JP6995235B1 - 抵抗体ペーストおよびその用途ならびに抵抗体の製造方法 - Google Patents

抵抗体ペーストおよびその用途ならびに抵抗体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】抵抗値の調整容易性に優れ、かつ信頼性の高い抵抗体を形成できる抵抗体ペーストを提供する。【解決手段】無機成分および有機ビヒクルを含む抵抗体ペーストを調製する。前記無機成分は金属成分、低融点ガラスおよび高融点ガラスを含む。前記金属成分が銅およびニッケルを含む。前記高融点ガラスの軟化点Thsは、600℃以上であり、かつ前記低融点ガラスの軟化点Tlsよりも100℃以上高い。前記低融点ガラスの軟化点Tlsは350~750℃であってもよい。前記高融点ガラスの軟化点Thsは650~1150℃であってもよい。前記高融点ガラスのガラス転移点Thgは600~900℃であってもよい。前記無機成分中において、前記低融点ガラスの割合は3~25体積%であり、前記高融点ガラスの割合は3~80体積%であってもよい。【選択図】なし

Description

本発明は、銅およびニッケルを導電成分とする抵抗体ペーストおよびその用途ならびに抵抗体の製造方法に関する。
各種の電子機器の電子回路や電源回路で利用される抵抗器の抵抗体を形成するための抵抗体ペーストとして、銅(Cu)・ニッケル(Ni)系金属を導電成分とする抵抗体ペーストが知られている。
特開平9-275002号公報(特許文献1)には、絶縁基板と、この絶縁基板の少なくとも片面に形成した銅/ニッケル合金からなる抵抗層と、前記絶縁基板の対向する一対の両端部に前記抵抗層を接続するように設けた端面電極とを有するチップ抵抗器において、抵抗層が銅/ニッケル合金粉に銅粉、ガラスフリット及び有機ビヒクル成分からなる厚膜抵抗体ペーストを印刷し、焼成して形成した合金層からなるチップ抵抗器が開示されている。この文献には、ガラスフリット成分は金属成分に対して重量比で0.5~10%であることが記載されている。また、1Ω以下、特に100mΩ以下の低抵抗の厚膜抵抗体を提供することが目的であると記載され、実施例では、ガラスフリットとして、ホウケイ酸鉛ガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラスが使用され、20~50mΩの抵抗値を有する抵抗体が製造されている。
特開2010-129896号公報(特許文献2)には、銅粉体とニッケル粉体とからなる導電性金属粉体と、ガラス粉体と、樹脂および溶剤を含むビヒクルとを少なくとも含有するペーストであって、前記ガラス粉体が、ビスマスを酸化物換算で70質量%以上含有する第1のガラス粉体と、鉛およびカドミウムを実質的に含まない第2のガラス粉体とからなる抵抗体ペーストが開示されている。この文献には、第1ガラス粉体の配合量は、導電性金属粉体100質量部に対して0.5~10質量部の範囲が好ましいと記載され、実施例では2~5質量部配合されている。また、第2ガラス粉体の配合量は、導電性金属粉体100質量部に対して2~10質量部の範囲が好ましいと記載され、実施例では第2ガラス粉体としてホウケイ酸鉛ガラスまたはホウケイ酸ガラスが1~10質量部配合されている。さらに、前記抵抗体ペーストを焼成して得られる抵抗体膜の体積抵抗率は20~200μΩ・cmであると記載され、実施例では37~126μΩ・cmの抵抗体膜が製造されている。
特開2015-046567号公報(特許文献3)には、銅、ニッケルを導電成分とする抵抗体ペーストに、アルミナ粉、シリカ粉、酸化チタン粉など焼成温度下で溶融しない非導電性無機粒子を、抵抗値調整成分として配合することにより得られる、比抵抗200μΩ・cm以上の抵抗体ペーストが開示されている。この方法は、焼成条件下で溶融しない非導電性無機粒子の配合量を調整することにより、比抵抗を広範囲に調整することができる。
特開平9-275002号公報 特開2010-129896号公報 特開2015-046567号公報
しかし、特許文献1および2の抵抗体ペーストで形成される抵抗体膜は抵抗値が低く、200μΩ・cm以上の低・中抵抗用途で用いることはできない。
また、特許文献3でも、非導電性無機粒子は、抵抗体の抵抗値を上昇させることはできるが、焼成中に非導電性無機粒子自身が軟化、溶融、焼結しないため、焼成によって形成される抵抗体膜の内部に空隙やポーラスが発生し、多孔質構造となる。そして、多孔質構造の抵抗体膜に対して、高温、高湿や酸化性雰囲気の環境下では、酸素や湿気等が抵抗体膜内部に侵入し、酸化や腐食により抵抗値が変化する。その結果、抵抗体膜の耐熱性、耐湿性などの信頼性の面で改善が求められている。
さらに、抵抗値調整成分には、100μΩ・cm~10,000μΩ・cmの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を、連続的に自在に調整できる機能(調整容易性)があると好適である。
従って、本発明の目的は、抵抗値の調整容易性に優れ、かつ信頼性の高い抵抗体を形成できる抵抗体ペーストおよびその用途ならびに抵抗体の製造方法を提供することにある。
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、銅およびニッケルを含む金属成分と低融点ガラスと高融点ガラスとを組み合わせ、前記低融点ガラスと前記高融点ガラスとの軟化点の関係を調整することにより、抵抗値の調整容易性に優れ、かつ信頼性の高い抵抗体を形成できる抵抗体ペーストを提供できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の抵抗体ペーストは、
無機成分および有機ビヒクルを含む抵抗体ペーストであって、
前記無機成分が金属成分、低融点ガラスおよび高融点ガラスを含み、
前記金属成分が銅およびニッケルを含み、
前記高融点ガラスの軟化点Thsが、600℃以上であり、かつ前記低融点ガラスの軟化点Tlsよりも100℃以上高い。
前記低融点ガラスの軟化点Tlsは350~750℃であってもよい。前記高融点ガラスの軟化点Thsは650~1150℃であってもよい。前記高融点ガラスのガラス転移点Thgは600~900℃であってもよい。前記金属成分は中心粒径(D50)0.05~15μmの金属粒子であってもよい。前記低融点ガラスは中心粒径(D50)1~5μmの低融点ガラス粒子であり、前記高融点ガラスが中心粒径(D50)1~8μmの高融点ガラス粒子であってもよい。前記無機成分中において、前記低融点ガラスの割合は3~25体積%であり、前記高融点ガラスの割合は3~80体積%であってもよい。
本発明には、前記抵抗体ペーストを焼成して抵抗体を製造する方法も含まれる。この方法において、焼成温度Tfは、低融点ガラスの軟化点Tlsよりも150℃以上高くてもよい。前記焼成温度Tfは、高融点ガラスのガラス転移点Thgよりも高く、かつ高融点ガラスの軟化点Ths+100℃以下であってもよい。
本発明には、無機成分を含み、かつ体積抵抗率が100μΩ・cm以上である抵抗体であって、
前記無機成分が金属成分、低融点ガラスおよび高融点ガラスを含み、
前記金属成分が銅およびニッケルを含み、
前記高融点ガラスの軟化点Thsが、600℃以上であり、かつ前記低融点ガラスの軟化点Tlsよりも100℃以上高い抵抗体も含まれる。
前記抵抗体の体積抵抗率は10,000μΩ・cm以下であってもよい。
本発明には、前記抵抗体ペーストを焼成して得られる抵抗体の体積抵抗率を調整する方法であって、金属成分と高融点ガラスとの割合を調整することにより、前記体積抵抗率を100~10,000μΩ・cmの範囲に調整する方法も含まれる。
本発明では、銅およびニッケルを含む金属成分と低融点ガラスと高融点ガラスとを組み合わせ、前記低融点ガラスと前記高融点ガラスとの軟化点の関係が調整されているため、広範囲に亘って抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能(調整容易性)に優れ、かつ緻密な抵抗体膜を形成することにより、耐熱性や耐湿性などの信頼性の高い抵抗体を形成できる抵抗体ペーストを提供できる。さらに、緻密な抵抗体膜を形成できるため、形状維持性に優れるとともに、高い抵抗値を有する抵抗体膜であっても基材との密着性を向上できる。
図1は、実施例1の無機成分中の金属成分の体積分率に対する体積抵抗率の変化を示すグラフである。 図2は、実施例1-4で得られた抵抗体膜断面の走査型電子顕微鏡写真である。 図3は、比較例1の無機成分中の金属成分の体積分率に対する体積抵抗率の変化を示すグラフである。 図4は、比較例1-4で得られた抵抗体膜断面の走査型電子顕微鏡写真である。 図5は、比較例2の無機成分中の金属成分の体積分率に対する体積抵抗率の変化を実施例1と対比させて示すグラフである。 図6は、実施例2の無機成分中の金属成分の体積分率に対する体積抵抗率の変化を示すグラフである。 図7は、実施例3の無機成分中の金属成分の体積分率に対する体積抵抗率の変化を示すグラフである。 図8は、実施例4の無機成分中の金属成分の体積分率に対する体積抵抗率の変化を示すグラフである。 図9は、実施例7の無機成分中の金属成分の体積分率に対する体積抵抗率の変化を示すグラフである。
[抵抗体ペースト]
本開示の抵抗体ペースト(抵抗体組成物)では、導電成分である金属成分に対して、無機バインダー成分である低融点ガラスおよび抵抗値調整成分である高融点ガラスを配合し、かつ前記低融点ガラスと前記高融点ガラスとの軟化点の関係を調整することにより、抵抗値の調整容易性と信頼性とを両立できる。このような効果が発現するメカニズムは、以下のように推定できる。
すなわち、導電成分を含有する抵抗体の抵抗値を高くするために、抵抗体ペースト中に非導電成分を配合する必要があり、非導電成分が導電成分中に均一かつ安定に分布すると、導電成分の体積率が下がり、導電性が低下するだけではなく、導電相中の非導電成分の存在により導電パスを細く、長くさせる効果があるため、配合した非導電成分の体積率を遥かに超えた効果で導電性を低下させることができる。しかし、非導電成分にガラスなどの焼成時に溶融する成分を適用すると、抵抗体膜の焼成中に非導電成分が溶融流動し、非導電成分と導電成分とは焼成中に偏析、分離し、非導電成分は導電成分中に均一に分散することができない。その結果、有効に導電性を低下させることができないだけでなく、偏析、分離の状態は制御が困難なので、抵抗値は不安定となり、導電性の制御も困難となるため、非導電成分は有効かつ安定に体積抵抗率(比抵抗)を向上できない。
特許文献3のように、非導電性成分として焼成温度で溶融しないアルミナ粉、シリカ粉などの高融点無機粒子を抵抗値調整成分として使用することで、抵抗体の抵抗値を上昇させることはできる。しかし、無機粒子自身は焼成中に軟化、焼結しないため、焼成で形成される抵抗体膜の内部に空隙やポーラスが発生し、多孔質となる。この多孔質の程度(空隙率)は高融点無機粒子の添加量が多ければ多いほど(より高い抵抗値が求める場合)顕著になる。抵抗体膜が多孔質になると、抵抗体膜の強度は低下し、耐熱衝撃性などを低下させる虞があるだけでなく、抵抗体膜の耐熱性試験や高温高湿試験などの信頼性試験において、酸素や湿気がポーラス内部に侵入し、抵抗体膜を酸化して抵抗値を上昇させるため、抵抗体膜の信頼性を低下させる虞がある。
