以下、エレベータ用ロープの診断システム及び診断方法における一実施形態について、図1~図14を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
図1に示すように、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム(以下、単に「診断システム」ともいう)1は、ロープ11の断線の有無を診断するために用いられている。ここで、診断システム1の各構成を説明するのに先立って、エレベータ10の構成について説明する。
図1及び図2に示すように、エレベータ10は、ユーザが乗るためのかご10aと、ロープ11によってかご10aと接続される釣合錘10bとを備えている。また、エレベータ10は、ロープ11が巻き掛けられる綱車10cを有する巻上機10dと、巻上機10dなどの各部を制御するエレベータ制御部12とを備えている。
本実施形態に係るエレベータ10は、巻上機10dを機械室X1の内部に配置する、という構成であるが、斯かる構成に限られない。例えば、エレベータ10は、巻上機10dを昇降路X2の内部に配置する、という構成でもよい。
エレベータ10は、ユーザや作業員にかご10aの移動の情報が入力される移動情報入力部10eを備えている。また、エレベータ10は、かご10aが各乗場X3に位置することを検出するかご位置検出部10fと、かご10aの移動量を検出するかご移動量検出部10gとを備えている。
移動情報入力部10eは、例えば、ユーザに操作される操作ボタン(かご10aの内部に配置される操作ボタン、各乗場X3に配置される操作ボタン)や、作業員に操作される手動操作部である。なお、手動操作部は、かご10aの移動速度、移動方向、移動距離を入力して設定することができる。
かご位置検出部10fの構成は、特に限定されないが、例えば、かご位置検出部10fは、各乗場X3に配置される各種センサ(例えば、光電センサ、近接センサ等)としてもよい。また、かご移動量検出部10gの構成は、特に限定されないが、例えば、かご移動量検出部10gは、綱車10cの回転量を検出する各種センサ(例えば、エンコーダ)としてもよい。
エレベータ制御部12は、各情報を取得する取得部12aと、各種情報を記憶する記憶部12bとを備えている。また、エレベータ制御部12は、かご10aの位置を演算するかご位置演算部12cと、巻上機10dの運転を制御する巻上制御部12dとを備えている。
かご位置演算部12cは、かご位置検出部10f及びかご移動量検出部10gが検出した情報に基づいて、かご10aの位置を演算する。例えば、かご位置演算部12cは、かご10aの位置に基づいて、かご10aの移動量及びかご10aの移動速度を演算することも可能である。
診断システム1は、ロープ11を診断するための診断具2を備えている。なお、診断具2が配置される位置は、特に限定されない。例えば、図1においては、診断具2は、機械室X1の内部に配置されている。また、診断具2は、例えば、機械室X1(例えば、床)に固定されていてもよく、例えば、作業員に把持されていてもよい。
図3に示すように、診断具2は、ロープ11の磁束を検出する磁束検出部3と、ロープ11に対する磁束検出部3の変位量を検出する変位検出部4と、磁束検出部3及び変位検出部4を連結する診断具本体2aとを備えている。本実施形態においては、磁束検出部3と変位検出部4とは、互いに固定されている、という構成であるが、例えば、磁束検出部3と変位検出部4とは、互いに分離されている、という構成でもよい。
変位検出部4は、外周がロープ11に接する回転部4aと、回転部4aの回転量を検出する回転検出部4bと、回転部4aが回転可能となるように、回転部4aと診断具本体2aとを接続する接続部4cとを備えている。回転検出部4bの構成は、特に限定されないが、例えば、回転検出部4bは、回転部4aの回転量を検出する各種センサ(例えば、エンコーダ)としてもよい。
回転部4aの外周部は、ロープ11を引っ掛けて位置決めするために、凹状に形成されている。そして、接続部4cは、診断具本体2aに対して変位可能に接続されており、変位検出部4は、回転部4aをロープ11に向けて加力する弾性部4dを備えている。したがって、弾性部4dが弾性変形することによって、回転部4aがロープ11に加圧して接している。
