JP6984495B2 - 隅肉溶接継手及びその製造方法 - Google Patents
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図5(a)に示すように、一般的な隅肉溶接継手1’は、上板2’と下板3’とを重ね合わせて、上板2’の端部を隅肉溶接することにより形成されている。このような隅肉溶接継手1’においては、上板2’の板厚中心軸2’aと下板3’の板厚中心軸3’aとが同一軸上にないため、自動車の足回り部品等の構造部材として用いられたときに、図5(b)に示すような引張荷重FPの作用によって溶接部4’に大きな回転モーメントが掛かり、ルート部4’Rにおいては、上板2’及び下板3’が互いに離反する方向に作用する引張応力fPが生じることになる。これにより、隅肉溶接継手1’は、ルート部4’Rが疲労亀裂の起点になり易くなっている。
この特許文献1に開示された技術によれば、溶接部の止端部における応力集中を緩和し、溶接疲労強度を向上させることができるとされている。
前記上板及び前記下板は、それぞれ平坦部と、該平坦部から下側に傾斜しながら端部まで延びる傾斜部と、を有するとともに、前記上板の端部が前記下板の傾斜部の上側表面に対向し且つ前記上板の傾斜部と前記下板の傾斜部とのなす角が90°以上となるように配置されており、
前記上板の端部と前記下板の傾斜部の上側表面との間に形成された溶接部ののど厚の中心が前記上板の平坦部の板厚中心軸及び前記下板の平坦部の板厚中心軸の各々よりも下側に位置するように形成されている、前記隅肉溶接継手である。
さらに、本態様1の隅肉溶接継手は、上板の傾斜部と下板の傾斜部とのなす角が90°以上となるように配置されているため、溶接部における止端部の立ち上がり角度が緩やかになり、かかる止端部への応力集中を低減することができる。
以上より、本態様1の隅肉溶接継手は、止端部への応力集中を低減しつつ、ルート部を起点とする疲労亀裂が生じ難くなっており、より一層優れた疲労特性を発揮することができる。
平坦な構造を有する上板形成用板材及び下板形成用板材の各々に前記傾斜部を成形して、前記上板及び前記下板を作製する工程と、
前記上板の端部が前記下板の傾斜部の上側表面に対向し且つ前記上板の傾斜部と前記下板の傾斜部とのなす角が90°以上となるように、前記上板及び前記下板を配置する工程と、
前記上板の端部と前記下板の傾斜部の上側表面との間を、のど厚の中心が前記上板の平坦部の板厚中心軸及び前記下板の平坦部の板厚中心軸の各々よりも下側に位置するように隅肉溶接する工程と、を含む。
また、本明細書において、上板の傾斜部と下板の傾斜部とのなす角αは、図2に示すように、上板の傾斜部の板厚中心軸2bと、下板の傾斜部の板厚中心軸3bとのなす角のうち、相対的に上側に位置する角を指す。
さらに、本実施形態の隅肉溶接継手1は、上板2の傾斜部22と下板3の傾斜部32とのなす角αが90°以上となるように配置されているため、溶接部4における止端部4Tの立ち上がり角度が緩やかになり、かかる止端部4Tへの応力集中を低減することができる。
以上より、本実施形態の隅肉溶接継手1は、止端部4Tへの応力集中を低減しつつ、ルート部4Rを起点とする疲労亀裂が生じ難くなっており、より一層優れた疲労特性を発揮することができる。
本実施形態の隅肉溶接継手1において、上板2及び下板3は、それぞれ鋼板の端部近傍部分(すなわち、溶接箇所に対応する部分)を任意の折り曲げ加工手段によって折り曲げることにより、上述の平坦部21、31と、該平坦部21、31から下側D2に傾斜しながら端部2T、3Tまで延びる傾斜部22、32とが形成されている。なお、これらの平坦部21、31及び傾斜部22、32は、図1及び図2に示すように、それぞれ平坦部21、31の板厚中心軸2a、3aと、傾斜部22、32の板厚中心軸2b、3bとを有しており、さらに、本実施形態の隅肉溶接継手1においては、上板2における平坦部21の板厚中心軸2aと、下板3における平坦部31の板厚中心軸3aとが同一軸上に存在している(すなわち、板厚中心軸が一致している)。
