてもよいが、通常これらの混合ガスとして供給される。
本実施形態に係る方法で使用する二酸化炭素と水素の混合ガスには、二酸化炭素と水素の合計が全体の50体積%以上であるガスが生産性の面から好ましく、特に、水素と二酸化炭素のモル比(水素/二酸化炭素)が0.5~4.0の範囲であることが望ましい。これは、水素と二酸化炭素のモル比が0.5未満の場合には、原料ガス中の水素の存在量が少な過ぎるため、二酸化炭素の水素化反応が進み難く、生産性が高くならないためであり、一方、水素と二酸化炭素のモル比が4.0を超える場合には、原料ガス中の二酸化炭素の存在量が少な過ぎるため、触媒活性に関わらず液状炭化水素の生産性が高くならないためである。
また、混合ガスと本実施形態に係る触媒との接触に用いられる反応器としては、特に限定されず、例えば、固定床、噴流床、流動床等の一般的な気相合成プロセス用反応器、スラリー床等の液相合成プロセス用反応器およびマイクロチャネル反応器等が挙げられる。
炭化水素を製造する反応を行う際には、触媒の中のコバルトが、還元された金属コバルトである必要がある。したがって、混合ガスを供給して炭化水素を製造する前に、水素ガス等の還元性ガスを流通させて触媒の還元処理を行うことができる。このような還元処理は、特に限定されないが、例えば300~500℃の温度で、1~40時間行うことができる。
なお、触媒は、反応器への充填後に還元されてもよいし、充填前に還元されてもよい。例えば、反応器内に触媒を仕込む前に還元処理を行い、その後に充填することも可能である。還元処理後の触媒は、大気に触れて酸化失活しないように取り扱う必要があるが、触媒担体上のコバルト金属等の表面を大気から遮断するような安定化処理を行うと、大気中での取り扱いが可能となり好適である。この安定化処理には、低濃度の酸素を含有する窒素、二酸化炭素、不活性ガスを触媒に触れさせて、担体上のコバルト金属等の極表層のみを酸化するいわゆるパッシベーション(不動態化処理)を行うとよい。
本実施形態に係る触媒中のコバルトが金属コバルトに十分に還元された状態で、反応器へ混合ガスを供給することにより、炭化水素を製造することができる。
炭化水素の製造時における条件は、特に限定されず、反応器の種類に応じ、従来適用されてきた条件を設定することができる。
炭化水素を製造する反応時における反応温度は、特に限定されないが、200~260℃、好ましくは210~250℃であることができる。また、反応時における系内の圧力は、特に限定されないが、例えば、1~4MPa、好ましくは1.5~3MPaであることができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
触媒の反応性を評価するため、内容積300mLのオートクレーブを用い、シリカを主成分とする触媒担体(噴霧法で球状に成形、表面積:300m/g)にインシピエントウェットネス法でCo(またはZrOおよびCo)を担持させて、乾燥処理、焼成処理後、還元処理、パッシベーションを施して、実施例1~15および比較例1~6にかかるCo/SiO触媒又はCo/ZrO/SiO触媒を調製した。なお、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムは、上述した方法により、表1~4に記載された含有量となるように触媒担体に予め含有させた。また、これらの触媒中シリカを主成分とする触媒担体は、平均粒径100μmの球形の担体であり、触媒におけるCo担持率は20~30質量%であった。また、実施例7~10、13~15においては、触媒担体上に、ZrOが担持され、ZrO上にCoが担持されている。また、実施例11においては、触媒担体上にCoおよびZrOが同時に(混合されて)担持されている。さらに、実施例12においては、触媒担体上に、Coが担持され、Co上にZrOが担持されている。
各実施例および比較例において、1.5gのCo/SiO触媒又はCo/ZrO/SiO触媒と50mLのn-C16(n-ヘキサデカン)をオートクレーブ(反応器)に仕込んだ後、220℃、2.0MPa-Gの条件下、撹拌子を800min-1で回転させながら、W(触媒質量)/F(混合ガス流量);(g・h/mol)=3.0となるようにF(混合ガス(H/CO=3)流量)を調整し、触媒反応による炭化水素の合成を行った。供給ガス及びオートクレーブ出口ガスの組成をガスクロマトグラフィー法により求め、CO転化率、炭素数に応じて、CH選択率、C選択率、C選択率、C選択率、およびC5+選択率、ならびに液状炭化水素生産性を得た。なお、液状炭化水素生産性は、1時間の反応における触媒1kgあたりの炭素数が5以上の炭化水素の生産量(g/kg-cat.h)であり、以下「C5+生産性」とも記載する。
また、触媒の耐水性を評価するため、以下の実験を実施し、耐水性評価の指標としての活性保持率を得た。
内容積300mLのオートクレーブを用い、上述の方法で調製した1.5gのCo/SiO触媒又はCo/ZrO/SiO触媒と100mLのn-C16を仕込んだ後、230℃-2.2MPa-G、オートクレーブの撹拌速度を800min-1に保持した条件で、CO転化率が25%となるようにW/FのF(H/CO=3の混合ガス)を調整し、数時間の安定運転後、撹拌を停止して6h保持した。その後、再度、撹拌速度を800min-1に設定し、さらに数時間の安定運転を実施した。撹拌停止中は活性点近傍では局所的に副生する水が滞留し、触媒が失活し易い条件となるため、撹拌停止による活性低下の度合を把握することで、触媒寿命を評価することが可能である。したがって、撹拌の停止前後におけるCO転化率の比を活性保持率とし、活性保持率を耐水性の評価の指標とした。
以下の実施例に記載したCO転化率、CH選択率、C選択率、C選択率、C選択率、C5+選択率および活性保持率は、それぞれ次に示す式により算出した。
Figure 0007009294000002
表1~4に実施例、比較例中の反応結果をまとめた。なお、表中、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量が微量である可能性も考慮して、これらの含有量をppmで示した。これらの含有量は、合計で1,500~35,000ppmの範囲内にあることが求められる。
