実施例1
以下、本発明に係る水路用コンクリート構造物の補強方法及び補強構造を図面に則して更に詳しく説明する。
本発明の対象とする水路用コンクリート構造物200は、上述したように、また、図1(a)〜(c)に示すように、一般には、農業用水路、工業用水路、上下水道、水力発電所用水路等に用いられるコンクリート水路トンネルとされ、例えば、農業用水路として使用されるコンクリート水路トンネルは、通常、底部から天井部までのトンネル高さが2m程度とされ、矢板山留め工法にて建設されることが多く、地山に形成された所定の断面形状を有した掘削坑の内壁面に無筋コンクリートを打設することによって、即ち、所定厚さのコンクリート覆工を形成することによって建設される。なお、本発明は、これに限定されるものではなく、更には、図1(d)、(e)に示すような開水路或いは閉水路のコンクリート水路等とされる水路用コンクリート構造物とされる。
図1(a)には、農業用水のためのコンクリート水路トンネル200の一実施例を示す。本実施例では、コンクリート水路トンネル200は、横断面形状にて、湾曲した天井部を形成するアーチ部201A、アーチ部201Aの両側壁を形成する側壁部201B、及び水路トンネルの底部を形成するインバート201Cにて構成される馬蹄形のコンクリート水路トンネル覆工(単に「コンクリート覆工層」ということもある。)201を有したものとされる。コンクリート水路トンネル200は、このような馬蹄形コンクリート水路トンネル200に限定されるものではなく、横断面が幌形(図1(b))、或いは、円形(図1(c))、更には、他の形状とされるものがある。
以下の説明では、本発明に係る補強方法及び補強構造は、図1(a)に示すような馬蹄形コンクリート水路トンネル200に適用されるものとして説明する。
図1(a)に示すように、本発明によると、コンクリート覆工層201の内面に表面層として補強層100が形成される。なお、以下、「コンクリート覆工層201の内面」とは、コンクリート覆工層201のトンネル内部に面した面を意味し、「コンクリート覆工層201の外面」とは、コンクリート覆工層201の地山側の面を意味するものとする。
補強層100は、図示するように、アーチ部201A及び両側壁部201Bに形成されるが、必要により、トンネル底部のインバート201Cの両側部に隣接する領域(基部)201Ca、或いは、インバート201Cの全領域に形成することもできる。
補強層100は、詳しくは図2(a)、図8(a)〜(g)を参照して後述するが、コンクリート覆工層201の内面202上に、補強材としての連続した強化繊維fを含む繊維シート1を通水型アンカー30で固定し、更に、接着材10により接着して一体化される。特に、本発明の一実施態様によれば、繊維シート1は軽量、手運搬可能な材料を使用し、接着材10としては特定の組成の樹脂モルタルを使用して所定厚さに塗布することにより、補強後の十分な機械的強度、磨り減り耐久性等を達成し得るものとされる。
次に、本発明にて使用することのできる主たる材料について説明する。
(繊維シート)
本発明においては補強材として種々の形態の繊維シート1を使用することができる。繊維シート1の実施例を具体的に具体例1、2として説明するが、本発明で使用する繊維シート1の形態は、これら具体例に示すものに限定されるものではない。
具体例1
図3〜図5に、本発明にて使用することのできる繊維シート1の一例を示す。繊維シート1は、マトリクス樹脂Rが含浸され硬化された強化繊維fを含む細径の連続した繊維強化プラスチック線材、所謂、ストランド2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維シート(ストランドシート)1Aを使用するができる。
繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)が0.5〜3mmの略円形断面形状(図4(a))であるか、又は、幅(w)が1〜10mm、厚み(t)が0.1〜2mmとされる略矩形断面形状(図4(b))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
上述のように、繊維強化プラスチック線材2が一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維シート1Aにおいて、各線材2は、互いに空隙(g)=0.05〜3.0mmだけ近接離間して、線材固定材3にて固定される。また、このようにして形成された繊維シート1Aの長さ(L)及び幅(W)は、補強されるトンネル構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、100〜1000mmとされる。又、長さ(L)は、1〜5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
また、繊維シート1Aの長さ(L)を1〜5m程度として、幅Wをこれより長く1〜10m程度として製造することも可能である。
繊維シート1Aの線材2は、強化繊維fとして炭素繊維を使用することができ、例えば平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを6000〜24000本収束した単繊維束を複数本、一方向に平行に引き揃えて使用することができる。なお、強化繊維fとしては、炭素繊維に限定されるものではなく、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、高強度ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。また、繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、その他種々の樹脂を使用することができ、例えば、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルフォルマール樹脂などが好適に使用可能である。又、繊維体積含有率(Vf)は、40〜75%、好ましくは、50〜70%とされる。
又、各線材2を線材固定材3にて固定する方法としては、図3に示すように、例えば、線材固定材3として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材2から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸3の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維シート1の取り扱い性を考慮して、通常10〜100mm間隔の範囲で選定される。
このとき、横糸3は、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ナイロン、ビニロン、ポリエステルなどが好適に使用される。
各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、図5(a)に示すように、線材固定材3としてメッシュ状支持体シート3を使用することができる。
メッシュ状の支持体シート3を構成する縦糸4及び横糸5の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート3をシート状に配列した線材2の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート3の縦糸4及び横糸5の部分を線材2に溶着する。
メッシュ状支持体シート3は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された線材2に対して直交する横糸5のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた線材2に接着することもできる。
又、上記線材固定材3の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
このように、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた複数本の線材2、即ち、線材シートの片側面、又は、両面を、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製したメッシュ状の支持体シート3により支持した構成とすることもできる。
更に、各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、図5(b)に示すように、線材固定材3として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材3は、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に、複数本の繊維強化プラスチック線材2の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。
つまり、可撓性帯材3として、幅(w1)2〜30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープ3を、通常、10〜100mm間隔(P)で各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
更に、可撓性帯材3としては、ポリアミド樹脂、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2の長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
具体例2
図6(a)、(b)に、本発明に使用することのできる繊維シート1の他の例を示す。本具体例にて繊維シート1は、格子状に配置された複数の繊維強化プラスチック(FRP)筋、即ち、縦格子筋21と横格子筋22とからなる繊維強化プラスチック(FRP)格子筋1Bである。
図6(a)、(b)にて、FRP格子筋1Bは、通常、直交して格子状に配置された複数のFRP筋、即ち、縦格子筋21と横格子筋22とを備えている。各格子筋21、22は、例えば、炭素繊維fを一方向に並べて、エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂Rを含浸させた紐状体を複数押圧積層し、硬化して形成される。FRP格子筋1Bは、通常、格子筋幅(w)が3〜10mm、厚さ(t)が1〜5mm、であり、格子間距離(Lx、Ly)が10〜150mmとされる。つまり、FRP格子筋1Bの升目23は一辺が略10〜150mmの長方形又は正方形とされる。上述のように、各格子筋21、22は互いに直交して配置されるが、所望に応じて互いに90°以外の所定の角度にて交差し、格子状となるように構成することも可能である。
また、このようにして形成されたFRP格子筋1Bの長さ(L)及び幅(W)は、補強されるトンネル構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、100〜1000mmとされる。又、長さ(L)は、1〜5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
なお、強化繊維fとしては、炭素繊維を使用することができるが、炭素繊維に限定されるものではなく、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、高強度ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。また、補強筋21、22に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、その他種々の樹脂を使用することができ、例えば、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルフォルマール樹脂などが好適に使用可能である。又、繊維体積含有率(Vf)は、40〜75%、好ましくは、50〜70%とされる。
また、上記構成のFRP格子筋1Bは、軽量で、耐食性であり、また曲げ易く、施工性に優れている。また、図6(b)に示すように、補強筋21、22の交差部分が他の補強筋部分と同一平面上にあり略平面形状をなし、全体として薄いシート状とされ、重ねてもかさばらない。
こうした軽量かつ高強度の連続繊維FRP格子筋1Bを用いているため、作業がし易く安全で、また大きなコンクリートの剥落防止効果が期待できる。
(接着材)
本発明によれば、上記具体例1、2で説明した繊維シート1(繊維シート1A、1B)は、接着材10にてコンクリート構造物200に接着し一体とされることにより、補強材としての機能を達成することとなる。
本発明の補強方法にて、詳しくは後で説明するが、上記具体例1、2にて説明した繊維シート1をコンクリート覆工層201に接着するため使用する接着材10は、コンクリート覆工層201、特に、湿潤状態にあるコンクリート覆工層201に対する接着強度が良好で、しかも、繊維シート1との接着性に優れていることが重要である。また、硬化後の機械的強度、通水性、耐摩耗性、即ち、長期の磨り減り耐久性が必要とされる。更には、上工水などに兼用される水路トンネルに適用拡大するため、日本水道協会規格JWWA−K−143を満足し得るものでなければならない。
本発明では、これら特性を有する接着材10として、充填剤として無機フィラーを含んだ樹脂モルタルが使用される。無機フィラーとしては、アルミナやシリカなどの酸化物系セラミックスを好適に使用し得るが、その他に、炭化ケイ素や炭化ホウ素などの炭化物系セラミックスやその他ファインセラミックス、ムライトなどの陶磁器質粉砕物なども用いることができる。また、珪砂や山砂、川砂、タルク、海砂など天然物、スラグ形材料の粉砕物などの従来から使用されている細骨材と配合してもよい。本発明では、これら種々の無機フィラーを総称して「セラミック骨材」言う。