なお、変位検出部4の構成は、ロープ11に対する磁束検出部3の変位量を検出可能な構成であれば、特に限定されない。例えば、回転部4a、回転検出部4b、接続部4c、及び弾性部4dは、本実施形態に係る構成に対して異なる構成であってもよく、設けられていなくてもよい。
磁束検出部3は、ロープ11の磁束を検出する検出部本体3aと、検出部本体3aと診断具本体2aとを接続する接続部3bとを備えている。そして、接続部3bは、診断具本体2aに対して変位可能に接続されており、磁束検出部3は、検出部本体3aをロープ11に向けて加力する弾性部3cを備えている。したがって、弾性部3cが弾性変形することによって、検出部本体3aがロープ11に加圧して接している。
ところで、磁束を用いた診断には、例えば、漏洩磁束法と、全磁束法とがある。本実施形態においては、漏洩磁束法が採用されており、磁束検出部3は、例えば、ロープ11から漏洩する磁束を検出する、という構成である。なお、全磁束法が採用され、磁束検出部3は、例えば、ロープ11の内部を通る磁束を検出する、という構成でもよく、また、両方が採用され、磁束検出部3は、例えば、その両方の磁束を検出する、という構成でもよい。
なお、漏洩磁束法とは、磁化されたロープ11から漏洩する磁束を検出し、ロープ11の劣化を診断するものである。例えば、素線が断線することによって、ロープ11の表面に凹凸が生じた場合に、当該凹凸から磁束が漏洩するため、当該漏洩磁束を検出することによって、ロープ11を診断(例えば、断線の発見)することができる。
一方、全磁束法とは、磁化されたロープ11の内部を通る磁束を検出し、ロープ11の劣化を診断するものである。例えば、ロープ11が部分的に細くなったり、腐食や摩耗などがあったりすることによって、有効断面積(磁束が通過できる断面積)が変化した場合に、当該部分の内部を通る磁束が減少するため、当該磁束を検出することによって、ロープ11を診断(例えば、細り、腐食、摩耗、断線の発見)することができる。
図4に示すように、検出部本体3aは、ロープ11を磁化させる永久磁石3d,3dと、永久磁石3d,3d及びロープ11と協働して磁気回路(図4の実線矢印で図示)を構成するために、永久磁石3d,3dを接続するヨーク3eとを備えている。ヨーク3eの材質は、特に限定されないが、ヨーク3eは、高い透磁率を有しており、例えば、純鉄や低炭素鋼で形成されてもよい。
検出部本体3aは、ロープ11からの漏洩磁束を計測する計測部3fと、ロープ11からの漏洩磁束を集めるために、ロープ11の所定部分を覆うように配置される磁性部3gとを備えている。磁性部3gは、磁性を有しており、計測部3fは、磁性部3gを通る磁束を計測している。計測部3fの構成は、特に限定されないが、例えば、計測部3fは、磁束の大きさを電圧(電流)の大きさに変換する検出コイルとしてもよい。
また、検出部本体3aは、先端に、ロープ11をガイドする案内部3hを備えている。案内部3hは、ロープ11を引っ掛けて位置決めするために、凹状に形成されている。案内部3hは、磁性部3gと非磁性部3iとによって構成されている。そして、磁性部3gと非磁性部3iとは、連接されている。
磁性部3gの材質は、特に限定されないが、磁性部3gは、高い透磁率を有しており、例えば、純鉄や低炭素鋼で形成されてもよい。また、非磁性部3iの材質は、特に限定されないが、非磁性部3iは、低い透磁率を有しており、例えば、硬質樹脂で形成されてもよい。
例えば、磁性部3gの透磁率は、非磁性部3iの透磁率の100倍以上であることが好ましく、また、1000倍以上であることがより好ましい。また、例えば、磁性部3gの透磁率は、大気の透磁率の100倍以上であることが好ましく、また、1000倍以上であることがより好ましい。
なお、磁束検出部3の構成は、磁化されたロープ11の磁束を検出可能な構成であれば、特に限定されない。例えば、検出部3a、接続部3b、弾性部3c、永久磁石3d、ヨーク3e、計測部3f、磁性部3g、案内部3h、及び非磁性部3iは、本実施形態に係る構成に対して異なる構成であってもよく、設けられていなくてもよい。
図5及び図6に示すように、磁性部3gは、端部3j,3jと、端部3j,3jを連結する連結部3kとを備えている。端部3jの先端は、案内部3hを構成するために、凹状に形成されており、連結部3kは、端部3jの基端に連結され、ロープ11(案内部3h)に沿って延びている。