これに対して、本開示の抵抗体ペーストでは、導電成分である金属成分に対して、無機バインダー成分である低融点ガラスと、抵抗体ペースト(抵抗体組成物)の抵抗値調整成分として焼成温度下で軟化・変形・焼結はするが溶融しない特徴を持つ高融点ガラスとを組み合わせることにより、配合量に関わらず緻密な抵抗体膜を形成し、かつ広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能が得られた。さらに、緻密な抵抗膜を形成できるため、信頼性(耐熱性、耐湿性)も向上できる。
(金属成分)
本開示の抵抗体ペーストは、導電成分である金属成分を含む。金属成分は、粒子状(金属粒子)であってもよく、焼成で形成される抵抗体(抵抗体膜)において電気導通経路を形成する。前記金属粒子は、低い抵抗値温度依存性(TCR)を得るために、少なくとも銅およびニッケルを含む。
前記金属粒子は、銅およびニッケルに加えて、さらに他の金属を含んでいてもよい。他の金属としては、例えば、遷移金属(例えば、チタン、ジルコニウムなどの周期表第4A族金属;バナジウム、ニオブなどの周期表第5A族金属;モリブデン、タングステンなどの周期表第6A族金属;マンガンなどの周期表第7A族金属;鉄、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、イリジウム、白金などの周期表第8族金属;銀、金などの周期表第1B族金属など)、周期表第2B族金属(例えば、亜鉛、カドミウムなど)、周期表第3B族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、周期表第4B族金属(例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛など)、周期表第5B族金属(例えば、アンチモン、ビスマスなど)などが挙げられる。これらの金属は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、合金であってもよい。他の金属の割合は、金属粒子中50質量%以下(例えば、0~50質量%)であってもよく、例えば、30質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下(例えば、0.1~5質量%)であってもよい。金属粒子は、安価で導電性に優れる点から、通常、銅およびニッケルのみで形成されている。
銅およびニッケルのみで形成された金属粒子は、銅とニッケルとの合金粒子であるか、銅粒子、ニッケル粒子および銅とニッケルとの合金粒子からなる群より選択された少なくとも2種(例えば、銅粒子とニッケル粒子との組み合わせ、銅粒子および/またはニッケル粒子と前記合金粒子との組み合わせなど)であってもよく、簡便性などの点から、通常、銅粒子とニッケル粒子との組み合わせである。
金属成分において、銅とニッケルとの質量比は、例えば、銅/ニッケル=90/10~30/70、好ましくは80/20~40/60、さらに好ましくは70/30~50/50、より好ましくは65/35~55/45である。銅とニッケルとの質量比は、大きすぎたり、小さすぎると、抵抗値温度依存性(TCR)が大きくなる虞がある。このような範囲であれば、銅ニッケル合金抵抗体の抵抗値温度依存性(TCR)を充分に低い範囲に制御できる。本開示では、低融点ガラスで形成される無機バインダー成分以外に、高融点ガラスで形成される抵抗値調整成分を多量に添加する場合があるため、これらの成分によりTCRが本来の銅ニッケル合金抵抗体のTCRから変化することも想定されるが、本開示では、本来の銅ニッケル合金抵抗体のTCRを維持していた。その理由は、無機バインダー成分および抵抗値調整成分は、電気的には絶縁性であるため、金属の焼結ネットワークで形成された導通経路に電気的影響を与えること、熱化学的にも高温に至るまで安定であるため、組成的にも影響を及ぼさないことにより、実際には、銅ニッケル合金抵抗体のTCRは殆ど影響を受けることなく本来の低いTCRを発現しているためであると推定できる。
本願では、低いTCRとは、絶対値が概ね300ppm/℃以下であり、実際に抵抗器として使用できるレベルのTCRを意味し、後述する実施例に記載の方法で測定できる。また、本願では、絶対値が200ppm/℃以下、さらには100ppm/℃以下をTCRの好適な範囲とする。
なお、本願において、ppm/℃とは、単位「/℃」で表される数値を10倍していることを意味する。
金属粒子の形状は、特に限定されず、球状(真球状または略球状)、楕円体(楕円球)状、多面体状(三角錐状、正六面体状または立方体状、直方体状、八面体状など)、板状(扁平、鱗片または薄片状など)、ロッド状または棒状、繊維状、不定形状などであってもよい。金属粒子の形状は、通常、球状、楕円体状、多面体状、不定形状などである。
金属粒子の粒径は、特に制限されないが、多量の非導電性成分(無機バインダー成分および抵抗値調整成分)が配合されているため、銅粒子とニッケル粒子とをそれぞれ別個の金属粒子として使用する場合、均一な分散性及び焼成時の合金化の点から、小粒径の金属粒子を使用する方が有利である。一方、銅とニッケルとの合金粒子を使用する場合、合金化の均一性に問題はないものの、分散性の点から、同様に小粒径の合金粒子を使用するのが有利である。
金属粒子の中心粒径(D50)は0.05~15μm程度の範囲から選択できる。特に、銅粒子、または銅とニッケルとの合金粒子については、中心粒径(D50)は、例えば0.05~15μm、好ましくは0.08~10μm、さらに好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.2~4μm(例えば1~4μm)、最も好ましくは2~3.5μmである。ニッケル粒子については、中心粒径(D50)は、例えば0.05~5μm、好ましくは0.08~2μm、さらに好ましくは0.1~1μm、より好ましくは0.2~0.7μm、最も好ましくは0.3~0.5μmである。ニッケル粒子の融点(1455℃)は銅粒子の融点よりも高いため、小さい粒子を用いるのが焼結性の面で有利である。金属粒子の粒径が小さすぎると、経済性が低下するとともに、抵抗体ペースト中での分散性、抵抗体組成物全体の流動性も低下する虞があり、大きすぎると、抵抗体ペーストの分散性や印刷性、抵抗体の焼結性、合金化の均一性が低下する虞がある。
なお、本願において、金属粒子(後述するガラス粒子も含む)の中心粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された粒径分布および中心粒径(体積基準)を意味する。
金属成分の体積分率は、金属成分、無機バインダー成分及び抵抗値調整成分の体積の総和に対して、5~90体積%程度の範囲から選択できる。例えば10~85体積%、好ましくは15~80体積%である。この金属成分の体積分率を調整することにより、体積抵抗率が100μΩ・cm以下の低抵抗から、100,000μΩ・cmを超える高抵抗の抵抗体を得ることができる。金属成分の占める体積が大きすぎると、抵抗体の体積抵抗率が低くなりすぎる虞があり、小さすぎると、安定した導電性を得るのが困難となる虞がある。
(低融点ガラス)
本開示の抵抗体ペーストは、無機バインダー成分である低融点ガラスをさらに含む。低融点ガラスは、粒子状(低融点ガラス粒子)であってもよく、焼成時に溶融して金属粒子や基板に対する濡れ性を高めて密着性を向上させるとともに、抵抗体膜全体にわたって溶融固化することにより強靭な抵抗体を形成するために配合される。絶縁性であるため、一定の抵抗値の調整の役割も有している。
無機バインダー成分としての低融点ガラスは、焼成時に溶融流動できる低融点ガラス粒子である。低融点ガラス(低融点ガラス粒子)は、焼成温度Tfよりも150℃以上低い軟化点を有していれば接合用成分として機能するが、耐熱性など信頼性の高い抵抗体を形成できる点から、低融点ガラス粒子の軟化点Tlsは、350~750℃の範囲であってもよく、好ましくは400~700℃、さらに好ましくは450~650℃である。低融点ガラス粒子の軟化点Tlsが高すぎると、溶融流動性が低下するため、製膜性(均一性)や、抵抗体膜の密着性、緻密性が低下する虞がある。特に、低融点ガラス粒子の軟化点Tlsと焼成温度Tfとの差が150℃未満の時、ガラスの流動が十分に起こらず導電成分や抵抗値調整成分を互いに繋ぎ固めることができないため、形成された抵抗体膜が多孔質で脆くなり、抵抗体としての安定性や信頼性が低下する。一方、低融点ガラス粒子の軟化点Tlsが低すぎると、焼成時に溶融流動性が高くなりすぎ、抵抗体膜から滲み出す虞がある。
低融点ガラス(低融点ガラス粒子)は、前記軟化点を有していればよいが、通常、酸化ケイ素に加えて、他の酸化物を含んでいる。他の酸化物としては、例えば、他の金属酸化物(例えば、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムなどのアルカリ金属酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物;酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの周期表4A族金属酸化物;酸化クロムなどの周期表6A族金属酸化物;酸化鉄などの周期表8族金属酸化物;酸化亜鉛などの周期表2B族金属酸化物;酸化アルミニウムなどの周期表3B族金属酸化物;酸化スズ、酸化鉛などの周期表4B族金属酸化物;酸化ビスマスなどの周期表5B属金属酸化物など)、酸化ホウ素などが挙げられる。これらの他の酸化物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの酸化物のうち、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化ビスマス、酸化ホウ素などを含有している場合が多い。低融点ガラスは、酸化ケイ素を含まないガラスであってもよい。
前記酸化物で形成された低融点ガラス粒子としては、慣用の低融点ガラス粒子、例えば、ホウケイ酸系ガラス粒子、ホウケイ酸亜鉛系ガラス粒子、亜鉛系ガラス粒子、ビスマス系ガラス粒子、鉛系ガラス粒子などが挙げられる。これらの低融点ガラス粒子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの低融点ガラス粒子のうち、ホウケイ酸亜鉛系ガラス粒子、ビスマス系ガラス粒子などが汎用される。鉛、カドニウムなどの有害物質を含有しないものが好ましい。
低融点ガラス粒子の形状は、前記金属粒子の形状として例示された形状から選択できる。低融点ガラス粒子の形状も、通常、球状、楕円体状、多面体状、不定形状などである。
低融点ガラス粒子の中心粒径(D50)は、特に限定されず、例えば0.1~20μm、好ましくは0.5~10μm、さらに好ましくは1~5μm、より好ましくは2~4μmである。低融点ガラス粒子の粒径が小さすぎると、経済性や抵抗体ペースト中での分散性が低下する虞があり、大きすぎると、金属成分および高融点ガラスとの均一な混合が困難となり、抵抗値の再現性や信頼性が低下する虞がある。