なお、上板及び下板における傾斜部の傾斜角(すなわち、上板及び下板の各々において、平坦部から端部に向かって下側へ傾斜する角度であって、平坦部の板厚中心軸と傾斜部の板厚中心軸とのなす角のうち、鋭角の方の角度)については、上板及び下板を、上板の端部が下板の傾斜部の上側表面に対向するように配置したときに、上板の傾斜部と下板の傾斜部とのなす角が90°以上の角度となるものであれば特に制限されず、かかる上板及び下板の各々の傾斜角としては、例えば、90°未満の任意の角度(但し、上板の傾斜角と下板の傾斜角の和が90°以下となる角度)を採用することができ、好ましくは45°以下の角度である。かかる上板及び下板の傾斜角は、上板と下板とで同一の傾斜角を有していても、異なる傾斜角を有していてもよい。
上述の実施形態に係る隅肉溶接継手1において、溶接部4は、図2に示すように、上板2の端部2Tと下板3の傾斜部32の上側表面との間を隅肉溶接することにより形成されたものであり、のど厚4Dの中心4Cが上板2の平坦部21の板厚中心軸2a及び下板3の平坦部31の板厚中心軸3aの各々よりも下側D2に位置するように形成されている。
ここで、本明細書において、「のど厚」とは、溶接箇所の溶接線に垂直な断面において、ルート部から溶接部の上側表面までの距離が最短となる部分の厚さ(いわゆる、「実際のど厚」)を意味する。
また、溶接条件や使用する溶接ワイヤ(溶接金属)等も、のど厚の中心が上板の平坦部の板厚中心軸及び下板の平坦部の板厚中心軸の各々よりも下側に位置する溶接部を形成し得るものであれば特に制限されず、所望の継手強度等を考慮した任意の溶接条件や溶接ワイヤ等を採用することができる。例えば、シールドガスとしては、100%CO2ガス、Arガスと3%〜20%CO2ガスとの混合ガスなどの従来より公知の任意のシールドガスを用いることができ、それ以外の溶接電流、溶接電圧、シールドガス流量、溶接速度等の各種溶接条件も、アンダーカット等の欠陥の発生を考慮した任意の条件(例えば、溶接電流:180A〜320A、溶接電圧:15V〜30V、シールドガス流量:15L/min〜30L/min、溶接速度:30cm/min〜150cm/min等)を用いることができる。さらに、溶接ワイヤとしては、例えば、軟鋼用又は高張力用のソリッドワイヤ等を用いることができる。
なお、かかる溶接条件に関し、板厚が大きい等により1パスで溶接することが困難な場合には、複数パスで溶接してもよい。
また、上述のアーク溶接についても、ガスシールドアーク溶接に限定されず、サブマージアーク溶接等の任意のアーク溶接法を採用することができる。
なお、上述の実施形態に係る隅肉溶接継手1においては、上板2及び下板3は、図1及び図2に示すように、上板2における平坦部21の板厚中心軸2aと、下板3における平坦部31の板厚中心軸3aとが同一軸上に存在する(すなわち、各平坦部21、31の板厚中心軸2a、3aが一致する)ように配置されているが、本発明の隅肉溶接継手においては、上板及び下板の配置形態は、上述の実施形態のような配置形態に限定されず、上板における平坦部の板厚中心軸と、下板における平坦部の板厚中心軸とが同一軸上に存在しないように(すなわち、各平坦部の板厚中心軸がずれるように)配置されていてもよい。
図4に示すように、本発明の別の実施形態に係る隅肉溶接継手10は、上板2における平坦部21の板厚中心軸2aと、下板3における平坦部31の板厚中心軸3aとが、平行な位置関係にあるものの、同一軸上には存在せず、所定のずれ量d(mm)でずれて配置されている。それ以外の構成は、上述の実施形態の隅肉溶接継手1と同様であり、上板2及び下板3が、それぞれ平坦部21、31と、該平坦部21、31から下側D2に傾斜しながら端部2T、3Tまで延びる傾斜部22、32とを有するとともに、上板2の端部2Tが下板3の傾斜部32の上側表面に対向し且つ上板2の傾斜部22と下板3の傾斜部32とのなす角αが90°以上の所定の角度となるように配置されており、さらに、上板2の端部2Tと下板3の傾斜部32の上側表面との間に形成された溶接部4ののど厚4Dの中心4Cが上板2の平坦部21の板厚中心軸2a及び下板3の平坦部31の板厚中心軸3aの各々よりも下側D2に位置するように形成されている。
さらに、この隅肉溶接継手10においても、上板2の傾斜部22と下板3の傾斜部32とのなす角αが90°以上となるように配置されているため、溶接部4における止端部4Tの立ち上がり角度が緩やかになり、かかる止端部4Tへの応力集中を低減することができる。
したがって、この別の実施形態に係る隅肉溶接継手10も、止端部4Tへの応力集中を低減しつつ、ルート部4Rを起点とする疲労亀裂が生じ難くなっており、より一層優れた疲労特性を発揮することができる。