樹脂モルタルは、樹脂としてエポキシ樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂などの常温硬化が可能で液状の熱硬化性樹脂を用いた樹脂モルタルが好ましく、特に、エポキシ樹脂モルタルが好ましい。従って、セラミック骨材を用いた樹脂モルタル、即ち、セラミック混合型エポキシ樹脂モルタルが極めて好適に使用される。
更に言えば、セラミック混合型エポキシ樹脂モルタルは、例えば、
(a)樹脂接着剤としての液状エポキシ樹脂100重量部に対して、
(b)液状エポキシ樹脂の硬化剤を20〜60重量部、好ましくは30〜50重量部、配合することができ、更に、
(c)充填材であるセラミック骨材を50〜300重量部、好ましくは100〜200重量部、
を配合して調製される。更に、
(d)その他の添加剤として、骨材と樹脂の親和性の向上を目的としたシランカップリング材、粘度調整剤などを、0.1〜8重量部、含むことができる。
また、上記エポキシ樹脂としては、常温硬化型のエポキシ樹脂、例えば、エピクロルヒドリン・ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、粘度調整用エポキシ樹脂などを好適に使用し得る。エポキシ樹脂硬化剤としては、常温で、エポキシ樹脂と反応硬化するものであれば特に限定されるものではないが、ポリアミン系硬化剤が好ましく、脂環式ポリアミン若しくは、その変性物が特に好適に使用される。
また、セラミック骨材は粉体状(本発明では、粉体状セラミック骨材を「セラミックス粉」という。)にて混合されており、材質としては、上述したように、特に限定的ではなく、耐食性に優れ、重金属などの有害物質の溶出がなければ何れも使用することができる。セラミックス粉としては、上述したように、酸化物系セラミックス、炭化物系セラミックス、その他のファインセラミックス、珪砂や陶磁器粉砕物、などの材料を単独で、若しくは、これらのいずれかの材料を混合した混合物として使用することができる。更には、これらいずれかの材料単独と、或いは、これらいずれかの材料を混合した混合物と、を更に従来の川砂などの細骨材と混合して使用してもよい。骨材の粒径は、1000μm以下(粒度16メッシュ)の微細なものが好ましく、粒径が75μm以下(粒度200メッシュ)のものがより好ましい。粒径が1000μmを超えると水砂による摩耗時にセラミックス粒子が脱落し易くなる。それに伴い、耐久性の点で問題が生じてくる。
尚、セラミックス粉は、例えば、日本下水道事業団編著、(財)下水道業務管理センター発行の「コンクリート防食指針(案)(平成5年6月)」の「参考資料2−6セラミックパウダー入りエポキシ樹脂の品質規格」に示されている、1100℃以上で焼結粉砕したセラミックス粉であって、SiO2を60%以上及びAl2O3を14%以上含有する組成であり、嵩比重2.0以上のセラミックス粉を用いることが好ましい。
このようにして得られるセラミック混合型エポキシ樹脂モルタル10は、コンクリート覆工層201の表面に繊維シート1を接着する繊維シート接着材として使用される。また、接着材10は、トンネルの天井部及び側壁部に対する施工時のダレを防止し、塗布作業を容易とするために、23℃におけるB型粘度計による20回転(rpm)での粘度が25〜150Pa・sで、回転数2回転(rpm)では95〜1500Pa・sの範囲にあり、チクソトロピックインデックス(Ti値)、即ち、回転粘度計による異なる回転数による粘度の測定値の比(回転数2回転における粘度÷20回転の粘度)が3.8〜10、通常、5〜8であることが望ましい。すなわち、B型粘度計で20回転、23℃での測定条件における粘度が25Pa・sより小さくチクソトロピックインデックスが3.8未満であれば、塗付後にダレ等が生じ塗付面の平滑性及び天井面、壁面の塗布が困難となり、また逆に、粘度が150Pa・sより大きくチクソトロピックインデックスが10を超えると樹脂が硬く、混合に問題があり、且つ、平滑に塗布することも困難になる。
(補強方法及び補強構造)
次に、本発明に係る補強方法及び補強構造の第一の実施例について説明する。本実施例によれば、図1(a)及び図2(a)に示すように、繊維シート1を有した補強層100用いてコンクリート水路トンネル200の補強が行われる。
つまり、本実施例の補強方法によれば、例えば、繊維シート1として、図3〜図5を参照して上記具体例1で説明した、マトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細径の連続した繊維強化プラスチック線材(ストランド)2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維シート1Aを使用することができる。本実施例にて、繊維シート1Aとされる繊維シート1は、接着材10にてコンクリート水路トンネル覆工層201の内面上に接着し、且つ、機械固定機能を有した通水型アンカー30で固定し、コンクリート覆工層201に一体化する。本実施例にて使用する繊維シート1においては、繊維強化プラスチック線材2は、既にマトリクス樹脂Rが含浸され硬化されており、繊維強化プラスチック線材2に対する樹脂含浸は不要であり、その分、作業性が向上する。また、本実施例の繊維シート1は、軽量であり、また、ストランド2の長手方向に沿って折り畳んで現場へと搬送することができ、可搬性に優れている。
上記作業により、繊維シート1が一体に設置された表面被覆層(補強層)100を有するコンクリート水路トンネル200が形成される。
コンクリート水路トンネル200のコンクリート覆工層201の補強に際して、繊維シート1は、曲げモーメント及び軸力を主として受ける領域に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に強化繊維の配向方向を概ね一致させて接着することで、繊維シート1が効果的に応力を負担し、効率的にトンネルの耐荷力を向上させることが可能である。例えば、コンクリート水路トンネル200においては、トンネル天端の背面空洞の影響などにより、トンネル側面にトンネル軸方向のひび割れが生じ易い。従って、本実施例では、繊維シート1は、図1(a)に示すように、ストランド2の長手方向がトンネルの湾曲に沿って湾曲するように、即ち、トンネルの軸方向に対して直交するように配置した。また、必要により、トンネル湾曲方向及びトンネル軸方向に複数枚の繊維シート1を重ね継手構造にて連結して設置することができる。
なお、直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、繊維シート1の強化繊維fの配向方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の繊維シート1を直交させて積層接着することで効率的に耐荷力の向上が図れる。
このように、補強材として繊維シート1を使用することにより、補強量や補強方向が自由自在に設定可能である。なお、補強量は補強されるコンクリート覆工層201の断面積に対して、補強材である強化繊維を含む繊維シート1の断面積の比が0.02〜5%となるように調整されることが好ましい。通常、この断面積の比は、0.1〜1%とされる。断面積比が0.02未満だと、補強効果を達成することができず、5%を超えると、コンクリート構造物に外力が加わった場合、コンクリート覆工層、即ち、コンクリート構造物自体が破壊してしまう恐れが生じる。
ここで、本発明で言う、コンクリート覆工層201の断面積に対して、補強材である強化繊維を含む繊維シート1の断面積の比とは、以下のことを意味するものとする。つまり、図7は、コンクリート覆工層201の内面202に補強層100が形成されたコンクリート構造物の軸線方向に直交する断面の一部を概略示す。図7を参照すると、コンクリート覆工層201の厚さをT201、覆工層内面に沿った単位長さ△Lにおける断面積をS201、また、補強材である強化繊維を含む繊維シート1の厚さ(設計厚)をT1、繊維シート1の覆工層内面202に沿った単位長さ△Lにおける断面積をS1とすると、コンクリート覆工層断面積(S201)に対する、繊維シート1の断面積(S1)の比(S1/S201)は、
S1/S201=(△L×T1)/(△L×T201)=T1/T201
である。なお、繊維シート1の厚さ(設計厚)T1は、
T1=(繊維シート1における強化繊維の目付量)/(強化繊維の密度)
である。
つまり、補強量は補強されるコンクリート覆工層201の断面積に対する、補強材である強化繊維を含む繊維シート1の断面積の比が0.02〜5%、通常、0.1〜1%であること、即ち、コンクリート覆工層201の厚さT201に対する、繊維シート1の厚さT1(設計厚)の比(T1/T201)が0.02〜5%、通常、0.1〜1%となるように調整される。
また、本発明では、上記繊維シート1を通水型アンカー30及び接着材10でコンクリート覆工層201に一体化させることにより、繊維シート1の線材2の座屈を防ぎ、コンクリート覆工層内面が圧縮を受ける部位においても補強効果が発揮される。
次に、図2(a)、(b)、及び、図8(a)〜(g)をも参照して、本発明の水路用コンクリート構造物の補強方法及び補強構造の第一の実施例について更に詳しく説明する。本実施例では、水路用コンクリート構造物は、図1(a)に示すようなコンクリート水路トンネルであるとして説明する。また、繊維シート1としては、上記具体例1で説明した繊維シート(ストランドシート)1Aを使用するものとする。
(第1工程)
図8(a)に示すように、コンクリート水路トンネル覆工(コンクリート覆工層)201の被補強面(即ち、補強材接着面)である内面202は、必要により、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段により下地処理して表面脆弱層を除去する。
次いで、下地処理したコンクリート覆工層201に、内面202側から外面203側へとアンカー取付に必要な所定深さの、即ち、非貫通にて、又は、一点鎖線にて示すように、内面202側から外面203の地山側へと覆工層201を貫通してアンカー取付孔204を穿設する。穿孔によって形成されたアンカー取付孔204は、後述するように、水路トンネル200における水抜き孔としても機能するものであり、通水型アンカーとしての機能、即ち、裏面水の排水や、更には、繊維シート1の固定を満たす限りにおいては、貫通でも非貫通でも構わない。アンカー取付孔204は、後述するように、水路トンネル200における水抜き孔としても機能するものである。アンカー取付孔204は、繊維シート1を設置するコンクリート覆工層201の主としてアーチ部201A及びその近傍側壁部201Bに形成される。アンカー取付孔204は、通水型アンカー30の設置位置に対応して図9(a)に実線で示すように、コンクリート覆工層201の湾曲方向(x方向)及び湾曲方向に直交するトンネル軸方向(y方向)に互いに400〜600mmの所定の距離(Px、Py)だけ離間して穿設される。勿論、等間隔である必要はなく、必要に応じて、アンカー取付孔204の間隔(Px、Py)は適宜調整され、補強すべきトンネルの状況に応じて通水型アンカー30の設置を行うことができる。
(第2工程)
次いで、図8(b)に示すように、通水型アンカー30をアンカー取付孔204に固定する。通水型アンカー30は、アンカーを介して地山側からの湧水やコンクリート内在水分等の水路トンネル200内への通水を可能とするものであるが、逆方向への通水を阻止することができる逆流防止機能を備えた構成とすることもできる。次に、本実施例で使用する通水型アンカー30の一例について図2(a)、(b)をも参照して説明する。
(通水型アンカー)
図2(a)、(b)にて、通水型アンカー30は、全体が細長の中空管形状とされ、中心に通水のための通水孔31Hが形成されている。通水型アンカー30は、アンカー取付孔204に固定されるアンカーピン31と、このアンカーピン31に取り付けられて、コンクリート覆工層201の内面202に設置される繊維シート1を押圧して固定するシート押え具32とを有している。アンカーピン31は、防食性能を有するステンレス(SUS304)製、又は、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂のようなプラスチック製とし、シート押え具32は、接着材10との接着性を良好なものとする点から樹脂、例えば、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などで作製することが好ましい。
アンカーピン31は、アンカー取付孔204に挿入して固定されるアンカーピン本体31Aと、シート押え具32を取付けるためのアンカーピン本体31Aに一体に形成されたシート押え具取付部31Bとを有している。アンカーピン本体31Aは円筒体とされ、軸線方向両端部が開口部31Aa、31Abとされ、一方端(頭部)開口部31Aaに上記シート押え具取付け部31Bが取付けられる。また、アンカーピン本体31Aの内部中空部を形成する胴部31Acには、頭部開口部31Aaとは反対側の先端開口部31Abから頭部開口部31Aaへと至る所定長さL33に渡って直径方向に対向して一対のスリット(切込み部)33が形成される。また、アンカーピン本体31Aの上記スリット33の頭部開口部31Aa側の端部と、上記シート押え具取付け部31Bとの間の胴部31Acには、胴部直径方向に対向して通水孔34が形成される。
また、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Ab近傍の胴部31Acには、胴部内側に向かって一対の突起部35が胴部直径方向に対向して形成されている。アンカーピン本体31Aの胴部31Ac内には、上記突起部35と上記シート押え具取付部31Bとの間に位置して、中心に通水のための通水孔36Hを備えた円筒形状の拡張具36が移動自在に装入配置されている。なお、拡張具36の形状は、ここに説明した構造に限定されるものではなく、次の説明する機能を有するものであれば良い。つまり、詳しくは、図8(c)を参照して後述するように、拡張具36をアンカーピン本体31Aの先端開口部31Ab方向へと打ち込むことにより、図2(a)、図8(c)に示すように、上記一対の突起部35が外側へと押し出され、アンカーピン本体31Aの先端開口部31Abがスリット33から割れて拡張し、コンクリート覆工層201へと食い込んでアンカーとして機能することとなる。
