JP3871398B2 - アルミニウム合金材の溶接方法及びアルミニウム合金材溶接用溶加材 - Google Patents
アルミニウム合金材の溶接方法及びアルミニウム合金材溶接用溶加材 Download PDFInfo
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【発明の属する技術分野】
本発明はアルミニウム合金材の溶接方法及びこの溶接時に使用される溶加材に関し、特に、すみ肉溶接に好適であり、継手強度を向上させることができるアルミニウム合金材の溶接方法及びアルミニウム合金材溶接用溶加材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、6000系合金からなるアルミニウム合金材をすみ肉溶接する場合には、JIS 4043又はJIS 5356の合金組成を有する溶加材が使用されている。JIS 4043の合金組成は、例えば、Siを4.5乃至6.0重量%含有すると共に、Mg含有量が0.05重量%以下に規制されたものである。また、JIS 5356の合金組成は、例えば、Mgを4.5乃至5.5重量%含有すると共に、Si含有量が0.25重量%以下に規制されたものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、JIS 6000系合金からなるアルミニウム合金材のすみ肉溶接継手の性能は、突合せ継手と比較して、のど厚が小さい場合に溶接金属の性能に影響されることが多い。従って、例えば、JIS 4043の合金組成を有する溶加材を使用してJIS 6000系のアルミニウム合金材を溶接した場合、継手の溶接金属部の引張強さ及び硬さが低下するという問題点が発生する。
【0004】
図2はT継手のすみ肉溶接時に得られる溶融金属の形状を示す断面図である。図2においては、アルミニウム合金製の水平部材1の表面に、この水平部材に対して垂直となるように水平部材2を配置し、垂直部材2の端面の周縁部を隅肉溶接した場合の例を示している。図2(a)に示すように、溶融金属3の湯流れ性が良好であると、溶接止端部3aにおいて、溶融金属3の表面と水平部材1又は垂直部材2の表面とがなす角Rが大きくなる。
【0005】
一方、JIS 5356の合金組成を有する溶加材を使用した場合、図2(b)に示すように、JIS 4043の合金組成を有する溶加材を使用した場合と比較して、溶融金属の湯流れ性が若干低下する。そうすると、溶接止端部4aにおいてRが小さくなり、溶融金属4が盛り上がった形状になる。従って、溶接止端部4aにおいて応力集中が発生しやすくなり、疲労強度が低下することがある。また、溶接母材であるアルミニウム合金材の熱影響部においては、溶接金属部の凝固収縮量が大きいJIS 5356の合金組成を有する溶加材を使用した場合は、母材を引張るようなより一層大きい力が加わるので、溶接ミクロ割れが発生することがある。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、溶接金属の引張強さ、硬さ及び疲労強度を共に向上させると共に、溶接母材のミクロ割れの発生を抑制して、これにより、継手強度を高めることができるアルミニウム合金材の溶接方法及びアルミニウム合金材溶接用溶加材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るアルミニウム合金材の溶接方法は、Si:3乃至7重量%及びMg:0.4乃至1.0重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる溶加材を使用して、JIS 6000系の合金組成を有するアルミニウム合金材を溶接することを特徴とする。
【0008】
なお、JIS 6000系とは、JIS 6061合金、JIS 6063合金及びJIS 6N01合金等がある。
【0009】
本発明に係るアルミニウム合金材溶接用溶加材は、JIS 6000系の合金組成を有するアルミニウム合金材を溶接する際に使用されるアルミニウム合金材溶接用溶加材において、Si:3乃至7重量%及びMg:0.4乃至1.0重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする。この溶加材は、すみ肉溶接に適用されることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
すみ肉溶接によって部材同士を溶接接合する場合、接合される部材の成分の溶接金属中への希釈が少ないので、溶融金属の組成を調整するための母材からの希釈効果は得られない。従って、本発明においては、溶接金属の引張強さ、硬さ及び疲労強度を共に向上させるために、溶加材の組成を調整するものとする。