また、本発明において、上板における平坦部の板厚中心軸と、下板における平坦部の板厚中心軸の上下の位置関係は、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、本発明の隅肉溶接継手は、下板における平坦部の板厚中心軸が上板における平坦部の板厚中心軸よりも上側にあってもよい。
以下、本発明の隅肉溶接継手の製造方法について説明する。
本発明の隅肉溶接継手の製造方法は、平坦な構造を有する上板形成用板材及び下板形成用板材の各々に傾斜部を成形して、上板及び下板を作製する工程(以下、「第1工程」と称することがある。)と、上板の端部が下板の傾斜部の上側表面に対向し且つ上板の傾斜部と下板の傾斜部とのなす角が90°以上となるように、上板及び下板を配置する工程(以下、「第2工程」と称することがある。)と、上板の端部と下板の傾斜部の上側表面との間を、のど厚の中心が上板の平坦部の板厚中心軸及び下板の平坦部の板厚中心軸の各々よりも下側に位置するように隅肉溶接する工程(以下、「第3工程」と称することがある。)と、を含む。
まず、上板形成用板材として、板厚2.9mm、引張強さ481MPaの熱延鋼板を用意し、当該熱延鋼板の端部から20mmの位置を45°の傾斜角で折り曲げることにより、平坦部及び傾斜部を有する上板を作製した。同様に、下板形成用板材として、板厚2.9mm、引張強さ481MPaの熱延鋼板を用意し、当該熱延鋼板の端部から17mmの位置を45°の傾斜角で折り曲げることにより、平坦部及び傾斜部を有する下板を作製した。
作製した上板及び下板を、上板の端部が下板の傾斜部の上側表面に対向し且つ上板の傾斜部と下板の傾斜部とのなす角が90°となるように配置し、上板の端部と下板の傾斜部の上側表面との間を、所定の溶接条件(溶接電流:235A、溶接速度80cm/min、溶接ワイヤ:JIS 3312 YGW16相当の軟鋼用ソリッドワイヤ)で、のど厚の中心が上板の平坦部の板厚中心軸及び下板の平坦部の板厚中心軸の各々よりも下側に位置するようにアーク溶接することにより、図1に示す隅肉溶接継手1と略同様の溶接構造を有する実施例1の隅肉溶接継手を得た。
上板及び下板として、それぞれ板厚2.9mm、引張強さ481MPaの熱延鋼板(すなわち、平坦部のみを有し、傾斜部を有していない上板及び下板)を用意し、これらの上板及び下板を上下に重ね合わせて配置した後、上述の実施例1と同様の溶接条件で上板の端部をアーク溶接することにより、図5(a)に示す隅肉溶接継手1’と略同様の構造を有する比較例1の隅肉溶接継手を得た。
2 上板
21 上板の平坦部
22 上板の傾斜部
2T 上板の端部
2a 上板の平坦部の板厚中心軸
2b 上板の傾斜部の板厚中心軸
3 下板
31 下板の平坦部
32 下板の傾斜部
3T 下板の端部
3a 下板の平坦部の板厚中心軸
3b 下板の傾斜部の板厚中心軸
4 溶接部
4R ルート部
4T 止端部
4D のど厚
4C のど厚の中心
Claims (3)
- 上板と下板との2枚の金属板からなる隅肉溶接継手であって、
前記上板及び前記下板は、それぞれ平坦部と、該平坦部から下側に傾斜しながら端部まで延びる傾斜部と、を有するとともに、前記上板の端部が前記下板の傾斜部の上側表面に対向し且つ前記上板の傾斜部と前記下板の傾斜部とのなす角が90°以上となるように配置されており、
前記上板の端部と前記下板の傾斜部の上側表面との間に形成された溶接部ののど厚の中心が前記上板の平坦部の板厚中心軸及び前記下板の平坦部の板厚中心軸の各々よりも下側に位置するように形成されている、前記隅肉溶接継手。 - 前記溶接部は、止端部にピーニング処理痕を有する、請求項1に記載の隅肉溶接継手。
- 請求項1又は2に記載の隅肉溶接継手の製造方法であって、
平坦な構造を有する上板形成用板材及び下板形成用板材の各々に前記傾斜部を成形して、前記上板及び前記下板を作製する工程と、
前記上板の端部が前記下板の傾斜部の上側表面に対向し且つ前記上板の傾斜部と前記下板の傾斜部とのなす角が90°以上となるように、前記上板及び前記下板を配置する工程と、
前記上板の端部と前記下板の傾斜部の上側表面との間を、のど厚の中心が前記上板の平坦部の板厚中心軸及び前記下板の平坦部の板厚中心軸の各々よりも下側に位置するように隅肉溶接する工程と、を含む、
前記隅肉溶接継手の製造方法。
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