低融点ガラスの体積分率は、金属成分、低融点ガラスおよび高融点ガラスを含む無機成分の体積の総和に対して、3~25体積%程度の範囲から選択でき、例えば5~20体積%、好ましくは6~15体積%、さらに好ましくは8~12体積%である。低融点ガラスの占める体積が大きすぎると、焼成時の溶融流動成分の量が多すぎて抵抗体膜の形状維持性が困難となる虞があるとともに、金属成分、低融点ガラスが互いに分離して導電性が大きくばらつき、安定な抵抗値が得られなくなる虞がある。一方、低融点ガラスの占める体積が小さすぎると、抵抗体膜の強度、緻密性、抵抗体膜と基材との密着力を確保するのが困難となる虞がある。
なお、本願において、体積分率は、25℃、大気圧下での体積分率である。
低融点ガラスの熱膨張係数は、抵抗体を形成するために使用される基材の熱膨張係数に同程度またはそれ以下であることが好ましい。抵抗体の基材は通常セラミックス基板を使用するので、低融点ガラスの熱膨張係数は、例えば2~10ppm/℃、好ましくは3~8ppm/℃、さらに好ましくは3.5~7ppm/℃である。低融点ガラスの熱膨張係数が高すぎる、または低すぎると、基材との接合信頼性が低下する虞がある。
なお、本願において、「熱膨張係数」とは、50℃から350℃までの温度領域において熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いて測定した平均膨張係数(平均線膨張係数)であり、試料の初期長さに対する試料長さの変化量を温度差で割った値を意味する。また、本願において、熱膨張係数は、JIS R 3102(1995)に準じて測定できる。
(高融点ガラス)
本開示の抵抗体ペーストは、抵抗値調整成分である高融点ガラスをさらに含む。高融点ガラスは、粒子状(高融点ガラス粒子)であってもよく、焼成で形成される抵抗体膜中の金属成分の含有量を低減させ抵抗値を上げるとともに、自身も焼結して抵抗体膜全体を緻密化させる。すなわち、抵抗値調整成分である高融点ガラスは、焼成温度Tf以下のガラス転移点Thgを有するのが好ましい。高融点ガラスのガラス転移点Thgが焼成温度Tfより高いと、焼成時に高融点ガラスが軟化変形できず、高融点ガラスがほとんど焼結できないため、抵抗体膜を緻密化できない虞がある。また、高融点ガラスは、焼成時に溶融流動しないのが好ましい。溶融流動が起こるとガラス成分が偏析し効果的かつ安定的に抵抗値を向上させることができない虞がある。
具体的な高融点ガラスのガラス転移点Thgは、550℃以上であってもよく、550~900℃程度の範囲から選択でき、例えば600~900℃、好ましくは650~880℃、さらに好ましくは700~850℃、より好ましくは750~830℃である。
高融点ガラス(高融点ガラス粒子)の軟化点Thsは、低融点ガラスと一緒に溶融流動することを防ぐために、低融点ガラスの軟化点Tlsよりも100℃以上高い必要があり、150℃以上(例えば150~700℃程度)高いのが好ましく、200℃以上(例えば200~600℃程度)高いのがさらに好ましく、250℃以上(例えば250~500℃程度)高いのがより好ましい。高融点ガラスの軟化点Thsと低融点ガラスの軟化点Tlsとの差が100℃未満になると、抵抗値の調整容易性および信頼性が低下する。
高融点ガラスの軟化点Thsは、600℃以上であればよく、650~1150℃程度の範囲から選択でき、例えば700~1150℃、好ましくは750~1050℃、さらに好ましくは800~1000℃、より好ましくは850~950℃である。軟化点Thsが小さすぎると、焼成時にガラスが流動したり、過剰焼結することにより成分が偏析し安定な抵抗体膜が得られない。軟化点Thsが大きすぎると、焼結性が低下するため、十分に緻密な抵抗体膜が得られない虞がある。
高融点ガラスの軟化点Thsは、焼成温度Tfの±100℃の範囲内であってもよい。高融点ガラスは、軟化点Thsが焼成温度Tfより高くても、その温度差が100℃以下であれば、焼成時に他の成分と一緒に焼結される。高融点ガラスの軟化点Thsが焼成温度Tfより低くても、その温度差が100℃以下であれば、高融点ガラスの顕著な偏析は起こらない。高融点ガラスの軟化点Thsと焼成温度Tfの温度差は、より好ましくは±80℃、さらに好ましくは±50℃の範囲内であってもよい。高融点ガラスの軟化点Thsが焼成温度Tfより100℃以上高いと、焼成時に高融点ガラスは十分な焼結ができず、抵抗体膜の内部に多くのボイドが残留して抵抗体の耐熱性、耐湿性などの信頼性が低下する虞がある。一方、高融点ガラスの軟化点Thsが焼成温度Tfより100℃以上低いと、焼成時に高融点ガラスの溶融流動や過剰な焼結により成分の偏析が起こり、抵抗値を制御できなくなる虞がある。
高融点ガラス(高融点ガラス粒子)は、前記軟化点を有していればよいが、通常、酸化ケイ素に加えて、他の酸化物を含んでいる。他の酸化物としては、例えば、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムなどのアルカリ金属酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物;酸化イットリウムなどの周期表3A族金属酸化物、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの周期表4A族金属酸化物;酸化タンタル、酸化ニオブなどの周期表5A族金属酸化物、酸化チタン、酸化クロムなどの周期表6A族金属酸化物;酸化鉄などの周期表8族金属酸化物;酸化亜鉛などの周期表2B族金属酸化物;酸化ホウ素、酸化アルミニウムなどの周期表3B族金属酸化物;酸化スズ、酸化鉛などの周期表4B族金属酸化物;酸化ビスマスなどの周期表5B属金属酸化物などが挙げられる。これらの他の酸化物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの酸化物のうち、高軟化点を得るため、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ホウ素などを含有している場合が多い。
前記酸化物で形成された高融点ガラス粒子としては、慣用の高融点ガラス粒子、例えば、ホウケイ酸系ガラス粒子、ホウケイ酸亜鉛系ガラス粒子、アルミナケイ酸塩系ガラス、亜鉛系ガラス粒子、ビスマス系ガラス粒子、鉛系ガラス粒子などが挙げられる。これらの高融点ガラス粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの高融点ガラス粒子のうち、ホウケイ酸系ガラス粒子、ホウケイ酸亜鉛系ガラス粒子、アルミナケイ酸塩系ガラスなどが汎用される。鉛、カドニウムなどの有害物質を含有しないものが好ましい。
高融点ガラス粒子の形状は、前記金属粒子の形状として例示された形状から選択できる。高融点ガラス粒子の形状も、通常、球状、楕円体状、多面体状、不定形状などである。
高融点ガラス粒子の中心粒径(D50)は、特に限定されず、例えば0.1~20μm、好ましくは0.5~10μm、さらに好ましくは1~8μm、より好ましくは1.5~5μm、最も好ましくは1.8~3μmである。高融点ガラス粒子の粒径が小さすぎると、経済性や抵抗体ペースト中での分散性が低下する虞があり、大きすぎると、抵抗体膜での組成が不均一になり抵抗値の安定性や信頼性が低下する虞がある。
高融点ガラスの体積分率は、金属成分、低融点ガラスおよび高融点ガラスを含む無機成分の体積の総和に対して、3~80体積%程度の範囲から選択でき、例えば5~75体積%、好ましくは8~70体積%、さらに好ましくは10~68体積%である。この抵抗値調整成分の役割は抵抗値の調整であるので、抵抗値調整成分の体積分率を調整することにより、体積抵抗率が100μΩ・cm以下の低抵抗から、20,000μΩ・cmまでの高抵抗の抵抗体を得ることができる。抵抗値調整成分の占める体積が少なすぎると、抵抗体の体積抵抗率が低くなりすぎ、多すぎると、体積抵抗率が高くなりすぎて安定した抵抗値を得るのが困難となる。
高融点ガラスと低融点ガラスとの体積比は、高融点ガラスの体積は、低融点ガラスの体積の10倍以下であってもよく、例えば0.1~10倍、好ましくは0.3~9倍、さらに好ましくは0.5~7倍である。低融点ガラスに対する高融点ガラスの体積比が大きすぎると、抵抗体の信頼性が低下する虞がある。
高融点ガラスの熱膨張係数は、焼成で形成される抵抗体の熱膨張係数が、基材の熱膨張係数と近似になるように選定してもよい。抵抗体の熱膨張係数と基材の熱膨張係数とが近似であれば、熱衝撃など厳しい環境下でも抵抗体と基材との密着力が維持され、優れた信頼性を確保できる。通常、基材として使用するセラミックス基板の熱膨張係数は、金属成分(銅、ニッケル)の熱膨張係数に比べると低い。そのため、抵抗体の平均熱膨張係数を基材の熱膨張係数に近似させるには、抵抗値調整成分は基材より低い熱膨張係数を有するものを選定してもよい。高融点ガラスの熱膨張係数は、例えば-2~8ppm/℃、好ましくは-1~7ppm/℃、さらに好ましくは0~6ppm/℃である。高融点ガラスの熱膨張係数が高すぎたり、低すぎると、基材との接合信頼性が低下する虞がある。
なお、本願において、抵抗体ペーストを焼成して形成される抵抗体の熱膨張係数は下式で計算できる。
抵抗体の熱膨張係数=(金属成分の熱膨張係数)×(金属成分の体積分率)+(低融点ガラスの熱膨張係数)×(低融点ガラスの体積分率)+(高融点ガラスの熱膨張係数)×(高融点ガラスの体積分率)。
(有機ビヒクル)
有機ビヒクルは、金属粒子を含む抵抗体ペーストの有機ビヒクルとして利用される慣用の有機ビヒクル、例えば、有機バインダーおよび/または有機溶剤であってもよい。有機ビヒクルは、有機バインダー及び有機溶剤のいずれか一方であってもよいが、通常、有機バインダーと有機溶剤との組み合わせ(有機バインダーの有機溶剤による溶解物)である。
有機バインダーとしては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体など)、熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂など)などが挙げられる。これらの有機バインダーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機バインダーのうち、焼成過程で容易に焼失し、かつ灰分の少ない樹脂、例えば、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなど)、セルロース誘導体(ニトロセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、酢酸セルロースなど)、ポリエーテル類(ポリオキシメチレンなど)、ゴム類(ポリブタジエン、ポリイソプレンなど)などが汎用され、窒素雰囲気など非活性雰囲気下での熱分解性などの点から、ポリ(メタ)アクリル酸メチルやポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステルが好ましい。