【0011】
以下、本発明に係るアルミニウム合金材溶接用溶加材に含有される化学成分及びその組成限定理由について説明する。
【0012】
Si:3乃至7重量%
Siは溶融金属の湯流れ性を向上させる効果を有する成分である。これにより、溶接止端部において、溶融金属の表面と溶接母材表面とがなす角が大きくなると共に、曲率半径が大きくなるので、応力集中の発生を抑制することができ、疲労強度を改善することができる。また、SiはMgと共存することにより、溶接金属中にMg2Siを析出させて溶接金属の引張強さ及び硬さを高める作用も有する。これにより、継手強度を向上させることができる。
【0013】
溶加材中のSi含有量が3重量%以下であると、これらの効果を十分に得ることができない。一方、溶加材中にSiを7重量%を超えて添加しても、Siの添加によって得られる効果をそれ以上向上させることはできない。また、Mg2Siの析出によって溶接金属の引張強さ及び硬さを向上させるために、溶加材中のSi含有量を増加させると、それに応じてMg含有量も増加させる必要があるが、溶加材中のMg含有量を増加させると、溶加材(溶接ワイヤ及び溶接棒等)の製造時の加工性が低下する。従って、溶加材中のSi含有量は3乃至7重量%とする。
【0014】
Mg:0.4乃至1.0重量%
Mgは溶融金属の融点を低下させる効果を有するので、適切な量のMgを溶加材中に添加することにより、溶接母材のミクロ割れの発生を抑制することができる。また、前述の如く、MgはSiと共存することによって、Mg2Si強化作用を得ることができ、これにより、溶接金属の引張強さ及び硬さを向上させることができる。溶加材中のMg含有量が0.4重量%未満であると、これらの効果を十分に得ることができない。一方、溶加材中のMg含有量が1.0重量%を超えると、溶加材の伸線加工性が悪くなるので、溶加材として適切でない。従って、溶加材中のMg含有量は0.4乃至1.0重量%とする。
【0015】
このように、本発明においては、溶加材の組成を適切に規定することにより、優れた特性の溶接金属を得ることができ、これにより、継手強度を向上させることができる。なお、本発明において、溶接母材の組成は特に限定されないが、JIS 5000系又はJIS 6000系の合金組成を有する母材に対して、本発明に係る溶加材を適用することができる。しかし、JIS 6000系の溶接母材を溶接する場合に、従来の溶加材を使用すると前述の問題点が顕著に発生する。従って、前述の問題点を解決することができる溶加材として、JIS 6000系、例えば、6061合金、6063合金及び6N01のT5材の溶接母材に対して、本発明に係る溶加材を使用することがより一層好ましい。
【0016】
図1(a)乃至(d)は本発明に係る溶接方法を適用することができる継手形状の例を示す図である。本発明においては、図1(a)に示すように、第1板材5と第2板材6とを、両者の位置をずらして水平に重ねて配置し、一方の板材の端面と他方の板材の表面とにより形成されたすみ肉部に溶接金属7を形成して、両者を接合することができる。また、図1(b)に示すように、鉛直に配置された第1板材8とその両側に水平に配置された2枚の第2板材9において、第1板材8に接触している第2板材9の端面の周縁部におけるすみ肉部に溶接金属10を形成して、両者を接合することができる。
【0017】
更に、図1(c)又は1(d)に示すように、断面形状が口型である第1管材11及び第2管材12をL字状又はT字状に配置して、第1管材の端面の周縁部におけるすみ肉部に溶接金属13を形成して、両者を接合することもできる。なお、本発明に係る溶接方法が適用される継手形状は、図1に示す形状に限定されない。
【0018】
本発明においては、MIG溶接を実施する場合の溶接条件としては、肉厚が3mmである溶接母材に対して、例えば、溶接電流を120乃至130A、溶接電圧を20V、溶接速度を70(cm/分)とすることができる。また、TIG溶接を実施する場合の溶接条件としては、肉厚が3mmである溶接母材に対して、例えば、溶接電流を180乃至200A、溶接速度を25(cm/分)とすることができる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明に係るアルミニウム合金材溶接用溶加材の実施例についてその比較例と比較して具体的に説明する。
【0020】