シート押え具取付部31Bは、図2(a)、(b)に示すように、アンカーピン本体31Aと同一軸線にて軸線長手方向に貫通した中空部(通水孔)31BHが形成された筒状の部材から成る。シート押え具取付部31Bの一方側(図2(a)、(b)にて右側)にアンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaを挿入して取付けるアンカーピン本体支持部31Bbと、他方側(図2(a)、(b)にて左側)にシート押え具32を取付けるための頭部シート押え具取付部31Baを有している。また、アンカーピン本体支持部31Bbと頭部シート押え具取付部31Baとの間には、アンカーピン本体支持部31Bb及び頭部押え具取付部31Baより大径とされるアンカーピン鍔部31Bcが形成されている。アンカーピン本体31Aとアンカーピン本体支持部31Bbとは、本実施例ではアンカーピン本体支持部31Bbに溝状係止凹部38を形成し、アンカーピン本体31Aの頭部開口部31Aaの外周部を半径方向内方向へと強圧して形成した係止部39を係止凹部38に嵌合係止することにより一体に結合するものとしたが、その他、螺合、圧入など当業者には周知の結合方法にて一体に結合することができる。更には、アンカーピン本体31Aとシート押え具取付部31Bとを一体部品として形成しても良い。頭部シート押え具取付部31Baの外周部40は、本実施例では、後述するように、シート押え具32を取付けるための雄ねじが形成されている。
シート押え具32は、頭部シート押え具取付部31Baに取り付けられて、コンクリート覆工層201の内面202に接着される繊維シート1を押圧して固定する機能を有するものである。本実施例では、シート押え具32は、中心に貫通孔41を備えた軸部32Aを有しており、軸部32Aの貫通孔41の内周部には、頭部シート押え具取付部31Baの外周部40の雄ねじに螺合するために雌ねじが形成されている。また、軸部32Aには、図2(c)に示すように、コンクリート覆工層内壁面に設置された繊維シート1をコンクリート覆工層内壁面側へと押え付け固定するに十分な形状寸法とされる鍔部32Bが一体に形成されている。また、軸部32Aは、シート押え具32の頭部シート押え具取付部31Baへのねじ込みを容易とするために六角ナット形状とするのが好ましい。
ここで、本実施例における通水型アンカー30の主要部の具体的寸法の一例を挙げれば次の通りである。
・アンカーピン本体(31A)
材質:ステンレス(SUS304)
直径及び内径:D31A=12mm、d31A=10.8mm
長さ:L31A=55mm
・シート押え具取付部(31B)
材質:ステンレス(SUS304)
シート押え具取付部の内径:d31B=7.4mm
シート押え具取付部の長さ:L31Ba=7mm、L31Bb=6.5mm
鍔部の外径及び厚さ:D31Bc=15mm、L31Bc=2mm
シート押え具取付部の外周雄ねじ:M12
・シート押え具(32)
材質:ポリアミド樹脂
長さ:L32=9mm
鍔部の直径:D32B=30mm
内周部の雌ねじ:M12(六角ナット)
ナット部長さ:L32A=6mm
(第3工程)
上記構成の通水型アンカー30をアンカー取付孔204に固定した後、コンクリート覆工層201の内面202にプライマー205を塗布する(図8(c))。本実施例では、後述するように、繊維シート1をコンクリート覆工層内面202に固着する接着材10としてセラミック混合型エポキシ樹脂モルタルが使用される。従って、プライマー205は、湿潤環境下にあるコンクリート覆工層201の内面202と、接着材10であるセラミック混合型エポキシ樹脂モルタルとの接着強度を向上させるためのものであり、エポキシ樹脂プライマーなどのエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、その他、MMA樹脂系などを使用することができる。プライマーの塗布量は、0.1〜0.4kg/m2とされる。
なお、プライマー205の塗布は、場合によっては、省略することも可能である。
(第4工程)
図8(d)に示すように、好ましくはプライマー205が塗布されたコンクリート覆工層201の内面202に、接着材10であるセラミック混合型エポキシ樹脂モルタルが下塗りされる。接着材10の下塗り量は、2250〜4500g/m2(即ち、厚さとして1.5〜3.0mm、通常、2mm程度)とされる。
(第5工程)
次いで、図8(e)に示すように、接着材10が下塗りされたコンクリート覆工層201の内面202に繊維シート1を押し付け、接着する。この時、繊維シート1は、通水型アンカー30の頭部シート押え具取付部31Baに突き当たることとなるが、図9(b)に示すように、この部分の繊維シート1(1A)の線材2をアンカー30の頭部シート押え具取付部31Baを避けるように両側へと寄せて繊維シート1に隙間を設けることにより、繊維シート1は頭部シート押え具取付部31Baをすり抜けてコンクリート覆工層201の内壁面202側へと押入して配置することができる。
(第6工程)
繊維シート1を、上記作業により、アンカーピン31の頭部シート押え具取付部31Baへと装入した後、頭部シート押え具取付部31Baにシート押え具32を螺合し、繊維シート1をトンネル覆工層内壁面202へと押圧して固定する(図8(f))。
本実施例では、図8(d)に示すように、接着材10の下塗りにより、繊維シート1と内壁面202との間に接着材層10a(図2(a)参照)が形成されている。本実施例では、接着材層10aの層厚は、2mm程度とされたがこれに限定されるものではない。また、シート押え具32は、樹脂で作製することにより、接着材10との接着性が向上し、アンカー30と接着材10との間の強固な接着による一体化を実現することができる。
これによって、繊維シート1は、シート押え具32の鍔部32Bと覆工層内面202との間に挟持された格好となり、繊維シート1は、接着材層10aを介して覆工層内面に接着されると共に、シート押え具32によりコンクリート覆工層内面202に固定される。
尚、上記本実施例の説明では、繊維シート1は、コンクリート覆工層201の表面に1層だけ接着されるものとして説明したが、必要補強量が多い場合には、覆工層201の表面に複数層の繊維シート1を積層して接着することが可能である。
(第7工程)
次に、図8(g)に示すように、コンクリート覆工層内面202に、アンカー30により固定された繊維シート1の表面側から、コテなどを使用して、セラミック混合型エポキシ樹脂モルタルとされる接着材10を更に塗布する。接着材10は、シート押え具32の内周部41の開口部32a内には充填(塗布)されることはなく、従って、シート押え具32が螺合された通水型アンカー30の、シート押え具32及びアンカーピン31を貫通する中空部(貫通孔)31Hが接着材10で塞がれることはない。
接着材10は、塗布面とされる繊維シート1の表面は勿論のこと、繊維シート1の線材2、2間の間隙(g)及び内壁面202と繊維シート1との間の接着材未充填空隙部にも充填される。
つまり、本実施例によれば、図8(g)に示すように、下塗りされた接着材10にて覆工層内面に接着された繊維シート1の上に更に接着材10を上塗り塗布して均一にコテ仕上げし、繊維シート1を被覆する接着材被覆層10b、所謂、磨り減り耐久層として機能する接着材層が形成される。本実施例にて、接着材被覆層10b(図2(a)をも参照)は、9mm程度とされたが、これに限定されるものではなく、通常、接着材被覆層10bは0.5〜10mmの厚さとされる。次いで、接着材10を硬化させる。これにより、所定の厚さ(T100)とされる表面補強層100が、既存の水路トンネルコンクリート覆工層201の上に形成される。本実施例では、補強層100の総厚さ(T100)は、12.5mmとされた。
本発明の補強方法の特徴の一つは、上述のように、水路トンネルコンクリート覆工層201に、場合によっては、コンクリート覆工層201を貫通して形成したアンカー取付孔204に通水型アンカー30を打込むことによって、繊維シート1をコンクリート覆工層201に固定し、その後、接着材10にて繊維シート1の全領域を覆って覆工し、接着固定する点にある。また、施工後においては、該通水型アンカー30を水抜き孔として機能させる点にある。
更に説明すると、コンクリート覆工層201の内壁面を覆って補強層100を形成して内面補強を施すと、地山側からの湧水やコンクリート内在水分を密閉することとなる。そのため、補強層100が背面水圧により膨れを発生させたり、剥離することが考えられる。そこで、本発明では、コンクリート覆工層201の厚さ方向にアンカー取付孔204を形成し、特に、必要に応じてコンクリート覆工層201の厚さ方向に貫通したアンカー取付孔204を形成して該貫通孔204に通水型アンカー30を打設する構成とすることで、通水型アンカー30を用いて繊維シート1をコンクリート覆工層内壁面に固定すると共に、覆工層裏面水だけでなく、コンクリート覆工層201への通気性が確保され、スムースな水の排水が可能となり、長期間にわたって補強層100の剥離を防止し、耐久性を確保して、補強層100の機能を長期間維持することができる。なお、このように、通水型アンカー30は、アンカーから水路トンネル200内への通水を可能とするものであるが、逆方向への通水を阻止することができる逆流防止機能を備えていることが好ましい。
上記説明では、通水型アンカー30を400〜600mmの間隔(Px、Py)(図9(a)参照)にて設けることについて説明したが、上記より理解されるように、通水型アンカー30の数は、繊維シート1を固定するのに必要な量と、また、十分な排水量を達成するために必要とされるアンカーの有効開口面積とから現場の状況に応じて決定される。一般的に、通水型アンカー1本当たりの開口面積は、150〜180mm2とされるので、コンクリート覆工層201の1m2当たり4〜9本が必要とされるであろう。
また、本実施例では、上記第4工程〜第7工程(図8(d)〜(g))にて使用したセラミック混合型エポキシ樹脂モルタル10は、次のようにして調製した。つまり、
(i)液状エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製「YD−128」商品名):100重量部
(ii)硬化剤(T&K TOKA株式会社製「フジキュア4011」商品名):50重量部
(iii)粒度250メッシュの陶器粉砕物(SiO2を60%以上及びAl2O3を14%以上含有する組成であり、嵩比重2.0以上)であるセラミックス粉:150重量部、
(v)その他の添加剤として、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製「KBM403」商品名):3重量部
の配合にて均一に混合した。
このようにして得られたセラミック混合型エポキシ樹脂モルタルは、23℃におけるB型粘度計による2回転での粘度が530Pa・sで、回転数20回転では78Pa・sの範囲にあり、チクソトロピックインデックス、即ち、回転粘度計による異なる回転数による粘度の測定値の比(回転数2回転における粘度÷20回転の粘度)が6.79であり、水路トンネルの天井部201A及び側壁部201Bに対する施工時のダレを防止し、塗布作業が容易であった。
尚、図8(g)(図2(a))に示すように、所定の補強層厚さ(T100)にて形成された新しい覆工層である表面補強層100は、その表面が、即ち、硬化した接着材10の表面が所定の表面粗度を有する必要がある。そのために、研磨装置にて表面仕上げを施すことが考えられる。しかしながら、その作業は煩雑である。
つまり、表面補強層100は、例えば、経済的且つ安全側に50年といった長期間の耐久性維持を目的として設計することが想定される。一般に、左官仕上げにより表面仕上げされたままの補強層100は、狭い空間での作業性の困難性、及び、作業者の技量にもより、その表面粗さ(表面粗度)状態は様々である。水路トンネルにおいて、トンネル内壁面の表面粗さは、内壁面の磨り減り量に影響を及ぼすものであり、トンネルの長期耐久性に関連する重要なファクターとなる。
本発明によれば、特に、粒径が1000μm以下とされるセラミックス粉を混合したエポキシ樹脂モルタルを使用することにより、次のような問題、すなわち、水砂による摩耗時にセラミックス粒子が脱落し易くなり、それに伴い、耐久性の点で問題が生じてくる、といった問題を解決することができる。更に、補強材1の上に接着剤被覆層10bを9mm程度、必要に応じて更に厚い被覆層を形成することができ、十分な耐久性をも得ることができた。
本発明によれば、上記補強方法により、コンクリート水路トンネルのような水路用コンクリート構造物200のコンクリート覆工層201の内面202に、強化繊維を含む繊維シート1を取り付けて補強層100を形成した水路用コンクリート構造物の補強構造が形成される。つまり、補強層100は、コンクリート覆工層内面202に無機フィラーを含んだ樹脂モルタルである接着材11から成る接着材層10aを介して接着され、且つ、コンクリート覆工層201の内面202から外面203へと延在してコンクリート覆工層201を貫通して又は非貫通にて形成したアンカー取付孔204に設置された通水型アンカー30にて固定された繊維シート1と、繊維シート1を被覆して形成された接着材11からなる接着材被覆層10bと、を有している。
斯かる本発明に係る水路用コンクリート構造物の補強構造にて、上記本発明の作用効果を達成することができる。
変更実施例1
上記実施例1においては、本発明の補強方法は、繊維シート1として、上記具体例1で説明した繊維シート1Aを使用するものとして説明したが、繊維シート1として、上記具体例2で説明したFRP格子筋1Bを使用することができる。
FRP格子筋1Bを使用する本実施例の補強方法においても、実施例1で説明し補強方法と同様の作業工程を採用し得る。つまり、本変更実施例1の補強方法においても、実施例1で説明した通水型アンカー30を使用することができ、実施例1で実施された第1工程から第6工程までが同様に実施される(図8(a)〜(f))。
