JP3551136B2 - ガスシールドアーク溶接用ワイヤ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、軟鋼、490N/mm2級高張力鋼板の炭酸ガスシールドアーク溶接に使用するソリッドワイヤに係り、特に高入熱・高パス間温度での溶接に使用されるガスシールドアーク溶接用ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼構造物の溶接には、炭酸ガスシールドアーク溶接が最も一般的な溶接方法として用いられているが、その溶接条件は、溶接の高能率化のために高入熱かつ高パス間温度(たとえば490N/mm2級高張力鋼板で40kJ/cm入熱時で溶接線近傍の温度350℃程度でも強度が低下しない)を採用する方向に移ってきている。このような高入熱・高パス間温度条件の溶接では、溶接金属の強度が低下するとともに衝撃特性(靱性)も劣化する。この問題を解決する手段として、従来から、Ti、Bを添加することが行われている。例えば、特公昭43−12258号公報には、ワイヤ中にSi、Mn等の脱酸性元素を含有するともに、Al、Ti、ZrおよびVの中の1種以上を含有し、さらにBを含有したワイヤが開示されている。また、特公昭55−149797号公報には、Bを基本成分として含有し、さらにTi、Moの1種以上を含有するワイヤが提案されている。しかしながら、上記提案のTi、B含有ワイヤは、高パス間温度で溶接する場合を想定したものではなく、そのため、高入熱・高パス間温度で溶接した場合には溶着金属の機械的性質が不十分となる。
【0003】
かかる問題を解決し、高入熱・高パス間温度での溶接条件に対応するために、特開平10−230387公報では、C、Si、Mn、Ti、B、Sを含有し、BとTiの比率およびBとSの積を規制したワイヤが、特開平11−90678号公報ではTi、BおよびAl、Zrの1種以上を含有し、さらにC、Si、Mn、Moを所定量含むワイヤが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの方法では、高入熱・高パス間温度条件で溶接した場合に、溶着金属の機械的特性の改善が期待されるが、横向き溶接のように10kJ/cm以下になるような低入熱溶接条件では、溶接作業性、すなわちビード外観が悪く、上記2つの条件、すなわち高入熱・高パス間温度条件と低入熱溶接条件とを同時に満足するワイヤは提案されていなかった。これは、実用上求められる広い溶接条件に対する溶接作業性についての考慮が払われておらず、いいかえれば、高入熱、高パス間温度条件における溶着金属の機械的性質の確保を重要視するあまり、溶接作業性、特に健全な溶接部を容易に得るための溶接作業性が軽視される傾向にあったためである。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決することを目的とし、能率を重要視した高入熱・高パス間温度の溶接条件下において溶着金属の機械的性質を確保しながら、横向き溶接のような入熱に制限があるため溶接欠陥を生じ易い低入熱溶接条件下での溶接作業性を同時に満足し得る溶接ワイヤを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、大入熱溶接における溶着金属の機械的特性の確保と低入熱溶接における溶接ビード形状に及ぼす合金元素の影響について総合的な検討を行い、
▲1▼大入熱溶接における溶着金属の機械的性質を確保するためには、ある程度以上に合金元素を含有させることが必要であること、
▲2▼しかし、合金元素の中には過剰になるとSiやTiのように溶接ビートの形状を凸型にして低入熱溶接時に溶接欠陥を生じ易くするものもあるので、これらの含有量を制限する必要があること、
▲3▼したがって、強度確保と良好な溶接ビード形状の維持の両面から元素の含有量を総合的に決定する指標を確立する必要があること、さらに、
▲4▼溶接ビード形状を滑らかにするにはKやSの添加が有効であること、特に、TiやSi等のビード外観を劣化させる元素の含有量に応じて添加することが有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の請求項1に係る炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤは、メッキ層を含んだ組成が、質量比で、C:0.005〜0.09%、Si:0.65〜1.2%、Mn:1.5〜2.2%、Ti:0.15〜0.30%、Cr:0.05〜0.30%、Mo:0.12〜0.22%、B:0.0005〜0.0025%、Cu:0.5%以下、Ni:2%以下、残部:実質的にFeからなり、かつ、CEQ:0.40%以上、MEQ:0.10〜0.20となっている。ここに、
CEQ=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4
MEQ={0.2×(Mo+Cr)+0.07Cu}/CEQ
である。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤは、メッキ層を含んだ組成が、質量比で、C:0.005〜0.09%、Si:0.65〜1.2%、Mn:1.5〜2.2%、Ti:0.15〜0.30%、Cr:0.05〜0.30%、Mo:0.12〜0.22%、B:0.0005〜0.0025%、Cu:0.5%以下、Ni:2%以下、K:0.0001〜0.0030%、S:0.005〜0.025%、残部:実質的にFeからなり、かつ、CEQ:0.40%以上、MEQ:0.10〜0.20、KEQ:0.02〜0.10となっている。ここに、