有機溶剤としては、特に限定されず、抵抗体ペーストに適度な粘性を付与し、かつ抵抗体ペーストを基板に塗布した後に乾燥処理によって容易に揮発できる有機化合物であればよく、高沸点の有機溶剤であってもよい。このような有機溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素類(パラキシレンなど)、エステル類(乳酸エチルなど)、ケトン類(イソホロンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、脂肪族アルコール類(オクタノール、デカノール、ジアセトンアルコールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテートなど)、カルビトール類(カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトールなど)、カルビトールアセテート類(エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート)、脂肪族多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)、脂環族アルコール類[例えば、シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール類;テルピネオール、ジヒドロテルピネオールなどのテルペンアルコール類(モノテルペンアルコールなど)など]、芳香族アルコール類(メタクレゾールなど)、芳香族カルボン酸エステル類(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、窒素含有複素環化合物(ジメチルイミダゾール、ジメチルイミダゾリジノンなど)などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機溶剤のうち、ペーストの流動性などの点から、テルピネオールなどの脂環族アルコール、ブチルカルビトールアセテートなどのC1-4アルキルセロソルブアセテート類が好ましい。
有機ビヒクルの体積分率は、抵抗体ペーストの体積全体に対して、例えば30~70体積%、好ましくは40~60体積%、さらに好ましくは45~55体積%である。
有機ビヒクルの質量分率は、抵抗体ペーストの質量全体に対して、例えば5~50質量%、好ましくは7~40質量%、さらに好ましくは10~25質量%である。有機バインダーと有機溶剤とを組み合わせる場合、有機バインダーの割合は、有機ビヒクル全体に対して3~60質量%、好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~30質量%である。
(他の添加剤)
抵抗体ペーストには、慣用の添加剤、例えば、硬化剤(アクリル系樹脂の硬化剤など)、密着力促進剤(酸化銅粉など)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤または分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、粘度調整剤またはレオロジー調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などが含まれていてもよい。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
抵抗体ペーストの調製方法は、前記成分を含むペーストを調製できる限り特に限定されないが、通常、金属成分、低融点ガラスおよび高融点ガラスを、慣用の方法で有機ビヒクル中に分散させることにより調製できる。
[抵抗体およびその製造方法]
本開示の抵抗体は、抵抗体ペーストを焼成する製造方法により得られ、好ましくは、基材の上に、抵抗体ペーストを印刷法などで塗布して塗膜を形成するコーティング工程、形成された塗膜を乾燥させて乾燥膜を形成する乾燥工程、不活性ガス雰囲気下、前記乾燥膜を焼成して抵抗体膜を形成する焼成工程を含む製造方法により得られる。
基材としては、焼成温度に対応可能な材料であれば特に限定されず、通常は、各種のセラミックスやガラス材料、セラミックスグリーンシートなどの板状基材(基板)が汎用され、抵抗体膜との密着性に優れる点から、セラミックス基板が好ましい。
セラミックス基板の材質としては、例えば、金属酸化物(アルミナまたは酸化アルミニウム、ジルコニア、サファイア、フェライト、酸化亜鉛、酸化ニオブ、ムライト、ベリリアなど)、酸化ケイ素(石英、二酸化ケイ素など)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化チタンなど)、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化炭素、金属炭化物(炭化チタン、炭化タングステンなど)、炭化ケイ素、炭化ホウ素、金属複酸化物[チタン酸金属塩(チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸ニオブ、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウムなど)、ジルコン酸金属塩(ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸鉛など)など]などが挙げられる。これらのセラミックスは単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。セラミックスは、低温同時焼成セラミックス(LTCC)であってもよい。
これらのセラミックス基板のうち、電気電子分野で信頼性が高い点から、アルミナ基板、アルミナ-ジルコニア基板、窒化アルミニウム基板、窒化ケイ素基板、炭化ケイ素基板が好ましく、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、窒化ケイ素基板がさらに好ましく、抵抗体膜との密着性に優れる点から、アルミナ基板が最も好ましい。
基材の厚みは、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば0.001~10mm、好ましくは0.01~5mm、さらに好ましくは0.05~3mm、より好ましくは0.1~1mmであってもよい。
抵抗体ペーストのコーティング方法としては、例えば、フローコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法、フォトリソグラフィ法、インクジェット法などを挙げることができる。コーティングは、基板の全面に形成してもよいが、通常、パターン状などにして基板の全面に対して一部の面に形成される。塗膜でパターンを形成(描画)した場合、形成されたパターン(描画パターン)を焼成することにより焼結パターン(焼結膜、金属膜、焼結体層、導体層)を形成できる。パターン(塗布層)を描画するための描画法(又は印刷法)としては、パターン形成可能な印刷法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法(例えば、グラビア印刷法など)、オフセット印刷法、凹版オフセット印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。これらの方法のうち、スクリーン印刷法などが好ましい。
形成した塗膜を乾燥して乾燥膜を形成する乾燥工程では、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度は、有機溶剤の種類に応じて選択でき、例えば、50~200℃、好ましくは60~150℃、さらに好ましくは80~120℃程度である。加熱時間は、例えば1分~3時間、好ましくは5分~2時間、さらに好ましくは10~30分程度である。
形成された乾燥膜は、所定の温度で加熱(焼成または加熱処理)する焼成工程に供されることにより、抵抗体膜が得られる。
焼成工程において、焼成温度Tfは、低融点ガラスの軟化点Tlsよりも150℃以上(例えば150~500℃)高い温度が好ましく、200℃以上(例えば200~450℃)高い温度がさらに好ましく、250℃以上(例えば250~400℃)高い温度がより好ましく、300℃以上(例えば300~350℃)高い温度が最も好ましい。
焼成温度Tfは、高融点ガラスのガラス転移点Thg以上[例えばThg~(Thg+250)℃]が好ましく、(Thg+30)~(Thg+200)℃がさらに好ましく、(Thg+50)~(Thg+150)℃がより好ましい。
焼成温度Tfは、高融点ガラスの軟化点Ths+100℃以下が好ましく、高融点ガラスの軟化点±100℃以内の温度がさらに好ましく、高融点ガラスの軟化点±50℃以内の温度がより好ましい。
具体的な焼成温度Tfは500℃以上であってもよく、例えば500~1100℃、好ましくは700~1050℃、さらに好ましくは800~1000℃、より好ましくは850~950℃、最も好ましくは850~900℃である。
熱処理時間(上記焼成温度での加熱時間)は、熱処理温度などに応じて、例えば1分~5時間、好ましくは5分~3時間、さらに好ましくは10~60分である。
焼成は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中、または真空環境下で行われ、特に、窒素雰囲気中で行われるのが好ましい。
焼成により形成される抵抗体膜の平均厚みは、用途に応じて0.5~500μm程度の範囲から適宜選択でき、例えば1~100μm、好ましくは5~50μm、さらに好ましくは10~30μmである。
本開示の抵抗体(抵抗体膜)は、近年要求の高い100μΩ・cm以上、例えば100~10,000μΩ・cm(膜厚10μm時の面抵抗100mΩ/□~10Ω/□)程度の低・中抵抗の体積抵抗率を有しており、特に有用性の高い200~5,000μΩ・cmの範囲において特に効果的である。特に、本開示の抵抗体は、組成比(特に、金属成分に対する高融点ガラスの比率)を変更することにより、このような広い範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる。
さらに、本開示の抵抗体は、抵抗値温度依存性(TCR)の絶対値が、例えば300ppm/℃以下、好ましくは200ppm/℃以下、さらに好ましくは100ppm/℃以下である。そのため、本開示の抵抗体は、温度依存性が小さく、安定性に優れている。
なお、本願において、体積抵抗率およびTCRは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、実施例で使用した材料、実施例で得られた抵抗体の評価方法を以下に示す。
[使用した材料]
(金属成分)
Cu粉1:銅粒子、中心粒径(D50)3μm
Cu粉2:銅粒子、中心粒径(D50)5μm
Cu粉3:銅粒子、中心粒径(D50)8μm
Ni粉1:ニッケル粒子、中心粒径(D50)0.4μm
Ni粉2:ニッケル粒子、中心粒径(D50)1μm
Ni粉3:ニッケル粒子、中心粒径(D50)3μm。
(ガラス粒子)
ガラス粉1:組成系Bi・ZnO・B、中心粒径(D50)3μm、ガラス転移点(Tg)385℃、軟化点(Ts)440℃