なお、本変更実施例1においては、繊維シート1として使用するFRP格子筋1Bは、図6(a)、(b)に示すように、一辺が略10〜150mm、通常50〜100mmとされる升目23が形成されている。従って、図8(e)に示す工程にて、繊維シート1として繊維シート1Bを通水型アンカー30に設置するに際しては、この升目23を利用して、内壁面202から外方へと突出しているアンカーピン31の頭部シート押え具取付部31Baへと装入した後、頭部シート押え具取付部31Baにシート押え具32を螺合し、シート押え具32の鍔部32Bを縦格子筋21及び/又は横格子筋22に当接して、繊維シート1をトンネル覆工層内壁面202へと押圧することができる(図8(f))。
これによって、繊維シート1は、シート押え具32の鍔部32Bとトンネル覆工層内面202との間に挟持された格好となり、繊維シート1をコンクリート覆工層内壁面202に固定することができる。
その後、実施例1で説明した図8(g)に示す第7工程を実施すればよい。本変更実施例1の補強方法においても、実施例1と同様の作用効果を達成することができた。
本変更実施例1においても、補強量は補強されるコンクリート覆工層201の断面積に対する、補強材である強化繊維を含む繊維シート1の断面積の比が0.02〜5%、通常、0.1〜1%となること、即ち、コンクリート覆工層の厚さT201に対する、繊維シート1の厚さT1(設計厚)が0.02〜5%、通常、0.1〜1%となるように調整される。
本変更実施例1においても、上記補強方法により、上記実施例1にて説明したと同様の、コンクリート水路トンネルのような水路用コンクリート構造物200のコンクリート覆工層201の内面202に、強化繊維を含む繊維シート1を取り付けて補強層100を形成した水路用コンクリート構造物の補強構造が形成される。つまり、本変更実施例1においても、水路用コンクリート構造物の補強構造補強層100は、コンクリート覆工層内面202に無機フィラーを含んだ樹脂モルタルである接着材11から成る接着材層10aを介して接着され、且つ、コンクリート覆工層201の内面202から外面203へと延在してコンクリート覆工層201を貫通して又は非貫通にて形成したアンカー取付孔204に設置された通水型アンカー30にて固定された繊維シート1と、繊維シート1を被覆して形成された接着材11からなる接着材被覆層10bと、を有している。
斯かる本発明に係る水路用コンクリート構造物の補強構造にて、上記本発明の作用効果を達成することができる。
実施例2
上記実施例1においては、本発明の補強方法は、繊維シート1として、上記具体例1で説明した繊維シート1Aを使用し、上記変更実施例1においては、繊維シート1として、上記具体例2で説明した繊維シート1Bを使用するものとして説明したが、繊維シート1として、図10に示す繊維シート(トーシート)1Cを使用することができる。
(繊維シート)
図10に、本発明に使用することのできる繊維シート1の例を示す。本具体例にて繊維シート1は、連続した強化繊維fを一方向に引き揃えてシート状に構成される樹脂未含浸の繊維シートとされる。即ち、繊維シート1は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維fから成る強化繊維シートを、上記具体例1にて図5(a)を参照して説明したと同様のメッシュ状の支持体シートなどとされる線材固定材3にて保持した構成とすることができる。例えば、強化繊維fとして炭素繊維を使用した場合には、例えば平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを6000〜24000本収束した樹脂未含浸の単繊維束を複数本、一方向に平行に引き揃えて使用される。炭素繊維シート1の繊維目付量は、通常、30〜1000g/m2(設計厚(T1)0.017〜0.588mm)とされる。
強化繊維fとしては、コンクリート構造物の補強においては、一般的に、曲げ強度、曲げ弾性率の高い上述のような炭素繊維が使用されることが多いが、種々の強化繊維が使用される。
例えば、強化繊維としては、炭素繊維の他に、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、高強度ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
線材固定材3としてのメッシュ状の支持体シートを構成する縦糸4及び横糸5の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート3をシート状に配列した強化繊維の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート3の縦糸4及び横糸5の部分を繊維シートに溶着する。
メッシュ状支持体シート3は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された強化繊維に対して直交する横糸5のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた強化繊維に接着することもできる。
又、上記線材固定材3の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
上記説明では、繊維シートは、強化繊維を長手方向に一方向に引き揃えた一方向強化繊維シートの形態とされるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、強化繊維を二方向、三方向、或いはそれ以上の方向に織り込んだ強化繊維クロスの形態とすることもできる。
(含浸樹脂接着材)
本発明によれば、繊維シート1として上記樹脂未含浸の繊維シート1Cを使用した場合には、繊維シート1を接着材にてコンクリート構造物200に接着し一体とするためには、接着材を樹脂未含浸の繊維シート1に含浸し、且つ、繊維シート1を接着材にてコンクリート構造物200に接着し一体とすることが必要とされる。
従って、詳しくは後で説明するが、樹脂未含浸の繊維シート1に含浸され、また、繊維シート1をコンクリート構造物200に接着する樹脂、即ち、含浸樹脂接着材11としては、上記具体例1、2にて繊維強化プラスチック線材2或いは格子筋21、22に含浸した樹脂Rと同じものを使用することができる。つまり、含浸樹脂接着材11としては、エポキシ樹脂、例えば、常温硬化型のエポキシ樹脂が好適に使用される。ただ、含浸樹脂接着材11は、エポキシ樹脂に限定されるものではなく、その他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、その他の種々の樹脂を使用することができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型エポキシ樹脂の他に熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルフォルマール樹脂などが好適に使用可能である。又、詳しくは後述するが、斯かる繊維シート1を水路用コンクリート構造物の補強材として使用する場合の補強材における繊維体積含有率(Vf)は、40〜75%、好ましくは、50〜70%とされる。
繊維シート1Cを使用する本実施例2の補強方法においても、実施例1、変更実施例1で説明した補強方法と同様の作業工程を採用し得るが、本実施例2の補強方法においては、上述したように、繊維シート1として樹脂未含浸の繊維シート1Cを使用することにより、繊維シート1の覆工層内面202への接着と同時に繊維シート1への樹脂含浸が必要とされる、点において大きく相違している。
次に、図11(a)〜(g)及び図12を参照して本実施例について説明する。本実施例においても、実施例1で説明した通水型アンカー30を使用することができる。
(第1工程〜第3工程)
実施例1で実施した図8(a)〜(c)に示す第1工程から第3工程までは本実施例においても同様に実施される(図11(a)〜(c))。
つまり、図11(a)に示すように、コンクリート水路トンネル覆工(コンクリート覆工層)201の被補強面(即ち、補強材接着面)である覆工層内面202は、必要により、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段により下地処理して表面脆弱層を除去する。
次いで、下地処理したコンクリート覆工層201に、内面202側から外面203側へとアンカー取付に必要な所定深さの、即ち、非貫通にて、又は、一点鎖線にて示すように、内面202側から外面203の地山側へと覆工層201を貫通してアンカー取付孔204を穿設する。
次いで、図11(b)に示すように、通水型アンカー30をアンカー取付孔204に固定する。本実施例で使用する通水型アンカー30は、図2(a)、(b)をも参照して説明した上記実施例1で使用した通水型アンカー30と同様の構成とされる。
上記構成の通水型アンカー30をアンカー取付孔204に固定した後、コンクリート覆工層201の内面202にプライマー205を塗布する(図11(c))。
ここで、プライマー205としては、上記実施例1の場合と同様に、エポキシ樹脂プライマーなどのエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、その他、MMA樹脂系などを使用することができる。プライマーの塗布量は、0.1〜0.4kg/m2とされる。
尚、プライマー205の塗布は、場合によっては、省略することも可能である。
(第4工程)
次いで、覆工層内面202の不陸修正を行う。従って、好ましくは上記プライマー層205が形成された上に不陸修正材206を塗布して不陸修正材層206aを形成する(図11(d)、(e))。通常、不陸修正材206は、被接着面202の全域に塗布されるが、場合によっては、部分的であっても良い。
不陸修正材206は、例えばパテ状エポキシ樹脂接着剤を所要の厚さに塗布することによって形成される。塗布厚、即ち、不陸修正材層206aの層厚(T206)は、被接着面202の表面の凹凸、接着される繊維シート1の厚さに応じて適宜設定されるが、本実施例では、一般に、0.3〜1.0mm、通常、0.5〜0.7mmとされる。
不陸修正材206は、パテ状エポキシ樹脂に限定されるものではなく、MMA樹脂などアクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、セメントペーストなどを用いることができる。
(第5工程)
図11(e)に示すように、不陸修正材層206aが硬化すると、この不陸修正材層206aの上に含浸樹脂接着材11を塗布する。含浸樹脂接着材11の塗布量は、600g/m2の炭素繊維シートを用いた場合、1100〜1300g/m2とされる。
含浸樹脂接着材11として、上述したように、種々の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用し得るが、常温硬化型エポキシ樹脂、MMA樹脂などが好適とされる。本実施例においては、含浸樹脂接着材11としてエポキシ樹脂接着剤を使用し、好結果を得ることができた。
(第6工程)
次いで、図11(f)に示すように、含浸樹脂接着材11が塗布されたコンクリート覆工層201の内面202に繊維シート1を頭部押し付け、接着する。この時、繊維シート1は、図9(b)に示すように、通水型アンカー30の頭部シート押え具取付部31Baに突き当たることとなるが、この部分の繊維シート1(1C)の繊維fをアンカー30を避けるように両側へと寄せて繊維シート1に隙間を設けることにより、繊維シート1は頭部シート押え具取付部31Baをすり抜けて更にコンクリート覆工層201の内壁面202側へと押入して配置することができる。
繊維シート1を、上記作業により、アンカーピン31の頭部シート押え具取付部31Baへと装入した後、頭部シート押え具取付部31Baにシート押え具32を螺合し、繊維シート1をトンネル覆工層内壁面202へと押圧して固定する(図11(f))。
これによって、繊維シート1は、シート押え部32の鍔部32Bと覆工層内面202との間に挟持された格好となり、繊維シート1をコンクリート覆工層内面202に固定することができる。
尚、上記本実施例の説明では、繊維シート1は、コンクリート覆工層201の表面に1層だけ接着されるものとして説明したが、必要補強量が多い場合には、覆工層201の表面に複数層の繊維シート1を積層して接着することが可能である。
尚、含浸樹脂接着材11は、不陸修正材層206aの上に塗布するものとして説明したが、勿論、繊維シート1に塗布することもでき、また、不陸修正材層206aの表面及び繊維シート1接着面の両面上に塗布しても良い。
上述にて理解されるように、本実施例では、図11(e)、(f)に示すように、繊維シート1は、含浸樹脂接着材11にて不陸修正材層206aの表面に接着されると共に、含浸樹脂接着材11が繊維シート1内の繊維f間に樹脂(マトリクス樹脂)として含浸される。従って、含浸樹脂接着材11としては、低粘度の、例えば、23℃、20回転(rpm)にて粘度15000mPa・s以下とされるものを好適に使用し得る。
また、必要補強量が多い場合には、構造物表面に複数層の繊維シート1を接着することが可能である。繊維シート補強材は、補強の態様によって種々の材料、構成の繊維シート1を使用することができる。
本実施例では、図12に示すように、繊維シート1と不陸修正材層206aとの間に接着材層11aが形成されている。接着材層11aの層厚は、本実施例では1〜2mm程度とされたがこれに限定されるものではない。また、シート押え具32は、樹脂で作製することにより、含浸樹脂接着材11との接着性が向上し、アンカー30と接着材11との間の強固な接着による一体化を実現することができる。
なお、本実施例2においても、補強量は補強されるコンクリート覆工層201の断面積に対する、補強材である強化繊維を含む繊維シート1の断面積の比が0.02〜5%、通常、0.1〜1%となること、即ち、コンクリート覆工層201の厚さT201に対する、繊維シート1の厚さT1(設計厚)が0.02〜5%、通常、0.1〜1%となるように調整される。
(第7工程)