KEQ=(50×K+0.5×S)/(Ti+Si+Al)
CEQ=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4
MEQ={0.2×(Mo+Cr)+0.07Cu}/CEQ
【0009】
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤの実施形態を、その含有成分の限定理由と併せて具体的に説明する。本発明に係る炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤは、質量比で、以下に説明する諸元素を含有する。
【0011】
C:0.005〜0.09%
Cは、溶接金属の強度を確保するのに必要であり、脱酸元素としての効果もある。0.005%未満では溶接金属の強度が不足し、一方0.09%を超えると靱性が低下する。このため、0.005%以上、0.09%以下とした。
【0012】
Si:0.65%〜1.2%
Siは脱酸元素として、CO2溶接やMAG溶接ワイヤに不可欠な元素であるが、0.65%未満では溶接時の脱酸効果が不十分となりブロホールが発生しやすい。一方、1.2%を超えると、溶接金属中の含有量が過多となり、靱性が劣化するとともに、溶接の際の溶融金属の粘性が大きくなりすぎ、低入熱接時のビード外観が劣化し溶接欠陥を生じ易くなる。したがって0.65%以上、1.2%以下とした。
【0013】
Mn:1.5〜2.2%
MnはSiとともに脱酸元素として不可欠な元素であるだけでなく、溶接金属の機械的性質を向上させる元素である。その含有量が1.5%未満では、溶接金属中での含有量が不足して十分な強度、靱性を得ることができない。しかし、2.2%を超えると溶接金属中での含有量が過多となり靱性が劣化する。このため、1.7%以上、2.2%以下とした。
【0014】
Ti:0.15〜0.30%
Tiは、本発明の対象とする比較的入熱の高いガスシールドアーク溶接用ワイヤおいて、アークを安定させてスパッタを減少させ、ブローホールの発生を防止させる効果があり、高電流を用いた大入熱溶接では不可欠の元素である。また、溶接金属の靱性を向上させる効果もある。しかし、0.15未満ではこの効果に乏しく、一方、0.30%を超えると、溶接の際の溶融金属の粘性が大きくなり過ぎ、低入熱時のビード外観が劣化し、溶接欠陥を生じ易くなる。したがって0.15%以上、0.30%以下に限定する。
【0015】
Cr:0.05〜0.30%
Crは、大入熱溶接金属の組織を微細化して靱性を向上させるのに不可欠な元素である。その溶接ワイヤへの添加量が、0.05%未満では、上記効果の発現が不十分であり、一方0.30%を超えると、溶接金属組織に低温変態相が生成して溶接金属が硬化し靱性が劣化する。したがって、0.05%以上、0.30%以下の範囲で用いるものとする。
【0016】
Mo:0.12〜0.22%
Moも、大入熱溶接金属の組織を微細化して靱性を向上させるのに有効な元素である。その溶接ワイヤへの添加量が、0.12%未満では、上記効果の発現が不十分であり、一方0.22%を超えると、特に低入熱溶接時に溶接金属が硬化して割れが発生しやすくなる。したがって、0.12%以上、0.22%以下の範囲で用いるものとする。
【0017】
B:0.0005〜0.0025%
Bは溶着金属組織において、粗大なフェライトの生成を抑制して組織を微細化し、靱性を向上するのに有効である。しかし、ワイヤ中のB含有量が0.0005%未満では、この効果を得るのに十分でない。一方、0.0025%を超えて添加しても、さらなる靱性改善効果には乏しく、高温割れを生じ易くさせる不利がある。したがって、0.0005%以上、0.0025%以下とした。
【0018】
Cu:0.5%以下
Cuは、アーク溶接用ワイヤの外面に施されるCuメッキ層等から溶接金属中に移行する元素である。その量があまりに多いときには、溶接ビード割れの原因になる。したがって、その量はメッキとして施されている分を含んで0.5%以下に限定する。
【0019】
Ni:2%以下
Niは少量の添加で溶接金属の靱性を改善するが、多量に添加するとかえって靱性を劣化させる。また、Niは後述するパラメータ、CEQおよびMEQを規定する元素であり、2%程度まで許容される。
【0020】
CEQ:0.40%以上
CEQ(炭素当量)は、
CEQ=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4
によって定義されるパラメータである。CEQが、0.40%未満では高入熱・高パス間温度条件での溶接を行ったとき、溶着金属の強度が不十分となるため0.40%以上が必要である。なお、一般的には0.8%を超えないことが好ましい。0.8%を超えると、低入熱溶接を行ったとき溶着金属の硬化が著しく、耐割れ性、靱性が低下するすることによる。
【0021】
MEQ:0.10〜0.20
MEQは、
MEQ={0.2×(Mo+Cr)+0.07Cu}/CEQ
によって定義されるパラメータであり、その値が0.10未満では、主としてSi、Mnが多くなりすぎるために、一方0.40超ではMo、Crが過剰となるために溶接ビードの外観が劣化する。したがって、0.10以上、0.20以下とする。なお、このMEQは溶接ビード形状を支配するパラメータであり、単独で、あるいは、後に説明する他の溶接ビード形状パラメータKEQとともに用いることができる。
【0022】
K:0.0001〜0.0030%