ガラス粉2-1:組成系ZnO・SiO・B、中心粒径(D50)3μm、ガラス転移点(Tg)510℃、軟化点(Ts)580℃
ガラス粉2-2:組成系ZnO・SiO・B、中心粒径(D50)1μm、ガラス転移点(Tg)510℃、軟化点(Ts)580℃
ガラス粉2-3:組成系ZnO・SiO・B、中心粒径(D50)5μm、ガラス転移点(Tg)510℃、軟化点(Ts)580℃
ガラス粉2-4:組成系ZnO・SiO・B、中心粒径(D50)7μm、ガラス転移点(Tg)510℃、軟化点(Ts)580℃
ガラス粉3:組成系SiO・B・RO、中心粒径(D50)3μm、ガラス転移点(Tg)590℃、軟化点(Ts)700℃
ガラス粉4:組成系SiO・B・ZrO・RO、中心粒径(D50)3μm、ガラス転移点(Tg)620℃、軟化点(Ts)740℃
ガラス粉5:組成系SiO・B・RO、中心粒径(D50)3μm、ガラス転移点(Tg)700℃、軟化点(Ts)830℃
ガラス粉6-1:組成系SiO・Al・Y、中心粒径(D50)2μm、ガラス転移点(Tg)810℃、軟化点(Ts)920℃
ガラス粉6-2:組成系SiO・Al・Y、中心粒径(D50)1μm、ガラス転移点(Tg)810℃、軟化点(Ts)920℃
ガラス粉6-3:組成系SiO・Al・Y、中心粒径(D50)7μm、ガラス転移点(Tg)810℃、軟化点(Ts)920℃
ガラス粉6-4:組成系SiO・Al・Y、中心粒径(D50)12μm、ガラス転移点(Tg)810℃、軟化点(Ts)920℃
ガラス粉7:組成系SiO・Al・Y、中心粒径(D50)2μm、ガラス転移点(Tg)890℃、軟化点(Ts)1000℃。
なお、ガラス粉3および5における「RO」は、アルカリ土類金属成分(MgO、CaO、BaO、SrO)を総称した表記を意味し、ガラス粉4における「RO」は、アルカリ金属成分(LiO、NaO、KO)を総称した表記を意味する。
(他の成分)
Al粉:アルミナ粉、中心粒径(D50)1μm
酸化銅(CuO)粉:中心粒径(D50)3μm
有機ビヒクル:アクリル樹脂を、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとの混合溶媒(質量比1/1)中に溶解して調製したアクリル樹脂30質量%の溶液
アルミナ基板:96%アルミナ基板
窒化アルミニウム基板:170W/m・K窒化アルミニウム基板。
(A)抵抗体(抵抗体膜)の特性
[形状維持性]
焼成によって形成された抵抗体膜の外観をマイクロスコープ(倍率20倍)で観察した。
(判定方法)
a:抵抗体膜が均一で、収縮、変形、形状崩れがない(合格)
b:抵抗体膜に多少の均一的な収縮があるが、形状の崩れや流動はない(合格)
c:抵抗体膜に著しい収縮、形状崩れまたは流動がある(不合格)。
[密着性]
焼成によって形成された抵抗体膜のパターンのエッジ部分を金属製のピンセットで引き剥がし、抵抗体膜が剥がれるか否かを確認した。
(判定方法)
a:抵抗体膜が基板から全く剥がれない(合格)
b:抵抗体膜の一部が僅かに剥がれる(合格)
c:抵抗体膜の大部分または全部が剥がれる(不合格)。
[体積抵抗率]
焼成によって形成された抵抗体膜を、温度25±3℃、湿度65±10%RHの雰囲気に30分間以上静置した後、4端子法で抵抗体膜の抵抗値を測定した。また、抵抗体膜の厚みを触針式膜厚計(アルバック(株)製「DEKTAK 6M」)で測定し、体積抵抗率を求めた(10サンプルの平均値)。体積抵抗率が無限大となった場合は、不合格とした。
また、特定の抵抗値調整成分について、その配合比率を調整することにより、形成される抵抗体膜の体積抵抗率を100μΩ・cm~10,000μΩ・cmの広い範囲に亘って、連続的に自在に調整できるか否か(調整機能)を確認した。そして、当該広範囲における調整機能がない場合には、不合格とした。
[TCR]
焼成によって形成された抵抗体膜を、125℃の恒温槽に入れ、30分間以上静置した後、4端子法で抵抗体膜の抵抗値(体積抵抗率)を測定した。この抵抗値と前記25℃で測定した抵抗値に対する変化率を求め、以下の基準で判定した。
TCR=[{平均抵抗値(125℃)-平均抵抗値(25℃)}/{平均抵抗値(25℃)×(125℃-25℃)}]×10(ppm/℃)
(判定方法)
a:TCRが-100ppm/℃以上100ppm/℃以下(合格)
b:TCRが-200ppm/℃以上-100ppm/℃未満または100ppm/℃超え200ppm/℃以下(合格)
c:TCRが-200ppm/℃未満または200ppm/℃超え(不合格)。
(B)初期判定
上記評価項目について、初期判定として、以下の基準で判定し、ランク付けした。
ランクA:形状維持性、密着性、体積抵抗率、TCRの判定が全て合格であり、形状維持性、密着性、TCRの判定が全てaである(合格)
ランクB:形状維持性、密着性、体積抵抗率、TCRの判定が全て合格であり、形状維持性、密着性、TCRの判定にbを含む(合格)
ランクC:形状維持性、密着性、体積抵抗率、TCRの判定のいずれかに不合格がある(不合格)。
(C)抵抗体膜の信頼性試験
[耐熱性試験]
焼成によって形成された抵抗体膜を、温度155℃の熱風乾燥機に入れ、500時間放置した。その後、試料を25±3℃、湿度65±10%RHの雰囲気に30分間以上静置した後、4端子法で抵抗体膜の抵抗値(体積抵抗率)を測定し、耐熱性試験前後の抵抗値の変化率を求めた。
(判定方法)
a:抵抗値の変化率が1%以下(合格)
b:抵抗値の変化率が1%を超え2%以下(合格)
c:抵抗値の変化率が2%を超える(不合格)。
[耐湿性試験]
焼成によって形成された抵抗体膜を、温度85℃、湿度85%RHの恒温恒湿槽に入れ、500時間放置した。その後、試料を25±3℃、湿度65±10%RHの雰囲気に30分間以上静置した後、4端子法で抵抗体膜の抵抗値を測定し、耐湿性試験前後の抵抗値の変化率を求めた。
(判定方法)
a:抵抗値の変化率が1%以下(合格)
b:抵抗値の変化率が1%を超え2%以下(合格)
c:抵抗値の変化率が2%を超える(不合格)。
(D)総合判定(ランク付け)
上記評価試験の結果について、総合判定として以下の基準で判定し、ランク付けした。
ランクA:初期判定がAで、耐熱性および/または耐湿性の判定がa
ランクB:初期判定が合格で、耐熱性および耐湿性の判定がいずれもb、または初期判定がBで、耐熱性および/または耐湿性の判定がa
ランクC:初期判定は合格であるが、耐熱性および/または耐湿性の判定が不合格
ランクD:初期判定で不合格。
[実施例1]
以下に示す方法で抵抗体(抵抗体膜)を作製した。
(抵抗体ペーストの作製)
金属成分としては、銅粉(Cu粉1:中心粒径3μm)64質量部、ニッケル粉(Ni粉1:中心粒径0.4μm)36質量部を用い、ガラス成分として、無機バインダー成分である低融点ガラス(ガラス粉2-1:軟化点580℃)、抵抗値調整成分である高融点ガラス(ガラス粉6-1:ガラス転移点810℃、軟化点920℃)を用い、さらに有機ビヒクルを加え、ミキサーにより混合した後、3本ロール(EXAKT社(ドイツ)製)で均一に混合することにより、抵抗体ペースト(抵抗体組成物)を調製した。
この組成物においては、表1に示すように、無機成分中の低融点ガラスの体積分率を約10体積%で一定として、無機成分中の金属成分の体積分率が24.4~83.7体積%となるように、高融点ガラス(抵抗値調整成分)の配合量を11水準変量した組成物を調製し、実施例1-1~1-11とした。
(抵抗体の作製)
調製した抵抗体ペーストを、予め4端子測定ができるように厚膜銅電極を形成した96%のアルミナ基板上に、1mm×10mmの矩形の抵抗体パターンをスクリーン印刷法で塗布して塗膜を形成した。100℃の送風乾燥機で20分間、塗膜を乾燥させて溶媒を除去した後、ベルト式連続焼成炉にて窒素雰囲気中、ピーク温度900℃、ピーク温度保持時間10分間の条件で焼成して、抵抗体(抵抗体膜)を形成した。排出するまでの総時間は60分とした。
本実施例では、ガラス粉2-1(低融点ガラス)の軟化点は焼成温度よりも320℃低く、ガラス粉6-1(高融点ガラス)のガラス転移点は焼成温度よりも90℃低く、軟化点は焼成温度よりも20℃高かった。ガラス粉2-1とガラス粉6-1の軟化点の差は340℃であった。
得られた抵抗体(抵抗体膜)の検証結果を表1および図1に示す。また、図2は、実施例1-4の抵抗体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
Figure 0006995235000001
(抵抗体の特性、信頼性の検証)
無機成分中の金属成分の体積分率を83.7体積%とした実施例1-1の抵抗体では、体積抵抗率が77μΩ・cmであり、形状維持性、密着性、TCRは良好であった。また、信頼性(耐熱性、耐湿性)試験においても、体積抵抗率の変化率が小さく、耐久的な信頼性も優れていた。
また、実施例1-2~1-9においては、実施例1-1に対して、無機成分中の高融点ガラスの体積分率を増加させ、金属成分の体積分率を減少させていくと、体積抵抗率は123~18,040μΩ・cmの範囲で徐々に上昇した。さらに金属成分の体積分率を減少させた実施例1-10、1―11では、体積抵抗率が急上昇し、最大で113,880μΩ・cmまで調整できた。このことは、高融点ガラスにより、低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能が得られたことになる(図1)。
また、実施例1-2~1-11の抵抗体は、形状維持性、密着性、TCRが良好で、耐久的な信頼性にも優れていた(総合判定でランクA)。
以上の結果から、ガラス粉2-1(低融点ガラス)とガラス粉6-1(高融点ガラス)とを含む組成物を用いた実施例1では、広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能を有し、且つ優れた耐熱、耐湿信頼性を有する抵抗体が得られることが検証できた。
通常、卑金属である銅、ニッケルは酸化されやすいために、85℃、85%RHのような高温高湿環境下では容易に酸化され、抵抗値が上昇するが、実施例1の抵抗体では高温高湿環境下でも体積抵抗率の変化は非常に少なく、信頼性に優れていた。実施例1-4の抵抗体(抵抗体膜)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(図2)、抵抗体は非常に緻密に焼結していた。抵抗体が緻密に焼結することで、抵抗体内部への酸素や湿気の侵入を防ぎ、耐熱性、耐湿性に優れる抵抗体が得られたと考えられた。
[比較例1]
抵抗値調整成分として、焼成温度で軟化・溶融しないアルミナ粉(Al粉)を用い、無機成分中の低融点ガラスの割合を約9体積%としたこと以外は、実施例1に準じた方法で検証を行った。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表2および図3において比較例1-1~1-9として示す。また、図4には比較例1-4における抵抗体の断面SEM像を示す。
Figure 0006995235000002
無機成分中の金属成分の体積分率を74.3体積%とした比較例1-1では、抵抗体の体積抵抗率は135μΩ・cmであり、形状維持性、密着性、TCRは良好であった。しかし、信頼性試験においては、耐湿性は不合格であり、耐熱性は合格であったものの実施例1の水準よりも劣っていた。