次いで、樹脂含浸された繊維シート補強材層が乾燥すると、次に、図11(g)に示すように、コンクリート覆工層内壁面202に、アンカー30及び含浸樹脂接着材11により固定された繊維シート1の表面側から、コテなどを使用して、無機フィラーを含む樹脂モルタルとされる接着材10を更に塗布する。
本実施例2においても、無機フィラーを含む接着材10としては、上述したように、実施例1と同様のセラミック混合型エポキシ樹脂モルタルを好適に使用することができる。斯かるセラミック混合型エポキシ樹脂モルタル10の具体的な組成、性能については、実施例1にて詳しく説明されているので、実施例1の説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
接着材10は、シート押え具32の内周部41の開口部32a内には充填(塗布)されることはなく、従って、シート押え具32が螺合された通水型アンカー30の、シート押え具32及びアンカーピン31を貫通する中空部(貫通孔)31Hが接着材10で塞がれることはない。
繊維シート1の上に形成された樹脂モルタルとされる接着材10は、繊維シート1を被覆する接着材被覆層10b、つまり、磨り減り耐久層として機能する。本実施例にて、接着材被覆層10bは、9mm程度とされたが、これに限定されるものではなく、通常、接着材被覆層10bは0.5〜10mmの厚さとされる。次いで、接着材10を硬化させる。これにより、所定の厚さ(T100)とされる新しい覆工層である表面補強層100が、既存の水路トンネルコンクリート覆工層201の上に形成される。
本発明の補強方法の特徴の一つは、上述のように、水路トンネルコンクリート覆工層201に、場合によっては、コンクリート覆工層201を貫通して形成したアンカー取付孔204に通水型アンカー30を打込むことによって、繊維シート1をコンクリート覆工層201に固定し、その後、接着材10にて繊維シート1の全領域を覆って覆工し、更に接着固定する点にある。本実施例では、上述より理解されるように、補強層100の総厚さ(T100)は、12.5mmとされた。また、施工後においては、該通水型アンカー30を水抜き孔として機能させる点にある。
更に説明すると、コンクリート覆工層201の内壁面を覆って補強層100を形成して内面補強を施すと、地山側からの湧水やコンクリート内在水分を密閉することとなる。そのため、補強層100が背面水圧により膨れを発生させたり、剥離することが考えられる。そこで、本発明では、コンクリート覆工層201の厚さ方向にアンカー取付孔204を形成し、特に、必要に応じてコンクリート覆工層201の厚さ方向に貫通したアンカー取付孔204を形成して該貫通孔204に通水型アンカー30を打設する構成とすることで、通水型アンカー30を用いて繊維シート1をコンクリート覆工層内壁面に固定すると共に、覆工層裏面水だけでなく、コンクリート覆工層201への通気性が確保され、スムースな水の排水が可能となり、長期間にわたって補強層100の剥離を防止し、耐久性を確保して、補強層100の機能を長期間維持することができる。なお、上述したように、通水型アンカー30は、アンカーから水路トンネル200内への通水を可能とするものであるが、逆方向への通水を阻止することができる逆流防止機能を備えていることが好ましい。
そこで、本実施例2に記載の補強方法及び補強構造においても、実施例1と同様に、通水型アンカー30は400〜600mmの間隔(Px、Py)にて設けることとされる。上記より理解されるように、通水型アンカー30の数は、繊維シート1を固定するのに必要な量と、また、十分な排水量を達成するために必要とされるアンカーの有効開口面積とから現場の状況に応じて決定される。本実施例においても、一般に、通水型アンカー1本当たりの開口面積は、150〜180mm2とされるので、コンクリート覆工層201の1m2当たり4〜9本が必要とされるであろう。
本実施例においては、図11(a)〜(g)、図12に記載するように、上記補強方法により、例えばコンクリート水路トンネルのような水路用コンクリート構造物200のコンクリート覆工層201の内面202に、強化繊維を含む繊維シート1を取り付けて補強層100を形成した水路用コンクリート構造物200の補強構造が形成される。つまり、補強層100は、コンクリート覆工層内面202に形成した不陸修正材層206aと、不陸修正材層206aが形成されたコンクリート覆工層内面202に含浸樹脂接着材11から成る接着材層11aを介して接着され、且つ、コンクリート覆工層201の内面202から外面203へと延在してコンクリート覆工層201を貫通して又は非貫通にて形成したアンカー取付孔204に設置された通水型アンカー30にて固定された繊維シート1と、繊維シート1を被覆して形成された無機フィラーを含んだ樹脂モルタルである接着材10からなる接着材被覆層10bと、を有している。
斯かる本発明に係る水路用コンクリート構造物の補強構造にて、上記本発明の作用効果を達成することができる。
なお、上記実施例1(変更実施例1)、実施例2においては、通水型アンカー50をアンカー取付孔204に固定した後に繊維シート1の接着を行っているが、繊維シート1の接着を行った後でアンカー取付孔204を穿設し、通水型アンカー30を固定しても良い。このとき、繊維シート1の接着時に予め繊維シート1の線材2(繊維f)を両側へと寄せて繊維シート1にアンカー取付孔204を穿設するための隙間を設けて置く。
実施例3
上記実施例1(変更実施例1)、実施例2に記載の本発明の補強方法においては、通水型アンカー30のアンカーピン31にシート押え具32を取付けることにより、繊維シート1をコンクリート覆工層内面202に固定するものとして説明したが、これに限定されるものではない。つまり、通水型アンカー30はシート押え具32を備えておらず、繊維シート1は、通水型アンカー30とは別個に設けた、例えば、アンカーボルトをシート固定手段(シート固定アンカー)として使用してコンクリート覆工層内面に固定することができる。
つまり、特に、繊維シート1として上記具体例1、2で説明した、所謂、ストランドシート1A、FRP格子筋1Bなどのように弾性率が大とされる繊維シート1の場合には、トンネルの形状に合わせて繊維シート1の弾性反発に抗して固定することが必要であり、通水型アンカー30がシート押え具32を備えていない場合には、通水型アンカー30とは別個にシート固定アンカーを使用することが必要である。
本実施例3で使用する、シート押え具32を備えていない通水型アンカー30の一実施例を図13(a)に示す。本実施例に使用する通水型アンカー30は、図2(a)、(b)に示す通水型アンカー30と同様の構成とされ、全体が細長の中空管形状とされ、中心に通水のための通水孔31Hが形成されたアンカーピン31を有しているが、コンクリート覆工層201の内面202に設置される繊維シート1を押圧して固定するためのシート押え具32は有していない点で異なる。つまり、アンカーピン31は、アンカー取付孔204に挿入して固定されるアンカーピン本体31Aと、アンカーピン本体31Aに一体に形成されたシート取付部31Bとを有している。本実施例のシート取付部31Bは、図2(a)、(b)に示す実施例1、2の通水型アンカー30のシート押え具取付部31Bと同様の構成とされる。しかし、実施例1、2の通水型アンカー30のシート押え具取付部31Bの頭部シート押え具取付部31Baには、雄ねじ40が形成されていたが、本実施例のシート取付部31Bの頭部シート取付部31Ba(実施例1、2における頭部シート押え具取付部31Baに相当する)の外周部には雄ねじ40が形成されていない点で大きく異なっている。図13(a)に示す通水型アンカー30にて、図2(a)、(b)に示す通水型アンカー30と同じ主要部構成要素については、同じ参照番号を付し、図2(a)、(b)に示す通水型アンカー30の説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
本実施例にて、繊維シート1をコンクリート覆工層内面202に押圧して固定するシート固定手段としてのシート固定アンカー50は、当業者には周知の任意の構成のものを使用し得るが、図13(b)に、一実施例として、芯棒打ち込み式アンカーの一例を示す。
本実施例にて用いる芯棒打ち込み式アンカー50は、当業者には周知のものを使用することができる。簡単に説明すれば、芯棒打ち込み式アンカー50は、細長棒状体のアンカーボルト本体51と、アンカーボルト本体51の中心に形成した中心孔51Hに嵌合した芯棒53と、アンカーボルト本体51に螺合可能とされた鍔付きナット52とを有している。また、アンカーボルト本体51は、中心孔51Hの一方の開口端の頭部側(図13(b)にて左側)に鍔付きナット52が取付けられるシート押え具取付部51Bを有し、シート押え具取付部51Bとは反対側(図13(b)にて右側)に、アンカーボルト本体51をコンクリート覆工層201に穿設した取付孔204に挿入して固定設置するためのアンカーボルト本体支持部51Aを有している。
シート押え具取付部51Bは、外周部に所定長さL51Bに渡って雄ねじ54が形成され、鍔付きナット52が螺合可能とされた頭部シート押え具取付部51Baと、アンカーボルト本体支持部51Aと頭部シート押え具取付部51Baとの間に形成された、アンカーボルト本体支持部51A及び頭部シート押え具取付部51Baより大径とされる鍔部51Bcとを有している。鍔部51Bcは必須ではなく、省略することもできる。
また、アンカーボルト本体支持部51Aは、頭部シート押え具取付部51Baとは反対側の他方端(図13(b)にて右側端)から頭部シート押え具取付部51Baへと至る所定長さL55に渡って上記中心孔51Hに連通した、直径方向に対向して一対のスリット(切込み部)55が形成された拡張軸部51Aaを有する。
従って、芯棒打ち込み式アンカー50のアンカーボルト本体51をコンクリートに形成したアンカー取付孔204に設置し、アンカーボルト本体51の中心孔に嵌合した芯棒53をハンマーなどで打ち込むことにより、拡張軸部51Aaを外側へと拡張してコンクリート取付孔204に固定することができる。また、詳しくは、後述するが、鍔付きナット52を頭部シート押え具取付部51Baの雄ねじ54に螺合することにより、コンクリート面202に貼着された繊維シート1を鍔付きナット52により挟持して固定することができる。つまり、鍔付きナット52は、内周部に雌ねじ55が形成されたナット部52Aと、鍔部52Bとを有し、アンカーボルト本体51の頭部シート押え具取付部51Baに螺合され、コンクリート覆工層201の内面202に設置される繊維シート1を押圧して固定するシート押え具として機能する。従って、鍔付きナット52は、上記実施例1、2で説明した図2(c)に示すような通水型アンカー30のシート押え具32と同様の形状、寸法をした六角ナットとするのが好ましい。
芯棒打ち込み式アンカー50は、防食性能を有するステンレス(SUS304)などで作製された金属製とすることもできるが、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂のようなプラスチック製とすることもできる。特に、鍔付きナット、即ち、シート押え具52は、コンクリート面に貼着される繊維シート1の貼着のための接着材10との接着性を良好なものとする点から樹脂、例えば、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などで作製することが好ましい。
ここで、本実施例における通水型アンカー30及び芯棒打ち込み式アンカー50の主要部の具体的寸法の一例を挙げれば次の通りである。
通水型アンカー30
・アンカーピン本体(31A)
材質:ステンレス(SUS304)
直径及び内径:D31A=12mm、d31A=10.8mm
長さ:L31A=55mm
・シート取付部(31B)
材質:ステンレス(SUS304)
シート取付部の直径及び内径:D31Ba=12mm、d31Ba=7.4mm
シート取付部の長さ:L31Ba=9mm
鍔部の外径及び厚さ:D31Bc=15mm、L31Bc=2mm
芯棒打ち込み式アンカー50
・アンカーボルト本体(51)
材質:ステンレス(SUS304)
アンカーボルト本体の長さ:L51=66mm
アンカーボルト本体の直径:D51=12mm
アンカーボルト本体支持部の長さ:L51A=55mm
シート押え具取付部の長さ:L51Ba=9mm
シート押え具取付部の外周雄ねじ(54):M12
シート押え具取付部の鍔部の外径及び厚さ:D51Bc=15mm、L51Bc=2mm
・シート押え具(52)
材質:ポリアミド樹脂
長さ:L52=9mm
鍔部の直径:D52B=30mm
内周部の雌ねじ(55):M12(六角ナット)
ナット部長さ:L52A=6mm
実施例3−1
次に、本実施例3−1では、上述した図13(a)、(b)に示す通水型アンカー30と、シート固定手段としてのシート固定アンカー(芯棒打ち込み式アンカー)50とを使用する本発明の補強方法について、図14(a)、及び、(b−1)〜(f−1)、(b−2)〜(f−2)を参照して説明する。本実施例3−1の補強方法においては、繊維シート1として、上記具体例1で説明した繊維シート1A、上記具体例2で説明した繊維シート1Bなどを使用することができるが、本実施例3−1では、上記具体例1で説明した繊維シート1Aを使用するものとする。
つまり、本実施例3−1は、上記実施例1の補強方法とは異なり、シート押え具32を備えていない通水型アンカー30を使用し、通水型アンカー30とは別個に設けたシート固定アンカー50にて繊維シート1をコンクリート面202に固定する構成とされる。本実施例3−1の補強方法の構成は、実施例1と同様の構成とされ、同様の材料を使用し、同様の工程を有している。
(第1工程〜第4工程)
本実施例において、図14(a)、及び、(b−1)〜(d−1)、(b−2)〜(d−2)に示す第1工程から第4工程は、実施例1で説明した図8(a)〜(d)に示す第1工程から第4工程と同様に実施される。