これにより、磁性部3gは、ロープ11の一部(以下、「磁性被覆部分」という)11aを覆うように配置されている。そして、ロープ11の磁性被覆部分11aからの漏洩磁束は、磁性部3gによって集められており、計測部3fは、連結部3kを通る磁束を計測する。したがって、ロープ11の磁性被覆部分11aからの漏洩磁束を確実に検出することができる。
図7に示すように、診断システム1は、ロープ11の情報が入力されるロープ情報入力部1aと、診断するための情報が入力される診断情報入力部1bとを備えている。また、診断システム1は、情報を処理する処理部5と、処理部5で処理された情報を出力する出力部1cとを備えている。
ロープ情報入力部1aには、例えば、診断しているロープ11の情報(例えば、ロープ11の外径等)が、入力される。診断情報入力部1bには、例えば、診断に関する情報(例えば、診断開始の指示、診断終了の指示等)が、入力される。各入力部1a,1bの構成は、特に限定されないが、例えば、各入力部1a,1bは、マウス、キーボード、各種スイッチとしてもよい。また、出力部1cは、例えば、情報を表示する装置(例えば、モニタ)としてもよく、また、例えば、外部に向けて信号を出力する装置としてもよい。
処理部5は、各部1a,1b,3,4から情報を取得する取得部5aと、各種情報を記憶する記憶部5bとを備えている。また、処理部5は、磁束検出部3が検出した磁束と変位検出部4が検出した変位量とに基づいて、ロープ距離軸と磁束軸とからなる波形を演算する波形演算部5cと、波形演算部5cが演算した波形からノイズを除去した補正波形を演算するノイズ除去演算部5hと、ノイズ除去演算部5hが演算した補正波形に基づいて、ロープ11の断線の有無を判定する断線判定部5gとを備えている。
ノイズ除去部5hは、波形演算部5cが演算した波形に基づいて、フーリエ級数展開による関数を演算する関数演算部5dと、関数演算部5dが演算した関数に対して、所定の周期の成分を除去する成分除去部5eとを備えている。また、ノイズ除去部5hは、成分除去部5eが所定の周期の成分を除去した後の補正関数に基づいて、補正波形を演算する補正波形演算部5fを備えている。
関数演算部5dは、波形演算部5cが演算した波形を、フーリエ級数展開した以下の関数に演算する。
ここで、f(x)は、磁束であり、xは、ロープ距離であり、Lは、ロープ11の全計測距離、即ち、磁束が計測されたロープ11の範囲の全長である。また、L/nは、周期であり、周期がL/nの成分とは、A
ncos(n・2π/L)x及びB
nsin(n・2π/L)xである。
成分除去部5eは、関数演算部5dが演算した関数に対して、外乱(ノイズ)となる周期の成分を除去する。具体的には、成分除去部5eは、当該関数に対して、所定の周期よりも大きい周期の成分を除去すると共に、所定の周期よりも小さい周期の成分を除去する。
補正波形演算部5fは、外乱となる周期の成分を除去された補正関数に基づいて、補正波形を演算し、断線判定部5gは、当該補正波形に基づいて、ロープ11の断線の有無を判定する。これにより、ロープ11の断線の有無を適正に判定することができる。
ここで、漏洩磁束法において、外乱となる周期の成分の一例について、説明する。まず、図6に戻り、磁束検出部3の構造から特定できる外乱について、説明する。
ロープ11から磁束が漏洩しているが、ロープ11の表面の凹凸が大きい位置ほど、ロープ11から漏洩する磁束の大きさが大きくなる。そして、図6に示すように、ロープ11に断線部分11bがある場合には、ロープ11の表面に大きな凹凸が存在することになるため、ロープ11の断線部分11bから漏洩する磁束の大きさは、大きくなる。
また、磁束検出部3で検出される漏洩磁束の周期は、ロープ11の表面の凹凸の長さ(ロープ長さ方向D4の寸法)とほぼ同じとなる。即ち、ロープ11の断線部分11bによる漏洩磁束の周期は、断線部分11bの長さ(ロープ長さ方向D4の寸法)W1とほぼ同じである。
ところで、磁性部3gは、ロープ11の磁性被覆部分11aからの漏洩磁束を集めており、計測部3fは、磁性部3gを通る磁束を計測している。一方で、ロープ11の磁性被覆部分11a以外からの漏洩磁束は、大気に漏れていくため、計測部3fは、計測することが殆どできない。