先ず、JIS 6N01の合金組成を有する2枚の板材を準備し、これらを継手形状に組み立てた後、下記表1に示す組成を有する溶加材を使用して、両者をすみ肉溶接により接合した。なお、表1において、Al、Si及びMg以外の成分は不純物である。次いで、得られた継手の溶接金属部に対して、引張強さ及び硬さ、溶融金属の湯流れ性(止端部形状)、伸線加工性並びに耐溶接ミクロ割れ性について評価した。これらの各評価結果及び総合評価を下記表1に併せて示す。
【0021】
なお、下記表1に示す硬さの評価結果欄において、○はビッカース硬さHVが60を超えるものを示し、△はHVが50乃至60であるもの、×はHVが50未満であるものを示す。また、止端部形状の評価結果欄において、◎は十分に平滑であることを示し、○は平滑であること、△は平滑性が不十分であること、×は平滑性が劣っていることを示す。更に、伸線加工性については、○は大変良好であることを示し、△は不良であること、×は割れが発生したことを示す。更にまた、耐溶接ミクロ割れ性については、◎は大変良好であることを示し、○は良好であること、△は一部に割れが発生したことを示し、×は割れ易くなったものを示す。従って、総合評価欄においては、◎は大変良好であるものを示し、○は良好であるもの、×は不良であるものを示す。
【0022】
【表1】
【0023】
上記表1に示すように、実施例No.1乃至6は溶加材の組成が本発明の範囲内であるので、全ての評価結果が優れたものとなった。
【0024】
一方、比較例No.7、10及び12は溶加材中のMg含有量が本発明範囲の下限未満であるので、引張強さ及び硬さが低下し、特に、比較例No.10はSi含有量が本発明範囲の下限付近であるので、湯流れ性が若干低下した。比較例No.8、11及び13は溶加材中のMg含有量が本発明範囲の上限を超えているので、溶加材の伸線加工性が低下した。
【0025】
また、比較例No.9は溶加材中のSi含有量が本発明範囲の下限未満であるので、止端部形状及び耐溶接ミクロ割れ性が若干劣ったものとなった。比較例No.14は溶加材中のSi含有量が本発明範囲の上限を超えており、Mg含有量が本発明範囲の下限付近であるので、伸線加工性、引張強さ及び硬さが若干低下した。比較例No.15は溶加材中のSi含有量が本発明範囲の上限を超えており、比較例No.16は溶加材中のSi及びMgの含有量が本発明範囲の上限を超えているので、いずれも溶加材の伸線加工性が低下した。比較例No.17はJIS 4043の合金組成を有する溶加材であるが、溶加材中にMgが含有されていないので、引張強さ及び硬さが低下した。
【0026】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明方法によれば、適切に組成が規制された溶加材を使用して溶接するので、溶接金属の引張強さ、硬さ及び疲労強度が向上すると共に、溶接母材のミクロ割れの発生が抑制され、これにより、継手強度を高めることができる。また、本発明方法は、JIS 6000合金材を溶接母材とすることが好適である。更に、本発明によれば、溶加材の組成を適切に規制しているので、この溶加材を使用した場合に、引張強さ、硬さ及び疲労強度が優れた溶接金属を得ることができる。また、この溶加材をすみ肉溶接に適用すると、より一層高い効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る溶接方法を適用することができる継手形状の例を示す図である。
【図2】T継手のすみ肉溶接時に得られる溶融金属の形状を示す断面図である。
【符号の説明】
1、2;部材
3、4;溶融金属
3a、4a;止端部
5、6、8、9;板材
7、10、13;溶接金属
11、12;管材
Claims (4)
- Si:3乃至7重量%及びMg:0.4乃至1.0重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる溶加材を使用して、JIS 6000系の合金組成を有するアルミニウム合金材を溶接することを特徴とするアルミニウム合金材の溶接方法。
- 前記溶接はすみ肉溶接であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金材の溶接方法。
- JIS 6000系の合金組成を有するアルミニウム合金材を溶接する際に使用されるアルミニウム合金材溶接用溶加材において、Si:3乃至7重量%及びMg:0.4乃至1.0重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とするアルミニウム合金材溶接用溶加材。
- すみ肉溶接に適用されることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム合金材溶接用溶加材。
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