つまり、本実施例において、図14(a)に示すように、上記実施例1で説明した第1工程と同様に、コンクリート水路トンネル覆工(コンクリート覆工層)201の被補強面(即ち、補強材接着面)である覆工層内面202は、必要により、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段により下地処理して表面脆弱層を除去する。
次いで、下地処理したコンクリート覆工層201に、内面202側から外面203側へとアンカー取付に必要な所定深さの、即ち、非貫通にて、又は、一点鎖線にて示すように、内面202側から外面203の地山側へと覆工層201を貫通してアンカー取付孔204を穿設する。この時、本実施例では、通水型アンカー30及びシート固定アンカー50に対する取付孔204は、同じ寸法孔径とされたが、通水型アンカー30及びシート固定アンカー(芯棒打ち込み式アンカー)50にそれぞれに適した寸法にて、所定の配置にて穿孔することができる。特に、シート固定アンカー50のためのアンカー取付孔204は地山側からの通水は必要とされないので非貫通とすることができる。
通常、図9(a)にて実線で示す通水型アンカー30、及び、破線で示すシート固定アンカー50のアンカー取付孔204は、図9(a)に示すように、コンクリート覆工層201の湾曲方向(x方向)及び湾曲方向に直交するトンネル軸方向(y方向)に互いに400〜600mmの所定の距離(Px、Py)だけ離間して穿設される。勿論、アンカー取付孔204の間隔(Px、Py)は、等間隔である必要はなく、必要とされる通水型アンカー30及びシート固定アンカー50の数、所要設置位置などによって各アンカー30、50を所定位置に配置するべく、適宜調整することができる。
上記より理解されるように、通水型アンカー30及びシート固定アンカー50の数は、十分な排水量を達成するために必要とされるアンカーの有効開口面積と、繊維シート1を固定するのに必要な量とから現場の状況に応じて決定される。一般的に、通水型アンカー30は、通水型アンカー1本当たりの開口面積は、150〜180mm2とされるので、コンクリート覆工層201の1m2当たり4〜9本が必要とされるであろう。また、シート固定アンカー(芯棒打ち込み式アンカー)50は、繊維シート1をコンクリート面202に固定するために、繊維シート1の1m2当たり4〜9本が必要とされるであろう。従って、本実施例3−1では、通常、実施例1に比較すると、穿設すべき取付孔204の総数が増えることとなり、穿孔や繊維シート取付作業等の後工程でやや煩雑となる。
次いで、通水型アンカー30は、図14(b−1)に示すように、適宜選定されたアンカー取付孔204に挿入され、引き続いて、図14(c−1)に示すように、実施例1にて説明したと同様の方法にて、拡張具36を使用して一対の突起部35を外側へと押し出し、先端開口部31Abを拡張し、通水型アンカー30をアンカー取付孔204に固定する。一方、シート固定アンカー50は、図14(b−2)に示すように、適宜選定されたアンカー取付孔204に挿入され、引き続いて、図14(c−2)に示すように、アンカーボルト本体51をコンクリートに形成したアンカー取付孔204に設置し、芯棒53をハンマーなどで打ち込むことにより、拡張軸部51Aaを外側へと押し出し、シート固定アンカー50をアンカー取付孔204に固定する。
上述のように、通水型アンカー30及びシート固定アンカー50をアンカー取付孔204に固定した後、コンクリート覆工層201の内面202にプライマー205を塗布する(図14(c−1)、(c−2))。
ここで、プライマー205としては、上記実施例1の第3工程(図8(c))で説明したと同様に、エポキシ樹脂プライマーなどのエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、その他、MMA樹脂系などを使用することができる。プライマーの塗布量は、0.1〜0.4kg/m2とされる。
尚、プライマー205の塗布は、場合によっては、省略することも可能である。
次に、図14(d−1)、(d−2)に示すように、好ましくはプライマー205が塗布されたコンクリート覆工層201の内面202に、実施例1の第4工程(図8(d))で説明したと同様に、接着材10であるセラミック混合型エポキシ樹脂モルタルが下塗りされる。接着材10の下塗り量は、2250〜4500g/m2(即ち、厚さとして1.5〜3.0mm、通常、2mm程度)とされる。
(第5工程)
次いで、図14(e−1)、(e−2)に示すように、接着材10が下塗りされたコンクリート覆工層201の内面202に繊維シート1を押し付け、接着する。この時、繊維シート1は、通水型アンカー30について言えば、通水型アンカー30の頭部シート取付部31Baに突き当たることとなるが、図9(b)に示すように、この部分の繊維シート1(1A)の線材2をアンカー30の頭部シート取付部31Baを避けるように両側へと寄せて繊維シート1に隙間を設けることにより、繊維シート1は頭部シート取付部31Baをすり抜けてコンクリート覆工層201の内壁面202側へと押入して配置することができる。
また、シート固定アンカー50について言えは、この場合も同様に、繊維シート1は、シート固定アンカー50の頭部シート押え具取付部51Baに突き当たることとなるが、図9(b)に示す通水型アンカー30の頭部シート取付部31Baの場合と同様に、この部分の繊維シート1の線材2を頭部シート押え具取付部51Baを避けるように両側へと寄せて繊維シート1に隙間を設けることにより、頭部シート押え具取付部51Baをすり抜けてコンクリート覆工層201の内壁面202側へと押入して配置することができる。
繊維シート1を、上記作業により、通水型アンカー30の頭部シート取付部31Ba及びシート固定アンカー50の頭部シート押え具取付部51Baへと装入した後、シート固定アンカー50の頭部シート押え具取付部51Baにナット(シート押え具)52を螺合し、繊維シート1をトンネル覆工層内壁面202へと押圧して固定する(図14(e−2))。
本実施例では、図14(d−1)、(d−2)に示すように、接着材10の下塗りにより、繊維シート1と内壁面202との間に接着材層10aが形成されている。本実施例では、接着材層10aの層厚は、2mm程度とされたがこれに限定されるものではない。
これによって、繊維シート1は、シート押え具52の鍔部52Bと覆工層内面202との間に挟持された格好となり、繊維シート1は、接着材層10aを介して覆工層内面202に接着されると共に、シート押え具52によりコンクリート覆工層内面202に固定される。
尚、上記本実施例の説明では、繊維シート1は、コンクリート覆工層201の表面に1層だけ接着されるものとして説明したが、必要補強量が多い場合には、覆工層201の表面に複数層の繊維シート1を積層して接着することが可能である。
(第6工程)
次に、図14(f−1)、(f−2)に示すように、コンクリート覆工層内面202に、シート固定アンカー50により固定された繊維シート1の表面側から、コテなどを使用して、実施例1で説明したと同様のセラミック混合型エポキシ樹脂モルタルとされる接着材10を更に塗布する。図14(f−1)、(f−2)に示すこの第6工程は、上記実施例1における図8(g)を参照して説明した第7工程における接着材10の塗布工程と同様である。
つまり、通水型アンカー30について言えば、図14(f−1)に図示するように、接着材10は、通水型アンカー30のシート取付部31Bのコンクリート覆工層内面202からトンネル内への突出量以下とされ、従って、シート取付部31Bの開口部内には充填(塗布)されることはなく、従って、通水型アンカー30のアンカーピン31を貫通する中空部(貫通孔)31Hが接着材10で塞がれることはない。
一方、シート固定アンカー50に関しては、図14(f−2)に図示するように、接着材10は、シート押え具52の側面部を被覆する程度の高さまで塗布される。
また、接着材10は、塗布面とされる繊維シート1の表面は勿論のこと、繊維シート1の線材2、2間の間隙(g)及び内壁面202と繊維シート1との間の接着材未充填空隙部にも充填される。
このように、本実施例によれば、上記実施例1と同様に、図14(f−1)、(f−2)に示すように、下塗りされた接着材10にて覆工層内面に接着された繊維シート1の上に更に接着材10を上塗り塗布して均一にコテ仕上げし、繊維シート1を被覆する接着材被覆層10b、所謂、磨り減り耐久層として機能する接着材層が形成される。
つまり、本実施例にても、接着材被覆層10bは、9mm程度とされたが、0.5〜10mmの厚さとされる。また、硬化した接着材10にて形成される、所定の厚さ(T100)とされる表面補強層100が、既存の水路トンネルコンクリート覆工層201の上に形成される。本実施例では、補強層100の総厚さ(T100)は、12.5mmとされた。
本実施例における、セラミック混合型エポキシ樹脂モルタルとされる接着材10(接着材層10a)及び接着材被覆層10bの構成及びその作用効果は、上記実施例1の場合と同様であり、従って、実施例1の説明を援用し、ここでの再度の詳しい説明は省略する。
本実施例の補強方法の特徴の一つは、上述のように、水路トンネルコンクリート覆工層201に形成したアンカー取付孔204に、通水型アンカー30とは別個に設けたシート固定アンカー50を利用して繊維シート1を固定する構成とされるので、最適の条件にて繊維シート1を水路トンネルコンクリート覆工層201に設置固定することができる。また、同時に、通水型アンカー30もまた、繊維シート1の固定に拘ることなく、通水機能を要求され水路トンネルコンクリート覆工層201の個所に、最適の条件にて設置することができる。
本実施例3−1においても、上記補強方法により、上記実施例1と同様に、通水型アンカー30を有したコンクリート水路トンネルのような水路用コンクリート構造物200のコンクリート覆工層201の内面202に、強化繊維を含む繊維シート1を取り付けて補強層100を形成した水路用コンクリート構造物の補強構造が形成される。また、補強層100は、コンクリート覆工層内面202に無機フィラーを含んだ樹脂モルタルである接着材10から成る接着材層10aを介して接着され、且つ、コンクリート覆工層201の内面202から外面203へと延在してコンクリート覆工層201を貫通して又は非貫通にて形成したアンカー取付孔204に設置されたシート固定アンカー50にて固定された繊維シート1と、繊維シート1を被覆して形成された接着材10からなる接着材被覆層10bと、を有している。
斯かる本実施例3−1に従った本発明に係る水路用コンクリート構造物の補強構造にて、上記実施例1と同様に、上記本発明の作用効果を達成することができる。
実施例3−2
次に、上述した図13(a)、(b)に示す通水型アンカー30と、シート固定手段としてのシート固定アンカー(芯棒打ち込み式アンカー)50とを使用する本実施例3−2について、図15(a)、及び、(b−1)〜(g−1)、(b−2)〜(g−2)を参照して説明する。
上記実施例3−1は、図13(a)、(b)に示す通水型アンカー30と、シート固定手段としてのシート固定アンカー(芯棒打ち込み式アンカー)50とを使用し、また、繊維シート1としては、上記具体例1で説明した繊維シート1A、或いは、上記具体例2で説明した繊維シート1Bを使用する、所謂、上記実施例1に示す補強方法に対応するものであった。
これに対して、本実施例3−2は、図13(a)、(b)に示す通水型アンカー30と、シート固定手段としてのシート固定アンカー(芯棒打ち込み式アンカー)50とを使用し、また、繊維シート1としては、上記実施例2で説明した、図10に示す繊維シート(トーシート)1Cを使用する、所謂、上記実施例2に示す補強方法に対応するものである。
つまり、本実施例3−2は、上記実施例2の補強方法とは異なり、シート押え具32を備えていない通水型アンカー30を使用し、通水型アンカー30とは別個に設けたシート固定アンカー50にて繊維シート1をコンクリート面202に固定する構成とされる。本実施例3−2のその他の補強方法の構成は、実施例2とは同様の構成とされ、同様の材料を使用し、同様の工程を有している。
(第1工程〜第4工程)
本実施例において、図15(a)、及び、(b−1)〜(d−1)、(b−2)〜(d−2)に示す第1工程から第4工程は、実施例2で説明した図11(a)〜(d)に示す第1工程から第4工程と同様に実施される。
つまり、本実施例において、図15(a)に示すように、上記実施例2で説明した第1工程と同様に、コンクリート水路トンネル覆工(コンクリート覆工層)201の被補強面(即ち、補強材接着面)である覆工層内面202は、必要により、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段により下地処理して表面脆弱層を除去する。
次いで、下地処理したコンクリート覆工層201に、内面202側から外面203側へとアンカー取付に必要な所定深さの、即ち、非貫通にて、又は、一点鎖線にて示すように、内面202側から外面203の地山側へと覆工層201を貫通してアンカー取付孔204を穿設する。この時、本実施例では、上記実施例3−1と同様に、通水型アンカー30及びシート固定アンカー50に対する取付孔204は、同じ寸法孔径とされたが、通水型アンカー30及びシート固定アンカー(芯棒打ち込み式アンカー)50にそれぞれに適した寸法にて、所定の配置にて穿孔することができる。特に、シート固定アンカー50のためのアンカー取付孔204は地山側からの通水は必要とされないので非貫通とすることができる。
通常、上述したように、通水型アンカー30及びシート固定アンカー50のアンカー取付孔204は、図9(a)に示すように、コンクリート覆工層201の湾曲方向(x方向)及び湾曲方向に直交するトンネル軸方向(y方向)に互いに400〜600mmの所定の距離(Px、Py)だけ離間して穿設される。勿論、アンカー取付孔204の間隔(Px、Py)は、等間隔である必要はなく、必要とされる通水型アンカー30及びシート固定アンカー50の数、所要設置位置などによって各アンカー30、50を所定位置に配置するべく、適宜調整することができる。