これにより、磁束検出部3は、磁性被覆部分11a(磁性部3g)の長さ(ロープ長さ方向D4の寸法)W2よりも大きい周期の成分の漏洩磁束を検出することができないことになる。したがって、磁性被覆部分11aの長さW2よりも大きい周期の成分は、外乱である可能性が高い。よって、磁性被覆部分11aの長さW2よりも大きい周期の成分は、フーリエ級数展開された関数から、除去されることが好ましい。
次に、漏洩磁束法において、診断されるロープ11の構造から特定できる第1の外乱について、説明する。
図8及び図9に示すように、ロープ11は、中心に配置される芯材11cと、芯材11cの周囲に配置され、撚り合わされる複数のストランド13とを備えている。ストランド13は、複数の素線13a,13b、具体的には、内部に配置される複数の内素線13aと、外層を構成するために内素線13aの周囲に配置され、撚り合わされる複数の外素線13bとを備えている。
ストランド13、内素線13a及び外素線13bの本数は、特に限定されない。また、芯材11cの材質は、特に限定されないが、例えば、芯材11cは、繊維や合成樹脂で形成されてもよい。また、内素線13a及び外素線13bの材質は、特に限定されないが、例えば、鋼で形成されてもよい。
ところで、複数のストランド13が撚り合わされているため、ロープ11は、径方向外方に凸状となる凸部11dを備えている。そして、凸部11dがロープ11の表面の凹凸を構成しているため、凸部11dの長さ(ロープ長さ方向D4の寸法)W3とほぼ同じ周期の磁束が、凸部11dに起因してロープ11から漏洩する。
しかも、例えば、外素線13bの露出している部分(例えば、図8の中央のハッチングで図示している部分)の全体が断線して欠損している場合でも、当該断線部分11bの長さ(ロープ長さ方向D4の寸法)は、凸部11dの長さW3よりも小さくなる。例えば、当該断線部分11bがロープ長さ方向D4と平行に延びている場合に、断線部分11bの長さは、最大となり、凸部11dの長さW3とほぼ同じ長さとなる。
これにより、凸部11dの長さW3以上の周期の成分は、外乱である可能性が高い。したがって、凸部11dの長さW3以上の周期の成分は、フーリエ級数展開された関数から、除去されることが好ましい。
本実施形態においては、磁性被覆部分11a(磁性部3g)の長さW2は、凸部11dの長さW3よりも、大きい、という構成である。なお、磁性被覆部分11a(磁性部3g)の長さW2は、凸部11dの長さW3よりも、小さい、という構成でもよい。
次に、漏洩磁束法において、診断されるロープ11の構造から特定できる第2の外乱について、説明する。
複数の外素線13bが大きな力で撚り合わされているため、外素線13bが切断した場合には、外素線13bの先端部13cは、外方に押し出される。これにより、外素線13bの先端部13cは、隣接される外素線13bの外側に乗り上げたり、径方向外方に突出したりする。そして、外素線13bの先端部13cが、ロープ11の表面の凹凸を構成するため、先端部13cの長さ(ロープ長さ方向D4の寸法)W4とほぼ同じ周期の磁束が、先端部13cに起因してロープ11から漏洩する。
ところで、切断された外素線13bの先端部13cの長さW4は、外素線13bの外径以上となる。例えば、当該先端部13cがロープ11の径方向と平行に突出している場合に、当該先端部13cの長さW4は、最小となり、外素線13bの外径とほぼ同じ長さとなる。
これにより、外素線13bの外径よりも小さい周期の成分は、外乱である可能性が高い。したがって、外素線13bの外径よりも小さい周期の成分は、フーリエ級数展開された関数から、除去されることが好ましい。
本実施形態に係る診断システム1の構成については以上の通りであり、次に、本実施形態に係る診断方法について、図10~図14を主に参照しながら説明する(図1~図9も参照)。
まず、ロープ情報入力部1aに、ロープ11の情報が入力される(ロープ情報入力工程S1)。例えば、記憶部5bが、ロープ11の外径に対応する凸部11dの寸法W3及び外素線13bの外径を、記憶している場合には、ロープ情報入力部1aに、ロープ11の外径が入力される。
そして、磁束検出部3及び変位検出部4がロープ11に接する状態から、かご10aが移動される(かご移動工程S2)ため、磁束検出部3は、ロープ11に対して変位する。このとき、磁束検出部3は、磁化されたロープ11の磁束を検出しており(磁束検出工程S3)、変位検出部4は、ロープ11に対する磁束検出部3の変位量を検出している(変位検出工程S4)。