比較例1-2~1-8においては、比較例1-1に対して、無機成分中のアルミナ粉の体積分率を増加させ、金属成分の体積分率を減少させていくと、体積抵抗率は265~21,680μΩ・cmまで徐々に上昇した。さらに、金属成分の体積分率を減少させた比較例1-9では、体積抵抗率が急上昇し、最大で123,500μΩ・cmまで調整できた。このことは、低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能が得られたことになる(図3)。
しかし、比較例1-2~1-9の抵抗体は、形状維持性、密着性、TCRは合格レベルであったが、無機成分中のアルミナ粉の体積分率が50体積%以上になると、密着性がやや低下した。また、信頼性試験では、耐熱性、耐湿性ともに不合格となった。特に耐湿性については、アルミナ粉の体積分率が大きくなるにつれて、抵抗値の変化率が大きくなる傾向があり、56.3体積%以上になると、体積抵抗率は無限大となった。
以上の結果から、抵抗値調整成分にアルミナ粉を用いた比較例1では、広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能を有してはいるものの、充分な耐熱、耐湿信頼性は得られないことが検証できた(総合判定でランクC)。
焼結性のない抵抗値調整成分(アルミナ粉)の体積分率が大きくなると、抵抗体膜がボイドや空隙が存在するポーラス状になり、接合成分である低融点ガラスが抵抗体膜の内部に留まって、抵抗体膜と基材との界面に移行する量が少なくなり、基材に対する密着力が低下したと考えられる。
比較例1-4の抵抗体(抵抗体膜)の断面を撮影したSEM像(図4)を見ると、抵抗体膜の内部に多くのボイドや空隙が存在することがわかる。焼成中に抵抗値調整成分(アルミナ粉)が軟化、焼結、溶融しないため、接合成分(低融点ガラス)や、導電成分(銅、ニッケル粉)の焼結を阻害し、ボイドや空隙が発生するために抵抗体が緻密に焼結できなくなる。このようなポーラス状の抵抗体膜は、高温高湿条件下では、酸素や湿気、腐食性ガス等がポーラス構造を通して抵抗体膜の内部に侵入するため、導電成分が腐食されて抵抗値が上昇すると考えられる。
[比較例2]
ガラス成分として、抵抗値調整成分である高融点ガラスを用いずに、低融点ガラス(ガラス粉2-1)のみとしたこと以外は、実施例1に準じた方法で検証を行った。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表3および図5において比較例2-1~2-7として示す。
Figure 0006995235000003
無機成分中の金属成分の体積分率を83.6体積%とした比較例2-1では、抵抗体の体積抵抗率は63μΩ・cmであり、形状維持性、密着性、TCRは良好であった。
比較例2-2~2-6においては、比較例2-1に対して、無機成分中の低融点ガラスの体積分率を増加させ、金属成分の体積分率を減少させていくと、密着性、TCRは良好であったが、体積抵抗率は、339μΩ・cmまでしか上がらなかった。さらに金属成分の体積分率を減少させた比較例2-7では、抵抗値が無限大となった。図5で対比するように、低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る体積抵抗率を連続的に自在に調整できた実施例1に対し、比較例2では調整可能な体積抵抗率の範囲は狭くなった。
また、無機成分中の金属成分の体積分率が60体積%以下になると、焼成中に抵抗体膜の形状崩れが生じ、形状維持性が不合格となった。低融点ガラスの体積分率が大きくなると、焼成時に低融点ガラスが溶融流動して金属成分と分離するため、ガラス成分が金属相に入り込めず、導電パスを細くして抵抗値を高める効果を発揮することができないからと考えられる。また、低融点ガラスが過剰に溶融流動するため、抵抗体膜の形状を維持することができない。さらに、低融点ガラスの割合が大きくなると焼成時に低融点ガラスが溶融流動して局所的に偏析する。抵抗体膜の変形やガラス成分の偏析は一種の不安定状態であるため、形状や偏析状態が容易に変化し、体積抵抗率も不安定でばらつきが大きくなった。
以上の結果から、抵抗値調整成分である高融点ガラスを用いない比較例2は、初期評価で不合格であるため、信頼性試験は行わなかった。比較例2の組成は抵抗体としては不適合であることが検証できた(総合判定でランクD)。
[比較例3]
ガラス成分として、無機バインダー成分である低融点ガラスを用いずに、高融点ガラス(ガラス粉6-1)のみとしたこと以外は、実施例1に準じた方法で検証を行った。
検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表4において比較例3-1~3-7として示す。
Figure 0006995235000004
比較例3-1~3-7においては、比較例3-1に対して、無機成分中の高融点ガラスの体積分率を増加させ、金属成分の体積分率を減少させていくと、体積抵抗率は92~236,000μΩ・cmの範囲で徐々に上昇し、低抵抗から高抵抗へと広範囲に亘る体積抵抗率を連続的に自在に調整できる機能を有した。
無機成分中の高融点ガラスの体積分率が40体積%以下の比較例3-1~3-3では、形状維持性、TCRは良好であったが、密着性が不合格となった。高融点ガラスの体積分率が40体積%以上の比較例3-4~3-7では、形状維持性、密着性、TCRは良好で初期判定では合格となったが、耐熱性、耐湿性試験で不合格となった。
以上の結果から、無機バインダー成分である低融点ガラスを用いない比較例3では、広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能を有してはいるものの、密着性や、耐熱、耐湿信頼性が不充分なため、抵抗体として不適合であることが検証できた(総合判定でランクCまたはD)。
高融点ガラスは、ガラス転移点が焼成温度より低いため、焼成時にはある程度軟化変形するが、軟化温度が焼成温度よりも高いため、焼成時には溶融流動や偏析は起こらず、金属成分中に均一に分散し、安定に抵抗値を上昇させる効果を発揮できる。しかし、無機バインダー成分である低融点ガラスが存在しないため、抵抗体膜と基材との間に十分な密着力が得られず、初期判定を合格しても、耐湿性評価では膜が剥離した。
[実施例2]
無機バインダー成分(低融点ガラス)にガラス粉1(軟化点440℃)を用いたこと以外は、実施例1に準じた方法で検証を行った。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表5および図6において実施例2-1~2-7として示す。
Figure 0006995235000005
実施例2では、ガラス粉1(低融点ガラス)の軟化点は焼成温度よりも460℃低く、ガラス粉6-1(高融点ガラス)のガラス転移点は焼成温度よりも90℃低く、軟化点は焼成温度よりも20℃高かった。ガラス粉1とガラス粉6-1の軟化点の差は、480℃であった。
実施例2では、実施例1と同様の傾向が見られた。すなわち、実施例2-2~2-6においては、実施例2-1に対して、無機成分中の高融点ガラスの体積分率を増加させ、金属成分の体積分率を減少させていくと、形状維持性、密着性、TCRを良好に保ったまま、体積抵抗率が71~16,796μΩ・cmまで徐々に上昇し、さらに金属成分の体積分率を減少させた実施例2-7において最大107,040μΩ・cmまで調整できた。
以上の結果から、ガラス粉1(低融点ガラス)とガラス粉6-1(高融点ガラス)とを含む組成物を用いた実施例2(2-1~2-7)では、低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能を有するとともに、優れた耐熱、耐湿信頼性を有する抵抗体が得られることが検証できた。(総合判定でランクA)。
[実施例3]
抵抗値調整成分(高融点ガラス)にガラス粉5(ガラス転移点700℃、軟化点830℃)を用い、焼成温度を900℃から850℃に変更したこと以外は、実施例1に準じた方法で検証を行った。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表6および図7において実施例3-1~3-7として示す。
Figure 0006995235000006
実施例3では、ガラス粉2-1(低融点ガラス)の軟化点は焼成温度よりも270℃低く、ガラス粉5(高融点ガラス)のガラス転移点は150℃低く、軟化点は焼成温度よりも20℃低かった。ガラス粉2-1とガラス粉5の軟化点の差は、250℃であった。
実施例3では、実施例3-2~3-7において、実施例3-1に対して、無機成分中の高融点ガラスの体積分率を増加させ、金属成分の体積分率を減少させていくと、体積抵抗率が88~42,510μΩ・cmまで上昇した。但し、実施例3-1~3-3では密着性の判定がb(僅かな剥がれ)となったが、これは低融点ガラスの軟化点と焼成温度との差が270℃と小さいことが原因と推察される。実施例3では、密着性が若干低下したことを除いては、実施例1と同様の傾向が見られた。
以上の結果から、ガラス粉2-1(低融点ガラス)とガラス粉5(高融点ガラス)とを含む組成物を用いた実施例3(3-1~3-7)では、低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能を有するとともに、優れた耐熱、耐湿信頼性を有する抵抗体が得られることが検証できた。(総合判定でランクAまたはB)。
[実施例4]
抵抗値調整成分(高融点ガラス)にガラス粉7(ガラス転移点890℃、軟化点1000℃)を用い、焼成温度を900℃から950℃に変更したこと以外は、実施例1に準じた方法で検証を行った。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表7および図8において実施例4-1~4-10として示す。
Figure 0006995235000007
実施例4では、ガラス粉2-1(低融点ガラス)の軟化点は焼成温度よりも370℃低く、ガラス粉7(高融点ガラス)のガラス転移点は焼成温度よりも60℃低く、軟化点は焼成温度よりも50℃高かった。ガラス粉2-1とガラス粉7の軟化点の差は、420℃であった。
実施例4では、実施例1と同様の傾向が見られた。すなわち、実施例4-2~4-8においては、実施例4-1に対して、無機成分中の高融点ガラスの体積分率を増加させ、金属成分の体積分率を減少させていくと、形状維持性、密着性、TCRを良好に保ったまま、体積抵抗率が65~20,130μΩ・cmまで徐々に上昇し、さらに金属成分の体積分率を減少させた実施例4-9~4-10において最大132,500μΩ・cmまで調整できた。
以上の結果から、ガラス粉2-1(低融点ガラス)とガラス粉7(高融点ガラス)とを含む組成物を用いた実施例4(4-1~4-10)では、低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を連続的に自在に調整できる機能を有するとともに、優れた耐熱、耐湿信頼性を有する抵抗体が得られることが検証できた。(総合判定でランクA)。