上記より理解されるように、通水型アンカー30の数は、繊維シート1を固定するのに必要な量と、また、十分な排水量を達成するために必要とされるアンカーの有効開口面積とから現場の状況に応じて決定される。一般的に、通水型アンカー30は、通水型アンカー1本当たりの開口面積は、150〜180mm2とされるので、コンクリート覆工層201の1m2当たり4〜9本が必要とされるであろう。また、シート固定アンカー(芯棒打ち込み式アンカー)50は、繊維シート1をコンクリート面202に固定するために、繊維シート1の1m2当たり4〜9本が必要とされるであろう。従って、本実施例3−2では、通常、実施例1に比較すると、穿設すべき取付孔204の総数が増えることとなり、穿孔や繊維シート取付作業等の後工程でやや煩雑となる。
次いで、通水型アンカー30は、図15(b−1)に示すように、適宜選定されたアンカー取付孔204に挿入され、引き続いて、図15(c−1)に示すように、実施例1にて説明したと同様の方法にて、拡張具36を使用して一対の突起部35を外側へと押し出し、先端開口部31Abを拡張し、通水型アンカー30をアンカー取付孔204に固定する。一方、シート固定アンカー50は、図15(b−2)に示すように、適宜選定されたアンカー取付孔204に挿入され、引き続いて、図15(c−2)に示すように、アンカーボルト本体51をコンクリートに形成したアンカー取付孔204に設置し、芯棒53をハンマーなどで打ち込むことにより、拡張軸部51Aaを外側へと押し出し、シート固定アンカー50をアンカー取付孔204に固定する。
上記構成の通水型アンカー30及びシート固定アンカー50をアンカー取付孔204に固定した後、コンクリート覆工層201の内面202にプライマー205を塗布する(図15(c−1)、(c−2))。
ここで、プライマー205としては、上記実施例2の第3工程(図11(c))で説明したと同様に、エポキシ樹脂プライマーなどのエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、その他、MMA樹脂系などを使用することができる。プライマーの塗布量は、0.1〜0.4kg/m2とされる。
尚、プライマー205の塗布は、場合によっては、省略することも可能である。
次いで、覆工層内面202の不陸修正を行う。従って、好ましくは上記プライマー層205が形成された上に不陸修正材206を塗布して不陸修正材層206aを形成する(図15(d−1)、(d−2))。通常、不陸修正材206は、被接着面202の全域に塗布されるが、場合によっては、部分的であっても良い。
不陸修正材206は、実施例2で説明したと同様の材料及び層厚とされ、例えばパテ状エポキシ樹脂接着剤を使用し、所要の厚さに塗布することによって形成される。
(第5工程、第6工程)
図15(e−1)、(e−2)に示すように、不陸修正材層206aが硬化すると、この不陸修正材層206aの上に含浸樹脂接着材11を塗布する。含浸樹脂接着材11は、実施例2で説明したと同様の材料及び塗布量とされる。
次いで、図15(f−1)、(f−2)に示すように、含浸樹脂接着材11が塗布されたコンクリート覆工層201の内面202に繊維シート1を押し付け、接着する。この時、繊維シート1は、通水型アンカー30について言えば、通水型アンカー30のシート取付部31Bの頭部シート取付部31Baに突き当たることとなるが、図9(b)に示すように、この部分の繊維シート1(1C)の繊維fをアンカー30の頭部シート取付部31Baを避けるように両側へと寄せて繊維シート1に隙間を設けることにより、繊維シート1は頭部シート取付部31Baをすり抜けてコンクリート覆工層201の内壁面202側へと押入して配置することができる。
また、シート固定アンカー50について言えば、この場合も同様に、繊維シート1は、シート固定アンカー50の頭部シート押え具取付部51Baに突き当たることとなるが、通水型アンカー30の頭部シート取付部31Baの場合と同様に、図9(b)に示すように、この部分の繊維シート1(1C)の繊維fをシート押え具取付部51Bの頭部シート押え具取付部51Baを避けるように両側へと寄せて繊維シート1に隙間を設けることにより、頭部シート押え具取付部51Baをすり抜けてコンクリート覆工層201の内壁面202側へと押入して配置することができる。
繊維シート1を、上記作業により、アンカーピン31のシート取付部31B及びシート固定アンカー50のシー取付部51Bへと装入した後、シート固定アンカー50の頭部シート押え具取付部51Baにナット(シート押え具52)を螺合し、繊維シート1をトンネル覆工層内壁面202へと押圧して固定する(図15(f−2))。
これによって、繊維シート1は、シート押え具52の鍔部52Bと覆工層内面202との間に挟持された格好となり、繊維シート1は、接着材層10aを介して覆工層内面202に接着されると共に、シート押え具52によりコンクリート覆工層内面202に固定される。
尚、上記本実施例の説明では、繊維シート1は、コンクリート覆工層201の表面に1層だけ接着されるものとして説明したが、必要補強量が多い場合には、覆工層201の表面に複数層の繊維シート1を積層して接着することが可能である。
尚、含浸樹脂接着材11は、不陸修正材層206aの上に塗布するものとして説明したが、勿論、繊維シート1に塗布することもでき、また、不陸修正材層206aの表面及び繊維シート1接着面の両面上に塗布しても良い。
上述にて理解されるように、本実施例3−2では、図15(e−1)、(e−2)及び(f−1)、(f−2)に示すように、繊維シート1は、含浸樹脂接着材11にて不陸修正材層206aの表面に接着されると共に、含浸樹脂接着材11が繊維シート1内の繊維f間に樹脂(マトリクス樹脂)として含浸される。従って、含浸樹脂接着材11としては、低粘度の、例えば、23℃、20回転(rpm)にて粘度15000mPa・s以下とされるものを好適に使用し得る。
また、必要補強量が多い場合には、構造物表面に複数層の繊維シート1を接着することが可能である。繊維シート補強材は、補強の態様によって種々の材料、構成の繊維シート1を使用することができる。
本実施例3−2では、実施例2と同様に、詳しくは上述の実施例2の図12に示すように、繊維シート1と不陸修正材層206aとの間に接着材層11aが形成されている。接着材層11aの層厚は、本実施例では1〜2mm程度とされたがこれに限定されるものではない。
なお、本実施例3−2においても、実施例2と同様に、補強量は補強されるコンクリート覆工層201の断面積に対する、補強材である強化繊維を含む繊維シート1の断面積の比が0.02〜5%、通常、0.1〜1%となること、即ち、コンクリート覆工層201の厚さT201に対する、繊維シート1の厚さT1(設計厚)が0.02〜5%、通常、0.1〜1%となるように調整される。
(第7工程)
次に、図15(g−1)、(g−2)に示すように、コンクリート覆工層内面202に、シート固定アンカー50により固定された繊維シート1の表面側から、コテなどを使用して、実施例2で説明したと同様のセラミック混合型エポキシ樹脂モルタルとされる接着材10を更に塗布する。斯かるセラミック混合型エポキシ樹脂モルタル10の具体的な組成、性能については、実施例1、2にて詳しく説明されているので、実施例1、2の説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
図15(g−1)に示すこの第7工程は、上記実施例2における図11(g)を参照して説明した第7工程における接着材10の塗布工程と同様である。
つまり、接着材10は、通水型アンカー30のシート取付部31Bの、コンクリート覆工層内面202からトンネル内への突出量以下とされ、従って、シート取付部31Bの開口部内には充填(塗布)されることはなく、従って、通水型アンカー30のアンカーピン31を貫通する中空部(貫通孔)31Hが接着材10で塞がれることはない。
一方、シート固定アンカー50に関しては、図15(g−2)に図示するように、接着材10は、シート押え具52の側面部を被覆する程度の高さまで塗布される。
上記実施例2で説明したように、繊維シート1の上に形成された樹脂モルタルとされる接着材10は、繊維シート1を被覆する接着材被覆層10b、つまり、磨り減り耐久層として機能する。
つまり、本実施例にても、接着材被覆層10bは、9mm程度とされたが、0.5〜10mmの厚さとされる。また、硬化した接着材10にて形成される、所定の厚さ(T100)とされる表面補強層100が、既存の水路トンネルコンクリート覆工層201の上に形成される。本実施例では、補強層100の総厚さ(T100)は、12.5mmとされた。
本実施例における、セラミック混合型エポキシ樹脂モルタルとされる接着材10(接着材被覆層10b)の構成及びその作用効果は、上記実施例2の場合と同様であり、従って、実施例2の説明を援用し、ここでの再度の詳しい説明は省略する。
本実施例の補強方法の特徴の一つは、上述のように、水路トンネルコンクリート覆工層201に形成したアンカー取付孔204に、通水型アンカー30とは別個に設けたシート固定アンカー50を利用して繊維シート1を固定する構成とされるので、最適の条件にて繊維シート1を水路トンネルコンクリート覆工層201に設置固定することができる。また、同時に、通水型アンカー30もまた、繊維シート1の固定に拘ることなく、通水機能を要求され水路トンネルコンクリート覆工層201の個所に、最適の条件にて設置することができる。
本実施例においては、上記補強方法により、例えばコンクリート水路トンネルのような水路用コンクリート構造物200のコンクリート覆工層201の内面202に、強化繊維を含む繊維シート1を取り付けて補強層100を形成した水路用コンクリート構造物200の補強構造が形成される。つまり、補強層100は、コンクリート覆工層内面202に形成した不陸修正材層206aと、不陸修正材層206aが形成されたコンクリート覆工層内面202に含浸樹脂接着材11から成る接着材層11aを介して接着され、且つ、コンクリート覆工層201の内面202から外面203へと延在してコンクリート覆工層201を貫通して又は非貫通にて形成したアンカー取付孔204に設置された通水型アンカー30と、シート固定アンカー50にて固定された繊維シート1と、繊維シート1を被覆して形成された無機フィラーを含んだ樹脂モルタルである接着材10からなる接着材被覆層10bと、を有している。
斯かる本実施例3−2に従った本発明に係る水路用コンクリート構造物の補強構造にて、上記実施例1と同様に、上記本発明の作用効果を達成することができる。
なお、上記実施例3(実施例3−1、3−2)の説明においては、シート押え具を備えていない通水型アンカー30を使用するものとしたが、シート押え具を備えた通水型アンカー30を使用し、更に、繊維シート1の固定を補強するためにシート固定アンカー50を追加して使用することもできる。更に、上記実施例3(実施例3−1、3−2)の説明においては、通水型アンカー30及びシート固定アンカー50をアンカー取付孔204に固定した後に繊維シート1の接着を行っているが、繊維シート1の接着を行った後でアンカー取付孔204を穿設し、通水型アンカー30及びシート固定アンカー50をアンカー取付孔204に固定しても良い。このとき、繊維シートの接着時に予め繊維シートの線材2、繊維fを両側へと寄せて繊維シート1にアンカー取付孔204を穿設するための隙間を設けて置くのが好ましい。
実施例3−3
上記実施例3−1、3−2に記載の補強方法においては、通水型アンカー30は、図13(a)に示すように、シート押え具32を備えていない通水型アンカー30を使用するものとして説明した。また、通水型アンカー30は、図13(a)に示すように、アンカー取付孔204に挿入して固定されるアンカーピン本体31Aと、アンカーピン本体31Aに一体に形成されたシート取付部31Bとを有している構造とされている。
しかしながら、本発明において、通水型アンカー30は、上記構成に限定されるものではなく、例えば、図16(a)に示すように、所定の直径(D31)、内径(d31)、長さ(L31)とされる円筒状の中空管(パイプ)31とすることができる。中空管31は、ポリアミド樹脂などの樹脂製とすることもでき、SUSなどの金属製とすることもできる。例えば、樹脂製パイプとした場合の通水型アンカー30は、具体的寸法の一例を挙げれば、実施例3−1で使用した通水型アンカー30の寸法と同様の寸法とすることができ、直径(D31)が12mm、内径(d31)が7.4mm、長さ(L31)が66mmとすることができる。なお、パイプ状通水型アンカー30は、取付孔204には、頭部シート取付部31Bにおける、コンクリート覆工層201の内面202から長さ(L31B)の領域を残して、残りの支持部31A領域を取付孔204に圧入、或いは、接着剤などで固着される。なお、パイプ状通水型アンカー30は、脱落防止のために、図16(a)に示すように、取付孔204に支持される領域に環状の或いは螺旋状の突起(リブ)31aを形成するのが好ましい。
上記パイプ状通水型アンカー30は、上記実施例3−1、3−2に用いた通水型アンカー30の代わりに使用することができ、図14、図15に記載される実施例3−1、3−2に記載の諸工程が実施可能とされる。
なお、上述したように、パイプ状通水型アンカー30もまた、アンカーから水路トンネル200内への通水を可能とするものであるが、逆方向への通水を阻止することができる逆流防止機能を備えていることが好ましい。
また、上記実施例3−1、3−2に記載の補強方法においては、繊維シート1をコンクリート覆工層内面202に押圧して固定するシート固定手段としてのシート固定アンカー50は、図13(b)に示す芯棒打ち込み式アンカーとしたが、上記構成に限定されるものではなく、例えば、図16(b)〜(d)に示すアンカーピンとすることができる。つまり、シート固定アンカー50は、図16(b)に示す、金属製のL字型の棒状部材(L字型アンカーピン)50Aとされ、例えば、実施例3−1では第5工程(図14(e−2))にて、また、実施例3−2では第6工程(図15(f−2)にて繊維シート1をコンクリート覆工層201の内面202に貼着した後に、軸部50Abを取付孔204に打ち込むことによって、L字型頭部50Aaにて繊維シート1を押圧して固定することができる。L字型アンカーピン50Aの一具体的寸法を挙げれば、軸径(d50A)が9〜16mmとされ、軸部50Ab及びL字型頭部50Aaの長さが、それぞれ、L50Ab=50〜100mm及びL50Aa=35〜50mmとされる。