そして、磁束検出部3が検出した磁束は、図11に示すように、時間軸と磁束軸とからなる波形で表すことができ、また、変位検出部4が検出した変位量は、図12に示すように、時間軸とロープ11に対する磁束検出部3の変位量軸とからなる波形で表すことができる。
ところで、図12に示すように、時間軸とロープ11に対する磁束検出部3の変位量軸とからなる波形が、直線ではないため、かご10aの移動速度は、診断開始から終了まで同じではなく、変化している。そこで、磁束検出部3が検出した磁束と変位検出部4が検出した変位量とに基づいて、波形演算部5cは、図13に示すように、ロープ距離軸と磁束軸とからなる波形を演算する(波形演算工程S5)。
このとき、診断開始時のかご10aの位置と、各乗場X3間の距離とが、診断情報入力部1bに入力されることによって、ロープ距離軸上に、かご10aの位置を出力することができる。なお、ロープ距離軸は、ロープ11のロープ長さ方向D4の距離であって、診断開始時に磁束検出部3に検出される位置(診断開始位置)からの距離を示している。
そして、波形演算部5cが演算した波形に基づいて、関数演算部5dは、以下のように、フーリエ級数展開による関数を演算する(関数演算工程S6)。
その後、成分除去部5eは、フーリエ級数展開された当該関数に対して、外乱となる周期の成分を除去する(成分除去工程S7)。このとき、フーリエ級数展開された当該関数は、ロープ距離軸に関する関数であるため、長さに起因する外乱を除去することができる。
例えば、ロープ11の磁性被覆部分11aの長さW2よりも大きい周期の成分と、ロープ11の凸部11dの長さW3以上の周期の成分と、外素線13bの外径よりも小さい周期の成分とが、フーリエ級数展開された関数から除去される。なお、磁性被覆部分11aの長さW2は、診断情報入力部1bによって入力されてもよく、処理部5の記憶部5bに記憶されていてもよい。
ここで、成分除去工程S7の一例を以下に説明する。
まず、第1の外乱の成分除去として、ロープ11の磁性被覆部分11aの長さW2よりも大きい周期の成分を除去する。例えば、ロープ11の全計測距離Lは、20m(=20×103mm)であり、ロープ11の磁性被覆部分11aの長さW2は、10mmであるとする。これにより、ロープ11の磁性被覆部分11aの長さW2である10mm(=20×103mm/2,000)よりも大きい周期の成分、即ち、n<2,000の周期の成分を除去する。
次に、第2の外乱の成分除去として、ロープ11の凸部11dの長さW3以上の周期の成分を除去する。例えば、診断するロープ11のロープ径が10mmであって、ロープ11の凸部11dの長さW3は、67.5mmであるとする。これにより、ロープ11の凸部11dの長さW3である67.5mm(≒20×103mm/296.2)以上の周期の成分、即ち、n≦296.2の周期の成分を除去する。
さらに、第3の外乱の成分除去として、外素線13bの外径よりも小さい周期の成分を除去する。例えば、診断するロープ11のロープ径が10mmであって、外素線13bの外径は、0.66mmであるとする。これにより、外素線13bの外径である0.66mm(≒20×103mm/30,303.03)よりも小さい周期の成分、即ち、n>30,303.03の周期の成分を除去する。
これにより、n<2,000の周期の成分と、n≦296.2の周期の成分と、n>30,303.03の周期の成分とが除去されるため、以下の式のように、2,000≦n≦30,303の周期帯の成分が残る。なお、A
0がn=0の周期の成分と考えられるため、A
0は除去される。
このように、外乱となる周期の成分が除去される。
そして、外乱となる周期の成分が除去された後の補正関数に基づいて、補正波形演算部5fは、図14に示すように、補正波形を演算する(補正波形演算工程S8)。なお、関数演算工程S6、成分除去工程S7、及び補正波形演算工程S8は、波形演算工程S5で演算された波形からノイズを除去した補正波形を演算しているため、当該工程S6~S8は、全体としてノイズ除去演算工程S10という。