(実施例1)
表1のAに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率21.7%、CH選択率81.8%、C選択率2.9%、C選択率2.6%、C選択率1.5%、C5+選択率11.2%、C5+生産性35g/kg-cat.hであった。
(実施例2)
表1のBに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率18.5%、CH選択率78.5%、C選択率2.1%、C選択率1.2%、C選択率1.0%、C5+選択率17.3%、C5+生産性45g/kg-cat.h、活性保持率74.3%であった。
(実施例3)
表1のCに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率16.3%、CH選択率78.8%、C選択率1.9%、C選択率1.3%、C選択率0.9%、C5+選択率17.2%、C5+生産性39g/kg-cat.hであった。
(実施例4)
表1のDに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率13.6%、CH選択率83.0%、C選択率2.4%、C選択率1.2%、C選択率0.6%、C5+選択率12.8%、C5+生産性25g/kg-cat.hであった。
(実施例5)
表1のEに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率17.9%、CH選択率78.7%、C選択率3.2%、C選択率2.7%、C選択率1.5%、C5+選択率13.9%、C5+生産性36g/kg-cat.hであった。
(実施例6)
表1のCに示すような触媒を用いて反応温度を230℃とする他は実施例3と同様にして反応を行ったところ、CO転化率18.7%、CH選択率80.5%、C選択率1.9%、C選択率1.3%、C選択率0.9%、C5+選択率15.4%、C5+生産性33g/kg-cat.hであった。
(実施例7)
表2のFに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率23.9%、CH選択率77.3%、C選択率3.8%、C選択率4.2%、C選択率2.9%、C5+選択率11.8%、C5+生産性40g/kg-cat.h、活性保持率83.6%であった。
(実施例8)
表2のGに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率22.5%、CH選択率69.4%、C選択率4.3%、C選択率5.0%、C選択率3.4%、C5+選択率18.0%、C5+生産性57g/kg-cat.h、活性保持率85.3%であった。
(実施例9)
表2のHに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率20.2%、CH選択率70.1%、C選択率3.9%、C選択率4.7%、C選択率3.7%、C5+選択率17.6%、C5+生産性50g/kg-cat.h、活性保持率84.6%であった。
(実施例10)
表2のIに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率16.5%、CH選択率80.4%、C選択率2.8%、C選択率3.2%、C選択率2.1%、C5+選択率11.5%、C5+生産性27g/kg-cat.h、活性保持率82.5%であった。
(実施例11)
表2のJに示すようなCo、Zrを同時に担持して乾燥処理、焼成処理後、還元処理、パッシベーションを施して調製した触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率21.3%、CH選択率72.8%、C選択率4.1%、C選択率4.9%、C選択率3.3%、C5+選択率14.9%、C5+生産性45g/kg-cat.h、活性保持率65.6%であった。Co、Zrを同時に担持することで活性保持率は大きく低下した。
(実施例12)
表3のKに示すようなCo、Zrの担持の順を逆にして、最初にCoを担持して乾燥処理、焼成処理後、次いでZrを担持して乾燥処理、焼成処理、還元処理、パッシベーションを施して調製した触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率20.8%、CH選択率72.5%、C選択率3.9%、C選択率4.4%、C選択率3.5%、C5+選択率15.7%、C5+生産性46g/kg-cat.h、活性保持率78.8%であった。
(実施例13)
表3のLに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率19.1%、CH選択率68.7%、C選択率4.1%、C選択率4.9%、C選択率3.2%、C5+選択率19.1%、C5+生産性51g/kg-cat.h、活性保持率86.1%であった。
(実施例14)
表3のMに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率23.3%、CH選択率67.5%、C選択率4.5%、C選択率5.2%、C選択率3.9%、C5+選択率18.9%、C5+生産性62g/kg-cat.h、活性保持率86.2%であった。
(実施例15)
表3のNに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率21.8%、CH選択率68.8%、C選択率4.3%、C選択率4.9%、C選択率3.5%、C5+選択率18.5%、C5+生産性57g/kg-cat.h、活性保持率86.8%であった。
(比較例1)
表4のOに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率19.6%、CH選択率91.1%、C選択率0.5%、C選択率0.1%、C選択率0%、C5+選択率8.3%、C5+生産性23g/kg-cat.hであった。