請求項2に係る発明においては、Kが添加される。Kはビード表面を滑らかにするのに効果的な元素であるが、0.0001%未満ではこの効果に乏しく、一方、0.0030%を超えと溶接の際のアークが不安定になる。したがって、Kは、0.0001%以上、0.0030%以下の範囲で添加するのが好ましい。なお、Kは、主としてメッキ層中から添加される。
【0023】
S:0.005〜0.025%
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であるが、0.025%超えると、溶融金属の鋼割れ感受性を害することがある。しかしながら、Sには溶接ビードの母材とのなじみを良くして形状を滑らかにする効果があり、低減しすぎると溶接作業性を害することがあるため、0.005%以上、0.025%以下の範囲とするのが好ましい。
【0024】
KEQ:0.02〜0.10
KEQは、
KEQ=(50×K+0.5×S)/(Ti+Si+Al)
によって定義されるパラメータであり、上記KおよびSの含有量を、ワイヤ中の溶接ビード外観劣化原因元素であるTi、SiおよびAlの含有量と結びつけるものである。すなわち、KおよびSの含有量は、ワイヤ中の溶接ビード外観劣化原因元素であるTi、SiおよびAlの含有量に比例させて含有させるのが好ましく、そのため上記式で定義されるKEQを0.02〜0.10の範囲にとるのが好ましい。上記KEQが小さすぎるときには溶接ビード外観が改善されず、一方、大きすぎるときには、大入熱溶接溶接の際にかえって溶接ビードの形状が劣化する。なお、請求項2に係る発明では、上記KEQは、パラメータMEQとともに組成制限条件とした。
【0025】
上記成分のほかの残部は、実質的にFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、本発明に係る鋼を溶製する際に添加した脱酸材であるAl、Ca等のほかN等が挙げられる。これらの量は通常鋼に含まれる範囲であれば特に問題がないが、Alは、0.02%以下、Caは20ppm以下、好ましくは10ppm以下、Nは80ppm以下、好ましくは50ppm以下に制限するのがよい。
【0026】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
表1に示す組成を有する規格記号SM490Aの鋼板を用い、表 2に示す合金成分を有するワイヤを用いて、表3に示す条件で溶接試験を行った。なお、溶接部の開先形状は図1(溶接条件Aのとき)および図2(溶接条件Bのとき)に示すとおりである。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
試験結果は、表4に示す。本発明請求項1に係る実施例No.1〜5、または請求項2に係る6〜8を用いた場合、大入熱・高パス間温度溶接条件(溶接条件Aのとき)でも十分な強度と靱性を有する溶接金属が得られ、低入熱溶接(溶接条件Bのとき)におけるビード外観も良好であった。なお、実施例1〜5は、引張強度がSM490級鋼用ワイヤとして好適なものであり、実施例6〜8はビード外観を重要視したものである。これに対して比較例においては化学組成が本発明の条件を外れており、低入熱溶接におけるビード外観が不良であったり、十分な強度が得られなかったものであり、この場合不純物等のかみ込みが発生し溶接欠陥の発生が避けられなかった。
【0031】
【表4】
【0032】
【発明の効果】
本発明に係る溶接ワイヤを用いれば、高入熱・高パス間温度の溶接条件において十分な強度と靱性を有する溶接金属が得られるとともに、横向き溶接のような小入熱溶接において良好な溶接性のもとに溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実験に用いた下向き溶接用開先の模式図である。
【図2】本発明の実験に用いた横向き溶接用開先の模式図である。
Claims (2)
- メッキ層を含んだ組成が、質量比で、C:0.005〜0.09%、Si:0.65〜1.2%、Mn:1.5〜2.2%、Ti:0.15〜0.30%、Cr:0.05〜0.30%、Mo:0.12〜0.22%、B:0.0005〜0.0025%、Cu:0.5%以下、Ni:2%以下、残部:実質的にFeからなり、かつ、CEQ:0.40%以上、MEQ:0.10〜0.20であることを特徴とする炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤ。
ここに、
CEQ=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4
MEQ={0.2×(Mo+Cr)+0.07Cu}/CEQ - メッキ層を含んだ組成が、質量比で、C:0.005〜0.09%、Si:0.65〜1.2%、Mn:1.5〜2.2%、Ti:0.15〜0.30%、Cr:0.05〜0.30%、Mo:0.12〜0.22%、B:0.0005〜0.0025%、Cu:0.5%以下、Ni:2%以下、K:0.0001〜0.0030%、S:0.005〜0.025%、残部:実質的にFeからなり、かつ、CEQ:0.40%以上、MEQ:0.10〜0.20、KEQ:0.02〜0.10であることを特徴とする炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤ。
ここに、
CEQ=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4
MEQ={0.2×(Mo+Cr)+0.07Cu}/CEQ
KEQ=(50×K+0.5×S)/(Ti+Si+Al)
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