その後、断線判定部5gは、補正波形に基づいて、ロープ11の断線の有無を判定する(断線判定工程S9)。例えば、断線判定部5gは、磁束の大きさが閾値(図14における破線)を超えている位置で、ロープ11が断線していると、判定する。なお、閾値は、診断情報入力部1bによって入力されてもよく、処理部5の記憶部5bに記憶されていてもよい。
このように、外乱となる磁束を除去した後の補正波形に基づいて、ロープ11の断線の有無が判定されるため、ロープ11の断線の有無を適正に判定することができる。また、波形の一方の軸が、ロープ距離軸であるため、磁束を示す波形の任意位置、例えば、ロープ11が断線していると判定された位置(ロープ11の断線判定位置)を特定する作業が容易になる。
例えば、図14に示すように、ロープ11の断線判定位置は、かご10aが2階に位置している際に磁束検出部3が検出しているロープ11の位置から、所定距離W5だけ離れた位置である。したがって、例えば、かご10aを2階の乗場X3に位置した後、所定距離W5だけ上昇させた際に、磁束検出部3が検出しているロープ11の位置(又はその周辺位置)を確認することで、ロープ11の断線位置を確認することができる。
なお、ロープ11の診断方法は、斯かる方法に限られない。例えば、ロープ情報入力工程S1は、成分除去工程S7よりも前であれば、特に順番は限定されない。また、図11~図14に係る波形は、出力部1cで表示されてもよく、表示されなくてもよく、また、例えば、診断情報入力部1bによって、図11~図14の波形の表示と非表示とが、選択可能であってもよい。
以上より、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断方法は、磁束を検出する磁束検出部3が、磁化されたエレベータ用ロープ11に対してロープ長さ方向D4に変位することによって、前記ロープ11の磁束を検出すること(S3)と、前記ロープ11に対する前記磁束検出部3の変位量を検出すること(S4)と、検出した磁束と検出した変位量とに基づいて、ロープ距離軸と磁束軸とからなる波形を演算すること(S5)と、を含む。
また、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム1は、磁化されたエレベータ用ロープ11の磁束を検出する磁束検出部3と、前記ロープ11に対する前記磁束検出部3の変位量を検出する変位検出部4と、前記磁束検出部3が検出した磁束と前記変位検出部4が検出した変位量とに基づいて、ロープ距離軸と磁束軸とからなる波形を演算する波形演算部5cと、を備える。
斯かる診断方法及び診断システム1によれば、磁束検出部3がロープ11に対して変位することによって、ロープ11の磁束が、検出される。また、ロープ11に対する磁束検出部3の変位量が、検出される。そして、検出した磁束と検出した変位量とに基づいて、ロープ距離軸と磁束軸とからなる波形が、演算される。これにより、波形の一方の軸が、ロープ距離軸であるため、磁束を示す波形の任意位置に対応するロープ11の位置を特定する作業が容易になる。
また、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム1は、前記波形演算部5cが演算した波形からノイズを除去した補正波形を演算するノイズ除去演算部5hを備える、という構成である。
斯かる構成によれば、検出した磁束に基づいて、ロープ距離軸と磁束軸とからなる波形が演算された後、当該波形からノイズを除去した補正波形が演算される。これにより、ロープ11の断線の有無を判定するために外乱となる磁束を除去することができる。
また、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム1においては、磁束検出部3は、前記エレベータ用ロープ11からの漏洩磁束を検出し、前記ノイズ除去演算部5hは、前記波形演算部5cが演算した波形に基づいて、フーリエ級数展開による関数を演算する関数演算部5dと、前記関数演算部5dが演算した関数に対して、所定の周期の成分を除去する成分除去部5eと、前記成分除去部5eが前記所定の周期の成分を除去した後の関数に基づいて、波形を演算する補正波形演算部5fと、を備える、という構成である。
斯かる構成によれば、ロープ距離軸と磁束軸とからなる波形が演算された後、当該波形に基づいて、フーリエ級数展開による関数が演算される。そして、当該関数に対して、所定の周期の成分が除去され、除去された後の関数に基づいて、波形が演算される。これにより、ロープ11の断線の有無を判定するために外乱となる磁束を除去することができる。