[比較例4]
比較例4は、低融点ガラスと高融点ガラスとの軟化点の差が小さい(90℃)例における検証である。具体的には、無機バインダー成分(低融点ガラス)にガラス粉4(軟化点740℃)、抵抗値調整成分(高融点ガラス)にガラス粉5(ガラス転移点700℃、軟化点830℃)を用い、焼成温度を3水準の変量(850℃、900℃、950℃)した場合の検証を行った。
本比較例では、焼成温度が850℃の場合、ガラス粉4の軟化点は焼成温度よりも110℃低く、ガラス粉5のガラス転移点は焼成温度よりも150℃低く、軟化点は焼成温度よりも20℃低かった。焼成温度が900℃の場合、ガラス粉4(低融点ガラス)の軟化点は焼成温度よりも160℃低く、ガラス粉5(高融点ガラス)のガラス転移点は焼成温度よりも200℃低く、軟化点は焼成温度よりも70℃低かった。焼成温度が950℃の場合、ガラス粉4の軟化点は焼成温度よりも210℃低く、ガラス粉5について、ガラス転移点は焼成温度よりも250℃低く、軟化点は焼成温度よりも120℃低かった。
検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表8において比較例4-1~4-6として示す。
Figure 0006995235000008
焼成温度が850℃(比較例4-1、4-4)の場合は、形状維持性、TCRは合格水準となったが、密着性は不合格となった。焼成温度が900℃、950℃(比較例4-2、4-3、4-5、4-6)の場合は、密着性、TCRは合格水準となったが、抵抗体膜が大きく収縮変形したため形状維持性は不合格となった。低融点ガラスと高融点ガラスとの軟化点の差が90℃と小さく、焼成温度が850℃の場合には低融点ガラスの軟化点と焼成温度との差も小さいため、接合成分(低融点ガラス)が十分に溶融流動せずに密着力が不足した。焼成温度が900℃以上の場合には、低融点ガラスが溶融流動するため密着力は向上するが、高融点ガラスの軟化点が焼成温度よりも70℃以上低いために高融点ガラスも溶融流動し、そのため抵抗体膜の形状維持性が不足して、体積抵抗率も安定化しなくなった。
以上の結果から、低融点ガラスと高融点ガラスとの軟化点の差が小さい比較例4は、初期評価で不合格であるため、信頼性試験は行わなかった。比較例4の組成は抵抗体としては不適合であることが検証できた(総合判定でランクD)。
[比較例5]
比較例5は、ガラス転移点や軟化点が小さい高融点ガラスを用いた場合の検証である。具体的には、無機バインダー成分(低融点ガラス)にガラス粉1(軟化点440℃)、抵抗値調整成分(高融点ガラス)にガラス粉2-1(ガラス転移点510℃、軟化点580℃)を用い、焼成温度を3水準の変量(650℃、700℃、750℃)した場合の検証を行った。
本比較例では、焼成温度が650℃の場合、ガラス粉1の軟化点は焼成温度よりも210℃低く、ガラス粉2-1のガラス転移点は焼成温度よりも140℃低く、軟化点は焼成温度よりも70℃低かった。焼成温度が700℃の場合、ガラス粉1の軟化点は焼成温度よりも260℃低く、ガラス粉2-1のガラス転移点は焼成温度よりも190℃低く、軟化点は焼成温度よりも120℃低かった。焼成温度が750℃の場合、ガラス粉1の軟化点は焼成温度よりも310℃低く、ガラス粉2-1のガラス転移点は焼成温度よりも240℃低く、軟化点は焼成温度よりも170℃低かった。ガラス粉1とガラス粉2-1の軟化点の差は、140℃であった。
検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表9において比較例5-1~5-6として示す。
Figure 0006995235000009
焼成温度が650℃(比較例5-1、5-4)の場合は、形状維持性、密着性は良好となったが、実施例1における無機成分中の金属成分の体積分率が同程度の例と比較すると、比較例5-1、5-4では体積抵抗率やTCRが大きくなった(例えば、実施例1-5が830μΩ・cmに対して比較例5-1が8,600μΩ・cm)。焼成温度が650℃の場合、金属成分が十分に焼結、合金化できないために、十分な導電パスの形成と、銅、ニッケルの合金化による低TCR化が実現できなかったと考察できる。焼成温度が700℃、750℃(比較例5-2、5-3、5-5、5-6)の場合は、金属成分が焼結し、合金化するため体積抵抗率は低下し、TCRも低下し合格水準となった。しかし、抵抗体膜が大きく収縮変形して形状を維持できなかった。これは、高融点ガラスの軟化点が焼成温度よりも120℃以上も低いため、焼成時に高融点ガラスが溶融流動したため、形状維持が困難となったと考察できる。従って、金属成分の焼結のためには焼成温度を700℃以上とすることが必要であり、高融点ガラスが過剰に流動しないためには高融点ガラスの軟化点と焼成温度との差を100℃以内とすることが好ましい。すなわち、高融点ガラスの軟化点は600℃以上が好ましいと云える。
以上の結果から、ガラス転移点や軟化点が小さい高融点ガラスを用いた比較例5は、初期評価で不合格であるため、信頼性試験は行わなかった。比較例5の組成は抵抗体としては不適合であることが検証できた(総合判定でランクD)。
[実施例5]
実施例5は、比較例5の結果を考慮して、比較例5よりも軟化点がやや大きい高融点ガラスを用いた場合の検証である。具体的には、無機バインダー成分(低融点ガラス)にガラス粉1(軟化点440℃)、抵抗値調整成分(高融点ガラス)にガラス粉3(ガラス転移点590℃、軟化点700℃)を用い、焼成温度を3水準の変量(700℃、750℃、800℃)した場合の検証を行った。
本実施例では、焼成温度が700℃の場合、ガラス粉1の軟化点は焼成温度よりも260℃低く、ガラス粉3のガラス転移点は焼成温度よりも110℃低く、軟化点は焼成温度と同じであった。焼成温度が750℃の場合、ガラス粉1の軟化点は焼成温度よりも310℃低く、ガラス粉3のガラス転移点は焼成温度よりも160℃低く、軟化点は焼成温度よりも50℃低かった。焼成温度が800℃の場合、ガラス粉1の軟化点は焼成温度よりも360℃低く、ガラス粉3のガラス転移点は焼成温度よりも210℃低く、軟化点は焼成温度よりも100℃低かった。ガラス粉1とガラス粉3との軟化点の差は、260℃であった。
検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表10において実施例5-1~5-6として示す。
Figure 0006995235000010
焼成温度が700℃(実施例5-1、5-4)の場合は、形状維持性、密着性は良好となった。若干の焼結不足のためか、体積抵抗率およびTCRはやや高く、信頼性試験での体積抵抗率の変化率も1%を超えたが、合格水準であった(総合判定でランクB)。焼成温度が750℃(実施例5-2、5-5)の場合は、形状維持性、密着性、TCRは良好であり、信頼性試験も合格水準であった(総合判定でランクA)。焼成温度が800℃の場合(実施例5-3、5-6)、やや形状維持性が低下したものの合格水準であり、密着性、TCR、信頼性も良好となった(総合判定でランクB)。
[実施例6]
実施例6は、無機バインダー成分(低融点ガラス)にガラス粉2-1(軟化点580℃)、抵抗値調整成分(高融点ガラス)にガラス粉6-1(ガラス転移点810℃、軟化点920℃)を用いた実施例1に関して、実施例1-5の組成をベースにして、無機成分中の金属成分の体積分率(39.1%)を一定とし、低融点ガラスと高融点ガラスとの体積比率を変量した場合の検証である。これらの変更点以外は、実施例1に準じた方法で検証を行った。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表11において実施例6-1~6-6として示す。なお、実施例6-3は実施例1-5と同一の検証である。
Figure 0006995235000011
無機成分中の低融点ガラスの体積分率が5.1~20.5体積%の実施例6-2~6-5では、全ての判定項目で良好な結果が得られた(総合判定でランクA)。低融点ガラスの体積分率が小さい(3.1体積%)実施例6-1では、密着性が若干小さくなったものの、全ての判定項目で合格水準となった(総合判定でランクB)。低融点ガラスの体積分率が大きい(25体積%以上)の実施例6-6、6-7では、形状維持性がやや低下したものの、全ての判定項目で合格水準となった(総合判定でランクB)。
以上の結果から、無機成分中の低融点ガラスの体積分率は、30体積%程度までは適用可能であることが検証できた。
[実施例7]
焼成温度を900℃から950℃に変更したこと以外は、実施例1に準じた方法で検証を行った。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表12および図9において実施例7-1~7-11として示す。
Figure 0006995235000012
実施例7では、950℃の焼成温度に対して、ガラス粉2-1の軟化点は焼成温度よりも370℃低く、ガラス粉6-1のガラス転移点は焼成温度より140℃、軟化点は焼成温度より30℃低かった。
焼成温度を950℃に変更した実施例7では、実施例1と同様に、実施例7-1~7-10においては、無機成分中の高融点ガラスの体積分率を増加させ、金属成分の体積分率を減少させていくと、形状維持性、密着性、TCRを良好に保ったまま、体積抵抗率が71~25,506μΩ・cmまで徐々に上昇し、さらに金属成分の体積分率を減少させた実施例7-11において最大70,606μΩ・cmまで調整できた(図9)。
特に、信頼性試験における耐熱性、耐湿性ついては、実施例1の抵抗体膜よりも優れていた(総合判定はランクA)。これは、焼成温度を高くすることで、抵抗体膜の焼結がより緻密化し、抵抗体膜の内部への酸素や湿気の侵入を防げたことから、耐熱性、耐湿性が向上したと考察した。
[実施例8]
実施例1における実施例1-2(低抵抗)、1-6(中抵抗)、1-9(高抵抗)の抵抗体ペーストに対して、高融点ガラス(ガラス粉6-1:中心粒径2μm)を、粒子径の異なるガラス粉6-2(中心粒径1μm)、ガラス粉6-3(中心粒径7μm)、ガラス粉6-4(中心粒径12μm)に変更した抵抗体ペーストについて、実施例1に準じた方法で検証した。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表13において実施例8-1~8-12として示す。なお、検証結果を対比するため、実施例1-2、1-6、1-9での検証結果を、実施例8-2、8-6、8-10として掲載している。
Figure 0006995235000013
実施例8-1~8-4は、低抵抗な抵抗体膜での比較であり、実施例1-2(即ち実施例8-2)における高融点ガラス(ガラス粉6-1:中心粒径2μm)を、粒子径の異なるガラス粉6-2(中心粒径1μm)、ガラス粉6-3(中心粒径7μm)、ガラス粉6-4(中心粒径12μm)に変更しても、同様の傾向が見られたが、粒子径が大きくなると信頼性が若干低下した。これは、高融点ガラスの粒子径の増大に伴い、抵抗体ペーストの均一性や焼結性が低下したことが原因と考えられる。