(比較例2)
表4のPに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率21.2%、CH選択率88.2%、C選択率1.0%、C選択率0.4%、C選択率0.1%、C5+選択率10.3%、C5+生産性31g/kg-cat.hであった。
(比較例3)
表4のQに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率18.6%、CH選択率86.4%、C選択率1.6%、C選択率0.9%、C選択率0.3%、C5+選択率10.8%、C5+生産性28g/kg-cat.hであった。
(比較例4)
表4のRに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率10.6%、CH選択率87.3%、C選択率2.9%、C選択率1.2%、C選択率0.6%、C5+選択率8.0%、C5+生産性11g/kg-cat.hであった。
(比較例5)
表4のSに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率24.3%、CH選択率91.8%、C選択率0.6%、C選択率0.2%、C選択率0.1%、C5+選択率7.3%、C5+生産性25g/kg-cat.h、活性保持率82.1%であった。
(比較例6)
表4のTに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率10.6%、CH選択率84.5%、C選択率2.5%、C選択率3.0%、C選択率1.8%、C5+選択率8.2%、C5+生産性26g/kg-cat.h、活性保持率79.8%であった。
以上、実施例1~15に係る触媒は、比較例1~6に係る触媒と比較して、C5+選択率が高かった。この結果、実施例に係る触媒は、総じて、比較例1~6に係る触媒と比較して、C5+生産性が高かった。

Figure 0007009294000003
Figure 0007009294000004
Figure 0007009294000005
Figure 0007009294000006
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

Claims (12)

  1. シリカを主成分とする触媒担体と、
    前記触媒担体に担持されたコバルトとジルコニウム成分と、を含み、
    さらに、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムを、合計で、0.15質量%超3.5質量%以下含む、二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
  2. 前記触媒中におけるナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計量が0.2~2.0質量%である、請求項1に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
  3. 前記触媒中におけるコバルトの含有量が金属換算で5~50質量%である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
  4. 前記触媒中におけるジルコニウム成分の含有量がZr/Coのモル比で0.03~0.6である、請求項のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
  5. 前記触媒担体が、8~50nmの細孔径、80~450m/gの比表面積、および0.3~2.0mL/gの細孔容量を同時に満足する、請求項1~のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
  6. 前記触媒担体が球状のシリカである、請求項1~のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒。
  7. 前記触媒担体を、噴霧法により球状に成形する、請求項1~のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒の製造方法。
  8. 前記触媒担体中のナトリウムの含有量が0.15質量%超3.5質量%以下である、請求項に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒の製造方法。
  9. 請求項1~のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒を製造する方法であって、シリカを主成分とする触媒担体に、含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法を用いて、コバルト成分及び/又はジルコニウム成分を担持させる、二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒の製造方法。
  10. 前記触媒担体にジルコニウム成分を担持させ、乾燥処理、又は乾燥処理及び焼成処理を行い、
    次いで前記触媒担体にコバルト成分を担持させ、還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う、請求項に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造するための触媒の製造方法。
  11. 請求項1~のいずれか1項に記載の触媒を用いて炭化水素を製造する、二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造する方法。
  12. スラリー床を用いた液相反応で前記炭化水素を製造する、請求項11に記載の二酸化炭素と水素とから炭化水素を製造する方法。
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