また、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム1は、前記補正波形演算部5fが演算した波形に基づいて、前記ロープ11の断線の有無を判定する断線判定部5gを備える、という構成である。
斯かる構成によれば、補正された波形に基づいて、ロープ11の断線の有無が判定される。これにより、外乱となる磁束を除去した後の波形に基づいて、ロープ11の断線の有無を判定することができる。
また、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム1は、診断される前記ロープ11の情報が入力されるロープ情報入力部1aを備え、前記成分除去部5eは、前記ロープ情報入力部1aに入力された情報に基づいて、前記関数に対して、前記所定の周期の成分を除去する、という構成である。
斯かる構成によれば、入力されたロープ11の情報に基づいて、所定の周期の成分が除去される。これにより、ロープ11の構成に起因して外乱となる磁束を除去することができる。
また、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム1においては、前記ロープ11は、撚り合わされる複数のストランド13を備えることによって、径方向外方に凸状となる凸部11dを備え、前記成分除去部5eは、前記関数に対して、前記凸部11dの前記ロープ長さ方向D4の寸法W3以上の周期の成分を除去する、という構成である。
斯かる構成によれば、ロープ11の凸部11dによる凹凸によって漏洩磁束が発生すること、及び、凸部11dのロープ長さ方向D4の寸法W3よりも大きい欠損(断線部分)が発生している可能性が低いことに対して、凸部11dのロープ長さ方向D4の寸法W3以上の周期の成分が、除去される。これにより、外乱となる磁束を除去することができる。
また、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム1においては、前記ロープ11は、撚り合わされる複数のストランド13を備え、前記ストランド13は、外層を構成する複数の外素線13bを備え、前記成分除去部5eは、前記関数に対して、前記外素線13bの外径よりも小さい周期の成分を除去する、という構成である。
斯かる構成によれば、切断された外素線13bがロープ11の径方向外方に突出した場合に、当該突出する部分の、ロープ長さ方向D4の寸法W4は、外素線13bの外径以上となる。これにより、外素線13bの外径よりも小さい周期の成分は、外乱である可能性が高い。それに対して、外素線13bの外径よりも小さい周期の成分が、除去される。これにより、外乱となる磁束を除去することができる。
また、本実施形態に係るエレベータ用ロープ11の診断システム1は、前記磁束検出部3は、前記ロープ11からの漏洩磁束を集めるために、前記ロープ11の所定部分11aを覆うように配置される磁性部3gと、前記磁性部3gを通る磁束を計測する計測部3fと、を備え、前記成分除去部5eは、前記関数に対して、前記所定部分11aの前記ロープ長さ方向D4の寸法W2よりも大きい周期の成分を除去する、という構成である。
斯かる構成によれば、ロープ11の所定部分11aからの漏洩磁束が集められるため、ロープ11の所定部分11aからの漏洩磁束を確実に検出することができる。一方で、ロープ11の所定部分11aのロープ長さ方向D4の寸法W2よりも大きい周期の成分が、外乱である可能性が高いことに対して、当該周期の成分が、除去される。これにより、外乱となる磁束を除去することができる。
なお、エレベータ用ロープ11の診断システム1及び診断方法は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、エレベータ用ロープ11の診断システム1及び診断方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