同様に、実施例8-5~8-8では中抵抗な抵抗体膜での比較検証、実施例8-9~8-12では高抵抗な抵抗体膜での比較検証を行った結果である。実施例1-6(即ち実施例8-6)および実施例1-9(即ち実施例8-10)において、高融点ガラス(ガラス粉6-1:中心粒径2μm)を、粒子径の異なるガラス粉6-2(中心粒径1μm)、ガラス粉6-3(中心粒径7μm)、ガラス粉6-4(中心粒径12μm)に変更しても、同様の傾向が見られたが、粒子径が大きくなると信頼性が若干低下した。
以上の結果から、高融点ガラスの粒子径が異なっても低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を自在に調整できる機能を有することが検証できた。優れた耐熱、耐湿信頼性を確保するには、高融点ガラスの粒子径(中心粒径)は1~7μm程度が好適である。
[実施例9]
実施例1における実施例1-2(低抵抗)、1-6(中抵抗)、1-9(高抵抗)の抵抗体ペーストに対して、低融点ガラス(ガラス粉2-1:中心粒径3μm)を、粒子径の異なるガラス粉2-2(中心粒径1μm)、ガラス粉2-3(中心粒径5μm)、ガラス粉2-4(中心粒径7μm)に変更した抵抗体ペーストについて、実施例1に準じた方法で検証した。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表14において実施例9-1~9-12として示す。なお、検証結果を対比するため、実施例1-2、1-6、1-9での検証結果を、実施例9-2、9-6、9-10として掲載している。
Figure 0006995235000014
実施例9-1~9-4は、低抵抗な抵抗体膜での比較であり、実施例1-2(即ち実施例9-2)における低融点ガラス(ガラス粉2-1:中心粒径3μm)を、粒子径の異なるガラス粉2-2(中心粒径1μm)、ガラス粉2-3(中心粒径5μm)、ガラス粉2-4(中心粒径7μm)に変更しても、同様の傾向が見られたが、粒子径が大きくなると信頼性が若干低下した。これは、低融点ガラスの粒子径の増大に伴い、抵抗体ペーストの均一性や焼結性が低下したことが原因と考えられる。
同様に、実施例9-5~9-8では中抵抗な抵抗体膜での比較検証、実施例9-9~9-12では高抵抗な抵抗体膜での比較検証を行った結果である。実施例1-6(即ち実施例9-6)および実施例1-9(即ち実施例9-10)において、低融点ガラス(ガラス粉2-1:中心粒径3μm)を、粒子径の異なるガラス粉2-2(中心粒径1μm)、ガラス粉2-3(中心粒径5μm)、ガラス粉2-4(中心粒径7μm)に変更しても、同様の傾向が見られたが、粒子径が大きくなると信頼性が若干低下した。
以上の結果から、低融点ガラスの粒子径が異なっても低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を自在に調整できる機能を有することが検証できた。優れた耐熱、耐湿信頼性を確保するには、低融点ガラスの粒子径(中心粒径)は1~5μm程度が好適である。
[実施例10]
実施例1における実施例1-2(低抵抗)、1-6(中抵抗)、1-9(高抵抗)の抵抗体ペーストに対して、銅粒子(Cu粉1:中心粒径3μm)を、粒子径の異なるCu粉2(中心粒径5μm)、Cu粉3(中心粒径8μm)に変更した抵抗体ペーストについて、実施例1に準じた方法で検証した。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体
(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表15において実施例10-1~10-9として示す。なお、検証結果を対比するため、実施例1-2、1-6、1-9での検証結果を、実施例10-1、10-4、10-7として掲載している。
Figure 0006995235000015
実施例10-1~10-3は、低抵抗な抵抗体膜での比較であり、実施例1-2(即ち実施例10-1)における銅粒子(Cu粉1:中心粒径3μm)を、粒子径の異なるCu粉2(中心粒径5μm)、Cu粉3(中心粒径8μm)に変更しても、同様の傾向が見られたが、粒子径が大きくなると抵抗値が低下しTCRが上昇した。これは、銅粒子の粒子径の増大に伴い、銅粒子とニッケル粒子との合金化における均一性が低下したことが原因と考えられる。
同様に、実施例10-4~10-6では中抵抗な抵抗体膜での比較検証、実施例10-7~10-9では高抵抗な抵抗体膜での比較検証を行った結果である。実施例1-6(即ち実施例10-4)および実施例1-9(即ち実施例10-7)において、銅粒子(Cu粉1:中心粒径3μm)を、粒子径の異なるCu粉2(中心粒径5μm)、Cu粉3(中心粒径8μm)に変更しても、同様の傾向が見られたが、粒子径が大きくなると抵抗値が低下しTCRが上昇した。
以上の結果から、銅粒子の粒子径が異なっても低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を自在に調整できる機能を有することが検証できた。低いTCRを確保するには、銅粒子の粒子径(中心粒径)は3~5μm程度が好適である。
[実施例11]
実施例1における実施例1-2(低抵抗)、1-6(中抵抗)、1-9(高抵抗)の抵抗体ペーストに対して、ニッケル粒子(Ni粉1:中心粒径0.4μm)を、粒子径の異なるNi粉2(中心粒径1μm)、Ni粉3(中心粒径3μm)に変更した抵抗体ペーストについて、実施例1に準じた方法で検証した。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表16において実施例11-1~11-9として示す。なお、検証結果を対比するため、実施例1-2、1-6、1-9での検証結果を、実施例11-1、11-4、11-7として掲載している。
Figure 0006995235000016
実施例11-1~11-3は、低抵抗な抵抗体膜での比較であり、実施例1-2(即ち実施例11-1)におけるニッケル粒子(Ni粉1:中心粒径0.4μm)を、粒子径の異なるNi粉2(中心粒径1μm)、Ni粉3(中心粒径3μm)に変更しても、同様の傾向が見られたが、粒子径が大きくなると抵抗値が低下しTCRが上昇した。これは、ニッケル粒子の粒子径の増大に伴い、銅粒子とニッケル粒子との合金化における均一性が低下したことが原因と考えられる。
同様に、実施例11-4~11-6では中抵抗な抵抗体膜での比較検証、実施例11-7~11-9では高抵抗な抵抗体膜での比較検証を行った結果である。実施例1-6(即ち実施例11-4)および実施例1-9(即ち実施例11-7)において、ニッケル粒子(Ni粉1:中心粒径0.4μm)を、粒子径の異なるNi粉2(中心粒径1μm)、Ni粉3(中心粒径3μm)に変更しても、同様の傾向が見られたが、粒子径が大きくなると抵抗値が低下しTCRが上昇した。
以上の結果から、ニッケル粒子の粒子径が異なっても低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を自在に調整できる機能を有することが検証できた。低いTCRを確保するには、ニッケル粒子の粒子径(中心粒径)は0.4~1μm程度が好適である。
[実施例12]
セラミックス基板を窒化アルミニウム基板に変更したこと以外は、実施例1に準じた方法で、実施例1-2(低抵抗)、1-6(中抵抗)、1-9(高抵抗)に相当する抵抗体を作製して検証した。検証に用いた抵抗体ペーストの組成、および抵抗体(抵抗体膜)の特性や信頼性試験の結果を、表17において実施例12-1~12-3として示す。
Figure 0006995235000017
実施例12-1~12-3の結果から、実施例1-2(低抵抗)、1-6(中抵抗)、1-9(高抵抗)と同様の傾向が得られている。アルミナ基板を窒化アルミニウム基板に変更しても、低抵抗から高抵抗までの広範囲に亘る抵抗値(体積抵抗率)を自在に調整できる機能を有するとともに、優れた耐熱、耐湿信頼性を有する抵抗体が得られることが検証できた。(総合判定でランクA)。
実施例1~12および比較例1~5で用いたガラス粒子の温度特性と、焼成温度との関係を一覧にまとめて表18に示す。
Figure 0006995235000018
本発明の抵抗体ペーストは、チップ抵抗、抵抗内蔵モジュール、抵抗内蔵基板、セラミックスヒーターなどの厚膜抵抗体及びこの厚膜抵抗体を備えた抵抗器(例えば、抵抗体と銅電極とを備えた抵抗器など)または電子部品などに利用できる。

Claims (10)

  1. 無機成分および有機ビヒクルを含む抵抗体ペーストであって、
    前記無機成分が金属成分、低融点ガラスおよび高融点ガラスを含み、
    前記金属成分が銅およびニッケルを含み、
    前記金属成分中において、他の金属の割合が30質量%以下であり、
    前記無機成分中において、前記低融点ガラスの割合が3~25体積%であり、前記高融点ガラスの割合が3~80体積%であり、
    前記高融点ガラスの軟化点Thsが、600℃以上であり、かつ前記低融点ガラスの軟化点Tlsよりも100℃以上高い、抵抗体ペースト。
  2. 前記低融点ガラスの軟化点Tlsが350~750℃であり、前記高融点ガラスの軟化点Thsが650~1150℃である請求項1記載の抵抗体ペースト。
  3. 前記高融点ガラスのガラス転移点Thgが600~900℃である請求項1または2記載の抵抗体ペースト。
  4. 前記金属成分が中心粒径(D50)0.05~15μmの金属粒子であり、前記低融点ガラスが中心粒径(D50)1~5μmの低融点ガラス粒子であり、前記高融点ガラスが中心粒径(D50)1~8μmの高融点ガラス粒子である請求項1~3のいずれか一項に記載の抵抗体ペースト。
  5. 請求項1~4のいずれか一項に記載の抵抗体ペーストを焼成して抵抗体を製造する方法。
  6. 焼成温度Tfが、低融点ガラスの軟化点Tlsよりも150℃以上高い請求項5記載の方法。
  7. 前記焼成温度Tfが、高融点ガラスのガラス転移点Thgよりも高く、かつ高融点ガラスの軟化点Ths+100℃以下である請求項5または6記載の方法。
  8. 無機成分を含み、かつ体積抵抗率が100μΩ・cm以上である抵抗体であって、
    前記無機成分が金属成分、低融点ガラスおよび高融点ガラスを含み、
    前記金属成分が銅およびニッケルを含み、
    前記金属成分中において、他の金属の割合が30質量%以下であり、
    前記無機成分中において、前記低融点ガラスの割合が3~25体積%であり、前記高融点ガラスの割合が3~80体積%であり、
    前記高融点ガラスの軟化点Thsが、600℃以上であり、かつ前記低融点ガラスの軟化点Tlsよりも100℃以上高い抵抗体。
  9. 体積抵抗率が10,000μΩ・cm以下である請求項8記載の抵抗体。
  10. 請求項1~4のいずれか一項に記載の抵抗体ペーストを焼成して得られる抵抗体の体積抵抗率を調整する方法であって、金属成分と高融点ガラスとの割合を調整することにより、前記体積抵抗率を100~10,000μΩ・cmの範囲に調整する方法。
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