更に、シート固定アンカー50は、図16(c)に示すように、軸径d50B(=9〜16mm)、長さL50B(=100〜150mm)の金属製の真直の棒状部材(ストレート型アンカーピン)50Bとすることができ、上記L字型アンカーピン50Aと同様に使用し得る。ただ、ストレート型アンカーピン50Bは、上記L字型アンカーピン50Aと異なり、軸部50aを取付孔204に打ち込んだ後、先端部をL字状に曲げることによって、繊維シート1をコンクリート覆工層201の内面202に押圧して固定する。
なお、図16(b)、(c)に示すアンカーピンには、脱落防止の観点から、図示するように、ピンの外周に螺旋状に、或いは、任意の凹凸形状の突起50aを形成するのが好ましい。
更にまた、シート固定アンカー50としては、当業者には周知の、図16(d)に示すような直径(D50Ca)が10〜15mmの大径の頭部50Caと、長さ(L50Cb)が50〜100mm)、軸径(d50C)が5〜10mmとされる、好ましくは、図示するように、螺子山50aが形成された軸部50Cbとを備えた大頭釘50C、その他種々のねじ固定式アンカー50Cなどを使用することによって、繊維シート1をコンクリート覆工層201の内面202に固定することができる。大頭釘50Cは、ワッシャを別途介在させて押え面積を拡大することができる。
本実施例3−3によっても、上記実施例3−1、3−2と同様の作用効果を奏し得ることは明らかである。
実施例4
上記実施例で説明した本発明の補強対象となるコンクリート水路トンネルの構造によれば、側壁部201Bとインバート(底部)201Cとの接合部領域を構成する基部201Caで最大曲げモーメントが発生することが分かった。一方、構造上、この基部201Caにおいては補強シートの端部定着長が確保できないか、或いは、極めて困難な場合がある。
本発明者らの研究実験の結果によれば、図17(a)に図示するように、側壁部201Bとインバート(底部)201Cとの接合部領域を構成する基部201Caに基部アンカー(即ち、アンカー筋)300を埋め込んで固着することにより、最大曲げモーメントを生じる基部201Caの曲げ剛性、曲げ耐力を増大させることが可能となり、トンネル覆工層201に対する繊維シート接着による補強効果がより有効に達成されることを見出した。
アンカー筋300は、通常の鋼又はステンレススチール製の異形鉄筋を使用することができるが、繊維強化樹脂(FRP)製とすることもできる。アンカー筋300のサイズは、補強されるトンネルの形状寸法によって、適宜選定されるが、例えば直径(d300)が13〜19mm、通常、16mm程度の大きさのものが使用される。
図17(b)をも参照して更に説明すると、本実施例によれば、コンクリート覆工層201の側壁部201Bから、側壁部201Bとインバート(底部)201Cとの接合部領域を構成する基部201Caへと延在して、アンカー筋300を取付るためのアンカー筋取付孔301を削孔する。
つまり、アンカー筋取付孔301は、側壁部201Bとインバート(底部)201Cとの接合部CR位置より上方へと側壁部201Bの内壁面に沿ってL201Bだけ離隔した側壁部201Bの位置から、水平方向に対して角度θ、例えば、60〜90°、通常、60°にて基部201Caへと延在して削孔される。アンカー筋300の長さL300、即ち、アンカー筋削孔長L301は、基部201Caへの削孔長△L201Caが確保されるように形成することが重要である。例えば、アンカー筋300として直径d300のアンカー筋を使用した場合は、削孔長△L201Caは7×d300以上(△L201Ca≧7×d300)となることが重要である。例えば、アンカー筋として直径(d300)が16mm(D16)、長さ(L300)が500mmのアンカー筋を使用した場合には、削孔長L301は、500mmとされるが、基部201Caへの削孔長△L201Caは、7×16mm=112mm以上とされる。なお、アンカー筋取付孔301の径(D301)は、アンカー筋300の径d300より大きく、例えば4〜10mm程度大きくされ、本実施例ではアンカー筋取付孔301の径(D301)は22mmとされた。アンカー筋300は、接着剤、例えば、セメント系アンカー固定材、樹脂モルタル、樹脂接着剤などにてアンカー筋取付孔301に固定される。
アンカー筋300は、トンネル200のトンネル軸方向に沿っては、トンネル200の寸法、形状においても異なるが、通常、150〜2000mmの間隔で設置することができる。
その後、上記実施例1〜3にて説明したと同様の材料を使用し、同様の作業工程により、補強材としての繊維シート1がトンネル覆工層201の内壁面に固定される。
本実施例4の水路トンネルの補強方法及び補強構造によれば、トンネル内面のシート補強によって側部基部に集中する変形を、基部アンカーによって効果的に拘束することができ、上記実施例1〜3と同等、或いは、それ以上の作用効果を達成することができる。
実験例
本発明に係るコンクリート水路トンネルのような水路用コンクリート構造物の補強方法及び補強構造の作用効果を実証するために実験を行った。以下に各実験について説明する。
実験例1(耐摩耗性試験)
本発明の補強方法にて接着材として上記各実施例にて使用したセラミック混合エポキシ樹脂モルタルの摩耗による長期耐久性を評価するため、国立大学法人島根大学が保有する水砂噴流摩耗試験機を使用して実験を行った。
水砂噴流摩耗試験機
本実験に使用した水砂噴流摩耗試験機400は、図18(a)に示すように、6面体とされる回転ドラム401を備え、回転ドラム401の周面に6つの供試体402(402a〜402f)が設置可能とされる。回転ドラム401上の各供試体402には、噴射口403から珪砂混入圧力水(圧力約2.0MPa、水量約89L/min)が噴射される。
回転ドラム401には、上述のように、6つの供試体402a〜402fが設置可能とされるが、本実験では、本発明に従って構成した3つの実験供試体402a、402c、402eを回転ドラム401の周面に一つ置きに設置した。各実験供試体402a、402c、402eの間には、水砂噴流摩耗試験機の摩耗促進状況を確認するために、1つの島根大学作製の長期材齢JISモルタル(供試体402b)と、摩耗量の基準となる比較供試体である2つの標準供試体(供試体402d、402f)を設置した。標準供試体402d、402fは、「セメントの物理試験方法(JIS R 5201−1997)」に規定されている通り、配合は質量比でセメント:水:砂=1:0.5:3とした。3つの実験供試体402a、402c、402e及び2つの標準供試体402d、402fの材齢は28日である。
各供試体402a〜402fは、図18(b)、(c)に示すように、縦×横×厚さ寸法が195mm×145mm×40mmの四隅が面取りされた概略4角形の形状とされる。
実験供試体
本実験例では、接着材10を使用し、実験供試体402a、402c、402eを作製した。実験供試体402a、402c、402eは、図18(b)、(c)に示すように、縦×横×厚さ寸法が195mm×145mm×30mmの四隅が面取りされた概略4角形のモルタル製基台Moに、接着材10としてのセラミック混合エポキシ樹脂モルタルを厚さが10mmとなるように塗布し、コテ仕上げで表面を均一に仕上げた。
考察
試験結果を図19(a)、(b)に示す。今回実施した摩耗試験は、摩耗時間20hで20年相当の促進試験であり、比較として用いた標準供試体402d、402f(図19にて「標準供試体1、2」)が20hで平均4.82mmの摩耗深さであったのに対し、セラミック混合エポキシ樹脂モルタルである実験供試体402a、402c、402e(図19にて「セラミック1、2、3」)は平均0.34mmであった。これは、標準供試体402d、402f(図19にて「標準供試体1、2」)を1としたときの相対比率が7%であり、即ち、対比摩耗量を10%以下とすることができ、現場での磨り減り損耗は著しく小さいものと考えられる。
実験例2(継手試験)
本実験では、本発明の補強方法に使用する繊維シート1、接着材10等の品質管理試験を目的として繊維シートの継手試験を行い、繊維シートの継手強度性能を評価した。繊維シートの継手試験は、JSCE−E 542−2013 「連続繊維シートの継手試験方法(案)」に規定する連続繊維シートの継手試験方法に準拠して行った。
実験供試体
実験供試体は、上記実施例1に記載の補強方法にて使用した繊維シート1及び接着材10を使用して実験供試体500を作製した。
(繊維シート)
繊維シート1としては、図3〜図5を参照して説明した構成の繊維シート(ストランドシート)1A(新日鉄住金マテリアルズ株式会社製:商品名(FSS-HT600(高強度型))を使用した。目付量は、600g/m2(繊維量0.2%)である。
上記繊維シート1の諸物性は、次の通りである。
弾性係数:245kN/mm2
引張強度:3400N/mm2
破断伸度:1.5%
設計厚:0.333mm
上記繊維シート1の概略構成は、次の通りである。つまり、繊維シート1の繊維強化プラスチック線材2は、強化繊維(高強度炭素繊維)fとして、平均径7μm、収束本数12000本のPAN系炭素繊維ストランドを用い、マトリクス樹脂Rとして熱硬化型のエポキシ樹脂を含浸し、硬化して作製した。繊維体積含有率(Vf)は、60%であり、硬化後の繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)1.1mmの円形断面を有するものである。
このようにして得た繊維強化プラスチック線材2を、一方向に引き揃えてスダレ状に配置した後、ポリエステル繊維を横糸3として平織りによりシート状に保持した。横糸3の間隔(P)は50mmであった。また、各線材2、2間の間隙(g)は、0.1〜0.3mmとされる。
実験供試体500は、JSCE−E 542−2013に準拠して作製し、実験供試体500の寸法、形状を、図20(a)〜(c)に示す。
考察
このようにして作製した実験供試体500を5個(試験片1〜5)を用意して、引張試験機「インストロン5900R5582型万能試験機」にて引張試験を行った。試験温度は、23±2℃、試験速度は4.0mm/minであった。
試験結果を図21(a)にグラフで表示し、図21(b)に実測値を示す。本実験結果より、本発明にて接着材として使用したセラミック混合エポキシ樹脂モルタルを使用した繊維シートの継手試験強度は、使用した炭素繊維の引張強度である3400N/mm2以上であることが分かった。
実験例3(トンネル供試体載荷試験)
実験供試体
本実験では、供試体200Tとして2R標準馬蹄形実物大トンネル覆工模型を用いて載荷試験を行った。図22(a)、(b)にトンネル覆工模型の形状寸法を示すが、トンネル形状は、上方の内壁面(アーチ部)201Aが半径900mmの半円状の湾曲形状とされ、下方の内壁面(側壁部)201Bは、馬蹄形状へと変形する形状とされた。覆工層201の厚さは250mm、トンネル軸方向長さ300mm、また、コンクリートの圧縮強度は3.71MPa、弾性係数は23.6GPaであった。
上記のトンネル供試体200Tに対して、図23に示すように、4台の油圧ジャッキJK1〜JK4を使用して4方向から均等に載荷した。2台のジャッキは、供試体200Tに対して水平方向に対向して配置され、即ち、南ジャッキJK1、北ジャッキJK2とされ、他の2台は、供試体200Tに対して斜め上方に配置された南東ジャッキJK3、北東ジャッキJK4とされた。4つの油圧ジャッキにて10kNずつ荷重を増やしながら、ひび割れの発生や進展の状況を観察し、更に、最大の荷重である破壊荷重を測定した。
尚、トンネル供試体載荷試験においては、載荷時にトンネル覆工層側壁201Bとインバート(水路トンネルの底壁部)201Cとの接続部(基部)201Caにおいて外側よりトンネル覆工層にひび割れが発生するのが分かった。そこで、実施例4で説明したと同様にして、図22(a)、(b)に示すように、基部アンカー300としてD16鉄筋(SD345、長さ500mm)をセメント系アンカー固定材で基部201Caの左右2箇所に設置し、基部アンカー300の補強の有無についても評価した。基部アンカー300の弾性係数200GPa、引張・幸福強度345MPaであった。
本試験においては、本発明に従った補強方法による補強の有無、補強材の量、初期損傷の有無、インバート補強の有無などをパラメータとし、測定項目は、変位、ジャッキ荷重、補強材の発生ひずみなどを計測した。測定結果を表1に示す。
考察
試験体ケース1と試験体ケース2を比較すると、本発明に従ってトンネル供試体200Tに対しコンクリート補強層にて補強した場合(試験体ケース1)には、補強後の最大荷重が217kNであったの対して、補強を行わなかった場合(試験体ケース2)はひび割れ最大荷重が90kNとされ、本発明による補強効果が立証された。
また、試験体ケース3と試験体ケース6を比較すると、トンネル供試体200Tに対し基部アンカー300を使用してインバート補強した場合(試験体ケース6)には、補強後の最大荷重が220kNであったの対して、補強を行わなかった場合(試験体ケース3)は補強後の最大荷重が200kNとされ、基部アンカーの効果により補強後の最大荷重が増加したことが分かる。
なお、繊維シートである補強材を2枚重ねとして繊維量を0.4%とした試験体ケース4と試験体ケース5を比較すると、トンネル供試体200Tに対し基部アンカー300を使用してインバート補強した場合(試験体ケース5)と、インバート補強を行わなかった場合(試験体ケース4)との補強後の最大荷重は240kNとされ、同じであったが、基部アンカー300の効果により、基部アンカー300を使用してインバート補強した場合(試験体ケース5)は、頂部せん断破壊であったのに対して、インバート補強を行わなかった場合(試験体ケース4)は剥離破壊となり、破壊形態に変化があった。つまり、基部アンカー300を設けることにより、トンネル200の変形抑制効果が得られ、補強層100による補強効果を増大させることが分かる。