(1)上記実施形態に係る診断システム1及び診断方法においては、波形演算部5cが演算した波形に基づいて、関数演算部5dは、フーリエ級数展開による関数を演算する、という構成である。しかしながら、診断システム1及び診断方法は、斯かる構成に限られない。例えば、波形演算部5cが演算した波形に基づいて、フーリエ級数展開による関数が演算されない、という構成でもよい。即ち、診断システム1は、関数演算部5d、成分除去部5e及び補正波形演算部5fのうち、少なくとも一つを備えていない、という構成でもよい。
(2)また、上記実施形態に係る診断システム1及び診断方法においては、変位検出部4は、外周がロープ11に接する回転部4aと、回転部4aの回転量を検出する回転検出部4bとを備えている、という構成である。しかしながら、診断システム1及び診断方法は、斯かる構成に限られない。
例えば、図15に示すように、変位検出部は、かご移動量検出部10gを備えている、という構成でもよい。即ち、変位検出部は、かご10aの移動量を検出することによって、ロープ11に対する磁束検出部3の変位量を検出する、という構成でもよい。図15に係る処理部5は、かご移動量検出部10gが検出した情報を、エレベータ制御部12を経由して、取得部5aで取得している。
また、処理部5は、かご位置検出部10fが検出した情報を、取得部5aで取得している。斯かる構成によれば、診断開始時のかご10aの位置や各乗場X3間の距離が不明であったり、入力したりしなくても、ロープ距離軸と磁束軸とからなる波形において、ロープ距離軸上に、かご10aの各乗場X3に位置する際の、磁束検出部3に検出されるロープ11の位置を表示することができる。
(3)また、上記実施形態に係る診断システム1及び診断方法においては、補正波形演算部5fが演算した補正波形に基づいて、断線判定部5gがロープ11の断線の有無を判定する、という構成である。しかしながら、診断システム1及び診断方法は、斯かる構成に限られない。例えば、補正波形演算部5fが演算した補正波形に基づいて、作業員がロープ11の断線の有無を判定する、という構成でもよい。即ち、作業員が、出力部1cに表示された波形を見て、ロープ11の断線の有無を判定してもよい。
(4)また、上記実施形態に係る診断システム1及び診断方法においては、成分除去部5eは、磁性被覆部分11a(磁性部3g)の長さW2よりも大きい周期の成分と、ロープ11の凸部11dの長さW3以上の周期の成分と、外素線13bの外径よりも小さい周期の成分とを除去する、という構成である。しかしながら、診断システム1及び診断方法は、斯かる構成に限られない。
例えば、成分除去部5eは、ロープ11の他の寸法よりも大きい又は小さい周期の成分を除去する、という構成でもよい。また、成分除去部5eは、設定された周期帯以外の周期の成分を除去する、という構成でもよい。斯かる周期帯は、複数回の実験結果に基づいて、外乱となる周期の成分を導き出すことによって、設定されてもよい。
(5)また、上記実施形態に係る診断システム1及び診断方法においては、磁束検出部3は、磁性部3gを備えている、という構成である。しかしながら、診断システム1及び診断方法は、斯かる構成に限られない。例えば、磁束検出部3は、磁性部3gを備えていない、という構成でもよい。
(6)また、上記実施形態に係る診断方法においては、診断具2が固定され、かご10aが移動することによって、磁束検出部3がロープ11に対して変位する、という構成である。しかしながら、診断方法は、斯かる構成に限られない。例えば、かご10aが停止した状態で、診断具2が把持されてロープ11に対して移動されることによって、磁束検出部3がロープ11に対して変位する、という方法でもよい。
(7)また、上記実施形態に係る診断システム1及び診断方法においては、ノイズ除去演算部5hは、波形をフーリエ級数展開による関数を演算し、所定の周期の成分を除去した後、補正波形を演算する、という構成である。しかしながら、診断システム1及び診断方法は、斯かる構成に限られない。即ち、ノイズ除去演算部5hは、ノイズを除去できる構成であれば、特に限定されない。
例えば、磁束法が採用され、磁束検出部3は、磁化されたロープ11の内部を通る磁束を検出する構成であっても、ノイズ除去演算部5hは、波形をフーリエ級数展開による関数を演算し、所定の周期の成分を除去した後、補正波形を演算する、という構成でもよく、特に限定されない。例えば、周囲の環境によって、磁束検出部3が常に一定量のノイズの磁束を検出する場合には、ノイズ除去演算部5hは、当該一定量の磁束をノイズとして除去する、という構成でもよい。